説明

液状組成物、その製造方法、低誘電率膜、研磨材および電子部品

高耐熱性低誘電率膜として知られるポーラス構造ダイヤモンド微粒子膜は、熱伝導性も高く、半導体集積回路素子の多層配線用絶縁膜として期待されているが、膜原料となるダイヤモンド微粒子液状組成物はコロイド安定性が悪く、膜製造において再現性、歩留まりが乏しかった。ダイヤモンド微粒子のコロイド状液状組成物に、少量のアミンを存在させると極めて低粘度且つ高い安定性を持たせることが可能となった。必要に応じて増粘剤で所望の粘度に調整すると、各種塗布装置が利用可能となる。これにより比誘電率2.5程度の低誘電率膜が得られた。また、この液状組成物は仕上げ用研磨材としても利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ダイヤモンド微粒子を分散させた液状組成物と、絶縁膜としてダイヤモンド微粒子からなるポーラス構造低誘電率薄膜と、この低誘電率薄膜を有する高集積度、高速動作型の半導体集積回路素子などの電子部品に関する。
【背景技術】
半導体集積回路素子のうち、特に超LSIデバイスでは、配線の微細化・高集積化に伴い、デバイス中に作られる配線を通る信号の遅延が、消費電力を低下させようという問題とともに大きな課題となっている。特に高速ロジックデバイスでは、配線の抵抗や分布容量によるRC遅延が最大の課題となっており、中でも分布容量を小さくするために、配線間の絶縁材料に低誘電率の材料を用いることが必要とされている。
従来、半導体集積回路内の絶縁膜としては、シリカ膜(SiO)、酸化タンタル膜(Ta)、酸化アルミニウム膜(Al)、窒化珪素膜(Si)などが使用され、特に多層配線間の絶縁材料として、窒化珪素膜、有機物やフッ素を添加したシリカ膜が低誘電率膜として使用され、或いは、検討されている。また、さらなる低誘電率化のための絶縁膜として、フッ素樹脂、発泡性有機シリカ膜を焼成したシリカ膜、シリカ微粒子を堆積したポーラスシリカ膜などが検討されている。
ここで、従来、低誘電率として知られている材料を次表に列挙する。
材料名 比誘電率
シリカ(プラズマCVD法) 4.2〜5.0
フッ素添加シリカ 3.7

ダイヤモンド 5.68
ポーラスシリカ 1.5〜2.5
ポーラスダイヤモンド 2.1〜2.72
ポリイミド 3.0〜3.5
ポリテトラフルオロエチレン 1.9
空気 1.0
前述のように、さらなる集積度の向上のために、フッ素添加シリカの比誘電率3.7を下まわる材料を得るために種々研究がなされている。シリカ膜は、それ自体は電気陰性度の高い酸素と珪素の2種類の元素からなるため、配向分極が残り低誘電率膜としては不十分であることから、発泡法あるいは微粒子によるポーラスシリカが検討されている。しかし、これらは強度が不十分で実用化には至っていない。また、フッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレンは、十分な比誘電率を有するものの、半導体製造工程における空気中での要求耐熱性400゜C以上という過酷な条件が満たされないため使用することが出来ない。ポリイミドは耐熱性樹脂ではあるが、400℃以上では炭化してしまい、やはり使用することが出来ない。
他方、ダイヤモンドは熱伝導度や機械的強度が、他の材料より優れているため、集積度が高く発熱量の多い半導体デバイスには、放熱に好適な材料として、近年、研究されている。例えば、特開平6−97671号公報には、スパッタ法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法などの製膜法により、厚さ5μmのダイヤモンド膜が提案されている。また、特開平9−263488号公報では、ダイヤモンド微粒子を基板上に散布し、これを核にCVD(化学蒸着堆積)法により炭素を供給してダイヤモンド結晶を成長させる製膜法を提案している。
本発明者らは、すでに特開2002−110870号公報に提示したように、ポーラス構造のダイヤモンド微粒子膜によって比誘電率2.72を得た。また、特開平2002−289604号公報では、ヘキサクロロジシロキサン処理によりダイヤモンド微粒子間を架橋結合させて強化する方法を提案したが、この処理によっても、同等な比誘電率が得られることを示した。さらに本発明者らは、ダイヤモンド微粒子を精製することにより、比誘電率2.1が得られることを学会で発表している(第50回応用物理学関係連合講演会要旨集N0.2,p193(2003))。
【発明の開示】
本発明者らは、前述のように十分な比誘電率と強度の低誘電率膜を得たが、さらに研究を進めると、基板に塗布する前のダイヤモンド微粒子水性液状組成物の濃度が一定であるにもかかわらずコロイド状態が不安定であり、長時間放置するとゼリー状にゲル化したり、沈殿もしくは層分離を生じたりするため、ポーラス構造の安定した厚さの膜が得られなかった。特開平9−25110号公報には、このコロイド状態の不安定さについては触れていないが、硫酸や硝酸などで精製処理することによって親水性ダイヤモンド微粒子が得られるのは、粒子表面に水酸基が生成しているからであると説明し、分散媒として水やアルコールを提案している。しかし、本発明者らがダイヤモンド微粒子水性液状組成物にエチルアルコールを添加したところ、粘度は低下したがゲル化現象は解決できなかった。
元来、爆発法で製造されたダイヤモンド微粒子粗原料は、不純物として非晶性炭素やグラファイトを含有しているため、本発明者らは、濃硫酸や濃硝酸で酸化精製して不純物を除去している。本発明者らは、この研究の過程で、処理後、十分水洗した後であってもPHは2.0から4.5の酸性を示し、ダイヤモンド微粒子が濃硝酸、硝酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、過酸化水素、濃硫酸などの精製剤で処理されると、その表面には、ヒドロキシル基のみならずカルボキシ基を生成し、また濃硫酸で処理されると、これらに加えてさらにスルホ基が生成することを見出した。
そこで本発明者らは、ダイヤモンド微粒子と水性分散媒とからなる液状組成物に、アミン性物質を添加すると、粘度が劇的に低下し、数週間放置してもゲル化、沈殿および層分離もせず安定なコロイド状態が持続することを見出し、本発明に至った。
本発明によって、アミン性物質を含むダイヤモンド微粒子液状組成物はゲル化及び沈殿を生ずることもなく、安定した低い粘度を維持することができ、パイプ輸送も可能になり、塗布装置としてあらゆる型式のものが利用できるため、低誘電率膜を有する半導体集積回路素子などの工業化にむけて大きな前進をすることができた。
また、本発明のアミン性物質を含むダイヤモンド微粒子液状組成物は半導体ウエハの表面研磨用など工業用研磨材として使用することができ、特にダイヤモンド微粒子を分散させた液状研磨剤の他、強力紙や基布にバインダーと共に塗布した研磨紙、研磨布、砥石状に固めた研磨部品などに応用して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のダイヤモンド微粒子液状組成物と比較例のダイヤモンド微粒子液状組成物との、粘度−回転数の関係を示すグラフである。
図2は、本発明の液状組成物の分散質粒子径分布を示すグラフである。
図3は、本発明の他の実施例である液状組成物の分散質粒子径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明で用いるアミン性物質は、粗ダイヤモンドを酸化精製した後の酸性分散液のpHを上昇させる作用を示す、分散媒に可溶性の物質であれば特に限定されない。
液状組成物を半導体素子用の絶縁膜形成用途に使用する場合には、アミン性物質を使用することが好ましく、金属水酸化物はコンタミネーションの観点から好ましくない。一方、液状組成物を研磨材用途に使用する場合にも、アミン性物質が好ましい。
アミン性物質は、アミン構造を有する有機、無機化合物であり、アンモニア、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、N−モノアルキルアミノエタノール、N,N−ジアルキルアミノエタノール、アニリン、N−モノアルキルアニリン、N,N−ジアルキルアニリン、モルホリン、N−アルキルモルホリン(前記アルキル基はC〜C12)、モノ(アルキル置換フェニル)アミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、ベンジルアミン、N−モノアルキルベンジルアミン、N,N−ジアルキルベンジルアミン、N−アルキルジフェニルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、アルキル置換ピリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドを例示できる。 アミン性物質が揮発性である場合には、加熱処理により揮散させることができ、絶縁膜に残存する事もないため悪影響を及ぼす事もない。
これらアミン性物質のうち、沸点が50℃以上、300℃以下、好ましくは50℃以上、200℃以下のアミンが好ましい。なぜなら、ダイヤモンド微粒子表面のカルボキシ基、スルホ基と造塩しているアミン性物質が、室温で液状組成物から揮散する事がなく、成膜後、分散媒とともに加熱によって揮散させることが好ましいからである。
液状組成物におけるアミン性物質の添加量は、ダイヤモンド微粒子の粒子径及びアミン性物質の種類により異なるが、ダイヤモンド微粒子100重量部に対して、1重量部以上が好ましく,2重量部以上が更に好ましい。また、アミン性物質の添加量は、200重量部以下が好ましく、50重量部以下が更に好ましい。具体的には、実施例に記載する。
分散液中におけるダイヤモンド微粒子の量は、分散液全体を100重量%としたときに、1重量%以上が好ましく、2重量%以上が更に好ましい。また、分散液中におけるダイヤモンド微粒子の量は、分散液全体を100重量%としたときに、50重量%以下が好ましく、20重量%以下が更に好ましい。
本発明のダイヤモンド微粒子液状組成物は、分散媒として、水、メタノール、エタノール、n(またはiso)−プロパノール、n(またはiso、sec、あるいはtert)−ブタノール、アセトン、ベンゼン、トルエン、o(または/及びm、p)−キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ガソリン、灯油、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどからなる群から選ばれる少なくとも1種を単独または数種を混合して用いることができる。これらのうち、ダイヤモンド微粒子表面のカルボキシ基、スルホ基とイオン反応させるために、水、水溶性分散媒および水と水溶性分散媒との混合物がもっとも好適である。水溶性分散媒としては、メタノールやエタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなど親水性有機分散媒を例示できる。他方、本発明では、ダイヤモンド微粒子に前記アミン性物質のうち特定のものを選んで添加すると親油性となり有機系分散媒にも良好に分散する。
ダイヤモンド微粒子は、その精製工程の前または/及び後、または/及びダイヤモンドコロイド作成前に一次粒子に分散させる事ができる。この分散方法としては、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ビーズミルなど公知の装置を使用することができる。また、分散剤として公知のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、各種消胞剤を使用することができる。勿論、本発明で用いるアルカリ性物質を用いてもよい。ただし、薄膜化して電子材料として利用する場合は、金属イオンを含有しない物質を用いる事が好ましい。
ダイヤモンド微粒子を一次粒子に分散させる場合、未精製ダイヤモンドを酸処理にて(少しでも)精製し、その後上記公知の装置にて本発明で用いるアルカリ性物質を添加して分散させ、再度酸処理にて精製を行うことが望ましい。この手順によって得られたダイヤモンド微粒子を分散媒に分散させると粒子径が小さく、かつ非常に安定に分散したダイヤモンドコロイド溶液を得ることが出来る。尚、ダイヤモンド微粒子を精製した後一旦乾燥する場合がある。この際の乾燥方法は、通常の加熱乾燥してもよいが、微粒子の凝結を防ぐために常温での風乾法や凍結乾燥法が好ましい。また、完全に乾燥させるのではなく、一定濃度のペースト状に留めて次工程に送ることもできる。
本発明のダイヤモンド微粒子液状組成物は、前記のアルカリ性物質添加により粘度が低くなっているため、用途によっては粘度を調節するために、ダイヤモンド微粒子濃度を調整してもよいし、増粘材を添加して調節してもよい。増粘材としては、水性分散媒中ではポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルローズ、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸共重合体加水分解物、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体加水分解物など、また、油性分散培中ではポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸エステルなどを用いる事ができる。これらの中ではポリエチレングリコールが好ましく、その分子量は200から1000万の範囲のものが使用できる。
本発明では、粘度が安定し且つ任意の粘度が得られるため、液状組成物の塗布装置としてあらゆる型式、例えばスピン塗布装置、スプレー塗布装置、バーコータ、ナイフコータ、インクジェット塗布装置などが使用できるようになった。また、ゲル化することがないため液状組成物のパイプ輸送も可能である。
本発明に用いる原料ダイヤモンド微粒子は、電子顕微鏡写真による測定で、一次粒子径が1nmから50nmの固体粒子であり、好ましくは2nmから20nmの粒子である。また、ダイヤモンド純度は95%以上に精製されている事が好ましく、不純物としてはグラファイトや非晶質炭素が少量含まれていてもよい。
一般にこのようなナノメートル単位の微粒子は、コロイド液状に分散させても容易に一次粒子には分散せず、数百nmから数千nmに凝集した分散質を形成している。本発明では、前記アルカリ性物質、特にアミン性物質の存在下において、公知のボールミルやビーズミルによる分散操作により、ダイヤモンド微粒子分散質の数千nmの平均粒子径を数nmから数十nmに低下させ、コロイド安定性をもたらす事ができたのである。特に硫酸を含む処理のより、ダイヤモンド微粒子表面にスルホ基を生成させた場合、その効果は顕著であった。
前記本発明のダイヤモンド微粒子液状組成物は、基板上に塗布して、空隙を有するダイヤモンド微粒子低誘電率膜を製造する事ができる。空隙率は、40%から70%である事が好ましい。塗布後、この膜はヘキサクロロジシロキサンなどで強化してもよい。また、この低誘電率膜は電気的特性を向上させるために、バリウム塩などの水溶液で処理し、ダイヤモンド微粒子表面にあるカルボキシ基やスルホ基を不溶化してもよい。
本発明のダイヤモンド微粒子膜は、空隙を有しているため、当然その表面は粗であるから、表面緻密化を行う事ができる。そのためには、SOG(Spin on Glass)法、SG(Silicate Glass)膜法、BPSG(ホウ素燐SG)膜法、プラズマCVD法など公知の方法を用いる事ができる。
本発明は、前記ダイヤモンド微粒子低誘電率膜を有する半導体集積回路素子を含む。即ち、回路を描画した単結晶シリコン基板や、導電膜や回路を描画したガラス基板に、前記液状組成物を塗布して絶縁膜を形成させ、所望の処理を公知の方法を利用して、高集積度、高速動作型の半導体集積回路素子などの電子部品を、製造することができる。この他、本発明の低誘電率膜を有する一般の半導体素子やマイクロマシン、コンデンサなどの電子部品であってもよい。
また、半導体ウエハの表面研磨用など工業用液状研磨剤として安定した粘度特性を要求される用途への展開も可能となった。尚、工業用液状研磨剤には、アミン性物質とともに、残留しても問題とならない苛性ソーダ、苛性カリウム、水酸化リチウムなどアルカリ金属や、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属などのアルカリ性物質を使用することができる。これらの金属水酸化物は揮発性がない。従って、本発明の液状組成物の塗膜や成形物を乾燥させると、分散媒は揮発するが、研磨材の主成分(ダイヤモンド粒子)に加えて金属水酸化物が研磨材中に残留する。むろん、アルカリ性物質として、揮発性のアミン性物質のみを使用する場合には、研磨材にはアルカリ性物質は実質的に残留しない。また、本発明の液状組成物または研磨材は、公知のCMP法(Chemical Mechanical Polishing)に使用するために、シュウ酸などの研磨促進剤を含んでもよい。
【実施例】
以下に本発明の実施例を記すが、本発明は実施例にのみ限定されるものではない。
[実施例1]
<原料ダイヤモンドの精製>
爆発法で製造した市販のクラスタダイヤモンド(電子顕微鏡法平均粒子径:5nm、ラマンスペクトル法測定:ダイヤモンド80%、グラファイト6%、非晶質炭素約10%、炭素一重結合成分4%)0.6gを10%濃硝酸−濃硫酸55mlとともに石英製フラスコに入れ、300から310℃で2時間煮沸した。室温に冷却した後、多量の水を加えて遠心分離しそれに続くデカンテーションを繰り返して、PHが3を超えるまで精製し、これを凍結真空乾燥して精製ダイヤモンド微粒子とした。これの純度を測定したところ、ダイヤモンド96.5%、グラファイト1.5%、非晶質炭素約0%、炭素一重結合成分2.5%であった。
<液状組成物の調製>
石英製ビーカに、精製ダイヤモンド微粒子5重量%となるように水とともに仕込み、ポリエチレングリコール600を1重量%となるように添加し、超音波水槽にそのビーカを浸して2時間かけて十分分散させて粘稠な分散液を得た。これに、0.1重量%のジメチルアミノエタノールを添加してよく攪拌しE型粘度計(東京計器製、25.0℃)で、10rpmから100rpmまで回転数を上昇させて粘度を測定したところ、図1の三角印ラインのように1から1.5mPa・secとほぼ一定であった。逆に、高い回転数から下げながら測定したところ、同じラインに乗り、変化は見られず、1ケ月放置しても低粘度のままであった。この低粘度液状組成物を、市販のインクジェットプリンタ(セイコー・エプソン社製、MJ−1000V2型)にて塗布することができた。なお、ダイヤモンド粒子100重量部に対するアミン性物質の量は2.0重量部である。
(比較例1)
前記のジメチルアミノエタノール添加前の液状組成物を、E型粘度計(東京計器製、25.0℃)で、回転数を変えて粘度を測定したところ、図1の菱形ラインに示すように、0.5rpmで300mPa・secと高く、20rpmでは15mPa・sec、100rpmで8mPa・secと低下した。次に、逆に回転数を下げて行くと、図1の白丸形ラインのように、低回転数ほど粘度が高くなったが、先ほどより低い粘度を示した。この液状組成物を室温で2日間静置したところ、寒天状にゲル化していたが、容器を激しく振ると流動するようになった。
[実施例2]
石英製ビーカに0.6重量%のジメチルアミノエタノール水溶液をそれぞれ用意し、実施例1で得た精製ダイヤモンド微粒子濃度が10重量%となるように精製ダイヤモンド微粒子を加え超音波水槽に2時間浸して、水溶液中に精製ダイヤモンド微粒子を分散させてコロイド液を得、このコロイド液を数日間放置する。この液状組成物はゲル化することはなく、また層分離や沈殿を生じることもなく均一に分散した。なお、ダイヤモンド粒子100重量部に対するアミン性物質の量は6重量部である。
[実施例3]
実施例2において0.6重量%のジメチルアミノエタノール水溶液に換えて、2.0重量%のアミノエタノール水溶液を使用してコロイド液を作成し、放置した。このコロイド液はゲル化することはなく、また、層分離、沈殿も生ぜず均一に分散していた。ダイヤモンド粒子100重量部に対するアミン性物質の量は20重量部である。
[実施例4]
ボールミル(Irie Shokai Co. Ltd)の容器に、実施例1で得た精製ダイヤモンド微粒子(グラファイト含有率1.2%)2.27gと純水25.14gとジエチルアミノエタノール0.25gと酸化ジルコニウムボール39.75gを入れ、72時間分散させる。使用したボールは0.5mm径である。分散後のダイヤモンド微粒子液状組成物は黒色の液体で、その分散質の平均粒径は78.4nm(大塚電子株式会社製レーザーゼータ電位計ELS−8000で粒子径測定)であり、ゲル化、沈殿および層分離はまったく発生しない安定した液状組成物を得た。この液状組成物は、市販のインクジェットプリンタ(セイコー・エプソン社製、MJ−1000V2型)にて塗布することができた。ダイヤモンド粒子100重量部に対するアミン性物質の量は11重量部である。
[実施例5]
実施例4において、精製ダイヤモンドに換えて市販の粗ダイヤモンド粉末(グラファイト含有率7.0%)2.69gと純水29.43gとジエチルアミノエタノール0.26gと酸化ジルコニウムボール39.89gを入れ、72時間分散させる。分散後のダイヤモンド微粒子コロイド液はゲル化、沈殿および層分離はまったく発生しない安定した分散液を得たが、分散質の平均粒径は344nm(上記測定器)であった。ダイヤモンド粒子100重量部に対するアミン性物質の量は9.7重量部である。
[実施例6]
実施例1において、ポリエチレングリコール600に代えて、分子量50万のポリエチレングリコールを液状組成物に対して1%添加したところ、粘度は回転数に関らず10mPa・secでほぼ一定で、スピン塗布機で1500rpm回転速度にて塗布し、乾燥して300℃で1時間ホットプレートを使用し焼成した。その後常温でヘキサクロロジシロキサン蒸気処理し300℃で1時間ホットプレートを使用し焼成した。塗布膜は干渉色があり、膜厚は510nmでほぼ均一で、比誘電率は2.5であった。
[実施例7]
原料として直径1〜3μmのダイヤモンド微粒子粉末を用いた他は実施例1と同様にして酸化精製処理、精製、水洗してPH3.5の分散液を得、乾燥した。この精製ダイヤモンド微粒子1重量部と、バインダーとしてフェノール樹脂1重量部と、溶剤としてメチルイソブチルケトン10重量部とをボールミルでよく混合してダイヤモンド微粒子液状組成物を得た。ついでこれを綿基布上にバーコータでウェット塗布厚80μmに塗布し80℃で加熱乾燥し、樹脂を架橋させた。得られたダイヤモンド微粒子膜状物が塗布された基布は、ガラスや金属の表面仕上げ用研磨布として有用であった。
[実施例8]
実施例1の方法で精製したダイヤモンド微粒子を5重量%、ジメチルアミノエタノール0.5重量%となるように、0.05mmジルコニア製ビーズとともにビーズミル(コトブキ技研製)に仕込み、75分間解砕処理した。図3にビーズミル処理前(破線)及び後(実線)の粒子径分布を示す。この処理により凝集してピーク値2700nmであったダイヤモンド微粒子は、電子顕微鏡観察の一次粒子径に近いピーク値7nmの粒子径に解砕された。
(比較例2)
実施例1の方法で精製したダイヤモンド微粒子を5重量%含有させて超音波分散した灰色の液状組成物に、市販の非イオン系界面活性剤(エマルゲン120、花王(株)製)を前記組成物に対して5重量%添加し、十分に攪拌混合した。この組成物の粘度挙動を実施例1と同様に測定したところ、0.5rpmで60mPa・sec、20rpmでは10mPa・sec、100rpmで5mPa・secと、比較例1よりは粘度が低下したが、チクソトロピックな粘度挙動は変わらず、数日間放置すると寒天状にゲル化し、安定したコロイド液にはならなかった。
(比較例3)
実施例1の原料ダイヤモンド微粒子が5.8重量%、陰イオン界面活性剤(MX−2045L:ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物アンモニウム塩、花王(株)製)が1.23重量%になる様に水と共に、直径2mmのジルコニア製ボールの入ったボールミルに仕込み48時間解砕処理した。得られたこの液状混合物を取り出し3曰間放置したところ、沈殿物が多量に発生し二層に分離し、安定なコロイド状液状組成物は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明では、工業上きわめて重要な、低粘度で且つ安定した粘度のダイヤモンド微粒子液状組成物を得ることができ、各種の塗布装置で塗布して均一なダイヤモンド微粒子膜が形成されることを見出した。この膜は、酎熱性及び熱伝導性に優れた無機質低誘電率膜で、比誘電率は2.5というきわめて低い値を実現した。これにより、多層配線半導体素子や半導体キャパシタばかりでなく、高性能コンデンサなどの高性能電子部品の製造が可能となった。また、液状組成物として、あるいは基布などに塗布して、研磨材としても利用できる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともダイヤモンド微粒子、分散媒、およびアミン性物質を含有していることを特徴とする液状組成物。
【請求項2】
前記アミン性物質の沸点が50℃以上、300℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載の液状組成物。
【請求項3】
前記分散媒が水、水溶性分散媒、または水と水溶性分散媒との混合物であることを特徴とする請求項1または2記載の液状組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の液状組成物を塗布して得られる、ダイヤモンド微粒子からなる低誘電率膜。
【請求項5】
請求項4記載の低誘電率膜を絶縁体として有する電子部品。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載の液状組成物から得られる、ダイヤモンド微粒子を含む研磨材。
【請求項7】
粗ダイヤモンド微粒子を、精製剤を含む溶液中で加熱処理した後、水洗し、アミン性物質の存在下に分散処理することを特徴とするダイヤモンド微粒子液状組成物の製造方法。
【請求項8】
前記精製剤が硫酸を含むことを特徴とする、請求項7記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/038897
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514898(P2005−514898)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015973
【国際出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(591213232)ローツェ株式会社 (33)
【出願人】(591040292)大研化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】