説明

窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ構造

基板;基板表面に堆積されアルミニウム/反応性窒化物(Al/N)流束の比1未満を有する第1の窒化アルミニウム(AlN)層;及び第1のAlN層表面に堆積され1より大きいAl/反応性N流束の比を有する第2のAlN層を含む半導体構造。基板はシリコンの化合物であり、ここで、第1のAlN層は、シリコンを実質的に含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、窒化ガリウム(GaN)高電子移動度トランジスタ(HEMT)構造に関する。
【背景技術及び発明の開示】
【0002】
当分野において周知のように、GaN HEMT装置は、最適性能のために絶縁バッファ層を必要とする。バッファ層の深くを流れる調節されない電流は、出力パワー及び効率を劣化させよう。図1は、絶縁SiC基板表面に成長させた典型的なGaN HEMT構造を示す。窒化アルミニウム(AlN)核形成層をまず基板表面に成長させ、というのは、窒化ガリウムは、SiC表面に直接に成長させると、GaN/SiC界面でかなりの伝導率スパイクを示すであろうからである。AlNは、高い抵抗率を促進する非常に大きなバンドギャップ(6.3eV)を有する。
【0003】
しかしながら、AlN層を用いてさえも、本願発明者らは、HEMT材料において伝導率スパイクを観察した。図2は、厚さ1350オングストロームを有するAlN核形成層を有した試料のドーピング−厚さプロットを示す。プロットは、深さ10オングストロームまたはlμmで材料の深くで伝導率スパイクを示す。逆方向バイアスリーク電流も、この試料に関して、水銀プローブ系(mercury probe system)を使用して測定した。図3に示すように、リーク電流は−80ボルトでかなりのものだった(20アンペア/cm)。図1に示す試料におけるAlNを、Al/N比約1.57を用いて成長させ、ここで、比Al/Nは、Al対反応性窒素の比であり、アルミニウム流束と比較してはるかに大きい窒素流束を使用しているが、少量の窒素流束のみが反応性であることが指摘される。このAl対反応性窒素の比は、成長表面において反応性窒素に対して約57%過剰のアルミニウムが存在したことを示す。1より大きいAl対反応性窒素の比(アルミニウムに富んでいる)は、改良された膜をもたらすことが実験的に見い出された。
【0004】
図4は、図1の試料のSIMS(2次イオン質量分析法)プロファイルを示す。N型伝導スパイクは、AlN層を通って移動し、AlN/GaN界面で蓄積しつつある、SiC基板からのシリコンによって生じる。GaNはシリコンによって容易にドープされ、これは、伝導率をもたらす。図1に示す試料は、Al/N=1.57を用いて成長させた1350オングストロームAlN層を含む。プロファイルは、厚いAlN層を通って移動し、GaN/AlN界面で蓄積しつつある、SiC基板からのシリコンを示す。
【0005】
本願発明者らは、厚いAlN層を通るこのような素早いシリコン拡散のための機構は、SiC基板と反応する表面の過剰のアルミニウムが理由となっていると考えている。本願発明者らの成長温度約750℃で、アルミニウムは液体である。
Al(液体)+SiC→Al+Al(液体+Si) (1)
シリコンは現在液体状態にあるので、これは、過剰のアルミニウムを用いて成長させたAlN膜を通って素早く移動することができる。
【0006】
本願発明者らは、ドーピングの源(シリコン)及び素早いドーパント移動のための機構を発見したので、2段階AlN核形成層を有する構造が提供される。古いプロセスにおいては、AlNにおけるシリコン濃度は、1×1020cm−3より大きくてピークに達した。本発明に従うプロセスにおいては、シリコン濃度は、3×1018cm−3未満でピークに達した。従って、本発明によれば、AlNはシリコンを実質的に含まない。
【0007】
本発明によれば、全AlN層を、1より大きいAl対反応性窒素の比(アルミニウムに富んでいる)を用いて分子線エピタキシャル成長(MBE)によって従来のように成長させて、良好なAlN材料品質を得ることができることが証明された。
【0008】
1具体例においては、最初のAlN層を、Al対反応性窒素の比1未満(窒素に富んでいる)を用いて成長させ、その結果、SiC表面と反応する自由なアルミニウムは存在しない。一旦SiC表面がAlNによって完全に被覆されたら、層の残りのために、Al対反応性窒素の比を1より大きく(アルミニウムに富んでいる)増大させて、材料品質を改良する。最初の層は薄くすることができ(30〜200オングストローム)、というのは、その機能は、SiC表面を被覆することだからである。この層を薄くすることによって、AlNを窒素に富んでいるように成長させることに関連した粗さは最小になる。Alに富んでいるように成長させた第2のAlN層は、材料品質を改良する。
【0009】
本発明によれば、基板、基板表面に堆積されAl対反応性窒素の比1未満を有する第1のAlN層、及び第1のAlN層表面に堆積され1より大きいAl対反応性窒素の比を有する第2のAlN層を有する半導体構造が提供される。
【0010】
1具体例においては、基板はシリコンの化合物であり、ここで、第1のAlN層はシリコンを実質的に含まない。
本発明によれば、半導体構造を形成する方法であって:アルミニウム流束より大きい反応性窒素流束を用いて、AlNの層を、シリコンの化合物を含む基板表面に成長させることと;アルミニウム及び反応性窒素流束を変え、その結果、アルミニウム流束は反応性窒素流束より大きいことと;を含む方法が提供される。
【0011】
本発明の1つ以上の具体例の詳細を、添付図面及び下記の説明において説明する。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び図面から、及び請求の範囲から明瞭になろう。
【0012】
様々な図面における同様の参照記号は、同様の要素を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ここから図5を参照すると、GaN HEMT構造10が、基板12からのシリコン移動が理由となっているバッファ伝導率を防ぐために示される。基板12はシリコンの化合物である。本明細書において、化合物は炭化ケイ素、SiCである。GaN HEMT構造10を、シリコン移動のかなりの低減を有して成長させた2段階AlN層14を用いて形成する。第1のAlN層14aは、115オングストローム厚さであり、基板12の表面のAl対反応性窒素の比0.97を有した。第2の層14bは、305オングストローム厚さであり、第1の層14a表面のAl対反応性窒素の比1.21を有し、総AlN層14厚さ420オングストロームを与えた。構造10の場合のSIMSプロファイルを図6に示す。図4との比較は、GaN/AlN界面での最大シリコン(Si)ピークは、係数で100低減したことを示す。従って、AlN層14は、シリコンを実質的に含まない。こうした改良は、たとえ、図5における総AlN厚さが、上記に検討した図1におけるものの3分の1でも得られた。
【0014】
構造10を完成させる際に、GaN層16を第2の層14bAlN表面に成長させる。所望により、AlGa1−xN層15をGaN層16の下に成長させてよい。
AlGa1−xN層18をGaN層16表面に成長させる。GaNのキャップ層20をAlGa1−xN層表面に成長させてよい。MBE装置から除去した後に、任意の従来の仕方で、ソース(S)及びドレイン(D)(電極)を、キャップが存在する場合に層20と及びキャップが存在しない場合に層18とオーミックコンタクトした状態で形成し、ゲート電極(G)を、キャップが存在する場合に層20と及びキャップが存在しない場合に層18とショットキー接触した状態で形成する。
【0015】
ドーピング−深さプロファイル、図7A、及び、図7Bに示す電流(I)−電圧(V)すなわち、I−V、リーク結果において、対応する改良が観察された。図2及び7Aを比較した際に、除去されないとしても、ドーピングスパイクはかなり低減した。図3及び図7Bを比較した際に、−80ボルトでのリーク電流(図3)は、ほぼ4桁、20アンペア/cmから2.8×10−3アンペア/cm(図7B)に低下したことが指摘され、ここで、図7Aは、2段階AlNバッファ層14を使用するGaN HEMT10の場合のドーピング−深さプロットであり、図7Bは、−80ボルトでリーク電流は2.8mA/cmであることを示す、図5の構造の水銀プローブI−Vリーク測定である。
【0016】
窒素分子、N、は、アルミニウムと反応してAlNを形成するには安定すぎることが指摘される。本願発明者らが使用するプロセスは、窒素ガスを、窒素分子の幾らかを励起して反応性窒素(窒素原子及び励起した窒素分子、Nの組合せ)を形成する高周波(RF)プラズマを通して流すことである。アルミニウムと反応する反応性窒素の量は、総窒素流れの約1%のみである。これが理由となって、本願発明者らは装置を校正しなければならない。その結果として、アルミニウム流束よりもはるかに大きい、基板に命中する窒素流束が存在する。考察の対象となっている流束比はAl対反応性窒素の比であり、Al対窒素の比ではない。窒素に富んでいる成長条件は、基板表面に当る反応性窒素原子(アルミニウムと反応できる)の割合は、基板表面に命中するアルミニウム原子の割合より大きいことを意味する。逆の条件は、アルミニウムに富んている。
【0017】
より詳細には、本願発明者らは、通常、基板表面に当るアルミニウム原子の割合(またアルミニウム流束と呼ぶ)を調節することによって、窒素に富んでいるからアルミニウムに富んでいるに変える。アルミニウムは蒸発し、アルミニウム流束を決定する蒸気圧は、アルミニウムの炉内温度と共に指数関数的に増大する。本願発明者らは、以下の手段によって、いつアルミニウム流束=反応性窒素流束になるか決定する:まず、AlGa1−xNを成長させる。(AlNの場合、AlGaNの場合に使用したのと同じ窒素プラズマ条件を使用しよう。同じ窒素プラズマ条件を使用しない場合、本願発明者らは、異なる条件が窒素流束に及ぼす影響を推定する。)X線測定からアルミニウム濃度を測定する。例えば、これはAl0.25Ga0.75Nだったと仮定する。AlNの場合にAl流束=N反応性流束を用いて成長させるために、その場合、本願発明者らは4倍のアルミニウム流束を必要とし、従って炉内温度を4倍の蒸気圧を実現するために上昇させなければならないことを意味する。本願発明者らがより高いアルミニウム炉内温度(従ってより高い蒸気圧)を使用する場合、成長条件はアルミニウムに富んでいる。
【0018】
本発明に従うプロセスにおいては、シリコン濃度は3×1018cm−3未満でピークに達した。従って、本発明によれば、AlNはシリコンを実質的に含まない。
図5の構造を形成するプロセスは、図8を参照すると、次の通り:
基板表面でいつAl流束が反応性N流束と等しくなるか決定することによって、分子線エピタキシャル成長(MBE)装置を校正する、工程800。シリコンの化合物を有する基板を、校正したMBE装置中に入れる、工程802。基板12表面の上に、アルミニウム原子の流束及び反応性窒素原子の流束を指向する、工程804。アルミニウム及び反応性窒素流束を調節し、その結果、反応性窒素流束はアルミニウム流束より大きい、工程804。AlNの層14aを厚さ30〜300オングストロームまで成長させる、工程806。アルミニウム及び反応性窒素流束を変え、その結果、アルミニウム流束は反応性窒素流束より大きい、工程808。AlNの層14bを、厚さ50〜1000オングストロームまで成長させる、工程810。アルミニウム濃度をx=lからx=0にランプダウンさせ、厚さ0オングストローム(すなわち、傾斜無し)〜2000オングストロームを有する、傾斜(graded)AlGa1−xN層15を成長させる、工程812。厚さ0.3〜3.0ミクロンを有するGaN層16を成長させる、工程814。0.05<x<0.40及び厚さ100〜500オングストロームを有するAlGa1−xN層18を成長させる、工程816。厚さ0オングストローム(キャップ無し)〜300オングストロームを有するGaNキャップ層20を成長させる、工程818。
【0019】
本発明の多数の具体例を説明してきた。しかし、様々な修正を、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行うことができることは理解されよう。従って、他の具体例は、請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来技術に従うGaN HEMT構造である。
【図2】図1の従来技術GaN HEMTの場合のドーピング−深さプロットである。
【図3】図1の従来技術のGaN HEMTの水銀プローブI−Vリーク測定である。
【図4】図1の従来技術のGaN HEMTのSIMS深さプロファイルである。
【図5】本発明に従うGaN構造である。
【図6】図5のGaN HEMT構造のSIMS深さプロファイルである。
【図7A】図5のGaN HEMT構造の場合のドーピング−深さプロットである。
【図7B】図5のGaN HEMT構造の水銀プローブI−Vリーク測定である。
【図8】図5のGaN HEMT構造を形成するために使用される方法のプロセスフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と;
前記基板表面に堆積されAl/反応性N流束の比1未満を有する第1のAlN層と;
前記第1のAlN層表面に堆積され1より大きいAl/反応性N流束の比を有する第2のAlN層と;を含む半導体構造。
【請求項2】
前記基板はシリコンの化合物である、請求項1に記載の構造。
【請求項3】
前記第1のAlN層はシリコンを実質的に含まない、請求項1に記載の構造。
【請求項4】
半導体構造を形成する方法であって:
アルミニウム流束より大きい反応性窒素流束を用いて、AlNの層を、シリコンの化合物を含む基板表面に成長させることと;
前記アルミニウム及び反応性窒素流束を変え、その結果、前記アルミニウム流束は前記反応性窒素流束より大きいことと;を含む方法。
【請求項5】
前記アルミニウム流束より大きい前記反応性窒素流束を用いる前記基板の前記AlNの層の前記成長は、このような層を厚さ30〜300オングストロームに成長させることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記反応性窒素流束より大きい前記アルミニウム流束を用いる前記AlNの層の前記成長は、このような層を厚さ50〜1000オングストロームに成長させることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
それに続いて傾斜AlGa1−xN層を成長させることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
それに続いてGaN層を成長させることを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
それに続いてAlGa1−xN層を成長させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
シリコン基板と;
前記シリコン基板表面のAlNと;を含む半導体構造において、
前記シリコン基板と接触した状態になっているAlN層の部分はシリコンを実質的に含まない、半導体構造。
【請求項11】
前記AlN層表面の傾斜AlGaN層を含む、請求項10に記載の構造。
【請求項12】
AlGaN層表面のGaN層を含む、請求項11に記載の構造。
【請求項13】
前記GaN層表面のAlGaN層を含む、請求項12に記載の構造。
【請求項14】
前記第1のAlN層における前記シリコンは、ピーク濃度3×1018cm−3未満を有する、請求項3に記載の構造。
【請求項15】
シリコン基板と;
前記シリコン基板と接触した状態になっている部分を有するAlN層と;を含む半導体構造において、
前記AlN層の前記部分は、ピークシリコン濃度3×1018cm−3未満を有する、半導体構造。
【請求項16】
シリコン基板と;
前記シリコン基板と接触した状態になっている部分を有するAlN層と;を含む半導体構造において、
前記AlN層の前記部分は、ピークシリコン濃度1×1020cm−3未満を有する、半導体構造。
【請求項17】
前記シリコン基板と接触した状態になっている前記部分は、1×1020cm−3よりも少なくとも1桁少ないピークシリコン濃度を有する、請求項16に記載の半導体構造。
【請求項18】
前記シリコン基板と接触した状態になっている前記部分は、1×1020cm−3よりも少なくとも2桁少ないピークシリコン濃度を有する、請求項16に記載の半導体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−546175(P2008−546175A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512346(P2008−512346)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/017823
【国際公開番号】WO2006/124387
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(390039147)レイセオン・カンパニー (149)
【氏名又は名称原語表記】Raytheon Company
【Fターム(参考)】