説明

視認力向上支援装置

【課題】確率共振現象(SR)を利用して車両の運転者の視認力を向上させることができる視認力向上支援装置を提供する。
【解決手段】視認力向上支援装置1は、視認可能なノイズ強度の閾値に基づいて設定された最適ノイズ強度の視覚的ノイズを生成するノイズ生成部11と、このノイズ生成部11によって生成された視覚的ノイズを出力し、かつ所定の範囲内を揺動可能に構成されたノイズ出力部12と、このノイズ出力部12の駆動を制御する駆動制御部13とを備える。そして、ノイズ出力部12が駆動制御部13による制御に基づいて所定の範囲内を揺動しながら視覚的ノイズを出力することで、運転者の視界の妨げになることなく広範囲から運転者に視覚的ノイズを照射し、運転者の視認力向上を支援する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、確率共振現象(SR:Stochastic Resonance)を応用した視認力向上支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行者に眩しさを与えることなく、運転者からの視認性を向上することを目的とした前照灯制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に開示されている前照灯制御装置によれば、可視光線を車体前方へ向けて照射する第1前照灯と、紫外線を車体前方へ向けて照射する第2前照灯とを備える。この第2前照灯からの紫外線は、前方歩行者の衣服に反応して前方歩行者を浮き上がらせる。そのため、運転者は、前方歩行者を視認することができるようになり、また、前方歩行者は、紫外線を受けても眩しさを感じることがない。
【特許文献1】特開2000−203335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の前照灯制御装置は、紫外線を利用するため、その反射度合いは衣服の色に大きく影響される。従って、運転者は、反射度合いが低くなる色の衣服を着用した歩行者を視認することが難くなる。また、犬や猫等の小動物から反射される紫外線の反射度合いは、衣服を着用した歩行者に比べて低いため、運転者は、小動物等を視認することが難しくなる。即ち、従来の前照灯制御装置は、視認する対象物に紫外線を当てることで対象物の視認性を向上させているため、対象物の条件によっては効果が十分得られないという問題がある。
【0004】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたもので、視認する側(即ち、運転者)の視覚認識能力(視認力)を向上させることができる視認力向上支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の視認力向上支援装置は、視認可能なノイズ強度の閾値に基づいて設定された最適ノイズ強度の視覚的ノイズを生成するノイズ生成手段と、このノイズ生成手段によって生成された視覚的ノイズを出力し、かつ所定の範囲内を運動可能に構成されたノイズ出力手段と、このノイズ出力手段の運動を制御する運動制御手段とを備える。そして、ノイズ出力手段が運動制御手段による制御に基づいて所定の範囲内を運動しながら視覚的ノイズを車両運転中の運転者に対して与えることによって、運転者の視認力向上を支援することを特徴とする。
【0006】
本発明は、確率共振現象(SR)の研究成果(人の脳における確率共振現象の実験的検証、日高ら、生体・生理シンポジウム論文集VOL.15th、P.261〜264)に着目したものである。
【0007】
生体における確率共振現象(SR)とは、感覚神経細胞に対する適度なノイズ印加によってその感覚神経細胞における閾値以下の入力信号を検出する能力が上昇するという現象である。この確率共振現象(SR)によって、人の生体機能(例えば、知覚、調節、行為等のマクロな機能)が向上するということが実験的検証等によって明らかになっている。
【0008】
ここで、確率共振現象(SR)について具体的に説明する。図7(a)は、感覚神経細胞を非線形システムとして模式的に示したものである。ここで、感覚神経細胞は、図7(b)に示すように、一般に閾値型の入出力特性を有するため、閾値以下の微小な入力信号は検出することができない。しかしながら、ランダムな広帯域ノイズを入力信号と同時に印加すると、閾値以下の微弱な信号を検出するようになる。
【0009】
一方、ランダムな広帯域ノイズの強度は、図7(c)に示す「信号雑音比−ノイズ強度」曲線から明らかなように、ノイズの強度が小さ過ぎたり、あるいは、入力信号の強弱とは無関係に閾値を超えるほど大き過ぎたりした場合、出力信号の信号雑音比を低下させることが知られており、出力信号の信号雑音比を最大化するノイズ強度が存在する。
【0010】
なお、上述のように、確率共振現象(SR)は、ノイズを印加することによって入力信号の認識能力が高まるという現象であり、潜在意識を活性化させるサブリミナル効果を利用した手法(映像・音声等に通常の視覚・聴覚では捉えられない速度・音量によるメッセージを挿入し、それを繰り返し流すことにより、視聴者の潜在意識に働きかける等。)とは異なるものである。
【0011】
本発明は、上述した最適ノイズ強度の視覚的ノイズをノイズ生成手段により生成し、その生成した視覚的ノイズをノイズ出力手段によって車両の運転者に与えることで、運転者の視覚認識能力(視認力ともいう。)を向上させるものである。更に、ノイズ出力手段が運動制御手段による制御に基づいて所定の範囲内で運動しながら視覚的ノイズを出力することで、静止した状態で視覚的ノイズを出力するよりも広範囲から視覚的なノイズを運転者に与えることができ、より効果的に運転者の視認力の向上を支援することができる。なお、ここでいう視覚的ノイズとは、光によって構成されるノイズのことであり、この視覚的ノイズを出力する態様としては、発光デバイス(光源)の輝度、色彩、点灯時間(点滅間隔)等を制御することが考えられる。
【0012】
請求項2に記載の視認力向上支援装置は、視覚的ノイズを出力する複数の光源を列状に配置した列状光源からなり、この列状光源が面状の軌跡を描くように運動しながら視覚的ノイズを運転者に対して与えることを特徴とする。
【0013】
このように、列状に配置した光源が面状の軌跡を描くように運動することで、この面状の軌跡と同じ範囲に対して一様に光源を配置する場合と比較してより少ない光源で視覚的ノイズを運転者に与えることができる。例えば、光源にLED(light emitting diode)を用いた場合、LEDを一列に配置した列状光源が面状の軌跡を描くように運動しながら視覚的ノイズを出力することで、列状光源の運動範囲と同じ範囲に対してLEDをマトリクス状に配置して視覚的ノイズを出力する場合よりも、LEDやLEDのスイッチング回路に用いられるトランジスタ及びその他の素子の数を大幅に削減することができ、生産コストを削減することができる。
【0014】
また、列状光源が面状の軌跡を描くように運動する具体例としては、列状光源の長さ方向に対して垂直な方向へ直線的に往復運動するように構成してもよいし、請求項3に記載の視認力向上支援装置のように、所定の位置を軸として回転又は揺動しながら視覚的ノイズを運転者に対して与えるように構成してもよい。
【0015】
ところで、上述のような生体における確率共振現象(SR)を誘起するために印加するノイズは、ランダムなノイズであることが肝要である。そこで、請求項4に記載の視認力向上支援装置では、ノイズ出力手段の前記複数の光源が、ノイズ生成手段によって生成された視覚的ノイズに基づいて、ランダムかつノイズ出力手段の回転又は揺動の運動周期に対して非同期なタイミングで点滅するように構成されている。このように、光源の点滅が回転又は揺動の運動周期と非同期であることで、ノイズ出力手段が出力する視覚的ノイズにおいて、運動時のある位相で常に同じ光源が点灯しているというような周期性を生じることを防ぐことができる。
【0016】
一方、ノイズ出力手段が運動しながら視覚的ノイズを出力することで、広範囲からの視覚的ノイズの出力を実現しているが、ノイズ出力手段がノイズを出力する範囲を一様に覆っているわけではないので、たとえノイズ出力手段を車両運転中の運転者の視野内に配置したとしても、ノイズ出力手段による運転者の視野に対する遮蔽の影響は少ない。そこで、請求項5に記載の視認力向上支援装置のように、ノイズ出力手段が、運転者が車両運転中に視線を向ける範囲において運転者の視野内で運動しながら視覚的ノイズを運転者に対して与えるように構成するとよい。このように、運転者の視野内でノイズ出力手段を運動させることで、運転者に対して運転者の視野内における広範囲から直接視覚的ノイズを与えることができるうえに、運転者の視野に対する遮蔽を少なくできるので好適である。特に、ノイズ出力手段が列状光源によって構成されていれば、運転者の視野を遮蔽することによる影響を最小限にすることができる。
【0017】
また、車両を運転中の運転者は、特に前方視野からの視覚情報に注意して運転する必要がある。そこで、請求項6に記載の視認力向上支援装置のように、ノイズ出力手段が車両のフロントウィンドウシールドの運転席側上部面上で運動しながら視覚的ノイズを運転者に与えるように構成するとよい。あるいは、請求項7に記載の視認力向上支援装置のように、ノイズ出力手段が、車両のインナーミラーの前面から透視可能に構成されたインナーミラーの内部、インナーミラーの下方又はインナーミラーの側方で運動しながら視覚的ノイズを運転者に与えるように構成してもよい。
【0018】
このように、運転者の前方から積極的に視覚的ノイズを運転者に与えることで、運転者の前方視野における視認力を効果的に向上させることができる。
一方、請求項8に記載の視認力向上支援装置のように、ノイズ出力手段が、車両のインストルメントパネル上面で運動ながら視覚的ノイズを車両の構造物による反射を介して運転者に与えるように構成してもよい。このように、視覚的ノイズを車両の構造物による反射を介して運転者に照射することで、ノイズ出力手段を必ずしも運転者の視野に直接入る位置に配置しなくても運転者に視覚的ノイズを与えることができる。特に、ノイズ出力手段をインストルメントパネル上面の運転者から死角となる位置や、インストルメントパネル上面に埋め込むように配置して運転者から直接見えないように構成すれば、運転者の視野を遮蔽することなく視覚的ノイズを照射することができるので好適である。なお、視覚的ノイズを反射させる車両の構造物としては、フロントウィンドウシールドのように光を良好に反射し、かつ運転者の前方から視覚的ノイズを反射することができる部材が適している。
【0019】
請求項9に記載の視認力向上支援装置は、ノイズ出力手段が、車両のフロントウィンドウシールドを払拭するためのワイパ装置のワイパブレード又はワイパアームの少なくとも何れかに視覚的ノイズを出力する光源を設けたものであり、運動制御手段が、ワイパブレード及びワイパアームを駆動させるための装置であることを特徴とする。このような構成によれば、ワイパ装置の作動中に視覚的ノイズを運転者に与え、それにより運転者の視認力の向上を支援することができるので、降雨によって運転時の視界が悪い状況下において効果を発揮することができる。また、ワイパ装置は元々車両に標準的に搭載されている装置であるから、ワイパブレードやワイパアームにLED等の小型の光源を埋め込むように構成すれば、運転者の視野に対する遮蔽物を増やすことなく車両に視認力向上支援装置を搭載することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態の視認力向上支援装置1の概略構成及び視覚的ノイズ(以下、ノイズ光ともいう。)出力のイメージを示す説明図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の視認力向上支援装置1は、ノイズ光を生成するノイズ生成部11と、ノイズ生成部11によって生成されたノイズ光を出力するノイズ出力部12と、駆動制御部13とを備えている。
【0022】
ノイズ生成部11は、予め記憶している最適ノイズ強度に基づいて所定のノイズを生成し、この生成したノイズに基づいてノイズ光を出力するための制御信号をノイズ出力部12へ送信するものである。そして、ノイズ出力部12は、ノイズ生成部11から送信されてきた制御信号に基づいて光源を点灯駆動することでノイズ光を出力するものである。
【0023】
ここで、視覚的ノイズについて説明する。視覚認識における確率共振現象(SR)を誘起するために用いられる視覚的ノイズは、特定の周波数帯域で強い強度を示すことのないランダムな広帯域ノイズでなければならない。そこで、視覚認識可能な周波数帯における視覚的ノイズのノイズ強度の周波数分布が一様であるランダムノイズや、視覚的ノイズのノイズ強度の周波数分布が視覚的ノイズの周波数に反比例する1/fノイズ等を用いることで視覚認識における確率共現象(SR)を誘起することができる。
【0024】
なお、前述のとおり、ランダムな広域帯ノイズは、ノイズ強度が小さ過ぎたり、あるいは、入力信号の強度と無関係に閾値を超えるほど大き過ぎたりした場合、出力信号の信号雑音比を低下させることが知られており、信号出力の信号雑音比を最大化するノイズ強度が存在する。
【0025】
そこで、確率共振現象(SR)を誘起するのに適したノイズ強度のノイズをノイズ生成部11が発生させるためには、例えば、実験等によって信号出力の信号雑音比を大きくするのに適したノイズ強度を予め求めておき、ノイズ生成部11は、この実験等によって求めたノイズ強度を最適ノイズ強度として記憶しておけばよい。そして、ノイズ生成部11は、この記憶している最適ノイズ強度に基づいてノイズを生成する。あるいは、ノイズ出力部12から出力するノイズ光の強度を徐々に高めていったときに、運転者がノイズを最初に知覚したタイミングにおけるノイズ光の強度をノイズ強度の閾値として決定する閾値決定部(図示なし)と、この決定したノイズ強度の閾値を記憶する閾値記憶部(図示なし)とを備えるように構成してもよい。そして、ノイズ生成部11は、閾値記憶部が記憶している閾値に対して信号出力の信号雑音比を大きくするのに適した所定の割合のノイズ強度(例えば、上記ランダムノイズの場合は閾値の100%程度のノイズ強度、上記1/fノイズの場合は閾値の69%程度のノイズ強度)を最適ノイズ強度として設定し、この設定した最適ノイズ強度に基づいてノイズを生成するように構成してもよい。なお、信号出力の信号雑音比を大きくするのに適した閾値に対するノイズ強度の割合は、実験等によって予め求めておけばよい。また、閾値に対するノイズ強度の割合を変更可能に構成してもよい。
【0026】
本実施形態のノイズ出力部12は、図2に示すように、ノイズ光を出力する光源である複数のLED12aを棒状の部材であるシャフト12d上の一端から一列に並べて配置することで構成されており、ノイズ生成部11から送信されてきた制御信号に基づいて各LED12aを点灯駆動させることでノイズ光を出力する。更に、ノイズ出力部12は、シャフト12dの他端が駆動制御部13の軸部13b(後述)に支持されており、この軸部13bが回動することで、列状に配置されたLED12aがノイズ光を出力しながら扇状の軌跡を描くように揺動する。なお、図2においては、ノイズ出力部12行う揺動の様子を残像的に表現することで、視認力向上支援装置1の作動時におけるノイズ光出力のイメージを模式的に表現している。ここでは、点灯しているLED12aを黒丸、消灯しているLEDを白丸で表現し、更にノイズ出力部12が揺動する際のLED12a及びシャフト12dの残像を破線で表している。
【0027】
駆動制御部13は、アクチュエータ部13a(図3参照)と、アクチュエータ部13aを制御するための制御部(図示なし)と、軸部13b及びその他の機構で構成されている。アクチュエータ部13aは、制御部による制御に基づき、モータやソレノイド等を動力源として可動部において回転運動又は並進運動を発生する。そして、軸部13bはアクチュエータ部13aの可動部とリンク機構やカム機構等の適宜な機構を介して連結されており、アクチュエータ部13aの可動部の運動に連動して回動する。
【0028】
なお、本実施形態の視認力向上支援装置1を作動させるには、図示しない手動スイッチによって作動させてもよいし、車両のアクセサリスイッチ等に連動して作動するように構成してもよい。
【0029】
図3は、本実施形態の視認力向上支援装置1の電気的な概略構成を示す図である。
図3に示すように、ノイズ出力部12は、トランジスタ12b、抵抗12c及び図示しないその他の素子によって構成されるLED駆動回路を各LED12aごとに有している。このLED駆動回路は、ノイズ生成部11から送信されてきた制御信号に基づいて各トランジスタ12bがスイッチング動作を行うことで、それぞれのLED12aを点灯駆動するものである。即ち、ノイズ出力部12は、LED駆動回路によってLED12aの輝度、点灯時間(点滅間隔)等を制御することによりLED12aからノイズ光を出力するのである。
【0030】
なお、上述のように確率共振現象(SR)を誘起するために印加するノイズは、ランダムなノイズでなければならないため、ノイズ出力部12が揺動する際、ある位相で常に同じLED12aが点灯しているというような周期性が生じないようにすることが必要である。そのためには、例えば、ノイズ出力部12が行う揺動の周期が常に一定であれば、ノイズ生成部11はその周期と非同期であるノイズを生成すればよいし、揺動の周期が可変であれば、ノイズ生成部11はアクチュエータ部13aの制御信号等から揺動の周期を取得し、その取得した周期に対して非同期のノイズを生成するように構成すればよい。
【0031】
図4は、ノイズ出力部12の設置場所の具体例を示すイメージ図であり、車両2の車内後方から前方を見た図である。
設置例Aは、軸部13bが車両2の運転席側天井部とフロントウィンドウシールド21との境界付近に設けられ、ノイズ出力部12がこの軸部13bを中心にフロントウィンドウシールド21の運転席側上部面上で揺動しながら運転者に対してノイズ光を出力している態様を示す。この設置例Aは、主に前方に視線を向けているときの運転者の視野内からノイズ光を与えるのに適している。
【0032】
設置例Bは、軸部13bがインナーミラー22の運転者から見た裏側に設けられ、ノイズ出力部12がこの軸部13bを中心にインナーミラー22の側方又は下方で揺動しながら運転者に対してノイズ光を出力する態様を示す。この設置例Bは、主に視線を前方より左側に視線を向けているときの運転者の視野内からノイズ光を与えるのに適している。
【0033】
設置例Cは、ノイズ出力部12をインナーミラー22の内部に格納し、出力したノイズ光をインナーミラー22の鏡面側から透過させて運転者に照射している態様を示す。この設置例Cにおけるインナーミラー22は、鏡の前側に空間を設けた状態で鏡の前方が透明な板状カバーで覆われており、ノイズ出力部12がこの透明な板状カバーと鏡との間の空間に設けられていることで、ノイズ出力部12を運転者から透視可能に構成している。この設置例Cでは、視線を前方より左側に視線を向けているときの運転者の視野内からノイズ光を与えるだけでなく、鏡によって後方を確認する際にも運転者にノイズ光を与えて認識力を向上させることができる。
【0034】
設置例Dは、ノイズ出力部12が車両2のインストルメントパネル20上面に運転者から直接見えないように格納されており、この格納されたノイズ出力部12が揺動しながら出力したノイズ光をフロントウィンドウシールド21による反射を介して運転者に照射している態様を示す。即ち、図2に示す設置例Dのノイズ光照射のイメージは、実体ではなくフロントウィンドウシールド21に反射されたものである。なお、ノイズ出力部12がインストルメントパネル20に格納されている様子を図5に示すので、参照されたい。この設置例Dでは、ノイズ出力部12が運転者から直接見えない位置に配置されているので、車両運転中の運転者の視界の妨げにならない。
【0035】
[効果]
本実施形態の視認力向上支援装置1によれば、以下のような効果を奏する。
(1)ノイズ出力部12が揺動しながらノイズ光を出力することで、静止した状態でノイズ光を出力するよりも広範囲から視覚的なノイズを運転者に与えることができ、より効果的に運転者の視認力の向上を支援することができる。
【0036】
(2)列状に配置した複数のLED12aが扇状の軌跡を描くように揺動することで、この扇状の軌跡と同じ範囲に対して一様にLED12aを配置する場合と比較してより少ないLED12aでノイズ光を運転者に与えることができる。例えば、LED12aをマトリクス状に配置してノイズ光を出力する場合よりも、LED12aやLED駆動回路に用いられるトランジスタ12b及びその他の素子の数を大幅に削減することができ、生産コストを削減することができる。
【0037】
(3)細い棒状のノイズ出力部12が揺動しながらノイズ光を出力しているので、図4に示す設置例A,Bのように運転者の視野内にノイズ出力部12を配置しても、運転者の視野を遮蔽することによる影響を最小限にすることができる。また、非動作時においても、細い棒状のノイズ出力部12が運転者の視野を遮蔽することによる運転への影響は少ない。
【0038】
(4)図4に示す設置例Dのように、ノイズ出力部12をインストルメントパネル20上面の運転者から死角となる位置に埋め込むように配置し、運転者からノイズ出力部12が直接見えない位置から、フロントウィンドウシールド21の反射を介してノイズ光を照射すれば、運転者の視野を遮蔽することがないので好適である。また、設置例Cのように、ノイズ出力部12をインナーミラー22内部に格納した場合も同様に、運転者の視野を遮蔽することなくノイズ光を照射することができる。
【0039】
[第2実施形態]
図6は、本発明の視認力向上支援装置を車両2のフロントウィンドウシールド21を払拭するためのワイパ装置を利用して実現した具体例を示す図である。(a)はその全体構成を示す構成図であり、(b)はLED12aを搭載したワイパブレード23の断面図である。
【0040】
本実施形態では、図6(a)、(b)に示すように、複数のLED12aが車内側へ向けられた状態でワイパブレード23に列状に配置されている。そして、ワイパ装置作動時にLED12aからノイズ光を出力することで、ワイパブレード23がフロントウィンドウシールド21上を往復運動する広い範囲からノイズ光を運転者に照射する。
【0041】
本実施形態の視認力向上支援装置によれば、ワイパ装置の作動中にノイズ光を運転者に与え、それにより運転者の視認力の向上を支援することができるので、降雨によって運転時の視界が悪い状況下において効果を発揮することができる。また、図6(b)に示すように、ワイパブレード23にLED12aが埋め込まれているので、運転者の視野に対する遮蔽物を増やすことなく運転者にノイズ光を与えることができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り様々な態様にて実施することが可能である。
【0043】
例えば、列状光源が面状の軌跡を描く一例として、上記第1実施形態では棒状のノイズ出力部12を揺動させて列状に配置したLED12aが扇状の軌跡を描く態様を挙げているが、ノイズ出力部12を軸部13bを中心に回転運動させて列状に配置したLED12aが円状の軌跡を描くように構成してもよいし、ノイズ出力部12を長さ方向に対して垂直又は斜め方向へ平行運動させて方形状の軌跡を描くように構成してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、列状光源の一例としてLED12aを直線状に配置した態様を挙げているが、これ以外にも波線や円弧等の曲線状にLED12aを配置してもよい。
また、図4に示す設置例Dのように、フロントウィンドウシールド21のような車両の構造物による反射を介してノイズ光を照射する場合、ノイズ光を反射させる構造物としては、メータパネル前面(図示なし)、サイドミラー(図示なし)、インナーミラー22等が考えられる。
【0045】
一方、第2実施形態において、ワイパブレード23だけにLED12aを配置するだけでなく、ワイパアーム24に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施形態の視認力向上支援装置の概略構成及びノイズ光出力のイメージを示す説明図である。
【図2】ノイズ出力部によるノイズ光照射時の様子を示すイメージ図である。
【図3】実施形態の視認力向上支援装置の電気的な概略構成を示す図である。
【図4】ノイズ出力部の設置場所の具体例を示すイメージ図である。
【図5】ノイズ出力部をインストルメントパネル内部に設置した場合のノイズ光照射状況を示すイメージ図である。
【図6】本発明の視認力向上支援装置をワイパ装置を利用して実現した具体例を示す構成図である。
【図7】(a)は、感覚神経細胞を非線形システムとして模式的に示した図であり、(b)は、閾値型の入出力特性を示した図であり、(c)は、「信号雑音比−ノイズ強度」曲線を示した図である。
【符号の説明】
【0047】
1…視認力向上支援装置、2…車両、11…ノイズ生成部、12…ノイズ出力部、12a…LED、12b…トランジスタ、12c…抵抗、12d…シャフト、13…駆動制御部、13a…アクチュエータ部、13b…軸部、20…インストルメントパネル、21…フロントウィンドウシールド、22…インナーミラー、23…ワイパブレード、24…ワイパアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
視認可能なノイズ強度の閾値に基づいて設定された最適ノイズ強度の視覚的ノイズを生成するノイズ生成手段と、
このノイズ生成手段によって生成された前記視覚的ノイズを出力し、かつ所定の範囲内を運動可能に構成されたノイズ出力手段と、
このノイズ出力手段の運動を制御する運動制御手段とを備え、
前記ノイズ出力手段が前記運動制御手段による制御に基づいて前記所定の範囲内を運動しながら前記視覚的ノイズを車両運転中の運転者に対して与えることによって、前記運転者の視認力向上を支援すること
を特徴とする視認力向上支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の視認力向上支援装置において、
前記ノイズ出力手段は、前記視覚的ノイズを出力する複数の光源を列状に配置した列状光源からなり、この列状光源が面状の軌跡を描くように運動しながら前記視覚的ノイズを前記運転者に対して与えること
を特徴とする視認力向上支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の視認力向上支援装置において、
前記ノイズ出力手段は、所定の位置を軸として回転又は揺動しながら前記視覚的ノイズを前記運転者に対して与えること
を特徴とする視認力向上支援装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の視認力向上支援装置において、
前記ノイズ出力手段の前記複数の光源は、前記ノイズ生成手段によって生成された前記視覚的ノイズに基づいて、ランダムかつ前記ノイズ出力手段の回転又は揺動の運動周期に対して非同期なタイミングで点滅すること
を特徴とする視認力向上支援装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の視認力向上支援装置において、
前記ノイズ出力手段は、前記運転者が車両運転中に視線を向ける範囲において前記運転者の視野内で運動しながら前記視覚的ノイズを前記運転者に対して与えること
を特徴とする視認力向上支援装置。
【請求項6】
請求項5に記載の視認力向上支援装置において、
前記ノイズ出力手段は、前記車両のフロントウィンドウシールドの運転席側上部面上で運動しながら前記視覚的ノイズを運転者に与えること
を特徴とする視認力向上支援装置。
【請求項7】
請求項5に記載の視認力向上支援装置において、
前記ノイズ出力手段は、前記車両のインナーミラーの鏡面側から透視可能に構成した前記インナーミラーの内部、前記インナーミラーの下方又は前記インナーミラーの側方で運動しながら前記視覚的ノイズを運転者に与えること
を特徴とする視認力向上支援装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の視認力向上支援装置において、
前記ノイズ出力手段は、前記車両のインストルメントパネル上面で運動しながら前記視覚的ノイズを前記車両の構造物による反射を介して前記運転者に与えること
を特徴とする視認力向上支援装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の視認力向上支援装置において、
前記ノイズ出力手段は、前記車両のフロントウィンドウシールドを払拭するためのワイパ装置のワイパブレード又はワイパアームの少なくとも何れかに前記視覚的ノイズを出力する光源を設けたものであり、
前記運動制御手段は、前記ワイパブレード及びワイパアームを駆動させるための装置であること
を特徴とする視認力向上支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−215656(P2006−215656A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25451(P2005−25451)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】