説明

積層構造体の製造方法、有機薄膜トランジスタの製造方法及び有機薄膜トランジスタアレイの製造方法

【課題】低抵抗の配線を形成するための積層構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に、高表面エネルギー領域と低表面エネルギー領域が形成されている濡れ性変化層を形成する工程と、高表面エネルギー領域を覆うように、濡れ性変化層から所定の間隔を隔て対向基板を設置する工程と、高表面エネルギー領域上に導電性材料を含む溶液を供給する工程と、導電性材料を含む溶液を乾燥または硬化させることにより、高表面エネルギー領域上に導電層を形成する工程を有することを特徴とする積層構造体の製造方法を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体の製造方法、有機薄膜トランジスタの製造方法及有機薄膜トランジスタアレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のアクティブマトリックスTFT(Thin Film Transistor)電極の作製方法の主流はフォトリソグラフィー法によるものである。近年、材料利用効率の高さ工程数の少なさから、フォトリソグラフィー法に代わる方法として、電極となる導電性材料を溶解・分散させた電極材料溶液(導電性材料を含む機能液)を直接インクジェット法で描画する方法が注目されている。例えば、粒径1〜100nm程度の金属微粒子を有機溶媒中に一様に分散させたナノメタルインクを用いて直接描画により約50μm幅の配線が可能であることが知られている。
【0003】
このインクジェット装置による導電性材料を含む機能液の直接描画による微細配線の課題として、微小液滴化や着弾精度の改善が挙げられる。現在、インクジェット装置のヘッドからの液適量は1ピコリットル(pL)からサブフェムトリットル(fL)程度で達成されている。例えば、1pLから計算される液滴サイズは、直径12.4μmであり、液滴着弾後に接触角30°で濡れ広がると仮定すると、着弾後の液滴径は26.5μmとなる。更には、高濃度・高密度の導電性材料を含む機能液の場合には、液滴の自重により接触角が低くなること、インクジェット装置より吐出される液滴は、運動エネルギーを有していることを考慮すると、着弾後の液滴サイズは更に大きくなる。また、不良吐出やインクジェットヘッドの位置精度等を考慮すると、インクの着弾精度は数10から数100μmと見積もられる。
【0004】
このため、特許文献1及び2では、液滴の被着弾面に親液・撥液パターンを形成することで着弾後の液滴の濡れ広がりを制御する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3では、被着弾面に液滴が漏れないように撥液性バンクを形成する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、毛細管現象を利用したパターン形成の方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−310962号公報
【特許文献2】特開2006−278534号公報
【特許文献3】特開2005−12181号公報
【特許文献4】特開2004−80026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、導電性材料を含む機能液を用いてインクジェット法により微細配線や電極を形成するためには様々な課題がある。1つには、微細配線の抵抗の問題がある。これは、一般的に、電極配線が細かくなればなる程、電気抵抗は大きくなり、これに伴い、電極配線での電圧降下、電極特性のバラツキ、配線抵抗のための発熱、更には大きな消費電力が問題となっている。このため、電極配線の厚膜化が必要となる。
【0008】
電極配線を厚膜化するためには、機能液中の導電性材料の分量比を大きくする方法がある。しかしながら、高濃度化に伴って粘度が大きくなり、インクジェット装置から液滴を安定して吐出することが困難となる。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、導電性材料を含む機能液を用いて、簡単に電極を厚く形成することができ、電極配線の抵抗を低減した積層構造体の製造方法、有機薄膜トランジスタの製造方法及有機薄膜トランジスタアレイの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基板上に、高表面エネルギー領域と低表面エネルギー領域が形成されている濡れ性変化層を形成する工程と、前記高表面エネルギー領域を覆うように、前記濡れ性変化層から所定の間隔を隔て対向基板を設置する工程と、前記高表面エネルギー領域上に導電性材料を含む溶液を供給する工程と、前記導電性材料を含む溶液を乾燥または硬化させることにより、前記高表面エネルギー領域上に導電層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、基板上にエネルギーの付与により表面エネルギーが変化する濡れ性変化材料を含む濡れ性変化層を形成する工程と、前記濡れ性変化層の表面に前記エネルギーを付与することにより、高表面エネルギー領域を形成する工程と、前記高表面エネルギー領域を覆うように、前記濡れ性変化層から所定の間隔を隔て対向基板を設置する工程と、前記高表面エネルギー領域上に導電性材料を含む溶液を供給する工程と、前記導電性材料を含む溶液を乾燥または硬化させることにより、前記高表面エネルギー領域上に導電層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記高表面エネルギー領域は、幅の広い第1の領域と、前記第1の領域から延設された前記第1の領域よりも幅の狭い第2の領域から構成されており、前記対向基板は、前記第2の領域の上方を覆うものであって、前記導電性材料を含む溶液は、前記第1の領域より供給されるものであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記高表面エネルギー領域への前記導電性材料を含む溶液の供給は、インクジェット法であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記導電層を形成する工程の後、前記対向基板を除去することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記濡れ性変化層から所定の間隔は、100nm〜150μmであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記対向基板において、前記基板の濡れ性変化層に対向する側における表面エネルギーは、前記濡れ性変化層における高表面エネルギー領域の表面エネルギーよりも低いことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記対向基板には、前記基板の濡れ性変化層が形成されている側に、対向基板濡れ性変化層が形成されており、前記対向基板濡れ性変化層の表面には対向基板高表面エネルギー領域が形成されており、前記濡れ性変化層における高表面エネルギー領域に対向する位置に、前記対向基板高表面エネルギー領域が配置されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記濡れ性変化層高表面エネルギー領域の幅は、前記高表面エネルギー領域における幅と同じであるか、又は狭いものであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記対向基板は、前記基板の濡れ性変化層が形成されている側に、突起部が形成されており、前記濡れ性変化層における高表面エネルギー領域に対向する位置に、前記突起部が配置されており、前記突起部と前記濡れ性変化層の間隔は略一定であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、前記突起部は、前記対向基板面内に一次元または二次元的に延設され、突起部の延設方向に垂直な断面における突起部の幅は、前記濡れ性変化層における高表面エネルギー領域の幅と同じであるか、又は狭い幅であり、その断面形状は矩形、半円形、角形の一次元状の突起部であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、基板上にゲート電極が形成し、前記ゲート電極上にゲート絶縁膜が形成し、前記ゲート絶縁膜上に、隔てて形成されたソース電極及びドレイン電極を形成し、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に有機半導体層を形成し、前記ゲート電極に電圧を印加することにより動作する有機トランジスタの製造方法において、前記ゲート電極、前記ソース電極及び前記ドレイン電極のいずれかは、前記積層構造体の製造方法により形成された導電層であることを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【0022】
また、本発明は、前記積層構造体の製造方法により、電極又は配線層を形成する工程と、前記電極のうちソース電極とドレイン電極との間に有機半導体層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、導電性材料を含む機能液を用いて、簡単に電極を厚く形成することができ、電極配線の抵抗を低減した積層構造体の製造方法、有機薄膜トランジスタの製造方法及有機薄膜トランジスタアレイの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を実施するための最良の形態について、以下に説明する。
【0025】
最初に、本発明に至った経緯について説明する。
【0026】
電極を厚く形成するためには、導電性材料を含む機能液(導電性材料を含む溶液)量を多くする必要がある。導電性材料を含む機能液は液体であるがゆえ、その被着弾面のある配線幅に対して描画できる液滴量は自ずと定まる。このことを、図1に基づき説明する。例えば、図1(a)に示されるように、基板20上に濡れ性変化層30が形成され、濡れ性変化層30の表面に高表面エネルギー領域40と低表面エネルギー領域50とが形成されたものについて、高表面エネルギー領域40に導電性材料を含む機能液60を供給した場合、高表面エネルギー領域40により形成される配線幅が50μmであり、導電性材料を含む機能液60の高表面エネルギー領域40と低表面エネルギー領域50との境界で許容できる接触角が30°であり、導電性材料を含む機能液60の断面が円形であるものと仮定した場合、表面張力により自己的に保持される液滴断面の最大の高さは6.7μmとなる。更に、この許容高さを超えて液滴を供給すると、図1(b)に示されるように、低表面エネルギー領域50に導電性材料を含む機能液60が溢れてしまう。
【0027】
このため、本発明においては、導電性材料を含む機能液と、基板上に形成された濡れ性変化層の高表面エネルギー領域に対向して、対向基板を設けることにより、高表面エネルギー領域と対向基板の間に導電性材料を含む機能液を毛細管現象により効果的に注入し、液体架橋(メニスカス)現象を利用することにより、電極を厚く形成することを可能とするものである。このことを、図2に基づき説明する。
【0028】
図2(a)は、図1(a)と同様に、対向基板を用いない構成のものであり、基板20上に濡れ性変化層30を形成し、高表面エネルギー領域40と低表面エネルギー領域50とを形成し、高表面エネルギー領域40上に、導電性材料を含む機能液60を供給した場合を示す。この場合は、前述のとおり、一定の高さ以上に導電性材料を含む機能液60を供給することができず、従って、形成される電極の厚さも限られたものとなる。
【0029】
一方、図2(b)は、高表面エネルギー領域40に対向して、対向基板70を設けた構成のものである。このような構成にすることにより、前述したメニスカス現象により高表面エネルギー領域40と対向基板70との間に、導電性材料を含む機能液60をより多く供給することができ、これにより、後に形成される電極を厚くすることが可能となるのである。
【0030】
また、図2(c)は、対向基板70の表面に濡れ性変化層71を形成し、この濡れ性変化層71の表面に、高表面エネルギー領域72と低表面エネルギー領域73とを形成したものを用いた場合を示す。このような構成において、基板20上の濡れ性変化層30に形成される高表面エネルギー領域40と、対向基板70上の濡れ性変化層71に形成される高表面エネルギー領域72との間に、導電性材料を含む機能液60を供給することにより、形成される電極を厚くすることが可能となる。
【0031】
また、図2(d)は、対向基板70上の濡れ性変化層71において、高表面エネルギー領域72の幅を狭くした場合を示す。このようなパターンの高表面エネルギー領域72により、供給される導電性材料を含む機能液60の形状を変化させることができ、形成される電極の形状を変えることができる。
【0032】
また、図2(e)は、対向基板70に突起部の延設方向と垂直な方向における断面が矩形状の突起部74を設けた構造の場合である。導電性材料を含む機能液60の表面張力により、基板20上の濡れ性変化層30の高表面エネルギー領域40と、対向基板70に断面が矩形状の突起部74の表面との間に、電性材料を含む機能液60が広がり、導電性材料を含む機能液60の供給量を増やすことができ、形成される電極を厚くすることが可能となる。
【0033】
また、図2(f)は、対向基板70に設けられた突起部の延設方向と垂直な方向における断面が矩形状の突起部74の幅が高表面エネルギー領域の幅と比べて狭い構成のものを示す。このような形状の突起部74により、供給される導電性材料を含む機能液60の形状を変化させることができ、形成される電極の形状を変えることができる。
【0034】
また、図2(g)は、対向基板70に突起部の延設方向と垂直な方向における断面が半円形である突起部75を設けた場合であり、図2(h)は、対向基板70に突起部の延設方向と垂直な方向における断面が角形である突起部76を設けたものである。このような断面形状の突起部75又は突起部76により、供給される導電性材料を含む機能液60の形状を変化させることができ、最適な形状の導電層を得ることができる。
【0035】
尚、図2(b)〜(d)に示す対向基板70の形成方法等については後に詳しく説明する。また、図2(e)〜(h)に示す対向基板70の突起部74、75、76は、金属表面をフォトエッチング加工したステンレス、Ni、Fe、合金等の金属材料、レーザー照射等によって表面に凹凸を形成したガラス、シリコン等の無機材料や、微細射出(圧縮)成型(マイクロモールディング)法等の凹凸を形成したPDMS(ポリジメチルシロキサン)等の高分子材料により形成することができる。
【0036】
ところで、毛細管現象とは、細い管状物体の内側で液体が管の中を上昇する現象である。この現象は、管状物体壁面に働く液体の表面張力が液体自身を上方に引張ることにより生じるものである。この現象は、管状物体のみに観測されるものではなく、狭く一定の距離を隔てた2枚の基板間においても同様に生じる。
【0037】
液体架橋(メニスカス)現象とは、物体間の微小間隙にできる液体架橋のことであり、液体が物体表面と接するときに両者の分子間に働く付着力と液体分子間の凝縮力の大小関係で生じる湾曲した液体表面のことである。この現象は物体表面の表面エネルギーが高い場合に、より顕著となる。
【0038】
(積層構造体の製造方法)
次に、本実施の形態における積層構造体の製造方法について図3及び図4に基づき説明する。
【0039】
最初に、ステップ102(S102)において、濡れ性機能材料を含む溶液を基板上に塗布し、その後乾燥させて濡れ性変化層を形成する。具体的には、図4(a)に示すように、基板120上に濡れ性変化層130を形成する。濡れ性機能材料を含む溶液の塗布方法は、スピンコート法、ドクターブレード法、キャスト法、スプレー法、浸漬法等が挙げられ、均一な膜質が得られる塗布法が好ましい。
【0040】
濡れ性機能材料としては、側鎖に疎水性基を有する高分子材料、特に主鎖がポリイミドである材料が、耐熱性、絶縁性の観点から好ましい。特に、ポリイミドとしては、ポリアミック酸の加熱脱水縮合反応で生じる熱硬化型ポリイミド又は、NMP等の特定の溶媒に可溶な可溶性ポリイミドが好ましい。前者は、ポリイミドの脱水縮合反応率(イミド化率)を高めるために200℃以上で焼成する必要があるのに対し、後者は、溶媒を揮発させるために200℃以下での焼成も可能である。これらポリイミド等の高分子材料を塗布した状態では、濡れ性変化層130の表面は低表面エネルギー状態(全面に低表面エネルギー領域150が広がった状態)となっている。
【0041】
基板120としては、ガラス基板、シリコン基板、ステンレス基板、ポリマー材料基板を用いることができる。ポリマー材料基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルサルフォン(PES)等からなるものを用いることができる。
【0042】
次に、ステップ104(S104)において、フォトマスクを用いて濡れ性変化層130の表面に紫外線を照射する。この紫外線照射により、濡れ性変化層130において、疎水基を有する側鎖の一部又は主鎖の一部が切断され、露光された領域が低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化し、高表面エネルギー領域140が形成される。これにより、図4(b)に示すように、濡れ性変化層130の表面には、高表面エネルギー領域140と低表面エネルギー領域150からなるパターンが形成される。
【0043】
高表面エネルギー領域140における後述する機能液の接触角は10°以下であり、低表面エネルギー領域150における後述する機能液の接触角は25°以上であることが好ましい。また、高表面エネルギー領域140と低表面エネルギー領域150における機能液の接触角の差は、本実施の形態では少なくとも15°以上あることが好ましい。
【0044】
更に、エネルギーの付与によって形成された高表面エネルギー領域140の幅は、1μmから1mm程度であることが好ましい。また、エネルギーを付与する方法としては、紫外光の他、熱、電子線、プラズマ等、材料に応じた手法を用いることが好ましい。特に、側鎖に疎水性基を有するポリイミド材料を濡れ性変化層130として用いる場合には、紫外光又は可視光による光照射が効果的である。
【0045】
後述する濡れ性変化層130の表面に形成される高表面エネルギー領域140において、その幅の異なる領域が存在している場合、各々の幅の比は1に近いほど好ましい。具体的には、図5に示すように、高表面エネルギー領域140において、導電性材料を含む機能液が着弾する幅W1の第1の領域140aと、着弾した導電性材料を含む機能液が流動する幅W2の第2の領域140bが存在している場合には、幅の比W1/W2は1に近いほど好ましい。これは、高表面エネルギー領域の第1の領域140a上に供給された導電性材料を含む機能液の内部圧力(いわゆるラプラス圧)と第2の領域140b上に自己流動した導電性材料を含む機能液の内部圧力の差が小さい方が好ましいからである。但し、インクジェット装置から吐出された導電性材料を含む機能液の着弾精度の観点からは、第1の領域140aの幅W1は広くする必要があり、微細配線の観点からは、第2の領域140bの幅W2は第1の領域140aの幅W1よりも狭い方が好ましい。
【0046】
次に、ステップ106(S106)において、基板120表面の濡れ性変化層130の高表面エネルギー領域140に対向して対向基板を設置する。これは、図4(c)に示すように、高表面エネルギー領域140の表面の少なくとも一部を覆うように対向基板170を併設するものである。濡れ性変化層130と対向基板170との距離は、ビーズやフィルム等のスペーサーを設置する方法や、上方より機械的に対向基板170を支持する方法により設定される。図6は、このような対向基板170を併設するための治具を示す。この治具を用いて、ステージ191上に基板120を濡れ性変化層130が上になるように設置し、対向基板170を支持棒192により固定し、支持棒192の高さを調節するための微動Z軸調整手段193により、基板120と対向基板170との間隔Wを調整することができる。また、このような治具を用いることにより、高表面エネルギー領域140上に導電性材料を含む機能液を供給する際には、間隔Wを狭くした状態とし、導電性材料を含む機能液が対向基板170に接触した後には、次第に間隔Wを広げることにより、より多くの導電性材料を含む機能液を供給することが可能となる。
【0047】
基板120上の濡れ性変化層130表面から対向基板170までの最初に設定される距離は、濡れ性変化層130に形成される高表面エネルギー領域の幅と、導電性材料を含む機能液と高表面エネルギー領域との界面の相互作用、導電性材料を含む機能液の物性等に依存して定まる。即ち、濡れ性変化層130に形成される高表面エネルギー領域140が保持できる導電性材料を含む機能液の高さを超えて、基板120上の濡れ性変化層130と対向基板170との間隔を設定することはできない。言い換えれば、高表面エネルギー領域140の幅と、高表面エネルギー領域140と低表面エネルギー領域150との境界での導電性材料を含む機能液の許容できる接触角より、導電性材料を含む機能液の高さの最大値が定まり、基板120上の濡れ性変化層130表面から対向基板170までの距離は、この最大値を超えて設定すると、本実施の形態を実現することができなくなってしまうのである。
【0048】
しかしながら、導電性材料を含む機能液を供給し、メニスカス現象により導電性材料を含む機能液により、高表面エネルギー領域140と対向基板170との間で液体架橋を形成すると、基板120上の濡れ性変化層130表面から対向基板170までの距離は、上記最大値を超えて設定することが可能となる。
【0049】
本実施の形態では、基板120上の濡れ性変化層130表面から対向基板170までの距離は、100nm〜150μm程度であることが好ましい。
【0050】
対向基板170を構成する材料の材質は、剛性を有するガラス基板やステンレス等の金属基板又は、剛性を有する部材に固定された柔軟性を有する基板、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリシリコーン等のポリマー基板材料が好ましい。
【0051】
また、対向基板170において撥液(撥水)性を付与する加工方法としては、ガラス基板表面に撥水性基を有するシランカップリング剤等の表面処理剤を用いる方法やフルオロ基を有する高分子材料を含む撥水コート剤を用いる方法が挙げられる。また、親液(親水)性を付与する加工方法としては、酸素・アルゴンガス等のプラズマ表面改質処理、UVオゾン照射処理等が挙げられる。
【0052】
また、対向基板170の表面に対向して対向基板濡れ性変化層を形成してもよい。図5に基づき説明すると、基板120上の濡れ性変化層130には、高表面エネルギー領域140が形成されており、高表面エネルギー領域140は、幅W1の第1の領域140aと幅W2の第2の領域140bにより構成されている。第1の領域140aの幅W1は、第2の領域140bの幅W2よりも広く形成されている。尚、第1の領域140aと接続される第2の領域140bは複数であってもよい。対向基板170は、対向濡れ性変化層171の形成されており、この面が基板120における濡れ性変化層130と向き合うように設置される。対向基板170における対向基板濡れ性変化層171には予め紫外線照射により、対向基板高表面エネルギー領域172が形成されており、基板120上の濡れ性変化層130の高表面エネルギー領域140の第2の領域140aと、対向基板170の対向基板濡れ性変化層170における対向基板高表面エネルギー領域172とが対向するように配置される。
【0053】
対向基板濡れ性変化層171は、ガラス基板等からなる対向基板170上に、基板120上に濡れ性変化層130を形成した場合と同様に、濡れ性機能材料を含む溶液をスピンコート法により塗布することにより形成する。対向基板高表面エネルギー領域172は、この後、フォトマスクを用いて紫外光を照射することにより、紫外光が照射された領域が高表面エネルギー状態となり、対向基板高表面エネルギー領域172が形成される。また、対向基板170としてガラス基板の表面にシランカップリング剤等により撥水性発現する表面改良処理を施し、フォトマスク等を用いてエネルギー照射を行ない、エネルギー照射された領域の親水化処理がなされ、これにより対向基板高表面エネルギー領域172を形成してもよい。
【0054】
次に、ステップ108(S108)において、導電性材料を含む機能液を供給する。具体的には、対向基板170で覆われていない基板120上の濡れ性変化層130の高表面エネルギー領域140に導電性材料を含む機能液を滴下する。これにより、図4(d)に示されるように、導電性材料を含む機能液160は、基板120上の濡れ性変化層130の高表面エネルギー領域140と対向基板170との間で液体架橋を形成する。導電性材料を含む機能液としては、Ag、Au、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ir、Mn、Mo、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、Sn、W、Zn等の金属微粒子が分散されたナノ微粒子インク又はポリアニリン(PANI)、ポリエチレンジオキシチオフェンをポリスチレンスルホネートに溶解させたPEDOT/PSS等の導電性高分子分散インク等を用いることが可能である。導電性材料を含む機能液を供給する方法としては、インクジェット法やマイクロディスペンス法等による滴下が挙げされる。これらの方法は、所望量の導電性材料を含む溶液を滴下することができるため適している。特に、インクジェット法は、微細な配線を形成するために導電性材料を含む機能液の供給量の微調整が可能であることから好ましい。インクジェット法を用いた場合には、インクジェット装置の液滴吐出ヘッドからの吐出の安定のため、導電性材料を含む機能液の表面張力は20mN/m以上、50mN/m以下、粘度は2mPa・s以上、50mPa・s以下であることが好ましい。
【0055】
次に、ステップ110(S110)において、導電性材料を含む機能液を乾燥させる。このように、導電性材料を含む機能液160を乾燥させることにより導電層180が形成される。尚、導電性材料を含む機能液が硬化剤を含むものである場合には、熱や光を与えることにより生じる反応により導電性材料を含む機能液を硬化させることができる。硬化剤としては、2液混合型エポキシ系樹脂等の熱硬化型や光硬化型ポリイミド系樹脂等の耐熱性を有しているものが好ましい。乾燥又は加熱による硬化の方法としては、オーブン等による対流伝熱方式、ホットプレート等を利用した伝導伝熱方式、遠赤外線やマイクロ波を用いた輻射伝熱方式等を用い、選択した材料に応じた温度により乾燥又は加熱することが可能である。また、導電性材料を含む機能液の乾燥を促進するために、対向基板170において、基板120上の濡れ性変化層130の高表面エネルギー領域140に対向していない部分に、通気のための複数の貫通する穴や溝を設けることが好ましい。
【0056】
次に、ステップ112(S112)において、対向基板170を除去する。図4(f)に対向基板170が除去された後の状態を示す。基板120上の濡れ性変化層130の高表面エネルギー領域140上に導電層170が形成される。
【0057】
これにより、本実施の形態における積層構造体が作製される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0059】
(実施例1)
実施例1として本実施の形態に係る積層構造体を作製した。本実施例について図7及び図8に基づき説明する。図7(a)は、実施例1の積層構造体の製造工程の一部を示す上面図であり、図7(b)は、破線7A1−7A2において切断した断面図であり、図7(c)は、破線7B1−7B2において切断した断面図であり、図7(d)は、破線7C1−7C2において切断した断面図である。また、図8(a)は、実施例1の積層構造体の製造工程の一部を示す上面図であり、図8(b)は、破線8A1−8A2において切断した断面図であり、図8(c)は、破線8B1−8B2において切断した断面図であり、図8(d)は、破線8C1−8C2において切断した断面図である。
【0060】
ガラス基板220上に濡れ性機能材料を含むNMP溶液をスピンコート法により塗布し、100℃で前焼成、200℃で1時間本焼成を行なうことにより厚さ500nmの濡れ性変化層230を形成した。尚、濡れ性機能材料としては、側鎖に疎水基を有するポリイミド材料を用いた。
【0061】
このように形成した濡れ性変化層230表面において露光を行なった。具体的には、超高圧水銀灯を光源として、可視光吸収色ガラスフィルター、所定のパターンの形成されたフォトマスクを介して、波長300nm以下の紫外光を照射することにより行なった。これにより、濡れ性変化層230の紫外光の照射された領域においては、側鎖の一部が分断されることにより親液性を示す高表面エネルギー領域240が形成され、濡れ性変化層230の表面には高表面エネルギー領域240と低表面エネルギー領域250からなるパターンが形成される。
【0062】
濡れ性変化層230の表面の高表面エネルギー領域240は、幅が2mmで形成された第1の領域240aと、幅が1mmで形成された第2の領域240bにより構成されている。
【0063】
次に、対向基板270となるガラス基板を準備し、中性洗剤を用いた超音波洗浄を行なうとともに十分に水洗いし、更に120℃のオーブンでガラス基板の表面に吸着している水分を除去した後、酸素プラズマ処理により対向基板270の表面の有機物を除去した。
【0064】
次に、基板220上の濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の第2の領域240bの一部を覆うように50μmの距離を隔てて対向基板270を設置した。基板220と対向基板270との距離の制御には、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルムスペーサー280を用いた。
【0065】
次に、図8に示すように、導電性材料を含む機能液260として、ナノ銀インクを塗れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の第1の領域240a上にマイクロディスペンサー290を用いて、0.1マイクロリットル(μL)ずつ滴下した。滴下量は濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の面積より算出し、ナノ銀インクが低表面エネルギー領域250上に溢れない量とした。ナノ銀インクが十分に濡れ広がるまで室温で保持した後、大気中100℃のオーブンで前焼成し、その後、大気中200℃のオーブンで1時間本焼成を行なった。
【0066】
この後、対向基板270を除去した。
【0067】
以上の方法により、実施例1となる積層構造体を作製した。
【0068】
(実施例2)
実施例2として本実施の形態に係る積層構造体を作製した。
【0069】
本実施例は、対向基板270として、ガラス基板の表面にフルオロ基を有する高分子材料を含む撥水コート剤を浸漬処理により均一に塗布し、室温大気中で溶媒を揮発させたものを作製したものを用いた。この対向基板270を用いて、実施例1と同様の方法により実施例2となる積層構造体を作製した。
【0070】
(実施例3)
実施例3として本実施の形態に係る積層構造体を作製した。本実施例について図9に基づき説明する。図9(a)は、本実施例の積層構造体の製造工程を示す上面図であり、図9(b)は、破線9A1−9A2において切断した断面図であり、図9(c)は、破線9B1−9B2において切断した断面図であり、図9(d)は、破線9C1−9C2において切断した断面図である。
【0071】
本実施例は、ガラス基板220上に濡れ性機能材料を含むNMP溶液をスピンコート法により塗布し、100℃で前焼成、200℃で1時間本焼成を行なうことにより厚さ500nmの濡れ性変化層230を形成した。尚、濡れ性機能材料としては、側鎖に疎水基を有するポリイミド材料を用いた。
【0072】
このように形成した濡れ性変化層230表面において露光を行なった。具体的には、超高圧水銀灯を光源として、可視光吸収色ガラスフィルター、所定のパターンの形成されたフォトマスクを介して、波長300nm以下の紫外光を照射することにより行なった。これにより、濡れ性変化層230の紫外光の照射された領域においては、側鎖の一部が分断されることにより親液性を示す高表面エネルギー領域240が形成され、濡れ性変化層230の表面には高表面エネルギー領域240と低表面エネルギー領域250からなるパターンが形成される。
【0073】
濡れ性変化層230の表面の高表面エネルギー領域240は、幅が2mmで形成された第1の領域240aと、幅が1mmで形成された第2の領域240bにより構成されている。
【0074】
また、対向基板270となるガラス基板上に、実施例1において濡れ性変化層230を形成する際に用いたものと同じ濡れ性機能材料を含むNMP溶液をスピンコート法により塗布し、100℃で前焼成、200℃で1時間本焼成を行ない、対向基板270上に厚さ500nmの対向基板濡れ性変化層271を形成した。
【0075】
この対向基板濡れ性変化層271の表面に、超高圧水銀灯を光源とし、可視光吸収色ガラスフィルター、所定のパターンの形成されたフォトマスクを介して、波長300nm以下の紫外光を照射し露光を行なうことにより、紫外光が照射された領域に対向基板高表面エネルギー領域272を形成した。これにより、対向基板270上の濡れ性変化層271の表面に、対向基板高表面エネルギー領域272と対向基板低表面エネルギー領域273が形成された。尚、対向基板濡れ性変化層271に形成された対向基板高表面エネルギー領域272の幅は1mmである。
【0076】
次に、図9に示すように対向基板270と基板220の濡れ性変化層230との間隔が50μmになるよう設置した。具体的には、基板220上の濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の第2の領域240bと対向基板270上の対向基板濡れ性変化層271の対向基板高表面エネルギー領域272とが対向するように設置した。この際、基板220上の濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の第2の領域240bの一部を覆うように対向基板270を設置した。尚、基板220と対向基板270との距離の制御には、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムスペーサーを用いた。
【0077】
上記以外については、実施例1と同様の方法により実施例3となる積層構造体を作製した。
【0078】
(実施例4)
実施例4として本実施の形態に係る積層構造体を作製した。本実施例について図10に基づき説明する。図10(a)は、本実施例の積層構造体の製造工程の一部を示す上面図であり、図10(b)は、本実施例に用いられる対向基板の斜視図であり、
図10(c)は、破線10A1−10A2において切断した断面図であり、図10(d)は、破線10B1−10B2において切断した断面図であり、図10(e)は、破線10C1−10C2において切断した断面図である。
【0079】
本実施例は、図10(b)に示すように、対向基板270としてガラス基板の表面に少なくとも3本以上の0.9mm角のガラス角棒を対向基板270に対し先端が同じ高さになるように2液硬化型エポキシ接着剤により接着し、大気中80℃のオーブンで焼成し硬化させた。その後、中性洗剤を用いて超音波洗浄を施し十分に水洗した。更に、120℃のオーブンにより吸着した水分を乾燥させ、突起部となる矩形の凸部274を有する対向基板270を作製した。
【0080】
次に、対向基板270の矩形の凸部274と基板220の濡れ性変化層230との間隔が50μmになるよう設置した。具体的には、基板220上の濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の第2の領域240bと対向基板270に形成された矩形の凸部274とが対向するように設置した。この際、基板220上の濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の第2の領域240bの一部を覆うように対向基板270を設置した。尚、基板220と対向基板270との距離の制御には、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムスペーサーを用いた。
【0081】
上記以外については、実施例1と同様の方法により実施例4となる積層構造体を作製した。
【0082】
(実施例5)
実施例5として本実施の形態に係る積層構造体を作製した。本実施例について図11に基づき説明する。図11(a)は、本実施例の積層構造体の製造工程の一部を示す上面図であり、図11(b)は、本実施例に用いられる対向基板の斜視図であり、
図11(c)は、破線11A1−11A2において切断した断面図であり、図11(d)は、破線11B1−11B2において切断した断面図であり、図11(e)は、破線11C1−11C2において切断した断面図である。
【0083】
本実施例は、図11(b)に示すように、対向基板270としてガラス基板の表面に少なくとも3本以上の金属からなる三角柱状の棒を、対向基板270に対し先端が同じ高さになるように2液硬化型エポキシ接着剤により接着し、大気中80℃のオーブンで焼成し硬化させた。その後、中性洗剤を用いて超音波洗浄を施し十分に水洗した。更に、120℃のオーブンにより吸着した水分を乾燥させ、突起部となる三角柱状の凸部276を有する対向基板270を作製した。
【0084】
次に、対向基板270の三角柱状の凸部276と基板220の濡れ性変化層230との間隔が50μmになるよう設置した。具体的には、基板220上の濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の第2の領域240bと対向基板270に形成された三角柱状の凸部276の稜線とが対向するように設置した。この際、基板220上の濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の第2の領域240bの一部を覆うように対向基板270を設置した。尚、基板220と対向基板270との距離の制御には、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムスペーサーを用いた。
【0085】
上記以外については、実施例1と同様の方法により実施例5となる積層構造体を作製した。
【0086】
(実施例6)
実施例6として本実施の形態に係る積層構造体を作製した。
【0087】
本実施例は、実施例3と同様の方法により、基板220上の濡れ性変化層230に形成される高表面エネルギー領域240の第2の領域240bの幅が250μmとなるものを作製し、対向基板270として、対向基板270上の対向基板濡れ性変化層271に形成された対向基板高表面エネルギー領域272の幅は250μmとしたものである。
【0088】
上記以外については、実施例3と同様の方法により実施例6となる積層構造体を作製した。
【0089】
(比較例1)
比較例1として、下記の方法により積層構造体を作製した。比較例1について図12に基づき説明する。図12(a)は、比較例1の積層構造体の製造工程の一部を示す上面図であり、図12(b)は、破線12A1−12A2において切断した断面図であり、図12(c)は、破線12B1−12B2において切断した断面図であり、図12(d)は、破線12C1−12C2において切断した断面図である。
【0090】
図12に示すように、ガラス基板320上に濡れ性機能材料を含むNMP溶液をスピンコート法により塗布し、100℃で前焼成、200℃で1時間本焼成を行なうことにより厚さ500nmの濡れ性変化層330を形成した。尚、濡れ性機能材料としては、側鎖に疎水基を有するポリイミド材料を用いた。
【0091】
このように形成した濡れ性変化層330表面において露光を行なった。具体的には、超高圧水銀灯を光源として、可視光吸収色ガラスフィルター、所定のパターンの形成されたフォトマスクを介して、波長300nm以下の紫外光を照射することにより行なった。これにより、濡れ性変化層330の紫外光の照射された領域においては、側鎖の一部が分断されることにより親液性を示す高表面エネルギー領域340が形成され、濡れ性変化層330の表面には高表面エネルギー領域340と低表面エネルギー領域350からなるパターンが形成される。
【0092】
濡れ性変化層330の表面の高表面エネルギー領域340は、幅が2mmで形成された第1の領域340aと、幅が1mmで形成された第2の領域340bにより構成されている。
【0093】
次に、導電性材料を含む機能液360として、ナノ銀インクを塗れ性変化層330の高表面エネルギー領域340の第1の領域340a上にマイクロディスペンサー390を用いて、0.1マイクロリットル(μL)ずつ滴下した。滴下量は濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域340の面積より算出し、ナノ銀インクが低表面エネルギー領域350上に溢れない量とした。ナノ銀インクが十分に濡れ広がるまで室温で保持した後、大気中100℃のオーブンで前焼成し、その後、大気中200℃のオーブンで1時間本焼成を行なった。
【0094】
以上の方法により、比較例1となる積層構造体を作製した。
【0095】
以上、実施例1〜5、比較例1の積層構造体について、導電性材料を含む機能液の流動現象の評価を行なった。具体的には、ナノ銀インクのパターン性(高表面エネルギー領域全体に導電性材料を含む機能液が広がるまでの時間)、供給したナノ銀インクの供給量、ナノ銀インクの乾燥後の膜厚について評価し、この結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

ナノ銀インクのパターン性は、導電性材料を含む機能液の供給速度や濡れ性変化層の表面エネルギー差がある部分でのナノ銀インクの保持性能より比較、評価を行なった。また、ナノ銀インクの供給量については、高表面エネルギー領域からナノ銀インクが低表面エネルギー領域に溢れることなく、高表面エネルギー領域に保持可能なナノ銀インク量より比較、評価を行なった。更に、ナノ銀インクの乾燥後の膜厚については、乾燥後のナノ銀インクの厚さを実測し比較、評価を行なった。
【0097】
この結果を表1に示す。表1において、×は不良、△はやや良好、○は良好、◎は最良を示す。これより、ナノ銀インクのパターン性については、比較例1の積層構造体の場合は不良であるのに対して、実施例1〜6の積層構造体の場合は、やや良好、良好または最良であった。特に、実施例3〜5の積層構造体の場合においては、比較例の積層構造体の場合に比べて、ナノ銀インクが高表面エネルギー領域全体に広がる時間は、1/10程度であった。このことは、実施例1〜5の積層構造体の場合においては、高表面エネルギー領域と対向基板との間隙で、導電性材料を含む機能液に効果的に毛細管現象が働いていたことを示すものである。
【0098】
また、ナノ銀インクの供給量については、比較例1の積層構造体の場合は不良であるのに対して、実施例1〜6の積層構造体の場合は、良好または最良であった。特に、実施例3〜5の積層構造体の場合においては、比較例の積層構造体の場合に比べて、10倍程度のナノ銀インクを供給することが可能であった。このことは、実施例1〜5の積層構造体の場合においては、対向基板を設けることにより、ナノ銀インクのメニスカス現象により、導電性材料を含む機能液を多く供給することが可能であることを示すものである。
【0099】
また、導電性材料を含む機能液より形成される導電層は、対向基板を設けることによって、ナノ銀インクのパターン性を高め、ナノ銀インクの供給量を増やすことができることから、厚い導電層を形成することができ、配線抵抗を低減することができる。即ち、膜厚に関しては、比較例1の積層構造体の場合は不良となるのに対して、実施例1〜6の積層構造体の場合は、良好または最良となる。
【0100】
尚、実施例3と実施例6は、基板220の濡れ性変化層230の高表面エネルギー領域240の第2の領域240aの幅と、対向基板270の対向基板濡れ性変化層271の対向基板高表面エネルギー領域272の幅がともに異なる場合であり、実施例3の積層構造体では1mmとし、実施例6の積層構造体は250μmとしたものであるが、実施例3の積層構造体に対し、実施例6の積層構造体の方は若干劣るものの、良好な結果が得られており、高表面エネルギー領域240の第2の領域240aの幅を狭めても良好な結果を得ることができることが確認された。
【0101】
以上より、実施例1〜6については、比較例1に対し良好である旨の効果が確認された。
【0102】
(実施例7)
実施例7は、有機薄膜トランジスタの形成方法に関するものである。図13に基づき本実施例について説明する。
【0103】
最初に、図13(a)に示すように、ガラス基板420上にゲート電極421を形成する。具体的には、ガラス基板420を、中性洗剤を用いて超音波洗浄を施し十分に水洗した。この後、120℃のオーブンによりガラス基板に吸着している水分を乾燥させ除去した後、酸素プラズマ処理により基板表面の有機物を除去した。この後、ガラス基板420上にステンレス製のシャドーマスクを用いてアルミニウムを蒸着源として、幅が5.5mm、長さが40mm、膜厚が100nmのゲート電極421を形成した。
【0104】
次に、図13(b)に示すように、濡れ性機能材料を含むNMP溶液をガラス基板420のゲート電極421の形成されている面にスピンコート法により塗布し、100℃で前焼成し、200℃で1時間本焼成を行ない500nmの厚さの濡れ性変化層430を形成した。この濡れ性機能材料には側鎖に疎水性基を有するポリイミド材料を用いており、高絶縁性のゲート絶縁膜を兼ねるものである。
【0105】
次に、図13(c)に示すように、濡れ性変化層430の表面に高表面エネルギー領域440と低表面エネルギー領域450とを形成した。具体的には、超高圧水銀灯を光源とし、可視光吸収色ガラスフィルター及び所定のパターンが形成されたフォトマスクを介して、波長300nm以下の紫外光を照射し露光を行なった。濡れ性変化層430の表面の紫外光の照射された領域は、側鎖の一部が分断されて親液性を示す高表面エネルギー状態となる。これにより、濡れ性変化層430の表面には、高表面エネルギー領域440と低表面エネルギー領域450からなるパターンが形成される。図14に示すように、高表面エネルギー領域440には、幅の異なる2つの領域により形成される。即ち、幅が2mmで形成された第1の領域440aと、長さが5mm、幅が250μmで形成された第2の領域440bにより構成されている。また、隣接する高表面エネルギー領域440間の最短の間隔Sは、100μmである。
【0106】
次に、図13(d)に示すように、対向基板470を設置した。尚、図13(d)は、図14における破線14A1−14A2において切断した断面の様子を示すものである。この対向基板470は、ガラス基板に少なくとも4本以上の長さ5mmの金属製三角柱を対向基板470面より高さが同じとなるように2液硬化型エポキシ接着剤で接着し、大気中で80℃のオーブンで焼成し硬化させたものである。その後、中性洗剤を用いた超音波洗浄を施し十分に水洗した。さらに、120℃のオーブンで吸着した水分を乾燥させて除去し、三角柱状の凸部476を有する対向基板470を作製したものである。このように形成された対向基板470をガラス基板420上の濡れ性変化層430の高表面エネルギー領域440の第2の領域440bと、対向基板470に形成された三角柱状の凸部476の稜線が対向するように設置した。この際、濡れ性変化層430の高表面エネルギー領域440の第2の領域440bの一部を覆うように対向基板470を設置した。
【0107】
次に、図13(e)に示すように、導電性材料を含む機能液460であるナノ銀インクを塗れ性変化層430の高表面エネルギー領域440の第1の領域440aにマイクロディスペンサーを用いて、0.1μLずつ滴下した。滴下量は濡れ性変化層430における高表面エネルギー領域440の面積により算出し、ナノ銀インクが低表面エネルギー領域450に溢れない量とした。導電性材料を含む機能液460であるナノ銀インクが高表面エネルギー領域440の全体に濡れ広がるまで室温で保持した後、大気中100℃のオーブンで前焼成し、この後、200℃のオーブンで1時間本焼成を行なった。
【0108】
次に、図13(f)に示すように、対向基板470を除去した。これにより、ガラス基板420の表面に導電層であるソース電極481及びドレイン電極482が形成される。
【0109】
次に、図13(g)に示すように、有機半導体材料を溶解したトルエン溶液を一対のソース電極481とドレイン電極482の間にインクジェット法により供給し、溶媒を乾燥させることにより、有機半導体層483を形成した。
【0110】
以上の方法により、実施例7となる有機薄膜トランジスタを作製した。
【0111】
実施例7の有機トランジスタの動作の確認を行なったところ、金蒸着によりソース電極及びドレイン電極を形成した場合と比較して同等のトランジスタ特性が確認された。
【0112】
また、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本実施の形態を説明するための説明図
【図2】本実施の形態の原理を説明するための説明図
【図3】本実施の形態に係る積層構造体の製造方法のフローチャート
【図4】本実施の形態に係る積層構造体の製造方法の工程図
【図5】本実施の形態に係る積層構造体の製造方法の状態を示す斜視図
【図6】本実施の形態に係る積層構造体の製造方法に用いられる治具の斜視図
【図7】実施例1における積層構造体の製造方法を説明するための概念図(1)
【図8】実施例1における積層構造体の製造方法を説明するための概念図(2)
【図9】実施例3における積層構造体の製造方法を説明するための概念図
【図10】実施例4における積層構造体の製造方法を説明するための概念図
【図11】実施例5における積層構造体の製造方法を説明するための概念図
【図12】比較例1における積層構造体の製造方法を説明するための概念図
【図13】実施例7における薄膜有機トランジスタの製造方法の工程図
【図14】実施例7における薄膜有機トランジスタの製造工程における上面図
【符号の説明】
【0114】
120 基板
130 濡れ性変化層
140 高表面エネルギー領域
150 低表面エネルギー領域
160 導電性材料を含む機能液(導電性材料を含む溶液)
170 対向基板
180 導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、高表面エネルギー領域と低表面エネルギー領域が形成されている濡れ性変化層を形成する工程と、
前記高表面エネルギー領域を覆うように、前記濡れ性変化層から所定の間隔を隔て対向基板を設置する工程と、
前記高表面エネルギー領域上に導電性材料を含む溶液を供給する工程と、
前記導電性材料を含む溶液を乾燥または硬化させることにより、前記高表面エネルギー領域上に導電層を形成する工程と、
を有することを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項2】
基板上にエネルギーの付与により表面エネルギーが変化する濡れ性変化材料を含む濡れ性変化層を形成する工程と、
前記濡れ性変化層の表面に前記エネルギーを付与することにより、高表面エネルギー領域を形成する工程と、
前記高表面エネルギー領域を覆うように、前記濡れ性変化層から所定の間隔を隔て対向基板を設置する工程と、
前記高表面エネルギー領域上に導電性材料を含む溶液を供給する工程と、
前記導電性材料を含む溶液を乾燥または硬化させることにより、前記高表面エネルギー領域上に導電層を形成する工程と、
を有することを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項3】
前記高表面エネルギー領域は、幅の広い第1の領域と、前記第1の領域から延設された前記第1の領域よりも幅の狭い第2の領域から構成されており、
前記対向基板は、前記第2の領域の上方を覆うものであって、
前記導電性材料を含む溶液は、前記第1の領域より供給されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項4】
前記高表面エネルギー領域への前記導電性材料を含む溶液の供給は、インクジェット法であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項5】
前記導電層を形成する工程の後、前記対向基板を除去することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項6】
前記濡れ性変化層から所定の間隔は、100nm〜150μmであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項7】
前記対向基板において、前記基板の濡れ性変化層に対向する側における表面エネルギーは、前記濡れ性変化層における高表面エネルギー領域の表面エネルギーよりも低いことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項8】
前記対向基板には、前記基板の濡れ性変化層が形成されている側に、対向基板濡れ性変化層が形成されており、
前記対向基板濡れ性変化層の表面には対向基板高表面エネルギー領域が形成されており、
前記濡れ性変化層における高表面エネルギー領域に対向する位置に、前記対向基板高表面エネルギー領域が配置されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項9】
前記濡れ性変化層高表面エネルギー領域の幅は、前記高表面エネルギー領域における幅と同じであるか、又は狭いものであることを特徴とする請求項8に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項10】
前記対向基板は、前記基板の濡れ性変化層が形成されている側に、突起部が形成されており、
前記濡れ性変化層における高表面エネルギー領域に対向する位置に、前記突起部が配置されており、
前記突起部と前記濡れ性変化層の間隔は略一定であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項11】
前記突起部は、前記対向基板面内に一次元または二次元的に延設され、突起部の延設方向に垂直な断面における突起部の幅は、前記濡れ性変化層における高表面エネルギー領域の幅と同じであるか、又は狭い幅であり、その断面形状は矩形、半円形、角形の一次元状の突起部であることを特徴とする請求項10に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項12】
基板上にゲート電極が形成し、前記ゲート電極上にゲート絶縁膜が形成し、前記ゲート絶縁膜上に、隔てて形成されたソース電極及びドレイン電極を形成し、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に有機半導体層を形成し、前記ゲート電極に電圧を印加することにより動作する有機トランジスタの製造方法において、
前記ゲート電極、前記ソース電極及び前記ドレイン電極のいずれかは、請求項1から11に記載されている積層構造体の製造方法により形成された導電層であることを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の積層構造体の製造方法により、電極又は配線層を形成する工程と、
前記電極のうちソース電極とドレイン電極との間に有機半導体層を形成する工程と、
を有することを特徴とする有機薄膜トランジスタアレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−141048(P2010−141048A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314819(P2008−314819)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】