説明

牽引車両の制御装置

【課題】4輪駆動車の前後軸間の駆動力配分制御と牽引走行における揺動抑止制御とを適切に協調して行い、最適な揺動抑止効果を安定して得る。
【解決手段】牽引車両100の走行状態に基づいて該牽引車両100に発生する揺動状態を検出し、検出した牽引車両100の揺動状態に基づいて該揺動を抑制する制御の実行を判定し、揺動を抑制する制御を実行すると判定した場合にブレーキ制御部32に信号を出力して制動力により牽引車両にヨーモーメントを発生させて揺動を抑制する等の制御を実行させると共に、この揺動を抑制する制御を実行する場合に前後駆動力配分制御部31によるトランスファクラッチトルクTlsdを前後軸間の駆動力配分を前軸側に多く移動補正して出力させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンピングトレーラ、トラベルトレーラ等の被牽引車両を牽引し、特に、4輪駆動形式の牽引車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、キャンピングトレーラ、トラベルトレーラ等の被牽引車両を牽引する牽引車両においては、路面状況やコーナリング等の走行状況に応じて、被牽引車両を牽引することによる揺動が生じることがある。このため、例えば、特開2009−101994号公報(以下、特許文献1)では、ヨーレート、算出したヨーレート、ヨーレート偏差を観察してトレーラの揺動力が牽引車両に作用しているか否かを判定し、牽引車両に当該揺動力が作用している場合には、牽引車両のエンジントルクを減少させ、牽引車両のそれぞれの車輪に独立した制動力を付加させて牽引車両の揺動を低減させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−101994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしがなら、牽引車両が4輪駆動車である場合には、4輪駆動車の前後軸間の駆動力配分制御が、上述の揺動抑止制御とは独立して走行状態に応じて実行されてしまうと、上述の揺動抑止制御による十分な揺動抑止効果を得られなくなり、安定した牽引走行が困難になってしまう虞がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、4輪駆動車の前後軸間の駆動力配分制御と牽引走行における揺動抑止制御とを適切に協調して行い、最適な揺動抑止効果を安定して得ることができる牽引車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の牽引車両の制御装置の一態様は、被牽引車両を牽引する牽引車両において、上記牽引車両の走行状態に基づいて該牽引車両に発生する揺動状態を検出する揺動状態検出手段と、上記検出した上記牽引車両の揺動状態に基づいて該揺動を抑制する制御の実行を判定する揺動抑制制御実行判定手段と、上記揺動を抑制する制御を実行すると判定した場合にアクチュエータを作動させて上記揺動を抑制する制御を実行する揺動抑制制御実行手段と、上記揺動を抑制する制御を実行する場合に前後軸間の駆動力配分を前軸側に多く移動補正する前後軸間の締結トルクを可変制御して該前後軸間の駆動力配分を制御する前後駆動力配分制御手段とを備えた。
【発明の効果】
【0007】
本発明による牽引車両の制御装置によれば、4輪駆動車の前後軸間の駆動力配分制御と牽引走行における揺動抑止制御とを適切に協調して行い、最適な揺動抑止効果を安定して得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態に係る被牽引車両を牽引する牽引車両の説明図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る牽引車両全体の概略構成を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る制御ユニットの機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施の一形態に係る揺動状態検出処理のフローチャートである。
【図5】本発明の実施の一形態に係る揺動防止制御判定処理のフローチャートである。
【図6】本発明の実施の一形態に係るトランスファクラッチトルク算出処理のフローチャートである。
【図7】本発明の実施の一形態に係る車速感応ゲインの特性図である。
【図8】本発明の実施の一形態に係る制動力の前後配分比の特性図である。
【図9】本発明の実施の一形態に係る揺動補正ゲインの特性図である。
【図10】本発明の実施の一形態に係る駆動や制動を伴いながら横すべりするタイヤに働く前後方向、及び、横方向の力の説明図であり、図10(a)は前後力を増加させたときの前輪側を示し、図10(b)は前後力を減少させたときの後輪側を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号100はキャンピングトレーラ、トラベルトレーラ等の被牽引車両200を牽引する牽引車両(自車両)を示し、この牽引車両100と被牽引車両200とは、連結器150で連結されており、連結器150の前端部が牽引車両100の後部の連結部分100aに接続され、連結器150の後端部が被牽引車両200の前部の連結部分200aに接続されている。
【0010】
図2に示すように、牽引車両100は、エンジン1による駆動力は、エンジン1後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)2からトランスミッション出力軸2aを経てトランスファ3に伝達される。
【0011】
更に、このトランスファ3に伝達された駆動力は、リヤドライブ軸4、プロペラシャフト5、ドライブピニオン軸部6を介して後輪終減速装置7に入力される一方、リダクションドライブギヤ8、リダクションドリブンギヤ9、ドライブピニオン軸部となっているフロントドライブ軸10を介して前輪終減速装置11に入力される。ここで、自動変速装置2、トランスファ3および前輪終減速装置11等は、一体にケース12内に設けられている。
【0012】
また、後輪終減速装置7に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸13rlを経て左後輪14rlに、後輪右ドライブ軸13rrを経て右後輪14rrに伝達される。前輪終減速装置11に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13flを経て左前輪14flに、前輪右ドライブ軸13frを経て右前輪14frに伝達される。
【0013】
トランスファ3は、リダクションドライブギヤ8側に設けたドライブプレート15aとリヤドライブ軸4側に設けたドリブンプレート15bとを交互に重ねて構成したトルク伝達容量可変型クラッチとしての湿式多板クラッチ(トランスファクラッチ)15と、このトランスファクラッチ15の締結力(後軸駆動トルク)を可変自在に付与するトランスファピストン16とにより構成されている。従って、本車両は、トランスファピストン16による押圧力を制御し、トランスファクラッチ15の締結力を制御することで、トルク配分比が前輪と後輪で、例えば100:0から50:50の間で可変できるフロントエンジン・フロントドライブ車ベース(FFベース)の4輪駆動車となっている。
【0014】
トランスファピストン16の押圧力は、複数のソレノイドバルブ等を擁した油圧回路で構成するトランスファクラッチ駆動部31aで与えられる。このトランスファクラッチ駆動部31aを駆動させる制御信号(トランスファクラッチトルク:前後軸間の締結トルク)Tlsdは、前後駆動力配分制御部31から出力される。
【0015】
前後駆動力配分制御部31は、例えば、以下の(1)式により、トランスファクラッチトルクTlsdを算出し、後述の如く、制御ユニット30で必要に応じて補正して(揺動を抑制する制御を実行する場合に前後軸間の駆動力配分を前軸側に多く移動補正して)トランスファクラッチ駆動部31aに出力する。
Tlsd=(1/(1+Tawd・s))・Fd・Gawd …(1)
ここで、Tawdはローパスフィルタ(一次遅れフィルタ)の時定数、sはラプラス演算子、Gawdは制御ゲイン(所定値)である。また、Fdはトランスファ入力トルクであり、例えば、以下の(2)式により算出される。
Fd=f(θp,ωe)・(i・Gf) …(2)
ここで、f(θp,ωe)は、予め設定しておいたマップ(エンジン特性のマップ)を参照して、アクセル開度θp、エンジン回転数ωeを基に推定するエンジン出力トルクである。また、iは自動変速装置2の主変速ギヤ比、Gfはファイナルギヤ比である。尚、トランスファクラッチトルクTlsdは、上述の(1)式で算出されるものに限定するものではなく、他のマップ参照、計算等で設定する値であっても良い。このように、前後駆動力配分制御部31は、前後駆動力配分制御手段を構成している。
【0016】
一方、符号32aは、車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部32aには、ドライバにより操作されるブレーキペダルと接続されたマスターシリンダ(図示せず)が接続されている。そして、ドライバがブレーキペダルを操作するとマスターシリンダにより、ブレーキ駆動部32aを通じて、4輪14fl,14fr,14rl,14rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ17fl,右前輪ホイールシリンダ17fr,左後輪ホイールシリンダ17rl,右後輪ホイールシリンダ17rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪が制動される。
【0017】
ブレーキ駆動部32aは、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、上述のドライバによるブレーキ操作以外にも、ブレーキ制御部32からの信号に応じて、各ホイールシリンダ17fl,17fr,17rl,17rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に構成されている。
【0018】
ブレーキ制御部32は、公知のABS(Antilock Brake System)制御や、横すべり防止制御を行って、所定の車輪を独立して選択し、ブレーキ力を付加するようにブレーキ駆動部32aに信号出力する。また、ブレーキ制御部32は、後述する如く、制御ユニット30から揺動を抑制する制動力(揺動外側前輪制動力FBf、揺動外側後輪制動力FBr)が入力された際には、該当する制動力をブレーキ駆動部32aに出力させる。このように、ブレーキ制御部32は、揺動抑制制御実行手段を構成している。
【0019】
制御ユニット30には、車速センサ21から車速Vが入力され、ハンドル角センサ22からハンドル角θHが入力され、ヨーレートセンサ23からヨーレート(実際の検出値であるため、第1のヨーレートとする)γ1が入力され、横加速度センサ24から横加速度(dy/dt)が入力され、ブレーキペダルスイッチ25からブレーキペダルのON−OFF信号が入力され、路面摩擦係数推定装置26から推定した路面摩擦係数μが入力される。尚、本実施の形態では、ハンドル角θH、第1のヨーレートγ1、横加速度(dy/dt)のように、信号値に左右の方向があるものについては、左旋回(反時計廻り)時に発生する符号を「+」とする。
【0020】
制御ユニット30は、これらの入力信号に基づいて、牽引車両100の走行状態に基づいて該牽引車両100に発生する揺動状態を検出し、検出した牽引車両100の揺動状態に基づいて該揺動を抑制する制御の実行を判定し、揺動を抑制する制御を実行すると判定した場合にブレーキ制御部32に信号を出力して制動力により牽引車両にヨーモーメントを発生させて揺動を抑制する等の制御を実行させると共に、この揺動を抑制する制御を実行する場合に前後駆動力配分制御部31によるトランスファクラッチトルクTlsdを前後軸間の駆動力配分を前軸側に多く移動補正して出力させる。
【0021】
すなわち、制御ユニット30には、図3に示すように、第2のヨーレート算出部30a、第3のヨーレート算出部30b、ヨーレート偏差算出部30c、揺動状態検出部30d、制御判定部30e、ブレーキ力算出部30f、トランスファクラッチトルク算出部30gから主要に構成されている。
【0022】
第2のヨーレート算出部30aは、車速センサ21から車速Vが入力され、横加速度センサ24から横加速度(dy/dt)が入力される。そして、例えば、以下の(3)式により、横加速度を基にした第2のヨーレートγ2を算出して揺動状態検出部30dに出力する。
γ2=(dy/dt)/V …(3)
【0023】
第3のヨーレート算出部30bは、車速センサ21から車速Vが入力され、ハンドル角センサ22からハンドル角θHが入力される。そして、例えば、以下の(4)式により、第3のヨーレートγ3を算出してヨーレート偏差算出部30cに出力する。
γ3=(1/(1+A・V))・(V/l)・(θH/n) …(4)
ここで、Aは車両固有のスタビリティファクタ、lはホイールベース、nはステアリングギヤ比である。
【0024】
ヨーレート偏差算出部30cは、ヨーレートセンサ23から第1のヨーレートγ1が入力され、第3のヨーレート算出部30bから第3のヨーレートγ3が入力される。そして、以下の(5)式により、ヨーレート偏差Δγを算出して揺動状態検出部30d、ブレーキ力算出部30fに出力する。
Δγ=γ1−γ3 …(5)
【0025】
揺動状態検出部30dは、車速センサ21から車速Vが入力され、ハンドル角センサ22からハンドル角θHが入力され、ヨーレートセンサ23から第1のヨーレートγ1が入力され、第2のヨーレート算出部30aから第2のヨーレートγ2が入力され、ヨーレート偏差算出部30cからヨーレート偏差Δγが入力される。そして、後述の図4に示す揺動状態検出処理のフローチャートに従って、これら第1のヨーレートγ1、第2のヨーレートγ2、ヨーレート偏差Δγの信号を観察して、設定車速Vc(例えば、50km/h)を越える走行状態における牽引車両100の左右への揺動状態を、第1のヨーレートγ1、第2のヨーレートγ2、ヨーレート偏差Δγのそれぞれで検出し、検出結果を、第1の振動カウンタ値C01(第1のヨーレートγ1が右(左)側から左(右)側へ揺動した回数)、第2の振動カウンタ値C02(第2のヨーレートγ2が右(左)側から左(右)側へ揺動した回数)、第3の振動カウンタ値C03(ヨーレート偏差Δγが右(左)側から左(右)側へ揺動した回数)、第1の振動タイマ値Ti1(第1のヨーレートγ1が左(右)側へ揺動してからの継続時間)、第2の振動タイマ値Ti2(第2のヨーレートγ2が左(右)側へ揺動してからの継続時間)として、制御判定部30eに出力すると共に、第1のヨーレートγ1の振幅値をトランスファクラッチトルク算出部30gに出力する。このように、揺動状態検出部30dは、揺動状態検出手段として設けられている。
【0026】
制御判定部30eは、車速センサ21から車速Vが入力され、ハンドル角センサ22からハンドル角θHが入力され、ブレーキペダルスイッチ25からブレーキペダルのON−OFF信号が入力され、揺動状態検出部30dから上述の設定車速Vc(例えば、50km/h)を越える走行状態における牽引車両100の左右への揺動状態が入力される。そして、後述の図5に示す揺動防止制御判定処理のフローチャートに従って、揺動を抑制する制御を実行するか、停止するか、現在の状況を継続するか判定する。具体的には、車速Vが設定車速Vc(例えば、50km/h)を越え、かつ、第1の振動カウンタ値C01が設定回数K1を越え、かつ、第2の振動カウンタ値C02が設定回数K1を越え、かつ、第3の振動カウンタ値C03が設定回数K1を越え、かつ、ブレーキペダルスイッチ25がOFFのとき揺動を抑制する制御を実行すると判定する。また、上述の揺動を抑制する制御実行の条件が成立しないときに、車速Vが設定車速Vc(例えば、50km/h)を越え、或いは、第1の振動タイマ値Ti1が設定タイムアウト時間Tc1を越えている場合、或いは、第2の振動タイマ値Ti2が設定タイムアウト時間Tc1を越えている場合、或いは、ハンドル角θHが設定角θcを越えている場合、或いは、ブレーキペダルスイッチ25がONの場合のときには、揺動を抑制する制御を停止とさせる。更に、これ以外の条件の場合には、現在の状況を継続させる。この制御判定部30eの判定結果は、ブレーキ力算出部30f、トランスファクラッチトルク算出部30gに出力される。このように、制御判定部30eは、揺動抑制制御実行判定手段として設けられている。
【0027】
ブレーキ力算出部30fは、車速センサ21から車速Vが入力され、横加速度センサ24から横加速度(dy/dt)が入力され、路面摩擦係数推定装置26から推定した路面摩擦係数μが入力され、ヨーレート偏差算出部30cからヨーレート偏差Δγが入力され、制御判定部30eから揺動を抑制する制御を実行するか、停止するかの信号が入力される。そして、揺動を抑制する制御を実行する場合には、例えば、以下の(6)式に従って、揺動を抑止するべく車体に発生させる目標ヨーモーメントMztを算出する。
Mzt=Δγ・GMZ・GMZV …(6)
ここで、GMZは予め実験・計算等により設定しておいたゲイン、GMZVは、例えば、予め実験・計算等により設定しておいた図7に示すような特性図を参照して設定する車速感応ゲインである。
【0028】
ブレーキ力算出部30fは、目標ヨーモーメントMztを基に、例えば、以下の(7)式に従って、揺動を抑止するべく車体に発生させる制動力FBを算出する。
FB=FBf+FBr=2・Mzt/w …(7)
ここで、wはトレッドである。
【0029】
ブレーキ力算出部30fは、算出した制動力FBを用いて、例えば、以下の(8)、(9)式により、揺動外側前輪制動力FBf、揺動外側後輪制動力FBrを算出し、ブレーキ制御部32に出力する。
FBf=FB・DB …(8)
FBr=FB・(1−DB) …(9)
ここで、DBは、例えば、図8に示すような、予め設定しておいたマップを参照して設定される制動力の前後配分比である。この制動力の前後配分比DBは、本実施の形態では、タイヤのグリップ状態が限界に近づく(すなわち、|dy/dt|/μが大きくなる)に従って、制動力の前後配分比DBを静止時の接地荷重配分比に近い値から減少させて設定するようになっている。尚、制動力の前後配分比DBは、このような特性とすることに限るものではない。このように、ブレーキ力算出部30fは、ブレーキ制御部32と共に揺動抑制制御実行手段を構成している。
【0030】
トランスファクラッチトルク算出部30gは、路面摩擦係数推定装置26から推定した路面摩擦係数μが入力され、揺動状態検出部30dから第1のヨーレートγ1の振幅値が入力され、制御判定部30eから揺動を抑制する制御を実行するか、停止するかの信号が入力され、前後駆動力配分制御部31からトランスファクラッチトルクTlsdが入力される。そして、トランスファクラッチトルク算出部30gは、トランスファクラッチトルクTlsdに対し、以下の(10)式に示すように、揺動補正ゲインK1_Tlsdを乗算することでトランスファクラッチトルクTlsdを補正して、前後駆動力配分制御部31に出力する。
Tlsd=Tlsd・K1_Tlsd …(10)
【0031】
揺動補正ゲインK1_Tlsdは、揺動を抑制する制御を実行する場合は、例えば、予め実験・計算等により設定しておいた図9に示すような揺動補正ゲインの特性図を参照して設定される。この図9の揺動補正ゲインの特性図は、第1のヨーレートγ1の振幅値が大きく揺動が大きい場合ほど、路面摩擦係数μが大きい場合ほど、小さな値に設定され、トランスファクラッチトルクTlsdが小さな値となり、前軸から後軸へと移動される駆動力が減少補正される。
【0032】
すなわち、図10に示すように、揺動を抑制する制御を実行する場合に、前軸から後軸へと移動される駆動力が減少補正されて、タイヤの横すべり角β1において、点P1から点P2へとタイヤの前後力Fxと横力Fyの関係が変化すると、前輪側では、図10(a)に示すように、前後力FxはΔFx増加されるが、横力FyはΔFy減少される。逆に、後輪側では、図10(b)に示すように、前後力FxはΔFx減少されるが、横力FyはΔFy増加される。このように、牽引車両100の後輪側の横力が増加されることにより、被牽引車両200を牽引することにより生じるヨーモーメントを増加した横力により抑制することが可能となり、4輪駆動車の前後軸間の駆動力配分制御と牽引走行における揺動抑止制御とを適切に協調して行い、最適な揺動抑止効果を安定して得ることが可能となるのである。尚、揺動を抑制する制御を実行する場合以外は、揺動補正ゲインK1_Tlsdは、1に設定される。このように、トランスファクラッチトルク算出部30gは、前後駆動力配分制御部31と共に前後駆動力配分制御手段を構成している。
【0033】
次に、揺動状態検出部30dで実行される揺動状態検出処理を、図4のフローチャートで説明する。尚、このフローチャートは、第1のヨーレートγ1、第2のヨーレートγ2、ヨーレート偏差Δγのそれぞれの信号毎に実行される処理となっている。
【0034】
まず、ステップ(以下、「S」と略称)S101で、信号の最大値と最小値の判定を実行し、信号の振幅値(最大値−最小値)を算出する。
【0035】
次いで、S102に進み、振動タイマをインクリメントする。
【0036】
そして、S103に進んで、以下の左揺動条件が成立するか否か判定する。
左揺動条件とは、信号の値が予め設定した値を越えており、かつ、振幅値が予め設定した閾値を越えており、かつ、ドライバのステアリング入力(ハンドル角θHにより判定)が左ではなく、かつ、前の揺動方向が左ではない場合である。
【0037】
S103の左揺動条件が成立する場合は、S104に進んで、揺動方向を左と決定し、振動カウンタをインクリメントし、振動タイマをリセットして、S107へと進む。
【0038】
また、S103の左揺動条件が不成立の場合は、S105に進んで、以下の右揺動条件が成立するか否か判定する。
右揺動条件とは、信号の値が予め設定した値未満、かつ、振幅値が予め設定した閾値を越えており、かつ、ドライバのステアリング入力(ハンドル角θHにより判定)が右ではなく、かつ、前の揺動方向が右ではない場合である。
【0039】
S105の右揺動条件が成立する場合は、S106に進んで、揺動方向を右と決定し、振動カウンタをインクリメントし、振動タイマをリセットして、S107へと進む。また、S105の右揺動条件が不成立の場合は、そのままS107に進む。
【0040】
S104、S105、S106からS107に進むと、停止条件(車速Vが設定車速Vc(例えば、50km/h)未満、或いは、振動タイマが設定タイムアウト時間を越えている)が成立するか否か判定し、停止条件が成立している場合は、S108に進んで、揺動方向は0(左右の何れにも揺動していない状態)とし、振動カウンタをリセットしてルーチンを抜ける。また、停止条件が成立していない場合は、そのままルーチンを抜ける。
【0041】
次に、制御判定部30eで実行される揺動防止制御判定処理を図5のフローチャートで説明する。
【0042】
先ず、S201で、車速Vが設定車速Vc(例えば、50km/h)を越え、かつ、第1の振動カウンタ値C01が設定回数K1を越え、かつ、第2の振動カウンタ値C02が設定回数K1を越え、かつ、第3の振動カウンタ値C03が設定回数K1を越え、かつ、ブレーキペダルスイッチ25がOFFの条件が成立するか否か判定する。
【0043】
そして、上述のS201の条件が成立する場合は、揺動を抑制する制御を実行すべくS202に進み、揺動防止制御実行フラグFlをセット(Fl=1)してルーチンを抜ける。
【0044】
また、S201の条件が不成立の場合は、S203に進み、車速Vが設定車速Vc(例えば、50km/h)を越えているか、或いは、第1の振動タイマ値Ti1が設定タイムアウト時間Tc1を越えているか、或いは、第2の振動タイマ値Ti2が設定タイムアウト時間Tc1を越えているか、或いは、ハンドル角θHが設定角θcを越えているか、或いは、ブレーキペダルスイッチ25がONか判定する。
【0045】
S203の条件が成立する場合は、揺動を抑制する制御を停止すべくS204に進み、揺動防止制御実行フラグFlをクリア(Fl=0)してルーチンを抜ける。また、S203の条件が非成立の場合は、現状の制御状態を継続とし、ルーチンを抜ける。
【0046】
次に、トランスファクラッチトルク算出部30gで実行されるトランスファクラッチトルク算出処理を図6のフローチャートで説明する。
【0047】
先ず、S301で揺動防止制御実行フラグFlがセットされている(Fl=1)か否か判定され、Fl=1の場合は、S302に進み、揺動補正ゲインK1_Tlsdを、例えば、予め実験・計算等により設定しておいた図9に示すような揺動補正ゲインの特性図を参照して設定する。
【0048】
また、揺動防止制御実行フラグFlがクリアされている(Fl=0)場合は、S303に進み、揺動補正ゲインK1_Tlsdを1に設定する。
【0049】
S302、或いは、S303で揺動補正ゲインK1_Tlsdを設定した後は、S304に進み、トランスファクラッチトルクTlsdを、前述の(10)式により算出してルーチンを抜ける。
【0050】
このように本発明の実施の形態によれば、牽引車両100の走行状態に基づいて該牽引車両100に発生する揺動状態を検出し、検出した牽引車両100の揺動状態に基づいて該揺動を抑制する制御の実行を判定し、揺動を抑制する制御を実行すると判定した場合にブレーキ制御部32に信号を出力して制動力により牽引車両にヨーモーメントを発生させて揺動を抑制する等の制御を実行させると共に、この揺動を抑制する制御を実行する場合に前後駆動力配分制御部31によるトランスファクラッチトルクTlsdを前後軸間の駆動力配分を前軸側に多く移動補正して出力させる。このため、揺動を抑制する制御を実行する場合には、牽引車両100の後輪側の横力が増加されて、被牽引車両200を牽引することにより生じるヨーモーメントを、この増加した横力により抑制することが可能となり、4輪駆動車の前後軸間の駆動力配分制御と牽引走行における揺動抑止制御とを適切に協調して行い、最適な揺動抑止効果を安定して得ることが可能となる
尚、本発明の実施の形態では、牽引走行における揺動抑止制御においては制動力を利用して揺動を抑制することのみを、例として説明しているが、この制動力制御に加え、エンジン駆動力を路面摩擦係数μに応じて減少させる(路面摩擦係数μが大きい場合ほどエンジン駆動力を減少させる)ことにより揺動を抑制する制御を行うようにしても良い。
【0051】
また、本実施の形態の牽引車両100の4輪駆動の形式は、トルク配分比が前輪と後輪で、例えば100:0から50:50の間で可変できる形式のもので説明しているが、他に、後輪ベースの、例えば、30:70から50:50の間で可変できる形式のものであっても、揺動を抑制する制御を実行する場合に前後軸間の駆動力配分を前軸側に多く移動補正するように前後軸間の締結トルクを可変制御して、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 エンジン
2 自動変速装置
3 トランスファ
14fl、14fr、14rl、14rr 車輪
15 トランスファクラッチ
30 制御ユニット
30a 第2のヨーレート算出部
30b 第3のヨーレート算出部
30c ヨーレート偏差算出部
30d 揺動状態検出部(揺動状態検出手段)
30e 制御判定部(揺動抑制制御実行判定手段)
30f ブレーキ力算出部(揺動抑制制御実行手段)
30g トランスファクラッチトルク算出部(前後駆動力配分制御手段)
31 前後駆動力配分制御部(前後駆動力配分制御手段)
32 ブレーキ制御部(揺動抑制制御実行手段)
100 牽引車両
150 連結器
200 被牽引車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被牽引車両を牽引する牽引車両において、
上記牽引車両の走行状態に基づいて該牽引車両に発生する揺動状態を検出する揺動状態検出手段と、
上記検出した上記牽引車両の揺動状態に基づいて該揺動を抑制する制御の実行を判定する揺動抑制制御実行判定手段と、
上記揺動を抑制する制御を実行すると判定した場合にアクチュエータを作動させて上記揺動を抑制する制御を実行する揺動抑制制御実行手段と、
上記揺動を抑制する制御を実行する場合に前後軸間の駆動力配分を前軸側に多く移動補正する前後軸間の締結トルクを可変制御して該前後軸間の駆動力配分を制御する前後駆動力配分制御手段と、
を備えたことを特徴とする牽引車両の制御装置。
【請求項2】
上記前後駆動力配分制御手段による上記移動補正の補正量は、上記牽引車両の揺動状態と路面状況の少なくとも一方に応じて可変することを特徴とする請求項1記載の牽引車両の制御装置。
【請求項3】
上記揺動抑制制御実行手段は、上記牽引車両の所定に選択した車輪に付加する制動力により該牽引車両にヨーモーメントを発生させて揺動を抑制することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の牽引車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−206698(P2012−206698A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76028(P2011−76028)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】