説明

粘接着剤組成物、粘接着シートおよび半導体装置の製造方法

【課題】チップが薄型化された場合であっても、ピックアップ工程においてチップが割れたり欠けたりせずに高い歩留まりで良品を得ることの出来、尚且つダイボンディング後に行われるワイヤーボンディング工程において、接着面周辺に存在するワイヤーパッド部を汚染することなく、安定的にワイヤーを接続することが出来る粘接着層組成物を提供する。
【解決手段】アクリル重合体(A)と、エポキシ樹脂(B)と、熱硬化剤(C)と、一種類の反応性有機官能基を有し、動粘度が特定の範囲にあるシリコーン化合物(D)とを含む粘接着剤組成物、該粘接着剤組成物からなる粘接着剤層が基材上に形成されてなる粘接着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハからチップを得るダイシング工程、及びチップを有機基板やリードフレーム等にダイボンディングする工程で使用するのに特に適した粘接着剤組成物および該粘接着組成物からなる粘接着剤層を有する粘接着シートならびにそれを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハは大径の状態で製造され、このウエハは素子小片(チップ)に切断分離(ダイシング)された後に次の工程であるダイボンディング工程に移されている。この際、半導体ウエハは予め粘着シートに貼着された状態でダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディング、ピックアップの各工程が加えられた後、次工程のダイボンディング工程に移送される。
【0003】
これらの工程の中でピックアップ工程とダイボンディング工程のプロセスを簡略化するために、ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えたダイシング・ダイボンディング用粘接着シートが種々提案されている(たとえば、特許文献1〜4)。
【0004】
特許文献1〜4には、特定の組成物よりなる粘接着剤層が、基材上に形成されてなる粘接着シートが開示されている。この粘接着剤層は、ウエハダイシング時には、ウエハを固定する機能を有し、ダイシング終了後、チップのピックアップを行うと、粘接着剤層は、チップとともに基材から剥離する。粘接着剤層を伴ったチップを基板のダイパッド部上に載置し、加熱すると、粘接着剤層中の熱硬化性樹脂が接着力を発現し、チップと基板との接着が完了する。
【0005】
その後、チップと基板のワイヤーパッド部または金属フレームのリード部との電気的な導通を得るため、金線などの金属ワイヤーをチップおよび基板のワイヤーパッド部に接続(ワイヤーボンディング)する。この後、外界からの電気的、力学的保護を目的にトランスファー成形による封止やポッテリング封止を行い、基板裏面に半田ボールを搭載する、もしくは金属リードフレームの非封止部分に半田めっきを行うことにより、半導体装置として完成し、外界との電気的接続を行うことが可能となる。
【0006】
上記特許文献に開示されている粘接着シートは、いわゆるダイレクトダイボンディングを可能にし、ダイ接着用接着剤の塗布工程を省略できるようになる。上記特許文献に開示されている粘接着剤には、エネルギー線硬化性成分として、低分子量のエネルギー線硬化性化合物が配合されている。ダイシング後チップのピックアップをする前にエネルギー線照射をすることによって、前記エネルギー線硬化性化合物が重合硬化し、粘接着剤層の接着力が低下し、基材からの粘接着剤層の剥離が容易になる。また上記の粘接着シートの粘接着剤層は、エネルギー線硬化および熱硬化を経たダイボンディング後には全ての成分が硬化し、チップと基板とを強固に接着する。
【0007】
また、特許文献4では、(A)粘着成分と、(B)熱硬化型接着成分と、(C)ポリシロキサンオリゴマーにシランカップリング剤を付加、縮合させた化合物とからなることを特徴とする粘接着剤組成物が開示され、前記化合物(C)として、下記式で表される化合物が開示されている。
【0008】
【化1】

【0009】
上式中、Rはメチル基またはエチル基であり、SはRまたはシランカップリング剤により導入される基であり、化合物(C)1分子中には、シランカップリング剤により導入される基が好ましくは少なくとも2つ含まれている。
【0010】
ところで近年、半導体装置には、さらなる高集積化が望まれている。半導体装置を高集積化するためにチップを限られた一定の高さの範囲内で縦に複数層積層する場合があり、そのために、構成するチップをさらに薄型化することが求められている。
【0011】
そしてチップの薄型化に伴い、チップをピックアップする際の剥離力(粘接着シートの基材から粘接着剤層をチップと共に剥離させるのに必要な力)が歩留まりを決める大きな要因となってきている。この値が大きいと、ピックアップ時にチップが割れたり欠けたりしてしまい、チップの歩留まりが低下してしまう。また搬送時のウエハおよびチップの強度も製品歩留まりを決める大きな要素である。
【0012】
すなわち近年求められている半導体装置の高集積化が、半導体装置の歩留まり低下を招いている。
【特許文献1】特開平2−32181号公報
【特許文献2】特開平8−239636号公報
【特許文献3】特開平10−8001号公報
【特許文献4】特開2000−17246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このため、薄型化しつつあるチップを実装した半導体装置において、その製造時にチップが割れたり欠けたりせずに半導体装置として高い歩留まりで良品を得ることが要求されている。
【0014】
本発明は上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、チップのダイシング及びダイボンディング時に使用される粘接着剤に検討を加え、上記要求に応えることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らはこのような課題の解決を目的として鋭意検討した結果、特定のシリコーン化合物成分を含有させた粘接着剤組成物からなる粘接着剤層を有する粘接着シートにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
前記粘接着シートを用いれば、チップが薄型化された場合であっても、チップをピックアップする際の剥離力が小さいので、ピックアップ工程においてチップが割れたり欠けたりせずに半導体装置として高い歩留まりで良品を得ることができる。
【0017】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] アクリル重合体(A)と、エポキシ樹脂(B)と、熱硬化剤(C)と、シリコー
ン化合物(D)とを含む粘接着剤組成物であって、前記シリコーン化合物(D)が、一種類の反応性有機官能基を有するオルガノポリシロキサンであって、かつ、25℃における動粘度が50〜100,000mm2/sであることを特徴とする粘接着剤組成物。
【0018】
[2] 前記反応性有機官能基が、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アミ
ノアルキル基、エポキシ基含有アルキル基、脂環式エポキシ基含有アルキル基、メタクリル基含有アルキル基、フェノール基含有アルキル基、またはメルカプトアルキル基である[1]に記載の粘接着剤組成物。
【0019】
[3]前記熱硬化剤(C)が、フェノール性水酸基および/またはアミノ基を有する熱硬化剤である上記[1]または[2]に記載の粘接着剤組成物。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の粘接着剤組成物からなる粘接着剤層が、基材上に形成されてなる粘接着シート。
【0020】
[5]上記[4]に記載の粘接着シートの粘接着剤層に半導体ウエハを貼着する工程と、該半導体ウエハをダイシングしてチップとする工程と、該チップを、その裏面に前記粘接着剤層を転写させて前記粘接着シートの基材から剥離する工程と、剥離されたチップをダイパッド部上に、該チップの裏面に転写された粘接着剤層を介して熱圧着する工程とを含む半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の粘接着シートによれば、薄型化しつつあるチップを実装した半導体装置の製造において、ピックアップ工程でピックアップに要する力が低減され、チップが割れたり欠けたりすることが非常に少ない。このため半導体装置として高い歩留まりで良品を得ることが出来る。
【0022】
また本発明によれば、この粘接着シートを用いた半導体装置の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
[本発明の粘接着剤組成物]
本発明に係る粘接着剤組成物は、アクリル重合体(A)と、エポキシ樹脂(B)と、熱硬化剤(C)と、特定のシリコーン化合物(D)とを必須成分として含み、各種物性を改良するため、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。以下、これら各成分について具体的に説明する。
【0024】
<(A)アクリル重合体>
アクリル重合体(A)としては従来公知のアクリル重合体を用いることができる。アクリル重合体(A)の重量平均分子量は1万以上200万以下であることが望ましく、10万以上150万以下であることがより望ましい。アクリル重合体の重量平均分子量が低過ぎると、
基材との粘着力が高くなり、チップのピックアップ不良が起こることがあり、200万を超
えると基板凹凸へ粘接着剤層が追従できないことがあり、ボイドなどの発生要因になる。なお、本明細書において重量平均分子量とはGPCで測定した標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量を指す。
【0025】
アクリル重合体(A)のガラス転移温度は、好ましくは−60℃以上20℃以下、さらに好ましくは−50℃以上10℃以下、特に好ましくは−40℃以上5℃以下の範囲にある。ガラス転移温度が低過ぎると粘接着剤層と基材との剥離力が大きくなってチップのピックアップ不良を改善することが出来なくなることがあり、高過ぎるとウエハを固定するための接着力が不十分となるおそれがある。
【0026】
アクリル重合体(A)の構造単位を形成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーあるいはその誘導体が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1〜18であるア
ルキル(メタ)アクリレート等が挙げられ、このような化合物として例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの誘導体としては、例えば環状骨格を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、このような化合物として例えばシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イミドアクリレートが挙げられる。
【0028】
該誘導体の別の例として、水酸基を含有する(メタ)アクリレート、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートが挙げられる。
【0029】
さらに、アクリル重合体(A)には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等が共重合されていてもよい。
上記の例示したモノマーの中でも、水酸基を有している2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2-ヒドロキシプロピルメタクリレートが、エポキシ樹脂との相溶性が良いため好ましい。
【0030】
アクリル重合体(A)は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
<(B)エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂(B)としては、従来公知の種々のエポキシ樹脂を1種単独で、または2種類以上組み合わせて用いることが出来る。従来公知の種々のエポキシ樹脂としてはビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラック型エポキシ
樹脂(下記式(1)参照)、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(下記式(2)参照)、ビフェニル型エポキシ樹脂(下記式(3)および(4)参照)、多官能型エポキシ樹脂(下記式(5)参照)など、分子中に2つ以上の官能基を有するエポキシ化合物があげら
れる。エポキシ樹脂(B)としては、その主骨格中に芳香環が含まれるものが好ましい。
【0031】
【化2】

【0032】
(但し、式中nは0以上の整数を表す)
【0033】
【化3】

【0034】
(但し、式中nは0以上の整数を表す)
【0035】
【化4】

【0036】
(但し、式中nは0以上の整数を表す)
【0037】
【化5】

【0038】
(ただし、式中Rは水素原子またはメチル基である。)
【0039】
【化6】

【0040】
(但し、式中nは0以上の整数を表す)
<(C)熱硬化剤>
熱硬化剤(C)はエポキシ樹脂(B)の硬化剤として機能し、これを使用することにより粘接着剤組成物からなる粘接着剤層の熱硬化反応速度の調節や、該粘接着剤層の硬化物の弾性率等の物性を好ましい領域に調整することができる。
【0041】
好ましい熱硬化剤としては、エポキシ基と反応しうる官能基を1分子中に2個以上有する化合物があげられ、その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち硬化性の観点から好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物であり、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基である。
【0042】
これらの熱硬化剤の具体的な例としてはノボラック型フェノール樹脂(下記式(6)参照)、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂(下記式(7)参照)、多官能型フェノール樹脂(下記式(8)参照)等のフェノール性熱硬化剤や、DICY(ジシアンジアミド)などのアミン系熱硬化剤が挙げられる。これら熱硬化剤は、単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
【化7】

【0044】
(但し、式中nは0以上の整数を表す)
【0045】
【化8】

【0046】
(但し、式中nは0以上の整数を表す)
【0047】
【化9】

【0048】
(但し、式中nは0以上の整数を表す)
熱硬化剤(C)としては、その主骨格中に芳香環が含まれるものが好ましい。
エポキシ樹脂(B)および熱硬化剤(C)の含量は、その重量合計がアクリル重合体(A)100重量部に対して1〜1500重量部となる量であることが望ましく、3〜1000重量部となる量であることがより好ましい。1重量部未満であると十分な接着性が得られず本願発明の効果が充分に得られない場合がある。一方1500重量部を超えると、粘接着剤組成物をシート状に加工することが困難となることがある。
【0049】
また、熱硬化剤(C)の使用量は、エポキシ樹脂(B)100重量部に対して、好ましく
は0.1〜500重量部であり、より好ましくは1〜200重量部である。エポキシ樹脂(B)に
対する熱硬化剤(C)の使用量が少なすぎると、硬化不足で接着性が得られないことがあり、多すぎる場合は吸湿率が高まり半導体装置の信頼性を低下させることがある。
【0050】
<(D)シリコーン化合物>
本発明の粘接着剤組成物は、特定のシリコーン化合物(D)を含むことを特徴としており、これにより個片化(ダイシング)されたチップのピックアップ工程において、チップを取り上げるのに必要な力(ピックアップ力)を下げることができ、チップが割れたり欠けたりすることなく1つ1つ取り上げることができる。
【0051】
ここで、シリコーン化合物(D)とは、一種類の反応性有機官能基を有するオルガノポリシロキサンであって、かつ、25℃における動粘度が50〜100,000mm2/sであ
るものをいう。
【0052】
ポリシロキサンとは、−Si(X)2−O−で表される単位構造(Xは側鎖を表す)が
複数連結した化合物であり、この単位構造の数は上記動粘度の範囲を満たす限り特に限定されないが、通常3以上である。
【0053】
シリコーン化合物(D)の25℃における動粘度は、50〜100,000mm2/sであ
り、好ましくは200〜10,000mm2/sであり、さらに好ましくは500〜3,00
0mm2/sである。
【0054】
25℃における動粘度が50mm2/s未満であるとダイボンディングの際に粘接着剤層か
らシリコーン化合物(D)が染み出してしまい、また、100,000mm2/sを越えると
粘接着剤層中でシリコーン化合物(D)と他の成分とが相分離してしまい、均一なピックアップ力が得られない。
【0055】
なお、本明細書において動粘度は、JIS K2283に準拠してウベローデ粘度計により測定した値を指す。
前記反応性有機官能基とは、電子供与性基又は電子吸引性基を有する官能基をいう。その具体的な例としては、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アミノアルキル基、エポキシ基含有アルキル基、脂環式エポキシ基含有アルキル基、メタクリル基含有アルキル基、フェノール基含有アルキル基およびメルカプトアルキル基が挙げられる。
【0056】
前記ヒドロキシアルキル基は、ポリシロキサン骨格のケイ素原子と結合する炭素原子を有すると共にアルキル基中の1つまたは複数の水素原子が水酸基で置換された基である。そのほかの基(カルボキシアルキル基、アミノアルキル基など)についても同様である。
【0057】
なお、脂環式エポキシ基は、たとえば下記式で表される基である。
【0058】
【化10】

【0059】
前記アルキル基は直鎖状でも分岐を有していてもよく、その炭素数は2以上30以下である。
上記の反応性有機官能基としては、エポキシ樹脂(B)との反応性が優れていることからアミノアルキル基が特に好ましい。
【0060】
なお、エポキシ基含有アルキル基で置換された化合物は、一般にエポキシ変性シリコーン化合物と呼ばれる。アミノアルキル基であればアミン変性シリコーン化合物である。
本発明で用いられるシリコーン化合物(D)の主鎖を構成するポリシロキサン骨格には、前記反応性有機官能基と非反応性の有機基が結合している。該非反応性の有機基としては、アルキル基、フェニル基、アラルキル基などが挙げられる。シリコーン化合物(D)としては、一般に入手が容易であることからメチル基またはフェニル基を有するオルガノポリシロキサンが好ましく、さらに、エポキシ樹脂(B)及び熱硬化剤(C)が芳香環を有する場合が多いことから、それらとの相溶性の観点からフェニル基を有するオルガノポリシロキサンが特に好ましい。
【0061】
また、シリコーン化合物(D)の前記反応性有機官能基が一種類のみに限定されるのは、シリコーン化合物(D)が粘接着剤層中の各種成分と結合し、粘接着剤層中に固定されることを目的とするためである。2種類以上の反応性有機官能基を有する場合には粘接着シートの基材との接着力が上昇してしまい、ピックアップ不良を招く。
【0062】
なお、前述の一種類とは、反応性有機官能基を構成する電子供与性基又は電子吸引性基の部分が同一であることをいう。例えば,反応性有機官能基がアミノアルキル基である場
合、アミノ基の部分が同一であれば前記アミノアルキル基を一種類として捉え、アルキル部分の炭素数等が異なる複数のアミノアルキル基を有するシリコーン化合物も、一種類の反応性有機官能基を有するオルガノポリシロキサンと判断する。
【0063】
また、「一種類」というのはシリコーン化合物(D)一分子に着目した場合に言うのであって、たとえば、本発明の粘接着剤組成物中に、エポキシ基含有アルキル基のみを有するシリコーン化合物とアミノアルキル基のみを有するシリコーン化合物とが含まれていて
もよい。
【0064】
最も一般的なシリコーン化合物であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)を配合した粘接着剤組成物ではピックアップ力を低減する効果は得られるものの、ダイボンディング工程後のワイヤーボンディング工程において不具合が発生する。これは、ダイボンディング時の熱硬化工程やワイヤーボンディング工程のような加熱を要する工程を経ると、PDMSはエポキシ樹脂との相溶性が悪いため、低分子シロキサンが粘接着剤層外部に染み出したり出ガスとして放出され、これが金やアルミなどワイヤーを接続するワイヤーパッド部を汚染してしまうからであると考えられ、その結果安定した接続強度が得られない。
【0065】
これに対して本発明で使用されるシリコーン化合物(D)は、側鎖または末端のいずれか少なくとも1箇所に上記の反応性有機官能基を有するので、エポキシ樹脂(B)や熱硬化剤(C)と反応して粘接着剤層内に固定されるため、粘接着剤層の外側に滲出しにくいと考えられる。このため、シリコーン化合物(D)は粘接着剤層の外部に染み出しにくく、出ガスとして発生しにくい。従って本発明の粘接着剤組成物を用いれば、チップのダイボンディング工程でワイヤーパッド部が汚染されることが無く、安定したワイヤーボンディング性が実現される。
【0066】
シリコーン化合物(D)は従来公知の方法で製造することができ、また、市販品としても入手可能であり、例えば、両末端にアミノアルキル基を有するポリジフェニルシロキサンとして「X-22-1660B-3(信越化学工業(株))」、側鎖にアミノアルキル基を有するジメチルポリシロキサンとして「KF-864(信越化学工業(株))」が挙げられる。
【0067】
これらのシリコーン化合物はそれぞれ単独もしくは組み合わせて使用することが出来る。
シリコーン化合物(D)の含有量は、好ましくは粘接着剤層の重量に対して0.001
〜5重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。粘接着剤層とは、後で詳述するが、基材上に粘接着剤組成物を塗布乾燥することなどにより得られるものである。粘接着剤組成物を基材上に塗布しやすくするため、粘接着剤組成物には溶剤を含有させることが一般的である。したがって、粘接着剤層の重量とは、粘接着剤組成物全体の重量から、溶剤などの揮発成分の重量を引いたものである。
【0068】
0.001重量部以下であるとピックアップ力を下げる効果が充分得られないことがあり、また、5重量部以上であると、粘接着剤層のチップとの接着力が落ち、半導体装置としての信頼性が低下してしまうことがある。
【0069】
以上説明したように、本発明の粘接着剤組成物はアクリル重合体(A)と、エポキシ樹脂(B)と、熱硬化剤(C)と、特定のシリコーン化合物(D)とを含む。シリコーン化合物(D)はピックアップ力を下げることができ、また粘接着剤層の外部に染み出したり出ガスとして発生したりしにくいため、本発明の粘接着剤組成物からなる粘接着剤層を有する粘接着シートを用いれば、チップのダイボンディング後に行われるワイヤーボンディング工程において、接着面周辺に存在するワイヤーパッド部を汚染することなく、安定的にワイヤーをチップに接続することが出来る。その結果、半導体装置として高い歩留まりで良品を得ることが出来る。本発明の粘接着剤組成物は、各種物性を改良するため必要に応じて以下の成分を含んでいてもよい。
【0070】
<(E)硬化促進剤>
硬化促進剤(E)は、粘接着剤組成物の硬化速度を調整するために用いられる。好ましい硬化促進剤としては、エポキシ基と、フェノール水酸基やアミノ基等との反応を促進しうる化合物があげられる。具体的には、
トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類;
2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;
トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;
テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。
【0071】
これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
硬化促進剤(E)は、硬化性の観点からエポキシ樹脂(B)100重量部に対して0.01〜100重量部含まれることが望ましく、0.1〜50重量部がより好ましく、1〜30重量部がさらに望ましい。
【0072】
<(F)カップリング剤>
カップリング剤(F)は、粘接着剤組成物の被着体に対する接着性、密着性を向上させるために用いられる。また、カップリング剤を使用することで、粘接着剤組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上することができる。カップリング剤としては、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分等が有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。
【0073】
カップリング剤(F)としては、シランカップリング剤が望ましい。このようなカップリング剤としてはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシラン等が挙げられる。
【0074】
これらのカップリング剤は、分子内に少なくとも2種類以上の官能基を有するため硬化
後に粘接着剤層とチップまたは有機基板との接着性を向上させる。
これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。これらカップリング剤(F)を使用する際には、エポキシ樹脂(B)100重量部に対して通常0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の割合で用いられる。0.1重量部未満だとカップリング剤としての効果が得られないことがあり、20重量部を超えるとカップリング剤が出ガスとして放出される可能性がある。
【0075】
<(G)架橋剤>
本発明の粘接着剤組成物の初期接着力および凝集力を調節するために、架橋剤(G)を含有させることもできる。架橋剤(G)の例としては有機多価イソシアナート化合物および有機多価イミン化合物があげられる。
【0076】
上記有機多価イソシアナート化合物としては、芳香族多価イソシアナート化合物、脂肪族多価イソシアナート化合物、脂環族多価イソシアナート化合物等をあげることができる。
【0077】
有機多価イソシアナート化合物のさらに具体的な例としては、たとえば2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、1,4−キシレンジイソシアナート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシ
アナート、ジフェニルメタン−2,4'−ジイソシアナート、3−メチルジフェニルメタ
ンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−2,
4'−ジイソシアナート、リジンイソシアナートがあげられる。さらに、これらの多価イ
ソシアナート化合物の三量体、ならびにこれら多価イソシアナート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマー等も前記有機多価イソシアナート化合物に含まれる。
【0078】
上記有機多価イミン化合物の具体例としては、N,N'-ジフェニルメタン-4,4'-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-b-アジリジニルプロピオナ
ート、テトラメチロールメタン-トリ-b -アジリジニルプロピオナート、N,N'-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミンを挙げることができる。
【0079】
これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
架橋剤(G)は反応性の観点から、アクリル重合体(A)100重量部に対して通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部の比率で用いられる。
【0080】
<(H)無機充填材>
無機充填材(H)を本発明の粘接着剤組成物に配合することにより、その熱膨張係数を調整することが可能となり、チップや有機基板に対して硬化後の粘接着剤層の熱膨張係数を最適化することで半導体装置の耐熱性を向上させることができる。また、粘接着剤層の硬化後の吸湿率を低減させることも可能となる。
【0081】
好ましい無機充填材としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
【0082】
本発明においては、これらのなかでも、シリカ粉末、アルミナ粉末の使用が好ましい。
これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
無機充填材(H)は、粘接着剤組成物全体に対して、通常0〜80重量%の範囲で調整が可能である。
【0083】
<(I)エネルギー線重合性化合物>
本発明の粘接着剤組成物には、エネルギー線重合性化合物(I)が配合されてもよい。エネルギー線重合性化合物(I)が配合された粘接着剤層をエネルギー線照射によって硬化させることで、粘接着剤層の粘着力を低下させることができるため、ピックアップ工程における基材と粘接着剤層との層間剥離を容易に行うことができる。
【0084】
エネルギー線重合性化合物(I)は、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する化合物である。
このエネルギー線重合性化合物(I)としては、具体的には、ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタ
ンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、イタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が挙げられる。
【0085】
このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、重量平均分子量が通常100〜30,000、好ましくは300〜10,000程度である。
これらは1種単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
エネルギー線重合性化合物(I)を使用する場合、粘接着剤組成物中のエネルギー線重合性化合物(I)の含量は、アクリル重合体(A)100重量部に対して通常1〜400重量部、好ましくは3〜300重量部、より好ましくは10〜200重量部である。400重量部を超えると、有機基板やリードフレームに対する粘接着剤層の接着性を低下させることがある。
【0087】
<(J)光重合開始剤>
エネルギー線重合性化合物(I)が配合された粘接着剤組成物は、その使用に際して、
エネルギー線として紫外線を照射することがある。この際、該組成物中に光重合開始剤(J)を添加することで、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくすることができる。
【0088】
このような光重合開始剤(J)としては、具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサンソン、α-ヒド
ロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジアセチル、β-クロールア
ンスラキノンなどが挙げられる。
【0089】
光重合開始剤(J)は1種単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
光重合開始剤(J)の配合割合は、理論的には、粘接着剤中に存在する不飽和結合量やその反応性および使用される光重合開始剤の反応性に基づいて決定されるべきであるが、複雑な混合物系においては必ずしも容易ではない。
【0090】
光重合開始剤(J)を使用する場合には、一般的な指針として、粘接着剤組成物中の光重合開始剤(J)の含量は、エネルギー線重合性化合物(I)100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、1〜5重量部がより好ましい。0.1重量部未満であると光重合の不足で満足なピックアップ性が得られないことがあり、10重量部を超えると光重合に寄与しない残留物が生成し、粘接着剤層の硬化性が不十分となることがある。
【0091】
<その他の成分>
本発明の粘接着剤組成物には、上記の成分の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。たとえば、粘接着剤層が硬化した後の硬化物の可とう性を保持するため可とう性成分を添加することができる。可とう性成分は、常温および加熱下で可とう性を有する成分であり、加熱やエネルギー線照射では実質的に硬化しないものが選択される。可とう性成分は、熱可塑性樹脂やエラストマーからなるポリマーであってもよいし、ポリマーのグラフト成分、ポリマーのブロック成分であってもよい。また、可とう性成分がエポキシ樹脂に予め変性された変性樹脂であってもよい。
【0092】
さらに、本発明の粘接着剤組成物の各種添加剤としては、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、顔料、染料等が挙げられる。
上記のような各成分からなる粘接着剤組成物は感圧接着性と加熱硬化性とを有し、未硬
化状態では各種被着体を一時的に保持する機能を有する。そして熱硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い硬化物を与えることができ、しかも剪断強度と剥離強度とのバランスにも優れ、厳しい熱湿条件下においても充分な接着物性を保持しうる。
【0093】
そして本発明の粘接着剤組成物はピックアップ力を低減し、チップとして高い歩留まりで良品を得ることを可能にし、尚且つチップのダイボンディング後に行われるワイヤーボンディング工程において、接着面周辺に存在するワイヤーパッド部を汚染することなく、安定的にワイヤーをチップに接続することをも可能にする。結果として、半導体装置を高い歩留まりで良品を得ることができる。
【0094】
本発明に係る粘接着剤組成物は、上記各成分を適宜の割合で混合して得られる。混合に際しては、各成分を予め溶媒で希釈しておいてもよく、また混合時に溶媒を加えてもよい。
【0095】
なお、混合する際、シリコーン化合物(D)がエポキシ基および/または脂環式エポキシ基を有する場合、シリコーン化合物(D)、熱硬化剤(C)および溶媒のみを高温で撹拌混合し、予備的に反応させた後、その他の本発明の粘接着剤組成物を構成する成分と混合すると、ワイヤーパッド部を汚染する可能性がより低い粘接着剤組成物を得ることができる。
【0096】
また、シリコーン化合物(D)がアミノ基および/またはメルカプト基を有する場合には、エポキシ樹脂(B)と溶媒のみを高温で撹拌混合し、予備的に反応させたものを用いると、同様にワイヤーパッド部を汚染する可能性がより低い粘接着剤組成物を得ることができる。
【0097】
この加熱の温度は通常70℃〜180℃、好ましくは90℃〜180℃、より好ましくは120℃〜160℃の範囲で、加熱時間は通常30分以上、好ましくは1時間以上である。
【0098】
[本発明の粘接着シート]
本発明に係る粘接着シートは、基材上に、上記粘接着剤組成物からなる粘接着剤層が形成されてなる。本発明に係る粘接着シートの形状は、テープ状、ラベル状などあらゆる形状をとりうる。
【0099】
粘接着シートの基材としては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等の透明フィルムが用いられる。
【0100】
またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。また、上記の透明フィルムの他、これらを着色した不透明フィルム等を用いることができる。
【0101】
本発明に係る粘接着シートは、各種の被着体に貼付され、被着体に所要の加工を施した後、粘接着剤層は、被着体に転写させて基材から剥離される。すなわち本発明に係る粘接着シートは、粘接着剤層を、基材から被着体に転写する工程を含むプロセスに使用される

【0102】
このため、基材の粘接着剤層に接する面の表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下であることが望ましい。また、ピックアップ工程までは粘接着剤層がチップ又は基材から剥がれないために表面張力は5mN/m以上である必要がある。このような表面張力が低い基材は、材質を
適宜に選択して得ることが可能であるし、また基材表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0103】
基材の剥離処理に用いられる剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系等のものが用いられるが、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
【0104】
なお、シリコーン系の剥離剤を使用する場合には、基材に塗布されたシリコーン系剥離剤が粘接着剤層に付着することがあり、本発明の効果が得られなくなってしまう可能性があるので、その使用量は必要最低限にとどめるべきである。
【0105】
上記の剥離剤を用いて基材の表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーター等により基材に塗布して、常温、加熱もしくは電子線で硬化させたり、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などで基材層及び剥離剤層の積層体を形成すればよい。
【0106】
基材の膜厚は、通常は10〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μm程度である。
また、粘接着剤層の厚みは、通常は1〜500μm、好ましくは5〜300μm、特に好ましくは5〜150μm程度である。
【0107】
本発明の粘接着シートの製造方法は特に限定はされず、公知の方法で製造することができる。たとえば、基材上に粘接着剤層を構成する粘接着剤組成物を塗布乾燥することで製造してもよく、また粘接着剤層を剥離フィルム上に設け、これを上記基材に転写することで製造してもよい。なお、粘接着シートの使用前に粘接着剤層を保護するために、粘接着剤層の上面に剥離フィルムを積層しておいてもよい。また、粘接着剤層の表面外周部には、リングフレーム等の他の治具を固定するために別途感圧性接着剤層が設けられていてもよい。
【0108】
[半導体装置の製造方法]
次に本発明に係る粘接着シートの利用方法について、該粘接着シートを半導体装置の製造に適用した場合を例にとって説明する。
【0109】
本発明に係る半導体装置の製造方法においては、まず、本発明に係る粘接着シートをダイシング装置上に、リングフレームにより固定し、半導体ウエハの一方の面を前記粘接着シートの粘接着剤層上に載置し、軽く押圧し、半導体ウエハを固定する。
【0110】
次いで、ダイシングブレードなどの切断手段を用いて、上記の半導体ウエハを切断しチップを得る。この際の切断深さは、半導体ウエハの厚みと、粘接着剤層の厚みとの合計およびダイシングブレードの磨耗分を加味した深さにする。
【0111】
次いで必要に応じ、粘接着シートのエキスパンドを行うと、チップ間隔が拡張し、チッ
プのピックアップをさらに容易に行えるようになる。この際、粘接着剤層と基材との間にずれが発生することになり、粘接着剤層と基材との間の接着力が減少し、チップのピックアップ性が向上するからである。尚、粘接着剤層に前記エネルギー線重合性化合物(I)を含有させる場合、ダイシング工程の後にエネルギー線を照射することによりピックアップ力を低減させたり、あるいは、ダイシング工程の前にエネルギー線を照射することによりウエハ固定機能及びダイ接着機能を発揮させることができる。
【0112】
このようにしてチップのピックアップを行うと、切断された粘接着剤層をチップ裏面に転写させて基材から剥離することができる。
本発明の粘接着剤組成物は上述のようにシリコーン化合物(D)を含有しているため、ピックアップ力が低く、そのためチップが割れたり欠けたりすることなくチップとして高い歩留まりで良品を得ることが出来る。
【0113】
次いで粘接着剤層を介してチップを基板のダイパッド部上に載置する。ダイパッド部はチップを載置する前に加熱するか載置直後に加熱される。加熱温度は、通常は80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、加熱時間は、通常は0.1秒〜5分、好まし
くは0.5秒〜3分であり、載置圧力は、通常1kPa〜200MPaである。
【0114】
チップをダイパッド部に載置した後、必要に応じさらに加熱を行ってもよい。この際の加熱条件は、上記加熱温度の範囲であって、加熱時間は通常1〜180分、好ましくは10〜120分である。
【0115】
また、載置後の加熱処理は行わずに仮接着状態としておき、後工程で行われる樹脂封止での加熱を利用して粘接着剤層を硬化させてもよい。
このような工程を経ることで、粘接着剤層が硬化し、チップとダイパッド部とを強固に接着することができる。粘接着剤層はダイボンディング条件下では流動化しているため、ダイパッド部の凹凸にも十分に埋め込まれ、ボイドの発生を防止できる。
【0116】
すなわち、得られる実装品においては、チップの固着手段である粘接着剤が硬化し、かつダイパッド部の凹凸にも十分に埋め込まれた構成となるため、過酷な条件下にあっても、十分な半導体装置の信頼性とボード実装性が達成される。
【0117】
このようにしてチップを基板に接着した後、さらにワイヤーボンディングが行われることもある。上述のように本発明で使用されるシリコーン化合物(D)は、一種類の反応性有機官能基を有しているので、該反応性有機官能基がエポキシ樹脂(B)や熱硬化剤(C)と反応して粘接着剤層内に固定されるため、粘接着剤層の外部に染み出したり出ガスとして発生したりしにくい。従って、チップのワイヤーボンディング工程でワイヤーパッド部が汚染することが無く、安定したワイヤーボンディング性が実現される。
【0118】
なお、本発明の粘接着剤組成物および粘接着シートは、上記のような使用方法の他、半導体化合物、ガラス、セラミックス、金属などの接着に使用することもできる。
【実施例】
【0119】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において、「ピックアップ荷重測定」、「ピックアップ試験」および「ワイヤープル試験」は次のように行った。
【0120】
「ピックアップ荷重測定」
6インチウエハ(厚み;350μm、裏面;#2000研削)の裏面に実施例および比較例の粘接
着シートを貼付し、前記ウエハをリングフレーム(ディスコ社製2-6-1)に固定し、ダイシ
ング装置(ディスコ製;DFD651、ダイシングブレード;ディスコ社製27HECC)を用いて、ブレードの送り速度50mm/秒、回転数30000rpm、粘接着シートへの切込み量50μmの条件で前記ウエハを5mm□にフルカットした。
【0121】
これをリングフレームの内径に沿ってウエハ貼り付け面に平行に全体的に12mm引き伸ばし(エキスパンド)、その裏側からプッシュプルゲージ(アイコー社製CPUゲージ)を用
いて、個片化されたチップを押し、粘接着層が貼り付いたままの状態でチップが剥がれるのに必要な力を30個分測定し、その平均を求めた。
【0122】
「ピックアップ試験」
8インチウエハ(厚み;75μm、裏面;ドライポリッシュ)の裏面に実施例および比較例
の粘接着シートを貼付し、前記ウエハをリングフレーム(ディスコ製2-8-1)に固定し、ダ
イシング装置(ディスコ製;DFD651、ダイシングブレード;ディスコ社製27HECC)を用いて、ブレードの送り速度50mm/秒、回転数30000rpm、粘接着シートへの切込み量50μmの条件で前記ウエハを8mm□にフルカットすることにより個片化(チップ化)した。
【0123】
これをフルオートダイボンダー装置(キャノンマシナリー製;BESTEM-DOII)を用いて
、4プラス1ピンの突き上げ治具と中空コレットにより、全ピン突き上げ量600μm、突き上げスピード10 mm/sで各20個突き上げたとき、チップが取り上げられずに装置が停止した
り、チップが破損してしまったりする不良が発生せずにチップをピックアップし、そのチップを基板に載置できた個数を求めた。
【0124】
「ワイヤープル試験」
#2000研磨したTEGウエハ(日立超LSIシステムズ製;PHASE0(ポリイミド塗布、アルミ
パッド開口部80μm□、150mm径,厚さ350μm))の研磨面に、実施例および比較例の粘接着シートをテープマウンター(リンテック社製;Adwill RAD250)により貼付し、ウエハダ
イシング用リングフレームに固定した。次いで、ダイシング装置(ディスコ社製;DFD651、ダイシングブレード;ディスコ社製27HECC)を使用して、ブレードの送り速度50mm/秒、回転数40,000rpm、粘接着シートへの切込み量50μmの条件で前記ウエハをダイ
シングし、8.52mm□サイズのチップを得た。
【0125】
これを、BTレジン(三菱ガス化学株式会社製;CCL-HL832HS)を絶縁接着層として用
い、銅箔張り積層基板の銅箔に回路パターンが形成され、そのパターン上にソルダーレジスト(太陽インキ製PSR4000 AUS303)を有している基板(日立超LSIシステムズ製;ボンディングパッドNi/Au合金0.4μm)に、フルオートダイボンダー装置(キャノンマシナリー製;BESTEM-DOII)を用いてダイボンディングした。
【0126】
これをオーブンにて120℃で1時間、さらに140℃で1時間熱をかけ粘接着剤層を熱硬化させた後、ワイヤーボンダ((株)新川製;UTC-470(φ25μm Au線ワイヤー、K&S社製;486FC-2052-R34キャピラリー))を用いて180℃、10m秒間、荷重25gf、超音波出力30PLSでチ
ップと基板間を236本のワイヤーでボンディングしてチップと基板とを接続した。このう
ちそれぞれ20本についてワイヤー中央部分をチップ面に対して垂直方向に引っ張り(ワイヤープル試験)、ワイヤーが破壊したときの引っ張り強度を測定し、またチップ側の接続部が剥がれることなく、かつワイヤー部が破壊し引っ張り強度が7.0gf以上を示したワイ
ヤーの個数を求めた。前記の「ワイヤー中央部分をチップ面に対して垂直方向に引っ張」っている様子を図1に示す。
【0127】
また、実施例および比較例の粘接着シートの粘接着剤組成物を構成する各成分は下記の通りである。
(A)アクリル重合体:日本合成化学工業株式会社製、コーポニールN-2359-6(Mw:約30万、Tg:-28℃)
(B−1)液状エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂20phrアクリル粒子含有品(株式会社日本触媒:エポセットBPA328, エポキシ当量235g/eq)
(B−2)固体エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(大日本インキ化学株式
会社:EPICRON 1050, エポキシ当量850g/eq)
(B−3)固体エポキシ樹脂:DCPD型エポキシ樹脂(大日本インキ化学株式会社:EPICRON HP-7200HH, エポキシ当量278g/eq)
(C)熱硬化剤:ノボラック型フェノール樹脂(昭和高分子株式会社:ショウノールBRG-556, フェノール性水酸基当量104g/eq)
(D−1)末端アミン変性シリコーン化合物(両末端にアミノアルキル基を有するポリジフェニルシロキサン;信越化学社:X-22-1660B-3、動粘度(550mm2/s))
(D−2)側鎖アミン変性シリコーン化合物(側鎖の一部にアミノアルキル基を有するジメチルポリシロキサン;信越化学社:KF-864、動粘度(1,700mm2/s))
(D−3)無変性シリコーン化合物(ポリジメチルシロキサン モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社:TSF-451-1000、動粘度(1,000mm2/s))
(E)硬化促進剤:2 - フェニル - 4 - メチル - 5 -ヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業株式会社:キュアゾール2PHZ−PW)
(F)シランカップリング剤(三菱化学株式会社:MKCシリケートMSEP2)
(H)シリカ充填材(株式会社アドマテックス:アドマファインSC2050)
(I)エネルギー線重合性化合物:ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート(日本化薬株式会社:KAYARAD R-684)
(J)光重合開始剤:α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャル
ティ・ケミカルズ株式会社製:イルガキュア184)
また、粘接着シートの基材としては、ポリプロピレンフィルム(厚さ100μm、表面張力31mN/m)を用いた。
【0128】
(実施例および比較例)
表1に記載の組成の粘接着剤組成物を使用した。表中、数値は不揮発成分換算の重量部を示す。表1に記載の組成の粘接着剤組成物をシリコーン処理された剥離フィルム(リンテック株式会社製SP-PET381031C)上に30μmの厚みになるように塗布、乾燥(乾燥条件オーブンにて100℃、1分間)した後に基材と貼り合せて、粘接着剤層を基材上に転写することで粘接着シートを得た。
【0129】
得られた粘接着シートを用いて、前記の3種の試験を行った。結果を表2に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の粘接着剤組成物を利用した粘接着シートによれば、チップが薄型化された場合であっても、ピックアップ工程においてチップが割れたり欠けたりせずに高い歩留まりで良品を得ることが出来、尚且つダイボンディング後に行われるワイヤーボンディング工程において、接着面周辺に存在するワイヤーパッド部を汚染することなく、安定的にワイヤーを接続することが出来る。これにより半導体装置として高い歩留まりで良品を得ることができる。
【0133】
さらに本発明によればこの粘接着シートを用いた半導体装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1はワイヤープル試験において、ワイヤー中央部分をチップ面に対して垂直方向に引っ張る様子を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル重合体(A)と、エポキシ樹脂(B)と、熱硬化剤(C)と、シリコーン化合物(D)とを含む粘接着剤組成物であって、
前記シリコーン化合物(D)が、一種類の反応性有機官能基を有するオルガノポリシロキサンであって、かつ、25℃における動粘度が50〜100,000mm2/sであること
を特徴とする粘接着剤組成物。
【請求項2】
前記反応性有機官能基が、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アミノアルキル基、エポキシ基含有アルキル基、脂環式エポキシ基含有アルキル基、メタクリル基含有アルキル基、フェノール基含有アルキル基またはメルカプトアルキル基である請求項1に記載の粘接着剤組成物。
【請求項3】
前記熱硬化剤(C)が、フェノール性水酸基および/またはアミノ基を有する熱硬化剤である請求項1または2に記載の粘接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の粘接着剤組成物からなる粘接着剤層が、基材上に形成されてなる粘接着シート。
【請求項5】
請求項4に記載の粘接着シートの粘接着剤層に半導体ウエハを貼着する工程と、
該半導体ウエハをダイシングしてチップとする工程と、
該チップを、その裏面に前記粘接着剤層を転写させて前記粘接着シートの基材から剥離する工程と、
剥離されたチップをダイパッド部上に、該チップの裏面に転写された粘接着剤層を介して熱圧着する工程と
を含む半導体装置の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242605(P2009−242605A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91250(P2008−91250)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】