説明

環境保護用の歪み耐性皮膜

【課題】中程度の温度及び腐食性環境に暴露されるタービンエンジン部品のための耐食性皮膜系を提供する。
【解決手段】本耐食性皮膜系は、第1の皮膜と第2の皮膜とを有する。第1の皮膜は、マトリックス63と耐食性粒子65とを含む。マトリックス63は、好ましくはシリカ、シリコーン、リン酸塩、クロム酸塩及びこれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス材料である。耐食性粒子65はマトリックス中に均一に分散し、皮膜に所定の熱膨張率を与える。粒子65は第1の皮膜に耐食性を与える。第2の皮膜は第1の皮膜の少なくとも一部に設けられる。第2の皮膜は、第1の皮膜の表面を十分に封止して汚染物質の浸透を低減又は防止することができる有機材料を含み、高温への暴露によって除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中程度の温度及び腐食性環境に暴露されるタービンエンジン部品のための、仮有機皮膜を含む耐食性皮膜系、並びにかかる皮膜系をタービンエンジン部品に施工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機ガスタービンエンジンでは、空気をエンジン前方から吸い込んで、シャフトに装着された圧縮機で加圧し、燃料と混合する。混合気を燃焼させて、高温排気ガスを、同じシャフトに取付けられたタービンに流す。燃焼ガスの流れがタービン動翼の翼形部に当たってタービンを回転させ、タービンがシャフトを回転させて、圧縮機に動力を供給する。高温排気ガスがエンジン後方から排出され、エンジン及び航空機を前方に駆動する。燃焼及び排気ガス温度が高いほど、ジェットエンジンの作動効率が高まる。そのため、燃焼ガス温度を高めることが奨励される。
【0003】
航空機ガスタービンエンジンの圧縮機部分では、周囲空気を大気圧の10〜25倍に圧縮し、その過程で800〜1250°Fに断熱的に加熱される。この加熱圧縮空気を燃焼器に導き、そこで燃料と混合する。燃料を点火し、燃焼過程でガスを3000°F超の極めて高温に加熱する。この高温ガスがタービンを通過する際に回転タービンホイールでエネルギーが抽出されてエンジンのファン及び圧縮機を駆動し、排気系を通過する際にガスが航空機を推進させるための推力を供給する。航空機エンジンの作動効率を向上させるため、燃焼温度の上昇が図られてきた。燃焼温度の上昇に伴って、作動温度の高温化によるエンジン部品の劣化を直接的及び間接的に防止するための対策を講じる必要があることはいうまでもない。
【0004】
性能要求には高推力化及び燃料経済性の向上が含まれるので、新エンジン及び実績のある設計の変更のための性能向上の要求は増大し続けている。エンジン性能を向上させるため、燃焼温度は非常に高い温度まで高められてきた。これによって高推力化及び/又は燃料経済性の向上が可能となる。かかる燃焼温度は、燃焼経路内にない超合金部品でさえも劣化されるほどの高温になっている。これらの超合金部品は概して前例のないメカニズムによる劣化を受け、これまで報告されていない解決すべき問題を生じる。高性能航空機エンジンの修復時に最近発見された問題の一つは、タービンディスク、シールその他の冷却空気が供給される部品の腐食ピットである。冷却空気は、吸い込まれた粒状物、例えば塵埃、火山灰、フライアッシュ、コンクリート塵、砂、海塩など、粒子もしくは気体状の金属、硫酸塩、亜硫酸塩、塩化物、炭酸塩、多種多様な酸化物及び/又は様々な塩を含んでいる。これらの物質は基材表面に付着する。これらの物質が金属表面に付着すると、そうした物質同士で又は金属表面と相互作用して表面を腐食するおそれがあり、腐食は高温で加速される。タービンエンジンに用いられる材料は通例、それらの耐食性を含めた高温特性に基づいて選択される。こうした材料であっても、高温での過酷な条件下では劣化する。観察された腐食ピットの問題を検討したところ、腐食ピットは、冷却空気の流れと接するディスク、シールその他の部品に周囲空気中に浮遊する粒状又は気体状異物が付着して生じた腐食生成物の形成に起因することが判明した。こうした付着が、これらのエンジン部品が遭遇する温度レジームの高温化と相俟って、腐食生成物を形成する。なお、腐食生成物は、燃料中の夾雑物による酸化及び腐食生成物が通常不随する高温燃焼ガスにエンジン部品が暴露される結果ではない。本明細書で検討するシール、タービンディスクその他の部品は一般に、漏れが存在する場合には、空気がこれらの部品の方向ではなく、高温燃焼ガスの流れの方向に漏れるように設計される。
【0005】
腐食生成物は、周囲空気環境から吸い込まれた冷却空気にエンジン部品が暴露されることに起因するが、航空機は大気条件の種々異なる様々な地域を訪れるため、腐食生成物はエンジン毎に均一でない。例えば、ある航空機は塩水環境にさらされ、別の航空機は先進工業地域からの大気汚染にさらされる。腐食の問題を軽減するために様々な皮膜(コーティング)が開発されてきた。
【0006】
公知の皮膜系は、腐食を軽減するための皮膜(以下、「ベースコート」という。)に加えて、リン酸塩皮膜のような無機トップコートも含んでいる。かかる公知の皮膜系は、作動温度においてトップコートが残存し、ベースコートを妨げるという短所を有する。具体的には、冷却空気に暴露されるエンジン部品でみられるような大きな温度変動が起こると、トップコートが、皮膜内部の損傷を含めたベースコートの劣化を生じて、エンジン部品の腐食の確率を高める。リン酸塩封止剤を始めとする無機トップコートをベースコートに直接塗工すると、封止剤がベースコートの細孔に浸透して、温度サイクリング(500°F/分を超える熱サイクル)時に遭遇する歪みのような歪みに耐えるベースコートの能力を低下させると思料される。さらに、公知のトップコートは施工が難しく、皮膜を形成するための材料のマスキングと製造が必要とされる。例えば、公知の皮膜では、無機トップコートの形成に10〜12時間以上を要することもあり、こうした遅延のためガスタービンエンジンの製造に要する合計時間及びコストがさらに増す。
【0007】
トップコートを完全になくすことも望ましくない。ベースコート単独(つまり、トップコートなし)での使用には多くの短所がある。まず、ベースコートは概して多孔質皮膜構造であり、製造時にエンジン部品の表面と接する可能性のあるオイル又はグリースによる変色及び/又は着色を起こしやすい。オイル、グリースなどの汚染物質は、ベースコートの多孔質構造内部に取り込まれ、その結果生じる変色及び/又は着色による望ましくない外観を呈する。さらに、汚染物質が多孔質構造内部に取り込まれると、ベースコートの温度変動耐性及び耐食性が低下しかねない。第2に、エンジン部品の表面外観は一般に鈍く光沢のない肌合いであって、美観上好ましいものではない。したがって、追加のトップコートがなく、ベースコートしか有していない部品を提供するのは望ましくない。
【特許文献1】米国特許第3248249号明細書
【特許文献2】米国特許第3248251号明細書
【特許文献3】米国特許第4889858号明細書
【特許文献4】米国特許第4975330号明細書
【特許文献5】米国特許第6368394号明細書
【特許文献6】米国特許第5723078号明細書
【特許文献7】米国特許第4563239号明細書
【特許文献8】米国特許第4353780号明細書
【特許文献9】米国特許第4411730号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第11/011695号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第11/311720号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第11/293448号明細書
【特許文献13】米国特許第4606967号明細書
【特許文献14】米国特許第4544408号明細書
【特許文献15】米国特許第6544351号明細書
【特許文献16】米国特許第6283715号明細書
【特許文献17】米国特許第6224657号明細書
【特許文献18】米国特許第6074464号明細書
【特許文献19】米国特許第5985454号明細書
【特許文献20】米国特許第5472783号明細書
【特許文献21】米国特許第5368888号明細書
【特許文献22】米国特許第5066540号明細書
【特許文献23】米国特許第4917960号明細書
【特許文献24】米国特許第4863516号明細書
【特許文献25】米国特許第4806161号明細書
【特許文献26】米国特許第4724172号明細書
【特許文献27】米国特許第4659613号明細書
【特許文献28】米国特許第4617056号明細書
【特許文献29】米国特許第4564555号明細書
【特許文献30】米国特許第4537632号明細書
【特許文献31】米国特許第3248250号明細書
【特許文献32】米国特許出願公開第2004/0013802号明細書
【非特許文献1】Krylon Indoor/Outdoor Polyurethane Clear Wood Finish, Gloss, Material Safety Data Sheet, March 4, 2006, pp. 1-6, The Sherwin Williams Company, Cleveland, OH.
【非特許文献2】Krylon Low Odor Clear Gloss Finish, Material Safety Data Sheet, March 4, 2006, pp. 1-5, The Sherwin Williams Company, Cleveland, OH.
【非特許文献3】Krylon Decorator Spray Paints, Acrylic Crystal Clear, Material Safety Data Sheet, March 4, 2006, pp. 1-6, The Sherwin Williams Company, Cleveland, OH.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
製造プロセスの際の表面損傷から保護された見た目のきれいな表面仕上げを有する製造部品を与える皮膜系で、高い作動温度及び多様な雰囲気中での極端な温度変化にタービンエンジン部品が付されてもその下の皮膜に悪影響を与えない皮膜系が必要とされている。さらに、当技術分野で公知の無機トップコートの短所がなく、迅速かつ安価に施工できる皮膜系も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
最高作動温度で用いられるタービンエンジン部品は一般に鉄基、ニッケル基、コバルト基超合金又はこれらの組合せからなる超合金、或いは良好な高温靭性及び耐疲労性によって選択されるステンレス鋼のような他の耐食性材料で作られる。例示的な超合金は、いずれも周知であるが、Inconel(商標)600、Inconel(商標)722及びInconel(商標)718などのInconel(商標)、Nimonic(商標)、Rene(商標)88DT、Rene(商標)104、Rene(商標)95、Rene(商標)100、Rene(商標)80及びRene(商標)77などのRene(商標)、Udimet(商標)500などのUdimet(商標)、Hastelloy X、HS188などの商品名Hastelloyなどの商品名で呼ばれるものなどがある。これらの材料は酸化及び腐食損傷耐性を有するが、その耐性は現在のガスタービンエンジンで達する持続的作動温度で部品を保護するのには十分でない。ディスクその他のロータ部品のようなエンジン部品はクロム含量の低い新世代合金で作られており、そのため腐食作用を受けやすい。こうしたエンジン部品としては、タービンディスク、タービンシール要素、タービンシャフト、動翼又は静翼として分類される翼形部、タービン動翼リテーナ、中央本体、エンジンライナ及びフラップが挙げられる。以上は例示にすぎず、すべてを網羅したものではない。
【0010】
上述の部品はすべて本発明の効果がみられるが、タービンディスク、タービンシール要素及びタービンシャフトのようなエンジン部品は燃焼生成物のガス通路内に直接位置しているわけではないので、一般にはこのような腐食性及び酸化性の高いガスに暴露される結果として腐食を起こす製品とは同一視できない。それでもなお、これらの部品は高い作動温度に遭遇し、そうした高い作動温度の結果として多大な腐食作用を受ける。本発明は、耐食性ベースコートと見た目のきれいな製品を与えるためにこれらの部品に施工される仮有機コートとを含む皮膜系であり、製造又は組立てによる損傷がほとんど又は全くなく、後続の皮膜によるベースコートの劣化を起こさずに腐食問題を軽減又は最小限に抑制する。
【0011】
本発明では、タービンディスク、タービンシール要素及びタービンシャフトのようなエンジン部品用の耐食性皮膜を与えるのにベースコートを利用する。ベースコートは、その他、例えばタービン動翼、タービン静翼、ライナ及び排気フラップを始めとする、ガス流体流路内又はその境界に位置するタービン部品のような高温及び腐食性環境に暴露されるタービン部品にも有用性を見出すことができる。ガスタービン部品に設けられる本発明の耐食性ベースコートはマトリックスを含むが、マトリックスとしては、特に限定されないが、ケイ素系、シリコーン系、リン酸塩系、クロム酸塩系マトリックス又はこれらの組合せがある。ベースコートマトリックス中には粒子が存在する。これらの粒子は耐火性酸化物、アルミナ、MCrAlX、MCr、MAl、MCrX、MAlXの粒子及びこれらの粒子の組合せからなる群から選択でき、マトリックス内に実質的に均一に分散している。本発明の皮膜系はさらに、ベースコートの表面を保護するが皮膜系が作動温度に暴露されたときに除去可能な仮有機皮膜を含む。
【0012】
本発明の皮膜は、腐食からの保護が必要とされる高温タービンエンジン部品に施工される。耐食性粒子はマトリックス形成組成物と混合される。耐食性粒子は好ましくは耐火性酸化物粒子、アルミナ、MCr、MAl、MCrX、MAlX及びMCrAlXの粒子からなる群から選択されるが、Mは、鉄、ニッケル及びコバルトから選択される元素であり、Xはγ′相形成元素、Ta、Reのような固溶体強化元素、Y、Zr、Hf、Si、Laのような反応性元素、又はB及びCからなる粒界強化元素及びこれらの組合せからなる群から選択される元素である。混合を行って部品の表面の少なくとも一部に塗工できるスラリーを形成する。ただし、スラリーは、マトリックス形成流体と粒子との実質的に均質な皮膜を生じるべきである。いうまでもなく、スラリーの粘度は、部品表面に皮膜を塗工する方法に応じて調整することができる。部品の表面にスラリーを塗工する前に、スラリーの付着性を高めるため通例部品の表面を処理する。表面に応じて、この前処理は単に表面を清浄化するだけでもよいし、或いは化学的エッチング又は機械的な粗面加工をさらに含んでいてもよい。部品の表面の少なくとも一部にスラリーを塗工した後、スラリーを乾燥させる。乾燥は通例2段階で行われる。最初の低温段階では、スラリーから未結合流体を除去し、部品の表面の少なくとも一部に所定の厚さの皮膜が形成されるように乾燥を行う。残留結合流体又は捕捉流体をコーティングスラリーから除去し、皮膜を表面で初期硬化させて表面との化学的及び/又は機械的結合を形成するため、追加の乾燥が必要とされることもある。乾燥後、皮膜を所定の温度まで焼成して、粒子が均一に分散した少なくともガラス状のマトリックスを形成する。理想的には、皮膜は作動時の部品表面の予測温度以上の温度で焼成する。ベースコート形成後、仮有機皮膜を塗工する。仮有機皮膜は、好ましくはベースコートの少なくとも一部にスプレーして乾燥させる。仮有機皮膜は、ベースコートの表面をその表面の細孔も含めて封止し、ベースコートの表面に耐衝撃性及び耐摩耗性を与える。トップコートは一時的なもので、有機皮膜材料はガスタービンエンジンの作動温度に暴露すると除去される。
【0013】
本発明の皮膜系の利点は、タービンエンジン部品用の合金の多くと適合した熱膨張率を有することである。そのため、皮膜は、航空機エンジン作動時の大きな温度変化による温度サイクリングに起因するスポーリングによって制限されない。
【0014】
本発明の別の利点は、1100°Fを超える温度サイクリングに付されるエンジン部品に耐食性を付与するのに使用できることである。
【0015】
本発明のベースコートのさらに別の利点は、耐火性酸化物、アルミナ、MCrAlX、MCr、MAl、MCrX、MAlX及びこれらの組合せの量を変えることによって熱膨張率を変化させることができ、熱膨張率を変更して航空機エンジンに用いられた大半の基材の熱膨張率に一致又は近似するように熱膨張率を修正して基材と皮膜との熱応力を低減できることである。その結果、温度サイクリングによる皮膜の破損が起こらなくなる。
【0016】
付随する利点は、耐火性酸化物、アルミナ、MCrAlX、MCr、MAl、MCrX、MAlX及びこれらの組合せの配合量の異なる各層からなる多層としてベースコートを塗工して、各層の熱膨張率を変えるとができることである。このような多層として皮膜を塗工することによって、層間応力を層の疲労強度限界未満となるように注意深く制御することができ、温度サイクリングによる損傷メカニズムとしての疲労を解消することができる。
【0017】
本発明のさらに別の利点は、ベースコート及び仮有機皮膜が環境への影響の少ない水性材料として塗工できることである。
【0018】
本発明のさらに別の利点は、汚染物質による着色及びベースコート内部への汚染物質の浸透が実質的にない見た目のきれいな表面を製品に与えることができることである。
【0019】
本発明のさらに別の利点は、ガスタービンエンジンが作動温度に達した時に仮有機皮膜が除去されて、オーバーレイコーティングによるベースコートの劣化が低減又は防止されることである。
【0020】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の原理を例示した以下の好ましい実施形態に関する詳細な説明を添付の図面と併せて参照することによって明らかになろう。
【0021】
図面全体を通して、同一又は類似の部品にはできるだけ同じ符号を付した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、タービンエンジン部品に施工された耐食性ベースコートであって、該ベースコート上に設けられた仮有機皮膜を有する耐食性ベースコートに関する。耐食性皮膜は、無機マトリックス形成材料に均一に分散した耐火性酸化物粒子、アルミナ、MAl、MAlX、MCr、MCrX、MCrAlX粒子又はこれらの組合せを含む。粒子は皮膜に耐食性を与え、無機マトリックス形成材料中の無機材料は塗工時のバインダーであって硬化後にマトリックスを形成する。硬化の際に無機材料は耐食性粒子を含むマトリックスを形成し、焼成するとベースコートを形成する。皮膜系は、ベースコートの少なくとも一部に設けられた仮有機皮膜をさらに含む。
【0023】
本発明での使用に適したベースコートのマトリックス形成用バインダー成分は通例リン酸塩、クロム酸塩、シリコーン又はシリカバインダーを含んでおり、その他のバインダー材料を含んでいても含んでいなくてもよい。これらのバインダーは、酸の形態であってもよいし、或いはさらに典型的には化合物/組成物の形態である。例えば、リン酸塩バインダーは、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩などとして存在し得る。化合物/組成物は、一塩基、二塩基、三塩基又はその組合せでよい。バインダー成分は、1種以上の金属化合物を含んでいてもよい。例えば、リン酸金属塩として、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、リン酸クロム、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸リチウム、リン酸カルシウムなど、又はそれらの組合せが挙げられる。通例、リン酸塩含有バインダー成分は、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、リン酸クロム又はこれらの組合せを含む。バインダー成分は、1種以上のクロム酸塩、モリブデン酸塩などの他のバインダー材料を適宜含んでいてもよい。例えば、1966年4月26日発行の米国特許第3248249号(Collins,Jr)、1966年4月26日発行の米国特許第3248251号(Allen)、1989年12月26日発行の米国特許第4889858号(Mosser)、1990年12月4日発行の米国特許第4975330号(Mosser)を参照されたい(それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)。リン酸塩含有バインダー成分は、その他のバインダー材料を実質的に含んでいなくてもよく、例えばクロム酸塩を実質的に含まないリン酸塩含有バインダー成分であってもよい。例えば、2002年4月9日発行の米国特許第6368394号(Hughes他)(クロム酸塩を実質的に含まないリン酸塩バインダー成分)を参照されたい(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)。
【0024】
本明細書中で用いる「CTE」という用語は材料の熱膨張率を意味し、本明細書では10−6/°F単位で表す。例えば、約1200°F(649℃)で約4〜5×10−6/°Fの熱膨張率を有するアルミナは、本明細書では約4〜5のCTEを有するという。
【0025】
図1は、エンジンの中心線に沿ったガスタービンエンジンのタービンセクションの一部分の断面図である。図示したタービンセクション30は2段タービンであるが、タービン設計に応じてどのような段数を採用してもよい。本発明は、図示したタービンの段数に限定されるものではない。タービンディスク32は、図示した通り、エンジンの中心線に沿ってディスク32内のボアを貫通して延在するシャフト(図示せず)に取付けられる。第1段動翼38は第1段ディスク36に取付けられ、第2段動翼42は第2段ディスク40に取付けられる。静翼410はケーシング420から延在する。ケーシング420の内面は、ガス流路内を流れる高温燃焼ガスのためのライナ430を形成する。第1段動翼38、第2段動翼42及び静翼410は高温ガス流路内に延在する。静翼410は静止しており、高温ガス流を方向付ける働きをし、ディスク36,40に取付けられた動翼38,42は高温ガスがそれらに衝突すると回転して、エンジンを作動させるエネルギーを抽出する。
【0026】
シール要素34、前方シール44、後方シール46、段間シール48、第1段後方動翼リテーナ50及び第2段後方動翼リテーナ52は、タービン動翼及びノズルへの圧縮機空気冷却回路を封止して完成させる。これらのシールはディスクと接しており、ディスクと共に回転する。段間シール48は、静翼410の内部寄りにかつ第1段ディスク36と第2段ディスク40との間に配置される。動翼をディスクに固定する任意要素としての動翼リテーナ50,52も図示している。かかるリテーナの設計はエンジン設計に応じて異なり、エンジン設計によってはそれらが必要ないこともある。
【0027】
これらのシール及び動翼リテーナは、それらによって導かれる冷却回路空気の温度まで加熱される。さらに、燃焼通路に近接した部品も燃焼通路部品からの熱伝導によって加熱される。例えば、タービンディスク32の周縁部はタービン動翼38,42によって伝導加熱される。前述したような冷却空気中の汚染物質は、冷却キャビティを形成するディスク、シール及びリテーナの表面に付着し、このような高温で汚染源となる。そこで、本発明は、このような冷却空気汚染物質の付着又は堆積による腐食に付される表面を保護することができる。
【0028】
図3は、図1のディスク36,40のような典型的ガスタービンエンジンディスク82の斜視図であり、通例、前述の超合金材料のいずれかのような超合金材料で作られる。ディスク82は通例エンジン中心線に沿ってハブ74を有しており、そのボアを通してシャフト(図示せず)が延在する。ディスクは、その外周部に沿ってダブテールスロット86を備えており、そこにタービン動翼38,42が植え込まれる。ディスク82のウェブセクション78は、ダブテールスロットが設けられた外周部とハブとの間に延在する。ベースコートと仮有機皮膜とを含む本発明の皮膜系は、ダブテールスロット86を含めたディスク82のあらゆる箇所に利用できるが、ハブ74のボアとは異なり高温冷却空気に直接暴露されるウェブセクション78及びダブテールスロット86の表面での使用が特に有効である。
【0029】
図2は、エンジン部品に堆積させた本発明の最も単純な形態の皮膜の断面を示す。耐食性ベースコート64は基材60の表面62に施工される。基材60は、第1段ディスク36又は第2段ディスク40のようなタービンエンジンディスクとすることができる。基材60は、タービンディスク82のウェブセクション78のような代表的表面とすることができる。所望に応じて、ニッケル基、コバルト基、鉄基超合金又はこれらの組合せからなる超合金を含む基材60は、基材表面62にコンプライアント皮膜を含んでいてもよい。コンプライアント皮膜としては、例えばNiCrAlY、NiCoCrAlYのようなMCrAlX皮膜、NiAlのようなアルミナイド、又は(Pt,Ni)Alのような貴金属改質アルミナイドのような材料がある。前述の通り、ベースコート64は単層の傾斜皮膜として硬化させることができ、表面66はその表面の環境を形成する冷却空気に暴露される。或いは、ベースコート64は実質的に均一な組成であってもよい。皮膜の組成を傾斜させる場合には、ベースコート64上に追加の層を塗工するが、最初の層は外面66に設けて順次追加の層を外側層に設ける。
【0030】
金属基材60の表面62に本発明の耐食性ベースコート64を形成する前に、通例、金属表面62を機械的及び/又は化学的に前処理してベースコート64の付着性を高める。好適な前処理法には、グリットブラスティング(グリットブラスティングに付される表面をマスキングしてもよいしマスキングしなくてもよい)(1998年3月3日発行のNagaraj他の米国特許第5723078号、特に第4欄44〜66行参照、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)、マイクロマシニング、レーザエッチング(1998年3月3日発行のNagaraj他の米国特許第5723078号、特に第4欄67行―5欄3行及び第5欄14〜17行参照、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)、塩酸、フッ化水素酸、硝酸、フッ化水素アンモニウム及びこの混合物を含有するエッチング剤のような化学エッチング剤による処理(例えば、1998年3月3日発行のNagaraj他の米国特許第5723078号、特に第5欄3〜10行、1986年1月7日発行のAdinokfi他の米国特許第4563239号、特に第2欄67行―3欄7行、1982年10月12日発行のFishter他の米国特許第4353780号、特に第1欄50〜58行、及び1983年10月25日発行のFishter他の米国特許第4411730号、特に第2欄40〜51行参照、これらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)、ウオータジェット処理とも呼ばれる加圧水処理(研磨材粒子を加えても加えなくてもよい)、並びにこれらの組合せがある。典型的には、金属基材60の表面62はグリットブラスティング法で前処理し、表面62を、炭化ケイ素粒子、鋼粒子、アルミナ粒子その他の研磨材粒子の研磨作用に付す。グリットブラスティングに用いられる粒子は通例アルミナ粒子であり、典型的には約600〜約35メッシュ(約25〜約500μm)の粒径、さらに典型的には約360〜約35メッシュ(約35〜約500μm)の粒径を有する。
【0031】
表面の前処理完了後、ベースコートを塗工する。本発明での使用に好適なベースコートは、本願出願人に譲渡された2004年12月15日出願の「CORROSION RESISTANT COATING COMPOSITION, COATED TURBINE COMPONENT AND METHOD FOR COATING SAME」と題する米国特許出願第11/011695号に開示されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。別の好適なベースコートとしては、本願出願人に譲渡された2005年12月19日出願の「STRAIN TOLERANT CORROSION PROTECTING COATING AND SPRAY METHOD OF APPLICATION」と題する米国特許出願第11/311720号に開示されたものがあり、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。別の好適なベースコートとしては、本願出願人に譲渡された2005年12月2日出願の「CORROSION INHIBITING CERAMIC COATING AND METHOD OF APPLICATION」と題する米国特許出願第11/293448号に開示されたものがあり、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。その他の好適なベースコートとしては、リン酸塩/クロム酸塩バインダー系及びアルミニウム/アルミナ粒子を含む水性耐食性皮膜組成物が挙げられる。例えば、1986年8月19日発行の米国特許第4606967号(Mosser)(球状アルミニウム粒子)及び1985年10月1日発行の米国特許第4544408号(Mosser他)(分散性水和アルミナ粒子)を参照されたい(それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)。
【0032】
傾斜多層皮膜を得るため表面66に追加の皮膜層を塗工する場合、追加の層の塗工前に皮膜表面を前処理する必要はない。
【0033】
以上、本発明の皮膜の好ましい使用法の例を示してきたが、本発明は、これらに限定されるものではなく、ベース金属の腐食が顕著なあらゆる用途に使用できる。本発明のベースコートは、好ましくは約0.0001インチ(0.1mil)〜約0.005インチ(5mil)の厚さ、さらに好ましくは約0.0005インチ(0.5mil)〜約2.5インチの厚さの皮膜として塗工される。皮膜は、単層としてかかる厚さに塗工してもよいし、或いは上記範囲内の全厚が達成されるように複数の層として塗工してもよい。
【0034】
本発明の好ましい実施形態として、マトリックス全体に耐食性粒子が実質的に均一に分散するように塗工された皮膜がある。耐食性は、耐火性酸化物、アルミナ、MCrAlXの粒子又はこれらの粒子の組合せによって付与される。マトリックスは、様々な方法のいずれかで処方することができる。ただし、水性系ではマトリックス形成成分を用いる。所望の粘度となるように水を添加又は水を蒸発させることによって、粘度を調整することができる。
【0035】
マトリックス形成材料は好ましくはリン酸塩バインダーを単独で又は他のバインダー材料と共に含む。リン酸塩バインダーが好ましいが、コロイダルシリカ及びシリコーンのような他のバインダー材料も利用できる。リン酸塩バインダーはリン酸の形態であってもよいし、或いはさらに典型的にはオルトリン酸塩、ピロリン酸塩その他のリン酸塩化合物を始めとするリン酸塩化合物/組成物の形態であってもよい。こうしたリン酸塩化合物/組成物は、一塩基、二塩基、三塩基又はそれらの組合せとすることができる。リン酸塩含有バインダー成分は、クロム酸塩、モリブデン酸塩などのバインダー材料を始めとする他のバインダー材料を適宜含んでいてもよい。
【0036】
マトリックス形成溶液に耐食性粒子が添加される。具体的には、リン酸塩、コロイダルシリカ又はシリコーンを含有する溶液又は分散液のようなバインダー材料に耐食性粒子を添加する。かかる粒子は、アルミナ、酸化イットリウム(Y)、酸化ジルコニウム(Zr)、酸化チタン(TiO)及びこれらの組合せなどの、皮膜に耐食性を付与し得る耐火性酸化物粒子を含んでいればよい。その他の好適な材料としては、アルミナのCTEよりも大きいCTEを有する比較的不活性又は非反応性のセラミックスが挙げられる。その他、タングステン、クロム及びレニウムのような金属の酸化物も使用できるが、好ましい耐火性酸化物ほど環境に優しくないのでさほど好ましいとはいえない。或いは、MCrAlX、MCr、MAl、MCrX或いはMAlX粒子を単独で又は耐火性酸化物粒子と共に溶液に添加して、所定のCTEを有する層を形成してもよい。
【0037】
例えば、粒子をコロイダルシリカ分散液に、粒子が溶液全体の5〜60重量%をなし、界面活性剤15重量%以下、残部がLPコロイダルシリカ分散液となるように添加してもよい。例えばLP30コロイダル溶液の場合、粒子を約30重量%まで添加すると、約21重量%がシリカ固形分、10重量%以下が界面活性剤、溶液の残部は約39重量%の水となる。粒子は25μm以下の範囲の粒径で供給される。粒子は実質的に等軸(球状)であっても非等軸(フレーク)であってもよい。好ましくは、粒子の粒径は10μm以下である。粒子密度を高くすることが望ましれる場合、粒子は2以上の粒径で供給すべきである。かかる場合、平均粒径の差が好ましくは約10倍となるようにすべきである。このような粒子間の粒径の差によって、大きな粒子間の隙間に小さな粒子が入り込む。これは粒子が実質的に等軸のときに特に顕著である。そこで、高い充填密度が必要とされ粒子の粒径が約5μmのときは、粒子が0.5μm以下の第2の粒径範囲の粒子も含むべきである。粒子の充填密度は層のCTEにある影響をもつ。
【0038】
本発明のベースコート形成用の組成物としては、Triton(商標)−X界面活性剤約10重量%、LUCALOX(商標)アルミナ約22.5重量%、残部のコロイダルシリカ約67.5重量%からなるLBK−51Fと呼ばれる材料が挙げられる。第2の好適な組成物としては、界面活性剤約2重量%、酸洗浄した−325メッシュのアルミナ約24.5重量%、残部のコロイダルシリカLBK−51G約73.5重量%からなるLBK−51Gが挙げられる。これら2種類の組成物はスプレー法で塗工できる。LUCALOX(商標)は、General Electric社(米国コネティカット州フェアフィールド)の商標であり、LUCALOX(商標)アルミナは、同社から市販の多結晶アルミナである。Triton(商標)−X系の界面活性剤は、それらの濡れ性と洗浄力で著名なDow Chemical社から市販の非イオン性オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤である。
【0039】
溶液に耐食性粒子を加えてスラリーを形成した後、この混合物に液体を加えるか或いは追加の粒子を加えてスラリーの粘度を調整する。必要に応じて、スラリーに界面活性剤及び分散剤を加えてもよい。採用する塗工法に合わせて、必要に応じて粘度を調整すべきである。スラリーをスプレーしようとする場合には、粘度が非常に低くなるように調整すべきであり、例えば厚さを調整するためドクタブレードを用いてスラリーをゲルとして塗工する場合には、スラリーが安易に流動しないように液体を除去すべきである。スラリーをテープへと成形しようとする場合には、さらに多量の液体を除去すべきである。後者の2例では、最終的な粘度調整は混合完了後に行えばよい。採用する塗工法とは無関係に、混合物は十分に攪拌する。攪拌はどのような好適な方法で行ってもよい。粒子によっては、粒子の表面を加水分解し、加水分解シリカ系材料と結合できるようにしてもよいと思料される。
【0040】
好ましい実施形態では、スプレー法でスラリーを塗工できるように粘度を調整する。この場合、スラリーをボールミルに入れて塗工準備が整うまで連続的に攪拌する。スラリーをスプレーしている最中でも、スプレーガンにポットを用いることによって空圧的に攪拌することができる。スラリーは好ましくは調整可能オリフィスを備えるBoschスプレーガンを用いて塗工される。オリフィスの寸法は、スラリーの最大粒子よりも大きくなくてはならない。スラリーは約20〜60psiの圧力でスプレーされる。皮膜は所定の厚さに塗工されるが、皮膜厚を厚くしたいときは大きなオリフィスが選択される。
【0041】
混合物を部品の表面に塗工した後、乾燥させる。乾燥は2段階で行われる。第1段階では、乾燥は非結合水を除去するために行われる。これは、部品の表面にスプレーコーティング、ゲル又はペーストとして混合物を塗工した後で、好ましくは乾燥速度を高めるのに十分ではあるが212°F(100℃)未満の温度に昇温することによって、或いは湿度を30%相対湿度未満に下げることによって達成される。これよりも高い湿度及び/又は低い温度でも乾燥されるが、必要な乾燥を達成するのに要する時間が長くなることは当業者には自明であろう。皮膜を0.0001インチ(1ミル)以上の厚さに塗工する場合、加熱は膨れを防ぐため好ましくは約5〜15°F/分以下の速度で行われる。次いで、皮膜を約400°F以上の温度まで加熱して、非結合水を駆逐するとともに材料を硬化させてベースコート64を形成する。しかる後に、表面に仮有機皮膜70を塗工して、乾燥及び/又は硬化させる。仮有機皮膜70の塗工は、好ましくは光沢仕上げ面を与えるのに十分な厚さとする。或いは、表面を加熱して乾燥及び/又は硬化に要する時間を短縮してもよい。高温硬化又は焼成は概して不要である。仮有機皮膜70の塗工は、特に限定されないが、刷毛塗り、ロール塗り、スプレー及び浸漬を始めとするあらゆる公知のコーティング法で達成し得る。
【0042】
本発明の別の実施形態では、第1の層に追加の層を順次塗工し、各層を乾燥させて非結合水を除去した後で次の層を塗工することによって、傾斜皮膜又は層状皮膜を得ることができる。各層の粒子充填量及び/又は粒子組成が異なるように調節できることはいうまでもなく、粒子の充填量及び種類によって層のCTEが決まる。このようにして傾斜皮膜を塗工する場合、層間の境界で充填粒子の若干の混合が起こることがある。硬化すると層同士は強く結合し、皮膜は粒子の充填量及び/又は種類以外は均質な皮膜として作用する。CTEは厚さで調整できるので、得られる応力及び歪みは皮膜の厚さの関数として設計することができる。これによって、所望により、アルミナのような耐食性が高くCTEの低い粒子を皮膜層に使用することができ、この層をCoNiCrAlY粒子を含む層のような耐食性は劣るがCTEの高い皮膜層の上に塗工すれば、基材に対する皮膜の付着性に悪影響は生じない。仮有機皮膜70は傾斜又は層状皮膜に塗工され、表面を封止するとともに耐摩耗性及び/又は耐衝撃性を与える。有機皮膜は皮膜系の表層を封止して、良好に結合し大きな温度変動に耐える傾斜又は層状皮膜を与える。有機皮膜はベースコートに浸透してもしなくてもよい。有機皮膜はガスタービンエンジンの作動温度に暴露されると揮発及び/又は燃え尽きてベースコートが残り、作動時のベースコートの耐歪み特性は実質的に影響されない。
【0043】
本発明の皮膜は、図2に示すマトリックス63と、マトリックスに実質的に均一に分散したR及びRの粒子65とを含む。R及びRは耐食性の耐火性酸化物、アルミナ、MCr、MCrX、MAl、MAlX又はMCrAlXの粒子のいずれかでもよいが、この例ではRはCoNiCrAlY粒子を表し、Rはジルコニア粒子を表す。CoNiCrAlY粒子はマトリックスで囲まれたものとして示されている。分散ジルコニア粒子及びCoNiCrAlY粒子は皮膜に耐食性を与える。粒子の組成又は組成の種々異なる粒子の組合せは、ベースコート64と基材60とのCTEがスポーリングを防ぐのに十分なほど近づくように選択される。必要なレベルの耐食性及び必要なCTEが達成できない場合には、基材に中間のCTEを有する中間層を設け、その上に所要の耐食性をもつ層を設ければよい。
【0044】
図2のベースコート64の上の層は仮有機皮膜70である。仮有機皮膜70は有機封止剤組成物である。本発明での使用に適した有機封止剤組成物としては、特に限定されないが、好ましくは、アクリル系ラテックス樹脂、溶剤アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリスルフィドのような樹脂を始めとする有機材料、その他ベースコート64の細孔を封止することができて、ガスタービンエンジンの作動時の温度のような高温で除去することができる有機材料が挙げられる。有機材料は、当技術分野で公知の充填材、顔料その他の樹脂添加剤を含んでいてもよい。好ましい有機材料としては、無着色アクリル塗料、無着色ポリウレタン塗料及び無着色ラテックス塗料が挙げられる。
【0045】
仮有機皮膜70は、特に限定されないが、刷毛塗り、ロール塗り、スプレー及び浸漬を始めとするあらゆる好適な塗工法で塗工できる。好ましい塗工方法は、スプレー法である。有機材料は好ましくは室温で乾燥及び/又は硬化させるが、仮有機皮膜70の乾燥及び/又は硬化を促進するため加熱してもよい。乾燥及び/又は硬化皮膜の厚さは好ましくは光沢仕上げをもたらすのに十分な厚さである。仮有機皮膜70の皮膜厚は約0.0001インチ〜約0.0050インチである。塗工は好ましくは実質的に100%の被覆率であり、ベースコート64に浸透したものではなく表面の水滴が十分な皮膜厚さの指標となる。エンジン部品全体を仮有機皮膜70で被覆してもよく、その場合マスキングは全く不要であり、加熱段階は任意段階である。仮有機皮膜70の塗工の際にマスキングが不要となるので、シール歯、接触境界面その他冷却空気に付される同様の部品を始めとする様々な部品を適宜被覆できる。仮有機皮膜70は作動時に揮発及び/又は燃え尽きるので、シール歯、接触境界面などの部品は、あたかも仮有機皮膜70で被覆されたことがなかったかのように非被覆状態に戻る。ガスタービンエンジン部品への仮有機皮膜70の塗工及び乾燥に要する時間は好ましくは約6時間未満、さらに好ましくは約4時間未満である。仮有機皮膜70は高温に暴露することによって除去できる。好ましくは、仮有機皮膜70はガスタービンエンジンの作動時に除去される。例えば、仮有機皮膜70は、約500℃超の温度に暴露することによって除去し得る。除去は好ましくはガスタービンエンジンの作動温度で起こる。除去には、仮有機皮膜70の揮発が含まれる。有機材料は揮発し得るが、除去は、約500℃超の温度への暴露に起因する燃焼又は剥離のような他のメカニズムによって起こることもある。
【0046】
仮有機皮膜70の塗工は、ベースコート64の施工後、好ましくは部品をさらに処理する前に行われる。仮有機皮膜70は、部品の製造及びガスタービンエンジンの組立時に発生しかねない損傷からベースコート64及び基材60を保護する。仮有機皮膜70は、衝撃損傷及び/又は摩耗に対する耐性を与える。さらに、仮有機皮膜70は、ベースコート64の細孔を封止して、ベースコート64を汚損及び損傷しかねないオイル又はグリースのような汚染物質の浸透から保護する。
【0047】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲から逸脱せずに様々な変更を加えることができ、本発明の構成要素を均等物で置き換えることができることは当業者には自明であろう。また、本発明の要旨から逸脱せずに、特定の状況又は材料を本発明の教示内容に適合させるための様々な変更をなすこともできる。したがって、本発明は、本発明を実施するための最良の形態として開示してきた実施形態に限定されるものではなく、本発明は特許請求の範囲に記載の技術的範囲に属するあらゆる実施形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ガスタービンエンジンのタービンセクションの一部分の断面図。
【図2】本発明の単層皮膜を基材に施工したものの断面図。
【図3】エンジン前方又はファン部からガス流の方向に見たタービンディスクの斜視図であり、本発明の耐食性皮膜を好適に設けることができる場所を示す。
【符号の説明】
【0049】
30 タービンセクション
32 タービンディスク
34 シール要素
36 第1段ディスク
38 第1段動翼
40 第2段ディスク
42 第2段動翼
44 前方シール
46 後方シール
48 段間シール
50 第1段後方動翼リテーナ
52 第2段後方動翼リテーナ
60 基材
62 表面
63 シリカマトリックス
64 ベースコート
65 粒子
66 表面
70 有機皮膜
74 ハブ
78 ウェブセクション
82 ガスタービンエンジンディスク
86 スロット
410 静翼
420 ケーシング
430 ライナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐食性皮膜系であって、
マトリックス(63)とマトリックス(63)中に均一に分散した耐食性粒子(65)とを含む第1の皮膜(64)であって、耐食性粒子(65)が第1の皮膜(64)に所定の熱膨張率を与えるとともに耐食性を与える第1の皮膜(64)、及び
第1の皮膜の少なくとも一部に設けられた第2の皮膜(70)であって、第1の皮膜(64)の表面を十分に封止して汚染物質の浸透を低減又は防止することができる有機材料を含む第2の皮膜(70)
を含んでなる皮膜系。
【請求項2】
前記有機材料が、アクリル系ラテックス樹脂、溶剤アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリスルフィド及びこれらの組合せからなる群から選択される材料を含む、請求項1記載の皮膜系。
【請求項3】
前記有機材料が、充填材、顔料その他の樹脂添加剤を含む、請求項1記載の皮膜系。
【請求項4】
第2の皮膜(70)が、約500℃を超える温度に暴露されると揮発する、請求項3記載の皮膜系。
【請求項5】
マトリックス(63)が、ケイ素系マトリックス、シリコーン系マトリックス、リン酸塩系マトリックス、クロム酸塩系マトリックス又はこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1記載の皮膜系。
【請求項6】
耐食性粒子(65)がAl、Y、Zr、Ti及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1記載の皮膜系。
【請求項7】
皮膜(64)の所定の熱膨張率がアルミナ層の熱膨張率よりも大きい、請求項1記載の皮膜系。
【請求項8】
耐食性粒子(65)がMAl、MAlX、MCr、MCrX、MCrAlXの粒子及びこれらの組合せからなる群から選択され(ただし、Mはニッケル、鉄、コバルト及びこれらの組合せからなる群から選択される元素であり、XはLa、Ta、Re、Y、Zr、Hf、Si、B、C及びこれらの組合せからなる群から選択される元素である。)、金属粒子(65)がマトリックス(63)中に均一に分散されて第1の皮膜(64)に所定の熱膨張率を与える、請求項1記載の皮膜系。
【請求項9】
第1の皮膜(64)がガスタービンエンジン部品の表面の少なくとも一部に設けられる、請求項1記載の皮膜系。
【請求項10】
前記ガスタービンエンジン部品がタービンディスク、シール及びシャフトからなる群から選択される部品である、請求項9記載の皮膜系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−95176(P2008−95176A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−163342(P2007−163342)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】