説明

自動変速機の制御装置

【課題】有段変速機構を締結側と解放側との架け替えにより目標の回転数に変速制御する過程で、パワーのON/OFF状態が切り替わったとき、目標変速比と異なる変速比へと変化することで発生する変速ショックを防止する。
【解決手段】本発明は、ハイクラッチH/CとローブレーキL/Bを有し当該クラッチH/C及びブレーキL/Bの解放及び締結を組み合わせることで所望の変速段が決定される副変速機構ATと、変速機構ATを駆動させるパワーのON/OFF状態を判定するパワーON/OFF状態判定手段と、変速機構ATの変速制御と協調して目標の変速比を実現するように変速制御が行われる無段変速機構CVTとを有し、変速機構ATをパワーOFFアップシフト中のイナーシャフェーズ時に、パワーのOFF→ONがあったときは、解放側のブレーキL/Bを即時に解放させると共に、当該変速機構ATの入力トルクの変化が締結側のクラッチH/Cで抑えられるように当該クラッチH/Cを即時に締結させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の締結部を解放させると共に第2の締結部を締結させることで変速が行われる、いわゆる架け替え変速中に、パワーのON/OFF状態が切り替わっても、目標の変速比を実現可能にする自動変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自動変速機の制御装置には、パワーオンダウンシフトが指令されると、架け替え変速に寄与する締結側と解放側のクラッチ(締結部)のうち、締結側のクラッチの動作を積極的に制御することで、エンジンの吹き上がりや変速ショックを防止するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−263206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした架け替え変速が行われている最中、パワーのON/OFF状態が切り替わると、有段変速機構の変速比もパワーON/OFF状態の切り替わりによって変化することがある。即ち、従来の装置では、架け替え変速中に、パワーON/OFF状態の切り替えがなされると、有段変速機構では、目標変速比と異なる変速比へと変化することで、変速ショックを発生させてしまうことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、有段変速機構を締結側と解放側との架け替えにより変速制御する過程で、パワーのON/OFF状態が切り替わったとき、解放側の第1の締結部と締結側の第2の締結部のうち、パワーの切り替えによって生じる有段変速機構の入力回転数の変動を抑えることができる第1又は第2の締結部のいずれか一方を締結させると共に、他方の締結部を解放させるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、有段変速機構を締結側と解放側との架け替えにより変速制御する過程で、パワーのON/OFF状態が切り替わっても、有段変速機構での予期せぬ変速比変化が生じることがなく、当該変速比変化が防止される。従って、本発明によれば、有段変速機構の回転数を締結側と解放側との架け替えにより変速制御する過程で、パワーのON/OFF状態が切り替わることで生じる変速ショックを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一形態である、自動変速機の制御装置を搭載したパワートレーンを模式的に示すシステム図である。
【図2】同パワートレーンの制御システムを模式的に示すシステム図である。
【図3】同形態の制御装置に係る、変速制御の際に用いられる変速線を例示する変速線図である。
【図4】同形態に係る有段変速機構の基本的な制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図5】同形態の制御装置によって実行される制御の流れを示すフローチャートである。
【図6】パワーOFFアップシフトのイナーシャフェーズ中にパワーONとなったときの、同形態に係る有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図7】パワーOFFアップシフトのイナーシャフェーズ中にパワーONとなったときの、比較例である従来の有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図8】パワーONアップシフトのイナーシャフェーズ中にパワーOFFとなったときの、同形態に係る有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図9】パワーONアップシフトのイナーシャフェーズ中にパワーOFFとなったときの、比較例である従来の有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図10】パワーONアップシフトの先行トルクフェーズ中にパワーOFFとなったときの、同形態に係る有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図11】パワーONアップシフトの先行トルクフェーズ中にパワーOFFとなったときの、比較例である従来の有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図12】パワーONダウンシフトイナーシャフェーズ中にパワーOFFとなったときの、同形態に係る有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図13】パワーONダウンシフトのイナーシャフェーズ中にパワーOFFとなったときの、比較例である従来の有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図14】パワーOFFダウンシフトのイナーシャフェーズ中にパワーONとなったときの、同形態に係る有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図15】パワーOFFダウンシフトのイナーシャフェーズ中にパワーONとなったときの、比較例である従来の有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図16】パワーOFFダウンシフトの先行トルクフェーズ中にパワーONとなったときの、同形態に係る有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図17】パワーOFFダウンシフトの先行トルクフェーズ中にパワーONとなったときの、比較例である従来の有段変速機構の制御フローを時系列に示すタイムチャートである。
【図18】(a),(b)はそれぞれ、非変速中や準備フェーズ中及びトルクフェーズ又はイナーシャフェーズに入った変速中の、パワーON/OFF状態判定方法の説明図である。
【図19】変速機コントローラ内で実行される、パワーON/OFFの切り替えに伴う、解放側及び締結側の締結部それぞれに対する指示油圧を算出する方法を示す制御図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明である、自動変速機の制御装置を詳細に説明する。
【0009】
図1のパワートレーンは、駆動源であるエンジン1と、このエンジン1に駆動結合されるトルクコンバータ2と、このトルクコンバータ2に減速機構3を介して駆動結合される自動変速機4と、この自動変速機4の変速機出力軸(プロペラシャフト)5を介して駆動結合されるファイナルドライブギア機構6と、このファイナルドライブギア機構6を経て自動変速機4からの動力が出力される車輪7とを有する。
【0010】
自動変速機4は、無段変速機構8と副変速機構9とで構成されている。
【0011】
無段変速機構8は、減速機構3の出力軸に連結される駆動プーリ8aと、副変速機構9の入力軸に連結される従動プーリ8bとを有し、これらの間にベルト8cを掛け渡した既存のベルト式無段変速機構である。駆動プーリ8a及び従動プーリ8bにはそれぞれ、オイルが供給されており、その油圧に応じてプーリ幅を自由に変更することができる。これにより、無段変速機構8は、駆動プーリ8aへの供給圧と従動プーリ8bへの供給圧とを制御することで、変速比を無段階に変更させることができる。
【0012】
副変速機構9は、ラビニヨ遊星歯車機構の複合サンギア9aに従動プーリ8bを駆動結合することで当該サンギア9aを入力とする一方、キャリア9bを変速機出力軸5に駆動結合することで当該キャリア9bを出力としている有段変速機構である。サンギア9aは、ローアンドリバースブレーキ(第1速選択用ブレーキ)LR/Bを介してケースCに固定され、キャリア9bはハイクラッチ(第2速選択用クラッチ)H/Cを介してリングギア9cに駆動結合されている。更に、リングギア9cは、リバースブレーキR/Bを介してケースCに固定されている。
【0013】
ローアンドリバースブレーキ(以下、「ローブレーキ」)LR/B、ハイクラッチH/C及びリバースブレーキR/Bにもそれぞれ、オイルを供給することができ、その油圧に応じて締結及び解放を自由に行うことができる。これにより、副変速機構9は、ローブレーキLR/B、ハイクラッチH/C及びリバースブレーキR/Bへの供給圧を制御することで、前進1速、前進2速及び後進を選択することができる。
【0014】
前進1速の選択の場合は、ローブレーキLR/Bを締結すると共にハイクラッチH/Cを解放する。また、前進2速の選択の場合は、ローブレーキLR/Bを解放すると共にハイクラッチH/Cを締結する。なお、副変速機構9の制御にあたっての締結及び解放の関係についての詳細は、下記の表に示すとおりである。
【0015】
【表1】

【0016】
また、本形態に係る車両は、図1に示すように、自動変速機4を変速制御するための変速制御部100を有する。変速制御部100は、自動変速機4の目標入力回転数Ni(o)を算出し、この目標入力回転数Ni(o)に基づき、無段変速機構8の変速比(以下、「無段変速側レシオ)Ra(CVT)を無段階に制御する無段変速制御部101と、副変速機構9の目標変速段を算出し、この目標変速段に制御する有段変速制御部102とを有する。
【0017】
即ち、自動変速機4全体としては、無段変速機構8の変速制御と副変速機構9の変速制御を協調させることで、目標とする変速比Ioが実現される。
【0018】
無段変速機構8は、図2に示すように、油圧コントロールバルブユニット10に内蔵された複数のソレノイドバルブをON,OFF制御することで、駆動プーリ8a及び従動プーリ8bへの供給圧(通常は、駆動プーリ8aへの供給圧のみ)が制御される。これにより、変速比を無段階に変更することができる。副変速機構9も、同様に、油圧コントロールバルブユニット10に内蔵された複数のソレノイドバルブをON,OFF制御することで、ロースブレーキLR/B、ハイクラッチH/C及びリバースブレーキR/Bへの供給圧が制御されることで、前進1速又は前進2速が選択される。
【0019】
油圧コントロールバルブユニット10は、図2に示すように、変速機コントローラ11によって制御される。変速機コントローラ11には、例えば、スロットル開度TVOを検出するスロットル開度センサSThからの信号と、エンジン1の出力回転数(以下、「エンジン回転数」)Neを検出するエンジン回転センサSeからの信号、自動変速機4の入力回転数(以下、「自動変速機入力回転数」)Niを検出する自動変速機入力回転センサSiからの信号と、変速機出力軸5の回転数(以下、「自動変速機出力軸回転数」)Noを検出する自動変速機出力回転センサSoからの信号とをそれぞれ入力する。
【0020】
変速機コントローラ11は、これら入力情報に基づき図3に例示する変速線図を用いて以下のとおりに自動変速機4の変速制御を行う。図3の変速線図は、無段変速機構8の変速線と、副変速機構9の変速線とを組み合わせたものである。副変速機構9の変速段として前進1速が選択されている場合、無段変速機構9の変速可能領域は、1速最Low線から1速最Hi線までの領域である。これに対し、副変速機構9の変速段として前進2速が選択されている場合、無段変速機構9の変速可能領域は、2速最Low線から2速最Hi線までの領域である。
【0021】
このため、図3の領域Aは、副変速機構9の変速段が前進1速であるときのみ変速制御が可能な領域となる。また、図3の領域Bは、副変速機構9の変速段が前進1速であるときは勿論、前進2速であるときも共に変速制御が可能な領域となる。更に、図2の領域Cは、副変速機構9の変速段が前進2速であるときのみ変速制御が可能な領域となる。
【0022】
領域A〜Cでは、従来と同様、図3を基に、車速VSPとスロットル開度TVOとに応じた目標自動変速機入力回転数Ni(o)を求めることで、この目標自動変速機入力回転数Ni(o)が達成されるように、無段変速機構8が制御される。これにより、無段変速機構8では、変速比を無段階に連続制御することができる。即ち、本形態では、油圧コントロールバルブユニット10及び変速機コントローラ11が無段変速制御部101に相当する。
【0023】
これに対し、副変速機構6の変速線は、前進1速から前進2速に切り替わる1→2UP線と、前進2速から前進1速に切り替わる2→1Down線とにより、前進1速領域と前進2速領域とが決定される。
【0024】
例えば、車速VSPとスロットル開度TVOとで決定される走行状態が、1→2UP線を低車速側から高車速側に向かって横切るような走行状態であると、副変速機構6として前進2速を選択すべく、ローブレーキLR/Bを解放すると共にハイクラッチH/Cを締結する。
【0025】
これに対し、車速VSPとスロットル開度TVOとで決定される走行状態が、2→1Down線を高車速側から低車速側に向かって横切るような走行状態であると、副変速機構9として前進1速を選択すべく、ハイクラッチH/Cを解放すると共にローブレーキLR/Bを締結する。即ち、本形態では、油圧コントロールバルブユニット10及び変速機コントローラ11は有段変速制御部102にも相当する。
【0026】
従って、図3の変速線図を用いれば、車速VSPとスロットル開度TVOとが算出されることで、副変速機構9では、車速VSPとスロットル開度TVOとに応じた前進1速又は前進2速が選択され、これと同時に、無段変速機構8でも、車速VSPとスロットル開度TVOとに応じた無段階の変速制御が行われる。
【0027】
また、自動変速機4は、副変速機構9での架け替え変速と同時に、無段変速機構8での無段変速を行うことで、無段変速機構8の変速制御を副変速機構9の変速制御に協調させる。
【0028】
こうした変速制御は、協調変速制御と呼ばれ、図4に示すように、副変速機構9で変速段の切り替えが行われることで生じる当該副変速機構9の変速比(以下、「副変速機側レシオ」)Ra(AT)変化を、無段変速機構8で変速が行われることで生じる当該無段変速機構9の変速比(以下、「無段変速側レシオ)Ra(CVT)変化で相殺することで、あたかも、自動変速機4全体としての変速比(以下、「トータルレシオ」)Ra(total)には変動が生じていないような滑らかな変速を実現する。
【0029】
具体例としては、副変速機構9の変速段を前進1速から前進2速にアップシフトさせる際、当該副変速機構9のアップシフトと同時に、無段変速機構8をダウンシフトさせることで、両変速機構8,9によって生成される自動変速機4としての入力回転数Niを一定に保ったまま変速させることができる。即ち、自動変速機4に対して協調変速制御を実行すれば、副変速機構9のアップシフト時に発生するイナーシャトルクや変速ショックが抑制されて、あたかも、無段変速機構8によって変速しているかのような滑らかな変速を実現することができる。
【0030】
このように、自動変速機4は、変速比(レシオ)を無段階に変更させることができる無段側機構8と、複数の変速段から任意の変速段を選択することができる副変速機構9によって、広いレシオカバレッジを実現している。
【0031】
即ち、自動変速機4は、上述のように、例えば、油圧コントロールバルブユニット10と変速機コントローラ11とを制御手段として、無段変速機構8と有段変速機構9とを組み合わせることで、どちらか一方のみで取り得るレシオカバレッジに比べて、拡大されたレシオカバレッジを得ることができる。
【0032】
一方、副変速機構9のように、第1の締結部を解放させると共に第2の締結部を締結させることで変速が行われる、いわゆる架け替え変速では、クラッチやブレーキ等の締結部は、締結に要する押し付け力(締結トルク)を上げると、副変速機構の入力回転数(以下、「副変速機側入力回転数」)Ni(AT)を当該締結部が締結したときに実現される回転に近づける向きにトルクを発生させる一方で、押し付け力を下げると、副変速機側入力回転数Ni(AT)を当該締結部が締結したときに実現される回転に近づける向きのトルクが減少する。
【0033】
即ち、締結に要する押し付け力を下げると、自動変速機4の入力トルクが、正トルク(自動変速機4の入力側が駆動側となるようなトルク)状態、いわゆる、パワーON状態の場合は、自動変速機4の入力回転数Niが上昇するのに対し、自動変速機4の入力トルクが負トルク(自動変速機4の出力側が駆動側となるようなトルク)状態、いわゆる、パワーOFF状態の場合は、自動変速機4の入力回転数Niが低下する。
【0034】
これに対し、ハイクラッチH/Cは、副変速機側入力回転数Ni(AT)(自動変速機入力回転数Ni)を低下させる作用のみを生じさせる締結部として機能し、ローブレーキLR/Bは、副変速機側入力回転数Ni(AT)(自動変速機入力回転数Ni)を上昇させる作用のみを生じさせる締結部として機能する。
【0035】
従って、パワーON状態における架け替え変速では、ハイクラッチH/Cを積極的に制御することによって、副変速機側入力回転数Ni(AT)が架け替え変速前の回転数から架け替え変速後の回転数に移行する、いわゆるイナーシャフェーズ中の、副変速機側入力回転数Ni(AT)の上昇を抑制することで、副変速側レシオRa(AT)のレシオ変化を制御するのに対し、パワーOFF状態における架け替え変速では、ローブレーキLR/Bを積極的に制御することによって、イナーシャフェーズ中の副変速機側入力回転数Ni(AT)の低下を抑制することで、副変速側レシオRa(AT)のレシオ変化を制御する。
【0036】
しかしながら、架け替え変速中に、パワーON/OFF状態が切り替わると、以下の理由により、副変速側レシオRa(AT)が目標レシオと異なるレシオへと変化することで、変速ショックを発生させてしまうことがあった。
【0037】
例えばイナーシャフェーズ中に、パワーON状態からOFF状態に切り替わると、パワーON状態にて副変速機側入力回転数Ni(AT)を制御している状態のハイクラッチH/Cのみでは、パワーOFFに伴う副変速機側入力回転数Ni(AT)の低下を抑制することができないため、この副変速機側入力回転数Ni(AT)の低下に伴い、目標レシオと異なるレシオ変化が生じてしまう。
【0038】
また反対に、イナーシャフェーズ中に、パワーOFF状態からON状態に切り替わると、パワーOFF状態にて副変速機側入力回転数Ni(AT)を制御している状態のローブレーキLR/Bのみでは、パワーONに伴う副変速機側入力回転数Ni(AT)の上昇を抑制することができないため、この副変速機側入力回転数Ni(AT)の上昇に伴い、目標レシオと異なるレシオ変化が生じてしまう。
【0039】
また、副変速機構9の入力トルクをローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cに分配することでトルクの架け替えが行われるトルクフェーズがイナーシャフェーズよりも先行した、いわゆる、先行トルクフェーズ中に、パワーON状態からOFF状態に切り替わっても、パワーON状態にて副変速機側入力回転数Ni(AT)を制御している状態のハイクラッチH/Cのみでは、パワーOFFに伴う副変速機側入力回転数Ni(AT)の低下を抑制することができないため、この副変速機側入力回転数Ni(AT)の低下に伴い、目標レシオと異なるレシオ変化が生じてしまう。
【0040】
同様に、先行トルクフェーズ中に、パワーOFF状態からON状態に切り替わっても、パワーOFF状態にて副変速機側入力回転数Ni(AT)を制御している状態のローブレーキLR/Bのみでは、パワーONに伴う副変速機側入力回転数Ni(AT)の上昇を抑制することができないため、この副変速機側入力回転数Ni(AT)の上昇に伴い、目標レシオと異なるレシオ変化が生じてしまう。
【0041】
そこで、図5のフローチャートを参照して、本発明に従う、変速制御を説明する。なお、以下の変速制御は、変速機コントローラ11で演算処理された指令値に基づき、油圧コントロールバルブユニット10のソレノイドバルブをデューティ(D)制御することで実行される。
【0042】
ステップS1では、既存の方法で算出されたエンジントルクTe、トルクコンバータトルク比et及びトルク開度、エンジン回転センサSeからのエンジン回転数Neを読み込み、ステップS2にて、後述する手段によって、パワーON/OFFを判定する。ステップS2にて、パワーON/OFFを判定すると、ステップS3に移行し、ステップS3にて、副変速機構9がアップシフト中であるかどうかを判定する。
【0043】
ステップS3にてアップシフト中であると判定されると、ステップS4に移行し、ステップS4にて、パワーがONからOFFに切り替わったかどうかを判定する。ステップS4にて、パワーがONからOFFに切り替わってないと判定されると、アップシフト中にパワーONがある可能性があるので、ステップS5に移行し、パワーがOFFからONに切り替わったかどうかを判定する。
【0044】
ステップS5にて、パワーOFF→ONの切り替えが判定されないときは、パワーON/OFFの切り替えがないとして、そのまま本制御を終了するが、パワーOFF→ONの切り替えが判定されるときは、アップシフト中にパワーONがあったとして、ステップS6に移行し、パワーOFF→ONの切り替えがイナーシャフェーズ中に行われたものであるかどうかを判定する。
【0045】
ステップ6にて、パワーOFF→ONの切り替えがイナーシャフェーズ中であったと判定されないときは、そのまま本制御を終了するが、パワーOFF→ONの切り替えがイナーシャフェーズ中であったと判定されるときは、パワーOFFの状態で副変速機構9のアップシフトが行われる過程で、そのイナーシャフェーズ中にパワーONがあったとして、ステップS7に移行し、本発明に従うパワーONイナーシャフェーズ制御を実行する。
【0046】
パワーONイナーシャフェーズ制御は、図6に示すように、パワーONと同時に、副変速機側入力回転数Ni(AT) の低下を、当該入力回転数Ni(AT)を上昇させるように作用することで抑制していた解放側(第1の締結部)のローブレーキLR/B(二点鎖線で示す)を急激に解放すると共に、待機中であった締結側(第2の締結部)のハイクラッチH/C(実線で示す)を急激に締結させることで、副変速機側入力回転数Ni(AT) の上昇を、ハイクラッチH/Cが有する副変速機側入力回転数Ni(AT) を低下させる作用によって抑制する。
【0047】
即ち、ローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cのトルク制御をパワーONアップシフトのイナーシャフェーズと同等の状態に切り替える。これにより、パワーOFF→ONの切り替わりで、変速機入力トルクにより副変速機側入力回転数Ni(AT)が上昇しようとするのを、締結側のハイクラッチH/Cで引き止めることができる。このため、パワーOFFアップシフト中のイナーシャフェーズにてアクセルペダルの踏み込み操作等によるパワーONがあっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがなく、当該レシオ変化が防止される。従って、本制御によれば、パワーOFFアップシフトのイナーシャフェーズ中にパワーONに切り替わることで生じる変速ショックを防止することができるので、最適な変速が実現できる。
【0048】
これに対し、従来の変速制御では、図7に示すように、単なるパワーOFFアップシフトとして、架け替え変速前のローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cでの所定量スリップ及び締結側のハイクラッチH/Cのトルク伝達準備完了を判断してイナーシャフェーズを開始する。この場合、副変速機構への入力トルクが負であることから、イナーシャフェーズでは、副変速機側入力回転数Ni(AT)の低下を解放側のローブレーキLR/Bで引き止め、目標レシオに追従するように、副変速機側入力回転数Ni(AT)を制御する。
【0049】
しかしながら、イナーシャフェーズ中にアクセルペダルの踏み込み操作等でパワーON状態となると、副変速機構9では、図7の一点鎖線で示すように、その入力回転数Ni(AT)が逆向きになるようにイナーシャフェーズが進行する。このため、意図しない回転の空吹けが発生したり、その後に締結ショックが発生してしまう。
【0050】
なお、解放側及び締結側の締結部それぞれに対する指示油圧は、変速機コントローラ11にて、図19に示す流れに沿って演算処理され、これを油圧コントロールバルブユニット10に指令することで制御される。
【0051】
解放側及び締結側の指示油圧はそれぞれ、締結側の指示トルク及び解放側の指示トルクを基に算出される。また、締結側の指示トルク及び解放側の指示トルクはそれぞれ、フィードフォワード制御により与えられるF/Fトルクと、フィードバック制御により与えられるF/Bトルクとの加算値として求められる。F/Fトルクは、常時算出されている副変速機構9の入力トルク(本形態では、自動変速機4の入力トルク)を基に求められる。また、F/Bトルクは、スロットル開度TVO及び車速VSPを基に算出される副変速機構9の目標入力回転数(本形態では、自動変速機4の目標入力回転数Ni(o))を基に求められる。
【0052】
また、F/Fトルク及びF/Bトルクは、パワーON/OFFの判定、副変速機構9の各フェーズの開始・終了の判定、又は、パワーON/OFFの判定に伴う、副変速機構9の各フェーズの開始・終了の判定をトリガーに算出される。加えて、副変速機構9の目標入力回転数(本形態では、自動変速機4の目標入力回転数Ni(o))も、副変速機構9の各フェーズの開始・終了の判定、又は、パワーON/OFFの判定に伴う、副変速機構9の各フェーズの開始・終了の判定をトリガーに算出される。
【0053】
ところで、ステップS4にて、パワーがONからOFFに切り替わったと判定されると、アップシフト中のパワーOFFであるとして、ステップS8に移行し、このパワーONがイナーシャフェーズ中に行われたものであるかどうかを判定する。
【0054】
ステップS8にて、パワーOFFがイナーシャフェーズ中に行われたと判定されると、ステップS9に移行し、本発明に従うパワーOFFイナーシャフェーズ制御を実行する。
【0055】
パワーOFFイナーシャフェーズ制御は、図8に示すように、パワーOFFと同時に、副変速機側入力回転数Ni(AT) の上昇を、当該入力回転数Ni(AT)を低下させるように作用することで抑制していた締結側(第2の締結部)のハイクラッチH/Cを急激に解放すると共に、待機中であった解放側(第1の締結部)のローブレーキLR/Bを急激に締結させることで、副変速機側入力回転数Ni(AT)の低下を、ローブレーキLR/Bが有する副変速機側入力回転数Ni(AT) を上昇させる作用によって抑制する。
【0056】
即ち、ローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cのトルク制御をパワーOFFアップシフトのイナーシャフェーズと同等の状態に切り替える。これにより、パワーON→OFFの切り替わりで、副変速機入力トルクにより副変速機側入力回転数Ni(AT)が低下しようとするのを、解放側のローブレーキLR/Bで引き止めることができる。このため、パワーONアップシフト中のイナーシャフェーズにてアクセルペダルからの足離し操作等によるパワーOFFがあっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがなく、当該レシオ変化が防止される。従って、本制御によれば、パワーONアップシフトのイナーシャフェーズ中にパワーOFFに切り替わることで生じる変速ショックを防止することができるので、最適な変速が実現できる。
【0057】
これに対し、従来の変速制御では、図9に示すように、単なるパワーONアップシフトとして、架け替え変速前のローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cでの所定量スリップ及び締結側のハイクラッチH/Cのトルク伝達準備完了を判断してトルクフェーズを開始し、ローブレーキLR/BとハイクラッチH/Cの架け替えが終了すると、イナーシャフェーズを開始する。この場合、副変速機構9への入力トルクが正であることから、イナーシャフェーズでは、副変速機側入力回転数Ni(AT)の上昇を締結側のハイクラッチH/Cで引き止め、目標レシオに追従するように、副変速機側入力回転数Ni(AT)を制御する。
【0058】
しかしながら、イナーシャフェーズ中にアクセルペダルからの足離し操作等でパワーOFF状態となると、副変速機構9では、図9の一点鎖線で示すように、イナーシャフェーズが急速に進行する。このため、意図しない回転の急変や変速ショックが発生してしまう。
【0059】
これに対し、ステップS8にて、パワーOFFがイナーシャフェーズ中ではないと判定されると、ステップS10に移行し、パワーOFFが先行トルクフェーズ中に行われたものであるかどうかを判定する。
【0060】
ステップS10にて、パワーOFFが先行トルクフェーズ中ではないと判定されると、そのまま本制御を終了するが、パワーOFFが先行トルクフェーズ中であると判定されると、ステップ9に移行し、本発明に従うパワーOFFイナーシャフェーズ制御を実行する。
【0061】
ここでのパワーOFFイナーシャフェーズ制御とは、図10に示すように、パワーOFFと同時に、先行トルクフェーズからイナーシャフェーズに移行することで、トルクフェーズ中のトルク架け替えによりトルク容量を増加させていた締結中のハイクラッチH/C(第2の締結部)を急激に解放すると共に、トルク容量を減少させていた解放中のローブレーキLR/B(第1の締結部)を急激に締結させることで、副変速機側入力回転数Ni(AT) の低下を、ローブレーキLR/Bが有する副変速機側入力回転数Ni(AT) を上昇させる作用によって抑制する。
【0062】
即ち、ローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cのトルク制御をパワーOFFアップシフトのイナーシャフェーズと同等の状態に切り替える。これにより、パワーON→OFFの切り替わりで、副変速機入力トルクにより副変速機側入力回転数Ni(AT)が低下しようとするのを、解放側のローブレーキLR/Bで引き止めることができる。このため、パワーONアップシフト中の先行トルクフェーズにてアクセルペダルからの足離し操作等によるパワーOFFがあっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがなく、当該レシオ変化が防止される。従って、本制御によれば、パワーONアップシフトの先行トルクフェーズ中にパワーOFFに切り替わることで生じる変速ショックを防止することができるので、最適な変速が実現できる。
【0063】
これに対し、従来の変速制御では、図11に示すように、図10で説明したときと同様、単なるパワーONアップシフトとして、トルクフェーズがイナーシャフェーズよりも先行する。この先行トルクフェーズ中では、副変速機構9への入力トルクが正であることから、当該正の入力トルクが副変速機側入力回転数Ni(AT)の上昇を引き止めつつ、入力回転数Ni(AT)の吹け上がりが生じないようにローブレーキLR/BからハイクラッチH/Cへのトルクの架け替えを行う。
【0064】
しかしながら、先行トルクフェーズ中にアクセルペダルからの足離し操作等でパワーOFF状態となると、副変速機構9では、パワーONアップシフトのイナーシャフェーズ中のパワーOFFの場合と同様、図11の一点鎖線で示すように、イナーシャフェーズが急速に進行する。このため、意図しない回転の急変や変速ショックが発生してしまう。
【0065】
一方、ステップS3にてアップシフト中でないと判定されると、ステップS11に移行し、ダウンシフト中であるかどうかを判定する。ステップS11にて、ダウンシフト中でないと判定されると、非変速状態であるとして、本制御をそのまま終了するが、ステップS11にて、ダウンシフト中であると判定されると、ステップS12にて、パワーがOFFからONに切り替わったかどうかを判定する。
【0066】
ステップS12にて、パワーOFF→ONの切り替えが判定されないと、ステップS13に移行し、今度は、パワーがONからOFFに切り替わったかどうかを判定する。ステップS13にて、パワーON→OFFの切り替えが判定されないと、パワーON/OFFの切り替えがないとして、本制御をそのまま終了するが、ステップS13にて、パワーON→OFFの切り替えが判定されると、ステップS14に移行し、パワーON→OFFの切り替えがイナーシャフェーズ中に行われたものであるかどうかを判定する。
【0067】
ステップ14にて、パワーON→OFFの切り替えがイナーシャフェーズ中であったと判定されないときは、そのまま本制御を終了するが、パワーON→OFFの切り替えがイナーシャフェーズ中であったと判定されるときは、パワーONの状態で副変速機構9のダウンシフトが行われる過程で、そのイナーシャフェーズ中にパワーOFFがあったとして、ステップS15に移行し、本発明に従うパワーOFFイナーシャフェーズ制御を実行する。
【0068】
パワーOFFイナーシャフェーズ制御は、図12に示すように、パワーOFFと同時に、副変速機側入力回転数Ni(AT) の上昇を、当該入力回転数Ni(AT)を低下させるように作用することで抑制していた解放側(第1の締結部)のハイクラッチH/Cを急激に解放すると共に、待機中であった締結側(第2の締結部)のローブレーキLR/Bを急激に締結させることで、副変速機側入力回転数Ni(AT) の低下を、ローブレーキLR/Bが有する副変速機側入力回転数Ni(AT) を上昇させる作用によって抑制する。
【0069】
即ち、ローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cのトルク制御をパワーOFFダウンシフトのイナーシャフェーズと同等の状態に切り替える。これにより、パワーON→OFFの切り替わりで、変速機入力トルクにより副変速機側入力回転数Ni(AT)が低下しようとするのを、締結側のローブレーキLR/Bで引き止めることができる。このため、パワーONダウンシフト中のイナーシャフェーズにてアクセルペダルからの足離し操作等によるパワーOFFがあっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがなく、当該レシオ変化が防止される。従って、本制御によれば、パワーONダウンシフトのイナーシャフェーズ中にパワーOFFに切り替わることで生じる変速ショックを防止することができるので、最適な変速が実現できる。
【0070】
これに対し、従来の変速制御では、図13に示すように、単なるパワーONダウンシフトとして、架け替え変速前のローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cでの所定量スリップ及び締結側のハイクラッチH/Cのトルク伝達準備完了を判断してイナーシャフェーズを開始する。この場合、副変速機構への入力トルクが正であることから、イナーシャフェーズでは、副変速機側入力回転数Ni(AT)の上昇を解放側のハイクラッチH/Cで引き止め、目標レシオに追従するように、副変速機側入力回転数Ni(AT)を制御する。
【0071】
しかしながら、イナーシャフェーズ中にアクセルペダルからの足離し操作等でパワーOFF状態となると、副変速機構9では、図13の一点鎖線で示すように、その入力回転数Ni(AT)が逆向きになるようにイナーシャフェーズが進行する。このため、意図しない回転の低下や変速ショックが発生してしまう。
【0072】
ところで、ステップS12にて、パワーがOFFからONに切り替わったと判定されると、ダウンシフト中のパワーONであるとして、ステップS16に移行し、このパワーONがイナーシャフェーズ中に行われたものであるかどうかを判定する。
【0073】
ステップS16にて、パワーONがイナーシャフェーズ中に行われたと判定されると、ステップS17に移行し、本発明に従うパワーONイナーシャフェーズ制御を実行する。
【0074】
パワーONイナーシャフェーズ制御は、図14に示すように、パワーONと同時に、副変速機側入力回転数Ni(AT) の低下を、当該入力回転数Ni(AT)を上昇させるように作用することで抑制していた締結側(第2の締結部)のローブレーキLR/Bを急激に解放すると共に、待機中であった解放側(第1の締結部)のハイクラッチH/Cを急激に締結させることで、副変速機側入力回転数Ni(AT) の上昇を、ハイクラッチH/Cが有する副変速機側入力回転数Ni(AT) を低下させる作用によって抑制する。
【0075】
即ち、ローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cのトルク制御をパワーONダウンシフトのイナーシャフェーズと同等の状態に切り替える。これにより、パワーOFF→ONの切り替わりで、副変速機入力トルクにより副変速機側入力回転数Ni(AT)が上昇しようとするのを、解放側のハイクラッチH/Cで引き止めることができる。このため、パワーOFFダウンシフト中のイナーシャフェーズにてアクセルペダルの踏み込み操作等によるパワーONがあっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがなく、当該レシオ変化が防止される。従って、本制御によれば、パワーOFFダウンシフトのイナーシャフェーズ中にパワーONに切り替わることで生じる変速ショックを防止することができるので、最適な変速が実現できる。
【0076】
これに対し、従来の変速制御では、図15に示すように、単なるパワーOFFダウンシフトとして、架け替え変速前のローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cでの所定量スリップ及び締結側のハイクラッチH/Cのトルク伝達準備完了を判断してトルクフェーズを開始し、ローブレーキLR/BとハイクラッチH/Cの架け替えが終了すると、イナーシャフェーズを開始する。この場合、副変速機構への入力トルクが負であることから、イナーシャフェーズでは、副変速機側入力回転数Ni(AT)の低下を締結側のローブレーキLR/Bで引き止め、目標レシオに追従するように、副変速機側入力回転数Ni(AT)を制御する。
【0077】
しかしながら、イナーシャフェーズ中にアクセルペダルの踏み込み操作等でパワーON状態となると、副変速機構9では、図15の一点鎖線で示すように、イナーシャフェーズが急速に進行する。このため、意図しない回転の急変や変速ショックが発生してしまう。
【0078】
一方、ステップS16にて、パワーONがイナーシャフェーズ中ではないと判定されると、ステップS18に移行し、パワーONが先行トルクフェーズ中に行われたものであるかどうかを判定する。
【0079】
ステップS18にて、パワーONが先行トルクフェーズ中ではないと判定されると、そのまま本制御を終了するが、パワーONが先行トルクフェーズ中であると判定されると、ステップ17に移行し、本発明に従うパワーONイナーシャフェーズ制御を実行する。
【0080】
ここでのパワーONイナーシャフェーズ制御とは、図16に示すように、パワーONと同時に、先行トルクフェーズからイナーシャフェーズに移行することで、トルクフェーズ中のトルク架け替えによりトルク容量を増加させていた締結中のローブレーキLR/B(第2の締結部)を急激に解放すると共に、トルク容量を減少させていた解放中のハイクラッチH/C(第1の締結部)を急激に締結させることで、副変速機側入力回転数Ni(AT) の上昇を、ハイクラッチH/Cが有する副変速機側入力回転数Ni(AT) を低下させる作用によって抑制する。
【0081】
即ち、ローブレーキLR/B及びハイクラッチH/Cのトルク制御をパワーONダウンシフトのイナーシャフェーズと同等の状態に切り替える。これにより、パワーOFF→ONの切り替わりで、副変速機入力トルクにより副変速機側入力回転数Ni(AT)が上昇しようとするのを、解放側のハイクラッチH/Cで引き止めることができる。このため、パワーOFFダウンシフト中の先行トルクフェーズにてアクセルペダルの踏み込み操作等によるパワーONがあっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがなく、当該レシオ変化が防止される。従って、本制御によれば、パワーOFFダウンシフトの先行トルクフェーズ中にパワーONに切り替わることで生じる変速ショックを防止することができるので、最適な変速が実現できる。
【0082】
これに対し、従来の変速制御では、図17に示すように、図15で説明したときと同様、単なるパワーOFFダウンシフトとして、トルクフェーズがイナーシャフェーズよりも先行する。この先行トルクフェーズ中では、副変速機構9への入力トルクが負であることから、当該負の入力トルクが副変速機側入力回転数Ni(AT)の低下を引き止めつつ、入力回転数Ni(AT)の低下が生じないようにハイクラッチH/CからローブレーキLR/Bへのトルクの架け替えを行う。
【0083】
しかしながら、先行トルクフェーズ中にアクセルペダルの踏み込み操作等でパワーON状態となると、副変速機構9では、パワーOFFダウンシフトのイナーシャフェーズ中のパワーONの場合と同様、図17の一点鎖線で示すように、イナーシャフェーズが急速に進行する。このため、意図しない回転の急変や変速ショックが発生してしまう。
【0084】
上述のとおり、本発明によれば、副変速機構9の入力回転数Ni(AT)をハイクラッチH/CとローブレーキLR/Bとの架け替えにより目標の入力回転数Ni(AT)(o)に変速制御する過程で、パワーのON/OFF状態が切り替わっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがなく、当該レシオ変化が防止される。従って、本発明によれば、副変速機構側入力回転数Ni(AT)をハイクラッチH/CとローブレーキLR/Bとの架け替えにより目標の入力回転数Ni(AT)(o)に変速制御する過程で、パワーのON/OFF状態が切り替わることで生じる変速ショックを防止することができる。
【0085】
特に、上述の如く、パワーOFFアップシフトのイナーシャフェーズ中のパワーON、パワーONアップシフトのイナーシャフェーズ中のパワーOFF、パワーONダウンシフトのイナーシャフェーズ中のパワーOFF、パワーOFFダウンシフトのイナーシャフェーズ中のパワーONの場合には、イナーシャフェーズ時に、パワーのON/OFF状態が切り替わると、解放側の締結部を解放させると共に、架け替え変速制御が締結側の締結部で行われるように当該締結側の締結部を締結させることで、イナーシャフェーズ時にパワーのON/OFF状態が切り替わっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがなく、当該レシオ変化が防止される。従って、本発明によれば、イナーシャフェーズ時にパワーのON/OFF状態が切り替わることで生じる変速ショックを防止することができる。
【0086】
また、上述の如く、パワーONアップシフトの先行トルクフェーズ中のパワーOFFや、パワーOFFダウンシフトの先行トルクフェーズ中のパワーONの場合には、先行トルクフェーズ時に、パワーのON/OFF状態が切り替わると、解放側の締結部を締結させると共に、架け替え変速制御が締結側の締結部で行われるように当該締結側の締結部を解放させることで、先行トルクフェーズ時にパワーのON/OFF状態が切り替わっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがなく、当該レシオ変化が防止される。従って、本発明によれば、先行トルクフェーズ時にパワーのON/OFF状態が切り替わることで生じる変速ショックを防止することができる。
【0087】
また、本発明を、本形態の自動変速機4のように、無段変速機構8を有し、副変速機構9の変速制御と協調して目標のレシオRa(total)を実現するように変速制御が行われる自動変速機に採用した場合、副変速機構9での架け替えにより目標入力回転数Ni(AT)(o)に変速制御する過程で、パワーのON/OFF状態が切り替わっても、副変速機構9での予期せぬレシオ変化が生じることがないので、副変速機構9の変速制御と無段変速機構8の変速制御との協調が崩れることなく、安定した協調制御が実現できる。
【0088】
更に、本形態の如く、無段変速機構8が、副変速機構9の変速制御との協調をパワーのON/OFF状態が切り替わったときに開始するものとすれば、副変速機構9の実際の入力回転数Ni(AT)が目標の入力回転数Ni(AT)(o)になるように、当該副変速機構9への入力トルクに応じて解放側の締結部で回転数制御を実行することができる。
【0089】
ところで、パワーのON/OFFは、アクセルペダル操作(例えば、アクセル開度スイッチのON/OFF)で判定することができるが、アクセルペダル操作が小さいと、実際にはパワーON/OFF状態が切り替わっているにも係わらず、このパワーON/OFF状態の切り替えが判定できないことがある。
【0090】
これに対し、クラッチやブレーキ等の締結部は、その締結により、当該締結部の入出力回転数を同じにするという機能を有している。そこで、本形態では、副変速機構8の回転数の変化からパワーのON/OFF状態が切り替わったことを判定する。
【0091】
具体例としては、架け替え変速が行われていない非変速中や、架け替え変速が実行されるときであっても変速を判断してトルクフェーズ又はイナーシャフェーズに入る前の準備フェーズ中では、図18(a)に示すように、副変速機構9の締結部(ローブレーキLR/B又はハイクラッチH/C)の締結回転数Ncを基に、この締結回転数Ncに対して自動変速機入力回転数Niが予め設定した閾値ΔN以上に上昇すれば、パワーONと判定し、自動変速機入力回転数Niが閾値ΔN以下に低下すれば、パワーOFFと判定する。
【0092】
また、トルクフェーズ又はイナーシャフェーズに入った変速中では、パワーONについては、図18(b)に示すように、副変速機構9の低変速段(ローブレーキLR/B)の締結回転数Nc(Low)を基に、この締結回転数Nc(Low)に対して自動変速機入力回転数Niが予め設定した閾値ΔN以上に上昇すれば、パワーONと判定する一方、
パワーOFFについては、図18(b)に示すように、副変速機構9の高変速段(ハイクラッチH/C)の締結回転数Nc(Hi)を基に、この締結回転数Nc(Hi)に対して自動変速機入力回転数Niが予め設定した閾値ΔN以下に低下すれば、パワーOFFと判定する。即ち、本形態では、変速機コントローラ11がパワーON/OFF状態判定手段に相当する。
【0093】
本形態の如く、副変速機構9の回転数の変化からパワーのON/OFF状態が切り替わったことを判定すれば、エンジン等の駆動源から副変速機構9に入力されるトルクがゼロ付近の小さい値であっても、パワーのON/OFF状態を正確に判定することができる。なお、閾値ΔNは、運転者の要求や車種等に応じて適宜変更でき、例えば、ローブレーキR/B及びハイクラッチH/Cのスリップを確実に判断でき、且つ、小さな値(例えば、20〜50回転)とすることができる。
【0094】
上述したところは、本発明の好適な形態を示したものであるが、特許請求の範囲内において、種々の変更を加えることができる。本発明に従えば、例えば、自動変速機4として副変速機構9そのものを用いた場合にも適用させることができる。なお、副変速機構9そのものを自動変速機として用いた場合には、目標入力回転数等の制御されるべき入力回転数は、副変速機構9の入力回転数となる。また、副変速機構9は、2速以上の多段とすることも可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 エンジン
2 トルクコンバータ
3 減速機構
4 自動変速機
5 自動変速機出力軸
6 ファイナルドライブギア機構
7 車輪
8 無段変速機構
8a 駆動プーリ
8b 従動プーリ
8c ベルト
9 副変速機構(有段変速機構)
9a 複合サンギア
9b キャリア
9c リングギア
10 油圧コントロールバルブユニット
11 変速機コントローラ
e エンジン回転センサ
i 自動変速機入力回転センサ
o 自動変速機出力回転センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の締結部を有し当該締結部の解放及び締結を組み合わせることで目標の変速段が決定される有段変速機構と、パワーのON/OFF状態を判定するパワーON/OFF状態判定手段と、有段変速機構に入力されるトルクに応じて第1の締結部を解放させると共に第2の締結部を締結させることで有段変速機構を目標の回転数に変速制御する変速制御手段とを有し、
当該変速制御手段は、有段変速機構を変速制御する過程で、パワーのON/OFF状態が切り替わったときは、パワーの切り替えによって生じる有段変速機構の入力回転数の変動を抑えることができる第1又は第2の締結部のいずれか一方を締結させると共に、他方の締結部を解放させるものである、自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記制御手段は、有段変速機構を変速制御時のイナーシャフェーズ中に、パワーのON/OFF状態が切り替わったときは、解放側の締結部を解放させると共に、パワーの切り替えによって生じる有段変速機構の入力回転数の変動が締結側の締結部で抑えられるように当該締結側の締結部を締結させるものである、自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1において、前記回転数制御手段は、有段変速機構の変速制御時のトルクフェーズがイナーシャフェーズよりも先行した場合の当該トルクフェーズ中に、パワーのON/OFF状態が切り替わったときは、締結側の締結部を解放させると共に、パワーの切り替えによって生じる有段変速機構の入力回転数の変動が解放側の締結部で抑えられるように当該解放側の締結部を締結させるものである、自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、有段変速機構の変速制御と協調して目標の変速比を実現するように変速制御が行われる無段変速機構を有する、自動変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項4において、無段変速機構は、有段変速機構の変速制御との協調をパワーのON/OFF状態が切り替わったときに開始するものである、自動変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、パワーON/OFF状態判定手段は、有段変速機構の回転数の変化からパワーのON/OFF状態が切り替わったことを判定するものである、自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−209946(P2010−209946A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54026(P2009−54026)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】