説明

磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体

【課題】 真空成膜装置に含まれる基体を保持するキャリアを工夫することで、磁気記録媒体の成膜工程において基体の温度をそれぞれの成膜工程に適した温度に近づけることが可能となるため、磁気記録媒体の品質の向上を図ることができる。
【解決手段】 本発明による磁気記録媒体としての垂直磁気記録媒体100の製造方法は、真空成膜装置としてのDCマグネトロンスパッタリング装置200を用いて、ディスク基体110上に少なくとも磁気記録層122を成膜する成膜工程を含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、成膜工程では、キャリア208に取り付けられたグリッパ216をディスク基体に接触させてディスク基体を保持し、グリッパは複数の金属からなる積層構造であって、グリッパの表層216aを構成する金属はグリッパの下層216bを構成する金属より熱伝導率が高いことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気記録媒体にして、1枚あたり160GBを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり250GBitを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(垂直磁気記録ディスク)が提案されている。従来の面内磁気記録方式は磁気記録層の磁化容易軸が基板面の平面方向に配向されていたが、垂直磁気記録方式は磁化容易軸が基体面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて磁性粒が微細化するほど反磁界(Hd)が大きくなって保磁力Hcが向上し、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0004】
上記垂直磁気記録方式においては、単磁極型垂直ヘッドが用いられ磁気記録層に対して垂直方向の磁界を生じさせている。しかし、単に単磁極型垂直ヘッドを用いるのみでは、単磁極端部を出た磁束が直ぐに反対側のリターン磁極に戻ろうとするため十分な強度の磁界を磁気記録層に印加することができない。そこで、垂直磁気記録ディスクの磁気記録層の下に軟磁性層を設け、軟磁性層に磁路を形成することで磁気記録層に垂直方向の強い磁界を印加している。すなわち軟磁性層は、書き込むときの磁場によって磁化方向が整列し、動的に磁路を形成する層である。
【0005】
軟磁性層は書き込む時に利用される層であり、書き込むときの磁場に沿って磁化方向が整列する。しかし読み出す際には軟磁性層に磁化方向を整列させる磁場はかからないので、原則として磁化方向は不規則な方向に散乱している。この不規則な方向は3次元方向であり、軟磁性層の磁化方向に垂直成分が含まれていると、磁気ヘッドで読み出す際に磁気記録層の信号と共にノイズとして拾ってしまうおそれがある。
【0006】
そこで軟磁性層については、2層に分割し、間に非磁性のスペーサ層を介在させたAFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)構造が提案され(例えば特許文献1)、実施されている。AFC構造においては、下層と上層で磁化方向が逆転し、相互に引き合うことで結合して固定される(RKKY的交換結合)。したがって磁場がかかっていないときの各軟磁性層の磁化方向は互いに反平行(平行かつ互いに逆向き)となり、すなわち基板主表面と平行になる。これにより、磁化の垂直成分が極めて少なくなることで軟磁性層からから生じるノイズを低減することができる。
【0007】
また、上述した情報記録密度の増加に伴い、円周方向の線記録密度(BPI:Bit Per Inch)、半径方向のトラック記録密度(TPI:Track Per Inch)のいずれも増加の一途を辿っている。さらに、磁気ディスクの磁性層と、磁気ヘッドの記録再生素子との間隙(磁気的スペーシング)を狭くしてシグナルノイズ比(Signal-Noise Ratio:SNR)を向上させる技術も検討されている。近年望まれる磁気ヘッドの浮上量は6nm以下である。
【0008】
上記のように磁気ヘッドが低浮上量化してきたことに伴い、外部衝撃や飛行の乱れによって磁気ヘッドがディスク表面に接触する可能性が高まっている。このため垂直磁気記録媒体では、磁気ヘッドが垂直磁気記録媒体に衝突した際、磁気記録層の表面が傷つかないように保護する媒体保護層が設けられる。媒体保護層は、カーボンオーバーコート(COC)、即ち、カーボン皮膜によって高硬度な皮膜を形成する。媒体保護層には、カーボンの硬いダイヤモンドライク結合と、柔らかいグラファイト結合とが混在しているものもある(例えば、特許文献2)。また、ダイヤモンドライク結合保護膜を、CVD (Chemical Vapour Deposition)法によって製造する技術も開示されている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開2003−45015号公報
【特許文献2】特開平10−11734号公報
【特許文献3】特開2006−114182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1に記載されたAFC構造を有する軟磁性層を成膜する際にはDCマグネトロンスパッタリング装置(以下、スパッタ装置と称する。)が用いられ、非磁性のスペーサ層の膜厚は、上層と下層の膜厚よりも薄く成膜される。したがって、上層および下層を成膜する場合、スペーサ層を成膜する場合と比較してスパッタ装置に入力する電力を高くして成膜を行う。
【0010】
スパッタ装置に入力する電力が高くなると基板の温度が高くなり、近接する層に影響を与えることとなる。特に軟磁性層の間に形成されるスペーサ層等の薄膜においては、次に成膜される上層の膜厚を厚く成膜する場合に発生する熱が、上層の直下に成膜された層(スペーサ層)に拡散し影響を受けやすいという問題があった。
【0011】
一方、スパッタ装置を用いて磁気記録層を成膜する際には、成膜材料の基板表面への拡散を促進するため基板表面の温度を成膜材料(ターゲット)の融点まで上昇させる必要がある。
【0012】
さらに、媒体保護層を成膜する際には、高硬度の膜を得るために反応ガスの反応性を高める必要があるため、あらかじめ基板の温度を上昇させたいという要望がある。
【0013】
本発明は、磁気記録媒体の成膜工程が有する問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、スパッタ装置やCVD装置といった真空成膜装置に含まれる基体を保持するキャリアを工夫することで、磁気記録媒体の成膜工程において基体の温度をそれぞれの成膜工程に適した温度に近づけることが可能な磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の発明者らが鋭意検討したところ、真空成膜装置に含まれ基体を保持するキャリアの熱容量(熱伝導率)に着目し、さらに研究を重ねることにより、本発明を完成するに到った。
【0015】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明の磁気記録媒体の製造方法の代表的な構成は、真空成膜装置を用いて、基体上に少なくとも磁気記録層を成膜する成膜工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、成膜工程では、真空成膜装置が有する基体を保持するためのキャリアに取り付けられたグリッパを基体に接触させて当該基体を保持し、グリッパは複数の金属からなる積層構造であって、当該グリッパの表層を構成する金属は当該グリッパの下層を構成する金属より熱伝導率が高いことを特徴とする。
【0016】
上記構成により、グリッパを構成する下層はばね性(弾性)を有し、基体に接触する表層は熱伝導率を高くすることが可能となる。したがって、基体を保持するために必要なばね性を確保しつつ熱伝導率を向上させたグリッパを提供することができる。これにより、スパッタ装置に入力する電力の上昇に伴い基体に発生する熱をグリッパを介してキャリアへ放出させることができ、基体に与える熱の影響(熱応力)を最小限に抑えることが可能となる。
【0017】
上記グリッパの表層を構成する金属は、アルミニウム、銅、銀、金から選択される元素の単体、もしくは当該元素を含む合金で構成されてもよい。
【0018】
特にアルミニウムは熱伝導率が高く安価であるため基体に発生した熱を効率よくキャリアに伝達することができる。
【0019】
上記グリッパの下層を構成する金属は、主成分をニッケルとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデンから選択される元素を含む合金で構成されるとよい。
【0020】
主成分をニッケルとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデンから選択される元素を含む合金は、融点高く、高温になってもばね性(弾性)を維持することができるため高温になったとしても基体を確実に安定して保持することが可能となる。
【0021】
上記真空成膜装置は、スパッタリング装置、CVD装置、エッチング装置、イオン注入装置、の群のいずれかであってもよい。
【0022】
スパッタリング装置、CVD装置、エッチング装置及びイオン注入装置を用いて基体を成膜する際には、成膜工程ごとに基体の最適温度が異なるため、本発明を好適に用いることができる。
【0023】
また本発明に係る磁気記録媒体の代表的な構成は、上記磁気記録媒体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
【0024】
磁気記録媒体は複数の層を成膜によって積層するため、それぞれの成膜工程ごとに基体の最適温度も異なる。したがって本発明を好適に用いることができる。
【0025】
上述した磁気記録媒体の製造方法の技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該磁気記録媒体にも適用可能である。
【発明の効果】
【0026】
以上、説明したように、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、真空成膜装置に含まれる基体を保持するキャリアを工夫することで、磁気記録媒体の成膜工程において基体の温度をそれぞれの成膜工程に適した温度に近づけることが可能となるため、磁気記録媒体の品質の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0028】
(実施形態)
本発明にかかる磁気ディスクとしての垂直磁気記録媒体の製造方法の実施形態について説明する。図1は本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、基体としてのディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラー層120、第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122b、連続層124、媒体保護層126、潤滑層128で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bとはあわせて磁気記録層122を構成する。
【0029】
(基体製造工程)
ディスク基体110は、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
【0030】
(成膜工程)
得られたディスク基体110上に、真空成膜装置としてのスパッタリング装置であるDCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、Ar雰囲気中で付着層112から連続層124まで順次成膜を行い、媒体保護層126は真空成膜装置としてのCVD装置により成膜することができる。この後、潤滑層128をディップコート法により形成することができる。
【0031】
なお、本実施形態において、生産性が高いという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。以下、DCマグネトロンスパッタリング装置の構成と、各層の構成および製造方法について説明する。
【0032】
図2は、本実施形態にかかるDCマグネトロンスパッタリング装置を説明するための説明図である。図2に示すようにDCマグネトロンスパッタリング装置200は、真空室を形成するチャンバ202と、チャンバ202に設けられ外部からガスとしてのArを導入するガス導入口204と、チャンバ202から真空排気を行うための排気口206と、ディスク基体110を保持するキャリア208と、ディスク基体110を成膜する成膜材料であるターゲット210と、ターゲット210から放出される成膜材料をディスク基体110にフォーカスしディスク基体110以外への飛散を防止するシールド212と、成膜速度を上げ、低温成膜を行うためのマグネット214と、を含んで構成される。
【0033】
DCマグネトロンスパッタリング装置200を用いた付着層112から連続層124までの成膜では、まず、ガス導入口204からガスが導入され、流路218を通ってシールド212に設けられた複数のガス噴出口214からガスが噴出し、チャンバ202内を所定の圧力に保つ。次に、チャンバ202内で、ターゲット210とシールド212の間にプラズマを発生させる。そして、プラズマにより発生したArイオンを電界で加速し、成膜材料からなるターゲット210に照射する。Arイオンはターゲット210表面の原子または分子を表面から弾きだす。弾き出された成膜材料の原子および/または分子は、ディスク基体110に堆積し、薄膜(層)を形成する。各層におけるターゲット210は、以下に詳述する。
【0034】
図3は、本実施形態にかかるキャリアおよびグリッパを説明するための説明図であり、特に図3(a)はキャリアの斜視図を、図3(b)はグリッパの拡大図を示す。図3(a)に示すようにキャリア208は、当該キャリア208に取り付けられディスク基体110に接触するグリッパ216を有している。本実施形態では、2つのグリッパ216で1のディスク基体110を支持している。
【0035】
本実施形態においてキャリア208は熱容量の大きい材質で構成される。これにより、新たに真空成膜装置内に室温(低温)のディスク基体110が導入されたとしても、キャリア208の熱容量が大きいためチャンバ202内が室温程度まで冷却されることがなく、成膜の温度と室温の差が小さくなり、成膜された層とディスク基体110の熱膨張率の違いから生じる熱応力を最小限に抑えることが可能となる。
【0036】
図3(b)に示すように、本実施形態において、グリッパ216は2種類の金属からなる3層積層構造であり、グリッパ216の表層216aを構成する金属はグリッパ216の下層216bを構成する金属より熱伝導率および熱膨張係数が高い。
【0037】
本実施形態において、グリッパ216の表層216a(ディスク基体110と接触する層)を構成する金属は、アルミニウムであり、グリッパ216の下層216bを構成する金属は、主成分をニッケルとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデンを含む合金(例えばインコネル(登録商標))である。
【0038】
これにより、グリッパ216を構成する下層216bはばね性(弾性)を有し、ディスク基体110に接触する表層216aは熱伝導率を高くすることが可能となる。したがって、ディスク基体110を保持するために必要なばね性を確保しつつ熱伝導率を向上させたグリッパ216を提供することができる。
【0039】
すなわち、スペーサ層114b等の薄膜を成膜する際には、DCマグネトロンスパッタリング装置200に入力する電力の上昇に伴い基体に発生する熱をグリッパ216を介してキャリア208へ放出させることができ、ディスク基体110に与える熱の影響(熱応力)を最小限に抑えることが可能となる。
【0040】
また、磁気記録層122等のある程度厚みのある層を成膜する際には、ディスク基体110表面の温度を成膜材料(ターゲット)の融点まで容易かつ安定して上昇させることができるため、成膜材料(ターゲット)のディスク基体110表面への拡散を促進することができる。
【0041】
さらに表層216aの金属は下層216bの金属より熱膨張係数を高くし、下層216bの両側を表層216aで挟み込む構造とする構成により、グリッパ216が高温になったとしても変形するおそれがなくなる。
【0042】
付着層112は非晶質の下地層であって、ディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層114とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層112は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファスの合金膜とすることが好ましい。
【0043】
付着層112としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。中でもCoW系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層112は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。例えばCrTi層の上にCoW層またはCrW層を形成してもよい。またこれらの付着層112は、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、又は酸素を含む材料によってスパッタを行うか、もしくは表面層をこれらのガスで暴露したものであることが好ましい。
【0044】
軟磁性層114は、垂直磁気記録方式において記録層に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層114は第1軟磁性層114aと第2軟磁性層114cの間に非磁性のスペーサ層114bを介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。これにより軟磁性層114の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層114から生じるノイズを低減することができる。第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeBなどのCo−Fe系合金、[Ni−Fe/Sn]n多層構造のようなNi−Fe系合金などを用いることができる。
【0045】
前下地層116は非磁性の合金層であり、軟磁性層114を防護する作用と、この上に成膜される下地層118に含まれる六方細密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。前下地層116は面心立方構造(fcc構造)の(111)面、または体心立方構造(bcc構造)の(110)面がディスク基体110の主表面と平行となっていることが好ましい。また前下地層116は、これらの結晶構造とアモルファスとが混在した構成としてもよい。前下地層の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択することができる。さらにこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Ta、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばfcc構造としてはNiW、CuW、CuCr、bcc構造としてはTaを好適に選択することができる。
【0046】
下地層118はhcp構造であって、磁気記録層122のCoのhcp構造の結晶をグラニュラー構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層118の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層118の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、磁気記録層22の配向性を向上させることができる。下地層の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁気記録層を良好に配向させることができる。
【0047】
下地層118をRuとした場合において、スパッタ時のガス圧を変更することによりRuからなる2層構造とすることができる。具体的には、上層側の第2下地層118bを形成する際に、下層側の第1下地層118aを形成するときよりもArのガス圧を高くする。ガス圧を高くするとスパッタリングされるプラズマイオンの自由移動距離(平均自由工程)が短くなるため、成膜速度が遅くなり、結晶配向性を改善することができる。また高圧にすることにより、結晶格子の大きさが小さくなる。Ruの結晶格子の大きさはCoの結晶格子よりも大きいため、Ruの結晶格子を小さくすればCoのそれに近づき、Coのグラニュラー層の結晶配向性をさらに向上させることができる。
【0048】
非磁性グラニュラー層120は非磁性のグラニュラー層である。下地層118のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第1磁気記録層122aのグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。非磁性グラニュラー層120の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、グラニュラー構造とすることができる。特にCoCr−SiO、CoCrRu−SiOを好適に用いることができ、さらにRuに代えてRh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)も利用することができる。また非磁性物質とは、磁性粒(磁性グレイン)間の交換相互作用が抑制、または、遮断されるように、磁性粒の周囲に粒界部を形成しうる物質であって、コバルト(Co)と固溶しない非磁性物質であればよい。例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)を例示できる。
【0049】
磁気記録層122は、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金から選択される硬磁性体の磁性粒の周囲に非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラー構造を有した強磁性層である。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層120を設けることにより、そのグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長することができる。本実施形態では組成および膜厚の異なる第1磁気記録層122aと、第2磁気記録層122bとから構成されている。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bは、いずれも非磁性物質としてはSiO、Cr、TiO、B、Fe等の酸化物や、BN等の窒化物、B等の炭化物を好適に用いることができる。
【0050】
連続層124はグラニュラー構造を有する磁気記録層122の上に、面内方向に磁気的に連続した層(連続層とも呼ばれる)である。連続層124は必ずしも必要ではないが、これを設けることにより磁気記録層122の高密度記録性と低ノイズ性に加えて、逆磁区核形成磁界Hnの向上、耐熱揺らぎ特性の改善、オーバーライト特性の改善を図ることができる。
【0051】
なお連続層124として、単一の層ではなく、高い垂直磁気異方性かつ高い飽和磁化MSを示す薄膜(連続層)を形成するCGC構造(Coupled Granular Continuous)としてもよい。なおCGC構造は、グラニュラー構造を有する磁気記録層と、PdやPtなどの非磁性物質からなる薄膜のカップリング制御層と、CoBとPdとの薄膜を積層した交互積層膜からなる交換エネルギー制御層とから構成することができる。
【0052】
媒体保護層126は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成することができる。媒体保護層126は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録層を防護するための保護層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に磁気記録層122を防護することができる。
【0053】
本実施形態において、CVD装置を構成するキャリアに含まれるグリッパは、上述したDCマグネトロンスパッタリング装置200と同様に、複数の金属からなる積層構造であって、グリッパの表層を構成する金属は当該グリッパの下層を構成する金属より熱伝導率が高い構成を採用することができる。
【0054】
これにより、グリッパを構成する下層はばね性(弾性)を有し、ディスク基体110に接触する表層は熱伝導率を高くすることが可能となる。したがって、ディスク基体110を保持するために必要なばね性を確保しつつ熱伝導率を向上させたグリッパを提供することができる。これにより、あらかじめディスク基体110の温度を容易に上昇させることができ、反応ガスの反応性を高めることが可能となり、高硬度の媒体保護層126を得ることができる。
【0055】
潤滑層128は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜することができる。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、媒体保護層126表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層128の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、媒体保護層126の損傷や欠損を防止することができる。
【0056】
以上の製造工程により、垂直磁気記録媒体100の成膜工程においてディスク基体110の温度をそれぞれの成膜工程に適した温度に近づけることが可能となり、高品質の垂直磁気記録媒体100を得ることができる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0058】
例えば、上記実施形態においては、磁気ディスクとして垂直磁気記録媒体100を用いているが、面内磁気ディスクを用いてもよい。
【0059】
また、上記実施形態において、真空成膜装置として、スパッタリング装置200およびCVD装置を用いているがこれに限定されず、エッチング装置、イオン注入装置を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、HDDなどに搭載される磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。
【図2】本実施形態にかかるDCマグネトロンスパッタリング装置を説明するための説明図である。
【図3】本実施形態にかかるキャリアおよびグリッパを説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0062】
100 …垂直磁気記録媒体
110 …ディスク基体
112 …付着層
114 …軟磁性層
114a …第1軟磁性層
114b …スペーサ層
114c …第2軟磁性層
116 …前下地層
118 …下地層
118a …第1下地層
118b …第2下地層
120 …非磁性グラニュラー層
122 …磁気記録層
122a …第1磁気記録層
122b …第2磁気記録層
124 …連続層
126 …媒体保護層
128 …潤滑層
200 …DCマグネトロンスパッタリング装置
202 …チャンバ
204 …ガス導入口
206 …排気口
208 …キャリア
210 …ターゲット
212 …シールド
214 …マグネット
216 …グリッパ
216a …グリッパの表層
216b …グリッパの下層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空成膜装置を用いて、基体上に少なくとも磁気記録層を成膜する成膜工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、
前記成膜工程では、
前記真空成膜装置が有する前記基体を保持するためのキャリアに取り付けられたグリッパを前記基体に接触させて該基体を保持し、
前記グリッパは複数の金属からなる積層構造であって、該グリッパの表層を構成する金属は該グリッパの下層を構成する金属より熱伝導率が高いことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記グリッパの表層を構成する金属は、アルミニウム、銅、銀、金から選択される元素の単体、もしくは前記元素を含む合金で構成されることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記グリッパの下層を構成する金属は、主成分をニッケルとし、
鉄、クロム、ニオブ、モリブデンから選択される元素を含む合金で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記真空成膜装置は、スパッタリング装置、CVD装置、エッチング装置、イオン注入装置、の群のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4に記載の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−289383(P2009−289383A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144016(P2008−144016)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】