説明

積層一体型自己熱交換構造体

【課題】流体を一時的に加熱するのに適する高熱効率でコンパクトな熱交換構造体を提供する。
【解決手段】熱交換面となる積層された面状隔壁17によって仕切られた複数の面状流路は一方向に伸長し、伸長方向の一端には積層された一つ置きの複数の面状流路断面に流体を流入するための開口部21を設けると共に、該側面内の別の領域、あるいは該側面と近接する別の側面に前記領域で開口部を設けなかった方の一つ置きの面状流路断面に流体を排出するための開口部22を設ける。さらに、これらの流入および排出のための開口部とは反対側の該伸長方向の端部に位置する少なくとも一つの側面に該面状流路断面のすべてに対して該構造体の外部空間を介して隣り合う面状流路を連通させるための開口部4を設ける。また、波形の凹凸を有する面状隔壁28を積層させることにより、面状流路のすきま間隔の一様性や構造体の強度を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己熱交換構造体に関し、より詳しくは、熱交換体の内部で発生させた熱を利用して流体を効率的に一時的に加熱することができる積層一体型の熱交換構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を一時的に加熱することは種々の産業分野において様々な要請に応じて行われている。例えば、化学工業分野では、目的とする化学反応に適する温度まで原料をあらかじめ加熱することが数多くの化学装置において行われている。
【0003】
また、いわゆる悪臭ガス又は揮発性有機溶剤(VOC)は、一般に、燃焼あるいは触媒燃焼によって無臭の無害ガスに転化させることができるが、これらの燃焼を開始し継続さるためには、有機物質を低濃度で含む大量の比較的温度の低いガスを燃焼領域に流入する前に予熱する必要がある。また、自動車エンジン等の内燃機関の排ガスに関し、一般に、ガソリンエンジンの排ガスには、有害物質の一酸化炭素、炭化水素類、及び窒素酸化物が含まれ、ディーゼルエンジンの排ガスには、さらにパティキュレートが含まれる。これらの有害物質は、酸化触媒、三元触媒、選択還元触媒等の触媒作用により浄化され得るが、同時に燃費の向上も要請されている。この燃費が向上されるにつれてエンジン排ガスの温度は必然的に低下するため、かかる触媒作用による浄化を高効率に行うためには、やはり予熱することが必要になってきている。
【0004】
一方、自動車排ガスについては、エンジンの空燃比制御や燃料後噴射の技術の向上により、燃費をそれ程低下させることなく、Oの存在下で排ガス中に、例えば数1000ppm程度のCOを含ませることが可能となっている。先行技術においては、こうした発熱成分を利用するとともに熱交換作用により有利に排ガスを予熱し、効率的に浄化を行うことが可能な、触媒反応と熱交換機能を一体化した装置又はデバイスが提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)。
【0005】
予熱の効果を高くするためには、熱交換部の伝熱面積を大きくしなければならず、装置あるいはシステムの規模が大きくなってしまうが、自動車排ガス浄化あるいは小規模のVOC発生源対策においては、装置等の規模をコンパクトに抑えることが強く求められている。上記の先行技術では、このコンパクト性を確保するため、基本的には、熱交換性能が高い向流プレート型の熱交換構造が採用されている。プレート型熱交換構造では、低温および高温流体の流路が積層構造の狭いすきま間隔の平板型流路としてひとつ置きに配置されていることから、流体の流入部および流出部の分離しつつ両流路間どうしあるいは各流路と装置外部とのシーリングを達成できる構造を得ることが設計、製作上の最大の課題となっている。
【0006】
例えば、特許文献1では、流体の流入部および流出部を分離する具体的な構造は提示されていない。
【0007】
特許文献2〜5では、上記の課題に対して一枚の波形伝熱板を用いることで解決が図られている。この構造では、流体の流入部および流出部を波形伝熱板をはさんで波形が伸長する方向の中央部にそれぞれ相対するように配置することにより、波形伝熱板の波形が伸長する方向と平行な両端部のみをシールすることにより、流入部と流出部の分離と低温流体の流路と高温流体の流路の分離が実現されうる。しかしこの構造では、波形伝熱体の稜線と交わる方向の両端部で低温側と高温側の流路が連通することになるため、目的とする反応を行わせる温度が極値(最高)となる領域が装置内の2箇所に生じてしまう。このことにより、目的とする反応のための温度制御が困難になるとともに、装置からの放熱量が増して予熱の効率が落ちてしまうという問題がある。
【0008】
特許文献2〜6では、一枚の波形伝熱体を用いた構造、あるいは角形の流路を積層させた構造において、温度が極値となる領域を1箇所とする流入部および流出部の配置方法についても提示されているが、この場合には、波形伝熱体あるいは角形の稜線が伸長する方向と交わる方向の一つの端部をシールしなければならない。しかし、この部分は間隔がきわめて小さい波形あるいは平行積層の断面が露出している箇所であり、そのシールを高い耐久性を確保しつつ実現することは、製作上かなりの困難を伴う。
【0009】
特許文献6では、さらに、一体型ハニカム構造体の流入部近傍に、個々のハニカム流路を一列に連通する横穴をハニカム流路列の一つ置きに形成することにより、上記の課題解決が図られている。しかし、この方法においても、ハニカム構造体の機械的強度を保ちつつ十分な大きさの複数の該横穴を形成し、さらには必要なシールを行うことは、製作上かなりの困難を伴う。
【特許文献1】特表平7−506884号公報
【特許文献2】特開2000−189757号公報
【特許文献3】国際特許公開第2002/29218号パンフレット
【特許文献4】特表2003−524728号公報
【特許文献5】特開2004−69293号公報
【特許文献6】国際特許公開第2004/99577号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、自己熱交換構造体のより一層の改良であり、製作が比較的容易であり、かつ、高い熱交換効率を有し、圧力損失が小さいながら、コンパクトな一体型自己熱交換構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、熱交換面となる積層された面状隔壁によって仕切られた複数の面状流路を内部に設け、該複数の面状流路を通過する流体の上流と下流との間で熱交換が可能な自己熱交換構造体により、上記の目的が達成しうるという知見を得た。
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
【0012】
(1)内部で、往路を通過する流体と復路を通過する流体との間で熱交換が可能な自己熱交換構造体であって、
熱交換面となる積層された面状隔壁によって仕切られた複数の面状流路を備えた一体形成された構造を有し、
前記複数の面状流路は、往路と復路が一方向に伸長しており、
前記伸長方向の一端に位置する前記構造体の側面は、往路に流体を注入するための領域と復路から流体を排出するための領域とに二分され、前者の領域には、前記複数の面状流路断面に流体注入のための開口部が一つ置きに設けられ、後者の領域には、前記開口部が設けられていない一つ置きの複数の面状流路断面に流体排出のための開口部が設けられ、
前記構造体の前記伸長方向他端に位置する側面には、面状流路断面のすべてに対して、該構造体の外部空間を介して往路と復路を連通させるための開口部が設けられていることを特徴とする積層一体型自己熱交換構造体。
(2)前記二分された領域が、異なる側面に設けられていることを特徴とする上記(1)の積層一体型自己熱交換構造体。
(3)前記隣り合う面状流路を連通させるための開口部が、往路からいったん流出するための開口部と復路へ再流入するための開口部とからなり、それぞれの開口部は、異なる領域において、一つ置きの面状流路断面に設けられていることを特徴とする上記(1)又は(2)の積層一体型自己熱交換構造体。
(4)前記異なる領域が、異なる側面に設けられていることを特徴とする上記(3)の積層一体型自己熱交換構造体。
(5)前記面状隔壁がその伸長方向と交わる方向に伸長した周期的な溝を有する面形状であることを特徴とする上記(1)〜(4)の積層一体型自己熱交換構造体。
(6)前記隣り合う面状流路を連通させるための開口部の近傍に、流体に含まれる成分による発熱反応を促進する触媒を配置したことを特徴とする上記(1)〜(5)の積層一体型自己熱交換構造体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層一体型自己熱交換構造体は、製作が比較的容易であり、かつ、高い熱交換率と低圧力損失性能とコンパクト性を併せ持つものであり、面状隔壁の積層間隔や、面状隔壁あるいは板状スペーサーの形状を調節することにより、従来のハニカム構造体と同程度の幾何表面積を有する触媒支持体を容易に製作することができる。また、きわめて狭いながら比較的平滑な流路を形成でき、特に、波形の面状隔壁を積層したものを用いれば、伝熱面積が大きいとともに伝熱面に流体が衝突しやすくなることにより熱伝達性を大きくできることから、従来のプレート型熱交換器と同等あるいはそれ以上の熱交換性能を発揮すると期待できる。さらに、熱発生と熱交換が同一の構造体の中で完結することから、熱損失も少ない。これらの効果により、処理する流体に対して、小さな加熱エネルギーで大きな昇温効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、図を用いて説明する。
図1ないし3は、本発明の積層一体型自己熱交換構造体の一形態を示すものであって、図1は、ケーシングに収納した該構造体の面状隔壁面に垂直な方向から見た透視図であり、図2は、該構造体を流入及び排出のための開口部領域を設けた側面の方向から見た外観図であり、図3は、往路と復路を連通させるための開口部を設けた側面の方向から見た外観図である。
これらの図において、1は積層一体型自己熱交換構造体、2は流入口がある領域、3は排出口がある領域、4は往路と復路の面状流路が連通するための開口部を有する側面、5は全面がシールされた流路の伸長方向に沿った側面、6は該側面5と相対する側面、7はケーシング、8はケーシングに設けた流入口、9はケーシングに設けた排出口、10はパッキング兼断熱材、11は往路と復路を連通させるための空間、12は該空間11を形成するためのスペーサー、13は構造体内部の往路側の面状流路内の流れ、14は構造体内部の復路側の面状流路内の流れ、15はヒーター、16は触媒配置領域、17は面状隔壁、18は流入口、19は排出口、20は封止材、21は往路の開口部、22は復路の開口部、をそれぞれ示している。
【0015】
図に示すとおり、該構造体1は、熱交換面となる積層された面状隔壁17によって仕切られた複数の面状流路を備えた、一体形成された構造を有し、該複数の面状流路は、往路と復路が一方向(図1では上下方向)に伸長している。
該伸長方向の一端となる側面の少なくとも一部の領域2に、積層された複数の面状流路(往路)のみに流体流入のための開口部18を設けるとともに、該側面の別の領域3には前記領域で開口部を設けなかった方の一つ置きの流路(復路)のみに流出のための開口部19を設ける。各流入口から入った流体は、面状に広がるそれぞれの往路において、伸長方向に対する幅全体にも広がるような流路形態とする。また、それぞれの復路において、伸長方向の幅全体に広がった流体が各排出口から排出されうる流路形態とする。一方、領域2、3が設けられたのとは反対側の該伸長方向の端部の側面4には、前記構造体1の外の空間11を介して該往路と該復路を連通させるための開口部を設ける。また、伸長方向に沿った側面5および6は全面シールする。
【0016】
本発明の積層一体型自己熱交換構造体1の作用は以下の通りである。ケーシング7の流入口8より入った処理すべき流体は、1側面の一部領域2に設けた開口部18を通って構造体1内の1つ置きの面状流路(往路)に進入し、図1に流れ13として示すように、構造体1の伸長方向を下行する。別の側面4に達した流体は、側面4に設けた往路の開口部21からいったん構造体1の外の空間11に出る。次いで、空間11と復路の開口部22を通って再び構造体1に進入し、図1に流れ14として示すように、上行する。そして最終的に、領域2と近接する別の領域3に設けた復路のみと連通する開口部19を通り、さらにケーシング7の排出口9を通って、系外に排出される。
【0017】
本発明において、以上のような流路を形成し、さらに、流体の折り返し部である空間11の近傍に適当な加熱手段、たとえば領域4に面した電気ヒータ15あるいは流体内の可燃成分と構造体1内部の領域4近傍に配置した酸化触媒16の組み合わせなど、を設けて流体を加熱することにより、復路の流体が往路に比べて高温にできるが、空間11近傍における流体温度は、単に加熱量を流体の熱容量流量で除した値になるに止まらず、該面状隔壁を通して高温の復路流体から低温の往路流体に移動した熱量に応じて、さらに高温にすることができる。
たとえば、ある流量条件のもとで該構造体の熱回収率が80%、加熱手段のみによる流体上昇温度が50Kの場合、熱回収の効果が加わることにより、往路から復路への折り返し部分での流入口を基準とする上昇温度は、外壁などを通しての熱損失がない場合、その5倍の250Kに達する。
【0018】
本発明の構造体1を形成するための材料、すなわち、面状隔壁の材料、領域2および3の非開口部の封止材20、側面5および6の封止材としては、使用最高温度に耐えることができ、最終的に構造体1を一体構造体にすることができるならば、どのようなものでも構わず、また、単一材料でも、それぞれの部分に異なる組成の材料を用いても構わない。比較的低温度で使用するならば、各種の熱硬化性プラスチック、より高温であればコージェライト、ムライト、炭化珪素等のセラミックなどが使用できる。
【0019】
図4は、本発明の別の実施の形態を、ケーシングとともに示した図である。
図1では、流入のための開口部と排出のための開口部を設けた領域が同一側面内に設けられているが、この形態では、構造体1の伸長方向に対しては、同一の端側にありながら近接する2つの異なる側面に設けられている。これら2つの側面がなす角度としては60〜150°、より好ましくは90〜120°とすることがよい。このような角度をつけることにより、流入した直後および排出直前の流体間でも熱交換が起こるようになるとともに、1の往・復路の幅一杯に流体が広がりやすくなるので、熱交換性能を向上させることができる。
図5は、図4と同様の構造体1の別の実施の形態をケーシングとともに示した図である。
なお、流入口および排出口が設けられた側面は、これまでに図示したような平面でなく円筒側面のような曲面になっていてもよい。
【0020】
図6は、本発明の更に別の実施の形態をケーシングとともに示した図である。
この形態では、往路と復路を連通させるための側面4上の往路の開口部21と復路の開口部22を設けた領域が、面状流路の互いに異なる一つ置きのみに開口部を設けることによって、該構造体の異なる側面に分離されて設けられている。この形態では、図4の場合と同様に、流入口および排出口も異なる側面に分離されているが、図1の場合と同様に、流入口と排出口は同一側面内の異なる領域に形成されていてもよい。いずれの場合も、流入口のある領域2と側面4上の往路の開口部を設けた領域、および排出口のある領域3と側面4上の復路の開口部を設けた領域が、構造体1の伸長方向に対してそれぞれ対角に位置することが、熱交換性能を上げる上で望ましい。
【0021】
以上のいずれの様態においても、面状隔壁間のすきまを平均的に一定間隔に保ち、かつ領域2から流入した流体が往路内で1の伸長方向の幅一杯に広がって側面4に向かって流れるようにし、かつ、側面4で折り返した流体が復路内で幅一杯に広がって流れた後に領域3から排出されるようにすることが、該構造体の強度を保つ上でも、高い熱交換性能を得る上でも重要である。
そのための方法としては、面状隔壁の全面にわたって高さが等しい多数の突起をつければよい。この突起は、構造体1の伸長方向および伸長方向と交わる方向のいずれに対しても流体が大きな抵抗なく流通できる形状および密度で配置されていればよく、規則的な周期配置であっても、平均的にはほぼ等密度であるが不規則に配置してあってもよい。
このような突起を有する該構造体の形成方法としては、たとえば、硬化処理前の各面状隔壁素材にプレス加工などによりあらかじめ突起形状を形成し、必要に応じて接着材を表面にコーティングした上で複数の面状隔壁を突起部で接着するように積層し、さらに必要に応じて振動を与えるなどして接点の密着性を増した後、硬化処理を行って一体形成すればよい。
【0022】
図7は、前記の条件を満たした面状隔壁間のすきま流路を形成するための別の形態を示したもので、図8は、図7に示す構造体1を、流入口及び流出口を設けた側面からみた外観図である。
図7、8に示す構造体は、図4に示した形態の構造体において、各面状流路内に、波形の凹凸を有する板状スペーサーを配置したものであり、この波形の稜線は、往路では、流入口を設けた側面から、まず排出口のある側面と平行に伸長した後、屈曲して構造体1の伸長方向と平行に伸長して側面4に至る。同様に、復路に置かれた板状スペーサーの稜線は、側面4から、まず構造体1の伸長方向と平行に伸長した後、排出口の近くで屈曲して流入口のある側面と平行に伸長し、排出口のある側面に至る。このようなスペーサーを設けることにより、構造体としても強度を増すとともに、往・復路内で流体が流路幅一杯に等分に流れるようになって熱交換性能が向上する。
【0023】
図9に示す構造体は、前記と同様にして、図6に示した形態の構造体において、各面状流路内に、波形の凹凸を有する板状スペーサーを配置したものである。この場合には、スペーサーの波形の稜線は2箇所で屈曲部を持つ。
【0024】
伝熱面となる面状隔壁間に平均的に均等な面状流路を形成する別の方法としては、該伸長方向と交わる方向に伸長した周期的な溝を有する複数の面状隔壁を互いに積層させてもよい。
図10及び図11は、その一形態を示したもので、図11は、流入口及び排出口を設けた側面からみた外観図である。
これらの図に示すように、面状隔壁が構造体1の伸長方向と交わる方向に伸長した稜線を有する波形であるものである。互いに隣り合う面状隔壁28は、構造体1の伸長方向と交わる方向に伸長した稜線を有する波形で、さらに、隣り合う面状隔壁の該稜線は互いに異なる方向に伸長されている。これにより、隣り合う波形の隔壁間に、構造体1の伸長方向及びこれと交わる方向に広がるすきま流路が形成される。
【0025】
この形態ではさらに、流入口と排出口が異なる側面に形成された図4と同様の構造体において、波形の稜線の2つの伸長方向が、往路では排出口を設けた側面と、復路では流入口を設けた側面とそれぞれ平行になっている。さらに、流入口および流出口を設けた側面で面状隔壁28の波形断面の下側のみを封止する。これにより、図11に示すように流入口と排出口のある領域が2つの側面のそれぞれに分離されて形成される。一方、2方向の稜線のいずれも往路と復路を連通させるための側面4と交わるので、側面4では両流路とも全面的に開口されている。面状隔壁をこのような波形にすると、平面の場合に比べて隔壁面積が増大するとともに波形の溝に当たる流路が交差し合うため流れが乱されるので、熱交換性能が向上する。さらに、流体が該構造体の伸長方向に流れるためには、図10に示すようにこれとは方向の異なる波形の溝をジグザグに流れなければならないので、該構造体内部で流れが絶えず分割、再合流することにより各部の流速が一様化する。これによって熱交換性能が向上する効果もある。
なお、ここでは図4の形態の構造体について例示したが、図1、5あるいは6のような形態の構造体についても、同様に波形の面状隔壁を用いて形成することが可能である。
【0026】
さらに、伝熱面となる面状隔壁間に平均的に均等な面状流路を形成し、また、熱交換性能を向上する別の方法として、面状隔壁を波形にするとともに突起をつけた形態としてもよい。
図12はその一例を示したものである。この様態では、隣り合う面状隔壁29の波形を同位相とするとともに、その稜線の伸長方向を該構造体の伸長方向と直交する方向(図12では、図面に垂直な方向)に配置している。このようにすると、流体は、図12において流線31、32で示すように、往・復路の両流路において、波形の隔壁面と衝突して絶えず流路方向を曲げられながら該構造体の伸長方向に進むので、隔壁と流体との熱交換が促進される。
【0027】
本発明において、構造体1内部における流体の温度を上昇させるためには、側面4近傍において流体を加熱することが必要である。この方法としては、図1、4、5に示すように、側面4にほぼ密着する形でパネル状のヒータを配置すればよい。あるいは、図6に示すように、流体が折り返すための流路内に、流体が通過可能な形態のヒータを配置すればよい。あるいは、図1、4、5、6に示すように、側面4近傍の構造体1の内部に、流体に含まれる成分による発熱反応を促進する触媒を配置してもよい。
触媒の配置方法としては、面状流路内にペレットとして充填する方法や、面状隔壁、あるいは図8に示した板状スペーサー25の表面にコーティングする方法がある。
【0028】
流体に含まれる成分とは、例えばCOや炭化水素類をはじめとする有機成分が挙げられる。これらは処理すべき流体にはじめから含まれているものでもよいし、必要な加熱量を得るため該構造体に入る前の流体に人為的に加えたものでも良い。一方、触媒としては、例えばPtやPd等の白金属元素を活性成分とするものやその他の一般的な酸化触媒を使用すればよい。これらの成分はOの存在下、該触媒上で容易に完全酸化されてCOやHOに転化されるとともに反応熱を発生して流体を加熱する。これと熱交換によって回収された熱により、往路から復路への折り返し部分である空間11を通る流体の温度を著しく上昇させることができる。例えば、該構造体の熱回収率が80%、構造体1を通過する流体の主成分が空気で0.5%のCOが含まれている場合を考えると、このCOが酸化触媒上で完全酸化されてCOに転化したときに発生する熱量は流体を約48K上昇させる程度のものであるが、熱回収の効果が加わることにより、該構造体の外壁などを通しての熱損失がない場合、往路から復路への折り返し部分での流入口を基準とする上昇温度はその5倍の240Kに達する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上の本発明の構造体が有する性能により、低濃度VOCの触媒酸化などのような小さな発熱しか伴わない化学反応でも、外部からの加熱エネルギーを与えることなく、その反応で発生する熱エネルギーのみで十分な高温を維持し、反応を継続させることが可能になる。あるいは、無害化反応を行わせることができないほど低温のエンジン排ガスにおいて、電気ヒータの併用、あるいは排ガス中あるいは人為的に少量添加した発熱成分の触媒反応熱を利用して、反応層の温度を小さなエネルギー損失で必要な高さにまで上げることを可能にする。このように、本発明は、化学反応プロセスにおける予熱と触媒反応を同時に行う装置の反応部に利用することができる。特に、悪臭又は低濃度の揮発性有機溶剤(VOC)を含む汚染空気の触媒燃焼式浄化装置、自動車エンジン等の内燃機関の排ガス浄化装置において、反応部の触媒支持体として利用することが効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】積層一体型自己熱交換構造体の一形態をケーシングとともに示した図
【図2】図1の構造体を流入口及び流出口を設けた側面方向からみた外観図
【図3】図1の構造体を往路と復路が連通する開口部を設けた側面方向からみた外観図
【図4】流入口と排出口のある領域を異なる側面に設けた、積層一体型自己熱交換構造体をケーシングとともに示した図
【図5】流入口と排出口のある領域を異なる側面に設けた、別の様態の積層一体型自己熱交換構造体をケーシングとともに示した図
【図6】隣り合う面状流路を連通させるための往路の開口部と復路の開口部を設けた領域が構造体の異なる側面に分離された、積層一体型自己熱交換構造体をケーシングとともに示した図
【図7】図4の構造体において、面状流路内に波形の板状スペーサを配置した様子を示す図
【図8】図7の構造体の流入口及び流出口を設けた側面からみた外観図
【図9】図6の構造体において、面状流路内に波形の板状スペーサを配置した様子を示す図
【図10】隣り合う面状隔壁が異なる方向に伸長した稜線を有する波状構造のものを示す図
【図11】図10の構造体を流入口及び流出口を設けた側面方向からみた外観図
【図12】突起を有する波状の面状隔壁を積層させた構造体の流れを、隔壁面に垂直で且つ構造体の伸長方向と平行な断面でみた図
【符号の説明】
【0031】
1:積層一体型自己熱交換構造体
2:流入口がある領域
3:排出口がある領域
4:往路と復路の面状流路が連通するための開口部を有する側面
5:全面がシールされた流路の伸長方向に沿った側面
6:該側面5と相対する側面
7:ケーシング
8:ケーシングに設けた流入口
9:ケーシングに設けた排出口
10:パッキング兼断熱材
11:往路と復路を連通させるための空間
12:空間11を形成するためのスペーサー
13:構造体内部の往路側の面状流路内の流れ
14:構造体内部の復路側の面状流路内の流れ
15:ヒータ
16:触媒配置領域
17:面状隔壁
18:流入口
19:排出口
20:封止材
21:往路の開口部
22:復路の開口部
23:往路側に配置した波形の板状スペーサの稜線
24:復路側に配置した波形の板状スペーサの稜線
25:板状スペーサ
26:波形の面状隔壁の稜線
27:稜線26と隣り合う波形の面状隔壁の稜線
28:波形の面状隔壁
29:突起を有する波形の面状隔壁
30:構造体の伸長方向
31:往路内の流線
32:復路内の流線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で、往路を通過する流体と復路を通過する流体との間で熱交換が可能な自己熱交換構造体であって、
熱交換面となる積層された面状隔壁によって仕切られた複数の面状流路を備えた一体形成された構造を有し、
前記複数の面状流路は、往路と復路が一方向に伸長しており、
前記伸長方向の一端に位置する前記構造体の側面は、往路に流体を注入するための領域と復路から流体を排出するための領域とに二分され、前者の領域には、前記複数の面状流路断面に流体注入のための開口部が一つ置きに設けられ、後者の領域には、前記開口部が設けられていない一つ置きの複数の面状流路断面に流体排出のための開口部が設けられ、
前記構造体の前記伸長方向他端に位置する側面には、面状流路断面のすべてに対して、該構造体の外部空間を介して往路と復路を連通させるための開口部が設けられていることを特徴とする積層一体型自己熱交換構造体。
【請求項2】
前記二分された領域が、異なる側面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の積層一体型自己熱交換構造体。
【請求項3】
前記隣り合う面状流路を連通させるための開口部が、往路からいったん流出するための開口部と復路へ再流入するための開口部とからなり、それぞれの開口部は、異なる領域において、一つ置きの面状流路断面に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層一体型自己熱交換構造体。
【請求項4】
前記異なる領域が、異なる側面に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の積層一体型自己熱交換構造体。
【請求項5】
前記面状隔壁がその伸長方向と交わる方向に伸長した周期的な溝を有する面形状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の積層一体型自己熱交換構造体。
【請求項6】
前記隣り合う面状流路を連通させるための開口部の近傍に、流体に含まれる成分による発熱反応を促進する触媒を配置したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の積層一体型自己熱交換構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−157592(P2008−157592A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349796(P2006−349796)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託研究「革新的次世代低公害車総合技術開発 新燃焼方式の研究開発及び燃料の最適化/革新的後処理システムの研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】