説明

環状摩擦材の製造方法

【課題】
制動性、耐摩耗性、振動抑制性、鳴き抑制性等に優れた摩擦材を、簡便な方法で製造する方法を提供する。
【解決手段】
環状摩擦材を製造する方法であって、熱硬化性樹脂を含む圧縮成形物からなる摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と、未加硫のゴムと架橋剤とを含む加圧成形物からなる摩擦材基部用環状予備成形物とを、積層した状態で、加熱、圧縮して、両環状予備成形物を積層一体化することにより、フェーシング部と基部とを有する環状摩擦材を得ることを特徴とする環状摩擦材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状摩擦材を製造する方法に関するものであり、特に、クラッチやブレーキ等に用いられる環状摩擦材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種車輌や産業機械等においては、クラッチを構成するエンジン側環状クラッチ板と変速機側環状クラッチ板が互いに接触することにより、エンジンと変速機間の動力伝達を行っており、また、パワーオフ・ブレーキやパワーオン・ブレーキを構成する環状ブレーキフェーシングが、車輪と一体となって同軸に回転する相手板に接触することにより、車輪の制動を行っている。そして、このようなクラッチ板の表面やブレーキフェーシングの表面には、ライニングとして、環状の摩擦材が設けられている。
【0003】
上記摩擦材としては、例えば、特許文献1に開示されているように、環状の摩擦基材と環状の金属製補強プレートが接着剤により一体的に接着固定されたものが知られている。
【特許文献1】特開平4−7387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者等が検討したところ、特許文献1に開示されている摩擦材は、制動中に生じる共振振動を十分に低減することができず、いわゆる「鳴き」と呼ばれる異音を生じてしまうことが判明した。
【0005】
また、一般に、摩擦材には、制動性(適度な摩擦係数、摺動性、相手材との面当たりの均等性を有すること)や耐摩耗性が求められるが、従来、このような特性を十分に満足する摩擦材は得られていなかった。
【0006】
本発明は、このような事情のもとで、制動性、耐摩耗性、振動抑制性、鳴き抑制性等に優れた摩擦材を、簡便な方法で製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、環状摩擦材を製造する方法として、熱硬化性樹脂を含む圧縮成形物からなる摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と、未加硫のゴムと架橋剤とを含む加圧成形物からなる摩擦材基部用環状予備成形物とを、積層した状態で、加熱、圧縮し、両環状予備成形物を積層一体化して、フェーシング部と基部とを有する環状摩擦材を得ることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)環状摩擦材を製造する方法であって、
熱硬化性樹脂を含む圧縮成形物からなる摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と、
未加硫のゴムと架橋剤とを含む加圧成形物からなる摩擦材基部用環状予備成形物とを、
積層した状態で、加熱、圧縮して、両環状予備成形物を積層一体化することにより、
フェーシング部と基部とを有する環状摩擦材を得る
ことを特徴とする環状摩擦材の製造方法、
(2)前記摩擦材フェーシング部用環状予備成形物が、
熱硬化性樹脂を含む薄板状圧縮成形物を、得ようとする環状予備成形物の1/m(ただし、mは2以上の整数)分割物に対応する形状に分割して、摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物を作製した後、
該摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物m個を円を描くように配置することにより作製してなるものである上記(1)に記載の環状摩擦材の製造方法、
(3)前記摩擦材基部用環状予備成形物が、
未加硫のゴムと架橋剤とを含むシート状加圧成形物を、得ようとする環状予備成形物の1/n(ただし、nは2以上の整数)分割物に対応する形状に分割して、摩擦材基部用円弧状予備成形物を作製した後、
該摩擦材基部用円弧状予備備成形物n個を円を描くように配置することにより作製してなるものである上記(1)または(2)に記載の環状摩擦材の製造方法、
および
(4)摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と摩擦材基部用環状予備成形物とを積層一体化した後、さらに基部側表面に芯板を接着する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の環状摩擦材の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フェーシング部内側に位置する基部にゴム成分を含有させることによって弾性変形性を向上させ、相手材との接触(当たり)を均等にすることによって、制動性を向上させ、異音(鳴き)の発生を低減させた摩擦材を製造することができる。
【0010】
また、本発明によれば、相手材に均等に接触することによって、表面が均等に消耗される、耐摩耗性(摩擦材寿命)を向上させた摩擦材を製造することができる。
【0011】
さらに、本発明によれば、フェーシング部のみならず基部にも摩擦材特性を付与することにより、相手材との摺動によってフェーシング部が消耗した場合であっても、急激な摩擦性能の低下を抑制させた摩擦材を製造することができる。
【0012】
そして、本発明によれば、フェーシング部用環状予備成形物と基部用環状予備成形物とを、積層した状態で、加熱、圧縮することにより、フェーシング部用環状予備成形物中に含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化、基部用環状予備成形物中に含まれる未加硫ゴムの架橋化、これら予備成形物の接合一体化を同時に行うことができるので、優れた特性を有する摩擦材を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の環状摩擦材の製法は、熱硬化性樹脂を含む圧縮成形物からなる摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と、未加硫のゴムと架橋剤とを含む加圧成形物からなる摩擦材基部用環状予備成形物とを、積層した状態で、加熱、圧縮して、両環状予備成形物を積層一体化することにより、フェーシング部と基部とを有する環状摩擦材を得ることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の方法において、加熱、圧縮処理される摩擦材フェーシング部用環状予備成形物は、熱硬化性樹脂を含む圧縮成形物からなるものである。
【0015】
摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を構成する、熱硬化性樹脂を含む圧縮成形物は、加熱、圧縮されることにより摩擦材フェーシングとしての機能を発揮し得るものであり、熱硬化性樹脂とともに、繊維状物質、粉末状潤滑剤、粉末状充填剤、摩擦調整剤、硬質粒子、金属粉等の成分を含むものである。
【0016】
上記熱硬化性樹脂としては、摩擦材フェーシング部のマトリクス成分となり得るものであれば特に制限されず、例えば、フェノール樹脂、各種変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらのうち、フェノール樹脂がより適当である。
【0017】
圧縮成形物中に含まれる熱硬化性樹脂の含有割合は、10〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましく、15〜20質量%であることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である場合、圧縮成形物中の含有割合としては、5〜25質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましく、15〜20質量%がさらに好ましい。
【0018】
また、上記熱硬化性樹脂とともに圧縮成形物中に含まれる繊維状物質も、特に制限されず、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維、デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、アクリル繊維、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維、パルプ繊維などを挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウイスカーなどの無機ウイスカーや、ガラス繊維や、炭素繊維や、ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ハロイサイト、モルデナイト、ロックウールなどの鉱物繊維や、アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維や、アルミニウム繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、真鍮繊維などの金属繊維等を挙げることができる。
【0019】
圧縮成形物中に含まれる熱硬化性樹脂以外の成分を摩擦材成分とした場合、全摩擦材成分量に対する繊維状物質の含有割合は、5〜20質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましく、15〜20質量%がさらに好ましい。
【0020】
また、上記熱硬化性樹脂とともに圧縮成形物中に含まれる粉末状潤滑剤としては、グラファイト粒子や、二硫化モリブデン粒子等の金属硫化物を挙げることができる。
【0021】
上記熱硬化性樹脂とともに圧縮成形物中に含まれる粉末状充填剤としては、硫酸バリウム粒子、炭酸カルシウム粒子、タルク粒子、酸化亜鉛(亜鉛華)粒子などの無機充填材や、有機充填材等を挙げることができる。
【0022】
上記熱硬化性樹脂とともに圧縮成形物中に含まれる摩擦調整剤としては、ゴム粉末、カシュー粉末等を挙げることができる。
【0023】
上記熱硬化性樹脂とともに圧縮成形物中に含まれる硬質粒子としては、研掃剤や増μ(摩擦係数向上)剤としての機能を有するものであれば特に限定されず、アルミナ粒子、シリカ粒子、マグネシア粒子、ジルコニア粒子、酸化クロム粒子、ムライト粒子などの金属酸化物粒子を挙げることができる。
【0024】
上記硬化性樹脂ととともに圧縮成形物中に含まれる金属粉としては、アルミニウム粉、銅粉、真鍮粉、ステンレス鋼粉、鉄粉、酸化鉄粉等を挙げることができる。
【0025】
本発明の方法において用いられる摩擦材フェーシング部用環状予備成形物の大きさは、内径50〜800mm、外径70〜1000mm、厚さ3〜15mm程度であることが好ましい。
【0026】
本発明の方法において、摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を作製する方法としては、図1に示すように、上記各成分を適宜ミキサーで混合して得られた成形材料を、上型1と下型2からなる成形型3中に投入し、押圧することにより、薄板状圧縮成形物を得、図2に示すように、この薄板状圧縮成形物4を切断または打ち抜いて、摩擦材フェーシング部用環状予備成形物となる環形状を有する圧縮成形物5を得る方法を挙げることができる。また、図3に示すように、下型2の成形面に、予め、得ようとする予備成形物の形状に対応する形状を有する円形の窪みを形成した上で、この窪み中に成形材料を投入し、押圧することによっても環形状を有する圧縮成形物5を得ることができ、この方法によれば、薄板状圧縮成形物4の切断または打ち抜き処理を必要とせず、薄板状圧縮成形物の切断または打ち抜き処理に伴って生じる廃棄物量を削減することができる。
【0027】
上記押圧は、室温〜80℃の雰囲気下、10〜20MPaで行うことが好ましい。
【0028】
また、本発明の方法においては、摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を作製するために、熱硬化性樹脂を含む薄板状圧縮成形物を、得ようとする環状予備成形物の1/m(ただし、mは2以上の整数)分割物に対応する形状に分割して、摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物を作製した後、該摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物m個を円を描くように配置することによって、摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を成すこともできる。
【0029】
本発明の方法において、分割物の数m(ただし、mは2以上の整数)は特に制限されないが、2〜3程度であることが好ましい。
【0030】
上記薄板状圧縮成形物の分割は、切断ないし打ち抜き処理により行うことができ、上記円弧状予備成形物の形状は、得ようとする環状予備成形物の中心軸に対して半径方向に切断ないし割断した形状を有するものであることが好ましい。
【0031】
図4に、摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物として、得ようとする環状予備成形物の中心軸に対して半径方向に分割した、1/3分割物に対応する形状を有する摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物6を例示する。
【0032】
上記摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物を、円を描くようにm個配置することにより、摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を作製することができる。例えば、図4に示すように、摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物6を3個、円を描くように配置することにより、摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を作製することができる。
【0033】
このように、薄板状圧縮成形物を切断または打ち抜き処理して環状予備成形物を直接作製する代わりに、環状予備成形物の分割物に対応する円弧状予備成形物を作製することにより、環状予備成形物の作製材料となる薄板状圧縮成形物を有効に活用して、残余部分を減少させ、材料の無駄を低減しつつ環状予備成形物を作製することができる。
【0034】
本発明の方法において、加熱、圧縮処理される摩擦材基部用環状予備成形物は、未加硫のゴムと架橋剤とを含む加圧成形物からなるものである。
【0035】
摩擦材基部用環状予備成形物を構成する、未加硫のゴムと架橋剤を含む加圧成形物は、加熱、圧縮されることにより弾性を示すとともに、摩擦材としての機能を発揮し得るものであり、未加硫のゴムや架橋剤とともに、繊維状物質、粉末状潤滑剤、粉末状充填剤、摩擦調整剤、硬質粒子、金属粉等の成分を含むものである。
【0036】
上記未加硫のゴムは、加熱、圧縮されることにより架橋して弾性を示すとともに摩擦材基部のマトリクス材料になり得るものであれば特に制限されず、例えば、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、アクリルゴム、ネオプレーンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム等を挙げることができる。
【0037】
また、架橋剤としては、硫黄や過酸化物等を挙げることができる。
【0038】
加圧成形物中における、上記ゴムに対する架橋剤の含有割合((架橋剤含有量/ゴム含有量)×100)は、3〜30質量%であることが好ましい。
【0039】
摩擦材基部用環状予備成形物を構成する加圧成形物中に含まれる、繊維状物質、粉末状潤滑剤、粉末状充填剤、摩擦調整剤、硬質粒子、金属粉等としては、上記摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を構成する圧縮成形物に含まれるものと同様のものを挙げることができる。
【0040】
加圧成形物中に含まれるゴムおよび架橋剤以外の成分を摩擦材成分とした場合、ゴム量に対する摩擦成分量の含有割合((摩擦成分量/ゴム量)×100)は50〜90質量%であることが好ましく、60〜85質量%であることがより好ましく、70〜80質量%であることがさらに好ましい。上記摩擦材成分の含有割合が50質量%未満であると、高温時に摩擦材が過熱して摩擦係数が低下するフェード現象が生じやすくなり、上記摩擦材成分の含有割合が90質量%を超える場合には、加熱、圧縮時の接合強度が低下する上に、得られる摩擦材に十分な弾性を付与することができなくなる。
【0041】
本発明の方法において用いられる、摩擦材基部用環状予備成形物の大きさは、使用する摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と対応する形状を有することが好ましく、内径50〜800mm、外径70〜1000mm、厚さ3〜15mm程度であることが好ましい。
【0042】
本発明の方法において、摩擦材基部用環状予備成形物を作製する方法としては、例えば、上記各成分を、100℃以下の温度雰囲気下、適宜ニーダーまたは加圧ニーダー等で混練して、得られた混練物を50〜70℃の温度雰囲気下、ロール成形してシート状とし、環状の型材で型抜きすることにより作製することができる。型抜きにより生じた残部は、シート状物の製造材料として、再使用することが好ましい。
【0043】
また、本発明の方法においては、摩擦材基部用環状予備成形物を作製するために、未加硫のゴムと架橋剤とを含むシート状加圧成形物を、得ようとする環状予備成形物の1/n(ただし、nは2以上の整数)分割物に対応する形状に分割して、摩擦材基部用円弧状予備成形物を作製した後、該摩擦材基部用円弧状予備備成形物n個を円を描くように配置することによって、摩擦材基部用環状予備成形物を成すこともできる。
【0044】
本発明の方法において、分割物の数n(ただし、nは2以上の整数)は特に制限されないが、2〜16程度であることが好ましい。
【0045】
上記シート状加圧成形物の分割は、切断ないし打ち抜き処理により行うことができ、上記円弧状予備成形物の形状は、得ようとする環状予備成形物の中心軸に対して半径方向に切断した形状を有するものであることが好ましい。
【0046】
図5に、摩擦材基部用円弧状予備成形物として、得ようとする環状予備成形物の中心軸に対して半径方向に分割した、1/4分割物に対応する形状を有する摩擦材基部用円弧状予備成形物7を例示する。
【0047】
上記摩擦材基部用円弧状予備成形物を、円を描くようにn個配置することにより、摩擦材基部用環状予備成形物を作製することができる。例えば、図5に示すように、摩擦材基部用円弧状予備成形物7を4個、円を描くように配置することにより、摩擦材基部用環状予備成形物を作製することができる。
【0048】
このように、シート状圧縮成形物を切断または打ち抜き処理して環状予備成形物を直接作製する代わりに、環状予備成形物の分割物に対応する円弧状予備成形物を作製することにより、環状予備成形物の作製材料となるシート状圧縮成形物を有効に活用して、残余部分を減少させ、材料の無駄を低減しつつ環状予備成形物を作製することができる。
【0049】
本発明の方法においては、上記摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と摩擦材基部用環状予備成形物とを、積層した状態で加熱、圧縮して、両者を積層一体化する。
【0050】
上記加熱、圧縮処理方法としては、所定温度に加熱した成形型中に、上記摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と摩擦材基部用環状予備成形物とを積層して、押圧する方法を挙げることができ、140〜180℃の加熱条件下、15〜40MPaで圧縮処理することが好ましい。
【0051】
得られた加熱、圧縮処理物は、その後、空気中加熱処理しつつ保持してアフターキュア処理することにより、フェーシング部中に含まれる樹脂成分の熱硬化を促進することが好ましい。アフターキュア処理する際の加熱温度は、150〜200℃が好ましく、160〜190℃がより好ましく、170〜180℃がさらに好ましい。また、保持時間は2〜10時間が好ましく、4〜10時間がより好ましく、6〜10時間がさらに好ましい。
【0052】
本発明の方法においては、フェーシング部用環状予備成形物と基部用環状予備成形物とを、積層した状態で、加熱、圧縮することにより、フェーシング部用環状予備成形物中に含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化と、基部用環状予備成形物中に含まれる未加硫ゴムの架橋化と、これら予備成形物の接合一体化とを同時に行うことができるので、摩擦材を簡便に製造することができる。
【0053】
上記加熱、圧縮処理により得られた積層一体化物は、必要に応じて仕上げ処理を加えた後、基部側表面に芯板を接着することが好ましい。
【0054】
芯板の構成材料としては、鋼や鋳鉄等を挙げることができ、鋼としては、冷間圧延鋼、ステンレス鋼等を挙げることができ、鋳鉄としては、ねずみ鋳鉄、白鋳鉄、まだら鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄、合金鋳鉄等を挙げることができる。また、芯板は、その表面を脱脂処理したものであることが好ましい。
【0055】
芯板の大きさは、用いる積層一体化物の大きさに対応する大きさを有するものであることが好ましい。特に芯板の外径または内径の少なくとも一方が積層一体化物の内径または外径と同径であると、芯板の接着時に位置決めしやすくなるため、好適である。
【0056】
積層一体化物の基部側表面への芯板の接着は、接着剤を用いて行うことが好ましく、接着剤としては、フェノール系接着剤等の熱硬化性接着剤やゴム系接着剤等を挙げることができる。
【0057】
積層一体化物の基部側表面への芯板の接着は、170〜200℃の温度雰囲気下、0.5〜1.0MPaの圧力を、0.5〜2時間程度加えることにより行うことが好ましい。
【0058】
本発明の方法によれば、フェーシング部内側に位置する基部にゴム成分を含有させることによって弾性変形性を向上させ、相手材への接触(当たり)を均等にすることによって、制動性を向上させ、異音(鳴き)の発生を低減させた摩擦材を製造することができる。
【0059】
また、本発明の方法によれば、相手材に均等に接触することによって、表面が均等に消耗される、耐摩耗性(摩擦材寿命)を向上させた摩擦材を製造することができる。
【0060】
さらに、本発明の方法によれば、フェーシング部のみならず基部にも摩擦材特性を付与することにより、相手材との摺動によってフェーシング部が消耗した場合であっても、急激な摩擦性能の低下を抑制させた摩擦材を製造することができる。
【0061】
そして、本発明の方法によれば、フェーシング部用環状予備成形物と基部用環状予備成形物とを、積層した状態で、加熱、圧縮することにより、フェーシング部用環状予備成形物中に含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化、基部用環状予備成形物中に含まれる未加硫ゴムの架橋化、これら予備成形物の接合一体化を同時に行うことができるので、優れた特性を有する摩擦材を簡便に製造することができる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
(1)摩擦材フェーシング部用環状予備成形物の作製
(i)熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂を含む圧縮成形物の成形材料として、下記各成分をミキサーで混合して、下記組成を有する混合材料を得た。
含有割合(質量%)
フェノール樹脂(住友ベークライト社製PR50069) 18%
アラミド繊維(帝人社製トワロン1095) 4%
ガラス繊維(セントラルガラス社製) 10%
炭酸カルシウム(三共精粉社製) 12%
ウォラスナイト(NYCO Minerals Inc社製NYAD−G) 30%
カシュー粉末(カシュー社製H101) 10%
銅粉(ジャパンエナジー社製) 10%
ジルコシル(ハクスイテック社製) 6%
合計 100%
(ii)図3に示すような、上型1と、得ようとする予備成形物の形状に対応する形状を有する円形の窪みを形成してなる下型2とからなる成形型3を用いて、(i)で得た混合材料を、上記窪み中に投入し、50℃の雰囲気下、15MPaで押圧することにより、内径120mm、外径180mm、厚さ6mmの圧縮成形物からなる摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を得た。
【0064】
(2)摩擦材基部用環状予備成形物の作製
(i)未加硫のゴムであるスチレンブタジエンゴムと架橋剤である硫黄とを含む加圧成形物からなる摩擦材基部用環状予備成形物の成形材料として、下記各成分を室温下加圧ニーダーで混練して、混合材料である混練物を得た。
含有割合(質量%)
スチレンブタジエンゴムおよび架橋剤(JSR社製JSR1502) 25%
タルク(山陽クレー社製 D) 44%
天然黒鉛(日電カーボン社製) 5%
フェノール樹脂(旭有機工業社製) 7%
酸化鉄(TODAKOGYO社製) 6%
アルミナ粉末(昭和電工社製) 2%
パルプ(日本製紙社製) 11%
合計 100%
(ii)(i)で得た混練物を、70℃以下の温度雰囲気下、ロール成形して幅200mm、厚さ1.5mmのシート状物を得た。得られたシート状物を環状の型材で型抜きすることにより、内径120mm、外径180mm、厚さ1.5mmの加圧成形物からなる摩擦材基部用環状予備成形物を得た。
【0065】
(3)加熱、圧縮成形
得ようとする成形物の形状に対応する形状を有する円形の窪み(内径120mm、外径180mm、深さ4.5mm)を形成してなる下型と上型とからなる成形型を用い、先ず(2)で得た摩擦材基部用環状予備成形物を、次いで(1)で得た摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を成形型内に積層し、160℃の加熱雰囲気下、30MPaで圧縮した。得られた加熱圧縮物を熱風式循環炉で165℃で8時間保持することにより、内径120mm、外径180mm、厚さ4.5mmの上記2つの予備成形物の積層一体化物を得た。
【0066】
(4)芯板の接着
(3)で得られた積層一体化物の基部側表面に、フェノール系接着剤(セメダイン社製、商品名「セメダイン」(登録商標)♯110)を用いて、内径119mm、外径181mm、厚さ5mmのステンレス鋼製芯板を貼り合わせ、170℃の温度雰囲気下、1.0MPaで1時間加圧して、芯板を接着することにより、環状摩擦材を作製した。
【0067】
(5)性状試験
得られた環状摩擦材を用いて、以下の手法により摩擦係数、摩耗量、鳴きの有無を測定した。
<摩擦係数測定>
小型テスターを用いて、4kgfm(GD2)を1.3J、面圧を0.4MPa、周速を3.8m/sとし、相手材をFC250相当の鋳鉄として、静摩擦係数および動摩擦係数を測定した。
なお、制動回数は103回とし、制動回数1回目から100回目までと、101回目から103回目までは連続して測定したが、制動回数100回目と101回目の間に、放置することにより摩擦材を冷却処理した。結果を表1に示す。
<摩耗量測定>
マイクロメーターを用いて、上記摩擦係数測定試験前後の環状摩擦材の厚みを計測し、摩耗量を算出した。結果を表2に示す。
<鳴きの有無>
摩擦係数測定中における鳴きの有無を聴感により確認した。その結果、測定中に、鳴きは確認されなかった。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
(実施例2)
(1)摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物の作製
(i)実施例1の(1)(i)と同様にして、混合材料を得た。
(ii)次いで、上型と、下型とからなる成形型を用いて、(i)で得た混合材料を、上記成形型中に投入し、50℃の雰囲気下、15MPaで押圧することにより、縦400mm、横400mm、厚さ5mmの薄板状圧縮成形物を得た。
得られた薄板状圧縮成形物を打ち抜き処理することにより、図4に示すような、得ようとする環状成形物(内径120mm、外径180mm、厚さ6mm)の1/3分割物に対応する形状を有する摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物を3個作製した。
【0071】
(2)摩擦材基部用円弧状予備成形物の作製
(i)実施例1の(2)(i)と同様の方法により、同様の混練物を得た。
(ii)(i)で得た混練物を、70℃以下の温度雰囲気下、ロール成形して幅200mm、厚さ1.5mmのシート状物を得た。得られたシート状物を用いて、上記(1)(ii)で作製した摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物と同形状に型抜きして、得ようとする環状成形物(内径120mm、外径180mm、厚さ1.5mm)の1/3分割物に対応する形状を有する摩擦材基部用円弧状予備成形物を3個作製した。
【0072】
(3)加熱、圧縮成形
得ようとする成形物の形状に対応する形状を有する円形の窪み(内径120mm、外径180mm、深さ4.5mm)を形成してなる下型と上型とからなる成形型を用い、該成形型の成形部に、先ず(2)で得た摩擦材基部用円弧予備成形物3個を、円を描くように配置して摩擦材基部用環状予備成形物を成し、次いでこの予備成形物体上に、(1)で得た摩擦材フェーシング部用円弧予備成形物3個を、円を描くように配置して摩擦材フェーシング部用環状予備成形物を成したものを積層した後、160℃の加熱雰囲気下、30MPaで圧縮した。得られた加熱圧縮物を熱風式循環炉で165℃で8時間保持することにより、内径120mm、外径180mm、厚さ4.5mmの大きさを有する上記2つの予備成形物の積層一体化物を得た。
【0073】
(4)芯板の接着
実施例1(4)と同様の芯板を、実施例1(4)と同様の方法により接着することにより、環状摩擦材を作製した。
【0074】
(5)性状試験
得られた環状摩擦材を用いて、実施例1と同様の手法により摩擦係数、摩耗量、鳴きの有無を測定した。
摩擦係数の測定結果を表3に、摩耗量の測定結果を表2に示す。また、本実施例で得られた摩擦材においては、鳴きは確認されなかった。
【0075】
【表3】

【0076】
表1および表3の結果から、本発明の方法により得られた実施例1および実施例2の摩擦材は、摩擦係数が高く、高い制動性を発揮するものであることが分かる。また、表2の結果から、本発明の方法により得られた実施例1および実施例2の摩擦材は、耐摩耗性(摩擦材寿命)の高いものであることが分かる。さらに、本発明の方法により得られた実施例1および実施例2の摩擦材は、鳴き(異音)を生じないものであった。
【0077】
このことから、本発明の方法が、制動性、耐摩耗性、振動抑制性、鳴き抑制性に優れた摩擦材を製造し得るものであることが分かる。
【0078】
また、実施例1および実施例2より、本発明の方法においては、フェーシング部用環状予備成形物と基部用環状予備成形物とを、積層した状態で、加熱、圧縮することにより、フェーシング部用環状予備成形物中に含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化、基部用環状予備成形物中に含まれる未加硫ゴムの架橋化、これら予備成形物の接合一体化を個々に行うことなく同時に行うことができるので、優れた特性を有する摩擦材を簡便に製造し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、制動性、耐摩耗性、振動抑制性、鳴き抑制性等に優れた摩擦材を、簡便な方法で製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明で用いる成形型の一態様を示す図である。
【図2】本発明で用いる圧縮成形物の製造方法を示す図である。
【図3】本発明で用いる成形型の一態様を示す図である。
【図4】本発明で用いる摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物の説明図である。
【図5】本発明で用いる摩擦材基部用円弧状予備成形物の説明図である。
【符号の説明】
【0081】
1 上型
2 下型
3 成形型
4 薄板状物
5 圧縮成形物
6 摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物
7 摩擦材基部用円弧状予備成形物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状摩擦材を製造する方法であって、
熱硬化性樹脂を含む圧縮成形物からなる摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と、
未加硫のゴムと架橋剤とを含む加圧成形物からなる摩擦材基部用環状予備成形物とを、
積層した状態で、加熱、圧縮して、両環状予備成形物を積層一体化することにより、
フェーシング部と基部とを有する環状摩擦材を得る
ことを特徴とする環状摩擦材の製造方法。
【請求項2】
前記摩擦材フェーシング部用環状予備成形物が、
熱硬化性樹脂を含む薄板状圧縮成形物を、得ようとする環状予備成形物の1/m(ただし、mは2以上の整数)分割物に対応する形状に分割して、摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物を作製した後、
該摩擦材フェーシング部用円弧状予備成形物m個を円を描くように配置することにより作製してなるものである請求項1に記載の環状摩擦材の製造方法。
【請求項3】
前記摩擦材基部用環状予備成形物が、
未加硫のゴムと架橋剤とを含むシート状加圧成形物を、得ようとする環状予備成形物の1/n(ただし、nは2以上の整数)分割物に対応する形状に分割して、摩擦材基部用円弧状予備成形物を作製した後、
該摩擦材基部用円弧状予備備成形物n個を円を描くように配置することにより作製してなるものである
請求項1または請求項2に記載の環状摩擦材の製造方法。
【請求項4】
摩擦材フェーシング部用環状予備成形物と摩擦材基部用環状予備成形物とを積層一体化した後、さらに基部側表面に芯板を接着する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の環状摩擦材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−138954(P2010−138954A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314010(P2008−314010)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(503226774)東海マテリアル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】