説明

炭素部品および炭素部品の製造方法

【課題】長孔を有する炭素部品の長孔内部に被膜を形成することにより、酸化性、分解性ガスの雰囲気中でも消耗することなく使用できる炭素部品を提供し、特に孔内部からのパーティクルの発生を防止する。
【解決手段】内部に孔11を有し、その外面13がセラミック被膜で覆われた炭素部品100であって、孔11が二枚の板状の炭素体19を重ね合わせて形成され、板材21は少なくとも一方の炭素体19の重ね合わせ面23に形成された溝と、この溝に対向する他方の炭素体19の重ね合わせ部とにより形成されており、溝を含む孔11の内面全域がセラミック被膜で被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素部品および炭素部品の製造方法に関し、特に、気体導入用の孔を有するCVDサセプタに用いるセラミック被膜を有する炭素部品および炭素部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン又は化合物半導体ウェハのエピタキシャル成長のCVD装置において、ウェハを載置するためにサセプタ(susceptor)が用いられている。このサセプタは、誘導加熱により発熱させるため、導電性のある黒鉛の基材が主に用いられている。黒鉛は、電気抵抗が低く、耐熱性、化学的安定性に優れるためこのようなCVD装置の分野で好適に用いることができる。しかしながら、エピタキシャル成長においては、処理速度が重要であるためCVD装置内が充分に冷える前に比較的高温でウェハの入れ替えが行われ、温度の高いままサセプタが大気に曝されることがある。そのため、黒鉛の基材のままでは空気と反応し消耗が激しいという問題がある。また、窒化ガリウムなどのエピタキシャル成長のCVDサセプタとして用いられる装置においては、アンモニアが原料ガスとして用いられる。アンモニアは熱で分解し、水素と窒素を生成する。窒素は窒化ガリウム膜の原料ガスとなるが、残った水素は高温で黒鉛と反応しメタンなどの炭化水素ガスを生成するため、黒鉛の消耗がおこる。そこで、黒鉛のサセプタには大気あるいは水素と、黒鉛との反応を防止するため、SiCなどのセラミック被膜を形成している(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
また、このようなCVD装置のサセプタは、複数のウェハを載置できるような構造になっている。複数のウェハが直接サセプタに載せられる単純なサセプタもあるが、ウェハの均膜性を高めるために、サセプタ全体の回転(公転)の他に、ウェハあるいはウェハキャリアをサセプタ上で気体の流れを利用して回転させて均膜化を図っているサセプタもある。このようなサセプタでは、外部からサセプタ内部に気体を導入し、ウェハあるいはウェハキャリアの載置面中央付近に形成された縦孔(噴出口)から気体を排出し、ウェハあるいはウェハキャリアと、サセプタとの間の空間に渦流を形成しながら排出させる。この際にウェハは、ガスの渦流によって回転エネルギーが与えられサセプタ上で回転することができる。サセプタ内部には気体を通すために、側面などに形成された気体導入部から、ウェハ(あるいはウェハキャリア)の載置面中央付近まで気体導入孔が形成されている。このような気体導入孔は、サセプタ側面からドリルなどでウェハ(あるいはウェハキャリア)の載置面中央付近の直下を通過する長孔をあけ、ウェハ(あるいはウェハキャリア)の載置面中央から前記長孔に接続する縦孔をあけ接続し、前記長孔の端部を封止することによって形成される。
【0004】
サセプタとして用いる基材(サセプタ基材、炭素部品ともいう)は前記長孔加工の他には、他の形状加工を加えられる。さらにサセプタ基材は表面にSiC−CVD膜、TaC−CVD膜、熱分解炭素膜などのセラミック被膜が形成され、エピタキシャル成長のCVD装置用に使用できるサセプタとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4071919号公報
【特許文献2】特開2004−200436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記の長孔を有する炭素部品においては、孔内部深くまでセラミック被膜を形成することが出来ない。
すなわち、炭素部品の表面にセラミック被覆を形成するには、サセプタ基材を被膜形成用のCVD炉の中に入れ、加熱した後、例えばSiC被膜の場合にはシラン系と炭化水素系の原料ガスを炉内に導入する。なお、ここで使用するCVD炉は黒鉛基材にセラミック被膜を形成するためのものであり、前記エピタキシャル成長のCVD炉とは全く別のものである。CVD炉内に導入された原料ガスは、高温の基材に接触した途端に分解し、基材に堆積しセラミック被膜が形成されていく。原料ガスの供給される側の基材表面は、速い速度でセラミック被膜が形成されるが、原料ガスの回り込みにくい裏面や、凹部の奥側などはセラミック被膜の形成速度が遅く、一般に被膜が薄くなる傾向がある。さらに前記サセプタの気体導入孔は、細い開口部からセラミック被膜の原料ガスが浸入し、長孔の壁面に接触、堆積しながら奥深くに浸入していく。このため、長孔の奥深くでは、供給される原料ガスの濃度が薄くなり、原料ガスがほとんど到達せず、セラミック被膜が形成されない。
酸化性、分解性ガスの雰囲気で使用する場合に、このような長孔を有する炭素部品の表面はセラミック被膜に保護されているが、セラミック被膜で保護されていない長孔内部から酸化や分解が起こり、長孔内側から減肉が始まり、やがては部品全体に到るダメージが起こる。
炭素部品がエピタキシャル成長用の長孔を有するサセプタであり、長孔に被膜が形成されていないと、ウェハ交換のためにサセプタが外気に触れたり、ウェハあるいはウェハキャリアをガスの渦流によって回転させるために水素などを使用した場合に長孔内壁部が酸化、分解によって、消耗する。黒鉛基材は多孔体であるので表面から一様に消耗せず、粒子脱落を伴いながら消耗する。このため、脱落した粒子が黒鉛のパーティクル等となってエピタキシャル成長のCVD炉内に拡散する。このようなパーティクルは、ウェハに付着しその上にエピタキシャル膜が形成されると欠陥となり、ホットゾーン内で浮遊していると空中で原料ガスの沈積する核となり、やがてはウェハに沈積し、結晶欠陥の元となる。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、長孔を有する炭素部品の長孔内部に被膜を形成することにより、酸化性、分解性ガスの雰囲気中でも消耗することなく使用できる炭素部品を提供し、特に孔内部からのパーティクル発生防止を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 内部に孔を有し、その外面がセラミック被膜で覆われた炭素部品であって、
前記孔が二枚の板状の炭素体を重ね合わせて形成され、該板材は少なくとも一方の炭素体の重ね合わせ面に形成された溝と該溝に対向する他方の炭素体の重ね合わせ部とにより形成されており、前記溝を含む前記孔の内面全域がセラミック被膜で被覆されていることを特徴とする炭素部品。
【0009】
この炭素部品によれば、孔が、少なくとも一方の炭素体の重ね合わせ面に形成された溝と、この溝に対向する他方の炭素体の重ね合わせ部とにより形成され、それぞれの炭素体が分割されている状態では、孔の内面全域が開放される。これにより、炭素体同士が接合された後では、長孔の奥側であっても、セラミック被膜が確実に形成されている。このため、孔内部で酸化あるいは分解が起き、内側から減肉が始まることもなく、孔内壁部の炭素部品は酸化性ガスあるいは分解性ガス雰囲気で使用しても孔内壁部の黒鉛粒子が脱落しパーティクル等をCVD炉内に拡散することもない。
【0010】
(2) 前記炭素体は耐熱性の接着剤で互いに接合されていることを特徴とする(1)の炭素部品。
【0011】
この炭素部品によれば、それぞれの炭素体の重ね合わせ面が耐熱性の接着剤で互いに接合されることで、接着部はセラミック被膜で覆われた炭素体で外面及び内面に露出しないように挟まれるため、接着部及び基材は酸化性ガス、分解性ガスとほとんど接することがなく、減肉する虞が小さい。
【0012】
(3) 前記孔の内面全域のセラミック被膜が前記重ね合わせ面に及んで形成されていることを特徴とする(1)又は(2)の炭素部品。
【0013】
この炭素部品によれば、孔内面から重ね合わせ面へ酸化性ガス及び分解性ガスが浸入しても、炭素基材と接することがないので、炭素基材を保護することができる。
【0014】
(4) 前記孔の内面全域のセラミック被膜が該孔に隣接する前記重ね合わせ面の一部領域部に形成されていることを特徴とする(1)又は(2)の炭素部品。
【0015】
この炭素部品によれば、重ね合わせ面の全面にセラミック被膜を形成せず、孔に隣接する重ね合わせ面の一部領域部にセラミック被膜が形成されている。重ね合わせ面の全面にセラミック被膜を形成する場合に比べ、重ね合わせ面の一部領域にセラミック被膜を形成する場合では、耐熱性接着剤が多孔体の黒鉛同士を接合することになるので、強い接着力を得ることができるうえに、孔に隣接する重ね合わせ面の一部領域にセラミック被膜が形成されているので、黒鉛基材と反応性ガスが接しにくく、耐食性がある。
【0016】
(5) 前記セラミック被膜はSiC、熱分解炭素、BN、又はTaCのいずれか一つを含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つの炭素部品。
【0017】
この炭素部品によれば、SiC、BN、TaC被膜は、基材の炭素よりも水素や窒素に対する耐食性が優れるため好適に利用することができる。熱分解炭素は炭素からなるために、前記セラミック被膜よりも耐食性は劣るものの耐熱性が高い。熱分解炭素は緻密体であるために、黒鉛基材よりも耐食性が高く、特に高温で使用される場合に好適に利用することができる。
【0018】
(6) 前記炭素体の基材の不純物含有量は、20ppm以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つの炭素部品。
【0019】
この炭素部品は、基材の不純物含有量が20ppm以下であるので不純物の触媒作用による酸化、分解が起こりにくく、炭素部品を長く使用することができる。
【0020】
(7) 前記炭素部品はエピタキシャル成長用サセプタであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1つの炭素部品。
【0021】
この炭素部品によれば、CVD装置内にカーボンのパーティクルを発生させることがないので、欠陥の少ないウェハを供給することができる。
【0022】
(8) 内部に孔を有し、その外面がセラミック被膜で覆われた炭素部品の製造方法であって、
互いに重ね合わされる二枚の板状の炭素体を準備する工程と、
少なくとも一方の炭素体の重ね合わせ面に溝を形成する工程と、
前記板状の炭素体をそれぞれ高純度化して該炭素体から不純物を除去する工程と、
それぞれの前記炭素体の少なくとも前記重ね合わせ面を除く外面、および前記一方の炭素体の溝、並びに該溝に対向する前記他方の炭素体の重ね合わせ部にセラミック被膜を形成する工程と、
互いに前記重ね合わせ面を対向させて前記炭素体を接合する工程と、
を有することを特徴とする炭素部品の製造方法。
【0023】
この炭素部品の製造方法によれば、孔が、少なくとも一方の炭素体の重ね合わせ面に形成された溝と、この溝に対向する他方の炭素体の重ね合わせ部とにより形成される。それぞれの炭素体が分割されている状態で、一方の炭素体の溝と、この溝に対向する他方の炭素体の重ね合わせ部にセラミック被膜が確実に形成可能となる。すなわち、孔の内面全域が開放されているので、セラミック被膜の形成時に供給される原料ガスの濃度が薄くならず、長孔の奥側であっても、セラミック被膜が確実に形成される。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る炭素部品および炭素部品の製造方法によれば、長孔内部にセラミック被膜を確実に形成できるので、酸化性ガスや分解性ガスの雰囲気中でも消耗することなく使用できる。また、本発明に係る炭素部品をガス供給孔のあるウェハを回転させる機構を有するサセプタに使用すれば、エピタキシャル成長用のCVD装置内にカーボンのパーティクルを発生させることがないので、欠陥の少ないウェハを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は本発明に係る炭素部品の平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図2】(a)は図1に示した炭素部品の変形例の平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図3】本発明に係る炭素部品の孔の形状例と、孔と重ね合わせ面の位置関係の例とを(a)〜(f)で示した模式図である。
【図4】本発明に係る炭素部品の分割の例を(a)(b)(c)に示す模式図である。
【図5】(a)は、本発明に係る重ね合わせ面にセラミック被膜が形成された炭素部品の模式図、(b)は、本発明に係る重ね合わせ面の、孔に隣接する領域のみにセラミック被膜が形成された炭素部品の模式図、(c)は、本発明に係る重ね合わせ面の、孔と外表面に隣接する領域にセラミック被膜が形成された炭素部品の模式図である。
【図6】本発明に係る炭素部品の製造方法の手順を示した工程説明図である。
【図7】セラミック被膜のコーティング層の厚さ分だけ溝に隣接する重ね合わせ面を減寸加工する炭素部品の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1(a)は本発明に係る炭素部品の平面図、(b)は(a)のA−A断面図、図2(a)は図1に示した炭素部品の変形例の平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
本実施の形態に係る炭素部品100は、半導体ウェハを搭載し加熱するために高周波誘導やヒータ等によって加熱されるウェハ保持体(エピタキシャル成長用サセプタ)として好適に用いることができる。以下、炭素部品100をサセプタ100と称す。図1に示すように、サセプタ100は、円板状の板材21の一方の面に、複数(図例では6つ)のウェハ載置面31を円周方向に等間隔で有する。サセプタ100は、外部から気体を導入し、ウェハ載置面31のほぼ中央の2箇所から気体を排出し、後述するウェハキャリア39とサセプタ100との間に形成された半円弧状の溝40に沿って渦流を形成しながら排出させる。ウェハキャリア39は、複数枚(図例では3枚)のウェハWを載置してウェハ設置面31に設置されるものである。この際にウェハWは、ガスの渦流によって回転エネルギーが与えられウェハキャリア39の回転とサセプタ100の回転を伴って回転する。
【0027】
サセプタ100の内部には気体を通すために、不図示の気体導入部から、ウェハ載置面31まで気体導入用の孔11が形成されている。孔11は、ウェハ載置面31のほぼ中央の2箇所で縦孔41に接続され、端部が封止されることによって形成される。
【0028】
孔11は、図1に示すように、半径方向に延在する直線の孔11として形成されるが、図2に示すように、それぞれのウェハ載置面31の中央部を通過する円形状の孔42と交差するように形成してもよい。このような孔11,42を形成することにより、それぞれの孔11,42でのガス流量を均一化することができ、回転速度のバラツキを軽減することができる。
【0029】
図3は本発明に係る炭素部品の孔の形状例と、孔と重ね合わせ面の位置関係の例とを(a)〜(f)で示した模式図である。
サセプタ100は、内部に孔11を有し、その外面13(図2参照)が後述のセラミック被膜で覆われる。孔11は、二枚の板状の黒鉛からなる炭素体19,19を重ね合わせて形成されている。板材21は、少なくとも一方の炭素体19の重ね合わせ面23に形成された溝25と、この溝25に対向する他方の炭素体19の重ね合わせ部27とにより形成されている。セラミック被膜は、溝25を含む孔11の内面全域を被覆している。
【0030】
孔11の軸線直交断面の形状は、図3(a)(b)(c)に示す四角形状や、図3(d)に示す円形状、図3(e)(f)に示す長円形状とすることができる。また、孔11と重ね合わせ面23との位置関係は、図3(a)(c)(d)(f)に示すように、孔11が重ね合わせ面23にて対称に分割されるもの、図3(b)に示すように、一方の重ね合わせ面23のみに孔11(すなわち、溝25)が形成されるもの、あるいは図3(e)に示すように、いずれか一方の重ね合わせ面23に片寄って形成されるもののいずれであっても良い。このように、溝25は、分割した部品の両側に形成しても、片方に形成しても良い。
【0031】
図4は本発明に係る炭素部品の分割の例を(a)(b)(c)に示す模式図である。
図4(a)及び(b)に示すように、重ね合わせ面23は、孔11の中心軸を含む平面であることが好ましい。重ね合わせ面23が孔11の中心軸を含む平面であると、分割された部品はそれぞれ重ね合わせ面23で対称となるため、加熱したときの応力のかかり方が対称となり、部品の変形を抑えることができる。さらに重ね合わせ面23は、図4(c)に示すように、板材21の厚さを2分する位置にあることが好ましい。いずれの炭素体も十分に厚くすることができるので、炭素体の反りを小さく抑えることができ、容易に接合できるからである。
【0032】
なお、図4(a)及び(b)に示すように、重ね合わせ面23は、板材21の厚さを2分しない位置とすることもできる。このような構造において、発生した応力により炭素体19に反り等の変形が生じた場合には、黒鉛基材にセラミック被膜を形成した後に、特に薄い方の合わせ面が平面となるように面加工を施すことで反りを是正し、接合することができる。
【0033】
孔11は、入り口と出口を有する両端が開口したもの、あるいは片側のみが開口したもののいずれであっても構わないが、特に孔11の開口直径に対する深さ(L/D)が20以上が好ましい。開口直径に対する深さがL/D≧20以上の場合、孔11の深部(奥側)にCVDの原料ガスが届きにくくなるが、本発明に係る上記構成にすることにより、孔内部全面に均一にセラミック被膜を形成することができる。
【0034】
孔11の内径は、均一であるものには限定されない。孔11は開口部の内径が小さく、内部で内径の広がった空間を持った形状であっても構わないし、瓢箪型のように途中でくびれた形状であっても構わない。孔11が瓢箪型の場合、くびれた部分からの深さも考慮しなければならず、くびれた部分の直径に対するそこからの深さ(L/D)が20以上が好ましい。
【0035】
図5(a)は本発明に係る炭素部品の重ね合わせ面にセラミック被膜が形成された炭素部品の模式図、図5(b)は本発明に係る炭素部品の重ね合わせ面の孔に隣接する領域のみにセラミック被膜が形成された炭素部品の模式図、図5(c)は本発明に係る炭素部品の重ね合わせ面の孔および外表面に隣接する領域のみにセラミック被膜が形成された炭素部品の模式図、図5(d)は本発明に係る炭素部品の重ね合わせ面にはセラミック被膜が形成されていない炭素部品の模式図である。
図5(a)(b)(c)は重ね合わせ面へのセラミック被膜の形成例を示す。
炭素体19の外面13および孔11の表面に形成される被膜は、セラミック被膜15であり、例えば、SiC、熱分解炭素、BN、TaN、又はTaC被膜のいずれか一つを含む。特に、SiC、BN、TaN、又はTaC被膜は、基材37の炭素よりも水素又は窒素に対する耐食性が優れるため好適に利用することができる。熱分解炭素は、他のセラミック被膜15よりも耐食性は劣るものの耐熱性が高い。熱分解炭素は緻密体であるために、黒鉛基材よりも耐食性が高く、炭素からなるために、特に高温で使用される場合に好適に利用することができる。形成される被膜は、単層であっても、複層であっても構わない。形成されている被膜が複層の場合には、同一のセラミック被膜15であっても異種のセラミック被膜15であっても構わない。
【0036】
孔11の表面に形成される被膜は、どのような方法で形成しても良いが、特にCVD法で形成したものが好ましい。CVD法では、緻密な被膜を形成することが出来るので、基材37の炭素を酸化性又は反応性のガスから遮断することができるからである。また、形成される被膜が複数の層からなる場合、全てがCVD被膜であっても、その中の一層のみがCVD被膜であっても構わない。形成される被膜が一層のみCVD被膜の場合、基材側は、CVR(chemical vapor reaction)法により反応転化した層であっても良い。被膜がCVD層とCVR層に形成される被膜が同一元素の場合、CVR層は、CVD層と基材37との緩衝層とすることができるので、剥離しにくいセラミック被膜15を形成することが出来る。CVR層は黒鉛が反応転化したものであるので、黒鉛基材と強く接合することができ、表層側に形成されるCVR層と熱膨張係数がほぼ同一であるので、剥離しにくくすることができる。
【0037】
サセプタ100は、孔11の軸と平行な重ね合わせ面23を有する。孔11の軸と平行な重ね合わせ面23を有しているので、それぞれ重ね合わせ面側から浅い溝加工し、貼り合わせることにより長孔を形成することが出来るため孔が曲がったり、刃物が折れることがなく、ドリルで孔あけ加工するよりも容易に長孔を形成できる。
【0038】
セラミック被膜15は、図5(d)のように重ね合わせ面にはなくても良いが、図5(a)(b)(c)に示すように、重ね合わせ面23にも形成されていることが好ましい。外面13から重ね合わせ面23へ進入する反応性のガスから炭素基材を保護することができるからである。また、セラミック被膜15は、図5(b)(c)に示すように重ね合わせ面全面に形成されているのではなく、重ね合わせ面の孔あるいは外表面に隣接するサセプタ100の領域のみに形成されていることが好ましい。重ねあわせ面には多孔体である炭素基材が露出しているので、耐熱性接着剤が内部に浸透することができ、強い接着力を得ることができるうえに、重ね合わせ面の孔及び外表面と隣接する領域のみにセラミック被膜が形成されているので、黒鉛基材と反応性ガスが接しにくく黒鉛基材を反応性ガスから保護し、パーティクルの発生を抑えることができる。
【0039】
炭素体19同士は、耐熱性の接着剤で互いに接合される。それぞれの炭素体19の重ね合わせ面23が耐熱性の接着剤で互いに接合されることで、接着部はセラミック被膜で覆われた炭素体で外面及び内面に露出しないように挟まれるため、接着部及び基材は、酸化性ガス、分解性ガスとほとんど接することなく、減肉する虞が小さい。接着剤は、例えば炭素系の接着層や、SiC系の接着層などが好適に利用できる。耐熱性接着剤は200〜300℃の熱処理を加えることにより、硬化することができ、1000〜1500℃の高温の熱処理を加えることにより、セラミック被膜を傷めることなく有機成分などの不純物が除去される。
【0040】
炭素体の基材37の不純物含有量は、20ppm以下であることが好ましい。不純物含有量が20ppmを超えると、不純物の触媒作用による炭素基材の酸化、分解が起こりやすくなり、早く消耗してしまうからである。またサセプタ用途に使用する場合には、不純物含有量が20ppmを越えると、CVD炉内に不純物が拡散及び消耗して脱落したパーティクルが拡散し、エピタキシャル成長中にウェハに悪影響を及ぼすからである。
【0041】
サセプタ100は、特に用途は限定されないが半導体製造のCVD装置に好適に利用できる。本発明の実施形態によれば、孔内部にも被膜が形成されているため、消耗により孔内部が減肉することがなく、装置内にパーティクルを飛散させる虞が少ないからである。
【0042】
さらにサセプタ100は、シリコン、化合物半導体、SiC半導体用のエピタキシャル成長用のCVD装置に好適に利用できる。エピタキシャル成長では、キャリアガスとして水素が多く用いられる上に、水素は拡散速度が速いため、長孔内部に浸入し易く、水素から基材37を遮蔽する必要があるが、本発明の実施形態によれば、孔の表面にはセラミック被膜が形成されているので、特に、化合物半導体、SiC半導体用のエピタキシャル成長では、炭素基材が消耗しやすいため、本実施の形態によるサセプタ100を好適に利用することができる。
【0043】
このように、本発明に係る炭素部品は、サセプタ100であることが好ましい。サセプタ100は、ウェハと直接接する上に、部品内部にウェハキャリアを浮かせるためのガス供給孔が有り、孔内部の消耗によりウェハに悪影響を与える虞が高いからである。
【0044】
本発明のサセプタ100は、以下のように製作することができる。
図6は本発明に係る炭素部品の製造方法の手順を示した工程説明図である。
(重ね合わせ面形成)
黒鉛材から重ね合わせ面23のある1組の炭素体19を製作する。分割された炭素体19は、それぞれ同等のサイズであるサンドイッチ構造であっても良いし、片方が大きく、片方の小さなはめ込み型であっても良い。
【0045】
(溝加工)
図6(a)に示すように、基材37となる炭素体19の重ね合わせ面23に溝25を形成する。溝25の形状はどのようなものでも構わない。ボールエンドミル41でそれぞれの炭素体19を加工した場合には、貼り合わせることによって円形あるいは長円形の孔11を形成することが出来る。また、(フラット)エンドミルを使用した場合には、貼り合わせることにより方形の孔11を形成することが出来る。この場合には、分割された炭素体19の両側をそれぞれ加工しても良いし、片側のみでの方形の孔11を得ることもできる。
【0046】
(高純度化)
この段階までに、図6(b)に示す純化炉43内に、純化ガス(塩素、ハロゲンガス、又はハロゲン系ガス等)を供給して、高純度化し炭素体19から不純物を取り除くことが好ましい。後述するコーティング工程以降で高純度化すると、形成された被膜が高純度化によって取り除かれてしまうからである。なお、高純度化は、重ね合わせ面23の形成の前(材料段階)でも良いが、溝加工後に高純度化することが好ましい。材料段階の高純度化の場合、溝加工では、加工機からの汚染が危惧される上に、加工工程では、頻繁に基材37に接触する機会があり、基材37を汚染する虞があるからである。
【0047】
(第1コーティング工程)
次に、図6(c)に示すように、純化炉43に原料ガス(SiC被膜の場合、シラン系ガスと炭化水素系ガス、TaC被膜の場合、有機タンタルガスと炭化水素系ガス等)を供給して、形成された溝25の内部にセラミック被膜15を形成する。溝25の内部だけに被膜を形成する場合には重ね合わせ面23にはマスキングMを施し、溝25に隣接する重ね合わせ面23にコーティングする場合には溝25と隣接する重ね合わせ面23を残してマスキングMを施す。重ね合わせ面23に全て被膜を形成する場合には特に重ね合わせ面23のマスキングMは必要ない。溝25と、重ね合わせ面以外の部位については、この段階でコーティングしても良いし、改めて別途コーティングしても良い。改めてコーティングする場合には、溝25と、重ね合わせ面以外の部位をマスキングしてもしなくても良い。第一コーティング工程で溝25と重ね合わせ面以外の部位をコーティングする場合には、その部位にマスキングを行わない。
【0048】
なお、溝25と溝25に隣接する重ね合わせ面23あるいはサセプタ100の外表面にコーティングする場合には、コーティングされる重ね合わせ面23は、図7に示すようにあらかじめコーティング層の厚さAに相当する減寸を行って加工を施すと良い。重ね合わせ面の一部領域に被膜が形成されると、重ね合わせ面では被膜部分のみが接し、炭素基材間には隙間ができ、接着力が低下するからである。
【0049】
(貼り合わせ工程)
図6(d)に示すように、前記で形成された2枚の分割炭素体19を接着し、サセプタ100を形成する。接着剤はどのようなものでも構わない。例えば、コプナ樹脂の場合、重ね合わせ面23に塗布し、圧力をかけて密着し、150℃60分間で硬化したのち、不活性雰囲気1000〜1500℃で炭素化する。1000℃以上で炭素化した場合には、主に有機成分からなる不純物は飛散し、高純度の接着層を得ることができる。1500℃を超えると、被膜が変質したり、熱収縮しクラックが入ったりする。
【0050】
(第2コーティング工程)
炭素体19同士を貼り合わせ後に、重ね合わせ面23を平滑にするために、再度コーティングを施しても良い。第2コーティング工程では、重ね合わせ面23の上に被膜を形成することになるため重ね合わせ面23を封止することができ、サセプタ100の外表面からの反応性ガスの浸入を防ぐことができる。
【0051】
したがって、本製造方法によれば、それぞれの炭素体19が分割されている状態で、一方の炭素体19の溝25と、この溝25に対向する他方の炭素体19の重ね合わせ部27にセラミック被膜15が確実に形成可能となる。すなわち、孔11の内面全域が開放されているので、供給される原料ガスの濃度が薄くならず、長孔の奥深くであっても、セラミック被膜15が均等、且つ確実に形成される。
【0052】
また、サセプタ100によれば、長孔内部にセラミック被膜が確実に形成されるので、酸化性ガスや分解性ガスの雰囲気中でも消耗することなく使用できる。CVD装置内にカーボンのパーティクルを発生させることがないので、欠陥の少ないウェハを供給することができる。
【符号の説明】
【0053】
11 孔
13 外面
15 セラミック被膜
19 炭素体
21 板材
23 重ね合わせ面
25 溝
27 重ね合わせ部
35 一部領域部
37 基材
100 サセプタ(炭素部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に孔を有し、その外面がセラミック被膜で覆われた炭素部品であって、
前記孔が二枚の板状の炭素体を重ね合わせて形成され、該板材は少なくとも一方の炭素体の重ね合わせ面に形成された溝と該溝に対向する他方の炭素体の重ね合わせ部とにより形成されており、前記溝を含む前記孔の内面全域がセラミック被膜で被覆されていることを特徴とする炭素部品。
【請求項2】
前記炭素体は耐熱性の接着剤で互いに接合されていることを特徴とする請求項1に記載の炭素部品。
【請求項3】
前記孔の内面全域のセラミック被膜が前記重ね合わせ面に及んで形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の炭素部品。
【請求項4】
前記孔の内面全域のセラミック被膜が該孔に隣接する前記重ね合わせ面の一部領域部に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の炭素部品。
【請求項5】
前記セラミック被膜はSiC、熱分解炭素、BN、又はTaCのいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の炭素部品。
【請求項6】
前記炭素体の基材の不純物含有量は、20ppm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の炭素部品。
【請求項7】
前記炭素部品はエピタキシャル成長用サセプタであることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の炭素部品。
【請求項8】
内部に孔を有し、その外面がセラミック被膜で覆われた炭素部品の製造方法であって、
互いに重ね合わされる二枚の板状の炭素体を準備する工程と、
少なくとも一方の炭素体の重ね合わせ面に溝を形成する工程と、
前記板状の炭素体をそれぞれ高純度化して該炭素体から不純物を除去する工程と、
それぞれの前記炭素体の少なくとも前記重ね合わせ面を除く外面、および前記一方の炭素体の溝、並びに該溝に対向する前記他方の炭素体の重ね合わせ部にセラミック被膜を形成する工程と、
互いに前記重ね合わせ面を対向させて前記炭素体を接合する工程と、
を有することを特徴とする炭素部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−225949(P2011−225949A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98080(P2010−98080)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】