説明

無機層の真空成膜法、バリア性積層体、デバイスおよび光学部材

【課題】簡便な方法により従来よりもバリア性が高い無機層を成膜すること。
【解決手段】無機層を成膜する面の面積がa(単位:cm2)である支持体を、容積が100a(単位:cm3)以下である第1真空槽へ搬入して真空状態とし、真空状態を維持したまま支持体を第2真空槽へ搬送して、第2真空槽内にて支持体上に無機層を真空成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体上に、少なくとも1層の無機層を成膜する方法に関する。また本発明は、優れたバリア性を有するバリア性積層体と、そのバリア性積層体を用いたデバイスおよび光学部材にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子や有機EL素子(有機電界発光素子)等の分野においては、重くて割れやすいガラス基板に代わって、軽量で割れない上に柔軟性が高いというメリットがあるプラスチックフィルム基板が採用され始めている。しかし、プラスチックフィルム基板はガラス基板と比較すると水蒸気バリア性に劣るという問題がある。水蒸気バリア性に劣る基板を液晶表示素子や有機EL素子に用いると、水蒸気が液晶セル内に侵入して表示欠陥が発生しやすくなる。
【0003】
このため、プラスチックフィルム基板のバリア性を向上させるために、プラスチックフィルム支持体上にバリア性を有する無機層を形成することが広く行われている。例えば、プラスチックフィルム支持体上に酸化珪素を蒸着したもの(例えば、特許文献1参照)や、プラスチックフィルム支持体上に酸化アルミニウムを蒸着したもの(例えば、特許文献2参照)が知られている。また、プラスチックフィルム支持体上に酸化珪素、酸化アルミニウム、インジウムとスズの複合酸化物などをスパッタリング法により成膜したものも知られており、もっとも良好なものでは無機層1層あたり0.011g/m2/dayのバリア能を達成している(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
スパッタリング法のように真空条件下で支持体上に無機層を成膜するには、支持体を複数の密閉室に順次搬送して処理する必要がある。例えば、特許文献4には、支持体をほぼ同じ容積を有するロードロック室、脱気室、無機層成膜室、アンロード室に順次搬送して処理することが記載されている。
【特許文献1】特公昭53−12953号公報(第1頁〜第3頁)
【特許文献2】特開昭58−217344号公報(第1頁〜第4頁)
【特許文献3】特開2002−264274号公報(第4頁)
【特許文献4】特開2001−335916号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の装置で成膜される無機層のバリア性は十分とはいえず、液晶表示装置や有機EL素子にて要求されているような高いバリア性を有する無機層を簡便な方法で成膜する技術が求められている。
【0006】
本発明者らは、このような従来技術の課題に鑑みて、簡便な方法により従来よりもバリア性が高い無機層を成膜できるようにすることを目的として検討を進めた。また、本発明者らは、そのような新たな製法を用いて高バリア性の積層体や、耐久性に優れたデバイスと光学部材を提供することも目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、支持体の面積とロードロック室の容積との関係を制御することにより、優れたバリア性を有する無機層を真空成膜できることを見出し、従来技術の課題を解決することに成功した。その結果、以下に記載の本発明を提供するに至った。
【0008】
[1] 支持体上に少なくとも1層の無機層を真空成膜する方法であって、
無機層を成膜する面の面積がa(単位:cm2)である支持体を、容積が100a(単位:cm3)以下である第1真空槽へ大気圧下で搬入し、
前記第1真空槽を減圧することにより真空状態とし、
真空状態を維持したまま、前記支持体を前記第1真空槽から第2真空槽へ搬送し、
前記第2真空槽内にて前記支持体上に少なくとも1層の無機層を成膜することを特徴とする無機層の真空成膜法。
[2] 前記第1真空槽の密封容積が30a(単位:cm3)以下であることを特徴とする、[1]に記載の無機層の真空成膜法。
[3] 前記第1真空槽の密封容積が10a(単位:cm3)以下であることを特徴とする、[1]に記載の無機層の真空成膜法。
[4] 前記第1真空槽と第2真空槽が直結していることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
[5] 前記第1真空槽が真空室を介して第2真空槽と連設しており、前記支持体を真空状態を維持したまま前記第1真空槽から前記真空室を経由して第2真空槽へ搬送することを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
[6] 真空状態を維持したまま、前記支持体を第m真空槽から第m+1真空槽へ搬送する工程を、前記mが1からn(nは2以上の整数)になるまで順に行うことを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
[7] 前記n個の真空槽がすべて1つの真空室に直結しており、前記支持体を真空槽間で搬送する際には前記真空室を必ず経由することを特徴とする、[6]に記載の無機層の真空成膜法。
[8] 前記無機層を反応性スパッタリング法にて成膜することを特徴とする、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
[9] 前記無機層がSi34層もしくはAl23層であることを特徴とする、[8]に記載の無機層の真空成膜法。
[10] 前記無機層をCVD法にて成膜することを特徴とする、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
[11] 前記無機層がSi34層であることを特徴とする、[10]に記載の無機層の真空成膜法。
[12] 前記支持体がプラスチックフィルムであることを特徴とする、[1]〜[11]のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
[13] 前記第1真空槽に搬入する前記支持体が、表面に有機層を設けた支持体であり、前記有機層の上に前記無機層を成膜することを特徴とする、[1]〜[12]のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
【0009】
[14] [1]〜[13]のいずれか1項に記載の真空成膜法により無機層を成膜したことを特徴とするバリア性積層体。
[15] [14]に記載のバリア性積層体を用いたデバイス。
[16] [14]に記載のバリア性積層体を封止フィルムとして用いたデバイス。
[17] 前記デバイスが有機EL素子である[15]または[16]に記載のデバイス。
[18] [14]に記載のバリア性積層体を用いた光学部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無機層の真空製膜法によれば、優れたバリア性を有する無機層を簡便に成膜することができる。また、本発明の真空製膜法を用いて製造されるバリア性積層体は、従来法で製造されるものよりもバリア性が高く、当該積層体を用いたデバイスや光学部材は耐久性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0012】
<支持体>
支持体は、本発明のバリア性積層体において、少なくとも1層の無機層を形成するための土台となるものである。
本発明におけるバリア性積層体には、支持体としてプラスチックフィルムを好ましく用いることができる。本発明において用いるプラスチックフィルムは、その表面に有機層、無機層等の積層体を形成し保持することができるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0013】
本発明のバリア性積層体に耐熱性が要求される場合には、支持体にも耐熱性が要求される。例えば、本発明のバリア性積層体を後述する有機EL素子等のデバイスの基板等として使用する場合は、支持体が耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂であれば、ポリマー単体のTgが70℃〜350℃であるものが好ましく、中でも120℃以上であるものがさらに好ましい。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学(株)ネオプリム:260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。なお、Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。
【0014】
本発明のバリア性積層体の支持体としては、熱硬化性樹脂を使用することもできる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂および放射線硬化性樹脂が挙げられる。エポキシ系樹脂は、ポリフェノ−ル型、ビスフェノール型、ハロゲン化ビスフェノール型およびノボラック型のものが挙げられる。エポキシ系樹脂を硬化させるための硬化剤は、公知の硬化剤を用いることができる。例えば、アミン系、ポリアミノアミド系、酸および酸無水物、イミダゾール、メルカプタンおよびフェノール樹脂等の硬化剤が挙げられる。中でも、耐溶剤性、光学特性、熱特性等の観点から、酸無水物および酸無水物構造を含むポリマーまたは脂肪族アミン類が好ましく用いられ、特に好ましいのは、酸無水物および酸無水物構造を含むポリマーである。さらに、公知の第三アミン類やイミダゾール類等の硬化触媒を適量加えることが好ましい。
【0015】
本発明のバリア性積層体を偏光板と組み合わせて使用する場合、バリア性積層体のバリア層面(少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層を含む積層体を形成した面)がセルの内側に向くようにし、最も内側に(素子に隣接して)配置することが好ましい。このとき偏光板よりセルの内側にバリア性積層体が配置されることになるため、バリア性積層体のレターデーション値が重要になる。このような態様でのバリア性積層体の使用形態は、レターデーション値が10nm以下の支持体を用いたバリア性積層体と円偏光板(1/4波長板+(1/2波長板)+直線偏光板)を積層して使用するか、あるいは1/4波長板として使用可能な、レターデーション値が100nm〜180nmの支持体を用いたバリア性積層体に直線偏光板を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0016】
レターデーションが10nm以下の支持体としては、セルローストリアセテート(富士フイルム(株):富士タック)、ポリカーボネート(帝人化成(株):ピュアエース、(株)カネカ:エルメック)、シクロオレフィンポリマー(JSR(株):アートン、日本ゼオン(株):ゼオノア)、シクロオレフィンコポリマー(三井化学(株):アペル(ペレット)、ポリプラスチック(株):トパス(ペレット))ポリアリレート(ユニチカ(株):U100(ペレット))、透明ポリイミド(三菱ガス化学(株):ネオプリム)等を挙げることができる。なお1/4波長板としては、上記のフィルムを適宜延伸することで所望のレターデーション値に調整したフィルムを用いることができる。
【0017】
本発明のバリア性積層体を有機EL素子等のデバイスとして利用する場合には、支持体は透明であることが望ましい。このような透明性が求められる用途に用いる場合は、支持体の光線透過率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
【0018】
本発明のバリア性積層体をディスプレイ用途に用いる場合であっても、バリア性積層体を観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、支持体として不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えばポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
【0019】
本発明のバリア性積層体に用いられる支持体の厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がない。上記のようなプラスチックフィルム等からなる支持体を用いる場合、その厚みは典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらの支持体は、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していてもよい。
【0020】
本発明では、支持体として有機EL素子のようなデバイスや光学部材を選択してもよい。特に封止を必要とするデバイスや光学部材を支持体として選択し、その上に本発明の製造方法にしたがって少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を形成すれば、これらのデバイスや光学部材を効果的に封止することができる。これらのデバイスや光学部材の詳細については後述する。
【0021】
<有機層>
本発明の無機層の真空成膜法は、支持体上に無機層を真空成膜する方法であるが、無機層を真空成膜する前に支持体上に有機層を成膜しておくことが好ましい。有機層は、本発明にしたがって無機層を成膜した後に当該無機層の上に成膜することもできる。
【0022】
有機層は、通常、ポリマーからなる層である。具体的には、ポリエステル、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂の層である。
【0023】
本発明の有機層は、重合することによりポリマーを形成するポリマー前駆体(例えば、モノマー)を塗布することにより形成することが好ましい。本発明に用いることができる好ましいモノマーとしては、アクリレートおよびメタクリレートが挙げられる。アクリレートおよびメタクリレートの好ましい例としては、例えば、米国特許第6,083,628号明細書および米国特許第6,214,422号明細書に記載の化合物が挙げられる。
以下に本発明に好ましく用いられるアクリレート、メタクリレートの具体例を示すが、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されない。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
有機層の形成方法としては、通常の溶液塗布法を挙げることができる。溶液塗布法としては、例えばディップコ−ト法、エアーナイフコ−ト法、カーテンコ−ト法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2,681,294号明細書に記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法により塗布することができる。
【0030】
モノマー重合法としては特に限定は無いが、加熱重合、光(紫外線、可視光線)重合、電子ビーム重合、プラズマ重合、あるいはこれらの組み合わせが好ましく用いられる。これらのうち、光重合が特に好ましい。光重合を行う場合は、光重合開始剤を併用する。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えばイルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えばダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Esacure)シリーズ(例えばエザキュアTZM、エザキュアTZT)、同じくオリゴマー型のエザキュアKIPシリーズ等が挙げられる。
【0031】
照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.5J/cm2以上が好ましく、2J/cm2以上がより好ましい。アクリレート、メタクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。このような方法としては不活性ガス置換法(窒素置換法、アルゴン置換法など)、減圧法が挙げられる。このうち、減圧硬化法はモノマー中の溶存酸素濃度を低下させる効果を有するため、より好ましい。
【0032】
窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。フラッシュ蒸着法で形成したモノマー皮膜を、減圧条件下、2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが最も好ましい。このような方法を取ることで、重合率を高めることができ、硬度の高い有機層を得ることができる。モノマーの重合は、モノマー混合物を塗布または蒸着等により目的の場所に配置した後に行うことが好ましい。また、有機層のモノマーの重合を行う際には、有機カップリング剤に存在する重合性基(例えばエチレン性二重結合)も一緒に重合させることが好ましい。
【0033】
本発明では、有機層用塗布液の塗布終了から速やかに硬化を行うことが好ましく、塗布直後に硬化を行うことがより好ましい。ここでいう直後とは、有機層の塗布工程に続けて直ちに重合を開始する工程を行うことを意味する。すなわち、塗布した有機層の表面に何かを接触させる操作を行うことなく、有機層を硬化することをいう。このように塗布終了からあまり時間をおかずに硬化を行うことにより、有機層の表面粗さを改善することができる。
【0034】
モノマーの重合率は85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。重合率は赤外線吸収法によって定量することができる。
【0035】
有機層はスパッタリング法により形成してもよい。スパッタリング法を用いる場合は、固体である有機材料を制限なく使用して有機層を形成することができる。
【0036】
有機層の膜厚については特に限定はないが、50nm〜2000nmが好ましく、200nm〜1500nmがより好ましい。50nm以上であれば欠陥数は少なくなりバリア性は向上する傾向があり好ましく、1500nm以下であれば外力によりクラックが発生せずバリア性は低下しないため好ましい。
【0037】
有機層は2層以上積層してもよい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上積層する場合は、各々の有機層が上記の好ましい範囲内にあるように設計することが望ましい。また、本発明の積層体には、米国公開特許2004−46497号明細書に開示されるような無機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層が存在していてもよい。
【0038】
<無機層>
本発明では、少なくとも1層の無機層を真空成膜する。具体的には、無機層を成膜する面の面積がa(単位:cm2)である支持体を、容積が100a(単位:cm3)以下である第1真空槽へ大気圧下で搬入し、第1真空槽を減圧することにより真空状態とし、真空状態を維持したまま支持体を第1真空槽から第2真空槽へ搬送し、第2真空槽内にて支持体上に少なくとも1層の無機層を成膜することを特徴とする。
【0039】
無機層を成膜する面の面積とは、第2真空槽内にて無機層を成膜することができる支持体上の面の面積aを意味する。通常は、板状の支持体であれば、その片面の面積に相当する。面積aの絶対値は特に制限されないが、通常は25〜62500cm2であり、50〜10000cm2であることが好ましく、100〜900cm2であることがさらに好ましい。
また、第1真空槽の容積とは、第1真空槽を密閉したときの内容積を意味する。第1真空槽の内容積は、通常は100〜6250000cm3であり、100〜300000cm3であることが好ましく、100〜9000cm3であることがさらに好ましい。
【0040】
本発明の無機層の真空製膜法では、無機層を成膜する面の面積をa(単位:cm2)としたとき、容積が100a(単位:cm3)以下である第1真空槽を用いる。第1真空槽の容積は30a以下であることが好ましく、10a以下であることがより好ましい。このような容積を有する第1真空槽を用いて無機層を成膜することにより、形成された無機層のバリア性を著しく高めることができる。上記特開2002−264274号公報によると、無機層1層あたりの水蒸気透過率の最良値は0.011g/m2/dayであった。一方、本発明にしたがって容積が100a以下である第1真空槽を用いて成膜すれば、水蒸気透過率が0.011g/m2/dayよりも小さい無機層を得ることができる。また、容積が30a以下である第1真空槽を用いれば一段と水蒸気透過率は低下し、さらに容積が10a以下である第1真空槽を用いれば水蒸気透過率は極めて小さくなる。
【0041】
本発明の無機層の真空成膜法では、大気圧下で第1真空槽へ支持体を搬入する。ここでいう支持体は、上記の有機層等が形成されている支持体であってもよい。支持体を搬入した第1真空槽は密閉して減圧することにより真空状態とする。減圧には、通常用いられている減圧手段を採用することができ、例えばロータリーポンプ、ターボポンプやクライオポンプなどを適宜選択して使用することができ、併用するとさらによい。減圧後の圧力は、通常103〜10-7Paとし、102〜10-5Paとすることが好ましく、101〜10-4Paとすることがより好ましい。
【0042】
第1真空槽内で真空状態下におかれた支持体は、真空状態を維持したまま第1真空槽から第2真空槽へ搬送する。このとき、支持体を搬送する経路はすべて真空状態にある。すなわち、搬送経路と第2真空槽はあらかじめ真空状態にしておくことが必要とされる。このとき、搬送経路と第2真空槽の圧力は、第1真空槽の圧力と厳密に一致していることは必ずしも要求されない。好ましいのは、第1真空槽、搬送経路、第2真空槽の圧力が一致している場合である。
【0043】
第1真空槽と第2真空槽の位置関係や接続態様は特に制限されない。好ましいのは、第1真空槽と第2真空槽が直結しており、第1真空槽の出口が第2真空槽の入口を兼ねている場合である。このような態様を採用することにより、省スペースを図れるうえ、無機層成膜の効率化も図ることができる。また、別の好ましい態様として、第1真空槽が真空室を介して第2真空槽と連設している場合を挙げることができる。このとき支持体は、いったん第1真空槽から真空室に搬入した後、さらに真空室から第2真空槽に搬入する。第1真空槽から真空室に支持体を搬入する際に、真空室と第2真空槽の間は閉鎖されていることが好ましい。このような態様を採用することにより、支持体を第1真空槽に搬入する際に支持体とともに持ち込まれた異物やゴミなどを、第2真空室に持ち込む危険性を低くすることができる。
【0044】
第2真空室に支持体を搬入した後、第2真空室を密閉し、第2真空槽内にて支持体上に少なくとも1層の無機層を成膜する。成膜には、通常の無機真空成膜を用いることができる。例えば反応性スパッタリング法、CVD法などが用いられる。反応性スパッタリング法やCVD法により成膜する場合は、第2真空室への反応ガスの導入の制御を流量制御機器(マスフロー)により行うことが好ましい。特に反応性スパッタリング法を用いる場合はプラズマプロセスを監視しマスフローにフィードバックをかけ流量の微調整することでプロセスを安定化させることが好ましい。フィードバックの手法には内圧、電圧、プラズマ発光を監視する形式があるが特に限定はせずいずれも用いることができる。プロセス前の第2真空槽内の好ましい圧力範囲は、10-2Pa〜10-8Paであり、10-3Pa〜10-8Paが好ましく、10-4Pa〜10-8Paが最も好ましい。また、プロセス中の第2真空槽内の好ましい圧力範囲は、反応性スパッタリング法では10Pa〜10-2Paであり、1Pa〜10-2Paが好ましく、10-1Pa〜10-2Paが最も好ましい。CVD法では103Pa〜10-1Paであり、102Pa〜100Paが好ましい。
【0045】
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層に含まれる成分は特に限定されないが、反応性スパッタリング法を用いた場合では例えば、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物などを用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。また、CVD法を用いた場合ではSiの金属酸化物、窒化物、炭化物もしくはその複合物がよく、Siの金属酸化物、窒化物もしくは酸窒化物が好ましい。成膜する無機層の厚みに関しては特に限定されないが、1層につき、通常、5〜300nmの範囲内である。無機層の厚みは、好ましくは20〜200nmであり、より好ましくは30〜90nmである。
【0046】
第2真空室で無機層を成膜した後は、第2真空室を開放して大気圧下にしたうえで支持体を搬出してもよいし、さらに第3真空槽などの真空状態にある領域に搬出してもよい。第3真空槽では、支持体上にさらに別の無機層や有機層を成膜してもよいし、開放して大気圧下にしたうえで支持体を搬出してもよい。第3真空槽を開放しない場合は、さらに第4真空槽、第5真空槽へと支持体を搬送して、それぞれ必要な処理を施すことができる。なお、ここでいう第3以降の真空槽は、上記の第1真空槽そのものであってもよく、また、第4以降の真空槽は上記の第2真空槽そのものであってもよい。
【0047】
複数の真空槽を用いる態様を一般化すると、真空状態を維持したまま、支持体を第m真空槽から第m+1真空槽へ搬送する工程を、mが1からn(nは2以上の整数)になるまで順に行う、と表現することができる。ここで、第m真空槽と第m+1真空槽の間は直結していてもよいし、間に真空室を介していてもよい。
【0048】
具体的には、第m真空槽と第m+1真空槽の間がすべて直結している態様を挙げることができる。例えば、図1に示すように、第1真空槽1、第2真空槽2、第3真空槽3が直列で連設されている装置を用いることができる。ここでは、まず支持体15を開状態のゲートバルブ4を通して第1真空槽1内に搬入し、ゲートバルブ4,5を閉状態にして排気口8を通して減圧することにより真空状態にする。その後、ゲートバルブ5を開状態にして支持体15を第2真空槽2に搬入し、ゲートバルブ5,6を閉状態にして原料ガス導入口11から原料ガスを供給しつつスパッタリング法により無機層を成膜する。さらに、ゲートバルブ6を開状態にして支持体15を第3真空槽3に搬入してゲートバルブ6を閉じ、ゲートバルブ7を開状態にすることにより大気圧下におき、無機層を成膜した支持体をゲートバルブ7から搬出する。
【0049】
また、n個の真空槽がすべて1つの真空室に直結しており、支持体を真空槽間で搬送する際には真空室を必ず経由する構成になっている態様も好ましい例として挙げることができる。例えば、図2に示すように、第1真空槽21、第2真空槽22、第3真空槽23が並列的に真空室24を介して連絡できるように設置されている装置を用いることができる。ここでは、まず支持体15を開状態のゲートバルブ25を通して第1真空槽21内に搬入し、ゲートバルブ25,26を閉状態にして排気口31を通して減圧することにより真空状態にする。その後、ゲートバルブ26を開状態にして支持体15を真空室24を経由して第2真空槽22に搬入し、ゲートバルブ27を閉状態にして原料ガス導入口35から原料ガスを供給しつつスパッタリング法により無機層を成膜する。さらに、ゲートバルブ27を開状態にして支持体15を真空室24を経由して第3真空槽23に搬入してゲートバルブ28を閉じ、ゲートバルブ29を開状態にすることにより大気圧下におき、無機層を成膜した支持体をゲートバルブ29から搬出する。
【0050】
また、第2以降の真空槽は完全に密閉されていてもいなくてもよく、各プロセスに必要な内圧を保つことができる程度の隙間が他の真空槽との間に開いていてもよい。具体的には図3に示すように、図2のゲートバルブ27が存在せず支持体15が第2真空槽22を密閉する形でもよく、このとき支持体15と第2真空槽の間にはプロセスに必要な内圧を保つことができる程度の隙間が開いていてもよい。あるいは、支持体15を保持して搬送するための保持搬送具(図示せず)が第2真空槽22を密閉するか、当該保持搬送具と第2真空槽の間にプロセスに必要な内圧を保つことができる程度の隙間が開くようになっていてもよい。
【0051】
本発明では、無機層の上に有機層を形成した後、さらに有機層の上に無機層を形成してもよい。また、さらに有機層と無機層の交互積層を繰り返して、複数の無機層を形成してもよい。これらの場合、各無機層は同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、本発明の真空製膜法以外の方法により成膜した無機層が混在していてもよい。
【0052】
<バリア性積層体>
(基本構成)
本発明の無機層の真空製膜法を用いることにより、バリア性積層体を製造することができる。本発明のバリア性積層体は、支持体上に少なくとも1層の無機層を有するものであれば、その他の構成は特に制限されない。好ましいのは、支持体上に形成された有機層の上に無機層が形成されている態様である。有機層と無機層の層数については特に制限はなく、それぞれ2層〜30層が好ましく、3層〜20層がより好ましい。また、有機層と無機層が形成されている面は、支持体の片面のみであってもよいし、両面であってもよい。さらに、片面には本発明にしたがって無機層と有機層が設けられており、その反対面には本発明外の方法により成膜した無機層と有機層が設けられていてもよい。このような態様についても、本発明の範囲内に含まれる。
【0053】
本発明のバリア性積層体の支持体上には、有機層、無機層以外に、その他の層が形成されていてもよい。その他の層としては、機能層を挙げることができる。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としては、導電層、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。機能層は、少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層からなるバリア層の上、バリア層と支持体の間、有機層と無機層が形成されていない支持体の反対面などのいずれに設置してもよい。
【0054】
(バリア性積層体の性能)
本発明のバリア性積層体は、水蒸気透過率が低いという特徴を有する。本発明のバリア性積層体の水蒸気透過率は、40℃・相対湿度90%の測定環境において、無機層1層あたり通常0.01g/m2・day以下であり、好ましくは0.005g/m2・day以下であり、より好ましくは0.003g/m2・day以下であり、さらに好ましくは0.001g/m2・day以下である。
【0055】
(バリア性積層体の用途)
本発明のバリア性積層体は、ガスバリア性が要求される物品の基板として用いることができる。例えば、デバイスや光学部材の基板として有用である。また、本発明のバリア性積層体は、ガスバリア性が要求されるデバイスや光学部材の封止に用いることもできる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0056】
<デバイス>
本発明のバリア性積層体は空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ、なかでも有機EL素子に好ましく用いられる。
【0057】
本発明のバリア性積層体は、デバイスの膜封止にも利用することができる。すなわち、上記のようにデバイス自体を支持体として、その表面に少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を設けることにより封止を行うことができる。
このような有機層と無機層を形成する前にデバイスを保護層で覆ってもよい。また、保護層の上に接着剤層を形成してから有機層と無機層を形成してもよい。接着剤には特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等を例示することができる。
【0058】
(有機EL素子)
バリア性積層体を用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0059】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明のバリア性積層体は、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明のバリア性積層体は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型、VA(Vertically Alignment)型、ECB(Electrically Controlled Birefringence)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、CPA(Continuous Pinwheel Alignment)型、IPS(In−Plane Switching)型であることが好ましい。
【0060】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー、特願平7−160334号公報に記載の太陽電池等が挙げられる。
【0061】
<光学部材>
本発明のバリア性積層体を用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるバリア性積層体を基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例1] スパッタリング法によるバリア性積層体の作製と評価
(有機層つき支持体Sの作製)
ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA)上に、下記構造のモノマーM(20g)、紫外線重合開始剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、商品名:Cibaイルガキュアー907)0.6g、2−ブタノン190gの混合溶液を液厚が5μmとなるようにワイヤーバーを用いて塗布した。室温にて2時間乾燥した後、窒素置換法により酸素濃度が0.1%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約2J/cm2)して有機層を硬化させ、膜厚が1000nm±50nmの有機層つき支持体とした。この方法により、有機層表面(無機層を成膜する面)の面積が異なる複数種の有機層つき支持体Sを作製した。
【0064】
【化6】

【0065】
(バリア性積層体A−1の作製)
有機層表面の面積が100cm2の有機層つき支持体Sを容積が64461.5cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(スパッタ室)へ搬送した。第2真空槽にて、ターゲットとしてAl、放電ガスとしてArを用いてプラズマ放電させた。Al23の化学量論比になるようプラズマ発光をモニターしながら反応ガスとしてのO2の流量を制御し、有機層上にAl23を30nm成膜してバリア性積層体A−1とした。
【0066】
(バリア性積層体A−2の作製)
有機層表面の面積が100cm2の有機層つき支持体Sを容積が27143.3cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(スパッタ室)へ搬送した。第2真空槽にて、ターゲットとしてAl、放電ガスとしてArを用いてプラズマ放電させた。Al23の化学量論比になるようプラズマ発光をモニターしながら反応ガスとしてのO2の流量を制御し、有機層上にAl23を30nm成膜してバリア性積層体A−2とした。
【0067】
(バリア性積層体A−3の作製)
有機層表面の面積が314.1cm2の有機層つき支持体Sを容積が8600cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(スパッタ室)へ搬送した。第2真空槽にて、ターゲットとしてAl、放電ガスとしてArを用いてプラズマ放電させた。Al23の化学量論比になるようプラズマ発光をモニターしながら反応ガスとしてのO2の流量を制御し、有機層上にAl23を30nm成膜してバリア性積層体A−3とした。
【0068】
(バリア性積層体A−4の作製)
有機層表面の面積が113cm2の有機層つき支持体Sを容積が180cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(スパッタ室)へ搬送した。第2真空槽にて、ターゲットとしてAl、放電ガスとしてArを用いてプラズマ放電させた。Al23の化学量論比になるようプラズマ発光をモニターしながら反応ガスとしてのO2の流量を制御し、有機層上にAl23を30nm成膜してバリア性積層体A−4とした。
【0069】
(水蒸気透過率の測定)
G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-8頁に記載の方法を用いて、40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率をバリア性積層体A−1からA−4についてそれぞれ測定した。結果を表1に示す。また、第1真空槽の容積/支持体面積(X/Y)と水蒸気透過率の関係をグラフ化したものを図3に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
図4より明らかなように、第1真空槽の容積Xと支持体面積Yの比(X/Y)が100以下であれば、無機層1層あたりの水蒸気透過率が、上記特開2002−264274号公報の最良値である0.011g/m2/dayよりも小さくなり、急激に水蒸気透過率が低下することがわかる。第1真空槽の容積Xと支持体面積Yの比(X/Y)が30以下であれば一段と水蒸気透過率は低下し、さらに10以下であれば水蒸気透過率は極めて小さくなる。
【0072】
[実施例2] スパッタリング法によるバリア性積層体の作製と評価
(バリア性積層体B−1の作製)
有機層表面の面積が100cm2の有機層つき支持体Sを容積が64461.5cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(スパッタ室)へ搬送した。第2真空槽にて、ターゲットとしてSi、放電ガスとしてArを用いてプラズマ放電させた。Si34の化学量論比になるようプラズマ発光をモニターしながら反応ガスとしてのN2の流量を制御し、有機層上にSi34を30nm成膜してバリア性積層体B−1とした。
【0073】
(バリア性積層体B−2の作製)
有機層表面の面積が100cm2の有機層つき支持体Sを容積が27143.3cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(スパッタ室)へ搬送した。第2真空槽にて、ターゲットとしてSi、放電ガスとしてArを用いてプラズマ放電させた。Si34の化学量論比になるようプラズマ発光をモニターしながら反応ガスとしてのN2の流量を制御し、有機層上にSi34を30nm成膜してバリア性積層体B−2とした。
【0074】
(バリア性積層体B−3の作製)
有機層表面の面積が314.1cm2の有機層つき支持体Sを容積が8600cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(スパッタ室)へ搬送した。第2真空槽にて、ターゲットとしてSi、放電ガスとしてArを用いてプラズマ放電させた。Si34の化学量論比になるようプラズマ発光をモニターしながら反応ガスとしてのN2の流量を制御し、有機層上にSi34を30nm成膜してバリア性積層体B−3とした。
【0075】
(バリア性積層体B−4の作製)
有機層表面の面積が113cm2の有機層つき支持体Sを容積が180cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(スパッタ室)へ搬送した。第2真空槽にて、ターゲットとしてSi、放電ガスとしてArを用いてプラズマ放電させた。Si34の化学量論比になるようプラズマ発光をモニターしながら反応ガスとしてのN2の流量を制御し、有機層上にSi34を30nm成膜してバリア性積層体B−4とした。
【0076】
(水蒸気透過率の測定)
実施例1と同様に40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率をバリア性積層体B−1からB−4についてそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表2から明らかなように、本発明にしたがってSi34の無機層を成膜した場合も、Al23の無機層を成膜した場合(実施例1)と同様に第1真空槽の容積Xと支持体面積Yの比(X/Y)が100以下であれば、無機層1層あたりの水蒸気透過率が、0.011g/m2/dayよりも小さくなり、急激に水蒸気透過率が低下することがわかる。第1真空槽の容積Xと支持体面積Yの比(X/Y)が30以下であれば一段と水蒸気透過率は低下し、さらに10以下であれば水蒸気透過率は極めて小さくなる。
【0079】
[実施例3] CVD法によるバリア性積層体の作製と評価
(バリア性積層体C−1の作製)
有機層表面の面積が400cm2の有機層つき支持体Sを容積が72000cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(CVD室)へ搬送した。第2真空槽にて、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)および窒素ガス(N2)を導入した。周波数13.56MHzのRF放電電力を印加して、温度25℃、成膜圧力10Paで膜厚が100nmのSi34を成膜してバリア性積層体C−1とした。
【0080】
(バリア性積層体C−2の作製)
有機層表面の面積が314.2cm2の有機層つき支持体Sを容積が8600cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(CVD室)へ搬送した。第2真空槽にて、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)および窒素ガス(N2)を導入した。周波数13.56MHzのRF放電電力を印加して、温度25℃、成膜圧力10Paで膜厚が100nmのSi34を成膜してバリア性積層体C−2とした。
【0081】
(バリア性積層体C−3の作製)
有機層表面の面積が113.1cm2の有機層つき支持体Sを容積が180cm3の第1真空槽に搬入し、30分間真空引きした。次に有機層つき支持体Sを大気に触れさせることなく真空中にて第2真空槽(CVD室)へ搬送した。第2真空槽にて、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)および窒素ガス(N2)を導入した。周波数13.56MHzのRF放電電力を印加して、温度25℃、成膜圧力10Paで膜厚が100nmのSi34を成膜してバリア性積層体C−3とした。
【0082】
(水蒸気透過率の測定)
実施例1と同様に40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率をバリア性積層体C−1,2,3についてそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表3から明らかなように、本発明にしたがってCVD法によってSi34の無機層を成膜した場合も、スパッタリング法によってAl23(実施例1)やSi34(実施例2)の無機層を成膜した場合と同様に第1真空槽の容積Xと支持体面積Yの比(X/Y)が100以下であれば、無機層1層あたりの水蒸気透過率が0.011g/m2/dayよりも小さくなり、急激に水蒸気透過率が低下することがわかる。第1真空槽の容積Xと支持体面積Yの比(X/Y)が30以下であれば一段と水蒸気透過率は低下し、さらに10以下であれば水蒸気透過率は極めて小さくなる。
【0085】
[実施例4] 有機EL素子の作製と評価
(バリア性積層体D−1の作製)
実施例1の(有機層つき支持体Sの作製)に記載される有機層の成膜と、実施例1の(バリア性積層体A−4の作製)に記載される無機層の成膜を繰り返すことにより、ポリエチレンナフタレートフィルムからなる支持体上に、有機層、Al23層、有機層、Al23層、有機層、Al23層の順に積層し、バリア性積層体D−1とした。
【0086】
(有機EL素子の作成)
ITO膜を有する導電性のガラス基板(表面抵抗値10Ω/□)を2−プロパノールで洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の有機化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン 膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン 膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム 膜厚60nm
最後にフッ化リチウムを1nm、金属アルミニウムを100nm順次蒸着して陰極とし、その上に厚さ5μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作成した。
【0087】
(有機EL素子上へのガスバリア層の設置)
熱硬化型の接着剤(ダイゾーニチモリ(株)製、エポテック310)を用いて、バリア性積層体D−1と上記有機EL素子それぞれ貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子を20素子作成した。
【0088】
(有機EL素子発光面状の評価)
作成直後の有機EL素子をKeithley社製SMU2400型ソースメジャーユニットを用いて7Vの電圧を印加して発光させた。顕微鏡を用いて発光面状を観察したところ、いずれの素子もダークスポットの無い均一な発光を与えることが確認された。
次に各素子を60℃・相対湿度90%の暗い室内に500時間静置した後、発光面状を観察した。直径300μmよりも大きいダークスポットが観察された素子の比率を故障率と定義すると各素子の故障率は1%以下であった。
【0089】
以上のように、本発明のバリア性積層体D−1を用いて封止した有機EL素子は故障率も低く非常に有用であることが確認された。
【0090】
[実施例5] 有機EL素子の作製と評価
封止フィルムとして実施例4で作製したバリア性積層体D−1を用いて、実施例4と同様にして封止された有機EL素子を作成した。有機EL素子上へのガスバリア層の設置の際、熱硬化型の接着剤の代わりに紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて、アルゴンガスで置換したグローブボックス内で紫外線を照射して硬化させ、接着した。実施例4と同様に評価した結果、実施例4とほぼ同様の傾向が認められた。
【0091】
[実施例6] バリア性積層体を基板として用いた有機EL素子の作製
実施例4で作製したバリア性積層体D−1を真空チャンバー内に導入し、ITOターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリングにより、厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明電極を形成した。ITO膜を有するバリア性積層体を洗浄容器に入れ、2−プロパノール中で超音波洗浄した後、30分間UV−オゾン処理を行った。この基板を用いて、実施例4と同様にして有機EL素子を作成した。この素子は基板と封止フィルムの双方とも樹脂を主体としているため、フレキシブルであった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明で用いることができる真空成膜装置の構成例を示す概略図である。
【図2】本発明で用いることができる真空成膜装置の別の構成例を示す概略図である。
【図3】本発明で用いることができる真空成膜装置のさらに別の構成例を示す概略図である。
【図4】第1真空槽の容積/支持体面積(X/Y)と水蒸気透過率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0093】
1 第1真空槽
2 第2真空槽
3 第3真空槽
4〜7 ゲートバルブ
8〜10 排気口
11 原料ガス導入口
15 支持体
21 第1真空槽
22 第2真空槽
23 第3真空槽
24 真空室
25〜29 ゲートバルブ
31〜34 排気口
35 原料ガス導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に少なくとも1層の無機層を真空成膜する方法であって、
無機層を成膜する面の面積がa(単位:cm2)である支持体を、容積が100a(単位:cm3)以下である第1真空槽へ大気圧下で搬入し、
前記第1真空槽を減圧することにより真空状態とし、
真空状態を維持したまま、前記支持体を前記第1真空槽から第2真空槽へ搬送し、
前記第2真空槽内にて前記支持体上に少なくとも1層の無機層を成膜することを特徴とする無機層の真空成膜法。
【請求項2】
前記第1真空槽の密封容積が30a(単位:cm3)以下であることを特徴とする、請求項1に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項3】
前記第1真空槽の密封容積が10a(単位:cm3)以下であることを特徴とする、請求項1に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項4】
前記第1真空槽と第2真空槽が直結していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項5】
前記第1真空槽が真空室を介して第2真空槽と連設しており、前記支持体を真空状態を維持したまま前記第1真空槽から前記真空室を経由して第2真空槽へ搬送することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項6】
真空状態を維持したまま、前記支持体を第m真空槽から第m+1真空槽へ搬送する工程を、前記mが1からn(nは2以上の整数)になるまで順に行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項7】
前記n個の真空槽がすべて1つの真空室に直結しており、前記支持体を真空槽間で搬送する際には前記真空室を必ず経由することを特徴とする、請求項6に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項8】
前記無機層を反応性スパッタリング法にて成膜することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項9】
前記無機層がSi34層もしくはAl23層であることを特徴とする、請求項8に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項10】
前記無機層をCVD法にて成膜することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項11】
前記無機層がSi34層であることを特徴とする、請求項10に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項12】
前記支持体がプラスチックフィルムであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項13】
前記第1真空槽に搬入する前記支持体が、表面に有機層を設けた支持体であり、前記有機層の上に前記無機層を成膜することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の無機層の真空成膜法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の真空成膜法により無機層を成膜したことを特徴とするバリア性積層体。
【請求項15】
請求項14に記載のバリア性積層体を用いたデバイス。
【請求項16】
請求項14に記載のバリア性積層体を封止フィルムとして用いたデバイス。
【請求項17】
前記デバイスが有機EL素子である請求項15または16に記載のデバイス。
【請求項18】
請求項14に記載のバリア性積層体を用いた光学部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−221541(P2009−221541A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67542(P2008−67542)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】