説明

汚れ判定装置

【課題】レーダセンサのレーダ波受信面の汚れを精度良く判定する汚れ判定装置を提供する。
【解決手段】監視対象周波数領域から抽出した監視対象ピークの電力値を、変調区間毎かつ受信チャンネル毎に算出し、変調区間毎に、電力値が最大となる最大チャンネルに対する各受信チャンネルの電力値の偏差(チャンネル偏差)を算出する(S210〜S250)。算出したチャンネル偏差に従って、各受信チャンネルに対応付けられた前判定値CPをカウントすると共に、車速Vが下限車速Vth以上、かつ受信チャンネルの中に前判定値CPが前判定閾値CPth以上のものが存在する場合に、車速Vに応じて算出される更新値Kにより汚れ判定値CDを更新し、その汚れ判定値CDが汚れ判定閾値CDth以上であれば、レーダ波の受信面に汚れが生じていることを表すダイアグ情報をONにする(S260〜S320)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダセンサのレーダ波受信面の汚れを判定する汚れ判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両追従制御や衝突予知制御には、ターゲット(障害物や先行車両等)との距離や相対速度を高精度に検出できるミリ波レーダセンサ(以下、単にレーダセンサという)が用いられている。
【0003】
ところで、レーダセンサは、フロントガラス等に起因した電波の減衰を避けるために車両室内ではなく、例えば、フロントバンパのような雨や雪等に晒される車両室外に取り付けられることが多い。
【0004】
しかし、車両室外に設置されたレーダセンサは、アンテナ部を保護する保護部材(即ち、レーダ波の受信面)に水分や汚れ付着し、その付着物がレーダ波を遮ったり反射したりすることにより、レーダセンサの検出性能、ひいては、その検出結果を用いる各種制御の信頼性を低下させてしまうおそれがある。このため、レーダセンサの検出性能の低下を検出した場合には、その検出結果を用いる各種制御を禁止または制限することが行われている。
【0005】
このようなレーダ波の受信面の汚れによるレーダセンサの検出性能の低下を検出する一つの手法として、受信信号の周波数スペクトルを求め、その周波数スペクトル中に現れるピーク(以下、スペクトルピークという)の高さ(即ち受信強度)を監視することによって判断する手法が知られている。
【0006】
即ち、レーダ波の受信面が汚れるとスペクトルピークが低くなるため、その変化を監視することで、検出性能の低下度合いを推定できるからである(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
なお、スペクトルピークは、マルチパスの影響(経路の異なる反射波同士の干渉)で一時的に低下する場合もあるため、スペクトルピークの低下が、受信面の汚れによるものかマルチパスによるものかを識別するために、スペクトルピークの低下が一定期間以上継続した場合に、受信面の汚れによる継続的な検出性能の低下が生じていると判断することも行われている。
【特許文献1】特開2003−320866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、レーダセンサが、方位検出等のために、互いに異なるアンテナ素子でレーダ波を受信する複数の受信チャンネルを備えている場合、装置構成を小さくする等の理由で受信チャンネル数を少なくするほど、一つの受信チャンネルでの受信レベルの低下が、方位検出精度に与える影響が大きくなる。
【0009】
このような場合には、受信面の汚れが確実に検出されるように、汚れ判定の検出感度を上げる(例えば、スペクトルピークが低下していることを検出する際に用いる閾値を低くする)ことが望まれる。
【0010】
しかし、このように何等かの理由で汚れ判定の検出感度を向上させると、マルチパスの影響を、受信面の汚れであると誤検出してしまう可能性が高くなり、その結果、レーダセンサの継続的な検出性能の低下(受信面の汚れ)が生じているわけではないにも関わらず、レーダセンサを用いた各種制御を利用できなくなってしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するために、レーダセンサのレーダ波受信面の汚れを精度良く判定する汚れ判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するためになされた本発明の汚れ判定装置では、送信したレーダ波の反射波を、互いに異なるアンテナ素子で受信する複数の受信チャンネルを有したレーダセンサに用いられ、レーダ波を受信する受信面の汚れを判定するものである。
【0013】
そして偏差算出手段が、複数の受信チャンネルにて受信信号が得られる毎に、受信チャンネルの中で受信信号の電力値が最大となるものを最大チャンネルとして抽出し、受信チャンネル毎に最大チャンネルとの電力値の偏差を算出する。
【0014】
すると、前判定値カウント手段が、受信チャンネルのうち、偏差算出手段にて算出されるチャンネル偏差が予め設定された候補閾値以上となるものを候補チャンネル、偏差が候補閾値以下の値に設定された非候補閾値未満となるものを非候補チャンネルとし、候補チャンネルに対応付けられた前判定値をインクリメントすると共に、非候補チャンネルに対応付けられた前判定値をリセットする。
【0015】
更に、判定値カウント手段が、受信チャンネルのうち、前判定値が予め設定された前判定閾値以上となるものが一つでも存在する場合は、汚れ判定値を予め設定された更新値だけ増加させる。
【0016】
そして、判定手段が、汚れ判定値が予め設定された汚れ判定閾値以上になった場合に、レーダセンサの受信面が汚れていると判定する。
つまり、チャンネル偏差が候補閾値以上である受信チャンネルが存在する場合に、直ちに、受信面に汚れがあると判定するのではなく、そのような受信チャンネルを、受信面の汚れの影響を受けている可能性のある候補チャンネルとして扱い、候補チャンネルである状態が一定期間(前判定値≧前判定閾値となるまでに要する期間、以下、前判定期間という)継続している受信チャンネルが存在する場合に、正式な汚れ判定のための監視(汚れ判定値のカウント)を開始するようにされている。
【0017】
このように本発明の汚れ判定装置によれば、前判定期間の間は受信チャンネルを固定して前判定値をカウントしているため、何等かの原因で一時的に受信強度が低下しているだけの受信チャンネルが候補チャンネルで有り続けることを排除することができ、その結果、マルチパス等の影響による一時的な受信強度の低下を、受信面の汚れであると誤判定してしまうことを防止できる。なお、汚れの検出感度を向上させる等、何等かの理由によって候補閾値を小さくする必要がある場合には、それに応じて前判定期間の長さを適宜増加させればよい。
【0018】
また、本発明の汚れ判定装置によれば、前判定期間の後に実行する汚れ判定値のカウントを、一つの受信チャンネルに固定するのではなく、前判定閾値が前判定閾値以上となる受信チャンネルが一つでも存在する限り継続してカウントしているため、例えば、受信面上で汚れが移動しているような場合でも、これを確実に汚れとして判定することができる。
【0019】
更に、本発明の汚れ判定装置によれば、チャンネル偏差を用いて複数の候補チャンネルを同時に抽出して監視しているため、受信面の汚れによる継続的な受信強度の低下と、マルチパス等による一時的な受信強度の低下とが同時に生じている場合でも、受信面の汚れの影響による受信強度の低下を確実に監視することができ、汚れ判定の信頼性を向上させることができる。
【0020】
ところで、本発明の汚れ判定装置において、偏差算出手段が、予め設定された測定周期の間にチャンネル偏差を複数回算出する場合、即ち、レーダセンサが、測定周期の間にレーダ波の送出を複数回行うように構成されている場合、前判定値カウント手段は、受信チャンネルのうち、測定周期の間に算出されたチャンネル偏差が全て候補閾値以上となるものを候補チャンネル、チャンネル偏差が一つでも非候補閾値未満となるものを非候補チャンネルとするように構成されていることが望ましい。
【0021】
なお、この場合、候補チャンネルでも非候補チャンネルでもない受信チャンネルの前判定値は、そのままの値に保持されることになる。
このように構成された本発明の汚れ判定装置によれば、一時的にチャンネル偏差が大きくなっている受信チャンネルが候補チャンネルとして抽出される可能性、ひいては、当該装置が誤判定する可能性をより低下させることができる。
【0022】
また、本発明の汚れ判定装置は、更新値算出手段が、レーダセンサを搭載する車両の車速を取得し、その車速が早いほど大きな値となる更新値を算出したり、禁止手段が、レーダセンサを搭載する車両の車速を取得し、その車速が予め設定された下限車速未満である場合に、汚れ判定値カウント手段による汚れ判定値のカウントを禁止したりするように構成されていてもよい。
【0023】
前者の場合、車速が早いほど、汚れであると判定されるまでの時間が短縮され、受信面の汚れを効率良く判定することができ、後者の場合、低速走行時(特に停車時)に、マルチパスの影響で誤判定が生じることを防止できる。
【0024】
即ち、車速が高いほど、短時間の間にレーダ波を反射する周囲の環境が大きく変化し、同一の受信チャンネルにマルチパスの影響が連続して現れる可能性が低くなり、逆に言えば、車速が低いほど、レーダ波を反射する周囲の環境の変化が少なく、同一の受信チャンネルのマルチパスの影響が連続して現れる可能性が高くなるため、このような設定が有効となるのである。
【0025】
また、本発明の汚れ判定装置において、偏差算出手段は、最大チャンネルを抽出する際には、受信チャンネル毎に受信信号の周波数スペクトルを算出した結果に基づき、予め設定された周波数範囲内に存在し、且つ、予め設定されたピーク閾値を超えるピークの電力値を比較することが望ましい。
【0026】
このように構成された汚れ判定装置によれば、チャンネル偏差を精度よく求めることができ、判定の信頼性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[全体構成]
図1は、本発明を適用した車両制御システム1の概略構成を示したブロック図である。
【0028】
図1に示すように、この車両制御システム1は、車両の前面に設置され車両前方の所定検出範囲内に位置する物体を検知するレーダセンサ3を備えている。また、レーダセンサ3は、車間制御電子制御装置(以下、「車間制御ECU」)30に接続され、その車間制御ECU30は、LAN通信バスを介して、エンジン電子制御装置(以下、「エンジンECU」)32、ブレーキ電子制御装置(以下、「ブレーキECU」)34などの各種ECUと接続されている。なお、各ECUは、いずれも周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、少なくともLAN通信バスを介して通信を実施するためのバスコントローラを備えている。
【0029】
レーダセンサ3は、FMCW方式のいわゆる「ミリ波レーダ」として構成されたものであり、周波数変調されたミリ波帯のレーダ波を送受信することにより、各種物体(先行車両,路側物,障害物等)を認識し、これらの認識結果に基づいて、自車両の前方を走行する先行車両に関するターゲット情報や、当該レーダセンサ3の状態を示すダイアグ情報を作成して、車間制御ECU30に送信する。なお、ターゲット情報には、先行車両との相対速度、及び先行車両の位置(距離,方位)が少なくとも含まれ、また、ダイアグ情報には、レーダ波の受信面の汚れに基づく検出性能の低下の有無を示す情報が少なくとも含まれている。
【0030】
ブレーキECU34は、図示しないステアリングセンサ、ヨーレートセンサからの検出情報(操舵角、ヨーレート)に加え、図示しないM/C圧センサからの情報に基づいて判断したブレーキペダル状態を車間制御ECU30に送信すると共に、車間制御ECU30から目標加速度、ブレーキ要求等を受信し、これら受信した情報や判断したブレーキ状態に従って、ブレーキ油圧回路に備えられた増圧制御弁・減圧制御弁を開閉するブレーキアクチュエータを駆動することでブレーキ力を制御するように構成されている。
【0031】
エンジンECU32は、図示しない車速センサ、スロットル開度センサ、アクセルペダル開度センサからの検出情報(車速、エンジン制御状態、アクセル操作状態)を車間制御ECU30に送信すると共に、車間制御ECU30からは目標加速度、フューエルカット要求等を受信し、これら受信した情報から特定される運転状態に応じて、内燃機関のスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータ等に対して駆動命令を出力することで、内燃機関の駆動力を制御するように構成されている。
【0032】
車間制御ECU30は、レーダセンサ3からターゲット情報,ダイアグ情報、エンジンECU32から車速やエンジン制御状態、ブレーキECU34から操舵角、ヨーレート、ブレーキ制御状態等を受信する。また、車間制御ECU30は、図示しないクルーズコントロールスイッチ,目標車間設定スイッチなどによる設定値、及びレーダセンサ3から受信したターゲット情報に基づいて、先行車両との車間距離を適切な距離に調節するための制御指令として、エンジンECU32に対しては、目標加速度、フューエルカット要求等を送信し、ブレーキECU34に対しては、目標加速度、ブレーキ要求等を送信する。また、レーダセンサ3から受信したダイアグ情報に、検出性能が低下していることが示されている場合は、レーダセンサ3からのターゲット情報の使用を禁止又は制限する処理を実行する。
[レーダセンサの外観]
ここで図2は、レーダセンサ3の外観図である。
【0033】
図2に示すように、レーダセンサ3は回路素子を収納する開口部位を有した箱状の筐体3aと、筐体3aの開口部位を覆うように設置され、レーダ波を送受信するアンテナが配列されたアンテナ基板3bと、レーダ波を透過する樹脂で形成され、アンテナ基板3bを被覆するようにして筐体3aに取り付けられるレドーム3cとを備えている。なお、図2は、レドーム3cを取り外した状態を示し、筐体3a,アンテナ基板3bの部分が斜視図、レドーム3cの部分が平面図である。
【0034】
そして、レーダセンサ3は、フロントバンパ等の車室外に、レドーム3cの取付面(即ち、レーダ波の送受信面)をレーダ波の放射方向に向けた状態で取り付けられる。
[レーダセンサの詳細構成]
ここで、レーダセンサ3の詳細構成について説明する。
【0035】
レーダセンサ3は、図1に示すように、時間に対して周波数が直線的に増加する上り区間、および周波数が直線的に減少する下り区間を有するように変調されたミリ波帯の高周波信号を生成する発振器10と、発振器10が生成する高周波信号を増幅する増幅器12と、増幅器12の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器14と、送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ16と、レーダ波を受信するn個の受信アンテナからなる受信アンテナ部20とを備えている。
【0036】
また、レーダセンサ3は、受信アンテナ部20を構成するアンテナのいずれかを順次選択し、選択されたアンテナからの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ21と、受信スイッチ21から供給される受信信号Srを増幅する増幅器22と、増幅器22にて増幅された受信信号Srおよびローカル信号Lを混合してビート信号BTを生成するミキサ23と、ミキサ23が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ24と、フィルタ24の出力をサンプリングしデジタルデータに変換するA/D変換器25と、発振器10の起動,停止やA/D変換器25を介したビート信号BTのサンプリングを制御すると共に、そのサンプリングデータを用いた信号処理(ターゲット情報,ダイアグ情報の生成)や、車間制御ECU30との通信を行い、信号処理に必要な情報や信号処理の結果として得られる情報を送受信する処理などを実行する信号処理部26とを備えている。
【0037】
なお、受信アンテナ部20を構成する各アンテナは、それぞれ受信チャンネルCH1〜CHnに割り当てられるものとする。
また、信号処理部26は、CPU,ROM,RAMを少なくとも備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、さらにA/D変換器25を介して取り込んだデータについて、高速フーリエ変換(FFT)処理などを実行するための演算処理装置(例えばDSP)等を備えている。
[レーダセンサの動作概要]
このように構成されたレーダセンサ3では、信号処理部26からの指令に従って発振器10が起動すると、その発振器10が生成し、増幅器12が増幅した高周波信号を、分配器14が電力分配することにより、送信信号Ssおよびローカル信号Lを生成し、このうち送信信号Ssは、送信アンテナ16を介してレーダ波として送出される。
【0038】
そして、送信アンテナ16から送出され物体に反射して戻ってきた反射波は、受信アンテナ部20を構成する全ての受信アンテナにて受信され、受信スイッチ21によって選択されている受信チャンネルCHi(i=1〜n)の受信信号Srのみが増幅器22で増幅されたあとミキサ23に供給される。
【0039】
すると、ミキサ23では、この受信信号Srに分配器14からのローカル信号Lを混合することによりビート信号BTを生成する。このビート信号BTは、フィルタ24にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器25にてサンプリングされ、信号処理部26に取り込まれる。
【0040】
なお、受信スイッチ21は、上り区間及び下り区間からなるレーダ波の一変調区間の間に、すべての受信チャンネルCH1〜CHnが所定の回(例えば512回)ずつ選択されるよう切り替えられ、また、A/D変換器25は、この切り替えのタイミングに同期してサンプリングを行う。つまり、レーダ波の一変調区間の間に、各受信チャンネルCH1〜CHn毎かつレーダ波の上り/下り各区間毎にサンプリングデータが蓄積されることになる。
【0041】
そして、レーダセンサ3の信号処理部26では、図3に示すように、予め設定された測定周期(本実施形態では100ms)毎に、三変調区間分のレーダ送信を実行し、その3つの変調区間のそれぞれで得られるサンプリングデータに基づいて、ターゲット情報の生成に必要な情報の収集や受信面の汚れの判定を行う周期処理を実行する。
[周期処理]
ここで信号処理部26が実行する周期処理を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0042】
本処理が起動すると、まずS110では、蓄積されたサンプリングデータを、変調区間毎に分離すると共に、各変調区間毎のサンプリングデータを、更に各受信チャンネルCH1〜CHn毎かつレーダ波の上り/下り各区間毎に分離し、その分離したサンプリングデータ毎にデシメーションフィルタを作用させる。
【0043】
つまり、多重化されたサンプリングデータのサンプリングレートは、一つの受信チャンネルでのサンプリングレートのn倍になっており、この多重化されたサンプリングデータを個々の受信チャンネル毎に分離する操作は、オーバサンプリングされたサンプリングデータを間引きする操作に相当するため、デシメーションフィルタが必要となる。
【0044】
S120では、変調区間毎かつ受信チャンネル毎かつ上り/下り区間毎にFFT処理(以下「距離FFT」ともいう)を実行して、それぞれの周波数スペクトラムを求める。
S130では、各周波数スペクトラムについて、予め設定された第1ピーク抽出用閾値(本実施形態では5dB)を用いて、周波数スペクトラム上のピークを抽出して、その信号成分(周波数,電力値)を特定し、S140では、S130にて抽出されたピークのうち、過去のピークの抽出結果(履歴)からの予測値と一致するピーク、即ち、履歴接続のあるピークを抽出する。なお、S130,S140での抽出結果は、ターゲット情報を生成するために別途実行される周知の物体認識処理にて使用される。
【0045】
S150では、S130にてピーク抽出閾値によって抽出されたピークを対象として、装置自体の特性によって生じる受信チャンネル間の受信レベル(電力値)差を補正する処理を実行する。なお、この補正には、予め用意された実測値が用いられ、その実測値を検出された電力値に加える(又は乗じる)ことで行われる。
【0046】
S160では、電力値が補正されたピーク信号成分を用いて、受信面の汚れの有無を判定する部分汚れ検出処理を実行し、S170では、同じく電力値が補正されたピーク信号成分を用いて方位演算を実行して、本処理を終了する。
【0047】
なお、方位演算は、例えば、同じ周波数を有するピーク信号成分を各受信チャンネルから集めてFFT処理(以下「方位FFT」ともいう)を実行する周知のものである。
[部分汚れ判定処理]
次に、先のS160で実行する部分汚れ判定処理の詳細を、図5に示すフローチャートに沿って説明する。
【0048】
本処理では、まずS210にて、予め設定された監視対象周波数領域から、予め設定された第2ピーク抽出閾値以上の信号レベルを有する監視対象ピークを抽出する。なお、第2ピーク抽出閾値は、S130にて使用する第1ピーク抽出閾値以上の値に設定される。また、監視対象周波数領域は、距離20〜80mに対応する周波数領域とする。
【0049】
S220では、S210にて監視対象ピークが抽出されたか否かを判断し、抽出されていなければ、そのまま本処理を終了し、抽出されていればS230に進む。
S230では、変調区間毎かつ受信チャンネル毎に、抽出した各監視対象ピークの電力値を算出する。なお、各変調区間には上り区間と下り区間とが存在するが、両区間の平均値またはいずれか一方の区間の値を用いる。
【0050】
S240では、変調区間毎に、S230で算出した電力値が最大となる受信チャンネル(以下「最大チャンネル」という)と、最小となる受信チャンネル(以下「最小チャンネル」という)とを抽出する。
【0051】
S250では、変調区間毎に、最大チャンネルに対する各受信チャンネルの電力値の偏差(以下「チャンネル偏差」という)を算出する。
S260では、変調区間毎に算出されたチャンネル偏差に基づいて、各受信チャンネルに対応付けられた前判定カウンタの値(前判定値)CPを更新する前判定値更新処理を実行する。
【0052】
この前判定値更新処理では、図6に示すように、まずS410にて、全て(即ち三つ)の変調区間でチャンネル偏差が候補閾値(本実施形態では、11dBm)以上となる受信チャンネル(以下「候補チャンネル」という)が存在するか否かを判断する。そして、候補チャンネルが一つも存在しなければ、そのままS430に進み、一方、候補チャンネルが一つでも存在すれば、S420にて、全ての候補チャンネルについて、その候補チャンネルに対応付けられた前判定カウンタのカウント値である前判定値CPをインクリメントしてS430に進む。
【0053】
S430では、いずれかの変調区間でチャンネル偏差が、候補閾値以下の値に設定された非候補閾値(本実施形態では、9dBm)未満となる受信チャンネル(以下「非候補チャンネル」という)が存在するか否かを判断する。そして、非候補チャンネルが一つも存在しなければ、そのまま本処理を終了し、非候補チャンネルが一つでも存在すれば、S440にて、全ての非候補チャンネルについて、その非候補チャンネルに対応付けられた前判定カウンタのカウント値である前判定値CPをリセットして本処理を終了する。
【0054】
つまり、前判定値更新処理により、候補チャンネルの前判定値CPはインクリメントされ、非候補チャンネルの前判定値CPはリセットされ、候補チャンネルでも非候補チャンネルでもない受信チャンネルの前判定値CPはそのまま保持される。
【0055】
図5に戻り、S270では、車速Vを取得し、続くS280では、取得した車速Vが下限車速Vth(本実施形態では10km/h)以上、かつ受信チャンネルの中に前判定値CPが予め設定された前判定閾値CPth(本実施形態では10)以上のものが存在するか否かを判断する。なお、前判定閾値CPthは、第2ピーク抽出閾値を小さく設定した場合には、それに応じて大きな値に設定することが望ましい。
【0056】
そして、S280にて肯定判断された場合は、S290にて、車速Vを用い(1)式に従って更新値Kを算出し、続くS300では、その更新値Kを用い(2)式に従って汚れ判定カウンタのカウント値(汚れ判定値)CDを更新する。
【0057】
K=V[km/h]/10 (1)
CD←CD+K (2)
S310では、汚れ判定値CDが予め設定された汚れ判定閾値CDth(本実施形態では100)以上であるか否かを判断し、否定判断された場合は、そのまま本処理を終了し、肯定判断された場合は、S320に進み、レーダ波の受信面に汚れが生じていることを表すダイアグ情報をONにして、本処理を終了する。
【0058】
先のS280にて否定判断された場合は、S330に移行して、変調区間毎に、最大チャンネルと最小チャンネルとの間の電力偏差(以下「最大最小偏差」という)を算出する。 そして、S340では、全ての変調区間で最大最小偏差が予め設定された解除閾値(本実施形態では7dB)以下となっているか否かを判断し、否定判断された場合、即ち、最大最小偏差が解除閾値より大きい変調区間が一つでも存在する場合は、そのまま本処理を終了し、肯定判断された場合、即ち、全ての変調区間で最大最小偏差が解除閾値以下となっている場合は、S350に進み、汚れ判定値CDをリセットし、続くS360にて、レーダ波の受信面に汚れが生じていることを表すダイアグ情報をOFFにして、本処理を終了する。
[動作例]
ここで、図7は、汚れ判定処理によって、最大チャンネル,候補チャンネル,前判定値CP及び汚れ判定値CDが変化する様子を、測定周期毎に例示した説明図である。
【0059】
図7に示すように、前判定では、一つまたは複数の候補チャンネルが抽出されると、その候補チャンネルの前判定値CPがそれぞれインクリメントされる。但し、図示しないが、非候補チャンネルが抽出されると、その非候補チャンネルの前判定値CPはリセットされ、候補チャンネルでも非候補チャンネルでもない受信チャンネルの前判定値CPはそのまま保持される。
【0060】
そして、いずれかの受信チャンネルで前判定値CPが前判定閾値CPth(=10)に達すると、汚れ判定値CDのカウントを開始する(10番目の測定周期参照)。
但し、図7では車速がV=100km/hである場合、即ち、更新値がK=10である場合を示す。
【0061】
汚れ判定値CDは、前判定値CPが前判定閾値CPth以上である受信チャンネルが一つでも存在していれば、更新値Kによってカウントアップされる。
そして、汚れ判定値CDが、汚れ判定閾値CDth(=100)に達すると(19番目の測定周期参照)、レーダ波の受信面に汚れが生じている(即ち、検出性能が低下している)ことを示すダイアグ情報をONにする。
【0062】
また、図示しないが、全変調区間で最大最初偏差が解除閾値以下となった場合は、直ちに、汚れ判定値CDをリセットすると共に、ダイアグ情報をOFFにする。
[効果]
以上説明したように、レーダセンサ3では、候補チャンネルの状態を監視(前判定値CPのカウント)する前判定期間を設け、この前判定期間にて、候補チャンネルである状態が一定期間以上継続している受信チャンネルが検出された場合に、汚れ判定のための監視(汚れ判定値CDのカウント)を開始するようにされている。
【0063】
しかも、レーダセンサ3では、測定周期の間に複数の変調区間を設け、各変調区間で算出されたチャンネル偏差が全て候補閾値以上となる受信チャンネルを候補チャンネルとすると共に、前判定期間では、受信チャンネル毎に前判定値CPをカウントするようにされている。
【0064】
従って、レーダセンサ3によれば、何等かの原因で一時的に受信強度が低下しているだけの受信チャンネルが候補チャンネルで有り続けること、更には、汚れ判定値CDのカウントが開始されてしまうことを防止でき、その結果、マルチパス等の影響による一時的な受信強度の低下を、受信面の汚れであると誤判定してしまうことを防止できる。
【0065】
また、レーダセンサ3によれば、汚れ判定値CDのカウントを、一つの受信チャンネルに固定するのではなく、前判定閾値CPが前判定閾値CPth以上となる受信チャンネルが一つでも存在する限り継続してカウントしているため、受信面上で汚れが移動しているような場合でも、これを確実に汚れとして判定することができる。
【0066】
更に、レーダセンサ3によれば、チャンネル偏差に基づいて複数の候補チャンネルを同時に抽出して監視しているため、受信面の汚れによる継続的な受信強度の低下と、マルチパス等による一時的な受信強度の低下とが同時に生じている場合でも、受信面の汚れの影響による受信強度の低下を見落とすことなく確実に監視することができ、汚れ判定の信頼性を向上させることができる。
【0067】
また、レーダセンサ3によれば、当該レーダセンサ3を搭載する車両の車速Vが早いほど大きな値となる更新値Kによって、汚れ判定値CDを更新するようにされているため、車速が早いほど、汚れであると判定されるまでの時間が短縮され、受信面の汚れを効率良く判定することができる。
【0068】
また更に、レーダセンサ3では、当該レーダセンサを搭載する車両の車速Vが予め設定された下限車速Vth未満である場合に、汚れ判定値CDの更新を行わないようにされているため、低速走行時(特に停車時)に、マルチパスの影響で誤判定が生じることを防止できる。
【0069】
また、レーダセンサ3では、受信チャンネル毎に受信信号の周波数スペクトルを算出した結果に基づき、監視対象周波数領域内に存在し、且つ、第2ピーク閾値を超える電力値を有した監視対象ピークの電力値を比較することによって、最大チャンネル,最小チャンネルを抽出するようにされている。従って、レーダセンサ3によれば、チャンネル偏差を精度よく求めることができ、判定の信頼性をより向上させることができる。
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0070】
例えば、上記実施形態では、変調区間毎に一つのピークについてチャンネル偏差や最大最小偏差を求めているが、変調区間毎に複数のピークについてチャンネル偏差や最大最小偏差を求めるように構成してもよい。
【0071】
この場合、例えば、全ての変調区間で一つ以上の監視対象ピークが抽出され、且つ監視対象ピークのそれぞれについて算出されるチャンネル偏差が全て候補判定閾値以上となる受信チャンネルを候補チャンネル、少なくとも一つの変調区間で監視対象ピークが抽出され、且つ監視対象ピークのそれぞれについて算出されるチャンネル偏差が一つでも非候補判定閾値未満となるものが存在する受信チャンネルを非候補チャンネルとすればよい。
【0072】
また、上記実施形態では、測定周期の間に変調区間を3つ設けているが、3つに限るものではなく、4つ以上設けたり、1つ又は2つ設けたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】発明が適用された車両制御システムの構成を示すブロック図。
【図2】レーダセンサの外観図。
【図3】レーダ波の送信タイミングを示す説明図。
【図4】レーダセンサの信号処理部が実行する周期処理の内容を示すフローチャート。
【図5】周期処理中で実行する部分汚れ検出処理の詳細を示すフローチャート。
【図6】部分汚れ検出処理中で実行する前判定値更新処理の詳細を示すフローチャート。
【図7】汚れ判定処理によって、最大チャンネル,候補チャンネル,前判定値,汚れ判定値が変化する様子を、測定周期毎に例示した説明図
【符号の説明】
【0074】
1…車両制御システム 3…レーダセンサ 3a…筐体 3b…アンテナ基板 3c…レドーム 10…発振器 12…増幅器 14…分配器 16…送信アンテナ 20…受信アンテナ部 21…受信スイッチ 22…増幅器 23…ミキサ 24…フィルタ 25…A/D変換器 26…信号処理部 30…車間制御ECU 32…エンジンECU 34…ブレーキECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信したレーダ波の反射波を、互いに異なるアンテナ素子で受信する複数の受信チャンネルを有したレーダセンサに用いられ、前記レーダ波を受信する受信面の汚れを判定する汚れ判定装置であって、
前記複数の受信チャンネルから受信信号が得られる毎に、前記受信チャンネルの中で前記受信信号の電力値が最大となるものを最大チャンネルとして抽出し、前記受信チャンネル毎に前記最大チャンネルとの電力値の偏差を算出する偏差算出手段と、
前記受信チャンネルのうち、前記偏差算出手段にて算出されるチャンネル偏差が予め設定された候補閾値以上となるものを候補チャンネル、前記偏差が前記候補閾値以下の値に設定された非候補閾値未満となるものを非候補チャンネルとし、前記候補チャンネルに対応付けられた前判定値をインクリメントすると共に、前記非候補チャンネルに対応付けられた前判定値をリセットする前判定値カウント手段と、
前記受信チャンネルのうち、前記前判定値が予め設定された前判定閾値以上となるものが一つでも存在する場合は、汚れ判定値を予め設定された更新値だけ増加させる汚れ判定値カウント手段と、
前記汚れ判定値が予め設定された汚れ判定閾値以上になった場合に、前記レーダセンサの受信面が汚れていると判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする汚れ判定装置。
【請求項2】
前記偏差算出手段は、予め設定された測定周期の間に前記チャンネル偏差を複数回算出し、
前記前判定値カウント手段は、前記受信チャンネルのうち、前記測定周期の間に算出された前記チャンネル偏差が全て前記候補閾値以上となるものを前記候補チャンネル、前記チャンネル偏差が一つでも前記非候補閾値未満となるものを前記非候補チャンネルとすることを特徴とする請求項1に記載の汚れ判定装置。
【請求項3】
前記レーダセンサを搭載する車両の車速を取得し、該車速が早いほど大きな値となる前記更新値を算出する更新値算出手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の汚れ判定装置。
【請求項4】
前記レーダセンサを搭載する車両の車速を取得し、該車速が予め設定された下限車速未満である場合に、前記判定値カウント手段による前記汚れ判定値のカウントを禁止する禁止手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の汚れ判定装置。
【請求項5】
前記偏差算出手段は、前記最大チャンネルを抽出する際には、前記受信チャンネル毎に前記受信信号の周波数スペクトルを算出した結果に基づき、予め設定された周波数範囲内に存在し、且つ、予め設定されたピーク閾値を超えるピークの電力値を比較することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の汚れ判定装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−192422(P2009−192422A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34770(P2008−34770)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】