説明

耐濡れ性材料及びその物品

【課題】水など種々の液体による濡れに対して比較的高抵抗性であるセラミック材料、かかる材料から作製された物品、かかる物品及び材料を製造する方法、並びにこれらの材料から形成したコーティングを用いて物品を保護する方法が提供される。
【解決手段】1実施形態は耐濡れ性物品200である。物品200は表面連結細孔含量約5体積%以下であるコーティング202を含む。コーティング202は、一次酸化物と二次酸化物を含有する材料を含有し、(i)一次酸化物がセリウム、プラセオジム、テルビウム及びハフニウムからなる群から選択されるカチオンを含み、(ii)二次酸化物が一次酸化物より低い表面エネルギーを有し、希土類元素、イットリウム及びスカンジウムからなる群から選択されるカチオンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐濡れ性材料に関する。本発明は特に、耐濡れ性材料のコーティングを含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
固体表面の「(液体)濡れ性」もしくは「湿潤性」は、その表面とその表面上に置かれた所定の液体の液滴との間に起こる相互作用の性質を観察することで決められる。濡れ度が高いと、比較的小さい固体−液体接触角及び大きな液体−固体接触面積となり、この状態は 2つの表面間に相当量の相互作用があることが有利な用途、例えば接着剤及び被覆用途に望ましい。例として、所謂「親水性」材料は水の存在下で比較的高い濡れ性を有し、その結果として固体表面上へ水が高度にシート状に広がる。反対に、低い固体−液体相互作用を必要とする用途では、普通濡れ性をできるだけ低く保って、大きな接触角を有し、したがって固体表面との接触面積を抑制した液滴の形成を促進する。「疎水性」材料は比較的低い水濡れ性(通例、接触角90°以上)を有し、所謂「超疎水性」材料(しばしば120°を超える接触角を有すると記述する)はさらに低い水濡れ性を有し、この場合液体がほとんど球形の液滴を形成し、かかる液滴は、多くの場合、ほとんど妨害なしで簡単に表面から転がり落ちる。
【0003】
凝縮器などの熱伝達装置は、表面の水をフィルムとしてでなく液滴として保持するのが重要な用途の一例である。2つの機構のいずれかが凝縮プロセスを支配する。ほとんどの場合、凝縮する液体(「凝縮物」)は全表面を覆うフィルムを形成し、この機構はフィルム状(膜状)凝縮と呼ばれる。フィルムは蒸気と表面間の熱伝達に対してかなりの抵抗を示し、この抵抗はフィルム厚さが厚くなるにつれて増大する。別の場合には、凝縮物が表面上に液滴として生成し、その液滴が表面上で成長し、他の液滴と合体し、重力もしくは空力学的力の作用下で表面から流れ去り、新たに露出された表面を残し、そこにまた新しい液滴が生成する。この所謂「滴状」凝縮は、膜状凝縮より著しく高い熱伝達率をもたらすが、滴状凝縮は一般に不安定な状態であり、時間経過につれて膜状凝縮に取って代わられることがしばしばである。実際のシステムにおける熱伝達機構として滴状凝縮を膜状凝縮より安定化し促進する工夫では、しばしば、凝縮媒体に添加剤を導入して、凝縮物が表面を濡らす(即ち、表面上にフィルムを形成する)傾向を抑制したり、或いは、低表面エネルギーのポリマー膜を当該表面に塗布してフィルム形成を抑制したりすることが必要であった。このようなアプローチには、添加剤の使用は多くの用途で実用的でなく、またポリマー膜の使用は当該表面と蒸気の間に有意な熱抵抗を挿入するという欠点がある。ポリマー膜には、多くの攻撃的な工業環境において密着性や耐久性が低いという問題もある。
【0004】
表面をテクスチャー処理もしくは粗面化することにより表面上の水の接触角を変えることができる。表面のくねり度を増すが、水滴と表面間の接触を維持するテクスチャーは、疎水性材料の接触角を増加し、親水性材料の接触角を減少する。これに対して、水滴の下に空気領域を維持するようなテクスチャーを付与すると、表面はより疎水性になる。本来親水性の表面でも、その表面に水滴の下に十分高い割合の空気を維持するようなテクスチャーを付けたら、疎水性挙動を示しうる。しかし、高度に疎水性のもしくは超疎水性の挙動を必要とする用途では、実際のところ、親水性表面にテクスチャーを付けるより疎水性表面にテクスチャーを付ける方が一般に望ましい。本来的に疎水性の表面は、通例、本来的に親水性の表面よりテクスチャー付与後に高い有効接触角を与える可能性を持っており、そして一般に、表面テクスチャー付与が時間経過でのテクスチャーの摩滅につれて有効でなくなってきても、より高いレベルの耐濡れ性を与える。
【0005】
広範な部類の材料の固有疎水性については余りよく知られていない。一般に、水との接触角が90°を超えることが知られた材料のほとんどは、テトラフルオロエチレン、シラン、ワックス、ポリエチレン、プロピレンなどのポリマーである。残念ながら、ポリマーには温度及び耐久性に限度があり、このためその用途が限定される。低い濡れ性をもつのが有利な多くの実用表面は、使用時に、高温か、エロージョンか、苛酷な化学薬品にさらされるからである。
【0006】
セラミック材料は通例、耐久性に関する多くの観点でポリマーより優れている。セラミック材料のうち、酸化物セラミックスは特に有用である。酸化物セラミックスは、生産性に優れ、大抵は高い耐環境性をもち、良好な機械的特性を持ちうるからである。残念なことに、疎水性である酸化物セラミックスはほとんど知られていない。注目すべき例外は、シリカライト、即ちSiO2のゼオライト状多形体である[E.M. Flanigen, J.M. Bennett, R.W. Grose, J.P. Cohen, R.L. Patton, R.M. Kirchner, and J.V. Smith, “Silicalite, a new hydrophobic crystalline silica molecular sieve,” Nature, v.271, 512 (1978)]。この材料にとって、アモルフォスSiO2は非常に低い親水性濡れ角を有するので、特有の結晶構造が非常に重要である。しかし、ゼオライト結晶を形成するのに必要とされる合成条件は、これらの材料を疎水性表面として適用できる範囲を制限し、またゼオライト結晶の多孔性がゼオライト結晶を耐久性の必要な用途に望ましくないものにしている。
【特許文献1】米国特許第6835465号明細書
【特許文献2】米国特許第6387526号明細書
【非特許文献1】E.M. Flanigen, J.M. Bennett, R.W. Grose, J.P. Cohen, R.L. Patton, R.M. Kirchner, and J.V. Smith, “Silicalite, a new hydrophobic crystalline silica molecular sieve,” Nature, Vol. 271, 512 (1978)
【非特許文献2】Cao et al., Advanced Materials, Vol.15, issue 17, pp. 1438-1442 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、当業界では、通常の酸化物より低い液体濡れ性を有し、安定な滴状凝縮を促進し、高温で安定であり、コーティング加工しやすく、良好な機械的特性を有する酸化物セラミックスが必要とされている。また、かかる耐濡れ性酸化物セラミックスで被覆された物品も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は上記その他の必要を満たすものとして提供される。1実施形態は、一次酸化物と二次酸化物とを含有する材料である。一次酸化物はセリウム及びハフニウムを含む。二次酸化物は、希土類元素、イットリウム及びスカンジウムからなる群から選択される二次酸化物カチオンを含む。
【0009】
別の実施形態は、一次酸化物と二次酸化物とを含有する材料である。一次酸化物は、セリウム又はハフニウムを含む。二次酸化物は、(i)プラセオジム又はイッテルビウム及び(ii)希土類元素、イットリウム及びスカンジウムからなる群から選択される別のカチオンを含む。
【0010】
他の実施形態は、本発明の材料のいずれかを含有する物品及びコーティングを包含する。1例を挙げると、特定の実施形態は、表面連結細孔含量が約5体積%以下であるコーティングを含む物品である。コーティングは、一次酸化物と二次酸化物とを含有する材料を含み、ここで(i)一次酸化物は、セリウム、プラセオジム、テルビウム及び及びハフニウムからなる群から選択されるカチオンを含み、(ii)二次酸化物は、希土類元素、イットリウム及びスカンジウムからなる群から選択されるカチオンを含む。
【0011】
さらに他の実施形態は物品の保護方法である。本方法は、本発明の材料又はコーティングのいずれかを含有するコーティングを基体上に成膜する工程を含む。
【0012】
本発明の上記その他の特徴、観点及び効果を一層よく理解できるように、以下に添付の図面を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。図面では、すべての図について、同じ符号は同じ部品を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、驚異的な特性を発揮する1群の酸化物セラミックスを発見し、本発明の実施形態はこの発見に基づいている。第一に、これらの酸化物セラミックスは、一般に知られた工業的酸化物より著しく低い水濡れ性を示す傾向がある。一部の組成物は本来的に疎水性である。さらに、一部の組成物は、本来的に疎水性ではないものであっても、安定な滴状水凝縮を維持できる性質を示し、このため、例えば熱伝達用途に用いる魅力的な候補となる。理論に縛られるものではないが、この挙動は酸化物の結晶構造内で生じる酸素−カチオン結合の性質に関係していると推測される。
【0014】
本発明の実施形態はいくつかの材料組成物を包含する。他の実施形態は、これらの組成物を含有するコーティング及び物品を包含する。これらの組成物は、例えば粉末、コーティング、インゴットなど、どのような形態で存在してもよい。本発明の材料は一般に多数の酸化物の混合物又は化合物である。本明細書において、材料の組成をその成分酸化物、例えば酸化セリウム(CeO2)や酸化ランタン(La23)によって記述することができる。たとえ、これらの成分酸化物が技術的には相変態や化学反応などの相互作用のために材料中に存在しないとしても、そのように記述できる。この表記法は、当業界で普通に用いられている表記法と合致しており、例えば、セレン酸ランタンのような化合物をLa23・2CeO2もしくはLaO1.5・CeO2もしくはLa2Ce27と互換表示することができる。
【0015】
本発明の実施形態で用いられる材料は、ホタル石型の立方結晶構造を有する。酸化セリウムはこの結晶構造を有するセラミック酸化物の1例である。後述するように、本発明者らは、数例において、この結晶構造を有する材料について顕著な濡れ性を確認したが、現在のところ、この結晶構造の存在がこのような特性を発揮する必要条件であるとは考えていない。
【0016】
本発明の材料の酸化物の一つを本明細書では「一次酸化物」と記述する。一次酸化物は、四価挙動の傾向を少なくとも若干有するカチオンを有する。一次酸化物カチオンの四価の性質は、水の存在下で材料を安定化する上で役割を果たすと考えられる。本発明の材料の成分酸化物のもう一つを本明細書では「二次酸化物」と記述する。ある実施形態では、二次酸化物は、一次酸化物より低い真性表面エネルギーをもつように選択される。低い「真性」表面エネルギーは一般に、純粋な二次酸化物の表面上での基準液体(例えば水)の接触角が、純粋な一次酸化物の表面上での同液体の接触角に対して高いこととして現れる。酸化物が驚くほど低い表面エネルギー(高い基準液体接触角)を示したカチオンの例には、ランタン、プラセオジム、イッテルビウム及びネオジムがある。しかし、二次酸化物の多くは少なくともある程度吸湿性であり、そのため、単独で用いる場合、少なくとも偶発的な湿気との接触の起こりうる多くの実用用途に不適当である。前述したように、本発明の実施形態にしたがって一次酸化物を添加することにより、この制約を緩和できることを確かめた。一次酸化物の添加は、水の存在下で材料を安定化するようであり、かくして材料を実際の工業的用途に用いる見込みが生まれる。
【0017】
本明細書において、材料や物品が1つ又は2つ以上の成分を「含む」もしくは「含有する」と記述する場合、この記載の範囲は、表示成分のみからなる材料、表示成分から形成されるが、材料の濡れ性に有意な影響を与えない他の成分を含有する材料、及び表示成分を含有するが、他の成分を排除しない材料いずれをも包含し、限定されない。さらに、代替物(例)のリストを挙げる場合、代替物は排他的な意味をもたず、そうでないと明白に記述する場合以外は、代替物の1つ又は2つ以上を選ぶことができる。
【0018】
1実施形態では、本材料は、セリウム及びハフニウムのカチオン(「一次酸化物カチオン」)を含む一次酸化物を含有する。ある実施形態では、セリウムカチオン対一次酸化物カチオンのモル比が、約0.01〜約0.99の範囲にあり、別の実施形態ではこの範囲が約0.1〜約0.9である。本材料は、希土類元素、イットリウム及びスカンジウムからなる群から選択されるカチオン(「二次酸化物カチオン」)を含む二次酸化物も含有する。特定の実施形態では、二次酸化物カチオンはランタン、プラセオジム、イッテルビウム又はネオジムとすることができる。ある実施形態では、一次酸化物カチオン対材料中に存在する全カチオンのモル比が、約0.1〜約0.95の範囲にあり、別の実施形態ではこの範囲が約0.25〜約0.9であり、特定の実施形態ではこのモル比が約0.5である。図1は、このような材料の例として、二次酸化物が酸化ランタンであり、一次酸化物がセリウム及びハフニウムを種々の相対割合で含有し、一次酸化物カチオン対材料中に存在する全カチオンの全体比が0.5である材料の性能を示す。注目すべきことには、試験した組合せ材料のいずれも接触角90°以上でなかったが、すべての組成物が滴状水凝縮挙動を示した。
【0019】
別の実施形態では、本材料はセリウム又はハフニウムの一次酸化物カチオンを含む一次酸化物を含有する。ある実施形態では、一次酸化物カチオン対材料中に存在する全カチオンのモル比が前述した材料について規定した対応する範囲のいずれか内にある。本材料はさらに、(i)プラセオジム又はイッテルビウムを含有する第1の二次酸化物カチオンと、(ii)希土類元素、イットリウム又はスカンジウムを含有する第2の二次酸化物カチオンを含む二次酸化物を含有する。ある実施形態では、第1の二次酸化物カチオン対全二次酸化物カチオンのモル比が約0.01〜約0.99の範囲にあり、ある実施形態では、この範囲が約0.05〜約0.95であり、特定の実施形態では、この範囲が約0.1〜約0.90である。特定の実施形態では、二次酸化物がプラセオジム及びランタンを含有し、別の実施形態では二次酸化物がイッテルビウム及びランタンを含有する。
【0020】
本発明のさらに他の実施形態は、図2に示すように、本発明の材料を含有するコーティング202を有する物品200を含む。ある実施形態では、この酸化物材料(「本材料」)はコーティングの約50体積%超をなす。ある実施形態では、本材料はコーティングの約75体積%超をなし、ある実施形態では、本材料はコーティング体積のほぼすべて(不可避的不純物及びボイド空間を除いて)をなす。ある実施形態では、このコーティング202は表面連結細孔のレベルが、例えば約5体積%以下のように低い。ある実施形態では、表面連結細孔率がさらに低く、例えば2体積%未満、1体積%未満、0.5体積%未満、又は0.1体積%未満である。ある実施形態では、コーティング202は実質的に理論密度を有する材料からなる。表面連結細孔含量が低いことは、細孔ネットワークへの水の吸収を抑制し、これにより液体を物品の表面に維持する。例えば高疎水性材料から形成された表面でも、開口細孔の量が不当に多ければ、水を吸収するおそれがあり、このため該表面が水に対するバリヤとして無効になる。
【0021】
ある実施形態では、上述した物品はさらに、金属基体のような基体204を含み、その上に前記コーティング202が配置される。金属基体の例には、アルミニウム、鋼、ステンレス鋼、ニッケル、銅又はチタンのような金属及び合金がある。具体的には、306ステンレス鋼、316ステンレス鋼、403ステンレス鋼、422ステンレス鋼、Custom450ステンレス鋼、市販の高純度チタン、Ti−4V−6Al、70Cu−30Niなどの普通の工業用合金が適当な基体である。
【0022】
関与する材料の性質や選択した材料処理方法に応じて、基体とコーティング間に所望の密着度を達成するなど様々な理由で、種々の中間コーティング(図示せず)を設けることができる。このような変更は当業者の通常の知識の範囲内のことである。コーティングの厚さは環境の性質や物品の予想用途に依存する。例えば、熱交換器用途では、コーティングは通例、実用的な使用寿命を実現しながら、環境と基体間の熱抵抗を最小限に抑えるように設計される。所定の用途についてのコーティング厚さの決定は当業者の通常の知識の範囲内である。
【0023】
ある実施形態では、本材料は、コーティングである場合も自立物体である場合も、全体気孔率(細孔度)が約5体積%未満のように低い。ある実施形態では、材料の全体気孔率が約1体積%未満のようにさらに低い。ある実施形態では、材料は全体にわたって実質的に理論密度を有する。上述したコーティングの厚さと同様、材料の全体気孔率は、物品の熱抵抗を決める役割を果たし、代表的には、気孔率が高いと熱抵抗が高くなる。したがって、低い熱抵抗が望ましい実施形態では、全体気孔率を低く維持することが重要である。
【0024】
本発明の材料及びその物品を製造するには、セラミック酸化物材料の製造及び/又は堆積に有用な方法であればどのような製造方法を用いてもよい。したがって、本発明の実施形態は、本発明の材料又はコーティングのいずれかを含有するコーティング202を基体204に成膜する工程を含む、物品を液体含有環境から保護する方法を含む。セラミック酸化物材料を製造することができる既知の方法には、粉末加工、ゾルゲル法、化学気相堆積(CVD)及び物理気相堆積(PVD)がある。粉末加工法では、セラミック粒子からセラミック物品を形成するのに、加圧、テープキャスティング、テープカレンダ加工、スクリーン印刷などの方法を用い、ついで焼結法により粉末を固め、緻密化する。ゾルゲル法では、液体の形態のセラミック前駆体を基体に適用した後、加水分解、重合などの化学反応により実質的にセラミック材料を形成し、ついで熱処理してセラミック材料を生成、緻密化する。化学気相堆積法は、ガス状前駆体分子を加熱された基体に供給してセラミック物品を形成するもので、大気圧化学気相堆積、低圧化学気相堆積、金属−有機化学気相堆積、及びプラズマ化学気相堆積を含む。物理気相堆積法は、固体前駆体から材料の蒸気を生成し、その蒸気を基体に供給してセラミック物品を形成するものである。物理気相堆積法には、スパッタリング、蒸着及びレーザー堆積がある。バルクセラミック物品の場合、基体を用いてるつぼ、ダイ又はマンドレルの形態のセラミック素体を形成し、後で除去する。セラミックコーティングの場合、セラミック物品は基体に付着したままである。当業者であれば、加工法を選択し、適当に変更して、セラミック酸化物物品の化学組成及び密度を所望通りに制御することができる。
【0025】
ある実施形態では、材料の表面、例えばコーティング202はさらに表面テクスチャー206を有し、物品の耐濡れ性をさらに改良する。表面テクスチャー206は表面に位置する造形部208からなり、そのような造形部の例としては、凸部(例えば円筒状ポスト、角柱、角錐、樹枝、ナノロッド、ナノチューブ、粒子破片、研磨跡など)、凹部(例えばホール、ウェルなど)などがある。ある実施形態では、表面テクスチャーは表面のくねり度(tortuosity)を増加する作用をなし、これにより疎水性材料の接触角を増加する。他の実施形態では、造形部を、液滴と表面間に空気ポケットを生成する寸法及び形状とし、そうすれば有効表面エネルギーを低減するとともに、滑らかな表面に予想される値より大きい接触角を生成することができる。このようなテクスチャー及びテクスチャー付与法の例が、本出願人に譲渡された米国特許出願第11/497,096号、第11/487,023号及び第11/497,720号に記載されている(これらを先行技術として援用する)。
【0026】
本発明の特定の実施形態は物品200である。物品は、前述した通りの低い表面気孔率を有するコーティング202を備える。コーティング202は一次酸化物及び二次酸化物を含有する材料を含む。ある実施形態では、材料は前述した材料のいずれでもよい。別の実施形態では、一次酸化物はセリウム、プラセオジム、テルビウム及びハフニウムからなる群から選択されるカチオンを含有し、二次酸化物は、前述したように、一次酸化物より低い真性表面エネルギーを有し、希土類元素、イットリウム及びスカンジウムからなる群から選択されるカチオンを含有する。特定の実施形態では、一次酸化物はセリウム及びハフニウムからなる群から選択されるカチオンを含有する。さらに、ある実施形態では、二次酸化物カチオンはランタン、プラセオジム又はネオジムを含む。本材料で被覆した基体を含む実施形態や、テクスチャー付き表面206の使用に関する上記説明は、この実施形態にも適用できる。
【0027】
1実施形態では、一次酸化物は酸化セリウムを含む。酸化セリウムを二次酸化物と組み合わせて、上述した通りの所望特性を有する安定な酸化物材料を形成することができる。1例では、二次酸化物は酸化ランタンを含む。このランタン含有材料を用いるある実施形態では、セリウムカチオンが材料中に存在するカチオンの約25モル%以上を構成し、特定の実施形態では、セリウムカチオンが材料中に存在するカチオンの約45モル%〜約55モル%を構成する。図3はある範囲の酸化セリウムと酸化ランタンの二元組合せについて測定した接触角の値を示す。純粋な酸化セリウムが膜状凝縮をもたらすのに対して、試験した組成物のすべてが安定な滴状水凝縮をもたらしたことは注目すべきことである。
【0028】
別の例では、一次酸化物が酸化セリウムを含み、二次酸化物が酸化プラセオジムを含む。ある実施形態では、セリウムカチオンが材料中に存在するカチオンの約7モル%以上を構成する。特定の実施形態では、セリウムカチオンが材料中に存在するカチオンに基づくモル%で約7%〜約60%を構成し、この範囲で最大の水接触角が認められた。図4はある範囲の酸化セリウムと酸化プラセオジムの二元組合せについて測定した接触角の値を示す。この場合も、酸化セリウム自体は膜状水凝縮をもたらすにもかかわらず、試験した酸化セリウム/酸化プラセオジム組合せ材料のすべてが安定な滴状凝縮をもたらしたことは驚くべきことである。
【0029】
別の例では、一次酸化物が酸化セリウムを含み、二次酸化物が酸化ネオジムを含む。ある実施形態では、セリウムカチオンが材料中に存在するカチオンの約20モル%以上を構成する。特定の実施形態では、セリウムカチオンが材料中に存在するカチオンに基づくモル%で約20%〜約60%を構成し、この範囲で最大の水接触角が認められた。図5はある範囲の酸化セリウムと酸化ネオジムの二元組合せについて測定した接触角の値を示す。この場合も、驚くべきことに、試験した酸化セリウム/酸化ネオジム組合せ材料のすべてが安定な滴状水凝縮をもたらした。
【0030】
上述したいくつかの実施例は、単一の一次酸化物と単一の二次酸化物との二元組合せからなる材料に注目しているが、当然ながら、本発明の実施形態は一次酸化物及び二次酸化物の片方又は両方が2種以上の酸化物成分から構成される例を包含する。例えば、ある実施形態では、一次酸化物が2種以上の酸化物を含み、これらの酸化物それぞれがカチオンとしてセリウム、プラセオジム、テルビウム又はハフニウムを含む酸化物である。1実施例では、一次酸化物カチオン対二次酸化物カチオンのモル比が約1であり、これは、材料が等モル分率の一次酸化物カチオンと二次酸化物カチオンを含有することを意味する。例えば、本材料は式:S22-xZ’x7±y[式中のSは二次酸化物のすべてのカチオン(1つ又は2つ以上のカチオン種)を示し、Z及びZ’はそれぞれ一次酸化物のカチオンを示し、yは1未満の数、xは約0.01〜約1.99の範囲の数である]で表される組成を有することができる。ここで、二次酸化物カチオンのモル分率は一次酸化物カチオンのモル分率に等しく、両者とも材料1モル当たりカチオン2モルの値を有する。yの値はカチオンが四価もしくは三価状態になろうとする傾向に依存し、電荷を均衡させる必要に応じて変動する。前述したように、図1は、Sがランタン、Zがセリウム、Z’がハフニウムであるこのような例示材料の性能を示す。
【0031】
セレン酸ランタンのようなセレン酸塩(cerate)及びハフニウム酸ランタン(La2Hf27)のようなハフニウム酸塩(hafnate)から形成された遮熱コーティングは当業界で知られている。例えば米国特許第6835465号及び同第6387526号参照。これらのコーティングに用いられる組成物は上述した組成物の一部と類似しているが、従来技術に記載されたコーティングは、耐濡れ性が本発明の材料及び物品と比較して著しく異なる。遮熱コーティングは一般に溶射法又は物理気相堆積法を用いて成膜されるが、これらの方法はいずれも比較的高いレベルの気孔率を有するコーティングを生成することが知られている。代表的な工業的遮熱コーティングは約10%〜約25%の範囲の気孔率を有し、例えばセレン酸ランタンからなる遮熱コーティングがこのような代表的な気孔率レベルを示すことが確認されている(例えば、Cao et al., Advanced Materials, vol 15, issue 17, pp 1438-1442 (2003)参照)。多孔性は、コーティングの熱抵抗と歪み順応性を高める点で、これらの用途において有利であると一般に考えられている。例えば、遮熱コーティングの熱サイクリングに必要な歪み順応性は、有意な量の細孔を、EB−PVDコーティングにおけるカラム間ギャップや、溶射コーティングにおけるスプラット間細孔の形態で、コーティング中に導入することを必要とすることが、実証されている。コーティングにおける熱抵抗の増強並びに焼結による気孔率の低下に起因する熱及び機械的特性に対する悪影響を理解するために、両方の方法で堆積されたコーティングの分布と表面性状(モルフォロジー)を十分に検討した。このような研究から、コーティングの焼結は気孔率の低下とヤング率の上昇をもたらし、その結果として熱誘起応力が大きくなり、遮熱コーティングの熱疲労寿命が短くなることが確認された。これらの理由から、遮熱コーティングは一般に、高温で長い寿命にわたって高レベルの気孔率を維持する構造となっている。
【0032】
しかし、遮熱コーティングとは全く対照的に、本発明の実施形態で適用される酸化物は有意により緻密である。その主たる機能が基体への熱伝達を阻止することではなく、コーティング表面に液体、氷その他の異物が溜まるのを阻止することにあるからである。上述した遮熱コーティングにおける高いレベルの気孔率は、一般に本発明の多くの実施形態で用いるのに適当でない。実際、前述したように、多くの熱伝達用途において、本発明の材料は熱抵抗を抑制するように設計され、このため代表的には実際に実現可能なできるだけ低い気孔率レベルを達成することが必要である。
【0033】
上記実施形態について記述した新規な特性から、上記実施形態は液体による濡れに対する耐性が望ましい多数の有用な用途に適当である。例えば、化学処理、水脱塩、発電などに用いるような、高温蒸気と冷却流体との間の熱伝達に用いられる凝縮器が、上述した物品及び材料を用いる本発明の実施形態の例である。図6は、普通の形式の凝縮器、即ち表面凝縮器500を示す。例えば、スチームが入口504からシェル502に入り、その後凝縮チューブ506の外面上で凝縮されて水になる。凝縮チューブ506内には水などの冷却流体508が流れる。上述した本材料(図示せず)が凝縮チューブ506の外面上に配置され、スチームからの凝縮水の滴状凝縮を促進する。凝縮液は本材料によりチューブ506から簡単に流れ落ち、凝縮液出口510を通ってシェル502の外に出る。
【0034】
例えば蒸気タービンのような特定の用途では、金属部品に、凝縮する液滴だけでなく衝突する水滴も作用する。スチームがタービン内で膨張するにつれて、小さな水滴(代表的には霧の寸法)が流動する流れ内に現われる。これらの小さな水滴がタービンブレードその他の部品上で凝集し、大きな水滴として離れ、これらがタービンにおける熱力学的、空気力学的及びエロージョン損失の原因となる。したがって、小さな水滴が凝集して極めて大きな水滴となる前に、小さな水滴を部品から流し去る能力は、システム寿命及び運転効率を上げるために重要である。前述したように、本発明の実施形態において適用される組成物の多くは滴状凝縮を促進し、かくして液体が表面から広いシート状ではなく小さな水滴として流れ去る。したがって、本発明の実施形態は、上述した物品を備える蒸気タービンアセンブリを含む。特定の実施形態では、物品は蒸気タービンアセンブリの1部品、例えばタービンブレード、タービンベーン、その他、タービンの運転中に水滴の衝突が起こりうる部品である。
【0035】
本発明の実施形態は、表面上での氷の形成、付着及び/又は蓄積を軽減することができる。着氷が起こるのは、水滴(過冷されていることもある)が航空機部品やタービンアセンブリ(例えばガス又は風力タービン)の部品などの物品の表面に衝突し、その表面上で凍結するときである。航空機、タービン部品、その他、外気にさらされる装置に氷が蓄積すると、安全性の危険が増し、定期的に氷を除去する作業のコストが発生する。本発明の実施形態は、本発明の物品及び材料を含む航空機を包含し、上記実施形態の物品となるこのような航空機の部品は、例えば、翼、尾翼、胴体又は航空機エンジン部品などを含む。本発明の実施形態における物品として適当な航空機エンジン部品の例には、ナセル入口リップ、スプリッタ前縁、ブースタ入口ガイドベーン、ファン出口ガイドベーン、センサ及び/又はそのシールド、ファンブレードなどがある。
【0036】
着氷は風力タービンにとって大きな問題である。風速計やタービンブレードなどの種々の部品上に氷が蓄積すると、風力タービン運転の効率を下げ、安全性の危険を増すからである。風力タービンブレード、その他の部品は、軽量化のために、ガラス繊維などの軽量な複合材から作製されることが多く、氷の蓄積はブレードに、その有効性を著しく軽減する程度までの有害な負荷をかけるおそれがある。本発明のある実施形態では、上述した通りの物品が、風力タービンアセンブリの1部品、例えばタービンブレード、風速計、歯車箱、その他の部品である。
【0037】
外気にさらされる他の部品も氷及び/又は水の蓄積により悪影響を受けるので、他の実施形態は、例えば外気にさらされる他の装置の部品、例えば電力線やアンテナも包含する。耐濡れ性は、外気にさらされる多数の部品に有利であり、ここに記述した例は、本発明の実施形態を上述した特定用途だけに限定すると解釈すべきではない。
【実施例】
【0038】
これ以上詳しく説明しなくても、当業者であれば、本明細書の説明にしたがって、本発明を十分に利用できるはずである。以下に実施例を挙げて、当業者が本発明を実施する上でのさらなる指針を提示する。実施例は本発明の教示内容に寄与する実験の代表例に過ぎない。したがって、これらの実施例は、いかなる意味でも、特許請求の範囲に規定された本発明を限定するものではない。
【0039】
上述した実施形態にしたがってコーティングを市販の純チタン基体上にRFマグネトロンスパッタリングにより成膜した。スパッタリングターゲットは、一次酸化物、具体的には酸化セリウムと二次酸化物、具体的には酸化ランタンの混合物をプレスし、焼結することにより作製した。ここで、一次酸化物カチオン対存在する全カチオンのモル比は約0.5であった。7%酸素/93%アルゴンガス混合物中にて成膜速度49Å/分、順方向パワー100ワットで、厚さ約300nmのコーティングを製造した。このコーティングの水との接触角は約113°であった。コーティングはスチーム中で滴状凝縮を示した。
【0040】
以上本発明のいくつかの特徴だけを記載し、具体的に説明したが、当業者には多数の変更例や改変例が想起できるであろう。したがって、特許請求の範囲はこのような変更例や改変例も本発明の要旨の範囲内に入るものとして包含する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ランタン、セリウム及びハフニウムを含む酸化物について静的水接触角を材料組成の関数として示すグラフである。
【図2】本発明の実施形態を示す線図である。
【図3】セリウム及びランタンを含む酸化物について静的水接触角を材料組成の関数として示すグラフである。
【図4】セリウム及びプラセオジムを含む酸化物について静的水接触角を材料組成の関数として示すグラフである。
【図5】セリウム及びネオジムを含む酸化物について静的水接触角を材料組成の関数として示すグラフである。
【図6】本発明の他の実施形態を示す線図である。
【符号の説明】
【0042】
200 物品
202 コーティング
204 基体
206 表面テキスチャ
208 造作部
500 表面凝縮器
502 シェル
504 入口
506 凝縮チューブ
508 冷却流体
510 凝縮液出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング(202)を含む物品(200)であって、コーティング(202)が表面連結細孔含量約5体積%以下であり、一次酸化物と二次酸化物を含有する材料を含有し、
(i)一次酸化物がセリウム、プラセオジム、テルビウム及びハフニウムからなる群から選択されるカチオンを含み、
(ii)二次酸化物が希土類元素、イットリウム及びスカンジウムからなる群から選択されるカチオンを含む、
物品(200)。
【請求項2】
前記コーティング(202)がさらに表面テクスチャー(206)を含む、請求項1記載の物品(200)。
【請求項3】
前記一次酸化物がセリウム及びハフニウムからなる群から選択されるカチオンを含む、請求項1記載の物品(200)。
【請求項4】
前記二次酸化物がランタン、プラセオジム及びネオジムからなる群から選択されるカチオンを含む、請求項1記載の物品(200)。
【請求項5】
前記一次酸化物が酸化セリウムを含む、請求項1記載の物品(200)。
【請求項6】
前記二次酸化物が酸化ランタンを含む、請求項5記載の物品(200)。
【請求項7】
セリウムカチオンが材料中に存在するカチオンの約25モル%以上をなす、請求項6記載の物品(200)。
【請求項8】
前記二次酸化物が酸化プラセオジムを含む、請求項5記載の物品(200)。
【請求項9】
セリウムカチオンが材料中に存在するカチオンの約7モル%以上をなす、請求項8記載の物品(200)。
【請求項10】
前記二次酸化物が酸化ネオジムを含む、請求項5記載の物品(200)。
【請求項11】
セリウムカチオンが材料中に存在するカチオンの約20モル%以上をなす、請求項10記載の物品(200)。
【請求項12】
前記一次酸化物が複数の酸化物を含み、各酸化物がセリウム、プラセオジム、テルビウム及びハフニウムからなる群から選択されるカチオンを含む、請求項1記載の物品(200)。
【請求項13】
一次酸化物カチオンモル分率対二次酸化物カチオンモル分率の比が約1である、請求項12記載の物品(200)。
【請求項14】
前記材料が化学式:S22-xZ’x7±y[式中のSは二次酸化物のすべてのカチオンを示し、Z及びZ’はそれぞれ一次酸化物のカチオンを示し、yは1未満の数、xは約0.01〜約1.99の範囲の数である]で表される組成を有する、請求項13記載の物品(200)。
【請求項15】
Sがランタンを含み、Zがセリウムであり、Z’がハフニウムである、請求項14記載の物品(200)。
【請求項16】
請求項1記載の物品(200)を含む凝縮器(500)。
【請求項17】
請求項1記載の物品(200)を含むタービンアセンブリ。
【請求項18】
物品(200)が蒸気タービンアセンブリの部品である、請求項1記載の物品(200)。
【請求項19】
請求項1記載の物品(200)を含む航空機エンジンアセンブリ。
【請求項20】
請求項1記載の物品(200)を含む風力タービンアセンブリ。
【請求項21】
基体(204)上にコーティング(202)を成膜し、
前記コーティング(202)が、表面連結細孔含量約5体積%以下であり、一次酸化物と二次酸化物を含有する材料を含有し、
(i)一次酸化物がセリウム、プラセオジム、テルビウム及びハフニウムからなる群から選択されるカチオンを含み、
(ii)二次酸化物が希土類元素、イットリウム及びスカンジウムからなる群から選択されるカチオンを含む、
物品の保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−149983(P2009−149983A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316856(P2008−316856)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】