窒化ガリウム系半導体光素子、及び窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法
【課題】活性層におけるIn偏析による発光特性の低下が抑制されたGaN系半導体発光素子を提供する。
【解決手段】GaN系半導体光素子11aでは、テンプレート13の主面13aは、この第1のGaN系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面から該第1のGaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。GaN系半導体エピタキシャル領域15は、主面13a上に設けられる。GaN系半導体エピタキシャル領域15上には、活性層17が設けられる。活性層17は、InGaNからなる少なくとも一つの半導体エピタキシャル層19を含む。半導体エピタキシャル層19の膜厚方向は、基準軸Cxに対して傾斜している。この基準軸Cxは、第1のGaN系半導体の[0001]軸の方向に向いている。
【解決手段】GaN系半導体光素子11aでは、テンプレート13の主面13aは、この第1のGaN系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面から該第1のGaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。GaN系半導体エピタキシャル領域15は、主面13a上に設けられる。GaN系半導体エピタキシャル領域15上には、活性層17が設けられる。活性層17は、InGaNからなる少なくとも一つの半導体エピタキシャル層19を含む。半導体エピタキシャル層19の膜厚方向は、基準軸Cxに対して傾斜している。この基準軸Cxは、第1のGaN系半導体の[0001]軸の方向に向いている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN系半導体光素子、及びGaN系半導体光素子を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、III−V族窒化物系半導体自立基板を製造する方法が記載されている。この方法によれば、III−V族窒化物系半導体のエピタキシャル成長に好適な所定のオフ角を有するIII−V族窒化物系半導体自立基板を製造できる。c面からa軸方向またはm軸方向に0.07度〜20度の角度で傾いた表面を持つサファイア基板上にIII−V族窒化物系半導体単結晶のエピタキシャル層を成長した後に、エピタキシャル層を前記異種基板から剥離する。
【0003】
特許文献2には、異種基板上に形成される窒化ガリウム系半導体層からなる窒化物半導体発光素子が記載されている。基板にバッファ層を介して形成される。n型半導体層にエッチッグ加工を行ってC面に対して異なるA面の面方位の表面を形成する。A面及びC面に接合させて活性層を成長する。2種の面方位で接する活性層を形成するとき、成長速度の差により量子井戸の幅(活性層)の膜厚が互いに異なるものになる。これ故に、発光波長のピークが異なる複数色の発色が得られる。
【0004】
特許文献3には、窒化物半導体と異なる材料よりなる異種基板上に窒化物半導体を成長した後に、この窒化物半導体に部分的に凹部を形成する。凹部側面に窒化物半導体の横方向の成長が可能な面を露出させた後に、該窒化物半導体上に別の窒化物半導体を成長する。この別の窒化物半導体上に、n型窒化物半導体、活性層及びp型窒化物半導体を成長する。
【0005】
非特許文献1及び2には、ピエゾ電界の計算について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−343713号公報
【特許文献2】特開2005−129905号公報
【特許文献3】特開2005−20034号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics vol.39 (2000) pp.413
【非特許文献2】Journal of Applied Physics vol.91 No.12 (2002) pp.9904
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らの知見によれば、上記の特許文献の方法とは異なる基板、例えば自立GaN基板上に長波長の発光素子を作製するとき、GaN基板の表面の面方位を調整することができる。現時点において、自立GaN基板のコストが高く、また自立GaN基板のサイズを大口径にすることは容易ではない。さらに、所望の面方位を有する実用的なサイズの自立GaN基板を得ることを多大なる技術開発を必要とする。
【0009】
特許文献1のようにc面から5度〜20度程度の角度で傾斜した結晶面は、所望のインジウム取り込み性能を示さない。これ故に、長波長の発光を提供できるインジウム組成を得るために、InGaN層の成長温度を下げる必要がある。成長温度の低下は、InGaN層の高品質化を困難にする。
【0010】
特許文献2のようにa面といった無極性面上では、成長表面のステップ密度は小さく、テラスが大きい。この面方位のインジウム取り込み性能は優れるけれども、Inの偏析が起こりやすく、In偏析の可能性は、大きなインジウム組成において高まる。
【0011】
一方、GaN系半導体光素子の発光は、広い波長範囲で変更可能である。発光層には、インジウムを含むGaN系半導体層を用いることができる。発光波長の変更は、発光層におけるインジウム組成を調整することによって行われる。このGaN系半導体層の一つとして、例えばInGaNが挙げられる。InGaNは強い非混和性を示し、このため、InGaN成長においては自発的にIn組成の揺らぎが生じ、Inの偏析が起こる。Inの偏析は、InGaNだけでなく、この他のインジウム含有のGaN系半導体でも観測される。また、Inの偏析は、発光波長の変更のためにIn組成を増加させるとき、顕著である。
【0012】
発光層におけるInの偏析は、例えば半導体レーザではしきい値電流を増加させる。また、発光層におけるInの偏析は、例えば発光ダイオードでは面発光の不均一の原因となる。故に、いずれの発光素子においても、In偏析を低減することが望ましい。
【0013】
発明者らは、異種基板上にInGaN系発光素子を作製することを検討している。異種基板上のc面GaNにおいて所望のInGaN井戸層を得るためには、井戸層のインジウム組成を調整する。InGaN層の結晶品質は、In組成の増加と伴って低下して、この結果、発光強度の低下及び発光スペクトル半値幅の増大になる。
【0014】
本発明は、上記の事情を鑑みて為されたものであり、窒化ガリウム系半導体と異なる材料の異種基板上に設けられ、In偏析による発光特性の低下を抑制可能な窒化ガリウム系半導体発光素子を提供することを目的とし、またこの窒化ガリウム系半導体発光素子を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一側面に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、(a)窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成る主面を有する支持体と、開口を有し前記主面を覆うマスクと、該マスクの前記開口において前記主面に設けられ第1及び第2の側面を有する凹部と、前記第2の側面を覆う絶縁体と、前記第1及び第2の側面上に設けられると共に前記マスクを埋め込む半導体領域とを含むテンプレートと、(b)前記テンプレート上に設けられた窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域と、(c)前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域上に設けられ、活性層のための半導体エピタキシャル層とを備える。前記半導体領域は、第1の窒化ガリウム系半導体からなり、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向は前記第1の側面の方位によって規定され、前記テンプレートの前記半導体領域の主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜しており、前記第1の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記支持体の前記主面と前記第1の側面との交差角は、63度以上80度未満の範囲にあり、前記第2の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記半導体エピタキシャル層は、構成元素としてインジウムを含む第2の窒化ガリウム系半導体からなり、前記第2の窒化ガリウム半導体のc軸は前記半導体領域の前記主面の法線軸に対して傾斜しており、前記基準軸の向きは、前記第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向である。
【0016】
この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、支持体の主面が第1の側面に対して63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜すると共に絶縁体が第2の側面を覆うので、第2の側面上の絶縁膜、第1の側面、及びマスクを埋め込むように半導体領域を支持体上に設けるとき、半導体領域の主面もまた、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する。上記の傾斜角のテンプレートでは、その半導体領域の主面のモフォロジも、幅の狭い複数のテラスからなる。また、テンプレート上にはGaN系半導体エピタキシャル領域が設けられているので、GaN系半導体エピタキシャル領域は、テンプレートの半導体領域の結晶軸を引き継ぐ。これ故に、GaN系半導体エピタキシャル領域は、そのc軸に沿って延びる基準軸に直交する面からm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の角度で傾斜する平面に沿って延在する。したがって、GaN系半導体エピタキシャル領域の主面のモフォロジも幅の狭い複数のテラスを有する。このテラス配列はマイクロステップを構成する。上記の角度範囲においてテラス幅が狭いので、複数のテラスにわたってIn組成の不均一は生じにくい。故に、In偏析に起因する発光特性の低下が抑制される。また、テラス構造がc軸からの傾斜角によって規定されるので、該傾斜角が第1のGaN系半導体の{0001}面を基準に規定されるテンプレート、及び該傾斜角が第1のGaN系半導体の{000−1}面を基準に規定されるテンプレートのいずれにおいても、発光特性の低下が抑制される。つまり、基準軸が第1のGaN系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向に向いていても、発光特性の低下が抑制される。
【0017】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から70度以上の角度で傾斜していることが好ましい。このGaN系半導体光素子では、この角度範囲の基板主面は、更に幅の狭い複数のテラスを有する。故に、In偏析が低減される。
【0018】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から71度以上79度以下の角度で傾斜していることが好ましい。このGaN系半導体光素子によれば、ステップ端成長とテラス上成長のバランスが良好である。故に、In偏析が低減される。
【0019】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記第1の窒化ガリウム系半導体のa軸方向のオフ角は有限の値であり、また−3度以上+3度以下の範囲にあることができる。このGaN系半導体光素子によれば、a軸方向のオフ角は、エピタキシャル領域の表面モフォロジを良好にすると共に、In偏析が低減される。
【0020】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、前記活性層上に設けられた第2導電型窒化ガリウム系半導体層を備えることができる。前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域は、第1導電型窒化ガリウム系半導体層を含み、前記活性層は、所定の軸の方向に交互に配置された井戸層及び障壁層を含み、前記井戸層は前記半導体エピタキシャル層からなると共に、前記障壁層は窒化ガリウム系半導体からなり、前記半導体エピタキシャル層は、歪みを内包するInGaNからなり、前記第1導電型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記第2導電型ガリウム系半導体層は、前記所定の軸の方向に配列されると共に、前記基準軸の方向は前記所定の軸の方向と異なる。
【0021】
このGaN系半導体光素子によれば、小さいIn偏析は、単層膜からなる半導体エピタキシャル層だけでなく、量子井戸構造の活性層において達成される。
【0022】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記活性層は、370nm以上である発光波長を生成するように設けられることが好ましい。このGaN系半導体光素子によれば、370nm以上の発光波長を発生する活性層を達成するインジウム組成の範囲において、In偏析を小さくできる。また、前記活性層は、650nm以下である発光波長を生成するように設けられることが好ましい。このGaN系半導体光素子によれば、650nm以上の発光波長を発生する活性層では、半導体エピタキシャル層のインジウム組成が大きいので、所望の結晶品質の半導体エピタキシャル層が得られにくい。
【0023】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記活性層は480nm以上である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。また、本発明に係るGaN系半導体光素子では、前記活性層は600nm以下である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。このGaN系半導体光素子によれば、In偏析が低減される。また、63度以上80度未満の範囲の傾斜角は、480nm以上で600nm以下の発光波長の範囲において有効である。
【0024】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかから−3度以上+3度以下の範囲の角度で傾斜した半導体面であることができる。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、{20−21}面及び{20−2−1}面は、基準軸に直交する面から約75度で傾斜している。この角度近傍で良好な発光特性を示している。また、本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかの半導体面であることができる。これらの面方位では、In偏析が低減される。
【0025】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、前記基準軸は前記[0001]軸の方向に向いている。或いは、本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、前記基準軸は前記[000−1]軸の方向に向いている。
【0026】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記テンプレートの前記半導体層はInSAlTGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T<1)からなることができる。また、本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記テンプレートの前記半導体層はGaNからなることが好ましい。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、GaNは、二元化合物であるGaN系半導体であるので、良好な結晶品質と安定した半導体主面とが提供される。
【0027】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記基板の前記主面の表面モフォロジは複数のマイクロステップを有する。該マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む。このGaN系半導体光素子では、上記の構成面及びステップ端においては、Inの取り込みが良好である。また、In偏析が低減される。
【0028】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記支持体は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなることができる。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、これらの材料は、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面の半導体領域をテンプレートに提供できる。
【0029】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、前記半導体領域は、前記凹部の前記第1の側面上において前記第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャルに成長されたエピタキシャル膜である。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、支持体の第1の側面と支持体の主面との成す角度によって、半導体領域の主面に面方位が規定される。
【0030】
本発明の別の側面は、窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法である。この方法は、(a)窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成る主面を有する支持体と、開口を有し前記主面を覆うマスクと、該マスクの前記開口において前記主面に設けられ第1及び第2の側面を有する凹部と、前記第2の側面を覆う絶縁体と、前記第1及び第2の側面上に設けられると共に前記マスクを埋め込む半導体領域とを含むテンプレートを準備する工程と、(b)前記主面上に、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域を成長する工程と、(c)前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の主面上に、活性層のための半導体エピタキシャル層を形成する工程とを備える。前記半導体領域は、第1の窒化ガリウム系半導体からなり、前記テンプレートの前記半導体領域の主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜しており、前記支持体の前記主面と前記第1の側面と交差角は63度以上80度未満の範囲にあり、前記第1の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記第2の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記半導体エピタキシャル層は、構成元素としてインジウムを含む第2の窒化ガリウム系半導体からなり、前記第2の窒化ガリウム半導体のc軸は前記半導体領域の前記主面の法線軸に対して傾斜しており、前記半導体エピタキシャル層は第2の窒化ガリウム系半導体からなり、前記第2の窒化ガリウム系半導体は構成元素としてインジウムを含み、前記第2の窒化ガリウム系半導体のc軸は前記基準軸に対して傾斜しており、前記基準軸は、前記第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向に向いている。
【0031】
この方法によれば、支持体の主面が第1の側面に対してm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜すると共に絶縁体が第2の側面を覆うので、半導体領域が、第2の側面上の絶縁膜、第1の側面、及びマスクを埋め込むように支持体上に成長される。これ故に、半導体領域の主面もまた、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する。半導体領域の主面が上記の傾斜角を成すとき、半導体領域の主面は、幅の狭い複数のテラスからなる。また、半導体領域の主面上には窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域が設けられているので、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の結晶軸は、半導体領域の結晶軸を引き継ぐ。これ故に、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の主面も、そのc軸に沿って延びる基準軸からm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の角度で傾斜している。したがって、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の主面も幅の狭い複数のテラスを有する。これらのテラスの配列により、マイクロステップが構成される。上記の角度範囲ではテラスの幅が狭い。狭いテラス幅ゆえに、各テラスに付着したIn原子のマイグレーションによる移動が妨げられる。故に、複数のテラスにわたってIn組成の不均一は生じにくい。したがって、In偏析による発光特性の低下が抑制される。また、テラス構造がc軸からの傾斜角によって規定されるので、第1のGaN系半導体の{0001}面を基準に規定されるテンプレート及び第1のGaN系半導体の{000−1}面を基準に規定されるテンプレートのいずれにおいても、発光特性の低下が抑制される。つまり、基準軸の方向が第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向であるとき、発光特性の低下が抑制される。
【0032】
本発明に係る方法では、前記半導体領域の前記主面は、前記第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から70度以上の範囲の角度で傾斜していることが好ましい。この方法では、この角度範囲のテンプレート主面は、更に幅の狭い複数のテラスを有する。本発明に係る方法では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から71度以上79度以下の角度で傾斜していることが好ましい。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、ステップ端成長とテラス上成長のバランスが良好である。
【0033】
本発明に係る方法では、前記活性層は、所定の軸の方向に交互に配置された井戸層及び障壁層を含む量子井戸構造を有しており、前記半導体エピタキシャル層は前記井戸層であり、前記障壁層は窒化ガリウム系半導体からなることが好ましい。当該方法は、前記半導体エピタキシャル層上に前記障壁層を形成する工程と、前記活性層上に、第2導電型窒化ガリウム系半導体層を成長する工程とを更に備えることができる。前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域は、第1導電型窒化ガリウム系半導体層を含み、前記第1導電型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記第2導電型窒化ガリウム系半導体層は、所定の軸の方向に配列されると共に、前記基準軸の方向は前記所定の軸の方向と異なる。
【0034】
この方法では、単層膜からなる半導体エピタキシャル層の成長だけでなく、量子井戸構造の活性層の成長においても、小さいIn偏析が達成されている。
【0035】
本発明に係る方法では、前記第1の窒化ガリウム系半導体のa軸方向のオフ角は有限の値であり、また−3度以上+3度以下の範囲にあることが好ましい。この方法によれば、a軸方向からのオフ角により、良好な表面モフォロジのエピタキシャル領域を成長できる。
【0036】
本発明に係る方法では、前記半導体領域の前記主面における前記傾斜角は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかの結晶面から−3度以上+3度以下の範囲で分布している。この方法によれば、{20−21}面及び{20−2−1}面は、基準軸から75.09度で傾斜している。この角度近傍で良好な発光特性を示している。
【0037】
本発明に係る方法では、前記半導体領域はInSAlTGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T<1)からなることができる。また、本発明に係る方法では、前記半導体領域はGaNからなることが好ましい。この方法によれば、GaNは、二元化合物であるGaN系半導体であるので、良好な結晶品質と安定した半導体主面とが提供される。
【0038】
本発明に係る方法では、前記半導体領域の前記主面の表面モフォロジは複数のマイクロステップを有しており、該マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む。この方法では、上記の構成面及びステップ端においては、Inの取り込みが良好である。このため、Inの偏析が低減される。
【0039】
本発明に係る方法では、前記支持体は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなることができる。この方法によれば、これらの材料は、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面の半導体領域をテンプレートに提供できる。
【0040】
本発明に係る方法では、前記半導体領域は、前記凹部の前記第1の側面上において前記第2の側面に対して選択的に、前記第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャル成長された半導体を含むことができる。この方法によれば、支持体の第1の側面と支持体の主面との交差角によって、半導体領域の主面に面方位を規定できる。
【0041】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、窒化ガリウム系半導体と異なる材料の異種基板上に設けられIn偏析による発光特性の低下を抑制可能な窒化ガリウム系半導体発光素子が提供される。また、本発明によれば、この窒化ガリウム系半導体発光素子を作製する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本実施の形態に係るGaN系半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。
【図2】図2は、本実施の形態に係るGaN系半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。
【図3】図3は、図1及び図2に示されたGaN系半導体光素子におけるテンプレートの構造を示す図面である。
【図4】図4は、テンプレートの作製における主要な工程を含む工程フローを示す図面である。
【図5】図5は、テンプレートの作製における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図6】図6は、テンプレートの作製における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図7】図7は、所望の傾斜角のテンプレートを得るための異種基板の主面の傾斜角を模式的に示す図面である。
【図8】図8は、実施例1に係るエピタキシャル基板E1、E2を示す図面である。
【図9】図9は、X線回折結果及び理論計算の結果を示す図面である。
【図10】図10は、本実施の形態に係るGaN系半導体光素子を作製する方法の主要な工程を示す図面である。
【図11】図11は、実施例2に係る発光ダイオード構造(LED1、LED2)を示す図面である。
【図12】図12は、発光ダイオード構造LED1、LED2のエレクトロルミネッセンススペクトルを示す図面である。
【図13】図13は、エピタキシャル基板E3、E4におけるカソードルミネッセンス(CL)像を示す図面である。
【図14】図14は、発光ダイオード構造LED1、LED2において発光波長と電流注入量との関係の測定を示す図面である。
【図15】図15は、ピエゾ電界に関する計算結果を示す図面である。
【図16】図16は、異なるIn組成を有する井戸層の発光ダイオード構造のエレクトロルミネッセンスを示す図面である。
【図17】図17は、InGaN井戸層の発光ダイオード及びAlGaInP井戸層の外部量子効率並びに人間の視感度曲線を示す図面である。
【図18】図18は、実施例4に係るレーザダイオード構造(LD1)を示す図面である。
【図19】図19は、m軸方向へc軸から取られた様々な傾斜角(オフ角)を有するGaN主面上に堆積されたInGaNのIn組成とオフ角との関係を示す図面である。
【図20】図20は、c面及びオフ角βを有するGaN系半導体面上へのIn含有のGaN系半導体の堆積を模式的に示す図面である。
【図21】図21は、実施例6における半導体レーザを概略的に示す図面である。
【図22】図22はm面+75度オフGaN基板上の量子井戸構造のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルPL+75、及びm面−75度オフGaN基板上の量子井戸構造のPLスペクトルPL−75を示す図面である。
【図23】図23は、成長温度が高いときの成長モード及び成長温度が低いときの成長モードを模式的に示す図面である。
【図24】図24は、ステップフローな成長及びテラス上成長により成長されたGaNの成長表面のAFM像を示す図面である。
【図25】図25は、非安定面におけるGaN及びInGaNの高温成長におけるステップフローな成長の成長機構、及び非安定面におけるGaN及びInGaNの低温成長におけるテラス上成長及びステップ端成長の成長機構を模式的に示す図面である。
【図26】図26は、c面からm軸方向に様々な傾斜角度で傾斜したGaN基板上に、摂氏760度ですべて同条件でInGaNを成長する実験結果を示す図面である。
【図27】図27は、例として{10−11}面の表面原子配列を示す図面である。
【図28】図28は、例としてm軸方向に45度程度傾けた面の成長表面の原子配列を示す図面である。
【図29】図29は、{10−11}面とm面から形成されるミクロなステップからなる成長表面を示す図面である。
【図30】図30は、例としてc面をm軸方向にオフ角75度で傾けた面の表面原子配列を示す図面である。
【図31】図31は、In取り込みとオフ角との関係を示す図面である。
【図32】図32は、In取り込み、In偏析、及びピエゾ電界について、各面及び角度範囲の特徴を示す図面である。
【図33】図33は、In取り込み、In偏析、及びピエゾ電界について、詳細な各面及び角度範囲の特徴を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のGaN系半導体光素子、GaN系半導体光素子を作製する方法、エピタキシャル基板及びGaN系半導体領域を成長する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。なお、本記述においては、六方晶系結晶の結晶軸を示すa1軸、a2軸、a3軸、c軸において、各結晶軸の正方向と逆向きを示す表記に関して、例えば[000−1]軸は[0001]軸の逆向きであり、逆向きを示すために数字(例えば「1」)の前に負号を付する「−1」を用いる。
【0045】
図1は本実施の形態に係るGaN系半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。GaN系半導体光素子11aとしては、例えば発光ダイオード等がある。図2は、本実施の形態に係るGaN系半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。GaN系半導体光素子11bとしては、例えば半導体レーザ等がある。図3は、図1及び図2に示されたGaN系半導体光素子におけるテンプレートの構造を示す図面である。
【0046】
図1及び図2を参照すると、GaN系半導体光素子11a、11bは、テンプレート13と、GaN系半導体エピタキシャル領域15と、活性層17とを備える。テンプレート13は、支持体131と、マスク133と、凹部135と、半導体領域139とを含む。支持体131は、窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成ると共に、主面131aを有する。支持体131上には半導体領域139が設けられており、その主面139aは、テンプレート13の主面13aを提供する。テンプレート13の半導体領域139の主面139aは、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。
【0047】
テンプレート13において、マスク133は、開口133a及びストライプ133bを有する。ストライプ133bは、例えばシリコン酸化物といったシリコン系無機絶縁物からなることができる。マスク133は主面131aを覆い、マスク133の開口133aには凹部135が位置している。凹部135は、マスク133の開口133aに設けられ、また第1及び第2の側面135a、135bを有する。第1及び第2の側面135a、135bは主面131aに対して傾斜している。本実施例では、マスク133のストライプ133b及び凹部135は隣接しており、またストライプ133b及び凹部135並びに第1及び第2の側面135a、135bは、一方向(例えばX軸方向)に延在している。この方向は、例えばc軸の傾斜方向に直交する方向であることが良い。絶縁体137は、第2の側面135bを覆う。絶縁体137は、例えばシリコン酸化物といったシリコン系無機絶縁物からなることができる。また、半導体領域139は、第1及び第2の側面135a、135b上に設けられると共にマスク133及び絶縁体137を埋め込む。これ故に、半導体領域139はマスク133の側面133c及び上面133dを覆うと共に、絶縁体137及び第1の側面135aを覆う。半導体領域139は、第2の側面135bに対して選択的に、凹部135の第1の側面135aに対しておいて成長されるので、半導体領域139が第1の側面135aを覆う。半導体領域139は、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャル成長された半導体領域を含むことができる。支持体131の第1の側面135aと支持体131の主面131aとの交差角AGによって、半導体領域139の主面139aに面方位を規定できる。
【0048】
支持体131は、ウルツ鉱型構造(六方晶系結晶体)、閃亜鉛鉱型構造、ダイヤモンド構造、三斜晶系構造、スピネル型結晶構造等の結晶構造を有する材料からなることができる。支持体131は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなることができる。これらの材料は、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面の半導体領域をテンプレートに提供できる。
【0049】
支持体131が例えばサファイア、6H−SiC、4H−SiC、ZnO等の異種基板からなるとき、第1の側面135aは{0001}面であることができる。半導体領域139は、例えばサファイア{0001}面上にエピタキシャルに成長する。第1の側面135aの法線軸が、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向に向いている。また、支持体131が例えばシリコン、3C−SiC、スピネル(例えばMgAl2O4)等の異種基板からなるとき、第1の側面135aは{111}面であることができる。半導体領域139は、異種基板{111}面上にエピタキシャルに成長する。第1の側面135aの法線軸が、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向に向いている。さらに、支持体131が例えば酸化ガリウム(例えばβ−Ga2O3)等の異種基板からなるとき、第1の側面135aは酸化ガリウムa面であることができる。半導体領域139は、異種基板a面上にエピタキシャルに成長する。第1の側面135aには、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向に成長する。
【0050】
支持体131の主面131aに沿って延在する参照平面と第1の側面135aとの成す角は、基準軸Cxに直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲にある。
【0051】
開口133aの短辺L1の長さは0.5マイクロメートル以上であることができる。エピタキシャル成長のための第1の側面を規定できる。また、短辺L1の長さは5マイクロメートル以下にあることができる。マスク133の開口133aのサイズによれば、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面139aの半導体領域139をテンプレート13に提供できる。
【0052】
マスク133の短辺L2は0.5マイクロメートル以上であることができる。エピタキシャル成長のための第1及び第2の側面を区画する。また、マスク133の短辺L2は5マイクロメートル以下の範囲にあることができる。マスク133のカバーのサイズは、隣接する開口133aからストライプ133bを覆って成長してきた窒化ガリウム結晶体が一体に連結されて形成された半導体領域139をテンプレート13に提供できるように決定される。このテンプレート13では、半導体領域139の主面139aは、63度以上80度未満の範囲の傾斜角でそのc軸に対して傾斜する。
【0053】
マスク133の開口133aは周期的に配列されることができる。また、マスク133のストライプ133b周期的に配列されることができる。
【0054】
半導体領域139は、InSAlTGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T<1)からなることができる。半導体領域139は、第1のGaN系半導体からなり、例えばGaN、InGaN、AlGaN等であることが良い。GaNは、二元化合物であるGaN系半導体であるので、良好な結晶品質と安定したテンプレート主面とを提供できる。また、第1のGaN系半導体は、例えばAlN等からなることができる。
【0055】
図1を参照すると、テンプレート13のc面は平面Scに沿って延びている。平面Sc上では、六方晶系GaN系半導体の結晶軸を示すための座標系CR(c軸、a軸、m軸)が示されている。テンプレート13の主面13aは、この第1のGaN系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面から該第1のGaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。傾斜角αは、テンプレート13の主面13aの法線ベクトルVNと基準軸Cxとの成す角度によって規定され、この角度αは、本実施例では、ベクトルVC+とベクトルVNとの成す角に等しい。
【0056】
GaN系半導体エピタキシャル領域15は、主面13a上に設けられている。GaN系半導体エピタキシャル領域15は一又は複数の半導体層を含むことができる。GaN系半導体エピタキシャル領域15上には、活性層17が設けられている。活性層17は、少なくとも一つの半導体エピタキシャル層19を含む。半導体エピタキシャル層19は、GaN系半導体エピタキシャル領域15上に設けられている。半導体エピタキシャル層19は、インジウムを含む第2のGaN系半導体からなり、例えばInGaN、InAlGaN等からなる。半導体エピタキシャル層19の膜厚方向は、基準軸Cxに対して傾斜している。この基準軸Cxは、第1のGaN系半導体の[0001]軸の方向、或いは[000−1]軸の方向に向いていることができる。本実施例では、基準軸Cxは、ベクトルVC+で示される方向に向いており、この結果、ベクトルVC−は[000−1]軸の方向に向いている。
【0057】
このGaN系半導体光素子11aによれば、上記の傾斜角のテンプレート13では、その主面13aは、図1に示されるような幅の狭い複数のテラスを含む表面モフォロジM1からなる。また、半導体領域139上にはGaN系半導体エピタキシャル領域15が設けられているので、GaN系半導体エピタキシャル領域15の結晶軸は、テンプレート13の半導体領域139における結晶軸を引き継いでいる。これ故に、GaN系半導体エピタキシャル領域15の主面15aも、基準軸Cxに直交する面からm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の角度で傾斜しており、GaN系半導体エピタキシャル領域15の主面15aも、幅の狭い複数のテラスを含む表面モフォロジM2を有する。これらのテラスの配列はマイクロステップを構成する。上記の角度範囲のテラスの幅が狭いので、複数のテラスにわたってIn組成の不均一は生じにくい。故に、In偏析による発光特性の低下が抑制される。
【0058】
また、テラス構造がc軸からの傾斜角に関係しているので、該傾斜角が第1のGaN系半導体の{0001}面を基準に規定されるテンプレート、及び該傾斜角が第1のGaN系半導体の{000−1}面を基準に規定されるテンプレートのいずれにおいても、発光特性の低下が抑制される。つまり、基準軸Cxは第1のGaN系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向に向いていても、発光特性の低下が抑制される。
【0059】
GaN系半導体光素子11aでは、テンプレート13の主面13aは、該第1のGaN系半導体のm軸の方向に基準軸に直交する面から70度以上80度未満の範囲の角度で傾斜していることが好ましい。この角度範囲の基板主面13aは、更に幅の狭い複数のテラスを有する。
【0060】
GaN系半導体光素子11aによれば、活性層17におけるIn偏析による発光特性の低下が抑制される。
【0061】
図1を参照すると、座標系Sが示されている。テンプレート13の主面13aは、Z軸の方向を向いており、またX方向及びY方向に延びている。X軸はa軸の方向に向いている。
【0062】
GaN系半導体エピタキシャル領域15は、一又は複数の第1導電型GaN系半導体層を含むことができる。本実施例では、GaN系半導体エピタキシャル領域15は、Z方向に配列されたn型GaN半導体層23及びn型InGaN半導体層25を含んでいる。n型GaN半導体層23及びn型InGaN半導体層25が、テンプレート13の主面13aにエピタキシャル成長されるので、n型GaN半導体層23の主面23a及びn型InGaN半導体層25の主面25a(本実施例では、表面15aと等価)も、それぞれ、テラス構造を有するモフォロジM3、M2を有する。
【0063】
モフォロジM1、M2、M3は、c軸傾斜の方向に配列された複数のマイクロステップを有しており、これらのマイクロステップは、傾斜方向に交差する方向に延びている。マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む。上記の構成面及びステップ端においては、Inの取り込みが良好である。
【0064】
GaN系半導体光素子11aは、活性層17上に設けられたGaN系半導体領域21を備えることができる。GaN系半導体領域21は、一又は複数の第2導電型GaN系半導体層を含むことができる。GaN系半導体領域21は、Z方向に配列された電子ブロック層27及びコンタクト層29を含む。電子ブロック層27は、例えばAlGaNからなることができ、またコンタクト層29は、例えばp型GaNまたはp型AlGaNからなることができる。
【0065】
GaN系半導体光素子11aでは、活性層17は、370nm以上である発光波長を生成するように設けられることが好ましい。370nm以上の波長の光を発生する活性層を達成するインジウム組成の範囲において、In偏析を小さくできる。また、活性層17は、650nm以下である発光波長を生成するように設けられることが好ましい。650nm以上の発光波長を発生する活性層では、半導体エピタキシャル層のインジウム組成が大きいので、所望の結晶品質の半導体エピタキシャル層が得られにくい。
【0066】
活性層17は、量子井戸構造31を有することができ、この量子井戸構造31は、所定の軸Axの方向に交互に配置された井戸層33及び障壁層35を含む。本実施例では、井戸層33は半導体エピタキシャル層19からなり、井戸層33は例えばInGaN、InAlGaN等からなる。また、障壁層35はGaN系半導体からなり、GaN系半導体は、例えばGaN、InGaN、AlGaN等からなることができる。n型GaN系半導体層23、25、活性層17及びGaN系半導体層27、29は、所定の軸Axの方向に配列される。基準軸Cxの方向は所定の軸Axの方向と異なる。
【0067】
このGaN系半導体光素子11aによれば、小さいIn偏析は、単層膜からなる半導体エピタキシャル層だけでなく、量子井戸構造31において達成されている。
【0068】
GaN系半導体光素子11aは、コンタクト層29上に設けられた第1の電極37(例えば、アノード)を含むことができ、第1の電極37は、コンタクト層29を覆う透明電極を含むことができる。透明電極としては、例えばNi/Auを用いられる。テンプレート13の支持体131が導電性を有するとき、GaN系半導体光素子11aは、テンプレート13の裏面13b上に設けられた第2の電極39(例えば、カソード)を含むことができ、第2の電極39は、例えばTi/Alから成る。テンプレート13の支持体131が導電性を持たないとき、第2の電極39は、エッチング等により部分的に露出された半導体領域139の露出面にオーミック接触を成すように設けられる。
【0069】
活性層17は、電極37、39の両端に印加された外部電圧に応答して光LB1を生成し、本実施例ではGaN系半導体光素子11aは面発光素子を含む。この活性層17において、ピエゾ電界が小さい。
【0070】
テンプレート13の半導体領域139におけるa軸方向のオフ角AOFFは有限の値であることが好ましい。a軸方向のオフ角AOFFは、エピタキシャル領域の表面モフォロジを良好にする。このオフ角AOFFはXZ面内における角度である。オフ角AOFFの範囲が、例えば−3度以上+3度以下の範囲にあることができ、具体的には、オフ角AOFFの範囲は、例えば−3度以上−0.1度以下及び+0.1度以上+3度以下の範囲にあることが好ましい。オフ角AOFFの範囲が例えば−0.4度以上−0.1度以下及び+0.1度以上+0.4度以下の範囲にあるとき、表面モフォロジがさらに良好になる。
【0071】
GaN系半導体光素子11aでは、活性層17は480nm以上である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。また、活性層17は600nm以下である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。63度以上80度未満の範囲の傾斜角は、480nm以上で600nm以下の発光波長の範囲において有効である。この波長範囲にあるような長波長では、大きなIn組成が井戸層に必要であり、大きなIn偏析を示す面、例えばc面やm面及び{10−11}面等では、発光強度が大きく低下する。一方、本実施の形態の角度範囲では、In偏析が小さいため、480nm以上の長波長領域でも発光強度の低下が小さい。
【0072】
図2を参照すると、GaN系半導体光素子11bは、GaN系半導体光素子11aと同様に、テンプレート13と、GaN系半導体エピタキシャル領域15と、活性層17とを備える。テンプレート13のc面は、図2に示された平面Scに沿って延びている。平面Sc上には、座標系CR(c軸、a軸、m軸)が示されている。テンプレート13の主面13aは、この第1のGaN系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面から該第1のGaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。傾斜角αは、テンプレート13の主面13aの法線ベクトルVNと基準軸Cxとの成す角度によって規定され、この角度は、本実施例では、ベクトルVC+とベクトルVNとの成す角に等しい。GaN系半導体エピタキシャル領域15は、主面13a上に設けられている。活性層17は、少なくとも一つの半導体エピタキシャル層19を含む。半導体エピタキシャル層19は、GaN系半導体エピタキシャル領域15上に設けられている。半導体エピタキシャル層19は第2のGaN系半導体からなり、第2のGaN系半導体は構成元素としてインジウムを含む。半導体エピタキシャル層19の膜厚方向は、基準軸Cxに対して傾斜している。この基準軸Cxは、第1のGaN系半導体の[0001]軸の方向、或いは[000−1]軸の方向に向いていることができる。本実施例では、基準軸Cxは、ベクトルVC+で示される方向に向いており、この結果、ベクトルVC−は、[000−1]軸の方向に向いている。また、図2にも、オフ角AOFFが示されており、このオフ角AOFFはXZ面内における角度である。
【0073】
このGaN系半導体光素子11bによれば、テンプレート13では、その主面13a(図3に示された半導体領域139の主面139a)は、図2に示されるような幅の狭い複数のテラスを含む表面モフォロジM1からなる。また、テンプレート13の半導体領域139上にはGaN系半導体エピタキシャル領域15が設けられている。GaN系半導体エピタキシャル領域15の結晶軸は、テンプレート13における半導体領域139の結晶軸を引き継いでいる。これ故に、GaN系半導体エピタキシャル領域15の主面15aも、基準軸Cxに直交する面からm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の角度で傾斜している。したがって、GaN系半導体エピタキシャル領域15の主面15aも、幅の狭い複数のテラスを含む表面モフォロジM2を有する。これらのテラスの配列はマイクロステップを構成する。上記の角度範囲のテラスの幅が狭いので、複数のテラスにわたってIn組成の不均一は生じにくい。故に、In偏析による発光特性の低下が抑制される。
【0074】
GaN系半導体光素子11bの一実施例では、GaN系半導体エピタキシャル領域15は、Ax軸の方向(Z方向)に配列されたn型クラッド層41及び光ガイド層43aを含んでいる。n型クラッド層41は、例えばAlGaNまたはGaNからなることができ、また光ガイド層43aは、例えばアンドープInGaNからなることができる。n型クラッド層41及び光ガイド層43aが、テンプレート13の主面13a(図3に示された半導体領域139の主面139a)にエピタキシャル成長されるので、n型クラッド層41の主面41a及び光ガイド層43aの主面43c(本実施例では、表面15aと等価)も、それぞれ、テラス構造を有する表面モフォロジを有する。上記の表面モフォロジは、c軸の傾斜方向に配列された複数のマイクロステップを有しており、これらのマイクロステップは、傾斜方向に交差する方向に延びている。マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面等を含む。上記の構成面及びステップ端においては、Inの取り込みが良好である。
【0075】
GaN系半導体光素子11bは、GaN系半導体領域21は、Z方向に配列された光ガイド層43b、電子ブロック層45、クラッド層47及びコンタクト層49を含む。光ガイド層43bは、例えばアンドープInGaNからなることができる。電子ブロック層45は、例えばAlGaNからなることができ、クラッド層47は、例えばp型AlGaNまたはp型GaNからなることができ、またコンタクト層49は、例えばp型GaNまたはp型AlGaNからなることができる。
【0076】
GaN系半導体光素子11bは、コンタクト層49上に設けられた第1の電極51(例えば、アノード)を含むことができ、第1の電極51は、コンタクト層49を覆う絶縁膜53のストライプ窓を介してコンタクト層49に接続される。第1の電極51としては、例えばNi/Auを用いられる。テンプレート13の支持体131が導電性を有するとき、GaN系半導体光素子11bは、テンプレート13の裏面13b上に設けられた第2の電極55(例えば、カソード)を含むことができ、第2の電極55は、例えばTi/Alから成る。テンプレート13の支持体131が導電性を持たないとき、第2の電極55は、エッチング等により部分的に露出された半導体領域139の露出面にオーミック接触を成すように設けられる。
【0077】
活性層17は、電極51、55の両端に印加された外部電圧に応答して光LB2を生成し、本実施例ではGaN系半導体光素子11bは端面発光素子を含む。この活性層17において、ピエゾ電界のZ成分(所定の軸Axの方向に関する成分)は、p型GaN系半導体層43a、45、47、49からn型GaN系半導体層41、43aへ向かう方向と逆向きである。このGaN系半導体光素子11bによれば、ピエゾ電界のZ成分が、電極51、55の両端に印加された外部電圧による電界の方向と逆向きであるので、発光波長のシフトが低減される。
【0078】
GaN系半導体光素子11a、11bでは、テンプレート13におけるa軸方向のオフ角AOFFは有限の値であることが好ましい。a軸方向のオフ角AOFFは、エピタキシャル領域の表面モフォロジを良好にする。オフ角AOFFの範囲が、例えば−3度以上+3度以下の範囲にあることができ、具体的には、オフ角AOFFの範囲は、例えば−3度以上−0.1度以下及び+0.1度以上+3度以下の範囲にあることが好ましい。オフ角AOFFの範囲が例えば−0.4度以上−0.1度以下及び+0.1度以上+0.4度以下の範囲にあるとき、表面モフォロジがさらに良好になる。
【0079】
GaN系半導体光素子11a、11bでは、活性層17は480nm以上である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。また、活性層17は600nm以下である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。63度以上80度未満の範囲の傾斜角は、480nm以上で600nm以下の発光波長の範囲において有効である。このぐらいの波長になってくると、だいぶ井戸層のIn組成が大きくなり、c面やm面及び{10−11}面等のIn偏析の大きな面では、発光強度が大きく低下する。一方、この角度範囲では、In偏析が小さいため、480nm以上の長波長領域でも発光強度の低下が小さい。また、井戸層の厚さの範囲は、例えば0.5nm〜10nmであることができる。InXGa1−XN井戸層のIn組成Xの範囲は、例えば0.01〜0.50であることができる。
【0080】
引き続き、テンプレートの作製について説明する。図4は、テンプレートの作製における主要な工程を含む工程フローを示す図面である。図5及び図6は、テンプレートの作製における主要な工程を模式的に示す図面である。図7は、所望の傾斜角のテンプレートを得るための異種基板の主面の傾斜角を模式的に示す図面である。
【0081】
工程S120では、異種基板141を準備する。引き続く説明では、異種基板141は例えばサファイアからなる。図5(a)に示されるように、異種基板141の主面141aの法線Nは、そのc軸と角度γを成す。実施例では、角度γは角度αの範囲内で選択される。
【0082】
工程S121では、マスクのための誘電体膜を異種基板141の主面141a上に成長する。この誘電体膜の膜厚は例えば10ナノメートル以上であることができ、また500ナノメートルであることができる。次いで、図5(b)に示されるように、工程S122では、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて、誘電体膜の加工によりマスク143を形成する。本実施例では、マスク143はストライプ143aを含む。好適な実施例では、ストライプ143aは、テンプレート上に成長される窒化ガリウム系半導体のc軸に直交する方向に延在し、また該c軸の傾斜方向に配列されている。工程S123では、マスク143を用いて異種基板141をエッチングして、支持体145を形成する。エッチングはドライエッチングを用いることができる。このエッチングにより異種基板141の主面141aに凹部147が形成される。支持体145には、ストライプ143a及び凹部147が交互に配列されている。ストライプ143aは支持体145の主面145aを覆っている。凹部147は、テンプレート上に成長される窒化ガリウム系半導体のc軸に直交する方向に延在し、また該c軸の傾斜方向に配列されている。凹部147は、第1及び第2の側面147a、147bを含み、第1の側面147aは所定の面方位を有し、第2の側面147bは、第1の側面147aに所定の面方位が形成されるような面方位に形成される。第1の側面147aの面方位は、後の工程において成長される窒化ガリウム系半導体のc軸の傾斜角を規定する。異種基板141がサファイアからなるとき、第1の側面147aは{0001}面からなり、第2の側面147bはファセット面からなる。図5(c)に示されるように、第1の側面147aはc軸Cxと交差し、本実施例ではc軸Cxにほぼ直交する。
【0083】
工程S124では、図6(a)に示されるように、第2の側面147bを覆うように第2の側面147b上に絶縁膜149を形成すると共に、第1の側面147aを覆うこと無く第1の側面147aを露出させる。この絶縁膜149の選択形成は、例えば膜の堆積、フォトリソグラフィ及びエッチングにより行われる。この絶縁膜の膜厚は例えば10ナノメートル以上であることができ、また500ナノメートル以下であることができる。
【0084】
工程S125では、支持体145上にマスク143を覆うように一体の窒化ガリウム系半導体を成長して、単結晶の半導体領域を形成する。この半導体領域の形成は、凹部147の第1の側面147aへのエピタキシャル成長によって行われる。工程S125−1では、図6(b)に示されるように、比較的低温、例えば摂氏500度程度で、凹部147を埋める程度に窒化ガリウム系半導体を成長する。この成長では、個々の凹部147において、窒化ガリウム系半導体は側面147aにエピタキシャルに成長されるので、この窒化ガリウム系半導体のc軸は支持体145の主面に対して角度γ程度で傾斜している。次いで、工程S125−2では、図6(c)に示されるように、比較的高温、例えば摂氏1100度程度で、凹部147を埋めた窒化ガリウム系半導体の結晶軸を引き継いで、同じ種類の窒化ガリウム系半導体を成長する。この成長は、工程S125−1における成長に比べて、窒化ガリウム系半導体の横方向成長を促進する条件で行われる。これらの工程によって、支持体145上にマスク143及び絶縁膜149を覆うように単結晶の半導体領域151を形成する。望ましい実施例では、単結晶の半導体領域151はGaNからなることができ、このテンプレートをGaNテンプレートと呼ぶ。
【0085】
異種基板141の材料は、サファイアに限定されることなく、スピネル、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなることができる。これらの材料は、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面の半導体領域をテンプレートに提供できる。図7は、異種基板の主面とその材料の結晶軸との関係を示す図面である。図7(a)を参照すると、シリコンでは、結晶軸<111>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<111>は<−101>軸の方向に角度γで傾斜される。シリコンに凹部を形成するためにエッチャントは例えばKOHであることができる。図7(b)を参照すると、4H−SiC、6H−SiCでは、結晶軸<0001>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<0001>は<1−100>軸の方向に角度γで傾斜される。4H−SiC、6H−SiCに凹部を形成するためにドライエッチングを施すことができる。図7(c)を参照すると、3C−SiCでは、結晶軸<111>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<111>は<−101>軸の方向に角度γで傾斜される。3C−SiCに凹部を形成するためにドライエッチングを施すことができる。図7(d)を参照すると、ZnOでは、結晶軸<0001>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<0001>は<1−100>軸の方向に角度γで傾斜される。ZnOに凹部を形成するためにエッチャントは例えば硝酸であることができる。図7(e)を参照すると、スピネルでは、結晶軸<111>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<111>は<−101>軸の方向に角度γで傾斜され。スピネルに凹部を形成するためにドライエッチングを施すことができる。図7(f)を参照すると、β−Ga2O3では、そのc軸が主面と角度γを成す。c軸はa軸に対して103.7度の角度を成す。β−Ga2O3に凹部を形成するためにエッチャントは例えばフッ酸であることができる。
【0086】
このテンプレートを用いて、窒化ガリウム系半導体光素子のためのエピタキシャル基板が提供される。エピタキシャル基板は、上記の窒化ガリウム系半導体光素子のためのテンプレートと、このテンプレート上に設けられた窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域と、この窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域上に設けられ活性層のための半導体エピタキシャル層とを備える。テンプレートを用いて、窒化ガリウム系半導体と異なる材料の異種基板上に設けられIn偏析による発光特性の低下を抑制可能な窒化ガリウム系半導体発光素子のためのエピタキシャル基板が提供される。
【0087】
(実施例1)
実施例1では、予備的な実験としてGaNテンプレートに替えて、GaNウエハを用いた。発明者らの知見によれば、GaNウエハを用いた実験は、GaNテンプレートを用いた実験と同様な結果を提供できる。GaNウエハS1及びGaNウエハS2を準備した。GaNウエハS1の主面は六方晶系GaNにおけるc面からなる。GaNウエハS2の主面は、六方晶系GaNにおけるm軸方向にc面から75度の角度で傾斜しており、この傾斜面は(20−21)面として示される。いずれの主面も鏡面研磨されている。ウエハS2の主面では、−3度以上+3度以下の範囲の角度で(20−21)面からオフ角が分布している。
【0088】
GaNウエハS1及びGaNウエハS2上に、有機金属気相成長法により、Siドープn型GaN層及びアンドープInGaN層をエピタキシャルに成長して、図8に示されるエピタキシャル基板E1、E2を作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)を用いた。
【0089】
成長炉内にウエハS1、S2を設置した。これらのウエハ上に以下の条件でエピタキシャル成長を行った。摂氏1050度の温度及び27kPaの炉内圧力において、NH3とH2を流しながら10分間熱処理を行った。この熱処理温度として、例えば摂氏850度以上1150度以下の温度を用いることができる。また、熱処理の雰囲気として、NH3とH2等の組み合わせを用いることができる。この熱処理による表面改質によって、ウエハS2の表面に、オフ角によって規定されるテラス構造が形成される。
【0090】
この熱処理の後に、TMG、NH3、SiH4を成長炉に供給して、摂氏1000度においてSiドープしたGaN層61a、61bを成長した。GaN層61a、61bの厚さは例えば2マイクロメートルである。次いで、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、摂氏750度の基板温度でアンドープInGaN層63a、63bを成長した。InGaN層63a、63bの厚さは20nmである。また、モル比はV/III=7322であり、成長炉圧力は100kPaである。成膜後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャル基板E1、E2を作製した。
【0091】
エピタキシャル基板E1、E2のX線回折測定を行った。スキャンはω−2θ法を用いて行われた。X線の回折角が結晶の格子定数を反映するので、例えばInGaN3元混晶の各元素のモル分率を測定できる。
【0092】
また、エピタキシャル基板E1、E2では、ウエハの主面のオフ角が互いに異なるので、X線回折測定を行う際に、それぞれのウエハの主面のオフ角に合わせた位置に、X線入射装置、試料台、X線検出装置を配置した。
【0093】
具体的には、エピタキシャル基板E1では[0001]方向に軸立てを行った。回折結果を理論計算とフィッティングして、InGaN中のIn組成が決定される。この面方位では、ウエハ主面の法線方向[0001]と測定の軸立て方向[0001]が一致するので、理論計算から得られた値がそのまま実際の組成として使用できる。
【0094】
エピタキシャル基板E2では[10−10]方向に軸立てを行う。この軸立てで、ウエハ主面{20−21}面に対して15度だけ傾斜してX線が入射するので、X線回折からの値は、In組成を過小に見積もっている。このため、実験結果を理論計算とフィッティングする際に、[10−10]方向からの傾きに応じて測定値を補正する必要がある。この補正により、InGaN中のIn組成が決定される。
【0095】
図9は、X線回折結果及び理論計算の結果を示す図面である。図9(a)を参照すると、エピタキシャル基板E1の実験結果EX1及び理論計算結果TH1が示されている。図9(b)を参照すると、エピタキシャル基板E2の実験結果EX2及び理論計算結果TH2が示されている。エピタキシャル基板E1のIn組成は20.5パーセントであり、一方、エピタキシャル基板E2のIn組成は19.6パーセントである。この実験結果は、GaNのc面に比べてGaN(20−21)面が同等のIn取り込みであることを示している。このことは、例えば発光ダイオードや、半導体レーザダイオード等の光デバイスの作製において、高いIn組成を必要とする長波長の発光素子に好適である。また、同じIn組成であれば、InGaNの成長温度を高めることが可能であり、発光層の結晶性を向上できる。
【0096】
(実施例2)
図10に示される工程に従って、有機金属気相成長法により、図11(a)及び図11(b)にそれぞれ示される発光ダイオード構造(LED1、LED2)のエピタキシャル基板をGaNテンプレートS3及びGaNテンプレートS4上に作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。
【0097】
GaNテンプレートS3及びS4を準備した。本実施例では、GaNテンプレートS3及びS4の支持体の導電性材料は、例えばシリコンからなる。工程S101では、六方晶系GaNにおけるc面からなる主面を有するGaNテンプレートS3が準備された。工程S102では、63度から80度未満の傾斜角の範囲内の傾斜角に該当するGaNテンプレートS4が準備された。本実施例では、GaNテンプレートS4は、六方晶系GaNにおけるm軸方向にc面から75度の角度で傾斜したGaN主面を有しており、この傾斜面は(20−21)面として示される。
【0098】
テンプレートS3、S4上に以下の条件でエピタキシャル成長を行った。まず、工程S103では、テンプレートS3、S4を成長炉内に設置した。工程S104では、GaN系半導体領域が成長される。例えば、摂氏1100度において、TMG、NH3、SiH4を成長炉に供給して、SiドープGaN層65bを成長した。GaN層65bの厚さは例えば5マイクロメートルである。次いで、摂氏850度の基板温度で、TMG、TMI、NH3、SiH4を成長炉に供給して、SiドープInGaN層67bを成長した。InGaN層67bの厚さは100nmである。InGaN層67bのIn組成は例えば0.02である。
【0099】
工程S105では、活性層を成長する。工程S106では、摂氏870度の基板温度で、TMG、NH3を成長炉に供給して、この成長温度T1でアンドープGaN障壁層69bを成長した。GaN層69bの厚さは15nmである。工程S107では、成長後に、成長を中断して、摂氏870度から摂氏760度に基板温度を変更する。変更後に、工程S108では、この成長温度T2で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、アンドープInGaN井戸層71bを成長した。InGaN井戸層71bの厚さは3nmである。InGaN層71bのIn組成は例えば0.25である。井戸層71bにおいては、発光波長に応じてIn流量を変更している。InGaN井戸層71bの成長後に、TMIの供給を停止した。工程S109では、TMG、NH3を成長炉に供給しながら、摂氏760度から摂氏870度に基板温度を変更した。この変更中にも、アンドープGaN障壁層73bの一部が成長されている。変更後に、工程S110で、アンドープGaN障壁層73bの残りを成長した。GaN障壁層73bの厚さは15nmである。工程S111では、障壁層の成長、温度変更、井戸層の成長、を繰り返して、InGaN井戸層(75b、79b)、GaN障壁層(77b、81b)を形成した。
【0100】
工程S112では、GaN系半導体領域が成長される。例えば、GaN障壁層81bの成長後に、TMGの供給を停止して、基板温度を摂氏1000度に上昇した。この温度で、TMG、TMA、NH3、Cp2Mgを成長炉に供給して、p型AlGaN電子ブロック層83bを成長した。電子ブロック層83bのAl組成は例えば0.18であり、電子ブロック層83bは例えば20nmであった。この後に、TMAの供給を停止して、p型GaNコンタクト層85bを成長した。p型GaNコンタクト層85bは例えば50nmであった。成膜後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャル基板E4を作製した。本実施例におけるp型領域の成長温度は、c面上へのp型領域の成長に最適な成長温度に比べて100度ほど低い。発明者らの実験により、以下のことが確認されている:本オフ角範囲内の基板上に成膜した活性層はp層成長時の昇温に敏感で劣化しやすく、c面へのp型領域の成長に最適な温度では、特に長波長の活性層を成長した際にマクロな暗領域が広がる。ここで、暗領域は蛍光顕微鏡像における非発光領域を意味する。p層成長温度を下げることにより、p層成長時の昇温による暗領域の広がりを防ぐことができた。
【0101】
次いで、テンプレートS3についても同じ成膜条件を用いて、SiドープGaN層(厚さ:5マイクロメートル)65a、SiドープInGaN層(厚さ:100nm)67a、p型AlGaN電子ブロック層(厚さ:20nm)83a及びp型GaNコンタクト層(厚さ:50nm)85aを成長した。活性層は、InGan井戸層(厚さ:3nm)71a、75a、79a、GaN障壁層(厚さ:15nm)69a、73a、77a、81aを含む。コンタクト層の成長後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャル基板E3を作製した。
【0102】
工程S113では、エピタキシャル基板E3、E4上に電極を形成した。まず、エッチング(例えば、RIE)によりメサ形状を形成した。メサ形状のサイズは例えば一辺400μm角である。次いで、p型GaNコンタクト層85a、85b上にp透明電極(Ni/Au)87a、87bを形成した。この後に、pパッド電極(Ti/Au)を形成した。テンプレートS3、S4のSiドープGaN層65a、65bは、エッチングによる除去によって形成された露出面65c、65dにn電極(Ti/Al)89a、89bを形成した。電極アニール(例えば、摂氏550度で1分)の手順で行った。これの工程により、発光ダイオード構造LED1、LED2が得られた。
【0103】
発光ダイオード構造LED1、LED2に電流を印加して、エレクトロルミネッセンススペクトルを測定した。電極サイズは400マイクロメートル角であり、印加電流は120mAである。図12は、発光ダイオード構造LED1、LED2のエレクトロルミネッセンススペクトルを示す図面である。スペクトルELC、ELM75が示されている。これらのスペクトルのピーク波長は同程度であり、スペクトルELM75のピーク強度がスペクトルELCのピーク強度の2倍以上であり、またスペクトルELM75の半値全幅がスペクトルELCの半値全幅の半分以下である。発光ダイオード構造LED2の光出力が高く、また半値全幅が小さい。これらは、優れた色純度を示すと共に、また他の色の発光と混ぜ合わせた際の演色性を高めることができる。LEDモードにおける発光の半値全幅が小さく、これは、レーザダイオードのしきい値を低くすることに非常に有効である。
【0104】
図13は、エピタキシャル基板E3、E4のカソードルミネッセンス(CL)像を示す図面である。図13(a)を参照すると、エピタキシャル基板E3のカソードルミネッセンス像が示されている。図13(a)の発光像にはムラがあり、発光に寄与していない暗領域が広いことがわかる。この発光の不均一は、エピタキシャル基板E3の活性層におけるIn偏析に因ると考えられる。c面基板を用いるエピタキシャル基板では、発光波長が長くになるにつれて、発光の不均一の程度は顕著になる。これ故に、c面基板を用いる発光素子では、発光が長波長になるほど、光出力が低下し、また発光スペクトルの半値全幅も大きくなる。
【0105】
図13(b)を参照すると、エピタキシャル基板E4のカソードルミネッセンス像が示されている。図13(b)の発光像は、図13(a)の発光像に比べて発光の均一性に優れる。故に、エピタキシャル基板E4では、InGaN層のIn偏析が小さいと考えられる。このため、発光素子の発光強度が大きく、発光半値幅も小さくなる。また、テンプレートS4上に作製された発光素子では、長波長の発光における光出力の低下が小さく、また長波長の発光スペクトルにおける半値幅の増大も小さい。
【0106】
図14は、発光ダイオード構造LED1、LED2において発光波長と電流注入量との関係の測定を示す図面である。図14を参照すると、発光ダイオード構造LED1では、電流注入量を増やすにつれて発光波長が次第に短波長にシフトする。これに対して、発光ダイオード構造LED2では、少ない電流注入量のとき僅かに発光波長が短波長にシフトした後は、発光波長は、ほとんど電流量の増加に対して変化しない。このことは、発光ダイオードへの印加電流量を変えて発光ダイオードの発光強度を変更する際に、発光波長の変動がほとんどないことを示している。つまり、発光ダイオード構造LED2では、LEDモードにおける発光ピーク波長の電流依存性が低減される。
【0107】
光励起による発光測定では、発光ダイオード構造LED1(c面)の発光波長は550nmであり、発光ダイオード構造(75度オフ)LED2の発光波長は505nmであった。光励起されている発光ダイオード構造の内部状態は、非常に少ない電流が注入されている発光ダイオード構造の内部状態に相当する。
【0108】
電流注入に対する発光波長の依存性と光励起による発光測定結果から、以下のことを意味している:発光ダイオード構造LED2では、印加電圧を徐々に大きくしていったときに、非常に小さい発光(実用的な面では「光り出す前」)において発光波長のシフトが実質的に完了しており、十分な強度の発光が生じた後にはほとんど発光波長がシフトしない。
【0109】
c面上の活性層におけるピエゾ電界は、GaN系半導体のm軸の方向にc面から63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜したGaN系半導体面上に設けられた活性層におけるピエゾ電界に比べて大きい。図14に示される特性から、発光ダイオード構造LED2におけるピエゾ電界の向きは、発光ダイオード構造LED1におけるピエゾ電界の向きと逆である。また、電流注入の際の電界方向は、発光ダイオード構造LED2におけるピエゾ電界の方向と反対である。図15は、非特許文献1及び2に示された計算結果を示す図面である。図15(a)及び図15(b)におけるピエゾ電界を表す曲線において正負が異なるのは、電界の方向の定義の問題である。また、曲線の傾きや曲率が異なるのは、計算に用いたパラメータが異なるためである。
【0110】
(実施例3)
c面からm軸方向に75度の角度で傾斜した主面を有するGaNテンプレートS5、S6上に、発光ダイオード構造LED3、LED4を作製した。発光ダイオード構造LED3、LED4の発光波長は互いに異なる。発光ダイオード構造LED3、LED4における発光波長の変更は、井戸層のIn組成を変更することによって行った。In組成の変更のために、井戸層の成長時にIn原料(例えばTMI)の流量を変えた。この活性層の変更を除いて、発光ダイオード構造LED3、LED4の作製は発光ダイオード構造LED2と同じである。
【0111】
図16は、異なるIn組成を有する井戸層の発光ダイオード構造のエレクトロルミネッセンスを示す図面である。発光ダイオード構造LED3の井戸層は例えばIn0.16Ga0.84Nであり、発光ダイオード構造LED4の井戸層は例えばIn0.20Ga0.80Nである。発光ダイオード構造LED3(ピーク波長:460nm)及び発光ダイオード構造LED4(ピーク波長:482nm)を比べると、これらの波長において発光強度の差や半値全幅の差が観察されない。これは、高効率の長波長の発光素子を作製するために非常に好適なことである。
【0112】
図17は、InGaN井戸層の発光ダイオード及びAlGaInP井戸層の発光ダイオードにおける外部量子効率並びに人間の視感度曲線を示す図面である。長波長の光を発生する発光ダイオード構造を得るために、大きなIn組成の井戸層を作製する。発明者らの知見によれば、図17に示されるように、c面GaN基板上の発光ダイオード構造では、InGaN井戸層のIn組成の増加に伴ってInGaNの結晶性が低下する。この結晶性の低下により、発光強度は低下すると共に、スペクトルの半値全幅も大きくなる。特に500nmを越える長波長領域では、高い外部量子効率の発光ダイオードといった発光素子を作製できない。
【0113】
既に説明したように、発光素子はIn元素を含むGaN系半導体井戸層を含んでおり、このGaN系半導体井戸層は、GaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角でc面を基準にして傾斜したGaN系半導体面上に成長されている。この発光素子によれば、発光強度の差や半値全幅の差が観察されない。これは、高効率の長波長の発光素子を作製するために非常に好適なことである。
【0114】
(実施例4)
GaNテンプレートS4と同等の品質のGaNテンプレートS5上に、図18に示されるレーザダイオード構造(LD1)のエピタキシャル基板を作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。
【0115】
63度から80度未満の傾斜角の範囲内の傾斜角に該当するGaNテンプレートS5が準備された。GaNテンプレートS5は、六方晶系GaNにおけるm軸方向にc軸に直交する平面から75度の角度で傾斜した主面を有しており、この傾斜面は(20−21)面として示される。テンプレートS5上に以下の条件でエピタキシャル成長を行った。
【0116】
まず、テンプレートS5を成長炉内に設置した。このテンプレート上にGaN系半導体領域が成長される。例えば、摂氏1150度において、TMG、TMA、NH3、SiH4を成長炉に供給して、n型クラッド層89を成長した。n型クラッド層89は、例えばSiドープAlGaN層である。AlGaN層の厚さは例えば2マイクロメートルであり、そのAl組成は例えば0.04であった。
【0117】
次いで、摂氏830度の基板温度で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、光ガイド層91aを成長した。光ガイド層91aは、例えばアンドープのIn0.02Ga0.98N層からなり、その厚さは100nmである。
【0118】
次いで、活性層93を成長する。摂氏870度の基板温度で、TMG、NH3を成長炉に供給して、この成長温度T1でGaN系半導体障壁層93aを成長した。障壁層93aは、例えばアンドープGaNであり、その厚さは15nmである。障壁層の成長後に、成長を中断して、摂氏870度から摂氏830度に基板温度を変更する。変更後の成長温度T2で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、アンドープInGaN井戸層93bを成長した。その厚さは3nmである。井戸層の成長後に、TMIの供給を停止すると共に、TMG、NH3を成長炉に供給しながら、摂氏830度から摂氏870度に基板温度を変更した。この変更中にも、アンドープGaN障壁層93aの一部が成長されている。温度の変更が完了した後に、アンドープGaN障壁層93aの残りを成長した。GaN障壁層93aの厚さは15nmである。続けて、障壁層の成長、温度変更、井戸層の成長、を繰り返して、InGaN井戸層93b、GaN障壁層93aを形成した。
【0119】
摂氏830度の基板温度で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、活性層93上に光ガイド層91bを成長した。光ガイド層91bは、例えばアンドープのInGaN層からなる。光ガイド層91bの厚さは100nmであり、そのIn組成は0.02であった。
【0120】
光ガイド層91b上に、GaN系半導体領域が成長される。光ガイド層91bの成長後に、TMG及びTMIの供給を停止して、基板温度を摂氏1000度に上昇した。この温度で、TMG、TMA、NH3、Cp2Mgを成長炉に供給して、電子ブロック層95及びp型クラッド層97を成長した。電子ブロック層95は例えばAlGaNであった。電子ブロック層95の厚さは例えば20nmであり、Al組成は0.12であった。p型クラッド層97は例えばAl0.06Ga0.94Nであった。p型クラッド層97の厚さは例えば400nmであり、そのAl組成は0.06であった。この後に、TMAの供給を停止して、p型コンタクト層99を成長した。p型コンタクト層99は例えばGaNからなり、その厚さ例えば50nmであった。成膜後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャル基板E5を作製した。
【0121】
エピタキシャル基板E5上に電極を形成した。まず、シリコン酸化膜といった絶縁膜101を堆積し、この絶縁膜にフォトリソグラフィ及びエッチングによりコンタクト窓を形成した。コンタクト窓は、例えばストライプ形状であり、その幅は例えば10マイクロメートルである。次いで、p型GaNコンタクト層99上にp電極(Ni/Au)103aを形成した。この後に、pパッド電極(Ti/Au)を形成した。n電極(Ti/Al)103bをエピタキシャル基板E5の裏面に形成した。電極アニール(例えば、摂氏550度で1分)の手順で行って基板生産物を作製した。これの工程の後に、800マイクロメートル間隔で基板生産物を切断して、ゲインガイド型レーザダイオードLD5が得られた。しきい値電流は5kAcm−2であった。そのときの発振波長は405nmであった。この半導体レーザでは、LEDモードにおける発光のスペクトルの半値全幅が小さい。また、この半導体レーザのInGaN層のIn偏析は小さい。なお、テンプレートS5の支持体が導電性を持たないとき、n電極103bは、エッチング等により部分的に露出されたテンプレートS5の露出面にオーミック接触を成すように設けられる。
【0122】
(実施例5)
実施例5では、予備的な実験としてGaNテンプレートに替えて、再びGaNウエハを用いた。発明者らの知見によれば、GaNウエハを用いた実験は、GaNウエハの面方位と同じ面方位のGaNテンプレートを用いた実験と同様な結果を提供できる。様々なオフ角のGaNウエハ上にInGaNを堆積して、そのInGaNのIn組成を測定した。図19は、m軸方向へc軸から取られた様々な傾斜角(オフ角)を有するGaN主面上に堆積されたInGaNのIn組成とオフ角との関係を示す図面である。プロットP1〜P4におけるオフ角を示す:
プロットP1:63度
プロットP2:75度
プロットP3:90度(m面)
プロットP4:43度
プロットP5:0度(c面)
In組成は、プロットP5(c面)からプロットP4までオフ角の増加と共に単調に減少している。一方、プロットP1、P2では、プロットP5(c面)と同等のIn取り込みを示している。プロットP3(m面)も、優れたIn取り込みを示すけれども、80度以上のオフ角ではIn偏析が大きくなり、長波長化に伴う発光強度の低下という不具合がある。
【0123】
図20(a)を参照しながら、63度以上80度未満の範囲内のオフ角βを有するGaN系半導体面上へのIn含有のGaN系半導体の堆積を模式的に説明する。上記の傾斜角範囲のオフ角の半導体表面、例えば{20−21}面付近の表面には、{10−11}面からなるテラスT1とm面からなるテラスT2とが現れている。半導体表面はこれらのテラスT1、T2からなる微細なステップで構成される。発明者らの実験によると、m面だけでなく{10−11}面におけるIn取り込みは、c面におけるIn取り込みと同等、或いはc面におけるIn取り込みより優れている。また、In取り込みを高めるためには、InNの島状成長が可能になる十分な大きさのテラス幅が必要である。
【0124】
10度から50度の範囲のオフ角では、{10−11}面からなるテラスT4とc面からなるテラスT5とが現れている。半導体表面はこれらのテラスT4、T5からなる微細なステップで構成される。この角度範囲では、オフ角が大きくなるほどテラスT4、T5の幅が小さくなり、これ故に、図19に示されるように、10度から50度の範囲のオフ角の半導体表面では、Inの取り込みが小さい。これは、c面と{10−11}面からなるステップが半導体表面に形成されていると、テラスT4、T5上でInが取り込まれる。しかしながら、テラスT4、T5から構成されるテラスエッジ(ステップ端)T6に現れる化学結合のボンドの視点から検討すると、テラスエッジT6ではIn原子が取り込まれない。
【0125】
一方、発明者らの実験によれば、テラスT1、T2からなるマイクロステップ構造ではInの取込能が良好である。これはテラスT1、T2上だけではなく、テラスT1、T2から構成されるテラスエッジ(ステップ端)T3でもInが効率よく取り込まれる。テラスエッジT3に現れる化学結合のボンドの視点からの検討によって裏付けられる。取り込まれたInは、アンモニア雰囲気中における熱処理(井戸層の成長と障壁層の成長との間の温度上昇)工程において、半導体表面から脱離する可能性が下がる。故に、例えばInGaNからなる井戸層を成膜温度T1で成長した後に障壁層の成長温度T2に昇温する際に井戸層の表面を炉内の雰囲気に露出させても、井戸層の表面から脱離するIn量を低減できる。
【0126】
50度を越えるオフ角の範囲であり実施例の{20−21}面に代表される半導体表面は、優れたIn取り込み能力を示す。また、この半導体表面に成長された活性層からの発光像は、良好な均一性を有する。その発光スペクトルの半値幅は狭く、発光素子の光出力も高い。また、長波長の発光を可能にするためにIn組成を増加した井戸層を作製しても、発光効率の低下が小さい。故に、本実施の形態に係る光素子及びその作製方法は、InGaN層を含む光素子を実現する際に、非常に有効な特性を持つ。
【0127】
GaN系半導体膜を成長する方法は、図20(a)に示されるように、複数のマイクロステップを有する表面を有するGaN系半導体領域Bを準備する工程と、構成元素としてInを含むGaN系半導体膜Fをマイクロステップ表面上に成長する。マイクロステップは、主要な構成面として少なくともm面及び{10−11}面を含む。或いは、GaN系半導体膜を成長する方法は、GaN系半導体からなり主面を有する半導体エピタキシャル領域Bを成長する工程と、構成元素としてInを含むGaN系半導体膜Fを半導体エピタキシャル領域Bの主面上に成長する。半導体エピタキシャル領域Bの主面は、GaN系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1のGaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。
【0128】
マイクロステップ構造の一例を示す。マイクロステップ構造の高さは、例えば0.3nm以上であり、例えば10nm以下である。その幅は、例えば0.3nm以上であり、例えば500nm以下である。その密度は、例えば2×104cm−1以上であり、例えば3.3×107cm−1以下である。
【0129】
63度以上80度未満の範囲のオフ角では、小さいIn偏析が実現される理由を以下のように説明できる。c面、m面(非極性面)、{11−22}面及び{10−11}面等の安定面からなる大きなテラスでは、Inのマイグレーションが可能である。それ故に、原子半径の大きなIn原子がマイグレーションにより集まり、この結果、In偏析が生じる。図13(a)に示されるように、c面上のカソードルミネッセンス像は不均一な発光を示す。一方、63度以上80度未満の範囲内のオフ角に対応する結晶面、例えば{20−21}面ではテラスT1、T2のテラス幅が狭いので、InがテラスT1、T2上で取り込まれたとき十分なInマイグレーションは生じない。また、テラスエッジT3で取り込まれたときも同様に、十分なInマイグレーションは生じない。このため、原子の堆積時にInが吸着された場所で結晶に取り込まれる。堆積において、Inがランダムに吸着されるので、図13(b)に示されるように、{20−21}面上のカソードルミネッセンス像は均一な発光を示す。
【0130】
c面及びm面では、図19に示されるように、良好なIn取り込みを示す。しかしながら、大きなIn偏析が生じ、特に大きなIn組成においてIn偏析が増加して、不均一な発光像に起因する非発光領域が増加する。活性層のIn組成の増加により、発光スペクトルの半値全幅が広くなる。一方、c面と{10−11}面との間のオフ角では、図19に示されるように、In取り込みがc面に比べて低下する。しかしながら、{10−11}面とm面との間のオフ角では、図19に示されるように、In取り込みがc面に比べて良好であり、またIn偏析も小さい。
【0131】
以上説明したように、{20−21}面によって代表される結晶面のオフ角の範囲は、良好なIn取り込み性を示し、小さなIn偏析を示す。故に、非常に結晶性の良いInGaNを成長することができ、発光波長に応じて、これまでに比べて広い範囲でIn組成を変更できる。故に、良好な光素子を作製することができる。
【0132】
上記の説明は、{20−21}面を参照しながら行われたけれども、{20−2−1}面についても同様に当てはまる。また、上記の説明に記載された{20−21}面、{10−11}面、m面といった結晶面及び結晶方位は、その記載自体により特定されるものだけでなく、結晶学的に等価な面及び方位ものも示している。例えば{20−21}面とは(02−21)面、(0−221)面、(2−201)面、(−2021)面、(−2201)面の結晶学的に等価な面も代表する。
【0133】
(実施例6)
図21は、本実施例における半導体レーザを概略的に示す図面である。図21に示される半導体レーザを以下のように作製した。まず、(20−21)面を有するGaNテンプレート110を準備した。このGaNテンプレートのGaN半導体領域の主面(20−21)面上に以下の半導体層をエピタキシャル成長した。
n型クラッド層111:SiドープInAlGaN、成長温度900度、厚さ2μm、Al組成0.14、In組成0.03;
光ガイド層112a:アンドープGaN、成長温度840度、厚さ250nm;
光ガイド層112b:アンドープInGaN、成長温度840度、厚さ100nm、In組成0.03;
活性層113;
障壁層113a:アンドープGaN、成長温度870度、厚さ15nm;
井戸層113b:アンドープInGaN、成長温度730度、厚さ3nm、In組成0.30;
光ガイド層114b:アンドープInGaN、成長温度840度、厚さ100nm、In組成0.03;
電子ブロック層115:MgドープAlGaN、成長温度1000度、厚さ20nm、Al組成0.12;
光ガイド層114a:アンドープGaN、成長温度840度、厚さ250nm;
p型クラッド層116:MgドープInAlGaN、成長温度900度、厚さ400nm、Al組成0.14、In組成0.03;
p型コンタクト層117:MgドープGaN、成長温度900度、厚さ50nm。
【0134】
p型コンタクト層117上に、シリコン酸化膜といった絶縁膜118を堆積した後に、フォトリソグラフィ及びウエットエッチングを用いて幅10μmのストライプ窓を形成した。このストライプ窓を介してp型コンタクト層117に接触するp−電極(Ni/Au)119aを形成すると共に、パッド電極(Ti/Au)を蒸着した。GaNテンプレート110の裏面には、n−電極(Ni/Al)119bを形成すると共に、パッド電極(Ti/Au)を蒸着した。これらの工程によって作製された基板生産物を800μm間隔で、共振器のための端面を形成した。共振器のための端面にはSiO2/TiO2多層膜からなる反射膜を形成して、ゲインガイド型レーザダイオードを作製した。このレーザダイオードの発振波長は520nmで発振した。そのしきい値電流は7kA/cm2であった。なお、テンプレートS5の支持体が導電性を持たないとき、n電極103bは、エッチング等により部分的に露出されたテンプレートS5の露出面にオーミック接触を成すように設けられる。
【0135】
再び予備的な実験としてGaNテンプレートに替えて、GaNウエハを用いた。発明者らの知見によれば、GaNウエハを用いた実験は、GaNウエハの面方位と同じ面方位のGaNテンプレートを用いた実験と同様な結果を提供できる。{20−21}面を有するGaN基板(m面+75度オフGaN基板)及び{20−2−1}面を有するGaN基板(m面−75度オフGaN基板)を成長炉のサセプタ上に配置した。これらのGaN基板上に同時に、発光素子のための半導体積層を成長した。活性層は量子井戸構造を有し、井戸層はInGaNからなり、障壁層はGaNからなる。活性層の成長温度は800度を用いた。
【0136】
図22はm面+75度オフGaN基板上の量子井戸構造のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルPL+75、及びm面−75度オフGaN基板上の量子井戸構造のPLスペクトルPL−75を示す図面である。PLスペクトルPL+75のピーク波長は424nmであり、PLスペクトルPL−75のピーク波長は455nmである。ピーク波長差は30nm程度であり、これは、N面から傾斜を取った{20−2−1}面のIn取り込みが、Ga面から傾斜を取った{20−21}面に比べて大きいことを示している。図1に示された基準軸Cxの向きとして選ばれた[000−1]軸に対して、基板主面の法線がm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角を成すとき、この基板主面は、良好なIn取り込み能を示す。
【0137】
引き続き、GaN系半導体の成長について説明する。
1.GaN及びInGaNの成長機構(安定面)
GaN及びInGaNの成長機構について説明する。GaN系半導体の成長においては、結晶成長中に原子レベルで平坦な成長表面が形成されるような面方位、例えばc面があり、この面方位は「安定面」と呼ばれる。安定面へのGaNの成長機構は以下のようなものである。安定面上のGaN成長では、成長表面は数100nmオーダーの大きなテラス幅を持ったマクロな原子層ステップから形成される。このGaNの成長機構は、その成長温度の点から3種類に分類される。
【0138】
図23は、成長温度が高いときの成長モード及び成長温度が低いときの成長モードを模式的に示す図面である。成長炉における摂氏900度を超える成長温度では、図23(a)に示される成長モードが生じる。高い成長温度では、成長表面でのGaN分子のマイグレーションが大きいので、テラス上で結晶中に取り込まれることはほとんどなく、GaN分子がキンクと呼ばれる活性化エネルギの大きいステップ端に到達した時点で初めて結晶中に取り込まれる。その結果、その成長では、ステップ端が積層状に伸びていく。この成長モードをいわゆる「ステップフローな成長」と呼ぶ。図24は、GaNの成長表面のAFM像を示す図面である。図24(a)を参照すると、原子層ステップがある一定の方向に形成していっている様子が良くわかる。
【0139】
一方、成長炉における摂氏700度から摂氏900度程度の成長温度では、図23(b)に示される成長モードが生じる。低い成長温度では、成長表面での分子のマイグレーションは小さいので、分子はステップ端に到達することなく、大きなテラス上で結晶に取り込まれる。分子が取り込まれた部分が核となり、ステップが広がるような成長をする。この成長モードを「テラス上成長」と呼ぶ。図24(b)は、テラス上成長により成長されたGaNの成長表面のAFM像を示す図面である。この成長におけるモフォロジでは、多数の生成核が形成され、また多数の核からステップが広がる。これ故に、ステップが一方向に伸びるのではなく、全方位に形成されていく。
【0140】
摂氏700度以下の成長温度では、上記の成長モードと異なる成長モードが生じる。非常に低い成長温度では、分子のマイグレーションがほとんどないので、GaN分子が成長表面に到達した時点で即座に結晶中に取り込まれる。これ故に、結晶欠陥が非常に導入されやすく、高品質なGaN膜を成長することは難しい。この成長モードを「島状成長」と呼ぶ。
【0141】
次いで、c面からm軸方向に傾斜した様々な面方位の結晶面における成長を説明する。c面からm軸方向に傾斜した様々な面方位の結晶面に、摂氏1100度の成長温度でGaNを成長した。その表面をAFMで観察したところ、図23(a)に示すようなマクロな原子層ステップが観察された面方位は、以下の3種類の面からなるステップだけであることを見いだした。つまり、これらの面は、c面、m面、及びc面から約62度で傾斜した{10−11}面である。すなわち、c面をm軸方向に傾けた結晶面での成長では、安定面といえる面は上記3つの面だけである。3種類の安定面以外の面を総称して「非安定面」と呼ぶ。
【0142】
続いて、安定面上へのInGaNの成長機構を説明する。InGaNの成長機構は基本的にGaNと同じであると考えられる。異なる点は、InGaN成長では、InNの成長表面での滞在時間はGaNと比べて短く、InNの脱離が容易に生じる。これ故に、ある程度の大きさのIn組成のInを結晶中に添加したいとき、成長温度を下げる必要があり、おおよそその温度は摂氏900度以下となる。すなわち、安定面上のInGaNの成長は、テラス上成長となる。
【0143】
2.GaN及びInGaNの成長機構(非安定面)
非安定面におけるGaN及びInGaNの成長機構を説明する。摂氏1100度における成長温度で非安定面の面上に成長したGaN表面のAFM観察によれば、安定面からの比較的小さい傾斜角(「サブオフ角」と呼ぶ)の面方位上への成長では、そのオフ角に近い安定面から形成される細かなステップが観察された。そのテラス幅は、安定面ジャストの面方位への成長に比較して小さく、サブオフ角が大きいほどさらに小さくなる。安定面に対しておよそ角度2度程度の傾斜をさせると、AFM像では原子層ステップは観察されなくなった。これらの結果より、安定面近傍では成長中に安定面が出やすく、比較的テラス幅の大きいステップが形成される。図25(a)は、非安定面におけるGaN及びInGaNの高温成長におけるステップフローな成長の成長機構を模式的に示す図面である。図25において、矢印は成長方向を示す。
【0144】
一方、安定面から大きく傾斜するとき、テラス幅は小さくなると共に、AFM像では観察できないようなミクロなステップが形成されていることが考えられる。また、安定面は上記3種類しかないので、このミクロなステップも安定面からなるミクロなテラスで形成されており、高温で成長されたGaNの表面では、ある方向にステップが伸びるような成長をしていると考えられる。
【0145】
成長温度が低い場合のGaNの成長機構を説明する。安定面近傍では、安定面からなる広いテラスが形成されやすく、成長表面での分子のマイグレーションは小さいので、テラス上成長が支配的になる。図25(b)は、非安定面におけるGaN及びInGaNの低温成長におけるテラス上成長の成長機構を模式的に示す図面である。
【0146】
一方、安定面からのサブオフ角が大きな面方位の結晶面への成長では、表面のステップ密度が高まり、テラス幅が数nmオーダーまでミクロなものとなる。安定面からのサブオフ角が大きいとき、狭いテラス幅の故にテラス上成長の成長機構は起こりにくい。成長表面での分子のマイグレーションが小さい成長温度のときでも、活性化エネルギの高いステップ端に原子が到達しやすくなる。すなわち、安定面からのサブオフ角が大きくなると、より低温までステップ端が伸びていくような成長をすることが考えられる。この成長は、ステップフロー成長に比べるとテラス幅のスケールが2桁近く小さいので、ここでは「ステップ端成長」と呼ぶ。図25(c)は、非安定面におけるGaN及びInGaNの低温成長におけるステップ端成長の成長機構を模式的に示す図面である。
【0147】
上記の説明から以下のように考えられる。成長温度が低い場合、安定面及び安定面近傍ではテラス上成長が支配的である。安定面からのサブオフ角が大きくなると、次第にテラス上成長は弱まり、ステップ端成長が支配的になってくる。また、このことは成長温度が低いInGaNの成長機構とも一致する。
【0148】
3.In取り込みに関して
InGaN成長における各成長面でのIn取り込みを説明する。In組成を調べるために、c面からm軸方向に様々な傾斜角度で傾斜したGaN基板上に、摂氏760度ですべて同条件でInGaNを成長する実験を行った。図26は、その実験結果を示しており、横軸はc軸からm軸方向への傾斜角(オフ角)を示し、縦軸は、成長されたInGaNのIn組成を示す。
角度 In組成
0 21.6
10 11.2
16.6 9.36
25.9 7.54
35 4.33
43 4.34
62 22.7
68 29
75 19.6
78 18.5
90 23.1
角度の単位は「度」である。
図26を参照すると、c面におけるIn取り込みは良好である。c面からオフ角を大きくしていくと、Inの取り込みが低下していく。さらにオフ角を大きくしていくと、傾斜角40度を越えたあたりからIn取り込みが向上し始める。安定面である{10−11}面のIn取り込みはc面と同程度になっている。さらにオフ角を大きくしていくと、In取り込みは向上し、68度付近で極大値を示す。この角度を超えるとき、In取り込みは減少に転じる。In取り込みは、オフ角80度あたりを極小値を示す。この角度を超えてm面に近づくとき、In取り込みは向上する。m面はc面と同等程度のIn取り込みを示す。
【0149】
このIn取り込みの振る舞いを項目1及び2におけるInGaNの成長機構に基づき説明する。
【0150】
まず、図23(b)に示したように、安定面近傍でテラス上成長が支配的な場合には、図26に示されるようにInが良く取り込まれる。安定面からなるテラス上でIn取り込みが良い理由を、結晶表面の原子配列から以下のように説明できる。図27は、例として(10−11)面の表面原子配列を示す。図27を参照すると、c面c0及び(10−11)面が示されている。図27に示されるように、In原子は矢印Y(In)で示したN原子2個と2本の結合手で結合する。N原子2個は図27における直交座標系TにおけるX軸方向に並んでいる。それら2個のN原子が、図27における直交座標系TにおけるX軸の正(手前)方向及び負(奥行き)方向に変位でき、この配置は、原子半径の大きなIn原子を取り込みやすい状況にある。この原子配列が、テラス上成長でIn取り込みやすい理由を示すと考えられる。
【0151】
同様の考え方でステップ端成長する場合のIn取り込みを説明する。図28は、例としてm軸方向に45度程度傾けた面の成長表面の原子配列を示す。図28を参照すると、c面c0、c面から45度傾斜面m45及び(10−11)面が示されている。ステップ端に着目してみると、In原子は、矢印B1(In)で示したN原子2個とは2本の結合手で結合し、矢印R(In)で示したN原子1個とは1本の結合手で結合する。この場合、In原子との結合に関わる矢印B1(In)で示したN原子と矢印R(In)で示したN原子の変位できる方向が垂直の関係にあり、また原子半径の大きなInを取り込むためには3つのN原子が変位する必要があり、この原子配列はInを取り込みにくいような状態にある。これ故に、ステップ端成長ではIn取り込みが悪いと考えられる。これらを考え合わせると、図26の結果の一部が良く説明できる。すなわち、c面と{10−11}面の間の面方位では、安定面近傍ではテラス上成長が支配的でInの取り込みは良好である。一方、安定面からのサブオフ角が大きくなるにつれて、テラス上成長が弱まりステップ端成長が支配的になることでIn取り込みが小さくなる。
【0152】
一方、{10−11}面とm面の間でも同様の考え方が成り立つと考えられる。
【0153】
しかしながら、{10−11}面とm面との間のうちの{10−11}面寄りのc面からのオフ角が63度以上80度未満の範囲では、上記のような説明では理解できない振る舞いを示している。そこで、この角度範囲における表面原子配列をさらに検討するとき、この角度範囲でのみステップ端でもInが良く取り込まれることを見出した。図29は、例としてc面をm軸方向にオフ角75度で傾けた面の表面のステップの状態を模式的に示したものである。上記の角度範囲では、図29に示したように、成長表面は(10−11)面とm面とから形成されるミクロなステップからなっている。そのステップ端がm軸方向に伸びるようなステップ端成長をする。図30は、例としてm軸方向に75度程度傾けた面の成長表面の原子配列を示す。図30を参照すると、m面m0、c面から75度傾斜面m75及び(10−11)面が示されている。この場合、矢印R2(In)で示したN原子1個とは1本の結合手で結合し、矢印B2(In)で示したN原子1個とは1本の結合手で結合する。この配置では、2つのN原子の変位できる方向が対向するような状態にあり、また原子半径の大きなInを取り込むためには2つのN原子のみが変位すればよく、これ故に、このステップ端ではIn原子を取り込みやすいことが考えられる。また、他の角度範囲のステップ端についてもその表面原子配列を検討した。良いIn取り込みを示すステップ端での成長が可能である角度が、上記範囲のみであることを発明者らは見出した。
【0154】
以上の考察に基づいて、In取り込みのオフ角依存性を見積もった。図31は、In取り込みとオフ角との関係を示す図面である。In取り込みは、テラス上成長成分とステップ端成長成分との両方を見積もり、トータルIn取り込みは、これらの和によって示される。縦軸において、In取り込み量をc面上におけるIn取り込みに規格化している。実線Tはテラス上成長によって取り込まれるIn量を示し、実線Sはステップ端成長によって取り込まれるIn量を示し、実線SUMはその和を示す。このようにテラス上成長では、テラス上成長が支配的な安定面近傍でIn取り込みが高く、安定面から離れるほどテラス上成長が支配的でなくなりInは取り込まれなくなる。
【0155】
一方、ステップ端成長は安定面から離れるほどステップ密度が高まって支配的になる。しかしながら、c面から傾斜角63度以上80度未満の角度範囲の外側では、ステップ端成長によるIn取り込みはほとんどない。傾斜角63度以上80度未満の角度範囲でのみ、大きなIn取り込みがステップ端で生じるので、ステップ端成長が活発になるにつれてIn取り込みが大きくなるような振る舞いを示す。その結果、実線SUMで示したようなオフ角依存性となり、図31に示された見積もりは、図26に示された実験結果を良く説明している。
【0156】
4.In偏析に関して
以上の結果を踏まえて、InGaN膜中のIn偏析を説明する。c面基板上のInGaN活性層を有する光素子では、特に活性層の発光波長が長波長になるほど、すなわちInGaN結晶中のIn組成が高くなるほど、InGaN結晶中のIn偏析が大きくなる。この結果、InGaNの結晶品質が低下して、発光強度の低下や発光波長半値幅の増大が観察される。一方、発明者らの実験によれば、m軸方向へのc軸の傾斜角63度以上80度未満の範囲では、長波長領域を発光するInGaN層の発光強度低下は、c面やその他の安定面上におけるInGaN層に比べて小さく、また、半値幅の増大も小さい。
【0157】
発明者らは、この理由を成長機構やIn取り込みに基づき検討した。安定面上に成長したInGaN膜が大きなIn偏析を示す理由は以下のものと考えられる。図23(b)に示されるように、テラス上成長におけるIn取り込みでは、GaN及びInNの分子は、テラス上に到達した後に結晶中に取り込まれる前に、広いテラス上でマイグレーションしている。そのマイグレーションの際に、GaNとInNの非混和性によってInNが自発的に凝集する。この凝集によって、InGaN結晶中でInの偏析が生じると考えられる。
【0158】
一方、図31に示されるように、安定面からのサブオフ角が大きいとき、ステップ端でInが取り込まれる。成長表面に達したGaN及びInNの分子は、狭いテラス上ではほとんどマイグレーションせず、直ちに結晶中に取り込まれる。これ故に、InGaN結晶中において、取り込まれたInは、ほとんどランダムに分布して、In偏析は小さいと考えられる。この傾向は、ステップ密度が大きいほど顕著であると考えられる。このため、安定面からのサブオフ角が大きいほど、均一なInGaN膜が得られる。しかしながら、既に説明したように、ステップ端成長では、特定の角度範囲を除いた傾斜角ではIn取り込みが悪い。これ故に、所望のIn組成を得るためには、成長温度を下げる必要がある。成長温度の低下において、支配的な成長モードが、ステップ端成長から島状成長に変化して、この結果、結晶欠陥等が増え、InGaN膜質が著しく悪化する。
【0159】
上記説明のように、In取り込みとIn偏析はトレードオフの関係にあることが考えられる。発明者らは、In取り込みとIn偏析が両立する範囲を見出した。この角度範囲は、c軸からm軸方向に傾斜角63度以上80度未満である。この角度範囲では、ステップ端成長でもInが効率的に取り込まれ、またInGaN膜におけるIn偏析は小さい。特に、70度以上80度未満の角度範囲では、ステップ密度が高まるので、よりIn偏析の小さく且つ均質性の高いInGaN膜を成長可能である。さらに、In取り込みを考慮すると、特に71度以上79度以下の角度範囲において、ステップ端成長とテラス上成長のバランスが良好である。その中でも、72度以上78度以下の角度で、ステップ端成長とテラス上成長のバランスが最も良い。これ故に、所望の組成を得るためにInGaN膜の成長温度を高めることが可能であり、また、結晶欠陥の少ない均一なInGaN膜を成長することが可能である。
【0160】
図32及び図33は、以上説明したIn取り込み、In偏析、及びピエゾ電界の点から、各面及び角度範囲の特徴を示す図面である。図32及び図33において、二重丸のシンボルは特に良好な特性を示し、一重丸のシンボルは良好な特性を示し、三角のシンボルは特に通常の特性を示し、クロスのシンボルは劣る特性を示す。特徴的な角度として、c軸からm軸の方向への傾斜角63度、70度、71度、72度、78度、79度、80度が示される。m方向63度以上80度未満の角度範囲が、特には70度以上80度未満の角度範囲が、更には71度以上79度以下、その中でも72度以上78度以下の角度範囲が、長波長領域での光素子、特に発光ダイオード素子やレーザダイオード素子を作製する上で、その発光効率と発光半値幅の小さいことから非常に有利である。
【0161】
上記の説明において、例えば面方位(20−21)や(10−11)のような記法を用いている。本実施の形態に説明を考慮するとき、結晶学的に等価な面において、当業者は、本実施の形態に記載された発明の効果が得られると考える。したがって、例えば「(20−21)」という面方位は、等価な(2−201)、(−2201)、(20−21)、(−2021)、(02−21)、(0−221)を含むと考えることができる。
【0162】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【産業上の利用可能性】
【0163】
近年、GaN系の発光素子において、長波長の発光が望まれており、c面から傾斜角を取った半極性面や、m面及びa面に代表される非極性面が注目されている。その理由は、以下のものである。長波長の発光を得るために井戸層のIn組成が増えるので、井戸層と障壁層との格子定数差が大きくなり、発光層に大きな歪みが生じる。このとき、c面のような極性面では、ピエゾ電界の働きにより、発光素子の量子効率が低下する。これを避けるために、非極性面(a面やm面)等の様々な結晶面における研究が進められている。しかし、いまだc面上の効率を超えるものは出来ていないのが現状である。発明者らは、基板の主面が、c面からm軸方向に約62度の角度で傾斜された{10−11}面とm面からなるマイクロステップ構造を形成するために、c面からm軸方向に63度以上80度未満の角度で傾けた面に注目した。特に、c面からm軸方向に75度の傾斜面である{20−21}面と、この面を中心とするc面からm軸方向への傾斜角63度さらには70度以上80度未満の領域に注目した。この領域は、基板の主面に{10−11}面からなるテラスの幅とm面からなるテラスの幅が小さく、ステップ密度が大きくなり、In偏析が小さくなる。
【符号の説明】
【0164】
11a、11b…GaN系半導体光素子、VN…法線ベクトル、VC+…[0001]軸方向のベクトル、VC−…[000−1]軸方向のベクトル、Sc…平面、Cx…基準軸、Ax…所定の軸、13…テンプレート、13a…テンプレートの主面、15…GaN系半導体エピタキシャル領域、17…活性層、α…主面傾斜角、19…半導体エピタキシャル層、M1、M2、M3…表面モフォロジ、21…GaN系半導体領域、23…n型GaN半導体層、25…n型InGaN半導体層、27…電子ブロック層、29…コンタクト層、31…量子井戸構造、33…井戸層、35…障壁層、37…第1の電極、39…第2の電極、AOFF…a軸方向のオフ角、41…n型クラッド層、43a…光ガイド層、43b…光ガイド層、45…電子ブロック層、47…クラッド層、49…コンタクト層、51…第1の電極、53…絶縁膜、55…第2の電極、131…支持体、131a…支持体主面、133…マスク、133a…開口、135a…凹部、133b…ストライプ、135a、135b…側面、137…絶縁体、139…半導体領域、139a…半導体領域の主面、141…異種基板、141a…異種基板の主面、143…マスク、143a…ストライプ、143b…開口、145…支持体、145a…支持体の主面、147…凹部、147a、147b…凹部の側面、149…絶縁膜、151…半導体領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN系半導体光素子、及びGaN系半導体光素子を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、III−V族窒化物系半導体自立基板を製造する方法が記載されている。この方法によれば、III−V族窒化物系半導体のエピタキシャル成長に好適な所定のオフ角を有するIII−V族窒化物系半導体自立基板を製造できる。c面からa軸方向またはm軸方向に0.07度〜20度の角度で傾いた表面を持つサファイア基板上にIII−V族窒化物系半導体単結晶のエピタキシャル層を成長した後に、エピタキシャル層を前記異種基板から剥離する。
【0003】
特許文献2には、異種基板上に形成される窒化ガリウム系半導体層からなる窒化物半導体発光素子が記載されている。基板にバッファ層を介して形成される。n型半導体層にエッチッグ加工を行ってC面に対して異なるA面の面方位の表面を形成する。A面及びC面に接合させて活性層を成長する。2種の面方位で接する活性層を形成するとき、成長速度の差により量子井戸の幅(活性層)の膜厚が互いに異なるものになる。これ故に、発光波長のピークが異なる複数色の発色が得られる。
【0004】
特許文献3には、窒化物半導体と異なる材料よりなる異種基板上に窒化物半導体を成長した後に、この窒化物半導体に部分的に凹部を形成する。凹部側面に窒化物半導体の横方向の成長が可能な面を露出させた後に、該窒化物半導体上に別の窒化物半導体を成長する。この別の窒化物半導体上に、n型窒化物半導体、活性層及びp型窒化物半導体を成長する。
【0005】
非特許文献1及び2には、ピエゾ電界の計算について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−343713号公報
【特許文献2】特開2005−129905号公報
【特許文献3】特開2005−20034号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics vol.39 (2000) pp.413
【非特許文献2】Journal of Applied Physics vol.91 No.12 (2002) pp.9904
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らの知見によれば、上記の特許文献の方法とは異なる基板、例えば自立GaN基板上に長波長の発光素子を作製するとき、GaN基板の表面の面方位を調整することができる。現時点において、自立GaN基板のコストが高く、また自立GaN基板のサイズを大口径にすることは容易ではない。さらに、所望の面方位を有する実用的なサイズの自立GaN基板を得ることを多大なる技術開発を必要とする。
【0009】
特許文献1のようにc面から5度〜20度程度の角度で傾斜した結晶面は、所望のインジウム取り込み性能を示さない。これ故に、長波長の発光を提供できるインジウム組成を得るために、InGaN層の成長温度を下げる必要がある。成長温度の低下は、InGaN層の高品質化を困難にする。
【0010】
特許文献2のようにa面といった無極性面上では、成長表面のステップ密度は小さく、テラスが大きい。この面方位のインジウム取り込み性能は優れるけれども、Inの偏析が起こりやすく、In偏析の可能性は、大きなインジウム組成において高まる。
【0011】
一方、GaN系半導体光素子の発光は、広い波長範囲で変更可能である。発光層には、インジウムを含むGaN系半導体層を用いることができる。発光波長の変更は、発光層におけるインジウム組成を調整することによって行われる。このGaN系半導体層の一つとして、例えばInGaNが挙げられる。InGaNは強い非混和性を示し、このため、InGaN成長においては自発的にIn組成の揺らぎが生じ、Inの偏析が起こる。Inの偏析は、InGaNだけでなく、この他のインジウム含有のGaN系半導体でも観測される。また、Inの偏析は、発光波長の変更のためにIn組成を増加させるとき、顕著である。
【0012】
発光層におけるInの偏析は、例えば半導体レーザではしきい値電流を増加させる。また、発光層におけるInの偏析は、例えば発光ダイオードでは面発光の不均一の原因となる。故に、いずれの発光素子においても、In偏析を低減することが望ましい。
【0013】
発明者らは、異種基板上にInGaN系発光素子を作製することを検討している。異種基板上のc面GaNにおいて所望のInGaN井戸層を得るためには、井戸層のインジウム組成を調整する。InGaN層の結晶品質は、In組成の増加と伴って低下して、この結果、発光強度の低下及び発光スペクトル半値幅の増大になる。
【0014】
本発明は、上記の事情を鑑みて為されたものであり、窒化ガリウム系半導体と異なる材料の異種基板上に設けられ、In偏析による発光特性の低下を抑制可能な窒化ガリウム系半導体発光素子を提供することを目的とし、またこの窒化ガリウム系半導体発光素子を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一側面に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、(a)窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成る主面を有する支持体と、開口を有し前記主面を覆うマスクと、該マスクの前記開口において前記主面に設けられ第1及び第2の側面を有する凹部と、前記第2の側面を覆う絶縁体と、前記第1及び第2の側面上に設けられると共に前記マスクを埋め込む半導体領域とを含むテンプレートと、(b)前記テンプレート上に設けられた窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域と、(c)前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域上に設けられ、活性層のための半導体エピタキシャル層とを備える。前記半導体領域は、第1の窒化ガリウム系半導体からなり、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向は前記第1の側面の方位によって規定され、前記テンプレートの前記半導体領域の主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜しており、前記第1の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記支持体の前記主面と前記第1の側面との交差角は、63度以上80度未満の範囲にあり、前記第2の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記半導体エピタキシャル層は、構成元素としてインジウムを含む第2の窒化ガリウム系半導体からなり、前記第2の窒化ガリウム半導体のc軸は前記半導体領域の前記主面の法線軸に対して傾斜しており、前記基準軸の向きは、前記第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向である。
【0016】
この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、支持体の主面が第1の側面に対して63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜すると共に絶縁体が第2の側面を覆うので、第2の側面上の絶縁膜、第1の側面、及びマスクを埋め込むように半導体領域を支持体上に設けるとき、半導体領域の主面もまた、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する。上記の傾斜角のテンプレートでは、その半導体領域の主面のモフォロジも、幅の狭い複数のテラスからなる。また、テンプレート上にはGaN系半導体エピタキシャル領域が設けられているので、GaN系半導体エピタキシャル領域は、テンプレートの半導体領域の結晶軸を引き継ぐ。これ故に、GaN系半導体エピタキシャル領域は、そのc軸に沿って延びる基準軸に直交する面からm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の角度で傾斜する平面に沿って延在する。したがって、GaN系半導体エピタキシャル領域の主面のモフォロジも幅の狭い複数のテラスを有する。このテラス配列はマイクロステップを構成する。上記の角度範囲においてテラス幅が狭いので、複数のテラスにわたってIn組成の不均一は生じにくい。故に、In偏析に起因する発光特性の低下が抑制される。また、テラス構造がc軸からの傾斜角によって規定されるので、該傾斜角が第1のGaN系半導体の{0001}面を基準に規定されるテンプレート、及び該傾斜角が第1のGaN系半導体の{000−1}面を基準に規定されるテンプレートのいずれにおいても、発光特性の低下が抑制される。つまり、基準軸が第1のGaN系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向に向いていても、発光特性の低下が抑制される。
【0017】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から70度以上の角度で傾斜していることが好ましい。このGaN系半導体光素子では、この角度範囲の基板主面は、更に幅の狭い複数のテラスを有する。故に、In偏析が低減される。
【0018】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から71度以上79度以下の角度で傾斜していることが好ましい。このGaN系半導体光素子によれば、ステップ端成長とテラス上成長のバランスが良好である。故に、In偏析が低減される。
【0019】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記第1の窒化ガリウム系半導体のa軸方向のオフ角は有限の値であり、また−3度以上+3度以下の範囲にあることができる。このGaN系半導体光素子によれば、a軸方向のオフ角は、エピタキシャル領域の表面モフォロジを良好にすると共に、In偏析が低減される。
【0020】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、前記活性層上に設けられた第2導電型窒化ガリウム系半導体層を備えることができる。前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域は、第1導電型窒化ガリウム系半導体層を含み、前記活性層は、所定の軸の方向に交互に配置された井戸層及び障壁層を含み、前記井戸層は前記半導体エピタキシャル層からなると共に、前記障壁層は窒化ガリウム系半導体からなり、前記半導体エピタキシャル層は、歪みを内包するInGaNからなり、前記第1導電型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記第2導電型ガリウム系半導体層は、前記所定の軸の方向に配列されると共に、前記基準軸の方向は前記所定の軸の方向と異なる。
【0021】
このGaN系半導体光素子によれば、小さいIn偏析は、単層膜からなる半導体エピタキシャル層だけでなく、量子井戸構造の活性層において達成される。
【0022】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記活性層は、370nm以上である発光波長を生成するように設けられることが好ましい。このGaN系半導体光素子によれば、370nm以上の発光波長を発生する活性層を達成するインジウム組成の範囲において、In偏析を小さくできる。また、前記活性層は、650nm以下である発光波長を生成するように設けられることが好ましい。このGaN系半導体光素子によれば、650nm以上の発光波長を発生する活性層では、半導体エピタキシャル層のインジウム組成が大きいので、所望の結晶品質の半導体エピタキシャル層が得られにくい。
【0023】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記活性層は480nm以上である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。また、本発明に係るGaN系半導体光素子では、前記活性層は600nm以下である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。このGaN系半導体光素子によれば、In偏析が低減される。また、63度以上80度未満の範囲の傾斜角は、480nm以上で600nm以下の発光波長の範囲において有効である。
【0024】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかから−3度以上+3度以下の範囲の角度で傾斜した半導体面であることができる。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、{20−21}面及び{20−2−1}面は、基準軸に直交する面から約75度で傾斜している。この角度近傍で良好な発光特性を示している。また、本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかの半導体面であることができる。これらの面方位では、In偏析が低減される。
【0025】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、前記基準軸は前記[0001]軸の方向に向いている。或いは、本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、前記基準軸は前記[000−1]軸の方向に向いている。
【0026】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記テンプレートの前記半導体層はInSAlTGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T<1)からなることができる。また、本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記テンプレートの前記半導体層はGaNからなることが好ましい。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、GaNは、二元化合物であるGaN系半導体であるので、良好な結晶品質と安定した半導体主面とが提供される。
【0027】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記基板の前記主面の表面モフォロジは複数のマイクロステップを有する。該マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む。このGaN系半導体光素子では、上記の構成面及びステップ端においては、Inの取り込みが良好である。また、In偏析が低減される。
【0028】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子では、前記支持体は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなることができる。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、これらの材料は、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面の半導体領域をテンプレートに提供できる。
【0029】
本発明に係る窒化ガリウム系半導体光素子は、前記半導体領域は、前記凹部の前記第1の側面上において前記第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャルに成長されたエピタキシャル膜である。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、支持体の第1の側面と支持体の主面との成す角度によって、半導体領域の主面に面方位が規定される。
【0030】
本発明の別の側面は、窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法である。この方法は、(a)窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成る主面を有する支持体と、開口を有し前記主面を覆うマスクと、該マスクの前記開口において前記主面に設けられ第1及び第2の側面を有する凹部と、前記第2の側面を覆う絶縁体と、前記第1及び第2の側面上に設けられると共に前記マスクを埋め込む半導体領域とを含むテンプレートを準備する工程と、(b)前記主面上に、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域を成長する工程と、(c)前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の主面上に、活性層のための半導体エピタキシャル層を形成する工程とを備える。前記半導体領域は、第1の窒化ガリウム系半導体からなり、前記テンプレートの前記半導体領域の主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜しており、前記支持体の前記主面と前記第1の側面と交差角は63度以上80度未満の範囲にあり、前記第1の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記第2の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記半導体エピタキシャル層は、構成元素としてインジウムを含む第2の窒化ガリウム系半導体からなり、前記第2の窒化ガリウム半導体のc軸は前記半導体領域の前記主面の法線軸に対して傾斜しており、前記半導体エピタキシャル層は第2の窒化ガリウム系半導体からなり、前記第2の窒化ガリウム系半導体は構成元素としてインジウムを含み、前記第2の窒化ガリウム系半導体のc軸は前記基準軸に対して傾斜しており、前記基準軸は、前記第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向に向いている。
【0031】
この方法によれば、支持体の主面が第1の側面に対してm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜すると共に絶縁体が第2の側面を覆うので、半導体領域が、第2の側面上の絶縁膜、第1の側面、及びマスクを埋め込むように支持体上に成長される。これ故に、半導体領域の主面もまた、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する。半導体領域の主面が上記の傾斜角を成すとき、半導体領域の主面は、幅の狭い複数のテラスからなる。また、半導体領域の主面上には窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域が設けられているので、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の結晶軸は、半導体領域の結晶軸を引き継ぐ。これ故に、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の主面も、そのc軸に沿って延びる基準軸からm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の角度で傾斜している。したがって、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の主面も幅の狭い複数のテラスを有する。これらのテラスの配列により、マイクロステップが構成される。上記の角度範囲ではテラスの幅が狭い。狭いテラス幅ゆえに、各テラスに付着したIn原子のマイグレーションによる移動が妨げられる。故に、複数のテラスにわたってIn組成の不均一は生じにくい。したがって、In偏析による発光特性の低下が抑制される。また、テラス構造がc軸からの傾斜角によって規定されるので、第1のGaN系半導体の{0001}面を基準に規定されるテンプレート及び第1のGaN系半導体の{000−1}面を基準に規定されるテンプレートのいずれにおいても、発光特性の低下が抑制される。つまり、基準軸の方向が第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向であるとき、発光特性の低下が抑制される。
【0032】
本発明に係る方法では、前記半導体領域の前記主面は、前記第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から70度以上の範囲の角度で傾斜していることが好ましい。この方法では、この角度範囲のテンプレート主面は、更に幅の狭い複数のテラスを有する。本発明に係る方法では、前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から71度以上79度以下の角度で傾斜していることが好ましい。この窒化ガリウム系半導体光素子によれば、ステップ端成長とテラス上成長のバランスが良好である。
【0033】
本発明に係る方法では、前記活性層は、所定の軸の方向に交互に配置された井戸層及び障壁層を含む量子井戸構造を有しており、前記半導体エピタキシャル層は前記井戸層であり、前記障壁層は窒化ガリウム系半導体からなることが好ましい。当該方法は、前記半導体エピタキシャル層上に前記障壁層を形成する工程と、前記活性層上に、第2導電型窒化ガリウム系半導体層を成長する工程とを更に備えることができる。前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域は、第1導電型窒化ガリウム系半導体層を含み、前記第1導電型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記第2導電型窒化ガリウム系半導体層は、所定の軸の方向に配列されると共に、前記基準軸の方向は前記所定の軸の方向と異なる。
【0034】
この方法では、単層膜からなる半導体エピタキシャル層の成長だけでなく、量子井戸構造の活性層の成長においても、小さいIn偏析が達成されている。
【0035】
本発明に係る方法では、前記第1の窒化ガリウム系半導体のa軸方向のオフ角は有限の値であり、また−3度以上+3度以下の範囲にあることが好ましい。この方法によれば、a軸方向からのオフ角により、良好な表面モフォロジのエピタキシャル領域を成長できる。
【0036】
本発明に係る方法では、前記半導体領域の前記主面における前記傾斜角は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかの結晶面から−3度以上+3度以下の範囲で分布している。この方法によれば、{20−21}面及び{20−2−1}面は、基準軸から75.09度で傾斜している。この角度近傍で良好な発光特性を示している。
【0037】
本発明に係る方法では、前記半導体領域はInSAlTGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T<1)からなることができる。また、本発明に係る方法では、前記半導体領域はGaNからなることが好ましい。この方法によれば、GaNは、二元化合物であるGaN系半導体であるので、良好な結晶品質と安定した半導体主面とが提供される。
【0038】
本発明に係る方法では、前記半導体領域の前記主面の表面モフォロジは複数のマイクロステップを有しており、該マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む。この方法では、上記の構成面及びステップ端においては、Inの取り込みが良好である。このため、Inの偏析が低減される。
【0039】
本発明に係る方法では、前記支持体は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなることができる。この方法によれば、これらの材料は、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面の半導体領域をテンプレートに提供できる。
【0040】
本発明に係る方法では、前記半導体領域は、前記凹部の前記第1の側面上において前記第2の側面に対して選択的に、前記第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャル成長された半導体を含むことができる。この方法によれば、支持体の第1の側面と支持体の主面との交差角によって、半導体領域の主面に面方位を規定できる。
【0041】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、窒化ガリウム系半導体と異なる材料の異種基板上に設けられIn偏析による発光特性の低下を抑制可能な窒化ガリウム系半導体発光素子が提供される。また、本発明によれば、この窒化ガリウム系半導体発光素子を作製する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本実施の形態に係るGaN系半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。
【図2】図2は、本実施の形態に係るGaN系半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。
【図3】図3は、図1及び図2に示されたGaN系半導体光素子におけるテンプレートの構造を示す図面である。
【図4】図4は、テンプレートの作製における主要な工程を含む工程フローを示す図面である。
【図5】図5は、テンプレートの作製における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図6】図6は、テンプレートの作製における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図7】図7は、所望の傾斜角のテンプレートを得るための異種基板の主面の傾斜角を模式的に示す図面である。
【図8】図8は、実施例1に係るエピタキシャル基板E1、E2を示す図面である。
【図9】図9は、X線回折結果及び理論計算の結果を示す図面である。
【図10】図10は、本実施の形態に係るGaN系半導体光素子を作製する方法の主要な工程を示す図面である。
【図11】図11は、実施例2に係る発光ダイオード構造(LED1、LED2)を示す図面である。
【図12】図12は、発光ダイオード構造LED1、LED2のエレクトロルミネッセンススペクトルを示す図面である。
【図13】図13は、エピタキシャル基板E3、E4におけるカソードルミネッセンス(CL)像を示す図面である。
【図14】図14は、発光ダイオード構造LED1、LED2において発光波長と電流注入量との関係の測定を示す図面である。
【図15】図15は、ピエゾ電界に関する計算結果を示す図面である。
【図16】図16は、異なるIn組成を有する井戸層の発光ダイオード構造のエレクトロルミネッセンスを示す図面である。
【図17】図17は、InGaN井戸層の発光ダイオード及びAlGaInP井戸層の外部量子効率並びに人間の視感度曲線を示す図面である。
【図18】図18は、実施例4に係るレーザダイオード構造(LD1)を示す図面である。
【図19】図19は、m軸方向へc軸から取られた様々な傾斜角(オフ角)を有するGaN主面上に堆積されたInGaNのIn組成とオフ角との関係を示す図面である。
【図20】図20は、c面及びオフ角βを有するGaN系半導体面上へのIn含有のGaN系半導体の堆積を模式的に示す図面である。
【図21】図21は、実施例6における半導体レーザを概略的に示す図面である。
【図22】図22はm面+75度オフGaN基板上の量子井戸構造のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルPL+75、及びm面−75度オフGaN基板上の量子井戸構造のPLスペクトルPL−75を示す図面である。
【図23】図23は、成長温度が高いときの成長モード及び成長温度が低いときの成長モードを模式的に示す図面である。
【図24】図24は、ステップフローな成長及びテラス上成長により成長されたGaNの成長表面のAFM像を示す図面である。
【図25】図25は、非安定面におけるGaN及びInGaNの高温成長におけるステップフローな成長の成長機構、及び非安定面におけるGaN及びInGaNの低温成長におけるテラス上成長及びステップ端成長の成長機構を模式的に示す図面である。
【図26】図26は、c面からm軸方向に様々な傾斜角度で傾斜したGaN基板上に、摂氏760度ですべて同条件でInGaNを成長する実験結果を示す図面である。
【図27】図27は、例として{10−11}面の表面原子配列を示す図面である。
【図28】図28は、例としてm軸方向に45度程度傾けた面の成長表面の原子配列を示す図面である。
【図29】図29は、{10−11}面とm面から形成されるミクロなステップからなる成長表面を示す図面である。
【図30】図30は、例としてc面をm軸方向にオフ角75度で傾けた面の表面原子配列を示す図面である。
【図31】図31は、In取り込みとオフ角との関係を示す図面である。
【図32】図32は、In取り込み、In偏析、及びピエゾ電界について、各面及び角度範囲の特徴を示す図面である。
【図33】図33は、In取り込み、In偏析、及びピエゾ電界について、詳細な各面及び角度範囲の特徴を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のGaN系半導体光素子、GaN系半導体光素子を作製する方法、エピタキシャル基板及びGaN系半導体領域を成長する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。なお、本記述においては、六方晶系結晶の結晶軸を示すa1軸、a2軸、a3軸、c軸において、各結晶軸の正方向と逆向きを示す表記に関して、例えば[000−1]軸は[0001]軸の逆向きであり、逆向きを示すために数字(例えば「1」)の前に負号を付する「−1」を用いる。
【0045】
図1は本実施の形態に係るGaN系半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。GaN系半導体光素子11aとしては、例えば発光ダイオード等がある。図2は、本実施の形態に係るGaN系半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。GaN系半導体光素子11bとしては、例えば半導体レーザ等がある。図3は、図1及び図2に示されたGaN系半導体光素子におけるテンプレートの構造を示す図面である。
【0046】
図1及び図2を参照すると、GaN系半導体光素子11a、11bは、テンプレート13と、GaN系半導体エピタキシャル領域15と、活性層17とを備える。テンプレート13は、支持体131と、マスク133と、凹部135と、半導体領域139とを含む。支持体131は、窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成ると共に、主面131aを有する。支持体131上には半導体領域139が設けられており、その主面139aは、テンプレート13の主面13aを提供する。テンプレート13の半導体領域139の主面139aは、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。
【0047】
テンプレート13において、マスク133は、開口133a及びストライプ133bを有する。ストライプ133bは、例えばシリコン酸化物といったシリコン系無機絶縁物からなることができる。マスク133は主面131aを覆い、マスク133の開口133aには凹部135が位置している。凹部135は、マスク133の開口133aに設けられ、また第1及び第2の側面135a、135bを有する。第1及び第2の側面135a、135bは主面131aに対して傾斜している。本実施例では、マスク133のストライプ133b及び凹部135は隣接しており、またストライプ133b及び凹部135並びに第1及び第2の側面135a、135bは、一方向(例えばX軸方向)に延在している。この方向は、例えばc軸の傾斜方向に直交する方向であることが良い。絶縁体137は、第2の側面135bを覆う。絶縁体137は、例えばシリコン酸化物といったシリコン系無機絶縁物からなることができる。また、半導体領域139は、第1及び第2の側面135a、135b上に設けられると共にマスク133及び絶縁体137を埋め込む。これ故に、半導体領域139はマスク133の側面133c及び上面133dを覆うと共に、絶縁体137及び第1の側面135aを覆う。半導体領域139は、第2の側面135bに対して選択的に、凹部135の第1の側面135aに対しておいて成長されるので、半導体領域139が第1の側面135aを覆う。半導体領域139は、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャル成長された半導体領域を含むことができる。支持体131の第1の側面135aと支持体131の主面131aとの交差角AGによって、半導体領域139の主面139aに面方位を規定できる。
【0048】
支持体131は、ウルツ鉱型構造(六方晶系結晶体)、閃亜鉛鉱型構造、ダイヤモンド構造、三斜晶系構造、スピネル型結晶構造等の結晶構造を有する材料からなることができる。支持体131は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなることができる。これらの材料は、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面の半導体領域をテンプレートに提供できる。
【0049】
支持体131が例えばサファイア、6H−SiC、4H−SiC、ZnO等の異種基板からなるとき、第1の側面135aは{0001}面であることができる。半導体領域139は、例えばサファイア{0001}面上にエピタキシャルに成長する。第1の側面135aの法線軸が、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向に向いている。また、支持体131が例えばシリコン、3C−SiC、スピネル(例えばMgAl2O4)等の異種基板からなるとき、第1の側面135aは{111}面であることができる。半導体領域139は、異種基板{111}面上にエピタキシャルに成長する。第1の側面135aの法線軸が、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向に向いている。さらに、支持体131が例えば酸化ガリウム(例えばβ−Ga2O3)等の異種基板からなるとき、第1の側面135aは酸化ガリウムa面であることができる。半導体領域139は、異種基板a面上にエピタキシャルに成長する。第1の側面135aには、第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向に成長する。
【0050】
支持体131の主面131aに沿って延在する参照平面と第1の側面135aとの成す角は、基準軸Cxに直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲にある。
【0051】
開口133aの短辺L1の長さは0.5マイクロメートル以上であることができる。エピタキシャル成長のための第1の側面を規定できる。また、短辺L1の長さは5マイクロメートル以下にあることができる。マスク133の開口133aのサイズによれば、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面139aの半導体領域139をテンプレート13に提供できる。
【0052】
マスク133の短辺L2は0.5マイクロメートル以上であることができる。エピタキシャル成長のための第1及び第2の側面を区画する。また、マスク133の短辺L2は5マイクロメートル以下の範囲にあることができる。マスク133のカバーのサイズは、隣接する開口133aからストライプ133bを覆って成長してきた窒化ガリウム結晶体が一体に連結されて形成された半導体領域139をテンプレート13に提供できるように決定される。このテンプレート13では、半導体領域139の主面139aは、63度以上80度未満の範囲の傾斜角でそのc軸に対して傾斜する。
【0053】
マスク133の開口133aは周期的に配列されることができる。また、マスク133のストライプ133b周期的に配列されることができる。
【0054】
半導体領域139は、InSAlTGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T<1)からなることができる。半導体領域139は、第1のGaN系半導体からなり、例えばGaN、InGaN、AlGaN等であることが良い。GaNは、二元化合物であるGaN系半導体であるので、良好な結晶品質と安定したテンプレート主面とを提供できる。また、第1のGaN系半導体は、例えばAlN等からなることができる。
【0055】
図1を参照すると、テンプレート13のc面は平面Scに沿って延びている。平面Sc上では、六方晶系GaN系半導体の結晶軸を示すための座標系CR(c軸、a軸、m軸)が示されている。テンプレート13の主面13aは、この第1のGaN系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面から該第1のGaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。傾斜角αは、テンプレート13の主面13aの法線ベクトルVNと基準軸Cxとの成す角度によって規定され、この角度αは、本実施例では、ベクトルVC+とベクトルVNとの成す角に等しい。
【0056】
GaN系半導体エピタキシャル領域15は、主面13a上に設けられている。GaN系半導体エピタキシャル領域15は一又は複数の半導体層を含むことができる。GaN系半導体エピタキシャル領域15上には、活性層17が設けられている。活性層17は、少なくとも一つの半導体エピタキシャル層19を含む。半導体エピタキシャル層19は、GaN系半導体エピタキシャル領域15上に設けられている。半導体エピタキシャル層19は、インジウムを含む第2のGaN系半導体からなり、例えばInGaN、InAlGaN等からなる。半導体エピタキシャル層19の膜厚方向は、基準軸Cxに対して傾斜している。この基準軸Cxは、第1のGaN系半導体の[0001]軸の方向、或いは[000−1]軸の方向に向いていることができる。本実施例では、基準軸Cxは、ベクトルVC+で示される方向に向いており、この結果、ベクトルVC−は[000−1]軸の方向に向いている。
【0057】
このGaN系半導体光素子11aによれば、上記の傾斜角のテンプレート13では、その主面13aは、図1に示されるような幅の狭い複数のテラスを含む表面モフォロジM1からなる。また、半導体領域139上にはGaN系半導体エピタキシャル領域15が設けられているので、GaN系半導体エピタキシャル領域15の結晶軸は、テンプレート13の半導体領域139における結晶軸を引き継いでいる。これ故に、GaN系半導体エピタキシャル領域15の主面15aも、基準軸Cxに直交する面からm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の角度で傾斜しており、GaN系半導体エピタキシャル領域15の主面15aも、幅の狭い複数のテラスを含む表面モフォロジM2を有する。これらのテラスの配列はマイクロステップを構成する。上記の角度範囲のテラスの幅が狭いので、複数のテラスにわたってIn組成の不均一は生じにくい。故に、In偏析による発光特性の低下が抑制される。
【0058】
また、テラス構造がc軸からの傾斜角に関係しているので、該傾斜角が第1のGaN系半導体の{0001}面を基準に規定されるテンプレート、及び該傾斜角が第1のGaN系半導体の{000−1}面を基準に規定されるテンプレートのいずれにおいても、発光特性の低下が抑制される。つまり、基準軸Cxは第1のGaN系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向に向いていても、発光特性の低下が抑制される。
【0059】
GaN系半導体光素子11aでは、テンプレート13の主面13aは、該第1のGaN系半導体のm軸の方向に基準軸に直交する面から70度以上80度未満の範囲の角度で傾斜していることが好ましい。この角度範囲の基板主面13aは、更に幅の狭い複数のテラスを有する。
【0060】
GaN系半導体光素子11aによれば、活性層17におけるIn偏析による発光特性の低下が抑制される。
【0061】
図1を参照すると、座標系Sが示されている。テンプレート13の主面13aは、Z軸の方向を向いており、またX方向及びY方向に延びている。X軸はa軸の方向に向いている。
【0062】
GaN系半導体エピタキシャル領域15は、一又は複数の第1導電型GaN系半導体層を含むことができる。本実施例では、GaN系半導体エピタキシャル領域15は、Z方向に配列されたn型GaN半導体層23及びn型InGaN半導体層25を含んでいる。n型GaN半導体層23及びn型InGaN半導体層25が、テンプレート13の主面13aにエピタキシャル成長されるので、n型GaN半導体層23の主面23a及びn型InGaN半導体層25の主面25a(本実施例では、表面15aと等価)も、それぞれ、テラス構造を有するモフォロジM3、M2を有する。
【0063】
モフォロジM1、M2、M3は、c軸傾斜の方向に配列された複数のマイクロステップを有しており、これらのマイクロステップは、傾斜方向に交差する方向に延びている。マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む。上記の構成面及びステップ端においては、Inの取り込みが良好である。
【0064】
GaN系半導体光素子11aは、活性層17上に設けられたGaN系半導体領域21を備えることができる。GaN系半導体領域21は、一又は複数の第2導電型GaN系半導体層を含むことができる。GaN系半導体領域21は、Z方向に配列された電子ブロック層27及びコンタクト層29を含む。電子ブロック層27は、例えばAlGaNからなることができ、またコンタクト層29は、例えばp型GaNまたはp型AlGaNからなることができる。
【0065】
GaN系半導体光素子11aでは、活性層17は、370nm以上である発光波長を生成するように設けられることが好ましい。370nm以上の波長の光を発生する活性層を達成するインジウム組成の範囲において、In偏析を小さくできる。また、活性層17は、650nm以下である発光波長を生成するように設けられることが好ましい。650nm以上の発光波長を発生する活性層では、半導体エピタキシャル層のインジウム組成が大きいので、所望の結晶品質の半導体エピタキシャル層が得られにくい。
【0066】
活性層17は、量子井戸構造31を有することができ、この量子井戸構造31は、所定の軸Axの方向に交互に配置された井戸層33及び障壁層35を含む。本実施例では、井戸層33は半導体エピタキシャル層19からなり、井戸層33は例えばInGaN、InAlGaN等からなる。また、障壁層35はGaN系半導体からなり、GaN系半導体は、例えばGaN、InGaN、AlGaN等からなることができる。n型GaN系半導体層23、25、活性層17及びGaN系半導体層27、29は、所定の軸Axの方向に配列される。基準軸Cxの方向は所定の軸Axの方向と異なる。
【0067】
このGaN系半導体光素子11aによれば、小さいIn偏析は、単層膜からなる半導体エピタキシャル層だけでなく、量子井戸構造31において達成されている。
【0068】
GaN系半導体光素子11aは、コンタクト層29上に設けられた第1の電極37(例えば、アノード)を含むことができ、第1の電極37は、コンタクト層29を覆う透明電極を含むことができる。透明電極としては、例えばNi/Auを用いられる。テンプレート13の支持体131が導電性を有するとき、GaN系半導体光素子11aは、テンプレート13の裏面13b上に設けられた第2の電極39(例えば、カソード)を含むことができ、第2の電極39は、例えばTi/Alから成る。テンプレート13の支持体131が導電性を持たないとき、第2の電極39は、エッチング等により部分的に露出された半導体領域139の露出面にオーミック接触を成すように設けられる。
【0069】
活性層17は、電極37、39の両端に印加された外部電圧に応答して光LB1を生成し、本実施例ではGaN系半導体光素子11aは面発光素子を含む。この活性層17において、ピエゾ電界が小さい。
【0070】
テンプレート13の半導体領域139におけるa軸方向のオフ角AOFFは有限の値であることが好ましい。a軸方向のオフ角AOFFは、エピタキシャル領域の表面モフォロジを良好にする。このオフ角AOFFはXZ面内における角度である。オフ角AOFFの範囲が、例えば−3度以上+3度以下の範囲にあることができ、具体的には、オフ角AOFFの範囲は、例えば−3度以上−0.1度以下及び+0.1度以上+3度以下の範囲にあることが好ましい。オフ角AOFFの範囲が例えば−0.4度以上−0.1度以下及び+0.1度以上+0.4度以下の範囲にあるとき、表面モフォロジがさらに良好になる。
【0071】
GaN系半導体光素子11aでは、活性層17は480nm以上である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。また、活性層17は600nm以下である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。63度以上80度未満の範囲の傾斜角は、480nm以上で600nm以下の発光波長の範囲において有効である。この波長範囲にあるような長波長では、大きなIn組成が井戸層に必要であり、大きなIn偏析を示す面、例えばc面やm面及び{10−11}面等では、発光強度が大きく低下する。一方、本実施の形態の角度範囲では、In偏析が小さいため、480nm以上の長波長領域でも発光強度の低下が小さい。
【0072】
図2を参照すると、GaN系半導体光素子11bは、GaN系半導体光素子11aと同様に、テンプレート13と、GaN系半導体エピタキシャル領域15と、活性層17とを備える。テンプレート13のc面は、図2に示された平面Scに沿って延びている。平面Sc上には、座標系CR(c軸、a軸、m軸)が示されている。テンプレート13の主面13aは、この第1のGaN系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面から該第1のGaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。傾斜角αは、テンプレート13の主面13aの法線ベクトルVNと基準軸Cxとの成す角度によって規定され、この角度は、本実施例では、ベクトルVC+とベクトルVNとの成す角に等しい。GaN系半導体エピタキシャル領域15は、主面13a上に設けられている。活性層17は、少なくとも一つの半導体エピタキシャル層19を含む。半導体エピタキシャル層19は、GaN系半導体エピタキシャル領域15上に設けられている。半導体エピタキシャル層19は第2のGaN系半導体からなり、第2のGaN系半導体は構成元素としてインジウムを含む。半導体エピタキシャル層19の膜厚方向は、基準軸Cxに対して傾斜している。この基準軸Cxは、第1のGaN系半導体の[0001]軸の方向、或いは[000−1]軸の方向に向いていることができる。本実施例では、基準軸Cxは、ベクトルVC+で示される方向に向いており、この結果、ベクトルVC−は、[000−1]軸の方向に向いている。また、図2にも、オフ角AOFFが示されており、このオフ角AOFFはXZ面内における角度である。
【0073】
このGaN系半導体光素子11bによれば、テンプレート13では、その主面13a(図3に示された半導体領域139の主面139a)は、図2に示されるような幅の狭い複数のテラスを含む表面モフォロジM1からなる。また、テンプレート13の半導体領域139上にはGaN系半導体エピタキシャル領域15が設けられている。GaN系半導体エピタキシャル領域15の結晶軸は、テンプレート13における半導体領域139の結晶軸を引き継いでいる。これ故に、GaN系半導体エピタキシャル領域15の主面15aも、基準軸Cxに直交する面からm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の角度で傾斜している。したがって、GaN系半導体エピタキシャル領域15の主面15aも、幅の狭い複数のテラスを含む表面モフォロジM2を有する。これらのテラスの配列はマイクロステップを構成する。上記の角度範囲のテラスの幅が狭いので、複数のテラスにわたってIn組成の不均一は生じにくい。故に、In偏析による発光特性の低下が抑制される。
【0074】
GaN系半導体光素子11bの一実施例では、GaN系半導体エピタキシャル領域15は、Ax軸の方向(Z方向)に配列されたn型クラッド層41及び光ガイド層43aを含んでいる。n型クラッド層41は、例えばAlGaNまたはGaNからなることができ、また光ガイド層43aは、例えばアンドープInGaNからなることができる。n型クラッド層41及び光ガイド層43aが、テンプレート13の主面13a(図3に示された半導体領域139の主面139a)にエピタキシャル成長されるので、n型クラッド層41の主面41a及び光ガイド層43aの主面43c(本実施例では、表面15aと等価)も、それぞれ、テラス構造を有する表面モフォロジを有する。上記の表面モフォロジは、c軸の傾斜方向に配列された複数のマイクロステップを有しており、これらのマイクロステップは、傾斜方向に交差する方向に延びている。マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面等を含む。上記の構成面及びステップ端においては、Inの取り込みが良好である。
【0075】
GaN系半導体光素子11bは、GaN系半導体領域21は、Z方向に配列された光ガイド層43b、電子ブロック層45、クラッド層47及びコンタクト層49を含む。光ガイド層43bは、例えばアンドープInGaNからなることができる。電子ブロック層45は、例えばAlGaNからなることができ、クラッド層47は、例えばp型AlGaNまたはp型GaNからなることができ、またコンタクト層49は、例えばp型GaNまたはp型AlGaNからなることができる。
【0076】
GaN系半導体光素子11bは、コンタクト層49上に設けられた第1の電極51(例えば、アノード)を含むことができ、第1の電極51は、コンタクト層49を覆う絶縁膜53のストライプ窓を介してコンタクト層49に接続される。第1の電極51としては、例えばNi/Auを用いられる。テンプレート13の支持体131が導電性を有するとき、GaN系半導体光素子11bは、テンプレート13の裏面13b上に設けられた第2の電極55(例えば、カソード)を含むことができ、第2の電極55は、例えばTi/Alから成る。テンプレート13の支持体131が導電性を持たないとき、第2の電極55は、エッチング等により部分的に露出された半導体領域139の露出面にオーミック接触を成すように設けられる。
【0077】
活性層17は、電極51、55の両端に印加された外部電圧に応答して光LB2を生成し、本実施例ではGaN系半導体光素子11bは端面発光素子を含む。この活性層17において、ピエゾ電界のZ成分(所定の軸Axの方向に関する成分)は、p型GaN系半導体層43a、45、47、49からn型GaN系半導体層41、43aへ向かう方向と逆向きである。このGaN系半導体光素子11bによれば、ピエゾ電界のZ成分が、電極51、55の両端に印加された外部電圧による電界の方向と逆向きであるので、発光波長のシフトが低減される。
【0078】
GaN系半導体光素子11a、11bでは、テンプレート13におけるa軸方向のオフ角AOFFは有限の値であることが好ましい。a軸方向のオフ角AOFFは、エピタキシャル領域の表面モフォロジを良好にする。オフ角AOFFの範囲が、例えば−3度以上+3度以下の範囲にあることができ、具体的には、オフ角AOFFの範囲は、例えば−3度以上−0.1度以下及び+0.1度以上+3度以下の範囲にあることが好ましい。オフ角AOFFの範囲が例えば−0.4度以上−0.1度以下及び+0.1度以上+0.4度以下の範囲にあるとき、表面モフォロジがさらに良好になる。
【0079】
GaN系半導体光素子11a、11bでは、活性層17は480nm以上である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。また、活性層17は600nm以下である発光波長を生成するように設けられていることが好ましい。63度以上80度未満の範囲の傾斜角は、480nm以上で600nm以下の発光波長の範囲において有効である。このぐらいの波長になってくると、だいぶ井戸層のIn組成が大きくなり、c面やm面及び{10−11}面等のIn偏析の大きな面では、発光強度が大きく低下する。一方、この角度範囲では、In偏析が小さいため、480nm以上の長波長領域でも発光強度の低下が小さい。また、井戸層の厚さの範囲は、例えば0.5nm〜10nmであることができる。InXGa1−XN井戸層のIn組成Xの範囲は、例えば0.01〜0.50であることができる。
【0080】
引き続き、テンプレートの作製について説明する。図4は、テンプレートの作製における主要な工程を含む工程フローを示す図面である。図5及び図6は、テンプレートの作製における主要な工程を模式的に示す図面である。図7は、所望の傾斜角のテンプレートを得るための異種基板の主面の傾斜角を模式的に示す図面である。
【0081】
工程S120では、異種基板141を準備する。引き続く説明では、異種基板141は例えばサファイアからなる。図5(a)に示されるように、異種基板141の主面141aの法線Nは、そのc軸と角度γを成す。実施例では、角度γは角度αの範囲内で選択される。
【0082】
工程S121では、マスクのための誘電体膜を異種基板141の主面141a上に成長する。この誘電体膜の膜厚は例えば10ナノメートル以上であることができ、また500ナノメートルであることができる。次いで、図5(b)に示されるように、工程S122では、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて、誘電体膜の加工によりマスク143を形成する。本実施例では、マスク143はストライプ143aを含む。好適な実施例では、ストライプ143aは、テンプレート上に成長される窒化ガリウム系半導体のc軸に直交する方向に延在し、また該c軸の傾斜方向に配列されている。工程S123では、マスク143を用いて異種基板141をエッチングして、支持体145を形成する。エッチングはドライエッチングを用いることができる。このエッチングにより異種基板141の主面141aに凹部147が形成される。支持体145には、ストライプ143a及び凹部147が交互に配列されている。ストライプ143aは支持体145の主面145aを覆っている。凹部147は、テンプレート上に成長される窒化ガリウム系半導体のc軸に直交する方向に延在し、また該c軸の傾斜方向に配列されている。凹部147は、第1及び第2の側面147a、147bを含み、第1の側面147aは所定の面方位を有し、第2の側面147bは、第1の側面147aに所定の面方位が形成されるような面方位に形成される。第1の側面147aの面方位は、後の工程において成長される窒化ガリウム系半導体のc軸の傾斜角を規定する。異種基板141がサファイアからなるとき、第1の側面147aは{0001}面からなり、第2の側面147bはファセット面からなる。図5(c)に示されるように、第1の側面147aはc軸Cxと交差し、本実施例ではc軸Cxにほぼ直交する。
【0083】
工程S124では、図6(a)に示されるように、第2の側面147bを覆うように第2の側面147b上に絶縁膜149を形成すると共に、第1の側面147aを覆うこと無く第1の側面147aを露出させる。この絶縁膜149の選択形成は、例えば膜の堆積、フォトリソグラフィ及びエッチングにより行われる。この絶縁膜の膜厚は例えば10ナノメートル以上であることができ、また500ナノメートル以下であることができる。
【0084】
工程S125では、支持体145上にマスク143を覆うように一体の窒化ガリウム系半導体を成長して、単結晶の半導体領域を形成する。この半導体領域の形成は、凹部147の第1の側面147aへのエピタキシャル成長によって行われる。工程S125−1では、図6(b)に示されるように、比較的低温、例えば摂氏500度程度で、凹部147を埋める程度に窒化ガリウム系半導体を成長する。この成長では、個々の凹部147において、窒化ガリウム系半導体は側面147aにエピタキシャルに成長されるので、この窒化ガリウム系半導体のc軸は支持体145の主面に対して角度γ程度で傾斜している。次いで、工程S125−2では、図6(c)に示されるように、比較的高温、例えば摂氏1100度程度で、凹部147を埋めた窒化ガリウム系半導体の結晶軸を引き継いで、同じ種類の窒化ガリウム系半導体を成長する。この成長は、工程S125−1における成長に比べて、窒化ガリウム系半導体の横方向成長を促進する条件で行われる。これらの工程によって、支持体145上にマスク143及び絶縁膜149を覆うように単結晶の半導体領域151を形成する。望ましい実施例では、単結晶の半導体領域151はGaNからなることができ、このテンプレートをGaNテンプレートと呼ぶ。
【0085】
異種基板141の材料は、サファイアに限定されることなく、スピネル、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなることができる。これらの材料は、63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜する主面の半導体領域をテンプレートに提供できる。図7は、異種基板の主面とその材料の結晶軸との関係を示す図面である。図7(a)を参照すると、シリコンでは、結晶軸<111>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<111>は<−101>軸の方向に角度γで傾斜される。シリコンに凹部を形成するためにエッチャントは例えばKOHであることができる。図7(b)を参照すると、4H−SiC、6H−SiCでは、結晶軸<0001>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<0001>は<1−100>軸の方向に角度γで傾斜される。4H−SiC、6H−SiCに凹部を形成するためにドライエッチングを施すことができる。図7(c)を参照すると、3C−SiCでは、結晶軸<111>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<111>は<−101>軸の方向に角度γで傾斜される。3C−SiCに凹部を形成するためにドライエッチングを施すことができる。図7(d)を参照すると、ZnOでは、結晶軸<0001>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<0001>は<1−100>軸の方向に角度γで傾斜される。ZnOに凹部を形成するためにエッチャントは例えば硝酸であることができる。図7(e)を参照すると、スピネルでは、結晶軸<111>が主面の法線Nと角度γを成す。結晶軸<111>は<−101>軸の方向に角度γで傾斜され。スピネルに凹部を形成するためにドライエッチングを施すことができる。図7(f)を参照すると、β−Ga2O3では、そのc軸が主面と角度γを成す。c軸はa軸に対して103.7度の角度を成す。β−Ga2O3に凹部を形成するためにエッチャントは例えばフッ酸であることができる。
【0086】
このテンプレートを用いて、窒化ガリウム系半導体光素子のためのエピタキシャル基板が提供される。エピタキシャル基板は、上記の窒化ガリウム系半導体光素子のためのテンプレートと、このテンプレート上に設けられた窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域と、この窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域上に設けられ活性層のための半導体エピタキシャル層とを備える。テンプレートを用いて、窒化ガリウム系半導体と異なる材料の異種基板上に設けられIn偏析による発光特性の低下を抑制可能な窒化ガリウム系半導体発光素子のためのエピタキシャル基板が提供される。
【0087】
(実施例1)
実施例1では、予備的な実験としてGaNテンプレートに替えて、GaNウエハを用いた。発明者らの知見によれば、GaNウエハを用いた実験は、GaNテンプレートを用いた実験と同様な結果を提供できる。GaNウエハS1及びGaNウエハS2を準備した。GaNウエハS1の主面は六方晶系GaNにおけるc面からなる。GaNウエハS2の主面は、六方晶系GaNにおけるm軸方向にc面から75度の角度で傾斜しており、この傾斜面は(20−21)面として示される。いずれの主面も鏡面研磨されている。ウエハS2の主面では、−3度以上+3度以下の範囲の角度で(20−21)面からオフ角が分布している。
【0088】
GaNウエハS1及びGaNウエハS2上に、有機金属気相成長法により、Siドープn型GaN層及びアンドープInGaN層をエピタキシャルに成長して、図8に示されるエピタキシャル基板E1、E2を作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)を用いた。
【0089】
成長炉内にウエハS1、S2を設置した。これらのウエハ上に以下の条件でエピタキシャル成長を行った。摂氏1050度の温度及び27kPaの炉内圧力において、NH3とH2を流しながら10分間熱処理を行った。この熱処理温度として、例えば摂氏850度以上1150度以下の温度を用いることができる。また、熱処理の雰囲気として、NH3とH2等の組み合わせを用いることができる。この熱処理による表面改質によって、ウエハS2の表面に、オフ角によって規定されるテラス構造が形成される。
【0090】
この熱処理の後に、TMG、NH3、SiH4を成長炉に供給して、摂氏1000度においてSiドープしたGaN層61a、61bを成長した。GaN層61a、61bの厚さは例えば2マイクロメートルである。次いで、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、摂氏750度の基板温度でアンドープInGaN層63a、63bを成長した。InGaN層63a、63bの厚さは20nmである。また、モル比はV/III=7322であり、成長炉圧力は100kPaである。成膜後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャル基板E1、E2を作製した。
【0091】
エピタキシャル基板E1、E2のX線回折測定を行った。スキャンはω−2θ法を用いて行われた。X線の回折角が結晶の格子定数を反映するので、例えばInGaN3元混晶の各元素のモル分率を測定できる。
【0092】
また、エピタキシャル基板E1、E2では、ウエハの主面のオフ角が互いに異なるので、X線回折測定を行う際に、それぞれのウエハの主面のオフ角に合わせた位置に、X線入射装置、試料台、X線検出装置を配置した。
【0093】
具体的には、エピタキシャル基板E1では[0001]方向に軸立てを行った。回折結果を理論計算とフィッティングして、InGaN中のIn組成が決定される。この面方位では、ウエハ主面の法線方向[0001]と測定の軸立て方向[0001]が一致するので、理論計算から得られた値がそのまま実際の組成として使用できる。
【0094】
エピタキシャル基板E2では[10−10]方向に軸立てを行う。この軸立てで、ウエハ主面{20−21}面に対して15度だけ傾斜してX線が入射するので、X線回折からの値は、In組成を過小に見積もっている。このため、実験結果を理論計算とフィッティングする際に、[10−10]方向からの傾きに応じて測定値を補正する必要がある。この補正により、InGaN中のIn組成が決定される。
【0095】
図9は、X線回折結果及び理論計算の結果を示す図面である。図9(a)を参照すると、エピタキシャル基板E1の実験結果EX1及び理論計算結果TH1が示されている。図9(b)を参照すると、エピタキシャル基板E2の実験結果EX2及び理論計算結果TH2が示されている。エピタキシャル基板E1のIn組成は20.5パーセントであり、一方、エピタキシャル基板E2のIn組成は19.6パーセントである。この実験結果は、GaNのc面に比べてGaN(20−21)面が同等のIn取り込みであることを示している。このことは、例えば発光ダイオードや、半導体レーザダイオード等の光デバイスの作製において、高いIn組成を必要とする長波長の発光素子に好適である。また、同じIn組成であれば、InGaNの成長温度を高めることが可能であり、発光層の結晶性を向上できる。
【0096】
(実施例2)
図10に示される工程に従って、有機金属気相成長法により、図11(a)及び図11(b)にそれぞれ示される発光ダイオード構造(LED1、LED2)のエピタキシャル基板をGaNテンプレートS3及びGaNテンプレートS4上に作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。
【0097】
GaNテンプレートS3及びS4を準備した。本実施例では、GaNテンプレートS3及びS4の支持体の導電性材料は、例えばシリコンからなる。工程S101では、六方晶系GaNにおけるc面からなる主面を有するGaNテンプレートS3が準備された。工程S102では、63度から80度未満の傾斜角の範囲内の傾斜角に該当するGaNテンプレートS4が準備された。本実施例では、GaNテンプレートS4は、六方晶系GaNにおけるm軸方向にc面から75度の角度で傾斜したGaN主面を有しており、この傾斜面は(20−21)面として示される。
【0098】
テンプレートS3、S4上に以下の条件でエピタキシャル成長を行った。まず、工程S103では、テンプレートS3、S4を成長炉内に設置した。工程S104では、GaN系半導体領域が成長される。例えば、摂氏1100度において、TMG、NH3、SiH4を成長炉に供給して、SiドープGaN層65bを成長した。GaN層65bの厚さは例えば5マイクロメートルである。次いで、摂氏850度の基板温度で、TMG、TMI、NH3、SiH4を成長炉に供給して、SiドープInGaN層67bを成長した。InGaN層67bの厚さは100nmである。InGaN層67bのIn組成は例えば0.02である。
【0099】
工程S105では、活性層を成長する。工程S106では、摂氏870度の基板温度で、TMG、NH3を成長炉に供給して、この成長温度T1でアンドープGaN障壁層69bを成長した。GaN層69bの厚さは15nmである。工程S107では、成長後に、成長を中断して、摂氏870度から摂氏760度に基板温度を変更する。変更後に、工程S108では、この成長温度T2で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、アンドープInGaN井戸層71bを成長した。InGaN井戸層71bの厚さは3nmである。InGaN層71bのIn組成は例えば0.25である。井戸層71bにおいては、発光波長に応じてIn流量を変更している。InGaN井戸層71bの成長後に、TMIの供給を停止した。工程S109では、TMG、NH3を成長炉に供給しながら、摂氏760度から摂氏870度に基板温度を変更した。この変更中にも、アンドープGaN障壁層73bの一部が成長されている。変更後に、工程S110で、アンドープGaN障壁層73bの残りを成長した。GaN障壁層73bの厚さは15nmである。工程S111では、障壁層の成長、温度変更、井戸層の成長、を繰り返して、InGaN井戸層(75b、79b)、GaN障壁層(77b、81b)を形成した。
【0100】
工程S112では、GaN系半導体領域が成長される。例えば、GaN障壁層81bの成長後に、TMGの供給を停止して、基板温度を摂氏1000度に上昇した。この温度で、TMG、TMA、NH3、Cp2Mgを成長炉に供給して、p型AlGaN電子ブロック層83bを成長した。電子ブロック層83bのAl組成は例えば0.18であり、電子ブロック層83bは例えば20nmであった。この後に、TMAの供給を停止して、p型GaNコンタクト層85bを成長した。p型GaNコンタクト層85bは例えば50nmであった。成膜後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャル基板E4を作製した。本実施例におけるp型領域の成長温度は、c面上へのp型領域の成長に最適な成長温度に比べて100度ほど低い。発明者らの実験により、以下のことが確認されている:本オフ角範囲内の基板上に成膜した活性層はp層成長時の昇温に敏感で劣化しやすく、c面へのp型領域の成長に最適な温度では、特に長波長の活性層を成長した際にマクロな暗領域が広がる。ここで、暗領域は蛍光顕微鏡像における非発光領域を意味する。p層成長温度を下げることにより、p層成長時の昇温による暗領域の広がりを防ぐことができた。
【0101】
次いで、テンプレートS3についても同じ成膜条件を用いて、SiドープGaN層(厚さ:5マイクロメートル)65a、SiドープInGaN層(厚さ:100nm)67a、p型AlGaN電子ブロック層(厚さ:20nm)83a及びp型GaNコンタクト層(厚さ:50nm)85aを成長した。活性層は、InGan井戸層(厚さ:3nm)71a、75a、79a、GaN障壁層(厚さ:15nm)69a、73a、77a、81aを含む。コンタクト層の成長後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャル基板E3を作製した。
【0102】
工程S113では、エピタキシャル基板E3、E4上に電極を形成した。まず、エッチング(例えば、RIE)によりメサ形状を形成した。メサ形状のサイズは例えば一辺400μm角である。次いで、p型GaNコンタクト層85a、85b上にp透明電極(Ni/Au)87a、87bを形成した。この後に、pパッド電極(Ti/Au)を形成した。テンプレートS3、S4のSiドープGaN層65a、65bは、エッチングによる除去によって形成された露出面65c、65dにn電極(Ti/Al)89a、89bを形成した。電極アニール(例えば、摂氏550度で1分)の手順で行った。これの工程により、発光ダイオード構造LED1、LED2が得られた。
【0103】
発光ダイオード構造LED1、LED2に電流を印加して、エレクトロルミネッセンススペクトルを測定した。電極サイズは400マイクロメートル角であり、印加電流は120mAである。図12は、発光ダイオード構造LED1、LED2のエレクトロルミネッセンススペクトルを示す図面である。スペクトルELC、ELM75が示されている。これらのスペクトルのピーク波長は同程度であり、スペクトルELM75のピーク強度がスペクトルELCのピーク強度の2倍以上であり、またスペクトルELM75の半値全幅がスペクトルELCの半値全幅の半分以下である。発光ダイオード構造LED2の光出力が高く、また半値全幅が小さい。これらは、優れた色純度を示すと共に、また他の色の発光と混ぜ合わせた際の演色性を高めることができる。LEDモードにおける発光の半値全幅が小さく、これは、レーザダイオードのしきい値を低くすることに非常に有効である。
【0104】
図13は、エピタキシャル基板E3、E4のカソードルミネッセンス(CL)像を示す図面である。図13(a)を参照すると、エピタキシャル基板E3のカソードルミネッセンス像が示されている。図13(a)の発光像にはムラがあり、発光に寄与していない暗領域が広いことがわかる。この発光の不均一は、エピタキシャル基板E3の活性層におけるIn偏析に因ると考えられる。c面基板を用いるエピタキシャル基板では、発光波長が長くになるにつれて、発光の不均一の程度は顕著になる。これ故に、c面基板を用いる発光素子では、発光が長波長になるほど、光出力が低下し、また発光スペクトルの半値全幅も大きくなる。
【0105】
図13(b)を参照すると、エピタキシャル基板E4のカソードルミネッセンス像が示されている。図13(b)の発光像は、図13(a)の発光像に比べて発光の均一性に優れる。故に、エピタキシャル基板E4では、InGaN層のIn偏析が小さいと考えられる。このため、発光素子の発光強度が大きく、発光半値幅も小さくなる。また、テンプレートS4上に作製された発光素子では、長波長の発光における光出力の低下が小さく、また長波長の発光スペクトルにおける半値幅の増大も小さい。
【0106】
図14は、発光ダイオード構造LED1、LED2において発光波長と電流注入量との関係の測定を示す図面である。図14を参照すると、発光ダイオード構造LED1では、電流注入量を増やすにつれて発光波長が次第に短波長にシフトする。これに対して、発光ダイオード構造LED2では、少ない電流注入量のとき僅かに発光波長が短波長にシフトした後は、発光波長は、ほとんど電流量の増加に対して変化しない。このことは、発光ダイオードへの印加電流量を変えて発光ダイオードの発光強度を変更する際に、発光波長の変動がほとんどないことを示している。つまり、発光ダイオード構造LED2では、LEDモードにおける発光ピーク波長の電流依存性が低減される。
【0107】
光励起による発光測定では、発光ダイオード構造LED1(c面)の発光波長は550nmであり、発光ダイオード構造(75度オフ)LED2の発光波長は505nmであった。光励起されている発光ダイオード構造の内部状態は、非常に少ない電流が注入されている発光ダイオード構造の内部状態に相当する。
【0108】
電流注入に対する発光波長の依存性と光励起による発光測定結果から、以下のことを意味している:発光ダイオード構造LED2では、印加電圧を徐々に大きくしていったときに、非常に小さい発光(実用的な面では「光り出す前」)において発光波長のシフトが実質的に完了しており、十分な強度の発光が生じた後にはほとんど発光波長がシフトしない。
【0109】
c面上の活性層におけるピエゾ電界は、GaN系半導体のm軸の方向にc面から63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜したGaN系半導体面上に設けられた活性層におけるピエゾ電界に比べて大きい。図14に示される特性から、発光ダイオード構造LED2におけるピエゾ電界の向きは、発光ダイオード構造LED1におけるピエゾ電界の向きと逆である。また、電流注入の際の電界方向は、発光ダイオード構造LED2におけるピエゾ電界の方向と反対である。図15は、非特許文献1及び2に示された計算結果を示す図面である。図15(a)及び図15(b)におけるピエゾ電界を表す曲線において正負が異なるのは、電界の方向の定義の問題である。また、曲線の傾きや曲率が異なるのは、計算に用いたパラメータが異なるためである。
【0110】
(実施例3)
c面からm軸方向に75度の角度で傾斜した主面を有するGaNテンプレートS5、S6上に、発光ダイオード構造LED3、LED4を作製した。発光ダイオード構造LED3、LED4の発光波長は互いに異なる。発光ダイオード構造LED3、LED4における発光波長の変更は、井戸層のIn組成を変更することによって行った。In組成の変更のために、井戸層の成長時にIn原料(例えばTMI)の流量を変えた。この活性層の変更を除いて、発光ダイオード構造LED3、LED4の作製は発光ダイオード構造LED2と同じである。
【0111】
図16は、異なるIn組成を有する井戸層の発光ダイオード構造のエレクトロルミネッセンスを示す図面である。発光ダイオード構造LED3の井戸層は例えばIn0.16Ga0.84Nであり、発光ダイオード構造LED4の井戸層は例えばIn0.20Ga0.80Nである。発光ダイオード構造LED3(ピーク波長:460nm)及び発光ダイオード構造LED4(ピーク波長:482nm)を比べると、これらの波長において発光強度の差や半値全幅の差が観察されない。これは、高効率の長波長の発光素子を作製するために非常に好適なことである。
【0112】
図17は、InGaN井戸層の発光ダイオード及びAlGaInP井戸層の発光ダイオードにおける外部量子効率並びに人間の視感度曲線を示す図面である。長波長の光を発生する発光ダイオード構造を得るために、大きなIn組成の井戸層を作製する。発明者らの知見によれば、図17に示されるように、c面GaN基板上の発光ダイオード構造では、InGaN井戸層のIn組成の増加に伴ってInGaNの結晶性が低下する。この結晶性の低下により、発光強度は低下すると共に、スペクトルの半値全幅も大きくなる。特に500nmを越える長波長領域では、高い外部量子効率の発光ダイオードといった発光素子を作製できない。
【0113】
既に説明したように、発光素子はIn元素を含むGaN系半導体井戸層を含んでおり、このGaN系半導体井戸層は、GaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角でc面を基準にして傾斜したGaN系半導体面上に成長されている。この発光素子によれば、発光強度の差や半値全幅の差が観察されない。これは、高効率の長波長の発光素子を作製するために非常に好適なことである。
【0114】
(実施例4)
GaNテンプレートS4と同等の品質のGaNテンプレートS5上に、図18に示されるレーザダイオード構造(LD1)のエピタキシャル基板を作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。
【0115】
63度から80度未満の傾斜角の範囲内の傾斜角に該当するGaNテンプレートS5が準備された。GaNテンプレートS5は、六方晶系GaNにおけるm軸方向にc軸に直交する平面から75度の角度で傾斜した主面を有しており、この傾斜面は(20−21)面として示される。テンプレートS5上に以下の条件でエピタキシャル成長を行った。
【0116】
まず、テンプレートS5を成長炉内に設置した。このテンプレート上にGaN系半導体領域が成長される。例えば、摂氏1150度において、TMG、TMA、NH3、SiH4を成長炉に供給して、n型クラッド層89を成長した。n型クラッド層89は、例えばSiドープAlGaN層である。AlGaN層の厚さは例えば2マイクロメートルであり、そのAl組成は例えば0.04であった。
【0117】
次いで、摂氏830度の基板温度で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、光ガイド層91aを成長した。光ガイド層91aは、例えばアンドープのIn0.02Ga0.98N層からなり、その厚さは100nmである。
【0118】
次いで、活性層93を成長する。摂氏870度の基板温度で、TMG、NH3を成長炉に供給して、この成長温度T1でGaN系半導体障壁層93aを成長した。障壁層93aは、例えばアンドープGaNであり、その厚さは15nmである。障壁層の成長後に、成長を中断して、摂氏870度から摂氏830度に基板温度を変更する。変更後の成長温度T2で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、アンドープInGaN井戸層93bを成長した。その厚さは3nmである。井戸層の成長後に、TMIの供給を停止すると共に、TMG、NH3を成長炉に供給しながら、摂氏830度から摂氏870度に基板温度を変更した。この変更中にも、アンドープGaN障壁層93aの一部が成長されている。温度の変更が完了した後に、アンドープGaN障壁層93aの残りを成長した。GaN障壁層93aの厚さは15nmである。続けて、障壁層の成長、温度変更、井戸層の成長、を繰り返して、InGaN井戸層93b、GaN障壁層93aを形成した。
【0119】
摂氏830度の基板温度で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、活性層93上に光ガイド層91bを成長した。光ガイド層91bは、例えばアンドープのInGaN層からなる。光ガイド層91bの厚さは100nmであり、そのIn組成は0.02であった。
【0120】
光ガイド層91b上に、GaN系半導体領域が成長される。光ガイド層91bの成長後に、TMG及びTMIの供給を停止して、基板温度を摂氏1000度に上昇した。この温度で、TMG、TMA、NH3、Cp2Mgを成長炉に供給して、電子ブロック層95及びp型クラッド層97を成長した。電子ブロック層95は例えばAlGaNであった。電子ブロック層95の厚さは例えば20nmであり、Al組成は0.12であった。p型クラッド層97は例えばAl0.06Ga0.94Nであった。p型クラッド層97の厚さは例えば400nmであり、そのAl組成は0.06であった。この後に、TMAの供給を停止して、p型コンタクト層99を成長した。p型コンタクト層99は例えばGaNからなり、その厚さ例えば50nmであった。成膜後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャル基板E5を作製した。
【0121】
エピタキシャル基板E5上に電極を形成した。まず、シリコン酸化膜といった絶縁膜101を堆積し、この絶縁膜にフォトリソグラフィ及びエッチングによりコンタクト窓を形成した。コンタクト窓は、例えばストライプ形状であり、その幅は例えば10マイクロメートルである。次いで、p型GaNコンタクト層99上にp電極(Ni/Au)103aを形成した。この後に、pパッド電極(Ti/Au)を形成した。n電極(Ti/Al)103bをエピタキシャル基板E5の裏面に形成した。電極アニール(例えば、摂氏550度で1分)の手順で行って基板生産物を作製した。これの工程の後に、800マイクロメートル間隔で基板生産物を切断して、ゲインガイド型レーザダイオードLD5が得られた。しきい値電流は5kAcm−2であった。そのときの発振波長は405nmであった。この半導体レーザでは、LEDモードにおける発光のスペクトルの半値全幅が小さい。また、この半導体レーザのInGaN層のIn偏析は小さい。なお、テンプレートS5の支持体が導電性を持たないとき、n電極103bは、エッチング等により部分的に露出されたテンプレートS5の露出面にオーミック接触を成すように設けられる。
【0122】
(実施例5)
実施例5では、予備的な実験としてGaNテンプレートに替えて、再びGaNウエハを用いた。発明者らの知見によれば、GaNウエハを用いた実験は、GaNウエハの面方位と同じ面方位のGaNテンプレートを用いた実験と同様な結果を提供できる。様々なオフ角のGaNウエハ上にInGaNを堆積して、そのInGaNのIn組成を測定した。図19は、m軸方向へc軸から取られた様々な傾斜角(オフ角)を有するGaN主面上に堆積されたInGaNのIn組成とオフ角との関係を示す図面である。プロットP1〜P4におけるオフ角を示す:
プロットP1:63度
プロットP2:75度
プロットP3:90度(m面)
プロットP4:43度
プロットP5:0度(c面)
In組成は、プロットP5(c面)からプロットP4までオフ角の増加と共に単調に減少している。一方、プロットP1、P2では、プロットP5(c面)と同等のIn取り込みを示している。プロットP3(m面)も、優れたIn取り込みを示すけれども、80度以上のオフ角ではIn偏析が大きくなり、長波長化に伴う発光強度の低下という不具合がある。
【0123】
図20(a)を参照しながら、63度以上80度未満の範囲内のオフ角βを有するGaN系半導体面上へのIn含有のGaN系半導体の堆積を模式的に説明する。上記の傾斜角範囲のオフ角の半導体表面、例えば{20−21}面付近の表面には、{10−11}面からなるテラスT1とm面からなるテラスT2とが現れている。半導体表面はこれらのテラスT1、T2からなる微細なステップで構成される。発明者らの実験によると、m面だけでなく{10−11}面におけるIn取り込みは、c面におけるIn取り込みと同等、或いはc面におけるIn取り込みより優れている。また、In取り込みを高めるためには、InNの島状成長が可能になる十分な大きさのテラス幅が必要である。
【0124】
10度から50度の範囲のオフ角では、{10−11}面からなるテラスT4とc面からなるテラスT5とが現れている。半導体表面はこれらのテラスT4、T5からなる微細なステップで構成される。この角度範囲では、オフ角が大きくなるほどテラスT4、T5の幅が小さくなり、これ故に、図19に示されるように、10度から50度の範囲のオフ角の半導体表面では、Inの取り込みが小さい。これは、c面と{10−11}面からなるステップが半導体表面に形成されていると、テラスT4、T5上でInが取り込まれる。しかしながら、テラスT4、T5から構成されるテラスエッジ(ステップ端)T6に現れる化学結合のボンドの視点から検討すると、テラスエッジT6ではIn原子が取り込まれない。
【0125】
一方、発明者らの実験によれば、テラスT1、T2からなるマイクロステップ構造ではInの取込能が良好である。これはテラスT1、T2上だけではなく、テラスT1、T2から構成されるテラスエッジ(ステップ端)T3でもInが効率よく取り込まれる。テラスエッジT3に現れる化学結合のボンドの視点からの検討によって裏付けられる。取り込まれたInは、アンモニア雰囲気中における熱処理(井戸層の成長と障壁層の成長との間の温度上昇)工程において、半導体表面から脱離する可能性が下がる。故に、例えばInGaNからなる井戸層を成膜温度T1で成長した後に障壁層の成長温度T2に昇温する際に井戸層の表面を炉内の雰囲気に露出させても、井戸層の表面から脱離するIn量を低減できる。
【0126】
50度を越えるオフ角の範囲であり実施例の{20−21}面に代表される半導体表面は、優れたIn取り込み能力を示す。また、この半導体表面に成長された活性層からの発光像は、良好な均一性を有する。その発光スペクトルの半値幅は狭く、発光素子の光出力も高い。また、長波長の発光を可能にするためにIn組成を増加した井戸層を作製しても、発光効率の低下が小さい。故に、本実施の形態に係る光素子及びその作製方法は、InGaN層を含む光素子を実現する際に、非常に有効な特性を持つ。
【0127】
GaN系半導体膜を成長する方法は、図20(a)に示されるように、複数のマイクロステップを有する表面を有するGaN系半導体領域Bを準備する工程と、構成元素としてInを含むGaN系半導体膜Fをマイクロステップ表面上に成長する。マイクロステップは、主要な構成面として少なくともm面及び{10−11}面を含む。或いは、GaN系半導体膜を成長する方法は、GaN系半導体からなり主面を有する半導体エピタキシャル領域Bを成長する工程と、構成元素としてInを含むGaN系半導体膜Fを半導体エピタキシャル領域Bの主面上に成長する。半導体エピタキシャル領域Bの主面は、GaN系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1のGaN系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜している。
【0128】
マイクロステップ構造の一例を示す。マイクロステップ構造の高さは、例えば0.3nm以上であり、例えば10nm以下である。その幅は、例えば0.3nm以上であり、例えば500nm以下である。その密度は、例えば2×104cm−1以上であり、例えば3.3×107cm−1以下である。
【0129】
63度以上80度未満の範囲のオフ角では、小さいIn偏析が実現される理由を以下のように説明できる。c面、m面(非極性面)、{11−22}面及び{10−11}面等の安定面からなる大きなテラスでは、Inのマイグレーションが可能である。それ故に、原子半径の大きなIn原子がマイグレーションにより集まり、この結果、In偏析が生じる。図13(a)に示されるように、c面上のカソードルミネッセンス像は不均一な発光を示す。一方、63度以上80度未満の範囲内のオフ角に対応する結晶面、例えば{20−21}面ではテラスT1、T2のテラス幅が狭いので、InがテラスT1、T2上で取り込まれたとき十分なInマイグレーションは生じない。また、テラスエッジT3で取り込まれたときも同様に、十分なInマイグレーションは生じない。このため、原子の堆積時にInが吸着された場所で結晶に取り込まれる。堆積において、Inがランダムに吸着されるので、図13(b)に示されるように、{20−21}面上のカソードルミネッセンス像は均一な発光を示す。
【0130】
c面及びm面では、図19に示されるように、良好なIn取り込みを示す。しかしながら、大きなIn偏析が生じ、特に大きなIn組成においてIn偏析が増加して、不均一な発光像に起因する非発光領域が増加する。活性層のIn組成の増加により、発光スペクトルの半値全幅が広くなる。一方、c面と{10−11}面との間のオフ角では、図19に示されるように、In取り込みがc面に比べて低下する。しかしながら、{10−11}面とm面との間のオフ角では、図19に示されるように、In取り込みがc面に比べて良好であり、またIn偏析も小さい。
【0131】
以上説明したように、{20−21}面によって代表される結晶面のオフ角の範囲は、良好なIn取り込み性を示し、小さなIn偏析を示す。故に、非常に結晶性の良いInGaNを成長することができ、発光波長に応じて、これまでに比べて広い範囲でIn組成を変更できる。故に、良好な光素子を作製することができる。
【0132】
上記の説明は、{20−21}面を参照しながら行われたけれども、{20−2−1}面についても同様に当てはまる。また、上記の説明に記載された{20−21}面、{10−11}面、m面といった結晶面及び結晶方位は、その記載自体により特定されるものだけでなく、結晶学的に等価な面及び方位ものも示している。例えば{20−21}面とは(02−21)面、(0−221)面、(2−201)面、(−2021)面、(−2201)面の結晶学的に等価な面も代表する。
【0133】
(実施例6)
図21は、本実施例における半導体レーザを概略的に示す図面である。図21に示される半導体レーザを以下のように作製した。まず、(20−21)面を有するGaNテンプレート110を準備した。このGaNテンプレートのGaN半導体領域の主面(20−21)面上に以下の半導体層をエピタキシャル成長した。
n型クラッド層111:SiドープInAlGaN、成長温度900度、厚さ2μm、Al組成0.14、In組成0.03;
光ガイド層112a:アンドープGaN、成長温度840度、厚さ250nm;
光ガイド層112b:アンドープInGaN、成長温度840度、厚さ100nm、In組成0.03;
活性層113;
障壁層113a:アンドープGaN、成長温度870度、厚さ15nm;
井戸層113b:アンドープInGaN、成長温度730度、厚さ3nm、In組成0.30;
光ガイド層114b:アンドープInGaN、成長温度840度、厚さ100nm、In組成0.03;
電子ブロック層115:MgドープAlGaN、成長温度1000度、厚さ20nm、Al組成0.12;
光ガイド層114a:アンドープGaN、成長温度840度、厚さ250nm;
p型クラッド層116:MgドープInAlGaN、成長温度900度、厚さ400nm、Al組成0.14、In組成0.03;
p型コンタクト層117:MgドープGaN、成長温度900度、厚さ50nm。
【0134】
p型コンタクト層117上に、シリコン酸化膜といった絶縁膜118を堆積した後に、フォトリソグラフィ及びウエットエッチングを用いて幅10μmのストライプ窓を形成した。このストライプ窓を介してp型コンタクト層117に接触するp−電極(Ni/Au)119aを形成すると共に、パッド電極(Ti/Au)を蒸着した。GaNテンプレート110の裏面には、n−電極(Ni/Al)119bを形成すると共に、パッド電極(Ti/Au)を蒸着した。これらの工程によって作製された基板生産物を800μm間隔で、共振器のための端面を形成した。共振器のための端面にはSiO2/TiO2多層膜からなる反射膜を形成して、ゲインガイド型レーザダイオードを作製した。このレーザダイオードの発振波長は520nmで発振した。そのしきい値電流は7kA/cm2であった。なお、テンプレートS5の支持体が導電性を持たないとき、n電極103bは、エッチング等により部分的に露出されたテンプレートS5の露出面にオーミック接触を成すように設けられる。
【0135】
再び予備的な実験としてGaNテンプレートに替えて、GaNウエハを用いた。発明者らの知見によれば、GaNウエハを用いた実験は、GaNウエハの面方位と同じ面方位のGaNテンプレートを用いた実験と同様な結果を提供できる。{20−21}面を有するGaN基板(m面+75度オフGaN基板)及び{20−2−1}面を有するGaN基板(m面−75度オフGaN基板)を成長炉のサセプタ上に配置した。これらのGaN基板上に同時に、発光素子のための半導体積層を成長した。活性層は量子井戸構造を有し、井戸層はInGaNからなり、障壁層はGaNからなる。活性層の成長温度は800度を用いた。
【0136】
図22はm面+75度オフGaN基板上の量子井戸構造のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルPL+75、及びm面−75度オフGaN基板上の量子井戸構造のPLスペクトルPL−75を示す図面である。PLスペクトルPL+75のピーク波長は424nmであり、PLスペクトルPL−75のピーク波長は455nmである。ピーク波長差は30nm程度であり、これは、N面から傾斜を取った{20−2−1}面のIn取り込みが、Ga面から傾斜を取った{20−21}面に比べて大きいことを示している。図1に示された基準軸Cxの向きとして選ばれた[000−1]軸に対して、基板主面の法線がm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角を成すとき、この基板主面は、良好なIn取り込み能を示す。
【0137】
引き続き、GaN系半導体の成長について説明する。
1.GaN及びInGaNの成長機構(安定面)
GaN及びInGaNの成長機構について説明する。GaN系半導体の成長においては、結晶成長中に原子レベルで平坦な成長表面が形成されるような面方位、例えばc面があり、この面方位は「安定面」と呼ばれる。安定面へのGaNの成長機構は以下のようなものである。安定面上のGaN成長では、成長表面は数100nmオーダーの大きなテラス幅を持ったマクロな原子層ステップから形成される。このGaNの成長機構は、その成長温度の点から3種類に分類される。
【0138】
図23は、成長温度が高いときの成長モード及び成長温度が低いときの成長モードを模式的に示す図面である。成長炉における摂氏900度を超える成長温度では、図23(a)に示される成長モードが生じる。高い成長温度では、成長表面でのGaN分子のマイグレーションが大きいので、テラス上で結晶中に取り込まれることはほとんどなく、GaN分子がキンクと呼ばれる活性化エネルギの大きいステップ端に到達した時点で初めて結晶中に取り込まれる。その結果、その成長では、ステップ端が積層状に伸びていく。この成長モードをいわゆる「ステップフローな成長」と呼ぶ。図24は、GaNの成長表面のAFM像を示す図面である。図24(a)を参照すると、原子層ステップがある一定の方向に形成していっている様子が良くわかる。
【0139】
一方、成長炉における摂氏700度から摂氏900度程度の成長温度では、図23(b)に示される成長モードが生じる。低い成長温度では、成長表面での分子のマイグレーションは小さいので、分子はステップ端に到達することなく、大きなテラス上で結晶に取り込まれる。分子が取り込まれた部分が核となり、ステップが広がるような成長をする。この成長モードを「テラス上成長」と呼ぶ。図24(b)は、テラス上成長により成長されたGaNの成長表面のAFM像を示す図面である。この成長におけるモフォロジでは、多数の生成核が形成され、また多数の核からステップが広がる。これ故に、ステップが一方向に伸びるのではなく、全方位に形成されていく。
【0140】
摂氏700度以下の成長温度では、上記の成長モードと異なる成長モードが生じる。非常に低い成長温度では、分子のマイグレーションがほとんどないので、GaN分子が成長表面に到達した時点で即座に結晶中に取り込まれる。これ故に、結晶欠陥が非常に導入されやすく、高品質なGaN膜を成長することは難しい。この成長モードを「島状成長」と呼ぶ。
【0141】
次いで、c面からm軸方向に傾斜した様々な面方位の結晶面における成長を説明する。c面からm軸方向に傾斜した様々な面方位の結晶面に、摂氏1100度の成長温度でGaNを成長した。その表面をAFMで観察したところ、図23(a)に示すようなマクロな原子層ステップが観察された面方位は、以下の3種類の面からなるステップだけであることを見いだした。つまり、これらの面は、c面、m面、及びc面から約62度で傾斜した{10−11}面である。すなわち、c面をm軸方向に傾けた結晶面での成長では、安定面といえる面は上記3つの面だけである。3種類の安定面以外の面を総称して「非安定面」と呼ぶ。
【0142】
続いて、安定面上へのInGaNの成長機構を説明する。InGaNの成長機構は基本的にGaNと同じであると考えられる。異なる点は、InGaN成長では、InNの成長表面での滞在時間はGaNと比べて短く、InNの脱離が容易に生じる。これ故に、ある程度の大きさのIn組成のInを結晶中に添加したいとき、成長温度を下げる必要があり、おおよそその温度は摂氏900度以下となる。すなわち、安定面上のInGaNの成長は、テラス上成長となる。
【0143】
2.GaN及びInGaNの成長機構(非安定面)
非安定面におけるGaN及びInGaNの成長機構を説明する。摂氏1100度における成長温度で非安定面の面上に成長したGaN表面のAFM観察によれば、安定面からの比較的小さい傾斜角(「サブオフ角」と呼ぶ)の面方位上への成長では、そのオフ角に近い安定面から形成される細かなステップが観察された。そのテラス幅は、安定面ジャストの面方位への成長に比較して小さく、サブオフ角が大きいほどさらに小さくなる。安定面に対しておよそ角度2度程度の傾斜をさせると、AFM像では原子層ステップは観察されなくなった。これらの結果より、安定面近傍では成長中に安定面が出やすく、比較的テラス幅の大きいステップが形成される。図25(a)は、非安定面におけるGaN及びInGaNの高温成長におけるステップフローな成長の成長機構を模式的に示す図面である。図25において、矢印は成長方向を示す。
【0144】
一方、安定面から大きく傾斜するとき、テラス幅は小さくなると共に、AFM像では観察できないようなミクロなステップが形成されていることが考えられる。また、安定面は上記3種類しかないので、このミクロなステップも安定面からなるミクロなテラスで形成されており、高温で成長されたGaNの表面では、ある方向にステップが伸びるような成長をしていると考えられる。
【0145】
成長温度が低い場合のGaNの成長機構を説明する。安定面近傍では、安定面からなる広いテラスが形成されやすく、成長表面での分子のマイグレーションは小さいので、テラス上成長が支配的になる。図25(b)は、非安定面におけるGaN及びInGaNの低温成長におけるテラス上成長の成長機構を模式的に示す図面である。
【0146】
一方、安定面からのサブオフ角が大きな面方位の結晶面への成長では、表面のステップ密度が高まり、テラス幅が数nmオーダーまでミクロなものとなる。安定面からのサブオフ角が大きいとき、狭いテラス幅の故にテラス上成長の成長機構は起こりにくい。成長表面での分子のマイグレーションが小さい成長温度のときでも、活性化エネルギの高いステップ端に原子が到達しやすくなる。すなわち、安定面からのサブオフ角が大きくなると、より低温までステップ端が伸びていくような成長をすることが考えられる。この成長は、ステップフロー成長に比べるとテラス幅のスケールが2桁近く小さいので、ここでは「ステップ端成長」と呼ぶ。図25(c)は、非安定面におけるGaN及びInGaNの低温成長におけるステップ端成長の成長機構を模式的に示す図面である。
【0147】
上記の説明から以下のように考えられる。成長温度が低い場合、安定面及び安定面近傍ではテラス上成長が支配的である。安定面からのサブオフ角が大きくなると、次第にテラス上成長は弱まり、ステップ端成長が支配的になってくる。また、このことは成長温度が低いInGaNの成長機構とも一致する。
【0148】
3.In取り込みに関して
InGaN成長における各成長面でのIn取り込みを説明する。In組成を調べるために、c面からm軸方向に様々な傾斜角度で傾斜したGaN基板上に、摂氏760度ですべて同条件でInGaNを成長する実験を行った。図26は、その実験結果を示しており、横軸はc軸からm軸方向への傾斜角(オフ角)を示し、縦軸は、成長されたInGaNのIn組成を示す。
角度 In組成
0 21.6
10 11.2
16.6 9.36
25.9 7.54
35 4.33
43 4.34
62 22.7
68 29
75 19.6
78 18.5
90 23.1
角度の単位は「度」である。
図26を参照すると、c面におけるIn取り込みは良好である。c面からオフ角を大きくしていくと、Inの取り込みが低下していく。さらにオフ角を大きくしていくと、傾斜角40度を越えたあたりからIn取り込みが向上し始める。安定面である{10−11}面のIn取り込みはc面と同程度になっている。さらにオフ角を大きくしていくと、In取り込みは向上し、68度付近で極大値を示す。この角度を超えるとき、In取り込みは減少に転じる。In取り込みは、オフ角80度あたりを極小値を示す。この角度を超えてm面に近づくとき、In取り込みは向上する。m面はc面と同等程度のIn取り込みを示す。
【0149】
このIn取り込みの振る舞いを項目1及び2におけるInGaNの成長機構に基づき説明する。
【0150】
まず、図23(b)に示したように、安定面近傍でテラス上成長が支配的な場合には、図26に示されるようにInが良く取り込まれる。安定面からなるテラス上でIn取り込みが良い理由を、結晶表面の原子配列から以下のように説明できる。図27は、例として(10−11)面の表面原子配列を示す。図27を参照すると、c面c0及び(10−11)面が示されている。図27に示されるように、In原子は矢印Y(In)で示したN原子2個と2本の結合手で結合する。N原子2個は図27における直交座標系TにおけるX軸方向に並んでいる。それら2個のN原子が、図27における直交座標系TにおけるX軸の正(手前)方向及び負(奥行き)方向に変位でき、この配置は、原子半径の大きなIn原子を取り込みやすい状況にある。この原子配列が、テラス上成長でIn取り込みやすい理由を示すと考えられる。
【0151】
同様の考え方でステップ端成長する場合のIn取り込みを説明する。図28は、例としてm軸方向に45度程度傾けた面の成長表面の原子配列を示す。図28を参照すると、c面c0、c面から45度傾斜面m45及び(10−11)面が示されている。ステップ端に着目してみると、In原子は、矢印B1(In)で示したN原子2個とは2本の結合手で結合し、矢印R(In)で示したN原子1個とは1本の結合手で結合する。この場合、In原子との結合に関わる矢印B1(In)で示したN原子と矢印R(In)で示したN原子の変位できる方向が垂直の関係にあり、また原子半径の大きなInを取り込むためには3つのN原子が変位する必要があり、この原子配列はInを取り込みにくいような状態にある。これ故に、ステップ端成長ではIn取り込みが悪いと考えられる。これらを考え合わせると、図26の結果の一部が良く説明できる。すなわち、c面と{10−11}面の間の面方位では、安定面近傍ではテラス上成長が支配的でInの取り込みは良好である。一方、安定面からのサブオフ角が大きくなるにつれて、テラス上成長が弱まりステップ端成長が支配的になることでIn取り込みが小さくなる。
【0152】
一方、{10−11}面とm面の間でも同様の考え方が成り立つと考えられる。
【0153】
しかしながら、{10−11}面とm面との間のうちの{10−11}面寄りのc面からのオフ角が63度以上80度未満の範囲では、上記のような説明では理解できない振る舞いを示している。そこで、この角度範囲における表面原子配列をさらに検討するとき、この角度範囲でのみステップ端でもInが良く取り込まれることを見出した。図29は、例としてc面をm軸方向にオフ角75度で傾けた面の表面のステップの状態を模式的に示したものである。上記の角度範囲では、図29に示したように、成長表面は(10−11)面とm面とから形成されるミクロなステップからなっている。そのステップ端がm軸方向に伸びるようなステップ端成長をする。図30は、例としてm軸方向に75度程度傾けた面の成長表面の原子配列を示す。図30を参照すると、m面m0、c面から75度傾斜面m75及び(10−11)面が示されている。この場合、矢印R2(In)で示したN原子1個とは1本の結合手で結合し、矢印B2(In)で示したN原子1個とは1本の結合手で結合する。この配置では、2つのN原子の変位できる方向が対向するような状態にあり、また原子半径の大きなInを取り込むためには2つのN原子のみが変位すればよく、これ故に、このステップ端ではIn原子を取り込みやすいことが考えられる。また、他の角度範囲のステップ端についてもその表面原子配列を検討した。良いIn取り込みを示すステップ端での成長が可能である角度が、上記範囲のみであることを発明者らは見出した。
【0154】
以上の考察に基づいて、In取り込みのオフ角依存性を見積もった。図31は、In取り込みとオフ角との関係を示す図面である。In取り込みは、テラス上成長成分とステップ端成長成分との両方を見積もり、トータルIn取り込みは、これらの和によって示される。縦軸において、In取り込み量をc面上におけるIn取り込みに規格化している。実線Tはテラス上成長によって取り込まれるIn量を示し、実線Sはステップ端成長によって取り込まれるIn量を示し、実線SUMはその和を示す。このようにテラス上成長では、テラス上成長が支配的な安定面近傍でIn取り込みが高く、安定面から離れるほどテラス上成長が支配的でなくなりInは取り込まれなくなる。
【0155】
一方、ステップ端成長は安定面から離れるほどステップ密度が高まって支配的になる。しかしながら、c面から傾斜角63度以上80度未満の角度範囲の外側では、ステップ端成長によるIn取り込みはほとんどない。傾斜角63度以上80度未満の角度範囲でのみ、大きなIn取り込みがステップ端で生じるので、ステップ端成長が活発になるにつれてIn取り込みが大きくなるような振る舞いを示す。その結果、実線SUMで示したようなオフ角依存性となり、図31に示された見積もりは、図26に示された実験結果を良く説明している。
【0156】
4.In偏析に関して
以上の結果を踏まえて、InGaN膜中のIn偏析を説明する。c面基板上のInGaN活性層を有する光素子では、特に活性層の発光波長が長波長になるほど、すなわちInGaN結晶中のIn組成が高くなるほど、InGaN結晶中のIn偏析が大きくなる。この結果、InGaNの結晶品質が低下して、発光強度の低下や発光波長半値幅の増大が観察される。一方、発明者らの実験によれば、m軸方向へのc軸の傾斜角63度以上80度未満の範囲では、長波長領域を発光するInGaN層の発光強度低下は、c面やその他の安定面上におけるInGaN層に比べて小さく、また、半値幅の増大も小さい。
【0157】
発明者らは、この理由を成長機構やIn取り込みに基づき検討した。安定面上に成長したInGaN膜が大きなIn偏析を示す理由は以下のものと考えられる。図23(b)に示されるように、テラス上成長におけるIn取り込みでは、GaN及びInNの分子は、テラス上に到達した後に結晶中に取り込まれる前に、広いテラス上でマイグレーションしている。そのマイグレーションの際に、GaNとInNの非混和性によってInNが自発的に凝集する。この凝集によって、InGaN結晶中でInの偏析が生じると考えられる。
【0158】
一方、図31に示されるように、安定面からのサブオフ角が大きいとき、ステップ端でInが取り込まれる。成長表面に達したGaN及びInNの分子は、狭いテラス上ではほとんどマイグレーションせず、直ちに結晶中に取り込まれる。これ故に、InGaN結晶中において、取り込まれたInは、ほとんどランダムに分布して、In偏析は小さいと考えられる。この傾向は、ステップ密度が大きいほど顕著であると考えられる。このため、安定面からのサブオフ角が大きいほど、均一なInGaN膜が得られる。しかしながら、既に説明したように、ステップ端成長では、特定の角度範囲を除いた傾斜角ではIn取り込みが悪い。これ故に、所望のIn組成を得るためには、成長温度を下げる必要がある。成長温度の低下において、支配的な成長モードが、ステップ端成長から島状成長に変化して、この結果、結晶欠陥等が増え、InGaN膜質が著しく悪化する。
【0159】
上記説明のように、In取り込みとIn偏析はトレードオフの関係にあることが考えられる。発明者らは、In取り込みとIn偏析が両立する範囲を見出した。この角度範囲は、c軸からm軸方向に傾斜角63度以上80度未満である。この角度範囲では、ステップ端成長でもInが効率的に取り込まれ、またInGaN膜におけるIn偏析は小さい。特に、70度以上80度未満の角度範囲では、ステップ密度が高まるので、よりIn偏析の小さく且つ均質性の高いInGaN膜を成長可能である。さらに、In取り込みを考慮すると、特に71度以上79度以下の角度範囲において、ステップ端成長とテラス上成長のバランスが良好である。その中でも、72度以上78度以下の角度で、ステップ端成長とテラス上成長のバランスが最も良い。これ故に、所望の組成を得るためにInGaN膜の成長温度を高めることが可能であり、また、結晶欠陥の少ない均一なInGaN膜を成長することが可能である。
【0160】
図32及び図33は、以上説明したIn取り込み、In偏析、及びピエゾ電界の点から、各面及び角度範囲の特徴を示す図面である。図32及び図33において、二重丸のシンボルは特に良好な特性を示し、一重丸のシンボルは良好な特性を示し、三角のシンボルは特に通常の特性を示し、クロスのシンボルは劣る特性を示す。特徴的な角度として、c軸からm軸の方向への傾斜角63度、70度、71度、72度、78度、79度、80度が示される。m方向63度以上80度未満の角度範囲が、特には70度以上80度未満の角度範囲が、更には71度以上79度以下、その中でも72度以上78度以下の角度範囲が、長波長領域での光素子、特に発光ダイオード素子やレーザダイオード素子を作製する上で、その発光効率と発光半値幅の小さいことから非常に有利である。
【0161】
上記の説明において、例えば面方位(20−21)や(10−11)のような記法を用いている。本実施の形態に説明を考慮するとき、結晶学的に等価な面において、当業者は、本実施の形態に記載された発明の効果が得られると考える。したがって、例えば「(20−21)」という面方位は、等価な(2−201)、(−2201)、(20−21)、(−2021)、(02−21)、(0−221)を含むと考えることができる。
【0162】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【産業上の利用可能性】
【0163】
近年、GaN系の発光素子において、長波長の発光が望まれており、c面から傾斜角を取った半極性面や、m面及びa面に代表される非極性面が注目されている。その理由は、以下のものである。長波長の発光を得るために井戸層のIn組成が増えるので、井戸層と障壁層との格子定数差が大きくなり、発光層に大きな歪みが生じる。このとき、c面のような極性面では、ピエゾ電界の働きにより、発光素子の量子効率が低下する。これを避けるために、非極性面(a面やm面)等の様々な結晶面における研究が進められている。しかし、いまだc面上の効率を超えるものは出来ていないのが現状である。発明者らは、基板の主面が、c面からm軸方向に約62度の角度で傾斜された{10−11}面とm面からなるマイクロステップ構造を形成するために、c面からm軸方向に63度以上80度未満の角度で傾けた面に注目した。特に、c面からm軸方向に75度の傾斜面である{20−21}面と、この面を中心とするc面からm軸方向への傾斜角63度さらには70度以上80度未満の領域に注目した。この領域は、基板の主面に{10−11}面からなるテラスの幅とm面からなるテラスの幅が小さく、ステップ密度が大きくなり、In偏析が小さくなる。
【符号の説明】
【0164】
11a、11b…GaN系半導体光素子、VN…法線ベクトル、VC+…[0001]軸方向のベクトル、VC−…[000−1]軸方向のベクトル、Sc…平面、Cx…基準軸、Ax…所定の軸、13…テンプレート、13a…テンプレートの主面、15…GaN系半導体エピタキシャル領域、17…活性層、α…主面傾斜角、19…半導体エピタキシャル層、M1、M2、M3…表面モフォロジ、21…GaN系半導体領域、23…n型GaN半導体層、25…n型InGaN半導体層、27…電子ブロック層、29…コンタクト層、31…量子井戸構造、33…井戸層、35…障壁層、37…第1の電極、39…第2の電極、AOFF…a軸方向のオフ角、41…n型クラッド層、43a…光ガイド層、43b…光ガイド層、45…電子ブロック層、47…クラッド層、49…コンタクト層、51…第1の電極、53…絶縁膜、55…第2の電極、131…支持体、131a…支持体主面、133…マスク、133a…開口、135a…凹部、133b…ストライプ、135a、135b…側面、137…絶縁体、139…半導体領域、139a…半導体領域の主面、141…異種基板、141a…異種基板の主面、143…マスク、143a…ストライプ、143b…開口、145…支持体、145a…支持体の主面、147…凹部、147a、147b…凹部の側面、149…絶縁膜、151…半導体領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム系半導体光素子であって、
窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成る主面を有する支持体と、開口を有し前記主面を覆うマスクと、該マスクの前記開口において前記支持体に設けられ第1及び第2の側面を有する凹部と、前記第2の側面を覆う絶縁体と、前記第1及び第2の側面上に設けられると共に前記マスクを埋め込む半導体領域とを含むテンプレートと、
前記テンプレート上に設けられた窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域と、
前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域上に設けられ、活性層のための半導体エピタキシャル層と
を備え、
前記半導体領域は、第1の窒化ガリウム系半導体からなり、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向は前記第1の側面の面方位によって規定され、
前記テンプレートの前記半導体領域の主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜しており、
記第1の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記支持体の前記主面と前記第1の側面との交差角は、63度以上80度未満の範囲にあり、
前記第2の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、
前記半導体エピタキシャル層は、構成元素としてインジウムを含む第2の窒化ガリウム系半導体からなり、
前記第2の窒化ガリウム半導体のc軸は前記半導体領域の前記主面の法線軸に対して傾斜しており、
前記基準軸の向きは、前記第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向である、ことを特徴とする窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項2】
前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から70度以上の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項1に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項3】
前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から71度以上79度以下の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項4】
前記第1の窒化ガリウム系半導体のa軸方向のオフ角は有限の値であり、また−3度以上+3度以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項5】
前記活性層上に設けられた第2導電型窒化ガリウム系半導体層を備え、
前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域は、第1導電型窒化ガリウム系半導体層を含み、
前記活性層は、所定の軸の方向に交互に配置された井戸層及び障壁層を含み、
前記井戸層は前記半導体エピタキシャル層からなると共に、前記障壁層は窒化ガリウム系半導体からなり、前記半導体エピタキシャル層は、歪みを内包するInGaNからなり、
前記第1導電型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記第2導電型ガリウム系半導体層は、前記所定の軸の方向に配列されると共に、前記基準軸の方向は前記所定の軸の方向と異なる、ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項6】
前記活性層は、370nm以上650nm以下の波長範囲の光を生成するように設けられている、ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項7】
前記活性層は、450nm以上600nm以下の波長範囲の光を生成するように設けられている、ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項8】
前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかから−3度以上+3度以下の範囲の角度で傾斜した半導体面である、ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項9】
前記基準軸は前記[0001]軸の方向に向く、ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項10】
前記基準軸は前記[000−1]軸の方向に向く、ことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項11】
前記半導体領域はGaNからなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項12】
前記半導体領域の前記主面の表面モフォロジは複数のマイクロステップを有しており、該マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む、ことを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項13】
前記支持体は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項14】
前記半導体領域は、前記凹部の前記第1の側面上において前記第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャルに成長された半導体を含む、ことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項15】
窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法であって、
窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成る主面を有する支持体と、開口を有し前記主面を覆うマスクと、該マスクの前記開口において前記主面に設けられ第1及び第2の側面を有する凹部と、前記第2の側面を覆う絶縁体と、前記第1及び第2の側面上に設けられると共に前記マスクを埋め込む半導体領域とを含むテンプレートを準備する工程と、
前記テンプレートの主面上に、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域を成長する工程と、
前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の主面上に、活性層のための半導体エピタキシャル層を形成する工程と
を備え、
前記半導体領域は、第1の窒化ガリウム系半導体からなり、
前記テンプレートの前記半導体領域の主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜しており、
前記支持体の前記主面と前記第1の側面と交差角は63度以上80度未満の範囲にあり、前記第1の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、
前記第2の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、
前記半導体エピタキシャル層は、構成元素としてインジウムを含む第2の窒化ガリウム系半導体からなり、
前記第2の窒化ガリウム半導体のc軸は前記半導体領域の前記主面の法線軸に対して傾斜しており、
前記半導体エピタキシャル層は第2の窒化ガリウム系半導体からなり、前記第2の窒化ガリウム系半導体は構成元素としてインジウムを含み、
前記第2の窒化ガリウム系半導体のc軸は前記基準軸に対して傾斜しており、
前記基準軸は、前記第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向に向いている、ことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記半導体領域の前記主面は、前記第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から70度以上の範囲の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項15に記載された方法。
【請求項17】
前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から71度以上79度以下の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項15又は請求項16に記載された方法。
【請求項18】
前記活性層は、所定の軸の方向に交互に配置された井戸層及び障壁層を含む量子井戸構造を有しており、
前記半導体エピタキシャル層は前記井戸層であり、
前記障壁層は窒化ガリウム系半導体からなり、
当該方法は、
前記半導体エピタキシャル層上に前記障壁層を形成する工程と、
前記活性層上に、第2導電型窒化ガリウム系半導体層を成長する工程と
を備え、
前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域は、第1導電型窒化ガリウム系半導体層を含み、
前記第1導電型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記第2導電型窒化ガリウム系半導体層は、所定の軸の方向に配列されると共に、前記基準軸の方向は前記所定の軸の方向と異なる、ことを特徴とする請求項15〜請求項17のいずれか一項に記載された方法。
【請求項19】
前記第1の窒化ガリウム系半導体のa軸方向のオフ角は有限の値であり、また−3度以上+3度以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項15〜請求項18のいずれか一項に記載された方法。
【請求項20】
前記半導体領域の前記主面における前記傾斜角は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかの結晶面から−3度以上+3度以下の範囲で分布している、ことを特徴とする請求項15〜請求項19のいずれか一項に記載された方法。
【請求項21】
前記半導体領域はInSAlTGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T<1)からなる、ことを特徴とする請求項15〜請求項20のいずれか一項に記載された方法。
【請求項22】
前記半導体領域はGaNからなる、ことを特徴とする請求項15〜請求項21のいずれか一項に記載された方法。
【請求項23】
前記半導体領域の前記主面の表面モフォロジは複数のマイクロステップを有しており、該マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む、ことを特徴とする請求項15〜請求項22のいずれか一項に記載された方法。
【請求項24】
前記支持体は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなる、ことを特徴とする請求項15〜請求項23のいずれか一項に記載された方法。
【請求項25】
前記半導体領域は、前記凹部の前記第1の側面上において前記第2の側面に対して選択的に、前記第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャル成長された半導体を含む、ことを特徴とする請求項15〜請求項24のいずれか一項に記載された方法。
【請求項1】
窒化ガリウム系半導体光素子であって、
窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成る主面を有する支持体と、開口を有し前記主面を覆うマスクと、該マスクの前記開口において前記支持体に設けられ第1及び第2の側面を有する凹部と、前記第2の側面を覆う絶縁体と、前記第1及び第2の側面上に設けられると共に前記マスクを埋め込む半導体領域とを含むテンプレートと、
前記テンプレート上に設けられた窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域と、
前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域上に設けられ、活性層のための半導体エピタキシャル層と
を備え、
前記半導体領域は、第1の窒化ガリウム系半導体からなり、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向は前記第1の側面の面方位によって規定され、
前記テンプレートの前記半導体領域の主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜しており、
記第1の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、前記支持体の前記主面と前記第1の側面との交差角は、63度以上80度未満の範囲にあり、
前記第2の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、
前記半導体エピタキシャル層は、構成元素としてインジウムを含む第2の窒化ガリウム系半導体からなり、
前記第2の窒化ガリウム半導体のc軸は前記半導体領域の前記主面の法線軸に対して傾斜しており、
前記基準軸の向きは、前記第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向である、ことを特徴とする窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項2】
前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から70度以上の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項1に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項3】
前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から71度以上79度以下の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項4】
前記第1の窒化ガリウム系半導体のa軸方向のオフ角は有限の値であり、また−3度以上+3度以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項5】
前記活性層上に設けられた第2導電型窒化ガリウム系半導体層を備え、
前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域は、第1導電型窒化ガリウム系半導体層を含み、
前記活性層は、所定の軸の方向に交互に配置された井戸層及び障壁層を含み、
前記井戸層は前記半導体エピタキシャル層からなると共に、前記障壁層は窒化ガリウム系半導体からなり、前記半導体エピタキシャル層は、歪みを内包するInGaNからなり、
前記第1導電型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記第2導電型ガリウム系半導体層は、前記所定の軸の方向に配列されると共に、前記基準軸の方向は前記所定の軸の方向と異なる、ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項6】
前記活性層は、370nm以上650nm以下の波長範囲の光を生成するように設けられている、ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項7】
前記活性層は、450nm以上600nm以下の波長範囲の光を生成するように設けられている、ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項8】
前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかから−3度以上+3度以下の範囲の角度で傾斜した半導体面である、ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項9】
前記基準軸は前記[0001]軸の方向に向く、ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項10】
前記基準軸は前記[000−1]軸の方向に向く、ことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項11】
前記半導体領域はGaNからなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項12】
前記半導体領域の前記主面の表面モフォロジは複数のマイクロステップを有しており、該マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む、ことを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項13】
前記支持体は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項14】
前記半導体領域は、前記凹部の前記第1の側面上において前記第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャルに成長された半導体を含む、ことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載された窒化ガリウム系半導体光素子。
【請求項15】
窒化ガリウム系半導体光素子を作製する方法であって、
窒化ガリウム系半導体と異なる材料から成る主面を有する支持体と、開口を有し前記主面を覆うマスクと、該マスクの前記開口において前記主面に設けられ第1及び第2の側面を有する凹部と、前記第2の側面を覆う絶縁体と、前記第1及び第2の側面上に設けられると共に前記マスクを埋め込む半導体領域とを含むテンプレートを準備する工程と、
前記テンプレートの主面上に、窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域を成長する工程と、
前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域の主面上に、活性層のための半導体エピタキシャル層を形成する工程と
を備え、
前記半導体領域は、第1の窒化ガリウム系半導体からなり、
前記テンプレートの前記半導体領域の主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に63度以上80度未満の範囲の傾斜角で傾斜しており、
前記支持体の前記主面と前記第1の側面と交差角は63度以上80度未満の範囲にあり、前記第1の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、
前記第2の側面は、前記支持体の前記主面に対して傾斜しており、
前記半導体エピタキシャル層は、構成元素としてインジウムを含む第2の窒化ガリウム系半導体からなり、
前記第2の窒化ガリウム半導体のc軸は前記半導体領域の前記主面の法線軸に対して傾斜しており、
前記半導体エピタキシャル層は第2の窒化ガリウム系半導体からなり、前記第2の窒化ガリウム系半導体は構成元素としてインジウムを含み、
前記第2の窒化ガリウム系半導体のc軸は前記基準軸に対して傾斜しており、
前記基準軸は、前記第1の窒化ガリウム系半導体の[0001]軸及び[000−1]軸のいずれかの方向に向いている、ことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記半導体領域の前記主面は、前記第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から70度以上の範囲の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項15に記載された方法。
【請求項17】
前記半導体領域の前記主面は、該第1の窒化ガリウム系半導体のm軸の方向に前記基準軸に直交する面から71度以上79度以下の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項15又は請求項16に記載された方法。
【請求項18】
前記活性層は、所定の軸の方向に交互に配置された井戸層及び障壁層を含む量子井戸構造を有しており、
前記半導体エピタキシャル層は前記井戸層であり、
前記障壁層は窒化ガリウム系半導体からなり、
当該方法は、
前記半導体エピタキシャル層上に前記障壁層を形成する工程と、
前記活性層上に、第2導電型窒化ガリウム系半導体層を成長する工程と
を備え、
前記窒化ガリウム系半導体エピタキシャル領域は、第1導電型窒化ガリウム系半導体層を含み、
前記第1導電型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記第2導電型窒化ガリウム系半導体層は、所定の軸の方向に配列されると共に、前記基準軸の方向は前記所定の軸の方向と異なる、ことを特徴とする請求項15〜請求項17のいずれか一項に記載された方法。
【請求項19】
前記第1の窒化ガリウム系半導体のa軸方向のオフ角は有限の値であり、また−3度以上+3度以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項15〜請求項18のいずれか一項に記載された方法。
【請求項20】
前記半導体領域の前記主面における前記傾斜角は、該第1の窒化ガリウム系半導体の{20−21}面及び{20−2−1}面のいずれかの結晶面から−3度以上+3度以下の範囲で分布している、ことを特徴とする請求項15〜請求項19のいずれか一項に記載された方法。
【請求項21】
前記半導体領域はInSAlTGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T<1)からなる、ことを特徴とする請求項15〜請求項20のいずれか一項に記載された方法。
【請求項22】
前記半導体領域はGaNからなる、ことを特徴とする請求項15〜請求項21のいずれか一項に記載された方法。
【請求項23】
前記半導体領域の前記主面の表面モフォロジは複数のマイクロステップを有しており、該マイクロステップの主要な構成面は、少なくともm面及び{10−11}面を含む、ことを特徴とする請求項15〜請求項22のいずれか一項に記載された方法。
【請求項24】
前記支持体は、スピネル、サファイア、酸化亜鉛、炭化シリコン、シリコン及び酸化ガリウムのいずれかからなる、ことを特徴とする請求項15〜請求項23のいずれか一項に記載された方法。
【請求項25】
前記半導体領域は、前記凹部の前記第1の側面上において前記第2の側面に対して選択的に、前記第1の窒化ガリウム系半導体のc軸方向にエピタキシャル成長された半導体を含む、ことを特徴とする請求項15〜請求項24のいずれか一項に記載された方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図29】
【図31】
【図32】
【図33】
【図13】
【図24】
【図27】
【図28】
【図30】
【図2】
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【図11】
【図12】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図29】
【図31】
【図32】
【図33】
【図13】
【図24】
【図27】
【図28】
【図30】
【公開番号】特開2011−23536(P2011−23536A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167133(P2009−167133)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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