説明

複リンク式可変ストロークエンジン

【課題】クランクシャフトとエキセントリックシャフトとの間の駆動トルクによるギヤ噛合い音、トルク反転により発生する歯打ち音を低減することを可能にする。
【解決手段】クランクシャフト12に、同軸にタイミングギヤ63を備え、エキセントリックシャフト66に、タイミングギヤ63に噛み合いタイミングギヤ63の回転が伝達されるエキセントリックギヤ65を備え、シリンダバレル16に、クランクシャフト12の軸端(下軸端)12c及びエキセントリックシャフト66の軸端(下軸端)66cに潤滑油を供給する潤滑油路102と、潤滑油路102に設けられ、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に向けて潤滑油を噴射する噴射部103と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクケース内に設けられ、ピストンの吸気行程のストロークと、ピストンの圧縮行程のストロークを変えるエキセントリックシャフトを備えた複リンク式可変ストロークエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
複リンク式可変ストロークエンジンは、ピストンのピストンピンとクランクシャフトのクランクピンとを機械的に連携する複数のリンクと、偏心カムが設けられた制御軸と、複数のリンクのひとつに一端が連結されるとともに、偏心カムに他端が連結された制御リンクと、制御軸に先端部が連携された往復子と、この往復子の基端部にネジ部を介して噛合する回転子と、往復子の基端部側の軸方向端面に臨んだ油圧室と、を有し、回転子を往復子の軸回りに回転駆動することにより、ピストンのストロークが変化するように構成されたものである。
【0003】
この複リンク式可変ストロークエンジンによれば、油圧室で発生させる油圧を、ピストン下降時に往復子に作用する荷重の方向と同方向に押圧しておくことで、往復子が往復荷重が主方向から反対方向へ反転することを防止することが可能である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−138867公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的な、レシプロ式内燃機関では、ピストンに加わった燃焼圧はコンロッドを介して1本のクランクシャフトに伝達され、回転力として出力されるため、燃焼圧が働く出力軸は通常1本である。
【0006】
これに対して、特許文献1のような複リンク式可変ストロークエンジンでは、ピストン位置を制御するために複数のリンクが存在し、複数のリンクの内の1本のリンクの支点を偏心軸を有するシャフト(エキセントリックシャフト)の偏心軸に連結する場合には、ピストンに加わった燃焼圧は、リンクを介して出力軸であるクランクシャフトと、エキセントリックシャフトとの両方に伝達される。
【0007】
ここで、このエキセントリックシャフトをクランクシャフトの回転と同期させるために、両軸をギヤ連結させた場合、両軸にかかる燃焼圧、運動部慣性力による回転力はエンジン負荷、回転数により複雑な組み合わせとなる。これにより、ギヤの駆動/従動関係も1サイクルの間に数回入れ替わる現象が起きる。
【0008】
すなわち、ギヤの駆動/従動関係が入れ替わるトルク交替により、ギヤのバックラッシュでギヤに歯打ち音が発生し、エンジン騒音が増大する。
例えば、トルク交替による歯打ち音を抑える手段として、二枚のギヤをずらしてばねで常にテンションをかけ、ギヤのバックラッシュをなくす「せらしギヤ」と呼ばれる手法がある。しかし、「せらしギヤ」では、トルク交替時の反転トルクに耐えられるだけのばね荷重が必要となり、摩擦音などの増大につながる。
【0009】
本発明は、クランクシャフトとエキセントリックシャフトとの間の駆動トルクによるギヤ噛合い音、トルク反転により発生する歯打ち音を低減することができる複リンク式可変ストロークエンジンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ピストンを往復運動可能に案内するシリンダ、及びクランクシャフトを回転自在に支持するクランクケースが形成されるシリンダバレルと、このシリンダバレルのシリンダ側開口部を側方から塞ぐシリンダヘッドと、シリンダバレルの下方に設けられるオイルパンと、クランクケース内に設けられ、ピストンの吸気行程のストロークと、ピストンの圧縮行程のストロークを変えるエキセントリックシャフトと、を備えた複リンク式可変ストロークエンジンにおいて、クランクシャフトに、同軸にタイミングギヤを備え、エキセントリックシャフトに、タイミングギヤに噛み合いタイミングギヤの回転が伝達されるエキセントリックギヤを備え、シリンダバレルに、クランクシャフトの軸端及びエキセントリックシャフトの軸端に潤滑油を供給する潤滑油路と、潤滑油路に設けられ、タイミングギヤ及びエキセントリックギヤの噛合部に向けて潤滑油を噴射する噴射部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、シリンダバレルに、シリンダバレルの鉛直方向下面側に配置され、カムギヤ軸の鉛直方向下端に連結されて駆動されるオイルポンプを備え、クランクシャフトの軸端及びエキセントリックシャフトの軸端に潤滑油を供給する潤滑油路が、シリンダバレルの鉛直方向下面側に設けられることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、噴射部が、鉛直方向に沿わせて下方から噛合部に向けて潤滑油を噴射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以下の効果を奏する。
請求項1に係る発明では、複リンク式可変ストロークエンジンに、ピストンを往復運動可能に案内するシリンダ、及びクランクシャフトを回転自在に支持するクランクケースが形成されるシリンダバレルと、このシリンダバレルのシリンダ側開口部を側方から塞ぐシリンダヘッドと、シリンダバレルの下方に設けられるオイルパンと、クランクケース内に設けられ、ピストンの吸気行程のストロークと、ピストンの圧縮行程のストロークを変えるエキセントリックシャフトと、を備えた。
【0014】
クランクシャフトに、同軸にタイミングギヤを備え、エキセントリックシャフトに、タイミングギヤに噛み合いタイミングギヤの回転が伝達されるエキセントリックギヤを備える。
【0015】
シリンダバレルに、クランクシャフトの軸端及びエキセントリックシャフトの軸端に潤滑油を供給する潤滑油路と、潤滑油路に設けられ、タイミングギヤ及びエキセントリックギヤの噛合部に向けて潤滑油を噴射する噴射部と、を備えることで、クランクシャフトとエキセントリックシャフトとを連結するタイミングギヤ及びエキセントリックギヤの噛合部(噛合い点)に向かい、軸方向に潤滑油を恒常的に噴射させ、噛合部に積極的な潤滑油膜形成を行うことができる。
【0016】
すなわち、タイミングギヤ及びエキセントリックギヤの噛合部に潤滑油膜が形成されることによりオイルダンパ機能が働き、クランクシャフトとエキセントリックシャフトとの間の駆動トルクによるギヤ噛合い音、トルク反転により発生する歯打ち音を低減することができる。
【0017】
請求項2に係る発明では、シリンダバレルに、シリンダバレルの鉛直方向下面側に配置され、カムギヤ軸の鉛直方向下端に連結されて駆動されるオイルポンプを備え、クランクシャフトの軸端及びエキセントリックシャフトの軸端に潤滑油を供給する潤滑油路が、シリンダバレルの鉛直方向下面側に設けられるので、タイミングギヤ及びエキセントリックギヤの噛合部に圧力の高い状態の潤滑油を供給することができる。この結果、タイミングギヤ及びエキセントリックギヤの噛合部に、常時、良好な潤滑油膜が形成されやすい。
【0018】
請求項3に係る発明では、噴射部が、鉛直方向に沿わせて下方から噛合部に向けて潤滑油を噴射するので、タイミングギヤ及びエキセントリックギヤの噛合部に潤滑油を、常時、充填しておくことができる。この結果、タイミングギヤ及びエキセントリックギヤの噛合部のさらなる騒音の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る複リンク式可変ストロークエンジンの正面断面図である。
【図2】図1に示された複リンク式可変ストロークエンジンのシリンダが示される正面断面図である。
【図3】図1に示された複リンク式可変ストロークエンジンの底面断面図である。
【図4】図1に示された複リンク式可変ストロークエンジンの第1実施例の潤滑装置の正面断面図である。
【図5】図4に示された複リンク式可変ストロークエンジンのタペット室の側面図である。
【図6】図4に示された複リンク式可変ストロークエンジンのギヤの噛合部の潤滑を示す正面断面図である。
【図7】図1に示された複リンク式可変ストロークエンジンの第2実施例の潤滑装置の正面断面図である。
【図8】図1に示された複リンク式可変ストロークエンジンの第3実施例の潤滑装置の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0021】
図1〜図5に示されたように、このエンジン10は、例えば作業機等に用いられる空冷の単気筒エンジンであり、クランクシャフト12の軸線12aが鉛直方向に向けて設置されるとともに、ピストン13の吸気行程のストロークと、ピストン13の圧縮行程のストロークを変えるバーチカル型の複リンク式可変ストロークエンジンである。以下、エンジン10を、適宜、「バーチカル型エンジン10」「複リンク式可変ストロークエンジン10」若しくは「バーチカル型の複リンク式可変ストロークエンジン10」と記載する。
【0022】
エンジン10は、ピストン13を往復運動可能に案内するシリンダ(シリンダブロック)14、及びクランクシャフト12を回転自在に支持するクランクケース15が形成されるシリンダバレル(エンジンブロック)16と、このシリンダバレル16のシリンダ側開口部18を側方から塞ぐシリンダヘッド17と、クランクケース15の下方に設けられるオイルパン21と、から外殻が構成される。
【0023】
クランクケース15は、シリンダブロック14と一体に鋳造成形されるケース本体28と、このケース本体28のクランクケース側開口部19とオイルパン21との間に介在させたケース蓋体29と、からなる。クランクケース15には、一対のカウンタウエイト22,22及び両カウンタウエイト22,22間を結ぶクランクピン23を一体に有するクランクシャフト12が回転自在に支承される。
【0024】
なお、ケース本体28とケース蓋体29とで、クランク室24が構成される。シリンダバレル(エンジンブロック)16は、シリンダブロック14、クランクケース15のケース本体28及びケース蓋体29で構成されている。オイルパン21は、ケース蓋体29を介してケース本体28に取付けられている。オイルパン21には、エンジン10の内部に循環させる潤滑油が貯留される。なお、エンジン10は、後述する潤滑装置90が設けられている。
【0025】
クランクシャフト12の上軸端(一端部)12bは、クランクケース15を貫通して外方に突出するものであり、クランクケース15に設けられる上部軸受25及び下部軸受26で回転自在に支持される。上部軸受25にはそれぞれ環状のシール部材27が介装される。
【0026】
シリンダブロック14には、ピストン13を摺動自在に嵌合するシリンダボア31が形成されており、ピストン13の頂部13aを臨ませる燃焼室32がシリンダブロック14及びシリンダヘッド17間に形成される。
【0027】
シリンダヘッド17には、燃焼室32に通じ得る吸気ポート33及び排気ポート34が形成されるとともに、吸気ポート33及び燃焼室32間を開閉する吸気弁35と、排気ポート34及び燃焼室32間を開閉する排気弁36と、が開閉作動可能に配設される。さらに、混合気に点火する点火プラグ39が取付けられる。また、シリンダヘッド17内には、タペット室(動弁室)43が構成される。
【0028】
吸気弁35及び排気弁36は、それぞれ弁ばね37,38で閉弁方向に付勢されている。さらに、吸気弁35及び排気弁36は、それぞれシリンダヘッド17に摺動するバルブステム41,42が設けられ、これらのバルブステム41,42の先端部であるステムエンド41a,42aに潤滑油が供給される。
【0029】
吸気弁35及び排気弁36を開閉駆動する動弁機構45は、吸気カム47及び排気カム48を有して、クランクケース15で回転自在に支承されるカムギヤ軸(カムシャフト)49と、吸気カム47に従動して上下に摺動するようにしてシリンダブロック14に支承される吸気タペット51と、排気カム48に従動して上下に摺動するようにしてシリンダブロック14に支承される排気タペット52と、吸気タペット51の上端部51aに下端部53bを連設して上下に延びる吸気プッシュロッド53と、排気タペット52の上端部52aに下端部54bを連設して上下に延びる排気プッシュロッド54と、シリンダヘッド17に揺動自在に支持され、吸気弁35を開閉する吸気ロッカアーム55と、シリンダヘッド17に揺動自在に支持され、排気弁36を開閉する排気ロッカアーム56と、を備える。
【0030】
なお、吸気ロッカアーム55の一端部55aは、吸気プッシュロッド53の上端部53aに当接され、排気ロッカアーム56の一端部56aは、排気プッシュロッド54の上端部54aに当接され、吸気ロッカアーム55及び排気ロッカアーム56の他端部55b,56bは、吸気弁35及び排気弁36のステムエンド(頭部)41a,42aに当接する。
【0031】
さらに、吸気ロッカアーム55及び排気ロッカアーム56には、それぞれ吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aに潤滑油の滴下を許容する切り欠き57,58が形成される。
【0032】
カムギヤ軸(カムシャフト)49は、クランクシャフト12と平行な軸線49aを有する。このカムギヤ軸49及びクランクシャフト12間には、1/2の減速比でクランクシャフト12からの回転動力を伝達する第1の伝動手段61が設けられる。この第1の伝動手段61は、クランクシャフト12に固定されるタイミングギヤ(駆動ギヤ)63と、カムギヤ軸49に設けられるカムギヤ(第1被動ギヤ)64と、から構成される。なお、タイミングギヤ63及びカムギヤ64は、はすば歯車である。
【0033】
また、カムギヤ軸(カムシャフト)49の下端49bには、エンジン10の内部にオイルパン21の潤滑油を循環させる潤滑装置の構成部品であるオイルポンプ95が接続されている。
【0034】
クランクケース15には、クランクシャフト12と平行な軸線66aを有するエキセントリックシャフト(回転軸)66の両端部(上及び下軸端)66b,66cが回転自在に支承されている。エキセントリックシャフト66及びクランクシャフト12間には、クランクシャフト12の回転動力を1/2に減速してエキセントリックシャフト66に伝達する第2の伝動手段62が設けられる。この第2の伝動手段62は、クランクシャフト12のタイミングギヤ63と、エキセントリックシャフト66に設けられ、タイミングギヤ63に噛合するエキセントリックギヤ(第2被動ギヤ)65と、から構成される。なお、エキセントリックギヤ65は、はすば歯車である。
【0035】
エキセントリックシャフト66には、エキセントリックシャフト66の軸線66aから偏心した位置に軸線67aを有する偏心軸67が一体に設けられる。さらに、この偏心軸67、ピストン13、クランクシャフト12とは、リンク機構68を介して連結される。
【0036】
リンク機構68は、一端72aがピストンピン71を介してピストン13に連結される主コンロッド72と、クランクシャフト12のカウンタウエイト22,22間に配置され、クランクピン23に連結されるとともに、主コンロッド72の他端72bに回動可能に連結されるサブコンロッド73と、主コンロッド72の連結位置からオフセットした(ずれた)位置でサブコンロッド73に一端74aが回動可能に連結されるとともに、偏心軸67に他端74bが回動可能に連結されるスイングロッド74と、からなる。
【0037】
サブコンロッド73は、クランクピン23の半周に摺接するように形成されるものであり、クランクピン23の残余の半周に摺接するクランクキャップ75が一対のボルト76,76でサブコンロッド73に締結される。
【0038】
主コンロッド72の他端72bは、コンロッドピン77を介してサブコンロッド73の一端73aに回動可能に連結される。スイングロッド74の一端74aはスイングピン78を介してサブコンロッド73の他端73bに回動可能に連結されるものであり、スイングロッド74の他端74bには偏心軸67を相対回動可能に貫通する円形の連結孔79が設けられる。
【0039】
すなわち、クランクシャフト12の回転に応じてエキセントリックシャフト(回転軸)66が1/2の減速比で回転駆動され、偏心軸67がエキセントリックシャフト66の軸線66aまわりに回転するのに伴って、リンク機構68は、例えば、膨張行程でのピストン13のストロークを圧縮行程でのストロークよりも大とするように作用し、同じ吸入混合気量でより大きな膨張仕事を行わせるようにした。これにより、サイクル熱効率を向上することができる。
【0040】
潤滑装置90は、シリンダバレル16の鉛直方向下面16b側に配置され、カムギヤ軸49の鉛直方向下端49bに連結されて駆動されるオイルポンプ95と、オイルポンプ95の下流側に設けられ、潤滑油の異物を削除するオイルフィルタ96と、オイルホンプ95から送られた潤滑油をクランクシャフト12の下部軸受26へ供給する第1の潤滑油路91と、クランクシャフト12の下部軸受26から上部軸受25までクランクシャフト12内を通過させる第2の潤滑油路92と、シリンダバレル16の鉛直方向上面16a側に、且つクランクケース15から吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aまで形成され、第2の潤滑油路92からリークされた潤滑油が流れる第3の潤滑油路93と、第3の潤滑油路93から吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aに滴下した潤滑油をオイルパン21へ戻す第4の潤滑油路94と、第1の潤滑油路91の先端に設けられたギヤ潤滑油路97と、ギヤ潤滑油路97の先端に設けられ、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に向けて潤滑油を噴射する噴射部103と、ギヤ潤滑油路97に接続され、エキセントリックシャフト66の軸端(下軸端)66cに潤滑油を供給する軸端潤滑油路98と、エキセントリックシャフト66の下軸端66cから上軸端66bまで貫通させたシャフト潤滑油路99と、を備える。
【0041】
第1の潤滑油路91、ギヤ潤滑油路97及び軸端潤滑油路98で、クランクシャフト12の下軸端(軸端)12c及びエキセントリックシャフト66の軸端(下軸端)66cに潤滑油を供給する潤滑油路102が構成されている。
オイルポンプ95は、オイルポンプ95の上流側に設けられ、オイルパン21の潤滑油を汲み上げるオイル供給路106と、オイルポンプ95の下流側に設けられ、潤滑油をオイルフィルタ96に搬送するオイル搬送路107と、が設けられる。
【0042】
第1の潤滑油路91には、クランクシャフト12の下軸端12c周囲に潤滑油を供給するクランク側供給口91aを備える。第2の潤滑油路92には、クランクシャフト12の下軸端12cに潤滑油が入力されるオイル入力口92aと、上軸端12bの潤滑油が出力されるオイル出力口92bとを有する。
【0043】
軸端潤滑油路98には、エキセントリックシャフト66の下軸端66cに潤滑油を供給するエキセントリック側供給口98aを有する。シャフト潤滑油路99には、エキセントリックシャフト66の下軸端66cに潤滑油が入力されるオイル入力口99aと、エキセントリックシャフト66の上軸端66bの潤滑油が出力される軸端オイル出力口99bとを有する。
【0044】
すなわち、潤滑装置90では、図1に示されたように、オイルパン21の潤滑油は、オイル供給路106を経由して矢印a1の如くオイルポンプ95に汲み上げられ、汲み上げられた潤滑油は、オイルポンプ95からオイル搬送路107に矢印a2の如く流れ、オイル搬送路107から矢印a3の如くオイルフィルタ96(図2参照)に搬送される。
【0045】
図2に示されたように、オイルフィルタ96から出力された潤滑油は、矢印a4の如く第1の潤滑油路91を流れ、第1の潤滑油路91のクランク側供給口91aへと吐出される。クランク側供給口91aへと吐出された潤滑油は下部軸受26側のオイル入力口92aから第2の潤滑油路92に入力され、図4に示されたように、第2の潤滑油路92を矢印a5,a6の如く流れ、オイル出力口92bから上部軸受25に出力され、第3の潤滑油路93を矢印a7,a8の如く流れ、第3の潤滑油路93から吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42a(図2参照)に矢印a9(図5参照)如く滴下される。ステムエンド41a,42aに滴下された潤滑油は、第4の潤滑油路94を矢印a10(図4参照)の如く流れ、シリンダブロック14内を経由してオイルパン21へと戻る。
【0046】
一方、第1の潤滑油路91を流れる潤滑油は、図6に示されたように、矢印a11の如くギヤ潤滑油路97に流れ、矢印a12の如く噴射部103からタイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に向けて潤滑油を噴射する。
さらに、ギヤ潤滑油路97に流入した潤滑油は、軸端潤滑油路98にも流れ、エキセントリックシャフト66の下軸端66cから上軸端66bまで貫通させたシャフト潤滑油路99へ矢印a13の如く流れこみ、エキセントリックシャフト66の潤滑が行なわれる。
【0047】
図1〜図5に示されたように、バーチカル型エンジン10では、ピストン13を往復運動可能に案内するシリンダ(シリンダブロック)14、及びクランクシャフト12を回転自在に支持するクランクケース15が形成されるシリンダバレル16と、このシリンダバレル16のシリンダ側開口部18を側方から塞ぐシリンダヘッド17と、シリンダバレル16の下方に設けられるオイルパン21と、シリンダヘッド17に設けられる吸気及び排気弁35,36と、クランクケース15に設けられ、吸気及び排気弁35,36を駆動するカム(吸気及び排気カム)47,48をそれぞれ有するカムギヤ軸49と、を備える。
【0048】
バーチカル型エンジン10は、クランクシャフト12の軸線12aが鉛直方向に向けて設置される。
【0049】
シリンダバレル16の鉛直方向下面16b側に配置され、カムギヤ軸49の鉛直方向下端49bに連結されて駆動されるオイルポンプ95と、オイルホンプ95から送られた潤滑油をクランクシャフト12の下部軸受26へ供給する第1の潤滑油路91と、クランクシャフト12の下部軸受26から上部軸受25までクランクシャフト12内を通過させる第2の潤滑油路92と、シリンダバレル16の鉛直方向上面16a側に、且つクランクケース15から吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aの直下まで形成され、第2の潤滑油路92からリークされた潤滑油が流れる第3の潤滑油路93と、第3の潤滑油路93から吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aに滴下した潤滑油をオイルホンプ95へ戻す第4の潤滑油路94と、を備えることで、オイルポンプ95により強制圧送された潤滑油を、クランクシャフト12の下部軸受26から上部軸受25までクランクシャフト12内を通過させ、上部軸受25からリークさせた潤滑油(リークオイル)を、クランクケース15から吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aの直下まで流し、潤滑必要部位であるステムエンド41a,42aに潤滑油を重力により滴下するようにした。
【0050】
例えば、オイルポンプ95を用いて潤滑必要部位まで強制圧送を行う場合には、オイル潤滑経路の増大や、潤滑部位の増加により、オイルポンプ95容量を増大する必要がある。これは、オイルポンプ95のポンプ駆動損失の増加につながり、好ましいことではない。
【0051】
また、ブリーザーによるクランクケース15内のガス流動を利用する場合には、潤滑に必要なオイル量を導くという要求と、オイル消費の観点からブリーザー吐出ガス中のオイルを極力無くしたいという相反する要求の双方を満足させなければならず、レイアウト上非常に困難なものとなる。
【0052】
クランクケース15とシリンダヘッド17(タペット室43)との間の内圧変化をつける場合には、クランクケース15内の潤滑油量、ブローバイガス量、エンジン回転数等複雑な要因によりその内圧変化が変動し、運転状況によりタペット室43の潤滑油量も変動してしまうことがある。
【0053】
すなわち、駆動されるオイルポンプ95と、オイルホンプ95から送られた潤滑油をクランクシャフト12の下部軸受26へ供給する第1の潤滑油路91と、クランクシャフト12の下部軸受26から上部軸受25までクランクシャフト12内を通過させる第2の潤滑油路92と、シリンダバレル16の鉛直方向上面16a側に、且つクランクケース15から吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aの直下まで形成され、第2の潤滑油路92からリークされた潤滑油が流れる第3の潤滑油路93と、第3の潤滑油路93から吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aに滴下した潤滑油をオイルホンプ95へ戻す第4の潤滑油路94と、を備えたので、オイルポンプ95容量の増大を伴わないため、ポンプ駆動損失の増大を伴わずにシリンダヘッド17(タペット室43)まで潤滑油を確実に導くことができる。また、ブリーザーによるガス流動も利用していないため、ブリーザーは最もオイルミストの少ない箇所に設置することができ、ブリーザー吐出によるオイル消費量を抑制することができる。さらに、ケース内圧変化を利用しないため、運転条件等に左右されることなく必要潤滑油量を確実にシリンダヘッド17(タペット室43)まで導くことができる。
【0054】
図3に示されたように、バーチカル型エンジン10では、吸気及び排気弁35,36が、シリンダヘッド17に設けられるオーバヘッドバルブなので、吸気及び排気弁35,36は、一般的に、カムギヤ軸49のカム(吸気及び排気カム)47,48、プッシュロッド(吸気及び排気プッシュロッド)53,54及びロッカアーム(吸気及び排気ロッカアーム)55,56を介して開閉される。
【0055】
従って、エンジン10は、熱くなるとプッシュロッド53,54及びロッカアーム55,56が熱膨張による体積変化を起こすために、ロッカアーム55,56と吸気及び排気弁35,36との間にわずかなタペットクリアランス(隙間)が設けてある。エンジン10が冷えているときには、このタペットクリアランスが騒音の要因ともなる。すなわち、吸気及び排気弁35,36が、シリンダヘッド17に設けられるオーバヘッドバルブでは、吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aの適正な潤滑は必要条件となり、これにより、吸気及び排気弁の静粛性の向上を図ることができる。
【0056】
図3及び図5に示されたように、バーチカル型エンジン10では、吸気及び排気弁35,36に、カム(吸気及び排気カム)47,48の動きがプッシュロッド53,54を介して伝達されるロッカアーム55,56を備え、ロッカアーム55,56は、吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aに潤滑油の滴下を許容する切り欠き57,58が形成されたので、吸気及び排気弁35,36のステムエンド41a,42aに潤滑油を直接、滴下することができる。この結果、ステムエンド41a,42aを十分に潤滑することができ、吸気及び排気弁35,36の騒音の低下の実現を図ることができる。
【0057】
図1〜図3及び図6に示されたように、エンジン10は、複リンク式可変ストロークエンジンであり、ピストン13を往復運動可能に案内するシリンダ(シリンダブロック)14、及びクランクシャフト12を回転自在に支持するクランクケース15が形成されるシリンダバレル16と、このシリンダバレル16のシリンダ側開口部18を側方から塞ぐシリンダヘッド17と、シリンダバレル16の下方に設けられるオイルパン21と、クランクケース15内に設けられ、ピストン13の吸気行程のストロークと、ピストン13の圧縮行程のストロークを変えるエキセントリックシャフト66と、を備え、クランクシャフト12に、同軸にタイミングギヤ63を備え、エキセントリックシャフト66に、タイミングギヤ63に噛み合いタイミングギヤ63の回転が伝達されるエキセントリックギヤ65を備える。
【0058】
シリンダバレル16に、クランクシャフト12の軸端(下軸端)12c及びエキセントリックシャフト66の軸端(下軸端)66cに潤滑油を供給する潤滑油路102と、潤滑油路102に設けられ、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に向けて潤滑油を噴射する噴射部103と、を備えることで、クランクシャフト12とエキセントリックシャフト66とを連結するタイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部(噛合い点)104に向かい、軸方向に潤滑油を恒常的に噴射させ、噛合部104に積極的な潤滑油膜形成を行うことができる。
【0059】
すなわち、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に潤滑油膜が形成されることによりオイルダンパ機能が働き、クランクシャフト12とエキセントリックシャフト66との間の駆動トルクによるギヤ噛合い音、トルク反転により発生する歯打ち音を低減することができる。
【0060】
図1〜図3及び図6に示されたように、複リンク式可変ストロークエンジン10では、シリンダバレル16に、シリンダバレル16の鉛直方向下面16b側に配置され、カムギヤ軸49の鉛直方向下端49bに連結されて駆動されるオイルポンプ95を備え、クランクシャフト12の軸端(下軸端)12c及びエキセントリックシャフト66の軸端(下軸端)66cに潤滑油を供給する潤滑油路102が、シリンダバレル16の鉛直方向下面16b側に設けられるので、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に圧力の高い状態の潤滑油を供給することができる。この結果、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に、常時、良好な潤滑油膜が形成されやすい。
【0061】
図1〜図3及び図6に示されたように、複リンク式可変ストロークエンジン10では、噴射部103が、鉛直方向に沿わせて下方から噛合部104に向けて潤滑油を噴射するので、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に潤滑油を、常時、充填しておくことができる。この結果、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104のさらなる騒音の低減を図ることができる。
【実施例2】
【0062】
図7に、図1〜図6に示された潤滑装置90の変形例である潤滑装置120が示される。潤滑装置120では、潤滑装置90に比較して第1の潤滑油路121には、クランクシャフト12の下軸端12cに潤滑油を供給するクランク側軸端供給口121bが追加される。
【0063】
すなわち、潤滑装置120は、クランクシャフト12の下部軸受26へ潤滑油を供給する第1の潤滑油路121と、第1の潤滑油路121の先端に設けられたギヤ潤滑油路127と、ギヤ潤滑油路127の先端に設けられ、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に向けて潤滑油を噴射する噴射部133と、ギヤ潤滑油路127に接続され、エキセントリックシャフト66の軸端(下軸端)66cに潤滑油を供給する軸端潤滑油路128と、エキセントリックシャフト66の下軸端66cから上軸端66bまで貫通させたシャフト潤滑油路129と、を備える。
【0064】
第1の潤滑油路121、ギヤ潤滑油路127、軸端潤滑油路128及びシャフト潤滑油路129で、クランクシャフト12の下軸端12c及びエキセントリックシャフト66の上及び下軸端66b,66cを、予め所定の方向に押圧するように潤滑油を供給する潤滑油路131が構成される。
【0065】
第1の潤滑油路121には、クランクシャフト12の下軸端12c周囲に潤滑油を供給するクランク側供給口121aと、下軸端12cに潤滑油を供給するクランク側軸端供給口121bと、を備える。
【0066】
軸端潤滑油路128には、エキセントリックシャフト66の下軸端66cに潤滑油を供給するエキセントリック側供給口128aを有する。シャフト潤滑油路129には、エキセントリックシャフト66の下軸端66cに潤滑油が入力されるオイル入力口129aと、エキセントリックシャフト66の上軸端66bの潤滑油が出力される軸端オイル出力口129bと、を有する。
【0067】
図3にて説明したように、バーチカル型の複リンク式可変ストロークエンジン10では、クランクシャフト12に、同軸にタイミングギヤ63が設けられ、エキセントリックシャフト66に、タイミングギヤ63に噛み合いタイミングギヤ63の回転が伝達されるエキセントリックギヤ65を備える。
タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65は、はすば歯車が用いられている。
【0068】
図7に示されたように、潤滑装置120では、クランクシャフト12に矢印b1の如く上向きの最大軸方向荷重が作用するとともに、エキセントリックシャフト66に矢印b2の如く下向きの最大軸方向荷重が作用するときに、クランクシャフト12の下軸端12cに、潤滑油を供給してクランクシャフト12を上方に押圧するとともに、エキセントリックシャフト66に、上及び下軸端66b,66cに適量の潤滑油を供給してエキセントリックシャフト66にかかる荷重を相殺するようにした。
【実施例3】
【0069】
図8に、図1〜図6に示された潤滑装置90の変形例である潤滑装置140が示される。潤滑装置140では、潤滑装置90において設けられた、エキセントリックシャフト66の上軸端66bの潤滑油が出力される軸端オイル出力口99bが省かれ、周囲オイル出力口149cが設けられる。
【0070】
すなわち、潤滑装置140は、クランクシャフト12の下部軸受26へ潤滑油を供給する第1の潤滑油路141と、第1の潤滑油路141の先端に設けられたギヤ潤滑油路147と、ギヤ潤滑油路147の先端に設けられ、タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65の噛合部104に向けて潤滑油を噴射する噴射部153と、ギヤ潤滑油路147に接続され、エキセントリックシャフト66の軸端(下軸端)66cに潤滑油を供給する軸端潤滑油路148と、エキセントリックシャフト66の下軸端66cから上軸端66bまで貫通させたシャフト潤滑油路149と、を備える。
【0071】
第1の潤滑油路141、ギヤ潤滑油路147、軸端潤滑油路148及びシャフト潤滑油路149で、エキセントリックシャフト66の下軸端66cを、予め所定の方向に押圧するように潤滑油を供給する潤滑油路151が構成される。
【0072】
第1の潤滑油路141には、クランクシャフト12の下軸端12c周囲に潤滑油を供給するクランク側供給口141aを備える。
【0073】
軸端潤滑油路148には、エキセントリックシャフト66の下軸端66cに潤滑油を供給するエキセントリック側供給口148aを有する。シャフト潤滑油路149には、エキセントリックシャフト66の下軸端66cに潤滑油が入力されるオイル入力口149aと、エキセントリックシャフト66の上軸端66bの周囲に潤滑油が出力される周囲オイル出力口149cと、を有する。
【0074】
図3にて説明したように、バーチカル型の複リンク式可変ストロークエンジン10では、クランクシャフト12に、同軸にタイミングギヤ63が設けられ、エキセントリックシャフト66に、タイミングギヤ63に噛み合いタイミングギヤ63の回転が伝達されるエキセントリックギヤ65を備える。
タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65は、はすば歯車が用いられている。
【0075】
クランクシャフト12に矢印c1の如く下向きの最大軸方向荷重が作用するとともに、エキセントリックシャフト66に矢印c2の如く上向きの最大軸方向荷重が作用するときに、クランクシャフト12を、自重を利用して最大軸方向荷重作用前にシリンダバレル16に予め接触させるとともに、エキセントリックシャフト66の下軸端66cに、潤滑油を供給してエキセントリックシャフト66上方に押圧した。
【0076】
図1〜図3,図7及び図8(実施例2及び実施例3)に示されたように、バーチカル型の複リンク式可変ストロークエンジン10では、ピストン13を往復運動可能に案内するシリンダ(シリンダブロック)14、及びクランクシャフト12を回転自在に支持するクランクケース15が形成されるシリンダバレル16と、このシリンダバレル16のシリンダ側開口部18を側方から塞ぐシリンダヘッド17と、シリンダバレル16の下方に設けられるオイルパン21と、クランクケース15内に設けられ、ピストン13の吸気行程のストロークと、ピストン13の圧縮行程のストロークを変えるエキセントリックシャフト66と、を備える。クランクシャフト12の軸線12aが鉛直方向に向けて設置される。
【0077】
シリンダバレル16に、クランクシャフト12の下軸端12c及びエキセントリックシャフト66の上及び下軸端66b,66cを、予め所定の方向に押圧するように潤滑油を供給する潤滑油路131、若しくは、エキセントリックシャフト66の下軸端66cを、予め所定の方向に押圧するように潤滑油を供給する潤滑油路151が設けられたので、クランクシャフト12及び/若しくはエキセントリックシャフト66を最大軸方向荷重発生時に衝突面となるシリンダバレル16(歯車箱面)に予め接触させておくことができる。これにより、クランクシャフト12の軸端(下軸端)12c若しくはエキセントリックシャフト66の軸端66b,66cの衝突による打音を抑制することができる。
【0078】
図7(実施例2)に示されたように、バーチカル型の複リンク式可変ストロークエンジン10では、クランクシャフト12に、同軸にタイミングギヤ63が設けられ、エキセントリックシャフト66に、タイミングギヤ63に噛み合いタイミングギヤ63の回転が伝達されるエキセントリックギヤ65を備える。
【0079】
タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65に、はすば歯車が用いられる。
クランクシャフト12に上向きの最大軸方向荷重が作用するとともに、エキセントリックシャフト66に下向きの最大軸方向荷重が作用するときに、クランクシャフト12の軸端(下軸端)12cに、潤滑油を供給してクランクシャフト12を上方に押圧するとともに、エキセントリックシャフト66に、上及び下軸端66b,66cに適量の潤滑油を供給してエキセントリックシャフト66にかかる荷重を相殺するようにしたので、クランクシャフト12及びエキセントリックシャフト66がシリンダバレル16に衝突して発生する打音を抑制することができる。
【0080】
なお、このときに、エキセントリックシャフト66は、比較的軽いのでエキセントリックシャフト66にかかる荷重及び自重を相殺するように、上及び下軸端66b,66cに適量の潤滑油を供給して潤滑油で上及び下軸端66b,66cを押さえ込むようにした。
【0081】
図8(実施例3)に示されたように、バーチカル型の複リンク式可変ストロークエンジン10では、クランクシャフト12に、同軸にタイミングギヤ63が設けられ、エキセントリックシャフト66に、タイミングギヤ63に噛み合いタイミングギヤ63の回転が伝達されるエキセントリックギヤ65を備える。
【0082】
タイミングギヤ63及びエキセントリックギヤ65に、はすば歯車が用いられる。
クランクシャフト12に下向きの最大軸方向荷重が作用するとともに、エキセントリックシャフト66に上向きの最大軸方向荷重が作用するときに、クランクシャフト12を、自重を利用して最大軸方向荷重作用前にシリンダバレル16に予め接触させるとともに、エキセントリックシャフト66の下軸端66cに、潤滑油を供給してエキセントリックシャフト66を上方に押圧したので、クランクシャフト12及びエキセントリックシャフト66がシリンダバレル16に衝突して発生する打音を抑制することができる。
【0083】
なお、このときに、クランクシャフト12は、重量があるので自重を利用して最大軸方向荷重作用前にシリンダバレル16に予め接触させた。
【0084】
尚、本発明に係るバーチカル型エンジンは、図1〜図8に第1〜第3実施例の潤滑装置90,120,140が示されたが、これらの実施例を適宜組み合わせることを妨げるものではない。また、本発明では第1〜第3実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0085】
実施例は、図1〜図3に示されたように、エンジン10はバーチカル型の複リンク式可変ストロークエンジンであったが、クランクシャフトの軸線を鉛直方向に向けて設置されたエンジンに限るものではなく、複リンク式可変ストロークエンジンであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る複リンク式可変ストロークエンジンは、エンジン、発電機及び排気熱交換器が一つの筐体に納められ、エンジンに都市ガス等が供給され、発電及び熱交換器を行うコージェネレーション装置に採用するのに好適である。
【符号の説明】
【0087】
10…複リンク式可変ストロークエンジン、12…クランクシャフト、12c…クランクシャフトの軸端(下軸端)、13…ピストン、14…シリンダ(シリンダブロック)、15…クランクケース、16…シリンダバレル、16b…シリンダバレルの鉛直方向下面、17…シリンダヘッド、18…シリンダ側開口部、21…オイルパン、63…タイミングギヤ、65…エキセントリックギヤ、66…エキセントリックシャフト、66c…エキセントリックシャフトの軸端、95…オイルポンプ、102…潤滑油路、103…噴射部、104…噛合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを往復運動可能に案内するシリンダ、及びクランクシャフトを回転自在に支持するクランクケースが形成されるシリンダバレルと、このシリンダバレルのシリンダ側開口部を側方から塞ぐシリンダヘッドと、シリンダバレルの下方に設けられるオイルパンと、前記クランクケース内に設けられ、前記ピストンの吸気行程のストロークと、前記ピストンの圧縮行程のストロークを変えるエキセントリックシャフトと、を備えた複リンク式可変ストロークエンジンにおいて、
前記クランクシャフトは、同軸にタイミングギヤを備え、前記エキセントリックシャフトは、前記タイミングギヤに噛み合い前記タイミングギヤの回転が伝達されるエキセントリックギヤを備え、
前記シリンダバレルは、前記クランクシャフトの軸端及び前記エキセントリックシャフトの軸端に潤滑油を供給する潤滑油路と、該潤滑油路に設けられ、前記タイミングギヤ及び前記エキセントリックギヤの噛合部に向けて潤滑油を噴射する噴射部と、を備えたことを特徴とする複リンク式可変ストロークエンジン。
【請求項2】
前記シリンダバレルは、前記シリンダバレルの鉛直方向下面側に配置され、前記カムギヤ軸の鉛直方向下端に連結されて駆動されるオイルポンプを備え、
前記クランクシャフトの軸端及び前記エキセントリックシャフトの軸端に潤滑油を供給する潤滑油路は、前記シリンダバレルの鉛直方向下面側に設けられることを特徴とする請求項1記載の複リンク式可変ストロークエンジン。
【請求項3】
前記噴射部は、鉛直方向に沿わせて下方から前記噛合部に向けて潤滑油を噴射することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の複リンク式可変ストロークエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−172626(P2012−172626A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37148(P2011−37148)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】