説明

移動作業機の操縦制御装置

【課題】乗用型移動作業機の自動操縦を実現し、作業者の負担を軽減することを目的とする。
【解決手段】移動作業機に設置した1つの可動式方向測定装置と、2つの可動式距離測定装置により作業領域の周囲に設置した複数の案内支柱を検出して移動作業機の進路の基準とし、移動作業機の進行に伴って目標とする案内支柱を切り換えながら途切れることなく検出し、移動作業機に内蔵する演算制御装置が正しい進路を進行するよう移動作業機を制御することで、移動作業機の案内支柱の列に沿った前進、転回を自動操縦で行うことを可能とし、前記課題を克服する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は田植え機、刈り入れ機、コンバイン等の移動作業機の自動操縦を目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
移動作業機の自動操縦装置として、例えば特許文献1に記載されているようなものがある。この特許文献1の発明は、作業操舵用アクチュエータと、発信機及び受信機を備えた作業機を、予め作業領域に設置された反射板に沿って一定距離で自動進行させるためのものである。発明の根幹は、作業の指標となる反射板に対して作業機から超音波等の信号を発し、その反射信号によって反射板と作業機の距離を測定し、設定基準距離との比較によって作業機の進路を自動的に修正する技術である。しかし、この案件では反射板を作業領域とする圃場などの周囲に沿って設置する必要があり、設置に多大な労力と費用を必要とする。また、信号として超音波等を用いるが、信号の反射波が作業機に到達する確実性を高めるために、反射波の検出範囲より大きな反射板が必要されるので、反射板の一時的な設置は現実的ではなく、継続的な設営が必要であると予想されるが、長期的な設置は日光を遮り、農作物の生育に支障が出ると予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−20号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の従来技術のように農作物の生育に支障を与えることなく、移動作業機が作業領域の形状を検知し、自動運転を行うことを安価且つ容易に可能とすることが本発明の解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発信機能及び受信機能を有し、目標物の方向を検出する方向測定装置と、発信機能及び受信機能を有し目標物の方向及び距離を検出する距離測定装置と、方向測定装置及び距離測定装置の検出した情報を基に操作アクチュエータを制御する演算制御装置を有する移動作業機であって、移動作業機の作業領域の周囲を取り囲むように設置された案内支柱を指標として自動操縦を行うようにしたことを技術的特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の構成を田植え機、刈り入れ機、コンバイン等の移動作業機に適応することで、農作物の生育に影響を与えることなく、移動作業機が作業領域の周囲に設置した案内支柱を基準として作業領域の形状を認識して自動操縦することを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】移動作業機の概略図である。
【図2】測定装置の構造の概略図である。
【図3】案内支柱の形状及び圃場への設置法を示す図である。
【図4】案内支柱に沿った移動作業機の自動前進の説明図である。
【図5】案内支柱を基準とした移動作業機の自動転回を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に示す本発明の実施例を、乗用型田植え機を例に挙げ説明する。図1は本実施例で使用する乗用型田植え機の概略図である。車両本体1には操舵輪である前輪2が左右一対、駆動輪である後輪3が左右一対備えられており、操舵輪である前輪2を操作して移動作業機の進行方向を制御するハンドル、駆動輪である後輪3への動力の伝達を制御して移動作業機の進行を制御する主クラッチペダル、移動作業機の減速を制御する左右サイドペダルからなる操縦装置6を人為的、あるいは操作アクチュエータ7を介して自動的に操作して、作業機の操舵及び進行を行う。操作アクチュエータ7は作業機に内蔵する演算制御装置10の制御を受け、操縦装置6の操作を行う。車両本体1の後部には田植え作業を行う苗植装置5及び苗植装置5を上下に移動させる昇降装置4が備えられている。移動作業機の進行方向に対して前面部には進行方向の前方域に信号を発信する発信装置及びその反射信号を受信する受信装置から成る、検出物の方向を測定する方向測定装置8を設置する。本実施例では信号にレーザー光を用いるレーザー式の方向測定装置とする。また、移動作業機の進行方向に対して両側面には進行方向の側方域に信号を発信する発信装置及びその反射信号を受信する受信装置から成る、検出物までの距離を測定する距離測定装置9を1基ずつ設置する。本実施例では信号に超音波を用いる超音波式の距離測定装置とする。これらの測定装置は農作物に信号を遮断されることが無いよう、十分な高さに設置するものとし、また、これらの測定装置は広範囲の検出対象を検知できるように、図2に示すように作業面に対して水平方向に一定角度旋回できるものとし、それぞれ旋廻用の測定装置旋廻アクチュエータ11を1基ずつ備えているとする。測定装置旋廻アクチュエータ11は演算制御装置10の制御を受けて方向測定装置8及び距離測定装置9を旋回させることができるものとする。また、方向測定装置8の旋廻範囲の両端は、2つの距離測定装置9の旋廻範囲と重なっていることが必須である。これらの測定装置によって得た情報を演算制御装置10に入力し、演算制御装置10が入力信号を演算して操作用アクチュエータ7及び測定装置旋廻アクチュエータ11を制御し、作業機の自動操縦と測定装置の検出物追従を行っている。
【0009】
また、作業領域である圃場14の周囲の畦道沿いには、レーザー光を反射する反射材13を備えた棒状の案内支柱12を複数地面に立て、一定間隔で列状に設置する。案内支柱12は作業面に垂直に設置されるものとし反射材13は全体を被覆する必要は無いが、方向測定装置8の信号を確実に受信装置に反射できる高さ及び範囲を被覆しているものとする。図3は案内支柱12の形状及び設置の参考例である。
【0010】
本実施例では、作業機の進行方向に対して前方に設置した検出精度の高いレーザー式の方向測定装置8によって目標とする案内支柱12の角度を検出して、作業機の進行方向に対する案内支柱12の方向を測定し、その方向に距離測定装置9の向きを変え超音波を発して反射波を検出することで、レーザー式の測定器と比較して検出精度に劣る超音波式の距離測定装置9が確実に案内支柱12を捕捉することが可能である。
【0011】
図4は案内支柱12を用いた移動作業機の自動前進の説明図である。以下、図4に従って本案件による移動作業機の自動操前進の流れを説明する。
【0012】
最初に手動で作業機を操縦し、自動前進を開始する地点へ移動作業機を移動させる。この際、厳密な作業機の位置、方向に移動させる必要は無い。移動を完了したら、操縦モードを自動前進モードに切り替える。以降の説明が移動作業機の自動前進の行程である。まず、自動前進モードに切り替わったことを認識した演算制御装置10が移動作業機の方向測定装置旋廻アクチュエータ11を駆動させて、目標とする案内支柱12を方向測定装置8によりスキャンする(図4−A)。発信したレーザー光が目標の案内支柱12によって反射され、反射信号として方向測定装置8の受信部に入力されることで目標の案内支柱12の方向を測定する(図4−B)。
【0013】
測定された案内支柱12の方向を演算制御装置10に入力し、演算制御装置10が設置された2つの距離測定装置9の内、適する側の距離測定装置9(本実施例では作業機進行方向に対して左側面に設置された距離測定装置9)の測定装置旋廻アクチュエータ11を駆動させて、方向測定装置8の捕捉した案内支柱12の方向に距離測定装置9の向きを変える。距離測定装置9から発信した超音波が目標の案内支柱12に到達し、反射波が受信装置に到達することで目標の案内支柱12までの距離及び方向を測定する(図4−C)。距離測定装置9が検出する案内支柱12はすでに方向測定装置8が捕捉しており、案内支柱12の方向は演算制御装置10に認識されているので、距離測定装置9は迅速かつ確実に案内支柱12を検出できる。距離測定装置9が目標の案内支柱12を捕捉したら、演算制御装置10が方向測定装置8の測定器旋廻アクチュエータ11を駆動し、方向測定装置8によって車両本体1の進行方向にある次の案内支柱12をスキャンする(図4−D)。方向測定装置8が次の目標の案内支柱12を捕捉し、その方向の情報を得ると、測定装置からもたらされた情報及び、予め入力した案内支柱12の間隔の情報を基に演算制御装置10が幾何演算を行い、方向測定装置8と距離測定装置9がそれぞれ捕捉している案内支柱12の位置を判別する。
【0014】
2つの案内支柱12の位置が判別すると案内支柱12の並んでいる直線(以後、案内支柱列と呼称する)に対する車両本体1の進行方向の傾き及び案内支柱列からの距離が分かるので、作業機が設定された正しい進行方向及び案内支柱列からの距離を保つように演算制御装置10が操作アクチュエータ7を制御してハンドル、主クラッチペダル、左右サイドペダルからなる操縦装置6を自動的に操作し、作業機を前進させる(図4−E)。
【0015】
作業機の進行に伴い、方向測定装置8及び距離測定装置9の向きを、演算制御装置10が測定装置旋廻アクチュエータ11を駆動して制御することで、目標の案内支柱12を捕捉し続ける。
【0016】
距離測定装置9が捕捉している案内支柱12と作業機の角度が設定したある角度を超えた時点で演算制御装置10が距離測定装置旋廻アクチュエータ11を駆動させて、方向測定装置9が捕捉している案内支柱12の方向へ距離測定装置を旋回させ、次の案内支柱を捕捉する。同時に演算制御装置10が方向測定装置旋廻アクチュエータ11を駆動させて、案内支柱列の次の目標となる案内支柱12を方向測定装置8によりスキャンする。案内支柱列における案内支柱12の間隔の情報を演算制御装置10に予め認識させておくことで、方向測定装置8が迅速に次の目標となる案内支柱12を検出することが可能であり、方向測定装置8及び距離測定装置9が検出する案内支柱12を次の目標の案内支柱12切り換えて、新たな案内支柱12の方向及び距離の情報を演算制御装置10に入力を開始するまでに必要とする時間は僅かである。よって、方向測定装置8及び距離測定装置9が目標を切り換える間も作業機は前進を継続することができる(図4−F)。
【0017】
図4のD、E、Fの行程を繰り返すことで、方向測定装置8及び距離測定装置9が目標の案内支柱12を作業機の進行に伴って切り換えつつ、移動作業機と案内支柱列との距離を設定した一定間隔に保つように、連続的に移動作業機の進行を制御し、自動運転することが実現できる。
【0018】
次に作業機が作業領域の端部に到達した際の自動操縦による方向転換を、図5を用いて説明する。先述の自動操縦による前進を継続している作業機の、方向測定装置8が目標の案内支柱12を新たな目標に切り換える際に、あるべき場所に案内支柱12が無い事で演算制御装置10が作業領域の端部まで作業機が到達したことを認識する(図5−A)。これによって作業機の操縦モードが自動前進モードから自動転回モードに演算制御装置10によって切り替えられる。自動転回モードに入った作業機は距離測定装置9によって1つの案内支柱12を捕捉したまま前進を停止し、方向測定装置8によって作業機の進行方向に現れた進行方向を遮る案内支柱12の列をスキャンする。方向測定装置8によって検出された案内支柱12の内、すでに案内支柱12を捕捉している距離測定装置9とは異なる、作業機の反対側に設置された距離測定装置9(本実施例では作業機進行方向に対して右側面に設置された距離測定装置9)の測定範囲にある案内支柱12を方向測定装置8が捕捉し(図5−B)、この案内支柱12を作業機右側面に設置された距離測定装置9によって新たに捕捉する。次に方向測定装置8は作業領域の角に設置された案内支柱12をスキャンし、捕捉する(図5−C)。図5−Cのように作業機の方向測定装置8、及び作業機両側面に設置された2つの距離測定器9がそれぞれ異なる案内支柱12を捕捉し、且つ方向測定装置8が作業領域の角の案内支柱12を、2つの距離測定装置9が2つの異なる案内支柱列の案内支柱12を捕捉することで作業領域の端部の形状を正確に認識することが出来る。
【0019】
作業領域の端部の形状を演算制御装置10が認識したら、各測定装置がそれぞれ捕捉している案内支柱12を追従しながら演算制御装置10が作業機を制御し、作業機の進行方向を変えるのに相応しい転回地点まで作業機を前進させる。作業機が転回地点に到達したら、演算制御装置10の制御により作業機が転回を開始する。転回に伴い、方向測定装置8及び距離測定装置9の捕捉する案内支柱12を順次切り替え、演算制御装置10に情報を入力する。作業機の向きが新たに基準とする案内支柱列に平行になった時点で演算制御装置10は作業機の転回を停止させる(図5−D)。
【0020】
転回行程が終了したら演算制御装置10は作業機の操縦モードを再び自動前進モードに切り替え、新たに基準とした案内支柱列に沿って前進を開始する。
【0021】
このように自動前進モードと自動転回モードを状況に応じて自動的に切り換えることで、案内支柱12を基準として連続的に作業機を走行させることが出来る。本案件では案内支柱12を多数用いることになるが、案内支柱12は自立可能な強度を有すれば十分であるから棒状の軽量物で構成可能であり、作業領域である圃場14の周囲の地面に立てるだけでよいため設置も軽作業であることから安価で簡便である。本実施例の図3に示した案内支柱12は地面に打ち込んで固定する杭の形状を挙げたが、形状および設置方法は支柱が固定される限り制約はない。また、案内支柱12の形状は棒状であれば良いことから、案内支柱12による日光の遮断は一時的なものであり、農作物の育成に支障がないと予想できる。また、案内支柱12を検出するセンサにおいても検出物を特定しやすいレーザー光センサと、コスト的に優位な超音波センサを組み合わせることで、精度よく安価に移動作業機の自動操縦を実現することが可能である。
【0022】
よって本案件を用いれば、移動作業機が案内支柱12に沿って畦道の外周を周回することで圃場14の形状を移動作業機に認識させることができ、例として田植え機では一筆書きで田植え作業が出来る順路を計算して作業が行えたり、また稲刈り機においては案内支柱12に沿って外周から稲刈り作業を自動で行うことを可能にする。
【符号の説明】
【0023】
1 車両本体
2 前輪
3 後輪
4 昇降装置
5 苗植装置
6 操縦装置
7 操作アクチュエータ
8 方向測定装置
9 距離測定装置
10 演算制御装置
11 測定装置旋廻アクチュエータ
12 案内支柱
13 反射材
14 圃場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発信機能及び受信機能を有し、目標物の方向を検出する方向測定装置と、発信機能及び受信機能を有し目標物の方向及び距離を検出する距離測定装置と、前記方向測定装置及び距離測定装置の検出した情報を基に操作アクチュエータを制御する演算制御装置を有する移動作業機であって、該移動作業機の作業領域の周囲を取り囲むように設置された案内支柱を指標として自動操縦を行うことを特徴とする移動作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−130729(P2011−130729A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294862(P2009−294862)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000143639)株式会社今仙電機製作所 (258)
【Fターム(参考)】