説明

表面処理装置

【課題】被処理物表面に対する親水化の処理効率を向上させる。
【解決手段】第1プラズマ生成部11の第1電極12,12間に略大気圧の第1の放電空間15を形成し、そこに第1処理ガスの窒素(N)を通してプラズマ化し、紫外領域の発光性を付与する。一方、第2空間形成部21の第2空間25で第2処理ガスの酸素(O)をオゾン化又はラジカル化して酸化能を付与又は強化する。第1放電空間15を通過後の第1処理ガスを噴出部30の第1噴出路33から処理位置Pへ噴き付けるとともに、第2空間25からの第2処理ガスを処理位置Pの近傍で前記第1処理ガスと合流させながら処理位置Pへ噴き付ける。第1放電空間15を、第2空間25より処理位置Pの近くに配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫外領域の発光性を有する処理ガスと酸化能を有する処理ガスとの2種類の処理ガスを用いて被処理物を表面処理する装置に関し、特に、表面の有機汚染物の除去(洗浄)や親水化(親液化)などの処理に適した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、窒素に少量の酸素を添加した混合ガスを電極間の大気圧放電空間に導入してプラズマ化したうえで上記大気圧放電空間から噴出してガラス基板等の被処理物に接触させ、親水化等の表面処理を行うことが記載されている。
【特許文献1】特開2006−147358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記窒素と酸素の混合ガスをプラズマ化することにより、Nラジカル、NOラジカル、Oラジカル等が生成される。NラジカルやNOラジカルは、紫外領域の波長の光を発し、この紫外光により被処理物の表面の有機汚染物の結合を切断できる。Oラジカルにより、有機汚染物を酸化させ、被処理物の表面を親水化できる。
しかし、Nラジカルを多く生成可能な窒素と酸素の混合比と、NOラジカルを多く生成可能な窒素と酸素の混合比と、Oラジカルを多く生成可能な窒素と酸素の混合比はそれぞれ異なる。そのため、すべてのラジカルを所望量生成するのは困難である。また、紫外領域の発光性ラジカルは寿命が短く、失活しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、プラズマ化により紫外領域の発光性を付与される第1処理ガスと、酸化性の第2処理ガスとを被処理物に接触させ、被処理物の表面を親水化処理する装置であって、
略大気圧の第1の放電空間を形成する第1電極を有し、前記第1処理ガスが前記第1放電空間に通される第1プラズマ生成部と、
前記第2処理ガスに対し酸化能を付与する第2空間、若しくは強化する第2空間、又は酸化能保持状態(酸化能を有する状態)で貯留する第2空間を有する第2空間形成部と、
前記第1放電空間を通過後の前記第1処理ガスを前記被処理物が位置すべき処理位置へ噴き付けるとともに、前記第2空間からの第2処理ガスを前記処理位置の近傍で前記第1処理ガスと合流可能に導きながら前記処理位置へ噴き付ける噴出部と、
を備え、前記第1放電空間が、前記第2空間より前記処理位置に近いことを特徴とする。
これによって、第1処理ガスに紫外領域の発光性を十分付与でき、この第1処理ガスを発光性を有するうちに被処理物に接触させることができるとともに、十分な酸化能を有する第2処理ガスを被処理物に接触させることができ、親水化の処理効率を十分に向上させることができる。
【0005】
ここで、大気圧近傍とは、1.013×104〜50.663×104Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×104〜10.664×104Paが好ましく、9.331×104〜10.397×104Paがより好ましい。
第1処理ガスの発光波長(紫外領域)は、200〜400nmであることが好ましい。第1処理ガスの紫外領域の発光性を有する成分としては、Nラジカル、NOラジカルが挙げられる。Nラジカルは、300〜400nmの波長の紫外光を発する。NOラジカルは、200〜300nmの波長の紫外光を発する。これら紫外光は、被処理物の表面の有機汚染物の結合を切断する作用を有している。NラジカルやNOラジカルは、窒素(N)ガス、又は窒素と酸素の混合ガスを大気圧近傍下でプラズマ放電させることにより生成することができる。
酸化能を有する第2処理ガス成分としては、オゾン(O)、Oラジカルが挙げられるほか、酸素(O)も多少の酸化能を有している。これら第2処理ガス成分の酸化能によって被処理物の表面の有機汚染物を酸化させ、親水化することができる。
【0006】
前記第2空間形成部が、前記第2空間として略大気圧の第2の放電空間を形成する第2電極を有する第2プラズマ生成部であり、酸素が前記第2処理ガスとして前記第2放電空間に通されるようにしてもよい。
これにより、酸化能を有する第2処理ガス成分としてオゾンやOラジカルを生成することができ、第2処理ガスに対し酸化能を付与又は強化することができる。更にOラジカルは、未反応の酸素ガス又は大気中の酸素分子と反応し、オゾンに変換され得る。これにより、オゾン濃度が高まる。
【0007】
前記第2空間形成部が、オゾナイザーであってもよく、オゾンタンクであってもよい。
オゾナイザーは、酸素(O)を原料にして高濃度のオゾンを生成できる。すなわち、第2処理ガスに対し酸化能を付与又は強化することができる。
オゾンタンクは、オゾンを蓄えておくことができる。すなわち、第2処理ガスを酸化能を有する状態で貯留できる。
オゾンは、Nラジカル、NOラジカル等と比べ安定しているため、ある程度の距離を取り回すことが可能であり、前記第2空間が前記第1空間より処理位置から離れていても支障がない。
【0008】
前記噴出部が、前記第1放電空間に直接連なるとともに先端が前記処理位置へ向けて開口する第1噴出路と、前記第2空間に直接又は連通路を介して連なるとともに前記第1噴出路に合流する第2噴出路とを有していてもよく、その場合、前記第1噴出路の長さが、前記第2噴出路の長さ又は前記連通路と第2噴出路の合計長さより短いことが好ましい。
また、前記噴出部が、前記第1放電空間に直接連なるとともに先端が前記処理位置へ向けて開口する第1噴出路と、前記第2空間に直接又は連通路を介して連なるとともに先端が前記第1噴出路の先端の近傍で前記処理位置へ向けて開口する第2噴出路とを有していてもよく、その場合、前記第1噴出路の長さが、前記第2噴出路の長さ又は前記連通路と第2噴出路の合計長さより短いことが好ましい。
これによって、第1処理ガスの比較的不安定な紫外領域の発光性成分(Nラジカル、NOラジカル等)を、発光性を維持した状態で被処理物に確実に到達させることができ、親水化の処理効率を確実に向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、親水化の処理効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、第1実施形態を示したものである。この実施形態の被処理物Wは、例えばITOガラス基板である。表面処理の内容は、例えばITOガラス基板Wの親水化処理である。
【0011】
表面処理装置1は、処理ヘッド10と、第2プラズマ生成部21(第2空間形成部)と、移動手段2とを備えている。移動手段2は、例えば左右に延在されたローラコンベアにて構成されている。ローラコンベア2上に被処理物Wが載せられ、図1の白抜き矢印で示すように左右方向に沿って搬送されるようになっている。
【0012】
処理ヘッド10は、図示しない架台によってローラコンベア2の上方に設置されている。処理ヘッド10は、第1プラズマ生成部11と、この第1プラズマ生成部11の下側に設けられた底部材31とを有している。
【0013】
第1プラズマ生成部11は、一対の第1電極12,12を有している。これら電極12,12は、左右に対向するとともに、図1の紙面と直交する前後方向に被処理物Wと略同じ寸法だけ延びている。電極12のうち一方は、第1電源3に接続され、他方は電気的に接地されている。電源3は、電極12,12間に高周波電圧を印加する。これにより、電極12,12間に大気圧プラズマ放電が生成されるようになっている。印加電圧は、正弦波などの連続波でもよく、パルス波などの間欠波でもよい。
【0014】
電極12の互いの対向面に固体誘電体層13がそれぞれ設けられている。各固体誘電体層13は、アルミナからなるセラミックの板で構成され、電極12より上下に突出されている。一対の固体誘電体層13,13どうしの間に厚さ1〜2mm程度の垂直なギャップ14が画成されている。ギャップ14の中間部(詳しくは、電極12の上端部に対応する高さから下端部に対応する高さまでの部分)が、第1放電空間15となる。
【0015】
第1処理ガス源4から第1処理ガス供給路4aが延び、ギャップ14の上端部に接続されている。処理ガス源4には、第1処理ガスが蓄えられている。この実施形態では、第1処理ガスとして、窒素(N)ガスが用いられている。
【0016】
左右の電極12,12の底面に絶縁性及び耐プラズマ性の底部材31が宛がわれ、電極12が絶縁されている。底部材31の上側部には、固体誘電体層13の電極12より下側の部分が挿し入れられている。
底部材31と、固体誘電体層13の電極12より下側の部分とによって、噴出部30が構成されている。
【0017】
底部材31には、固体誘電体層13の下端から真っ直ぐ下へ延びるスリット32が形成されている。スリット32は、底部材31の底面に達して開口されている。
ギャップ14の放電空間15より下側の部分と、スリット32とにより、第1噴出路33が構成されている。
噴出路33の長さL1は、例えばL1=5〜50mm程度である。
噴出路33の下端(先端)の開口の真下においてガラス基板Wが横切る位置が、処理位置Pとなっている。(噴出路33が、処理位置Pへ向けて開口されている。)
噴出部30の下端から処理位置Pまでの距離LWD(ワーキングディスタンス)は、例えばLWD=1〜10mm程度である。
【0018】
第2プラズマ生成部21は、第1プラズマ生成部11と同様の構造になっており、一対の第2電極22,22を有している。電極22,22の一方には第2電源5が接続され、他方は電気的に接地されている。電源5は、電極22,22間に高周波電圧を印加する。これにより、電極22,22間に大気圧プラズマ放電が生成されるようになっている。印加電圧は、正弦波などの連続波でもよく、パルス波などの間欠波でもよい。第1電源3を第2電源5として兼用することにしてもよい。
【0019】
電極22の互いの対向面に、例えばセラミック板からなる固体誘電体層23が配置されている。一対の固体誘電体層23,23どうしの間にギャップ24が画成されている。ギャップ24の中間部が、第2放電空間25(第2空間)となる。
【0020】
第2処理ガス源6から第2処理ガス供給路6aが延び、ギャップ24の上端部に接続されている。第2処理ガス源6には、酸素(O)ガスが蓄えられている。
【0021】
ギャップ24の下端部から連通管41が処理ヘッド10の底部材31へ向けて延びている。ギャップ24の放電空間25より下側の部分と連通管41とにより連通路40が構成されている。
連通路40の長さは、例えばL4=10mm〜数m程度である。
【0022】
上記処理ヘッド10の底部材31には、連通管41から延びる第2噴出路34が形成されている。第2噴出路34は、第1噴出路33の中間部35に合流している。この合流部35から処理位置Pまでは、1〜50mm程度であり、合流部35は処理位置の近傍に位置されている。
なお、第2噴出路34の長さL2は、例えばL2=10〜200mm程度である。
この実施形態では、第2噴出路34が左右に一対設けられ、これら第2噴出路34が、第1噴出路33に左右から合流されている。連通管41は、2つに分岐し、左右の第2噴出路34にそれぞれ接続されている。
【0023】
第1プラズマ生成部11は、第2プラズマ生成部21より処理位置Pに十分近い。第1放電空間15は、第2放電空間25より処理位置Pに十分近い。第1噴出路33の長さL1が、連通路40と第2噴出路34の合計長さ(L4+L2)より十分短い。
【0024】
上記構成の表面処理装置1を用いて、被処理物Wを表面処理する方法を説明する。
処理すべきITOガラス基板Wをローラコンベア2に載せ、処理ヘッド10の真下を横切るように搬送する。
第1処理ガス源4の窒素(第1処理ガス)を、供給路4aを介してギャップ14に導入する。また、電源3からの電圧供給により、電極12,12間に大気圧プラズマ放電を生成する。これにより、ギャップ14の中間部が放電空間15となり、窒素がプラズマ化され、Nラジカルが生成される。原料が窒素100%であるので高濃度のNラジカルを得ることができる。Nラジカルは、300〜400nmの波長の紫外光を発する。言い換えると、第1プラズマ生成部11は、第1放電空間15において第1処理ガスに紫外領域の発光性を付与する。この紫外領域の発光性を付与された第1処理ガス(高濃度のNラジカルを含む窒素ガス)が、第1放電空間15から第1噴出路33へ導出される。
【0025】
併行して、第2処理ガス源6から酸素(第2処理ガス)を、供給路6aを介してギャップ24に導入するとともに、電源5からの電圧供給により電極22,22間に大気圧プラズマ放電を生成する。これにより、ギャップ24の中間部が放電空間25となり、酸素がプラズマ化され、Oラジカルやオゾン(O)が生成される。Oラジカルの一部は未反応のOと更に反応し、オゾンに変換される。したがって、第2処理ガスのオゾン濃度が十分に高くなる。Oラジカル及びオゾンは強い酸化性を有する。(言い換えると、第2プラズマ生成部21は、放電空間25において第2処理ガスに対し酸化能を付与又は強化する。)
【0026】
酸化能を付与又は強化された第2処理ガス(Oラジカル及び高濃度オゾンを含む酸素ガス)は、連通路40を経て第2噴出路34に導入され、第2噴出路34から合流部35へ流入する。これにより、第2処理ガスが、第1噴出路33の第1処理ガスと合流して混合される。この合流地点35は、処理位置の極近傍である。合流後の第1処理ガス及び第2処理ガスは、第1噴出路33の下端開口から噴出され、処理位置Pのガラス基板Wに噴き付けられる。(言い換えると、噴出部30によって、第1処理ガスが処理位置Pへ噴き付けられるとともに、第2処理ガスが処理位置Pの近傍で第1処理ガスと合流しながら処理位置Pへ噴き付けられる。)
【0027】
上記噴き付けガス中のNラジカルが紫外光を発することにより、ガラス基板Wの表面の有機汚染物の結合を切断できる。また、噴き付けガス中のOラジカルやオゾンにより、有機汚染物を酸化できる。これにより、ガラス基板Wの表面を親水化することができる。
第1プラズマ生成部11において高濃度のNラジカルを生成でき、しかも第1プラズマ生成部11ひいては第1放電空間15が処理位置Pに十分近いため、上記高濃度のNラジカルを、失活しない(発光性を失わない)うちに処理位置Pに確実に到達させることができる。したがって、有機汚染物の結合切断効率を十分に確保することができる。また、第2プラズマ生成部21において高濃度のOラジカルやオゾンを生成でき、特に高濃度のオゾンを得ることができる。オゾンは比較的寿命が長いため、第2プラズマ生成部21が処理位置Pから離れていても処理位置Pに確実に到達できる。したがって、有機汚染物の酸化効率を十分に確保することができる。これによって、親水化の処理効率を十分に向上させることができる。
【0028】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の実施形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
図2は、第2空間形成部の変形例(第2実施形態)を示したものある。この形態では、第2空間形成部として、第1実施形態の第2プラズマ生成部21に代えて、オゾナイザー26が用いられている。詳細な図示は省略するが、オゾナイザー26は、複数の電極を有し、これら電極間に放電空間26a(第2空間)を形成し、この放電空間26aにおいて酸素(O)をオゾン化(酸化能を付与又は強化)する。放電空間26aから連通路40が延びている。
【0029】
これによって、高濃度のオゾンを含む第2処理ガスを、連通路40を経て噴出部30に導入し、第1処理ガスと混合してガラス基板Wに噴き付けることができる。よって、親水化の処理効率を十分に向上させることができる。
【0030】
図3は、第2空間形成部の変形例(第3実施形態)を示したものある。この形態では、第2空間形成部として、オゾンタンク27が用いられている。オゾンタンク27の内部空間27a(第2空間)には、オゾンが貯留されている。(第2処理ガスが酸化能保持状態で貯留されている。)オゾンは、酸素(O)との混合状態で蓄えられていてもよい。このオゾンタンク27の内部空間27aから連通路40が延びている。
【0031】
これによって、高濃度のオゾンを含む第2処理ガスが連通路40を経て噴出部30に導入され、第1処理ガスと混合されるとともにガラス基板Wに噴き付けられる。よって、親水化の処理効率を十分に向上させることができる。
【0032】
図4は、第1処理ガスの組成の変形例(第4実施形態)を示したものある。この形態の第1処理ガス源4は、窒素100%ではなく、窒素(N)と酸素(O)の混合ガスを第1処理ガス供給路4aに送出するようになっている。
【0033】
この窒素と酸素の混合ガスからなる第1処理ガスが、第1処理ガス供給路4aを経て第1放電空間15に導入される。これにより、第1処理ガスがプラズマ化され、NOラジカルやNラジカルが生成される。NOラジカルは、200〜300nmの波長の紫外光を発する。Nラジカルは、300〜400nmの波長の紫外光を発する。(すなわち、第1処理ガスに紫外領域の発光性を付与することができる。)
【0034】
第1処理ガス源4における窒素と酸素の混合比を調節することにより、高濃度のNOラジカル及びNラジカルを得ることができる。特に、NOラジカルの濃度を高くしたいときは、第1処理ガス源4における窒素と酸素の混合比は、N:O=4000:1〜500:1程度にするのが好ましい。Nラジカルの濃度を高くしたいときは、第1処理ガス源4における窒素と酸素の混合比は、N:O=10000:1以下程度にするのが好ましい。
【0035】
この紫外領域の発光性を付与された第1処理ガス(NOラジカルやNラジカルを含む窒素と酸素の混合ガス)が、第1噴出路33へ導出され、第2処理ガスと混合されるとともに、ガラス基板Wに噴き付けられる。そして、NOラジカルからの200〜300nmの波長の紫外光、及びNラジカルからの300〜400nmの波長の紫外光によって、有機汚染物の結合切断効率を十分に確保することができる。ひいては、親水化の処理効率を十分に向上させることができる。
【0036】
図5は、処理ヘッド10の変形例(第5実施形態)を示したものである。この形態では、固体誘電体層13が、第1電極12の垂直な放電面に宛がわれた垂直な板部分13aだけでなく、その上下両端から外側へ延びる水平な板部分13b,13bをも一体に有し、断面コ字形のケース状になっており、その内部に第1電極12が収容されている。固体誘電体層13の下側の水平な板部分13bと底部材31との間に、第2噴出路34が画成されている。固体誘電体層13の電極12より下側の部分と、底部材31とによって、噴出部30が構成されている。
【0037】
図6は、処理ヘッド10の変形例(第6実施形態)を示したものである。この形態では、第2噴出路34が、処理ヘッド10の底部材31の外側面から斜め下へ延びている。第2噴出路34は、処理ヘッド10内で第1噴出路33と合流することなく、その下端(先端)が底部材31の底面に達し、処理位置Pへ向けて開口されている。第2噴出路34の下端開口は、第1噴出路33の近傍に位置されている。
【0038】
第2処理ガスは、第2噴出路34から斜めに噴き出された後、第1噴出路33から噴き出された第1処理ガスと合流する。そして、第1処理ガスと第2処理ガスが、処理ヘッド10とガラス基板Wとの間の空間内で互いに混合されながらガラス基板Wの表面に接触し、表面処理がなされる。
【0039】
図6の形態においては、固体誘電体層13が、第1実施形態(図1)と同様に垂直な平板状であるが、図7に示すように、固体誘電体層13を図7の形態と同様の断面コ字形のケース状にしてもよい。
【0040】
図8は、処理ヘッド10の変形例(第8実施形態)を示したものである。第1実施形態では、一対の第1電極12,12が左右に対向していたが、この変形例では、上下に対向している。詳しくは、第1電源3に接続されたホット電極12Hが上側に配置され、電気的に接地されたアース電極12Eが下側に配置されている。上側のホット電極12Hの下面に、例えばアルミナ等のセラミック板からなる固体誘電体層13Hが設けられ、下側のアース電極12Eの上面に同様のセラミック板からなる固体誘電体層13Eが設けられている。これら上下の固体誘電体層13H,13Eの間に、水平な第1放電空間15が形成されている。第1処理ガス源4(図示省略)からの第1処理ガス供給路4aが2つに分岐して、放電空間15の左右の端部に連なっている。
【0041】
固体誘電体層13E及びアース電極12Eには、複数の第1噴出路33が厚さ方向(上下)に貫通するように形成されている。固体誘電体層13E及びアース電極12Eは、噴出部30を兼ねている。
【0042】
アース電極12Eの底部の中央には、下方への突出部16が設けられている。突出部16の内部には、円孔34aが図8の紙面と直交する前後方向に形成されている。この円孔34aに第2空間形成部(図示省略)からの連通路40が連なっている。円孔34aの内周面の両側部には、小孔34bが形成されている。小孔34bは、突出部16の左右の側面に達して開口されている。なお、小孔34bは、前後方向(図8の紙面直交方向)に間隔を置いて多数設けられている。円孔34a及び小孔34bは、第2噴出路を構成している。
【0043】
第1放電空間15でプラズマ化された第1処理ガスが、多数の第1噴出路33から下方へ噴き出される。併せて、酸化性の第2処理ガスが、連通路40、円孔34a、小孔34bを順次経て、突出部16の左右側方へ噴き出される。これにより、アース電極12Eの突出部16を除く底面と突出部16の側面とガラス基板Wとで画成された空間1a内において、第1処理ガスと第2処理ガスが混合されながらガラス基板Wの表面に接触し、表面処理がなされる。この形態によれば、ガラス基板Wの広い範囲(処理位置P)を一度に処理することができる。
【0044】
図9は、図8の処理ヘッド10の変形例(第9実施形態)を示したものである。この形態では、アース電極12Eの底面の中央部が下に突出しておらず、底面全体が平らになっている。小孔34bは、円孔34aの下部に設けられ、そこから真っ直ぐ下へ延びてアース電極12Eの底面に達している。
【0045】
小孔34bから噴き出された第2処理ガスは、小孔34bの直下で左右両側に分かれてアース電極12Eとガラス基板Wとの間の空間1bに拡散しながら、第1噴出路33から噴き出された第1処理ガスと混合される。
【0046】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、当業者に自明の範囲で種々の改変をなすことができる。
例えば、第2噴出路34,34aが、連通路40を介することなく第2空間25,26a,27aに直接連なっていてもよい。この場合、第1噴出路33が、第2噴出路34,34aより短いことが好ましい。
被処理物Wは、ITOガラス基板に限られず、半導体ウェハや樹脂フィルム等でもよい。
移動手段2は、ローラコンベアに限られず、浮上エア式コンベアなどを用いてもよく、被処理物Wをステージに設置し、このステージを駆動手段で移動させるようになっていてもよい。
被処理物が位置固定される一方、処理ヘッド10が移動されるようになっていてもよい。
固体誘電体層13,23,13E,13Hは、溶射膜などで形成されていてもよい。
複数の実施形態の構成を互いに組み合わせてもよい。例えば、図4〜図9の実施形態の第2空間形成部として、図1〜図3の何れかの第2空間形成部21,26,27を適用できる。図5〜図9の実施形態の第1処理ガスとして、図1、図4の何れかの実施形態の組成を適用できる。
【実施例1】
【0047】
実施例を説明するが、本発明がこの実施形態に限定されるものでないことは言うまでもない。
図1に示す表面処理装置1と実質的に同一の装置を用い、ITOガラス基板の親水化処理を行った。寸法構成及び処理条件は以下の通り。
搬送速度 : 4m/min.
搬送回数 : 1回
第1処理ガス
初期組成: 窒素(N) 100%
流量: 75slm
第1放電空間15の厚さ : 1mm
電極12間の印加電圧 : Vpp=18kV
電源3の周波数 : 40kHz
第1噴出路33の長さ: L1=15mm
第1噴出路33の幅(図1の紙面直交方向の寸法): 200mm
ワーキングディスタンス: LWD=3mm
第2処理ガス
初期組成: 酸素(O) 100%
流量: 1slm
第2放電空間25の厚さ : 1mm
電極22間の印加電圧 : Vpp=18kV
電源5の周波数 : 40kHz
連通路40の長さ: L4=500mm
【0048】
処理前のITOガラス基板の純水に対する接触角は、約75°であった。
比較例として、第2処理ガス源6からの酸素を第1処理ガス源4からの第1処理ガス供給路4aに合流させ、第1処理ガスの窒素と第2処理ガスの酸素とを予め混合したうえで、処理ヘッド10でプラズマ化し、ITOガラス基板に噴き付けたところ、ITOガラス基板の純水に対する接触角は、43°になった。
これに対し、本実施例1における処理後のITOガラス基板の純水に対する接触角は、35°になった。これにより、親水性を向上できることが確認された。
【実施例2】
【0049】
図9の表面処理装置1と実質的に同一の装置を用い、ITOガラス基板の親水化処理を行った。第2空間形成部には、図1に示すような第2プラズマ生成部21を用いた。寸法構成及び処理条件は以下の通り。
搬送速度 : 12m/min.
搬送回数 : 1回
第1処理ガス
初期組成: 窒素(N) 100%
流量: 75slm
第1放電空間15の厚さ : 1 mm
電極12間の印加電圧 : Vpp=14kV
電源3の周波数 : 40kHz
第1噴出路33の長さ: L1=7mm
第1噴出路33の直径: 3mm
第1噴出路33の数: 150個
アース電極12Eの寸法:
左右方向の寸法: 200mm
前後方向(図9の紙面直交方向)の寸法: 250mm
ワーキングディスタンス: LWD=3mm
第2処理ガス
初期組成: 酸素(O) 100%
流量: 1slm
第2放電空間25の幅 : 1mm
電極22間の印加電圧 : Vpp=14kV
電源5の周波数 : 40kHz
第2噴出路34の長さ: L2=5mm
連通路40の長さ: L4=500mm
【0050】
処理前のITOガラス基板の純水に対する接触角は、約85°であった。
比較例として、第2処理ガス源6からの酸素を第1処理ガス源4からの第1処理ガス供給路4aに合流させ、第1処理ガスの窒素と第2処理ガスの酸素とを予め混合したうえで、図9に示すような処理ヘッド10でプラズマ化し、ITOガラス基板に噴き付けたところ、ITOガラス基板の純水に対する接触角は、62°になった。
これに対し、本実施例2における処理後のITOガラス基板の純水に対する接触角は、42°になった。これにより、親水性を向上できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えばITOガラス基板の親水化処理に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係る表面処理装置を解説的に示す正面断面図である。
【図2】上記表面処理装置の第2空間形成部の変形例(第2実施形態)を示す正面断面図である。
【図3】上記表面処理装置の第2空間形成部の変形例(第3実施形態)を示す正面断面図である。
【図4】上記表面処理装置の第1処理ガス源の変形例(第4実施形態)を示す正面断面図である。
【図5】上記表面処理装置の固体誘電体層の変形例(第5実施形態)を示す正面断面図である。
【図6】上記表面処理装置の第2噴出路の変形例(第6実施形態)を示す正面断面図である。
【図7】図6において、固体誘電体層の変形例(第7実施形態)を示す正面断面図である。
【図8】上記表面処理装置の処理ヘッドの変形例(第8実施形態)を示す正面断面図である。
【図9】図8の噴出部の変形例(第9実施形態)を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 表面処理装置
2 ローラコンベア(移動手段)
3 第1電源
4 第1処理ガス源
4a 第1処理ガス供給路
5 第2電源
6 第2処理ガス源
6a 第2処理ガス供給路
10 処理ヘッド
11 第1プラズマ生成部
12 第1電極
12E アース電極(第1電極)
12H ホット電極(第1電極)
13 固体誘電体層
13a 垂直板部分
13b 水平板部分
14 ギャップ
15 第1放電空間
16 突出部
21 第2プラズマ生成部(第2空間形成部)
22 第2電極
23 固体誘電体層
24 ギャップ
25 第2放電空間(第2空間)
26 オゾナイザー(第2空間形成部)
26a 放電空間(第2空間)
27 オゾンタンク(第2空間形成部)
27a 内部空間(第2空間)
31 底部材
30 噴出部
32 スリット
33 第1噴出路
34 第2噴出路
34a 円孔(第2噴出路の上流側部)
34b 小孔(第2噴出路の下流側部)
35 合流部
41 連通管
40 連通路
L1 第1噴出路の長さ
L2 第2噴出路の長さ
L4 連通路の長さ
WD ワーキングディスタンス
P 処理位置
W ITOガラス基板(被処理物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ化により紫外領域の発光性を付与される第1処理ガスと、酸化性の第2処理ガスとを被処理物に接触させ、被処理物の表面を親水化処理する装置であって、
略大気圧の第1の放電空間を形成する第1電極を有し、前記第1処理ガスが前記第1放電空間に通される第1プラズマ生成部と、
前記第2処理ガスに対し酸化能を付与若しくは強化又は酸化能保持状態で貯留する第2空間を有する第2空間形成部と、
前記第1放電空間を通過後の前記第1処理ガスを前記被処理物が位置すべき処理位置へ噴き付けるとともに、前記第2空間からの第2処理ガスを前記処理位置の近傍で前記第1処理ガスと合流可能に導きながら前記処理位置へ噴き付ける噴出部と、
を備え、前記第1放電空間が、前記第2空間より前記処理位置に近いことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記第2空間形成部が、前記第2空間として略大気圧の第2の放電空間を形成する第2電極を有する第2プラズマ生成部であり、酸素が前記第2放電空間に通されることを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記第2空間形成部が、オゾナイザー又はオゾンタンクであることを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記噴出部が、前記第1放電空間に直接連なるとともに先端が前記処理位置へ向けて開口する第1噴出路と、前記第2空間に直接又は連通路を介して連なるとともに前記第1噴出路に合流する第2噴出路とを有し、
前記第1噴出路の長さが、前記第2噴出路の長さ又は前記連通路と第2噴出路の合計長さより短いことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記噴出部が、前記第1放電空間に直接連なるとともに先端が前記処理位置へ向けて開口する第1噴出路と、前記第2空間に直接又は連通路を介して連なるとともに先端が前記第1噴出路の先端の近傍で前記処理位置へ向けて開口する第2噴出路とを有し、
前記第1噴出路の長さが、前記第2噴出路の長さ又は前記連通路と第2噴出路の合計長さより短いことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−129656(P2009−129656A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302433(P2007−302433)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】