説明

積層体

【課題】太陽電池モジュールを構成する充填材との良好な密着性を有し、かつ耐候性、耐水性、防湿性等の諸特性に優れ、難燃性にも優れた安価な太陽電池用裏面保護シートに有用な積層体を提供する。
【解決手段】フッ素系樹脂フィルム(101)の少なくとも一方の面に、有機化合物層、無機化合物層(104)を順次設けてなり、前記有機化合物層は、少なくとも付加重合官能基を有するフッ素化合物を含み、かつ、前記フッ素系樹脂フィルム上に形成された有機化合物層A(102)と、分子量が150〜600のトリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル化合物を含み、かつ、前記無機化合物層と接する側に形成された有機化合物層B(103)と、を含み、前記有機化合物層および無機化合物層は、真空雰囲気下において蒸着法を用いて形成されたものである積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関するものであり、さらに詳しくは、太陽電池モジュールを構成する、特にエチレンー酢酸ビニル共重合体からなる充填材との良好な密着性を有し、かつ耐候性、耐水性、防湿性等の諸特性に優れ、難燃性にも優れた安価な太陽電池用裏面保護シートに有用な積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題に対する内外各方面の関心が高まる中、二酸化炭素の排出規制のために、種々努力が続けられている。化石燃料の消費量の増大は大気中の二酸化炭素の増加をもたらし、その温室効果により地球の気温が上昇し、地球環境に重大な影響を及ぼす。この地球規模の問題を解決するために様々な検討が行われており、特に太陽光発電については、そのクリーン性や無公害性という点から期待が高まっている。太陽電池は太陽光のエネルギーを直接電気に換える太陽光発電システムの心臓部を構成するものであり、単結晶、多結晶、あるいはアモルファスシリコン系の半導体からできている。その構造としては、太陽電池素子単体(セル)をそのままの状態で使用することはなく、一般的に太陽光が当る面をガラス面で覆い、熱可塑性プラスチック(特にエチレン−酢酸ビニル共重合体)からなる充填材で隙間を埋め、裏面を封止用シートで保護された構成になっている。
【0003】
従来、例えば、太陽電池用裏面保護シートとして、ポリフッ化ビニルフィルム(デュポン(株)商品名:テドラー)でアルミニウム箔をサンドイッチした積層構造の裏面保護シートが多く用いられていた。
【0004】
しかし、太陽電池モジュールを構成する裏面保護シート層として、上記のポリフッ化ビニルフィルム等のフッ素系樹脂フィルムとアルミニウム箔等の金属箔との複合フィルムを使用する場合には、このポリフッ化ビニルフィルムは太陽電池モジュール製造時に加えられる140℃〜150℃の熱プレスの熱により軟化し、太陽電池素子電極部の突起物が充填材層を貫通し、さらに裏面保護シートを構成する内面のポリフッ化ビニルフィルムを貫通し、裏面保護シート中のアルミニウム箔に接触することにより、太陽電池素子とアルミニウム箔が短絡して電池性能に悪影響を及ぼすといった欠点があった。同時にアルミニウム箔を使用することで、廃棄の点でも課題視されている。
【0005】
そこで、アルミニウム箔等の金属箔を用いないで、フッ素系樹脂フィルムやポリエステルフィルムなどの基材フィルムに無機化合物からなる蒸着層を設けた裏面保護シートを使用することにより、短絡して電池性能に悪影響を及ぼすといった欠点を解消することが可能となった(例えば特許文献1:特開2002−134771号公報参照)。
【0006】
ところが、フッ素系樹脂フィルムはそのままでは無機化合物との密着が悪く、そのためフッ素系樹脂フィルムにプラズマ処理等の前処理を施す必要がある為、フィルム表面があれてしまいバリア性が悪くなるといった問題点がある。またポリエステルフィルムの場合にはフッ素系樹脂フィルムに比べて難燃性がないといった問題点がある。
【特許文献1】特開2002−134771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、太陽電池モジュールを構成する、特にエチレンー酢酸ビニル共重合体からなる充填材との良好な密着性を有し、かつ耐候性、耐水性、防湿性等の諸特性に優れ、難燃性にも優れた安価な太陽電池用裏面保護シートに有用な積層体を提供することにある。また、当該積層体を用いた太陽電池用裏面保護シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
フッ素系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、有機化合物層、無機化合物層を順次設けてなる積層体であって、
前記有機化合物層は、少なくとも
付加重合官能基を有するフッ素化合物を含み、かつ、前記フッ素系樹脂フィルム上に形成された有機化合物層Aと、分子量が150〜600のトリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル化合物を含み、かつ、前記無機化合物層と接する側に形成された有機化合物層Bと、を含み、
前記有機化合物層および無機化合物層は、真空雰囲気下において蒸着法を用いて形成されたものである
ことを特徴とする積層体である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記有機化合物層Aおよび有機化合物層Bは、真空雰囲気下において前記フッ素系樹脂フィルム上に順次蒸着した後、凝集させ、活性エネルギー線又はプラズマを照射して同時に硬化させてなることを特徴とする請求項1に記載の積層体である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記付加重合官能基がアクリル基またはメタクリル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記有機化合物層がフラッシュ蒸着法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記無機化合物層が化学蒸着(CVD)法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層体である。
【0013】
請求項6に記載の発明は、前記有機化合物層および無機化合物層が同一真空中で大気に曝されることなく形成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層体である。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の積層体の両面に接着剤を介してフッ素系樹脂フィルムを貼りあわせてなることを特徴とする太陽電池用裏面保護シートである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、太陽電池モジュールを構成する、特にエチレンー酢酸ビニル共重合体からなる充填材との良好な密着性を有し、かつ耐候性、耐水性、防湿性等の諸特性に優れ、難燃性にも優れた安価な太陽電池用裏面保護シートに有用な積層体を提供することができる。また、当該積層体を用いた太陽電池用裏面保護シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の積層体を用いた太陽電池用裏面保護シートの製造方法の好ましい一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の積層体の製造に用い得る装置の模式図であり、図2は、本発明の積層体の一例の断面図である。図3は本発明の積層体を用いた太陽電池用裏面保護シートの一例の断面図である。
【0017】
なお、以下、本発明における有機化合物層において硬化前の有機化合物層Aを活性エネルギー線硬化樹脂原料層A、硬化前の有機化合物層Bを活性エネルギー線硬化樹脂原料層Bということがある。また、活性エネルギー線照射またはプラズマ照射により、硬化した有機化合物層Aおよび有機化合物層Bを各々活性エネルギー線硬化樹脂層Aおよび活性エネルギー線硬化樹脂層Bと記す。
【0018】
図1において、真空ポンプA(2)を接続した真空成膜装置(1)の内部にプロセスロール(3)を、その上部に巻き出しロール(4)、巻き取りロール(5)を設置する。プロセスロール(3)周囲に、順に活性エネルギー線硬化樹脂原料層A樹脂蒸着装置(6)、活性エネルギー線硬化樹脂原料層B樹脂蒸着装置(7)、電子線照射装置(8)、無機化合物層形成装置(10)を設置する。さらに、前記活性エネルギー線硬化樹脂原料層A樹脂蒸着装置(6)に活性エネルギー線硬化樹脂層A樹脂原料供給装置(11)を連結し、前記活性エネルギー線硬化樹脂原料層B樹脂蒸着装置(7)に活性エネルギー線硬化樹脂層B樹脂原料供給装置(12)を連結し、電子線照射装置(8)にガス供給装置(13)を連結する。さらに、電子線照射装置(8)、無機化合物層形成装置(10)にそれぞれ真空ポンプB(14)、真空ポンプC(15)や圧力調整弁A(16)、圧力調整弁B(17)を接続する。また、遮蔽板A(9)、遮蔽版B(18)、遮蔽版C(19)を設けることにより各プロセスに適した真空度が調節可能である。このように同じ真空成膜装置内で活性エネルギー線硬化樹脂層、無機化合物層が形成できることにより、各成膜条件の最適化が容易に行えると同時に、塵埃などの混入が少なく生産性の高い積層体が製造できる。また、また、工程数削減・リードタイム短縮も図れる。
【0019】
巻き出しロール(4)にフッ素系樹脂フィルムの基材(101)の原反を装着し、プロセスロール(3)を介して巻き取りロール(5)に至る原反搬送パスを形成する。真空成膜装置(1)内を真空ポンプA(2)、真空ポンプB(14)、真空ポンプC(15)にてそれぞれ排気する。ここでは、活性エネルギー線硬化樹脂層A・B、無機化合物層を順次積層してなる製造装置の例を説明したが、これに限るものではない。
【0020】
以下、成膜工程を説明する。フッ素系樹脂フィルムの基材(101)に活性エネルギー線硬化樹脂層A(102)、活性エネルギー線硬化樹脂層B(103)、無機化合物層(104)を形成する。活性エネルギー線硬化樹脂層A、Bは活性エネルギー線硬化樹脂原料層を真空雰囲気下において蒸着法により逐次形成した後、電子線、プラズマ、紫外線のいずれかを照射することにより重合させて形成する。この方式は熱による重合法に比べると、短時間で重合を行うことができ、熱負荷による基材の伸びや硬化層の変形が少ない特徴を持つ。また、蒸着法を採用することにより、グラビアコーティング等と比べ、溶剤回収の必要もなく、無溶剤であるため環境にやさしい。さらにエージング時間が不要であり有利である。
【0021】
前記活性エネルギー線硬化樹脂層Aはフッ素化合物からなるフッ素系樹脂フィルムの基材の上に積層することにより、該基材と活性エネルギー線硬化樹脂層Bとの間の密着性を向上させる、いわゆるプライマー層となる層である。フッ素系樹脂フィルムの基材としては、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン等が挙げられ、その厚さは特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性、有機蒸着層、無機蒸着層、被膜層を積層する加工性を考慮すると、6〜50μmとすることが好ましい。
活性エネルギー線硬化樹脂層Aは、付加重合官能基を有するフッ素化合物を重合し硬化させた層であり、該フッ素化合物としては、例えばパーフルオロアルキル鎖を有し、かつビニル基、アクリル基、メタクリル基のいずれかを含む付加重合性官能基を有する化合物が挙げられる。パーフルオロアルキル基における炭素数としては、150〜2000が好ましい。
【0022】
ここでいう付加重合性官能基を有するフッ素化合物については、厳密に言えば、付加重合のほかに、縮重合などでも効果は見られるが、一般に付加重合は他の重合に比べて重合前後での体積変化、特に収縮が小さく、塗工時や使用時の各種の悪影響が小さく好ましい。また、一般的にラジカルなどで開始される付加重合に比べて、縮重合では硬化反応速度が遅い傾向にある。
【0023】
付加重合官能基を有するフッ素化合物において、付加重合官能基としては、アクリル基またはメタクリル基が好ましい。これらの基は、取り扱いも簡便で、また重合性に優れている上に、膜の硬度なども充分となる。特に作成中の皮膚刺激性を抑制したい、あるいは硬い被膜を得たい時にはメタクリル基のものを用いると良く、逆に柔らかい被膜を得たい、あるいは低エネルギー量で効率よく重合させたい際には、アクリル基の物を用いるなど適宜調整することができる。
【0024】
活性エネルギー線硬化樹脂層Aの膜厚は0.1〜1.0μmが好ましい。0.1μmより薄いと滑剤の影響を受けて表面が平滑にならない。また、1.0μmより厚いと硬化不良になりやすい。
【0025】
前記活性エネルギー線硬化樹脂層Bは、酸化ケイ素や窒化ケイ素などの無機化合物からなる無機化合物層(104)の下に積層することにより、無機化合物層と活性エネルギー線硬化樹脂A層との間の密着性を向上させる、いわゆるプライマー層となる物である。分子量が150〜600のトリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル化合物は特に限定されるものではなく、分子内に1個のトリアルコキシシリル基と、(メタ)アクリル基を1〜3個含めば良い。(メタ)アクリル基が1個の時は、無機化合物層とより高い密着性を得ることができる。2,3個の時は架橋密度が高くなることにより、活性エネルギー線硬化樹脂層Bの膜強度を高くすることができるが、同時に密着性がやや下がることがある。分子量が150〜600のトリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル化合物としては、例えば3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどや、その他のシランカップリング剤と、(メタ)アクリル酸を反応せしめて得られる化合物などを使用することができる。前記活性エネルギー線硬化樹脂層Bには、強度、屈曲性、擦傷性等目的に応じて単官能(メタ)アクリレートや、二官能以上の(メタ)アクリル化合物を配合することができる。特に限定されるものではなく、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する化合物、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエイチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基を有する化合物、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の環状骨格を有する(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアクリル単官能化合物や、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレンジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#400ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルジ(メタ)アクリレート、ジメチロルトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等のアクリル2官能化合物、二官能エポキシ(メタ)アクリレート等、二官能ウレタン(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリル化合物等の二官能(メタ)アクリル化合物が挙げられる。また、三個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリス
リトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンテトラアクリレート等のアクリル多官能モノマーや、(メタ)アクリル多官能エポキシアクリレート、(メタ)アクリル多官能ウレタンアクリレート等などを用いることができる。
【0026】
活性エネルギー線硬化樹脂層Bが、分子量が150〜600のトリアルコキシシリル基を含むと、例えばSiと結合するため、無機化合物層と密着がよくなる。トリアルコキシシリル基の分子量が150未満であると膜になりにくく、かつ、膜強度が弱く、分子量が600より大きいと蒸発温度が高くなり、高温で熱重合しやすくなる。
活性エネルギー線硬化樹脂層Bの膜厚は、0.05〜0.3μmが好ましい。0.05μmより薄いと滑剤の影響を受けて表面が平滑にならない。また、薄くて膜になりにくい。0.3μmより厚いと硬化不良になりやすい。
【0027】
また、活性エネルギー線硬化樹脂層AおよびBは、活性エネルギー線硬化樹脂原料層AおよびBを形成した後、凝集させ、その後活性エネルギー線又はプラズマを照射して同時に硬化させてなることが好ましい。この形態によれば、活性エネルギー線硬化樹脂層AおよびBが界面で適度に混合し、界面での剥離が抑制され、密着性を向上させることができる。
なお、活性エネルギー線又はプラズマを照射することにより、短時間で重合させることができ、熱付加による基材の伸びや有機化合物層の変形が少ないという効果を奏する。
【0028】
また、活性エネルギー線硬化樹脂原料層AおよびBは、フラッシュ蒸着法を用いて形成するのが好ましい。この形態によれば、材料を瞬時に気化させて基材に凝集させることができる;非常に膜厚を薄くできる;無溶剤であり、環境によい;蒸着とのインライン化ができ、工程短縮になる;真空中で行うので、クリーンな膜ができる等の効果を奏する。
【0029】
さらに、前記活性エネルギー線硬化樹脂層Bの表面に無機化合物層(104)を設ける。無機化合物層(104)は、例えば化学蒸着(CVD)法によって形成することができる。化学蒸着(CVD)法を用いることにより、緻密で薄い膜ができ、フィルムの曲げ、伸びに対して、蒸着膜が割れず、バリア性能が低下しないため好ましい。
【0030】
無機化合物層(104)は、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜、酸窒化ケイ素いずれかの膜から形成され、原料としてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)などの有機シラン材料を用いてプラズマで活性化された雰囲気下で酸素および窒素と反応させて形成する。
供給する原料ガスと反応ガスの量は膜厚、酸化度、巻き取り速度、真空成膜装置(1)の大きさ等によって最適化される。また、無機化合物層(104)の成膜プロセスは、化学蒸着(CVD)法に限定されるものではなく、酸化ケイ素、窒化ケイ素、シリコンなどのターゲットをスパッタリングすることで形成しても良いし、真空蒸着法で形成しても良い。
無機化合物層(104)の膜厚は、5〜300nmが好ましい。5nmより薄いと均一な膜が得られず、かつ、バリア機能を発現させるための十分な膜厚でない、300nmより厚いと薄膜の柔軟性にかけ、外的応力により容易に亀裂を生じるおそれがある。
【0031】
活性エネルギー線硬化樹脂層AおよびBには、それぞれ重合を効率良く進行させるために、重合開始剤を配合することができる。重合開始剤は特に限られる物ではなく、活性エネルギーを照射した際に、ラジカルを発生する化合物であればよい。たとえば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルー1−フェニルプロパンー1−オン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパンー1−オン、2,2−ジメトキシー1,2−ジフェニルエタンー1−オン、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシー2−メチル
1−プロパンー1−オン、2−ベンジルー2−ジメチルアミノー1−(4−モルフォリノフェニル)ブタンー1−オン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が使用できる。本発明において重合開始剤の配合量は、活性エネルギー線硬化樹脂層AおよびB100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは1〜7重量部、更に好ましくは1〜5重量部とされる。
【0032】
前記活性エネルギー線硬化樹脂層は、AおよびBをそれぞれ積層すればよいが、屈曲性、耐衝撃性など目的に応じて前記活性エネルギー線硬化樹脂層AおよびBの中間に、活性エネルギー線硬化樹脂層Cを設けることができる。活性エネルギー線硬化樹脂層Cは特に限定されるものではなく、目的とする特性を得ることができる、(メタ)アクリル化合物であればよい。
【0033】
図3に太陽電池用裏面保護シートとしての積層体を示す。
太陽電池用裏面保護シートは図2の積層体の無機化合物層(104)の表面に被膜層(105)を設け、さらにドライラミネーション法で表裏を接着剤(106、107)を用いて、フッ素系樹脂フィルム(108,109)を貼りあわせたものである。
【0034】
被膜層(105)は無機化合物層(104)を保護するためのもので、さらに高いガスバリア性を付与するための層である。
【0035】
上記被膜層(105)に関し、高いガスバリア性を付与する被膜層の形成材料としては、例えば、水溶性高分子と1種以上の金属アルコキシド及び/又はその加水分解物からなるもの、さらには前記金属アルコキシドが、テトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウム、またはこれらの混合物のいずれかからなる溶液を塗布形成したものである。高いガスバリア性を付与する被膜層の他の例としては、水溶性高分子と塩化錫からなるもの、さらには前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールからなる溶液を塗布形成したものである。具体的には、水溶性高分子と塩化錫を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させた溶液、或いは前記溶液に金属アルコキシドを直接、或いは予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合した溶液を無機化合物層(104)にコーティング、加熱乾燥し形成したものである。被膜層(105)を形成する各成分についてさらに詳細に説明する。
【0036】
被膜層(105)を形成するために用いられる水溶性高分子の具体例として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。特にポリビニルアルコール(以下、PVAという)がガスバリア性が最も優れる。ここでいうPVAは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるもので、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分けん化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全PVAまでを含み、特に限定されない。
【0037】
また、塩化錫は塩化第一錫(SnCl2)、塩化第二錫(SnCl4)、或いはそれらの混合物であってもよく、無水物でも水和物でも用いることができる。
【0038】
さらに、金属アルコキシドは、テトラエトキシシラン〔Si(OC254〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O−2'−C373〕などの一般式、M(OR)n (M:Si、Ti、Al、Zr等の金属、R:CH3、C25等のアルキル基)で表せるものである。中でもテトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウムが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0039】
上述した各成分を単独又はいくつかを組み合わせて被膜層を形成することができ、さらに被膜層のガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの添加剤を加えてもよい。
【0040】
例えば、被膜層(105)に加えられるイソシアネート化合物は、その分子中に2個以上のイソシアネート基(NCO基)を有するものであり、例えばトリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネートなどのモノマー類と、これらの重合体、または誘導体などがある。
【0041】
被膜層(105)を形成するためのコーティング剤の塗布方法には、通常用いられるディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、スプレー法などの従来公知の手段を用いることができる。また被膜層の厚さは、被膜層を形成するコーティング剤の種類や加工条件によって異なるが、乾燥後の厚さが0.01μm以上あれば良いが、厚さが50μm以上では膜にクラックが生じ易くなるため、0.01〜50μmの範囲が好ましい。
【0042】
本発明の太陽電池用裏面保護シートの積層方法としては、ドライラミネート法などの公知の積層方法で積層することができる。接着剤層(106、107)に使用する接着剤としては、フッ素系樹脂フィルム(108)と被膜層(105)、フッ素系樹脂フィルム(109)とフィルム基材(101)との間の接着強度が長期間の屋外使用で劣化によるデラミネーションなどを生じないこと、さらに接着剤が黄変しないことなどが必要であり、例えば、ポリウレタン系接着剤などが使用できる。上記の接着剤は、例えば、ロ−ルコ−ト法、グラビアロ−ルコ−ト法、キスコ−ト法、その他等のコ−ト法、あるいは、印刷法等によって施すことができ、そのコ−ティング量としては、0.1〜10g/m2(乾燥状態)位が望ましい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0044】
実施例1
25μm厚のポリフッ化ビニルフィルム(デュポン(株)商品名:テドラー)を真空成膜装置(1)の巻き出しロール(4)に装着し、真空成膜装置(1)内を 1.0×10-3Paまで減圧した。プロセスロール(3)上でパーフロロオクチルエチルアクリレート(共栄社化学社製、ライトアクリレートFA―108)を、活性エネルギー線硬化樹脂原料層A樹脂蒸着装置(6)に、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、KBM5103)を、活性エネルギー線硬化樹脂原料層B樹脂蒸着装置(7)に、にそれぞれ供給し、硬化後の活性エネルギー線硬化樹脂層AB(102、103)の厚さが1.0μmになるように制御した。電子線照射装置(8)により照射される加速電圧は10kVであった。
【0045】
さらに、HMDSO流量:10sccm、O2流量100sccmを導入し、周波数13.56MHz、電力1000Wでプラズマを発生させ、プロセスロール(3)に密着させながら、活性エネルギー線硬化樹脂層B(102、103)表面に化学蒸着(CVD)法によって酸化ケイ素膜からなる無機化合物層(104)を形成した。
【0046】
〈被膜層(105)用の塗布液の調整〉
(1)被膜層用のa成分液の調整
テトラエトキシシラン〔Si(OC254 〕17.9gとメタノール10gに塩酸(0.1N)72.1gを加え、30分間攪拌し、加水分解させて固形分5重量%(重量比SiO2換算)のa成分液を調整した。
(2)被膜層用のb成分液の調整
ポリビニルアルコール樹脂を水/メタノール=95/5(重量比)の混合溶媒で溶解し、固形分5重量%のb成分液を調整した。
(3)被膜層用のc成分液の調整
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとイソプロピルアルコール(IPA)の溶液に塩酸(1N)を少しずつ加え、30分間攪拌し、加水分解させた後に、水/IPA=1/1の混合液を加えて加水分解を行い、固形分5重量%(重量比R2Si(OH)3換算)のc成分液を調整した。
【0047】
引き続き、前記a〜cの各成分液を用いて、a成分液/b成分液/c成分液=70/20/10(固形分重量比率)になるように配合して、ガスバリア性被膜層用の塗布液を調整した。
【0048】
前記調整した塗布液を用いて、厚み0.1μmの乾燥被膜からなる被膜層(105)を積層して、ガスバリアフィルムを作成した。続いて、そのガスバリアフィルムの被膜層(105)面に、三井化学ポリウレタン(株)製ポリウレタン系接着剤(主剤タケラックA511/硬化剤タケネートA50=10/1溶液)を使用して、塗布量5g/m2(乾燥状態)の接着剤からなる接着剤層(106)を積層し、その上にフッ素系樹脂フィルム層(108)として厚さ50μmのポリフッ化ビニルフィルム(デュポン、商品名:テドラー)を積層し、さらに、反対側のフィルム基材層(101)面に前記と同一のポリウレタン系接着剤を用いて、塗布量5g/m2(乾燥状態)の接着剤からなる接着剤層(107)を積層し、その上にフッ素系樹脂フィルム層(109)として前記と同一の厚さ50μmのポリフッ化ビニルフィルム(デュポン、商品名:テドラー)を積層して、本発明の太陽電池用裏面保護シート(図3)を作成した。
【0049】
比較例1
実施例1において、有機化合物層を設けず、フィルム基材に直接無機化合物層(104)を設けた以外は、実施例1と同様にして太陽電池用裏面保護シート(図4)を作成した。
【0050】
比較例2
実施例1において、有機化合物層を真空中で凝集させた代わりに、フィルム基材にプラズマ処理を行い、無機化合物層(104)を設けた以外は、実施例1と同様にして太陽電池用裏面保護シート(図5)を作成した。
【0051】
比較例3
実施例1において、有機化合物層を真空中で凝集させた代わりに、グラビアコーティング法にて塗工して、電子線硬化させ、活性エネルギー線硬化樹脂層A(110)、活性エネルギー線硬化樹脂層B(111)を設け、活性エネルギー線硬化樹脂層B(111)の表面に実施例1と同様に無機化合物層(104)を設けた以外は、実施例1と同様にして太陽電池用裏面保護シート(図6)を作成した。反応開始剤として、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャルティケミカルズ社製、イルガキュア184)を用いた。
【0052】
評価
実施例1と比較例1〜3の太陽電池用裏面保護シートの水蒸気透過度をJIS K7129に基づき、温度40℃、湿度90%RHの条件で米国MOCON社製の測定機(機種名、パーマトラン)にて測定した。
また実施例1と比較例1〜3のラミネート強度は太陽電池用裏面保護シートを15mm幅に裁断し、引っ張り試験機にて引っ張りスピード50mm/minにて180度はく離試験を行い、測定した。
【0053】
評価基準として、バリア性は水蒸気透過度が1(g/m・day)以下を○、1(g/m・day)未満を×とした。
密着性はラミネート強度が8(N/15mm)以上を○、8(N/15mm)未満を×とした。
評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1より実施例1で得られた本発明の積層体を備えた太陽電池用裏面保護シートは比較例1〜3で製造された太陽電池用裏面保護シートと比較して、高度な水蒸気バリア性と密着性を有することが確認できた。比較例1はポリフッ化ビニルフィルムの基材のため、処理なし、コートなしではガスバリア層との密着性が弱かった。比較例2はフィルム基材にプラズマ処理行い、表面を荒らしたため、密着性は強いが、バリア性は悪かった。比較例3は実施例1と違い、有機化合物層が厚く、平滑でなく、2層の有機化合物層と無機化合物層を別工程にて別々に固めるため、密着性も弱く、収縮によりクラックも発生し、バリア性も悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】発明の積層体の製造に用い得る装置の模式図である。
【図2】本発明の積層体の一例の断面図である。
【図3】本発明の積層体を用いた太陽電池用裏面保護シートの一例の断面図である。
【図4】比較例1の太陽電池用裏面保護シートの断面図である。
【図5】比較例2の太陽電池用裏面保護シートの断面図である。
【図6】比較例3の太陽電池用裏面保護シートの断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1・・・真空成膜装置
2・・・真空ポンプA
3・・・プロセスロール
4・・・巻き出しロール
5・・・巻き取りロール
6・・・活性エネルギー線硬化樹脂原料層A樹脂蒸着装置
7・・・活性エネルギー線硬化樹脂原料層B樹脂蒸着装置
8・・・電子線照射装置
9・・・遮蔽板A
10・・・無機化合物層形成装置
11・・・活性エネルギー線硬化樹脂層A樹脂原料供給装置
12・・・活性エネルギー線硬化樹脂層B樹脂原料供給装置
13・・・ガス供給装置
14・・・真空ポンプB
15・・・真空ポンプC
16・・・圧力調整弁A
17・・・圧力調整弁B
18・・・遮蔽板B
19・・・遮蔽版C
101・・・基材
102・・・活性エネルギー線硬化樹脂層A
103・・・活性エネルギー線硬化樹脂層B
104・・・無機化合物層
105・・・被膜層
106・・・接着剤層
107・・・接着剤層
108・・・フッ素系樹脂フィルム層
109・・・フッ素系樹脂フィルム層
110・・・活性エネルギー線硬化樹脂層A
111・・・活性エネルギー線硬化樹脂層B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、有機化合物層、無機化合物層を順次設けてなる積層体であって、
前記有機化合物層は、少なくとも
付加重合官能基を有するフッ素化合物を含み、かつ、前記フッ素系樹脂フィルム上に形成された有機化合物層Aと、分子量が150〜600のトリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル化合物を含み、かつ、前記無機化合物層と接する側に形成された有機化合物層Bと、を含み、
前記有機化合物層および無機化合物層は、真空雰囲気下において蒸着法を用いて形成されたものである
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記有機化合物層Aおよび有機化合物層Bは、真空雰囲気下において前記フッ素系樹脂フィルム上に順次蒸着した後、凝集させ、活性エネルギー線又はプラズマを照射して同時に硬化させてなることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記付加重合官能基がアクリル基またはメタクリル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記有機化合物層がフラッシュ蒸着法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記無機化合物層が化学蒸着(CVD)法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記有機化合物層および無機化合物層が同一真空中で大気に曝されることなく形成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の積層体の両面に接着剤を介してフッ素系樹脂フィルムを貼りあわせてなることを特徴とする太陽電池用裏面保護シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−107235(P2009−107235A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282647(P2007−282647)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】