説明

繊維強化樹脂成形品の製造方法

【課題】樹脂の事前脱泡が不要で、LRTM法の場合に比較して高Vfで品質の良い繊維強化樹脂成形品を製造することができる繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】キャビティ14の外側にキャビティ14を囲むように減圧通路15が形成されるとともに、キャビティ14及び減圧通路15の一部に跨るように脱気用部材18を配置した状態で型閉じされる成形型11を使用する。キャビティ14内に強化繊維基材30を配置した状態で減圧通路15を介してキャビティ14内を減圧するとともに、キャビティ14に連通する注入孔19から樹脂をキャビティ14内に注入して強化繊維基材30に樹脂を含浸させる。キャビティ14内に樹脂を第1の圧力で注入し、キャビティ14内に注入された樹脂がゲル化を開始した後、樹脂の注入圧力をLRTM法における注入圧力より高い第2の圧力に加圧して注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成形品の製造方法に係り、詳しくはソフトピンチオフ構造をもつ成形型を使用する繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化樹脂成形品で使用される強化繊維としてガラス繊維や炭素繊維等が挙げられるが、炭素繊維は比重が小さくて高強度、高弾性率を有し、炭素繊維を強化繊維とした繊維強化樹脂成形品は比強度・比弾性率が高く、航空宇宙用途をはじめ最近では自動車や土木・建材等の一般産業用途にも使われ始めている。
【0003】
また、その成形法には種々の方法があり、成形品の要求特性や製造コスト等から最適な成形法が選択されており、ハンドレイアップ成形、半硬化状態の熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグ(中間基材)を積層してオートクレーブで成形したものが、一般産業用途で広く採用されている。そして、生産性を高めるため、これまでのプリプレグを使用したオートクレーブ成形法よりも、成形サイクルが短縮できるRTM法、成形型内を真空吸引して樹脂の含浸を助けるVa−RTM法(真空RTM法)等、樹脂が未含浸の強化繊維基材を使用してプリフォームを成形した後に樹脂を一括含浸させる成形法が盛んになってきている。
【0004】
真空RTM法では、キャビティ内外の圧力差によって樹脂を注入して含浸するため、注入初期の段階では強化繊維基材にまだ樹脂が十分に含浸されていないので流動抵抗が低く、速い流速で勢いよく流れる。しかし、強化繊維基材は場所によって流動抵抗に差があり、樹脂が強化繊維基材全体に十分に含浸できないうちに樹脂がゲル化する場合がある。その結果、ボイド(樹脂が含浸されていない空隙部)が発生する。この問題を改善するため、キャビティ内圧力と外部圧力との差圧を利用して樹脂をキャビティ内に注入するとともに、強化繊維基材に含浸させる真空RTM法において、樹脂の注入速度を前記差圧による自然流速よりも低い流速に減速して、樹脂を注入する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、ソフトピンチオフ構造を持つ成形型を使用するLRTM(Light Resin Transfer Molding )法も実施されている。ソフトピンチオフ構造とは、キャビティの外側にキャビティを囲むように減圧通路が形成されるとともに、キャビティ及び減圧通路の一部に跨るようにソフトピンチオフ用クロスを配置した状態で型閉じされ、前記減圧通路を介してキャビティ内を減圧する構造を言う。LRTM法では、ソフトピンチオフ構造を有する成形型のキャビティ内に強化繊維基材を配置した状態で、ソフトピンチオフ用クロスを介してキャビティ内を減圧し、減圧されたキャビティ内圧力と外部圧力との差圧を利用して樹脂をキャビティ内に注入して強化繊維基材に含浸させる。
【特許文献1】特開2003−25347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ソフトピンチオフ構造を持たない成形型を使用してRTM法で強化繊維基材に樹脂を含浸させる場合は、樹脂の事前脱泡が必要になる。また、樹脂の事前脱泡をしても強化繊維基材の隙間に存在した小さな気泡の部分がボイドとなったり、気泡が成形型内に残って成形品にピット(凹部)が生じたりし易い。
【0007】
特許文献1に記載の方法では、樹脂の注入速度を遅くして樹脂が強化繊維基材に均一に含浸し易くしている。しかし、樹脂注入速度が遅いため生産性が低くなる。
一方、ソフトピンチオフ構造を持つ成形型を使用するLRTM法では、キャビティ内に生じた気泡がソフトピンチオフ用クロスの部分からキャビティ外へ排出されるため、樹脂の事前脱泡が不要になる。
【0008】
しかし、真空RTM法及びLRTM法では、樹脂を積極的に加圧せずに注入するため、強化繊維基材が、例えば、60%以上の高Vf(繊維体積含有率)の場合、樹脂が強化繊維基材全体に含浸し難くなり未含浸部(ボイド)の無い成形体が得難い。また、キャビティ内に注入された樹脂のゲル化が開始された後は、樹脂の粘度が急激に高くなり樹脂の注入が殆どなされなくなるため、高Vfでない強化繊維基材を使用する場合でも、ボイドが発生し易い。
【0009】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、樹脂の事前脱泡が不要で、LRTM法の場合に比較して高Vfで品質の良い繊維強化樹脂成形品を製造することができる繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため請求項1に記載の発明は、キャビティが形成された第1の型とそのキャビティを覆う第2の型とを備え、前記キャビティの外側に前記キャビティを囲むように減圧通路が形成されるとともに、前記キャビティ及び前記減圧通路の一部に跨るように脱気用部材を配置した状態で型閉じされる成形型を使用する。そして、成形型内に強化繊維基材を配置した状態で前記減圧通路を介して前記キャビティ内を減圧し、前記キャビティに連通する注入孔から樹脂を前記キャビティ内に注入して前記強化繊維基材に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程を備えている。そして、前記キャビティ内に前記樹脂を第1の圧力で注入し、前記キャビティ内に注入された樹脂がゲル化を開始した後、樹脂の注入圧力をLRTM(Light Resin Transfer Molding)法における注入圧力より高い第2の圧力に加圧して注入する。
【0011】
ここで、「脱気用部材」とは、型閉じ状態において第1の型と第2の型とに挟持されても、キャビティと減圧通路の間で気体や粘度の低い液体の通過を許容する部材を意味し、樹脂に不溶な材料で形成された織布、編み地、不織布等で構成される。
【0012】
この発明では、キャビティ内に強化繊維基材が配置されて第1及び第2の型が閉じられた状態で減圧通路を介してキャビティ内が減圧される。そして、注入孔から樹脂がキャビティ内に注入される。キャビティ内に注入された樹脂は強化繊維基材に含浸され、強化繊維基材に残っている気泡を押しながら移動する。気泡はキャビティと減圧通路とに跨って存在する脱気用部材を経てキャビティ内から減圧通路に移動する。粘度が低い状態では樹脂も脱気用部材を通過可能であるが、粘度が高くなると通過が困難になり、気泡が主に通過可能となる。従って、事前に脱泡しないで樹脂を供給しても、樹脂から発生した気泡がキャビティ外へ円滑に排出される。キャビティ内に注入された樹脂のゲル化が開始されるまでは、樹脂はLRTM法と同等の第1の圧力、例えば、0.1MPa〜1MPaで注入され、キャビティ内に注入された樹脂のゲル化が開始された後は、LRTM法における注入圧力より高い第2の圧力に加圧されて注入される。従って、樹脂の粘度が高くなってLRTM法や真空RTM法では樹脂の注入が殆どできない状態においても、樹脂の注入が行われる。その結果、強化繊維基材の未含浸部分に樹脂が含浸され易くなり、LRTM法の場合に比較して高Vfで品質の良い繊維強化樹脂成形品を製造することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記樹脂の注入開始から予め設定された所定時間経過した時点で前記注入圧力が前記第2の注入圧力に高められる。従って、この発明では、注入圧力を第1の圧力から第2の圧力に高める適切な時期を、キャビティ内の樹脂の状態を実際に検出せずに注入開始からの経過時間を測定するだけで簡単に設定することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記キャビティ内に注入された樹脂のゲル化に必要なゲル化時間経過後も、前記第2の注入圧力を予め設定された時間保持する。ここで、「予め設定された時間」とは、ゲル化が完了した後、樹脂の硬化収縮を補うために樹脂を有効に注入可能な時間を意味する。
【0015】
ゲル化が完了しても樹脂の硬化は完了しておらず、硬化の進行に伴って硬化収縮が生じる。硬化収縮の量が僅かであれば問題はないが、硬化収縮の量が多い場合、成形品の表面にピット(凹部)や引けが発生する。しかし、この発明では、ゲル化完了後も第2の注入圧力に保持されているため、硬化収縮の量が多い場合にその収縮を補うように樹脂がキャビティ内に注入されて、成形品の表面にピット(凹部)や引けが発生するのが抑制される。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記第2の圧力とは、樹脂がゲル化を開始した後から硬化完了するまでの樹脂中の気泡が前記脱気用部材を通過可能な圧力である。この発明では、ゲル化開始後から硬化完了までの間に発生した気泡をキャビティ外に排出することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記脱気用部材は複数設けられ、前記各脱気用部材は前記注入孔の注入口からの距離が等しく、かつ対称に配置されている。この発明では、脱気用部材が1つ設けられる場合や、複数の脱気用部材を注入口からの距離が異なる状態で非対称に配置した場合に比較して、樹脂が強化繊維基材30に均一に含浸し易くなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、樹脂の事前脱泡が不要で、LRTM法の場合に比較して高Vfで品質の良い繊維強化樹脂成形品を製造することができる繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
繊維強化樹脂成形品の製造にはLRTM(Light Resin Transfer Molding)法と同様にソフトピンチオフ構造を持つ成形型を使用する。図1及び図2に示すように、成形型11は第1の型としての下型12及び第2の型としての上型13を備えている。下型12及び上型13の一方が固定型に、他方が可動型に構成されている。なお、図1(a)は、上型13を省略した成形型11の概略平面図である。
【0020】
下型12及び上型13は平面略矩形状に形成され、下型12は、形成すべき繊維強化樹脂成形品の形状に対応した平面略矩形状のキャビティ14を備えるとともに、キャビティ14を囲むように環状の減圧通路15が形成されている。下型12の上面には減圧通路15の内側及び外側に環状溝16a,16bが形成され、環状溝16a,16bにはシール材17a,17bがそれぞれ収容されている。シール材17a,17bとしてO−リングが使用されている。また、下型12の上面にはキャビティ14及び減圧通路15の一部に跨るように複数の脱気用部材(ソフトピンチオフ用クロス)18が配置されている。この実施形態では、脱気用部材18はキャビティ14の各コーナー部近くの4箇所に対称に配置されている。
【0021】
脱気用部材18は、型閉じ状態において下型12と上型13とに挟持されても、キャビティ14と減圧通路15の間で気体や粘度の低い液体の通過を許容する機能を有し、例えば、未硬化状態の樹脂に不溶な材料で形成された織布、編み地、不織布等で構成される。脱気用部材18の材料としては特に制限はないが、ガラス繊維や炭素繊維が好ましい。減圧通路15及び脱気用部材18によりソフトピンチオフ構造が構成されている。
【0022】
なお、下型12には、該下型12の温度を調節する図示しない温度調節部が設けられている。温度調節部は、例えば、熱媒体の流れる通路で構成され、通路に供給される熱媒体の温度を変更することで、下型12の温度調節が可能になっている。
【0023】
図2に示すように、上型13には、注入孔19及び排出孔20が形成され、注入孔19はその一端の注入口19aがキャビティ14の中央と対応する位置に形成されている。即ち、図1(a)に示すように、この実施形態では注入口19aから4個の脱気用部材18までの距離が等しくなるように構成されている。排出孔20はその一端の減圧口20aが減圧通路15と対応する位置に形成されている。
【0024】
注入孔19は、注入管21を介して樹脂注入装置22に接続されている。樹脂注入装置22は、公知の装置が使用され、タンク内に貯蔵された樹脂をポンプで送り出すように構成されている。ポンプとしてシリンジポンプが使用され、樹脂を加圧して一定量で送出可能に構成されている。排出孔20は吸引管23を介して減圧ポンプ24に接続されている。注入管21には開閉弁25が設けられるとともに、開閉弁25よりキャビティ14側に圧力計26が設けられている。吸引管23には開閉弁27が設けられるとともに、開閉弁27より減圧ポンプ24側にトラップ28が設けられている。
【0025】
前記樹脂注入装置22、減圧ポンプ24及び開閉弁25,27は、図示しない制御装置からの指令によって運転あるいは切換え制御されるようになっている。また、制御装置には下型12の温度を検出する温度センサ(図示せず)及び圧力計26の検出信号が入力されるようになっている。制御装置は、温度センサの検出信号に基づいて下型12の温度を調整するようになっている。
【0026】
なお、図1及び図2は、成形型11の構成を模式的に示したものであり、図示の都合上、一部の寸法を誇張して分かり易くするために、それぞれの部分の幅、長さ、厚さ等の寸法の比は実際の比と異なっている。
【0027】
次に、繊維強化樹脂成形品の製造方法について説明する。
強化繊維基材としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等からなる織物、編物、不織布の積層体又は三次元織物、三次元編物、組み紐が使用される。樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が使用される。
【0028】
繊維強化樹脂成形品を製造する場合、先ず、下型12のキャビティ14内に強化繊維基材30を配置し、成形型11の型締めを行い、成形型11の温度を所定温度に維持する。そして、開閉弁25を閉鎖し、開閉弁27を開放した状態で減圧ポンプ24を駆動して、キャビティ14内を真空に近い状態まで減圧する。続いて、キャビティ14内が減圧された状態で、開閉弁25を開放するとともに樹脂注入装置22から硬化剤が添加された樹脂を注入口19aからキャビティ14内に注入する樹脂含浸工程が行われる。
【0029】
樹脂注入装置22は注入圧力が0.1MPa〜1MPa、好ましくは0.1MPa〜0.5MPaの第1の圧力(低圧)で、かつ一定流量となるように樹脂を送り出す。ここで注入圧力とは、樹脂注入装置22から送り出される樹脂の圧力を意味し、圧力計26の検出圧力に相当する。樹脂の流量は、キャビティ14内に注入された樹脂のゲル化が開始される時点でキャビティ14内に樹脂が充満された状態になっている値に設定されている。この流量は予め試験によって決定される。キャビティ14内に注入された樹脂は強化繊維基材30に含浸されるとともに、強化繊維基材30に残っている気泡を押しながら移動する。そして、樹脂がキャビティ14を下から次第に満たしていき、気泡はキャビティ14の上側に移動し、キャビティ14と減圧通路15とに跨って存在する脱気用部材18を経てキャビティ14内から減圧通路15に移動する。
【0030】
キャビティ14への樹脂の注入が継続されて、注入開始から所定時間経過した時点でキャビティ14内の樹脂のゲル化が開始される。前記ゲル化が開始されると、キャビティ14内の樹脂の粘度が急に高くなり、LRTM法と同等の第1の圧力で、樹脂注入装置22から樹脂の供給を行おうとしても樹脂の注入が殆どできない状態になる。しかし、この実施形態では、ゲル化が開始された後は、樹脂が、LRTM法における注入圧力より高い第2の圧力(例えば、6MPa)に樹脂注入装置22で加圧されて注入される。第2の圧力は、樹脂がゲル化を開始した後から硬化完了するまでの樹脂中の気泡が前記脱気用部材を通過可能な圧力である。従って、樹脂の粘度が高くなってLRTM法や真空RTM法では樹脂の注入が殆どできない状態においても、樹脂の注入が行われる。粘度が低い状態では樹脂も脱気用部材18を通過可能であるが、粘度が高くなると通過が困難になり、気泡が主に通過可能となる。従って、事前に脱泡しないで樹脂を供給しても、樹脂から発生した気泡がキャビティ14外へ円滑に排出される。
【0031】
制御装置はゲル化が開始されたことを直接検出して樹脂注入装置22による加圧を高めるのではなく、樹脂の注入開始から予め設定された所定時間経過した時点で注入圧力を第2の注入圧力に高めるように樹脂注入装置22に指令信号を出力する。前記所定時間は、予め試験により求められ、制御装置の記憶装置に記憶されている。
【0032】
樹脂注入装置22は、キャビティ14内に注入された樹脂のゲル化に必要なゲル化時間経過後も、第2の注入圧力を予め設定された時間保持する。その後、開閉弁25,27を閉鎖し、樹脂注入装置22及び減圧ポンプ24の運転を停止する。ここで、「予め設定された時間」とは、ゲル化が完了した後、樹脂の硬化収縮を補うために樹脂を有効に注入可能な時間を意味し、予め試験により設定される。ゲル化が完了しても樹脂の硬化は完了しておらず、硬化の進行に伴って硬化収縮が生じる。硬化収縮の量が僅かであれば問題はないが、硬化収縮の量が多い場合、繊維強化樹脂成形品の表面にピット(凹部)や引けが発生する。しかし、ゲル化完了後も第2の注入圧力に保持することにより、硬化収縮の量が多い場合にその収縮を補うように樹脂が注入されて、成形品の表面にピット(凹部)や引けが発生するのが抑制される。
【0033】
樹脂が完全に硬化した後、成形型11を開き、成形型11内から繊維強化樹脂成形品を脱型する。
樹脂の注入開始から樹脂の注入停止までの圧力変化は、例えば、図3に示すようになる。樹脂の注入は、流量が一定となるように行われるため、キャビティ14内に樹脂が注入されるに伴って圧力は徐々に増加する。そして、ゲル化が開始された時点から圧力が急激に上昇した後、一定の圧力となる。
【実施例】
【0034】
強化繊維基材30として、300mm×500mm×5mmの大きさの三次元織物、樹脂として、主剤がビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤が脂肪族ポリアミン、反応性希釈剤が1,4ブタンジオールジグリシジルエーテルからなる溶液を使用した。そして、第1実施例として、Vfが45%の強化繊維基材30について、注入速度4ml/秒、保圧時間(ゲル化開始後、第2の圧力に保持した時間)5分の条件で繊維強化樹脂成形品を製造し、第2実施例として、Vfが45%の強化繊維基材30について、注入速度8ml/秒、保圧時間5分の条件で繊維強化樹脂成形品を製造した。また、比較例としてゲル化開始後、圧力を第2の圧力に加圧しない点を除き第1実施例と同じ条件で繊維強化樹脂成形品を製造した。そして、第1及び第2実施例の繊維強化樹脂成形品と比較例の繊維強化樹脂成形品について外観を目視で評価した。
【0035】
評価基準は5点満点で次の基準とした。
5点:欠陥(ドライスポット、気泡等)なし
4点:欠陥領域1.0%未満
3点:欠陥領域1.0%以上5%未満
2点:欠陥領域5.0%以上10.0%未満
1点:欠陥領域10.0%未満
その結果、第1実施例では評価点4点となり、第2実施例では評価点3点となり、比較例では評価点2点となった。第1実施例及び比較例により、ゲル化開始後、注入圧力を第2の圧力に加圧することにより品質が向上することが確認された。また、第1実施例及び第2実施例により、樹脂の注入速度が遅い方が、品質が向上することが確認された。
【0036】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ソフトピンチオフ構造を持つ成形型11のキャビティ14内に強化繊維基材30を配置した状態で、樹脂をLRTM法と同等の圧力で注入するとともに減圧通路15を介してキャビティ14内を減圧する。従って、事前に脱泡しないで樹脂を供給しても、樹脂から発生した気泡がキャビティ14外へ円滑に排出される。
【0037】
(2)樹脂のゲル化が開始されるまではキャビティ14内に樹脂を第1の圧力で注入し、キャビティ14内に注入された樹脂がゲル化を開始した後、樹脂の注入圧力をLRTM法における注入圧力より高い第2の圧力に加圧して注入する。従って、LRTM法では樹脂の注入が殆どできない状態においても、樹脂の注入が行われ、強化繊維基材30の未含浸部分に樹脂が含浸され易くなり、LRTM法の場合に比較して高Vfで品質の良い繊維強化樹脂成形品を製造することができる。
【0038】
(3)樹脂の注入開始から予め設定された所定時間経過した時点で注入圧力が第2の注入圧力に高められる。従って、注入圧力を第1の圧力から第2の圧力に高める適切な時期を、キャビティ14内の樹脂の状態を実際に検出せずに注入開始からの経過時間を測定するだけで簡単に設定することができる。
【0039】
(4)キャビティ14内に注入された樹脂のゲル化に必要なゲル化時間経過後も、第2の注入圧力を予め設定された時間保持する。従って、ゲル化完了後も第2の注入圧力に保持されているため、ゲル化完了後、樹脂の硬化完了までに硬化収縮の量が多い場合にその収縮を補うように樹脂が注入されて、繊維強化樹脂成形品の表面にピット(凹部)や引けが発生するのが抑制される。
【0040】
(5)ゲル化開始までに第1の圧力での樹脂注入が流量一定で行われる。従って、圧力一定で樹脂注入を行う場合に比較して、樹脂が強化繊維基材30のうち抵抗の低い部分を選択的に流れることが抑制されて脱気用部材18からキャビティ14外に流出する量が少なくなるとともに、強化繊維基材30中に樹脂が均一に含浸し易くなる。
【0041】
(6)脱気用部材18は複数設けられ、各脱気用部材18は注入孔19の注入口19aからの距離が等しく、かつ対称に配置されている。従って、脱気用部材18が1つ設けられる場合や、複数の脱気用部材18を注入口19aからの距離が異なる状態で非対称に配置した場合に比較して、樹脂が強化繊維基材30に均一に含浸し易くなる。
【0042】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ ゲル化開始の時点を樹脂の注入開始からの経過時間で定める代わりに、キャビティ14内に注入された樹脂の状態の変化を検出してゲル化開始時点を推定してもよい。例えば、キャビティ14内に注入される樹脂の圧力を検出し、その圧力変化に基づいてキャビティ14内に注入された樹脂のゲル化開始時点を推定する。ゲル化が開始すると、キャビティ14内に樹脂を注入するのに必要な圧力が急激に上昇するため、前記樹脂の圧力変化に基づいてゲル化開始時点を推定できる。この場合、時間のみでゲル化開始時点を類推する場合に比較して、精度が高くなる。
【0043】
○ キャビティ14内の樹脂の誘電率を検出するセンサを成形型11に設けるとともに、センサの検出信号に基づいてゲル化の開始時点やゲル化の進行状況を把握してもよい。これの場合、時間のみでゲル化開始時点を類推する場合に比較して、ゲル化の開始時点の精度が高くなるとともに、ゲル化の完了時点や硬化の進行状態も類推が簡単になる。
【0044】
○ ゲル化が開始されるまでの第1の段階における樹脂の注入は一定流量ではなく、一定圧力で行ってもよい。即ち、樹脂をポンプで積極的に送り出して注入する代わりに、樹脂槽内の圧力(一般には大気圧)と、キャビティ14内の圧力との差圧で樹脂をキャビティ14内に注入してもよい。しかし、流量一定で注入する方が好ましい。なぜならば、前記差圧だけで注入する場合は、樹脂が抵抗の低い流路を選択的に流れてキャビティ14外に出てしまう量が多くなるのと、強化繊維基材中に樹脂が均一に含浸し難くなるからである。
【0045】
○ 第2の圧力による樹脂の注入をゲル化終了と同時に停止してもよい。しかし、ゲル化が終了しても、樹脂が完全硬化するまでに、樹脂の収縮が起こるため、ゲル化が終了しても、ポンプで樹脂を加圧状態に保持しておくのが好ましい。この場合、樹脂の収縮に伴って樹脂がキャビティ14内に供給されるため、引けやピット(凹部)が発生するのが抑制される。
【0046】
○ 樹脂を供給するポンプはシリンジポンプに限らず、ローラポンプやダイヤフラムポンプ等他のポンプを使用してもよい。
○ 成形型11は、キャビティ14が平面矩形状で、樹脂の注入口19aがキャビティ14の中央に1個設けられ、脱気用部材18(ソフトピンチオフ用のクロス)が4箇所に対称に設けられた構成に限らない。キャビティ14は強化繊維基材30の形状に対応した形状に形成されるため、強化繊維基材30の形状が略四角板状と異なる形状になればキャビティ14の形状もそれに対応して変更される。強化繊維基材30は平板の四角板状に限らず、例えば、曲げ部を有する板状であってもよいし、任意の立体形状であってもよい。それに対応して脱気用部材18の数や配置位置を変更したり、注入口19aの位置や数を変更したりしてもよい。
【0047】
○ 排出孔20の位置をキャビティ14の形状に対応して変更したり、排出孔20の数を複数にしたりしてもよい。
○ 脱気用部材18は、ガラス繊維や炭素繊維に限らず、使用される樹脂に溶解しない材料であれば樹脂製でもよい。
【0048】
○ 成形型11は、一定厚の強化繊維基材30を配置するキャビティ14であっても、水平に設ける構成に限らず斜状に設けてもよい。
○ 注入孔19及び排出孔20を共に上型13に設ける代わりに、いずれか一方を下型12に設けたり、共に下型12に設けたりしてもよい。
【0049】
○ キャビティ14を下型12だけで構成する代わりに、上型13もキャビティ14の一部を構成するようにしてもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
【0050】
(1)請求項1に記載の発明において、前記キャビティ内の樹脂の誘電率を測定するセンサを設け、キャビティ内の樹脂の誘電率の変化でゲル化の進行状態を把握して、ゲル化完了後に樹脂の注入圧力を第2の注入圧力に変更する繊維強化樹脂の製造方法。
【0051】
(2) 請求項1〜請求項3及び前記技術的思想(1)のいずれか一項に記載の発明において、前記第1の圧力での樹脂の注入は流量一定で行われる繊維強化樹脂の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)は上型を省略した状態の成形型の概略平面図、(b)は(a)のA−A線における拡大断面図。
【図2】製造装置の概略構成図。
【図3】樹脂注入時の圧力変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0053】
11…成形型、12…第1の型としての下型、13…第2の型としての上型、14…キャビティ、15…減圧通路、18…脱気用部材、19…注入孔、19a…注入口、30…強化繊維基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティが形成された第1の型とそのキャビティを覆う第2の型とを備え、前記キャビティの外側に前記キャビティを囲むように減圧通路が形成されるとともに、前記キャビティ及び前記減圧通路の一部に跨るように脱気用部材を配置した状態で型閉じされる成形型内に強化繊維基材を配置した状態で前記減圧通路を介して前記キャビティ内を減圧するとともに、前記キャビティに連通する注入孔から樹脂を前記キャビティ内に注入して前記強化繊維基材に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程を備えた繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
前記キャビティ内に前記樹脂を第1の圧力で注入し、前記キャビティ内に注入された樹脂がゲル化を開始した後、樹脂の注入圧力をLRTM(Light Resin Transfer Molding)法における注入圧力より高い第2の圧力に加圧して注入することを特徴とする繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂の注入開始から予め設定された所定時間経過した時点で前記注入圧力が前記第2の注入圧力に高められる請求項1に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記キャビティ内に注入された樹脂のゲル化に必要なゲル化時間経過後も、前記第2の注入圧力を予め設定された時間保持する請求項1又は請求項2に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第2の圧力とは、樹脂がゲル化を開始した後から硬化完了するまでの樹脂中の気泡が前記脱気用部材を通過可能な圧力である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記脱気用部材は複数設けられ、前記各脱気用部材は前記注入孔の注入口からの距離が等しく、かつ対称に配置されている請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−230175(P2007−230175A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57925(P2006−57925)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】