説明

発振器

【課題】 周波数の温度依存特性をMEMSキャパシタの温度依存特性を利用して自動的に補正する、MEMS振動子を用いた発振器を提供する。
【解決手段】 機械的に振動するMEMS振動子と、MEMS振動子の共振周波数で発振して発振信号を出力する出力用発振回路と、周囲の温度によってアノード電極とカソードビームの距離が変わり、容量値が変化するMEMSキャパシタとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS技術を用いた発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に代表される無線携帯機器、パーソナルコンピュータ等の電子機器の小型化と高精度化の要求が高まっている中で、この様な電子機器には小型でしかも安定な高周波信号源が必要不可欠である。この要求を満足させる為の代表的な電子部品が水晶振動子である。水晶振動子は、良好な結晶の安定性から、発振素子の品質の指標である共振先鋭度(即ちQ値)が極めて大きく、10000を超える事が知られている。これが、無線携帯機器、パーソナルコンピュータ等の安定な高周波信号源として、広く水晶振動子が利用されている理由である。しかし、この水晶振動子は、近年のより一層の小型化の要求を十分に満足させる事ができない事も明らかになってきている。
【0003】
そこで近年、水晶振動子の代わりに、シリコン基板を用いたMEMS(Micro−Electro−Mechanical−System)技術により形成された小型のMEMS振動子を用いたMEMS発振器が報告されている(特許文献1参照)。MEMS発振器は水晶発振器に比べて小型化が可能であり、また高周波への対応が容易である事から、特に携帯電話などの小型機器への普及が見込まれている。また、MEMS振動子はシリコン基板を用いて作製できる事から、周辺回路とワンチップ化する事も可能である。
【0004】
図2は、MEMS振動子を表す原理図である。この図に示す様に、MEMS振動子は基板10に対して間隙14の距離で浮いた状態で対向配置し、振動ビーム11を作製する。振動ビーム11の両端はアンカー16を介して基板10に固定される。ドライブ電極12、センス電極13はそれぞれ、振動ビーム11に対して容量性ギャップ15を設けた状態で対向配置される。MEMS振動子は電圧を印加して静電力による駆動を行うが、その際、交流信号に加えて直流バイアス電圧を印加することで水晶振動子と同様な電気的特性(例えばQ値)を示すので、水晶発振器と同様の構成で発振器の振動子として用いる事が可能である。このMEMS振動子の振動周波数f0は、実効的な質量Meff、実効的な硬さKeffを用いて、
f0=1/(2π)√(Keff/Meff)
と表すことができる。ここで振動ビーム11を形成している材料は、環境温度変化によって膨張・収縮をするため、実効的な質量Meffは変化する。また、振動ビーム11を形成している材料は環境温度変化によって材料のヤング率が変化するため、実効的な硬さKeffは変化する。
【特許文献1】US2006/0033594 A1
【特許文献2】US2002/0069701 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術に係るMEMS発振器においては、水晶振動子と比較して発振周波数の温度依存特性が悪いという問題があった。これは、実効的な質量や実効的な硬さが温度によって変化してしまうためである。その温度依存特性を補正するためには温度センサが必要であるが、発振器内に別体の温度センサを内蔵すると発振器のサイズが大きくなると共にコストも増加するという問題があった。また、振動子と離れた位置に温度センサを配置した場合には温度検出の誤差が大きくなり補正の精度が悪くなるという問題があった。
【0006】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、周波数の温度依存特性をMEMSキャパシタの温度依存特性を利用して自動的に補正する、MEMS振動子を用いた発振器を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る発振器は、前記出力用振動子の共振周波数で発振して発振信号を出力する出力用発振回路と、周囲の温度によってアノード電極とカソードビームの距離が変わり、容量値が変化するキャパシタとを備える。
【0008】
また本発明に係わる出力用振動子は、半導体基板である支持層に対向して配置され、その少なくとも一部は前記支持層上の絶縁層に固定されている事を特徴とする。
【0009】
また本発明に係わるキャパシタは、半導体基板である支持層に対向して間隙を設けて配置された支持ビーム、カソードビームと、支持ビームを半導体基板である支持層上に固定するアンカーと、半導体基板である支持層上に固定されたアノード電極とから構成され、カソードビームの両端は支持ビームの一方の端にそれぞれ接続し、支持ビームのもう一方の端はアンカーを介して半導体基板である支持層上の絶縁膜に固定し、アノード電極とカソードビームは平行に対向して配置されると共に、支持ビームはカソードビームに対して直交に接続している事を特徴とする。
【0010】
また本発明に係わるキャパシタは、半導体基板である支持層に対向して間隙を設けて配置された支持ビーム、アノード電極、カソード電極と、支持ビームを半導体基板である支持層上に固定するアンカーから構成され、支持ビームの一方の端にカソード電極を接続し、支持ビームのもう一方の端はアンカーを介して半導体基板である支持層上の絶縁膜に固定し、別の支持ビームの一方の端にアノード電極を接続し、別の支持ビームのもう一方の端はアンカーを介して半導体基板である支持層上の絶縁膜に固定し、アノード電極とカソード電極は平行に対向して配置されると共に、アノード電極が接続された支持ビームとカソード電極が接続された支持ビームは互いに平行に、かつ、それぞれのアンカーは互いに対極の位置に配置されている事を特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る発振器は、前記出力用振動子と、前記出力用発振回路と、前記キャパシタとが同一の基板上に形成された事を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出力用発振回路に接続されているキャパシタを温度に対して容量値が変化するように構成したため、環境温度変化によって発振器の発振周波数が変化するのを自動的に補正し、温度変化に対して周波数変化がない発振器を提供することができる。また、キャパシタをMEMS振動子と同じプロセスで隣接するように設置したので、MEMS振動子の温度を正確に反映して発振器の発振周波数を補正する事ができる。また温度変化に対するキャパシタの容量値変化を2次特性にすることにより、発振器の周波数温度変化の2次成分を自動的に補正し、温度変化に対して周波数変化がない発振器を提供することができる。さらに、MEMS振動子、キャパシタ、出力用発振回路を同一の工程で同一基板上に作製できるので、小型で安価なMEMS振動子を用いた発振器が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
【実施例1】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る発振器のブロック図である。同図に示すように、MEMS振動子1、出力用発振回路2、MEMSキャパシタ3、4から構成される。また、MEMS振動子1は図2に示すように、振動ビーム11、ドライブ電極12、センス電極13から構成される。MEMS振動子1のセンス電極13は、MEMSキャパシタ2と出力用発振回路2の入力端子に接続される。MEMS振動子1のドライブ電極12は、MEMSキャパシタ4と出力用発振回路2の出力端子と発振器の出力端子5に接続されている。
【0016】
図1に示した発振器のブロック図はコルピッツ発振回路を元に回路ブロックが構成されているが、必ずしもこの構成に限定されるのではなく、本発明はMEMS振動子の出力用発振回路にMEMSキャパシタを使うことを特徴としており、他の増幅回路や発振回路に適用することも可能である。
【0017】
MEMS振動子1は、基板10上に絶縁層を介してアンカー16、ドライブ電極12、センス電極13が配置されている。振動ビーム11と基板10の間には絶縁層が存在せず間隙14となっている。これにより、振動ビーム11は機械的に振動し得る。さらに振動ビーム11の長辺方向両端はアンカー16で基板10上の絶縁層に固定されている。ドライブ電極12、センス電極13は容量性ギャップ15を持った状態で振動ビーム11の長辺に平行に配置される。ドライブ電極12とセンス電極13は、振動ビーム11の長辺を挟んでお互い対極の位置に配置される。本発明では、振動ビーム11の両端を基板に固定するClamp−Clampビームを用いているが、必ずしもこの構造に限定されるものではなく、MEMS振動子すべてに適用することができる。
【0018】
MEMSキャパシタ3、4は、図3に示すようにカソード電極21、アノード電極22、23、支持ビーム24、25、アンカー26、27から構成される。カソード電極21、支持ビーム24、25は基板10に対して間隙30をあけた状態で浮いている。カソード電極21の長辺方向両端は支持ビーム24、25の一方の端に直交してそれぞれ接続されている。支持ビーム24、25のもう一方の端はアンカー25、26で基板10上の絶縁層に固定されている。アノード電極22、23はカソード電極21に対して容量性ギャップ28、29を持った状態でカソード電極21の長辺に平行に配置される。さらにアノード電極22とアノード電極23は、カソード電極21の長辺を挟んでお互い対極の位置に配置される。
【0019】
ここでMEMS振動子1及びMEMSキャパシタ3、4は、SOI(Silicon on Insulator)基板を用いてMEMS技術によって形成される。SOI基板は活性層、絶縁層、基板10を有している。これらの層の内、活性層(シリコン)はMEMS振動子の振動ビーム11やMEMSキャパシタの支持ビーム24、25、33、34やカソード電極21、31、アノード電極32を形成するために用いられる。これらの可動部はエッチングによって、基板10に対向すると共に互いに隣接して形成される。これらの可動部は電極として機能させるため、予め不純物ドープなどにより活性層を低抵抗化しておく。
【0020】
また、上記活性層の加工後にエッチングによってアンカー16、26、27、35、36以外の下面の絶縁層を除去することで、上記可動部と基板との間にギャップ(間隙)を形成する。エッチングされずに残ったアンカー16、26、27、35、36下面の絶縁層が、基板10と可動部とをそれぞれ電気的に絶縁すると共に基板10に固定する。
【0021】
さらに、アルミニウム(Al)の蒸着などによりそれぞれの電極が発振回路に電気的に接続される。
【0022】
MEMS振動子1とMEMSキャパシタ3、4は互いに隣接して形成されるため、振動ビーム11とほぼ同一の温度を検出できる。また、MEMS振動子1とMEMSキャパシタは同一プロセスで一体に形成できるため、非常に小型化する事が出来るとともに、低コスト化も可能となる。
【0023】
次に、本実施形態に係る発振器の動作を詳細に説明する。
【0024】
まず、MEMS振動子1の振動ビーム11へアンカー16を通してビームバイアス電圧を印加する。出力用発振回路2は、MEMS振動子1とMEMSキャパシタ3、4で決まる共振周波数で発振して出力用発振信号を出力する。出力された信号は出力端子5を通して他の回路に送られると共に、MEMS振動子1のドライブ電極12に送られる。ドライブ電極12には交流電圧に加えて直流バイアス電圧を印加することで、水晶振動子と同様の特性(例えばQ値)を持たせる事ができる。
【0025】
ここで、本発明の実施の形態に係わる出力用発振回路の一実施例について図7を元に説明する。
MEMS振動子1の両端には、電流抑制用抵抗63,64の一端がそれぞれ接続される。電流抑制用抵抗63,64の他端には、それぞれ直流バイアス電圧66の両端が接続される。また、MEMS振動子1の両端には、直流成分カット用容量61,62の一端がそれぞれ接続される。さらにMEMS振動子1の振動ビーム11にはビームバイアス電圧68の正極が接続され、負極は接地される。
【0026】
直流成分カット用容量61の他端は、負荷容量であるMEMSキャパシタ3の一端が接続されると共に、インバータ(アンプ)67の入力端と負荷抵抗65の一端が接続される。また、直流成分カット用容量62の他端は、負荷容量であるMEMSキャパシタ4の一端が接続されると共に、インバータ(アンプ)67の出力端と負荷抵抗65の他端と出力用発振回路2の出力端子5が接続される。また、負荷容量であるMEMSキャパシタ3、4の他端は、それぞれ接地される。
【0027】
次に、本発振回路の動作を説明する。
【0028】
MEMS振動子1の両端には、上述のように直流バイアス電圧66とビームバイアス電圧68が印加され、振動ビーム11とドライブ電極12及びセンス電極13の間の静電引力をより大きなものにすると共にインバータ(アンプ)67の入力端子に入ってくる信号のレベルを調整する。ここで直流バイアス電圧66を印加するため、MEMS振動子1への大電流の流入と流出を防ぐ目的で電流抑制用抵抗63,64が挿入されている。また、インバータ(アンプ)67の入出力端子に直流電圧が印加されないように、直流成分カット用容量61,62が挿入されている。
【0029】
そして振動ビーム11は、ドライブ電極12に加えられた交流電圧と振動ビーム11に加えられた直流バイアス電圧で静電引力を起こし、振動ビーム11が振動する。振動ビーム11の振動によってセンス電極13に電荷が誘起され、誘起された電荷の増減が信号となってインバータ(アンプ)67の入力端子に送られる。入力端子に送られてきた信号はインバータ(アンプ)67で増幅されて、再度ドライブ電極12に加えられる。
【0030】
以上のことを繰り返し、最終的に出力用発振回路2は、MEMS振動子1の共振周波数で発振して発振信号を出力する。
【0031】
ここで図8は、MEMS振動子の共振周波数の温度依存特性を示したものである。同図に示すように、MEMS振動子の共振周波数は温度が高くなるにつれて、周波数が低下してくる。さらに温度と周波数の関係はリニアではなく、2次関数的に低下していく。このため、これまでの発明のように温度センサを設けてMEMS振動子の温度を計測し、回路で周波数を補正していくというやり方では、非常に困難さを伴う。
【0032】
出力用発振回路2の入力端子と出力端子に接続されているMEMSキャパシタ3、4は、アノード電極22、23とカソード電極21との間に容量性ギャップ20を設けて配置されているため、
C=εS/d (Sはアノード電極面積、dは容量性ギャップ)
で決まる容量値を持つ。ここで環境温度が変化すると、材料は以下のような計算式に基づいて膨張・収縮を行う。
【0033】
L’=L0(1+αΔT+βΔT2
0は基準温度時の材料の長さ、L’は現在の環境温度での材料の長さ、ΔTは基準温度と
現在の環境温度との温度差、α、βは材料の線膨張温度係数である。
【0034】
このため、例えば環境温度が基準温度より高くなった場合、支持ビーム24、25は上記式に基づいて長さが伸びる。しかし支持ビーム24、25は、一方の端をアンカー26、27で基板10に固定されているためカソード電極21と接続されている方向(アンカー26、27で固定されている端とは逆の端の方向)に伸びていく。ここでアノード電極22、23は基板10に固定されているため、アノード電極23とカソード電極21の容量性ギャップ29は縮まり、アノード電極22とカソード電極21の容量性ギャップ28は拡がることになる。このためアノード電極23とカソード電極21を使ってMEMSキャパシタ3、4を構成した場合、環境温度が上昇するとMEMSキャパシタ3、4の容量値は増加する(図4(a))。一方、アノード電極22とカソード電極21を使ってMEMSキャパシタ3、4を構成した場合、環境温度が上昇するとMEMSキャパシタ3、4の容量値は減少する(図4(b))。図1に示した回路ブロックでMEMSキャパシタを用いる場合、MEMS振動子1の周波数温度特性は温度が上昇すると周波数が下がるため、温度が上昇するとキャパシタの容量が低下するように、アノード電極22とカソード電極21を使ってMEMSキャパシタ3、4を構成する接続を行う。ここでMEMS振動子1とMEMSキャパシタの組合せでは常にアノード電極22とカソード電極21を用いることに限定されるものではない。出力用発振回路2の回路構成によって、どちらのアノード電極と接続するべきか異なってくる。本発明で示したコルピッツタイプの発振回路では、上記のようにアノード電極22とカソード電極21を使う。
【0035】
環境温度が上昇することによってMEMSキャパシタ3、4の容量値は低下し、出力用発振回路2の出力信号は周波数が上昇する傾向になるが、一方、MEMS振動子1の共振周波数は温度上昇によって低下していく傾向にあるので、MEMS振動子1とMEMSキャパシタ3、4を合わせた共振周波数は温度に対して増減することなく、一定を保つことができることとなる。
【0036】
上記の様に本発振器は、MEMSキャパシタの容量温度依存性を用いてMEMS振動子の周波数を温度補償するものである。
【実施例2】
【0037】
本発明の別の実施形態に係る発振器について詳細に説明する。
【0038】
MEMS振動子1の周波数温度特性は図7に示すようにMEMS振動子の共振周波数は温度が高くなるにつれて、周波数が低下してくる。さらに温度と周波数の関係はリニアではなく、2次関数的に低下していく。これまで、MEMS振動子の周波数温度特性を改善するために特許US2006/0033594 A1やUS2002/0069701 A1で開示されているような手法が用いられてきた。これらの手法では、周波数温度特性の1次成分を低減する効果はあるが、温度特性の2次成分を低減する効果は小さかった。そこで本発明の別の実施形態では、出力用発振回路2の入出力端子に接続されているMEMSキャパシタ3、4の容量値を2次的に変化させることで、周波数温度特性の2次成分を低減させようとしたものである。
【0039】
MEMSキャパシタ3、4は、図5に示すように、カソード電極31、アノード電極32、支持ビーム33、34、アンカー35、36から構成される。カソード電極31、アノード電極32、支持ビーム33、34は基板10に対して間隙38をあけた状態で浮いている。カソード電極31は支持ビーム33の一方の端に接続されている。支持ビーム33のもう一方の端はアンカー35で基板10上の絶縁層に固定されている。アノード電極32は支持ビーム34の一方の端に接続されている。支持ビーム34のもう一方の端はアンカー36で基板10上の絶縁層に固定されている。カソード電極31とアノード電極32は容量性ギャップ37を持った状態で、且つ支持ビーム33、34の長辺方向に平行なカソード電極31及びアノード電極32の辺が互いに対向するように配置される。さらに、支持ビーム33、34はそれぞれアンカー35、36を介して基板10上の絶縁層に固定される。このときアンカー35、36の位置は、カソード電極31とアノード電極32の対向している面に対して対極の位置に配置される。
【0040】
次に、本発明の別の実施形態に係る発振器の動作を詳細に説明する。
【0041】
まず、MEMS振動子1は周波数温度特性を改善するために特許US2006/0033594 A1やUS2002/0069701 A1で開示されているような手法を用いたMEMS振動子を使用する。このとき、周波数温度特性の1次成分はほぼ取り除かれているが、温度特性の2次成分は大きく残ってしまっている状態である。
【0042】
出力用発振回路2の入力端子と出力端子に接続されているMEMSキャパシタ3、4は、アノード電極32とカソード電極31との間に容量性ギャップ37を設けて配置されているため、
C=εS/d (Sはキャパシタ電極面積、dは容量性ギャップ)
で決まる容量値を持つ。ここで環境温度が変化すると、材料は以下のような計算式に基づいて膨張・収縮を行う。
【0043】
L’=L0(1+αΔT+βΔT2
0は基準温度時の材料の長さ、L’は現在の環境温度での材料の長さ、ΔTは基準温度と
現在の環境温度との温度差、α、βは材料の線膨張温度係数である。
【0044】
このため、例えば環境温度が基準温度より高くなった場合、支持ビーム33、34は上記式に基づいて長さが伸びる。しかし支持ビーム33、34は、一方の端をアンカー35、36で基板10に固定されているため、支持ビーム33はカソード電極31が接続されている方向(アンカー35で固定されている端とは逆の端の方向)に伸びていき、支持ビーム34はアノード電極32が接続されている方向(アンカー36で固定されている端とは逆の端の方向)に伸びていく。キャパシタの容量は上記式に示すように電極の面積に比例するため、支持ビーム33、34が伸びることによってアノード電極32とカソード電極31が対向する電極面積は小さくなり、キャパシタの容量値は小さくなっていく。
【0045】
一方、環境温度が基準温度より低くなった場合、支持ビーム33、34は上記式に基づいて長さが縮む。しかし支持ビーム33、34は、一方の端をアンカー35、36で基板10に固定されているため、支持ビーム33はアンカー35の方向に縮んでいき、支持ビーム34はアンカー36の方向に縮んでいく。キャパシタの容量は上記式に示すように電極の面積に比例するため、支持ビーム33、34が縮むことによってアノード電極32とカソード電極31が対向する電極面積は小さくなくなり、キャパシタの容量値は小さくなっていく。
【0046】
つまり、MEMSキャパシタの容量は、基準温度時の容量を最大値として温度が高くても低くても小さくなる2次特性を有する(図6参照)。周波数の1次温度特性を補正されたMEMS振動子1はある温度を最大値として負の2次特性を持っているが、上記MEMSキャパシタもある温度を最大値として負の容量温度特性を持つため、MEMS振動子1とMEMSキャパシタ3、4を合わせた共振周波数は温度に対して増減することなく、一定を保つことができる。
【0047】
上記の様に本発振器は、MEMSキャパシタの容量温度依存性を用いてMEMS振動子の周波数を温度補償するものである。
【0048】
また、SOI基板などを用いて上述してきた構成とした場合、本発振器は同一の基板上にすべての構成要素を一体化して形成する事が可能である。また、例えば本発振回路の発振信号を利用して各種信号処理を行うその他の集積回路を同一基板上に形成する事も可能である。
【0049】
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は本実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0050】
例えば、MEMS振動子の構造は図2に示した構造に限定されず、横振動を用いる構造でも良く、または振動子の両端が支持された構造でも良い。また、発振回路の構成も、図7に示した構成に限定されないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る発振器のブロック図である。
【図2】同上のMEMS振動子の構成を示す斜視図である。
【図3】同上のMEMSキャパシタの構成を示す斜視図である。
【図4】同上のMEMSキャパシタの容量温度依存特性図である。
【図5】本発明の別の実施形態に係るMEMSキャパシタの構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の別の実施形態に係るMEMSキャパシタの容量温度依存特性図である。
【図7】本発明の実施形態に係る出力用発振回路の回路図である。
【図8】同上のMEMS振動子の共振周波数の温度依存特性図である。
【符号の説明】
【0052】
1、MEMS振動子
2、出力用発振回路
3,4、MEMSキャパシタ
5、出力端子
10、基板
11、振動ビーム
12、ドライブ電極
13、センス電極
14,30,38、間隙
15,28,29,37、容量性ギャップ
16,26,27,35,36、アンカー
21,31、カソード電極
22,23,32、アノード電極
24,25,33,34、支持ビーム
61,62、直流成分カット用容量
63,64、電流抑制用抵抗
65、負荷抵抗
66、直流バイアス電圧
67、インバータ(アンプ)
68、ビームバイアス電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的に振動する出力用振動子と、
前記出力用振動子の共振周波数で発振して発振信号を出力する出力用発振回路と、
周囲の温度によってアノード電極とカソードビームの距離が変わり、容量値が変化するキャパシタと、
を備える発振器。
【請求項2】
前記出力用振動子は、半導体基板である支持層に対向して配置され、その少なくとも一部は前記支持層上の絶縁層に固定されている事を特徴とする請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記キャパシタは、
半導体基板である支持層に対向して間隙を設けて配置された支持ビームおよびカソードビームと、
前記支持ビームを前記支持層上に固定するアンカーと、
前記支持層上に固定されたアノード電極とから構成され、
前記カソードビームの両端は前記支持ビームの一方の端にそれぞれ接続され、
前記支持ビームのもう一方の端は前記アンカーを介して前記支持層上の絶縁膜に固定され、
前記アノード電極と前記カソードビームは平行に対向して配置されると共に、前記支持ビームは前記カソードビームに対し直交して接続されている事を特徴とする請求項1または2に記載の発振器。
【請求項4】
前記キャパシタは、
半導体基板である支持層に対向して間隙を設けて配置された第1および第2の支持ビームのそれぞれ一方の端に接続されたアノード電極およびカソード電極と、
前記第1の支持ビームの前記アノード電極とは反対の端に接続された前記第1の支持ビームを前記支持層上に固定する第1のアンカーと、
前記第2の支持ビームの前記カソード電極とは反対の端に接続された前記第2の支持ビームを前記支持層上に固定する第2のアンカーとからなり、
前記アノード電極と前記カソード電極は平行に対向して配置されると共に、前記アノード電極が接続された前記第1の支持ビームと前記カソード電極が接続された前記第2の支持ビームは互いに平行に配置され、かつ、前記第1および第2のアンカーは互いに対極の位置に配置されている事を特徴とする請求項1または2に記載の発振器。
【請求項5】
前記出力用振動子と、前記出力用発振回路と、前記キャパシタとが同一の基板上に形成された事を特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−211420(P2008−211420A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45008(P2007−45008)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】