説明

煤煙フィルターの再生制御方法

【課題】煤煙フィルターを再生させる過程において、アイドル状態への進入、またはオーバラン状態への進入により非正常再生が実行されるとき、それぞれの状況に応じた再生制御を実行するようにする。
【解決手段】本発明の特徴による煤煙フィルターの再生制御方法は、煤煙フィルターの再生が進行する過程、アイドル状態であるか、またはオーバラン状態であるかを判断する過程、およびその判断結果によりディーゼル煤煙フィルターの再生を制御する過程を含み、アイドル状態であれば、酸素濃度と煤煙フィルターの入口の温度に応じたフィードバック制御により燃料噴射量を維持させて、煤煙フィルターの非正常再生を実行し、オーバラン状態であれば、燃料噴射量と排気流量に応じたフィードバック制御により燃料噴射量と吸入空気量を維持させて、煤煙フィルターの非正常再生を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煤煙フィルターに係り、より詳しくは、煤煙フィルターを再生させる過程における煤煙フィルターの再生制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンは、出力および燃費などで非常に優れた特性を有することから、ヨーロッパ諸国ではディーゼルエンジンを装着した車両の運行が大きく増加している。一方で、強化された排気規制によってEURO5以後からスス(Soot)などの粒子状物質(PM)を低減させるための煤煙フィルター(Diesel Particulate Filter:DPF)の装着が普遍化している。
上記煤煙フィルターは、排気ガスに含まれているスス(Soot)などの粒子状物質を物理的に捕集する。一定距離を走行した後、あるいはPMが捕集され、煤煙フィルターの排気入口と排気出口の両端間の差圧が設定された基準圧力以上になった場合、煤煙フィルターに捕集された粒子状物質は、エンジンの後噴射制御により、500〜600℃の高温に上昇した排気ガスによって燃焼され、煤煙フィルターが再生される。(特許文献1、2参照)
【0003】
煤煙フィルターが後噴射制御により再生される過程でアイドル状態に進入すると、図5に示したように、排気流量は少なく、酸素濃度は増大された環境となり、非正常な再生が実行されることになる(図5中のAエリア)。
また、煤煙フィルターが後噴射制御により再生される過程でオーバランに進入すると、図5に示したように、排気流量は増大し、酸素濃度は減少した環境で、非正常な再生が実行されることになる(図5中のBエリア)。
後噴射制御により煤煙フィルターを再生する過程で、上記のように相反する環境にあるアイドル状態への進入あるいはオーバラン状態への進入によって非正常な再生に進入した場合においても、それぞれの状況に対して区別をせずに同じ方法を適用して非正常な再生を実行していた。このため、煤煙フィルターの耐久性を低下させるという問題が発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−232544号公報
【特許文献2】特開2004−190666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来の問題点を解消するためになされたものであって、その目的とするところは、煤煙フィルターを再生させる過程において、アイドル状態への進入、またはオーバラン状態への進入により非正常な再生が実行されるとき、それぞれの状況に応じた再生制御を実行させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するための本発明による煤煙フィルターの再生制御方法は、煤煙フィルターの再生が進行される過程、アイドル状態であるか、またはオーバラン状態であるかを判断する過程、およびその判断結果により煤煙フィルターの再生を制御する過程を含む。
【0007】
非正常再生への進入原因がアイドル状態の進入であれば、酸素濃度と煤煙フィルターの入口の温度に応じたフィードバック制御により燃料噴射量を維持させて、煤煙フィルターの非正常再生を実行し、非正常再生の進入原因がオーバラン状態への進入であれば、燃料噴射量と排気流量に応じたフィードバック制御により燃料噴射量と吸入空気量を維持させて、煤煙フィルターの非正常再生を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上述した構成により、本発明は、煤煙フィルターの再生過程で発生する非正常再生の原因を区分し、それぞれの状況に応じた再生条件を提供することにより、煤煙フィルターの再生に信頼性を与え、耐久性と商品性を向上させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る煤煙フィルターの再生制御装置を概略的に示した概略図である。
【図2】本発明の実施形態によって煤煙フィルターの再生制御を実行するフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る煤煙フィルターの再生制御におけるアイドル状態進入による非正常再生制御手続を示したフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る煤煙フィルターの再生制御におけるオーバラン状態進入による非正常再生制御手続を示したフローチャートである。
【図5】煤煙フィルターの非正常再生における酸素濃度と排気流量の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。なお、図面において、本発明を明確にするために説明上不必要な部分は省略した。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る煤煙フィルターの再生制御装置を概略的に示した図面である。
本発明は、エンジン100、空気量センサ110、EGRバルブ120、スロットルバルブ130、煤煙フィルター200、第1酸素センサ210、第2酸素センサ220、温度センサ230、および制御部300を含む。
空気量センサ110は、吸気マニホールドの所定位置に装着され、エンジン100が駆動している状態でエンジン100に吸入される空気量を検出し、その情報を制御部300に提供する。
【0012】
EGRバルブ120は、排気再循環(Exhaust Gas Recirculation:EGR)で再循環する排気ガスの量を調整してエンジン100の燃焼温度を低くし、これによってエンジン100の燃焼過程で発生する窒素酸化物(NOx)の発生量を低減させる。
煤煙フィルター200は、排気ガスに含まれているスス(Soot)などの粒子状物質(PM)を物理的に捕集し、再生モードではエンジンの後噴射(燃焼工程後の追加噴射)により上昇する排気ガスの熱で捕集された粒子状物質が燃焼することにより再生される。
【0013】
第1酸素センサ210は、煤煙フィルター200の前端に流入する排気ガスの酸素濃度を検出し、その情報を制御部300に提供する。
第2酸素センサ220は、煤煙フィルター200の後端から排出される排気ガスの酸素濃度を検出し、その情報を制御部300に提供する。
温度センサ230は、煤煙フィルター200に流入する排気ガスの温度を検出し、その情報を制御部300に提供する。
【0014】
制御部300は、煤煙フィルター200の再生が進行している状態で、車速、エンジン回転数、酸素流量、加速ペダルなどの情報をモニタリングして、アイドル状態への進入あるいはオーバラン状態への進入による非正常再生への進入であるか否かを判断し、非正常再生の原因を判定する。
制御部300は、煤煙フィルター200の再生が進行している状況でアイドル状態に進入すれば、排気ガスに含まれている酸素濃度と煤煙フィルター200の入口の温度に応じて燃料噴射量およびEGRバルブ120を調節する。
したがって、アイドル状態で再生が活発に進行するように、酸素濃度を減少させ、入口の温度を上昇させる。つまり、燃料噴射が増加すれば、酸素濃度が設定された数値にまで減少し、入口の温度が設定された数値にまで上昇する。
また、制御部300は、煤煙フィルター200の再生が進行している状況でオーバラン状態に進入すれば、燃料噴射量と排気ガス流量に応じて燃料噴射量、スロットルバルブ130、およびEGRバルブ120を調節する。
オーバラン状態は、加速ペダルが作動せずに、エンジン回転数(RPM)が増加する状態であるため、燃料のインジェクション量が小さい状態で吸気空気の量が増えるので、煤煙フィルターの入口の温度が低くなり、酸素の濃度が増加して再生効率が低くなる。本発明の実施形態においては、オーバラン状態で燃料の噴射量を増やし、吸気空気の量を減らすことで、酸素濃度が減少し、入口の温度を上昇させることができる。
【0015】
上述のような機能を含む本発明の動作について、さらに具体的に説明する。
煤煙フィルター200の再生が進行する過程で(S101)、制御部300は、車速、エンジン回転数、第1、2酸素センサ210、220を通じて検出される排気ガスに含まれている酸素流量、煤煙フィルター200の前端温度などの運転情報をモニタリングし(S102)、車両が減速されているかを判断する(S103)。
S103で車両の減速が生じない状態であれば、S101の過程にリターンして現在の条件で煤煙フィルター200の再生を維持し、車両の減速が判定されれば、減速による停止が実行されたかを検出する(S104)。
【0016】
S104で車両の停止が検出されれば、煤煙フィルター200の再生による粒子状物質の捕集量と設定された臨界値(再生完了判断の基準値)を比較して、正常な再生が完了したかを判断する(S105)。
S105で煤煙フィルター200の正常な再生が完了したと判断すれば、再生動作を終了する(S109)。
しかし、S105で煤煙フィルター200の正常な再生が完了しない状態であれば、アイドル状態の進入による非正常再生の進入であるか否かを判断する(S106)。
S106でアイドル状態の進入による非正常再生の進入であれば、排気ガスに含まれている酸素濃度と煤煙フィルター200の入口側の温度に応じたフィードバック制御により非正常再生を実行する(S107)。
【0017】
非正常再生が進行する状態で、煤煙フィルター200の入口の温度が設定された基準温度以下と検出されたか否かを判断し(S108)、設定された基準温度以下に降下していなければ、S107の過程にリターンして非正常再生を反復実行し、設定された基準温度以下に降下していれば、煤煙フィルター200の再生が完了したと判定して再生動作を終了する(S109)。
【0018】
また、S104で車両の減速による停止が検出されなければ、エンジン回転数(RPM)の上昇または下降を感知して、アイドル状態に進入したかを判断する(S110)。
S110でアイドル状態に進入すれば、S101の過程にリターンして煤煙フィルター200の正常な再生を持続し、アイドル状態に進入していなければ、煤煙フィルター200の再生による捕集量と設定された臨界値(再生完了判断の基準値)とを比較する(S111)。
【0019】
S111で煤煙フィルター200の正常な再生が完了したと判断すれば、再生動作を終了し(S115)、S111で煤煙フィルター200の正常な再生が完了しない状態であれば、オーバランによる非正常再生の進入であるかを判断する(S112)。
S112でオーバランによる非正常再生の進入であると判断されれば、燃料噴射量と排気流量に応じたフィードバック制御によりオーバラン状態での非正常再生を実行する(S113)。
非正常再生が進行する状態で、煤煙フィルター200の入口の温度が設定された基準温度以下と検出されたか否かを判断し(S114)、設定された基準温度以下に降下していなければ、S113の過程にリターンして非正常再生を反復実行し、設定された基準温度以下に降下していれば、煤煙フィルター200の再生が完了したと判定して再生動作を終了する(S115)。
【0020】
アイドル状態への進入による非正常再生について、図3を参照して具体的に説明する。
非正常再生が実行される状態でアイドル燃料噴射量を検出し(S201)、燃料噴射量の変化が生じたかを判断する(S202)。
S202でアイドル燃料噴射量に変化が生じたと判断すれば、燃料噴射量の調節とEGRバルブ120により再循環する排気ガスの流量を調整して、煤煙フィルター200の非正常再生を調整する(S203)。
そして、排気ガスに含まれている酸素濃度および煤煙フィルター200の入口の温度を検出した後(S204)、基準値と比較する(S205)。
S205で、酸素濃度が基準濃度未満であり、煤煙フィルター200の入口の温度が基準温度未満であれば、燃料噴射量を現在の条件で維持してアイドル進入による非正常再生を実行する(S206)。
【0021】
次に、オーバランへの進入による非正常再生について、図4を参照して具体的に説明する。
非正常再生が実行される状態で、アイドル燃料噴射量を検出し(S301)、燃料噴射量の変化が生じたかを判断する(S302)。
S302でアイドル燃料噴射量に変化が生じたと判断すれば、燃料噴射量の調節と吸入空気量の調節およびEGRバルブ120により再循環する排気ガスの流量を調整して、煤煙フィルター200の非正常再生を調整する(S303)。
そして、燃料噴射量と排気流量を検出して燃料噴射量が基準量未満であり、排気流量が基準量未満であれば(S304)、燃料噴射量と吸入空気量を維持してオーバランによる非正常再生を実行する(S305)。
【0022】
以上、本発明に関する好ましい実施例を説明したが、本発明は前記実施例に限定されず、本発明のの属する技術的範囲を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。

【符号の説明】
【0023】
100 エンジン
110 空気量センサ
120 EGRバルブ
130 スロットルバルブ
200 煤煙フィルター
210 第1酸素センサ
220 第2酸素センサ
230 温度センサ
300 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
煤煙フィルターの再生が進行する過程、
アイドル状態であるか、またはオーバラン状態であるかを判断する過程、および
その判断結果により煤煙フィルターの再生を制御する過程、
を含むことを特徴とする煤煙フィルターの再生制御方法。
【請求項2】
アイドル状態であれば、酸素濃度と煤煙フィルターの入口の温度に応じたフィードバック制御により燃料噴射量を維持させて、煤煙フィルターの非正常再生を実行することを特徴とする請求項1に記載の煤煙フィルターの再生制御方法。
【請求項3】
オーバラン状態であれば、燃料噴射量と排気流量に応じたフィードバック制御により燃料噴射量と吸入空気量を維持させて、煤煙フィルターの非正常再生を実行することを特徴とする請求項1に記載の煤煙フィルターの再生制御方法。
【請求項4】
煤煙フィルターの再生が進行する過程で非正常再生が実行されたか否かを判断する過程、
非正常再生への進入であると判断すれば、進入原因を判定する過程、
アイドル状態による非正常再生であれば、酸素濃度と煤煙フィルターの入口の温度に応じたフィードバック制御により非正常再生を実行する過程、
オーバラン状態による非正常再生であれば、燃料噴射量と排気流量に応じたフィードバック制御により非正常再生を実行する過程、
を含むことを特徴とする煤煙フィルターの再生制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−117438(P2011−117438A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153013(P2010−153013)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(500518050)起亞自動車株式会社 (449)
【Fターム(参考)】