説明

歯車装置

【課題】 第1の軸および第2の軸を軸線方向に位置決めするために力を加える機構を、新たに設けずに済む歯車装置を提供する。
【解決手段】 第1の軸30および第2の軸31に取り付けられた伝動部材46と、第1の軸30とトルク伝達可能な第1の歯車機構8と、第2の軸31とトルク伝達可能な第2の歯車機構106,111とを有する歯車装置において、第1の歯車機構8から第1の軸30に軸線方向の力を加え、かつ、第1の軸30に伝達された軸線方向の力を第1の固定機構6で受けさせて、第1の軸30を軸線方向に位置決めするように第1の歯車機構8が構成され、第2の歯車機構106,111から第2の軸31に軸線方向の力を加え、かつ、第2の軸31に伝達された軸線方向の力を第2の固定機構6で受けさせて、第2の軸31を軸線方向に位置決めするように第2の歯車機構106,111が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1の軸および第2の軸に亘って伝動部材が取り付けられており、第1の軸および第2の軸に各々トルク伝達可能な歯車機構が設けられている構成の歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動力源の出力側に無段変速機を設けることが知られており、その無段変速機の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された無段変速機は、トルクコンバータと前後進切り換え機構とベルト伝動機構と減速機構とデファレンシャル機構とを備えている。前後進切り換え機構は、トルクコンバータのタービン軸の回転を、そのままベルト伝動機構側に伝達する前進状態と、ベルト伝動機構に逆転状態で伝達する後進状態とを選択的に設定するためのものであって、ダブルピニオン式のプラネタリギヤユニットで構成している。すなわち、前後進切り換え機構は、サンギヤと、リングギヤと、サンギヤに噛合された第1のピニオンギヤと、リングギヤおよび第1のピニオンギヤに噛合された第2のピニオンギヤと、第1のピニオンギヤおよび第2のピニオンギヤを保持し、かつ、タービン軸にスプライン結合されたキャリヤとを有している。さらに、リングギヤとキャリヤとを選択的に連結するクラッチが設けられており、リングギヤをミッションケースに選択的に固定するブレーキが設けられている。
【0003】
また、ベルト伝動機構は、プライマリプーリと、プライマリプーリに対して平行に配置されたセカンダリプーリとを有し、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に、ベルトを張設して構成されている。プライマリプーリは、プライマリ軸に固定された固定円錐板と、プライマリ軸の軸方向に移動可能な可動円錐板とを有している。また、セカンダリプーリは、セカンダリ軸に固定された固定円錐板と、セカンダリ軸の軸方向に移動可能な可動円錐板とを有している。なお、前記サンギヤが、プライマリ軸にスプライン嵌合されている。
【0004】
前記減速機構は、セカンダリ軸にスプライン嵌合された第1のギヤと、セカンダリ軸と平行に配置されたギヤ軸に一体的に形成された第2のギヤと、ギヤ軸と一体的に形成された第3のギヤ軸と、デファレンシャル機構に設けられた第4のギヤとを有している。そして、第1のギヤと第2のギヤとが噛合され、第3のギヤと第4のギヤとが噛合されている。さらに、第1のギヤと第2のギヤとをヘリカルギヤとし、第3のギヤおよび第4のギヤをスパーギヤとするとともに、前進回転時に、第1のギヤからセカンダリプーリに向かうスラスト力が発生するように、その歯の傾斜方向が設定されている。
【0005】
また、前記セカンダリプーリの可動円錐板にはシリンダが取り付けられており、このシリンダと第1のギヤとの間にばね受けプレートが配置されている。さらに、ばね受けプレートとシリンダとの間に付勢スプリングが設けられている。したがって、車両の前進時には第1のギヤの回転によって生じるスラスト力を、付勢スプリングおよびシリンダを経由して可動円錐板に伝達することにより、ベルト押し付け力として利用し、もってベルトの張力の増大を図ることができるとされている。
【特許文献1】実開平1−169656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に記載されているようなベルト式無段変速機を含む動力伝達装置、つまり、2つの軸を伝動部材で動力伝達可能に連結する構成の場合は、完成品の状態では、耐久性の観点から第1の軸および第2の軸を共に軸線方向に位置決めする必要がある。しかし、動力伝達装置の製造工程においては、第1の軸および第2の軸の組付け性を考慮したガタが設けられているため、第1の軸および第2の軸の組付け完了後に、ケーシングなどの固定機構により、第1の軸および第2の軸の軸線方向の移動を規制することが考えられる。この場合、第1の軸および第2の軸に軸線方向の力を加えるための機構が必要になるという問題があった。
【0007】
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであり、第1の軸および第2の軸を軸線方向に位置決めする場合に、第1の軸および第2の軸を軸線方向に位置決めするために力を加える機構を、新たに設けずに済む歯車装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、相互に平行に配置された第1の軸および第2の軸と、この第1の軸および第2の軸に亘って取り付けられ、かつ、この第1の軸と第2の軸との間でトルク伝達をおこなうことの可能な伝動部材と、前記第1の軸に設けられてトルク伝達が可能な第1の歯車機構と、前記第2の軸に設けられてトルク伝達が可能な第2の歯車機構とを有する歯車装置において、前記第1の歯車機構から前記第1の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられて、この第1の軸に伝達された軸線方向の力を第1の固定機構で受けさせて、この第1の軸を軸線方向に位置決めするように前記第1の歯車機構が構成され、前記第2の歯車機構から前記第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられて、この第2の軸に伝達された軸線方向の力を第2の固定機構で受けさせて、この第2の軸を軸線方向に位置決めするように前記第2の歯車機構が構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記第1の軸と前記第2の軸との間におけるトルク伝達状態として第1のトルク伝達状態と第2のトルク伝達状態とを選択可能に構成されており、前記第1のトルク伝達状態の方が、第2のトルク伝達状態よりも使用頻度が高く構成されており、前記第1のトルク伝達状態である場合に、前記第1の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられるように前記第1の歯車機構が構成され、かつ、前記第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられるように前記第2の歯車機構が構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2の構成に加えて、車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に、前記第1の軸および第2の軸が配置されており、前記車両を前進させる駆動力を生じさせる場合前記第1のトルク伝達状態が選択される構成であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの構成に加えて、車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に、前記第1の軸および第2の軸が配置されており、前記駆動力源のトルクが、前記第1の軸から前記第2の軸を経由して車輪に伝達されるように構成されており、前記車両が前進する場合に、前記第1の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられるように前記第1の歯車機構を構成し、前記車両が前進する場合に、前記第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられるように前記第2の歯車機構を構成し、前記車両が後退する場合に、前記第1の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられるように前記第1の歯車機構を構成し、前記車両が後退する場合に、前記第2の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられるように前記第2の歯車機構を構成し、前記第1の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられた場合に、この第1の軸に伝達された軸線方向の力を受けて、この前記第1の軸を軸線方向に位置決めする第3の固定機構と、前記第2の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられた場合に、この第2の軸に伝達された軸線方向の力を受けて、この前記第2の軸を軸線方向に位置決めする第4の固定機構とを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの構成に加えて、前記第1の軸および前記第2の軸および前記第1の歯車機構および前記第2の歯車機構が収容されるケーシングが設けられており、このケーシングは、複数の分割体を結合して構成されており、前記第1の固定機構および前記第2の固定機構が、単一の分割体に設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの構成に加えて、前記第1軸に設けられ、かつ、溝幅を可変に構成された第1のプーリと、前記第2軸に設けられ、かつ、溝幅を可変に構成された第2のプーリと、この第1のプーリおよび第2のプーリに前記伝動部材としてのベルトが巻き掛けられてベルト式無段変速機を構成していることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の発明は、請求項4の構成に加えて、前記第1の軸に対して前記第1の歯車機構を軸方向に固定する第5の固定機構と、前記第2の軸に対して前記第2の歯車機構を軸方向に固定する第6の固定機構とが、更に設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項8の発明は、請求項1または4の構成に加えて、前記第1の歯車機構から前記第1の軸に加えられる軸線方向の力が、前記伝動部材から前記第1の軸に加えられる軸線方向の力よりも大きくなるように構成され、前記第2の歯車機構から前記第2の軸に加えられる軸線方向の力が、前記伝動部材から前記第2の軸に加えられる軸線方向の力よりも大きくなるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、第1の歯車機構から第1の軸に軸線方向で一方に向かう力が与えられて、第1の軸に伝達された荷重が第1の固定機構で受けられて、第1の軸が軸線方向に位置決めされる。また、第2の歯車機構から第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が与えられて、第2の軸に伝達された荷重が第2の固定機構で受けられて、第2の軸が軸線方向に位置決めされる。したがって、第1の軸および第2の軸を軸線方向に位置決めするために加える力を発生する機構を新たに設けずに済む。
【0017】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、第1の軸と第2の軸との間における第1のトルク伝達状態が、第2のトルク伝達状態よりも使用頻度が高く、その第1のトルク伝達状態が使用される場合に、第1の歯車機構から第1の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられ、第2の歯車機構から第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられる。したがって、第1の軸および第2の軸を軸線方向に位置決めする頻度が高められ、耐久性を確保しやすくなる。
【0018】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、車両を前進させる向きの駆動力を生じさせる場合に、第1のトルク伝達状態が使用される。したがって、車両が前進する場合に、第1の軸および第2の軸を軸線方向に位置決めすることができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、車両が後退する場合は、第2のトルク伝達状態が選択される。すると、第1の歯車機構から第1の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられて、第1の軸に伝達された荷重が第3の位置決め機構で受けられて、第1の軸が軸線方向に位置決めされる。また、車両が後退する場合は、第2の歯車機構から第2の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられて、第2の軸に伝達された荷重が第4の位置決め機構で受けられて、第2の軸が軸線方向に位置決めされる。
【0020】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、第1の軸および第2の軸は、共に単一の分割体により軸線方向に位置決めされる。したがって、第1の軸と第2の軸との相対位置関係を高精度に設定できる。
【0021】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、軸線方向で、第1のプーリにおけるベルトの巻き掛け位置と、第2のプーリにおけるベルトの巻き掛け位置とが異なり、第1の軸および第2の軸に軸線方向の力が働いた場合でも、第1の軸および第2の軸を確実に軸線方向に位置決め可能である。
【0022】
請求項7の発明によれば、請求項4の発明と同様の効果を得られる他に、第1の歯車機構から第1の軸に対して軸方向でいずれの方向にも力を加えることが可能であり、第2の歯車機構から第2の軸に対して軸方向でいずれの方向にも力を加えることが可能である。したがって、第1の軸および第2の軸を軸方向のいずれの方向においても位置決め可能である。
【0023】
請求項8の発明によれば、請求項1または4の発明と同様の効果を得られる他に、第1の歯車機構から第1の軸に加えられる軸線方向の力の方が、伝動部材から第1の軸に加えられる軸線方向の力よりも大きくなるとともに、第2の歯車機構から第2の軸に加えられる軸線方向の力の方が、伝動部材から第2の軸に加えられる軸線方向の力よりも大きくなる。したがって、第1の軸および第2の軸が軸線方向に移動することを確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
つぎに、この発明を図面を参照しながら具体的に説明する。図1は、この発明を適用したFF車(フロントエンジンフロントドライブ;エンジン前置き前輪駆動車)のパワートレーンを示すスケルトン図である。図1において、1は車両Veの駆動力源としてのエンジンであり、エンジン1には内燃機関および外燃機関が含まれる。この実施例では、内燃機関、具体的にはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどが用いられている場合について説明する。そして、エンジン1のクランクシャフト2が車両の幅方向に配置されている。
【0025】
また前記エンジン1の出力側には、トランスアクスル3が設けられている。このトランスアクスル3は、一体化されたケーシングK1の内部に、ベルト式無段変速機(後述)および最終減速機(後述)が組み込まれたユニットである。このケーシングK1は、エンジン1の出力側に固定されたフロントケース4と、フロントケース4におけるエンジン1とは反対側の開口端に固定されたセンターケース5と、センターケース5におけるフロントケース4とは反対側の開口端に固定されたリヤケース6とを有しており、隣り合うケース同士がねじ部材200により結合固定されている。
【0026】
前記ケーシングK1の内部には、トルクコンバータ7および前後進切り換え機構8およびベルト式無段変速機(CVT)9および最終減速機10が設けられている。まず、トルクコンバータ7の構成について説明する。フロントケース4の内部には、クランクシャフト2と同軸上にインプットシャフト11が設けられており、インプットシャフト11におけるエンジン1側の端部にはタービンランナ13が取り付けられている。
【0027】
一方、クランクシャフト2の後端にはフロントカバー15が連結されており、フロントカバー15にはポンプインペラ16が接続されている。このタービンランナ13とポンプインペラ16とは対向して配置され、タービンランナ13およびポンプインペラ16の内側にはステータ17が設けられている。ステータ17は、一方向クラッチ14を介して中空軸12に接続されている。この中空軸12の内部にインプットシャフト11が配置されている。この中空軸12とインプットシャフト11とは相対回転可能であり、中空軸12はケーシングK1により回転不可能に保持されている。また、インプットシャフト11におけるエンジン1側の端部には、ダンパ機構18を介してロックアップクラッチ19が設けられている。
【0028】
前記前後進切り換え機構8は、インプットシャフト11とベルト式無段変速機9との間の動力伝達経路に設けられている。前後進切り換え機構8はシングルピニオン形式の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、前後進切り換え機構8は、インプットシャフト11と同軸上に設けられたサンギヤ25と、このサンギヤ25の外周側に、サンギヤ25と同軸上に配置されたリングギヤ26と、サンギヤ25およびリングギヤ26に噛み合わされたピニオンギヤ27と、このピニオンギヤ27を自転可能、かつ、公転可能に保持したキャリヤ29とを有している。
【0029】
ここで、サンギヤ25およびリングギヤ26およびピニオンギヤ27は共にはす歯歯車であり、各ギヤにおける歯のねじれ方向(傾斜方向)は以下のとおりである。すなわち、サンギヤ25の歯は左方向にねじれており、ピニオンギヤ27の歯は右方向にねじれており、リングギヤ26の歯は右方向にねじれている。これらの各ギヤのねじれ方向の技術的意味は後述する。
【0030】
前記リングギヤ26はインプットシャフト11と一体回転するように連結されており、このリングギヤ26およびインプットシャフト11に対して、キャリヤ29を一体回転するように連結可能なクラッチCLが設けられている。さらに、キャリヤ29の回転・停止を選択的に切り換えるブレーキBRが設けられている。
【0031】
前記ベルト式無段変速機9は、インプットシャフト11と同軸上に配置されたプライマリシャフト30と、プライマリシャフト30と相互に平行に配置されたセカンダリシャフト31とを有している。このプライマリシャフト30と前記サンギヤ25とが一体回転するように連結されている。また、プライマリシャフト30を回転可能に保持する軸受32,33が設けられているとともに、セカンダリシャフト31を回転可能に保持する軸受34,35が設けられている。
【0032】
まず、プライマリシャフト30側の構成を説明すると、図2に示すように、プライマリシャフト30にはプライマリプーリ36が設けられおり、プライマリプーリ36は、プライマリシャフト30と一体回転し、かつ、軸線方向に移動不可能に構成された固定シーブ38と、プライマリシャフト30と一体回転し、かつ、軸線方向に移動可能に構成された可動シーブ39とを有している。そして、固定シーブ38と可動シーブ39との対向面間にV字形状の溝40が形成されている。
【0033】
また、この可動シーブ39をプライマリシャフト30の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ39と固定シーブ38とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ(言い換えれば油圧サーボ機構)41が設けられている。油圧アクチュエータ41は、図2に示すように、2つの環状のシリンダ70,71を有しており、シリンダ70,71はプライマリシャフト30の外周に取り付けられている。また、シリンダ70とシリンダ71との間には、ピストン72が軸線方向に移動可能に配置されている。そして、シリンダ70とピストン72との間に油圧室73が形成され、シリンダ71と可動シーブ39との間に油圧室74が形成されている。
【0034】
一方、前記軸受33は内輪75および外輪76を有しており、内輪75がプライマリシャフト30の外周に嵌合固定(圧入固定または締まり嵌め)されている。前記リヤケース6には環状の凹部77が形成されており、凹部77に外輪76が配置されている。外輪76はリヤケース6により軸線方向に移動可能に保持されている。この凹部77は、外輪76の端面に接触する端面を有している。さらに、プライマリシャフト30の外周には段部78が形成されているとともに、内輪75と段部78の間に、シリンダ70,72の内周端が配置されている。そして、ナット79がプライマリシャフト30の雌ねじ(図示せず)に締め付け固定されて、内輪75と段部78とにより、シリンダ70,71が軸線方向に挟み付けられている。さらに、リヤケース6には穴6Aが形成され、穴6Aには軸94が嵌合されている。一方、プライマリシャフト30の端部には軸線方向の穴95が開口され、穴95に軸94が挿入されている。そして、プライマリシャフト30は軸94に沿って軸線方向に移動可能である。
【0035】
前記軸受32は、プライマリシャフト30の軸線方向において、固定シーブ38と前後進切り換え機構8との間に設けられている。軸受32は、内輪80および外輪81を有しており、内輪80がプライマリシャフト30の外周に嵌合固定(圧入固定または締まり嵌め)されている。また、センタケース5には隔壁82が形成されており、隔壁82には環状の凹部82Aが形成されている。この凹部82Aに外輪81が配置されている。外輪81はリヤケース6により軸線方向に移動可能に保持されている。
【0036】
一方、プライマリシャフト30であって、前後進切り換え機構8側の端部には軸線方向の穴84が形成されており、穴84にインプットシャフト11の一部が配置されている。また、インプットシャフト11の外周には環状体83が取り付けられており、環状体83の一部が穴84内に配置されている。環状体83とプライマリシャフト30とはスプライン嵌合されており、環状体83とプライマリシャフト30とがスナップリング85により、軸線方向に位置決めされている。また、環状体83であって、穴84から露出している部分には段部86が形成されており、段部86とプライマリシャフト30の端面87との間にスラスト軸受88が配置されている。さらに、環状体83であって、穴84から露出している部分には外向きのフランジ83Aが形成されており、フランジ83Aの外周にサンギヤ25が設けられている。さらに、インプットシャフト11の外周と環状体83の内周との間にはブッシュ96が配置されており、環状体83とインプットシャフト11とは軸線方向に相対移動可能になっている。
【0037】
前記インプットシャフト11の外周にはフランジ89が形成されており、フランジ89と環状体83との間にスラスト軸受90が配置されている。また、ケーシングK1の内部には、前記中空軸12が固定されたプレート91が設けられており、プレート91がセンターケース5に固定されている。このプレート91は円筒部93を有しており、円筒部93内に、前記インプットシャフト11の一部および中空軸12の一部が配置されている。中空軸12の端部外周にはフランジ12Aが設けられており、そのフランジ12Aが円筒部93の端面に接触している。そして、インプットシャフト11の軸線方向において、中空軸12のフランジ12Aと、フランジ89との間にスラスト軸受92が設けられている。上記のような構成により、インプットシャフト11およびプライマリシャフト30が、軸線A1を中心として回転可能になっている。
【0038】
一方、セカンダリシャフト31は、図3に示すようにセカンダリプーリ37を有しており、セカンダリプーリ37は、セカンダリシャフト31と一体回転し、かつ、軸線方向に移動不可能な固定シーブ42と、セカンダリシャフト31と一体回転し、かつ、軸線方向に移動可能に構成された可動シーブ43とを有している。
【0039】
そして、固定シーブ42と可動シーブ43との対向面間にV字形状の溝44が形成されている。また、この可動シーブ43をセカンダリシャフト31の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ43と固定シーブ42とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ(言い換えれば油圧サーボ機構)45が設けられている。油圧アクチュエータ45は、セカンダリシャフト31の外周に固定された環状のシリンダ119を有しており、シリンダ119と可動シーブ43との間に油圧室120が形成されている。
【0040】
上記構成のプライマリプーリ36の溝40およびセカンダリプーリ37溝44に対して、環状(無端状)のベルト46が巻き掛けられている。ベルト46は、多数の金属製のブロック(エレメント)を、スチールリングの円周方向に積層して構成されている。ベルト46は全体として可撓性を有している。前記リヤケース6には穴6Bが形成されており、穴6Bには軸96が嵌合されている。セカンダリシャフト31であって、リヤケース6側の端部には穴97が開口されており、穴97に軸96が挿入されている。一方、フロントケース4には支持ピン98が突出して形成されており、セカンダリシャフト31であってフロントケース4側の端部に開口された穴99に支持ピン98が挿入されている。そして、セカンダリシャフト31は、軸96および支持ピン98に沿って軸線方向に移動可能に構成されている。
【0041】
前記軸受34は内輪100および外輪101を有しており、内輪100がセカンダリシャフト31の外周に嵌合固定(圧入固定または締まり嵌め)されている。また、リヤケース6には環状の凹部102が設けられており、凹部102に外輪101が配置されている。外輪101は、リヤケース6により軸線方向に移動可能に保持されている。さらに、セカンダリシャフト31の外周であって、軸受34と固定シーブ42との間には、パーキングギヤ103が取り付けられている。パーキングギヤ103はセカンダリシャフト31にスプライン嵌合されており、パーキングギヤ103における環状のボス部104が、内輪100および固定シーブ42の基端部に接触する構成となっている。そして、セカンダリシャフト31の端部にはナット105が締め付け固定されており、ナット105と固定シーブ42との間に、内輪100およびボス部104が挟み付けられている。
【0042】
前記セカンダリシャフト31であって、フロントケース4側の端部にはカウンタドライブギヤ106がスプライン嵌合固定(圧入固定または締まり嵌め)されており、フロントケース4に取り付けられた軸受35により、カウンタドライブギヤ106が回転可能に支持されている。また、カウンタドライブギヤ106には段部107が形成されており、段部107と軸受35との間にスラスト軸受108が配置されている。上記のような構成により、セカンダリシャフト31が軸線B1を中心として回転可能になっている。
【0043】
さらに、セカンダリシャフト31と平行にカウンタシャフト110が配置されており、カウンタシャフト110にはカウンタドリブンギヤ111およびファイナルピニオンギヤ112が形成されている。そしてカウンタドリブンギヤ111とカウンタドライブギヤ106とが噛合されている。ここで、カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111は、共にはす歯歯車により構成されている。カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111における歯すじのねじれ方向(傾斜方向)は以下のとおりである。すなわち、カウンタドライブギヤ106の歯すじは右方向にねじれており、カウンタドリブンギヤ111の歯すじは左方向にねじれている。カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111における歯すじのねじれ方向の技術的意味は後述する。
【0044】
また、カウンタシャフト110を支持する軸受113,114が設けられている。前記最終減速機10は、リングギヤ115を有しており、リングギヤ115とファイナルピニオンギヤ112とが噛合されている。さらに最終減速機10のデフケース116を支持する軸受117が設けられており、最終減速機10には車輪(前輪)118が連結されている。
【0045】
一方、車両Veの全体を制御する電子制御装置(図示せず)が設けられており、電子制御装置に対して、エンジン回転数センサの信号、アクセル開度センサの信号、スロットル開度センサの信号、ブレーキスイッチの信号、シフトポジションセンサの信号、ベルト式無段変速機9の入力回転数センサの信号、ベルト式無段変速機9の出力回転数センサの信号などが入力される。
【0046】
前記シフトポジションセンサの信号に基づいて、D(ドライブ)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、P(パーキング)ポジションなどのいずれが選択されているかが判断される。また、エンジン回転数センサの信号、入力回転数センサの信号、出力回転数センサの信号などに基づいて、車速およびベルト式無段変速機9の変速比を演算することができる。
【0047】
さらに、電子制御装置には、各種の信号に基づいてエンジン1およびロックアップクラッチ19および前後進切り換え機構8およびベルト式無段変速機9の変速制御をおこなうためのデータが記憶されている。例えば、選択されるシフトポジションに応じて、前後進切り換え機構8の制御が実行される。ドライブポジションが選択された場合は、クラッチCLが係合され、かつ、ブレーキBRが解放される。ドライブポジションが選択され、かつ、エンジントルクがインプットシャフト11に伝達された場合は、リングギヤ26およびキャリヤ29およびサンギヤ25が一体回転し、インプットシャフト11のトルクがプライマリシャフト30に伝達される。また、インプットシャフト11の回転方向とプライマリシャフト30の回転方向とが同じとなる。
【0048】
プライマリシャフト30に伝達されたトルクは、ベルト46を経由してセカンダリシャフト31に伝達される。セカンダリシャフト31のトルクは、カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111を経由してカウンタシャフト110に伝達される。カウンタシャフト110のトルクは、最終減速機10を経由して車輪118に伝達され、車両Veを前進させる向きの駆動力が生じる。
【0049】
これに対して、リバースポジションが選択された場合は、ブレーキBRが係合され、かつクラッチCLが解放される。つまり、キャリヤ29が固定される。このように、リバースポジジョンが選択され、かつ、エンジントルクがインプットシャフト11に伝達された場合は、リングギヤ26にトルクが入力され、かつ、キャリヤ29が反力要素となり、サンギヤ25にトルクが伝達される。ここで、インプットシャフト11の回転方向に対して、プライマリシャフト30の回転方向が逆となる。プライマリシャフト30のトルクは、前述と同様にして車輪118に伝達され、車両Veを後退させる向きの駆動力が生じる。
【0050】
一方、アクセル開度および車速などの走行状態に基づいて要求駆動力が求められ、この要求駆動力に応じた目標エンジン出力が求められる。そして、最適燃費曲線に基づいて、目標エンジン回転数および目標エンジントルクが求められ、ベルト式無段変速機9の変速比を制御することにより、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づける制御が実行される。これと並行して、実エンジントルクを目標エンジントルクに近づけるように、電子スロットルバルブなどが制御される。
【0051】
ベルト式無段変速機9の変速比、具体的には、プライマリプーリ36におけるベルト46の巻き掛け半径は、つぎのように制御される。油圧室73,74の油圧に応じて、可動シーブ39を固定シーブ38に近づける向きの推力が制御されて、プライマリプーリ36の溝幅が制御される。また、これと並行してセカンダリプーリ37の溝幅が制御され、ベルト式無段変速機9のトルク容量が調整される。すなわち、油圧室120の油圧に応じて、可動シーブ43を固定シーブ42に近づける向きの推力が制御されて、セカンダリプーリ37の溝幅が制御される。
【0052】
ところで、ベルト式無段変速機9の変速比が所定の変速比以外の場合は、プライマリシャフト30の軸線方向で、プライマリプーリ36におけるベルト46の巻き掛け位置と、セカンダリプーリ37におけるベルト46の巻き掛け位置とに差(芯ズレ)が生じる。すると、ベルト46の張力に応じて、芯ズレ量を小さくしようとする軸線方向の力(スラスト力)が、プライマリプーリ30およびセカンダリプーリ37に加わる。これに対して、この実施例では、ベルト46からプライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31にスラスト力が加えられた場合でも、軸線方向におけるプライマリシャフト30とセカンダリシャフト31との位置関係が変化することを抑制するように、プライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31を軸線方向で位置決めしておくことができる。以下、プライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31を軸線方向で位置決めする原理を説明する。
【0053】
まず、前後進切り換え機構8を構成する各ギヤには、前述したねじれ方向が設定されているため、ドライブポジションが選択され、かつ、エンジントルクが前後進切り換え機構8に伝達された場合、図1において、エンジン1側から見てインプットシャフト11が時計方向に回転し、リングギヤ26では、図1および図2で右向きのスラスト力が生じるとともに、サンギヤ25では図1および図2で左向きのスラスト力が生じる。サンギヤ25で生じたスラスト力は、図2に示すスラスト軸受88を経由してプライマリシャフト30に伝達されるとともに、プライマリシャフト30に伝達されたスラスト力は軸受33の内輪75に伝達される。軸受75に、図2で左向きのスラスト力が伝達されると、外輪76の端面と、リヤカバー6の凹部77の端面とが接触し、リヤカバー6によりスラスト力が受け止められる。つまり、ケーシングK1に対してプライマリシャフト30が軸線方向に位置決めされる。
【0054】
一方、ドライブポジションが選択され、かつ、セカンダリシャフト31にトルクが伝達された場合は、エンジン1側から見てセカンダリシャフト31が時計方向に回転する。ここで、カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111には、前述した歯のねじれ方向が設定されており、カウンタドライブギヤ106とカウンタドリブンギヤ111との噛み合いにより、カウンタドライブギヤ106には、図1および図3で左向きのスラスト力が生じる。このスラスト力がセカンダリシャフト31に伝達されるとともに、セカンダリシャフト31に伝達されたスラスト力が、パーキングギヤ103のボス部104を経由して軸受34の内輪100に伝達される。すると、軸受34の外輪101の端面と、リヤカバー6の凹部102の端面との接触部分を経由してスラスト力がリヤカバー6に伝達されて、そのスラスト力が受け止められる。つまり、ケーシングK1に対してセカンダリシャフト31が軸線方向に位置決めされる。
【0055】
つぎに、リバースポジションが選択され、かつ、エンジントルクがインプットシャフト11に伝達された場合は、前後進切り換え機構8を構成する各ギヤのねじれ方向に基づいて、リングギヤ26では、図1で左向きのスラスト力が生じ、サンギヤ25では、図1および図2で右向きのスラスト力が生じる。前述のように、サンギヤ25を有する環状体83と、プライマリシャフト30とがスナップリング85により連結されているため、サンギヤ25で生じる右向きのスラスト力により、図2において、環状体83およびプライマリシャフト30に右向きのスラスト力が生じる。このスラスト力は、スラスト軸受90、インプットシャフト11のフランジ89、スラスト軸受92、中空軸12のフランジ12Aを経由してプレート91に伝達され、ケーシングK1で受け止められる。このようにして、リバースポジションが選択された場合もプライマリシャフト30が軸線方向に位置決めされる。
【0056】
一方、リバースポジションが選択され、かつ、セカンダリシャフト31にトルクが伝達された場合は、エンジン1側から見てセカンダリシャフト31が反時計方向に回転する。ここで、カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111には、前述した歯のねじれ方向が設定されており、カウンタドライブギヤ106とカウンタドリブンギヤ111との噛み合いにより、カウンタドライブギヤ106には、図1および図3で右向きのスラスト力が生じる。このスラスト力がセカンダリシャフト31に伝達されると、セカンダリシャフト31に伝達されたスラスト力が、カウンタドライブギヤ106およびスラスト軸受108および軸受35を経由してフロントケース4に伝達されて、そのスラスト力が受け止められる。このようにして、リバースポジションが選択された場合もセカンダリシャフト31が軸線方向に位置決めされる。
【0057】
以上のように、車両Veが前進する駆動力を生じさせる場合、または車両Veが後退する駆動力を生じさせる場合のいずれにおいても、プライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31を、軸線方向に位置決めしておくことができる。したがって、ベルト46からプライマリプーリ36およびセカンダリプーリ37に対して、図1ないし図3で左右いずれの向きのスラスト力が加えられた場合でも、軸線方向において、プライマリプーリ36におけるベルト46の巻き掛け位置と、セカンダリプーリ37におけるベルト46の巻き掛け位置との差が変化することを抑制できる。したがって、ベルト46の耐久性が向上する。
【0058】
また、プライマリシャフト30に加えられるスラスト力の向きは、前後進切り換え機構8を構成する各ギヤの歯すじのねじれ方向により一義的に決定される。また、セカンダリシャフト31に加えられるスラスト力の向きは、セカンダリシャフト31の回転方向、カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111の歯すじのねじれ方向により一義的に決定される。このため、軸受33,34を軸線方向の両側から挟みつける機構、例えば、リテーナなどを設けずに済む。したがって、プライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31を位置決めする部品点数の増加を抑制でき、製造コストの上昇を抑制できる。また、リヤカバー6に対する軸受33,34の組付け性の低下を抑制できる。
【0059】
また、前後進切り換え機構8を構成する既存の各ギヤを利用して、プライマリシャフト30を位置決めするためのスラスト力を生じさせ、既存のカウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111を利用して、セカンダリシャフト31を位置決めするためのスラスト力を生じさせる構成となっている。したがって、プライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31を位置決めするためのスラスト力を生じさせる部品を専用で設けずに済む。
【0060】
また、ドライブポジションはリバースポジションに比べて使用頻度が高く、使用頻度の高い車両Veの前進走行時に、ベルト46の耐久性を向上できる。さらに、ケーシングK1は、フロントケース4、センタケース5、リヤケース6という複数の分割体により構成されているが、プライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31を、単一の分割体であるリヤケース6を利用して位置決めできるため、プライマリシャフト30とセカンダリシャフト31との軸線方向における相対位置を高精度に決定できる。
【0061】
さらに、この実施例において、インプットシャフト11にエンジントルクが伝達された場合に、前後進切り換え機構8の各ギヤのねじれ方向に基づいて、プライマリシャフト30に加えられるスラスト力の方が、ベルト46からプライマリシャフト3に加えられるスラスト力よりも大きくなるように構成することが可能である。また、セカンダリシャフト31にエンジントルクが伝達された場合に、カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111のねじれ方向に基づいて、セカンダリシャフト31に加えられるスラスト力の方が、ベルト46からセカンダリシャフト31に加えられるスラスト力よりも大きくなるように構成することが可能である。このように、プライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31に加わるスラスト力同士の関係を調整すると、ベルト46からプライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31にスラスト力が伝達された場合でも、プライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31が軸線方向に移動することを確実に防止できる。
【0062】
上記のようなスラスト力の設定方法を具体的に説明する。まず、ベルト46からプライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31に加えられるスラスト力は、ベルト式無段変速機9の変速比、ベルト46の張力などから決まる。すなわち、プライマリシャフト30およびセカンダリシャフト31が位置決めされた状態において、ベルト式無段変速機9の変速比で所定の変速比が設定された場合は、プライマリプーリ36およびセカンダリプーリ37におけるベルト46の巻き掛け位置が一致する。これに対して、所定の変速比よりも大きい変速比、または小さい変速比では、プライマリプーリ36およびセカンダリプーリ37の軸線方向におけるベルト46の巻き掛け位置が異なり、その位置ずれ量に応じたスラスト力が生じる。
【0063】
一方、前後進切り換え機構8の各ギヤのねじれ方向に基づいて、プライマリシャフト30に加えられるスラスト力は、各ギヤのねじれ角度などにより調整可能である。また、カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111のねじれ方向に基づいて、セカンダリシャフト31に加えられるスラスト力は、各ギヤのねじれ角度などにより調整可能である。そこで、例えば、プライマリプーリ36およびセカンダリプーリ37の軸線方向におけるベルト46の巻き掛け位置ずれ量の最大値と、ベルト46の張力の最大値とから求められるスラスト力よりも、所定の伝達トルクにおいて、各ギヤのねじれ角度に応じて生じるスラスト力の方が大きくなるように、ねじれ角度を設定することが可能である。
【0064】
なお、この発明は3本以上の軸を有する歯車装置にも適用可能である。また、第1の軸および第2の軸にチェーンを巻き掛けた装置、例えば、四輪駆動車において、前後輪に動力を分配するトランスファも、この発明の技術に含まれる。つまり、この発明における「伝動部材」には、「巻き掛け伝動部材」が含まれる。この巻き掛け伝動部材は環状に(無端状)に構成されており、第1の軸および第2の軸の軸線方向における可撓性を有している。さらに、第1軸および第2軸が車両の幅方向に配置されている構成の他、第1軸および第2軸が車両の前後方向に配置されている構成も、この発明に含まれる。また、駆動力源から後輪に至る動力伝達経路に第1の軸および第2の軸が設けられている構成も、この発明に含まれる。
【0065】
ここで、実施例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、プライマリシャフト30が、この発明における第1の軸に相当し、セカンダリシャフト31が、この発明における第2の軸に相当し、巻き掛け伝動部材、具体的にはベルト46およびチェーンが、この発明の伝動部材に相当し、前後進切り換え機構8が、この発明における第1の歯車機構に相当し、カウンタドライブギヤ106およびカウンタドリブンギヤ111が、この発明における第2の歯車機構に相当し、前後進切り換え機構8のサンギヤ25から、プライマリシャフト30に加えられるスラスト力(図1および図2で左向きの力)が、この発明の「第1の歯車機構から第1の軸に軸線方向で一方に向かう力」に相当し、カウンタドライブギヤ106からセカンダリシャフト31に加えられる力(図1および図3で左向きの力)が、この発明における「第2の歯車機構から第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられ」に相当する。
【0066】
また、「インプットシャフト11の回転方向とプライマリシャフト30の回転方向とが同一である場合」が、この発明における「第1の軸と前記第2の軸との間における第1のトルク伝達状態」に相当し、「インプットシャフト11の回転方向に対して、プライマリシャフト30の回転方向が逆になる場合」が、この発明における「第2のトルク伝達状態」に相当する。なお、ドライブポジションが選択された場合とリバースポジションが選択された場合とでは、ベルト式無段変速機9の変速比が異なる可能性があり、その場合には、ベルト式無段変速機9の変速比が、「第1の軸と前記第2の軸との間における第1のトルク伝達状態」に相当する。また、エンジン1が、この発明における駆動力源に相当する。なお、駆動力源としてモータ・ジェネレータを用いることも可能である。さらに、ドライブポジションが選択された場合が、この発明における「車両を前進させる駆動力を生じさせる場合」に相当し、リバースポジションが選択された場合が、この発明における「車両を後退させる駆動力を生じさせる場合」に相当する。また、エンジン1が、この発明における駆動力源に相当し、「プライマリシャフト30に、図1および図2で右向きのスラスト力が加えられること」が、この発明の「第1の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられる」に相当する。さらに、スナップリング85が、この発明における第5の固定機構に相当し、カウンタドライブギヤ106をセカンダリシャフト31にスプライン嵌合する構造が、この発明の第6の固定機構に相当する。
【0067】
さらに、「セカンダリシャフト31に、図1および図3で左向きのスラスト力が加えられること」が、この発明における「第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられる」に相当し、リヤケース6が、この発明における第1の固定機構および第2の固定機構に相当し、プレート91およびセンターケース5が、この発明における第3の固定機構に相当し、フロントケース4が、この発明における第4の固定機構に相当し、フロントケース4およびセンターケース5およびリヤケース6が、この発明における「複数の分割体」に相当し、リヤケース6が、この発明における「単一の分割体」に相当し、前輪および後輪が、この発明の車輪に相当する。この実施例において、複数の分割体とは、別々に形成されており、ねじ部材などにより結合固定されるものを意味する。また、単一の分割体とは、一体成形された単体物を意味する。また、この発明においては、第1の軸に加えられた力が、第1の固定機構および第2の固定機構に直接伝達される構成と、第1の軸に加えられた力が、中間部材(スラスト軸受、フランジ部など)を経由して第1の固定機構および第3の固定機構に直接伝達される構成とが含まれる。さらにこの発明においては、第2の軸に加えられた力が、第2の固定機構および第4の固定機構に直接伝達される構成と、第2の軸に加えられた力が、中間部材(スラスト軸受、フランジ部など)を経由して第2の固定機構および第4の固定機構に直接伝達される構成とが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】この発明を適用した車両のパワートレーンを示すスケルトン図である。
【図2】図1に示されたベルト式無段変速機において、プライマリシャフトの位置決め機構を示す断面図である。
【図3】図1に示されたベルト式無段変速機において、セカンダリシャフトの位置決め機構を示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1…エンジン、 4…フロントケース、 5…センターケース、 6…リヤケース、 8…前後進切り換え機構、 11…インプットシャフト、 30…プライマリシャフト、 31…セカンダリシャフト、 46…ベルト、 85…スナップリング、 91…プレート、 106…カウンタドライブギヤ、 111…カウンタドリブンギヤ、 118…車輪、 A1,B1…軸線、 K1…ケーシング、 Ve…車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に平行に配置された第1の軸および第2の軸と、この第1の軸および第2の軸に亘って取り付けられ、かつ、この第1の軸と第2の軸との間でトルク伝達をおこなうことの可能な伝動部材と、前記第1の軸に設けられてトルク伝達が可能な第1の歯車機構と、前記第2の軸に設けられてトルク伝達が可能な第2の歯車機構とを有する歯車装置において、
前記第1の歯車機構から前記第1の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられて、この第1の軸に伝達された軸線方向の力を第1の固定機構で受けさせて、この第1の軸を軸線方向に位置決めするように前記第1の歯車機構が構成され、
前記第2の歯車機構から前記第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられて、この第2の軸に伝達された軸線方向の力を第2の固定機構で受けさせて、この第2の軸を軸線方向に位置決めするように前記第2の歯車機構が構成されていることを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
前記第1の軸と前記第2の軸との間におけるトルク伝達状態として第1のトルク伝達状態と第2のトルク伝達状態とを選択可能に構成されており、前記第1のトルク伝達状態の方が、第2のトルク伝達状態よりも使用頻度が高く構成されており、
前記第1のトルク伝達状態である場合に、前記第1の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられるように前記第1の歯車機構が構成され、かつ、前記第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられるように前記第2の歯車機構が構成されていることを特徴とする請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に、前記第1の軸および第2の軸が配置されており、前記車両を前進させる駆動力を生じさせる場合に、前記第1のトルク伝達状態が選択される構成であることを特徴とする請求項2に記載の歯車装置。
【請求項4】
車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に、前記第1の軸および第2の軸が配置されており、前記駆動力源のトルクが、前記第1の軸から前記第2の軸を経由して車輪に伝達されるように構成されており、
前記車両が前進する場合に、前記第1の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられるように前記第1の歯車機構を構成し、前記車両が前進する場合に、前記第2の軸に軸線方向で一方に向かう力が加えられるように前記第2の歯車機構を構成し、
前記車両が後退する場合に、前記第1の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられるように前記第1の歯車機構を構成し、前記車両が後退する場合に、前記第2の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられるように前記第2の歯車機構を構成し、
前記第1の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられた場合に、この第1の軸に伝達された軸線方向の力を受けて、この前記第1の軸を軸線方向に位置決めする第3の固定機構と、
前記第2の軸に軸線方向で他方に向かう力が加えられた場合に、この第2の軸に伝達された軸線方向の力を受けて、この前記第2の軸を軸線方向に位置決めする第4の固定機構と
を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項5】
前記第1の軸および前記第2の軸および前記第1の歯車機構および前記第2の歯車機構が収容されるケーシングが設けられており、このケーシングは、複数の分割体を結合して構成されており、前記第1の固定機構および前記第2の固定機構が、単一の分割体に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項6】
前記第1軸に設けられ、かつ、溝幅を可変に構成された第1のプーリと、前記第2軸に設けられ、かつ、溝幅を可変に構成された第2のプーリと、この第1のプーリおよび第2のプーリに前記伝動部材としてのベルトが巻き掛けられてベルト式無段変速機を構成していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項7】
前記第1の軸に対して前記第1の歯車機構を軸方向に固定する第5の固定機構と、前記第2の軸に対して前記第2の歯車機構を軸方向に固定する第6の固定機構とが、更に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の歯車装置。
【請求項8】
前記第1の歯車機構から前記第1の軸に加えられる軸線方向の力が、前記伝動部材から前記第1の軸に加えられる軸線方向の力よりも大きくなるように構成され、前記第2の歯車機構から前記第2の軸に加えられる軸線方向の力が、前記伝動部材から前記第2の軸に加えられる軸線方向の力よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項1または4のいずれかに記載の歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−250205(P2006−250205A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65499(P2005−65499)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】