説明

紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物及びその製造方法並びにコーティング組成物及び被覆物品

【課題】 優れた紫外線吸収性を示し、アルコキシシリル基を有する新規な紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物及びその製造方法、並びに耐熱性及び耐水性に優れ、該化合物を安定にコーティング膜中に保持することが可能なコーティング組成物、及びこの組成物の硬化皮膜にて被覆してなる被覆物品を提供する。
【解決手段】 式(1)又は(2)の紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物。
【化1】


[R1はアルキル基又はアリール基、R2はアルキル基、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルキル基、アリール基又はアシロキシ基、R32〜R34は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基、R35はエステル結合含有二価有機基、R36は二価炭化水素基、aは0〜2、Zは式(3)
【化2】


の基、Rは水素原子又は一価炭化水素基、R2はアルキル基、0<m≦1、0≦n≦2、0≦p<3、0≦q≦3、0<m+n+p+q<4]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物及びその製造方法、並びにこの有機ケイ素化合物を用いたコーティング組成物、及び該組成物を用いた被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機紫外線吸収剤をアクリル樹脂等の各種バインダーに配合し、紫外線カット塗料や耐候性塗料として用いることが行われてきた。しかし、長期にわたる使用では、紫外線吸収剤のブリードアウトやバインダーとなる有機ポリマーの光劣化などによって性能が劣化してしまうという問題点があった。これらの問題点を克服するために、バインダー成分を改良したり、酸化防止剤を併用したり(特開昭63−43972号公報:特許文献1)することが行われてきた。また、メタクリロイル基を有する有機紫外線吸収剤を用いて共重合させブリードアウトをなくす(例えば、特開平6−88064号公報:特許文献2等)といった試みもなされてきた。しかし、これらも樹脂自体が主鎖に数多くのエステル結合を有するため、耐候性が十分でなく、Norrish型の反応を起こしたり、200℃を超える高温環境下では使用できないといった欠点を有していた。
【0003】
また、耐候性を改善するためにバインダーとしてシリコーン樹脂を用いることも行われているが、この場合も単に紫外線吸収剤を添加するだけでは、紫外線吸収剤のブリードアウトによる性能の劣化が起こってしまう。そこで、これまでに紫外線吸収剤にシリコーン樹脂と反応できる基を導入する試みが数多くなされている(例えば、特開平2−243695号公報:特許文献3等)。しかし、これらの反応性シリル化紫外線吸収剤は、多段階の合成が必要であったり、ヒドロシリル化触媒の除去など面倒な工程が必要であったりと、幾つかの問題点も残されていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−43972号公報
【特許文献2】特開平6−88064号公報
【特許文献3】特開平2−243695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、優れた紫外線吸収性を示し、かつアルコキシシリル基を有する新規な紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供する。また、この紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物を用いることにより、耐熱性及び耐水性などに優れ、ブリードアウトなどを生じさせることなく安定にコーティング膜中に保持することが可能なコーティング組成物、及びこの組成物の硬化皮膜にて被覆してなる被覆物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)又は下記平均組成式(2)で表されるこれまで知られていなかった新規な紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物が、わずかな製造ステップからなり、かつ使用する反応触媒も一般的な中和反応で除去可能なものを用いるため、目的物を容易に製造できること、また、上記化合物を反応性シリル化紫外線吸収剤として、アクリル樹脂などの有機樹脂やシリコーン樹脂などの各種バインダーと組み合わせることにより、優れた紫外線カット性、耐熱性、耐水性、耐ブリードアウト性、及び保存安定性を有するコーティング組成物となり得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記一般式(1)で表される紫外線吸収性基含有アルコキシシラン及び下記平均組成式(2)で表される紫外線吸収性基含有ポリオルガノシロキサンを提供する。
【0008】
【化1】

{式中、R1は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、R32,R33,R34は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、R35は炭素数2〜20のエステル結合含有二価有機基であり、R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基であり、aは0〜2の整数である。}
【0009】
【化2】

[式中、Zは下記一般式(3)
【化3】

{式中、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、R32,R33,R34は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、R35は炭素数2〜20のエステル結合含有二価有機基であり、R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基である。}
で表される有機基であり、Rは同一もしくは異種の水素原子又は炭素数1〜18の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、m,n,p,qは、各々0<m≦1、0≦n≦2、0≦p<3、0≦q≦3、0<m+n+p+q<4を満たす数である。]
【0010】
また、本発明は、これらの新規の紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物の製造方法として、下記の製造方法を提供する。
【0011】
〔製造方法(I)〕
下記一般式(4)で表される(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾールと、下記一般式(5)で表されるメルカプト基含有アルコキシシランとを、塩基の存在下で反応させることにより、前記式(1)のアルコキシシランを製造する方法。
【化4】

{式中、R1は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、R32,R33,R34は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、R35'は炭素数2〜20のCH2=CR’−COO−R''−で示される一価有機基(R’は水素原子又はメチル基であり、R''は炭素数0〜17の二価炭化水素基である。)であり、R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基であり、aは0〜2の整数である。}
【0012】
〔製造方法(II)〕
前記式(1)のアルコキシシラン、又はこれと少なくとも1種のその他の加水分解性シラン及び/又は加水分解性シロキサンとを(共)加水分解縮合させることにより、前記式(2)のポリオルガノシロキサンを製造する方法。
【0013】
〔製造方法(III)〕
前記式(1)のアルコキシシランと、少なくとも1種のその他のシラン及び/又はシロキサンとを酸あるいは塩基の存在下で平衡化反応させることにより、前記式(2)のポリオルガノシロキサンを製造する方法。
【0014】
〔製造方法(IV)〕
前記式(4)の(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾールと、下記平均組成式(6)で表されるメルカプト基含有ポリオルガノシロキサンとを、塩基の存在下で反応させることにより、前記式(2)のポリオルガノシロキサンを製造する方法。
【0015】
【化5】

{式中、YはHS−R36−で表されるメルカプト基含有基であり、R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基であり、Rは同一もしくは異種の水素原子又は炭素数1〜18の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、m,n,p,qは、各々0<m≦1、0≦n≦2、0≦p<3、0≦q≦3、0<m+n+p+q<4を満たす数である。}
【0016】
更に、本発明は、これらの新規の紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物を含有するコーティング組成物、及び基材に直接又は少なくとも1種の他の層を介してこの組成物の硬化皮膜を被覆してなる被覆物品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた紫外線吸収性を示し、かつアルコキシシリル基を有する新規な有機ケイ素化合物が容易に得られる。また、本発明の紫外線吸収性有機ケイ素化合物を用いたコーティング組成物は、耐熱性及び耐水性などに優れ、紫外線吸収剤をブリードアウトさせることなく、コーティング膜中に安定に保持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第1の紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシランである。
【0019】
【化6】

{式中、R1は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、R32,R33,R34は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、R35は炭素数2〜20のエステル結合含有二価有機基であり、R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基であり、aは0〜2の整数である。}
【0020】
上記式(1)中、R1の炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、アルキル基の場合、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などを例示することができ、アリール基の場合、フェニル基、トリル基、キシリル基などを例示することができるが、特に耐候性及び入手し易さの観点から、メチル基が好ましい。
【0021】
また、R2の炭素数1〜8のアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などを例示することができるが、入手のし易さ及び加水分解の制御のし易さを考慮すると、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0022】
31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、具体的には、水素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、t−ブチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、アセトキシ基、プロピオキシ基などを例示することができるが、入手の容易さの観点から、水素原子が好ましい。
【0023】
32,R33,R34は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、具体的には、水素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、t−ブチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などを例示することができるが、入手の容易さの観点から、水素原子が好ましい。
【0024】
35は炭素数2〜20、特に3〜10のエステル結合含有二価有機基であり、下記式
−R''−OC(=O)−R'''−
(R''は炭素数0〜17、特に1〜7の二価炭化水素基、特にアルキレン基である。R'''は炭素数2〜9の二価炭化水素基であり、特に−CH2−CH2−又は−CH(CH3)−CH2−が好ましい。)
で表される基が好ましい。
具体的には、−CH2−OC(=O)−(CH22−、−CH2−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−CH2−OC(=O)−C(CH32−、−(CH22−OC(=O)−(CH22−、−(CH22−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−(CH3)CH−OC(=O)−(CH22−、−(CH3)CH−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−(CH23−OC(=O)−(CH22−、−(CH23−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−(CH3)CH−OC(=O)−(CH22−、−(CH32C−OC(=O)−(CH22−、−(CH3)CH−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−(CH32C−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−(CH24−OC(=O)−(CH22−、−(CH24−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−(CH25−OC(=O)−(CH22−、−(CH25−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−(CH26−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−(CH28−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、−(CH22−C610−(CH22−OC(=O)−CH(CH3)CH2−などを挙げることができる。入手のし易さ、経済性の観点から、−(CH22−OC(=O)−CH(CH3)CH2−、又は−(CH22−OC(=O)−CH2CH2−が好ましい。
【0025】
36は炭素数1〜8の二価炭化水素基であり、好ましくはアルキレン基である。具体的には、−CH2−、−(CH22−、−(CH32C−、−(CH23−、−(CH3)CH−、−(CH24−、−(CH25−、−(CH26−、−C610−、−(CH28−、−(CH22−C610−などを挙げることができる。入手のし易さ、経済性の観点から、−(CH23−が好ましい。
【0026】
aは0〜2の整数であり、好ましくは0又は1である。aが2より大きい場合、得られる紫外線吸収性基含有アルコキシシラン1分子中の加水分解性基の数が少なくなり、その結果、コーティング組成物とした場合、バインダーネットワークに組み込まれず、ブリードアウトしやすくなったり、バインダーの架橋密度を低下させ、耐摩耗性が得られにくくなったり、硬化が十分に進行しにくくなったりするおそれがある。
【0027】
式(1)で表されるアルコキシシランのいくつかの具体例を以下に示す。
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
前記式(1)で表されるアルコキシシランは、以下の製造方法(I)により製造することができる。
【0030】
製造方法(I)
下記一般式(4)で表される(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾールと、下記一般式(5)で表されるメルカプト基含有アルコキシシランとを、塩基の存在下で反応させる方法。
【0031】
【化9】

【0032】
式中、R1,R2,R31,R32,R33,R34,R36は各々前記と同じであり、R35'は炭素数2〜20の−R''−OC(=O)−CR’=CH2で示される一価有機基(R''は上記の通り、R’は水素原子又はメチル基である)で示されるものであり、具体的には、
−CH2−OC(=O)−CH=CH2、−CH2−OC(=O)−C(CH3)=CH2、−CH2CH2−OC(=O)−CH=CH2、−CH2CH2−OC(=O)−C(CH3)=CH2、−(CH23−OC(=O)−CH=CH2、−(CH23−OC(=O)−C(CH3)=CH2、−(CH24−OC(=O)−CH=CH2などを挙げることができる。
【0033】
この反応は、塩基の存在下、前記式(5)で表されるメルカプト基含有アルコキシシラン中に、前記式(4)で表される(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾールを滴下すればよく、また、(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾール中に、メルカプト基含有アルコキシシランを滴下してもよい。この場合、式(4)のベンゾトリアゾール1モルに対し、式(5)のアルコキシシランは0.5〜3.0モル、特に0.8〜2.0モルの反応モル比とすることが好ましい。
【0034】
塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物;リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシドなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド;炭酸カリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩;ギ酸カリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属のカルボン酸塩;ナトリウムシリコネート、カリウムシリコネートなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属のシリコネート;アンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウムのヒドロキシド;酢酸アンモニウム、酢酸ジメチルアミン、酢酸エタノールアミン、ジメチルアニリン蟻酸塩などのアミンカルボン酸塩;トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルトリメチルアミン、ピリジン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミン;母体がスチレン−ジビニルベンゼン共重合体などからなり、官能基としてアンモニウム塩やアミンなどの塩基性官能基が結合した陰イオン交換樹脂などを挙げることができる。塩基の使用量は適宜選定されるが、式(5)のアルコキシシラン1モルに対し、0.0001〜2.0モル比、特に0.001〜0.5モル比であることが好ましい。
【0035】
反応時には、一般的な溶剤を使用してもよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどのケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類などの極性溶剤が好ましい。
【0036】
反応温度は、0〜150℃の範囲であればよく、好ましくは10〜100℃の範囲である。反応温度が150℃より高いと式(4)のベンゾトリアゾールや目的物である式(1)のエステル結合が切断され、収率が低下する場合がある。また、反応時間は、反応温度にもよるが30分〜24時間の範囲であればよい。好ましくは1〜6時間の範囲である。
【0037】
また、本発明の第2の紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物は、下記平均組成式(2)で表されるポリオルガノシロキサンである。
【0038】
【化10】

[式中、Zは下記一般式(3)
【化11】

{式中、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、R32,R33,R34は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、R35は炭素数2〜20のエステル結合含有二価有機基であり、R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基である。}
で表される有機基であり、Rは同一もしくは異種の水素原子又は炭素数1〜18の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、m,n,p,qは、各々0<m≦1、0≦n≦2、0≦p<3、0≦q≦3、0<m+n+p+q<4を満たす数である。]
【0039】
上記式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1〜18の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、具体的には、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;γ−メタクリロキシプロピル基、γ−アクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−アミノプロピル基等の置換炭化水素基などを例示することができる。特に耐候性を考慮する場合、メチル基、エチル基、トリフロロプロピル基が好ましく、特にメチル基が好ましく、また有機樹脂バインダーとの相溶性、反応性などを考慮すると、フェニル基、ビニル基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−アクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−アミノプロピル基などの置換炭化水素基が好ましい。
【0040】
2は前記と同じである。また、m,n,p,qは、各々0<m≦1、0≦n≦2、0≦p<3、0≦q≦3、0<m+n+p+q<4を満たす数であり、好ましくは0.001≦m≦1、0.01≦n≦1.99、0≦p<2.99、0≦q≦2.99、0.001≦m+n+p+q<3を満たす数である。mが0であると紫外線吸収能が発現せず、1より大きいと他のシロキサン樹脂や有機樹脂に対する溶解性が低下し、白化しやすくなるためである。また、nが2より大きいと分子量が高くなりにくくなり、ブリードや飛散しやすくなり、pが3以上であると保存安定性が低下しやすくなるためである。
【0041】
Zは前記一般式(3)で表される有機基であり、式中R31,R32,R33,R34,R35,R36は前記と同じである。
【0042】
本発明の前記式(2)で表されるポリオルガノシロキサンは、以下の製造方法(II)〜(IV)により製造することができる。
【0043】
製造方法(II)
本発明の前記式(1)のアルコキシシラン、又はこれと少なくとも1種のその他の加水分解性シラン及び/又は加水分解性シロキサンとを(共)加水分解縮合反応させる方法。
【0044】
製造方法(III)
本発明の前記式(1)のアルコキシシランと、少なくとも1種のその他のシラン及び/又はシロキサンとを、酸あるいは塩基の存在下で平衡化反応させる方法。
【0045】
製造方法(IV)
前記式(4)の(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾールと、下記平均組成式(6)で表されるメルカプト基含有ポリオルガノシロキサンとを、塩基の存在下で反応させる方法。
【0046】
【化12】

{式中、YはHS−R36−(R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基である)で表されるメルカプト基含有基であり、Rは同一もしくは異種の水素原子又は炭素数1〜18の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、m,n,p,qは、各々0<m≦1、0≦n≦2、0≦p<3、0≦q≦3、0<m+n+p+q<4を満たす数である。}
【0047】
前記製造方法(II)の(共)加水分解縮合反応、及び製造方法(III)、(IV)の平衡化反応は、公知の反応形態であり、一般的な条件及び手順で行うことができる。
【0048】
ここで、製造方法(II)の(共)加水分解縮合における他の加水分解性シラン及び加水分解性シロキサンとしては、下記一般式:
(R41xSi(A)4-x
{式中R41は前記Rと同じであり、Aは同一又は異種のハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシロキシ基、炭素数1〜6のアルケノキシ基、又はイソシアネート基である。xは0〜3の整数である。}
で表される加水分解性シラン、及びその部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0049】
上記一般式の化合物の例としては、x=0の場合、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトライソシアネートシラン、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「Mシリケート51」多摩化学製、商品名「MSI51」コルコート製、商品名「MS51」、「MS56」三菱化学製)、テトエトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「シリケート35」、「シリケート45」多摩化学製、商品名「ESI40」、「ESI48」コルコート製)、テトラメトキシシランとテトラエトキシシランとの部分共加水分解縮合物(商品名「FR−3」多摩化学製、商品名「EMSi48」コルコート製)などを挙げることができる。
【0050】
x=1の場合の具体例として、ハイドロジェントリクロロシラン、ハイドロジェントリメトキシシラン、ハイドロジェントリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、メチルトリイソシアネートシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「KC−89S」、「X−40−9220」信越化学工業製)、メチルトリメトキシシランとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの部分共加水分解縮合物(商品名「X−41−1056」信越化学工業製)などを挙げることができる。
【0051】
x=2の場合には、メチルハイドロジェンジクロロシラン、メチルハイドロジェンジメトキシシラン、メチルハイドロジェンジエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジメチルジイソシアネートシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランなどを例として挙げることができる。
【0052】
x=3の場合の例としては、ハイドロジェンジメチルメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルアセトキシシラン、トリメチルイソシアネートシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、フェニルジメチルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメチルメトキシシランなどを挙げることができる。
【0053】
前記の中でも、特に耐擦傷性や耐候性が要求される用途に使用する場合には、R41がメチル基などのアルキル基であるものが好ましく、靭性や染色性が要求される場合は、フェニル基や、エポキシ基あるいは(メタ)アクリロキシ置換炭化水素基であるものが好ましい。
【0054】
また、加水分解性シラン及び加水分解性シロキサンの他の例としては、下記一般式:
(A)y(R423-ySi−B−Si(R433-z(A)z
{式中R42,R43は前記Rと同じであり、Aは前記と同じであり、Bは炭素数1以上の二価有機基であり、y、zは各々独立に0〜3の整数である。}
で表される加水分解性シラン、及びその部分加水分解縮合物も挙げることができる。
【0055】
上記式中、Bは炭素数1以上、特に1〜30、とりわけ1〜20の二価有機基であれば如何なるものでも使用可能であるが、アルキレン基、アルキレン基とアリーレン基やシクロアルキレン基とが結合したもの、これらの水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換したもの、アルキレン基やフッ素化アルキレン基中に−O−が介在したもの等が挙げられ、以下のものが好ましい。
−(CH2d−(但し、d=1〜20)、
−CH2CH2−(CF2e−CH2CH2−(但し、e=2〜20)、
−CH2CH2−CF(CF3)−(CF2e−CF(CF3)−CH2CH2−、
−CH2CH2−CF(C25)−(CF2e−CF(C25)−CH2CH2−、
−CH2CH2−CF(CF3)CF2−O−(CF2e−O−CF2CF(CF3)−CH2CH2−、
−CH2CH2−C64−CH2CH2−、
−CH2CH2−C64−CH2CH2−、
−CH2CH2−C610−CH2CH2−、
−CH2CH2−C610−CH2CH2
【0056】
特に、塗膜硬度や耐候性を目的とする場合には、−(CH2d−や−CH2CH2−(CF2e−CH2CH2−が好ましく、可撓性や耐クラック性を重視する場合には、−CH2CH2−C64−CH2CH2−が好ましく、耐薬品性、防汚性又は反射防止性を目的とする場合には、−CH2CH2−(CF2e−CH2CH2−が好ましい。
【0057】
42,R43は前記Rと同じであり、Aは前記と同じであり、y、zは各々独立に0〜3の整数、特に2又は3である。
【0058】
これらの条件を満たすシラン化合物の具体例としては、
(CH3O)3Si−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)2CH3Si−CH2CH2−SiCH3(OCH32
(CH3O)3Si−CH2CH2CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−C64−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−C610−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−(CF24−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−(CF26−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−(CF210−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−(CF216−CH2CH2−Si(OCH33
(C25O)3Si−CH2CH2−(CF24−CH2CH2−Si(OC253
(C25O)3Si−CH2CH2−(CF26−CH2CH2−Si(OC253
(CH3O)2CH3Si−CH2CH2−(CF24−CH2CH2−SiCH3(OCH32
(CH3O)2CH3Si−CH2CH2−(CF26−CH2CH2−SiCH3(OCH32
(CH3O)(CH32Si−CH2CH2−(CF24−CH2CH2−Si(CH32(OCH3)、
(CH3O)(CH32Si−CH2CH2−(CF26−CH2CH2−Si(CH32(OCH3)、
(CH3O)3Si−CH2CH2−CF(CF3)(CF24CF(CF3)−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−CF(CF3)(CF26CF(CF3)−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−CF(CF3)(CF212CF(CF3)−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−C610−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−C64−CH2CH2−Si(OCH33
を挙げることができ、これらの中でも、好ましくは、
(CH3O)3Si−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)2CH3Si−CH2CH2−SiCH3(OCH32
(CH3O)3Si−CH2CH2CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−C64−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−C610−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−(CF24−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−(CF26−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−CH2CH2−(CF28−CH2CH2−Si(OCH33
(C25O)3Si−CH2CH2−(CF24−CH2CH2−Si(OC253
(C25O)3Si−CH2CH2−(CF26−CH2CH2−Si(OC253
などのシラン化合物を使用するのがよい。
【0059】
更に、加水分解性シラン及び加水分解性シロキサンの他の例としては、下記一般式:
【化13】

{式中、R11,R12,R13,R14は前記Rと同じであり、D、Eは各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシロキシ基、炭素数1〜6のアルケノキシ基、又はイソシアネート基であり、Gは酸素原子又は炭素数2〜10のアルキレン基であり、b,cは各々独立に0〜3の整数であり、dは1〜30の整数である。}
で表される加水分解性シロキサン、及びその部分加水分解縮合物も挙げることができる。
【0060】
D、Eは各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシロキシ基、炭素数1〜6のアルケノキシ基、又はイソシアネート基であり、具体的には、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基、アセトキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基、ビニロキシ基、イソプロペノキシ基等のアルケノキシ基、イソシアネート基などを例示することができる。
【0061】
Gは酸素原子又は炭素数2〜10のアルキレン基であり、具体的には、酸素原子、エチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基、ヘキシレン基、デシレン基、フェニレン基、メチルフェニルエチレン基などが例示される。
【0062】
b,cは各々独立に0〜3の整数、特に2又は3であり、dは1〜30、特に1〜20の整数である。
【0063】
上記一般式で表されるシロキサンの具体例としては、下記に示すものが挙げられる。
(CH3O)3Si−CH2CH2−(CH32SiO−Si(CH32−CH2CH2−Si(OCH33
(CH3O)3Si−O−(CH32SiO−Si(CH32−O−Si(OCH33
(CH3CH2O)3Si−CH2CH2−〔(CH32SiO〕4−Si(CH32−CH2CH2−Si(OCH2CH33
(CH3O)2(CH3)Si−O−〔(CH32SiO〕9−Si(CH32−O−Si(CH3)(OCH32
(CH3O)3Si−CH2CH2−〔(CH32SiO〕20−Si(CH32−CH2CH2−Si(OCH33
【0064】
また、前記製造方法(II)の反応は、式(1)のアルコキシシラン1モルに対し、他のシラン又はシロキサンを0〜1,000モル、特に0.1〜100モル使用して行うことが好ましい。また、水の使用量は、全ての加水分解性基の合計1モルに対し、0.01〜100モル比、特に0.1〜10モル比が好ましい。この場合、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどのケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類などの極性溶剤等の有機溶剤を各種シラン又はシロキサンの合計である有効成分の濃度が10〜100%になる量で使用することもできる。反応に際しては、酸触媒又はアルカリ触媒、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、メタンスルホン酸などの無機酸;酢酸、しゅう酸、クエン酸などの有機酸;4級アンモニウムヒドロキシド、アミンなどの有機アルカリ;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドなどの無機アルカリ等を触媒量、特に塩酸、硝酸、酢酸、しゅう酸、クエン酸を用いて常法に従って行うことができる。
【0065】
反応温度は、0〜150℃の範囲であればよく、好ましくは10〜100℃の範囲である。反応温度が150℃より高いと反応の制御がしにくくなり、ゲル化する場合がある。また反応時間は反応温度にもよるが、30分〜24時間の範囲であればよい。好ましくは1〜6時間の範囲である。
【0066】
前記製造方法(III)において、本発明の前記式(1)のアルコキシシランは、そのまま使用してもよいし、予め(部分)加水分解縮合してから使用してもよい。
【0067】
製造方法(III)における、他のシラン及びシロキサンとしては、上記製造方法(II)で例示したもののほか、ヘキサメチルジシロキサン、α,ω−ジヒドロテトラメチルジシロキサン、α,ω−ジビニルテトラメチルジシロキサン、α,ω−ジフェニルテトラメチルジシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、α,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサンなどの直鎖シロキサン;ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5−トリス(3,3,3−フロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラヒドロテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラフェニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどの環状シロキサン;3−(トリメチルシロキシ)ヘプタメチルトリシロキサン、テトラキス(トリメチルシロキシ)シランなどの分岐シロキサンなどを例として挙げることができる。前記の中でも、耐候性が要求される用途には、アルキル置換基が好ましく、樹脂相溶性、靭性及び染色性などが要求される場合は、フェニル、エポキシもしくは(メタ)アクリロキシ置換炭化水素基が好ましい。
【0068】
また、前記製造方法(III)の反応は、式(1)のアルコキシシラン1モルに対し、他のシラン又はシロキサンを0.001〜1,000モル、特に0.1〜100モル用いることが好ましく、酸あるいは塩基の存在下、前記式(1)のアルコキシシラン中に、少なくとも1種のその他のシラン及び/又はシロキサンを滴下すればよく、また少なくとも1種のその他のシラン及び/又はシロキサン中に、前記式(1)のアルコキシシランを滴下してもよい。
【0069】
酸又は塩基としては、前記に示した通りである。塩基又は酸の使用量は触媒量であり、特に式(1)のアルコキシシラン及びその他のシラン及び/又はシロキサンの合計量に対して0.001〜10質量%であることが好ましい。
また、反応時には、一般的な溶剤を使用してもよく、中でも前記に示した極性溶剤が好ましい。
【0070】
反応温度は、0〜150℃の範囲であればよく、好ましくは10〜100℃の範囲である。反応温度が150℃より高いと不均化反応などの副反応により、所望の生成物の収率が低下する場合がある。また反応時間は反応温度にもよるが、30分〜24時間の範囲であればよい。好ましくは1〜10時間の範囲である。
【0071】
前記製造方法(IV)は、前記式(4)の(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾールと、下記平均組成式(6)で表されるメルカプト基含有ポリオルガノシロキサンとを、塩基の存在下で反応させるものである。
【0072】
【化14】

{式中、YはHS−R36−(R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基である)で表されるメルカプト基含有基であり、Rは同一もしくは異種の水素原子又は炭素数1〜18の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、m,n,p,qは、各々0<m≦1、0≦n≦2、0≦p<3、0≦q≦3、0<m+n+p+q<4を満たす数である。}
【0073】
上記式(6)中、YはHS−R36−で表されるメルカプト基含有基である。R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等のアルキレン基、シクロへキシレン基等のシクロアルキレン基、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基等のアリーレン基、これらの基の水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基、及び上記アルキレン基とアリーレン基とを組み合わせた基から選ばれる二価炭化水素基などが挙げられる。
また、R,R2,m,n,p,qは、上記と同様である。
【0074】
前記一般式(6)で表されるメルカプト基含有ポリオルガノシロキサンは、公知の反応により得ることができる。例えば、(a)各種加水分解性シラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物とメルカプト基を含有する加水分解性シラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物との共加水分解縮合反応、(b)各種ポリオルガノシロキサンとメルカプト基を含有するオルガノシラン及び/又はその加水分解縮合物との酸触媒存在下における平衡化反応を挙げることができる。前記反応に用いられる原料としては、前記で示した例と同じである。
【0075】
また、前記製造方法(IV)は、式(4)のベンゾトリアゾール1モルに対し、式(6)のポリオルガノシロキサンを0.01〜3.0モル、特に0.1〜1.0モル用いることが好ましく、塩基の存在下、前記式(6)のメルカプト基含有ポリオルガノシロキサン中に、前記式(4)の(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾールを滴下すればよく、また(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾール中に、メルカプト基含有ポリオルガノシロキサンを滴下してもよい。
【0076】
塩基としては、前記に示した通りであり、その使用量は適宜選定されるが、式(6)のポリオルガノシロキサン1モルに対し、0.001〜0.5モル比が好ましく、反応時には、一般的な溶剤を使用してもよく、中でも前記に示した極性溶剤が好ましい。
【0077】
反応温度は、0〜150℃の範囲であればよく、好ましくは10〜100℃の範囲である。反応温度が150℃より高いと式(4)のベンゾトリアゾールや目的物である式(2)のポリオルガノシロキサンのエステル結合が切断され、収率が低下する場合がある。また反応時間は反応温度にもよるが、30分〜24時間の範囲であればよく、好ましくは1〜6時間の範囲である。
【0078】
本発明のコーティング組成物は、上記一般式(1)で表されるアルコキシシラン及び/又は上記平均組成式(2)で表されるポリオルガノシロキサンを含有してなるものであり、好ましくは上記有機ケイ素化合物と、硬化触媒と、その他のポリオルガノシロキサンやアクリル樹脂などの合成樹脂とを含有してなるものである。
【0079】
ここで、硬化触媒としては、アルコキシシラン又はシラノールを加水分解・縮合させる公知の触媒である。例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシドなどの4級オニウムヒドロキシド;これらのヒドロキシド類とハロゲン酸との塩、及び炭素数1〜4のカルボン酸との塩;蟻酸カリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸カリウムなどのカルボン酸のアルカリ金属塩;酢酸アンモニウム、酢酸ジメチルアミン、酢酸エタノールアミン、ジメチルアニリン蟻酸塩などのアミンカルボキシレート;トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルトリメチルアミン、ピリジン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミン;水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属の水酸化物あるいはアルコキシド;ジシアンジアミド、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどの変性(潜在性)アミン;酢酸、クエン酸、マレイン酸、フタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸などの有機酸又はこれらの酸無水物、塩酸、硝酸、硫酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、リン化タングステン酸、リン化モリブデン酸などの無機酸;アルミニウムトリイソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、トリアセチルアセトンアルミニウム、ジオクチル錫ジラウレート、オクチル酸亜鉛などの金属化合物などを挙げることができる。
【0080】
硬化触媒の配合量は、本発明のコーティング組成物中の全シラン及び/又はシロキサン成分を硬化させるのに有効な量であればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、シリコーンレジンの固形分に対し、0.0001〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001〜10質量%である。0.0001質量%未満であると硬化が不十分となり、硬度が低下する場合があり、30質量%より多いと塗膜にクラックが発生しやすくなったり、耐水性が低下する場合がある。
【0081】
本発明のコーティング組成物には、必要に応じて、溶剤、pH調整剤、レベリング剤、増粘剤、顔料、染料、金属酸化物微粒子、金属粉、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、熱線反射・吸収性付与剤、可撓性付与剤、帯電防止剤、防汚性付与剤、撥水性付与剤等を本発明の効果に悪影響を与えない範囲内で添加することができる。
【0082】
本発明のコーティング組成物には、塗工性、保存安定性を向上させる目的で、溶剤を添加してもよい。溶剤としては、本発明のシリコーンコーティング組成物中の固形分を溶解するものであれば特に限定されるものではないが、水及び比較的極性の高い有機溶剤が好ましい。有機溶剤の具体例としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;アセチルアセトン、アセト酢酸エチルなどのβ−ジケトン、β−ケトエステルなどを挙げることができ、これらからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上の混合物を使用することができる。
【0083】
本発明のコーティング組成物は、溶剤によりその固形分濃度を1〜30質量%、特に5〜25質量%に調整することが好ましい。この範囲外では該組成物を塗布、硬化した塗膜に不具合が生じることがある。例えば、上記範囲未満では塗膜にタレ、ヨリ、マダラが発生し易くなり、所望の硬度、耐擦傷性が得られない場合がある。また上記範囲を超えると、塗膜のブラッシング、白化、クラックが生じ易くなる場合がある。
【0084】
本発明のコーティング組成物の更なる保存安定性を得るために、液のpHを、好ましくは2〜7、より好ましくは3〜6にするとよい。pHがこの範囲外であると、貯蔵性が低下することがあるため、pH調整剤を添加し、上記範囲に調整することもできる。コーティング組成物のpHが上記範囲外にあるときは、この範囲より酸性側であれば、アンモニア、エチレンジアミン等の塩基性化合物を添加してpHを調整すればよく、塩基性側であれば、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸等の酸性化合物を用いてpHを調整すればよい。しかし、その調整方法は特に限定されるものではない。
【0085】
本発明のコーティング組成物には、塗工して得られる硬化塗膜の硬度や耐擦傷性の向上、低屈折率化、高屈折率化、紫外線カット性、帯電防止性、熱線反射・吸収性などの機能を更に付与する目的で、金属酸化物微粒子やその中空微粒子、チタン、亜鉛、ジルコニウムなどの金属キレート化合物、及びこれらの(部分)加水分解物、縮合物などを適宜添加することもできる。金属酸化物微粒子としては、その粒子形、粒子の粒径は特に問わないが、塗膜化した際の透明性を高めるために、粒子径は小さい方が好ましい。
【0086】
金属酸化物微粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化セリウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化鉄、酸化鉄及び/又は酸化ジルコニウムをドープした酸化チタン、希土類酸化物の微粒子、これらの混合物、あるいはこれらの複合酸化物微粒子などが挙げられるが、特に限定されるものではない。これら金属酸化物微粒子はコロイド分散液となっているものを使用してもよいし、粉末状のものをコーティング組成物に分散させてもよく、更にこれらを、シラン系、チタン系、アルミニウム系、あるいはジルコニウム系カップリング剤等の有機金属化合物、カルボン酸含有有機化合物、含窒素有機化合物などで表面処理したものを使用してもよい。
これら金属酸化物微粒子の添加量は、コーティング組成物の全樹脂成分に対し、0.1〜300質量%、特に1〜100質量%であることが好ましい。
【0087】
また、本発明のコーティング組成物には、接着性向上及び更なる可撓性の付与を目的として、該組成物と反応しうる官能基を有するビニル重合体を含んでもよい。該組成物と反応しうる官能基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、メトキシジメチルシリル基などの加水分解性シリル基、これらの(部分)加水分解したヒドロキシシリル基を挙げることができ、更に該組成物の有効成分中にエポキシ基が含まれていれば、アミノ基、カルボン酸基などを含有する有機基、また該組成物の有効成分中にアミノ基が含まれていれば、エポキシ基、カルボン酸基、(メタ)アクリル基などを含有する有機基を挙げることができる。なかでも保存安定性の面から、加水分解性シリル基、これらの(部分)加水分解したヒドロキシシリル基が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸、ベンゾトリアゾール基やヒドロキシベンゾフェノン基等を有する紫外線吸収性(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ヒンダードアミン基を有する紫外線安定性(メタ)アクリル酸エステルモノマーなどの各種(メタ)アクリル酸、及びその誘導体、あるいは酢酸ビニル等の各種ビニル重合性モノマーと、(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシラン、あるいはビニル基及び/又はスチリル基含有アルコキシシランを共重合させたものが好ましい。
その添加量は、コーティング組成物の全樹脂成分に対し、0.1〜100質量%、特に1〜50質量%であることが好ましい。
【0088】
本発明のコーティング組成物を塗布する基材が有機樹脂や木材製品である場合、基材の黄変、表面劣化を防ぐ目的で、更にその他の紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を添加することもでき、この場合、本発明のコーティング組成物と相溶性が良好で、かつ揮発性の低い紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を用いることが好ましい。
【0089】
紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなど上述したある種の酸化物微粒子やチタン、亜鉛、ジルコニウムなどの金属キレート化合物、及びこれらの(部分)加水分解物、縮合物の無機系のものと有機系のものを用いることができる。有機系の例として、主骨格がヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系である化合物誘導体が好ましい。更に側鎖にこれら紫外線吸収剤を含有するビニルポリマーなどの重合体、及び他のビニルモノマーとの共重合体、又は本発明のアルコキシシラン及び/又はポリオルガノシロキサン以外のシリル化変性された紫外線吸収剤、その(部分)加水分解縮合物でもよい。
【0090】
具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ベンジロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジエトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジプロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジブトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−プロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−ブトキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニルトリアジン、2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノンの(共)重合体、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの(共)重合体、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの反応物、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの反応物、これらの(部分)加水分解物などが挙げられる。これらの有機系紫外線吸収剤は2種以上を併用してもよい。
【0091】
紫外線安定剤としては、分子内に1個以上の環状ヒンダードアミン構造を有し、本発明のコーティング組成物との相溶性がよく、また低揮発性のものが好ましい。紫外線光安定剤の具体例としては、3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、N−メチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、N−アセチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジノールとトリデカノールとの縮合物、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、また、光安定剤を固定化させる目的で、特公昭61−56187号公報にあるようなシリル化変性の光安定剤、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルトリメトキシシラン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルメチルジメトキシシラン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルトリエトキシシラン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルメチルジエトキシシラン、更にこれらの(部分)加水分解物等が挙げられ、これらの光安定剤は2種以上併用してもよい。
【0092】
本発明のコーティング組成物は、通常の塗布方法で基材にコーティングすることができ、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フロー、ロール、カーテン、スピン、ナイフコート等の各種塗布方法を選択することができる。
【0093】
コーティング組成物の塗膜の厚みは特に制限はないが、0.1〜50μmであることが好ましく、塗膜の硬さ、耐擦傷性、長期的に安定な密着性及びクラックが発生しにくいことを満たすためには、1〜20μmであることがより好ましい。厚みが0.1μm未満であると塗膜に欠損が生じやすくなったり、十分な紫外線吸収能を付与できない場合があり、50μmを超えると塗膜にクラックが発生しやすくなる場合がある。
【0094】
本発明のコーティング組成物を塗布した後の硬化は、空気中に放置して風乾させてもよいし、加熱してもよい。硬化温度、硬化時間は限定されるものではないが、基材の耐熱温度以下で2分〜2時間加熱するのが好ましい。具体的には80〜150℃で5分〜2時間加熱するのがより好ましい。加熱硬化時間が2分未満であると硬化不十分となり、満足する塗膜硬度が得られにくい場合があり、2時間を超えると実用的ではない。
【0095】
ここで、用いる基材としては、プラスチック成形体等の有機樹脂、木材系製品、繊維、セラミックス、ガラス、金属、あるいはそれらの複合物等が挙げられ、特に限定されることはないが、各種プラスチック材料に好適に使用され、特にポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂、含硫黄樹脂、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、セルロース樹脂、非晶質ポリオレフィン樹脂等、及びこれらの複合化樹脂が好ましい。更にこれらの樹脂基材の表面が処理されたもの、具体的には、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液での処理、及び基材本体と表層が異なる種類の樹脂で形成されている積層体を用いることもできる。積層体の例としては、共押し出し法やラミネート法により製造されたポリカーボネート樹脂基材の表層にアクリル樹脂層もしくはウレタン樹脂層が存在する積層体、又はポリエステル樹脂基材の表層にアクリル樹脂層が存在する積層体等が挙げられる。
【0096】
なお、コーティングの際、基材表面に、直接又は必要に応じてプライマー層や紫外線吸収層、印刷層、記録層、熱線遮蔽層、粘着層、無機蒸着膜層等を介して形成することもできる。
【0097】
更に必要に応じて、本発明のコーティング組成物の硬化塗膜の表面上に、紫外線吸収層、印刷層、記録層、熱線遮蔽層、粘着層、無機蒸着膜層、撥水撥油層、親水防汚層などの他の被覆層を塗工してもよい。
【0098】
このようにして得られた本発明のコーティング組成物の硬化物にて被覆された被覆物品は、紫外線カット性、耐熱性、耐水性、耐ブリードアウト性に優れたものとなり得る。
【実施例】
【0099】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、特に断らない限り、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。また、重量平均分子量は、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0100】
<有機ケイ素化合物の調製>
[実施例1]
2Lのフラスコに、KBM−803(信越化学工業製;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)196g(1.0モル)を仕込み、攪拌下、SM−28(川研ファインケミカル製;ナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液)25gを滴下した。次いで、RUVA−93{大塚化学製;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール}323gをテトラヒドロフラン969gに予め溶解した溶液を、内温が40℃を超えないよう、冷却しながら滴下した。滴下終了後、60℃で4時間反応させた。次いで、メタンスルホン酸12.5gを投入、室温にて攪拌し、系を中和した。更に減圧濃縮後、シリカゲルを充填したカラムに通し、黄褐色透明溶液を得た。この溶液の溶剤を減圧にて除去したところ、黄褐色の粘ちょう液体を得た。この液体は、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR;図1)及び赤外吸収スペクトル(IR;図2)の結果から、下記式で示される化合物(純度89%)(化合物A)であった。
【0101】
【化15】

【0102】
[実施例2]
2Lのフラスコに、化合物A22g(0.04モル)、メチルトリメトキシシラン338g(2.24モル)、シリケート35(多摩化学工業製;テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物、平均2量体)56g(0.16モル、0.33Siモル)、及びテトラヒドロフラン40gを仕込み、よく混合させた。次いで0.25Nの酢酸水溶液308gを滴下し、内温が40℃を超えないように冷却しながら加水分解を行った。滴下終了後、40℃以下で1時間、次いで60℃で3時間撹拌し、加水分解を完結させた。
【0103】
その後、シクロヘキサノン300gを投入し、加水分解で生成したメタノール及びエタノールを、常圧にて液温が95℃になるまで留去しながら縮合させた後、不揮発分濃度が20%になるようイソプロパノールで希釈し、濾紙濾過を行い、淡黄色透明のポリオルガノシロキサンBの溶液を得た。
【0104】
このものは、ケイ素核磁気共鳴スペクトル(29Si−NMR)の結果から、下記の平均組成式で表されるポリオルガノシロキサンであり、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による重量平均分子量Mwは7,800であった。
【0105】
【化16】

{式中、Z’は下記式
【化17】

で表される紫外線吸収性基含有有機基であり、OXは大部分(90%以上)が水酸基であり、残余がアルコキシ基である。}
【0106】
[実施例3]
2Lのフラスコに、一般式
(CH3O)3Si−CH2CH2−[(CH32SiO]d'(CH32Si−CH2CH2−Si(OCH33
{d’は平均で5である。}
30g(0.04モル)、化合物A33g(0.06モル)、及びテトラヒドロフラン38gを仕込み、よく混合させた。次いで0.05Nの硝酸水溶液50gを滴下し、内温が40℃を超えないように冷却しながら加水分解を行った。滴下終了後、40℃以下で2時間攪拌、次いで0.05Nの硝酸水溶液260gと、予め調製したメチルトリメトキシシラン330g(2.43モル)とテトラエトキシシラン104g(0.5モル)の混合物を順に投入し、40℃以下で1時間、次いで60℃で3時間撹拌し、加水分解を完結させた。
【0107】
その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート300gを投入し、加水分解で生成したメタノール及びエタノールを、常圧にて液温が95℃になるまで留去しながら縮合させた後、不揮発分濃度が20%になるようイソプロパノールで希釈し、濾紙濾過を行い、淡黄色透明のポリオルガノシロキサンCの溶液を得た。
【0108】
このものは、29Si−NMR及び炭素核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)の結果から、下記の平均組成式で表されるポリオルガノシロキサンであり、GPCによる重量平均分子量Mwは6,400であった。
【0109】
【化18】

{式中、Z’は下記式
【化19】

で表される紫外線吸収性基含有有機基であり、OXは大部分(90%以上)が水酸基であり、残余がアルコキシ基である。}
【0110】
[実施例4]
2Lのフラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン716g(2.42モル)、ヘキサメチルジシロキサン36g(0.22モル)、及びメルカプトプロピルメチルジクロロシランの加水分解縮合物118g(0.88Siモル)を仕込み、よく混合させた。次いで110℃にて2時間攪拌し、脱水留去を行った。その後、室温まで冷却し、活性白土(和光純薬工業製)48gを投入し、80℃にて7時間攪拌し、重合を行った。室温まで冷却後、濾過により活性白土を取り除き、無色透明のメルカプト基含有ポリオルガノシロキサン(メルカプト当量980)を得た。
【0111】
2Lのフラスコに、得られたメルカプト基含有ポリオルガノシロキサン700g及び陰イオン交換樹脂IRA−900(OH)−HG(オルガノ製)25gを仕込み、よく攪拌した。次いで、RUVA−93{大塚化学製;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール}183g(0.567モル)をテトラヒドロフラン800gに予め溶解した溶液を、室温にて滴下した。滴下終了後、60℃で24時間反応させ、陰イオン交換樹脂を濾別した濾液の溶剤を減圧にて除去後、黄色透明のポリオルガノシロキサンDを得た。このものは、29Si−NMR及び1H−NMRの結果から、下記の平均組成式で表されるポリオルガノシロキサンであり、GPCによる重量平均分子量Mwは5,500であった。
【0112】
【化20】

{式中、Z’は下記式
【化21】

で表される紫外線吸収性基含有有機基である。}
【0113】
[実施例5]
2Lのフラスコに、化合物A52g(0.10モル)、メチルトリエトキシシラン100g(0.56モル)、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン99g(0.42モル)、及び(CH3O)3SiCH2CH2−C48−CH2CH2Si(OCH33100g(0.20モル)を仕込み、よく混合した。次いで0.25N酢酸水溶液508gを滴下し、内温が40℃を超えないように冷却しながら加水分解を行った。滴下終了後、40℃以下で12時間攪拌し、メタノールシリカゾル(日産化学工業製;メタノール分散品、固形分30%)600gを投入し、室温で1時間攪拌した。その後、不揮発分濃度が20%になるようイソブタノールで希釈、濾紙濾過を行い、淡黄色殆ど透明のポリオルガノシロキサンEの溶液を得た。
【0114】
このものは、29Si−NMR及び13C−NMRの結果から、下記の平均組成式で表されるポリオルガノシロキサンであり、GPCによる重量平均分子量Mwは1,100であった。
【0115】
【化22】

{式中、Z’は下記式
【化23】

で表される紫外線吸収性基含有有機基であり、Glyはγ−グリシドキシプロピル基であり、OXは大部分(90%以上)が水酸基であり、残余がアルコキシ基である。}
【0116】
[比較例1]
実施例2において、化合物Aを使用しないこと以外は、同様にして紫外線吸収性を有さないポリオルガノシロキサンFの溶液を得た。
【0117】
[比較例2]
実施例5において、化合物Aを使用しないこと以外は、同様にして紫外線吸収性を有さないポリオルガノシロキサンGの溶液を得た。
【0118】
<コーティング組成物の調製及び硬化被膜の評価>
[実施例6]
実施例2で得られたポリオルガノシロキサンBの溶液に、各種添加剤を表1に示した量で配合し、よく混合後、濾紙濾過を行い、コーティング組成物1を得た。これを石英ガラス板(厚さ1mm×長さ4cm×幅1cm)に流し塗り法により塗布し、130℃で1時間硬化させた。得られた塗膜に関して、透過スペクトルを測定したところ、図3に示したとおり、波長390nm以下の領域の紫外線を吸収していることが判明した。
【0119】
[比較例3]
実施例6において、ポリオルガノシロキサンBの溶液の代わりに、比較例1で得られたポリオルガノシロキサンFの溶液を用いて、同様にコーティング組成物2を得た。更に実施例6と同様、塗膜を得、その透過スペクトルを測定したところ、図4に示したとおり、紫外線をほとんど吸収しないことが判明した。
【0120】
[実施例7〜9、比較例4〜6]
実施例2、3及び5、比較例2で得られたポリオルガノシロキサン溶液と、各種添加剤とを表1に示す量で配合し、コーティング組成物3〜8とした。これらコーティング組成物をポリカーボネート/アクリル樹脂共押し出し板(厚さ0.5mm×長さ30cm×幅20cm)のアクリル樹脂面に流し塗り法により塗布し、130℃で1時間硬化させた。
【0121】
上記実施例6〜9、比較例3〜6で得られた塗膜に関して、下記の評価を行い、その結果を表2に示した。
【0122】
【表1】

【0123】
<硬化触媒>
TBAH:テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの0.25%水溶液
酢酸Na:酢酸ナトリウムの10%水溶液
AlAA:アルミニウムアセチルアセトナート
【0124】
<レベリング剤>
LV−I:フロラードFC−4430(住友スリーエム製)の10%イソプロパノール溶液
【0125】
<紫外線吸収剤>
UVA−I:2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシル/トリデシル−オキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(チヌビン400、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)
UVA−II:2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(RUVA−93、大塚化学製)
UVA−III:2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン(SEESORB 100、シプロ化成製)
【0126】
<ヒンダードアミン系光安定剤>
HALS−I:N−アセチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン(サンドバー3058Liq.、クラリアント・ジャパン製)
【0127】
<金属酸化物微粒子>
微粒子−I:酸化チタン含有複合金属酸化物ゾルの20%メタノール分散品(オプトレイク1120Z、触媒化成工業製)
【0128】
硬化被膜の評価方法
<塗膜外観>
塗膜を目視で観察し、異常の有無を判定した。
【0129】
<耐擦傷性>
ASTM1044に準じ、テーバー摩耗試験機にて摩耗輪CS−10Fを装着、荷重500g下での500回転後の曇価を測定し、試験後と試験前の曇価差を耐擦傷性とした。
【0130】
<密着性>
JIS K5400に準じ、カミソリ刃を用いて、塗膜に2mm間隔で縦、横6本ずつ切れ目を入れて25個の碁盤目を作製し、セロテープ(ニチバン社製)をよく付着させた後、90°手前方向に急激に剥がした時、塗膜が剥離せずに残存したマス目数(X)を、X/25で表示した。
【0131】
<耐水性>
評価サンプルを、沸騰水に2時間浸漬した後の外観変化及び密着性を評価した。
【0132】
<耐熱性>
評価サンプルを、130℃の熱風循環乾燥機中で1時間加熱した後のクラックの有無を目視で観察した。
【0133】
【表2】

【0134】
[実施例10〜13、比較例7〜9]
アクリル系プライマーであるプライマーPC−7A(信越化学工業製)を、ポリカーボネート樹脂板(厚さ0.5mm×長さ30cm×幅20cm)に、流し塗り法により塗布、130℃で30分硬化した後、室温下、1時間冷却した。その後、前記組成物の被膜上に実施例6〜9及び比較例3,4,6で調製したコーティング組成物1〜6及び8を各々流し塗り法により塗布し、130℃で1時間硬化させた。得られた塗膜に関して、下記の耐候性評価を行った結果を表3に示す。本発明の紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物からなる塗膜は、基材であるポリカーボネート樹脂が劣化する紫外線波長領域を効果的に吸収しているため、耐候性試験後の黄変度は初期値と同等もしくはわずかな上昇のみであり、塗膜異常も認められなかった。一方、本発明の紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物を含まないコーティング組成物の塗膜では耐候性試験後の黄変度は上昇し、塗膜異常も発生した。
【0135】
[実施例14]
アクリル系プライマーであるプライマーPC−7A(信越化学工業製)に、実施例1の化合物Aを、PC−7Aの固形分量に対して固形分として8%配合した組成物、ポリカーボネート樹脂板(厚さ0.5mm×長さ30cm×幅20cm)に、流し塗り法により塗布、130℃で30分硬化した後、室温下、1時間冷却した。その後、前記組成物の被膜上に実施例6で調製したコーティング組成物1を流し塗り法により塗布し、130℃で1時間硬化させた。得られた塗膜に関して、下記の耐候性評価を行った結果を表3に示す。
【0136】
本発明の紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物を上塗り及び下塗りとした場合、その紫外線吸収性は大幅に増大するため、基材であるポリカーボネート樹脂の劣化は大幅に抑制され、耐候性試験後の黄変度は初期値とほぼ同等となり、塗膜異常も認められなかった。
【0137】
<耐候性評価>
岩崎電気(株)製アイスーパーUVテスターW−151を使用し、[ブラックパネル温度63℃、湿度50%RH、照度50mW/cm2、降雨10秒/1時間で5時間]→[ブラックパネル温度30℃、湿度95%RHで1時間]を1サイクルとして、このサイクルを繰り返す条件で100時間、250時間の試験を行った。耐候性試験前後に、JIS K7103に準拠し、黄変度を、また耐候塗膜クラック、耐候塗膜剥離の状態を目視又は顕微鏡(倍率250倍)にて観察した。
【0138】
〈耐候塗膜クラック性〉
耐候性試験後の塗膜外観を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:僅かにクラックあり
×:塗膜全体にクラックあり
【0139】
〈耐候塗膜剥離〉
耐候性試験後の塗膜の状態を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:コーティング組成物の硬化塗膜層とプライマー硬化塗膜層との間で一部剥離
×:コーティング組成物の硬化塗膜層とプライマー硬化塗膜層との間で全剥離
【0140】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の実施例1で得られた化合物のプロトン核磁気共鳴スペクトルを示した図である。
【図2】本発明の実施例1で得られた化合物の赤外吸収スペクトルを示した図である。
【図3】本発明の実施例6で得られた化合物の透過スペクトルを示した図である。
【図4】本発明の比較例3で得られた化合物の透過スペクトルを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物。
【化1】

{式中、R1は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、R32,R33,R34は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、R35は炭素数2〜20のエステル結合含有二価有機基であり、R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基であり、aは0〜2の整数である。}
【請求項2】
1がメチル基、R2がメチル基又はエチル基、R31が水素原子、R32,R33,R34が各々水素原子、R35が下記式(7)又は(8)で表される二価有機基、R36が−CH2CH2CH2−、aが0又は1であることを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化2】

【請求項3】
下記平均組成式(2)で表される紫外線吸収性基含有有機ケイ素化合物。
【化3】

[式中、Zは下記一般式(3)
【化4】

{式中、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、R32,R33,R34は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、R35は炭素数2〜20のエステル結合含有二価有機基であり、R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基である。}
で表される有機基であり、Rは同一もしくは異種の水素原子又は炭素数1〜18の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、m,n,p,qは、各々0<m≦1、0≦n≦2、0≦p<3、0≦q≦3、0<m+n+p+q<4を満たす数である。]
【請求項4】
Rがメチル基、エチル基、トリフロロプロピル基、フェニル基、ビニル基、γ−アクリロキシプロピル基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基又はγ−アミノプロピル基、R2がメチル基、エチル基又はプロピル基、R31が水素原子、R32,R33,R34が各々水素原子、R35が下記式(7)又は(8)で表される二価有機基、R36が−CH2CH2CH2−、m,n,p,qが、0.001≦m≦1、0.01≦n≦1.99、0≦p<2.99、0≦q≦2.99、0.001≦m+n+p+q<3を満たす数であることを特徴とする請求項3記載の有機ケイ素化合物。
【化5】

【請求項5】
下記一般式(4)で表される(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾールと、下記一般式(5)で表されるメルカプト基含有アルコキシシランとを、塩基の存在下で反応させることを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【化6】

{式中、R1は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、R32,R33,R34は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、R35'は炭素数2〜20のCH2=CR’−COO−R''−で示される一価有機基(R’は水素原子又はメチル基であり、R''は炭素数0〜17の二価炭化水素基である。)であり、R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基であり、aは0〜2の整数である。}
【請求項6】
請求項1記載の有機ケイ素化合物、又はこれと少なくとも1種のその他の加水分解性シラン及び/又は加水分解性シロキサンとを(共)加水分解縮合反応させることを特徴とする請求項3記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の有機ケイ素化合物と、少なくとも1種のその他のシラン及び/又はシロキサンとを酸あるいは塩基の存在下で平衡化反応させることを特徴とする請求項3記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項8】
下記一般式(4)で表される(メタ)アクリル基含有ヒドロキシベンゾトリアゾールと、下記平均組成式(6)で表されるメルカプト基含有ポリオルガノシロキサンとを、塩基の存在下で反応させることを特徴とする請求項3記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【化7】

{式中、R31は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアシロキシ基であり、R32,R33,R34は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数1〜8のアルコキシ基であり、R35'は炭素数2〜20のCH2=CR’−COO−R''−で示される一価有機基(R’は水素原子又はメチル基であり、R''は炭素数0〜17の二価炭化水素基である。)であり、YはHS−R36−(R36は炭素数1〜8の二価炭化水素基である)で表されるメルカプト基含有基であり、Rは同一もしくは異種の水素原子又は炭素数1〜18の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基であり、m,n,p,qは、各々0<m≦1、0≦n≦2、0≦p<3、0≦q≦3、0<m+n+p+q<4を満たす数である。}
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物を含有するコーティング組成物。
【請求項10】
基材に直接又は少なくとも1種の他の層を介して請求項9記載のコーティング組成物の硬化被膜を被覆してなる被覆物品。
【請求項11】
基材が、ガラス、金属、セラミックス、有機樹脂、木材又は繊維である請求項10記載の被覆物品。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−182688(P2006−182688A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377097(P2004−377097)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】