説明

裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板およびその製造方法

【課題】裏面照射型固体撮像素子をより高い歩留まりで製造することが可能なエピタキシャル基板およびその製造方法を提供する
【解決手段】本発明の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板100は、炭素、または、炭素および窒素が添加され、抵抗率が100Ω・cm未満であるp型シリコン基板1と、該p型シリコン基板上のp型第1エピタキシャル層2と、該第1エピタキシャル層上のp型またはn型第2エピタキシャル層3と、を有し、前記第1エピタキシャル層2は、p型不純物のピーク濃度が2.7×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板およびその製造方法に関し、特に、裏面照射型固体撮像素子を高い歩留まりで製造することが可能なエピタキシャル基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルビデオカメラや携帯電話などに用いられる裏面照射型固体撮像素子は、配線層などをセンサー部よりも下層に配置することで、外からの光をセンサーに直接取り込み、暗所などでもより鮮明な画像や動画を撮影することができるため、近年、広く用いられている。このような裏面照射型固体撮像素子を製造する際、半導体基板に、不純物として金属が混入する場合がある。半導体基板に混入した金属は、固体撮像素子の暗電流を増加させる要因となり、白傷欠陥と呼ばれる欠陥を生じさせる。
【0003】
半導体基板への金属の混入は、主に半導体エピタキシャル基板の製造工程および固体撮像素子の製造工程において生じる。前者の半導体エピタキシャル基板の製造工程における金属汚染は、エピタキシャル成長炉の構成材からの重金属パーティクルによるもの、あるいは、エピタキシャル成長時の炉内ガスとして塩素系ガスを用いるために、その配管材料が金属腐食して発生する重金属パーティクルによるものなどが考えられる。近年、これら金属汚染は、エピタキシャル成長炉の構成材を耐腐食性に優れた材料に交換するなどにより、ある程度は改善されてきているが、十分ではない。一方、後者の固体撮像素子の製造工程においては、イオン注入、拡散および酸化熱処理などの各処理中で、半導体基板の重金属汚染が懸念される。
【0004】
そのため、従来は、半導体エピタキシャル基板に、金属を捕獲するためのゲッタリングシンクを形成するか、あるいは高濃度ボロン基板などの金属の捕獲能力(ゲッタリング能力)が高い基板を用いて、半導体基板への金属汚染を回避していた。
【0005】
半導体基板にゲッタリングシンクを形成する方法は、半導体基板の内部に結晶欠陥である酸素析出物(シリコン酸化物析出物の通称であり、BMD:Bulk Micro Defectともいう。)を形成するイントリンシックゲッタリング(IG)法と、半導体基板の裏面にゲッタリングシンクを形成するエキシトリンシックゲッタリング(EG)法とに大別される。
【0006】
上記IG法を用いる例として、シリコン基板上にエピタキシャル層を成長させ、デバイスを製造するにあたり、シリコン基板に炭素および/または窒素を添加しておくことにより、半導体基板の内部に安定して酸素析出物を形成し、高いゲッタリング能力を得る方法が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
ここで、裏面照射型固体撮像素子を製造するにあたり、p型シリコン基板上に2層のエピタキシャル層を形成したエピタキシャル基板(特許文献2参照)を用いることができる。シリコン基板から順に第1エピタキシャル層、第2エピタキシャル層とすると、エピタキシャル基板表面にあるトップエピタキシャル層である第2エピタキシャル層が、デバイスを製造するためのデバイス層となる。ここで、第1エピタキシャル層は、ボロンなどをドープしたp型エピタキシャル層とする。これにより、第1エピタキシャル層は、基板に比べて抵抗率が低くなる。このため、デバイス製造後、デバイス層を残してシリコン基板および第1エピタキシャル層を除去して薄膜デバイスとするために、基板側からエッチングまたは研磨などを行う際、第1エピタキシャル層がエッチングストップ層または研磨ストップ層として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−201091号公報
【特許文献2】特開平8−241977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、このようにして製造した裏面照射型固体撮像素子の素子特性を調べたところ、ゲッタリングシンクを形成しているにも関わらず、所望の特性を得られない素子が多く、歩留まりが低いことがわかった。そこで、発明者らが鋭意検討したところ、デバイス製造工程の熱処理によって、第1エピタキシャル層のp型不純物がデバイス層(第2エピタキシャル層)へと拡散していることが主たる原因であるとの認識に至った。第1エピタキシャル層からデバイス層へp型不純物が多く拡散すると、デバイス層で所望の設計と異なる不純物プロファイル(厚さ方向の濃度分布)が形成されてしまい、所望の特性が得られなくなる。
【0010】
さらに、本発明者らは、炭素を添加しないp型シリコン基板を用いた場合に比べて、ゲッタリング能力を高めるべく炭素を添加したp型シリコン基板を用いた場合に、特に顕著にこの現象が生じ、歩留まりがさらに低下するという知見を得た。この知見によれば、炭素を添加しないp型シリコン基板を用いれば、第1エピタキシャル層からデバイス層へのp型不純物の拡散を抑えることができるものの、十分なゲッタリング能力を得ることはできない。
【0011】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、炭素を添加したp型シリコン基板上にp型第1エピタキシャル層を形成し、その上の第2エピタキシャル層をデバイス層とするエピタキシャル基板であって、裏面照射型固体撮像素子をより高い歩留まり(具体的には、80%以上)で製造することが可能なエピタキシャル基板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1エピタキシャル層からデバイス層となる第2エピタキシャル層へのp型不純物の拡散は、デバイス特性に直接的に悪影響を及ぼす現象である。一方で、第1エピタキシャル層にp型不純物をドープするのは、エッチングストップまたは研磨ストップとしての機能を持たせるためであり、第1エピタキシャル層中のp型不純物濃度を多少低くしても、注意深く除去処理(エッチングまたは研磨)を行うことで、デバイス層まで除去してしまう可能性は低減できる。そこで、本発明者らは、第1エピタキシャル層がエッチングストップまたは研磨ストップとして機能する範囲で、第1エピタキシャル層のp型不純物濃度を低く設定して、デバイス層へのp型不純物の拡散を抑制することによって、より高い歩留まりを得ることができると考え、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、上記の知見および検討に基づくものであり、その要旨構成は以下の通りである。
(1)炭素、または、炭素および窒素が添加され、抵抗率が100Ω・cm未満であるp型シリコン基板と、該p型シリコン基板上のp型第1エピタキシャル層と、該第1エピタキシャル層上のp型またはn型第2エピタキシャル層と、を有し、
前記第1エピタキシャル層は、p型不純物のピーク濃度が2.7×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm未満であることを特徴とする裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0014】
(2)前記第1エピタキシャル層は、厚さが4μm以上10μm以下である上記(1)に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0015】
(3)前記第2エピタキシャル層は、厚さが4μm以上10μm以下である上記(1)または(2)に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0016】
(4)前記p型シリコン基板中には、前記炭素または炭素および窒素と、酸素とを含む析出物をもつ領域を有し、
該領域の前記p型シリコン基板の深さ方向中心部における析出物の密度が、5×10/cm以上5×10/cm以下である上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0017】
(5)前記p型第2エピタキシャル層は、p型不純物のピーク濃度が4.4×1013atoms/cm以上2.8×1017atoms/cm以下である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0018】
(6)前記n型第2エピタキシャル層は、n型不純物のピーク濃度が1.4×1013atoms/cm以上7.8×1016atoms/cm以下である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0019】
(7)前記p型不純物がボロンである上記(5)に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0020】
(8)前記n型不純物がリンである上記(6)に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0021】
(9)炭素のみを添加した前記p型シリコン基板は、炭素の平均濃度が、0.1×1016atoms/cm以上20×1016atoms/cm以下である上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0022】
(10)炭素および窒素の双方を添加した前記p型シリコン基板は、炭素の平均濃度が0.1×1016atoms/cm以上20×1016atoms/cm以下であり、窒素の平均濃度が0.5×1013atoms/cm以上50×1013atoms/cm以下である上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【0023】
(11)炭素、または、炭素および窒素が添加され、抵抗率が100Ω・cm未満であるp型シリコン基板上に、p型第1エピタキシャル層を形成する工程と、該第1エピタキシャル層上に、p型またはn型第2エピタキシャル層を形成する工程と、を有し、
前記第1エピタキシャル層における、p型不純物のピーク濃度を2.7×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm未満とすることを特徴とする裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【0024】
(12)前記第1エピタキシャル層は、厚さが4μm以上10μm以下である上記(11)に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【0025】
(13)前記第1エピタキシャル層形成工程前のシリコン基板は、格子間酸素濃度が1×1018atoms/cm以上2×1018atoms/cm以下である上記(11)または(12)に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【0026】
(14)前記第2エピタキシャル層を形成する工程の後、前記p型シリコン基板中に、前記炭素または炭素および窒素と、酸素とを含む析出物をもつ領域を形成するための熱処理工程を有する上記(11)〜(13)のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【0027】
(15)前記熱処理工程は、
前記シリコン基板を500〜800℃の範囲内の第1温度まで加熱した後、該第1温度で10〜180分間保持する低温熱処理を行い、
次いで、4℃/分以下の昇温速度で900〜1150℃の範囲内の第2温度まで加熱した後、該第2温度で15〜200分間保持する高温熱処理を行うことを含む上記(14)に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、第1エピタキシャル層のp型不純物のピーク濃度を2.7×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm未満とすることによって、デバイス層へのp型不純物の拡散を抑制することができ、裏面照射型固体撮像素子を高い歩留まりで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態である裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板を示す模式断面図である。
【図2】本発明の一実施形態である裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法を説明する模式断面図である。
【図3】比較例のエピタキシャル基板について、エピタキシャル基板表面からの深さに対するボロン濃度の分布を表すグラフであって、(a)が熱処理前のエピタキシャル基板、(b)が熱処理後のエピタキシャル基板を示す。
【図4】比較例および実施例にて、エピタキシャル基板に対して行った(デバイス製造工程に相当する)熱処理の熱履歴を示すグラフである。
【図5】実施例において、エピタキシャル基板表面からの深さに対する炭素濃度の分布を表すグラフであって、黒塗り四角が熱処理前のエピタキシャル基板、白抜き四角が熱処理後のエピタキシャル基板を示す。
【図6】より好ましい実施例において、エピタキシャル基板表面からの深さに対する炭素濃度の分布を表すグラフであって、黒塗り四角が熱処理前のエピタキシャル基板、白抜き四角が熱処理後のエピタキシャル基板を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0031】
(裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板)
本発明に従う裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板100は、p型シリコン基板1と、該p型シリコン基板上のp型第1エピタキシャル層2と、該第1エピタキシャル層2上のp型またはn型第2エピタキシャル層3と、を有する。ここで、図1では説明の便宜上、実際の厚さの割合とは異なり、シリコン基板1に対して第1および第2エピタキシャル層の厚さを誇張して示す。
【0032】
p型シリコン基板1は、ゲッタリング能力を十分に得るために、炭素、または、炭素および窒素が添加されたものとし、抵抗率は100Ω・cm未満であり、好ましくは0.008Ω・cm以上である。また、p型シリコン基板1のp型不純物は、ボロンとするのが好ましく、その平均濃度は、1.3×1014atoms/cmより大きく、1.1×1019atoms/cm以下であることが好ましい。
【0033】
第2エピタキシャル層3は、裏面照射型固体撮像素子を製造するためのデバイス層である。第1エピタキシャル層2は、p型エピタキシャル層であり、デバイス製造後、第2エピタキシャル層3を残して、エピタキシャル基板100の裏面側(シリコン基板1側)からエッチングまたは研磨をする際、エッチングストップ層または研磨ストップ層として機能するものである。すなわち、第1エピタキシャル層2ではシリコン基板1より抵抗率が小さいことから、抵抗率の変化に基づいてシリコン基板1の除去が完了したことを検知することができる。例えば、エッチングによりシリコン基板1を除去する場合には、シリコン基板1に比べて第1エピタキシャル層2の方がエッチングレートが低いことから検知でき、また、研磨によりシリコン基板1を除去する場合には、研磨の際の抵抗値の変化により検知できる。
【0034】
なお、本明細書において「デバイス製造」の工程は、具体的には、半導体エピタキシャル基板形成工程におけるエピタキシャル層成長工程の後から固体撮像素子の形成工程までを意味する。
【0035】
ここで、本発明の特徴的構成として、第1エピタキシャル層2は、p型不純物のピーク濃度が2.7×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm未満とする。この構成を採用することの技術的意義を、作用効果と併せて説明する。シリコン基板1に炭素を添加するかに関わらず、第1エピタキシャル層のp型不純物は、その拡散係数に従って熱処理により多少拡散する。しかし、すでに述べたとおり、炭素を添加しないp型シリコン基板を用いた場合に比べて、ゲッタリング能力を高めるべく炭素を添加したシリコン基板を用いた場合に、特に顕著にこの現象が起きることが判明した。この現象が起きる原因は必ずしも明確ではないが、本発明者らは、炭素を添加することにより、シリコン基板における析出物密度が高まり、それにより発生する格子間シリコンが、第1エピタキシャル層のp型不純物の拡散速度を高めたものと推測している。そこで、第1エピタキシャル層におけるp型不純物のピーク濃度を1.1×1019atoms/cm未満とすることにより、デバイス製造工程の熱処理で、第1エピタキシャル層から第2エピタキシャル層へのp型不純物の拡散量を低減することができる。また、p型不純物のピーク濃度が2.7×1017atoms/cm未満であると、シリコン基板と第1エピタキシャル層とで抵抗率の差が小さくなり、また、エッチストップを目的としたエッチングレートの差も顕著には認められなくなる傾向があるため、2.7×1017atoms/cm以上とする。
【0036】
また、不純物拡散の抑制と除去ストップ機能との両立という観点から好ましい第1エピタキシャル層のp型不純物のピーク濃度は、シリコン基板1のp型不純物濃度よりも高く、2.7×1017atoms/cmより大きく、より好ましくは、3.2×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm以下である。
【0037】
第1エピタキシャル層2は、厚さが4μm以上10μm以下であることが好ましく、5μm超え10μm以下であることがより好ましく、6μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。本発明では、第1エピタキシャル層のp型不純物のピーク濃度を低くするため、第1エピタキシャル層でのエッチングレートの低下現象が得られにくいが、4μm以上とすれば、シリコン基板1の除去完了を検知できずに、第2エピタキシャル層まで除去し始めてしまう確率を低減することができる。また、10μm以下とすることにより、厚膜化による基板の反りを抑制することができる。なお、エピタキシャル基板の反りは、層間(基板と第1エピタキシャル層の界面)の格子定数差が原因の一つであり、格子定数はp型不純物濃度が高いほど小さくなる。本発明においては、p型不純物のピーク濃度を低くするため、シリコン基板と第1エピタキシャル層の界面でp型不純物濃度の差、すなわち、格子間定数の差が小さくなることから、基板の反りは生じにくい状態となっている。
【0038】
さらに、第1エピタキシャル層2の厚さを4μm以上と厚く設定することにより、デバイス製造時の熱処理によるシリコン基板1から第2エピタキシャル層3への炭素の拡散を十分に抑制することもできる。
【0039】
第2エピタキシャル層3は、厚さが4μm以上10μm以下であることが好ましい。厚さが4μm未満だと、長波長の入射光の分光感度が低下してしまうおそれがあるからであり、一方、厚さが10μmを超えると、ウェーハの平坦度が低下するおそれがあるためである。なお、第2エピタキシャル層へのp型不純物の拡散量が多いと、第2エピタキシャル層を厚膜化して、デバイス製造後に、第2エピタキシャル層のうち第1エピタキシャル層近傍の領域を除去するなどの工程が必要になることもある。しかし、本発明においては、第2エピタキシャル層へのp型不純物の拡散量が少ないため、第2エピタキシャル層の厚さを5μm以下にまで薄くすることができる。
【0040】
p型シリコン基板1中には、炭素または炭素および窒素と、酸素とを含む析出物をもつ領域4を有し、この析出物領域4のp型シリコン基板1の深さ方向中心部における析出物の密度は、5×10/cm以上5×10/cm以下であることが好ましい。析出物の密度が5×10/cm未満だと、ゲッタリング能力不足となるおそれがあり、一方、析出物の密度が5×10/cmを超えても、析出過多によるエピ欠陥発生となるおそれがあるためである。なお、この析出物は、後述の熱処理工程により形成することができる。すなわち、上記析出物密度は、熱処理工程後のものである。また、析出物の大きさは、10nm〜300nmの範囲とするのが好ましい。なお、この析出物は、エピタキシャル基板をライトエッチングで2μm程度エッチングし、エッチング面を光学顕微鏡で観察することにより測定した。本明細書において「析出物」とは、シリコン基板1に炭素を添加した場合には、炭素・酸素系析出物を、炭素および窒素を添加した場合には、炭素・窒素・酸素系析出物を意味する。
【0041】
p型第2エピタキシャル層3は、フォトダイオードにおける十分な空乏層の確保のため、p型不純物のピーク濃度が4.4×1013atoms/cm以上2.8×1017atoms/cm以下であることが好ましい。
【0042】
n型第2エピタキシャル層3は、フォトダイオードにおける十分な空乏層の確保のため、n型不純物のピーク濃度が1.4×1013atoms/cm以上7.8×1016atoms/cm以下であることが好ましい。
【0043】
第1エピタキシャル層および/または第2エピタキシャル層のp型不純物としては、例えばボロン、アルミニウム等が挙げられる。特に、結晶中でプラスチャージを有する重金属をゲッタリングする点やエッチストップ現象を担保する点から、ボロンを用いるのが好ましい。
【0044】
第2エピタキシャル層のn型不純物としては、例えばリン、砒素等が挙げられる。特に、CMOSプロセスにおける回路設計の容易さの点から、リンを用いるのが好ましい。
【0045】
炭素のみを添加したp型シリコン基板1の場合、炭素の平均濃度が、0.1×1016atoms/cm以上20×1016atoms/cm以下であることが好ましい。炭素濃度が0.1×1016atoms/cm未満では、析出物を十分に形成することができず、一方、炭素濃度が20×1016atoms/cm超えでは、析出物のサイズが小さくなり、ゲッタリング能力を発揮するために必要な歪を確保できなくなるおそれがあるためである。
【0046】
炭素および窒素の双方を添加したp型シリコン基板1の場合、炭素の平均濃度は同様に、0.1×1016atoms/cm以上20×1016atoms/cm以下であり、窒素の平均濃度が0.5×1013atoms/cm以上50×1013atoms/cm以下であることが好ましい。シリコン基板に窒素を添加すると、析出物サイズの増大という効果が得られるためである。また、窒素濃度が0.5×1013atoms/cm未満では、析出物サイズの増大効果が得られなくなるおそれがあり、一方、窒素濃度が50×1013atoms/cm超えでは、析出物サイズが大きくなりすぎてしまい、エピ層に欠陥を進展させてしまうおそれがあるためである。
【0047】
(裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法)
図2は、本発明の一実施形態である裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板100の製造方法を説明する模式断面図である。このエピタキシャル基板100の製造方法は、炭素、または、炭素および窒素が添加され、抵抗率が100Ω・cm未満であるp型シリコン基板1を用意し(図2(a))、この表面上に、p型第1エピタキシャル層2を形成する工程(図2(b))と、この第1エピタキシャル層2上に、p型またはn型第2エピタキシャル層3を形成する工程(図2(c))とを有する。そして、第1エピタキシャル層1における、p型不純物のピーク濃度を2.7×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm未満とすることにより、第2エピタキシャル層へのp型不純物の拡散を抑制することができ、裏面照射型固体撮像素子を高い歩留まりで製造することが可能となる。また、すでに述べたように、第1エピタキシャル層2は、厚さが4μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0048】
第1エピタキシャル層形成工程(図2(b))前のシリコン基板1は、格子間酸素濃度が1×1018atoms/cm以上2×1018atoms/cm以下であることが好ましい。格子間酸素濃度が1×1018atoms/cm未満では、ゲッタリングシンクとして作用する析出物を十分に形成することができず、一方、格子間酸素濃度が2×1018atoms/cmを超えた場合、析出物の1個当たりのサイズが大きくなり、エピタキシャル層に転位が突き抜ける可能性が高まるためである。
【0049】
第2エピタキシャル層3を形成する工程(図2(c))の後、p型シリコン基板1中に、炭素または炭素および窒素と、酸素とを含む析出物をもつ領域を形成するための熱処理工程(図2(d))を行うことが好ましい。デバイス製造中の熱処理によって酸素析出物を形成するのではなく、エピタキシャル基板の製造工程の後、デバイス製造工程の前に、析出物領域を形成するための熱処理を行うことにより、デバイスプロセス初期から十分なゲッタリング能力を得ることができる。
【0050】
熱処理工程(図2(d))は、シリコン基板1を500〜800℃の範囲内の第1温度まで加熱した後、この第1温度で10〜180分間保持する低温熱処理を行い、次いで、4℃/分以下の昇温速度で900〜1150℃の範囲内の第2温度まで加熱した後、この第2温度で15〜200分間保持する高温熱処理を行うことが好ましい。このような2段階熱処理を施すことにより、析出物が析出し、シリコン基板1に析出物領域4を形成することができる。析出物としては、例えばSiO,SiOCなどが挙げられる。
【0051】
なお、図1,2は、代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0052】
(測定方法)
以下に、本発明で規定する数値の測定方法をまとめて説明する。
炭素または窒素のピーク濃度または平均濃度:SIMS(二次イオン質量分析計)にて深さ方向の濃度分布を測定し、対象深さ区間の最大濃度を「ピーク濃度」とし、対象深さ区間の平均濃度を「平均濃度」とする。
p型またはn型不純物のピーク濃度:同様にSIMS測定にて求める。
膜厚:FT−IR
析出物密度:エピタキシャル基板をライトエッチングで2μm程度エッチングし、エッチング面を光学顕微鏡で観察することにより測定する。
格子間酸素濃度:FT−IR(ASTM F121−1979)
格子置換位置炭素濃度:FT−IR(ASTM F123−1981)
高ボロン濃度シリコン内の酸素濃度:SIMS
高ボロン濃度シリコン内の炭素濃度:SIMS
【実施例】
【0053】
(比較例1)
炭素添加p型シリコン基板(厚さ:775μm、炭素濃度(平均濃度):5.0×1016atoms/cm、ボロン濃度:1.34×1015atoms/cm、抵抗率:10Ω・cm、格子間酸素濃度:1.5×1018atoms/cm)上に、MOCVD法により、p型第1エピタキシャル層(厚さ:1μm、ボロン濃度(ピーク濃度):4.5×1019atoms/cm、抵抗率:2.5mΩ・cm)およびn型第2エピタキシャル層(厚さ:5.5μm、リン濃度(ピーク濃度):8.6×1013atoms/cm、抵抗率:50Ω・cm)を順にエピタキシャル成長させた。その後、熱処理(p型シリコン基板を650℃まで加熱した後、この温度で60分間保持し、次いで、3℃/分で1000℃まで加熱した後、この温度を120分間保持)を施すことにより、析出部領域(析出物密度:2×10/cm)を形成し、比較例にかかる裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板を得た。
【0054】
このエピタキシャル基板の表面からの深さに対するボロン濃度の分布を図3(a)に示す。測定は、SIMSにて行った。深さ0μmから5.5μm(左破線)までの厚さ5.5μmが第2エピタキシャル層であり、5.5μmから6.5μm(右破線)までの厚さ1μmが第1エピタキシャル層であり、6.5μmより深い領域はシリコン基板である。図3(a)より、熱処理前のエピタキシャル基板では、第2エピタキシャル層にはボロンがほぼ分布していないことがわかる。第1エピタキシャル層におけるボロンの最大濃度(ピーク濃度)は、Aに示すように4.5×1019atoms/cmであった。
【0055】
次に、このエピタキシャル基板に対して、デバイス製造工程の熱処理に相当する条件(熱処理条件は、図4に示す熱−時間プロファイルである。)で熱処理を施した後、図3と同様の測定を行った。結果を図3(b)に示す。第1エピタキシャル層におけるボロンの最大濃度(ピーク濃度)は、Bに示すように3.4×1019atoms/cmで、熱処理前より減少し、その分第2エピタキシャル層と基板中にボロンが拡散していることがわかる。比較例1においては、熱処理前(図3(a))ではボロンの分布領域が2.12μmであるのに対し、熱処理後(図3(b))では3.84μmに拡散していた。つまり、拡散量は1.72μmであった。また、拡散に伴う最大濃度の減少(A−B)は、1.1×1019atoms/cmであった。
【0056】
(実施例1−1〜1−5)
p型第1エピタキシャル層のボロンの最大濃度(ピーク濃度)を、本発明の範囲とした表1に示す裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板で、比較例1と同様の実験を行った。なお、表1中の炭素濃度および窒素濃度は「平均濃度」を表し、ボロン濃度およびリン濃度は「ピーク濃度」を表す。
【0057】
【表1】


なお、表1に示した以外の基板についての数値は、比較例1と同様である。
【0058】
これらの基板について、比較例1と同様に熱処理に伴うボロンの拡散量および最大濃度の減少を算出し、結果を比較例1と合わせて表2に示した。
【0059】
【表2】

【0060】
このように、実施例1−1〜1−5いずれも、比較例1よりも第2エピタキシャル層へのボロンの拡散が抑制されていることがわかる。
【0061】
(実施例2−1)
実施例1−5の基板において、エピタキシャル基板表面からの深さに対する炭素濃度の分布を図5に示した。加熱処理後は、シリコン基板の表面近傍の炭素が第2エピタキシャル層の第1エピタキシャル層近傍領域までわずかに拡散していることがわかる。
【0062】
(実施例2−2)
実施例1−5の基板における、第1エピタキシャル層の厚さを4μmから6μmに変更した以外は、実施例2−1と同様の実験を行った。エピタキシャル基板表面からの深さに対する炭素濃度の分布を図6に示した。深さ0μmから5.5μm(左破線)までの厚さ5.5μmが第2エピタキシャル層であり、5.5μmから11.5μm(右破線)までの厚さ6μmが第1エピタキシャル層であり、11.5μmより深い領域はシリコン基板である。炭素は、第1エピタキシャル層には拡散しているものの、この層を厚膜化したため、デバイス層となる第2エピタキシャル層には拡散していないことがわかる。このため、実施例2−2は第2エピタキシャル層に対してボロンの拡散と炭素の拡散の両方を抑制できるため、より好ましい実施例である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、第1エピタキシャル層のp型不純物のピーク濃度を2.7×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm未満とすることによって、デバイス層へのp型不純物の拡散を抑制することができ、裏面照射型固体撮像素子を高い歩留まりで製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 シリコン基板
2 第1エピタキシャル層
3 第2エピタキシャル層(デバイス層)
4 析出物領域
100 裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素、または、炭素および窒素が添加され、抵抗率が100Ω・cm未満であるp型シリコン基板と、
該p型シリコン基板上のp型第1エピタキシャル層と、
該第1エピタキシャル層上のp型またはn型第2エピタキシャル層と、
を有し、
前記第1エピタキシャル層は、p型不純物のピーク濃度が2.7×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm未満であることを特徴とする裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項2】
前記第1エピタキシャル層は、厚さが4μm以上10μm以下である請求項1に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項3】
前記第2エピタキシャル層は、厚さが4μm以上10μm以下である請求項1または2に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項4】
前記p型シリコン基板中には、前記炭素または炭素および窒素と、酸素とを含む析出物をもつ領域を有し、
該領域の前記p型シリコン基板の深さ方向中心部における析出物の密度が、5×10/cm以上5×10/cm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項5】
前記p型第2エピタキシャル層は、p型不純物のピーク濃度が4.4×1013atoms/cm以上2.8×1017atoms/cm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項6】
前記n型第2エピタキシャル層は、n型不純物のピーク濃度が1.4×1013atoms/cm以上7.8×1016atoms/cm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項7】
前記p型不純物がボロンである請求項5に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項8】
前記n型不純物がリンである請求項6に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項9】
炭素のみを添加した前記p型シリコン基板は、炭素の平均濃度が、0.1×1016atoms/cm以上20×1016atoms/cm以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項10】
炭素および窒素の双方を添加した前記p型シリコン基板は、炭素の平均濃度が0.1×1016atoms/cm以上20×1016atoms/cm以下であり、窒素の平均濃度が0.5×1013atoms/cm以上50×1013atoms/cm以下である請求項1〜9のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板。
【請求項11】
炭素、または、炭素および窒素が添加され、抵抗率が100Ω・cm未満であるp型シリコン基板上に、p型第1エピタキシャル層を形成する工程と、
該第1エピタキシャル層上に、p型またはn型第2エピタキシャル層を形成する工程と、
を有し、
前記第1エピタキシャル層における、p型不純物のピーク濃度を2.7×1017atoms/cm以上1.1×1019atoms/cm未満とすることを特徴とする裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項12】
前記第1エピタキシャル層は、厚さが4μm以上10μm以下である請求項11に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項13】
前記第1エピタキシャル層形成工程前のシリコン基板は、格子間酸素濃度が1×1018atoms/cm以上2×1018atoms/cm以下である請求項11または12に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項14】
前記第2エピタキシャル層を形成する工程の後、前記p型シリコン基板中に、前記炭素または炭素および窒素と、酸素とを含む析出物をもつ領域を形成するための熱処理工程を有する請求項11〜13のいずれか1項に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理工程は、
前記シリコン基板を500〜800℃の範囲内の第1温度まで加熱した後、該第1温度で10〜180分間保持する低温熱処理を行い、
次いで、4℃/分以下の昇温速度で900〜1150℃の範囲内の第2温度まで加熱した後、該第2温度で15〜200分間保持する高温熱処理を行うことを含む請求項14に記載の裏面照射型固体撮像素子用エピタキシャル基板の製造方法。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−138576(P2012−138576A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−270593(P2011−270593)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】