説明

複合基板およびその製造方法

【課題】複数の炭化珪素単結晶を有する複合基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素と異なる材料から作られた支持層31と、支持層31上に形成された炭化珪素層32とを有するベース部30が準備され、前記ベース部30の炭化珪素層32上に第1および第2の炭化珪素単結晶11、12の各々が接合される。前記接合する工程は、前記炭化珪素層32に前記第1および第2の炭化珪素単結晶11,12の各々を対向させる工程と、前記炭化珪素層11,12のうち前記第1および第2の炭化珪素単結晶11,12に対向する部分のそれぞれを、前記第1および第2の炭化珪素単結晶11,12上に昇華および再結晶させることによって、前記第1および第2の炭化珪素単結晶11,12の各々に前記炭化珪素層32を接合する工程とを含む複合基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合基板およびその製造方法に関し、特に複数の炭化珪素単結晶を有する複合基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造に用いられる半導体基板として炭化珪素基板の採用が進められつつある。炭化珪素は、より一般的に用いられているシリコンに比べて大きなバンドギャップを有する。そのため炭化珪素基板を用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の低下が小さい、といった利点を有する。
【0003】
半導体装置を効率的に製造するためには、ある程度以上の基板の大きさが求められる。特許文献1によれば、76mm(3インチ)以上の炭化珪素基板を製造することができるとされている。しかしながら、炭化珪素基板の大きさは工業的には100mm(4インチ)程度にとどまっており、特に基板が六方晶系における(0001)面以外の面方位を有する場合、必要な大きさを確保することがより難しくなる。なぜならば炭化珪素のインゴットは、通常、積層欠陥の発生を抑えるために(0001)面成長によって形成されるからである。
【0004】
そこで、特許文献2によれば、1つの大きな炭化珪素単結晶に代わるものとして、支持部と、この支持基板上に接合された複数の炭化珪素単結晶とを有する複合基板が提案されている。この構造は、たとえば、グラファイトからなる支持部の上に炭化珪素単結晶がグラファイト接着剤によって接着されることによって得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7314520号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0187766号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような炭化珪素単結晶とグラファイト基板との接合は、異種材料間の接着となってしまう。また仮に支持部の材料も炭化珪素とすると、接着を同種材料間のものとすることができるものの、支持部の形成に長時間を要してしまう。なぜならば、ハンドリングに必要な剛性を確保する上で支持部の厚さがある程度以上必要である一方で、炭化珪素は、通常、成長速度の遅い気相法によって成長させられるからである。このような事情から従来の方法では複合基板の製造コストが高くなってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の炭化珪素単結晶を有する複合基板を低コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複合基板の製造方法は、以下の工程を有する。炭化珪素と異なる材料から作られた支持層と、支持層上に形成された炭化珪素層とを有するベース部が準備される。ベース部の炭化珪素層上に第1および第2の炭化珪素単結晶の各々が接合される。
【0009】
本製造方法によれば、炭化珪素単結晶と、それを支持するベース部との接合を、同種材料同士の接合とすることができる。また炭化珪素単結晶を支持するベース部が炭化珪素層に加えて支持層を有するので、複合基板のハンドリングに必要な剛性を確保しつつ、ベース部のうち成長速度の遅い炭化珪素からなる炭化珪素層を薄くすることができる。よってベース部をより短時間で形成することができるので、複合基板の製造コストを低くすることができる。
【0010】
好ましくは、接合する工程は、以下の工程を有する。炭化珪素層に第1および第2の炭化珪素単結晶の各々が対向させられる。炭化珪素層のうち第1および第2の炭化珪素単結晶に対向する部分のそれぞれを、第1および第2の炭化珪素単結晶上に昇華および再結晶させることによって、第1および第2の炭化珪素単結晶の各々に炭化珪素層が接合される。これにより接合を強固に行うことができる。
【0011】
より好ましくは、対向させる工程は、平面視において互いに異なる位置に配置された第1および第2の炭化珪素単結晶を有する単結晶群と、ベース部とを積み重ねることによって行われる。これにより対向させる工程を容易に行うことができる。
【0012】
支持層はグラファイトから作られた層を含んでもよい。また支持層は、炭化珪素が昇華し得る温度よりも高い融点を有する金属から作られた層を含んでもよい。これにより支持層の高温安定性を高めることができる。
【0013】
好ましくは、炭化珪素層と、第1の炭化珪素単結晶と、第2の炭化珪素単結晶との各々の結晶構造は、同一のポリタイプを有する。これにより複合基板の反りまたは割れを防止することができる。
【0014】
本発明の複合基板は、ベース部と、第1および第2の炭化珪素単結晶とを有する。ベース部は支持層および炭化珪素層を有する。支持層は炭化珪素と異なる材料から作られている。炭化珪素層は支持層上に形成されている。第1および第2の炭化珪素単結晶の各々は炭化珪素層上に接合されている。炭化珪素層は、支持層に面する第1の領域と、第1の領域に埋め込まれ、かつ第1および第2の炭化珪素単結晶の各々の上にエピタキシャルに成長させられた第2の領域とを有する。
【0015】
本複合基板によれば、第1の炭化珪素単結晶と、その上にエピタキシャルに成長させられた第2の領域との界面が、第1の炭化珪素単結晶とベース部との界面となる。よって第1の炭化珪素単結晶とベース部との接合が強固なものとなる。同様の理由で、第2の炭化珪素単結晶とベース部との接合も強固なものとなる。
【0016】
好ましくは、炭化珪素層は第1および第2の領域の間にボイドを有する。これにより第1および第2の領域の境界における応力を緩和することができる。
【0017】
なお上記において第1および第2の炭化珪素単結晶について言及しているが、このことは第1および第2の炭化珪素単結晶に加えてさらに1つ以上の炭化珪素単結晶を有する形態を除外することを意味するものではない。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、複数の炭化珪素単結晶を有する複合基板を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1における複合基板の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う概略断面図である。
【図3】図2の一部拡大図である。
【図4】本発明の実施の形態1における複合基板の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における複合基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図6】図5の一部拡大図である。
【図7】本発明の実施の形態1における複合基板の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図であり、かつ炭化珪素が移動する様子を示す図である。
【図8】図7と同じ工程を概略的に示す部分断面図であり、かつ空隙が移動する様子を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態1における複合基板の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図10】比較例の複合基板を示す部分断面図である。
【図11】本発明の実施の形態2における半導体装置の構成を概略的に示す部分断面図である。
【図12】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の概略的なフロー図である。
【図13】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図14】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図15】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図16】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図17】本発明の実施の形態2における半導体装置の製造方法の第5工程を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
はじめに本実施の形態の複合基板の構成を概略的に説明する。
【0021】
図1および図2に示すように、本実施の形態の複合基板81は、単結晶基板11〜19(炭化珪素単結晶)を有する単結晶群10と、ベース部30とを含む。単結晶基板11〜19の各々は、板状の炭化珪素の単結晶である。ベース部30は支持層31および炭化珪素層32を有する。ベース部30は、たとえば図1に示す四角形状、または円形形状を有する。ベース部30が円形形状を有する場合、その直径は好ましくは20cm以上である。好ましくは、複合基板81のハンドリングを容易とするために、複合基板81の厚さ(図2における縦方向の寸法)は300μm以上とされる。
【0022】
ベース部30は単結晶基板11〜19の各々の裏面(図1に示される面と反対の面)に接合されており、これにより単結晶基板11〜19は互いに固定されている。単結晶基板11〜19のそれぞれは同一平面上において露出した表面を有し、たとえば単結晶基板11(第1の炭化珪素単結晶)および12(第2の炭化珪素単結晶)のそれぞれは、表面F1およびF2(図2)を有する。これにより複合基板81は、単結晶基板11〜19の各々に比して大きな表面を有する。よって単結晶基板11〜19の各々を単独で用いる場合に比して、複合基板81を用いる場合の方が、半導体装置をより効率よく製造することができる。
【0023】
次に複合基板81の構成を詳細に説明する。
ベース部30は、支持層31と、支持層31上に形成された炭化珪素層32とを有する。またベース部30は、炭化珪素層32側である主面P1(第1の主面)と、支持層31側であってかつ主面P1と対向する主面P2(第2の主面)とを有する。
【0024】
支持層31は、炭化珪素と異なる材料から作られている。支持層31の材料は、たとえばグラファイト、または、炭化珪素が昇華し得る温度よりも高い融点を有する金属である。これにより支持層31の導電性および高温安定性が高くなる。このような金属としては、たとえば、タンタル、タングステン、モリブデン、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムがある。支持層31の構造は、単数層からなる構造および複数層からなる構造のいずれであってもよい。支持層31が複数層からなる場合、複数層の材料は互いに同一である必要はない。支持層31の厚さは、たとえば約300μmである。
【0025】
炭化珪素層32の厚さは、たとえば約20μmである。炭化珪素層32の結晶構造は、多結晶構造、単結晶構造、およびアモルファス構造のいずれであってもよく、たとえばポリタイプ3C型の多結晶構造である。炭化珪素層32の電気抵抗率は小さいことが好ましい。具体的には、この電気抵抗率は、好ましくは50mΩ・cm未満とされ、より好ましくは10mΩ・cm未満とされる。電気抵抗率の低減のために炭化珪素層32は不純物を有してもよく、たとえばn型不純物濃度5×1019cm-3を有する。
【0026】
単結晶群10の各々は、炭化珪素から作られており、好ましくは単結晶群10の各々の結晶構造は共通である。また好ましくは単結晶群10の結晶構造は六方晶系であり、より好ましくはポリタイプ4Hを有する。また単結晶群10は、炭化珪素層32の欠陥密度に比して低い欠陥密度を有し、たとえば、マイクロパイプ密度0.2cm-2と、1cm-1未満の積層欠陥密度とを有する。また単結晶群10は不純物を有してもよく、たとえばn型不純物濃度1×1019cm-3を有する。
【0027】
また単結晶群10の各々は、互いに対向する裏面および表面と、この裏面および表面をつなぐ側面とを有する。たとえば、単結晶基板11(第1の炭化珪素単結晶)は、互いに対向する裏面B1および表面F1と、裏面B1および表面F1をつなぐ側面S1とを有し、単結晶基板12(第2の炭化珪素単結晶)は、互いに対向する裏面B2および表面F2と、裏面B2および表面F2をつなぐ側面S2とを有する。単結晶群10の各々は、たとえば、35mm×35mmの正方形の平面形状と、厚さ300μmとを有する。
【0028】
単結晶群10の各々の裏面は、ベース部30の主面P1上、すなわち炭化珪素層32上に接合されている。また単結晶基板11〜19のうち隣り合うものの間には隙間GPが形成されている。よって、たとえば側面S1およびS2は、隙間GPを介して互いに対向している。なお隙間GPが単結晶基板11〜19の間を完全に分離する必要はなく、たとえば側面S1の一部と側面S2の一部とが互いに接触していてもよい。
【0029】
図3に示すように、炭化珪素層32は、支持層31に面する第1の領域32pと、第1の領域32pに埋め込まれ、かつ単結晶基板11〜19(図3においては単結晶基板12のみ示す)の各々の上にエピタキシャルに成長させられた第2の領域32eとを有する。第1の領域32pの結晶構造は、多結晶構造、アモルファス構造、および単結晶構造のいずれであってもよい。
【0030】
また炭化珪素層32は第1および第2の領域の間にボイドVDを有する。これにより第1および第2の領域32p、32eの境界における応力を緩和することができる。
【0031】
次に複合基板81の製造方法について説明する。なお、以下において説明を簡略化するために単結晶基板11〜19のうち単結晶基板11および12に関してのみ言及する場合があるが、単結晶基板13〜19も単結晶基板11および12と同様に扱われる。
【0032】
図4を参照して、支持層31が準備される。次に支持層31上に炭化珪素層32が形成される。形成方法は、たとえばCVD法である。これにより、支持層31と、支持層31上に形成された炭化珪素層32とを有するベース部30が準備される。ベース部30の厚さの面内ばらつきは小さい方が好ましく、たとえば10μm未満とされる。
【0033】
図5および図6を参照して、ベース部30と、単結晶基板11〜19すなわち単結晶群10と、加熱装置とが準備される。
【0034】
単結晶群10の各々は、たとえば、六方晶系における(0001)面で成長したSiCインゴットを(03−38)面に沿って切断することによって準備される。この場合、好ましくは、(03−38)面側が裏面として用いられ、(0−33−8)面側が表面として用いられる。また単結晶群10の各々の厚さの面内ばらつきは小さい方が好ましく、たとえば10μm未満とされる。
【0035】
加熱装置は、第1および第2の加熱体91、92と、断熱容器40と、ヒータ50と、ヒータ電源150とを有する。断熱容器40は、断熱性の高い材料から形成されている。ヒータ50は、たとえば電気抵抗ヒータである。第1および第2の加熱体91、92は、ヒータ50からの放射熱を吸収して得た熱を再放射することによって、ベース部30および単結晶群10を加熱する機能を有する。第1および第2の加熱体91、92は、たとえば、空隙率の小さいグラファイトから形成されている。
【0036】
次に、第1の加熱体91、単結晶群10、ベース部30、および第2の加熱体92が、この順に積み重なるように配置される。具体的には、まず第1の加熱体91上において単結晶基板11〜19が平面視において互いに異なる位置に配置される。この配置は、たとえばマトリクス状である。単結晶基板11および12は、側面S1およびS2が隙間GPを介して対向するように、第1の加熱体91上に載置される。次に単結晶群10の各々とベース部30の炭化珪素層32とが対向するように、単結晶群10とベース部30とが積み重ねられる。次にベース部30上に第2の加熱体92が載置される。次に、積層された、第1の加熱体、単結晶群10、ベース部30、および第2の加熱体が、ヒータ50が設けられた断熱容器40内に収められる。
【0037】
次に断熱容器40内の雰囲気が、大気雰囲気の減圧によって得られた雰囲気、または不活性ガス雰囲気とされる。不活性ガスとしては、たとえば、He、Arなどの希ガス、窒素ガス、または希ガスと窒素ガスとの混合ガスを用いることができる。たとえば上記雰囲気は、断熱容器40内に窒素ガスを100sccm(Standard Cubic Centimeters per Minute)で導入することによって形成される窒素雰囲気である。また断熱容器40内の圧力は、好ましくは50kPa以下とされ、より好ましくは10kPa以下とされ、たとえば100Paとされる。
【0038】
次にヒータ50によって、第1および第2の加熱体91、92のそれぞれを介して、単結晶群10とベース部30とが、昇華再結晶反応が生じる程度の温度に加熱される。この温度は、通常1800℃以上2500℃以下であり、たとえば約2000℃である。この加熱は、ベース部30の温度が単結晶群10の温度よりも高くなるような温度差が形成されるように行われる。このような温度差は、断熱容器40内に温度勾配を設けることによって得ることができ、この温度勾配は、1℃/cm以上200℃/cm以下が好ましく、10℃/cm以上50℃/cm以下がより好ましい。
【0039】
上記の加熱が開始される段階では、ベース部30は単結晶基板11および12の各々の上に載置されているだけであって、接合はされていない。このため図7に示すように、単結晶基板11および12の裏面の各々と、ベース部30の主面P1との間には、ミクロ的には空隙GQが存在する。空隙GQの平均高さ(図7における縦方向の寸法)は、たとえば数十μmである。
【0040】
上述した温度勾配によって、単結晶基板11および12の各々の温度に比してベース部30の温度が高くされると、この温度差に起因して、昇華および再結晶による炭化珪素の物質移動が生じる。具体的には、炭化珪素層32のうち単結晶基板11および12に対向する部分のそれぞれから炭化珪素の昇華ガスが形成され、このガスが単結晶基板11および12の上で再結晶する。つまり空隙GQにおいて図中矢印Mcに示すようにベース部30から単結晶基板11および12の各々への物質移動が生じる。
【0041】
さらに図8を参照して、矢印Mc(図7)で示す物質移動は、逆に言えば、空隙GQの、矢印H1c(図8)に示す移動に対応する。ここで空隙GQの高さ(図中の縦方向の寸法)には大きな面内ばらつきがあり、このばらつきに起因して、空隙GQの移動(図中矢印H1c)の速度に大きな面内ばらつきが生じる。
【0042】
さらに図9を参照して、上記ばらつきのために空隙GQ(図8)に対応する空洞は、その形状を保ちつつ移動することができず、代わりに複数のボイドVD(図9)を生成する。ボイドVDは、上記温度差に起因して矢印Hc(図9)に示すように移動する。このボイドの移動は、炭化珪素層32の一部が、単結晶基板11および12の裏面B1およびB2上におけるエピタキシャル成長によって第2の領域32eに変化することに対応する。ボイドVDは、第2の領域32eと、炭化珪素層32のうち第2の領域32eへと変化していない部分である第1の領域32pとの境界に位置する。
【0043】
以上のようにして、ベース部30の炭化珪素層32上に単結晶基板11および12の各々が接合される。これにより複合基板81(図1〜図3)が得られる。
【0044】
次に比較例の複合基板(図10)の製造方法について説明する。この比較例においては、ベース部30zおよび単結晶基板12が接着剤29によって互いに接着されている。単結晶基板12およびベース部30zの各々と、接着剤29との界面は平坦であり、このためいずれかの界面において容易に剥離が生じやすい。また単結晶基板12の材料と接着剤29の材料とが異なることから、両者の間での熱膨張係数の差異によって、単結晶基板12および接着剤29の間で剥離が生じやすい。またベース部30zが炭化珪素から作られる場合、ベース部30zの作製に時間を要する。またベース部30zが炭化珪素以外の材料から作られる場合、接着剤29が、炭化珪素からなる単結晶基板12と炭化珪素以外からなるベース部30zとの接着、すなわち異種材料間の接着を行うことになり、接着強度が不足しやすくなる。
【0045】
これに対して本実施の形態によれば、単結晶基板11〜19の各々とベース部30との接合が炭化珪素同士の接合として行われるので、上記比較例のように異種材料同士の接合が行われる場合に比して、強固な接合をより容易に行うことができる。
【0046】
また炭化珪素層32が支持層31によって支持されているので、炭化珪素層32が薄くても、複合基板81のハンドリングに必要な剛性を確保することができる。よって厚い炭化珪素層32を作る必要がないので、ベース部30を短時間で作製することができ、よって複合基板81の製造コストを低くすることができる。
【0047】
また単結晶基板11と、その上にエピタキシャルに成長させられた第2の領域32eとの界面、すなわち結晶構造がほぼ連続的につながっている界面が、単結晶基板11とベース部30との接合面となる。よってこの接合は強固なものとなる。同様の理由で、単結晶基板12〜19の各々とベース部30との接合も強固なものとなる。
【0048】
好ましくは、炭化珪素層32と単結晶群10との各々の結晶構造は、同一のポリタイプを有する。これにより両者の間での熱膨張係数の差異が小さくなるので、複合基板81の反りまたは割れを防止することができる。
【0049】
好ましくは、炭化珪素層32の不純物濃度は、単結晶基板11〜19の各々の不純物濃度よりも高くされる。すなわち相対的に、炭化珪素層32の不純物濃度は高く、また単結晶基板11〜19の不純物濃度は低くされる。ベース部30の炭化珪素層32の不純物濃度が高いことによってベース部30の平均的な抵抗率を小さくすることができるので、複合基板81を流れる電流に対する抵抗が低減される。また単結晶基板11〜19の不純物濃度が低いことによって、その結晶欠陥をより容易に低減することができる。なお不純物としては、たとえば、窒素、リン、ボロン、またはアルミニウムを用いることができる。
【0050】
好ましくは、単結晶基板11の表面F1の(000−1)面に対するオフ角は50°以上65°以下である。より好ましくは、表面F1のオフ方位と単結晶基板11の<1−100>方向とのなす角は5°以下である。さらに好ましくは、単結晶基板11の<1−100>方向における(0−33−8)面に対する表面F1のオフ角は−3°以上5°以下である。さらに好ましくは表面F1は(0−33−8)面の面方位を有する。このような結晶構造が用いられることによって、単結晶基板11を用いた半導体装置のチャネル移動度を高くすることができる。なお「<1−100>方向における(0−33−8)面に対する表面F1のオフ角」とは、<1−100>方向および<0001>方向の張る射影面への表面F1の法線の正射影と、(0−33−8)面の法線とのなす角度であり、その符号は、上記正射影が<1−100>方向に対して平行に近づく場合が正であり、上記正射影が<0001>方向に対して平行に近づく場合が負である。また表面F1の好ましいオフ方位として、上記以外に、単結晶基板11の<11−20>方向とのなす角が5°以下となるようなオフ方位を用いることもできる。また上記において単結晶基板11の炭化珪素の結晶構造の好ましい例について説明したが、他の単結晶基板12〜19についても同様である。
【0051】
なお本実施の形態における加熱装置の方式は、ヒータ50(図5)を用いる抵抗加熱法であるが、他の方式が用いられてもよく、たとえば、高周波誘導加熱法またはランプアニール法が用いられてもよい。
【0052】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、複合基板81(図1および図2)を用いた半導体装置の製造について説明する。なお説明を簡単にするために複合基板81が有する単結晶基板11〜19のうち単結晶基板11にのみ言及する場合があるが、他の単結晶基板12〜19の各々もほぼ同様に扱われる。
【0053】
図11を参照して、本実施の形態の半導体装置100は、縦型DiMOSFET(Double Implanted Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であって、ベース部30、単結晶基板11、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125、酸化膜126、ソース電極111、上部ソース電極127、ゲート電極110、およびドレイン電極112を有する。半導体装置100の平面形状(図11の上方向から見た形状)は、たとえば、2mm以上の長さの辺からなる長方形または正方形である。
【0054】
ドレイン電極112はベース部30上に設けられ、またバッファ層121は単結晶基板11上に設けられている。この配置により、ゲート電極110によってキャリアの流れが制御される領域は、ベース部30ではなく単結晶基板11の上に配置されている。
【0055】
ベース部30の炭化珪素層32(図2)、単結晶基板11、およびバッファ層121は、n型の導電型を有する。バッファ層121におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3である。またバッファ層121の厚さは、たとえば0.5μmである。
【0056】
耐圧保持層122は、バッファ層121上に形成されており、また導電型がn型のSiCからなる。たとえば、耐圧保持層122の厚さは10μmであり、そのn型の導電性不純物の濃度は5×1015cm-3である。
【0057】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型である複数のp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部において、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。複数のp領域123の間から露出する耐圧保持層122上には酸化膜126が形成されている。具体的には、酸化膜126は、一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。
【0058】
酸化膜126と、半導体層としてのn+領域124、p+領域125、p領域123および耐圧保持層122との界面から10nm以内の領域における窒素原子濃度の最大値は1×1021cm-3以上となっている。これにより、特に酸化膜126下のチャネル領域(酸化膜126に接する部分であって、n+領域124と耐圧保持層122との間のp領域123の部分)の移動度を向上させることができる。
【0059】
次に半導体装置100の製造方法について説明する。まず基板準備工程(ステップS110:図12)にて、複合基板81(図1および図2)が準備される。
【0060】
図13を参照して、エピタキシャル層形成工程(ステップS120:図12)により、バッファ層121および耐圧保持層122が、以下のように形成される。
【0061】
単結晶群10の表面上にバッファ層121が形成される。バッファ層121は、導電型がn型のSiCからなり、たとえば厚さ0.5μmのエピタキシャル層である。またバッファ層121における導電型不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3とされる。
【0062】
次にバッファ層121上に耐圧保持層122が形成される。具体的には、導電型がn型のSiCからなる層が、エピタキシャル成長法によって形成される。耐圧保持層122の厚さは、たとえば10μmとされる。また耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1015cm-3である。
【0063】
図14を参照して、注入工程(ステップS130:図12)により、p領域123と、n+領域124と、p+領域125とが、以下のように形成される。
【0064】
まずp型の導電性不純物が耐圧保持層122の一部に選択的に注入されることで、p領域123が形成される。次に、n型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってn+領域124が形成され、またp型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってp+領域125が形成される。なお不純物の選択的な注入は、たとえば酸化膜からなるマスクを用いて行われる。
【0065】
このような注入工程の後、活性化アニール処理が行われる。たとえば、アルゴン雰囲気中、加熱温度1700℃で30分間のアニールが行われる。
【0066】
図15を参照して、ゲート絶縁膜形成工程(ステップS140:図12)が行われる。具体的には、耐圧保持層122と、p領域123と、n+領域124と、p+領域125との上を覆うように、酸化膜126が形成される。この形成はドライ酸化(熱酸化)により行われてもよい。ドライ酸化の条件は、たとえば、加熱温度が1200℃であり、また加熱時間が30分である。
【0067】
その後、窒化処理工程(ステップS150)が行われる。具体的には、一酸化窒素(NO)雰囲気中でのアニール処理が行われる。この処理の条件は、たとえば加熱温度が1100℃であり、加熱時間が120分である。この結果、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125の各々と、酸化膜126との界面近傍に、窒素原子が導入される。
【0068】
なおこの一酸化窒素を用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニール処理が行われてもよい。この処理の条件は、たとえば、加熱温度が1100℃であり、加熱時間が60分である。
【0069】
次に、電極形成工程(ステップS160:図12)により、ソース電極111およびドレイン電極112が、以下のように形成される。
【0070】
図16を参照して、酸化膜126上に、フォトリソグラフィ法を用いて、パターンを有するレジスト膜が形成される。このレジスト膜をマスクとして用いて、酸化膜126のうちn+領域124およびp+領域125上に位置する部分がエッチングにより除去される。これにより酸化膜126に開口部が形成される。次に、この開口部においてn+領域124およびp+領域125の各々と接触するように導体膜が形成される。次にレジスト膜を除去することにより、上記導体膜のうちレジスト膜上に位置していた部分の除去(リフトオフ)が行われる。この導体膜は、金属膜であってもよく、たとえばニッケル(Ni)からなる。このリフトオフの結果、ソース電極111が形成される。
【0071】
なお、ここでアロイ化のための熱処理が行なわれることが好ましい。たとえば、不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスの雰囲気中、加熱温度950℃で2分の熱処理が行なわれる。
【0072】
図17を参照して、ソース電極111上に上部ソース電極127が形成される。また、酸化膜126上にゲート電極110が形成される。また、複合基板81の裏面上にドレイン電極112が形成される。
【0073】
次に、ダイシング工程(ステップS170:図12)により、破線DCに示すようにダイシングが行われる。これにより複数の半導体装置100(図11)が切り出される。
【0074】
本実施の形態の半導体装置100の製造方法によれば、従来のものに比してより低価格の複合基板81が用いられるので、半導体装置100の製造コストを低くすることができる。
【0075】
なお上記の各実施の形態において、導電型が入れ替えられた構成、すなわちp型とn型とが入れ替えられた構成を用いることもできる。また縦型DiMOSFETを例示したが、本発明の半導体基板を用いて他の半導体装置が製造されてもよく、たとえばRESURF−JFET(Reduced Surface Field-Junction Field Effect Transistor)またはショットキーダイオードが製造されてもよい。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
10 単結晶群、11 単結晶基板(第1の炭化珪素単結晶)、12 単結晶基板(第2の炭化珪素単結晶)、13〜19 単結晶基板(炭化珪素単結晶)、30 ベース部、31 支持層、32 炭化珪素層、32e 第2の領域、32p 第1の領域、81 複合基板、100 半導体装置、P1 主面(第1の主面)、P2 主面(第2の主面)、VD ボイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素と異なる材料から作られた支持層と、前記支持層上に形成された炭化珪素層とを有するベース部を準備する工程と、
前記ベース部の前記炭化珪素層上に第1および第2の炭化珪素単結晶の各々を接合する工程とを備える、複合基板の製造方法。
【請求項2】
前記接合する工程は、
前記炭化珪素層に前記第1および第2の炭化珪素単結晶の各々を対向させる工程と、
前記炭化珪素層のうち前記第1および第2の炭化珪素単結晶に対向する部分のそれぞれを、前記第1および第2の炭化珪素単結晶上に昇華および再結晶させることによって、前記第1および第2の炭化珪素単結晶の各々に前記炭化珪素層を接合する工程とを含む、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項3】
前記対向させる工程は、平面視において互いに異なる位置に配置された前記第1および第2の炭化珪素単結晶を有する単結晶群と、前記ベース部とを積み重ねることによって行われる、請求項2に記載の複合基板の製造方法。
【請求項4】
前記支持層はグラファイトから作られた層を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合基板の製造方法。
【請求項5】
前記支持層は、炭化珪素が昇華し得る温度よりも高い融点を有する金属から作られた層を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合基板の製造方法。
【請求項6】
前記炭化珪素層と、前記第1の炭化珪素単結晶と、前記第2の炭化珪素単結晶との各々の結晶構造は、同一のポリタイプを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合基板の製造方法。
【請求項7】
炭化珪素と異なる材料から作られた支持層と、前記支持層上に形成された炭化珪素層とを有するベース部と、
前記ベース部の前記炭化珪素層上に各々が接合された第1および第2の炭化珪素単結晶とを備え、
前記炭化珪素層は、前記支持層に面する第1の領域と、前記第1の領域に埋め込まれ、かつ前記第1および第2の炭化珪素単結晶の各々の上にエピタキシャルに成長させられた第2の領域とを有する、複合基板。
【請求項8】
前記炭化珪素層は前記第1および第2の領域の間にボイドを有する、請求項7に記載の複合基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−256053(P2011−256053A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129099(P2010−129099)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】