説明

真空バルブ用接点材料およびその製造方法

【課題】低裁断特性を有し、かつ低接触抵抗特性を兼備した真空バルブ用接点材料およびその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】1〜50wt%のCrおよび結合している酸素の全体に占める割合が0.1〜1wt%以下のAl,MgOまたはTiOから選ばれる酸化物を含有し残部がCuから成り、酸化物が粒子状にCuマトリックス中に分散しており、Cuマトリックス中に分散した粒子状の前記酸化物の表面の一部または全てをCrの一部が被覆していることを特徴とする真空バルブ用接点材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空バルブ用接点材料およびその製造方法に関わり、より具体的には、優れた低接触抵抗特性および低裁断性能を兼備した接点材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空バルブ用接点は、導電成分であるCuやAgに用途に応じた種々の成分が複合化された材料であり、大別すると、以下の4種類が存在する。
【0003】
1)CuBi、CuTeSeに代表される大電流遮断用接点
Bi,Te,Se等、接点材料中に、脆性相を形成する成分を含んでおり、通電性に優れ、仮に接触抵抗による溶着が発生しても、この脆性相を起点として溶着部が破断できる。これらの成分は同時に低裁断化作用を有する成分であるが、大電流遮断性能を確保できる範囲内の少量の添加では、十分な低裁断特性は示さない。
【0004】
2)Cu−W等の高電圧用途に用いられる接点
導電性に優れたWを複合化していることから、通電性、低接触抵抗特性に優れる。Wの複合化による低裁断化効果は小さい。
【0005】
3)Ag−WC等の低裁断特性を有する接点
低裁断化作用を有するWCを多量添加することにより低裁断特性が発揮されている。WCの添加は接点材料を硬くするため、接触抵抗は比較的大きい。
【0006】
4)Cu−Cr等の、ある程度の耐圧特性および大電流遮断特性を有する接点(特許文献1を参照)
Crの複合化により優れた遮断性能を発揮する。複合量が比較的少ない接点材料は低接触抵抗特性を有する。Crの複合化による低裁断化効果は小さい。
【特許文献1】特開2003−226904
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
真空遮断器においては、経済性追求の視点から、近年、より小さい操作力により駆動することが要望されており、これに伴ない接点材料には、従来から要求されていた遮断性能や通電性能といった基本的性能に加え、低接触抵抗特性、低溶着特性を兼備させることへの要求が高まっている。さらに低裁断特性を有する接点の場合、従来はAg−WCのように、WCの多量添加により低裁断特性が発揮されていることから、接点材料の導電率が不十分であることに加え、接点材料が硬くなり、その結果、接触抵抗が増大していた。
【0008】
CuCr系接点材料はCr量を50wt%以下とすることで、接触抵抗を低くすることができる。しかしながら、CuCr系接点材料の裁断電流値は高く、低裁断性能は劣っており、低裁断特性を必要とする用途に使用するには、サージ保護装置などの併用が必要であった。このような保護装置には油が使用されていることから、真空遮断器の本来有する環境調和性や少メンテナンスといった利点が損なわれていた。
【0009】
上記のような背景から、本発明では、低裁断特性を有し、かつ低接触抵抗特性を兼備した真空バルブ用接点材料及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に対応する発明は、1〜50wt%のCr及び結合している酸素の全体に占める割合が0.1〜1wt%以下のAl,MgOまたはTiOから選ばれる酸化物を含有し残部がCuからなり、前記酸化物が粒子状にCuマトリックス中に分散しており、前記Cuマトリックス中に分散した粒子状の前記酸化物の表面の少なくとも一部を前記Crで被覆していることを特徴とする真空バルブ用接点材料である。
【0011】
上記目的を達成するため、請求項2に対応する発明は、1〜50wt%のCr及び結合している酸素の全体に占める割合が0.1〜1wt%以下のAl,MgOまたはTiOから選ばれる酸化物を含有し残部がCuからなり、前記酸化物が粒子状にCuマトリックス中に分散しており、前記Cuマトリックスと前記酸化物との界面を前記Crで被覆していることを特徴とする真空バルブ用接点材料である。
【0012】
上記目的を達成するため、請求項6に対応する発明は、1〜15wt%のCr及び3wt%以下のAl,MgOまたはTiOを含有し残部がCuの割合で配合した粉末を混合して混合粉末を得る工程と、前記工程により得られた混合粉末を、Cuの融点以上でかつ1300℃以下の温度にて溶解し、前記Cuマトリックスと前記酸化物との界面に前記Crを存在させるための工程とを具備したことを特徴とする真空バルブ用接点材料の製造方法である。
【0013】
上記目的を達成するため、請求項7に対応する発明は、1〜15wt%のCr及び3wt%以下のAl,MgOまたはTiOを含有し残部がCuの割合で配合した粉末を混合して混合粉末を得る工程と、前記工程により得られた混合粉末を成形し、成形体を得る工程と、前記成形体をCuの融点以上でかつ1300℃以下の温度にて液相焼結し、前記Cuマトリックスと前記酸化物との界面に前記Crを存在させるための工程とを具備したことを特徴とする真空バルブ用接点材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低裁断特性を有し、かつ低接触抵抗特性を兼備した真空バルブ用接点材料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、表1〜表8並びに図1、図2を参照して説明する。
【0016】
本発明の真空バルブ用接点材料は、概略、1〜50wt%のCr及び結合している酸素の全体に占める割合が0.1〜1wt%以下のAl,MgOまたはTiOから選ばれる酸化物を含有し残部がCuからなり、前記酸化物が粒子状にCuマトリックス中に分散しており、前記Cuマトリックス中に分散した粒子状の前記酸化物の表面の少なくとも一部を前記Crで被覆していることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の真空バルブ用接点材料は、概略、1〜50wt%のCr及び結合している酸素の全体に占める割合が0.1〜1wt%以下のAl,MgOまたはTiOから選ばれる酸化物を含有し残部がCuからなり、前記酸化物が粒子状にCuマトリックス中に分散しており、前記Cuマトリックスと前記酸化物との界面を前記Crで被覆していることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の真空バルブ用接点材料の製造方法は、概略、1〜15wt%のCr及び3wt%以下のAl,MgOまたはTiOを含有し残部がCuの割合で配合した粉末を混合して混合粉末を得る工程(第1の工程)と、前記工程により得られた混合粉末を、Cuの融点以上でかつ1300℃以下の温度にて溶解し、前記Cuマトリックスと前記酸化物との界面に前記Crを存在させるための工程(第3の工程)とを具備したことを特徴とする製造方法である。
【0019】
また、本発明の真空バルブ用接点材料の製造方法は、概略、1〜15wt%のCr及び3wt%以下のAl,MgOまたはTiOを含有し残部がCuの割合で配合した粉末を混合して混合粉末を得る工程(第1の工程)と、前記工程により得られた混合粉末を成形し、成形体を得る工程(第2の工程)と、前記成形体をCuの融点以上でかつ1300℃以下の温度にて液相焼結し、前記Cuマトリックスと前記酸化物との界面に前記Crを存在させるための工程(第3の工程)とを具備したことを特徴とする製造方法である。
【0020】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0021】
接点材料の製造方法
(接点材料の製造工程)
実施例1〜3および比較例1〜3および比較例9については、以下に示す原料粉末の溶解法による方法を本発明の標準的な製造方法として実施した。
【0022】
第1の工程の第一例
アルミナ(Al)を酸化物として選択する。平均粒径45μmのCu粉末,平均流径100μmのCr粉末および平均粒径1μmのAl粉末を準備し、これらを96:3:1の重量比で混合する。
【0023】
第3の工程の第一例
混合粉末をアルミナ製の坩堝内の設置して、真空雰囲気中で溶解し鋳型に注型する。
【0024】
また、実施例4〜13および比較例9を除いた比較例4〜13については、以下に示す原料粉末の液相焼結による方法を本発明の標準的な製造方法として実施した。
【0025】
第1の工程の第二例
アルミナ(Al)を酸化物として選択する。平均粒径45μmのCu粉末,平均流径100μmのCr粉末および平均粒径1μmのAl粉末を準備し、これらを75:24:1の重量比で混合する。
【0026】
第2の工程の第一例
第1の工程で得られた混合粉末を、例えば8ton/cmの圧力にて成形し、成形体を得る。
【0027】
第3の工程の第二例
第2の工程で得られた成形体をカーボン製の坩堝内の設置し、るつぼ内の成形体周囲に平均粒径100μmのアルミナ粉末を充填し、成形体がアルミナ粉末中に埋没し見えなくなるまでアルミナ粉末を充填する。(設置方法1)このるつぼを10−3Torrより高真空な真空雰囲気内において、1200℃にて30分保持する。
【0028】
各実施例および比較例では、上記標準製造条件と部分的に異なる条件にて接点材料を製造し、組成、組織などの特性が異なる材料として、材料的特性および電気的特性の評価を行った。第3の工程での成形体の設置方法については、成形体をカーボン坩堝内にそのまま設置する方法(設置方法2)についても実施した。
【0029】
[電気的特性評価用真空バルブの構成]
前述のように製造した接点材料の電気的特性評価を実施するために、接点材料を所定の形状に加工し、真空バルブに組み込んだ。
【0030】
図1は、本実施例を説明するための真空バルブの断面図、図2は図1の電極部分の拡大断面図である。
【0031】
図1において、遮断室1は、絶縁材料によりほぼ円筒状に形成された絶縁容器2と、この両端に封止金具3a、3bを介して設けた金属製の蓋体4a、4bとで真空気密に構成されている。
【0032】
遮断室1内には、導電棒5,6の対向する端部に取付けられた一対の電極7,8が配設され、上部の電極7を固定電極、下部の電極8を可動電極としている。またこの電極8の電極棒6には、ベローズ9が取付けられ遮断室1内を真空気密に保持しながら電極8の軸方向の移動を可能にしている。また、このベローズ9上部には金属製のアークシールド10が設けられ、ベローズ9がアーク蒸気で覆われることを防止している。また、電極7,8を覆うように、遮断室1内に金属製のアークシールド11が設けられ、これにより絶縁容器2がアーク蒸気で覆われることを防止している。
【0033】
さらに、電極8は、図2に拡大して示す如く、導電棒6にろう付け部12によって固定されるか、又はかしめによって圧着接続されている。接点13aは電極8にろう付け14によってろう付けで取付けられる。なお、接点13bは、電極7にろう付けにより取付けられる。
【0034】
〔評価方法および評価条件〕
次に、本発明の製造方法により得られた実施例1〜20及び比較例1〜18について、次の表1、表2、表3、表4の各接点の製造条件および、これらに対応する表5、表6、表7、表8の材料組成、材料的特性および電気的特性データを参照しながら考察する。
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
【表8】

【0042】
ここで、各実施例と各比較例を説明するために、それぞれ得たデータを得た評価方法及び評価条件について説明する。
【0043】
(材料特性評価)
(1)形状
前述の第3の工程である、液相焼結法により作製した実施例および比較例については、形状が成形体と大きく異なっているものを不良と目視で判断した。なお、形状が不良のものについては加工による接点の取り出しが困難であるため、以下の評価は行なわないこととした。
【0044】
(2)相対密度
アルキメデス法により密度を測定して組成比から真密度を求めて相対密度に換算した。結果は、実施例1の値を1.00として相対比較し、0.95以上を合格とした。
【0045】
(3)導電率
渦電流測定により導電率を評価し、実施例1の測定との相対値で表示し、この値が0.5以上を合格とした。
【0046】
(電気特性評価)
(1)接触抵抗特性
前記真空バルブに各実施例、比較例の接点を組み込み、接触荷重120kgfでの接触状態で、直流10Aを通電して接触抵抗を測定した。10回の測定における平均値を実施例1と相対比較した値を表5、表6、表7、表8に示し、この値が1.5以下の場合を合格とした。
【0047】
(2)裁断特性
各実施例、比較例の接点を搭載した真空バルブを0.8m/秒の速度で開極させ、遅れ小電流を遮断した時の裁断電流値を測定した。遮断電流は実効値20A,50Hzの条件とした。開極位相はランダムに行い、500回遮断された時の裁断電流値を各3組の接点について測定し、各実施例、比較例における最大値を実施例1での最大値と相対比較した値を表5、表6、表7、表8に示し、この値が1.5以下の場合を合格とした。
【0048】
(3)遮断特性
前記真空バルブに各実施例、比較例の接点を組み込み、遮断試験をJEC規格の5号試験により行い、これにより遮断特性を評価した。
【0049】
(4)耐電圧特性
進み小電流試験における再点弧発生確率にて評価した。電流は500Aであり、回復電圧は12.5kVである。試験回数は2000回である。実施例8の再点弧発生確率を1.0とした場合の相対値を示し、この相対値が1.5以下のものを合格とした。
【0050】
(5)耐溶着特性
それぞれ平面および曲率半径50mmの球面の接触面を有する1対の接点を真空チャンバー内にセットし、接点を200Nの力で接触させ、15kAを通電して溶着させた後の引き外しに必要な力を測定する。3対の接点での試験を実施し、平均値を実施例10と相対比較した値を表5、表6、表7、表8に示す。この値が1.5以下を合格とした。
【0051】
[各実施例と各比較例との対比]
(実施例1および比較例1)
粉末を溶解する方法で作製した本発明の標準条件である実施例1とCrを含まない比較例1とを作製して、特性を評価した。実施例1では、優れた接触抵抗特性と裁断特性を示すが、Crを含まない比較例1では、組織の均一性に乏しくCrの偏在が多い為、裁断電流値の最大値が大きく、不合格となった。
【0052】
(実施例2〜3および比較例2〜3)
粉末を溶解する方法における標準条件とCr量を変えて作製した実施例、比較例を評価した。Cr量が1〜15wt%の範囲にある実施例2〜3は、優れた接触抵抗特性と裁断特性を示すが、Cr量が0.5wt%の比較例2では、比較例1と同様、組織の均一性に乏しくCrの偏在が多い為、裁断電流値の最大値が大きく、不合格となった。また、Cr量が17wt%の比較例3では溶解時にCrが溶解しきれなかったため、組織中に粗大なCrが多く、裁断電流値の最大値が大きく不合格であった。
【0053】
(実施例4〜5および比較例4〜5)
粉末を液相焼結する方法における標準条件とCr量を変えて作製した実施例、比較例を評価した。Cr量が15〜50wt%の範囲にある実施例4〜5は、優れた接触抵抗特性と裁断特性を示すが、Cr量が13wt%の比較例4では、欠陥等組織の均一性に乏しくCrの偏在が多い為、裁断電流値の最大値が大きく、不合格となった。また、Cr量が55wt%の比較例5ではCr量が多く、導電率が不十分なため、接触抵抗も高すぎるため不合格であった。
【0054】
(実施例6〜7および比較例6〜7)
粉末を液相焼結する方法の標準条件と焼結温度を変えて作製した実施例、比較例を評価した。焼結温度が1100〜1300℃の範囲にある実施例6〜7は、優れた接触抵抗特性と裁断特性を示すが、焼結温度が1050℃の比較例6では、Alの周囲をCrが被覆していないため、裁断電流値の最大値が大きく、不合格となった。また、焼結温度が1350℃の比較例7ではCu液相中へのCrの溶解量が過度に大きく、形状が大きく変化しており不良であった。なお、1100℃とCuの融点との間の温度においても実験を行なったが、いずれも実施例7および8と同様の結果が得られた。
【0055】
(実施例8および比較例8)
粉末を液相焼結する方法の標準条件と、焼結する際の坩堝中の成形体の設置方法を変えて作製した実施例、比較例を評価した。成形体の周囲をアルミナ粉末で充填した実施例8は、優れた接触抵抗特性と裁断特性を示すが、アルミナ粉末で充填しなかった比較例8では、形状が大きく変化しており不良であった。
【0056】
(実施例9および10)
粉末を液相焼結する方法の標準条件と、酸化物の種類を変えて作製した実施例を評価した。酸化物をMgOとした実施例9およびTiOとした実施例10は、いずれ優れた接触抵抗特性と裁断特性を示した。
【0057】
以上の実施例においては、本発明の実施例により、良好な接触抵抗と低裁断性を兼備する接点材料が得られることを示したが、さらにCr量とCr粒径を最も望ましい範囲とすれば、遮断性能も兼備できることを以下に示す。
【0058】
(実施例11〜12および比較例9〜10)
粉末を溶解する方法および液相焼結する方法でCr量を変えて作製した実施例、比較例を評価した。Cr量が15〜35wt%の範囲にある実施例11〜12は、優れた接触抵抗特性と裁断特性を示すが、Cr量が13wt%の比較例9では、Cr量が不十分のため、遮断直後の絶縁回復が不十分であり、不合格となった。また、Cr量が40wt%の比較例10ではCr量が多く、通電特性上は問題が無いものの良好な遮断性能を得るには導電率が不十分なため、遮断時の接点表面の温度上昇が大きく、過剰な金属蒸気が発生したため不合格であった。
【0059】
(実施例13〜14および比較例11〜12)
粉末を液相焼結する方法の標準条件のCr平均粒径を変えて作製した実施例、比較例を評価した。Cr平均粒径が30〜200μmの範囲にある実施例13〜14は、優れた接触抵抗特性,裁断特性および遮断性能を示すが、Cr平均粒径が10μmの比較例11では、ガス含有量が高く、遮断直後の絶縁回復が不十分であり、不合格となった。また、Cr平均粒径が300μmの比較例10では裁断電流値のばらつきが大きく不合格であった。
【0060】
以上の実施例において、Cr量が15〜35wt%,Cr粒径が30〜200μmの範囲において、良好な遮断性能が発揮できることを示した。これに加えて、酸化物の粒径についても適切な範囲とすることにより、耐電圧性能についても優れた値を示すことを以下に示す。
【0061】
(実施例15〜16および比較例13〜14)
粉末を液相焼結する方法の標準条件の酸化物の平均粒径を変えて作製した実施例、比較例を評価した。酸化物平均粒径が0.3〜3μmの範囲にある実施例15〜16は、接触抵抗特性,裁断特性,遮断特性および耐電圧特性のいずれも良好な特性を示すが、酸化物平均粒径が0.1μmの比較例13では、酸化物が凝集して凝集部に欠陥を形成するため、極端にガス含有量が高くなり不合格となった。また、酸化物平均粒径が5μmの比較例14では酸化物の分散度合いが不十分であるため、材料強度が低く、耐電圧特性が不合格であった。
【0062】
上記実施例では、接触抵抗特性、低裁断特性、遮断特性に加えて耐電圧特性を良好にするための手段を示しているが、一方以下に示す実施例では、接触抵抗特性、低裁断特性、遮断特性に加えて耐溶着特性を良好にする手段を提供するものである。
【0063】
(実施例17〜18および比較例15〜16)
粉末を液相焼結する方法の標準条件の粉末混合時にBi粉末を微量添加して作製した実施例、比較例を評価した。Bi含有量が0.02〜0.5wt%の範囲にある実施例17〜18は、接触抵抗特性,裁断特性,遮断特性および耐溶着特性のいずれも良好な特性を示すが、Bi含有量が0.01wt%の比較例15では、Cu結晶粒界が十分脆化されていないため、耐溶着特性が不合格となった。また、Bi含有量が1.0wt%の比較例16では、Biの蒸発により遮断特性が不合格となった。
【0064】
(実施例19〜20および比較例17〜18)
粉末を液相焼結する方法の標準条件の粉末混合時にBi粉末を微量添加して作製した実施例、比較例を評価した。Te含有量が0.05〜1.0wt%の範囲にある実施例19〜20は、接触抵抗特性,裁断特性,遮断特性および耐溶着特性のいずれも良好な特性を示すが、Te含有量が0.03wt%の比較例17では、Cu結晶粒界が十分脆化されていないため、耐溶着特性が不合格となった。また、Te含有量が2.0wt%の比較例18では、Teの蒸発により遮断特性が不合格となった。
【0065】
以上述べた本発明の実施形態によれば、次のような作用効果が得られる。すなわち、本実施形態の真空バルブ用接点材料は、電子放出能に優れ、かつ、酸素を放出し易い酸化物を含んでいることから、優れた低裁断性能の兼備をはじめて実現している。
【0066】
また、Cu系接点材料の場合、Cuとの濡れ性の悪い酸化物の含有は、接点材料中に多くの欠陥を発生させるため、これまで実現されていないが、本発明の実施形態のように、Crが酸化物表面の少なくとも一部又はまたはCuマトリックスと酸化物との界面をCrで被覆しているので、酸化物周囲の材料欠陥の形成が抑制され、高い相対密度の接点材料の製造を実現している。
【0067】
さらに、本発明の実施形態の真空バルブ用接点材料の製造方法によれば、混合粉末を得る工程により得られた混合粉末を、Cuの融点以上でかつ1300℃以下の温度にて溶解する溶解法又は液相焼結法を使用する工程を含んでいるので、Cuマトリックスと酸化物との界面にCrを存在させるための工程を含んでいるので、裁断性能を改善をでき低接触抵抗特性を兼備した真空バルブ用接点材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施例を示す真空バルブ用接点材料が適用される真空バルブの断面図。
【図2】図1の要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0069】
1…遮断室、2…絶縁容器、3a,3b…封止金具, 4a,4b…蓋体、5,6…導電棒、7,8…電極、9…ベローズ、10,11…アークシールド、13a,13b…接点、14…ろうづけ層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜50wt%のCr及び結合している酸素の全体に占める割合が0.1〜1wt%以下のAl,MgOまたはTiOから選ばれる酸化物を含有し残部がCuからなり、前記酸化物が粒子状にCuマトリックス中に分散しており、前記Cuマトリックス中に分散した粒子状の前記酸化物の表面の少なくとも一部を前記Crで被覆していることを特徴とする真空バルブ用接点材料。
【請求項2】
1〜50wt%のCr及び結合している酸素の全体に占める割合が0.1〜1wt%以下のAl,MgOまたはTiOから選ばれる酸化物を含有し残部がCuからなり、前記酸化物が粒子状にCuマトリックス中に分散しており、前記Cuマトリックスと前記酸化物との界面を前記Crで被覆していることを特徴とする真空バルブ用接点材料。
【請求項3】
前記Crの量が15〜35wt%のときであって、前記Crの大部分が前記Cuマトリックス中に分散しており、前記Cuマトリックス中に分散する前記Cr粒子の平均粒径が30〜200μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項4】
前記酸化物の粒子の平均粒径が0.3〜3μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項5】
0.02〜0.5wt%のBiまたは0.05〜1.0wt%のTeを、さらに含む請求項1〜4のいずれか一つに記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項6】
1〜15wt%のCr及び3wt%以下のAl,MgOまたはTiOを含有し残部がCuの割合で配合した粉末を混合して混合粉末を得る工程と、
前記工程により得られた混合粉末を、Cuの融点以上でかつ1300℃以下の温度にて溶解し、前記Cuマトリックスと前記酸化物との界面に前記Crを存在させるための工程と、
を具備したことを特徴とする真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項7】
1〜15wt%のCr及び3wt%以下のAl,MgOまたはTiOを含有し残部がCuの割合で配合した粉末を混合して混合粉末を得る工程と、
前記工程により得られた混合粉末を成形し、成形体を得る工程と、
前記成形体をCuの融点以上でかつ1300℃以下の温度にて液相焼結し、前記Cuマトリックスと前記酸化物との界面に前記Crを存在させるための工程と、
を具備したことを特徴とする真空バルブ用接点材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−302613(P2006−302613A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121461(P2005−121461)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(595019599)芝府エンジニアリング株式会社 (40)
【Fターム(参考)】