説明

海藻抽出物及びその製造方法

【課題】品質が改善された海藻抽出物、当該海藻抽出物を含有する飲食品、調味料又は飼料、及びそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】湿式加熱により海藻を膨潤させる工程、及び膨潤した海藻から有機溶媒又は含水有機溶媒により海藻抽出物を抽出する工程を包含する製造方法で得られる海藻抽出物及び該海藻抽出物の効率的な製造方法を提供する。前記海藻抽出物は、海藻の生理作用を保持し、海藻本来の香ばしい香りを持つため、飲食品、調味料、又は飼料等の素材として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質が改善された海藻抽出物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻には褐藻類、緑藻類、紅藻類などがある。このうち褐藻類には、コンブ、ワカメ、モズク、ヒジキ等、味も良く健康にも良いとされる海藻が多く、古くから人類の食物として大量に利用されてきた。これらの褐藻類は毎日かなりの量を摂取しても、みるべき障害がでないことから、食品としての安全性は極めて高い。また、褐藻類は中国においてがんの治療薬として使われ、多くの研究者が褐藻類から抗がん作用を示す物質を同定しようと試みてきた。例えば、海藻に含まれるフコイダンやその分解物には、ガン転移抑制作用、アポトーシス誘発作用、育毛作用、しわ改善作用、恒常性維持作用、血管新生抑制作用等があることが知られている(特許文献1〜6)。
【0003】
海藻は、食材や調味料のだしとして一般に多用されており、例えば、食用として根コンブを軽く水洗いし、水中に入れ12時間程抽出して、コンブのエキスが出たコンブ水として利用されている。またコンブだしを取るため、温水で煮て、旨味であるグルタミン酸に富むだしの調製に利用されている。しかしながら、海藻のエキスを水や温水で抽出した場合には、様々な生理活性が知られているフコイダンは効率よく抽出できない。この問題を解決するため、加圧熱水抽出によりオキナワモズクからフコイダンを抽出する方法も報告されているが、該方法により得られる抽出物は強い焦げ臭を放つため、そのままでは食品に用いるのに適さない。海藻抽出物の臭いの除去には、イオン交換樹脂処理や活性炭処理等が効果を示すことが知られている(特許文献7)が、これらの方法は、海藻の本来の香味成分も過度に除去され、着色の色彩も変化する。従って、手作りの海藻の水抽出物や煮出し汁の香味からかけ離れた品質、風味となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3714426号公報
【特許文献2】特許第3555766号公報
【特許文献3】特許第3831252号公報
【特許文献4】国際公開第02/06351号パンフレット
【特許文献5】国際公開第02/22141号パンフレット
【特許文献6】特開2007−008899号公報
【特許文献7】特開2000−109407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は海藻の生理作用を保持し、海藻本来の香ばしい香りを持つ海藻抽出物、及び当該抽出液の効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明を概説すれば、本発明の第一の発明は、湿式加熱により海藻を膨潤させる工程、及び膨潤した海藻から有機溶媒又は含水有機溶媒により海藻抽出物を抽出する工程を包含する製造方法で得られる海藻抽出物に関し、第一の発明の態様としては、105℃〜200℃の湿式加熱により海藻を膨潤させる工程、及び膨潤した海藻から有機溶媒又は含水有機溶媒により海藻抽出物を抽出する工程を包含する製造方法で得られる海藻抽出物が例示される。また、本発明の第一の発明の一態様として、フコイダンを含有してなる海藻抽出物が挙げられる。本発明の第一の発明においては、有機溶媒として水溶性有機溶媒が使用でき、その例としてはエタノールの使用が好ましい。膨潤した海藻と水溶性有機溶媒の比は、1:0.1〜0.1:10の重量比の範囲から選択することができる。また抽出時間は5分〜48時間の範囲から任意に選択することができる。本発明の第一の発明における含水有機溶媒としては、含水エタノールの使用が好ましい。含水エタノールのエタノール含量は、1〜60%(v/v)の範囲から選択することができる。本発明の第一の発明の好ましい態様としては、湿式加熱に際して海藻100重量部に対し50〜600重量部の水分が添加され、更に湿式過熱が105℃〜140℃において5分間〜32時間行われるものである海藻抽出物が挙げられる。
【0007】
また、本発明の第一の発明の海藻抽出物としては、海藻本来の香ばしい香りを持つ海藻抽出物が例示される。
【0008】
また、本発明によって、本発明の海藻抽出物を含有してなることを特徴とする飲食品、調味料、又は飼料等が提供される。
【0009】
本発明の第二の発明は本発明の第一の発明の海藻抽出物の製造方法に関し、湿式加熱により海藻を膨潤させる工程、及び膨潤した海藻から有機溶媒又は含水有機溶媒により海藻抽出物を抽出する工程を包含する製造方法に関する。第二の発明の態様としては、105℃〜200℃の湿式加熱により海藻を膨潤させる工程、及び膨潤した海藻から有機溶媒又は含水有機溶媒により海藻抽出物を抽出する工程を包含する製造方法が例示される。本発明の第二の発明の好ましい態様としては、湿式加熱に際して海藻100重量部に対し50〜600重量部の水分が添加され、更に湿式過熱が105℃〜140℃において5分間〜32時間行われるものである海藻抽出物の製造方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、海藻の生理活性を保持し、海藻本来の香ばしい香りを持つ海藻抽出物及びその効率的な製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の海藻抽出物は、105℃〜200℃の湿式加熱により海藻を膨潤させ、さらに膨潤した海藻から有機溶媒又は含水有機溶媒により海藻抽出物を抽出することによって得られる。
【0012】
本発明の海藻抽出物には、海藻の機能成分として知られる硫酸化フコース含有糖であるフコイダンが含まれ、その平均分子量は高速液体クロマトグラフィーで測定した際のプルラン換算で3000〜10000Daである。また、本発明の海藻抽出物のフコース含量は、0.7〜10g/Lである。
【0013】
本発明の海藻抽出物の原料となる海藻は、藻類であればどのようなものでもよく、例えばヒバマタ目、アミジグサ目、コンブ目、ケヤリモ目、クロガシラ目、ムチモ目、ウイキョウモ目、カヤモノリ目、ナガマツモ目、イソガワラ目、シオミドロ目等の褐藻類(Phaeophyta)、イギス目、マサゴシバリ目、ウミゾウメン目、スギノリ目、カクレイト目、ダルス目、テングサ目等の紅藻類(Rhodophyta)、ミル目、カサノリ目、アオサ目、イワズタ目等の緑藻類(Chlorophyta)等が挙げられる。特に褐藻類が好ましく、褐藻類を本発明に使用した場合、機能性成分であるフコイダンを含む海藻抽出物が得られ、さらに当該海藻抽出物よりフコイダンを高純度、高収率で得ることもできる。このうちコンブ目のコンブ科及びチガイソ科が特に好ましい。コンブ科としては、例えばマコンブ、リシリコンブ、ホソメコンブ、ミツイシコンブ、ガゴメなどを用いることができる。また、チガイソ科としては、例えばワカメ、ヒロメ、アオワカメなどを用いることができる。さらに、ワカメは葉状体とメカブ(胞子葉)のいずれか、もしくはいずれをも用いることができる。
【0014】
本発明の海藻抽出物の製造方法において海藻の膨潤は、105℃〜200℃の湿式加熱により行われ、より好適には105℃〜140℃の湿式加熱により行われる。湿式加熱方法は特に限定はなく、通常の方法に従って行えばよい。湿式加熱が加圧条件下で行われる場合の圧力は、ゲージ圧0.2〜15kgf/cmであり、より好適には0.2〜3kgf/cmである。原料となる海藻の形状は特に限定はないが、粉状、フレーク状、細片、角切り、薄片、又は原藻そのままで使用すればよい。また、水、エタノールもしくは含水エタノールによる洗浄等の前処理を施した海藻も原料として用いることができる。ここで洗浄に用いられる含水エタノールとしては40〜95%(v/v)含水エタノールが好ましい。また、洗浄等の前処理は単回もしくは複数回実施できる。
【0015】
湿式加熱時間は、特に限定するものではないが、5分〜32時間で行われることが好ましく、30分〜10時間で行われることがより好ましい。
【0016】
湿式加熱による海藻の膨潤の際には、水分、例えば精製水、イオン交換水もしくは水道水等の水や、塩化カルシウム等の塩類を含む水等を海藻に添加し、湿式加熱を実施することもできる。水分の添加量としては、海藻100重量部に対して10重量部〜1000重量部が好ましく、50〜600重量部がより好ましく、100〜300重量部が更により好ましい。なお、添加した水分の大部分は、膨潤の過程で海藻に吸収される。
【0017】
有機溶媒又は含水有機溶媒による抽出方法には特に限定はなく、操作性の観点から、公知の浸漬法、溶媒散布法、または溶媒循環法が好ましい。
【0018】
抽出に用いる有機溶媒としては、アルコールが好ましく、より好適にはエタノール及び1,3−ブチレングリコールが例示される。また、抽出に含水有機溶媒を用いる場合は、含水アルコールが好ましく、より好適には含水エタノール及び含水1,3−ブチレングリコールが例示される。含水有機溶媒の有機溶媒含量は、1〜60%(v/v)から選択可能であり、10〜50%(v/v)が特に好ましい。
【0019】
抽出に用いる有機溶媒又は含水有機溶媒の量としては、膨潤した海藻100重量部に対し、生産効率の観点から、好ましくは50〜800重量部であり、香味の観点から、より好ましくは100〜400重量部である。
【0020】
抽出により得られた海藻抽出物は濃縮して含有物の濃度を上昇させて使用することもでき、又は粉末化してもよい。更に、希釈して用いてもよい。
【0021】
抽出温度は、好ましくは0〜45℃であり、より好ましくは4〜40℃であり、特に好ましくは4〜35℃である。
【0022】
抽出時間は、生産効率の観点から、好ましくは5分間〜32時間、より好ましくは0.2〜24時間、さらに好ましくは0.5〜5時間である。また、抽出後のpHは5.5前後が保存と香味保持の上から好ましい。海藻からの抽出物を含む抽出液と抽出残渣との固液分離の方法に特に限定はないが、通常の濾別、遠心分離、もしくはこれらを組み合わせて実施することができる。また、抽出操作を籠状の金網中に原料を入れて実施し、抽出後、金網中の抽出残渣を回収して固液分離を行い、必要に応じてさらに通常の濾別や遠心分離を施して抽出残渣の除去を行うこともできる。固液分離後の抽出物は、低温下(好ましくは10℃以下0℃以上)で冷却し、可溶化している高分子成分を常法の柿渋及び滓下げ剤を用いて凝集、沈澱させ、濾過することにより、さらに清澄な液とすることができる。濾過は0.45μmφポアサイズメンブレンフィルターで無菌ろ過するのが好ましい。
【0023】
続いて、本発明の海藻抽出物を含有してなる本発明の飲食品、飼料又は調味料を説明する。本発明の飲食品、飼料又は調味料は、海藻本来の香ばしい香りを持つ。さらに、本発明の海藻抽出物に感受性を示す疾患、例えば後述の医薬の態様に記載された疾患の改善、予防に極めて有用である。
【0024】
なお、本発明の飲食品、飼料、又は調味料にいう「含有」の語は、含有、添加、希釈の意を含むものであり、含有とは飲食品または飼料中に本発明の海藻抽出物が含まれるという態様を、添加とは飲食品、飼料又は調味料の原料に、本発明の海藻抽出物を添加するという態様を、希釈とは本発明の海藻抽出物に、飲食品、飼料又は調味料の原料を添加するという態様をいうものである。
【0025】
本発明の飲食品又は調味料の製造法は、特に限定はないが、調理、加工及び一般に用いられている飲食品又は調味料の製造法による製造を挙げることができ、製造された飲食品又は調味料に本発明の海藻抽出物が含有、添加及び/又は希釈されていれば良い。本発明の飲食品における本発明の海藻抽出物の含有量は特に限定されず、その官能と作用発現の観点から適宜選択できるが、例えば、食品100重量部当たり好ましくは0.0001重量部以上、より好ましくは0.001〜80重量部であり、例えば、飲料100重量部当たり好ましくは0.0001重量部以上、より好ましくは0.001〜80重量部であり、例えば、調味料100重量部当たり好ましくは0.0001重量部以上、より好ましくは0.001〜100重量部である。
【0026】
また、本発明により、本発明の海藻抽出物を含有、添加及び/又は希釈してなる生物用の飼料が提供される。また、本発明の別の一態様として、本発明の海藻抽出物を生物に投与することを特徴とする生物の飼育方法が提供される。さらに本発明の別の一態様として、本発明の海藻抽出物を含有することを特徴とする生物飼育用剤が提供される。
【0027】
これらの発明において、生物とは例えば養殖動物、ペット動物等であり、養殖動物としては家畜、実験動物、家禽、魚類、甲殻類又は貝類が例示される。生物飼育用剤としては浸漬用剤、飼料添加剤、飲料用添加剤が例示される。本発明の飼料において、本発明で使用される海藻抽出物は通常、対象生物の体重1kg、1日当たり0.01〜2000mg投与される。投与は、例えば、当該海藻抽出物を、人工配合飼料の原料中に添加混合して調製した飼料を用いて行う、または人工配合飼料の粉末原料と混合した後、その他の原料とさらに添加混合して調製した飼料を用いて行うことができる。生物用の飼料中の本発明の海藻抽出物の含有量は特に限定はなく、目的に応じて設定すれば良いが、好ましくは0.001〜15重量%の割合が適当である。
【0028】
一方、同様に提供される化粧料は、有効成分として含有する海藻抽出物の生理作用、例えば、皮膚の保湿性や弾力性の向上作用、皮膚の老化防止作用、抗アレルギー作用等を有しており、当該化粧料によれば、しわの改善・予防、皮膚の弾力性向上・維持、皮膚肥厚改善・予防等の効果が期待できる。また、本発明の海藻抽出物にフコイダンが豊富に含まれることから、育毛用化粧品としての毛髪剤、育毛料、洗髪剤を提供できる。その製造方法及び使用態様は特に限定するものではないが、例えば、以下の態様を挙げることができる。
【0029】
当該化粧料における、本発明の海藻抽出物の含有量は、通常、好ましくは0.0001〜20重量%、より好ましくは0.001〜5重量%、更に好ましくは0.03〜3重量%である。
【0030】
また、その他の成分として、化粧料分野において公知の各種成分を所望により含有せしめることができる。かかる成分としては、例えば、ピロリドンカルボン酸塩、パームオイル等の保湿剤、流動パラフィン、ワセリン等の皮膚柔軟剤、ビタミンE等のビタミン類、プロピレングリコールモノステアレート、グリセロール等の界面活性剤、ステアリルアルコール等の乳化安定剤、防腐剤、顔料、抗酸化剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。これらの成分は、本発明の所望の効果の発現を阻害しない範囲で、所望により当該成分の効果が期待されうる量で含有させればよい。
【0031】
本発明の化粧料の形状としては、特に限定するものではなく、たとえば、ローション類、乳液類、クリーム類、パック類、浴用剤、洗顔剤、浴用石ケン、浴用洗剤、毛髪剤、育毛料、洗髪剤又は軟膏が好適である。
【0032】
当該化粧料は、本発明の海藻抽出物ならびに所望により前記その他の成分を原料として用い、化粧品分野における公知の方法に従って適宜製造することができる。また、化粧料の形状に応じ、適宜、所望の効果が得られるように使用すればよい。例えば、ローション類であれば、例えば、ヒトの顔面全体に適用するような場合、1回の使用当たり前記有効成分の量として、好ましくは0.001〜5g程度用いれば、肌に張りや艶を与え、美肌効果が得られうる。
【0033】
本発明の海藻抽出物を含有する医薬とは、当該海藻抽出物に感受性を示す疾患の治療剤又は予防剤として有用である。当該疾患としては、がん、肝機能障害、糖尿病、高脂血症などが挙げられる。
【0034】
本発明の医薬としては、本発明の海藻抽出物を有効成分とし、これを公知の医薬用担体と組合せて製剤化すれば良い。当該製剤の製造は一般的には、本発明の有効成分を薬学的に許容できる液状又は固体状の担体と配合し、所望により溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えて、錠剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、カプセル剤等の固形剤、通常液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤とすることができる。また、これを使用前に適当な担体の添加によって液状となし得る乾燥品や、外用剤とすることもできる。
【0035】
本発明の医薬は、適宜、製薬分野における公知の方法により製造することができる。該医薬における有効成分の含有量は、投与形態、投与方法等を考慮し、当該製剤を用いて好ましくは後述の投与量範囲で当該有効成分を投与できるような量であれば特に限定されるものではない。
【0036】
なお、本発明に使用する海藻抽出物は、その脱エタノール物のラットへの経口投与において2g/kgを経口単回投与しても死亡例は認められない。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例1
乾燥ガゴメ粉砕物20gを100mLの80%(v/v)エタノールで2回洗浄した後、60mLの蒸留水を添加し、オートクレーブ中で130℃、4時間処理して膨潤ガゴメ粉砕物を得た。得られた膨潤ガゴメ粉砕物に200mLの30%(v/v)エタノールを添加して室温で4時間攪拌した後、120メッシュ(Φ125μm)での濾過、濾紙濾過(No.2濾紙)を順次行い、海藻抽出物(本発明品)170mLを得た。なお、本発明品を室温(18℃)で3日間静置しても澱の発生は認められなかった。
【0039】
比較例
乾燥ガゴメ粉砕物20gを200mLの80%(v/v)エタノールで2回洗浄した後、200mLの蒸留水を添加した。これを室温で約10分間攪拌し、続いて95℃で1時間攪拌し、さらにオートクレーブ中130℃、4時間の条件で抽出液を抽出した。次に、得られた抽出液を100メッシュ(Φ75μm)でろ過した後、蒸留水を添加して140mLに調製した。この140mLのろ液を室温で攪拌しながら42mLの無水エタノールを添加し、さらに濾紙濾過(No.2濾紙)を行って海藻抽出物(対照品)170mLを得た。なお、対照品を室温(18℃)で3日間静置したところ、澱の発生が認められた。
【0040】
実施例2
比較例で得られた対照品と実施例1で得られた本発明品の臭いを比較したところ、対照品が強い焦げ臭を放っていたのに対して、本発明品は柔らかい昆布臭と香ばしい香りを呈していた。また、前記の実施例1及び比較例の通り、本発明品が澱の発生がない高品質な抽出物であったのに対し、対照品は保存中に澱が発生し、品質が不安定であった。これらのことから、本発明品は、飲食品、化粧料、及び医薬等の素材として使用感に優れていることが分かった。
【0041】
実施例3
比較例で得られた対照品と実施例1で得られた本発明品をそれぞれ20mLずつ蒸発乾固させた。その結果、対照品の蒸発残留分が0.682gであったのに対して、本発明品の蒸発残留分は0.731gであり、本発明品により多くの海藻由来成分が含まれていることが示された。
【0042】
実施例4
実施例1で得られた本発明の海藻抽出物中に含まれるフコイダンの平均分子量について、サイズ排除クロマトグラフィーよりプルランを標準物質として測定したところ、4900Daであった。また、本発明の海藻抽出物中のフコース濃度を測定したところ、1.48g/Lであった。このように、本発明の海藻抽出物は低分子化したフコイダンを豊富に含有しており、低分子化したフコイダンの生理活性を利用した種々の用途に適した素材となる。
【0043】
実施例5
実施例1記載の方法で調製した30%(v/v)エタノール抽出物を精製水で3倍に希釈したもの1重量部に対し、1gのパームオイル(花王社製:化粧品用)を1リットルのエタノールに溶解し調整したパームオイル溶液0.02重量部を攪拌しながら添加し、更に0.02重量部のグルセロールを添加し化粧水を調製した。本発明品を使用した化粧水は対照品を使用した化粧水に比べ、好適な使用感であるとの官能結果をえた。したがって本発明品は上質な化粧品原料となる。
【0044】
実施例6
実施例1記載の方法で調製した30%(v/v)エタノール抽出物のエタノールを減圧濃縮法で除去した後、その固形分1重量部に対してデキストリン(パインデックス#1、松谷化学工業株式会社)1重量部を添加し乾燥物を調製した。
【0045】
この乾燥物5gをかつおだしに味付けした吸い物(180mL)に添加したところ、本発明品の乾燥物を使用した吸い物は、対照品の乾燥物を使用した吸い物に比べ、柔らかい昆布臭と香ばしい香りをもち、上質の吸い物であるとの官能結果を得た。
したがって本発明品は高品質の飲食品原料となる。
【0046】
実施例7
市販の酢、醤油、みりんを1:1:1で合わせ、実施例6記載の乾燥物を5重量%となるように添加し、昆布風味合わせ酢を作成した。本発明の乾燥物を使用した合わせ酢には柔らかい昆布臭が付加され、良質の合わせ酢となった。
【0047】
実施例8
市販の食塩に、実施例6記載の乾燥物を10重量%となるように添加し、昆布風味合わせ塩を作成した。本発明の乾燥物を使用した合わせ塩には柔らかい昆布臭が付加され、良質の合わせ塩となった。
【0048】
実施例9
小麦粉(中力粉)95重量部に対して、実施例6記載の乾燥物5重量部、水45重量部、食塩5重量部の割合で混合し、粗捏ね、熟成、本捏ね、熟成の後、延ばし、包丁切、茹でを行い、うどんを調製した。本発明の乾燥物を使用した茹でうどんは、柔らかい昆布臭が付加され、風味の良い海鮮うどんとなった。
【0049】
実施例10
ふりかけとして、魚粉4.7kg、実施例6記載の乾燥物0.5kg、ごま2.5kg、食塩1.0kg、グルタミン酸ソーダ0.5kgを混合し、常法に従って造粒した。本発明の乾燥物を使用したふりかけは、柔らかい昆布臭及び香ばしい香りが引き立ち新鮮な風味のふりかけとなった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、海藻の生理作用を保持し、海藻本来の香ばしい香りを持つ海藻抽出物及びその効率的な製造方法が提供される。本発明の海藻抽出物は、飲食品、調味料、又は飼料等の素材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を包含する製造方法で得られる海藻抽出物;
(1)湿式加熱により海藻を膨潤させる工程、及び
(2)膨潤した海藻から有機溶媒又は含水有機溶媒により海藻抽出物を抽出する工程。
【請求項2】
有機溶媒が水溶性有機溶媒である請求項1記載の海藻抽出物。
【請求項3】
下記工程を包含する海藻抽出物の製造方法;
(1)湿式加熱により海藻を膨潤させる工程、及び
(2)膨潤した海藻から有機溶媒又は含水有機溶媒により海藻抽出物を抽出する工程。

【公開番号】特開2009−225791(P2009−225791A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43260(P2009−43260)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】