説明

産業機械および産業機械の制御方法

【課題】 短時間で容易かつ確実に原点位置の検出ができる産業機械および産業機械の制御方法を提供する。
【解決手段】 三次元測定機1は、所定の軸方向へ制御対象物を移動させるスピンドル2と、スピンドル2を移動させる駆動力を発生する駆動モータ3と、スピンドル2の位置を制御するとともに駆動モータ3の回転速度を制御する制御装置4とを備えるものであって、スピンドル2の位置に基づく信号を検出するインクリメンタル型のリニアエンコーダ11と、駆動モータ3の絶対角度に基づく信号を検出するアブソリュート型のロータリーエンコーダ12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業機械および産業機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物を測定するために設けられた制御対象物としてのプローブを互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動させる移動機構と、移動機構を移動させる駆動力を発生する駆動モータと、移動機構の位置を制御するとともに駆動モータのモータ速度を制御する制御装置とを備える産業機械としての三次元測定機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような三次元測定機では、移動機構は、鉛直方向(Z軸方向)に立設され、プローブを水平面内のX軸方向に移動させるX軸方向移動機構としての門形フレームと、門形フレームのY軸方向に延びる水平部にY軸方向に沿って移動可能にZ軸方向に立設され、プローブをY軸方向に移動させるY軸方向移動機構としてのスライダと、スライダにZ軸方向に沿って移動可能に設けられ、プローブを支持するとともにZ軸方向に移動させるZ軸方向移動機構としてのスピンドルとを備えている。
【0004】
各軸方向移動機構にはそれぞれインクリメンタル型のリニアエンコーダが設けられ、このリニアエンコーダからの各軸方向移動機構の各軸方向の位置に基づく信号が制御装置に送られる。この信号に基づいて、プローブの各軸方向における位置が制御装置によってフィードバック制御される。
また、X軸方向移動機構はX軸駆動モータからの駆動力によって、Y軸方向移動機構はY軸駆動モータからの駆動力によって、Z軸方向移動機構はZ軸駆動モータからの駆動力によって駆動される。
【0005】
各駆動モータにはインクリメンタル型のロータリーエンコーダが取り付けられており、各駆動モータのモータ速度は、このロータリーエンコーダからのパルス信号に基づいて検出され、このパルス信号に基づいて制御装置によってフィードバック制御される。
このような三次元測定機では、移動機構の絶対位置ひいては制御対象物の絶対位置を検出するために、インクリメンタル型のリニアエンコーダの原点位置を検出する必要がある。このインクリメンタル型のリニアエンコーダの原点位置は、リミットスイッチの機械的な位置に対する距離から認識されているため、リミットスイッチの機械的な位置を最初に検出することによって検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−527747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような三次元測定機では、リミットスイッチの機械的な位置を最初に検出し、その後に原点位置を検出する動作が必要となり、原点位置の検出動作に時間がかかる。
【0008】
本発明の目的は、短時間で容易かつ確実に原点位置の検出ができる産業機械および産業機械の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の産業機械は、所定の軸方向へ制御対象物を移動させる移動機構と、前記移動機構を移動させる駆動力を発生する駆動モータと、前記移動機構の位置を制御するとともに前記駆動モータの回転速度を制御する制御装置とを備えた産業機械であって、前記移動機構の位置に基づく信号を出力するインクリメンタル型のリニアエンコーダと、前記駆動モータの絶対角度に基づく信号を出力するアブソリュート型のロータリーエンコーダとを備えることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、アブソリュート型のロータリーエンコーダで検出される駆動モータの絶対角度に基づいて制御対象物の絶対位置が検出可能となるので、制御対象物の絶対位置に基づいてインクリメンタル型のリニアエンコーダの原点位置を検出することを容易に行うことができる。
【0011】
本発明の産業機械において、前記制御装置は、前記インクリメンタル型のリニアエンコーダの原点の絶対位置を記憶する原点位置記憶部と、前記アブソリュート型のロータリーエンコーダで検出される前記駆動モータの絶対角度に基づいて制御対象物の絶対位置を取得する取得部とを備えることが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、取得部が、アブソリュート型のロータリーエンコーダで検出される駆動モータの絶対角度に基づいて制御対象物の絶対位置を取得するため、制御対象物の絶対位置が容易にわかる。そして、原点位置記憶部に記憶された原点の絶対位置と取得部で取得された制御対象物の絶対位置とに基づいて原点位置の検出を行うことができ、従来のようにリミットスイッチの機械的な位置を検出する動作を省略することができて、インクリメンタル型のリニアエンコーダの原点位置を短時間で確実に検出することができる。
【0013】
本発明の産業機械の制御方法は、所定の軸方向へ制御対象物を移動させる移動機構と、前記移動機構を移動させる駆動力を発生する駆動モータと、前記移動機構の位置を制御するとともに前記駆動モータの回転速度を制御する制御装置とを備えた産業機械の制御方法であって、前記産業機械は、前記移動機構の位置に基づく信号を出力するインクリメンタル型のリニアエンコーダと、前記駆動モータの絶対角度に基づく信号を出力するアブソリュート型のロータリーエンコーダとを備え、前記制御装置は、前記インクリメンタル型のリニアエンコーダの原点の絶対位置を記憶する原点位置記憶工程と、前記アブソリュート型のロータリーエンコーダで検出される前記駆動モータの絶対角度に基づいて制御対象物の絶対位置を取得する取得工程とを実行することを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、前述した、原点位置記憶部と取得部とを備える産業機械と同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る三次元測定機を示すブロック図。
【図2】本発明の実施形態に係る三次元測定機の制御方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す産業機械としての三次元測定機1には、図示しない被測定物を測定するための制御対象物としてのプローブが設けられ、三次元測定機1は、互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向(図1中左右方向)へプローブを移動させる移動機構と、この移動機構を移動させる駆動力を発生する駆動モータ3と、移動機構の位置を制御するとともに駆動モータ3の回転速度としてのモータ速度を制御する制御装置4とを備える。移動機構は、図示しないX軸方向移動機構とY軸方向移動機構、および図1に示すZ軸方向移動機構としてのスピンドル2を備える。
以下の説明では、スピンドル2を駆動するZ軸駆動モータ3などの構成等についてのみ説明し、他は説明を省略する。
【0017】
スピンドル2にはリニアスケール111が設けられている。スピンドル2とリニアスケール111とは、駆動モータ3からの駆動力によって、駆動モータ3の出力側に取り付けられたボールねじ31の軸方向に沿って一体で移動される。リニアスケール111に対向してヘッド112が固定配置されており、リニアスケール111とヘッド112とでインクリメンタル型のリニアエンコーダ11が構成されている。
ヘッド112は、スピンドル2とリニアスケール111との移動により、スピンドル2のZ軸方向における位置に基づくパルス波形の信号を出力する。この信号は位置信号値K1として制御装置4に送られる。
【0018】
駆動モータ3には、アブソリュート型のロータリーエンコーダ12が取り付けられている。ロータリーエンコーダ12は、駆動モータ3の絶対角度に基づくパルス波形の信号を出力する。この信号は信号値K3として制御装置4に送られる。
【0019】
制御装置4は、移動機構の位置を制御するとともにモータ速度の制御を実行するモーションコントローラ41と、モーションコントローラ41に所定の指令を与えるホストコンピュータ42とを備える。
モーションコントローラ41は、位置制御部411と速度制御部412と電流制御部413とを備える。
位置制御部411は、ホストコンピュータ42からのZ軸方向の位置指令値K0と位置信号値K1に基づくスピンドル2のZ軸方向における位置との差を受け取り、その差を0とするように速度指令値K2を出力する。
【0020】
速度制御部412は、速度指令値K2と信号値K3に基づく駆動モータ3の回転速度との差を受け取り、その差を0とするように電流指令値K4を出力する。
電流制御部413は、電流指令値K4を受け取り、フィードバック制御により、電流指令値K4に等しい電流指令値K5を駆動モータ3に出力する。これにより、駆動モータ3は電流指令値K5に基づいて駆動される。
【0021】
ホストコンピュータ42は原点位置記憶部421と取得部422を備える。
原点位置記憶部421は、リニアエンコーダ11の原点の絶対位置を記憶する。原点はリニアスケール111にマークとして付されている。
取得部422は、ロータリーエンコーダ12で検出される駆動モータ3の絶対角度に基づいてプローブの絶対位置を取得する。
【0022】
次に、以上のような三次元測定機1の制御方法について図2に基づいて説明する。以下では、各制御工程をS1,S2で示す。
三次元測定機1の電源を投入後、S1の原点位置記憶工程で、まず、原点位置記憶部421がリニアエンコーダ11の原点の絶対位置を記憶する。
【0023】
次に、S2の取得工程で、取得部422が、ロータリーエンコーダ12で検出される駆動モータ3の絶対角度に基づいてプローブの絶対位置を取得する。具体的には、プローブの絶対位置と駆動モータ3の絶対角度とが予め関連付けられた対応テーブルがホストコンピュータ42に記憶されており、この対応テーブルとロータリーエンコーダ12で検出された駆動モータ3の絶対角度とに基づいてプローブの絶対位置が取得される。
【0024】
その後、ホストコンピュータ42のCPUが、S1の原点位置記憶工程で記憶された原点の絶対位置と、S2の取得工程で取得されたプローブの絶対位置とから、リニアスケール111に付されたリニアエンコーダ11の原点をヘッド112に対応する位置に至らせるためのリニアスケール111の移動距離を算出し、モーションコントローラ41に移動制御指令を出す。この指令に基づいて、モーションコントローラ41は、駆動モータ3を制御し、スピンドル2を介して、まずリニアスケール111を高速で移動させる。その後、リニアエンコーダ11の原点がヘッド112に対応する位置付近までくると、モーションコントローラ41は、リニアスケール111の移動速度を小さくしてリニアエンコーダ11の原点をヘッド112に対応する位置に至らせる。そして、ヘッド112を介してホストコンピュータ42のCPUがリニアエンコーダ11の原点を検出する。
【0025】
以上のような本実施形態の三次元測定機1では、以下の効果がある。
本実施形態の三次元測定機1では、アブソリュート型のロータリーエンコーダ12で検出される駆動モータ3の絶対角度に基づいてプローブの絶対位置が検出可能となるので、プローブの絶対位置に基づいてリニアエンコーダ11の原点位置を検出することを容易に行うことができる。
また、本実施形態の三次元測定機1および三次元測定機1の制御方法では、以下の効果がある。
本実施形態の三次元測定機1では、制御装置4は原点位置記憶部421と取得部422とを備え、三次元測定機1は原点位置記憶工程S1と取得工程S2とで制御される。
取得部422が、ロータリーエンコーダ12で検出される駆動モータ3の絶対角度に基づいてプローブの絶対位置を取得するため、プローブの絶対位置が容易にわかる。そして、原点位置記憶部421に記憶されたリニアエンコーダ11の原点の絶対位置と取得部422で取得されたプローブの絶対位置とに基づいて原点位置の検出を行うことができ、従来のようにリミットスイッチの機械的な位置を検出する動作を省略することができて、リニアエンコーダ11の原点位置を短時間で確実に検出することができる。
【0026】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、プローブをX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に沿って移動させる三次元測定機1について説明したが、プローブを少なくとも1軸方向、例えばX軸方向に移動させる産業ロボットなどであってもよい。
【0027】
また、前記実施形態では、プローブの絶対位置は、予め記憶された対応テーブルに基づいて取得されたが、ホストコンピュータ42が、所定の数式を用いることで、ロータリーエンコーダ12で検出される駆動モータ3の絶対角度からプローブの絶対位置を算出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は産業機械および産業機械の制御方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…三次元測定機(産業機械)
2…スピンドル(移動機構)
3…駆動モータ
4…制御装置
11…インクリメンタル型のリニアエンコーダ
12…アブソリュート型のロータリーエンコーダ
421…原点位置記憶部
422…取得部
S1…原点位置記憶工程
S2…取得工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸方向へ制御対象物を移動させる移動機構と、前記移動機構を移動させる駆動力を発生する駆動モータと、前記移動機構の位置を制御するとともに前記駆動モータの回転速度を制御する制御装置とを備えた産業機械であって、
前記移動機構の位置に基づく信号を出力するインクリメンタル型のリニアエンコーダと、前記駆動モータの絶対角度に基づく信号を出力するアブソリュート型のロータリーエンコーダとを備えることを特徴とする産業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の産業機械において、
前記制御装置は、前記インクリメンタル型のリニアエンコーダの原点の絶対位置を記憶する原点位置記憶部と、前記アブソリュート型のロータリーエンコーダで検出される前記駆動モータの絶対角度に基づいて制御対象物の絶対位置を取得する取得部とを備えることを特徴とする産業機械。
【請求項3】
所定の軸方向へ制御対象物を移動させる移動機構と、前記移動機構を移動させる駆動力を発生する駆動モータと、前記移動機構の位置を制御するとともに前記駆動モータの回転速度を制御する制御装置とを備えた産業機械の制御方法であって、
前記産業機械は、前記移動機構の位置に基づく信号を出力するインクリメンタル型のリニアエンコーダと、前記駆動モータの絶対角度に基づく信号を出力するアブソリュート型のロータリーエンコーダとを備え、
前記制御装置は、前記インクリメンタル型のリニアエンコーダの原点の絶対位置を記憶する原点位置記憶工程と、前記アブソリュート型のロータリーエンコーダで検出される前記駆動モータの絶対角度に基づいて制御対象物の絶対位置を取得する取得工程とを実行することを特徴とする産業機械の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−18008(P2012−18008A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154109(P2010−154109)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】