磁気抵抗素子
【課題】磁気抵抗素子全体の電力消費を低減させる。
【解決手段】磁気抵抗素子は、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性層と、強磁性領域に容量性結合されたゲートとを含んでいる。磁気抵抗素子を動作させる方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、強磁性領域に電場パルスを印加するステップを含んでいる。
【解決手段】磁気抵抗素子は、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性層と、強磁性領域に容量性結合されたゲートとを含んでいる。磁気抵抗素子を動作させる方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、強磁性領域に電場パルスを印加するステップを含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気抵抗素子に関するものである。
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は、フラッシュメモリなどの他の種類の不揮発性メモリと比べて、いくつかの利点を有している。例えば、MRAMは、通常電力消費も少なく、データの読み出し/書き込みもより高速である。また、MRAMは、ダイナミック・ランダムアクセスメモリ(DRAM)など、いくつかの形態の揮発性メモリに対して有望な代替技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のMRAMセルは、通常、非磁性層により分離された一組の強磁性層を有する磁気抵抗素子を含んでいる。一方の強磁性層は比較的低い保磁力を有しており、他方の強磁性層は比較的高い保磁力を有している。低保磁力層と高保磁力層は各々、“自由”層、“ピン”層と称されている。
【0003】
セルにデータを記憶するためには、外部磁場を印加し自由層の磁化を配向させる。磁場を除去した後磁化の方位は磁場の印加方向に保持される。
【0004】
セルからデータを読み出すためには素子に電流を流す。自由層とピン層との磁化が反平行(AP)に配置されている場合は、素子の磁気抵抗は比較的大きく、層の磁化が平行(P)に配置されている場合は、素子の磁気抵抗は比較的小さい。このように、素子の磁気抵抗を測定することによりセルの状態を判定することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“電流駆動による磁性多重層の励起”、J.C.Slonczewski、Physical Review B分冊、第54巻、9353頁(1996)
【非特許文献2】“磁界アシストによる電流誘起磁化反転を用いた高度にスケーラブルなMRAM、W.C.Jeong他、2005 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers,184頁
【非特許文献3】“ナノ秒以下にスピン注入磁化反転を加速するプリチャージの実施方法”、T.Devolder他著、Applied Physics Letters、第86巻、062505頁(2005)
【非特許文献4】“歳差動作と組み合わせた困難軸磁場からのスピン注入トルク反転の微視的磁気シミュレーション”K.Ito他著、Applied Physics Letters、第89巻、252509頁(2006)
【非特許文献5】“ヒ素二量体で成長させた高品質GaMnAs膜”、R.P.Campion、K.W.Edmonds、L.X.Zhao、K.Y.Wang、C.T.Foxon、B.L.Gallagher及びC.R.Staddon共著、Journal of Crystal Growth、第247巻、42頁(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外部磁界は、素子の近くを配線された少なくとも一つの導電性配線に電流を流すことにより生成する。しかし、この配置には、セルの寸法が小さくなるにつれて自由層の磁化を反転させるために必要な磁場が大きくなり、その結果、電力消費が増えてしまうという問題がある。
【0007】
外部磁場を印加することに代えて、スピン注入磁化反転を用いる方法がある。この方法は、“電流駆動による磁性多重層の励起”、J.C.Slonczewski、Physical Review B分冊、第54巻、9353頁(1996)に提案されており、“磁界アシストによる電流誘起反転を用いた高度にスケーラブルなMRAM、W.C.Jeong他、2005 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers,184頁が引用文献となっている。
【0008】
スピン注入磁化反転では、磁性素子の層界面に垂直な方向に電流を流す。これにより、ピン層に電流を流すことにより(電流が自由層からピン層に向けて流れる場合)、あるいはピン層から電子を散乱させることにより(電流がピン層から自由層に向けて流れる場合)、スピン偏極電子が自由層に注入される。スピン偏極電子が自由層に注入されると、これらの電子は自由層と相互作用を生じ、それらのスピン角運動量の一部を自由層の磁気モーメントに移行させる。スピン偏極電流が十分大きいと、これにより自由層の磁化が反転する。
【0009】
しかし、スピン注入磁化反転の欠点として、逆方向に反転を起こさせるために必要な電流密度が高くなる(例えば、108Acm−2のオーダー)という問題がある。
【0010】
反転電流パルスを印加する前に、直流プリチャージ電流を印加することにより電流を誘起することができる。これに関しては、“ナノ秒以下にスピン注入磁化反転を加速するプリチャージの実施方法”、T.Devolder他著、Applied Physics Letters、第86巻、062505頁(2005)に記載されている。反転電流パルスの電力消費は減少するが、全体の電力消費(すなわち、プリチャージ電流を含む電力消費)は高いままである。
【0011】
しかし、反転電流を流す直前あるいは流すと同時に、自由層の磁化困難軸に沿って短い持続時間(例えば、<5ns)の外部磁場パルスを印加することにより、電流を減少させることができる。これに関しては、“歳差動作と組み合わせた困難軸磁場からのスピン注入トルク反転の微視的磁気シミュレーション”K.Ito他著、Applied Physics Letters、第89巻、252509頁(2006)に記載されている。
【0012】
この方法は、スピン注入電流を大きく減少させることができるが、配線を通して電流を流すことにより外部磁場を印加することを含んでいる。これは、スケーラビリティへの対応と電力消費の削減への可能性に制限を課すものとなる。
【0013】
本発明は、この問題への解決策を求めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一の態様によれば、メモリセルのアレイであって、各セルが磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を含むアレイと、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方位を変化させるように、メモリセル内の磁気抵抗素子の強磁性領域に電場パルスを印加する回路とを備えている。
【0015】
本発明の第二の態様によれば、メモリセルのアレイであって、各セルが磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子と、電気的入力に応じて強磁性領域に応力を加える手段とを含むアレイと、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方位を変化させるように、メモリセル内の応力印加手段に入力パルスを印加する手段とを備えている。
【0016】
入力パルス印加手段は電気入力パルスを印加する回路を含んでいてもよく、強磁性領域は圧電性を有し、応力印加手段は強磁性領域に電場を印加するように構成された少なくとも一つの電極を含んでいる。入力パルス印加手段は電気入力パルスを印加する回路を含むものであってよく、応力印加手段は強磁性領域に結合した圧電領域と、圧電領域に電場を印加するように構成された少なくとも一つのゲート電極とを含んでいる。入力パルス印加手段は光入力パルスを印加する手段を含んでいてもよく、応力印加手段は光パルスを吸収しフォノンパルスを生成する手段を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の第三の態様によれば、磁気抵抗素子が備えられ、この磁気抵抗素子は磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域と、強磁性領域に結合された応力印加手段とを含み、応力印加手段は光を吸収するように構成され、さらに、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、光パルスの受信に応答して応力パルスを生成するように構成されていることを特徴とする。
【0018】
応力印加手段は、量子井戸を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の第四の態様によれば、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法が提供され、この方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、光パルスを印加するステップを含むことを特徴とする。
【0020】
磁気抵抗素子は、強磁性領域に結合された光子吸収領域を含んでいてもよい。
【0021】
本発明の第五の態様によれば、第一及び第二の電極と強磁性領域およびトンネル障壁とを含む磁気抵抗素子が備えられ、強磁性領域とトンネル障壁とを介して第一及び第二の電極間の電荷移動が生じるように、電極と強磁性領域とトンネル障壁とが配置され、素子は、さらに、第三の電極と、第三の電極とトンネル障壁との間に置かれた誘電体領域とを含み、第一の電極と誘電体領域は強磁性領域に電場を印加するように配置され、強磁性領域への電場パルスの印加により、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させることを特徴とする。
【0022】
トンネル障壁は、第一及び第二の面を有する層として配置してもよく、第二の電極とゲート誘電体は、これらの面の一つの面上に隣接して配置してもよい。強磁性領域は平面状の層として配置してもよく、強磁性領域の異方性磁場が平面内と垂直の間で反転可能となるように構成してもよい。
【0023】
本発明の第六の態様によれば、磁気抵抗素子が備えられ、この磁気抵抗素子は、固定化された(pinned)磁化方向に対応する第一方向に磁気異方性を示す第一の強磁性領域と、第二の異なる方向に磁気異方性を示す第二の強磁性領域と、第一及び第二の強磁性領域の間に配置され、少なくとも一つの量子化エネルギー状態を示すように構成された量子井戸構造とを含み、第一及び第二の強磁性領域間の交換結合は、少なくとも一つの量子化エネルギー状態により制御可能であることを特徴とする。
【0024】
素子は、さらに、第三の強磁性領域と、第二及び第三の強磁性領域を分離するトンネル障壁とを含んでいてもよい。
【0025】
素子は、さらに、第一及び第二の強磁性領域の間に、電圧バイアスを印加する手段を含んでいてもよい。
【0026】
本発明の第七の態様によれば、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域と、強磁性領域に容量性結合されたゲートとを含む磁気抵抗素子を動作させる方法が備えられ、この方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、強磁性領域に電場パルスを印加するステップを含むことを特徴とする。これにより、磁場パルスを生成する導電性配線を有する素子に比べより少ない電力を用いて、歳差支援磁化反転を引き起こすことができる。
【0027】
本方法は、第一及び第二の方向の間で強磁性領域の磁化を反転させるように特化した、電場パルスを印加するステップを含んでいてもよい。本方法は、磁場パルスを印加せずに、第一及び第二の方向の間で強磁性領域の磁化を反転するステップを含んでいてもよい。第一及び第二の方向の間で強磁性領域の磁化を反転するために電場パルスのみを用いるか、あるいは、この反転を助けるために磁場パルスを用いないことにより、電力消費を最小とすることに貢献する。
【0028】
素子は、さらに、磁場パルスを生成するために、強磁性領域に隣接して配置された導電性経路を含んでいてもよく、さらに、方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるように、電場パルスの印加中に変化する異方性磁場と、印加された磁場パルスとを含む有効磁場の方向変化が増加するように、電場パルスを印加しながら、強磁性領域に磁場パルスを印加するステップを含んでいてもよい。方法は、磁場パルスの立ち上がり部を印加する前に、電場パルスの立ち上がり部を印加するステップを含んでいてもよい。
【0029】
素子は、さらに、強磁性層よりも高い保磁力を有し、トンネル障壁層により強磁性層と分離された他の強磁性領域を含んでいてもよく、さらに、方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、電場パルスを印加しながら、強磁性領域内に流すスピン注入電流パルスを印加するステップを含んでいる。
【0030】
本方法は、さらに、スピン注入電流パルスの立ち上がり部を印加する前に、電場パルスの立ち上がり部を印加するステップを含んでいてもよい。強磁性領域は、不均一張力分布を有する強磁性半導体を含んでいてもよく、さらに、本方法は、不均一張力分布に対して、電荷キャリアの分布を変化させるために十分な大きさの電場パルスを印加するステップを含んでいる。
【0031】
不均一張力分布は、圧縮歪みの領域と引張り歪みの領域とを含んでいる。強磁性半導体は、(Ga,Mn)Asを含んでいてもよい。
【0032】
本方法は、持続時間tを有する電場パルスを印加するステップを含んでいてもよく、tは、tprecessの4分の1の倍数である。すなわち、
【数1】
ここで、γは形状定数であり、
で示され、さらに、BAは強磁性半導体の異方性磁場である。本方法は、0nsと5nsの間の持続時間tを有するパルスを印加するステップを含んでいてもよい。
【0033】
本方法は、さらに、第一及び第二の方向の間で強磁性領域の磁化を反転させることを補助するために、電場パルスの印加とは独立して、強磁性領域に磁場を印加するステップを含んでいてもよい。
【0034】
本方法は、強磁性領域に応力を印加するステップと、応力を印加しながら電場パルスを印加するステップとを含んでいてもよい。
【0035】
本発明の第八の態様によれば、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法が提供され、この方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、磁気異方性の配向を変化させるように強磁性領域に応力パルスを印加するステップを含むことを特徴とする。これにより、磁場パルスを生成する導電性配線を有する素子に比べより少ない電力を用いて、歳差磁化反転又は歳差支援磁化反転を引き起こすことができる。
【0036】
本素子は、強磁性領域に機械的に結合された圧電領域を含んでいてもよく、応力パルスを印加するステップは、圧電領域を介して電圧パルスを印加するステップを含んでいる。
【0037】
本方法は、強磁性領域に応力パルスを印加しながら、強磁性領域に電場パルスを印加するステップを含んでいてもよい。
【0038】
本発明の第九の態様によれば、装置が提供され、この装置は磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性層を含む磁気抵抗素子と、本方法に従って装置を動作させるように構成された回路とを含んでいる。
【0039】
本方法の第十の態様によれば、磁気抵抗素子が提供され、この素子は磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性層と、第一の電気入力に応じて強磁性領域に応力を印加する手段と、第二の電気入力に応じて強磁性領域に電場を印加する手段とを含んでいる。
【0040】
応力を印加する手段は、強磁性領域に結合された圧電領域を含んでいてもよく、さらに、電場を印加する手段は、少なくとも一つのゲート電極を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明の実施例を、添付の図面を例示として引用し、以下説明する。
【図1】本発明による、強磁性素子への電場パルスの印加により磁気異方性の配向を変化させ、磁化を反転させる様子を示した図。
【図2】aは、リソグラフィによる歪み緩和により磁気異方性の配向が変化した素子と、歪みに変化のないファンデルポー素子の走査電子顕微鏡写真を示した図。bは、図2aに示した素子の拡大図。cは、図2aに示した素子とファンデルポー素子を製造する基となる層構造の断面図。
【図3】aは、固定磁場強度(B=4テスラ)を有する回転磁場中で、図2aに示した素子の[1−10]及び[110]に配向したアームの温度4.2°Kでの縦方向の異方性磁気抵抗を、[110]軸から測定した角度について描いたグラフ。bは、固定磁場強度(B=4テスラ)を有する回転磁場中で、図2aに示した素子と、図2aに示したファンデルポー素子の[1−10]及び[110]に配向したアームの温度4.2°Kでの横方向の異方性磁気抵抗を、[110]軸から見た角度について描いたグラフ。cは、図2aに示したものと同様であるが、それとは異なる幅と長さのチャンネルを有する素子の[110]に配向したアームの温度4.2°Kでの縦方向の異方性磁気抵抗を、異なる角度について磁場強度を変化させて描いたグラフ。dは、図2aに示した素子の[110]に配向したアームの、温度4.2°Kでの縦方向の異方性磁気抵抗を、固定した角度について磁場強度を変化させて描いたグラフ。
【図4】aは、図2aに示したファンデルポー素子の、温度4.2°Kで測定した横方向の抵抗を描いたグラフ。bは、図2aに示した素子の、温度4.2°Kで測定した横方向の抵抗を描いたグラフ。
【図5】aは、図2aに示した素子の横断面について、[001]軸に沿った歪みの数値シミュレーション結果を描いた2次元グラフ。bは、図2aに示した素子の横断面について、[110]軸に沿った歪みの数値シミュレーション結果を描いたグラフ。cは、図2aに示した素子の[001]面を通る別の断面について、歪みの数値シミュレーション結果を描いたグラフ。dは、図2aに示した素子の[110]面を通る別の断面について、歪みの数値シミュレーション結果を描いたグラフ。
【図6】aは、図2aに示したものと同様の素子、及び図2aに示した素子の[110]及び[1−10]に配向したアームの、容易軸の配向を示す図。bは、異なる歪と、異なる方向に沿った面内磁化角の関数として、結晶磁気エネルギーの理論値を描いたグラフ。
【図7】圧縮歪の元で、2つの異なるキャリア濃度で[001]に配向して成長させたGa0.96Mn0.04Asの磁気結晶エネルギー分布を描いた図。
【図8】aは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化することができる第一の素子の概略図。bは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化することができる第二の素子の概略図。cは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化することができる第三の素子の概略図。
【図9】図8aに示した第一の素子の斜視図。
【図10】aは、図9に示した素子の、ゲート電圧と、面内磁場及び電流に平行な磁場とに対する、チャネルコンダクタンス分布を描いた図。bは、図9に示した素子のクーロン・ブロッケード振動を示す図。cは、図9に示した素子のゲート電圧に対する臨界再配向磁場を示す図。
【図11】aは、図8bに示した第二の素子の平面図。bは、図8bに示した第二の素子のA−A’線での断面図。
【図12】図8a及び8bに示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図13】図8aに示した素子の製造を異なる段階で示す図。
【図14】aは、図8cに示した素子の斜視図。bは、第三の素子のB−B’線での断面図。
【図15】図8cに示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図16】aは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化できる他の素子の平面図。bは、図16aに示した第二の素子のC−C’線での縦断面図。cは、図16aに示した第二の素子のD−D’線での横断面図。
【図17】図15に示した素子の製造で用いる層構造を示す図。
【図18】図16aに示した素子の変形の横断面図。
【図19】aは、強磁性半導体でキャリア濃度を変化させた様子を示す概略図。bは、磁気異方性の再配向を示す図。
【図20】aは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化できる第四の素子の平面図。bは、図20aに示した第四の素子のE−E’線での断面図。
【図21】aは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化できる第五の素子の平面図。bは、図21aに示した第五の素子のF−F’線での断面図。
【図22】図21aに示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図23】6つの残留磁気方向を有する強磁性素子を示す図。
【図24】本発明による、図23に示した残留磁気方位の間で方向を反転する様子を示す図。
【図25】本発明による、図23に示した強磁性素子への電場パルスの印加により磁気異方性の配向を変化させ、磁化を反転させる様子を示す図。
【図26】強磁性素子の磁気異方性の配向を光学的に変化させることができる素子の斜視図。
【図27】図26に示した素子の断面図。
【図28】強磁性素子の磁気異方性の配向を光学的に変化させることができる素子の斜視図。
【図29】図28に示した素子の断面図。
【図30】ゲートを用いて表面異方性に影響を与える素子の斜視図。
【図31】図30に示した素子の断面図。
【図32】図30に示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図33】メモリアレイを示す図。
【図34】図33に示したメモリアレイの書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図35】図33に示したメモリアレイで用いるためのメモリセルを示す図。
【図36】図35に示したメモリセルに対応した回路。
【図37】図35に示したセルを用いたメモリセルの変更した書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図38】層間交換結合を伴う強磁性素子の磁化ループを示す図。
【図39】層間交換結合を伴わない強磁性素子の磁化ループを示す図。
【図40】ゼロバイアスの量子井戸構造により分離された2つの強磁性層を示す図。
【図41】共鳴中の量子井戸構造により分離された2つの強磁性層を示す図。
【図42】交換結合を用いて磁化を反転する素子の斜視図。
【図43】図42に示した素子の断面図。
【図44】図42に示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図45】交換結合を用いて磁化を反転する他の素子の斜視図。
【図46】図45に示した素子の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
電磁場パルスによる磁化反転
図1に本発明よる磁気抵抗の強磁性素子1を示す。強磁性素子1は均一に分布した磁化を有しているものと仮定するが、この仮定は必ずしも必須条件ではない。
【0043】
強磁性素子1は磁化容易軸2を定義する磁気異方性を示す。磁気異方性は、特に素子の形状及び/又は結晶構造の結果として生じる。例えば、素子1が長尺である場合、磁化容易軸2は長尺の縦軸に沿った方向となる。
【0044】
素子1の磁化4は磁化容易軸2に沿った方向となる。
【0045】
歳差反転を補助するために、また方向に依っては磁化3の再方向を安定化させるために、外部磁場5を随意に加えてもよい。例えば、(強磁性素子1がその一部となっている)強磁性素子の配列に対して全体的に外部磁場5を加えてもよい。歳差反転を容易にする、あるいは補助するために、外部磁場5は、例えば永久磁石を用いて困難軸に沿って固定してもよい。
【0046】
図1に示すように、磁化3の再配向を安定化させるために外部磁場5は初期磁化に対し、容易軸2に沿った反平行の方向となる。しかし、外部磁場5は、必ずしも容易軸2に沿った方向とする必要はなく、図1に示した構成のように、容易軸2に対し垂直に設けられた困難軸を含む他の角度に配向させてもよい。外部磁場5は可変であり、導電路(図示せず)に電流を通すことにより生成することができる。
【0047】
異方性磁場及びオプションの外部磁場5は有効磁場6となる、すなわち、
【数2】
ここで、
は磁化3に作用する有効磁場6であり、
は異方性磁場であり、
は外部磁場5である(ベクトル表記に基づく)。
【0048】
以下で説明するように、電場パルス7を、例えば層の面に垂直に印加し、強磁性素子1内の磁気異方性を一時的に変化させ、磁化3に歳差反転を起こさせる。
【0049】
電場パルス7を印加する前に、すなわちt<0の時点で、V=V0(例えば、V0=0)とし(ここで、tは時間であり、Vはゲート(図示せず)に印加するバイアスである)、
磁化3は、有効磁場6の方向(ここでは、正のx方向に平行であるものとして表す)に配向される。いくつかの実施態様において、1つよりも多くの数のゲート(図示せず)を用いることができる。
【0050】
次に電場パルス7を印加し、これにより磁気異方性を変化させ、さらに磁化3を回転させ、変化した有効磁場のまわりで歳差を開始させる。
【0051】
従って、パルス7の開始時点、すなわちt=0及びV=Vcでは、異方性磁場2が変化し、有効磁場6の回転、すなわち
を起こさせ、磁化3は有効磁場6の軸、すなわち
のまわりで減衰歳差を開始する。
【0052】
磁化3が半分まで歳差を完了した時点で、電場7の印加を止めることができる。そして、磁化3は容易軸2に沿って(反平行)安定化を開始する。
【0053】
従って、パルス7の終了時点、すなわちt=Δt180°及びV=Vcでは、異方性磁場及び有効磁場6は、図1cに示すように負のx成分を持つものとなる。
【0054】
パルス7が終了した直後、t=Δt180°+δ(ここでδ>0)及びVG=V0で、異方性磁場2が反転し、元の方向に対して反平行となるx方向に平行な向き、すなわち
となり、磁化3は有効磁場6の軸、すなわち
のまわりで減衰歳差を継続する。
【0055】
t>>Δt180°及びVG=V0では磁化3は平衡状態に到達し、有効磁場に沿った方向となり、負のx方向に平行、すなわち
となる。
【0056】
磁化の反転は、磁化3の方向に依存したエネルギーを考慮することにより理解することができる。例えばV0では、x軸に沿った容易軸2はポテンシャル障壁で分離された2つの最小エネルギーに対応する。障壁の高さは、磁化3が困難軸に沿った方向となった場合のエネルギー増加に対応する。
【0057】
磁化の反転、すなわち磁化の方位の180°反転は、反転層と固定基準層との間の相対的な方位が素子の抵抗により定まるような、トンネル磁気抵抗(TMR)素子及び巨大磁気抵抗(GMR)素子並びに他の同様の種類の読み出し素子においても使用され得る。
【0058】
ゲート電圧パルス7により、元の容易軸4から45°から最大90°の角度で回転した新しい容易軸が生じた場合、磁場の助けを借りずに磁化の反転を果たすことができる。
【0059】
これは、例えばx>0.03の高キャリア濃度のGa1−xMnxAsで、素子1の内部で、異方性が層の平面に対し垂直に配向されて引張り歪が生じている場所と、磁気異方性が層の平面に対し平行に配向されて圧縮歪が生じている場所との間で、部分的に歪みを変化させることにより実現することができる。また容易軸の回転も、歪みのある構造内でキャリア濃度を変化させることにより実現することができる。
【0060】
x<0.02の低濃度のGa1−xMnxAsでは、磁気異方性の変化は上記とは反対の方法で行うことができる。例えば、素子内に圧縮歪が生じている場所では、磁気異方性は平面に対し垂直に配向でき、素子内に引張り歪が生じている場所では、磁気異方性は平面に対し平行に配向できる。
【0061】
系の特定の磁気異方性に依っては、完全な磁化反転が必要でない、すなわち磁化を180°反転させる必要がない場合もある。例えば立方磁気異方性を示す素子では、より長いパルス幅(例えば、半歳差パルス)で22.5°以下の角度に、あるいは、より短いパルス幅(例えば、4分の1歳差パルス)で90°までの角度に容易軸を回転させた場合、90°の磁化反転を実現することができる。これは、格子定数が約0.01%のオーダーで変化した結果生じる微小の歪み変化を有するGa1−xMnxAsで観察したように起こり得ると言える。この場合、異方性磁気抵抗(AMR)、トンネル異方性磁気抵抗(TAMR)又はクーロンブロッケード型異方性磁気抵抗(CBAMR)などの異方性磁気抵抗効果を用いても、磁化方向を読み出すことができる。
【0062】
(Ga,Mn)As素子での結晶磁気異方性の局所的な制御
図2a及び図2bは、リソグラフィで形成した溝9による歪み緩和を用いて、結晶磁気異方性を調整及び制御した素子8を図示したものである。結晶磁気異方性はスピン軌道結合により与えられる。バルクGaMnAsの磁気異方性と素子8での歪み緩和の効果の両方の評価を援助するため、素子8に隣接したウエハ11にファンデルポー素子10を形成する。
【0063】
素子8は、平面図上でL字型をした、[110]及び
方向に沿って直交した第一及び第二アーム111、112を含むチャネル11を有するホールバー(Hall bar)の形状をしている。アームは1μmの(横)幅と、20μmの(縦)長さlを有している。
【0064】
特に図2cを参照すると、素子8は、GaAs基板14上の[001]結晶軸に沿ってエピタキシャル成長させた厚さ25nmのGa0.95Mn0.05As層(又は、エピ層)13を含む層構造12を有するウエハに形成されている。チャネル11は、電子ビームリソグラフィ及び反応イオンビームエッチングにより形成する。溝9は200nmの(横)幅Wと、70nmの深さdとを有している。
【0065】
図3a乃至図3dを参照すると、素子8と同一の構成を有する他の素子(図示せず)の電気特性と、素子8の電気特性が示されている。他の素子(図示せず)と素子8は、ホール(Hall)バーの寸法が異なっている。他の素子(図示せず)において、アーム(図示せず)は4μmの幅と80μmの長さである。図2a及び図2bに示した素子8では、アーム111、112は1μmの幅と20μmの長さである。
【0066】
これらの素子8は面内結晶磁気異方性を示し、約50ミリテスラの飽和磁化Msを有している。これは、形状異方性ではなく歪み緩和の効果に依るものである。例えば、素子8の形状異方性磁場は1ミリテスラ未満であり、この値は結晶異方性磁場よりも1オーダー低い値である。従って、容易軸は形状異方性によって形成されるのではなく、結晶磁気異方性によって形成される。
【0067】
100°Kのキュリー温度(Tc)は、異常ホール(Anomalous Hall)データのArrottプロットを用いて求める。強磁場ホール測定により、5×1020cm−3のホール(Hall)濃度が求められる。この不純物添加により、GaAs基板15上に成長させたGa0.95Mn0.05Asのエピ層13内の圧縮歪みによって、磁化ベクトルの方位を強制的に磁気エピ層13の平面に平行の方向に向けさせる強い結晶磁気異方性が生じることになる。
【0068】
面内回転磁場(図示せず)の異方性磁気抵抗(AMR)の長さ成分及び幅成分を測定することにより、個々のマイクロバー素子8での磁化方位を局所的に監視する。
【0069】
図3a及び図3bは、飽和磁場での磁化の回転をグラフで図示したものであり、面内AMRが次式によく従うことを示している。
【数3】
上式において、ρLは縦方向の抵抗値、ρTは幅方向の抵抗値、Aは定数(各ホールバーに関するだけではなくファンデルポー素子10にも関する)及びφは磁化と電流との間のなす角である。
であり、ここで、
は、全角度での平均値である。
【0070】
図3c及び図3dは、外部磁場を走査したものに対する磁化抵抗をグラフで図示したものであり、ここで
軸から測定した磁場角θは一定である。
【0071】
図示したように、磁気抵抗はθの値に強く依存し、磁化回転に依るものである。強磁場では磁気抵抗は純粋に等方性を示し、すなわち異なる角θに対する抵抗の差は外部磁場の強度とは独立している。この特性と、弱磁場での異方性磁気抵抗に比べて等方性磁気抵抗がはるかに小さいことから、図3a及び図3bに示した強磁場での測定を用いて、弱磁場での抵抗の変化と磁化方位の変化との間の一対一の対応関係を決定することができる。図3a及び図3bに示した縦方向と幅方向のAMR軌跡の間に存在する45°の位相差を用いて両方の抵抗成分を同時に測定すれば、磁化角度の変化を求められる。
【0072】
θを固定した磁気抵抗の測定を最初に用いて、個々のマイクロバーの局所的な磁気異方性を求めることができる。容易軸方向に対応するθの値は最小の磁気抵抗を有する。容易軸方向に対応しないθの値に対しては、磁化は、異なる配向を生じるような(部分的に)連続した回転を弱磁場で起こすため、その結果、飽和及び残留磁気では異なる抵抗値が測定される。この方法を用いて、容易軸の方向を±1°内で求めることができる。
【0073】
図4a及び図4bに、歪みを空間的に変化させることを導入したことによる磁気異方性への効果を示す。
【0074】
バルク材料では、ファンデルポー素子10(図2a)を用いた測定の結果、磁化角30°は容易軸に対応するが、7°及び55°の磁化角では磁化が極めて困難である。しかし、図2aに示す素子8では、7°は
バーにおいて容易軸であり、55°は[110]バーにおいて容易軸である。
【0075】
下記の表1は、‘A’の標識をつけた他の素子(図示せず)の容易軸と、‘B’の標識をつけた素子8の容易軸と、バルク、すなわちファンデルポー素子10の容易軸を列挙したものである。
【表1】
【0076】
バルク材料は、ジルコニウムを混合した下地構造による立方異方性を有し、さらに付け加えて(Ga,Mn)Asエピ層13であることにより単軸
異方性を有している。この結果、2つの容易軸は、[100]及び[010]立方辺から
方向に向けて各々15°±の角度だけ傾くことになる。
【0077】
マイクロ素子、すなわち他の素子(図示せず)及び素子8では、容易軸は、バルク材料で占有されていた角度からアーム111、112に向けて内側に回転する。アーム111、112の長さが短いほどこの回転角度は増加する。
【0078】
結晶磁気異方性の局所的な変化は、以下のように理解することができる。
【0079】
再び図2aを参照すると、GaAs基板15上に成長したGa0.95Mn0.05Asエピ層13は、(001)面で、次の歪みパラメータの一般値に従った圧縮歪みを受ける。
【数4】
ここで、αGaAs及びαGaMnAsは各々、立方体の完全に緩和されたGaAs及び(Ga,Mn)Asの格子パラメータである。上記の式(3)とαGaAs及びαGaMnAsのパラメータを用いると、f≒0.2−0.3である。
【0080】
バー11に沿った溝9から(Ga,Mn)Asを取り除くと、格子は横方向に緩和し、それに対応した延びft/wは約0.01であることを概算で見積もることができる。ここで、tは(Ga,Mn)As薄膜の厚さで本例では25nmであり、wはバー幅である。
【0081】
定量値に関しては、実際の試料の形状に従い、弾性理論に基づく数値シミュレーションを用いて、マイクロバーにおける格子緩和の大きさを求めることができる。Ga0.95Mn0.05Asエピ層13を含むウエハ全体について、GaAsの弾性定数を考慮する。
【0082】
図5は、素子11(図2a)の[110]バー112に関する、格子緩和の大きさの数値シミュレーション結果を示したものである。
【0083】
図5aは、完全に緩和した立方GaAsに関して、成長方向の[001]軸に沿った歪み成分を示したものである。すなわち、
【数5】
【0084】
歪み成分はfに対して線形の関係があるため、e[001]/fの分布を描くことができる。
【0085】
図5は、成長に伴う格子整合歪みを図示したものである。(Ga,Mn)As格子の面内圧縮のため、弾性媒体は、αGaAsに比べて格子定数を成長方向に伸長させることにより反応する。すなわちe[001]/f>1である。
【0086】
エピ層13の平面内では、格子はマイクロバーの方位に垂直な方向にだけ緩和することができる。これに対応する歪み成分をGaAsに関して計算し、素子11の全断面に関して描いたグラフが図5bであり、[001]−[110]面を通る様々な断面に沿って描いたグラフが図5c及び図5dである。バーの中央では面内緩和は比較的少なく、すなわち、格子定数はGaAs基板15の格子定数と同様であるが、バー11の辺に近い場所では格子緩和は大きくなる。(Ga,Mn)Asバーの全断面で平均をとると、相対面内格子緩和は数百分の一、すなわち式ft/wで推定したものと同一のオーダーであることが分かる。以下に示す結晶磁気エネルギーの微視的計算により、見かけでは小さい格子歪みが、強力にスピン軌道結合された(Ga,Mn)Asの中で観測された容易軸回転の原因となっていることが分かる。
【0087】
磁化角度に依存した全エネルギーの微視的計算は、GaAsホスト価電子帯の6バンドk.p記述と、局所的なMnGa d5モーメントへの結合の動的交換モデルとの組み合わせに基づくものである。バンドのスペクトル組成と関係する対称性が、よく知られたGaAsホストで見られるようにAs副格子のp軌道により支配されているような、価電子帯の最上位バンドでのスピン軌道結合の現象を記述するのに、この理論は十分適している。また、k.pモデルは、(Ga,Mn)Asバンド構造への格子歪みの影響を説明する直接的な手段を提供するものである。上述した巨視的なシミュレーションでは、(Ga,Mn)Asの弾性定数はGaAsと同一の値を有するものと仮定している。この理論は、調整可能な自由パラメータを用いず、圧縮及び引張り歪みの元で成長する同様の(Ga,Mn)Asエピ層で、面内容易磁化方向と面外容易磁化方向との間で遷移が見られることを説明し、対応するAMR効果の符号とその強度に関して一貫した根拠を与えるものである。
【0088】
マイクロバーの結晶磁気エネルギーのモデル化に際しては、巨視的シミュレーションで得られたe[001]の平均値に対応した(Ga,Mn)As層の歪みは均一であると仮定することができる。微視的計算の入力パラメータは、完全に緩和された(Ga,Mn)As立方格子に関連し、次式で与えられる[100]−[010]−[001](x−y−z)座標系での歪み成分である。
【数6】
ここで、±は各々、
バーと[110]バーに対応している。
【0089】
図6aは、他のL字型素子15及びL字型素子8の
及び[110]バーでの容易軸の方向を図示したものである。矢印16はパターンニングによる格子緩和の方向と大きさを示している。
【0090】
図6bは、結晶磁気エネルギーの計算結果を、f=0.3とし、exyをゼロ(面内格子緩和なし)から、
バーに対応した(exy>0)典型的な値と、[110]バーに対応した(exy<0)典型的な値まで変化させて、面内磁化角の関数としてグラフに描いたものである。特に、ゼロ剪断歪み(黒線)に対する面内磁化角の関数として、[110]軸に沿った格子伸長に対応したexy=0.004から0.02%まで変化させ、さらに、
軸に沿った格子伸長に対応したexy=−0.004から−0.02%まで変化させてエネルギーをグラフに描いた。容易軸は、exy=0、−0.002%及び−0.02%に存在する。[110]バーの[110]軸に沿って伸長した菱形に似た単位セル(下方の菱形)と、
バーの
軸に沿って伸長した菱形に似た単位セル(右側の菱形)とにより、微視的な結晶磁気エネルギー曲線の
対称性を崩す格子変形を示してある。
【0091】
実験と一致して、exy=0での[100]及び[010]での最小値は、[110]方向(exy>0)に沿った格子伸長に対しては
方向に移動し、
方向(exy<0)に沿った格子伸長に対しては[110]方向に移動する。2つのバーでの実験での容易軸の回転間の対称性は、その微視的な起源は未知ではあるものの既にバルク材料内に存在している[110]単軸成分に依るものであり、(微視的なパターンニングによっては生じない)固有歪み
によってモデル化することができる。
【0092】
ここで説明した素子は、圧縮歪みの元で成長させた面内磁気異方性を有するGaMnAsのストライプの微視的パターンニングによる相互歪み緩和を用いている。一方、引張り歪みが与えられ垂直磁気異方性を有するGaMnAsでパターンニングした配線は、その格子定数が下がることで緩和する。この場合、微視的パターンニングは、引張り歪みが与えられたGaMnAsのバルク材料に比べ、垂直磁気異方性を弱める働きをする。
【0093】
強磁性金属も、局所的な歪みに対し、結晶磁気異方性が敏感に依存する特性を示す。平衡状態にある格子の歪みは局所的な歪みに変化を与える。極薄膜では、表面での成長によって歪みが生じる。従ってGaMnAsと同様に、GaAs[001]基板上でエピタキシャル成長させたコバルト(Co)又は鉄(Fe)の極薄膜は、バルク材料としての立方磁気異方性と、界面から生じる単軸性の寄与の両方を示す。
【0094】
電荷キャリア濃度変化による磁気異方性
図7は、8×1020cm−3の第一キャリア濃度pと、6×1020cm−3の第二キャリア濃度での、e0=−0.2%の圧縮歪みの基で、
に沿ったexy=−0.02%の格子歪み(伸長)が与えられた、GaAs[001]上で成長させ横方向歪みが与えられたGa0.96Mn0.04As結晶磁気エネルギーの形状を示したものである。第一及び第二の矢印17、18は、各々第一及び第二のキャリア濃度に対する容易軸の方向を示している。
【0095】
図7に示すように、キャリア濃度の変化により、歪みを有するGaMnAsでの磁気異方性の変化をもたらすことができる。多くの不純物(約1020−1021cm−3)が添加されたバルク半導体でキャリア濃度を変化させることは短い遮蔽距離のために困難ではあるが、十分に(電気的に)分離されたナノ構造を用いれば十分大きなキャリア濃度変化を実現することができる。
【0096】
上述した図6bに示したものと同様の理論的計算によれば、磁気異方性がキャリア濃度に敏感に依存することが示される。図7に示すように、キャリア濃度を約25%減少させると、概ね
から[110]の結晶方位に、約90°だけ容易軸が変化する。
【0097】
磁気異方性を電場により変化させることを実現する、本発明の他の実施例を説明する。この実施例には、歪みを有する強磁性半導体の電荷キャリア濃度を変化させる方法、不均一な歪みを有する強磁性半導体の最大キャリア濃度の中心を移動させる方法、及び、圧電層を強磁性層に張り付けること、あるいは、例えば(従来のように不純物添付されたGaAsと同様の圧電特性を有する)GaMnAsで可能となっているように、強磁性材料自身の圧電特性を利用することにより強磁性層の歪みを変化させる方法が含まれている。
【0098】
さらに他の磁気抵抗素子
本発明による磁気抵抗素子のさらに他の実施例を説明する。
【0099】
先ず、電場パルスを印加することにより強磁性領域の電荷キャリア濃度に変化を及ぼし、その結果、さらに磁化に歳差を開始させる磁気異方性の変化をもたらすような磁気抵抗素子について説明する。
【0100】
図8a及び図8bは、第一及び第二の磁気抵抗素子211、212を示すものである。第二磁気抵抗素子212は、第一磁気抵抗素子211の変形である。
【0101】
各素子211、212は、歪みが与えられた強磁性領域22(ここでは、強磁性“島”と称する)を含んでいる。これらの例では、強磁性領域22は、(Ga,Mn)Asなどの強磁性半導体を含んでいる。しかし、これとは異なる強磁性半導体を用いることもできる。
【0102】
強磁性領域22の磁化方向は、強磁性領域22に容量性結合されたゲート23を用いて短い電場パルスを印加することにより、強磁性領域22の磁化方向を変化させること、あるいは変化することを助けることができる。電場パルスを印加することにより、強磁性領域22の電荷キャリア濃度に変化を及ぼし、その結果、さらに磁化に歳差を開始させるような磁気異方性の変化をもたらす。強磁性領域22は、4.2°Kなどの所定の動作温度で充電効果をもたらすように十分に小さくすることができる。例えば、強磁性領域22は、1又は10nmのオーダーの寸法(層厚及び横径)を有することができる。しかし、強磁性領域22は、例えば100nm、1μm又はそれ以上のオーダーのより大きな寸法を有するものであってもよい。
【0103】
強磁性領域22は、第一及び第二のリード24、25の間に設けられ、各々トンネル障壁26、27を介して第一及び第二のリード24、25と弱結合している。いくつかの実施例において、1つより多くの強磁性体材料の島が、例えば鎖状に存在していてもよい。
【0104】
電圧パルス29をゲート23に印加するパルス発生器28を用いて磁化の再配向を開始する。
【0105】
再配向の方向は様々な方法で測定することができる。
【0106】
例えば、第一の素子211において、磁化の方向は電圧源30と電流検出器31とを用いてトンネル異方性磁気抵抗(TAMR)を測定することにより決定できる。第一及び/又は第二リード24、25が強磁性である場合、電圧源30と電流検出器31とを用いてトンネル磁気抵抗(TMR)を測定することにより磁化の方向を決定することができる。いずれの場合も、測定には電流を流し、電流を測定するために電圧を印加することが含まれている。
【0107】
第二の素子212において、磁化の方向は電圧源30と電流検出器31とを用いてTMRを測定することにより決定できる。しかし、第一リード24と第三リード32との間にバイアスを与えその間の電流を測定する。ここで、第三リードはトンネル障壁34により強磁性島22と分離され、固定化された強磁性領域33に結合されている。なお、これらとは異なる測定の構成を用いることができることは理解されよう。
【0108】
図9は第一の素子211をより詳細に示すものである。
【0109】
第一の素子211は長尺の導電性チャンネル36を有しており、チャンネル36の横側にゲート23が配置され、すなわち横側ゲート構造となっている。チャンネル36と横側ゲート23は、溝による分離でパターンニングされた(Ga,Mn)As層37で形成されている。AlAs層38は、チャンネル36と横側ゲート23をGaAs基板39から電気的に分離している。チャンネル36は、くびれ部へのリード24、25を提供しているより広い部分の間に設けられたくびれ部40を含んでいる。
【0110】
(Ga,Mn)As層37は2%のMn、すなわちGa0.98Mn0.02Asを含んでおり、5nmの厚みを有しているが、表面酸化により実効厚みは約3nmである。くびれ部40は幅が30nm、長さが30nmである。チャンネル36は幅が2μmである。チャンネル36とゲート23は約30nmの距離で隔てられている。
【0111】
くびれ部40の領域には、不規則性によるポテンシャルの変動により、少なくとも一つの導電性島22と、リード24、25及び/又は隣接した島22に対して導電性島22を弱結合する少なくとも一組のトンネル障壁26、27が生成される。
【0112】
図10a乃至図10cを参照しながら、第一の素子221の特性が以下に示される。
【0113】
図10aは、ゲート電圧と電流に平行な面内磁場に対するチャネルコンダクタンスをグレー・スケール表示した分布グラフである。破線41は、ゲートバイアスに依存した臨界再配向磁場Bcである。臨界再配向磁場Bcは、VG=−1Vでの約40ミリテスラからVG=1Vでの20ミリテスラ未満まで減少する。
【0114】
ディスク形状の島22を仮定して、充電エネルギーの実験値を用いてその実効ディスク径を推定すると約10nmであることが分かった。従って、約40個のマンガンのアクセプタが島22に存在する。約40%のキャリア濃度の減少に対応させてVGを−1Vから+1Vまで変化させると、約16回のクーロン振動が観測された。臨界再配向磁場BCは、VG=−1Vでの約50ミリテスラからVG=1Vでの20ミリテスラ未満まで減少する。
【0115】
図10bは、島22が磁化M0を保っているB0=0でのクーロン・ブロッケード振動と、島22が飽和磁化M1を保っているB0=−100ミリテスラでのクーロン・ブロッケード振動とを、ゲート電圧をVG=−1Vと1Vの間で変化させてグラフにしたものである。中間の磁場B0=−35ミリテスラでコンダクタンスを測定した結果は、約−0.5Vの臨界ゲート電圧でM0からM1に遷移することを示している。
【0116】
図10cは、臨界再配向磁場BcのゲートバイアスVGに対する依存性を、VG=−1VとVG=+1Vの範囲でグラフで示すものである。グラフは、振幅VG≧2.5Vのゲート電圧パルスでB0=0で磁化反転を発生させることを示している。異なる素子構造及び/又は材料を用いた場合にも同様のグラフが得られ、磁気反転を発生するのに必要なバイアスを求めるために用いることができることが分かる。
【0117】
図11a及び11bに示すように、第二の素子212は第一の素子211の変形である。
【0118】
(Ga,Mn)As層(図示せず)に続くGaAs基板上にAlAs層38’を成長させ、ピン層32及び第三電極33を単一体として含む下地電極構造42を形成するために(Ga,Mn)Asをパターンニングし、更に、パターンニングした電極上にAlAs層43と(Ga,Mn)As層を成長させ、チャンネル37’及びゲート23を形成するために更に(Ga,Mn)As層を成長させて素子212を形成することができる。
【0119】
下地電極構造の代わりに表層電極構造を用いることもできる。例えば、ピン層と第三電極を含む電極構造を形成するためにチャンネルとゲートを形成し、パターンニングした後で、電極を形成するAlAs層と(Ga,Mn)As層を成長させることができる。これに代えて、SixNyなどの薄層ゲート電極とCoなどの強磁性材料を、リフトオフ又はドライエッチングを用いて堆積しパターンニングすることもできる。
【0120】
図12は、第一及び第二素子211、212のための書き込み及び読み出しサイクルを示すものである。
【0121】
以下で詳細に説明するように、素子211、212は、4つの状態M1、M2、M3、M4を有する。しかし、素子211、212はより少ない状態、例えば、反平行のちょうど2状態を有してもよいし、あるいはより多くの状態、例えば、面内2軸異方性及び垂直単軸異方性を利用することによる6状態を有してもよい。さらに、素子211、212は、例えばソース及び/又はドレイン領域が強磁性であるかどうかに依り、例えば4つの状態M1、M2、M3、M4を示し得る場合でも、全ての状態が区別可能であってもよいし、あるいはいくつかの状態が区別不可能となっていてもよい。
【0122】
以下に、強磁性島22の磁化44を起こす2種類の書き込みパルスについて説明する。一方の種類のパルス(いわゆる“t180”パルス)は2状態を切り替えるものであり、他方の種類のパルス(いわゆる“t90”パルス)は4状態のうち“隣接する”2状態を切り替えるものである。
【0123】
なお、図12においてグラフで描いた磁化44は、磁化のエネルギーを表すものではなく、単に異なる状態を表すものである。いくつかの実施例において、これらの状態は0°、90°、180°、270°の角度依存性を表している。
【0124】
以下では、いわゆる“トグル”スイッチングについて説明するが、これにより、“t180”パルスを繰り返し印加し、2状態間、例えば各々‘0’及び‘1’を表す状態M1及び状態M2の間で磁化44を“トグル”させる。しかし、“t90”パルス29は、一つの状態からそれに隣接する状態にのみ磁化45を“回転”させることを漸次行うものである。
【0125】
例えば、‘0’状態と‘1’状態との間で、そしてその逆方向でスイッチングすることにより素子211、212にデータを書き込むために、ゲート23に電圧パルス29を印加する。
【0126】
パルス29は歳差周期tprecessの周期の半分の持続時間t180を有する。歳差周期tprecessは、
【数7】
により与えられる。
ここで、γはジャイロ磁気定数、
であり、BAは異方性磁場であり、例えば、試料壁、粒壁、ドメイン壁あるいは他の種類の境界における磁化の発散により生成される反磁場を含んでいてもよく、形状異方性を引き起こすものである。本例では、tprecessは約1nsである。tprecessの値は(100ミリテスラから1ミリテスラのBAに対し)通常、100psから10nsまでの範囲にある。
【0127】
電圧パルスの振幅|VG|は1又は10Vのオーダーである。
【0128】
先に説明したように、外部磁場を印加して安定した磁化を助け、あるいは歳差を促進することができる。外部磁場は、永久磁石(図示せず)又は導電路(図示せず)により与えることができ、異方性磁場と同一又はそれより小さい、例えば1から100ミリテスラのオーダーの強度を有することが好ましい。
【0129】
いくつかの実施例において、特定の方向に磁化を配向することにより特定の状態を書き込むために、外部磁場及び/又はスピン移行トルク電流を用いることができる。以下、この書き込みのことを“直接書き込み”と称する。
【0130】
磁気抵抗素子が、絶縁層により分離した強磁性層を固定化及び自由化した実施例において、電場パルスを印加し、同時に又はその直後にスピン移行トルク(STT)電流パルスを印加することにより、磁化の再配向を果たすことができる。“その直後に”とは、電場パルスの印加後に磁化が歳差を行っていて、それが減衰しきっていない時間内のことを意味している。通常、この時間は0nsと5nsの間である。
【0131】
素子211、212からデータを読み出すために、素子211、212のソース24とドレイン25の間にバイアスパルス45を印加し電流i31を測定する。電流の強度は、素子のトンネル異方性磁気抵抗(TAMR)及び/又はトンネル磁気抵抗(TMR)に依存しており、これらの抵抗値はさらに、‘0’及び‘1’状態を表す強磁性領域22の磁化44の方位に依存している。
【0132】
先に説明したように、2つより多数の状態の方位は、AMR、TAMR及びCBAMR等の異方性磁気抵抗効果を測定することにより、あるいは、平面に垂直な方向の磁化容易軸に沿った状態の異常ホール効果によって生じる、リード32と基準(例えば、接地)との間の横方向ホール電圧を測定することにより求めることができる。
【0133】
図13a、13b及び13cを参照して第一素子211の製造について説明する。
【0134】
図13aに示すように、低温分子ビームエピタキシー(LT−MBE)により、GaAs基板39上のAlAs38”バッファ層上に[001]結晶軸に沿って成長させた、極薄(5nm)のGa0.98Mn0.02Asエピ層37”から素子211を製造する。引用文献は、“ヒ素二量体で成長させた高品質GaMnAs膜”、R.P.Campion、K.W.Edmonds、L.X.Zhao、K.Y.Wang、C.T.Foxon、B.L.Gallagher及びC.R.Staddon共著、Journal of Crystal Growth、第247巻、42頁(2003)である。
【0135】
光リソグラフィに用いられるアルカリ性現像液に対するGaMnAs層の高い反応性により、メチル・イソブチル・ケトン/イソプロパノールの1:3混合溶液中において超音波を用いて温度25℃で現像されたポリメチルメタクリル酸(PMMA)レジストを用い、電子ビームリソグラフィを用いてホールバー14を形成する。
【0136】
各々20nm及び60nmの厚さを有する、熱蒸着された高電子コントラストのCr/Au重ね合せマーク(図示せず)を、1μm厚のレジスト(図示せず)と約250nm径の電子ビームとを用いたリフトオフによりパターンニングする。GaMnAsに対し過度な損傷を与えることなく金属の付着を補助するため、蒸発に先立ち10%のHCl溶液に30秒間浸す。
【0137】
約200nm厚のレジスト層(図示せず)を、Ga0.98Mn0.02Asエピ層37の表面Sに塗布する。直径が約15nmで電流が約5pAの電子ビーム(図示せず)を用い隣接した重ね合せマークにチップ上で焦点を合わせて、最も微細なパターンを画定する。直径が約250nmで電流が約1nAのビームにより、同一のレジスト中に臨界未満領域(図示せず)を画定する。書き込み時間とパターン変動を最小とするため、高分解度領域ができるだけ小さくなるように配置する。
【0138】
図13bに示すように、パターンニングしたレジスト層Mをエッチマスクとして残すためにレジストを塗布する。
【0139】
図13cに示すように、トレンチ分離のために反応性イオンエッチング(RIE)を用いる。GaMnAsの高い導電性に比較すれば、RIEによる導電性の減損は最小となることが期待される。RIE反応室(図示せず)内の圧力は20mTorrであり、GaAs及び塩化マンガンの両方の除去に適した物理的エッチング作用と化学的エッチング作用に必要な混合をガスを供給するため流量が20sccmのSiCl4及びAr両方を用いる。10秒から15秒間の100Wの通常のエッチングにより、GaMnAs層に20〜30nmの深さを有するトレンチTを安全に形成した。
【0140】
Cr/Au(20nm/300nm)ボンドパッドを熱蒸着し、さらに、HCl溶液中で付着ディップにより再度処理する。ボンドパッドはGaMnAs層に対する低電気抵抗の電気接点を形成し、別個のオーミック金属被膜形成の必要はない。
【0141】
本例では、素子は、くびれ部の両側で10μm間隔で2μm幅のチャンネルと、500nm幅の3組のホールセンサー端子とを有する[110]方向に沿って並んだホールバー配置で配列されている。しかし他の配列を用いることもできる。
【0142】
第二の素子212を製造するために、上述した製造プロセスを変更する。
【0143】
より厚い、例えば25nm厚を有するGaMnAs層を有する上述したものとは異なる初期層構造を用いる。層構造は電子ビームリソグラフィとRIEを用いてパターンニングし、下地電極構造44(図11a)を形成する。次に、上述したように別のAlAs層(3nmの厚みを有する)とGaMnAs層とをLT−MBEにより成長させる。この構造をパターンニングして、第一の素子211と同様の方法でチャンネルを形成する。
【0144】
下地電極構造44(図11a)をパターンニングするステップと、AlAs層及びGaMnAs層を成長させるステップの間での汚染を最小化するために、いくつかの方法を用いることができる。例えば、初期層構造を成長させた直後にイオンビーム・ミリングを用いて下地電極構造44(図11a)をパターンニングし、さらに真空を破ることなく追加の層を成長させることができる。
【0145】
図8cは第三の磁気抵抗素子213を示すものである。
【0146】
第三の素子213は、第一及び第二リード24,25の間に配置された強磁性領域22を有する2端子の素子であり、トンネル障壁26により一方のリード24に、さらに半導体強磁性領域22及びリード25により形成され空乏層により供給された調整可能な障壁35により、他方のリード25に各々弱結合されている。
【0147】
本例では、強磁性領域22はp型半導体、例えばGa(Mn,As)を含み、リード25はn型半導体、例えばSiを添加したGaAsを含んでいるため、調整可能な障壁35は逆バイアスのp−n接合となっている。しかしリードは金属でもよく、その場合は調整可能な障壁35はショットキー障壁となる。
【0148】
特に図14a及び14bを参照して、第三の素子213をより詳細に示す。
【0149】
素子213は基板38から直立した柱47を含んでいる。柱47は、1〜10×1018cm−3のオーダーの濃度でGaAsが添加され、(未エッチング時に)200nmの厚さを有する層25と、約2nmの厚さを有するp型Ga0.98Mn0.02Asの層22と、25nmの厚さを有するAlAsの層26と、約10nmの厚さを有するAuの層とを含んでいる。
【0150】
本素子は、GaAs基板上に成長させた200nmのオーダーの厚さのn型GaAs(図示せず)の層と、5nm厚のGa0.98Mn0.02Asの層と、25nm厚のAlAs層とを含む層構造(図示せず)から製造する。Ga0.98Mn0.02Asは低温分子ビームエピタキシー(LT−MBE)により成長させる。
【0151】
電子ビームリソグラフィと熱蒸着とを用いて、層構造(図示せず)の表面上に、10nmのオーダーの厚さを有する金(Au)のパッドを画定し、SiCl4/Ar RIEを用いて柱47を画定する。
【0152】
柱47の上端を接触させるために、例えばポリイミドを用いて柱を平面化し、金の接合パッドを堆積させる。
【0153】
非磁性オーミック接合を用いて基板を接合させる。
【0154】
図15は、第三の素子213での書き込み及び読み出しサイクルを示すものである。
【0155】
上述した第一及び第二の素子211、212と同様に、第三の素子213は4状態M1、M2、M3、M4を示す。
【0156】
第三の素子213は、電圧パルス29の極性により書き込みパルスであるか読み出しパルスであるかを決定する点が異なる。
【0157】
素子213にデータを書き込むために、他方のリード25に対し固定されたトンネル障壁に隣接したリード24に負の電圧パルス29を印加し、p−n接合35のバイアスを反転させ、さらに空乏領域の幅を増加させ、これにより空乏を増加させ、強磁性領域22のキャリア濃度又はキャリア濃度分布を変化させ、歳差を生じさせる。前述したように、パルスの持続時間を用いて、すなわちt90及びt180パルスを用いて、2状態間あるいは2より多数の状態間を切り替えることができる。
【0158】
データを読み出すために、他方のリード25に対して固定されたトンネル障壁に隣接したリード24に正の電圧パルス30を印加し、電流46に依存した磁化方位を測定する。
【0159】
図16a、16b及び16cを参照して、磁気抵抗素子51を説明する。本素子では、電場パルスを印加することにより、不均一な歪みを有する強磁性半導体内の最大のキャリア濃度の場所を移動させ、その結果磁気異方性に変化を生じさせ、磁化の歳差を引き起こさせる。
【0160】
素子51は、通常約1μmの幅wと、約20μmの長さlを有する長尺であるホールバー52を含んでいる。ホールバー52は、第一及び第二の終端リード53、54とバー52の向き合う横側に組にして配置した第一、第二、第三及び第四の横側リード55、56、57、58とを有している。ホールバー52は、表層電極及び下地電極59、60の間に挟まれており、各々“ボトム”電極及び“トップ”電極と以下称する。
【0161】
図示したように、パルス発生器61を用いて、トップ電極59とボトム電極60との間に電圧パルス62を印加する。電流源63を用いて、ホールバー52を介して第一及び第二の終端リード53、54の間に読み出し電流ireadを流す。第一及び第二の電圧計64、65は、第一及び第二のリード55、56間のバイアスと第二及び第四の横側リード56、58間のバイアスとを測定し、各々縦方向と横方向の異方性磁気抵抗(AMR)を求める。第二及び第三の横側リード56、57間のバイアスも測定し、異常ホール効果(AHE)抵抗を測定することができる。
【0162】
AMR測定を用いることにより、VG=V0において、例えばV0=0で2軸の面内異方性を示す強磁性層での磁化が180°未満、例えば90°回転している2状態の間を区別することができる。
【0163】
AHE測定を用いることにより、VG=V0において垂直異方性を有するシステムでアップ状態とダウン状態の間を区別することができる。
【0164】
特に図16b及び16cを参照すると、ホールバー52はボトム電極59として働き、ヒ化インジウムガリウム(In0.05Ga0.95As)基板66上に形成される。ホールバー52は、InGaAs基板66の表層にAlAsで形成されたベース障壁層67と、調製されたInGaMnAsで形成された不均一な歪みを有する強磁性層68と、AlAsで形成されたトップ障壁層69とを含んでいる。トップゲート電極60は、Alで形成されている。
【0165】
強磁性層68内の格子定数は制御可能であり、それを変化させることにより層68の内部に不均一な歪みを生じさせることができる。In0.03Ga0.97Asの格子定数は、Ga0.95Mn0.05Asの格子定数よりも大きいため、In0.03Ga0.97As上に後で成長させたGa0.95Mn0.05Asには引張り歪みが生じる。さらに、その上にインジウムを再び導入しInGaMnAsを形成する。InGaMnAsの格子定数がInGaAs基板の格子定数よりも大きくなるまでインジウム濃度を増加させ、圧縮歪みを発生させる。
【0166】
素子51は、ヒ化インジウムガリウム(InyGa1−yAs)基板66’(y=5%)と、約20nmの厚みを有するヒ化アルミニウム(AlAs)67’と、ヒ化インジウムガリウムマンガン(InzGa1−x−zMnxAs)68’の段階的な層であって、GaMnAs681’のベース層を含み約10nmの厚さを有する層と、を含むウエハ70から製造する。
【0167】
図17を参照すると、InyGa1−yAs基板66’上に成長させたAlAs層67’の上に、引張り歪の下でGa1−xMnxAsの層681’をエピタキシャル成長させる。本例では、マンガン濃度は5%、すなわちx=0.05であり、インジウム濃度はx=0から10%まで増加している。
【0168】
InyGa1−yAs基板66’のより広い格子定数は、引張り歪を生じるInzGa1−x−zMnxAs層68’に伝わる。InzGa1−x−zMnxAs層68’をさらに成長させている間、インジウムを加えることでさらに格子定数を増加させ、これにより四元合金InGaMnAsを形成する。インジウム濃度[In]は、層681のベース71からの距離dが増すにつれて増加する。
【0169】
以上とは異なる歪の分布形状を用いることができる。本例では、強磁性層68内の歪を、基板に近くの引張り状態から基板から離れての圧縮状態まで変化させる代わりに、圧縮状態から引張り状態に向けて変化させる。これは、InyGa1−yAs基板に代えて、ヒ化ガリウム(GaAs)基板を有するウエハから素子を製造し、インジウム(In)に代えてリン(P)を加えることにより、リン化ヒ化ガリウムマンガン(Ga1−xMnxPzAs1−z)を形成することにより実現することができる。リン濃度が増加するに従って格子定数は小さくなる。
【0170】
図18を参照にすると、強磁性体層68の形状を変えることにより歪を変化させることができる。例えば、強磁性体層68の幅を層68のベース71で狭めた幅w1とし、ベース71から離れるに従って広げた幅w2>w1とすることができる。このようにして、層68のより厚い上部よりも層68の薄い下部において格子はより緩和される。強磁性体層68へは不純物を均一に添加することもできる。
【0171】
図19a及び19bを参照すると、2つのゲート59、60間にゲートパルス62を印加することにより電場72が生成され、電荷キャリア73(ここでは、多数キャリアであるホールのみ図示してある)をシフトさせ、下方の引張り歪み領域74と上方の圧縮歪み領域75での電荷キャリア濃度を変化させる。特に、パルス印加により、下方の引張り歪み領域74から上方の圧縮歪み領域75にキャリア73が移動し、上方の圧縮歪み領域75の電荷キャリア濃度が増加する。
【0172】
下に示す表2は、歪みとキャリア濃度に対する磁気異方性の方位を表すものである。
【表2】
【0173】
磁性体層68の磁気異方性76は、層68の面に垂直な第一方向771(すなわち、軸78に沿った方向)に配向した状態から、層68の面に沿った第二方向772(すなわち、軸79に沿った方向)に配向した状態に変化する。このように、実効異方性磁場BAは90°回転する。これにより磁化80が歳差を開始し、π/2パルスにより90°だけ再配向する。
【0174】
以下でより詳細に説明するように、他に同一のパルス62を印加することにより、実効異方性磁場BAを再び90°回転させ、磁化がさらに90°だけ歳差を継続する。従って、実効異方性磁場BAは再び面外軸77に沿って配向するが、磁化は第一方向771に対して反平行である第三方向773となる。それにもかかわらず、第一及び第三状態(すなわち、磁化80が第一及び第三方向771、773に配置したとき)の磁気抵抗は同一となる。この理由は、前述したように、初期及び最終の磁化状態が同一線上にない場合のみ、AMR測定により初期及び最終の磁化状態を区別することができるからである。AHE測定は、互いに逆向きで面に垂直な2つの磁化方向を区別することができる。TMR測定は、固定した基準層に対して平行と反平行の方向とを区別することができる。
【0175】
書き込み及び読み出しサイクルは、前述した図12で示したものと同様である。しかし、読み出しサイクルの間では、ソース/ドレイン間バイアスを印加し電流を測定する代わりに、素子に電流を流しリード55、56、57、58の間に発生する電位差を測定する。
【0176】
素子51は、第一の素子211を製造するための前述した方法と同様の方法で製造する。例えば、前述したものと同様の方法で層構造を成長させ、電子ビームリソグラフィとRIEを用いて層構造をパターンニングする。
【0177】
図20a及び20bを参照して、歪みパルスを印加すると磁気異方性に変化を引き起こし磁化の歳差を開始する、第四の磁気抵抗素子81を以下に説明する。
【0178】
素子81は、第一及び第二の接点リード84、85を有した圧電層83上に搭載された積層構造82を含んでいる。第一及び第二の接点86、87を用いて層構造82への電気的接合を設ける。
【0179】
積層構造82は、約1μmの幅Wと約1μmの長さLとを有している。
【0180】
図示したように、パルス発生器88を用いて圧電接合リード86、87間に電圧パルス89を印加する。電圧源90を用いて接合86、87間にバイアスを印加し、電流計91を用いて積層構造82を流れる電流を測定する。
【0181】
特に図20bを参照すると、積層構造82は、接着剤93により圧電加圧器83に固定されたヒ化ガリウム(GaAs)基板92上に形成されている。圧電加圧器はジルコン酸チタン酸鉛(PZT)から形成する。
【0182】
積層構造82は、(非強磁性)n+−GaAsを含むボトム接合層94と、Ga0.98Mn0.02Asを含み比較的低い保磁力を有し5nmの厚みを有する層(すなわち、“自由”層)と、ヒ化アルミニウム(AlAs)を含み25nmの厚みを有するトンネル障壁層96と、Ga0.98Mn0.02Asを含み比較的高い保磁力を有し50nmの厚みを有する強磁性層97(すなわち、“ピン”層)と、(非強磁性)金を含むトップ接合層98とを含んでいる。
【0183】
他の配列及び他の材料を用いることもできる。例えば、圧電加圧器83は基板92と一体で形成してもよい。例えば、GaAsは[110]軸に沿って圧電特性を有していてもよい。
【0184】
第四の素子81の強磁性層は必ずしも半導体である必要はないが、Fe、Ni、Coのような強磁性金属、あるいはFePt、CoPt、CoPdなどの合金、あるいは他の好適な遷移金属/貴金属合金などの金属であってもよいし、これらの金属を含むものであってもよい。
【0185】
書き込み及び読み出しサイクルは前述した図12で示したものと同様である。
【0186】
積層構造は必ずしも用いる必要はない。それに代えて、“面内”転送構造、例えば、図9に示したものと同様の構造を用いることもできる。例えば、図9に示した構造を圧電加圧器83の上に搭載することもできる。
【0187】
図21a及び21bを参照して、歪みの印加と電気パルスの印加とにより磁気異方性に変化を生じさせ磁化の歳差を開始させる、第五の素子101について以下に説明する。
【0188】
素子101は、強磁性材料のチャンネル103を定義した十字状のメサ構造102を含んでおり、本例では、このチャンネルはGaAsの層104に埋め込んだGa0.98Mn0.02Asのデルタドーピングした層であり、基板105により支持されている。第一、第二、第三及び第四接合106、107、108、109は、チャンネル103の末端への接合を提供するものであり、表面上端のゲート110を用いて磁気異方性を制御する。基板104は、強磁性チャンネル103に事前に応力を与えるための電場を圧電層111内に生成するために用いられる第一及び第二接合112、113を有する圧電層111に搭載されている。
【0189】
チャンネル103の各アームは、約2μmの幅と約20μmの長さとを有している。
【0190】
図示したように、第一のパルス発生器114を用いて、チャンネル103に事前にストレスを与えるために圧電接合リード112、113間に電圧パルス115を印加する。第二のパルス発生器116を用いて、表面ゲート110に電圧パルスを印加し磁気異方性の歳差を引き起こさせる。
【0191】
電圧源118を用いて、第一及び第二接合106、107間にバイアス119を印加し、電流計120を用いて、第三及び第四接合108、109間に流れる電流121を測定する。
【0192】
特に図20bを参照すると、基板104は接着剤122の層により圧電層11に搭載する。
【0193】
書き込み及び読み出しサイクルは前述した図12で示したものと同様である。しかし、図22に示すように、電圧パルス115はt180又はt90パルスの持続時間の間に印加する。
【0194】
上に説明した実施例において、素子に対するデータの書き込み及び読み出しは、素子が2つの状態のみを有していることを前提に素子を扱うことに基づいており、従って、一つの素子あたり1ビットの情報のみを記憶することになる。しかし、面内の2軸の異方性と平面に垂直な単軸の異方性を活用すれば、パルスと反転パルスの2種類の組み合わせを用いて6つの残留磁化方向にアクセスでき、2ビットよりも多数のビットをエンコードすることができる(すなわち、6つの異なる状態に対しては、ln6/ln2≒2.6)。
【0195】
図23は、強磁性層22、68、95、103が6つの残留磁化方向131、132、133、134、135、136を有することを示すものである。
【0196】
強磁性層22、68、95、103は2つの方式で動作させることができる。すなわち、ゼロ直流バイアスオフセット(すなわち、VG=V0)に対して2種類のバイアスパルスを印加する2軸面内異方性方式と、逆バイアスパルスを印加、すなわち非ゼロ直流バイアスオフセット(すなわち、VG=VC)に対してバイアスパルスを印加する垂直異方性方式である。
【0197】
VG=V0では、異なるパルス幅を有する高速のゲート電圧パルスにより引き起こされる歳差反転が、層平面内の2つの2軸容易軸に沿って、4つの残留状態131、132、133、134の間で磁化ベクトルを回転させる。
【0198】
図24を参照すると、ある意味において、隣接する磁化方向131、132、133、134は、90°回転に作用を及ぼすゲートパルス29、62、91を用いて、第一、第二、第三及び第四の磁化方向131、132、133、134のうち別のものからアクセスすることができる。以下、この種のパルスは、“p90°”パルス又は“t90パルス”と称する。
【0199】
上記とは正反対の意味において、隣接する磁化方向131、132、133、134は、270°回転に作用を及ぼすゲートパルス(図示せず)を用いて、第一、第二、第三及び第四の磁化方向131、132、133、134のうち別のものからアクセスすることができる。以下、この種のパルスは、“p270°”パルス又は“t270パルス”と称する。
【0200】
また、第一、第二、第三及び第四の磁化方向131、132、133、134は、180°回転に作用を及ぼすゲートパルス138を用いて、同一線上の方向131、132、133、134からアクセスすることができ、以下、この種のパルスは、“p180°”パルス又は“t180パルス”と称する。従って、磁化方位131は、p180°パルス138を用いて第三の磁化方向133からアクセスすることができる。
【0201】
2軸面内異方性方式と単軸垂直異方性方式との切り替えは、散逸減衰を利用した“断熱”磁化再配向により行う。例えば、ゲートバイアスをV0からVCに変化させた後、磁化ベクトルMは変更された異方性磁場BA(VC)の周辺で歳差を開始し、散逸減衰により、磁化ベクトルは変更された異方性磁場BA(VC)に向けてらせん状となる。磁化ベクトルMは、実質的に、変更された異方性に対応した一つの容易軸に(熱的揺らぎの範囲内で)沿って配向する。
【0202】
方式の切り替えはゲートバイアスのステップ変化139、140により行われ、以下、これらのパルスは各々“Pdampingパルス”及び“反転Pdampingパルス”と称する。
【0203】
第五及び第六の磁化方向135、136は、180°回転に作用を及ぼすゲートパルス141を用いてアクセスすることができる。しかし、パルス141はp180°パルス108に対して反転しており、以下“反転p180°パルス”と称する。
【0204】
図25a及び25bは、p90°パルス137及び反転p180°パルス141を印加する効果を示すものである。
【0205】
図25aは、VG=V0での2軸面内異方性方式による90°の歳差反転を示すものである。図示したように、ゲート電圧パルス137がVG=VCの間に、磁気異方性が面内から垂直に切り替わり、磁化ベクトルMが90°の回転を完了した後にV0に戻る。
【0206】
図25bは、垂直異方性方式で、反転パルスが180°反転を開始することを示すものである。
【0207】
AHE測定により面に垂直な方位に沿った2つの単軸磁化状態を区別することができ、横方向及び縦方向のAMR測定により、面内の4つの2軸磁化状態を明確に区別することができる。
【0208】
光学的に制御された磁気抵抗素子
以上で説明した例では、ゲートを利用するか、あるいは圧電効果を利用して磁気異方性を電気的に変化させていた。しかし、以下詳細に説明するように、磁気異方性は光学的に制御することができる。
【0209】
図26を参照にすると、強磁性素子201は基板203で支持されている光学的に制御された加圧器202に結合している。通常、レーザーの形態の光子源204を用い、光パルス205を用いて加圧器202内でフォノンパルス206を生成することができる。上述した方法と同様に、フォノンパルス206により強磁性素子201の磁化207を第一及び第二方向間で切り替えることができる。
【0210】
固定化された強磁性素子(図示せず)や、固定化された強磁性素子と強磁性素子201とを分離するトンネル障壁層などの追加の構造を設け、トンネル磁気抵抗(TMR)測定を利用して素子201の状態を測定することができる。
【0211】
例えば、直列接続した電圧源と電流計を含む測定回路208を用い、TMR測定又はトンネル異方性磁気抵抗(TAMR)測定を利用して磁気抵抗を測定することができる。
【0212】
図27を参照すると、強磁性素子201は、GaMnAsなどの半導体材料の(例えば、約1nm又はそれ未満の厚さを有する)薄膜層や、Fe、Ni又はCoなどの強磁性金属材料、あるいは、FePt、CoPt又はCoPdなどの合金又は多重層材などから形成することができる。強磁性素子201は数ナノメータのオーダーの側面寸法(すなわち、x及びy方向寸法)を有することができる。
【0213】
加圧器202は、GaAs基板203上に形成された下部GaAs層211、InGaAs層212及び上部GaAs層213を含む量子井戸ヘテロ構造を含んでいる。InGaAs層212内のInの濃度(及び/又は、Alが使われている場合はAlの濃度)は、吸収される光の波長もしくはフォノンを生成するために必要な再結合に応じて選ぶことができる。加圧器202は数ナノメータ又は数10ナノメータのオーダーの側面寸法を有することができる。GaAsに代えてAlGaAsを用いることもでき、InGaAsに代えてInGaAlAsを用いることもできる。
【0214】
図28は、上記の代案となる光学的に制御された素子を示すものである。
【0215】
強磁性素子212は、基板223の一つの表面222、例えば前面側に支持され、加圧器224は基板223の他の表面225、例えば裏面側に結合されている。光子源226、例えばレーザーを用い、高強度光227のパルスにより加圧器224を加熱し膨張させ、それにより加圧パルス、すなわちフォノンパルスを発生させ、発生したフォノンパルスは基板を介して強磁性素子221に送られる。フォノンパルスにより、前述した方法と同様に、強磁性素子221の磁化228が、第一及び第二方向の間で切り替えられる。
【0216】
固定化された強磁性素子(図示せず)や、固定化された強磁性素子と強磁性素子221とを分離するトンネル障壁層などの追加の構造を設け、トンネル磁気抵抗(TMR)測定を利用して素子221の状態を測定することができる。
【0217】
測定回路229を用い、TMR測定又はTAMR測定を利用して磁気抵抗を測定することができる。
【0218】
図29を参照すると、強磁性素子221は前述した素子201(図26)と同じものとすることができる。加圧器224はアルミニウム又は他の金属材料のパッドを含んでいる。基板223は、例えばガラス、シリコン又はGaAsを含んでいる。基板223は、強磁性素子221と加圧器224とを支持する領域で、例えば数ミクロンの厚さの膜にまで薄く形成することができる。
【0219】
インターフェース異方性制御による磁気抵抗素子
前述したように、強磁性素子内の磁気異方性はゲートを用いて制御することができる。強磁性素子を半導体材料で形成すると、キャリア濃度を制御することにより磁気異方性を変化させることができる。しかし、強磁性素子を金属材料で形成した場合でも、以下で詳細に説明するように、ゲートを用いて磁気異方性を電気的に変化させることができる。
【0220】
(全体の)磁気異方性は、フェルミエネルギーに依存し得る結晶異方性、表面及び界面異方性、形状異方性及び格子変形磁気異方性を含む複数の寄与により支配されている。
【0221】
強磁性材料の極薄層などのいくつかの配置においては、表面及び界面異方性による寄与は大きくなり得、他の寄与を上回る結果、全体の磁気異方性を支配する可能性がある。例えば、コバルト及びプラチナの多層構造の磁気異方性は、コバルト層の厚さが1nm未満となった場合平面に垂直な方向になる。そして、その磁気異方性は形状異方性よりも大きくなる。
【0222】
図30は磁気抵抗素子301を示すものである。
【0223】
素子301は二酸化ケイ素の絶縁基板302上に形成され、導電性シート303と表層強磁性多層構造304とを含んでいる。誘電体層305は強磁性多層構造304の上端306の第一部分の上に置かれている。誘電体層305は(二酸化ケイ素に比べて)大きな誘電率を有する酸化ジルコニウム(k≒12.5)や酸化タンタル(k≒11.6)などの材料を含んでいる。
【0224】
第一の電極(“ソース”)307は導電性シート303と接合し、第二の電極(“ドレイン”)308は強磁性多層構造304の上端306の第二部分に接合し、第三の電極(“ゲート”)309は誘電体層305の上端310上に配置されている。
【0225】
TMR測定を可能とするために、第二の電極308は数ナノメータの厚さを有するコバルトなどの強磁性材料を含むことができる。
【0226】
図30において、ドレイン308及びゲート309は横に並んだ構成となっている。しかし、環状や互いに入り込んだ構成を用いることもできる。
【0227】
測定回路331は、バイアスVS、VGを各々ソース電極307及びゲート電極309に印加するための第一及び第二の電圧源312,313を含んでいる。ドレイン308と接地との間に設けた電流計314により、ソース・ドレイン電流IDSを測定することができる。
【0228】
図31を参照すると、導電性シート303は約3nmの厚みを有するタンタル(Ta)の層315と、約3nmの厚みを有するプラチナ(Pt)の表層316とを含んでいる。タンタル層は、プラチナの表層316と強磁性層構造304のための滑らかな面を形成することを補助することができる。
【0229】
強磁性層構造304は、0.4nmの厚さを有するコバルト(Co)の極薄層317と、約1nmの厚さを有する酸化アルミニウム(AlOx)の表層318とを含んでいる。
【0230】
強磁性層構造304は、コバルト層と次に約1nm厚のアルミニウム層を直流スパッタリングにより形成し、アルミニウム層がドライ酸素中で酸化されるようにする。この構造を約114℃で約20分間アニーリングし、コバルト層内の層の異方性を、面内異方性と垂直(すなわち、x−y平面に垂直)異方性との間で磁気異方性が遷移する状態に近づけ、磁化を行う。
【0231】
また、約3nmの厚みを有するプラチナ表層(図示せず)を酸化アルミニウム層の上に堆積させることもでき、これをパターンニングしてドレイン接合308を形成することができる。
【0232】
例えば、ゲート電極309及び/又はソース電極307により印加される電場を用いて、磁気異方性の反転を引き起こすことができる。
【0233】
図32は、素子301に状態間の遷移を引き起こすための、素子301での書き込み及び読み出しサイクルの組を示したものである。
【0234】
データを書き込むために、ゲート電極309に正の電圧パルス321を印加する。同時にソース電極307を接地し、ドレイン電極308を浮かした状態にする。
【0235】
パルス321は、106又は107V/cmのオーダーの電場を生成するのに十分な大きさを有している。パルス312は歳差周期tprecessの半分となる持続時間t180を有しており、この値は前述した式6を用いて計算できる。
【0236】
データを読み出すためにゲート電極309を接地するか、あるいは、(接地してもよい)ドレイン電極308に対して浮かした状態としながら、ソース電極307に正の電圧パルスVmを印加する。
【0237】
ソース・ドレイン電流ISD323を測定し、素子の状態、すなわち磁化方向、例えば面内又は平面に垂直な方向を示していることを識別する。
【0238】
例えば、キュリー温度が動作温度、例えば室温よりも高く、異方性濃度エネルギーと素子の容量の積(k×V)が50kBTよりも大きい場合、素子301はより高い温度、例えば室温以上又は室温で動作することができる。ここで、kBはボルツマン定数であり、TはKの単位での動作温度である。境界面合金層、又は一つあるいはそれ以上の数の単層厚の分極性薄膜層としてプラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)又はイリジウム(Ir)などの遷移金属を用い、界面及び表面の異方性を増加させ、動作温度を上昇させることができる。
【0239】
図33は、本発明の一実施例による磁気抵抗素子、例えば素子211(図8a)又は素子301(図30)が、メモリアレイ401内のメモリ素子の基本として用いることができることを示したものである。以下では、図30に示した素子301に基づいたメモリアレイ401について説明する。
【0240】
メモリアレイ401は、各々が磁気抵抗素子403を含むセル402のアレイを含んでいる。行及び列デコーダ407、408で駆動する第一、第二、第三線404、405、406を介してセル402の中から選択し、セル403にデータを書き込み、あるいはセル403からデータを読み出すことができる。
【0241】
素子403は、ソース、ドレイン及びゲート電極409、410、411を有している。
【0242】
図34は、メモリセル402の書き込み及び読み出しサイクルの組を示したものである。
【0243】
データを書き込むために、第一線404に負の電圧パルス412を印加し、同時に第三線406に正の電圧パルス413を印加してセル402を選択し、選択したセル402にデータを書き込む。第二線405は浮かした状態とする。
【0244】
各パルス412、413の大きさは、パルス412、413がそれ自身の磁気異方性に反転を引き起こすことがないような大きさにする。しかし、反転を引き起こすことが可能な大きさの電場を生成するパルスも共存してよい。従って、各パルスの大きさは約0.5VAとする。各パルス412、413は持続時間t180を有し、これは歳差周期tprecessの半分である。
【0245】
データを読み出すために第一線404に正の電圧パルス414を印加し、同時に第三線406(すなわち、ゲート)を浮かした状態とし、第二線405(すなわち、ドレイン)を接地する。第一及び第二線404、405を介して電流が測定でき、従って、セルの状態を測定することができる。
【0246】
図35及び図36は、代替となるメモリセル402’を示したものである。セル402’は図30に示した素子301に基づいた、前述したセル402と同様のものである。しかし、セル402’は電界効果トランジスタ420を含み、そのため、異なる方法でアドレス指定を行うことができる。
【0247】
図35に示すように、セル402’は絶縁層302’上に形成されている。基板402’は、ゲート電極422により表層導電性チャンネル423から分離されているゲート電極421を支持している。ゲート電極421は、多量に不純物添加されたn型シリコン(n+−Si)を含み、ゲート誘電体422は二酸化ケイ素を含み、導電性チャンネル423は、例えば不純物添加のない、あるいは不純物添加の少ないp型シリコン(p−−Si)を含んでいる。多量に不純物添加されたn型井戸は、電界効果トランジスタ420のソース及びドレイン電極424、425を提供している。ドレイン電極425(又はチャンネルの端部)は抵抗426を介して接地に接続している。これは、基板に設けられた接地平面、あるいは追加の線又はストリップを用いることにより実装することができる。前述したものと同じ方法で、ドレイン電極425の上に導電性基層303’及び強磁性層構造304’を形成する。有機半導体材料などの他の半導体材料を用いることもできる。
【0248】
図37は、メモリセル402’での書き込み及び読み出しサイクルの組を示したものである。
【0249】
データを書き込むために第三線406に第一の負の電圧パルス427を印加し、同時に第一線404に第二の正の電圧パルス428を印加してセル402’を選択し、選択したセル402’にデータを書き込む。第二線405、及びその結果、磁気抵抗素子308のドレインは、浮かした状態とする。
【0250】
第一電圧パルス427の大きさは約αVA(α>1、なおドレインの電位はVAである)とし、その持続時間は、t180を有し、これは歳差周期tprecessの半分である。
【0251】
データを読み出すために、第二線405(すなわち、磁気抵抗素子のドレイン)に正の電圧パルス429を印加する。第一線404、及びその結果FE420のソース424は電位を低く維持し、例えば接地する。さらにFET420を作動させ、FET420及び磁気抵抗素子403’を介した導通を可能とする。
【0252】
ゲートに依存した交換結合
前述したように、磁気異方性を変化させることにより磁化の再配向を引き起こし、例えば、ゲートを用いて再配向を電気的に制御することができる。しかし、交換結合により磁化の再配向を引き起こし、例えば、ゲートを用いて再配向を電気的に制御することもできる。これについて以下詳細に説明する。
【0253】
交換結合とは、伝導電子のスピンが仲介役となって生じる、局所的な原子の磁気モーメント間の相互作用のことである。この効果は、強磁性又は反強磁性配置で隣接する強磁性(FM)層を結合するためにTMR及びGMR素子で用いられる。例えば交換結合を用いて、積層フェリ構造(SAF)においてのように、自由層に対して強磁性層を固定化することができる。
【0254】
隣接する強磁性層間でのバイアス界面交換結合(IEC)は、通常、単に“交換バイアス”と称され、追加された磁場のように作用するものと考えられる。
【0255】
図38及び図39を参照すると、“自由”強磁性磁石の磁化ループと合成反強磁性磁石を形成するために他の強磁性体に交換結合した際の“自由”強磁性磁石の磁化ループが各々示されている。図38及び図39に示すように、交換結合は、“自由”層の磁化ループを磁場軸Hextに沿って移動させる効果をもたらす。
【0256】
図40は、印加されたバイアスに応じて磁化を反転させるために交換結合を用いる素子のバンド図を示したものである。
【0257】
素子は、第一の強磁性電極501、第一のトンネル障壁層502、量子井戸層503、第二のトンネル障壁層504及び第二の強磁性電極505を含んでいる。トンネル障壁層502、504、及び量子井戸層503は、一つあるいはそれ以上の数の共鳴状態506を含む量子井戸を有する二重障壁構造を定義している。第一の強磁性電極501は、固定された磁化方向507に対応したx方向に沿って容易軸を有している。第二の強磁性電極505は、固定された磁化方向508に対応したy方向に沿って容易軸を有している。強磁性電極501、505の状態密度509、510を概略的に図示してある。ゼロバイアスでは、二重障壁は共鳴は起こさず、交換の相互作用は抑止される。
【0258】
第一の強磁性電極501は、例えば積層フェリ構造(図示せず)を用いて、例えば固定化された磁化方向での面内磁気異方性を有することができる。第二の強磁性電極505は、例えば層厚さ及び/又は表面/界面異方性を選択することにより、例えば面に垂直な磁気異方性を有することができる。
【0259】
図41を参照すると、第一及び第二強磁性電極501、505間にバイアス電圧を印加することにより、強磁性電極501、505のフェルミエネルギーに対し共鳴状態のエネルギーが移動するため状態506が共鳴に移行し、さらにエネルギーεFFM1を有する電子間の遷移確率が極めて高くなるため、層間の相互作用が大きくなる。
【0260】
このようにして、z方位に沿った交換トルクは第二強磁性電極505の磁化508に作用する。この交換トルクを用いて、磁化508の歳差を引き起こし、あるいは第一の磁化507に沿い第二の磁化508に垂直に配向した外部磁場に加えて、歳差を補助することができる。
【0261】
バイアスで制御する交換トルクを用いた配置は、例えば数ボルトという低い印加電圧を用いて磁化を反転できるという利点を有している。
【0262】
図42は、バイアスで制御する交換トルクを用いて磁化を反転する素子を示すものである。
【0263】
素子は、第一の強磁性層601と、第一のトンネル障壁層602と、量子井戸層603と、第二のトンネル障壁層604と、第二の強磁性層605と、第三の障壁606と第三の強磁性層607とを含む積層構造を含んでいる。
【0264】
第一及び第三の強磁性層601、607は、各々面内及び面に垂直な異方性により固定化されている。第二の強磁性層605は自由であり、平面に垂直な磁化容易軸を有している。この層605は、量子井戸のエネルギーがBbias=Vresで第一の強磁性層601のフェルミエネルギーに等しい時に、第一強磁性層601に対して交換結合する。
【0265】
積層構造は絶縁基板608上に配置され、強磁性層601、605、607の各々への接合609、610、611を形成するために階段状になっている。
【0266】
強磁性層601、605、607はコバルトを含むものであってよい。第二の強磁性層605は、例えば1nm未満の薄さとし、前述したように、プラチナ表層を有するものであってよい。
【0267】
トンネル障壁層及び量子井戸層は、各々AlGaAs及びGaAs、あるいは他の同様の系から形成することができる。
【0268】
素子を制御し測定する測定回路612は、第一及び第二の強磁性層601、605の間にバイアス電圧を印加する第一の電圧源613と、第二及び第三の強磁性層605、607の間に測定電圧を印加する第二の電圧源614とを含んでいる。電流計615を用いて電流を測定する。
【0269】
強磁性層601、605、607の磁化616、617、618を示す。
【0270】
第二及び第三強磁性層605、607間の抵抗をTMR測定することにより、第二強磁性層605の磁化617の2つの可能な平衡方向を検出することができる。
【0271】
第一の強磁性層601の磁化方向に平行な一定の磁場Bextを印加することにより、短いVbias−パルスを印加している間に第二強磁性層の磁化617の歳差を補助することができる。しかし、Bextを印加しただけでは、歳差の減衰特性のため歳差は起こらない。
【0272】
図44は素子の動作をより詳細に示すものである。
【0273】
磁化617について、前述した式6に示したように、Lamor歳差時間の半分の持続時間の間、大きさVresのバイアスVbiasを印加することにより、(不揮発)状態“M2”と“−M2”との間を交互に切り替えることができる。
【0274】
読み出しには、第二及び第三の強磁性層605、607間のTMR測定を含んでいる。
【0275】
図45及び図46を参照すると、バイアスで制御する交換トルクを用いて磁化を反転させる他の素子を示している。この素子は層数が少なく、特に第三の強磁性層を省くことができるため、図42及び図43に示した素子よりも簡単に製造することができる。この素子では、異常ホール効果(AHE)を用いた測定を行う。
【0276】
素子は、第一の強磁性層701と、第一のトンネル障壁層702と、量子井戸層703と、第二のトンネル障壁704と、第二の強磁性層705とを含む積層構造を含んでいる。
【0277】
第一の強磁性層701は面内異方性で固定化されている。第二の強磁性層705は自由であり、平面に垂直な磁化容易軸を有している。この層705は、量子井戸のエネルギーがBbias=Vresで第一の強磁性層701のフェルミエネルギーに等しい時に、第一強磁性層701に対して交換結合する。
【0278】
積層構造は、絶縁基板708上に配置され、強磁性層701、705の各々への接合709、7101、7102、7103、7104を形成するために階段状になっている。
【0279】
素子をパターンニングし、第二の強磁性層705への端部接合7101、7102と横方向接合7103、7104が設けられたホールバーを形成する。
【0280】
素子を制御し測定する測定回路712は、第一及び第二の強磁性層701、705の間にバイアス電圧を印加する第一の電圧源713と、端部接合7101、7102の間に測定電圧を印加する第二の電圧源714とを含んでいる。電圧計715を用いて側面接合7103、7104間のホール電圧を測定する。
【0281】
ホール信号は、図示するように2つの対向する接合間で測定してもよいし、あるいは共通接地に対する一方の接合を用いて測定することもできる。
【0282】
磁化717が+M2zから−M2zに変化した場合、ホール電圧信号の極性が変化する。
【0283】
上述した実施例に対しては、様々な変更を施すことができることがわかる。例えば、強磁性層は、例えば5nmから20nmの間で異なる厚さを有するものであってよい。素子は、電子又はホールの移動に基づいて動作するものであってよい。キャップ層を用いてGaMnAs層を保護してもよい。磁気抵抗素子は、磁気トンネル接合やスピンバルブなどの多層構造を有することもできる。メモリ素子は、例えば、強磁性材料又は圧電加圧器に電場パルスを印加することにより、電気的に制御される磁気抵抗素子アレイを含むか、もしくは光学的に制御される磁気抵抗素子アレイを含むものであってよい。
【符号の説明】
【0284】
211 磁気抵抗素子
22 強磁性領域
23 ゲート
24 ソース
25 ドレイン
26 トンネル障壁
27 トンネル障壁
28 パルス発生器
29 電圧パルス
30 電圧源
31 電流検出器
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気抵抗素子に関するものである。
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は、フラッシュメモリなどの他の種類の不揮発性メモリと比べて、いくつかの利点を有している。例えば、MRAMは、通常電力消費も少なく、データの読み出し/書き込みもより高速である。また、MRAMは、ダイナミック・ランダムアクセスメモリ(DRAM)など、いくつかの形態の揮発性メモリに対して有望な代替技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のMRAMセルは、通常、非磁性層により分離された一組の強磁性層を有する磁気抵抗素子を含んでいる。一方の強磁性層は比較的低い保磁力を有しており、他方の強磁性層は比較的高い保磁力を有している。低保磁力層と高保磁力層は各々、“自由”層、“ピン”層と称されている。
【0003】
セルにデータを記憶するためには、外部磁場を印加し自由層の磁化を配向させる。磁場を除去した後磁化の方位は磁場の印加方向に保持される。
【0004】
セルからデータを読み出すためには素子に電流を流す。自由層とピン層との磁化が反平行(AP)に配置されている場合は、素子の磁気抵抗は比較的大きく、層の磁化が平行(P)に配置されている場合は、素子の磁気抵抗は比較的小さい。このように、素子の磁気抵抗を測定することによりセルの状態を判定することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“電流駆動による磁性多重層の励起”、J.C.Slonczewski、Physical Review B分冊、第54巻、9353頁(1996)
【非特許文献2】“磁界アシストによる電流誘起磁化反転を用いた高度にスケーラブルなMRAM、W.C.Jeong他、2005 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers,184頁
【非特許文献3】“ナノ秒以下にスピン注入磁化反転を加速するプリチャージの実施方法”、T.Devolder他著、Applied Physics Letters、第86巻、062505頁(2005)
【非特許文献4】“歳差動作と組み合わせた困難軸磁場からのスピン注入トルク反転の微視的磁気シミュレーション”K.Ito他著、Applied Physics Letters、第89巻、252509頁(2006)
【非特許文献5】“ヒ素二量体で成長させた高品質GaMnAs膜”、R.P.Campion、K.W.Edmonds、L.X.Zhao、K.Y.Wang、C.T.Foxon、B.L.Gallagher及びC.R.Staddon共著、Journal of Crystal Growth、第247巻、42頁(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外部磁界は、素子の近くを配線された少なくとも一つの導電性配線に電流を流すことにより生成する。しかし、この配置には、セルの寸法が小さくなるにつれて自由層の磁化を反転させるために必要な磁場が大きくなり、その結果、電力消費が増えてしまうという問題がある。
【0007】
外部磁場を印加することに代えて、スピン注入磁化反転を用いる方法がある。この方法は、“電流駆動による磁性多重層の励起”、J.C.Slonczewski、Physical Review B分冊、第54巻、9353頁(1996)に提案されており、“磁界アシストによる電流誘起反転を用いた高度にスケーラブルなMRAM、W.C.Jeong他、2005 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers,184頁が引用文献となっている。
【0008】
スピン注入磁化反転では、磁性素子の層界面に垂直な方向に電流を流す。これにより、ピン層に電流を流すことにより(電流が自由層からピン層に向けて流れる場合)、あるいはピン層から電子を散乱させることにより(電流がピン層から自由層に向けて流れる場合)、スピン偏極電子が自由層に注入される。スピン偏極電子が自由層に注入されると、これらの電子は自由層と相互作用を生じ、それらのスピン角運動量の一部を自由層の磁気モーメントに移行させる。スピン偏極電流が十分大きいと、これにより自由層の磁化が反転する。
【0009】
しかし、スピン注入磁化反転の欠点として、逆方向に反転を起こさせるために必要な電流密度が高くなる(例えば、108Acm−2のオーダー)という問題がある。
【0010】
反転電流パルスを印加する前に、直流プリチャージ電流を印加することにより電流を誘起することができる。これに関しては、“ナノ秒以下にスピン注入磁化反転を加速するプリチャージの実施方法”、T.Devolder他著、Applied Physics Letters、第86巻、062505頁(2005)に記載されている。反転電流パルスの電力消費は減少するが、全体の電力消費(すなわち、プリチャージ電流を含む電力消費)は高いままである。
【0011】
しかし、反転電流を流す直前あるいは流すと同時に、自由層の磁化困難軸に沿って短い持続時間(例えば、<5ns)の外部磁場パルスを印加することにより、電流を減少させることができる。これに関しては、“歳差動作と組み合わせた困難軸磁場からのスピン注入トルク反転の微視的磁気シミュレーション”K.Ito他著、Applied Physics Letters、第89巻、252509頁(2006)に記載されている。
【0012】
この方法は、スピン注入電流を大きく減少させることができるが、配線を通して電流を流すことにより外部磁場を印加することを含んでいる。これは、スケーラビリティへの対応と電力消費の削減への可能性に制限を課すものとなる。
【0013】
本発明は、この問題への解決策を求めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一の態様によれば、メモリセルのアレイであって、各セルが磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を含むアレイと、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方位を変化させるように、メモリセル内の磁気抵抗素子の強磁性領域に電場パルスを印加する回路とを備えている。
【0015】
本発明の第二の態様によれば、メモリセルのアレイであって、各セルが磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子と、電気的入力に応じて強磁性領域に応力を加える手段とを含むアレイと、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方位を変化させるように、メモリセル内の応力印加手段に入力パルスを印加する手段とを備えている。
【0016】
入力パルス印加手段は電気入力パルスを印加する回路を含んでいてもよく、強磁性領域は圧電性を有し、応力印加手段は強磁性領域に電場を印加するように構成された少なくとも一つの電極を含んでいる。入力パルス印加手段は電気入力パルスを印加する回路を含むものであってよく、応力印加手段は強磁性領域に結合した圧電領域と、圧電領域に電場を印加するように構成された少なくとも一つのゲート電極とを含んでいる。入力パルス印加手段は光入力パルスを印加する手段を含んでいてもよく、応力印加手段は光パルスを吸収しフォノンパルスを生成する手段を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の第三の態様によれば、磁気抵抗素子が備えられ、この磁気抵抗素子は磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域と、強磁性領域に結合された応力印加手段とを含み、応力印加手段は光を吸収するように構成され、さらに、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、光パルスの受信に応答して応力パルスを生成するように構成されていることを特徴とする。
【0018】
応力印加手段は、量子井戸を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の第四の態様によれば、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法が提供され、この方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、光パルスを印加するステップを含むことを特徴とする。
【0020】
磁気抵抗素子は、強磁性領域に結合された光子吸収領域を含んでいてもよい。
【0021】
本発明の第五の態様によれば、第一及び第二の電極と強磁性領域およびトンネル障壁とを含む磁気抵抗素子が備えられ、強磁性領域とトンネル障壁とを介して第一及び第二の電極間の電荷移動が生じるように、電極と強磁性領域とトンネル障壁とが配置され、素子は、さらに、第三の電極と、第三の電極とトンネル障壁との間に置かれた誘電体領域とを含み、第一の電極と誘電体領域は強磁性領域に電場を印加するように配置され、強磁性領域への電場パルスの印加により、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させることを特徴とする。
【0022】
トンネル障壁は、第一及び第二の面を有する層として配置してもよく、第二の電極とゲート誘電体は、これらの面の一つの面上に隣接して配置してもよい。強磁性領域は平面状の層として配置してもよく、強磁性領域の異方性磁場が平面内と垂直の間で反転可能となるように構成してもよい。
【0023】
本発明の第六の態様によれば、磁気抵抗素子が備えられ、この磁気抵抗素子は、固定化された(pinned)磁化方向に対応する第一方向に磁気異方性を示す第一の強磁性領域と、第二の異なる方向に磁気異方性を示す第二の強磁性領域と、第一及び第二の強磁性領域の間に配置され、少なくとも一つの量子化エネルギー状態を示すように構成された量子井戸構造とを含み、第一及び第二の強磁性領域間の交換結合は、少なくとも一つの量子化エネルギー状態により制御可能であることを特徴とする。
【0024】
素子は、さらに、第三の強磁性領域と、第二及び第三の強磁性領域を分離するトンネル障壁とを含んでいてもよい。
【0025】
素子は、さらに、第一及び第二の強磁性領域の間に、電圧バイアスを印加する手段を含んでいてもよい。
【0026】
本発明の第七の態様によれば、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域と、強磁性領域に容量性結合されたゲートとを含む磁気抵抗素子を動作させる方法が備えられ、この方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、強磁性領域に電場パルスを印加するステップを含むことを特徴とする。これにより、磁場パルスを生成する導電性配線を有する素子に比べより少ない電力を用いて、歳差支援磁化反転を引き起こすことができる。
【0027】
本方法は、第一及び第二の方向の間で強磁性領域の磁化を反転させるように特化した、電場パルスを印加するステップを含んでいてもよい。本方法は、磁場パルスを印加せずに、第一及び第二の方向の間で強磁性領域の磁化を反転するステップを含んでいてもよい。第一及び第二の方向の間で強磁性領域の磁化を反転するために電場パルスのみを用いるか、あるいは、この反転を助けるために磁場パルスを用いないことにより、電力消費を最小とすることに貢献する。
【0028】
素子は、さらに、磁場パルスを生成するために、強磁性領域に隣接して配置された導電性経路を含んでいてもよく、さらに、方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるように、電場パルスの印加中に変化する異方性磁場と、印加された磁場パルスとを含む有効磁場の方向変化が増加するように、電場パルスを印加しながら、強磁性領域に磁場パルスを印加するステップを含んでいてもよい。方法は、磁場パルスの立ち上がり部を印加する前に、電場パルスの立ち上がり部を印加するステップを含んでいてもよい。
【0029】
素子は、さらに、強磁性層よりも高い保磁力を有し、トンネル障壁層により強磁性層と分離された他の強磁性領域を含んでいてもよく、さらに、方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、電場パルスを印加しながら、強磁性領域内に流すスピン注入電流パルスを印加するステップを含んでいる。
【0030】
本方法は、さらに、スピン注入電流パルスの立ち上がり部を印加する前に、電場パルスの立ち上がり部を印加するステップを含んでいてもよい。強磁性領域は、不均一張力分布を有する強磁性半導体を含んでいてもよく、さらに、本方法は、不均一張力分布に対して、電荷キャリアの分布を変化させるために十分な大きさの電場パルスを印加するステップを含んでいる。
【0031】
不均一張力分布は、圧縮歪みの領域と引張り歪みの領域とを含んでいる。強磁性半導体は、(Ga,Mn)Asを含んでいてもよい。
【0032】
本方法は、持続時間tを有する電場パルスを印加するステップを含んでいてもよく、tは、tprecessの4分の1の倍数である。すなわち、
【数1】
ここで、γは形状定数であり、
で示され、さらに、BAは強磁性半導体の異方性磁場である。本方法は、0nsと5nsの間の持続時間tを有するパルスを印加するステップを含んでいてもよい。
【0033】
本方法は、さらに、第一及び第二の方向の間で強磁性領域の磁化を反転させることを補助するために、電場パルスの印加とは独立して、強磁性領域に磁場を印加するステップを含んでいてもよい。
【0034】
本方法は、強磁性領域に応力を印加するステップと、応力を印加しながら電場パルスを印加するステップとを含んでいてもよい。
【0035】
本発明の第八の態様によれば、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法が提供され、この方法は、第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、磁気異方性の配向を変化させるように強磁性領域に応力パルスを印加するステップを含むことを特徴とする。これにより、磁場パルスを生成する導電性配線を有する素子に比べより少ない電力を用いて、歳差磁化反転又は歳差支援磁化反転を引き起こすことができる。
【0036】
本素子は、強磁性領域に機械的に結合された圧電領域を含んでいてもよく、応力パルスを印加するステップは、圧電領域を介して電圧パルスを印加するステップを含んでいる。
【0037】
本方法は、強磁性領域に応力パルスを印加しながら、強磁性領域に電場パルスを印加するステップを含んでいてもよい。
【0038】
本発明の第九の態様によれば、装置が提供され、この装置は磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性層を含む磁気抵抗素子と、本方法に従って装置を動作させるように構成された回路とを含んでいる。
【0039】
本方法の第十の態様によれば、磁気抵抗素子が提供され、この素子は磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性層と、第一の電気入力に応じて強磁性領域に応力を印加する手段と、第二の電気入力に応じて強磁性領域に電場を印加する手段とを含んでいる。
【0040】
応力を印加する手段は、強磁性領域に結合された圧電領域を含んでいてもよく、さらに、電場を印加する手段は、少なくとも一つのゲート電極を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明の実施例を、添付の図面を例示として引用し、以下説明する。
【図1】本発明による、強磁性素子への電場パルスの印加により磁気異方性の配向を変化させ、磁化を反転させる様子を示した図。
【図2】aは、リソグラフィによる歪み緩和により磁気異方性の配向が変化した素子と、歪みに変化のないファンデルポー素子の走査電子顕微鏡写真を示した図。bは、図2aに示した素子の拡大図。cは、図2aに示した素子とファンデルポー素子を製造する基となる層構造の断面図。
【図3】aは、固定磁場強度(B=4テスラ)を有する回転磁場中で、図2aに示した素子の[1−10]及び[110]に配向したアームの温度4.2°Kでの縦方向の異方性磁気抵抗を、[110]軸から測定した角度について描いたグラフ。bは、固定磁場強度(B=4テスラ)を有する回転磁場中で、図2aに示した素子と、図2aに示したファンデルポー素子の[1−10]及び[110]に配向したアームの温度4.2°Kでの横方向の異方性磁気抵抗を、[110]軸から見た角度について描いたグラフ。cは、図2aに示したものと同様であるが、それとは異なる幅と長さのチャンネルを有する素子の[110]に配向したアームの温度4.2°Kでの縦方向の異方性磁気抵抗を、異なる角度について磁場強度を変化させて描いたグラフ。dは、図2aに示した素子の[110]に配向したアームの、温度4.2°Kでの縦方向の異方性磁気抵抗を、固定した角度について磁場強度を変化させて描いたグラフ。
【図4】aは、図2aに示したファンデルポー素子の、温度4.2°Kで測定した横方向の抵抗を描いたグラフ。bは、図2aに示した素子の、温度4.2°Kで測定した横方向の抵抗を描いたグラフ。
【図5】aは、図2aに示した素子の横断面について、[001]軸に沿った歪みの数値シミュレーション結果を描いた2次元グラフ。bは、図2aに示した素子の横断面について、[110]軸に沿った歪みの数値シミュレーション結果を描いたグラフ。cは、図2aに示した素子の[001]面を通る別の断面について、歪みの数値シミュレーション結果を描いたグラフ。dは、図2aに示した素子の[110]面を通る別の断面について、歪みの数値シミュレーション結果を描いたグラフ。
【図6】aは、図2aに示したものと同様の素子、及び図2aに示した素子の[110]及び[1−10]に配向したアームの、容易軸の配向を示す図。bは、異なる歪と、異なる方向に沿った面内磁化角の関数として、結晶磁気エネルギーの理論値を描いたグラフ。
【図7】圧縮歪の元で、2つの異なるキャリア濃度で[001]に配向して成長させたGa0.96Mn0.04Asの磁気結晶エネルギー分布を描いた図。
【図8】aは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化することができる第一の素子の概略図。bは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化することができる第二の素子の概略図。cは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化することができる第三の素子の概略図。
【図9】図8aに示した第一の素子の斜視図。
【図10】aは、図9に示した素子の、ゲート電圧と、面内磁場及び電流に平行な磁場とに対する、チャネルコンダクタンス分布を描いた図。bは、図9に示した素子のクーロン・ブロッケード振動を示す図。cは、図9に示した素子のゲート電圧に対する臨界再配向磁場を示す図。
【図11】aは、図8bに示した第二の素子の平面図。bは、図8bに示した第二の素子のA−A’線での断面図。
【図12】図8a及び8bに示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図13】図8aに示した素子の製造を異なる段階で示す図。
【図14】aは、図8cに示した素子の斜視図。bは、第三の素子のB−B’線での断面図。
【図15】図8cに示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図16】aは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化できる他の素子の平面図。bは、図16aに示した第二の素子のC−C’線での縦断面図。cは、図16aに示した第二の素子のD−D’線での横断面図。
【図17】図15に示した素子の製造で用いる層構造を示す図。
【図18】図16aに示した素子の変形の横断面図。
【図19】aは、強磁性半導体でキャリア濃度を変化させた様子を示す概略図。bは、磁気異方性の再配向を示す図。
【図20】aは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化できる第四の素子の平面図。bは、図20aに示した第四の素子のE−E’線での断面図。
【図21】aは、本発明による、強磁性素子の磁気異方性の配向が変化できる第五の素子の平面図。bは、図21aに示した第五の素子のF−F’線での断面図。
【図22】図21aに示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図23】6つの残留磁気方向を有する強磁性素子を示す図。
【図24】本発明による、図23に示した残留磁気方位の間で方向を反転する様子を示す図。
【図25】本発明による、図23に示した強磁性素子への電場パルスの印加により磁気異方性の配向を変化させ、磁化を反転させる様子を示す図。
【図26】強磁性素子の磁気異方性の配向を光学的に変化させることができる素子の斜視図。
【図27】図26に示した素子の断面図。
【図28】強磁性素子の磁気異方性の配向を光学的に変化させることができる素子の斜視図。
【図29】図28に示した素子の断面図。
【図30】ゲートを用いて表面異方性に影響を与える素子の斜視図。
【図31】図30に示した素子の断面図。
【図32】図30に示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図33】メモリアレイを示す図。
【図34】図33に示したメモリアレイの書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図35】図33に示したメモリアレイで用いるためのメモリセルを示す図。
【図36】図35に示したメモリセルに対応した回路。
【図37】図35に示したセルを用いたメモリセルの変更した書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図38】層間交換結合を伴う強磁性素子の磁化ループを示す図。
【図39】層間交換結合を伴わない強磁性素子の磁化ループを示す図。
【図40】ゼロバイアスの量子井戸構造により分離された2つの強磁性層を示す図。
【図41】共鳴中の量子井戸構造により分離された2つの強磁性層を示す図。
【図42】交換結合を用いて磁化を反転する素子の斜視図。
【図43】図42に示した素子の断面図。
【図44】図42に示した素子の書き込み及び読み出しサイクルを示す図。
【図45】交換結合を用いて磁化を反転する他の素子の斜視図。
【図46】図45に示した素子の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
電磁場パルスによる磁化反転
図1に本発明よる磁気抵抗の強磁性素子1を示す。強磁性素子1は均一に分布した磁化を有しているものと仮定するが、この仮定は必ずしも必須条件ではない。
【0043】
強磁性素子1は磁化容易軸2を定義する磁気異方性を示す。磁気異方性は、特に素子の形状及び/又は結晶構造の結果として生じる。例えば、素子1が長尺である場合、磁化容易軸2は長尺の縦軸に沿った方向となる。
【0044】
素子1の磁化4は磁化容易軸2に沿った方向となる。
【0045】
歳差反転を補助するために、また方向に依っては磁化3の再方向を安定化させるために、外部磁場5を随意に加えてもよい。例えば、(強磁性素子1がその一部となっている)強磁性素子の配列に対して全体的に外部磁場5を加えてもよい。歳差反転を容易にする、あるいは補助するために、外部磁場5は、例えば永久磁石を用いて困難軸に沿って固定してもよい。
【0046】
図1に示すように、磁化3の再配向を安定化させるために外部磁場5は初期磁化に対し、容易軸2に沿った反平行の方向となる。しかし、外部磁場5は、必ずしも容易軸2に沿った方向とする必要はなく、図1に示した構成のように、容易軸2に対し垂直に設けられた困難軸を含む他の角度に配向させてもよい。外部磁場5は可変であり、導電路(図示せず)に電流を通すことにより生成することができる。
【0047】
異方性磁場及びオプションの外部磁場5は有効磁場6となる、すなわち、
【数2】
ここで、
は磁化3に作用する有効磁場6であり、
は異方性磁場であり、
は外部磁場5である(ベクトル表記に基づく)。
【0048】
以下で説明するように、電場パルス7を、例えば層の面に垂直に印加し、強磁性素子1内の磁気異方性を一時的に変化させ、磁化3に歳差反転を起こさせる。
【0049】
電場パルス7を印加する前に、すなわちt<0の時点で、V=V0(例えば、V0=0)とし(ここで、tは時間であり、Vはゲート(図示せず)に印加するバイアスである)、
磁化3は、有効磁場6の方向(ここでは、正のx方向に平行であるものとして表す)に配向される。いくつかの実施態様において、1つよりも多くの数のゲート(図示せず)を用いることができる。
【0050】
次に電場パルス7を印加し、これにより磁気異方性を変化させ、さらに磁化3を回転させ、変化した有効磁場のまわりで歳差を開始させる。
【0051】
従って、パルス7の開始時点、すなわちt=0及びV=Vcでは、異方性磁場2が変化し、有効磁場6の回転、すなわち
を起こさせ、磁化3は有効磁場6の軸、すなわち
のまわりで減衰歳差を開始する。
【0052】
磁化3が半分まで歳差を完了した時点で、電場7の印加を止めることができる。そして、磁化3は容易軸2に沿って(反平行)安定化を開始する。
【0053】
従って、パルス7の終了時点、すなわちt=Δt180°及びV=Vcでは、異方性磁場及び有効磁場6は、図1cに示すように負のx成分を持つものとなる。
【0054】
パルス7が終了した直後、t=Δt180°+δ(ここでδ>0)及びVG=V0で、異方性磁場2が反転し、元の方向に対して反平行となるx方向に平行な向き、すなわち
となり、磁化3は有効磁場6の軸、すなわち
のまわりで減衰歳差を継続する。
【0055】
t>>Δt180°及びVG=V0では磁化3は平衡状態に到達し、有効磁場に沿った方向となり、負のx方向に平行、すなわち
となる。
【0056】
磁化の反転は、磁化3の方向に依存したエネルギーを考慮することにより理解することができる。例えばV0では、x軸に沿った容易軸2はポテンシャル障壁で分離された2つの最小エネルギーに対応する。障壁の高さは、磁化3が困難軸に沿った方向となった場合のエネルギー増加に対応する。
【0057】
磁化の反転、すなわち磁化の方位の180°反転は、反転層と固定基準層との間の相対的な方位が素子の抵抗により定まるような、トンネル磁気抵抗(TMR)素子及び巨大磁気抵抗(GMR)素子並びに他の同様の種類の読み出し素子においても使用され得る。
【0058】
ゲート電圧パルス7により、元の容易軸4から45°から最大90°の角度で回転した新しい容易軸が生じた場合、磁場の助けを借りずに磁化の反転を果たすことができる。
【0059】
これは、例えばx>0.03の高キャリア濃度のGa1−xMnxAsで、素子1の内部で、異方性が層の平面に対し垂直に配向されて引張り歪が生じている場所と、磁気異方性が層の平面に対し平行に配向されて圧縮歪が生じている場所との間で、部分的に歪みを変化させることにより実現することができる。また容易軸の回転も、歪みのある構造内でキャリア濃度を変化させることにより実現することができる。
【0060】
x<0.02の低濃度のGa1−xMnxAsでは、磁気異方性の変化は上記とは反対の方法で行うことができる。例えば、素子内に圧縮歪が生じている場所では、磁気異方性は平面に対し垂直に配向でき、素子内に引張り歪が生じている場所では、磁気異方性は平面に対し平行に配向できる。
【0061】
系の特定の磁気異方性に依っては、完全な磁化反転が必要でない、すなわち磁化を180°反転させる必要がない場合もある。例えば立方磁気異方性を示す素子では、より長いパルス幅(例えば、半歳差パルス)で22.5°以下の角度に、あるいは、より短いパルス幅(例えば、4分の1歳差パルス)で90°までの角度に容易軸を回転させた場合、90°の磁化反転を実現することができる。これは、格子定数が約0.01%のオーダーで変化した結果生じる微小の歪み変化を有するGa1−xMnxAsで観察したように起こり得ると言える。この場合、異方性磁気抵抗(AMR)、トンネル異方性磁気抵抗(TAMR)又はクーロンブロッケード型異方性磁気抵抗(CBAMR)などの異方性磁気抵抗効果を用いても、磁化方向を読み出すことができる。
【0062】
(Ga,Mn)As素子での結晶磁気異方性の局所的な制御
図2a及び図2bは、リソグラフィで形成した溝9による歪み緩和を用いて、結晶磁気異方性を調整及び制御した素子8を図示したものである。結晶磁気異方性はスピン軌道結合により与えられる。バルクGaMnAsの磁気異方性と素子8での歪み緩和の効果の両方の評価を援助するため、素子8に隣接したウエハ11にファンデルポー素子10を形成する。
【0063】
素子8は、平面図上でL字型をした、[110]及び
方向に沿って直交した第一及び第二アーム111、112を含むチャネル11を有するホールバー(Hall bar)の形状をしている。アームは1μmの(横)幅と、20μmの(縦)長さlを有している。
【0064】
特に図2cを参照すると、素子8は、GaAs基板14上の[001]結晶軸に沿ってエピタキシャル成長させた厚さ25nmのGa0.95Mn0.05As層(又は、エピ層)13を含む層構造12を有するウエハに形成されている。チャネル11は、電子ビームリソグラフィ及び反応イオンビームエッチングにより形成する。溝9は200nmの(横)幅Wと、70nmの深さdとを有している。
【0065】
図3a乃至図3dを参照すると、素子8と同一の構成を有する他の素子(図示せず)の電気特性と、素子8の電気特性が示されている。他の素子(図示せず)と素子8は、ホール(Hall)バーの寸法が異なっている。他の素子(図示せず)において、アーム(図示せず)は4μmの幅と80μmの長さである。図2a及び図2bに示した素子8では、アーム111、112は1μmの幅と20μmの長さである。
【0066】
これらの素子8は面内結晶磁気異方性を示し、約50ミリテスラの飽和磁化Msを有している。これは、形状異方性ではなく歪み緩和の効果に依るものである。例えば、素子8の形状異方性磁場は1ミリテスラ未満であり、この値は結晶異方性磁場よりも1オーダー低い値である。従って、容易軸は形状異方性によって形成されるのではなく、結晶磁気異方性によって形成される。
【0067】
100°Kのキュリー温度(Tc)は、異常ホール(Anomalous Hall)データのArrottプロットを用いて求める。強磁場ホール測定により、5×1020cm−3のホール(Hall)濃度が求められる。この不純物添加により、GaAs基板15上に成長させたGa0.95Mn0.05Asのエピ層13内の圧縮歪みによって、磁化ベクトルの方位を強制的に磁気エピ層13の平面に平行の方向に向けさせる強い結晶磁気異方性が生じることになる。
【0068】
面内回転磁場(図示せず)の異方性磁気抵抗(AMR)の長さ成分及び幅成分を測定することにより、個々のマイクロバー素子8での磁化方位を局所的に監視する。
【0069】
図3a及び図3bは、飽和磁場での磁化の回転をグラフで図示したものであり、面内AMRが次式によく従うことを示している。
【数3】
上式において、ρLは縦方向の抵抗値、ρTは幅方向の抵抗値、Aは定数(各ホールバーに関するだけではなくファンデルポー素子10にも関する)及びφは磁化と電流との間のなす角である。
であり、ここで、
は、全角度での平均値である。
【0070】
図3c及び図3dは、外部磁場を走査したものに対する磁化抵抗をグラフで図示したものであり、ここで
軸から測定した磁場角θは一定である。
【0071】
図示したように、磁気抵抗はθの値に強く依存し、磁化回転に依るものである。強磁場では磁気抵抗は純粋に等方性を示し、すなわち異なる角θに対する抵抗の差は外部磁場の強度とは独立している。この特性と、弱磁場での異方性磁気抵抗に比べて等方性磁気抵抗がはるかに小さいことから、図3a及び図3bに示した強磁場での測定を用いて、弱磁場での抵抗の変化と磁化方位の変化との間の一対一の対応関係を決定することができる。図3a及び図3bに示した縦方向と幅方向のAMR軌跡の間に存在する45°の位相差を用いて両方の抵抗成分を同時に測定すれば、磁化角度の変化を求められる。
【0072】
θを固定した磁気抵抗の測定を最初に用いて、個々のマイクロバーの局所的な磁気異方性を求めることができる。容易軸方向に対応するθの値は最小の磁気抵抗を有する。容易軸方向に対応しないθの値に対しては、磁化は、異なる配向を生じるような(部分的に)連続した回転を弱磁場で起こすため、その結果、飽和及び残留磁気では異なる抵抗値が測定される。この方法を用いて、容易軸の方向を±1°内で求めることができる。
【0073】
図4a及び図4bに、歪みを空間的に変化させることを導入したことによる磁気異方性への効果を示す。
【0074】
バルク材料では、ファンデルポー素子10(図2a)を用いた測定の結果、磁化角30°は容易軸に対応するが、7°及び55°の磁化角では磁化が極めて困難である。しかし、図2aに示す素子8では、7°は
バーにおいて容易軸であり、55°は[110]バーにおいて容易軸である。
【0075】
下記の表1は、‘A’の標識をつけた他の素子(図示せず)の容易軸と、‘B’の標識をつけた素子8の容易軸と、バルク、すなわちファンデルポー素子10の容易軸を列挙したものである。
【表1】
【0076】
バルク材料は、ジルコニウムを混合した下地構造による立方異方性を有し、さらに付け加えて(Ga,Mn)Asエピ層13であることにより単軸
異方性を有している。この結果、2つの容易軸は、[100]及び[010]立方辺から
方向に向けて各々15°±の角度だけ傾くことになる。
【0077】
マイクロ素子、すなわち他の素子(図示せず)及び素子8では、容易軸は、バルク材料で占有されていた角度からアーム111、112に向けて内側に回転する。アーム111、112の長さが短いほどこの回転角度は増加する。
【0078】
結晶磁気異方性の局所的な変化は、以下のように理解することができる。
【0079】
再び図2aを参照すると、GaAs基板15上に成長したGa0.95Mn0.05Asエピ層13は、(001)面で、次の歪みパラメータの一般値に従った圧縮歪みを受ける。
【数4】
ここで、αGaAs及びαGaMnAsは各々、立方体の完全に緩和されたGaAs及び(Ga,Mn)Asの格子パラメータである。上記の式(3)とαGaAs及びαGaMnAsのパラメータを用いると、f≒0.2−0.3である。
【0080】
バー11に沿った溝9から(Ga,Mn)Asを取り除くと、格子は横方向に緩和し、それに対応した延びft/wは約0.01であることを概算で見積もることができる。ここで、tは(Ga,Mn)As薄膜の厚さで本例では25nmであり、wはバー幅である。
【0081】
定量値に関しては、実際の試料の形状に従い、弾性理論に基づく数値シミュレーションを用いて、マイクロバーにおける格子緩和の大きさを求めることができる。Ga0.95Mn0.05Asエピ層13を含むウエハ全体について、GaAsの弾性定数を考慮する。
【0082】
図5は、素子11(図2a)の[110]バー112に関する、格子緩和の大きさの数値シミュレーション結果を示したものである。
【0083】
図5aは、完全に緩和した立方GaAsに関して、成長方向の[001]軸に沿った歪み成分を示したものである。すなわち、
【数5】
【0084】
歪み成分はfに対して線形の関係があるため、e[001]/fの分布を描くことができる。
【0085】
図5は、成長に伴う格子整合歪みを図示したものである。(Ga,Mn)As格子の面内圧縮のため、弾性媒体は、αGaAsに比べて格子定数を成長方向に伸長させることにより反応する。すなわちe[001]/f>1である。
【0086】
エピ層13の平面内では、格子はマイクロバーの方位に垂直な方向にだけ緩和することができる。これに対応する歪み成分をGaAsに関して計算し、素子11の全断面に関して描いたグラフが図5bであり、[001]−[110]面を通る様々な断面に沿って描いたグラフが図5c及び図5dである。バーの中央では面内緩和は比較的少なく、すなわち、格子定数はGaAs基板15の格子定数と同様であるが、バー11の辺に近い場所では格子緩和は大きくなる。(Ga,Mn)Asバーの全断面で平均をとると、相対面内格子緩和は数百分の一、すなわち式ft/wで推定したものと同一のオーダーであることが分かる。以下に示す結晶磁気エネルギーの微視的計算により、見かけでは小さい格子歪みが、強力にスピン軌道結合された(Ga,Mn)Asの中で観測された容易軸回転の原因となっていることが分かる。
【0087】
磁化角度に依存した全エネルギーの微視的計算は、GaAsホスト価電子帯の6バンドk.p記述と、局所的なMnGa d5モーメントへの結合の動的交換モデルとの組み合わせに基づくものである。バンドのスペクトル組成と関係する対称性が、よく知られたGaAsホストで見られるようにAs副格子のp軌道により支配されているような、価電子帯の最上位バンドでのスピン軌道結合の現象を記述するのに、この理論は十分適している。また、k.pモデルは、(Ga,Mn)Asバンド構造への格子歪みの影響を説明する直接的な手段を提供するものである。上述した巨視的なシミュレーションでは、(Ga,Mn)Asの弾性定数はGaAsと同一の値を有するものと仮定している。この理論は、調整可能な自由パラメータを用いず、圧縮及び引張り歪みの元で成長する同様の(Ga,Mn)Asエピ層で、面内容易磁化方向と面外容易磁化方向との間で遷移が見られることを説明し、対応するAMR効果の符号とその強度に関して一貫した根拠を与えるものである。
【0088】
マイクロバーの結晶磁気エネルギーのモデル化に際しては、巨視的シミュレーションで得られたe[001]の平均値に対応した(Ga,Mn)As層の歪みは均一であると仮定することができる。微視的計算の入力パラメータは、完全に緩和された(Ga,Mn)As立方格子に関連し、次式で与えられる[100]−[010]−[001](x−y−z)座標系での歪み成分である。
【数6】
ここで、±は各々、
バーと[110]バーに対応している。
【0089】
図6aは、他のL字型素子15及びL字型素子8の
及び[110]バーでの容易軸の方向を図示したものである。矢印16はパターンニングによる格子緩和の方向と大きさを示している。
【0090】
図6bは、結晶磁気エネルギーの計算結果を、f=0.3とし、exyをゼロ(面内格子緩和なし)から、
バーに対応した(exy>0)典型的な値と、[110]バーに対応した(exy<0)典型的な値まで変化させて、面内磁化角の関数としてグラフに描いたものである。特に、ゼロ剪断歪み(黒線)に対する面内磁化角の関数として、[110]軸に沿った格子伸長に対応したexy=0.004から0.02%まで変化させ、さらに、
軸に沿った格子伸長に対応したexy=−0.004から−0.02%まで変化させてエネルギーをグラフに描いた。容易軸は、exy=0、−0.002%及び−0.02%に存在する。[110]バーの[110]軸に沿って伸長した菱形に似た単位セル(下方の菱形)と、
バーの
軸に沿って伸長した菱形に似た単位セル(右側の菱形)とにより、微視的な結晶磁気エネルギー曲線の
対称性を崩す格子変形を示してある。
【0091】
実験と一致して、exy=0での[100]及び[010]での最小値は、[110]方向(exy>0)に沿った格子伸長に対しては
方向に移動し、
方向(exy<0)に沿った格子伸長に対しては[110]方向に移動する。2つのバーでの実験での容易軸の回転間の対称性は、その微視的な起源は未知ではあるものの既にバルク材料内に存在している[110]単軸成分に依るものであり、(微視的なパターンニングによっては生じない)固有歪み
によってモデル化することができる。
【0092】
ここで説明した素子は、圧縮歪みの元で成長させた面内磁気異方性を有するGaMnAsのストライプの微視的パターンニングによる相互歪み緩和を用いている。一方、引張り歪みが与えられ垂直磁気異方性を有するGaMnAsでパターンニングした配線は、その格子定数が下がることで緩和する。この場合、微視的パターンニングは、引張り歪みが与えられたGaMnAsのバルク材料に比べ、垂直磁気異方性を弱める働きをする。
【0093】
強磁性金属も、局所的な歪みに対し、結晶磁気異方性が敏感に依存する特性を示す。平衡状態にある格子の歪みは局所的な歪みに変化を与える。極薄膜では、表面での成長によって歪みが生じる。従ってGaMnAsと同様に、GaAs[001]基板上でエピタキシャル成長させたコバルト(Co)又は鉄(Fe)の極薄膜は、バルク材料としての立方磁気異方性と、界面から生じる単軸性の寄与の両方を示す。
【0094】
電荷キャリア濃度変化による磁気異方性
図7は、8×1020cm−3の第一キャリア濃度pと、6×1020cm−3の第二キャリア濃度での、e0=−0.2%の圧縮歪みの基で、
に沿ったexy=−0.02%の格子歪み(伸長)が与えられた、GaAs[001]上で成長させ横方向歪みが与えられたGa0.96Mn0.04As結晶磁気エネルギーの形状を示したものである。第一及び第二の矢印17、18は、各々第一及び第二のキャリア濃度に対する容易軸の方向を示している。
【0095】
図7に示すように、キャリア濃度の変化により、歪みを有するGaMnAsでの磁気異方性の変化をもたらすことができる。多くの不純物(約1020−1021cm−3)が添加されたバルク半導体でキャリア濃度を変化させることは短い遮蔽距離のために困難ではあるが、十分に(電気的に)分離されたナノ構造を用いれば十分大きなキャリア濃度変化を実現することができる。
【0096】
上述した図6bに示したものと同様の理論的計算によれば、磁気異方性がキャリア濃度に敏感に依存することが示される。図7に示すように、キャリア濃度を約25%減少させると、概ね
から[110]の結晶方位に、約90°だけ容易軸が変化する。
【0097】
磁気異方性を電場により変化させることを実現する、本発明の他の実施例を説明する。この実施例には、歪みを有する強磁性半導体の電荷キャリア濃度を変化させる方法、不均一な歪みを有する強磁性半導体の最大キャリア濃度の中心を移動させる方法、及び、圧電層を強磁性層に張り付けること、あるいは、例えば(従来のように不純物添付されたGaAsと同様の圧電特性を有する)GaMnAsで可能となっているように、強磁性材料自身の圧電特性を利用することにより強磁性層の歪みを変化させる方法が含まれている。
【0098】
さらに他の磁気抵抗素子
本発明による磁気抵抗素子のさらに他の実施例を説明する。
【0099】
先ず、電場パルスを印加することにより強磁性領域の電荷キャリア濃度に変化を及ぼし、その結果、さらに磁化に歳差を開始させる磁気異方性の変化をもたらすような磁気抵抗素子について説明する。
【0100】
図8a及び図8bは、第一及び第二の磁気抵抗素子211、212を示すものである。第二磁気抵抗素子212は、第一磁気抵抗素子211の変形である。
【0101】
各素子211、212は、歪みが与えられた強磁性領域22(ここでは、強磁性“島”と称する)を含んでいる。これらの例では、強磁性領域22は、(Ga,Mn)Asなどの強磁性半導体を含んでいる。しかし、これとは異なる強磁性半導体を用いることもできる。
【0102】
強磁性領域22の磁化方向は、強磁性領域22に容量性結合されたゲート23を用いて短い電場パルスを印加することにより、強磁性領域22の磁化方向を変化させること、あるいは変化することを助けることができる。電場パルスを印加することにより、強磁性領域22の電荷キャリア濃度に変化を及ぼし、その結果、さらに磁化に歳差を開始させるような磁気異方性の変化をもたらす。強磁性領域22は、4.2°Kなどの所定の動作温度で充電効果をもたらすように十分に小さくすることができる。例えば、強磁性領域22は、1又は10nmのオーダーの寸法(層厚及び横径)を有することができる。しかし、強磁性領域22は、例えば100nm、1μm又はそれ以上のオーダーのより大きな寸法を有するものであってもよい。
【0103】
強磁性領域22は、第一及び第二のリード24、25の間に設けられ、各々トンネル障壁26、27を介して第一及び第二のリード24、25と弱結合している。いくつかの実施例において、1つより多くの強磁性体材料の島が、例えば鎖状に存在していてもよい。
【0104】
電圧パルス29をゲート23に印加するパルス発生器28を用いて磁化の再配向を開始する。
【0105】
再配向の方向は様々な方法で測定することができる。
【0106】
例えば、第一の素子211において、磁化の方向は電圧源30と電流検出器31とを用いてトンネル異方性磁気抵抗(TAMR)を測定することにより決定できる。第一及び/又は第二リード24、25が強磁性である場合、電圧源30と電流検出器31とを用いてトンネル磁気抵抗(TMR)を測定することにより磁化の方向を決定することができる。いずれの場合も、測定には電流を流し、電流を測定するために電圧を印加することが含まれている。
【0107】
第二の素子212において、磁化の方向は電圧源30と電流検出器31とを用いてTMRを測定することにより決定できる。しかし、第一リード24と第三リード32との間にバイアスを与えその間の電流を測定する。ここで、第三リードはトンネル障壁34により強磁性島22と分離され、固定化された強磁性領域33に結合されている。なお、これらとは異なる測定の構成を用いることができることは理解されよう。
【0108】
図9は第一の素子211をより詳細に示すものである。
【0109】
第一の素子211は長尺の導電性チャンネル36を有しており、チャンネル36の横側にゲート23が配置され、すなわち横側ゲート構造となっている。チャンネル36と横側ゲート23は、溝による分離でパターンニングされた(Ga,Mn)As層37で形成されている。AlAs層38は、チャンネル36と横側ゲート23をGaAs基板39から電気的に分離している。チャンネル36は、くびれ部へのリード24、25を提供しているより広い部分の間に設けられたくびれ部40を含んでいる。
【0110】
(Ga,Mn)As層37は2%のMn、すなわちGa0.98Mn0.02Asを含んでおり、5nmの厚みを有しているが、表面酸化により実効厚みは約3nmである。くびれ部40は幅が30nm、長さが30nmである。チャンネル36は幅が2μmである。チャンネル36とゲート23は約30nmの距離で隔てられている。
【0111】
くびれ部40の領域には、不規則性によるポテンシャルの変動により、少なくとも一つの導電性島22と、リード24、25及び/又は隣接した島22に対して導電性島22を弱結合する少なくとも一組のトンネル障壁26、27が生成される。
【0112】
図10a乃至図10cを参照しながら、第一の素子221の特性が以下に示される。
【0113】
図10aは、ゲート電圧と電流に平行な面内磁場に対するチャネルコンダクタンスをグレー・スケール表示した分布グラフである。破線41は、ゲートバイアスに依存した臨界再配向磁場Bcである。臨界再配向磁場Bcは、VG=−1Vでの約40ミリテスラからVG=1Vでの20ミリテスラ未満まで減少する。
【0114】
ディスク形状の島22を仮定して、充電エネルギーの実験値を用いてその実効ディスク径を推定すると約10nmであることが分かった。従って、約40個のマンガンのアクセプタが島22に存在する。約40%のキャリア濃度の減少に対応させてVGを−1Vから+1Vまで変化させると、約16回のクーロン振動が観測された。臨界再配向磁場BCは、VG=−1Vでの約50ミリテスラからVG=1Vでの20ミリテスラ未満まで減少する。
【0115】
図10bは、島22が磁化M0を保っているB0=0でのクーロン・ブロッケード振動と、島22が飽和磁化M1を保っているB0=−100ミリテスラでのクーロン・ブロッケード振動とを、ゲート電圧をVG=−1Vと1Vの間で変化させてグラフにしたものである。中間の磁場B0=−35ミリテスラでコンダクタンスを測定した結果は、約−0.5Vの臨界ゲート電圧でM0からM1に遷移することを示している。
【0116】
図10cは、臨界再配向磁場BcのゲートバイアスVGに対する依存性を、VG=−1VとVG=+1Vの範囲でグラフで示すものである。グラフは、振幅VG≧2.5Vのゲート電圧パルスでB0=0で磁化反転を発生させることを示している。異なる素子構造及び/又は材料を用いた場合にも同様のグラフが得られ、磁気反転を発生するのに必要なバイアスを求めるために用いることができることが分かる。
【0117】
図11a及び11bに示すように、第二の素子212は第一の素子211の変形である。
【0118】
(Ga,Mn)As層(図示せず)に続くGaAs基板上にAlAs層38’を成長させ、ピン層32及び第三電極33を単一体として含む下地電極構造42を形成するために(Ga,Mn)Asをパターンニングし、更に、パターンニングした電極上にAlAs層43と(Ga,Mn)As層を成長させ、チャンネル37’及びゲート23を形成するために更に(Ga,Mn)As層を成長させて素子212を形成することができる。
【0119】
下地電極構造の代わりに表層電極構造を用いることもできる。例えば、ピン層と第三電極を含む電極構造を形成するためにチャンネルとゲートを形成し、パターンニングした後で、電極を形成するAlAs層と(Ga,Mn)As層を成長させることができる。これに代えて、SixNyなどの薄層ゲート電極とCoなどの強磁性材料を、リフトオフ又はドライエッチングを用いて堆積しパターンニングすることもできる。
【0120】
図12は、第一及び第二素子211、212のための書き込み及び読み出しサイクルを示すものである。
【0121】
以下で詳細に説明するように、素子211、212は、4つの状態M1、M2、M3、M4を有する。しかし、素子211、212はより少ない状態、例えば、反平行のちょうど2状態を有してもよいし、あるいはより多くの状態、例えば、面内2軸異方性及び垂直単軸異方性を利用することによる6状態を有してもよい。さらに、素子211、212は、例えばソース及び/又はドレイン領域が強磁性であるかどうかに依り、例えば4つの状態M1、M2、M3、M4を示し得る場合でも、全ての状態が区別可能であってもよいし、あるいはいくつかの状態が区別不可能となっていてもよい。
【0122】
以下に、強磁性島22の磁化44を起こす2種類の書き込みパルスについて説明する。一方の種類のパルス(いわゆる“t180”パルス)は2状態を切り替えるものであり、他方の種類のパルス(いわゆる“t90”パルス)は4状態のうち“隣接する”2状態を切り替えるものである。
【0123】
なお、図12においてグラフで描いた磁化44は、磁化のエネルギーを表すものではなく、単に異なる状態を表すものである。いくつかの実施例において、これらの状態は0°、90°、180°、270°の角度依存性を表している。
【0124】
以下では、いわゆる“トグル”スイッチングについて説明するが、これにより、“t180”パルスを繰り返し印加し、2状態間、例えば各々‘0’及び‘1’を表す状態M1及び状態M2の間で磁化44を“トグル”させる。しかし、“t90”パルス29は、一つの状態からそれに隣接する状態にのみ磁化45を“回転”させることを漸次行うものである。
【0125】
例えば、‘0’状態と‘1’状態との間で、そしてその逆方向でスイッチングすることにより素子211、212にデータを書き込むために、ゲート23に電圧パルス29を印加する。
【0126】
パルス29は歳差周期tprecessの周期の半分の持続時間t180を有する。歳差周期tprecessは、
【数7】
により与えられる。
ここで、γはジャイロ磁気定数、
であり、BAは異方性磁場であり、例えば、試料壁、粒壁、ドメイン壁あるいは他の種類の境界における磁化の発散により生成される反磁場を含んでいてもよく、形状異方性を引き起こすものである。本例では、tprecessは約1nsである。tprecessの値は(100ミリテスラから1ミリテスラのBAに対し)通常、100psから10nsまでの範囲にある。
【0127】
電圧パルスの振幅|VG|は1又は10Vのオーダーである。
【0128】
先に説明したように、外部磁場を印加して安定した磁化を助け、あるいは歳差を促進することができる。外部磁場は、永久磁石(図示せず)又は導電路(図示せず)により与えることができ、異方性磁場と同一又はそれより小さい、例えば1から100ミリテスラのオーダーの強度を有することが好ましい。
【0129】
いくつかの実施例において、特定の方向に磁化を配向することにより特定の状態を書き込むために、外部磁場及び/又はスピン移行トルク電流を用いることができる。以下、この書き込みのことを“直接書き込み”と称する。
【0130】
磁気抵抗素子が、絶縁層により分離した強磁性層を固定化及び自由化した実施例において、電場パルスを印加し、同時に又はその直後にスピン移行トルク(STT)電流パルスを印加することにより、磁化の再配向を果たすことができる。“その直後に”とは、電場パルスの印加後に磁化が歳差を行っていて、それが減衰しきっていない時間内のことを意味している。通常、この時間は0nsと5nsの間である。
【0131】
素子211、212からデータを読み出すために、素子211、212のソース24とドレイン25の間にバイアスパルス45を印加し電流i31を測定する。電流の強度は、素子のトンネル異方性磁気抵抗(TAMR)及び/又はトンネル磁気抵抗(TMR)に依存しており、これらの抵抗値はさらに、‘0’及び‘1’状態を表す強磁性領域22の磁化44の方位に依存している。
【0132】
先に説明したように、2つより多数の状態の方位は、AMR、TAMR及びCBAMR等の異方性磁気抵抗効果を測定することにより、あるいは、平面に垂直な方向の磁化容易軸に沿った状態の異常ホール効果によって生じる、リード32と基準(例えば、接地)との間の横方向ホール電圧を測定することにより求めることができる。
【0133】
図13a、13b及び13cを参照して第一素子211の製造について説明する。
【0134】
図13aに示すように、低温分子ビームエピタキシー(LT−MBE)により、GaAs基板39上のAlAs38”バッファ層上に[001]結晶軸に沿って成長させた、極薄(5nm)のGa0.98Mn0.02Asエピ層37”から素子211を製造する。引用文献は、“ヒ素二量体で成長させた高品質GaMnAs膜”、R.P.Campion、K.W.Edmonds、L.X.Zhao、K.Y.Wang、C.T.Foxon、B.L.Gallagher及びC.R.Staddon共著、Journal of Crystal Growth、第247巻、42頁(2003)である。
【0135】
光リソグラフィに用いられるアルカリ性現像液に対するGaMnAs層の高い反応性により、メチル・イソブチル・ケトン/イソプロパノールの1:3混合溶液中において超音波を用いて温度25℃で現像されたポリメチルメタクリル酸(PMMA)レジストを用い、電子ビームリソグラフィを用いてホールバー14を形成する。
【0136】
各々20nm及び60nmの厚さを有する、熱蒸着された高電子コントラストのCr/Au重ね合せマーク(図示せず)を、1μm厚のレジスト(図示せず)と約250nm径の電子ビームとを用いたリフトオフによりパターンニングする。GaMnAsに対し過度な損傷を与えることなく金属の付着を補助するため、蒸発に先立ち10%のHCl溶液に30秒間浸す。
【0137】
約200nm厚のレジスト層(図示せず)を、Ga0.98Mn0.02Asエピ層37の表面Sに塗布する。直径が約15nmで電流が約5pAの電子ビーム(図示せず)を用い隣接した重ね合せマークにチップ上で焦点を合わせて、最も微細なパターンを画定する。直径が約250nmで電流が約1nAのビームにより、同一のレジスト中に臨界未満領域(図示せず)を画定する。書き込み時間とパターン変動を最小とするため、高分解度領域ができるだけ小さくなるように配置する。
【0138】
図13bに示すように、パターンニングしたレジスト層Mをエッチマスクとして残すためにレジストを塗布する。
【0139】
図13cに示すように、トレンチ分離のために反応性イオンエッチング(RIE)を用いる。GaMnAsの高い導電性に比較すれば、RIEによる導電性の減損は最小となることが期待される。RIE反応室(図示せず)内の圧力は20mTorrであり、GaAs及び塩化マンガンの両方の除去に適した物理的エッチング作用と化学的エッチング作用に必要な混合をガスを供給するため流量が20sccmのSiCl4及びAr両方を用いる。10秒から15秒間の100Wの通常のエッチングにより、GaMnAs層に20〜30nmの深さを有するトレンチTを安全に形成した。
【0140】
Cr/Au(20nm/300nm)ボンドパッドを熱蒸着し、さらに、HCl溶液中で付着ディップにより再度処理する。ボンドパッドはGaMnAs層に対する低電気抵抗の電気接点を形成し、別個のオーミック金属被膜形成の必要はない。
【0141】
本例では、素子は、くびれ部の両側で10μm間隔で2μm幅のチャンネルと、500nm幅の3組のホールセンサー端子とを有する[110]方向に沿って並んだホールバー配置で配列されている。しかし他の配列を用いることもできる。
【0142】
第二の素子212を製造するために、上述した製造プロセスを変更する。
【0143】
より厚い、例えば25nm厚を有するGaMnAs層を有する上述したものとは異なる初期層構造を用いる。層構造は電子ビームリソグラフィとRIEを用いてパターンニングし、下地電極構造44(図11a)を形成する。次に、上述したように別のAlAs層(3nmの厚みを有する)とGaMnAs層とをLT−MBEにより成長させる。この構造をパターンニングして、第一の素子211と同様の方法でチャンネルを形成する。
【0144】
下地電極構造44(図11a)をパターンニングするステップと、AlAs層及びGaMnAs層を成長させるステップの間での汚染を最小化するために、いくつかの方法を用いることができる。例えば、初期層構造を成長させた直後にイオンビーム・ミリングを用いて下地電極構造44(図11a)をパターンニングし、さらに真空を破ることなく追加の層を成長させることができる。
【0145】
図8cは第三の磁気抵抗素子213を示すものである。
【0146】
第三の素子213は、第一及び第二リード24,25の間に配置された強磁性領域22を有する2端子の素子であり、トンネル障壁26により一方のリード24に、さらに半導体強磁性領域22及びリード25により形成され空乏層により供給された調整可能な障壁35により、他方のリード25に各々弱結合されている。
【0147】
本例では、強磁性領域22はp型半導体、例えばGa(Mn,As)を含み、リード25はn型半導体、例えばSiを添加したGaAsを含んでいるため、調整可能な障壁35は逆バイアスのp−n接合となっている。しかしリードは金属でもよく、その場合は調整可能な障壁35はショットキー障壁となる。
【0148】
特に図14a及び14bを参照して、第三の素子213をより詳細に示す。
【0149】
素子213は基板38から直立した柱47を含んでいる。柱47は、1〜10×1018cm−3のオーダーの濃度でGaAsが添加され、(未エッチング時に)200nmの厚さを有する層25と、約2nmの厚さを有するp型Ga0.98Mn0.02Asの層22と、25nmの厚さを有するAlAsの層26と、約10nmの厚さを有するAuの層とを含んでいる。
【0150】
本素子は、GaAs基板上に成長させた200nmのオーダーの厚さのn型GaAs(図示せず)の層と、5nm厚のGa0.98Mn0.02Asの層と、25nm厚のAlAs層とを含む層構造(図示せず)から製造する。Ga0.98Mn0.02Asは低温分子ビームエピタキシー(LT−MBE)により成長させる。
【0151】
電子ビームリソグラフィと熱蒸着とを用いて、層構造(図示せず)の表面上に、10nmのオーダーの厚さを有する金(Au)のパッドを画定し、SiCl4/Ar RIEを用いて柱47を画定する。
【0152】
柱47の上端を接触させるために、例えばポリイミドを用いて柱を平面化し、金の接合パッドを堆積させる。
【0153】
非磁性オーミック接合を用いて基板を接合させる。
【0154】
図15は、第三の素子213での書き込み及び読み出しサイクルを示すものである。
【0155】
上述した第一及び第二の素子211、212と同様に、第三の素子213は4状態M1、M2、M3、M4を示す。
【0156】
第三の素子213は、電圧パルス29の極性により書き込みパルスであるか読み出しパルスであるかを決定する点が異なる。
【0157】
素子213にデータを書き込むために、他方のリード25に対し固定されたトンネル障壁に隣接したリード24に負の電圧パルス29を印加し、p−n接合35のバイアスを反転させ、さらに空乏領域の幅を増加させ、これにより空乏を増加させ、強磁性領域22のキャリア濃度又はキャリア濃度分布を変化させ、歳差を生じさせる。前述したように、パルスの持続時間を用いて、すなわちt90及びt180パルスを用いて、2状態間あるいは2より多数の状態間を切り替えることができる。
【0158】
データを読み出すために、他方のリード25に対して固定されたトンネル障壁に隣接したリード24に正の電圧パルス30を印加し、電流46に依存した磁化方位を測定する。
【0159】
図16a、16b及び16cを参照して、磁気抵抗素子51を説明する。本素子では、電場パルスを印加することにより、不均一な歪みを有する強磁性半導体内の最大のキャリア濃度の場所を移動させ、その結果磁気異方性に変化を生じさせ、磁化の歳差を引き起こさせる。
【0160】
素子51は、通常約1μmの幅wと、約20μmの長さlを有する長尺であるホールバー52を含んでいる。ホールバー52は、第一及び第二の終端リード53、54とバー52の向き合う横側に組にして配置した第一、第二、第三及び第四の横側リード55、56、57、58とを有している。ホールバー52は、表層電極及び下地電極59、60の間に挟まれており、各々“ボトム”電極及び“トップ”電極と以下称する。
【0161】
図示したように、パルス発生器61を用いて、トップ電極59とボトム電極60との間に電圧パルス62を印加する。電流源63を用いて、ホールバー52を介して第一及び第二の終端リード53、54の間に読み出し電流ireadを流す。第一及び第二の電圧計64、65は、第一及び第二のリード55、56間のバイアスと第二及び第四の横側リード56、58間のバイアスとを測定し、各々縦方向と横方向の異方性磁気抵抗(AMR)を求める。第二及び第三の横側リード56、57間のバイアスも測定し、異常ホール効果(AHE)抵抗を測定することができる。
【0162】
AMR測定を用いることにより、VG=V0において、例えばV0=0で2軸の面内異方性を示す強磁性層での磁化が180°未満、例えば90°回転している2状態の間を区別することができる。
【0163】
AHE測定を用いることにより、VG=V0において垂直異方性を有するシステムでアップ状態とダウン状態の間を区別することができる。
【0164】
特に図16b及び16cを参照すると、ホールバー52はボトム電極59として働き、ヒ化インジウムガリウム(In0.05Ga0.95As)基板66上に形成される。ホールバー52は、InGaAs基板66の表層にAlAsで形成されたベース障壁層67と、調製されたInGaMnAsで形成された不均一な歪みを有する強磁性層68と、AlAsで形成されたトップ障壁層69とを含んでいる。トップゲート電極60は、Alで形成されている。
【0165】
強磁性層68内の格子定数は制御可能であり、それを変化させることにより層68の内部に不均一な歪みを生じさせることができる。In0.03Ga0.97Asの格子定数は、Ga0.95Mn0.05Asの格子定数よりも大きいため、In0.03Ga0.97As上に後で成長させたGa0.95Mn0.05Asには引張り歪みが生じる。さらに、その上にインジウムを再び導入しInGaMnAsを形成する。InGaMnAsの格子定数がInGaAs基板の格子定数よりも大きくなるまでインジウム濃度を増加させ、圧縮歪みを発生させる。
【0166】
素子51は、ヒ化インジウムガリウム(InyGa1−yAs)基板66’(y=5%)と、約20nmの厚みを有するヒ化アルミニウム(AlAs)67’と、ヒ化インジウムガリウムマンガン(InzGa1−x−zMnxAs)68’の段階的な層であって、GaMnAs681’のベース層を含み約10nmの厚さを有する層と、を含むウエハ70から製造する。
【0167】
図17を参照すると、InyGa1−yAs基板66’上に成長させたAlAs層67’の上に、引張り歪の下でGa1−xMnxAsの層681’をエピタキシャル成長させる。本例では、マンガン濃度は5%、すなわちx=0.05であり、インジウム濃度はx=0から10%まで増加している。
【0168】
InyGa1−yAs基板66’のより広い格子定数は、引張り歪を生じるInzGa1−x−zMnxAs層68’に伝わる。InzGa1−x−zMnxAs層68’をさらに成長させている間、インジウムを加えることでさらに格子定数を増加させ、これにより四元合金InGaMnAsを形成する。インジウム濃度[In]は、層681のベース71からの距離dが増すにつれて増加する。
【0169】
以上とは異なる歪の分布形状を用いることができる。本例では、強磁性層68内の歪を、基板に近くの引張り状態から基板から離れての圧縮状態まで変化させる代わりに、圧縮状態から引張り状態に向けて変化させる。これは、InyGa1−yAs基板に代えて、ヒ化ガリウム(GaAs)基板を有するウエハから素子を製造し、インジウム(In)に代えてリン(P)を加えることにより、リン化ヒ化ガリウムマンガン(Ga1−xMnxPzAs1−z)を形成することにより実現することができる。リン濃度が増加するに従って格子定数は小さくなる。
【0170】
図18を参照にすると、強磁性体層68の形状を変えることにより歪を変化させることができる。例えば、強磁性体層68の幅を層68のベース71で狭めた幅w1とし、ベース71から離れるに従って広げた幅w2>w1とすることができる。このようにして、層68のより厚い上部よりも層68の薄い下部において格子はより緩和される。強磁性体層68へは不純物を均一に添加することもできる。
【0171】
図19a及び19bを参照すると、2つのゲート59、60間にゲートパルス62を印加することにより電場72が生成され、電荷キャリア73(ここでは、多数キャリアであるホールのみ図示してある)をシフトさせ、下方の引張り歪み領域74と上方の圧縮歪み領域75での電荷キャリア濃度を変化させる。特に、パルス印加により、下方の引張り歪み領域74から上方の圧縮歪み領域75にキャリア73が移動し、上方の圧縮歪み領域75の電荷キャリア濃度が増加する。
【0172】
下に示す表2は、歪みとキャリア濃度に対する磁気異方性の方位を表すものである。
【表2】
【0173】
磁性体層68の磁気異方性76は、層68の面に垂直な第一方向771(すなわち、軸78に沿った方向)に配向した状態から、層68の面に沿った第二方向772(すなわち、軸79に沿った方向)に配向した状態に変化する。このように、実効異方性磁場BAは90°回転する。これにより磁化80が歳差を開始し、π/2パルスにより90°だけ再配向する。
【0174】
以下でより詳細に説明するように、他に同一のパルス62を印加することにより、実効異方性磁場BAを再び90°回転させ、磁化がさらに90°だけ歳差を継続する。従って、実効異方性磁場BAは再び面外軸77に沿って配向するが、磁化は第一方向771に対して反平行である第三方向773となる。それにもかかわらず、第一及び第三状態(すなわち、磁化80が第一及び第三方向771、773に配置したとき)の磁気抵抗は同一となる。この理由は、前述したように、初期及び最終の磁化状態が同一線上にない場合のみ、AMR測定により初期及び最終の磁化状態を区別することができるからである。AHE測定は、互いに逆向きで面に垂直な2つの磁化方向を区別することができる。TMR測定は、固定した基準層に対して平行と反平行の方向とを区別することができる。
【0175】
書き込み及び読み出しサイクルは、前述した図12で示したものと同様である。しかし、読み出しサイクルの間では、ソース/ドレイン間バイアスを印加し電流を測定する代わりに、素子に電流を流しリード55、56、57、58の間に発生する電位差を測定する。
【0176】
素子51は、第一の素子211を製造するための前述した方法と同様の方法で製造する。例えば、前述したものと同様の方法で層構造を成長させ、電子ビームリソグラフィとRIEを用いて層構造をパターンニングする。
【0177】
図20a及び20bを参照して、歪みパルスを印加すると磁気異方性に変化を引き起こし磁化の歳差を開始する、第四の磁気抵抗素子81を以下に説明する。
【0178】
素子81は、第一及び第二の接点リード84、85を有した圧電層83上に搭載された積層構造82を含んでいる。第一及び第二の接点86、87を用いて層構造82への電気的接合を設ける。
【0179】
積層構造82は、約1μmの幅Wと約1μmの長さLとを有している。
【0180】
図示したように、パルス発生器88を用いて圧電接合リード86、87間に電圧パルス89を印加する。電圧源90を用いて接合86、87間にバイアスを印加し、電流計91を用いて積層構造82を流れる電流を測定する。
【0181】
特に図20bを参照すると、積層構造82は、接着剤93により圧電加圧器83に固定されたヒ化ガリウム(GaAs)基板92上に形成されている。圧電加圧器はジルコン酸チタン酸鉛(PZT)から形成する。
【0182】
積層構造82は、(非強磁性)n+−GaAsを含むボトム接合層94と、Ga0.98Mn0.02Asを含み比較的低い保磁力を有し5nmの厚みを有する層(すなわち、“自由”層)と、ヒ化アルミニウム(AlAs)を含み25nmの厚みを有するトンネル障壁層96と、Ga0.98Mn0.02Asを含み比較的高い保磁力を有し50nmの厚みを有する強磁性層97(すなわち、“ピン”層)と、(非強磁性)金を含むトップ接合層98とを含んでいる。
【0183】
他の配列及び他の材料を用いることもできる。例えば、圧電加圧器83は基板92と一体で形成してもよい。例えば、GaAsは[110]軸に沿って圧電特性を有していてもよい。
【0184】
第四の素子81の強磁性層は必ずしも半導体である必要はないが、Fe、Ni、Coのような強磁性金属、あるいはFePt、CoPt、CoPdなどの合金、あるいは他の好適な遷移金属/貴金属合金などの金属であってもよいし、これらの金属を含むものであってもよい。
【0185】
書き込み及び読み出しサイクルは前述した図12で示したものと同様である。
【0186】
積層構造は必ずしも用いる必要はない。それに代えて、“面内”転送構造、例えば、図9に示したものと同様の構造を用いることもできる。例えば、図9に示した構造を圧電加圧器83の上に搭載することもできる。
【0187】
図21a及び21bを参照して、歪みの印加と電気パルスの印加とにより磁気異方性に変化を生じさせ磁化の歳差を開始させる、第五の素子101について以下に説明する。
【0188】
素子101は、強磁性材料のチャンネル103を定義した十字状のメサ構造102を含んでおり、本例では、このチャンネルはGaAsの層104に埋め込んだGa0.98Mn0.02Asのデルタドーピングした層であり、基板105により支持されている。第一、第二、第三及び第四接合106、107、108、109は、チャンネル103の末端への接合を提供するものであり、表面上端のゲート110を用いて磁気異方性を制御する。基板104は、強磁性チャンネル103に事前に応力を与えるための電場を圧電層111内に生成するために用いられる第一及び第二接合112、113を有する圧電層111に搭載されている。
【0189】
チャンネル103の各アームは、約2μmの幅と約20μmの長さとを有している。
【0190】
図示したように、第一のパルス発生器114を用いて、チャンネル103に事前にストレスを与えるために圧電接合リード112、113間に電圧パルス115を印加する。第二のパルス発生器116を用いて、表面ゲート110に電圧パルスを印加し磁気異方性の歳差を引き起こさせる。
【0191】
電圧源118を用いて、第一及び第二接合106、107間にバイアス119を印加し、電流計120を用いて、第三及び第四接合108、109間に流れる電流121を測定する。
【0192】
特に図20bを参照すると、基板104は接着剤122の層により圧電層11に搭載する。
【0193】
書き込み及び読み出しサイクルは前述した図12で示したものと同様である。しかし、図22に示すように、電圧パルス115はt180又はt90パルスの持続時間の間に印加する。
【0194】
上に説明した実施例において、素子に対するデータの書き込み及び読み出しは、素子が2つの状態のみを有していることを前提に素子を扱うことに基づいており、従って、一つの素子あたり1ビットの情報のみを記憶することになる。しかし、面内の2軸の異方性と平面に垂直な単軸の異方性を活用すれば、パルスと反転パルスの2種類の組み合わせを用いて6つの残留磁化方向にアクセスでき、2ビットよりも多数のビットをエンコードすることができる(すなわち、6つの異なる状態に対しては、ln6/ln2≒2.6)。
【0195】
図23は、強磁性層22、68、95、103が6つの残留磁化方向131、132、133、134、135、136を有することを示すものである。
【0196】
強磁性層22、68、95、103は2つの方式で動作させることができる。すなわち、ゼロ直流バイアスオフセット(すなわち、VG=V0)に対して2種類のバイアスパルスを印加する2軸面内異方性方式と、逆バイアスパルスを印加、すなわち非ゼロ直流バイアスオフセット(すなわち、VG=VC)に対してバイアスパルスを印加する垂直異方性方式である。
【0197】
VG=V0では、異なるパルス幅を有する高速のゲート電圧パルスにより引き起こされる歳差反転が、層平面内の2つの2軸容易軸に沿って、4つの残留状態131、132、133、134の間で磁化ベクトルを回転させる。
【0198】
図24を参照すると、ある意味において、隣接する磁化方向131、132、133、134は、90°回転に作用を及ぼすゲートパルス29、62、91を用いて、第一、第二、第三及び第四の磁化方向131、132、133、134のうち別のものからアクセスすることができる。以下、この種のパルスは、“p90°”パルス又は“t90パルス”と称する。
【0199】
上記とは正反対の意味において、隣接する磁化方向131、132、133、134は、270°回転に作用を及ぼすゲートパルス(図示せず)を用いて、第一、第二、第三及び第四の磁化方向131、132、133、134のうち別のものからアクセスすることができる。以下、この種のパルスは、“p270°”パルス又は“t270パルス”と称する。
【0200】
また、第一、第二、第三及び第四の磁化方向131、132、133、134は、180°回転に作用を及ぼすゲートパルス138を用いて、同一線上の方向131、132、133、134からアクセスすることができ、以下、この種のパルスは、“p180°”パルス又は“t180パルス”と称する。従って、磁化方位131は、p180°パルス138を用いて第三の磁化方向133からアクセスすることができる。
【0201】
2軸面内異方性方式と単軸垂直異方性方式との切り替えは、散逸減衰を利用した“断熱”磁化再配向により行う。例えば、ゲートバイアスをV0からVCに変化させた後、磁化ベクトルMは変更された異方性磁場BA(VC)の周辺で歳差を開始し、散逸減衰により、磁化ベクトルは変更された異方性磁場BA(VC)に向けてらせん状となる。磁化ベクトルMは、実質的に、変更された異方性に対応した一つの容易軸に(熱的揺らぎの範囲内で)沿って配向する。
【0202】
方式の切り替えはゲートバイアスのステップ変化139、140により行われ、以下、これらのパルスは各々“Pdampingパルス”及び“反転Pdampingパルス”と称する。
【0203】
第五及び第六の磁化方向135、136は、180°回転に作用を及ぼすゲートパルス141を用いてアクセスすることができる。しかし、パルス141はp180°パルス108に対して反転しており、以下“反転p180°パルス”と称する。
【0204】
図25a及び25bは、p90°パルス137及び反転p180°パルス141を印加する効果を示すものである。
【0205】
図25aは、VG=V0での2軸面内異方性方式による90°の歳差反転を示すものである。図示したように、ゲート電圧パルス137がVG=VCの間に、磁気異方性が面内から垂直に切り替わり、磁化ベクトルMが90°の回転を完了した後にV0に戻る。
【0206】
図25bは、垂直異方性方式で、反転パルスが180°反転を開始することを示すものである。
【0207】
AHE測定により面に垂直な方位に沿った2つの単軸磁化状態を区別することができ、横方向及び縦方向のAMR測定により、面内の4つの2軸磁化状態を明確に区別することができる。
【0208】
光学的に制御された磁気抵抗素子
以上で説明した例では、ゲートを利用するか、あるいは圧電効果を利用して磁気異方性を電気的に変化させていた。しかし、以下詳細に説明するように、磁気異方性は光学的に制御することができる。
【0209】
図26を参照にすると、強磁性素子201は基板203で支持されている光学的に制御された加圧器202に結合している。通常、レーザーの形態の光子源204を用い、光パルス205を用いて加圧器202内でフォノンパルス206を生成することができる。上述した方法と同様に、フォノンパルス206により強磁性素子201の磁化207を第一及び第二方向間で切り替えることができる。
【0210】
固定化された強磁性素子(図示せず)や、固定化された強磁性素子と強磁性素子201とを分離するトンネル障壁層などの追加の構造を設け、トンネル磁気抵抗(TMR)測定を利用して素子201の状態を測定することができる。
【0211】
例えば、直列接続した電圧源と電流計を含む測定回路208を用い、TMR測定又はトンネル異方性磁気抵抗(TAMR)測定を利用して磁気抵抗を測定することができる。
【0212】
図27を参照すると、強磁性素子201は、GaMnAsなどの半導体材料の(例えば、約1nm又はそれ未満の厚さを有する)薄膜層や、Fe、Ni又はCoなどの強磁性金属材料、あるいは、FePt、CoPt又はCoPdなどの合金又は多重層材などから形成することができる。強磁性素子201は数ナノメータのオーダーの側面寸法(すなわち、x及びy方向寸法)を有することができる。
【0213】
加圧器202は、GaAs基板203上に形成された下部GaAs層211、InGaAs層212及び上部GaAs層213を含む量子井戸ヘテロ構造を含んでいる。InGaAs層212内のInの濃度(及び/又は、Alが使われている場合はAlの濃度)は、吸収される光の波長もしくはフォノンを生成するために必要な再結合に応じて選ぶことができる。加圧器202は数ナノメータ又は数10ナノメータのオーダーの側面寸法を有することができる。GaAsに代えてAlGaAsを用いることもでき、InGaAsに代えてInGaAlAsを用いることもできる。
【0214】
図28は、上記の代案となる光学的に制御された素子を示すものである。
【0215】
強磁性素子212は、基板223の一つの表面222、例えば前面側に支持され、加圧器224は基板223の他の表面225、例えば裏面側に結合されている。光子源226、例えばレーザーを用い、高強度光227のパルスにより加圧器224を加熱し膨張させ、それにより加圧パルス、すなわちフォノンパルスを発生させ、発生したフォノンパルスは基板を介して強磁性素子221に送られる。フォノンパルスにより、前述した方法と同様に、強磁性素子221の磁化228が、第一及び第二方向の間で切り替えられる。
【0216】
固定化された強磁性素子(図示せず)や、固定化された強磁性素子と強磁性素子221とを分離するトンネル障壁層などの追加の構造を設け、トンネル磁気抵抗(TMR)測定を利用して素子221の状態を測定することができる。
【0217】
測定回路229を用い、TMR測定又はTAMR測定を利用して磁気抵抗を測定することができる。
【0218】
図29を参照すると、強磁性素子221は前述した素子201(図26)と同じものとすることができる。加圧器224はアルミニウム又は他の金属材料のパッドを含んでいる。基板223は、例えばガラス、シリコン又はGaAsを含んでいる。基板223は、強磁性素子221と加圧器224とを支持する領域で、例えば数ミクロンの厚さの膜にまで薄く形成することができる。
【0219】
インターフェース異方性制御による磁気抵抗素子
前述したように、強磁性素子内の磁気異方性はゲートを用いて制御することができる。強磁性素子を半導体材料で形成すると、キャリア濃度を制御することにより磁気異方性を変化させることができる。しかし、強磁性素子を金属材料で形成した場合でも、以下で詳細に説明するように、ゲートを用いて磁気異方性を電気的に変化させることができる。
【0220】
(全体の)磁気異方性は、フェルミエネルギーに依存し得る結晶異方性、表面及び界面異方性、形状異方性及び格子変形磁気異方性を含む複数の寄与により支配されている。
【0221】
強磁性材料の極薄層などのいくつかの配置においては、表面及び界面異方性による寄与は大きくなり得、他の寄与を上回る結果、全体の磁気異方性を支配する可能性がある。例えば、コバルト及びプラチナの多層構造の磁気異方性は、コバルト層の厚さが1nm未満となった場合平面に垂直な方向になる。そして、その磁気異方性は形状異方性よりも大きくなる。
【0222】
図30は磁気抵抗素子301を示すものである。
【0223】
素子301は二酸化ケイ素の絶縁基板302上に形成され、導電性シート303と表層強磁性多層構造304とを含んでいる。誘電体層305は強磁性多層構造304の上端306の第一部分の上に置かれている。誘電体層305は(二酸化ケイ素に比べて)大きな誘電率を有する酸化ジルコニウム(k≒12.5)や酸化タンタル(k≒11.6)などの材料を含んでいる。
【0224】
第一の電極(“ソース”)307は導電性シート303と接合し、第二の電極(“ドレイン”)308は強磁性多層構造304の上端306の第二部分に接合し、第三の電極(“ゲート”)309は誘電体層305の上端310上に配置されている。
【0225】
TMR測定を可能とするために、第二の電極308は数ナノメータの厚さを有するコバルトなどの強磁性材料を含むことができる。
【0226】
図30において、ドレイン308及びゲート309は横に並んだ構成となっている。しかし、環状や互いに入り込んだ構成を用いることもできる。
【0227】
測定回路331は、バイアスVS、VGを各々ソース電極307及びゲート電極309に印加するための第一及び第二の電圧源312,313を含んでいる。ドレイン308と接地との間に設けた電流計314により、ソース・ドレイン電流IDSを測定することができる。
【0228】
図31を参照すると、導電性シート303は約3nmの厚みを有するタンタル(Ta)の層315と、約3nmの厚みを有するプラチナ(Pt)の表層316とを含んでいる。タンタル層は、プラチナの表層316と強磁性層構造304のための滑らかな面を形成することを補助することができる。
【0229】
強磁性層構造304は、0.4nmの厚さを有するコバルト(Co)の極薄層317と、約1nmの厚さを有する酸化アルミニウム(AlOx)の表層318とを含んでいる。
【0230】
強磁性層構造304は、コバルト層と次に約1nm厚のアルミニウム層を直流スパッタリングにより形成し、アルミニウム層がドライ酸素中で酸化されるようにする。この構造を約114℃で約20分間アニーリングし、コバルト層内の層の異方性を、面内異方性と垂直(すなわち、x−y平面に垂直)異方性との間で磁気異方性が遷移する状態に近づけ、磁化を行う。
【0231】
また、約3nmの厚みを有するプラチナ表層(図示せず)を酸化アルミニウム層の上に堆積させることもでき、これをパターンニングしてドレイン接合308を形成することができる。
【0232】
例えば、ゲート電極309及び/又はソース電極307により印加される電場を用いて、磁気異方性の反転を引き起こすことができる。
【0233】
図32は、素子301に状態間の遷移を引き起こすための、素子301での書き込み及び読み出しサイクルの組を示したものである。
【0234】
データを書き込むために、ゲート電極309に正の電圧パルス321を印加する。同時にソース電極307を接地し、ドレイン電極308を浮かした状態にする。
【0235】
パルス321は、106又は107V/cmのオーダーの電場を生成するのに十分な大きさを有している。パルス312は歳差周期tprecessの半分となる持続時間t180を有しており、この値は前述した式6を用いて計算できる。
【0236】
データを読み出すためにゲート電極309を接地するか、あるいは、(接地してもよい)ドレイン電極308に対して浮かした状態としながら、ソース電極307に正の電圧パルスVmを印加する。
【0237】
ソース・ドレイン電流ISD323を測定し、素子の状態、すなわち磁化方向、例えば面内又は平面に垂直な方向を示していることを識別する。
【0238】
例えば、キュリー温度が動作温度、例えば室温よりも高く、異方性濃度エネルギーと素子の容量の積(k×V)が50kBTよりも大きい場合、素子301はより高い温度、例えば室温以上又は室温で動作することができる。ここで、kBはボルツマン定数であり、TはKの単位での動作温度である。境界面合金層、又は一つあるいはそれ以上の数の単層厚の分極性薄膜層としてプラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)又はイリジウム(Ir)などの遷移金属を用い、界面及び表面の異方性を増加させ、動作温度を上昇させることができる。
【0239】
図33は、本発明の一実施例による磁気抵抗素子、例えば素子211(図8a)又は素子301(図30)が、メモリアレイ401内のメモリ素子の基本として用いることができることを示したものである。以下では、図30に示した素子301に基づいたメモリアレイ401について説明する。
【0240】
メモリアレイ401は、各々が磁気抵抗素子403を含むセル402のアレイを含んでいる。行及び列デコーダ407、408で駆動する第一、第二、第三線404、405、406を介してセル402の中から選択し、セル403にデータを書き込み、あるいはセル403からデータを読み出すことができる。
【0241】
素子403は、ソース、ドレイン及びゲート電極409、410、411を有している。
【0242】
図34は、メモリセル402の書き込み及び読み出しサイクルの組を示したものである。
【0243】
データを書き込むために、第一線404に負の電圧パルス412を印加し、同時に第三線406に正の電圧パルス413を印加してセル402を選択し、選択したセル402にデータを書き込む。第二線405は浮かした状態とする。
【0244】
各パルス412、413の大きさは、パルス412、413がそれ自身の磁気異方性に反転を引き起こすことがないような大きさにする。しかし、反転を引き起こすことが可能な大きさの電場を生成するパルスも共存してよい。従って、各パルスの大きさは約0.5VAとする。各パルス412、413は持続時間t180を有し、これは歳差周期tprecessの半分である。
【0245】
データを読み出すために第一線404に正の電圧パルス414を印加し、同時に第三線406(すなわち、ゲート)を浮かした状態とし、第二線405(すなわち、ドレイン)を接地する。第一及び第二線404、405を介して電流が測定でき、従って、セルの状態を測定することができる。
【0246】
図35及び図36は、代替となるメモリセル402’を示したものである。セル402’は図30に示した素子301に基づいた、前述したセル402と同様のものである。しかし、セル402’は電界効果トランジスタ420を含み、そのため、異なる方法でアドレス指定を行うことができる。
【0247】
図35に示すように、セル402’は絶縁層302’上に形成されている。基板402’は、ゲート電極422により表層導電性チャンネル423から分離されているゲート電極421を支持している。ゲート電極421は、多量に不純物添加されたn型シリコン(n+−Si)を含み、ゲート誘電体422は二酸化ケイ素を含み、導電性チャンネル423は、例えば不純物添加のない、あるいは不純物添加の少ないp型シリコン(p−−Si)を含んでいる。多量に不純物添加されたn型井戸は、電界効果トランジスタ420のソース及びドレイン電極424、425を提供している。ドレイン電極425(又はチャンネルの端部)は抵抗426を介して接地に接続している。これは、基板に設けられた接地平面、あるいは追加の線又はストリップを用いることにより実装することができる。前述したものと同じ方法で、ドレイン電極425の上に導電性基層303’及び強磁性層構造304’を形成する。有機半導体材料などの他の半導体材料を用いることもできる。
【0248】
図37は、メモリセル402’での書き込み及び読み出しサイクルの組を示したものである。
【0249】
データを書き込むために第三線406に第一の負の電圧パルス427を印加し、同時に第一線404に第二の正の電圧パルス428を印加してセル402’を選択し、選択したセル402’にデータを書き込む。第二線405、及びその結果、磁気抵抗素子308のドレインは、浮かした状態とする。
【0250】
第一電圧パルス427の大きさは約αVA(α>1、なおドレインの電位はVAである)とし、その持続時間は、t180を有し、これは歳差周期tprecessの半分である。
【0251】
データを読み出すために、第二線405(すなわち、磁気抵抗素子のドレイン)に正の電圧パルス429を印加する。第一線404、及びその結果FE420のソース424は電位を低く維持し、例えば接地する。さらにFET420を作動させ、FET420及び磁気抵抗素子403’を介した導通を可能とする。
【0252】
ゲートに依存した交換結合
前述したように、磁気異方性を変化させることにより磁化の再配向を引き起こし、例えば、ゲートを用いて再配向を電気的に制御することができる。しかし、交換結合により磁化の再配向を引き起こし、例えば、ゲートを用いて再配向を電気的に制御することもできる。これについて以下詳細に説明する。
【0253】
交換結合とは、伝導電子のスピンが仲介役となって生じる、局所的な原子の磁気モーメント間の相互作用のことである。この効果は、強磁性又は反強磁性配置で隣接する強磁性(FM)層を結合するためにTMR及びGMR素子で用いられる。例えば交換結合を用いて、積層フェリ構造(SAF)においてのように、自由層に対して強磁性層を固定化することができる。
【0254】
隣接する強磁性層間でのバイアス界面交換結合(IEC)は、通常、単に“交換バイアス”と称され、追加された磁場のように作用するものと考えられる。
【0255】
図38及び図39を参照すると、“自由”強磁性磁石の磁化ループと合成反強磁性磁石を形成するために他の強磁性体に交換結合した際の“自由”強磁性磁石の磁化ループが各々示されている。図38及び図39に示すように、交換結合は、“自由”層の磁化ループを磁場軸Hextに沿って移動させる効果をもたらす。
【0256】
図40は、印加されたバイアスに応じて磁化を反転させるために交換結合を用いる素子のバンド図を示したものである。
【0257】
素子は、第一の強磁性電極501、第一のトンネル障壁層502、量子井戸層503、第二のトンネル障壁層504及び第二の強磁性電極505を含んでいる。トンネル障壁層502、504、及び量子井戸層503は、一つあるいはそれ以上の数の共鳴状態506を含む量子井戸を有する二重障壁構造を定義している。第一の強磁性電極501は、固定された磁化方向507に対応したx方向に沿って容易軸を有している。第二の強磁性電極505は、固定された磁化方向508に対応したy方向に沿って容易軸を有している。強磁性電極501、505の状態密度509、510を概略的に図示してある。ゼロバイアスでは、二重障壁は共鳴は起こさず、交換の相互作用は抑止される。
【0258】
第一の強磁性電極501は、例えば積層フェリ構造(図示せず)を用いて、例えば固定化された磁化方向での面内磁気異方性を有することができる。第二の強磁性電極505は、例えば層厚さ及び/又は表面/界面異方性を選択することにより、例えば面に垂直な磁気異方性を有することができる。
【0259】
図41を参照すると、第一及び第二強磁性電極501、505間にバイアス電圧を印加することにより、強磁性電極501、505のフェルミエネルギーに対し共鳴状態のエネルギーが移動するため状態506が共鳴に移行し、さらにエネルギーεFFM1を有する電子間の遷移確率が極めて高くなるため、層間の相互作用が大きくなる。
【0260】
このようにして、z方位に沿った交換トルクは第二強磁性電極505の磁化508に作用する。この交換トルクを用いて、磁化508の歳差を引き起こし、あるいは第一の磁化507に沿い第二の磁化508に垂直に配向した外部磁場に加えて、歳差を補助することができる。
【0261】
バイアスで制御する交換トルクを用いた配置は、例えば数ボルトという低い印加電圧を用いて磁化を反転できるという利点を有している。
【0262】
図42は、バイアスで制御する交換トルクを用いて磁化を反転する素子を示すものである。
【0263】
素子は、第一の強磁性層601と、第一のトンネル障壁層602と、量子井戸層603と、第二のトンネル障壁層604と、第二の強磁性層605と、第三の障壁606と第三の強磁性層607とを含む積層構造を含んでいる。
【0264】
第一及び第三の強磁性層601、607は、各々面内及び面に垂直な異方性により固定化されている。第二の強磁性層605は自由であり、平面に垂直な磁化容易軸を有している。この層605は、量子井戸のエネルギーがBbias=Vresで第一の強磁性層601のフェルミエネルギーに等しい時に、第一強磁性層601に対して交換結合する。
【0265】
積層構造は絶縁基板608上に配置され、強磁性層601、605、607の各々への接合609、610、611を形成するために階段状になっている。
【0266】
強磁性層601、605、607はコバルトを含むものであってよい。第二の強磁性層605は、例えば1nm未満の薄さとし、前述したように、プラチナ表層を有するものであってよい。
【0267】
トンネル障壁層及び量子井戸層は、各々AlGaAs及びGaAs、あるいは他の同様の系から形成することができる。
【0268】
素子を制御し測定する測定回路612は、第一及び第二の強磁性層601、605の間にバイアス電圧を印加する第一の電圧源613と、第二及び第三の強磁性層605、607の間に測定電圧を印加する第二の電圧源614とを含んでいる。電流計615を用いて電流を測定する。
【0269】
強磁性層601、605、607の磁化616、617、618を示す。
【0270】
第二及び第三強磁性層605、607間の抵抗をTMR測定することにより、第二強磁性層605の磁化617の2つの可能な平衡方向を検出することができる。
【0271】
第一の強磁性層601の磁化方向に平行な一定の磁場Bextを印加することにより、短いVbias−パルスを印加している間に第二強磁性層の磁化617の歳差を補助することができる。しかし、Bextを印加しただけでは、歳差の減衰特性のため歳差は起こらない。
【0272】
図44は素子の動作をより詳細に示すものである。
【0273】
磁化617について、前述した式6に示したように、Lamor歳差時間の半分の持続時間の間、大きさVresのバイアスVbiasを印加することにより、(不揮発)状態“M2”と“−M2”との間を交互に切り替えることができる。
【0274】
読み出しには、第二及び第三の強磁性層605、607間のTMR測定を含んでいる。
【0275】
図45及び図46を参照すると、バイアスで制御する交換トルクを用いて磁化を反転させる他の素子を示している。この素子は層数が少なく、特に第三の強磁性層を省くことができるため、図42及び図43に示した素子よりも簡単に製造することができる。この素子では、異常ホール効果(AHE)を用いた測定を行う。
【0276】
素子は、第一の強磁性層701と、第一のトンネル障壁層702と、量子井戸層703と、第二のトンネル障壁704と、第二の強磁性層705とを含む積層構造を含んでいる。
【0277】
第一の強磁性層701は面内異方性で固定化されている。第二の強磁性層705は自由であり、平面に垂直な磁化容易軸を有している。この層705は、量子井戸のエネルギーがBbias=Vresで第一の強磁性層701のフェルミエネルギーに等しい時に、第一強磁性層701に対して交換結合する。
【0278】
積層構造は、絶縁基板708上に配置され、強磁性層701、705の各々への接合709、7101、7102、7103、7104を形成するために階段状になっている。
【0279】
素子をパターンニングし、第二の強磁性層705への端部接合7101、7102と横方向接合7103、7104が設けられたホールバーを形成する。
【0280】
素子を制御し測定する測定回路712は、第一及び第二の強磁性層701、705の間にバイアス電圧を印加する第一の電圧源713と、端部接合7101、7102の間に測定電圧を印加する第二の電圧源714とを含んでいる。電圧計715を用いて側面接合7103、7104間のホール電圧を測定する。
【0281】
ホール信号は、図示するように2つの対向する接合間で測定してもよいし、あるいは共通接地に対する一方の接合を用いて測定することもできる。
【0282】
磁化717が+M2zから−M2zに変化した場合、ホール電圧信号の極性が変化する。
【0283】
上述した実施例に対しては、様々な変更を施すことができることがわかる。例えば、強磁性層は、例えば5nmから20nmの間で異なる厚さを有するものであってよい。素子は、電子又はホールの移動に基づいて動作するものであってよい。キャップ層を用いてGaMnAs層を保護してもよい。磁気抵抗素子は、磁気トンネル接合やスピンバルブなどの多層構造を有することもできる。メモリ素子は、例えば、強磁性材料又は圧電加圧器に電場パルスを印加することにより、電気的に制御される磁気抵抗素子アレイを含むか、もしくは光学的に制御される磁気抵抗素子アレイを含むものであってよい。
【符号の説明】
【0284】
211 磁気抵抗素子
22 強磁性領域
23 ゲート
24 ソース
25 ドレイン
26 トンネル障壁
27 トンネル障壁
28 パルス発生器
29 電圧パルス
30 電圧源
31 電流検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メモリセルのアレイであって、各メモリセルは、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を含み、
前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、前記強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、メモリセル内の前記磁気抵抗素子の前記強磁性領域に電場パルスを印加する回路を含む、メモリ素子。
【請求項2】
メモリセルのアレイであって、各メモリセルは、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子と、
電気的入力に応じて前記強磁性領域に応力を加える手段とを含み、
前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、対応する強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、メモリセル内の前記応力印加手段に入力パルスを印加する手段を含む、メモリ素子。
【請求項3】
請求項2記載の素子において、前記入力パルス印加手段は電気入力パルスを印加する回路を含み、前記強磁性領域は圧電性を有し、前記応力印加手段は前記強磁性領域に電場を印加するように構成された少なくとも一つの電極を含む、メモリ素子。
【請求項4】
請求項2記載の素子において、前記入力パルス印加手段は電気入力パルスを印加する回路を含み、前記応力印加手段は前記強磁性領域に結合した圧電領域と、該圧電領域に電場を印加するように構成された少なくとも一つのゲート電極とを含む、メモリ素子。
【請求項5】
請求項2記載の素子において、前記入力パルス印加手段は光入力パルスを印加する手段を含み、前記応力印加手段は光パルスを吸収しフォノンパルスを生成する手段を含む、メモリ素子。
【請求項6】
磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域と、
該強磁性領域に結合された応力印加手段を含み、
該応力印加手段は光を吸収するように構成されさらに前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために前記強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、光パルスの受信に応答して応力パルスを生成するように構成されている、磁気抵抗素子。
【請求項7】
請求項6記載の素子において、前記応力印加手段は量子井戸を含む、磁気抵抗素子。
【請求項8】
磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法であって、
前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために前記強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、光パルスを印加するステップを含む、磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法において、前記磁気抵抗素子は前記強磁性領域に結合された光子吸収領域を含む、磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項10】
第一及び第二の電極と強磁性領域とトンネル障壁とを含み、前記強磁性領域とトンネル障壁とを介して前記第一及び第二の電極間の電荷移動が生じるように、前記第一及び第二の電極と前記強磁性領域と前記トンネル障壁とが配置された磁気抵抗素子であって、
さらに第三の電極と該第三の電極と前記トンネル障壁との間に置かれた誘電体領域とを含み、前記第三の電極と前記誘電体領域は前記強磁性領域に電場を印加するように配置され、前記強磁性領域への電場パルスの印加により、前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために前記強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させる、磁気抵抗素子。
【請求項11】
請求項10記載の素子において、前記トンネル障壁は第一及び第二の面を有する層として配置され、前記第二の電極と前記ゲート誘電体はこれらの面の一つの面上に隣接して配置されている、磁気抵抗素子。
【請求項12】
請求項10又は11記載の素子において、前記強磁性領域は平面状の層として配置され、前記強磁性領域の異方性磁場が平面内と垂直の間で反転可能となるように構成されている、磁気抵抗素子。
【請求項13】
固定化された磁化方向に対応する第一方向に磁気異方性を示す第一の強磁性領域と、
第二の異なる方向に磁気異方性を示す第二の強磁性領域と、
前記第一及び第二の強磁性領域の間に配置され、少なくとも一つの量子化エネルギー状態を示すように構成された量子井戸構造を含む磁気抵抗素子であって、
前記第一及び第二の強磁性領域間の交換結合が前記少なくとも一つの量子化エネルギー状態により制御可能である、磁気抵抗素子。
【請求項14】
請求項13記載の素子は、さらに、
第三の強磁性領域と、
前記第二及び第三の強磁性領域を分離するトンネル障壁を含む、磁気抵抗素子。
【請求項15】
請求項14記載の素子は、さらに、
前記第一及び第二の強磁性領域の間に電圧バイアスを印加する手段を含む、磁気抵抗素子。
【請求項1】
メモリセルのアレイであって、各メモリセルは、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を含み、
前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、前記強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、メモリセル内の前記磁気抵抗素子の前記強磁性領域に電場パルスを印加する回路を含む、メモリ素子。
【請求項2】
メモリセルのアレイであって、各メモリセルは、磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子と、
電気的入力に応じて前記強磁性領域に応力を加える手段とを含み、
前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために、対応する強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、メモリセル内の前記応力印加手段に入力パルスを印加する手段を含む、メモリ素子。
【請求項3】
請求項2記載の素子において、前記入力パルス印加手段は電気入力パルスを印加する回路を含み、前記強磁性領域は圧電性を有し、前記応力印加手段は前記強磁性領域に電場を印加するように構成された少なくとも一つの電極を含む、メモリ素子。
【請求項4】
請求項2記載の素子において、前記入力パルス印加手段は電気入力パルスを印加する回路を含み、前記応力印加手段は前記強磁性領域に結合した圧電領域と、該圧電領域に電場を印加するように構成された少なくとも一つのゲート電極とを含む、メモリ素子。
【請求項5】
請求項2記載の素子において、前記入力パルス印加手段は光入力パルスを印加する手段を含み、前記応力印加手段は光パルスを吸収しフォノンパルスを生成する手段を含む、メモリ素子。
【請求項6】
磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域と、
該強磁性領域に結合された応力印加手段を含み、
該応力印加手段は光を吸収するように構成されさらに前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために前記強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、光パルスの受信に応答して応力パルスを生成するように構成されている、磁気抵抗素子。
【請求項7】
請求項6記載の素子において、前記応力印加手段は量子井戸を含む、磁気抵抗素子。
【請求項8】
磁気異方性を示し、その磁化が少なくとも第一及び第二の方向の間で反転できるように構成された強磁性領域を含む磁気抵抗素子を動作させる方法であって、
前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために前記強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させるように、光パルスを印加するステップを含む、磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法において、前記磁気抵抗素子は前記強磁性領域に結合された光子吸収領域を含む、磁気抵抗素子を動作させる方法。
【請求項10】
第一及び第二の電極と強磁性領域とトンネル障壁とを含み、前記強磁性領域とトンネル障壁とを介して前記第一及び第二の電極間の電荷移動が生じるように、前記第一及び第二の電極と前記強磁性領域と前記トンネル障壁とが配置された磁気抵抗素子であって、
さらに第三の電極と該第三の電極と前記トンネル障壁との間に置かれた誘電体領域とを含み、前記第三の電極と前記誘電体領域は前記強磁性領域に電場を印加するように配置され、前記強磁性領域への電場パルスの印加により、前記第一及び第二の方向の間で磁化を反転させるために前記強磁性領域の磁気異方性の方向を変化させる、磁気抵抗素子。
【請求項11】
請求項10記載の素子において、前記トンネル障壁は第一及び第二の面を有する層として配置され、前記第二の電極と前記ゲート誘電体はこれらの面の一つの面上に隣接して配置されている、磁気抵抗素子。
【請求項12】
請求項10又は11記載の素子において、前記強磁性領域は平面状の層として配置され、前記強磁性領域の異方性磁場が平面内と垂直の間で反転可能となるように構成されている、磁気抵抗素子。
【請求項13】
固定化された磁化方向に対応する第一方向に磁気異方性を示す第一の強磁性領域と、
第二の異なる方向に磁気異方性を示す第二の強磁性領域と、
前記第一及び第二の強磁性領域の間に配置され、少なくとも一つの量子化エネルギー状態を示すように構成された量子井戸構造を含む磁気抵抗素子であって、
前記第一及び第二の強磁性領域間の交換結合が前記少なくとも一つの量子化エネルギー状態により制御可能である、磁気抵抗素子。
【請求項14】
請求項13記載の素子は、さらに、
第三の強磁性領域と、
前記第二及び第三の強磁性領域を分離するトンネル障壁を含む、磁気抵抗素子。
【請求項15】
請求項14記載の素子は、さらに、
前記第一及び第二の強磁性領域の間に電圧バイアスを印加する手段を含む、磁気抵抗素子。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図2】
【図10】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図2】
【図10】
【公開番号】特開2010−166054(P2010−166054A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−4787(P2010−4787)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(506333358)ユニヴェルシテ・パリ・シュド・オーンズ (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS SUD XI
【出願人】(304044818)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック (9)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4787(P2010−4787)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(506333358)ユニヴェルシテ・パリ・シュド・オーンズ (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS SUD XI
【出願人】(304044818)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック (9)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]