説明

窒化物半導体装置およびその製造方法

【課題】窒化物半導体層の表面に形成したオーミック電極のコンタクト抵抗を低減した窒化物半導体装置およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】第一の窒化物半導体層3と、第一の窒化物半導体層3の上に形成された第二の窒化物半導体層4と、第二の窒化物半導体層4の表面に形成されるオーミック電極としてのカソード電極6と、を備え、第二の窒化物半導体層4の表面におけるカソード電極6が形成される領域に、凹凸構造を有するコンタクト部4aが形成され、このコンタクト部4aの表面粗さ(RMS)が0.25nm以上5nm以下であり、かつコンタクト部4aの表面の酸素の組成比率が5at.%以下に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体装置およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、窒化物半導体層表面にオーミック電極を備えた窒化物半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた電子デバイスは、材料が本質的に持つ特性から、高温動作化、高耐圧化、高速化などが可能なデバイスとして期待されている。特に、高耐圧化や大電流動作が可能なことから、電源デバイスとしての応用が期待されている。窒化物半導体を用いた電子デバイスを実現するには、様々な工夫が必要となる。その工夫の一つとして、オーミック電極と窒化物半導体層との間のコンタクト抵抗を低減させることが挙げられる。
【0003】
窒化物半導体装置において、オーミック電極のコンタクト抵抗を低減するために、オーミック電極を形成する半導体層表面に凹凸を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。特許文献1では、ドライエッチングや、SiOマスクを用いた選択成長によって、オーミック電極を形成する面に凹凸を形成している。また、特許文献2では、ドライエッチングおよびイオンビームを用いて、オーミック電極を形成する面に傾斜や凹凸を形成している。このように凹凸や傾斜を形成することにより、オーミック電極と二次元電子ガス(2DEG)との距離を短縮し、オーミックコンタクト抵抗の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−227014号公報
【特許文献2】特開2005−129696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のオーミック電極の形成方法では、主にドライエッチングを用いて凹凸を形成するため、半導体層の表面のプラズマダメージによりコンタクト抵抗の増加などのデバイスの電気的特性への悪影響が懸念される。また、イオンビームを用いた場合においても、半導体層におけるオーミック電極を形成する面へダメージを与えるためデバイス特性への悪影響が懸念される。このような事情から、オーミック電極のコンタクト抵抗がさらに低減された窒化物半導体装置の実現が要望されている。
【0006】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、窒化物半導体層の表面に形成したオーミック電極のコンタクト抵抗を低減した窒化物半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る窒化物半導体装置は、窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層の表面に形成されるオーミック電極と、を備えた窒化物半導体装置であって、前記窒化物半導体層の表面における前記オーミック電極が形成される領域は、表面粗さ(RMS)が0.25nm以上5nm以下であり、酸素の組成比率が5at.%以下であることを特徴とする。
【0008】
また、この発明に係る窒化物半導体装置は、上記の発明において、前記窒化物半導体層は、AlGaNでなり、前記窒化物半導体層における前記領域が形成された表面と反対側の面にGaNでなる他の半導体層が接合されていることを特徴とする。
【0009】
また、この発明に係る窒化物半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層の表面に、表面粗さ(RMS)が0.25nm以上5nm以下の領域をウェットエッチングで形成する工程と、前記領域にオーミック電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、この発明に係る窒化物半導体装置の製造方法は、上記の発明において、前記ウェットエッチングは、アルカリ溶液を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、窒化物半導体層の表面に形成したオーミック電極のコンタクト抵抗を低減した窒化物半導体装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の断面図である。
【図2−1】図2−1は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の工程断面図である。
【図2−2】図2−2は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の工程断面図である。
【図2−3】図2−3は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の工程断面図である。
【図2−4】図2−4は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の工程断面図である。
【図2−5】図2−5は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の工程断面図である。
【図3】図3は、コンタクト部の表面粗さとコンタクト抵抗との相関を示すグラフである。
【図4】図4は、コンタクト部の酸素量とコンタクト抵抗との相関を示すグラフである。
【図5】図5は、TMAH溶液を用いた場合の処理時間とコンタクト部の表面粗さとの相関を示すグラフである。
【図6】図6は、窒化物半導体層をエピタキシャル成長させた後と、ドライエッチングを施した後と、ウェットエッチングを施した後と、のそれぞれの場合における表面の組成比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態である窒化物半導体装置としてのショットキーバリアダイオード(以下、SBDという。)およびその製造方法について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係るSBD10の断面を示している。このSBD10は、例えばシリコン(Si)からなる基板1の上に、例えば窒化ガリウム(GaN)からなるバッファ層2と、アンドープGaN層からなる第一の窒化物半導体層3と、アンドープ窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる第二の窒化物半導体層4とが順次形成されている。なお、バッファ層2はAlNとGaNの積層構造で構成されてもよく、厚みは格別限定されないが通常1〜7μm程度に設定する。そして、SBD10の全体の表面は、例えばSiOのような絶縁膜5で被覆されている。
【0015】
ここで、第二の窒化物半導体層4を構成するAlGaNと第一の窒化物半導体層3を構成するGaNはヘテロ接合しているため、第一の窒化物半導体層3における接合界面の近傍には接合界面に沿って二次元電子ガス層3aが形成される。
【0016】
第二の窒化物半導体層4の表面には、部分的に絶縁膜5が除去された領域に凹凸構造を持つコンタクト部4aが形成されている。このコンタクト部4a上には、例えばチタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層膜からなるオーム性を持つカソード電極6が形成されている。
【0017】
また、第二の窒化物半導体層4におけるカソード電極6が形成された領域から所定距離を隔てた領域には、部分的に絶縁膜5が除去され、第二の窒化物半導体層4とショットキー接触する例えばニッケル(Ni)と金(Au)の積層膜からなるアノード電極7が形成されている。
【0018】
図3は、実施例と従来例のSBDにおけるコンタクト部の表面粗さ(RMS)とコンタクト部4aにおけるカソード電極6のコンタクト抵抗との相関を示すグラフであり、◆は実施例を、黒四角は従来例を示している。また、図3において、縦軸単位は(a.u.)であり、従来例を1として規格化している。図3より、このような構成のSBD10のコンタクト部4aの表面粗さ(RMS)JIS規格(JIS R1683:2007)は、0.25nm以上5nm以下であることが好ましいことが判る。下限値の設定について、コンタクト抵抗がデバイス特性に影響を与えないような値以下になることを考慮すると、0.25nm以上であることが好ましい。なお、上限値の設定について、コンタクト抵抗は1nm以上でほぼ飽和するため、工程のスループットを考慮すると5nm以下が好ましい。
【0019】
また、本実施の形態に係るSBD10においては、コンタクト部4aの表面酸素の組成比率(原子組成百分率)が5at.%以下になるように設定されている。
【0020】
このようにコンタクト部4aの表面粗さ(RMS)と酸素の組成比率が上記範囲内にあると、コンタクト抵抗が低減し、SBD10の順方向特性のオン抵抗が低減することが確認されている。
【0021】
図4は、SBD10におけるコンタクト部4aの表面の酸素の組成比率(at.%)とコンタクト抵抗との相関を示すグラフである。図4において、黒四角は従来例でありオーミック電極を形成するコンタクト部をドライエッチングで加工したSBDを示す。◆は実施例を示し、SBD10におけるコンタクト部4aの酸素の組成比率が3at.%である。コンタクト部4aのコンタクト抵抗は、従来例を1としたとき、実施例では0.364であり、従来例のコンタクト抵抗の40%程度まで低下させることができた。
【0022】
以下、本実施の形態に係るSBDの製造方法について図面を参照しながら説明する。図2−1〜図2−5は本実施形態に係るSBDの製造方法の工程断面図である。
【0023】
まず、図2−1に示すように、例えば有機金属気相成長法(MOCVD法)により、例えばシリコンからなる基板1上に、例えば窒化ガリウム(GaN)からなるバッファ層2と、アンドープGaN層からなる第一の窒化物半導体層3と、アンドープ窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる第二の窒化物半導体層4とが順次積層するように成長される。ここで、各窒化物半導体層の成長方法は、MOCVD法に限られず、MOCVD法に代えて分子線エピタキシャル法(MBE)を用いても構わない。
【0024】
次に、図2−2に示すように、第二の窒化物半導体層4上に、絶縁膜5を成膜し、その後リソグラフィ法およびバッファードフッ酸を用いたウェットエッチングにより、後述するコンタクト部4aを形成する領域の第二の窒化物半導体層4を露出させる開口部5aを形成する。ここで、絶縁膜5としては、酸化ケイ素(SiO)や窒化ケイ素(SiN)が望ましい。
【0025】
次に、図2−3に示すように、絶縁膜5をエッチング用マスクとして、例えば85℃のテトラ・メチル・アンモニウム・ハイドロオキサイド(TMAH)溶液を用いた高温アルカリ処理により凹凸構造を持つコンタクト部4aを形成する。なお、高温アルカリ処理は、温度は60〜90℃の範囲で、薬液はレジスト剥離液やアンモニア過水、水酸化カリウム溶液等でもよい。このような高温アルカリ処理を行うことにより、コンタクト部4aの表面酸素の組成比率が低減される。
【0026】
ここで、コンタクト部4aの表面粗さ(RMS)が上述したように0.25nm以上5nm以下となるようにするためには、処理時間を制御すればよい。図5にウェットエッチング溶液としてTMAH溶液を用いた場合の処理時間に対する表面粗さのグラフを示す。図5に示すように、ほぼ時間に比例して表面粗さも増加する。なお、他のアルカリ溶液を用いた場合でもほぼ同様の結果を示す。したがって、アルカリ溶液を用いた処理時間を1〜30分間程度とすることで、コンタクト部4aの表面粗さ(RMS)を0.25nm以上5nm以下とすることが可能となる。
【0027】
次に、図2−4に示すように、例えば電子線蒸着法によりチタン(Ti)およびアルミニウム(Al)の積層膜を成膜し、ウェットエッチングもしくはドライエッチングによりコンタクト部4aの上にカソード電極6を形成する。なお、チタンのウェットエッチングには例えばフッ酸系溶液を、アルミニウムの場合は例えばリン酸と硝酸との混合液を用いる。また、チタン、アルミニウムのドライエッチングには塩素系ガスを用いる。
【0028】
最後に、図2−5に示すように、リソグラフィ法およびウェットエッチングによりアノード電極7を形成する領域の絶縁膜5を開口し、例えば電子線蒸着法によりニッケル(Ni)および金(Au)の積層膜を成膜し、リフトオフ法もしくはエッチングによりアノード電極7を形成する。
【0029】
以上の工程により、コンタクト部4aが加工によってダメージを受けることを抑えると共に、表面酸素を低減でき、カソード電極6のオーミックコンタクト抵抗を低減させた窒化物半導体装置を製造することができる。コンタクト部4aの形成をウェットエッチング、特に高温アルカリ処理により行うことで、従来よりもオン抵抗の低い窒化物半導体装置を作製することができる。
【0030】
図6は、窒化物半導体層としてのAlGaN層をエピタキシャル成長させた後の表面、AlGaN層をドライエッチングした後の表面、AlGaN層をウェットエッチングした表面、のそれぞれの酸素および塩素の組成比率(at.%)を示す。図6に示すように、AlGaN層をエピタキシャル成長させた後の表面は、酸素が5.33at.%含まれ少量(0.1at.%)の塩素も含まれている。また、従来のコンタクト部の形成方法により、AlGaN層を塩素系ガスによりドライエッチングした後の表面では、酸素の組成比率が6.45at.%含まれ、塩素が2.17at.%も含まれている。これに対して、本実施の形態に係る窒化物半導体装置の製造方法のように、AlGaN層をウェットエッチングした場合、酸素の組成比率は3.06at.%程度に抑えられ、塩素は検出されなかった。したがって、本実施の形態に係るSBD10では、コンタクト部4aの表面の酸素および塩素が少ないため、コンタクト抵抗が低減されていると考えられる。
【0031】
(その他の実施の形態)
以上、この発明の実施の形態について説明したが、上記の実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものではない。この開示から当業者に様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0032】
例えば、上記実施の形態では、窒化物半導体装置としてSBDを適用して説明したが、半導体レーザー、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)など各種のオーミック電極を備える窒化物半導体装置およびその製造方法に本発明を適用することができる。
【0033】
また、上記実施の形態では、窒化物半導体層としてAlGaNを適用したが、他の窒化物半導体を適用することも勿論可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明に係る窒化物半導体装置およびその製造方法は、高温動作化、高耐圧化、高速化などが可能なデバイスの製造分野で有用であり、特に、電源デバイスの製造分野に適している。
【符号の説明】
【0035】
1 基板
2 バッファ層
3 第一の窒化物半導体層
3a 二次元電子ガス
4 第二の窒化物半導体層
4a コンタクト部
5 絶縁膜
5a 開口部
6 カソード電極
7 アノード電極
10 SBD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層の表面に形成されるオーミック電極と、を備えた窒化物半導体装置であって、
前記窒化物半導体層の表面における前記オーミック電極が形成される領域は、表面粗さ(RMS)が0.25nm以上5nm以下であり、酸素の組成比率が5at.%以下であることを特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記窒化物半導体層は、AlGaNでなり、前記窒化物半導体層における前記領域が形成された表面と反対側の面にGaNでなる他の半導体層が接合されていることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
窒化物半導体層の表面に、表面粗さ(RMS)が0.25nm以上5nm以下の領域をウェットエッチングで形成する工程と、
前記領域にオーミック電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記ウェットエッチングは、アルカリ溶液を用いることを特徴とする請求項3に記載の窒化物半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−64663(P2012−64663A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205834(P2010−205834)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(510035842)次世代パワーデバイス技術研究組合 (46)
【Fターム(参考)】