説明

流体軸受装置およびこれを備えたスピンドルモータ、情報装置

【課題】外部から衝撃が加えられた場合でも潤滑流体の外部への漏れ出しを防止して、良好なシール性能を有する流体軸受装置およびこれを備えたスピンドルモータ、情報装置を提供する。
【解決手段】軸受部7は、シャフト1と、シャフト1が挿入される軸受孔2aを有するスリーブ2と、スリーブ2に形成された連通孔6と、シャフト1とスリーブ2等の間の隙間に充填される潤滑流体20と、潤滑流体20を軸受部7内に保持する内周シール部12と、連通路6と内周シール部12との間に形成された流動抑制壁部30と、を備えている。流動抑制壁部30は、連通孔6から流出してきた潤滑流体20の内周シール部12へと向かう流れを妨げて、円周方向へと分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(以下、HDDと示す。)等のように情報を記録もしくは再生する装置に搭載される流体軸受装置およびこれを備えたスピンドルモータ、情報装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、HDDはPCのみならず各種モバイル用途に展開され、小型化、薄型化の要求が一層高まってきている。それに伴って、HDDの主要な構成である流体軸受装置、スピンドルモータも小型化、薄型化とともに長寿命化を図る必要がある。
【0003】
このような薄型化と長寿命化の要求に応えるために、従来の流体軸受装置では、軸受部からの潤滑流体の漏れ出し防止のための軸受シール部の薄型化と、潤滑流体の供給量増加を可能とする構成が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、スリーブ上に設けられたカバー部材とシャフトとの間に第1の軸受シール部を構成し、さらにカバー部材とスリーブ外周面との間に第2の軸受シール部を構成した流体軸受装置が開示されている。ここでは、この第2の軸受シール部に通気孔を設けて潤滑流体の残量変化を第2の軸受シール部で吸収することで、従来よりも長寿命化を図るとともに、軸受シール部材の薄型化を図っている。
【0005】
また、特許文献2には、スリーブ上に設けられたカバー部材とシャフトとの間に第1の軸受シール部を構成し、さらにカバー部材とスリーブとの間のアキシャル方向空隙に円周方向にアキシャル方向隙間が変化するテーパ面を設けて第2の軸受シール部を構成した流体軸受装置が開示されている。ここでは、第2の軸受シール部で最も軸方向隙間が大きい領域に通気孔を設けて潤滑流体の残量変化を第2の軸受シール部で吸収することで、より長寿命化を図るとともに、軸受シール部材の薄型化を図っている。
【0006】
上記いずれの文献に開示された流体軸受装置も、軸受内部における潤滑流体の圧力不均一状態を解消するために、閉塞端側(軸受内部)と開口端側との間を連通する連通路を有しており、動圧発生溝で発生する動圧のバラツキを解消している。
【特許文献1】特開2006−162029号公報
【特許文献2】特開2006−161988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の構成では、流体軸受装置を搭載したHDDを誤って落下させてしまったり、HDDをPC内部に組み付けるときにぶつけたりして、スピンドルモータに外部から強い衝撃が加わった場合に、以下のような問題を生じさせるおそれがある。
【0008】
すなわち、ディスクなどが搭載されて質量が大きくなった回転体を支えるシャフト部材が、軸受孔内部において上下に激しく移動する。このとき、シャフト部材のスリーブ部材に対する相対的な位置が短時間で激しく変動するため、連通路を介して潤滑流体が急速に出入りして、連通路に近接した軸受シール部から潤滑流体が漏れ出してしまうおそれがある。
【0009】
ここで、以上のような、流体軸受装置に対して外部から衝撃等が加えられた際に潤滑流体が漏れ出す現象について、図面を用いて説明すれば以下の通りである。
図14(a)は、従来のスピンドルモータに搭載された流体軸受装置の横断面図である。ただし、ここでは、モータの上側にディスクが搭載された通常の姿勢とは逆向きの姿勢で図示している。シャフト401は、スラストフランジ3が固着されており、スリーブ402の軸受孔402a内に微小隙間を介して相対回転可能な状態で挿入されている。スリーブ402は、一端がスラストプレート404によって閉塞され、他端が開口している。
【0010】
なお、このシャフト部材とスリーブ部材との間に形成される微小隙間には、エステルオイルなどの潤滑流体420が保持されている。この軸受内に保持された潤滑流体420は、実質的に非圧縮性流体であると見なしてもよい。また、スリーブ402とシャフト401との間には、ラジアル動圧発生溝部(図示せず)が形成されている。さらに、スリーブ402またはスラストプレート404とスラストフランジ403との間にはスラスト動圧発生溝部(図示せず)が形成されている。これにより、回転側となるシャフト401が固定側となるスリーブ402に対して相対的に回転すると、シャフト401とスラストフランジ403とを含むシャフト部材は、スリーブ402とスラストプレート404とからなるスリーブ部材に対して非接触回転状態を維持する。
【0011】
さらに、スリーブ部材における閉塞端側と開放端側との間には、回転中の軸受内部の動圧力の不均一状態を解消するための連通孔406が形成されている。
また、通常の状態において、スリーブ部材に対してシャフト部材が磁気的吸引力によって一方向に付勢されるように、ロータマグネット(図示せず)とステータコア(図示せず)またはベース(図示せず)とが設けられている。したがって、自由落下状態にあっては、スラストフランジ403がスラストプレート404に付勢され、スラストフランジ403とスリーブ402との間にはΔZなるアキシャル方向遊びが形成される。
【0012】
ここで、スリーブ402の開放端側にはカバー405が設けられている。そして、シャフト401の外周面とカバー405の内周開口部405aとの間には、第1の軸受シール部が形成されている。また、カバー405とスリーブ402の間には、円周方向に沿って、軸方向隙間が変化するテーパ面が形成されている。そして、最大隙間部には通気孔413が形成されている。そして、このテーパ面は第2の軸受シール部を構成している。
【0013】
ここで、装置が図中下方向に落下して地面に衝突すると、図14(b)に示すように、先にスリーブ部材に対して制動力が加わる一方、シャフト部材には慣性力が働く。このため、スラストフランジ403がスラストプレート404から上記遊び量ΔZだけ浮き上がり、スラストフランジ403がスリーブ402に衝突する。このとき、軸受内に保持された潤滑流体は、体積一定状態を維持しようとするため、シャフト部材がΔZだけ浮き上がると、ΔV=π/4*Ds^2*ΔZに相当する体積ΔVの潤滑流体420が不足する。なお、Dsはシャフト401の外径である。この潤滑流体420の不足分は、通常の使用状態では、第2の軸受シール部において液面が一様に変動することで自動的に調整される。
【0014】
しかし、落下衝撃時のように、急激にシャフト部材のスリーブ部材に対する相対位置が変動した場合には、潤滑流体420はその粘性抵抗によってスラストフランジ403とスラストプレート404の間で必要な体積が移動できなくなる。この場合スラストフランジ403とスラストプレート404の間は負圧状態となってしまう。ここで通常状態では潤滑流体420には空気が溶け込んでいるが、気圧が下がると空気は溶け込むことが出来なくなる。その結果スラストフランジ403とスラストプレート404の間に気泡480が瞬時に発生する。この気泡480の体積はほぼΔVか若干少ない。この場合は第1、第2の軸受シール部での液面変動はわずかである。
【0015】
さらに、図14(b)の状態からサブミリ秒オーダの時間が経過すると、スリーブ2に衝突したスラストフランジ403は、その後跳ね返って、図14(c)に示すように、スラストプレート404に衝突する。その結果、シャフト部材は、スリーブ部材内部に再び急速に押し込まれることになる。しかしスラストフランジ403とスラストプレート404の間に発生した気泡480は再び潤滑流体420内に瞬時に溶け込むことは出来ない。その結果気泡480の体積の潤滑流体がもっとも粘性抵抗が小さい連通孔406を介して軸受外部に押し出される。このとき、図14(b)から図14(c)への変化も短時間で行われるため、ΔVに相当する液面変動は第1の軸受シール部において生じる。このとき、図14(b)の状態で気泡がすでに潤滑流体420内に混入している場合には、図14(c)の状態では、落下前の図14(a)の状態よりも液面が高くなる。したがって、第1の軸受シール部上において、連通孔406に最も近い領域近傍で潤滑流体が軸受シール部から漏れ出してしまうおそれがある。
【0016】
このような現象は、ディスク質量が小さくまた落下衝撃の値も1000G前後では問題にならないことが多いが、例えば、サーバ用途のHDDなどでディスクの厚みと枚数が大きくなり回転体の質量が大きくなると1000G以下でも生じ易くなる。
【0017】
このように、従来の流体軸受装置は、落下衝撃のように急激で大きな衝撃が加わった場合、連通路に出入りする潤滑流体が軸受シール部から漏れ出してしまうという不具合を発生させるおそれがある。
【0018】
本発明の課題は、外部から衝撃が加えられた場合でも潤滑流体の外部への漏れ出しを防止して、良好なシール性能を有する流体軸受装置およびこれを備えたスピンドルモータ、情報装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の発明に係る流体軸受装置は、シャフト部材と、スリーブ部材と、連通路と、潤滑流体と、軸受シール部と、流動抑制部と、を備えている。スリーブ部材は、軸方向において開口端と閉鎖端とを含む軸受孔を有し、軸受孔内にシャフト部材が微小間隙を介して回転可能な状態で挿入される。連通路は、スリーブ部材において、閉鎖端側の軸受内部空間と開口端側の軸受内部空間とを連通する。潤滑流体は、少なくとも微小空隙と連通路とに保持されている。軸受シール部は、スリーブ部材の開口側端面側であって、かつ連通路よりも内周側もしくは外周側に配置されており、潤滑流体の軸受外部への漏れ出しをシャフト部材との間に働く毛管力によって抑制する。流動抑制部は、軸受シール部と連通路との間に形成されており、連通路から移動してきた潤滑流体が軸受シール部に向かう方向への流動を抑制する。
【0020】
ここでは、連通孔を有するスリーブに形成された軸受孔内に挿入されたシャフト部材を、潤滑流体を介して回転保持する流体軸受装置において、スリーブに形成された連通路と軸受シール部との間の領域に、連通路から移動してきた潤滑流体の流れを妨げる流動抑制部を設けている。
【0021】
ここで、上記流動抑制部には、例えば、スリーブにおける軸受シール側の端面、あるいはその端面側に取り付けられたカバー部材におけるスリーブとの対向面に形成された凸状の部材が含まれる。また、流動抑制部は、連通路と軸受シール部とを結ぶ線上を完全に塞ぐ位置まで軸方向に延伸して形成されていてもよいし、軸方向において若干の隙間を保持した状態で形成されていてもよい。さらに、上記シャフト部材には、例えば、シャフト単品、シャフトとフランジとを組み合わせた構成、シャフトとロータハブとを組み合わせた構成が含まれる。また、上記スリーブ部材には、例えば、軸受スリーブ(インナースリーブ)だけでなく、スリーブホルダ(アウタースリーブ)や閉鎖端側に取り付けられるスラスト板等が含まれる。
【0022】
一般的に、流体軸受装置に対して衝撃や振動等が付与されると、スリーブに対してシャフトが相対的に軸方向に上下動する。このとき、シャフトのスリーブに対する相対的な位置が急激に変動することによって、一時的に隙間が広がる場所(例えばスラストフランジとスラストプレート等)において軸受内部が負圧状態になって気泡が発生する。そして気泡が発生した場所の隙間が再び狭くなると、気泡の体積に相当する潤滑流体が押し出される。その結果、押し出された潤滑流体が最も流動抵抗の低い連通路を経由して開放端側に形成された軸受シール部の方へと一気に流れ込む場合がある。このとき、連通路と軸受シール部との間の距離は比較的短いため、連通路から流れ出てきた潤滑流体がそのままの勢いで軸受シール部から外部へ漏れ出してしまうおそれがある。
【0023】
本発明の流体軸受装置では、以上のような流体軸受装置に対する衝撃や振動が加えられた場合における連通路を経由した軸受シール部から外部への潤滑流体の漏れ出しを抑制するために、連通路と軸受シール部との間の領域に、流動抑制部を設けている。
【0024】
これにより、流体軸受装置に対して外部から衝撃や振動等が加わった場合でも、連通路から軸受シール部の方向へ流れ出す潤滑流体の流れを、流動抑制部によって堰き止めて円周方向へと分散させることができる。この結果、連通路から直線的に軸受シール部へと流れる潤滑流体の流れを排除して、軸受シール部からの潤滑流体の漏れ出しを効果的に抑制して、耐衝撃性に優れた流体軸受装置を得ることができる。
【0025】
第2の発明に係る流体軸受装置は、第1の発明に係る流体軸受装置であって、流動抑制部は、連通路と軸受シール部との間に配置された凸状部である。
ここでは、流動抑制部として、例えば、スリーブにおける軸受シール側の端面、あるいはその端面側に取り付けられたカバー部材におけるスリーブとの対向面に形成された凸状部を用いている。
【0026】
これにより、流体軸受装置に対して衝撃等が加えられた際に連通路から流れ出した潤滑流体の軸受シール部へ向かう流れを、凸状部によって妨げることができる。この結果、凸状部という簡易な構成を付与するだけで、流体軸受装置に対して衝撃等が付与された際の軸受シール部からの潤滑流体の外部への漏れ出しを、効果的に防止することができる。
【0027】
第3の発明に係る流体軸受装置は、第1または第2の発明に係る流体軸受装置であって、流動抑制部は、連通路の近傍に配置されている。
ここでは、流動抑制部を、連通路と軸受シール部との間であって、連通路の近傍に設けている。
【0028】
これにより、衝撃等が付与された際において、連通路から流出してくる潤滑流体の流れを、連通路の近傍に配置された流動抑制部によって効率よく抑制することができる。また、流動抑制部を連通路近傍に設けることで、軸受シール部近傍における潤滑流体の挙動を妨げることを回避することもできる。この結果、潤滑流体の連通路から軸受シール部への流れを円周方向へ分散させるという流動抑制部を設けたことによる効果を一層高めつつ、軸受シール部の近傍における潤滑流体がスムーズに流れるようにして軸受部への悪影響を排除することができる。
【0029】
第4の発明に係る流体軸受装置は、第1から第3の発明のいずれか1つに係る流体軸受装置であって、流動抑制部は、平面視において、連通路における軸受シール部側の周囲を囲むように配置された略C字形状を有している。
【0030】
ここでは、流動抑制部として、例えば、スリーブにおける軸受シール側の端面、あるいはその端面側に取り付けられたカバー部材におけるスリーブとの対向面に形成された平面視において略C字形状に突出した部材を用いている。
【0031】
これにより、流体軸受装置に対して衝撃等が加えられた際に連通路から流れ出した潤滑流体の軸受シール部へ向かう急速かつ局部的な流れを、連通路の軸受シール部側の外周を取り囲むように形成された略C字形状の部材によって妨げることができる。この結果、流体軸受装置に対して衝撃等が付与された際の連通路から軸受シール部へ向かう潤滑流体の流れをより効果的に抑制して、軸受シール部からの潤滑流体の漏れ出しを防止することができる。
【0032】
第5の発明に係る流体軸受装置は、第1から第4の発明のいずれか1つに係る流体軸受装置であって、流動抑制部は、シャフト部材の回転軸を中心とする円の円周方向における端部に緩衝部を有している。
【0033】
ここでは、例えば、凸状部として形成された流動抑制部における円周方向における両端部を、テーパ状とする等、滑らかに形成している。
これにより、流体軸受装置へ衝撃等が付与された際において、連通路から流れ出した潤滑流体が流動抑制部にぶつかって左右に分散され、かつシャフトの回転等によって潤滑流体が円周方向に流れる場合でも、潤滑流体流における渦の発生を抑制することができる。この結果、潤滑流体中への気泡の混入を回避することで、潤滑流体の外部への漏れ出しをより効果的に抑制することができる。なお緩衝部は必ずしも両端に設けなくとも良く、シャフトの回転方向の前方側だけ、または後方側だけに配置したものでも良い。
【0034】
第6の発明に係る流体軸受装置は、第1から第5の発明のいずれか1つに係る流体軸受装置であって、流動抑制部は、連通路と軸受シール部とを最短距離で結ぶ方向の長さよりも円周方向における長さが大きい。
【0035】
ここでは、流動抑制部の円周方向における長さを、連通路と軸受シール部とを最短距離で結ぶ方向の長さとの比較によって特定している。
これにより、流動抑制部によって、連通孔から軸受シール部に向かう部分を十分に覆うとともに、円周方向における潤滑流体の流れる隙間を確保することができる。よって、軸受シール部の外形寸法を最小限としつつ、より効果的に潤滑流体の外部への漏れ出しを抑制することができる。
【0036】
第7の発明に係る流体軸受装置は、第1から第6の発明のいずれか1つに係る流体軸受装置であって、流動抑制部は、連通路と軸受シール部とを結ぶ2本の外接線の間隔よりも広い幅を有している。
【0037】
ここでは、流動抑制部を、円周方向において、連通路の外周と軸受シール部の外周とを結ぶ2本の外接線よりも長くなるように形成している。
これにより、連通路から流出した潤滑流体は、直線的に軸受シール部に向かうことなく、迂回して軸受シール部へと到達する。この結果、潤滑流体の液面変動によって潤滑流体の不足を補うことができるため、潤滑流体の漏れ出しをより効果的に抑制することができる。
【0038】
第8の発明に係る流体軸受装置は、第1から第7の発明のいずれか1つに係る流体軸受装置であって、流動抑制部に対してシャフト部材の回転軸を中心とする円の半径方向における連通路を挟んで反対側に、他の部分よりも隙間が大きい空間拡大部をさらに備えている。
【0039】
ここでは、流動抑制部の連通路を挟んで半径方向反対側には、潤滑流体が円周方向に流動が容易となるように構成された大空間である空間拡大部がさらに設けられている。
これにより、連通路から流出した潤滑流体を流動抵抗が低い空間拡大部側へと誘導することで、軸受シール部側に向かって潤滑流体が急激に流動することを抑制することができる。そして、連通路から流出した圧力が高い潤滑流体が、軸受シール部とは反対側に設けられた空間拡大部において一気に開放されるために、潤滑流体の漏れ出しを効果的に抑制することができる
【0040】
第9の発明に係る流体軸受装置は、第1の発明に係る流体軸受装置であって、流動抑制部は、連通路と軸受シール部との間に、連通路近傍の隙間よりも狭い流動隙間を介して配置された環状の凸状部である。
【0041】
ここでは、流動抑制部として、例えば、スリーブにおける軸受シール側の端面、あるいはその端面側に取り付けられたカバー部材におけるスリーブとの対向面に形成された環状の凸状部を用いている。
【0042】
これにより、流体軸受装置に対して衝撃等が加えられた際に連通路から流れ出した潤滑流体の軸受シール部へ向かう急激な流れを、環状の凸状部によって抑制できる。この結果、凸状部という簡易な構成を付与するだけで、流体軸受装置に対して衝撃等が付与された際の軸受シール部からの潤滑流体の外部への漏れ出しを、効果的に防止することができる。
【0043】
第10の発明に係るスピンドルモータは、第1から第9の発明のいずれか1つに係る流体軸受装置を搭載している。
ここでは、上述した流体軸受装置をスピンドルモータに搭載している。
【0044】
これにより、連通路から直線的に軸受シール部へと流れる潤滑流体の流れを排除して、軸受シール部からの潤滑流体の漏れ出しを効果的に抑制して、耐衝撃性に優れたスピンドルモータを得ることができる。
【0045】
第11の発明に係る情報装置は、第10の発明に係るスピンドルモータを搭載している。
ここでは、上述したスピンドルモータを、記録再生装置等の情報装置に搭載している。
【0046】
これにより、連通路から直線的に軸受シール部へと流れる潤滑流体の流れを排除して、軸受シール部からの潤滑流体の漏れ出しを効果的に抑制して、耐衝撃性に優れた情報装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る流体軸受装置によれば、連通路から直線的に軸受シール部へと流れる潤滑流体の流れを排除して、軸受シール部からの潤滑流体の漏れ出しを効果的に抑制して、耐衝撃性に優れた流体軸受装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明の一実施形態に係る軸受部(流体軸受装置)7を含むスピンドルモータ8を搭載したHDD(情報装置)9について、図1〜図3を用いて以下、説明する。
[HDD9全体の構成]
本実施形態に係るHDD9は、図1に示すように、内部に、複数の記録再生ヘッド(図示せず)を含んでおり、スピンドルモータ8を搭載している。そして、記録再生ヘッドによって記録ディスク(記録媒体)Dに対する情報の書き込み、あるいは既に書き込まれた情報の再生を行う。
【0049】
ディスクDは、HDD9に取り付けられる直径が、例えば、0.85インチ、1.0インチ、1.8インチ、2.5インチ、または3.5インチ等の円板状の記録媒体である。
スピンドルモータ8は、記録ディスクDを回転駆動するための回転駆動源となる装置であって、ロータマグネット17、ステータコイル18、ステータコア19、磁気シールド板Sおよび軸受部(流体軸受装置)7等を備えている。
【0050】
[スピンドルモータ8を構成する各部材の説明]
ロータマグネット17は、隣接する磁極がN極、S極と交互に配置された円環状の部材であって、例えば、Nd−Fe−B系樹脂マグネット等によって構成されており、ロータハブ16のマグネット保持部に対して装着されている。
【0051】
ステータコア19は、径方向に沿ってほぼ等角度間隔で配置された複数の突極部を有しており、この突極部に対してそれぞれステータコイル18が巻回される。そして、ステータコア19は、ステータコイル18に電流を流すことで発生する磁束を付与することで、内周側に対向配置されたロータマグネット17に対して回転力を付与する。
【0052】
磁気シールド板Sは、ステータコア19の上部を覆うように取り付けられており、外部への磁気漏れを防止するための、厚さ約0.1mmの磁性を有するステンレス鋼材である。
軸受部7は、スピンドルモータ8に含まれる流体軸受装置であって、スピンドルモータ8における中央部付近に配置されている。
【0053】
[軸受部7を構成する各部材の説明]
軸受部7は、図2に示すように、シャフト(シャフト部材、回転軸)1、スリーブ(スリーブ部材)2、スラストフランジ(シャフト部材)3、スラストプレート(スリーブ部材)4、ベース15、ロータハブ16を含むように構成されている。
【0054】
シャフト1は、軸受部7の回転軸となる部材であって、スリーブ2の軸受孔2a内に挿入されており、ステンレス鋼によって形成されている。
スリーブ2は、軸受孔2a内に挿入されたシャフト1およびスラストフランジ3を相対回転可能な状態で保持している。そして、スラストフランジ3におけるスラストプレート4との軸方向における対向面には、動圧を発生させるスラスト動圧発生溝(図示せず)が形成されており、スラストフランジ3とスラストプレート4との間にはスラスト動圧発生部が構成される。同様に、シャフト1とスリーブ2との半径方向対向面間には、動圧を発生させるラジアル動圧発生溝(図示せず)が形成されており、シャフト1とスリーブ2との間にはラジアル動圧発生部が構成される。そして、スリーブ2は、真鍮等の銅合金によって形成されており、表面には無電解ニッケルメッキが施されている。さらに、スリーブ2は、軸方向においてスラストプレート4側の閉鎖端2abと、その反対側の開口端2aaと、閉鎖端2ab側と開口端2aa側とを連通させる連通孔(連通路)6と、を有している。そして、スリーブ2の開口端2aa側には、スリーブ2の上端面との間に所定の隙間を形成するように、カバー5が取り付けられている。
【0055】
スラストフランジ3は、シャフト1に対して一体加工、あるいは圧入、接着または溶接によって固定されており、ステンレス鋼によって形成されている。そして、スラストフランジ3は、スリーブ2における大径孔部2acの部分に嵌め込まれる。
【0056】
スラストプレート4は、スリーブ2の軸方向における下端面に取り付けられており、スリーブ2の閉鎖端を形成する。
カバー5は、スリーブ2の上端面(開口端2aa側)を覆うように取り付けられた略円盤状の部材であって、中央部分にシャフト1が挿入される開口部分を有している。また、カバー5は、スリーブ2に形成された連通孔6に対して半径方向において反対側に、スリーブ2の上端面側へ貫通した通気孔13が形成されている。さらに、カバー5は、スリーブ2の開口端2aaに対向する内面側に、導入隙間部11と、流動抑制壁部(流動抑制部、凸状部)30と、を有している。なお、この流動抑制壁部30を含むカバー5の詳細な構成については、後段にて詳述する。
【0057】
ベース15は、磁性を有するステンレス鋼材または鋼板によって形成されており、無電解ニッケルメッキを施して形成されて、スピンドルモータ8の静止側の部分を構成している。また、ベース15は、その中心部分付近に、軸受部7が固定されている。なお2.5インチサイズ以上のHDDの場合、アルミダイカスト製のベースも用いられる。
【0058】
ロータハブ16は、磁性材料製のステンレス鋼によって形成されており、シャフト1の上端部に嵌合するように固定されてシャフト1と一体となって回転する。また、ロータハブ16は、シャフト1の上端部が挿入される中央孔と、ロータマグネット17が取り付けられるマグネット保持部と、記録ディスクDが載置されるディスク載置面と、を有している。
【0059】
本実施形態では、上述した構成部材のうち、スリーブ2の軸方向における開口端2aa側の端面とカバー5との間に形成される隙間部分であって、シャフト1の外周面側に、内周シール部(軸受シール部)12を形成している。これにより、通常時において、軸受部内に保持された潤滑流体20を毛管圧力によって軸受内部へと吸引することで、内周開口部5aから外部へと漏れ出してしまうことを防止している。
【0060】
(カバー5の構成)
カバー5は、図3(a)および図3(b)に示すように、スリーブ2の上端面に対して位相合わせをした後、当接部22において接着等によって接合されている。そして、カバー5におけるスリーブ2の開口端2aaと対向する面側に、導入隙間部11と、内周シール部12と、流体溜り空間部14と、流動抑制壁部30と、が形成される。
【0061】
導入隙間部11は、カバー5のスリーブ2と対向する内面と、スリーブ2の開口端2aa側の端面との間に形成されている。そして、導入隙間部11は、後述する流動抑制壁部30によって遮られた内周シール部12方向へ流れようとしていた潤滑流体20の流れを迂回させて、内周シール部12側へと導くための隙間を、周方向における流動抑制壁部30との間に形成する。
【0062】
内周シール部12は、スリーブ2の開口端2aa側であって、シャフト1の外周部分に沿って略円形に形成されており、毛管圧力によって軸受内に保持された潤滑流体20が軸受外へと流出してしまうことを防止している。
【0063】
なお、導入隙間部11および内周シール部12の軸方向におけるスリーブ2の端面との間の隙間は、約20〜100μm程度であればよい。
流体溜り空間部14は、通常時において、潤滑流体20を軸受内に保持するために、通気孔13付近の空間等を除く軸受空間に形成されている。導入隙間部11と内周シール部12以外の領域では、導入隙間部11や内周シール部12よりも大きな隙間空間を有するようにカバー5の内側に窪み部分を設ける。こうして潤滑流体20を貯留可能な流体溜まり空間部14が形成される。そして流体溜まり空間部14は、導入隙間部11と通気孔13とを周方向に連通する。ここで流体溜まり空間部14は通気孔13の近傍に最も大きな隙間を有する最大空間部14aを形成する。流体溜まり空間部14は連通孔6に向かってその隙間が小さくなるように形成されている。すなわちスリーブ2の上端面とカバー5の内側面との距離は連通孔6よりも最大空間部14aに向かって徐々に大きくなるように、スリーブ2の上端面とカバー5の内側面は周方向において相対的に傾斜している。
【0064】
流動抑制壁部30は、カバー5におけるスリーブ2の開口端2aaに対向する面から突出するように軸方向下向きに形成された凸状部であって、スリーブ2に形成された連通孔6の径方向内側の空間を覆うように形成されている。また、流動抑制壁部30は、連通孔6と内周シール部12との間の空間をほぼ塞ぐように立設されている。さらに、流動抑制壁部30は、平面視において、連通孔6における内周シール部12側を覆うように配置された略C字型の形状を有している。この略C字形状は、前壁部30aと一対の側壁部30bとによって構成されている。なお、流動抑制壁部30とスリーブ2の端面との隙間の大きさは、0μmであってもよいし、約50μm以下、より好ましくは約30μm以下、更に好ましくは10μm以下であることが望ましい。
【0065】
本実施形態のHDD9において、落下衝撃等が外部から加えられた場合、スリーブ2の軸受孔2a内に挿入されたシャフト1がスリーブ2に対して軸方向に相対的に移動する。このとき、シャフト1の相対位置が短時間で大きく変動すると、潤滑流体20内に気泡が発生または混入する場合がある。そして、その気泡が発生または混入した潤滑流体20が、流動抵抗が小さい連通孔6からスリーブ2の開口端2aa側に一気に流出する。ここで、流出した潤滑流体20は、連通孔6の近傍に形成された流動抑制壁部30に当たって内周シール部12側への流れを遮られ、円周方向へと迂回した後で内周シール部12の方へと流れ込む。
【0066】
これにより、連通孔6から内周シール部12に直接的に向かう潤滑流体20の急激な流動は抑制される。また、連通孔6から内周シール部12までは導入隙間部11によって通じているため、内周シール部12への潤滑流体20の供給が途切れることはない。
【0067】
[本軸受部7の特徴]
(1)
本実施形態に係る軸受部7は、図2に示すように、シャフト1と、シャフト1が挿入される軸受孔2aを有するスリーブ2と、スリーブ2に形成された連通孔6と、シャフト1とスリーブ2等の間の隙間に保持される潤滑流体20と、潤滑流体20を軸受部7内に保持する内周シール部12と、連通孔6と内周シール部12との間に形成された流動抑制壁部30と、を備えている。そして、流動抑制壁部30は、図3(a)および図3(b)に示すように、連通孔6から流出してきた潤滑流体20の内周シール部12へと向かう流れを妨げて、円周方向へと分散させる。
【0068】
これにより、外部から衝撃等が加えられてスリーブ2に対してシャフト1が相対的に急激に移動して、連通孔6から潤滑流体20が一気に流出した場合でも、連通孔6の近傍に配置された流動抑制壁部30によって、内周シール部12へと直接向かう潤滑流体20の流れを周方向へと分散させることができる。この結果、内周シール部12からの潤滑流体20の漏れ出しを効果的に抑制して耐衝撃性に優れた軸受部7を得ることができる。
【0069】
(2)
本実施形態に係る軸受部7では、図3(a)に示すように、カバー5におけるスリーブ2と対向する面に形成された凸状部を、流動抑制壁部30として用いている。
【0070】
これにより、比較的単純な形状の流動抑制壁部30によって、連通孔6から流出する潤滑流体20の流れをコントロールして、直接的に内周シール部12の方向へ向かうことを抑制することができる。この結果、外部から衝撃等が加えられた場合でも、連通孔6から一気に流出した潤滑流体20が内周シール部12から漏れ出してしまうことを効果的に防止することができる。
【0071】
(3)
本実施形態に係る軸受部7では、図3(b)等に示すように、流動抑制壁部30を連通孔6の近傍に設けている。
【0072】
これにより、衝撃等が加えられた際に連通孔6から潤滑流体20が流出した場合でも、その近傍に配置された流動抑制壁部30によって、内周シール部12側への流れを抑制することができる。そして、流動抑制壁部30を設けたことで、内周シール部12近傍における潤滑流体20の流れを抑制することはない。この結果、軸受部7における性能を低下させることなく、衝撃が加えられた際における内周シール部12からの潤滑流体20の漏れ出しを効果的に防止することができる。
【0073】
(4)
本実施形態に係る軸受部7は、図3(b)に示すように、平面視において略C字形状の部材を、流動抑制壁部30として用いている。そして、流動抑制壁部30は、径方向外側方向に略C字形状の開口が向くように配置されている。
【0074】
これにより、外部から衝撃が付与された際等において、連通孔6から潤滑流体20が流出した場合でも、連通孔6の内周シール部12側の外周部を取り囲むように略C字形状の流動抑制壁部30によって、内周シール部12側への直線的な流れを妨げることができる。この結果、連通孔6から流出した潤滑流体20による内周シール部12からの漏れ出しを効果的に防止して、耐衝撃性に優れた軸受部7を得ることができる。
【0075】
(5)
本実施形態に係るスピンドルモータ8は、図1に示すように、上述した軸受部7を流体軸受装置として搭載している。
【0076】
これにより、上述したように、落下衝撃等が加えられた場合でも、連通孔6から流出する潤滑流体20が、内周シール部12から漏れ出してしまうことを防止して、耐衝撃性に優れたスピンドルモータ8を得ることができる。
【0077】
(6)
本実施形態に係るHDD9は、図1に示すように、上述したスピンドルモータ8を搭載している。
【0078】
これにより、上述したように、落下衝撃等が加えられた場合でも、連通孔6から流出する潤滑流体20が、内周シール部12から漏れ出してしまうことを防止して、耐衝撃性に優れたHDD9を得ることができる。
【0079】
[他の実施形態]
以上、本発明の望ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0080】
(A)
上記実施形態では、連通孔6から流出した潤滑流体20の内周シール部12からの漏れ出しを抑制するために、連通孔6の近傍に、略C字形状の流動抑制壁部30を配置した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0081】
例えば、図4に示すように、平面視において略I字形状の前壁部30aのみを含む流動抑制壁部130を、連通孔6の内周シール部12側の近傍に配置してもよい。
ここで、流動抑制壁部130は、連通孔6の外周と内周シール部12の外周とを結ぶ2本の外接線Ltよりも周方向において幅が広くなるように形成されている。よって、連通孔6から流出した潤滑流体20が内周シール部12に直線的に到達することを確実に回避することができる。このとき、周方向に一旦迂回してから内周シール部12へと到達するために、内周シール部12まで到達するまでの距離が延長され、潤滑流体20が流動する際の粘性によって外部へと漏れ出そうとする勢いが減衰される。この結果、潤滑流体20の外部への漏れ出しを効果的に防止することができる。
【0082】
さらに、図4において、流動抑制部の円周方向における長さLaを、連通路と軸受シール部とを最短距離で結ぶ方向(図4においては半径方向)の長さLrよりも長くしている。これにより、流動抑制部によって、連通孔から軸受シール部に向かう部分を十分に覆うとともに、円周方向における潤滑流体の流れる隙間を確保することができる。よって、軸受シール部の外形寸法を最小限としつつ、より効果的に潤滑流体の外部への漏れ出しを抑制することができる。
【0083】
(B)
上記実施形態では、連通孔6の近傍に配置された流動抑制壁部30によって、連通孔6から流出した潤滑流体20が内周シール部12へと直接向かうことを回避した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0084】
例えば、図5(a)および図5(b)、図6に示すように、上述した流動抑制壁部30に加えて、連通孔6を挟んで流動抑制壁部30とは反対側(外周側)に、スリーブ2の上端面との間における軸方向の隙間が大きくなる空間拡大部33を設けてもよい。
【0085】
空間拡大部33は、図5(a)に示すように、カバー5におけるスリーブ2側の面に設けられた凹部によって形成されている。また、空間拡大部33は、図5(b)および図6に示すように、平面視において、スリーブ2における連通孔6の外周側の一部にかかるように形成されている。
【0086】
なお、ここでは、図5(a)、図6に示すように、空間拡大部33は、スリーブ2との軸方向隙間はほぼ一定となっており、空間拡大部33と流体溜り空間部14のテーパ面との接続部分は滑らかに接続されている。
【0087】
これにより、連通孔6から流出する潤滑流体20は、軸方向における隙間が大きい外周側に向かって流れようとするため、連通孔6の外周側において円周方向に向かう流動が形成される。この結果、より効果的に連通孔6から内周シール部12へと直接的に向かう流れを分散させて、潤滑流体20の外部への漏れ出しを防止することができる。
【0088】
(C)
上記実施形態では、連通孔6と内周シール部12との間における連通孔6の近傍領域に、流動抑制壁部30を配置した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0089】
例えば、図7(a)および図7(b)に示すように、内周シール部12寄りの位置に、流動抑制壁部140を設けてもよい。
このような構成では、内周シール部12近傍において潤滑流体20がシャフト1の回転に伴って旋回するので、流動抑制壁部140の回転位相方向における前後で渦やキャビティが発生するおそれがある。このため、本実施形態では、図7(a)および図7(b)に示すように、流動抑制壁部140の周方向における両端部分に、周方向外側に向かって下方傾斜して滑らかに立ち上がるテーパ接続部(緩衝部)140aを設けている。これにより、内周シール部12寄りに流動抑制壁部140を設けた場合でも、渦やキャビティの発生を防止して、潤滑流体20内への気泡の混入を防止することができる。なお、このテーパ接続部140aは、回転方向に対して一方側、例えば後方側だけに設けられていてもよい。
【0090】
また、図7(a)等に示す構成においても、上述したように、流動抑制壁部140は、平面視において、連通孔6の外周部と内周シール部12の外周部とを結ぶ2本の外接線Ltよりも周方向外側まで延伸していることが好ましい。これにより、連通孔6から流出する潤滑流体20が、内周シール部12から外部へ漏れ出してしまうことを防止することができる。
【0091】
(D)
上記実施形態(B)では、流動抑制壁部30とともに、連通孔6を挟んでその反対側に空間拡大部33を設けた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0092】
例えば、図8(a)および図8(b)に示すように、カバー105において、連通孔6とはシャフト1をはさんで反対側の位置に設けられた通気孔13に連通するように、カバー105の内面側に形成されたテーパ面29によって径方向外側に向かって隙間が大きくなる潤滑流体溜り空間部114を設けてもよい。
【0093】
すなわち、潤滑流体溜り空間部114は、内周から外周に向かって軸方向における隙間が大きくなるように形成され、かつ連通孔6から通気孔13まで周方向に連通している。さらに、通気孔13に向かって軸方向隙間が大きくなるように形成されている。また、潤滑流体溜り空間部114は、毛管現象が生じるように連通孔6側で最も狭くなっており、例えば、その寸法は0.04〜0.06mm程度である。なお、このような形状の潤滑流体溜り空間部114を形成するために、テーパ面29の形状は任意の形状を取り得るが、図8(a)に示すように、シャフト1の軸心に対して傾斜した傾斜軸29zを回転対称軸とする円錐形状としてもよい。
【0094】
ここで、カバー105のテーパ面29とスリーブ2の上端面との間の隙間は、ラジアル方向において外周に向かって徐々に大きくなり、スリーブ2の外周近傍では毛管現象が生じないような大きな寸法(例えば、0.15〜0.25mm程度)となっている。なお、この潤滑流体溜り空間部114は、例えば、内径3.2mm〜3.8mm、外径5.5mm〜6.3mm、最小隙間は0.03mm〜0.15mm、最大隙間は0.2mm〜0.3mm程度で形成されている。そして、通気孔13は、この直径が、例えば、0.2mm〜1.0mm程度である。この通気孔13が設けられている箇所には、座繰り穴により形成された緩衝空間としての凹部が形成されていてもよい。これにより、潤滑流体20が満量である状態で設置環境の温度上昇などがあった場合でも、潤滑流体20の界面が凹部内にとどまり、通気孔13から潤滑流体20が漏れ出すことを防止することができる。座繰り寸法としては、例えば、直径0.6mm〜1.2mm、深さ0.1mm〜0.3mm程度である。
【0095】
また、本実施形態においては、外気に連通する通気孔13は、カバー105を軸方向から見て、連通孔6に対してシャフト1の軸心を中心に180度反対側となる箇所に設けられている。なお、連通孔6と通気孔13とは、それぞれ1つずつ設けられているが、それぞれを複数設けられていてもよい。
【0096】
また、カバー105におけるシャフト1に対向する内周面としては、上方である開口側ほど広がり、下方ほど狭くなるように傾斜面に形成して内周開口部5aに潤滑流体20を留める構成となっている。このとき、潤滑流体20が蒸発するなどして減少し、潤滑流体溜り空間部114における潤滑流体20の液面の位置が変化した場合でも、この内周開口部5aにおける潤滑流体20の液面は、上記傾斜面内で移動する範囲で釣り合うように設計されている。
【0097】
ここで、ラジアル動圧発生溝の形状等によって下方へ移動した潤滑流体20は連通孔6を通って循環して上昇し、スリーブ2の上端面とカバー105との間の潤滑流体導入隙間に流入する。このとき、気泡を含んだ潤滑流体20が、気泡を含む潤滑流体20と気泡を含まない潤滑流体20とに分離される。
これにより、気泡が混入した潤滑流体20を、気泡を含むものと気泡を含まないものとで分離して気泡を排出することで、信頼性の高い流体軸受装置を得ることができる。
【0098】
(E)
上記実施形態では、カバー5におけるスリーブ2との対向面に、凸状に突出する流動抑制壁部30を設けた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0099】
例えば、図9(a)および図9(b)に示すように、スリーブ2におけるカバー5の内面側に形成された流動抑制壁部150との対向面に、凹部35を設けてもよい。
この場合には、この凹部35に対して入り込むように流動抑制壁部150を配置して、ラビリンス36を形成している。
【0100】
これにより、連通孔6から内周シール部12へ直接的に向かう潤滑流体20の流動を確実に抑制して、ラビリンス36を経由してから内周シール部12まで到達するため、内周シール部12からの潤滑流体20の漏れ出しを防止することができる。
【0101】
(F)
上記実施形態では、カバー5におけるスリーブ2の上端面に対向する面に、流動抑制壁部30を設けた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0102】
例えば、図10に示すように、スリーブ102の上端面から凸状に突出する流動抑制壁部160を設けてもよい。
この場合でも、連通孔6から流出した潤滑流体20が外部へと漏れ出してしまうことを防止して、耐衝撃性に優れた流体軸受装置を得ることができる。
【0103】
(G)
上記実施形態では、スリーブ2における開口端2aa側と閉鎖端2ab側とを連通させるように、連通孔6が形成されている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0104】
例えば、図11(a)および図11(b)に示すように、スリーブ302とスリーブホルダ303とによってスリーブ部材を構成し、シャフト1とロータハブ16とを含むようにシャフト部材を構成してもよい。
【0105】
この構成によれば、スリーブ302の外周には、Dカットまたは縦溝を設けてスリーブホルダ303との間で連通孔6を形成する。ここでは、軸受シール部は、ロータハブ16の内周円筒部とスリーブ部材(スリーブホルダ40)の外周部との間に構成される。そして、流動抑制壁部170は、連通孔6と軸受シール部との間に配設されて、連通孔6から流出した潤滑流体20の流出を防止することができる。
【0106】
(H)
上記実施形態では、軸回転型のスピンドルモータ8に搭載された流体軸受装置(軸受部7)を例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0107】
例えば、軸固定型のスピンドルモータに搭載される流体軸受装置に対して本発明を適用してもよい。
【0108】
(I)
上記実施形態では、ロータマグネット17とステータコア19を含む磁気回路部として、いわゆるインナーロータ型のスピンドルモータ8を例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0109】
例えば、アウターロータ型やアキシャルギャップ型のスピンドルモータに搭載される流体軸受装置に対して、本発明を適用してもよい。
【0110】
(J)
上記実施形態では、流体溜り空間部14がカバー5側に設けられている例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0111】
例えば、スリーブを焼結部材もしくは樹脂成形品として、スリーブ側に流体溜り空間部を設けるように金型を構成したものであってもよい。
流動抑制壁部も同様に、スリーブあるいはスリーブホルダ等に設けてもよい。この場合、連通路と流動抑制壁部との位相関係が金型の設計によって一意的に決定することができるため、組立時に両者の位相を合わせるための特別な手段を講じる必要が無くなり、製造上のコストも抑制することができる。
【0112】
(K)
上記実施形態では、連通孔6が、軸方向に沿って形成されている例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0113】
例えば、図11に示す構成において、スリーブ部材の開口端側における連通孔の開口部がスリーブ部材の外周部で半径方向外側に向かって開口していてもよい。なお、この場合には、連通孔の開口部と軸受シール部における潤滑流体の液面との間に流動抑制壁部を設けることで、上記と同様の効果を得ることができる。
【0114】
(L)
上記実施形態では、流動抑制壁部は連通孔近傍にのみ設けた例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0115】
例えば、図12または図13に示すように、連通孔6と内周シール部12との間に、連通孔6近傍の隙間よりも狭い流動隙間部181、281を介して環状流動抑制壁部180、280を配置してもよい。図12に示す例では、環状流動抑制壁部180はカバー5側に設けられている。一方、図13に示す例では、環状流動抑制壁部280はスリーブ2側に設けられている。連通孔6近傍の軸方向距離H1が例えば100μmの場合、この流動隙間部181、281の軸方向距離H2を10〜60μm程度にすれば、上記と同様の効果を得ることができる。なお10〜60μm程度の距離があれば、通常動作時において、連通孔6と軸受孔2aとの間で潤滑流体20の循環は阻害されない。
【0116】
またこの環状流動抑制壁部180、280の半径方向外側にテーパ部180a,280aを設けることで、気液境界面50の半径方向位置の変動を抑制できる。その結果、環状流動抑制壁部180、280の半径方向長さLが比較的小さくても気液境界面50が内周開口部5a側まで到達しないので、軸受内部に気泡が入り込むことをより効果的に抑制できる。
【0117】
(M)
なお、上記実施形態では、本発明に係る流体軸受装置が搭載されたスピンドルモータを含む情報装置としてHDD9を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0118】
例えば、光磁気ディスク装置、光ディスク装置、フロッピー(登録商標)ディスク装置、ビデオカセットレコーダやデータストリーマに用いられる回転ヘッド装置、レーザスキャナやレーザプリンタなどに用いられるポリゴンモータ装置等のような、他の情報装置に対しても、本発明の適用は当然に可能である。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明にかかる流体軸受装置は、外部から強い衝撃が加えられた場合でも、連通孔から流出する潤滑流体が軸受シール部から漏れ出してしまうことを防止できるという効果を奏することから、特に、モバイル用途や多数枚の固定ディスクを搭載するハードディスク等の内部に設けられており耐衝撃性が要求されるスピンドルモータに搭載される流体軸受装置に対して広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の一実施形態に係るHDD内部の構成を示す側断面図。
【図2】図1のHDDに搭載された流体軸受装置の内部の構成を示す側断面図。
【図3】(a)は、図2の流体軸受装置に含まれるカバーの構成を示す側断面図。(b)は、そのカバーの下側平面図。
【図4】本発明の他の実施形態に係る流体軸受装置に含まれるカバーの構成を示す下側平面図。
【図5】(a)は、本発明のさらに他の実施形態に係る流体軸受装置の構成を示す側断面図。(b)は、その流体軸受装置に含まれるカバーの構成を示す下側平面図。
【図6】本発明のさらに他の実施形態に係るカバーの構成を示す半断面斜視図。
【図7】(a)は、本発明のさらに他の実施形態に係るカバーの構成を示す下側平面図。(b)は、そのカバーの半断面斜視図。
【図8】(a)は、本発明のさらに他の実施形態に係る流体軸受装置の構成を示す側断面図。(b)は、その流体軸受装置に含まれるカバーの構成を示す下側平面図。
【図9】(a)は、本発明のさらに他の実施形態に係る流体軸受装置の構成を示す側断面図。(b)は、その流体軸受装置に含まれる流動抑制壁部の構成を示す詳細図。
【図10】本発明のさらに他の実施形態に係る流体軸受装置の構成を示す側断面図。
【図11】(a)は、本発明のさらに他の実施形態に係る流体軸受装置に含まれる内スリーブと外スリーブとを示す平面図。(b)は、その流体軸受装置の構成を示す側断面図。
【図12】本発明のさらに他の実施形態に係る流体軸受装置の内部の構成を示す側断面図。
【図13】本発明のさらに他の実施形態に係る流体軸受装置の内部の構成を示す側断面図。
【図14】(a)は、従来の流体軸受装置を下向きに落下させた際における流体軸受装置内の状態を示す側断面図。(b)は、ベース部が停止した瞬間における流体軸受装置内の状態を示す側断面図。(c)は、ロータ部がベース部に磁気吸引された瞬間における流体軸受装置内の状態を示す側断面図。
【符号の説明】
【0121】
1 シャフト(シャフト部材)
2 スリーブ(スリーブ部材)
2a 軸受孔
2aa 開口端
2ab 閉鎖端
2ac 大径孔部
2d 外周テーパ部
2e 上面テーパ部
3 スラストフランジ(シャフト部材)
4 スラストプレート(スリーブ部材)
5 カバー
5a 内周開口部
6 連通孔(連通路)
7 流体軸受装置
8 スピンドルモータ
9 HDD(情報装置)
10 動圧溝(スラスト流体軸受)
11 導入隙間部
12 内周シール部(軸受シール部)
13 通気孔
14 流体溜り空間部
15 ベース
16 ロータハブ
17 ロータマグネット
18 ステータコイル
19 ステータコア
20 潤滑流体
22 当接部
29 テーパ面
29z 傾斜軸
30 流動抑制壁部(流動抑制部、凸状部)
30a 前壁部
30b 側壁部
30c テーパ接続部(緩衝部)
33 空間拡大部
35 凹部
36 ラビリンス
40 スリーブホルダ
50 気液境界面
102 スリーブ(スリーブ部材)
105 カバー
114 潤滑流体溜り空間部
130 流動抑制壁部(流動抑制部、凸状部)
140 流動抑制壁部(流動抑制部、凸状部)
140a テーパ接続部(緩衝部)
150 流動抑制壁部(流動抑制部、凸状部)
160 流動抑制壁部(流動抑制部、凸状部)
170 流動抑制壁部(流動抑制部、凸状部)
302 スリーブ(スリーブ部材)
303 スリーブホルダ(スリーブ部材)
D 記録ディスク
S 磁気シールド板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト部材と、
軸方向において開口端と閉鎖端とを含む軸受孔を有し、前記軸受孔内に前記シャフト部材が微小間隙を介して回転可能な状態で挿入されるスリーブ部材と、
前記スリーブ部材において、前記閉鎖端側の軸受内部空間と前記開口端側の軸受内部空間とを連通する連通路と、
少なくとも前記微小空隙と前記連通路とに保持された潤滑流体と、
前記スリーブ部材の前記開口側端面側であって、かつ前記連通路よりも内周側もしくは外周側に配置されており、前記潤滑流体の軸受外部への漏れ出しを前記シャフト部材との間に働く毛管力によって抑制する軸受シール部と、
前記軸受シール部と前記連通路との間に形成されており、前記連通路から移動してきた前記潤滑流体が前記軸受シール部に向かう方向への流動を抑制する流動抑制部と、
を備えている流体軸受装置。
【請求項2】
前記流動抑制部は、前記連通路と前記軸受シール部との間に配置された凸状部である、
請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項3】
前記流動抑制部は、前記連通路の近傍に配置されている、
請求項1または2に記載の流体軸受装置。
【請求項4】
前記流動抑制部は、平面視において、前記連通路における前記軸受シール部側の周囲を囲むように配置された略C字形状を有している、
請求項1から3のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項5】
前記流動抑制部は、前記シャフト部材の回転軸を中心とする円の円周方向における端部に緩衝部を有している、
請求項1から4のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項6】
前記流動抑制部は、前記連通路と前記軸受シール部とを最短距離で結ぶ方向の長さよりも円周方向における長さが大きい、
請求項1から5のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項7】
前記流動抑制部は、前記連通路と前記軸受シール部とを結ぶ2本の外接線の間隔よりも広い幅を有している、
請求項1から6のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項8】
前記流動抑制部に対して前記シャフト部材の回転軸を中心とする円の半径方向における前記連通路を挟んで反対側に、他の部分よりも隙間が大きい空間拡大部をさらに備えている、
請求項1から7のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項9】
前記流動抑制部は、前記連通路と前記軸受シール部との間に、前記連通路近傍の隙間よりも狭い流動隙間を介して配置された環状の凸状部である、
請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の流体軸受装置を搭載したスピンドルモータ。
【請求項11】
請求項10に記載のスピンドルモータを搭載した情報装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−291995(P2008−291995A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113246(P2008−113246)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】