説明

結晶成長方法及び装置

【課題】結晶中に欠陥の発生や不純物の混入を防止することにより結晶品質の改善を図ることが可能な結晶成長方法を提供する。
【解決手段】基板上に結晶90を成長させる際に、結晶90中の格子欠陥の欠陥準位に対応する波長を含む光を結晶成長時に照射し、照射した光に基づいて格子欠陥に対して近接場光を発生させ、発生させた近接場光による近接場光相互作用に基づいて格子欠陥を構成する不純物33又は欠陥周辺の原子を脱離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に結晶を成長させる結晶成長方法及び装置に関し、特に結晶中への欠陥の発生や不純物の混入を抑制する上で好適な結晶成長方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種電子デバイスの材料としては、基板上に結晶を成長させて成膜させたエピタキシャルウェハが使用されており、その結晶成長方法として、有機金属気相成長法(MOCVD)、分子線エピタキシー法、(MBE)、原子層エピタキシ(ALE)等が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、このような従来のMOCVDやMBE等を始めとした結晶成長方法において、結晶成長速度や温度、雰囲気等の結晶成長条件はある程度理論的に計算することによりシミュレートすることは可能である。しかしながら、結晶の品質を支配する格子欠陥や不純物の混入については、実際に結晶成長させる材料のみならず、使用する装置等の各種製造環境に左右されるため、実際に格子欠陥等を減少させることによる結晶品質の向上を図るためには、多くの実験的試行錯誤が必要になるのが現状である。
【0004】
特に2元系〜4元系の複数の元素からなる化合物半導体を基板上に結晶成長させる際には、シリコン等の単一組成からなる半導体を結晶成長させる場合と比較して、この格子欠陥等を減少させるのは容易ではなく、得られる結晶の品質を向上させるのが困難であるという問題点があった。即ち、この2元系〜4元系の化合物半導体における格子欠陥等を減少させることにより得られる結晶品質改善の要請は従来より強かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−097022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、MOCVDやMBE法等を始めとした一般的な結晶成長方法を実現する上で、特に結晶中に欠陥の発生や不純物の混入を防止することにより結晶品質の改善を図ることが可能な結晶成長方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明を適用した結晶成長方法は、基板上に結晶を成長させる結晶成長方法において、上記結晶の欠陥準位に対応する波長を含む光を結晶成長時に照射することを特徴とする。
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明を適用した結晶成長装置は、基板上に結晶を成長させる結晶成長装置において、上記結晶の欠陥準位に対応する波長を含む光を結晶成長時に照射する光照射手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上述した構成からなる結晶成長方法では、結晶の欠陥準位に対応する波長を含む光を結晶成長時に照射する。そして、成長させる結晶中の欠陥に対して照射した光に基づいて近接場光を発生させ、発生させた近接場光による近接場光相互作用に基づいて欠陥を構成する不純物又は欠陥周辺の原子を脱離させる。
【0010】
これにより、本発明では、MOCVDやMBE法等を始めとした一般的な結晶成長方法を実現する上で、特に結晶中に欠陥の発生や不純物の混入を防止することにより結晶品質の改善を図ることが可能となる。また、本発明によれば、多くの実験的試行錯誤を必要とすることなく、きわめて高い再現性を以って格子欠陥等を減少させることによる結晶品質の向上を図ることが可能となる。特に格子欠陥の除去が困難とされていた2元系〜4元系の複数の元素からなる化合物半導体を基板上に結晶成長させる際においても、本発明によればこれを減少させることができ、結晶品質の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した結晶成長方法を実現するための結晶成長装置の概略を示す図である。
【図2】本発明を適用した結晶成長方法を実現するための他の結晶成長装置の概略を示す図である。
【図3】結晶中において格子欠陥が形成された状態を示す図である。
【図4】格子欠陥が生じている局所領域において近接場光が発生した状態を示す図である。
【図5】基板上に成長させたある結晶の照射する波長に対する光吸収量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明を適用した結晶成長方法を実現するための結晶成長装置1の概略を示している。
【0014】
この結晶成長装置1は、いわゆるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)において使用されるものであって、チャンバ11内に、基板13と、上記基板13を載置するためのステージ14とを配設して構成され、またこのチャンバ11内の気体は、ポンプ16を介して吸引可能とされ、更に圧力センサ17によりチャンバ11内の圧力を検出し、これに基づいてバタフライバルブ18を自動的に開閉することにより内圧の自動制御を実現可能としている。また、このチャンバ11に対して第1の原料ガスを供給するための供給管23と、第2の原料ガスを供給するための供給管24とが接続されている。また、このチャンバ11の外壁には窓28が形成され、チャンバ11の外側に配置された光源29から発光された光が窓28を介してチャンバ11内へと入射されることになる。
【0015】
光源29は、図示しない電源装置を介して受給した駆動電源に基づき光発振し、例えば、Nd:YAG等の固体レーザ、GaAs等の半導体レーザ、ArF等のガスレーザ等の各種レーザ、さらには、LEDもしくはキセノンランプ等の光を出射する光源である。また、この光源29は、波長を制御可能とされていてもよい。この光源29から出射される光の波長の詳細については後述する。
【0016】
このような構成からなる結晶成長装置1により、実際に結晶を基板13上に成長させる方法について説明をする。
【0017】
先ず、ステージ14上に基板13を取り付ける。この基板13は、六方晶のサファイヤ基板等を想定しているが、これに限定されるものではなく、例えばシリコンを用いるようにしてもよいし、その他ガラス、ガリウム砒素、ガリウムナイトライド、ポリイミド基板などを用いるようにしてもよい。
【0018】
次に、ポンプ16を介してチャンバ11内の気体を吸引するとともに、バタフライバルブ18等を用いてチャンバ11内を所定の圧力に制御する。ちなみに、この圧力は、1.0×10-10〜1.0×103Torrとされている。
【0019】
次に、供給管23からチャンバ11内へ第1の原料ガスを供給し、さらに供給管24からチャンバ11内へ第2の原料ガスを供給する。これら各原料ガスを供給する際のチャンバ11内の温度は、0℃以上とされている。この第1の原料ガスは、例えばIII族原料ガスを用いてもよいが、これに限定されるものではなく、いかなるガスを用いてもよい。また第2の原料ガスは、例えばV族原料を用いてもよいが、これに限定されるものではなく、いかなるガスを用いてもよい。
【0020】
なお、本発明では、この第1の原料ガス、第2の原料ガスにより2元系以上からなる化合物半導体を基板13上に成膜させることが可能となる。しかし、これに限定されるものではなく、シリコン等の単一組成からなる半導体を結晶成長させるものであってもよい。かかる場合には、第1の原料ガス又は第2の原料ガスの何れかを供給することになる。
【0021】
なお、これら原料ガスを供給する際には、例えば水素等のキャリアガスを用いるようにしてもよい。
【0022】
また、チャンバ11内への原料ガスの供給とともに、光源29からの光を窓28を介してこの基板13上に照射する。この基板13上に照射される光の波長は、基板13上に成長させるべき結晶の欠陥準位に対応する波長を含むものとしている。即ち、本発明では、結晶成長時において、光源29から上述した波長からなる光を照射することを必須の構成要件としている。
【0023】
また、図2は、他の結晶成長装置2の例である。この結晶成長装置2は、いわゆるMBE(Molecular Beam Epitaxy)において使用されるものであって、チャンバ61内に、基板13と、基板13を載置するためのステージ64とを配設して構成され、基板63を加熱するためのヒーター65が設けられている。また、ステージ64に保持される基板13と対向するようにして第1の原料ガスを供給する供給源71、供給源72が設けられている。また、このチャンバ61の外壁には窓68が形成され、チャンバ61の外側に配置された光源29から発光された光が窓68を介してチャンバ11内へと入射されることになる。なお、この結晶成長装置2において、上述した結晶成長装置1と同一の構成要素、部材に関しては同一の符号を付すことにより、以下での説明を省略する。
【0024】
このような構成からなるMBEを利用した結晶成長装置2により、実際に結晶を基板13上に成長させる方法について説明をする。
【0025】
先ず、ステージ64上に基板13を取り付ける。次に、図示しないポンプを介してチャンバ内の気体を吸引するとともに、内部を所定の圧力に制御する。次に、供給源71、72により第1の原料、第2の原料を照射する。ちなみに、この供給源71、72は、第1の原料、第2の原料を供給するルツボ等などからなり、ルツボの周囲に図示しないヒーターが設けられることにより材料源を蒸発できるようにすると共に、その正面に図示しないシャッターが設けられ、その開閉により第1の原料、第2の原料が基板13側に供給されるようになっている。その結果、基板13上において、MBEにより結晶を成長させることが可能となる。
【0026】
本発明では、この第1の原料、第2の原料により2元系以上からなる化合物半導体を基板13上に成膜させることが可能となる。しかし、これに限定されるものではなく、シリコン等の単一組成からなる半導体を結晶成長させるものであってもよい。かかる場合には、第1の原料、第2の原料の何れかを供給することになる。
【0027】
また、この結晶成長装置2においても、チャンバ61内への原料ガスの供給とともに、光源29からの光を窓68を介してこの基板13上に照射する。この基板13上に照射される光の波長は、基板13上に成長させるべき結晶の欠陥準位に対応する波長を含むものとしている。即ち、本発明では、結晶成長時において、光源29から上述した波長からなる光を照射することを必須の構成要件としている。
【0028】
上述の如きプロセスで構成される本発明を適用した結晶成長方法により、基板13上に対して結晶90を成長させることが可能となる。しかし結晶成長の過程において、例えば図3に示すように、格子欠陥31が結晶90において生成される場合もある。ちなみに、ここでいう格子欠陥31とは、いわゆる点欠陥、線欠陥、面欠陥を含む。点欠陥は、正規の格子点にあるべき原子が抜けている原子空孔32と、その抜けた原子が格子間に位置することによる格子間原子とからなる。またこの点欠陥としては、結晶中にある異種の原子(不純物33)によるものも含まれる。この異種の不純物33の原子は、いわゆる置換型原子や、侵入型原子等として構成されることになる。また、点欠陥としては、このような不純物の混入と、原子空孔とを有する複合欠陥として構成される場合もある。この図2では、原子空孔32と、不純物33の混入の2種類の格子欠陥が発生した場合を示している。このような格子欠陥は、得られた結晶の品質を低下させることから、極力抑制することが望ましい。
【0029】
本発明を適用した結晶成長方法では、基板13上への結晶成長時において、光源29から光を照射する。その結果、光は成長中の結晶表面に照射されることになり、図4に示すように特に格子欠陥31が生じている局所領域において近接場光が発生することになる。
【0030】
そして、格子欠陥31に近接場光を局在させることにより、いわゆるドレスド状態を作り出すことが可能となる。その結果、この局在させた近接場光により、この近接場光と、格子欠陥31との間で近接場光相互作用の生じる時間が大きく延長されることになる。その結果、近接場光によるドレスド状態に基づいて、格子欠陥31周辺の化学ポテンシャルを活性化させることにより、格子欠陥31を構成する不純物33の脱離を促進させることが可能となる。
【0031】
特に、本発明では、光源29から照射する波長としては、基板13上に成長させるべき結晶の欠陥準位に対応する波長を含むものとしている。例えば図5は、基板13上に成長させたある結晶の照射する波長に対する光吸収量の関係を示している。この図5において伝搬光は点線で、また近接場光は実線で示している。この図中のスペクトルにおいて、長波長側に現れている小さなピークが、格子欠陥31に基づくものである。この即ち、この格子欠陥31のピークは、当該格子欠陥31の欠陥準位に対応する波長λaにおいて現れている。この欠陥準位に対応する波長λaを含むように、光源29から照射する波長λbを設定する。その結果、発生する近接場光の波長もこのλaを包含するλbとなる。なお、このλbの帯域幅は、λaを含むものであればその広狭はいかなるものであってもよい。
【0032】
なお、この格子欠陥31の欠陥準位に対応する波長λaは、周知のいかなる理論計算から求めるようにしてもよいし、また実験的に求めるようにしてもよい。
【0033】
このような波長λbを有する近接場光が共鳴する格子欠陥31が原子空孔32により構成されている場合には、その原子空孔32周辺の原子が、この共鳴する近接場光を吸収し、励起子が励起されることにより励起状態(ドレスド状態)となる。このドレスド状態によりこの原子空孔32周辺の原子において擬似高温状態が作り出され、振動数の高いフォノンが多数存在する状態が作り出されることになる。その結果、格子欠陥31を構成する原子空孔32が消滅するまで、原子の脱離が促進されることになる。
【0034】
また、かかる近接場光により原子が脱離した領域に対しては再び結晶が堆積されていくことになる。その結果、原子空孔32の存在しない高品質の結晶を得ることが可能となる。また、この原子が脱離した領域に結晶が成長する過程において再び格子欠陥31が生じた場合には、上述したメカニズムに基づいて再び原子空孔32周辺の原子を脱離させることができ、高品質の結晶を得ることができるまでかかるプロセスが繰り返し実行されていくことになる。
【0035】
また、波長λbを有する近接場光が共鳴する格子欠陥31が不純物33により構成されている場合には、その不純物33や不純物33周辺の原子が、この共鳴する近接場光を吸収し、励起子が励起されることにより励起状態(ドレスド状態)となる。このドレスド状態によりこの不純物33や不純物33周辺の原子において擬似高温状態が作り出され、振動数の高いフォノンが多数存在する状態が作り出されることになる。その結果、格子欠陥31を構成する不純物33や不純物33周辺の原子が消滅するまで、原子の脱離が促進されることになる。
【0036】
また、かかる近接場光により原子が脱離した領域に対しては再び結晶が堆積されていくことになる。その結果、不純物33の存在しない高品質の結晶を得ることが可能となる。また、この原子が脱離した領域に結晶が成長する過程において再び格子欠陥31が生じた場合には、上述したメカニズムに基づいて再び原子空孔32周辺の原子、或いは不純物33並びに不純物33周囲の原子を脱離させることができ、高品質の結晶を得ることができるまでかかるプロセスが繰り返し実行されていくことになる。
【0037】
このように、本発明を適用した結晶成長方法では、結晶の欠陥準位に対応する波長を含む光を結晶成長時に照射する。そして、成長させる結晶中の欠陥に対して照射した光に基づいて近接場光を発生させ、発生させた近接場光による近接場光相互作用に基づいて欠陥を構成する不純物又は欠陥周辺の原子を脱離させる。
【0038】
これにより、本発明では、MOCVDやMBE法等を始めとした一般的な結晶成長方法を実現する上で、特に結晶中に欠陥の発生や不純物の混入を防止することにより結晶品質の改善を図ることが可能となる。また、本発明によれば、多くの実験的試行錯誤を必要とすることなく、きわめて高い再現性を以って格子欠陥等を減少させることによる結晶品質の向上を図ることが可能となる。特に格子欠陥の除去が困難とされていた2元系〜4元系の複数の元素からなる化合物半導体を基板上に結晶成長させる際においても、本発明によればこれを減少させることができ、結晶品質の向上が期待できる。
【0039】
なお、上述した例では、あくまで発生させた近接場光に基づいて上述した原子の脱離を促進させる場合について説明をしてきたが、これに限定されるものではなく、結晶表面に照射される伝搬光に基づいて上述した作用を発揮させてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
1、2 結晶成長装置
11 チャンバ
13、63 基板
14 ステージ
16 ポンプ
17 圧力センサ
18 バタフライバルブ
23、24 供給管
28、68 窓
29 光源
31 格子欠陥
32 原子空孔
33 不純物
61 チャンバ
64 ステージ
65 ヒーター
71 供給源
72 供給源
90 結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に結晶を成長させる結晶成長方法において、
上記結晶の欠陥準位に対応する波長を含む光を結晶成長時に照射すること
を特徴とする結晶成長方法。
【請求項2】
上記欠陥を構成する不純物又は上記欠陥周辺の原子を、上記照射した光に基づいて脱離させること
を特徴とする請求項1記載の結晶成長方法。
【請求項3】
上記成長させる結晶中の欠陥に対して上記照射した光に基づいて近接場光を発生させ、発生させた近接場光による近接場光相互作用に基づいて上記欠陥を構成する不純物又は上記欠陥周辺の原子を脱離させること
を特徴とする請求項1又は2記載の結晶成長方法。
【請求項4】
基板上に結晶を成長させる結晶成長装置において、
上記結晶の欠陥準位に対応する波長を含む光を結晶成長時に照射する光照射手段を備えること
を特徴とする結晶成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−57512(P2011−57512A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209761(P2009−209761)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究課題「ナノフォトニックデバイスとシステムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】