説明

移動農機

【課題】ボンネットと左右のサイドカバーに対するフロントグリルの前後または左右位置の調整を、該フロントグリルを取り外すことなくスムーズに行なえるようにする。
【解決手段】シャーシーフレーム11から立設した支柱28にフロントグリル21の上部を固定する係止金具31を、前記支柱28の上部に前後または左右位置調整自在に螺着する装着プレート35に対して、前後または左右位置調整自在に螺着することによって、ボンネット6と左右のサイドカバー19の縁端に対する相対的なフロントグリル21の縁端位置の調整を、該フロントグリル21を取り外すことなく行なえるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの上方を覆うボンネットと、エンジンの側方を覆う左右のサイドカバーと、エンジンの前方を覆うフロントグリルを備えたトラクタ等の移動農機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタ等の移動農機では、エンジンの上方を覆うボンネットと、エンジンの側方を覆う左右のサイドカバーと、エンジンの前方を覆うフロントグリルを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3808221号公報(第1−3頁、図1−図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献1のトラクタでは、組立時等におけるボンネットと左右のサイドカバーの縁端に対する相対的なフロントグリルの縁端位置のばらつきにより、ボンネットとフロントグリルの隙間S1(図2参照)の左右差、または左右のサイドカバーとフロントグリルの隙間S2(図2参照)の上下差が生じて外観が悪くなることがあり、その場合は、ボンネットと左右のサイドカバーに対するフロントグリルの前後または左右位置の調整等を行わなければならない。
【0005】
例えば、左右のサイドカバーとフロントグリルの上下方向の隙間S2を略均等に調整する場合は、図7に示すように、フロントグリルの上部を機体側に固定する係止金具31の装着プレート41を、図中A矢印方向(前後方向)に移動させて調整を行っている。その際、先ず調整孔である装着プレート41の基部41aに設けた2つの長孔H5に螺挿されている2本のワッシャ付ボルト34をスパナ等の工具を用いて緩めなければならないが、この際に機体に装着されているフロントグリルを取り外さないと、スパナ等の工具を使用する作業スペースを確保することができないので、一旦フロントグリルを取り外した状態で調整を行った後、フロントグリルを装着してみて適正に調整されたか否かを確認し、適正に調整されていない場合には、再度調整し直さなければならず作業性の面で問題点を残していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することを目的とした本発明は、エンジンの上方を覆うボンネットと、エンジンの側方を覆う左右のサイドカバーと、エンジンの前方を覆うフロントグリルを備え、該フロントグリルの下部をシャーシーフレームに係止すると共に、該シャーシーフレームから立設した支柱にフロントグリルの上部を係止金具を用いて固定するように構成した移動農機において、前記係止金具を、前記支柱の上部に前後または左右位置調整自在に螺着する装着プレートに対して、前後または左右位置調整自在に螺着することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エンジンの前方を覆うフロントグリルの下部をシャーシーフレームに係止すると共に、該シャーシーフレームから立設した支柱にフロントグリルの上部を係止金具を用いて固定するように構成した移動農機において、前記係止金具を、前記支柱の上部に前後または左右位置調整自在に螺着する装着プレートに対して、前後または左右位置調整自在に螺着することによって、組立時等におけるボンネットと左右のサイドカバーの縁端に対する相対的なフロントグリルの縁端位置のばらつきにより、例えば左右のサイドカバーとフロントグリルの隙間の上下差が生じて外観が悪くなった場合は、機体に装着されているフロントグリルを取り外さなくても、前記係止金具を装着プレートに螺着した状態でその前後位置の調整を行うことができるので、それによって左右のサイドカバーの縁端に対する相対的なフロントグリルの前後方向の縁端位置を簡単に調整できるようになる。即ち、組立時等において生じる左右のサイドカバーとフロントグリルの隙間の上下差を短時間で略均等に調整して良好な外観を確保できるようになり作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】トラクタの側面図。
【図2】一部を省略したフロントグリル周辺の斜視図。
【図3】(a),(b)フロントグリルの側面図と側断面図。
【図4】フロントグリルの装着状態を示す一部を省略した斜視図。
【図5】ラジエータブラケットの構成を示す斜視図。
【図6】(a),(b)係止金具の装着方法と調整方法を示す斜視図。
【図7】(a),(b)従来の係止金具の装着方法と調整方法を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、移動農機の一例であるトラクタの側面図と、一部を省略したフロントグリル周辺の斜視図であって、トラクタ1は、左右一対の前輪2及び後輪3を有する走行機体4の前部に設けたエンジンルーム5内にエンジン6を内装し、その後方にステアリングホイール7及び運転席8等を備える操縦部9を設けると共に、走行機体4の後部には、耕耘装置等を昇降可能に装着する図示しない作業機取付部を設けている。
【0011】
そして、走行機体4は、エンジン6の側部に取り付ける左右のシャーシーフレーム11と、エンジン6に連結するクラッチハウジング12、及びクラッチハウジング12と図示しないミッションケースとを一体的に連結する中間伝動ケース13等から構成されると共に、クラッチハウジング12と中間伝動ケース13の上方にオペレータが足を載せるステップ14を設け、更にステップ14の後部から左右のフェンダ15を後方に向けて連設している。
【0012】
また、エンジンルーム5内に内装されるエンジン6の前方には、ラジエータ16及びバッテリ17等を配設してあり、これら、エンジン6、ラジエータ16及びバッテリ17等の上方を覆うボンネット18と、エンジン6及びラジエータ16の側方を覆う左右のサイドカバー19を設けると共に、エンジン6及びラジエータ16の前方を覆う樹脂製のフロントグリル21を設けている。
【0013】
更に詳しく説明すると、ラジエータ16の背面側には、エンジン6の動力により図示しないファンベルトを介して回転駆動する冷却ファン22を配設すると共に、この冷却ファン22によってボンネット18の外気取り入れ部18aと、フロントグリル21の外気取り入れ部21a,21bから外気を吸引し、この吸引した外気が冷却風としてラジエータ13を通過した後にエンジン6を冷却する当該冷却風の風路が形成されている。
【0014】
尚、上述したボンネット18は、エンジンルーム5の後部と操縦部9とを区画する門型支柱23の上部に設けた図示しない支持部材を介して開閉自在に枢支されている。また、左右のサイドカバー19は、門型支柱23と、詳細は後述するラジエータ16を装着するラジエータブラケット24(図4参照)に嵌着支持しており、左右のサイドカバー19は、ボンネット18を上方に開いた状態で走行機体4の側方から容易に着脱できるように構成している。
【0015】
そして、図3(a),(b)は、樹脂成形されたフロントグリル21の側面図と側断面図であって、フロントグリル21の下面(底面)側の左右には、下方に開口する逆U字状の係止部(開口部)21cを設けている。また、フロントグリル21の上面側の左右には、係止部21dを突設してあり、この係止部21dに、詳細は後述するバネ引張り式の係止金具(クランプ)31(図4〜図7参照)を直接当接させて係止するために、当該突出部14の係止部21dの左右を肉盛りして剛性を高めている。
【0016】
そして、左右のシャーシーフレーム11の前部側方には、走行機体4の側方に突出する支持ピン25を固設してあり、この支持ピン25に、フロントグリル21の下面側に設けた逆U字状の係止部21cを嵌装することによって、当該フロントグリル21の下部を左右のシャーシーフレーム11に係止できるように構成している。尚、前記支持ピン25には、振動防止用の図示しない塩化ビニールパイプを外嵌させている。
【0017】
一方、左右のシャーシーフレーム11の前側上面には、図4及び図5に示すようなラジエータ16を装着するためのラジエータブラケット24が固設してあり、このラジエータブラケット24は、バッテリ17を装着するための長方形の大きな装着孔Hを有するベースプレート26を備え、該ベースプレート26の後部には、複数の板状部材からなる門型状のラジエータ装着部27を立設すると共に、ベースプレート26の前部には、前記門型状のラジエータ装着部27よりも高さの低いパイプ材からなる門型状の支柱28を立設している。
【0018】
そして、この門型状の支柱28の左右上部には、断面がL字形状の曲げプレート29を一体的に固設してあり、この曲げプレート29の上部には、上述したようにフロントグリル21の下部を左右のシャーシーフレーム11に支持した状態で、フロントグリル21の上面側の左右に突設した係止部21dに係止可能なバネ引張り式の係止金具31を装着できるように構成している。尚、門型状のラジエータ装着部27の上部と支柱28の上部の左右中間部に亘っては、図示しないエアークリーナを装着するためのプレート32を斜設している。
【0019】
更に詳しく説明すると、図6(a),(b)は、バネ引張り式の係止金具31の装着方法と調整方法を示す斜視図であって、門型状の支柱28の左右上部に一体的に固設されている曲げプレート29には、L字状に曲げ形成した支持プレート33の長辺側33aを2本のワッシャ付ボルト34を用いて取り付けることができるように構成している。そして、この支持プレート33の短辺側(上面側)33bの前部には、走行機体4の前後方向に向けて大きな切欠き33cを設けている。尚、図中符号H1は、支持プレート33の長辺側33aに設けたワッシャ付ボルト34の装着孔である。
【0020】
また、図中符号35は、バネ引張り式の係止金具31の装着プレートであり、この装着プレート35の前側には、フロントグリル21の上面側に突設されている係止部21dに当接する立ち上がり部35aを曲げ形成している。そして、上述した支持プレート33の短辺(上面)33bに装着プレート35の長辺部35bを螺設するために、該長辺部35bの後側には、前記支持プレート33の短辺33bに備える取付孔H2に対応させて走行機体4の前後方向に向けて長孔H3を形成すると共に、この長孔H3の前側にバネ引張り式の係止金具31を取り付けるために2つの取付孔H4を設けている。
【0021】
また、バネ引張り式の係止金具31は、2本のボルト36と2個のフランジナット37を用いて装着プレート35に取り付けることができ、更に該装着プレート35は、その後側に設けた長孔H3と1本のワッシャ付ボルト38を利用して支持プレート33の短辺33bに対して前後調節可能に取り付けることができるように構成している。この時、前記フランジナット37のフランジ部外周が支持プレート33の切欠き33cに当接して、1本のワッシャ付ボルト38の締め込みによる装着プレート35の周り止めがなされる。
【0022】
尚、上述した支持プレート33、装着プレート35、及びバネ引張り式の係止金具31は、これらを一体的に予備組付けを行なってアッシィ状態とした後、ラジエータブラケット24の前部を構成する門型状の支柱28の左右上部に固設されている曲げプレート29に、図6(b)に示す如く支持プレート33の長辺側33aを2本のワッシャ付ボルト34を用いて装着せしめている。
【0023】
ところで、トラクタ1は、組立時等におけるボンネット18と左右のサイドカバー19の縁端に対する相対的なフロントグリル21の縁端位置のばらつきにより、ボンネット18とフロントグリル21の隙間S1(図2参照)の左右差、または左右のサイドカバー19とフロントグリル21の隙間S2(図2参照)の上下差が生じて外観が悪くなることがあり、その場合は、ボンネット18と左右のサイドカバー19に対するフロントグリル21の前後または左右位置の調整等を行わなければならず、以下これらの調整方法について具体的に説明する。
【0024】
先ず、左右のサイドカバー19の縁端に対する相対的なフロントグリル21の縁端位置のばらつきにより、左右のサイドカバー19とフロントグリル21の隙間S2(図2参照)が上下方向で広くなったり狭くなったりした場合は、ボンネット18を上方に開いて作業スペースを確保した後、バネ引張り式の係止金具31を取り付けた装着プレート35を支持プレート33の短辺33bに取り付けている1本のワッシャ付ボルト38をスパナ等の工具を用いて緩める。そうすると、図6(a)に示すように、装着プレート35は、走行機体4の前後方向に向けて設けた長孔H3の許容する図中A矢印方向の前後移動が可能となる。
【0025】
つまり、バネ引張り式の係止金具31を取り付けた状態の装着プレート35を図中A矢印方向に移動させることによって、装着プレート35の前側に形成した立ち上がり部35aの前後位置を調整し、それにより該立ち上がり部35aに当接するフロントグリル21の上面側に突設した係止部21dの前後位置を所望方向に調整することができるので、上述の如く組立時等において、左右のサイドカバー19とフロントグリル21の隙間S2が上下方向で広くなったり狭くなったりした場合であっても、フロントグリル21を一々取り外すことなく当該隙間S2を上下方向で略均等にする調整を短時間に行えるようになり、このように調整が完了すれば上述した1本のワッシャ付ボルト38をスパナ等の工具を用いて再び締着すればよい。
【0026】
また、ボンネット18(左右のサイドカバー19)に対してフロントグリル21の左右位置がずれる場合は、ボンネット18を上方に開いて作業スペースを確保した後、バネ引張り式の係止金具31を装着プレート35に取り付けている2本のボルト36(フランジナット37)をスパナ等の工具を用いて緩める。そうすると、図6(a)に示すように、バネ引張り式の係止金具31は、2本のボルト36と該ボルト36を装着する装着プレート35の装着孔H4との孔ガタにより図中C矢印方向(走行機体4の左右方向)の調節が可能となる。
【0027】
つまり、バネ引張り式の係止金具31を図中C矢印方向に移動させることによって、このバネ引張り式の係止金具31の左右位置を調整することができるので、上述の如く組立時等において、ボンネット18(左右のサイドカバー19)に対してフロントグリル21の左右位置がずれる場合であっても、フロントグリル21を取り外すことなく該フロントグリル21の左右位置のずれを容易に調整することができる。このように調整が完了すれば上述した2本のボルト36(フランジナット37)をスパナ等の工具を用いて再び締着すればよい。
【0028】
以上説明したように、本発明のトラクタ1は、エンジン6の上方を覆うボンネット18と、エンジン6の側方を覆う左右のサイドカバー19と、エンジン6の前方を覆うフロントグリル21を備え、該フロントグリル21の下部をシャーシーフレーム11に係止すると共に、該シャーシーフレーム11から立設した支柱28にフロントグリル21の上部をバネ引張り式の係止金具31を用いて固定するように構成し、前記バネ引張り式の係止金具31を、前記支柱28の上部に前後または左右位置調整自在に螺着する装着プレート35に対して、前後または左右位置調整自在に螺着することによって、組立時等におけるボンネット18と左右のサイドカバー19の縁端に対する相対的なフロントグリル21の縁端位置のばらつきにより、例えば左右のサイドカバー19とフロントグリル21の隙間S2の上下差が生じて外観が悪くなった場合は、機体に装着されているフロントグリル21を一々取り外さなくても、前記バネ引張り式の係止金具31を装着プレート35に螺着した状態でその前後位置の調整を行うことができるので、それによって左右のサイドカバー19の縁端に対する相対的なフロントグリル21の前後方向の縁端位置を簡単に調整できるようになる。即ち、組立時等において生じる左右のサイドカバー19とフロントグリル21の隙間S2の上下差を短時間で略均等に調整して良好な外観を確保できるようになり作業性が向上する。
【0029】
尚、図7(a),(b)は、従来のバネ引張り式の係止金具31の装着方法と調整方法を示す斜視図であって、門型状の支柱28の左右上部に一体的に固設されている曲げプレート29には、バネ引張り式の係止金具31を装着する曲げプレートからなる装着プレート41の基部41aを2本のワッシャ付ボルト34を用いて取り付けている。更に詳しく説明すると、装着プレート41の基部41aには、2本のワッシャ付ボルト34を螺挿するための2つの長孔H5を設けている。一方、装着プレート41の上部(上面側)41bには、バネ引張り式の係止金具31を取り付けるために2つの取付孔H4を設けている。また、図中符号41cは、フロントグリル21の上面側に突設されている係止部21dに当接する位置決め部(曲げ形成部)である。
【0030】
そして、装着プレート41の基部41aに設けた2つの長孔H5は、この2つの長孔H5に螺挿されている2本のワッシャ付ボルト34をスパナ等の工具を使用して緩めると、図中A矢印方向(前後方向)に装着プレート41を移動調整させることができる調整孔として作用するが、その際機体に装着されているフロントグリル21を取り外さないと、スパナ等の工具を使用する作業スペースを確保することができないので、一旦フロントグリル21を取り外した状態で調整を行った後、フロントグリル21を装着してみて適正に調整されたか否かを確認し、適正に調整されていない場合には、再度調整し直さなければならず作業性の面で問題点を残していた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、複数の外装部品を備える作業車両において、これら複数の外装部品の合わせ部に生じる隙間や段差等の相対的な位置合わせを容易に行なえるようにするための調整手段として応用することができる。
【符号の説明】
【0032】
6 エンジン
11 シャーシーフレーム
18 ボンネット
19 サイドカバー
21 フロントグリル
28 支柱
31 係止金具
35 装着プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(6)の上方を覆うボンネット(18)と、エンジン(6)の側方を覆う左右のサイドカバー(19)と、エンジン(6)の前方を覆うフロントグリル(21)を備え、該フロントグリル(21)の下部をシャーシーフレーム(11)に係止すると共に、該シャーシーフレーム(11)から立設した支柱(28)にフロントグリル(21)の上部を係止金具(31)を用いて固定するように構成した移動農機において、前記係止金具(31)を、前記支柱(28)の上部に前後または左右位置調整自在に螺着する装着プレート(35)に対して、前後または左右位置調整自在に螺着することを特徴とする移動農機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−208561(P2010−208561A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58818(P2009−58818)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】