説明

漏電検出装置

【課題】インバータの作動音低減のためにキャリア周波数を変動させる制御が適用される電動車両において、漏電検出を正常に実行する。
【解決手段】インバータ制御部280は、通常時には、キャリア周波数を変動させるランダムキャリアを適用して、インバータ210,220を動作させる。制御回路310は、漏電検出を実行するときには、インバータ210,220でのキャリア周波数を固定するようにインバータ制御部280に指示する。制御回路310は、前回の漏電検出から所定期間が経過すると、車両の発生音が小さい状態、すなわち、インバータ210,220の作動音がユーザに感知され易い車両状態であるかどうかを判断する。そして、車両の発生音が小さい状態ではないときに、漏電検出装置300により漏電検出を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、漏電検出装置に関し、より特定的には、電動車両に搭載された漏電検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両に搭載された高圧電源と車体間に設けられた絶縁抵抗の低下を検出するための漏電検出装置が知られている。たとえば、特開2003−219551号公報(特許文献1)には、バッテリからの直流電力をインバータ回路によりモータの駆動に適した三相交流電圧に変換する駆動システムを搭載する車両に用いられる漏電検出装置の構成が記載されている。
【0003】
また、特許文献1に記載されたような駆動用モータの制御に用いられるインバータ回路では、パルス幅変調制御(PWM制御)が一般的に適用される。そして、駆動用モータでは比較的大電流が使用されるため、インバータのスイッチングによる作動音が、騒音としてユーザに感知される虞がある。
【0004】
特開2007−020320号公報(特許文献2)には、ユーザにインバータの作動音を聞こえ難くするために、キャリア周波数を変化させることが記載される。特許文献2によれば、PWMパルスの周波数を決めるキャリア周波数を、任意のキャリア周波数を中心として所定周波数範囲だけ周期的もしくはランダムに変動させる。さらに、特許文献2では、このキャリア周波数の変動幅を、電動機電流値もしくは周波数指令値より変更することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−219551号公報
【特許文献2】特開2007−020320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1にも示されるように、漏電検出装置では、カップリングコンデンサを介して絶縁抵抗に印加される所定周波数の電圧パルス信号が発生される。そして、カップリングコンデンサとの接続点において、電圧パルス信号の振幅が低下するか否かによって、漏電抵抗の低下が検出される。
【0007】
したがって、特許文献2に記載されたようなインバータのキャリア周波数を変動させる制御と、特許文献1に記載された漏電検出装置による漏電検出とが同時に実行される場合には、キャリア周波数の変化が、漏電検出装置の電圧パルス信号へ影響を及ぼすことが懸念される。特に、絶縁抵抗の低下を検出できなかったり、誤って低下を検出すること、すなわち漏電検出が正常に実行できなくなることが懸念される。
【0008】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、インバータの作動音低減のためにキャリア周波数を変動させる制御が適用される電動車両において、漏電検出を正常に実行することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によれば、複数のインバータを備えた電動車両に搭載された漏電検出装置は、カップリングコンデンサと、カップリングコンデンサを介して、電動車両の絶縁抵抗と直列に接続される検出抵抗と、パルス発生手段と、電圧検出手段と、漏電検出の実行を制御するための制御手段とを備える。パルス発生手段は、漏電検出の実行時に、絶縁抵抗、カップリングコンデンサおよび検出抵抗を含んで構成される直列回路に所定周波数のパルス信号を印加する。電圧検出手段は、カップリングコンデンサおよび検出抵抗の接続点電圧を検出する。制御手段は、複数のインバータの作動音を低下させるためにそれぞれのキャリア周波数を変動させるキャリア周波数制御が必要な車両状態であるか否かを判定するための手段と、キャリア周波数制御が不要な車両状態であると判定されたときに、各インバータに対してキャリア周波数を固定する指示を発するとともに漏電検出を実行するための手段と、漏電検出の実行時に接続点電圧の所定周波数の電圧成分に基づいて絶縁抵抗が低下しているか否かを判定するための手段とを含む。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、インバータの作動音低減のためにキャリア周波数を変動させる制御が適用される電動車両において、漏電検出装置に特別な構成を設けることなく、漏電検出を正常に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態による漏電検出装置が搭載される電動車両の一例として示されるハイブリッド車の概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車におけるエンジンおよびモータジェネレータ間の回転速度の関係を示す共線図である。
【図3】図1のハイブリッド車における高電圧の電気システムの構成を示すブロック図である。
【図4】各インバータでのキャリア周波数制御を説明する概念図である。
【図5】図4に示したキャリア周波数制御による効果を説明する概念図である。
【図6】本発明の実施の形態による漏電検出装置による漏電検出動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照し詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。

図1は、本発明の実施の形態による漏電検出装置が搭載される電動車両の一例として示されるハイブリッド車の概略構成図である。なお、電動車両は、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車等の、電気エネルギによる車両駆動力発生源(代表的にはモータ)を備えた車両を総称するものとする。
【0013】
図1を参照して、ハイブリッド車は、エンジン100と、第1モータジェネレータ110(以下、単に「MG1」とも称する)と、第2モータジェネレータ120(以下、単に「MG2」とも称する)と、動力分割機構130と、減速機140と、バッテリ150とを備える。
【0014】
図1に示すハイブリッド車は、エンジン100およびMG2のうちの少なくとも一方からの駆動力により走行する。エンジン100、MG1およびMG2は、動力分割機構130を介して接続されている。エンジン100が発生する動力は、動力分割機構130により、2経路に分割される。一方は減速機140を介して前輪190を駆動する経路である。もう一方は、MG1を駆動させて発電する経路である。
【0015】
MG1およびMG2の各々は、代表的には三相の交流回転電機である。MG1は、動力分割機構130により分割されたエンジン100の動力により発電する。MG1により発電された電力は、車両の走行状態や、バッテリ150のSOC(State Of Charge)に応じて使い分けられる。たとえば、通常走行時では、MG1により発電された電力はそのままMG2を駆動させる電力となる。一方、バッテリ150のSOCが予め定められた値よりも低い場合、MG1により発電された電力は、後述するインバータにより交流から直流に変換される。その後、後述するコンバータにより電圧が調整されてバッテリ150に蓄えられる。
【0016】
MG1が発電機として作用している場合、MG1は負のトルクを発生している。ここで、負のトルクとは、エンジン100の負荷となるようなトルクをいう。MG1が電力の供給を受けてモータとして作用している場合、MG1は正のトルクを発生する。ここで、正のトルクとは、エンジン100の負荷とならないようなトルク、すなわち、エンジン100の回転をアシストするようなトルクをいう。なお、MG2についても同様である。
【0017】
MG2は、代表的には三相交流回転電機である。MG2は、バッテリ150に蓄えられた電力およびMG1により発電された電力のうちの少なくとも一方の電力により駆動する。
【0018】
MG2の駆動力は、減速機140を介して前輪190に伝えられる。これにより、MG2はエンジン100をアシストしたり、MG2からの駆動力により車両を走行させたりする。なお、前輪190の代わりにもしくは加えて後輪を駆動するようにしてもよい。
【0019】
ハイブリッド車の回生制動時には、減速機140を介して前輪190によりMG2が駆動され、MG2が発電機として作動する。これによりMG2は、制動エネルギを電力に変換する回生ブレーキとして作動する。MG2により発電された電力は、バッテリ150に蓄えられる。
【0020】
動力分割機構130は、サンギヤと、ピニオンギヤと、キャリアと、リングギヤとを含む遊星歯車から構成される。ピニオンギヤは、サンギヤおよびリングギヤと係合する。キャリアは、ピニオンギヤが自転可能であるように支持する。サンギヤはMG1の回転軸に連結される。キャリアはエンジン100のクランクシャフトに連結される。リングギヤはMG2の回転軸および減速機140に連結される。
【0021】
エンジン100、MG1およびMG2が、遊星歯車からなる動力分割機構130を介して連結されることで、エンジン100、MG1およびMG2の回転速度は、図2に示すように、共線図において直線で結ばれる関係になる。
【0022】
図1に戻って、バッテリ150は、複数の二次電池セルにより構成された組電池である。バッテリ150の電圧は、たとえば200V程度である。バッテリ150には、MG1およびMG2が発電した電力の他、車両の外部電源から供給される電力によって充電されてもよい。
【0023】
エンジン100、MG1およびMG2は、ECU(Electronic Control Unit)170により制御される。なお、ECU170は複数のECUに分割するようにしてもよい。
【0024】
ECU170は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵した電子制御ユニットにより構成され、当該メモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、各センサによる検出値を用いた演算処理を行なうように構成される。あるいは、ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0025】
図1に示されるハイブリッド車5は、バッテリ150の電力によって、モータジェネレータMG1,MG2を駆動する電気システムを有する。モータ駆動に用いられるバッテリ150は、200V程度の高電圧であるので、他の電気系と十分に絶縁される必要がある。万一、アース(車体)との間の絶縁抵抗が低下したときにも、漏電の発生を確実に検出することが安全上重要である。
【0026】
図3は、図1のハイブリッド車における高電圧の電気システムの構成を示すブロック図である。
【0027】
図3を参照して、バッテリ150には高圧回路系200が接続される。高圧回路系200は、コンバータ205と、MG1,MG2をそれぞれ回転駆動するためのインバータ210,220と、インバータ210,220の動作を制御するためのインバータ制御部280とを含む。インバータ制御部280は、図1に示したECU170のうちの、インバータ制御に関する機能部分に相当する。
【0028】
コンバータ205は、内蔵する電力用半導体スイッチング素子(図示せず)によるスイッチング動作により、バッテリ150の出力電圧Vbを直流電圧変換して、直流電圧VHを出力する。コンバータ205は、直流電圧VHを電圧指令値に従って制御する。インバータ210,220は、内蔵する電力用半導体スイッチング素子(図示せず)によるスイッチング動作により、コンバータ205からの直流電圧VHを交流電圧に変換してMG1,MG2に供給する。このとき、MG1,MG2は正トルクを出力する。
【0029】
一方、MG1,MG2が負トルクを出力して発電する場合には、インバータ210,220は、MG1,MG2が発電した交流電圧を直流電圧に変換して、コンバータ205に対して出力する。コンバータ205は、直流電圧VHの制御を通じた直流電圧変換によって、インバータ210,220からの直流電圧によってバッテリ150を充電する。
【0030】
漏電検出装置300は、バッテリ150および高圧回路系200のアース30に対する絶縁抵抗Riの低下を検出する。アース30は、ハイブリッド車5の車体に対応する。絶縁抵抗Riは、図3に例示したように、バッテリ150の負極(高圧回路系200のグランドに相当)と、アース(車体)30との間の抵抗値で等価的に示される。アース30と、高圧回路系200のグランとの間、すなわち、図3での絶縁抵抗Riと並列に、コモンモードコンデンサ(図示せず)が配置されてもよい。
【0031】
漏電検出装置300は、制御回路310と、電圧検出器320と、パルス発生器360と、検出抵抗370と、カップリングコンデンサ380と、バンドパスフィルタ390と、過電圧保護用ダイオード391,392とを含む。
【0032】
パルス発生器360は、所定周波数(所定周期Tp)のパルス信号365を発生する。検出抵抗370は、パルス発生器360およびノードN1の間に接続される。カップリングコンデンサ380は、漏電検出対象となるバッテリ150とノードN1との間に接続される。バンドパスフィルタ390は、ノードN1およびノードN2の間に接続される。バンドパスフィルタ390の通過帯域周波数は、パルス信号365の周波数に合わせて設計される。
【0033】
ノードN2に接続された過電圧保護用ダイオード391,392は、サージ電圧(高電圧,負電圧)を除去する。電圧検出器320は、所定のサンプリング周期TsによりノードN2の電圧を検出する。パルス信号365に応答したノードN2の周期的な電圧変化を検出可能するために、電圧検出器320のサンプリング周期Tsは、パルス信号365の周期Tpよりも十分短く設定される。これにより、パルス信号周期に対応したパルス電圧周期内での最大電圧(ピーク電圧)、最小電圧等を検知できる。なお、電圧検出器320にパルス発生器360からのパルス信号365を入力して、パルス信号365との同期を考慮してノードN2の電圧サンプリングタイミングを設定することによって、最大電圧(ピーク電圧)、最小電圧等を検知してもよい。
【0034】
次に、漏電検出装置300の動作について説明する。
漏電検出装置300による漏電検出の実行時には、パルス発生器360は、パルス信号365を発生する。発生されたパルス信号365は、検出抵抗370、カップリングコンデンサ380および絶縁抵抗Riを含んで構成された直列回路に印加される。これにより、検出抵抗370およびカップリングコンデンサ380の接続点に相当するノードN1には、絶縁抵抗Riおよび検出抵抗370(抵抗値Rd)の分圧比:Ri/(Rd+Ri)とパルス信号365の振幅(電源電圧+B)との積を波高値とするパルス電圧が発生する。すなわち、絶縁抵抗Riが低下すると、ノードN1のパルス電圧の振幅が低下する。
【0035】
ノードN1に発生したパルス電圧は、バンドパスフィルタ390によってパルス信号365の周波数以外の成分が減衰され、かつ、過電圧保護用ダイオード391,392によりサージ電圧が除去されて、ノードN2に伝達される。
【0036】
制御回路310は、電圧検出器320がサンプリング周期Tsに従って検出したノードN2の電圧に基づいて、絶縁抵抗Riの低下を検出する。具体的には、ノードN2の電圧が、判定値よりも低下すると、絶縁抵抗の低下、すなわち漏電を検出する。なお、制御回路310の動作は、一般的にはマイコン等によりソフトウェア的に処理される。したがって、制御回路310は、電子制御ユニット(ECU)の一機能として実現可能である。
【0037】
次に、インバータ210,220の制御を説明する。
MG1,MG2には、回転子の回転位相を検出する位置センサ230および各相電流を検出する電流センサ240が設けられる。
【0038】
インバータ制御部280は、位置センサ230および電流センサ240での検出値に基づき、MG1,MG2が指令値(トルク・回転数)に従って回転駆動されるように、インバータ210,220におけるスイッチング動作を制御する。
【0039】
インバータ210,220には、電力用半導体スイッチング素子を用いて構成された、一般的な三相インバータを適用することができるので、その詳細な構成は説明しない。一般的に、このようなインバータにおけるスイッチング制御には、パルス幅変調(PWM)制御が適用される。
【0040】
PWM制御では、三角波やのこぎり波が用いられるキャリア信号と、正弦波状の交流電圧指令値との電圧比較に従って、インバータの電力用半導体スイッチング素子のオンオフが制御される。このオンオフ制御によって、パルス幅が制御された方形波出力電圧の集合により構成される擬似交流電圧が、インバータ210,220からMG1,MG2へ印加される。
【0041】
したがって、インバータ210,220では、キャリア信号の周波数(以下、「キャリア周波数」とも称する)にて、電力用半導体スイッチング素子がオンオフされる。したがって、キャリア周波数での電磁ノイズが発生して、ハイブリッド車5のユーザに騒音として検知される可能性がある。したがって、インバータ210,220では、以下に説明するような、騒音抑制のためのキャリア周波数制御が実行される。
【0042】
図4には、各インバータ210,220でのキャリア周波数制御が示される。
図4を参照して、インバータ210のキャリア周波数f1は、所定の周波数範囲内で予め定められたパターンに従って、時間経過に応じて周期的あるいはランダムに変化させる。周波数範囲の中心値は予め定められたfaであり、上限値(f1max)はfa+Δfaであり、下限値(f1min)はfa−Δfaである。
【0043】
同様に、インバータ210のキャリア周波数f2は、所定の周波数範囲内で予め定められたパターンに従って、時間経過に応じて周期的あるいはランダムに変化させる。周波数範囲の中心値は予め定められたfbであり、上限値(f2max)はfb+Δfbであり、下限値(f2min)はfb−Δfbである。なお、faおよびfbは、所定のそれぞれ異なる周波数である。
【0044】
図5を参照して、符号400は、キャリア周波数f1=fa(または、f2=fb)に固定した場合の音圧レベルの周波数分布を示す。この場合には、周波数fa(またはfb)に対応した固定周波数の音圧レベルが高くなるため、当該周波数の作動音がユーザに感知されやすくなる。
【0045】
一方で、符号410は、図4に示したようにキャリア周波数f1(f2)を下限値f1min(f2min)から上限値f1max(f2max)の周波数範囲で変動させた場合の音圧レベルの周波数分布である。キャリア周波数を変更する周期を短くすることにより(たとえば、2〜10[ms]程度)、人間の聴覚には、当該周波数範囲で一様な強度の音として認識される。
【0046】
この結果、符号410に示すように、当該周波数領域内で音圧レベルを分散することができるため、作動音の音圧レベルを低減することが可能となる。
【0047】
しかしながら、インバータ210,220の動作に伴って、キャリア周波数の差分に相当する、下記の式(1)で示される周波数fcのスイッチングノイズ信号が発生する。式(1)において、m,nは自然数である。
【0048】
fc=|f1×m−f2×n| ・・・(1)
ここで、周波数fcが、漏電検出装置300のパルス信号365の周波数と近くなると、周波数fcのスイッチングノイズの影響によって、漏電検出装置300による漏電検出が正常に実行できなくなる虞がある。このため、本発明の実施の形態による漏電検出装置は、以下のように漏電検出の実行タイミングを制御する。
【0049】
図6は、本発明の実施の形態による漏電検出装置による漏電検出動作の処理手順を示すフローチャートである。図6に示すフローチャートに従う処理手順は、制御回路310により、所定周期で実行される。
【0050】
図6を参照して、制御回路310は、ステップS100により、前回の漏電検出の実行からの経過時間をカウントする。そして、制御回路310は、ステップS110により、ステップS100でカウントした経過時間が所定値T0を越えているかどうかを判定する。
【0051】
制御回路310は、経過時間がT0を越えているとき(S110のYES判定時)には、ステップS120に処理を進めて、ハイブリッド車5の発生音(インバータの作動音以外の発生音を意味する。以下、同じ。)が小さい車両状態であるかどうかを判定する。ステップS120による判定は、たとえば、エンジン100、MG1およびMG2の回転数に基づいて実行できる。すなわち、これらの要素のいずれかの回転数が高いときには、これらの発生音によってインバータ210,220のキャリア信号による作動音がユーザに検知されにくい車両状態であると判定される。
【0052】
制御回路310は、発生音が小さい車両状態のとき(S120のYES判定時)には、ステップS130に処理を進めて、漏電検出の実行を停止する。そして、制御回路310は、ステップS140により、図4に示したキャリア周波数制御によってキャリア周波数を変動されるランダムキャリアを実行するように、インバータ制御部280に指示する。これにより、インバータ制御部280は、ランダムキャリアの実行によって作動音を低減した上で、インバータ210,220を制御する。
【0053】
すなわち、車両の発生音が小さい場合には、インバータ210,220での作動音がユーザに検知され易いため、ランダムキャリアの実行による作動音低下が優先される。そして、漏電の誤検出を防止するために、漏電検出は停止される。
【0054】
一方、制御回路310は、発生音が小さい車両状態ではないとき(S120のNO判定時)には、この機会に漏電検出を実行するために、ステップS150,S160を実行する。制御回路310は、ステップS150では、キャリア周波数を固定してインバータ210,220を制御するように、インバータ制御部280に指示する。これにより、インバータ210,220でのキャリア周波数は、図4に示した周波数fa,fbに固定される。周波数fa,fbは、|fa×m−fb×n|が、漏電検出装置300のパルス信号365の周波数と近くならないように、予め定められている。
【0055】
さらに、制御回路310は、ステップS160により、インバータ210,220でのキャリア周波数が周波数fa,fbに固定されている状態で、漏電検出を実行する。漏電検出の実行時には、上述のように、パルス発生器360から所定周波数のパルス信号365が発生される。さらに、発生されたパルス信号365が伝達されたノードN1での電圧(パルス電圧振幅)を、バンドパスフィルタ390およびノードN2を介して、電圧検出器320で検出することによって、絶縁抵抗Riが低下しているか否かが判定される。
【0056】
なお、制御回路310は、ステップS110において経過時間が所定値T0に達していない場合(NO判定時)には、漏電検出が不要な段階であると判断して、ステップS120をスキップして、ステップS130,S140の処理を実行する。すなわち、ランダムキャリアの実行によるインバータ210,220の作動音低下が優先される。
【0057】
図6のフローチャートに従えば、漏電検出装置300は、基本的には周期T0毎に漏電検出を実行しようとするが、インバータ210,220の作動音がユーザに感知されやすい状況を避けて、インバータ210,220でのランダムキャリアを中止した上で、漏電検出を実行する。これにより、ランダムキャリアによるインバータからのスイッチングノイズ信号によって、漏電検出が異常となることを防止できる。すなわち、インバータ210,220にランダムキャリアが適用されるハイブリッド車でも、漏電検出を正確に実行できる。
【0058】
一方で、騒音がユーザに感知されやすい状況では、漏電検出の実行を一時待機させて、ランダムキャリアの実行によって、インバータ210,220による作動音を抑制することができる。したがって、車両走行中に、漏電検出を正確に行なうことと、ユーザに騒音を感知されないようにインバータのキャリア周波数制御(ランダムキャリア)を用いることとを両立できる。
【0059】
なお、発生音が小さい車両状態が長期間継続したときには、漏電検出の機会が長期間に亘って失われる可能性がある。このような事態を回避するために、たとえば、ステップS120がNO判定となった回数を別途カウントしておき、このカウント数が所定値を越えた場合には、ステップS120の判定を強制的にYES判定としてもよい。このようにすると、基本的な周期T0よりも大きい最低限の周期に従って、漏電検出の機会を確保することが可能となる。
【0060】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
5 ハイブリッド車、30 アース(車体)、100 エンジン、110 第1モータジェネレータ(MG1)、120 第2モータジェネレータ(MG2)、130 動力分割機構、140 減速機、150 バッテリ(高圧電源)、190 前輪、200 高圧回路系、205 コンバータ、210,220 インバータ、230 位置センサ、240 電流センサ、280 インバータ制御部、300 漏電検出装置、310 制御回路(ECU)、320 電圧検出器、360 パルス発生器、365 パルス信号、370 検出抵抗、380 カップリングコンデンサ、390 バンドパスフィルタ、391,392 過電圧保護用ダイオード、MG1,MG2 モータジェネレータ、N1,N2 ノード、Ri 絶縁抵抗、T0 所定値(漏電検出基本周期)、VH 直流電圧、Vb 出力電圧(バッテリ)、f1min,f2min 下限値、f1max,f2max 上限値、f1,f2 キャリア周波数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインバータを備えた電動車両に搭載された漏電検出装置であって、
カップリングコンデンサと、
前記カップリングコンデンサを介して、前記電動車両の絶縁抵抗と直列に接続される検出抵抗と、
漏電検出の実行時に、前記絶縁抵抗、前記カップリングコンデンサおよび前記検出抵抗を含んで構成される直列回路に所定周波数のパルス信号を印加するためのパルス発生手段と、
前記カップリングコンデンサおよび前記検出抵抗の接続点電圧を検出するための電圧検出手段と、
前記漏電検出の実行を制御するための制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記複数のインバータの作動音を低下させるためにそれぞれのキャリア周波数を変動させるキャリア周波数制御が必要な車両状態であるか否かを判定するための手段と、
前記キャリア周波数制御が不要な車両状態であると判定されたときに、各前記インバータに対して前記キャリア周波数を固定する指示を発するとともに前記漏電検出を実行するための手段と、
前記漏電検出の実行時に、前記接続点電圧の前記所定周波数の電圧成分に基づいて、前記絶縁抵抗が低下しているか否かを判定するための手段とを含む、漏電検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−250558(P2011−250558A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120327(P2010−120327)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】