説明

自動車用開閉体の建付精度評価方法

【課題】インラインでのサイドドアの全数検査が可能であって、ボデイに実際のサイドドアを組み付けることなく、組み立てられた実際のサイドドアの建付精度の評価に同じく実際に生産されたボデイ側のドア開口部の形状を反映させて、ドアの建付精度の評価結果の信頼性向上を図った方法を提供する。
【解決手段】組み立てられたサイドドアDrまたはDf単独の実測データと、同じく組み立てられたボデイ単独での実測データとを、データ処理装置23においてボデイ座標系のドアヒンジ取付穴を基準に互いに突き合わせて、サイドドアのパーティング部での建付精度を演算・解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車におけるサイドドア等の開閉体の建付精度評価方法に関し、例えば自動車の組立工程のうちドアサブラインで組み立てられたサイドドアについて、これとは別のボデイメイン組立工程で組み立てられたボデイメインのドア開口部に対するいわゆる建付精度を実際にドアをボデイに組み付けることなく計測・評価できるようにし、もってサイドドア等の開閉体の建付精度の全数検査を可能とした自動車用開閉体の建付精度評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、例えば特許文献1に記載のように、基準となるマスタードア(設計上の理想的なドアではなく、実際に生産されたドアのなかから抽出した一つのドアであって、且つボデイに組み付けた際にそのドアパーティング部では品質保証内の建付精度である隙間および面差(段差)を生じるもの)の形状を三次元測定機等にて計測した上でボデイのCADデータと照合することにより、各計測点での建付精度である隙間および面差のデータをマスタドア値として記憶させておく一方、計測対象となるドア単体の状態でその形状精度を計測した上で上記マスタドア値を閾値として照合することによりその適否判定を行うようにしたものがある。
【0003】
また、別の技術として、特許文献2に記載のように、ボデイの一部となるボデイサイド(サイドパネル)に形成されたドア開口部にサイドドアを組み付けた状態で、ボデイサイドとサイドドアの外側面任意箇所にそれぞれ複数の基準マークを付しておき、基準マークを含むボデイサイドとサイドドアの外側面形状を三次元デジタイザのスキャナで計測する一方、ボデイサイドからサイドドアを取り外して、ボデイサイド側のドア開口部の形状と、取り外したサイドドアの周縁部形状をそれぞれ三次元デジタイザのスキャナで計測し、基準マークを基準として、ボデイサイドの開口部の形状とサイドドアの周縁部形状とをコンピュータにて両者の組付状態に合成・再現することにより、いわゆるドアパーティング部での隙間や面差を計測可能としたものがある。
【特許文献1】特開2006−153805号公報
【特許文献2】特開2002−2566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前者の技術では、組み立てられたドアの全数検査は一応可能ではあっても、ドアの形状精度の評価または適否判定に使用されるボデイサイド側のドア開口部のデータとしてCADデータが使用されていて、実際に生産されたボデイサイドのドア開口部の形状精度が反映されていないため、実際に生産された自動車におけるドアの形状精度の評価または適否判定結果の向上に限界がある。
【0005】
また、後者の技術では、実際のボデイサイドにサイドドアが組み付けられた状態での検査ではあっても、その都度サイドドアを組み付けたり取り外す工数が必要となることから、いわゆるインラインでの全数検査はタクトタイム的に困難であり、結果として抜き取り検査にならざるを得ないことから、サイドドア全数の品質保証の上でなおも改善の余地を残している。
【0006】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、いわゆるインラインでのサイドドアに代表されるような開閉体の全数検査が可能であって、しかもボデイに実際の開閉体を組み付けることなく、組み立てられた実際の開閉体の建付精度の評価に同じく実際に生産されたボデイ側の開閉体用開口部の形状を反映させて、もって実際に生産された自動車における開閉体の建付精度の評価結果の一層の信頼性向上を可能とした自動車用開閉体の建付精度評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、自動車のサイドドアに代表されるような開閉体がボデイに組み付けられたときの建付精度を評価する方法であって、大別して開閉体側計測工程とボデイ側計測工程および解析工程とを含んでいる。
【0008】
上記開閉体側計測工程では、開閉体組立工程において組み立てられた開閉体のうち基準点となる少なくとも二つのヒンジ取付穴の三次元位置のほか、開閉体の外側面の周縁部における複数の開閉体側評価点の少なくとも内外方向位置を計測して、それらの計測データを開閉体固有の識別情報ととともに保存するとともに、上記各開閉体側評価点の計測データと予め設定されている基準データとを比較して開閉体単独での形状の適否判定を行う。
【0009】
また、上記ボデイ側計測工程では、ボデイメイン組立工程において組み立てられたボデイのうち基準点となる少なくとも二つのヒンジ取付穴の三次元位置のほか、ボデイ外側面のうち開閉体用開口部の周縁部であって且つ開閉体の組付状態において各開閉体側評価点に近接することになる複数のボデイ側評価点の少なくとも内外方向位置を計測して、それらの計測データをボデイ固有の識別情報ととともに保存する。
【0010】
そして、上記解析工程では、特定の開閉体が組み付けられるべき特定のボデイが決定した段階で両者の識別情報と計測データの関連付けを行うとともに、計測データ上において特定のボデイ側のヒンジ取付穴と特定の開閉体側のヒンジ取付穴とを合わせたときのボデイ側の開閉体用開口部と開閉体との間に形成される建付誤差を演算・解析してその結果を出力する。もちろん、この段階で建付誤差の適否判定までも行っても良い。
【0011】
ここで、特定の開閉体が組み付けられるべき特定のボデイとは、完成車となった段階で上記特定の開閉体が組み付けられているボデイを想定していて、また、上記建付誤差とは、ボデイ側の開閉体用開口部と開閉体とのパーティングに形成される隙間および面差(段差)の大きさを想定している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サイドドアに代表されるような開閉体とボデイの形状をそれぞれ単独の状態で計測するとともに、開閉体をボデイに組み付けることなしに開閉体の形状精度とボデイに組み付けられたときの建付精度を評価できるので、いわゆるインラインでの開閉体全数の建付精度の評価が可能であり、実際に生産された自動車における開閉体の建付精度の評価結果の信頼性向上が図れる。
【0013】
しかも、開閉体が組み付けられるべきボデイ側の開閉体用開口部のデータとして、完成車となった段階で特定の開閉体が組み付けられている特定のボデイの開閉体用開口部のデータを使用しているので、開閉体の建付精度の評価結果の信頼性が一段と向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1以下の図面は本発明に係る建付精度評価方法のより具体的な実施の形態を示す図であり、ここでは開閉体がサイドドアである場合の例を示している。
【0015】
図1はドアサブラインとしてのドア組立工程に隣接するように配置されたドア計測工程S1の概略平面図を示している。
【0016】
ドア組立工程には、周知のように図示外のヘミングプレス設備とブレージング設備が用意されており、ドアアウタパネルとドアインナパネルとをヘミング結合してドア本体とした上で、さらにそのドア本体にドアサッシュをブレージング(ろう付け)をもって接合することによりサイドドアとしてのフロントドアまたはリアドアが組み立てられる。そして、そのドア組立工程で組み立てられたサイドドアがフロントドアまたはリアドアごとに左右セットとして順次図1のドア計測工程に搬入される。
【0017】
図1のドア計測工程S1には、左右のドアごとにそれぞれ独立したドア置き台1と、計測ロボット2、印刷器3、および操作盤4等が配置されている。
【0018】
ドア置き台1は、図2,3のほか図4にも示すように、計測対象となるサイドドア、すなわちリア側のサイドドアDrまたはフロント側のサイドドアDfの下縁のヘミング結合部とドアアウタパネル側の外側面を支持部としてそのサイドドアDrまたはDfを若干傾斜した起立姿勢にて自重のみで位置決め支持するためのもので、台座5の上に一対の背当てポスト6が立設されているほか、複数のネストブロック7a〜7eと可動式の位置決めストッパ8が設けられている。
【0019】
一対の背当てブロック6は、先に述べたようにリア側のサイドドアDrであるかフロント側のサイドドアDfであるかにかかわらず計測対象となるサイドドアDrまたはDfのドアアウタパネルの外側面に当てて、その車幅方向位置を規制しつつサイドドアDrまたはDfを起立姿勢に保つためのものである。
【0020】
また、複数のネストブロック7a〜7eは、先に述べたようにリア側のサイドドアDrであるかフロント側のサイドドアDfであるかにかかわらず計測対象となるサイドドアDrまたはDfの下縁のヘミング結合部を位置決め支持して、その上下方向の位置を規制するためのもので、いずれも略Vブロック状のものとして形成してある。そして、複数のネストブロック7a〜7cが定位置固定式のものであるのに対して、残りの複数のネストブロック7d,7eは直動型アクチュエータであるエアシリンダ9の伸縮作動に応じてスライド可能となっていて、これらの各ネストブロック7a〜7eは図3に示すように計測対象となるサイドドアDrまたはDfの違い、あるいは車種の違いに応じて適宜使い分けられる。
【0021】
さらに、位置決めストッパ8は上記ネストブロック7a〜7eや背当てポスト6によって位置決め支持されたサイドドアDrまたはDfの前後方向(車両前後方向)の位置規制を行うためのもので、直動型アクチュエータであるエアシリンダ10の伸縮作動に応じて進退可能となっている。そして、位置決めストッパ8が後退している状態で、ネストブロック7a〜7eや背当てポスト6によって計測対象となるサイドドアDrまたはDfを位置決め支持した上で位置決めストッパ8を前進限位置まで前進動作させることにより、サイドドアDrまたはDfの前後方向の位置決めがなされるようになっている。
【0022】
すなわち、上記のネストブロック7a〜7eや背当てポスト6および位置決めストッパ8によって、図4にも示すように計測対象となるサイドドアDrまたはDfが車外側に若干傾斜した起立姿勢をもって自重のみで上下、左右および前後方向の三次元方向の位置決めがなされるようになっている。なお、ドア置き台1上のサイドドアDrまたはDfはボデイ座標系上での正規姿勢に対して約10°程度傾斜している。したがって、サイドドアDrまたはDfの形状計測に先立つサイドドアDrまたはDfの位置決めに際してクランプ機構等の固定手段は一切必要とせず、特に作業者による手搬送にてサイドドアDrまたはDfをドア置き台1上に位置決めする場合にも作業性に優れたものとなる。ただし、計測対象となるサイドドアDrまたはDfをロボット等の自動搬送手段にて自動搬送して位置決め支持させることももちろん可能である。
【0023】
計測ロボット2は、そのアーム先端に非接触式の計測センサ11を持たせたもので、予め指定されている計測ポイントに計測センサ11を移動させてサイドドアDrまたはDfの外側面の所定位置にその計測センサ11を正対させることで、当該計測ポイントの位置を計測するものである。この計測センサ11は、レーザ光照射機能とCCD等の撮像素子とを組み合わせた三次元位置の計測が可能な公知のタイプのものである。
【0024】
印刷器3は、ドア置き台1上にてサイドドアDrまたはDfの計測が行われる度にその計測対象となったサイドドアDrまたはDf固有の識別情報をバーコードラベルのかたちで印刷・発行するもので、発行されたバーコードラベルは計測完了後にその計測対象となったサイドドアDrまたはDfの所定の位置に自動または手動にて貼り付けられる。
【0025】
ここに言うサイドドア固有の識別情報とは、自他識別が可能なように例えば数字とアルファベットとを組み合わせた任意の桁数の識別番号であって、この識別番号には、例えば基本連続番号のほか、車種情報、フロントドアまたはリアドアの区別、右側ドアまたは左側ドアの区別、さらにはドア組立が行われたドアサブラインのライン番号等が含まれている。
【0026】
こうしてドア計測工程S1を経た各サイドドアDrまたはDfは、後段のドア仕上げラインを経た後に周知のように図1のメタルラインS2(別のボデイメインラインにて組み立てられたボデイ(ボデイメイン)Bに対して、サイドドアDrまたはDfをはじめとするフード、トランクリッドまたはバックドア等のいわゆる蓋物または開閉体を組み付ける作業を主としたライン)へと投入され、ドアサブラインとは別のボデイメインラインで組み立てられたボデイBに対して組み付けられることになる。
【0027】
図4は、ドア置き台1上に位置決め支持されたサイドドア、ここではリア側のDrの計測ポイントP1〜P10の詳細を示している。なお、この計測ポイントP1〜P10の位置はフロント側のサイドドアDfの場合でも図3に示すように基本的には変わりはない。
【0028】
周知のように、いわゆる前ヒンジタイプのサイドドアDrは車両正面視においてドアヒンジ取付面に上下一対のドアヒンジをボルトにて締結するために各二つずつで合計四つのドアヒンジ取付穴Hが形成されていることから、各二つずつのドアヒンジ取付穴Hのうちそれぞれ上側のドアヒンジ取付穴Hの位置を計測ポイントP1,P2とする。また、サイドドアDrのドアアウタパネル側の外側面のうち前後の周縁部の合計4箇所P3〜P6の位置と、ドアサッシュの外側面のうち4箇所P7〜P10の位置をそれぞれ計測ポイントとし、先の二つのヒンジ取付穴Hの計測ポイントP1,P2を含めた合計10ポイントを計測ポイントP1〜P10として計測ロボット2にて計測する。なお、計測ポイントP1,P2であるドアヒンジ取付穴Hの位置および計測ポイントP5の車幅方向位置(内外方向位置)は後述するように基準点として機能し、また計測ポイントP5を含む残りの計測ポイントP3〜P10の車幅方向位置はドア側評価点として機能することになる。
【0029】
より具体的には、ドア置き台1上に位置決め支持されたサイドドアDrの計測ポイントP1〜P10に対して、計測ロボット2に持たせた計測センサ11を順次移動させて、各ポイントP1〜P10につき2〜3秒にて該当する計測ポイントの位置を非接触にて計測する。ここでは、ドアヒンジ取付穴Hに関する計測ポイントP1,P2についてのみ三次元位置の計測データを収集し、それ以外の計測ポイントP3〜P10については一次元(車幅方向位置=内外方向位置)の計測データを収集するが、計測ポイントP3〜P10についても三次元の位置データとして収集することももちろん可能である。そして、図5に示すように計測センサ11によって得られた各計測ポイントP1〜P10の計測データ(実測データ)は画像前処理を経た上でデータ収集用端末機(ここに言う端末機とは、いわゆるパーソナルコンピュータを指している。以下、同じ。)12に書き込んで記憶・保存される。なお、各ドアヒンジ取付穴Hに関する計測ポイントP1,P2の位置は別途独立させた定位置固定式の専用の計測センサにて計測するようにしても良い。
【0030】
ここで、上記各計測ポイントP1〜P10の計測データはロボット座標系のデータであり、しかも図4に示すようにドア置き台1上のサイドドアDrはボデイ座標系での正規姿勢に対して約10°程度傾斜している。そこで、図4に示すようにロボット座標系でのサイドドアDrの傾斜角度を相殺するべく、基準点である上下一対のドアヒンジ取付穴Hに関する計測ポイントP1,P2の位置と計測ポイントP5の位置がボデイ座標系での正規位置(いわゆる図面値)に一致するようにロボット座標を座標変換し(図4の(C)の矢印方向に回転させる)、上下一対のドアヒンジ取付穴Hに関する計測ポイントP1,P2の計測データと上記計測ポイントP5の計測データとともに、残りの各計測ポイントP1〜P10の計測データをボデイ座標系でのデータに換算して記憶・保存し直す。なお、基準点である上下一対のドアヒンジ取付穴Hに関する計測ポイントP1,P2の位置のみがボデイ座標系での正規位置に一致するようにロボット座標を座標変換しても良いが、精度向上の上では上記のようにドアヒンジ取付穴Hに関する計測ポイントP1,P2の位置と計測ポイントP5の位置とを併用することが望ましい。
【0031】
同時に、ドア計測後であって且つドア置き台1からサイドドアDrを取り出す前に、図5に示すように自動番号発生機能付きの印刷器3にて計測対象となったサイドドア固有のドア識別情報をバーコードラベル13のかたちで印刷・発行し、ドア識別情報そのものは先のデータとともに保存されるとともに、発行されたバーコードラベル13はサイドドアDrの所定の位置に貼り付ける。
【0032】
計測データが記憶・保存されたデータ収集用端末機12には予め各計測ポイントP1〜P10毎の基準データが保存されており、その基準データとの比較・照合によりサイドドアDr単独での形状の適否判定(いわゆる「OK」または「NG」の判定)がなされ、その判定結果がデータ収集用端末機12に可視表示される。なお、上記基準データとしては、ほぼ設計値通りに組み立てられた理想的なドアを三次元計測機等にて計測して得られたデータ、または設計値であるCADデータが使用される。
【0033】
データ収集用端末機12での判定結果は同時にドア計測工程S1に設置された警報用端末機14にも送られて可視表示されるとともに、判定結果が「NG」の場合にはその警報用端末機14に付帯している警報ランプ15を点灯させて作業者に告知し、作業者は例えばそのサイドドアDrを抜き出して「要手直し品」として振り分け、それ以外の場合には計測後のサイドドアDrを後段のドア仕上げ工程向けとして振り分ける。そして、ドア仕上げ工程を経たサイドドアDrは、先にも述べたように図1に示すメタルラインS2のドア組付工程に投入されて、順次ボデイBに組み付けられることになる。
【0034】
さらに、データ収集用端末機12に収集された計測データはドア識別情報および適否判定結果とともにドア管理データベースであるドア管理装置16に送信されて蓄積される。なお、このドア管理装置16もまたパーソナルコンピュータにて構成されている。これらの処理は、計測対象となるサイドドアがフロント側のサイドドアDfである場合でも全く同様である。
【0035】
ドアサブラインとは別のボデイメインラインでは、図6に示すようにフロアメインに対して両側のボデイサイドやルーフパネル等を組み付けることでボデイ(ボデイメイン)Bとしての完成度が高められる。ボデイメインラインのボデイ計測工程では、先に述べたドア計測工程S1と同様の手法によりそのボデイB側の基準点のほかボデイ側評価点の計測が行われる。
【0036】
すなわち、ボデイBのセンターピラーPsにはサイドドアDr側と同様にドアヒンジ取付穴Hが形成されているので、基準点となるこの上下二つのドアヒンジ取付穴Hの三次元位置を計測ポイントとして計測するとともに、同様にボデイ側評価点となるリアドア開口部の後側4箇所の計測ポイントP11〜P14の車幅方向位置(内外方向位置)を計測する。
【0037】
さらに、ボデイBのフロントピラーPfにはサイドドアDf側と同様にドアヒンジ取付穴Hが形成されているので、基準点となるこの上下二つのドアヒンジ取付穴Hの三次元位置を計測ポイントとして計測するとともに、同様にボデイ側評価点となるフロントドア開口部の前側4箇所の計測ポイントP21〜P24の車幅方向位置(内外方向位置)を計測する。
【0038】
これらのボデイ側評価点となる計測ポイントP11〜P14の位置は、開閉体用開口部たる各リアドア開口部に図4のサイドドアDrを組み付けた時にそのドア側評価点となる計測ポイントP5,P6およびP9,P10に近接することになる部位が選択され、同様にボデイ側評価点となる計測ポイントP21〜P24の位置は、開閉体用開口部たる各フロントドア開口部に図3のサイドドアDfを組み付けた時にそのドア側評価点となる計測ポイントP3,P4およびP7,P8に近接することになる部位が選択される。
【0039】
また、サイドドアDrまたはDfが組み付けられる前のボデイBにあっても、上記のような計測と並行して、サイドドアDrまたはDfと同様に固有のボデイ識別情報がバーコードラベル17(図5参照)のかたちで貼り付けられる。このボデイB側の計測データも、基準点である上下一対のドアヒンジ取付穴Hに関する計測ポイントの位置と計測ポイントP13の位置がボデイ座標系での正規位置(いわゆる図面値)に一致するようにボデイ座標系でのデータに座標変換された上で、ボデイ識別情報とともに図5のボデイメインライン管理データベース18に一旦蓄積され、さらに中継用端末機19を介してボデイメイン管理データベースであるボデイ管理端末機20に送信されて蓄積される。
【0040】
先に述べた図1のメタルラインS2のドア組付工程では、ボデイBを搬送するためのコンベヤのラインサイドに先のドア仕上げラインを経たサイドドアDr,Dfが用意されていて、コンベヤにより順次搬送されてくるボデイBに対して作業者の手によりサイドドアDr,Dfが組み付けられることになる。このサイドドア組付完了の時点で初めて特定のボデイBと特定のサイドドアDr,Dfとの組み合わせが決定することになり、後工程である塗装後の艤装組立工程において一時的にボデイBから各サイドドアDr,Dfが取り外されることはあっても、特定のボデイBと特定のサイドドアDr,Dfとの組み合わせは完成車となった段階においても変わることはない。なお、サイドドアDr,Dfが組み付けられる前のボデイBにあっても、ボデイBとして完成した段階でサイドドアDr,Dfと同様に固有の識別情報がバーコードラベル17のかたちで予め貼付されていることは先に述べた通りである。
【0041】
そして、ボデイBへのサイドドアDr,Dfの組み付けが完了した段階で図5に示すようにボデイBとサイドドアDr,Dfの関連付けが行われる。すなわち、この段階では完成車となったときの特定のボデイBと特定のサイドドアDr,Dfとの関係が初めて決まったことになるので、作業者はメタルラインのラインサイドに用意されている図1のバーコード読取装置21を用いて、ボデイB側のバーコードラベル17のボデイ識別情報と各サイドドアDr,Df側のバーコードラベル13のドア識別情報とをそれぞれ読み取って読取用端末機22に書き込み、この読取用端末機22にてボデイ識別情報とドア識別情報とを結合する。つまり、特定のボデイBと特定のサイドドアDr,Dfとの関係が定まったことに伴い、双方の識別情報も不離一体の関係に結合し、リアルタイムで図5のデータ処理装置23に送信する。なお、このデータ処理装置23もまたパーソナルコンピュータにて構成されている。
【0042】
データ処理装置23では、受信したボデイ識別情報とドア識別情報に基づき、ボデイ管理端末機20およびドア管理端末機16から該当する識別情報のボデイB側の計測データとサイドドアDr,Df側の計測データをそれぞれ抽出し、図6の各ドア開口部にサイドドアDr,Dfを組み付けた場合と同様の状態をボデイB側の計測データと各サイドドアDr,Df側の計測データとを突き合わせてデータ上にて再現し、ボデイB側のドアヒンジ取付穴Hを基準としたときの各サイドドアDr,Dfの建付精度の演算・解析処理を実行する。
【0043】
すなわち、計測データ上においてボデイBのセンターピラーPs側のドアヒンジ取付穴Hにリア側のサイドドアDrのドアヒンジ取付穴Hを合わせたときのボデイ側評価点である計測ポイントP11〜P14とドア側評価点である計測ポイントP5,P6,P9,P10のデータ同士を突き合わせて、仮想ドア閉時にリアドア開口部とサイドドアDrとのパーティング部に不可避的に発生する建付誤差を算出する。
【0044】
同様に、計測データ上においてボデイBのフロントピラーPf側のドアヒンジ取付穴Hにフロント側のサイドドアDfのドアヒンジ取付穴Hを合わせたときのボデイ側評価点である計測ポイントP21〜P24とドア側評価点である計測ポイントP7,P8,P3,P4のデータ同士を突き合わせて、仮想ドア閉時にフロントドア開口部とサイドドアDfとのパーティング部に不可避的に発生する建付誤差を算出する。
【0045】
さらに、リア側のサイドドアDrのドア側評価点である計測ポイントP3,P4,P7,P8とフロント側のサイドドアDfのドア側評価点である計測ポイントP5,P6,P9,P10のデータ同士を突き合わせて、仮想ドア閉時にフロント側のサイドドアドアDfとリア側のサイドドアDrとのパーティング部に不可避的に発生する建付誤差を算出する。
【0046】
例えば図7は仮想ドア閉時に相互に近接することになるフロント側のサイドドアDfのドア側評価点P7(図3参照)とそれに対応するボデイ側評価点P21(図6参照)との関係を示したものであるが、少なくともドア側評価点P7の車幅方向位置とボデイ側評価点P21の車幅方向位置との差αを建付精度値として算出する。この建付精度値αを算出すれば、仮想ドア閉時にボデイB側のフロントドア開口部とフロント側のサイドドアDfとの間に形成されるパーティング隙間のほか、その隙間をはさんで近接することになるドア側評価点P7とボデイ側評価点P21との面差(段差)を予測・評価することが可能となる。これらの算出したデータは少なくともボデイ管理端末機20にドア単品での計測データとともに書き込む一方、サーバーとして機能するデータ一括管理データベース24にも登録して蓄積する。同時に、予め上記建付精度値に関する基準値をデータ処理装置23に設定・記憶させておき、リアルタイム処理で上記建付精度値の基準値に対する誤差を算出するとともに、その適否判定をも行い、その結果も保存する。
【0047】
そして、図5のほか図8の(A)に示すように、データ一括管理データベース24にアクセス可能なデータ閲覧端末機25に、ボデイ側のドアヒンジ取付穴Hに関する実測値(図8の(A)のa1欄)のほか、ボデイB単体でのボデイ側評価点P11〜P14およびP21〜P24での実測値(同じくa2欄)、フロント側およびリア側の各サイドドアDf,Dr単体でのドア側評価点P3〜P10での実測値(同じくa3欄)、および先の建付精度の演算・解析処理時の基準値に対する誤差(同じくa4欄)等をリアルタイムで可視表示する。
【0048】
同時に、同図(B)に示すようにデータ閲覧端末機25側からアクセスすることで、蓄積したデータの平均値、最大値、最小値等を目標値とともにデータ推移グラフとして可視表示することが可能である。
【0049】
このように本実施の形態によれば、各サイドドアDr,DfとボデイBの形状をそれぞれ単独の状態で計測することで、各サイドドアDr,DfをボデイBに組み付けることなしにサイドドアDr,Dfの形状精度とボデイBに組み付けられたときの建付精度を評価できるので、いわゆるインラインでのサイドドアDr,Df全数の建付精度の評価が可能であり、実際に生産された自動車におけるサイドドアDr,Dfの建付精度の評価結果の信頼性が向上するようになる。特に、サイドドアDr,Dfが組み付けられるべきボデイB側のドア開口部のデータとして、完成車となった段階で特定のサイドドアDr,Dfが組み付けられている特定のボデイBのドア開口部のデータを使用しているので、サイドドアDr,Dfの建付精度の評価結果の信頼性が一段と向上することになる。
【0050】
ここで、上記実施の形態では開閉体がいわゆる前ヒンジタイプのサイドドアである場合の例を示したが、本発明は必ずしも前ヒンジタイプのサイドドアのみに限定されない。例えば、前ヒンジタイプのフロントドアと後ヒンジタイプのリアドアとを組み合わせたサイドドアのほか、上ヒンジあるいは下ヒンジタイプのバックドアや、横ヒンジタイプのバックドア等にも同様に適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明が適用される計測システムの概略平面説明図。
【図2】図1におけるドア置き台の詳細を示す斜視図。
【図3】図2のドア置き台にサイドドアを位置決め支持させた状態を示す説明図。
【図4】図2のドア置き台に対するサイドドアの位置決め支持姿勢とドア側評価点との関係を示す説明図。
【図5】図1のシステムにおけるデータ処理系統の概略説明図。
【図6】ボデイの概略構造を示す斜視図。
【図7】図3に示したドア側評価点P7での拡大断面説明図。
【図8】図5のデータ処理系統での出力例を示す説明図。
【符号の説明】
【0052】
1…ドア置き台
2…計測ロボット
3…印刷器
11…計測センサ
13…ドア識別情報(バーコードラベル)
17…ボデイ識別情報(バーコードラベル)
B…ボデイ
Df…フロント側のサイドドア(開閉体)
Dr…リア側のサイドドア(開閉体)
H…ドアヒンジ取付穴
P1,P2…ドアヒンジ取付穴の計測ポイント(基準点)
P3,P4…サイドドア側の計測ポイント(ドア側評価点)
P5…サイドドア側の計測ポイント(基準点兼ドア側評価点)
P6〜P10…サイドドア側の計測ポイント(ドア側評価点)
P11,P12…ボデイ側の計測ポイント(ボデイ側評価点)
P13…ボデイ側の計測ポイント(基準点兼ドア側評価点)
P14…ボデイ側の計測ポイント(ボデイ側評価点)
P21〜P24…ボデイ側の計測ポイント(ボデイ側評価点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の開閉体がボデイに組み付けられたときの建付精度を評価する方法であって、
開閉体の組立工程において組み立てられた開閉体のうち基準点となる少なくとも二つのヒンジ取付穴の三次元位置のほか、開閉体の外側面の周縁部における複数の開閉体側評価点の少なくとも内外方向位置を計測して、それらの計測データを開閉体固有の識別情報ととともに保存するとともに、上記各開閉体側評価点の計測データと予め設定されている基準データとを比較して開閉体単独での形状の適否判定を行う開閉体側計測工程と、
ボデイメイン組立工程において組み立てられたボデイのうち基準点となる少なくとも二つのヒンジ取付穴の三次元位置のほか、ボデイ外側面のうち開閉体用開口部の周縁部であって且つ開閉体の組付状態において各開閉体側評価点に近接することになる複数のボデイ側評価点の少なくとも内外方向位置を計測して、それらの計測データをボデイ固有の識別情報ととともに保存するボデイ側計測工程と、
特定の開閉体が組み付けられるべき特定のボデイが決定した段階で両者の識別情報と計測データの関連付けを行うとともに、計測データ上において特定のボデイ側のヒンジ取付穴と特定の開閉体側のヒンジ取付穴とを合わせたときのボデイ側の開閉体用開口部と開閉体との間に形成される建付誤差を演算・解析してその結果を出力する解析工程と、
を含むことを特徴とする自動車用開閉体の建付精度評価方法。
【請求項2】
上記建付誤差は、ボデイ側の開閉体用開口部と開閉体とのパーティングに形成される隙間および面差の大きさであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用開閉体の建付精度評価方法。
【請求項3】
上記開閉体側計測工程では、開閉体を単独で起立姿勢にて置き台上に位置決め支持させた状態で、その開閉体のうち基準点となる少なくとも二つのヒンジ取付穴の三次元位置のほか、同じく基準点となる開閉体の外側面上の少なくとも一点の内外方向位置を非接触式の計測センサにて計測し、
上記各基準点の計測データをその開閉体が取り付けられるボデイの座標系上での設計データ位置に一致させたときの上記各基準点および各開閉体側評価点での計測データを上記ボデイの座標系上での位置データに座標変換した上で、それらのデータを開閉体固有の識別情報ととともに保存することを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用開閉体の建付精度評価方法。
【請求項4】
計測ロボットに持たせた計測センサを予め指定された計測ポイントに移動させて、上記各基準点および各評価点の計測を行うことを特徴とする請求項3に記載の自動車用開閉体の建付精度評価方法。
【請求項5】
上記開閉体がサイドドアであって、
開閉体たるドア固有の識別情報には、固有のドア管理番号以外に車種情報、フロント側またはリア側のドアの区別情報、右側または左側のドアの区別情報を含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用開閉体の建付精度評価方法。
【請求項6】
上記開閉体の組立工程では、開閉体固有の識別情報をバーコードラベルのかたちで発行して該当する開閉体に付帯させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の自動車用開閉体の建付精度評価方法。
【請求項7】
上記ボデイメイン組立工程では、ボデイ固有の識別情報をバーコードラベルのかたちで発行して該当するボデイに付帯させることを特徴とする請求項6に記載の自動車用開閉体の建付精度評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−2814(P2009−2814A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164475(P2007−164475)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】