複層摺動部材
【課題】硫黄等を含む極圧添加剤を含有する潤滑油を使用する場合でも、硫化腐食の進行を抑えることができると共に、青銅系銅合金と同等の摺動性能を発揮する多孔質金属焼結層を備えた複層摺動部材を提供する。
【解決手段】鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された金属焼結部材からなる多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材であって、該多孔質金属焼結層は、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる複層摺動部材等。前記裏金を、Cuメッキ又はNiメッキが施された鋼板とすることができる。
【解決手段】鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された金属焼結部材からなる多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材であって、該多孔質金属焼結層は、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる複層摺動部材等。前記裏金を、Cuメッキ又はNiメッキが施された鋼板とすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
上記複層摺動部材において、鋼板からなる裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層には、従来、青銅、鉛青銅又はリン青銅等の青銅系銅合金が用いられている(特許文献1乃至特許文献5参照)。
【0003】
この多孔質金属焼結層に青銅系銅合金が用いられるのは、多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆される合成樹脂組成物からなる滑り層の該多孔質金属焼結層への強固な接合強度(アンカー効果)を達成することができることと、相手材との摺動摩擦によって合成樹脂組成物からなる滑り層に摩耗を生じ、該滑り層(摺動面)に多孔質金属焼結層の一部が露出しても、露出した青銅系銅合金が具有する良好な摺動性能により、複層摺動部材としての摩擦摩耗等の良好な摺動特性を維持することができるという理由による。
【0004】
上記特徴を有する複層摺動部材は、多くの異なった使用条件、例えば乾燥摩擦条件又は油中乃至油潤滑条件等、幅広い条件下で使用されている。油中乃至油潤滑条件での使用、特に摩擦面での負荷面圧が高く、油膜の破断に起因する焼付きを生じやすい極圧条件では、油中に塩素、硫黄(S)、リン(P)などを含む極圧添加剤を含有する場合がある。この極圧添加剤として、特に硫黄分を含む極圧剤を含有する潤滑油が使用される場合には、多孔質金属焼結層を形成する青銅系銅合金に硫化腐食を生じる虞がある。すなわち、複層摺動部材の切削加工により、青銅系銅合金からなる多孔質金属焼結層が露出した端面部や、摺動面としての合成樹脂組成物からなる滑り層に露出した青銅系銅合金からなる多孔質金属焼結層の銅(Cu)成分と、極圧添加剤成分として含有されている潤滑油中のS成分との反応により硫化物(CuS等)が生成され、青銅系銅合金からなる多孔質金属焼結層に硫化腐食を生じるのである。この硫化物の生成は、多孔質金属焼結層に強度低下を来たし、かつ硫化物の滑り層への露出により摩耗を促進させるという欠点として現れる。この硫化物の生成は、多孔質金属焼結層に銅合金を使用する限りにおいては避けられない事象であり、発生した硫化腐食の進行を抑制する技術の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50−43006号公報
【特許文献2】特開昭53−117149号公報
【特許文献3】特開2000−319472号公報
【特許文献4】特開2005−321057号公報
【特許文献5】特開2006−62328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、硫黄等の極圧添加剤を含有する潤滑油を使用する場合でも、硫化腐食の進行を抑えることができると共に、青銅系銅合金と同等の摺動性能を発揮する多孔質金属焼結層を備えた複層摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、銅−ニッケル(Cu−Ni)系の白銅を主成分とし、これに所定量の割合の錫(Sn)及びリン(P)を添加して形成した多孔質金属焼結層は、硫黄等の極圧添加剤を含有する潤滑油の使用において、該多孔質金属焼結層の硫化腐食の進行を極力抑えることができ、該硫化腐食に起因する硫化物(CuS等)の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、滑り層の剥離を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
本発明の複層摺動部材は、上記知見に基づいてなされたものであり、鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材であって、該多孔質金属焼結層は、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなることを特徴としている。
【0009】
本発明の複層摺動部材によれば、硫黄等の極圧剤を含む潤滑油の使用においても、該多孔質金属焼結層に生じた硫化腐食の進行を極力抑制することができ、該硫化腐食に起因する硫化物の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、合成樹脂組成物からなる滑り層の剥離等を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができる。
【0010】
本発明の複層摺動部材において、鋼板からなる裏金の表面にCuメッキ(カッパータイト)又はNiメッキ(ニッケルトップ)を施してもよい。これらメッキの厚さは、概ね2〜10μmであることが好ましい。これら鋼板からなる裏金の表面に施されるCuメッキ又はNiメッキによって、多孔質金属焼結層の裏金表面への接合強度を高めることができる。
【0011】
本発明の複層摺動部材において、鋼板からなる裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆される合成樹脂組成物は、フルオロカーボン重合体(ポリテトラフルオロエチレン樹脂等)、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂から選択される少なくとも一つの合成樹脂に、耐摩耗性向上剤としてポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂から選択される少なくとも一つの有機材料、その他リン酸塩、硫酸バリウム、固体潤滑剤から選択される少なくとも一つの無機材料を含んでもよい。
【0012】
複層摺動部材の摺動面としての滑り層を形成する前記合成樹脂組成物は、相手材との摺動摩擦において、低摩擦性を発揮すると共に優れた耐摩耗性を発揮する。そして、滑り層に摩耗を生じ、該滑り層に、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる多孔質金属焼結層の一部が露出しても、露出した該成分組成からなる焼結層が良好な摺動性能を発揮するので、複層摺動部材としての摩擦摩耗等の摺動特性を維持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼板からなる裏金の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層は、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなり、該多孔質金属焼結層は、極圧添加剤を含有する潤滑油の使用における硫化腐食の進行を抑制することができ、該硫化腐食に起因する硫化物の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、滑り層の剥離を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができる。また、上記成分組成からなる多孔質金属焼結層は、それ自体が摺動特性に優れているので、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層に摩耗を生じ、滑り層に該多孔質金属焼結層の一部が露出しても良好な摺動特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】極圧添加剤を含む潤滑油中に浸漬直後の本発明の多孔質金属焼結層の表面を示す写真である。
【図2】図1のA−A断面を示す写真である。
【図3】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の本発明の多孔質金属焼結層の表面を示す写真である。
【図4】図3のB−B断面を示す写真である。
【図5】硫黄、燐系の極圧剤を含む潤滑油中に浸漬直後の従来の青銅成分からなる多孔質金属焼結層の表面を示す写真である。
【図6】図5のC−C断面を示す写真である。
【図7】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の従来の青銅成分からなる多孔質金属焼結層の表面を示す写真である。
【図8】図7のD−D断面を示す写真である。
【図9】スラスト試験方法を説明するための斜視図である。
【図10】極圧添加剤を含む潤滑油中に浸漬直後の本発明の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材の滑り層の表面を示す写真である。
【図11】図10のE−E断面を示す写真である。
【図12】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の本発明の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材の滑り層の表面を示す写真である。
【図13】極圧添加剤を含む潤滑油中に50時間浸漬後の実施例1の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図14】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の実施例1の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図15】極圧添加剤を含む潤滑油中に50時間浸漬後の実施例2の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図16】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の実施例2の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図17】極圧添加剤を含む潤滑油中に50時間浸漬後の比較例の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図18】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の比較例の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。尚、本発明はこれらの例に何等限定されない。
【0016】
本発明の複層摺動部材は、鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材であって、該多孔質金属焼結層は、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなるものである。以下、本発明の複層摺動部材における多孔質金属焼結層の成分組成について説明する。
【0017】
Niは、主成分をなすCuに固溶して多孔質金属焼結層の耐摩耗性及び強度向上に寄与すると共に、硫化腐食の進行に対する抑制作用を発揮する。Niは焼結時に裏金(鋼板)表面に固溶してその表面を合金化し、多孔質金属焼結層の裏金への接合強度を増大させると共に、後述するPと液相を生じ、一部合金化してNi−P合金を形成し、Cuと親和性のよいNi−P合金が多孔質金属焼結層と裏金との接合界面に介在し、界面で上記Niの固溶による合金化と相俟って、多孔質金属焼結層を裏金に強固に接合一体化させる作用をなす。また、Niの配合量が21質量%未満では上記した効果が得られず、また35質量%を超えて配合すると、焼結性の低下を来たし、結果として多孔質金属焼結層の強度低下を招来する虞がある。従って、Niの配合量は21〜35質量%、好ましくは24〜28質量%である。
【0018】
Snは、主成分をなすCuと合金化してCu−Sn合金を形成し、焼結を促進して多孔質金属焼結層の強度及び耐摩耗性の向上に寄与すると共に、前記Niと同様、硫化腐食の進行に対する抑制作用を有する。Snの配合量が3質量%未満では上記した効果が充分に得られず、また12質量%を超えて配合すると、多孔質金属焼結層の孔隙を消失させ、該多孔質金属焼結層の孔隙に充填される合成樹脂組成物からなる滑り層の保持力、所謂アンカー効果を低下させる上に、硬いCu−Ni−Snの金属間化合物を生成して該多孔質金属焼結層の強度や靭性の低下を来たす虞がある。従って、Snの配合量は3〜12質量%、好ましくは8〜11質量%である。
【0019】
Pは、主成分をなすCuと、また成分中のNiと液相を生じ、一部合金化して多孔質金属焼結層の地の強度を高めると共に、耐摩耗性の向上に寄与する。Pは還元力が強いため、裏金表面をその還元作用により清浄化し、前記Niの裏金表面への拡散による合金化を助長する効果がある。尚、Ni−P合金の効果については前記したとおりである。Pの配合量が0.4質量%未満では上記した効果が充分に得られず、また1.35質量%を超えて配合すると、液相の発生量が多くなり、多孔質金属焼結層の孔隙を消失させ、該多孔質金属焼結層の孔隙に充填される合成樹脂組成物からなる滑り層のアンカー効果を低下させる虞がある。従って、Pの配合量は0.4〜1.35質量%、好ましくは0.5〜1.1質量%である。
【0020】
上記したSnは、主成分をなすCuに対し単体粉末の形態で配合されるが、Niは、通常Cu−Niの合金粉末、例えばCu−30質量%Ni又はCu−40質量%Niのアトマイズ合金粉末の形態で配合されるが、単体粉末の形態で配合してもよく、また、Pは通常Cu−Pの合金粉末、例えばCu−15質量%Pの搗砕合金粉末の形態で配合される。また、Cu、Ni、Sn、Pからなる成分が予め所望の配合比となるように調整して製造したCu−Ni−Sn−Pのアトマイズ合金粉末も使用することができる。そして、これら粉末は、200メッシュ(75μm)アンダーの粉末を使用することが好適である。
【0021】
ここで、本発明の複層摺動部材における鋼板からなる裏金の表面に一体的に形成した多孔質金属焼結層を備えた複層板の製造方法の一例について説明する。
【0022】
<複層板の製造方法>
裏金として、コイル状に巻いてフープ材として提供される厚さ0.3〜1.5mmの一般構造用圧延鋼板(JISG3101)を好適に使用できるが、必ずしも連続条片に限らず、適当な長さに切断した条片を使用することもできる。また裏金として、上記鋼板にCuメッキ(カッパータイト)又はNiメッキ(Niトップ)を施した鋼板を使用してもよい。
【0023】
200メッシュアンダーのCu−30質量%Ni又はCu−40質量%Niのアトマイズ合金粉末と、350メッシュ(42μm)アンダーのSnアトマイズ粉末と、200メッシュアンダーのCu−15質量%Pの搗砕合金粉末とを準備し、これらの粉末を配合割合がNi:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuとなるように調整後V型ミキサーに投入し、20〜60分間混合して混合粉末を作製する。この混合粉末を前記鋼板の一方の表面に一様な厚さに散布し、これを還元性雰囲気に調整された加熱炉内で870〜970℃の温度で20〜60分間焼結し、該鋼板の表面にNi:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる多孔質金属焼結層を一体的に接合した複層板を作製する。
【0024】
上記焼結工程において、232℃の温度からSnの液相が生成し、更に875℃付近の温度からNi−P合金(Ni3P)を主体とする液相が生成して焼結が進行する。この複層板の製造において、裏金としてCuメッキ鋼板又はNiメッキ鋼板を使用することにより、Ni及びPの作用により裏金との強固な接合一体化を行わせることができる。裏金に一体的に接合されたNi:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる多孔質金属焼結層の厚さは、概ね0.10〜0.40mm、就中0.2〜0.3mmであることが好ましく、多孔度は、概ね10容積%以上、就中15〜40容積%であることが推奨される。
【0025】
上記した複層板の多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆される合成樹脂組成物としては、フルオロカーボン重合体(ポリテトラフルオロエチレン樹脂等)、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂から選択される少なくとも一つの合成樹脂を含有し、耐摩耗性向上剤としてポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂から選択される少なくとも一つの有機材料、その他リン酸塩、硫酸バリウム、固体潤滑剤から選択される少なくとも一つの無機材料を含んでいてもよい。
【0026】
この合成樹脂組成物の具体例としては、前記特許文献3に開示されている硫酸バリウム5〜40質量%、リン酸塩1〜30質量%、ポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂及びポリフェニレンスルホン樹脂から選択される1種又は2種以上の有機材料1〜10質量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる合成樹脂組成物、又は前記特許文献4に開示されているオキシベンゾイルポリエステル樹脂1〜25体積%、リン酸塩1〜15体積%、硫酸バリウム1〜20体積%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる合成樹脂組成物、更には前記特許文献5に開示されている飽和脂肪酸と多価アルコールとから誘導される多価アルコール脂肪酸エステル0.5〜5重量%と、ホホバ油0.5〜3重量%と、残部ポリアセタール樹脂とからなる合成樹脂組成物等を例示することができる。
【0027】
ここで、合成樹脂組成物として、前記特許文献3に開示されている合成樹脂組成物を使用し、該合成樹脂組成物を前記複層板の多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆して形成される複層摺動部材の製造方法の一例について説明する。
【0028】
<複層摺動部材の製造方法>
ポリテトラフルオロエチレン樹脂に対し、硫酸バリウム5〜40質量%、リン酸塩1〜30質量%、ポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂及びポリフェニレンスルホン樹脂から選択される1種又は2種以上の有機材料1〜10質量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂を配合し、ヘンシェルミキサー内に供給して撹拌混合して混合物を作製する。該混合物100重量部に対し石油系溶剤を15〜30重量部配合し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の室温転移点以下の温度(15℃)で混合して合成樹脂組成物を作製する。この合成樹脂組成物を鋼板からなる裏金上に一体的に接合された多孔質金属焼結層上に散布供給し、合成樹脂組成物の厚さが所定の厚さになるようにローラで圧延して多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に合成樹脂組成物を充填被覆した複層部材を作製する。該複層部材を200〜250℃の温度に加熱した熱風乾燥炉中に数分間保持して溶剤を除去した後、乾燥した合成樹脂組成物を所定の厚さになるように300〜600kgf/cm2の加圧下で加圧ローラ処理する。複層部材を加熱炉に導入して360〜380℃の温度で数分乃至10数分間加熱して焼成を行なった後、炉から取り出し、再度ローラ処理によって寸法のばらつきを調整し、所望の複層摺動部材とする。
【0029】
上記複層摺動部材において、多孔質金属焼結層の厚さは0.10〜0.40mm、合成樹脂組成物から形成された被覆層(滑り層)の厚さは0.02〜0.15mmとされる。このようにして得られた複層摺動部材は、適宜の寸法に切断されて平板状態で滑り板として使用されたり、また丸曲げされて円筒状の巻きブッシュとして使用される。
【0030】
図1は、鋼板からなる裏金の表面にNiメッキ層を介して本発明のNi:25.5質量%、Sn:10.1質量%、P:0.76質量%、残部Cu:63.54質量%からなる厚さ0.25mmの多孔質金属焼結層を接合した複層板を、極圧添加剤を含む潤滑油(ギヤオイル:新日本石油株式会社製「エネオスツーリングGL−5 75W90」(商品名))中に浸漬した直後の該複層板の多孔質金属焼結層の表面を示す写真であり、図2は、図1(複層板)のA−A断面を示す写真である。
【0031】
図3は、前記複層板を極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬した後の多孔質金属焼結層の表面を示す写真であり、図4は、図3のB−B断面を示す写真である。
【0032】
一方、図5は、鋼板からなる裏金の表面に従来のCu:90質量%とSn:10質量%の青銅合金からなる厚さ0.25mmの多孔質金属焼結層を備えた複層板を、前記と同様の極圧添加剤中に浸漬した直後の該複層板の多孔質金属焼結層の表面を示す写真であり、図6は、図5(複層板)のC−C断面を示す写真である。
【0033】
図7は、前記従来の複層板を極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬した後の多孔質金属焼結層の表面を示す写真であり、図8は、図7のD−D断面を示す写真である。
【0034】
本発明の複層板における多孔質金属焼結層を示す図1乃至図4と、従来の複層板における多孔質金属焼結層を示す図5乃至図8とを比較すると、図3及び図4と、図7及び図8に示す極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬した後の多孔質金属焼結層の表面及び断面写真から分かるように、本発明の複層摺動部材における多孔質金属焼結層は、その表面には硫化腐食による硫化物(CuS等)が生成しているが、該焼結層の中への該硫化腐食の進行を抑制しているのに対し、従来の複層板における多孔質金属焼結層は、その表面から該多孔質金属焼結層の中まで硫化腐食が進行しており、本発明の複層板における多孔質金属焼結層は、耐硫化腐食性に優れているといえる。
【0035】
次に、耐硫化腐食性に優れている上記多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に合成樹脂組成物を充填被覆して該多孔質金属焼結層上に該合成樹脂組成物の滑り層を備えた複層摺動部材の摩擦摩耗特性及び耐硫化腐食性について説明する。
【0036】
<摩擦摩耗特性>
摩擦摩耗特性に供される多孔質金属焼結層は、表1に示す通りである。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に記載の本発明の多孔質金属焼結層を用いた試料No1、試料No3及び従来の多孔質金属焼結層を用いた試料No5は、厚さ0.7mmの鋼板からなる裏金の表面にCuメッキ層を介して各々の多孔質金属焼結層を0.2mmの厚さに一体的に接合した複層板を使用し、また、本発明の多孔質金属焼結層を用いた試料No2と試料No4は、厚さ0.7mmの鋼板からなる裏金の表面にNiメッキ層を介して多孔質金属焼結層を0.2mmの厚さに一体的に接合した複層板を使用した。
【0039】
上記複層板の多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆して形成される合成樹脂組成物としては、硫酸バリウム15重量%、リン酸塩としてピロリン酸カルシウム10重量%、熱硬化性ポリイミド樹脂2重量%、黒鉛0.5重量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる合成樹脂組成物を使用し、前記複層板の多孔質金属焼結層の上に厚さ0.1mmの該合成樹脂組成物からなる滑り層を備えた複層摺動部材を作成し、一辺の長さが30mmの方形状に切断し、これを試験片として使用した。
【0040】
<スラスト試験1>
以下に記載の条件下で摩擦摩耗特性試験を実施し、摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩擦係数については、試験を開始してから1時間経過後から試験終了までの安定時の摩擦係数を示し、また、摩耗量については、試験時間8時間後の摺動面(滑り層)の寸法変化量で示した。
【0041】
滑り速度 20m/min
面圧 20kgf/cm2
試験時間 8時間
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C)
潤滑 無潤滑
試験方法 図9に示すように、板状軸受試験片(複層摺動部材)1を固定しておき、相手材となる円筒体2を板状軸受試験片1の上から(矢印A方向から)その表面3に所定の荷重を負荷しながら、円筒体2を矢印B方向に回転させ、板状軸受試験片1と円筒体2との間の摩擦係数及び8時間後の板状軸受試験片1の摺動面の摩耗量を測定した。
【0042】
<スラスト試験2>
以下に記載の条件下で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩擦係数については、試験を開始してから1時間経過後から試験終了までの安定時の摩擦係数を示し、また、摩耗量については、試験時間8時間後の摺動面(滑り層)の寸法変化量で示した。
【0043】
滑り速度 10m/min
面圧 100kgf/cm2
試験時間 8時間
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C)
潤滑 無潤滑
試験方法 前記試験方法と同じ
【0044】
上記試験結果を表2に示す。
【表2】
【0045】
上記のスラスト試験1及び2の試験は、スラスト試験1は比較的高速低荷重領域を、スラスト試験2は比較的低速高荷重領域を評価したものであり、本試験結果から、本発明の複層摺動部材における多孔質金属焼結層である試料No1乃至試料No4は、従来のCu:90質量%とSn:10質量%の多孔質金属焼結層である試料No5と摩擦係数及び摩耗量とも略々同等の性能を示した。このことは、耐硫化腐食性に優れた多孔質金属焼結層を備えた本発明の複層摺動部材は、摩擦摩耗特性において従来技術と同等であることを示している。
【0046】
次に、上記試料No2の複層摺動部材を極圧添加剤を含む潤滑油中に浸漬し、当該複層摺動部材の滑り層の変化を調べた。極圧添加剤を含む潤滑油は、前記と同様のギヤオイル(新日本石油株式会社製「エネオスツーリングGL−5 75W90」(商品名))を使用した。その結果を図10乃至図12に示す。
【0047】
図10は、本発明の複層摺動部材を極圧添加剤を含むギヤオイル中に浸漬した直後の合成樹脂組成物からなる滑り層の表面を示す写真であり、図11は、図10のE−E断面を示す写真であり、図12は、同複層摺動部材を極圧添加剤を含むギヤオイル中に100時間浸漬した後の合成樹脂組成物からなる滑り層の表面を示す写真である。これらの図から分かるように、本発明の複層摺動部材における滑り層は、極圧添加剤を含むギヤオイル中に100時間浸漬した後に、該滑り層の表面に硫化腐食による硫化物(CuS等)がまだら状に生成されていることが認められるが、その量は少なく、滑り層としての機能は充分維持している。
【0048】
以上のように、本発明の複層摺動部材は、従来の青銅粉末(Cu:90質量%とSn:10質量%)からなる多孔質金属焼結層を備えた複層摺動部材に対し、摩擦摩耗特性は略々同等の性能を示すと共に耐硫化腐食性に優れており、極圧添加剤を含む潤滑油での使用においても摺動部材としての機能を充分に発揮するものである。
【0049】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
前記した試料No2と同様の複層摺動部材、すなわちCuメッキを施した厚さ0.7mmの鋼板の表面に、Ni:25.5質量%、Sn:10.1質量%、P:0.76質量%、残部Cu:63.54質量%からなる厚さ0.2mmの多孔質金属焼結層が一体的に形成されており、該多孔質金属焼結層の上に、硫酸バリウム15重量%、リン酸塩としてピロリン酸カルシウム10重量%、熱硬化性ポリイミド樹脂2重量%、黒鉛0.5重量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる厚さ0.1mmの合成樹脂組成物の滑り層が形成された複層摺動部材を使用した。この複層摺動部材を、滑り層を内側にして捲回し、内径16mm、外径18mm、長さ10mmの円筒状摺動部材、所謂巻きブッシュを作製した。
【実施例2】
【0051】
前記した試料No3と同様の複層摺動部材、すなわちNiメッキを施した厚さ0.7mmの鋼板の表面に、Ni:24.9質量%、Sn:10.0質量%、P:1.05質量%、残部Cu:64.05質量%からなる厚さ0.2mmの多孔質金属焼結層が一体的に形成されており、該多孔質金属焼結層の上に、硫酸バリウム15重量%、リン酸塩としてピロリン酸カルシウム10重量%、熱硬化性ポリイミド樹脂2重量%、黒鉛0.5重量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる厚さ0.1mmの合成樹脂組成物の滑り層が形成された複層摺動部材を使用した。この複層摺動部材を、滑り層を内側にして捲回し、内径16mm、外径18mm、長さ10mmの円筒状摺動部材、所謂巻きブッシュを作製した。
【比較例】
【0052】
前記した試料No5と同様の複層摺動部材、すなわちCuメッキを施した厚さ0.7mmの鋼板の表面に、Sn:10質量%、残部Cu:90質量%からなる厚さ0.2mmの多孔質金属焼結層が一体的に形成されており、該多孔質金属焼結層の上に、硫酸バリウム15重量%、リン酸塩としてピロリン酸カルシウム10重量%、熱硬化性ポリイミド樹脂2重量%、黒鉛0.5重量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる厚さ0.1mmの合成樹脂組成物の滑り層が形成された複層摺動部材を使用した。この複層摺動部材を、滑り層を内側にして捲回し、内径16mm、外径18mm、長さ10mmの円筒状摺動部材、所謂巻きブッシュを作製した。
【0053】
上記した複層摺動部材からなる巻きブッシュについて、該巻きブッシュを複数個準備し、該巻きブッシュをハウジングに圧入固定すると共に、該巻きブッシュの内周面に相手軸を挿入した試料を作製し、これらを極圧添加剤を含有したギヤオイル中に浸漬し、一定期間経過後の巻きブッシュの性状を評価するという試験を行った。
【0054】
<試験方法>
巻きブッシュ寸法 内径16mm、外径18mm、長さ10mm
アルミニウム製ハウジング 孔寸法 φ18+0.018/0mm
相手軸 SCM420 外径寸法 φ16−0.025/−0.043mm
クリアランス 0.025〜0.111mm
ギヤオイル(新日本石油株式会社製「エネオスツーリングGL−5 75W90」(商品名))
ギヤオイルの温度 150℃
浸漬時間 50時間、100時間、150時間、250時間
試験方法 巻きブッシュをハウジングの孔内に圧入固定し、該孔内に固定された巻きブッシュの内周面に相手軸を挿入し、この状態でギヤオイル中に浸漬し、一定時間経過後の巻きブッシュの内周面(摺動面)の外観と巻きブッシュの内径寸法を測定した。尚、試験においては、浸漬時間毎に複数個の試料をギヤオイル中に浸漬し、各浸漬時間経過後、そのうちの1個の試料を取り出し、この試料の巻きブッシュの内周面の外観と、巻きブッシュの内径寸法を測定する方法を採用した。
【0055】
図13乃至図18は、ギヤオイル中への浸漬後の巻きブッシュの内周面の外観を示す写真である。尚、後述の通り、比較例の150時間で相手軸が巻きブッシュの内周面から抜き取れない状態であったため、50時間、100時間の状態の外観を示す。図13は、実施例1の巻きブッシュをギアオイル中に50時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を、図14は、同100時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を示す写真である。
【0056】
また、図15は、実施例2の巻きブッシュをギアオイル中に50時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を、図16は、同100時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を示す写真である。
【0057】
さらに、図17は、比較例の巻きブッシュをギアオイル中に50時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を、図18は、同100時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を示す写真である。
【0058】
実施例1及び実施例2の巻きブッシュの内周面(摺動面)の外観を示す写真から分かるように、ギアオイル中に100時間浸漬した後においても、硫化腐食の進行が抑制されているのに対し、比較例の巻きブッシュは、ギヤオイル中に100時間浸漬した後の内周面(摺動面)の略々全面に硫化腐食による硫化物が生成しており、もはや巻きブッシュとしての機能が消失している。
【0059】
表3は、実施例1の巻きブッシュの内径寸法と相手軸の外径寸法との間のクリアランスのギヤオイル中に各浸漬時間後の変化量を、表4は、実施例2の巻きブッシュの内径寸法と相手軸の外径寸法との間のクリアランスのギヤオイル中に各浸漬時間後の変化量を、表5は、比較例の巻きブッシュの内径寸法と相手軸の外径寸法との間のクリアランスのギヤオイル中に各浸漬時間後の変化量を測定した結果を示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
測定結果から、表3及び表4に示す実施例1及び実施例2の巻きブッシュは、ギヤオイル中への浸漬時間の経過と共に硫化腐食に起因する硫化物の生成は増加しているが、その進行は抑制され、250時間浸漬後においても著しいクリアランスの変化は無く、クリアランスは保持されているのに対し、表5に示す比較例の巻きブッシュは、150時間のギヤオイル中への浸漬により、内周面に硫化腐食に起因する硫化物の生成による著しいクリアランスの変化によりクリアランスが消失し、相手軸が巻きブッシュの内周面から抜き取れない状態(表5において「−」で表示)であった。
【0064】
以上のことから、本発明の複層摺動部材における多孔質金属焼結層は、極圧添加剤を含有する潤滑油が使用される条件下においても硫化腐食の進行を抑制することができ、該硫化腐食に起因する硫化物の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、滑り層の剥離を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができる。また、多孔質金属焼結層は、それ自体が摺動性能に優れているので、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層に摩耗を生じ、滑り層に該多孔質金属焼結層の一部が露出しても、本発明の複層摺動部材は良好な摺動特性を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる多孔質金属焼結層を具備した本発明の複層摺動部材は、極圧添加剤を含有する潤滑油の使用される条件下においても硫化腐食の進行を抑制することができ、該硫化腐食に起因する硫化物の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、滑り層の剥離を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができる。また、該多孔質金属焼結層自体の摺動特性も従来と比べて同等であり、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層に摩擦を生じ、滑り層に多孔質金属焼結層の一部が露出して良好な摺動特性を維持することができるので、本発明の複層摺動部材は、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、油中潤滑条件等幅広い摩擦条件下での使用を可能とする。
【符号の説明】
【0066】
1 板状軸受試験片(複層摺動部材)
2 円筒体
3 (板状軸受試験片の)表面
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
上記複層摺動部材において、鋼板からなる裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層には、従来、青銅、鉛青銅又はリン青銅等の青銅系銅合金が用いられている(特許文献1乃至特許文献5参照)。
【0003】
この多孔質金属焼結層に青銅系銅合金が用いられるのは、多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆される合成樹脂組成物からなる滑り層の該多孔質金属焼結層への強固な接合強度(アンカー効果)を達成することができることと、相手材との摺動摩擦によって合成樹脂組成物からなる滑り層に摩耗を生じ、該滑り層(摺動面)に多孔質金属焼結層の一部が露出しても、露出した青銅系銅合金が具有する良好な摺動性能により、複層摺動部材としての摩擦摩耗等の良好な摺動特性を維持することができるという理由による。
【0004】
上記特徴を有する複層摺動部材は、多くの異なった使用条件、例えば乾燥摩擦条件又は油中乃至油潤滑条件等、幅広い条件下で使用されている。油中乃至油潤滑条件での使用、特に摩擦面での負荷面圧が高く、油膜の破断に起因する焼付きを生じやすい極圧条件では、油中に塩素、硫黄(S)、リン(P)などを含む極圧添加剤を含有する場合がある。この極圧添加剤として、特に硫黄分を含む極圧剤を含有する潤滑油が使用される場合には、多孔質金属焼結層を形成する青銅系銅合金に硫化腐食を生じる虞がある。すなわち、複層摺動部材の切削加工により、青銅系銅合金からなる多孔質金属焼結層が露出した端面部や、摺動面としての合成樹脂組成物からなる滑り層に露出した青銅系銅合金からなる多孔質金属焼結層の銅(Cu)成分と、極圧添加剤成分として含有されている潤滑油中のS成分との反応により硫化物(CuS等)が生成され、青銅系銅合金からなる多孔質金属焼結層に硫化腐食を生じるのである。この硫化物の生成は、多孔質金属焼結層に強度低下を来たし、かつ硫化物の滑り層への露出により摩耗を促進させるという欠点として現れる。この硫化物の生成は、多孔質金属焼結層に銅合金を使用する限りにおいては避けられない事象であり、発生した硫化腐食の進行を抑制する技術の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50−43006号公報
【特許文献2】特開昭53−117149号公報
【特許文献3】特開2000−319472号公報
【特許文献4】特開2005−321057号公報
【特許文献5】特開2006−62328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、硫黄等の極圧添加剤を含有する潤滑油を使用する場合でも、硫化腐食の進行を抑えることができると共に、青銅系銅合金と同等の摺動性能を発揮する多孔質金属焼結層を備えた複層摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、銅−ニッケル(Cu−Ni)系の白銅を主成分とし、これに所定量の割合の錫(Sn)及びリン(P)を添加して形成した多孔質金属焼結層は、硫黄等の極圧添加剤を含有する潤滑油の使用において、該多孔質金属焼結層の硫化腐食の進行を極力抑えることができ、該硫化腐食に起因する硫化物(CuS等)の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、滑り層の剥離を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
本発明の複層摺動部材は、上記知見に基づいてなされたものであり、鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材であって、該多孔質金属焼結層は、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなることを特徴としている。
【0009】
本発明の複層摺動部材によれば、硫黄等の極圧剤を含む潤滑油の使用においても、該多孔質金属焼結層に生じた硫化腐食の進行を極力抑制することができ、該硫化腐食に起因する硫化物の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、合成樹脂組成物からなる滑り層の剥離等を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができる。
【0010】
本発明の複層摺動部材において、鋼板からなる裏金の表面にCuメッキ(カッパータイト)又はNiメッキ(ニッケルトップ)を施してもよい。これらメッキの厚さは、概ね2〜10μmであることが好ましい。これら鋼板からなる裏金の表面に施されるCuメッキ又はNiメッキによって、多孔質金属焼結層の裏金表面への接合強度を高めることができる。
【0011】
本発明の複層摺動部材において、鋼板からなる裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆される合成樹脂組成物は、フルオロカーボン重合体(ポリテトラフルオロエチレン樹脂等)、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂から選択される少なくとも一つの合成樹脂に、耐摩耗性向上剤としてポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂から選択される少なくとも一つの有機材料、その他リン酸塩、硫酸バリウム、固体潤滑剤から選択される少なくとも一つの無機材料を含んでもよい。
【0012】
複層摺動部材の摺動面としての滑り層を形成する前記合成樹脂組成物は、相手材との摺動摩擦において、低摩擦性を発揮すると共に優れた耐摩耗性を発揮する。そして、滑り層に摩耗を生じ、該滑り層に、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる多孔質金属焼結層の一部が露出しても、露出した該成分組成からなる焼結層が良好な摺動性能を発揮するので、複層摺動部材としての摩擦摩耗等の摺動特性を維持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼板からなる裏金の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層は、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなり、該多孔質金属焼結層は、極圧添加剤を含有する潤滑油の使用における硫化腐食の進行を抑制することができ、該硫化腐食に起因する硫化物の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、滑り層の剥離を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができる。また、上記成分組成からなる多孔質金属焼結層は、それ自体が摺動特性に優れているので、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層に摩耗を生じ、滑り層に該多孔質金属焼結層の一部が露出しても良好な摺動特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】極圧添加剤を含む潤滑油中に浸漬直後の本発明の多孔質金属焼結層の表面を示す写真である。
【図2】図1のA−A断面を示す写真である。
【図3】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の本発明の多孔質金属焼結層の表面を示す写真である。
【図4】図3のB−B断面を示す写真である。
【図5】硫黄、燐系の極圧剤を含む潤滑油中に浸漬直後の従来の青銅成分からなる多孔質金属焼結層の表面を示す写真である。
【図6】図5のC−C断面を示す写真である。
【図7】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の従来の青銅成分からなる多孔質金属焼結層の表面を示す写真である。
【図8】図7のD−D断面を示す写真である。
【図9】スラスト試験方法を説明するための斜視図である。
【図10】極圧添加剤を含む潤滑油中に浸漬直後の本発明の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材の滑り層の表面を示す写真である。
【図11】図10のE−E断面を示す写真である。
【図12】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の本発明の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材の滑り層の表面を示す写真である。
【図13】極圧添加剤を含む潤滑油中に50時間浸漬後の実施例1の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図14】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の実施例1の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図15】極圧添加剤を含む潤滑油中に50時間浸漬後の実施例2の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図16】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の実施例2の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図17】極圧添加剤を含む潤滑油中に50時間浸漬後の比較例の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【図18】極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬後の比較例の多孔質金属焼結層を含む複層摺動部材からなる巻きブッシュの内周面の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。尚、本発明はこれらの例に何等限定されない。
【0016】
本発明の複層摺動部材は、鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体的に形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材であって、該多孔質金属焼結層は、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなるものである。以下、本発明の複層摺動部材における多孔質金属焼結層の成分組成について説明する。
【0017】
Niは、主成分をなすCuに固溶して多孔質金属焼結層の耐摩耗性及び強度向上に寄与すると共に、硫化腐食の進行に対する抑制作用を発揮する。Niは焼結時に裏金(鋼板)表面に固溶してその表面を合金化し、多孔質金属焼結層の裏金への接合強度を増大させると共に、後述するPと液相を生じ、一部合金化してNi−P合金を形成し、Cuと親和性のよいNi−P合金が多孔質金属焼結層と裏金との接合界面に介在し、界面で上記Niの固溶による合金化と相俟って、多孔質金属焼結層を裏金に強固に接合一体化させる作用をなす。また、Niの配合量が21質量%未満では上記した効果が得られず、また35質量%を超えて配合すると、焼結性の低下を来たし、結果として多孔質金属焼結層の強度低下を招来する虞がある。従って、Niの配合量は21〜35質量%、好ましくは24〜28質量%である。
【0018】
Snは、主成分をなすCuと合金化してCu−Sn合金を形成し、焼結を促進して多孔質金属焼結層の強度及び耐摩耗性の向上に寄与すると共に、前記Niと同様、硫化腐食の進行に対する抑制作用を有する。Snの配合量が3質量%未満では上記した効果が充分に得られず、また12質量%を超えて配合すると、多孔質金属焼結層の孔隙を消失させ、該多孔質金属焼結層の孔隙に充填される合成樹脂組成物からなる滑り層の保持力、所謂アンカー効果を低下させる上に、硬いCu−Ni−Snの金属間化合物を生成して該多孔質金属焼結層の強度や靭性の低下を来たす虞がある。従って、Snの配合量は3〜12質量%、好ましくは8〜11質量%である。
【0019】
Pは、主成分をなすCuと、また成分中のNiと液相を生じ、一部合金化して多孔質金属焼結層の地の強度を高めると共に、耐摩耗性の向上に寄与する。Pは還元力が強いため、裏金表面をその還元作用により清浄化し、前記Niの裏金表面への拡散による合金化を助長する効果がある。尚、Ni−P合金の効果については前記したとおりである。Pの配合量が0.4質量%未満では上記した効果が充分に得られず、また1.35質量%を超えて配合すると、液相の発生量が多くなり、多孔質金属焼結層の孔隙を消失させ、該多孔質金属焼結層の孔隙に充填される合成樹脂組成物からなる滑り層のアンカー効果を低下させる虞がある。従って、Pの配合量は0.4〜1.35質量%、好ましくは0.5〜1.1質量%である。
【0020】
上記したSnは、主成分をなすCuに対し単体粉末の形態で配合されるが、Niは、通常Cu−Niの合金粉末、例えばCu−30質量%Ni又はCu−40質量%Niのアトマイズ合金粉末の形態で配合されるが、単体粉末の形態で配合してもよく、また、Pは通常Cu−Pの合金粉末、例えばCu−15質量%Pの搗砕合金粉末の形態で配合される。また、Cu、Ni、Sn、Pからなる成分が予め所望の配合比となるように調整して製造したCu−Ni−Sn−Pのアトマイズ合金粉末も使用することができる。そして、これら粉末は、200メッシュ(75μm)アンダーの粉末を使用することが好適である。
【0021】
ここで、本発明の複層摺動部材における鋼板からなる裏金の表面に一体的に形成した多孔質金属焼結層を備えた複層板の製造方法の一例について説明する。
【0022】
<複層板の製造方法>
裏金として、コイル状に巻いてフープ材として提供される厚さ0.3〜1.5mmの一般構造用圧延鋼板(JISG3101)を好適に使用できるが、必ずしも連続条片に限らず、適当な長さに切断した条片を使用することもできる。また裏金として、上記鋼板にCuメッキ(カッパータイト)又はNiメッキ(Niトップ)を施した鋼板を使用してもよい。
【0023】
200メッシュアンダーのCu−30質量%Ni又はCu−40質量%Niのアトマイズ合金粉末と、350メッシュ(42μm)アンダーのSnアトマイズ粉末と、200メッシュアンダーのCu−15質量%Pの搗砕合金粉末とを準備し、これらの粉末を配合割合がNi:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuとなるように調整後V型ミキサーに投入し、20〜60分間混合して混合粉末を作製する。この混合粉末を前記鋼板の一方の表面に一様な厚さに散布し、これを還元性雰囲気に調整された加熱炉内で870〜970℃の温度で20〜60分間焼結し、該鋼板の表面にNi:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる多孔質金属焼結層を一体的に接合した複層板を作製する。
【0024】
上記焼結工程において、232℃の温度からSnの液相が生成し、更に875℃付近の温度からNi−P合金(Ni3P)を主体とする液相が生成して焼結が進行する。この複層板の製造において、裏金としてCuメッキ鋼板又はNiメッキ鋼板を使用することにより、Ni及びPの作用により裏金との強固な接合一体化を行わせることができる。裏金に一体的に接合されたNi:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる多孔質金属焼結層の厚さは、概ね0.10〜0.40mm、就中0.2〜0.3mmであることが好ましく、多孔度は、概ね10容積%以上、就中15〜40容積%であることが推奨される。
【0025】
上記した複層板の多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆される合成樹脂組成物としては、フルオロカーボン重合体(ポリテトラフルオロエチレン樹脂等)、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂から選択される少なくとも一つの合成樹脂を含有し、耐摩耗性向上剤としてポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂から選択される少なくとも一つの有機材料、その他リン酸塩、硫酸バリウム、固体潤滑剤から選択される少なくとも一つの無機材料を含んでいてもよい。
【0026】
この合成樹脂組成物の具体例としては、前記特許文献3に開示されている硫酸バリウム5〜40質量%、リン酸塩1〜30質量%、ポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂及びポリフェニレンスルホン樹脂から選択される1種又は2種以上の有機材料1〜10質量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる合成樹脂組成物、又は前記特許文献4に開示されているオキシベンゾイルポリエステル樹脂1〜25体積%、リン酸塩1〜15体積%、硫酸バリウム1〜20体積%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる合成樹脂組成物、更には前記特許文献5に開示されている飽和脂肪酸と多価アルコールとから誘導される多価アルコール脂肪酸エステル0.5〜5重量%と、ホホバ油0.5〜3重量%と、残部ポリアセタール樹脂とからなる合成樹脂組成物等を例示することができる。
【0027】
ここで、合成樹脂組成物として、前記特許文献3に開示されている合成樹脂組成物を使用し、該合成樹脂組成物を前記複層板の多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆して形成される複層摺動部材の製造方法の一例について説明する。
【0028】
<複層摺動部材の製造方法>
ポリテトラフルオロエチレン樹脂に対し、硫酸バリウム5〜40質量%、リン酸塩1〜30質量%、ポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂及びポリフェニレンスルホン樹脂から選択される1種又は2種以上の有機材料1〜10質量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂を配合し、ヘンシェルミキサー内に供給して撹拌混合して混合物を作製する。該混合物100重量部に対し石油系溶剤を15〜30重量部配合し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の室温転移点以下の温度(15℃)で混合して合成樹脂組成物を作製する。この合成樹脂組成物を鋼板からなる裏金上に一体的に接合された多孔質金属焼結層上に散布供給し、合成樹脂組成物の厚さが所定の厚さになるようにローラで圧延して多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に合成樹脂組成物を充填被覆した複層部材を作製する。該複層部材を200〜250℃の温度に加熱した熱風乾燥炉中に数分間保持して溶剤を除去した後、乾燥した合成樹脂組成物を所定の厚さになるように300〜600kgf/cm2の加圧下で加圧ローラ処理する。複層部材を加熱炉に導入して360〜380℃の温度で数分乃至10数分間加熱して焼成を行なった後、炉から取り出し、再度ローラ処理によって寸法のばらつきを調整し、所望の複層摺動部材とする。
【0029】
上記複層摺動部材において、多孔質金属焼結層の厚さは0.10〜0.40mm、合成樹脂組成物から形成された被覆層(滑り層)の厚さは0.02〜0.15mmとされる。このようにして得られた複層摺動部材は、適宜の寸法に切断されて平板状態で滑り板として使用されたり、また丸曲げされて円筒状の巻きブッシュとして使用される。
【0030】
図1は、鋼板からなる裏金の表面にNiメッキ層を介して本発明のNi:25.5質量%、Sn:10.1質量%、P:0.76質量%、残部Cu:63.54質量%からなる厚さ0.25mmの多孔質金属焼結層を接合した複層板を、極圧添加剤を含む潤滑油(ギヤオイル:新日本石油株式会社製「エネオスツーリングGL−5 75W90」(商品名))中に浸漬した直後の該複層板の多孔質金属焼結層の表面を示す写真であり、図2は、図1(複層板)のA−A断面を示す写真である。
【0031】
図3は、前記複層板を極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬した後の多孔質金属焼結層の表面を示す写真であり、図4は、図3のB−B断面を示す写真である。
【0032】
一方、図5は、鋼板からなる裏金の表面に従来のCu:90質量%とSn:10質量%の青銅合金からなる厚さ0.25mmの多孔質金属焼結層を備えた複層板を、前記と同様の極圧添加剤中に浸漬した直後の該複層板の多孔質金属焼結層の表面を示す写真であり、図6は、図5(複層板)のC−C断面を示す写真である。
【0033】
図7は、前記従来の複層板を極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬した後の多孔質金属焼結層の表面を示す写真であり、図8は、図7のD−D断面を示す写真である。
【0034】
本発明の複層板における多孔質金属焼結層を示す図1乃至図4と、従来の複層板における多孔質金属焼結層を示す図5乃至図8とを比較すると、図3及び図4と、図7及び図8に示す極圧添加剤を含む潤滑油中に100時間浸漬した後の多孔質金属焼結層の表面及び断面写真から分かるように、本発明の複層摺動部材における多孔質金属焼結層は、その表面には硫化腐食による硫化物(CuS等)が生成しているが、該焼結層の中への該硫化腐食の進行を抑制しているのに対し、従来の複層板における多孔質金属焼結層は、その表面から該多孔質金属焼結層の中まで硫化腐食が進行しており、本発明の複層板における多孔質金属焼結層は、耐硫化腐食性に優れているといえる。
【0035】
次に、耐硫化腐食性に優れている上記多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に合成樹脂組成物を充填被覆して該多孔質金属焼結層上に該合成樹脂組成物の滑り層を備えた複層摺動部材の摩擦摩耗特性及び耐硫化腐食性について説明する。
【0036】
<摩擦摩耗特性>
摩擦摩耗特性に供される多孔質金属焼結層は、表1に示す通りである。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に記載の本発明の多孔質金属焼結層を用いた試料No1、試料No3及び従来の多孔質金属焼結層を用いた試料No5は、厚さ0.7mmの鋼板からなる裏金の表面にCuメッキ層を介して各々の多孔質金属焼結層を0.2mmの厚さに一体的に接合した複層板を使用し、また、本発明の多孔質金属焼結層を用いた試料No2と試料No4は、厚さ0.7mmの鋼板からなる裏金の表面にNiメッキ層を介して多孔質金属焼結層を0.2mmの厚さに一体的に接合した複層板を使用した。
【0039】
上記複層板の多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆して形成される合成樹脂組成物としては、硫酸バリウム15重量%、リン酸塩としてピロリン酸カルシウム10重量%、熱硬化性ポリイミド樹脂2重量%、黒鉛0.5重量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる合成樹脂組成物を使用し、前記複層板の多孔質金属焼結層の上に厚さ0.1mmの該合成樹脂組成物からなる滑り層を備えた複層摺動部材を作成し、一辺の長さが30mmの方形状に切断し、これを試験片として使用した。
【0040】
<スラスト試験1>
以下に記載の条件下で摩擦摩耗特性試験を実施し、摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩擦係数については、試験を開始してから1時間経過後から試験終了までの安定時の摩擦係数を示し、また、摩耗量については、試験時間8時間後の摺動面(滑り層)の寸法変化量で示した。
【0041】
滑り速度 20m/min
面圧 20kgf/cm2
試験時間 8時間
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C)
潤滑 無潤滑
試験方法 図9に示すように、板状軸受試験片(複層摺動部材)1を固定しておき、相手材となる円筒体2を板状軸受試験片1の上から(矢印A方向から)その表面3に所定の荷重を負荷しながら、円筒体2を矢印B方向に回転させ、板状軸受試験片1と円筒体2との間の摩擦係数及び8時間後の板状軸受試験片1の摺動面の摩耗量を測定した。
【0042】
<スラスト試験2>
以下に記載の条件下で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩擦係数については、試験を開始してから1時間経過後から試験終了までの安定時の摩擦係数を示し、また、摩耗量については、試験時間8時間後の摺動面(滑り層)の寸法変化量で示した。
【0043】
滑り速度 10m/min
面圧 100kgf/cm2
試験時間 8時間
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C)
潤滑 無潤滑
試験方法 前記試験方法と同じ
【0044】
上記試験結果を表2に示す。
【表2】
【0045】
上記のスラスト試験1及び2の試験は、スラスト試験1は比較的高速低荷重領域を、スラスト試験2は比較的低速高荷重領域を評価したものであり、本試験結果から、本発明の複層摺動部材における多孔質金属焼結層である試料No1乃至試料No4は、従来のCu:90質量%とSn:10質量%の多孔質金属焼結層である試料No5と摩擦係数及び摩耗量とも略々同等の性能を示した。このことは、耐硫化腐食性に優れた多孔質金属焼結層を備えた本発明の複層摺動部材は、摩擦摩耗特性において従来技術と同等であることを示している。
【0046】
次に、上記試料No2の複層摺動部材を極圧添加剤を含む潤滑油中に浸漬し、当該複層摺動部材の滑り層の変化を調べた。極圧添加剤を含む潤滑油は、前記と同様のギヤオイル(新日本石油株式会社製「エネオスツーリングGL−5 75W90」(商品名))を使用した。その結果を図10乃至図12に示す。
【0047】
図10は、本発明の複層摺動部材を極圧添加剤を含むギヤオイル中に浸漬した直後の合成樹脂組成物からなる滑り層の表面を示す写真であり、図11は、図10のE−E断面を示す写真であり、図12は、同複層摺動部材を極圧添加剤を含むギヤオイル中に100時間浸漬した後の合成樹脂組成物からなる滑り層の表面を示す写真である。これらの図から分かるように、本発明の複層摺動部材における滑り層は、極圧添加剤を含むギヤオイル中に100時間浸漬した後に、該滑り層の表面に硫化腐食による硫化物(CuS等)がまだら状に生成されていることが認められるが、その量は少なく、滑り層としての機能は充分維持している。
【0048】
以上のように、本発明の複層摺動部材は、従来の青銅粉末(Cu:90質量%とSn:10質量%)からなる多孔質金属焼結層を備えた複層摺動部材に対し、摩擦摩耗特性は略々同等の性能を示すと共に耐硫化腐食性に優れており、極圧添加剤を含む潤滑油での使用においても摺動部材としての機能を充分に発揮するものである。
【0049】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
前記した試料No2と同様の複層摺動部材、すなわちCuメッキを施した厚さ0.7mmの鋼板の表面に、Ni:25.5質量%、Sn:10.1質量%、P:0.76質量%、残部Cu:63.54質量%からなる厚さ0.2mmの多孔質金属焼結層が一体的に形成されており、該多孔質金属焼結層の上に、硫酸バリウム15重量%、リン酸塩としてピロリン酸カルシウム10重量%、熱硬化性ポリイミド樹脂2重量%、黒鉛0.5重量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる厚さ0.1mmの合成樹脂組成物の滑り層が形成された複層摺動部材を使用した。この複層摺動部材を、滑り層を内側にして捲回し、内径16mm、外径18mm、長さ10mmの円筒状摺動部材、所謂巻きブッシュを作製した。
【実施例2】
【0051】
前記した試料No3と同様の複層摺動部材、すなわちNiメッキを施した厚さ0.7mmの鋼板の表面に、Ni:24.9質量%、Sn:10.0質量%、P:1.05質量%、残部Cu:64.05質量%からなる厚さ0.2mmの多孔質金属焼結層が一体的に形成されており、該多孔質金属焼結層の上に、硫酸バリウム15重量%、リン酸塩としてピロリン酸カルシウム10重量%、熱硬化性ポリイミド樹脂2重量%、黒鉛0.5重量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる厚さ0.1mmの合成樹脂組成物の滑り層が形成された複層摺動部材を使用した。この複層摺動部材を、滑り層を内側にして捲回し、内径16mm、外径18mm、長さ10mmの円筒状摺動部材、所謂巻きブッシュを作製した。
【比較例】
【0052】
前記した試料No5と同様の複層摺動部材、すなわちCuメッキを施した厚さ0.7mmの鋼板の表面に、Sn:10質量%、残部Cu:90質量%からなる厚さ0.2mmの多孔質金属焼結層が一体的に形成されており、該多孔質金属焼結層の上に、硫酸バリウム15重量%、リン酸塩としてピロリン酸カルシウム10重量%、熱硬化性ポリイミド樹脂2重量%、黒鉛0.5重量%、残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる厚さ0.1mmの合成樹脂組成物の滑り層が形成された複層摺動部材を使用した。この複層摺動部材を、滑り層を内側にして捲回し、内径16mm、外径18mm、長さ10mmの円筒状摺動部材、所謂巻きブッシュを作製した。
【0053】
上記した複層摺動部材からなる巻きブッシュについて、該巻きブッシュを複数個準備し、該巻きブッシュをハウジングに圧入固定すると共に、該巻きブッシュの内周面に相手軸を挿入した試料を作製し、これらを極圧添加剤を含有したギヤオイル中に浸漬し、一定期間経過後の巻きブッシュの性状を評価するという試験を行った。
【0054】
<試験方法>
巻きブッシュ寸法 内径16mm、外径18mm、長さ10mm
アルミニウム製ハウジング 孔寸法 φ18+0.018/0mm
相手軸 SCM420 外径寸法 φ16−0.025/−0.043mm
クリアランス 0.025〜0.111mm
ギヤオイル(新日本石油株式会社製「エネオスツーリングGL−5 75W90」(商品名))
ギヤオイルの温度 150℃
浸漬時間 50時間、100時間、150時間、250時間
試験方法 巻きブッシュをハウジングの孔内に圧入固定し、該孔内に固定された巻きブッシュの内周面に相手軸を挿入し、この状態でギヤオイル中に浸漬し、一定時間経過後の巻きブッシュの内周面(摺動面)の外観と巻きブッシュの内径寸法を測定した。尚、試験においては、浸漬時間毎に複数個の試料をギヤオイル中に浸漬し、各浸漬時間経過後、そのうちの1個の試料を取り出し、この試料の巻きブッシュの内周面の外観と、巻きブッシュの内径寸法を測定する方法を採用した。
【0055】
図13乃至図18は、ギヤオイル中への浸漬後の巻きブッシュの内周面の外観を示す写真である。尚、後述の通り、比較例の150時間で相手軸が巻きブッシュの内周面から抜き取れない状態であったため、50時間、100時間の状態の外観を示す。図13は、実施例1の巻きブッシュをギアオイル中に50時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を、図14は、同100時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を示す写真である。
【0056】
また、図15は、実施例2の巻きブッシュをギアオイル中に50時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を、図16は、同100時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を示す写真である。
【0057】
さらに、図17は、比較例の巻きブッシュをギアオイル中に50時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を、図18は、同100時間浸漬した後の該巻きブッシュの内周面の外観を示す写真である。
【0058】
実施例1及び実施例2の巻きブッシュの内周面(摺動面)の外観を示す写真から分かるように、ギアオイル中に100時間浸漬した後においても、硫化腐食の進行が抑制されているのに対し、比較例の巻きブッシュは、ギヤオイル中に100時間浸漬した後の内周面(摺動面)の略々全面に硫化腐食による硫化物が生成しており、もはや巻きブッシュとしての機能が消失している。
【0059】
表3は、実施例1の巻きブッシュの内径寸法と相手軸の外径寸法との間のクリアランスのギヤオイル中に各浸漬時間後の変化量を、表4は、実施例2の巻きブッシュの内径寸法と相手軸の外径寸法との間のクリアランスのギヤオイル中に各浸漬時間後の変化量を、表5は、比較例の巻きブッシュの内径寸法と相手軸の外径寸法との間のクリアランスのギヤオイル中に各浸漬時間後の変化量を測定した結果を示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
測定結果から、表3及び表4に示す実施例1及び実施例2の巻きブッシュは、ギヤオイル中への浸漬時間の経過と共に硫化腐食に起因する硫化物の生成は増加しているが、その進行は抑制され、250時間浸漬後においても著しいクリアランスの変化は無く、クリアランスは保持されているのに対し、表5に示す比較例の巻きブッシュは、150時間のギヤオイル中への浸漬により、内周面に硫化腐食に起因する硫化物の生成による著しいクリアランスの変化によりクリアランスが消失し、相手軸が巻きブッシュの内周面から抜き取れない状態(表5において「−」で表示)であった。
【0064】
以上のことから、本発明の複層摺動部材における多孔質金属焼結層は、極圧添加剤を含有する潤滑油が使用される条件下においても硫化腐食の進行を抑制することができ、該硫化腐食に起因する硫化物の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、滑り層の剥離を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができる。また、多孔質金属焼結層は、それ自体が摺動性能に優れているので、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層に摩耗を生じ、滑り層に該多孔質金属焼結層の一部が露出しても、本発明の複層摺動部材は良好な摺動特性を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、Ni:21〜35質量%、Sn:3〜12質量%、P:0.4〜1.35質量%、残部Cuからなる多孔質金属焼結層を具備した本発明の複層摺動部材は、極圧添加剤を含有する潤滑油の使用される条件下においても硫化腐食の進行を抑制することができ、該硫化腐食に起因する硫化物の生成による多孔質金属焼結層の脱落や、滑り層の剥離を生じることがなく、多孔質金属焼結層としての役割を充分に果たすことができる。また、該多孔質金属焼結層自体の摺動特性も従来と比べて同等であり、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層に摩擦を生じ、滑り層に多孔質金属焼結層の一部が露出して良好な摺動特性を維持することができるので、本発明の複層摺動部材は、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、油中潤滑条件等幅広い摩擦条件下での使用を可能とする。
【符号の説明】
【0066】
1 板状軸受試験片(複層摺動部材)
2 円筒体
3 (板状軸受試験片の)表面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された金属焼結部材からなる多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材であって、
該多孔質金属焼結層は、Ni:21質量%以上35質量%以下、Sn:3質量%以上12質量%以下、P:0.4質量%以上1.35質量%以下、残部Cuからなることを特徴とする複層摺動部材。
【請求項2】
前記裏金は、Cuメッキ又はNiメッキが施された鋼板からなることを特徴とする請求項1に記載の複層摺動部材。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、フルオロカーボン重合体、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂から選択される少なくとも一つの合成樹脂を主成分とし、耐摩耗性向上剤として、ポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂から選択される少なくとも一つの有機材料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の複層摺動部材。
【請求項1】
鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された金属焼結部材からなる多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された樹脂組成物からなる滑り層とを具備した複層摺動部材であって、
該多孔質金属焼結層は、Ni:21質量%以上35質量%以下、Sn:3質量%以上12質量%以下、P:0.4質量%以上1.35質量%以下、残部Cuからなることを特徴とする複層摺動部材。
【請求項2】
前記裏金は、Cuメッキ又はNiメッキが施された鋼板からなることを特徴とする請求項1に記載の複層摺動部材。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、フルオロカーボン重合体、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂から選択される少なくとも一つの合成樹脂を主成分とし、耐摩耗性向上剤として、ポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂から選択される少なくとも一つの有機材料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の複層摺動部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−80525(P2011−80525A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232965(P2009−232965)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】
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