説明

親水被膜の形成方法および親水被膜、ならびにインクジェット記録ヘッドの製造方法およびインクジェット記録ヘッド

【課題】親水処理の為の専用装置無しにフォトリソグラフィーにより容易に親水被膜を形成する方法及びそれより得られる親水被膜を提供すること。
【解決手段】1)主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂と紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸又はアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生する光酸発生剤とを含む被覆樹脂層を基材上に形成する工程と2)該エネルギー線を照射することによりアンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤とこの光酸発生剤を保持し工程3で除去可能な保持体とを含む光酸発生剤保持層を該樹脂層に積層する工程と3)該保持層及び該樹脂層に該エネルギー線を露光し現像して該保持層を除去し該樹脂層を硬化させる工程と4)この樹脂層を熱処理することで表面を親水化して親水被膜を形成する工程とを含む親水被膜の形成方法及び親水被膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水被膜の形成方法および、その方法により形成された親水被膜、また、該親水被膜を具備するインクジェット記録ヘッドの製造方法および、その方法により製造されたインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物に対してフォトリソグラフィーにより加工を行い、パターニングを行う技術は様々な分野に応用されている。その一例としては、インクジェット記録ヘッドの製造方法が挙げられる。
【0003】
インクを被記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドは、一般に、微細なインク吐出口、インク流路及びインク流路の一部に設けられるインクを吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を複数備えている。
【0004】
このようなインクジェット記録ヘッドを作製する方法が、特許文献1に記載されている。まず、エネルギー発生素子が形成された基板上に、溶解可能な樹脂にてインク流路パターンを形成する。次いで、このインク流路パターン上に、カチオン重合可能な樹脂および、光酸発生剤を含む被覆樹脂層を形成し、フォトリソグラフィーによりエネルギー発生素子上にインク吐出口を形成する。最後に前記溶解可能な樹脂を溶出した後、被覆樹脂層を硬化させ、インク流路部材を形成する。
【0005】
一般に、インクジェットプリンタにおいて高印字品質を実現し常に安定した印字効果を得るためには、インク吐出口から吐出するインクが常にインク吐出口面に対して垂直に吐出されることが求められる。吐出時にインク吐出口面に不均一なインクの溜りが存在したり、それが吐出中に形成されたりすると、吐出するインクがインク溜りに引かれ、インク滴が正規の飛翔方向から離脱して正常な吐出が得られない場合がある。また、印字品位を向上させるために、インク吐出口の配列密度を高めた場合、これに応じてインク吐出口間の配列距離が狭くなるため、インク吐出口面での不均一なインクの溜りの影響をより受け易くなる。
【0006】
このため、インク吐出口面にインクをはじくよう撥水処理を施して上述の問題を解決し、安定したインク滴を得る提案が多数報告されている。また、逆に、インク吐出口面にインクを濡らすよう親水処理を施してインク吐出口面の均一な濡れを確保する提案も報告されている。
【0007】
これらの表面処理方法は特許文献2に記載がある。例えば、インク吐出口面に撥水処理を施す方法としては、フッ素系の撥水剤を塗布する方法などが挙げられる。対して、親水処理を施す場合には、酸処理やプラズマ処理などによってインク吐出口面に極性基を生成させて親水化する方法などが挙げられる。
【0008】
このように従来の方法では、親水被膜を形成する際に、酸処理やプラズマ処理などの専用装置が必要であり、フォトリソグラフィー装置のみでは形成できないため大きな負荷が掛かる場合があった。
【0009】
先に述べたようにフォトリソグラフィーによってインクジェット記録ヘッドを製造する場合においても、インク吐出口面に撥水処理を施すには、フッ素系の撥水剤を塗布する方法などで良く、従来装置の流用が可能である。しかし、親水処理を施すには、酸処理やプラズマ処理などの専用装置が必要であり、従来の装置のみでの製造はできないため製造工程に大きな負荷が掛かる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平6−45242号公報
【特許文献2】特開平6−122210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、親水処理のための専用装置を必要とすることなく、フォトリソグラフィーによって容易に親水被膜を形成する方法および、その方法により形成された親水被膜を提供することを目的とする。また、その親水被膜を具備するインクジェット記録ヘッドの製造方法および、その方法により製造されたインクジェット記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る表面が親水化された被膜である親水被膜の形成方法は、
(1)主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生する光酸発生剤とを含む被覆樹脂層を基材上に形成する工程と、
(2)前記活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤と、この光酸発生剤を保持し、かつ工程(3)において除去可能な保持体とを含む光酸発生剤保持層を、前記被覆樹脂層に積層する工程と、
(3)前記光酸発生剤保持層および前記被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記光酸発生剤保持層を除去し、前記被覆樹脂層を硬化させる工程と、
(4)工程(3)で硬化させた被覆樹脂層を熱処理することでこの被覆樹脂層の表面を親水化して親水被膜を形成する工程と
を含むことを特徴とする親水被膜の形成方法である。
【0013】
また本発明は、前記親水被膜の形成方法により得られる親水被膜であって、
表面に前記カチオン重合性樹脂が分解して生成した極性基が存在し、表面の純水による静的接触角が20°以下であることを特徴とする親水被膜である。
【0014】
また本発明は、インクを吐出するエネルギーを発生させるエネルギー発生素子が形成された基板と、インクを吐出するための吐出口、および前記吐出口に連通しインクを保持するインク流路を形成し、かつ前記吐出口を有する面が親水化されたインク流路部材とを含むインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
(I)主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生する光酸発生剤とを含む被覆樹脂層をエネルギー発生素子が形成された基板上に形成する工程と、
(II)前記活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤と、この光酸発生剤を保持し、かつ工程(III)において除去可能な保持体とを含む光酸発生剤保持層を、前記被覆樹脂層に積層する工程と、
(III)前記光酸発生剤保持層および前記被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記光酸発生剤保持層を除去し、前記被覆樹脂層を硬化させ、前記吐出口を形成する工程と、
(IV)工程(III)で硬化させた被覆樹脂層を熱処理することでこの被覆樹脂層の前記吐出口を有する面を親水化して前記インク流路部材を形成する工程と
を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法である。
【0015】
さらに本発明は、前記インクジェット記録ヘッドの製造方法により得られるインクジェット記録ヘッドであって、
前記吐出口を有する面に前記カチオン重合性樹脂が分解して生成した極性基が存在し、前記吐出口を有する面の純水による静的接触角が20°以下であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、親水処理のための専用装置を必要とすることなく、フォトリソグラフィーによって容易に親水被膜を形成する方法および、その方法により形成された親水被膜を提供することができる。また、その親水被膜を具備するインクジェット記録ヘッドの製造方法および、その方法により製造されたインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る方法により形成された親水被膜の模式的断面図である。
【図2】本発明の親水被膜の形成方法の各工程を説明するための図である。
【図3】カチオン重合性樹脂を含む親水被膜の表面の残存エーテル比を示したグラフである。
【図4】カチオン重合性樹脂を含む親水被膜の表面の接触角を示したグラフである。
【図5】カチオン重合性樹脂を含む親水被膜の膜厚を示したグラフである。
【図6】本発明に係る方法により製造されたインクジェット記録ヘッドの模式図である。
【図7】インク供給部材を有し本発明に係る方法により製造されたインクジェット記録ヘッドの模式的断面図である。
【図8】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法の各工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、前記課題を達成すべく鋭意研究した結果、フォトリソグラフィーによって、特定のカチオン重合可能な樹脂および、特定の光酸発生剤を含む被覆樹脂層の表面に極性基を生成して親水被膜を形成する方法を見出した。なお、親水被膜とは、ここでは純水での静的接触角が20°以下の被膜を表わす。本発明によれば、親水処理するための専用の装置を必要とすることなく、従来のフォトリソグラフィーにより容易に親水被膜を形成することができる。本発明による親水被膜の形成方法の応用範囲はインクジェット記録ヘッドの製造方法の他、半導体製造方法、MEMS分野等に応用可能である。
【0019】
以下、図面を参照して、本発明を具体的に説明する。なお、以下の説明では、同一の機能を有する構成には図面中に同一の番号を付し、その説明を省略する場合がある。
本発明に係る親水被膜の形成方法は、以下の工程を含む。
(1)主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生する光酸発生剤(光酸発生剤A)とを含む被覆樹脂層を基材上に形成する工程。
(2)前記活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤(光酸発生剤B)と、この光酸発生剤を保持し、かつ工程(3)において除去可能な保持体とを含む光酸発生剤保持層を、前記被覆樹脂層に積層する工程。
(3)前記光酸発生剤保持層および前記被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記光酸発生剤保持層を除去し、前記被覆樹脂層を硬化させる工程。
(4)工程(3)で硬化させた被覆樹脂層を熱処理することでこの被覆樹脂層の表面を親水化して親水記被膜を形成する工程。
【0020】
本発明に係る方法により形成される親水被膜の一例を図1に示す。符号1は基材を表し、符号2dは表面が親水化された被膜(親水被膜)を表し、親水被膜2dは、硬化された被覆樹脂層2bおよび表面に親水層2cを有する。以下、図2(a)から(e)を用いて、図1の親水被膜の形成方法を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0021】
(工程(1))
まず、基材1上にカチオン重合性樹脂と光酸発生剤Aとを含む被覆樹脂層2aを形成する(図2(a))。なお、被覆樹脂層2aは基材1表面に直接形成しても良いし、基材1と被覆樹脂層2aとの間に他の層(例えば、ポジ型感光性樹脂層)を有していても良い。
カチオン重合性樹脂としては、例えば、以下の式1−aから式1−iにそれぞれ示すような主鎖にエーテル結合やエステル結合といった、酸により分解可能な結合を含む化合物であれば何でも良い。なお、主鎖とは、鎖状化合物の炭素骨格のうち幹となる鎖であり、炭素数が最大となるものを意味する。
【0022】
【化1】

【0023】
上記式1−a中のl、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す。
【0024】
なお、以下の式2−aから式2−eにそれぞれ示すようなカチオン重合性樹脂は、本発明においては、主鎖にエーテル結合を有していないと定義する。また、式2−aから式2−e中のnは1以上の整数を表す。

【0025】
【化2】

【0026】
また、被覆樹脂層2aに含有する光酸発生剤Aとしては、光、より具体的には紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生するものであれば何でも良い。
【0027】
ここで、以下の表1を用いて光酸発生剤により発生する酸の酸強度について説明する。表1は光酸発生剤とその光酸発生剤から発生する酸の酸強度の序列を示した一例である。なお、光酸発生剤が発生する酸の強弱は、以下の方法により測定することができる。即ち、カチオン重合性樹脂を同じにし、かつ光酸発生剤添加量(モル数)も同じにした樹脂組成物を用いて、フォトリソグラフィーによりあるパターンを形成するのに要した露光量を比較することより測定することができる。この露光量が小さいものほど酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤であると言える。これより、酸強度の序列は、メチド酸>アンチモン酸>リン酸>酢酸となることがわかる。
【0028】
【表1】

【0029】
すなわち、被覆樹脂層2aに含む光酸発生剤Aとしては、例えばアンチモン酸を発生するものが挙げられ、アンチモン酸を発生する光酸発生剤は、アニオン部に以下の式3に示す構造を持つものである。
【0030】
【化3】

【0031】
アンチモン酸を発生する光酸発生剤の具体例を式4−aから式4−jにそれぞれ示す。
【0032】
【化4】

【0033】
また、光酸発生剤Aには、上記式4−aから式4−jに記載する化合物のアニオン部(SbF6-)をPF6-またはCH3COO-に変更した化合物等も用いることができる。
【0034】
被覆樹脂層2aの形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。即ち、前記被覆樹脂層2aの材料(カチオン重合性樹脂および光酸発生剤Aを含む)を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法にて基材1上に塗布する方法である。なお、被覆樹脂層2aの材料は溶媒を使用せずに基材1上に付与することもできるが、溶媒を使用する場合は、基材1を溶解しない溶媒から適宜選択して使用する。
【0035】
なお、被覆樹脂層2aには、上記カチオン重合性樹脂および光酸発生剤Aの他に例えば紫外線吸収剤やシランカップリング剤などの機能性付与材料を含むことができる。なお、被覆樹脂層2a中のカチオン重合性樹脂の含有量は、被膜性の観点から、溶媒を使用した場合は、その全体量のおおよそ50質量%以上であることが好ましい。また、被覆樹脂層2a中の光酸発生剤Aの含有量は、反応性の観点から、カチオン重合性樹脂に対しておおよそ1質量%程度であることが好ましい。
【0036】
(工程(2))
次に、被覆樹脂層2a上に、光酸発生剤Bと、光酸発生剤Bを保持し、かつ後述する工程(3)において除去可能な保持体とを含む光酸発生剤保持層3を積層する(図2(b))。
なお、光酸発生剤保持層3に含む光酸発生剤Bは、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸よりも酸強度の強い酸を発生するものであれば何でも良い。光酸発生剤Bとしては、例えばメチド酸を発生するものが挙げられ、メチド酸を発生する光酸発生剤は、アニオン部に以下の式5の構造を持つものである。
【0037】
【化5】

【0038】
メチド酸を発生する光酸発生剤の具体例を式6−aから6―jにそれぞれ示す。
【0039】
【化6】

【0040】
なお、前記保持体としては、光酸発生剤Bを被覆樹脂層2aの表層に保持させ得るもので、次の工程(3)において除去可能、即ち工程(3)の現像処理で除去されるものであれば何でも良く、モノマーでもポリマーでも構わない。例えば、カチオンにより重合(架橋)反応を生じないノボラック樹脂や環化ゴムなどが挙げられる。なお、被覆樹脂層2aの表層とは、表面のことであり、親水層が形成されるところである。
【0041】
光酸発生剤保持層3の形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。即ち、前記光酸発生剤保持層3を形成する材料(保持体および光酸発生剤Bを含む)を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法にて被覆樹脂層2aに塗布する方法である。光酸発生剤保持層3の材料は溶媒を使用せずに被覆樹脂層上に付与することもできるが、溶媒を使用する場合、被覆樹脂層2aを溶解しない溶媒から適宜選択して使用する。
【0042】
光酸発生剤保持層3の厚さとしては、除去性が損なわれない範囲であれば特に制限されるものではないが、被覆樹脂層2a上の厚みとして3μm以下が望ましい。
【0043】
(工程(3))
次に、被覆樹脂層2aおよび光酸発生剤保持層3に紫外線を含む活性エネルギー線(図2(c)中の矢印)を露光し、現像することにより、光酸発生剤保持層3を除去し、被覆樹脂層2aを硬化させる(図2(c)、(d))。符号2bは、硬化させた被覆樹脂層を表す。
なお、図2(d)では、硬化させた被覆樹脂層2bの表層には、光酸発生剤層3由来の光酸発生剤Bから発生した酸(不図示)が染み込んでいる。
【0044】
(工程(4))
次に、硬化させた被覆樹脂層2bの表層に熱処理により親水層2cを形成する(図2(e))。なお、熱処理とは、例えばオーブンによる処理でもホットプレートによる処理でも構わない。
【0045】
熱処理の温度は、硬化させた被覆樹脂層2bの表層に染み込んだ光酸発生剤保持層3由来の光酸発生剤Bから発生した酸が、その表層のカチオン重合性樹脂を酸分解して極性基を生成させて親水化させ、親水層2cを形成できる温度であれば良い。
【0046】
ここで、工程(4)における熱処理温度と、エーテル結合を主鎖に有するカチオン重合性樹脂を含む親水層2cの残存エーテル比との相関を知るために、以下の条件にて測定を行った。即ち、基材上に直接、表2中のNo.1〜4に記載の組み合わせで、酸により分解可能な結合としてエーテル結合を主鎖に含むカチオン重合性樹脂と光酸発生剤とを含んだ被覆樹脂層を形成した。そして、それを露光、現像、熱処理をした際の、その被覆樹脂層表層(親水層2cに対応)の残存エーテル数を測定した。図3に、この条件における熱処理温度と、被覆樹脂(被膜)表層の残存エーテル比との相関を表したグラフを示す。なお、エーテル数は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)で測定した際のエーテル由来のピーク強度と基準となるピーク強度の比で表している。なお、基準となるピーク強度として、ここではCH基を用いた。
【0047】
図3より、以下の組み合わせにおいて、熱処理温度に応じてカチオン重合性樹脂を含む被覆樹脂層表層の残存エーテル数が減少していることがわかる。即ち、表2記載のNo.1の組み合わせであり、被覆樹脂層に、主鎖に酸により分解可能な結合を有するカチオン重合性樹脂(1−a)と、アンチモン酸よりも酸強度の強い酸を発生する光酸発生剤(6−a)とを含む組み合わせである。これは、光酸発生剤(6−a)から発生した、アンチモン酸よりも酸強度の強い酸(メチド酸)が、熱処理によってカチオン重合性樹脂(1−a)の持つ主鎖のエーテル結合を酸分解し、極性基を生成する(存在させる)ことを表している。
【0048】
なお、エーテル結合以外の酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂を用いた場合でも、同様な傾向を示すと考えられる。
【0049】
なお、表2のNo.3、即ち被覆樹脂層にカチオン重合性樹脂(1−a)と、アンチモン酸を発生する光酸発生剤(4−a)とを含む組み合わせでは、被覆樹脂層表層のエーテル数が熱処理により減少しないことがわかる。すなわち、主鎖に酸により分解可能な結合を有するカチオン重合性樹脂は、アンチモン酸では酸分解されないことを表している。つまり、カチオン重合性樹脂を酸分解するための酸強度の基準はアンチモン酸であることを示唆している。
【0050】
次いで、図4に、図3のときと同様、基材上に直接表2記載のカチオン重合性樹脂と光酸発生剤とを含む被覆樹脂層を形成し、露光、熱処理して得た親水被膜の、熱処理温度と、親水被膜表面の純水による静的接触角との相関を示す。図3および4から、被覆樹脂層表層の残存エーテル数の減少に応じて接触角が低下していることがわかる。なお、親水被膜表面の純水による静的接触角の測定は、接触角測定機(商品名:「FACE CA−XA150」、協和界面科学株式会社製)を用いて行った。ここで行った接触角測定方法では、20°以下は測定限界である。
【0051】
つまり、図3および4より、以下の組み合わせでは、熱処理温度160℃以上でカチオン重合性樹脂を含む被覆樹脂層表層が容易に親水化されることが示されている。その組み合わせとは、被覆樹脂層に主鎖に酸により分解可能な結合を有するカチオン重合性樹脂(1−a)と、アンチモン酸の酸強度より強い酸を発生する光酸発生剤(6−a)とを含む表2のNo.1の組み合わせである。
【0052】
次いで、図5には、図3および4のときと同様、表2記載の組み合わせで形成した親水被膜の、熱処理温度と膜厚との相関を示す。なお、熱処理前の被覆樹脂層の膜厚は20μmであった。図3および5より、被覆樹脂層表層の残存エーテル数の減少に応じて樹脂膜厚が低下していることがわかる。つまり、これは、樹脂表層のエーテル結合が分解されるだけでなく、樹脂内部のエーテル結合も分解されていることを示している。この場合、樹脂層の基板との密着性が低下するなど、樹脂層の信頼性低下が懸念される。
【0053】
以上のように、被覆樹脂層の信頼性を損ねずに表層を親水化させるためには、以下のことが求められる。即ち本発明のように、例えば式1−aから式1−iに示すような、被覆樹脂層に酸により分解可能な結合を有するカチオン重合性樹脂を用い、その上に、例えば式6−aから式6−jに示すような、酸強度の強い酸を発生する光酸発生剤Bを含む光酸発生剤層を積層する。そして、被覆樹脂層の表層のみに酸強度の強い酸を発生する光酸発生剤Bを染み込ませることが求められる。
【0054】
また、工程(4)における熱処理温度の上限であるが、工程(3)で硬化された被覆樹脂層2bの熱分解を考慮すると250℃以下が好ましい。
【0055】
【表2】

【0056】
次いで、以下にインクジェット記録ヘッドの製造方法を例示し、その工程中で、本発明の親水被膜の形成方法の一例を用いてインク吐出口を有する面(吐出口面)を容易に親水化する方法を説明する。
【0057】
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法は、
インクを吐出するエネルギーを発生させるエネルギー発生素子が形成された基板と、インクを吐出するための吐出口、および前記吐出口に連通しインクを保持するインク流路を形成し、かつ前記吐出口を有する面が親水化されたインク流路部材とを含むインクジェット記録ヘッドの製造方法である。また、以下の工程を含む。
(I)主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生する光酸発生剤Aとを含む被覆樹脂層を前記基板上に形成する工程。
(II)前記活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤Bと、この光酸発生剤Bを保持し、かつ工程(III)において除去可能な保持体とを含む光酸発生剤保持層を、前記被覆樹脂層に積層する工程。
(III)前記光酸発生剤保持層および前記被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記光酸発生剤保持層を除去し、前記被覆樹脂層を硬化させ、前記吐出口を形成する工程。
(IV)工程(III)で硬化させた被覆樹脂層を熱処理することで前記吐出口を有する面を親水化して前記インク流路部材を形成する工程。
【0058】
本発明に係る方法により製造されるインクジェット記録ヘッドの一例を図6に示す。
図6に示すインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出するためのエネルギー発生素子5を複数有する基板4上に、表層が親水化された親水被膜であるインク流路部材7d(表層は親水層7cとする)を有する。なお、インク流路部材7dは、インクを吐出するためのインク吐出口10とインク吐出口10に連通しインクを保持するインク流路6bとを形成する。また、基板4には、インクをインク流路6bに供給するインク供給口11が設けられている。また、図7は、図6のインクジェット記録ヘッドの基板4の裏面にインク供給部材12を接着したインクジェット記録ヘッドの、図6におけるA−A’断面を示した図である。
【0059】
以下、本発明の実施形態の一例を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0060】
基板4上には、図8(a)に示されているように、エネルギー発生素子5が所定のピッチで2列に複数個配置されている。なお、エネルギー発生素子5には素子を動作させるための制御信号入力電極(不図示)が接続されている。
【0061】
以下、図8(b)から(h)および、図7を用いて、説明を行う。図8(b)から(h)は、図6のA−A’断面に相当する工程断面図である。
【0062】
(工程(a1))
まず、エネルギー発生素子5が形成された基板4上に、ポジ型感光性樹脂を含むポジ型感光性樹脂層(不図示)を形成する。後述する工程(a2)のように、このポジ型感光性樹脂層を必要に応じてパターニングすることによりインク流路パターン6aを形成することができる。
【0063】
前記ポジ型感光性樹脂層に含まれるポジ型感光性樹脂としては、特に限定されるものではないが、後述する被覆樹脂層7aの露光に使用される紫外線に対する吸光度が低い材料が好ましい。また、その使用される紫外線よりも短波長の活性エネルギー線、例えば、ArFレーザーやKrFレーザー等のエキシマレーザー、DeepUV光等に感度を有する材料が好ましい。例えば、DeepUV光で露光可能なポリメチルイソプロペニルケトンなどを挙げることができる。
【0064】
前記ポジ型感光性樹脂層の形成方法としては、例えば、以下の方法が挙げることができる。まず、前記ポジ型感光性樹脂を適宜溶媒に溶解し、スピンコート法により塗布する。その後、プリベークを行うことでポジ型感光性樹脂層を形成することができる。
【0065】
前記ポジ型感光性樹脂層の厚さは、所望のインク流路の高さに応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0066】
(工程(a2))
次に、前記ポジ型感光性樹脂層をパターニングしてインク流路パターン6aを形成する(図8(b))。
【0067】
前記ポジ型感光性樹脂層をパターニングする方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。まず、前記ポジ型感光性樹脂層に対して、そのポジ型感光性樹脂を感光可能な活性エネルギー線を、マスクを介して照射し、パターン露光する。その後、前記ポジ型感光性樹脂を溶解可能な溶媒等を用いて現像し、リンス処理を行うことで、インク流路パターン6aを形成することができる。
【0068】
(工程(a3):工程(I)に対応)
次に、インク流路パターン6a及び基板4上に、カチオン重合性樹脂と光酸発生剤Aとを含む被覆樹脂層7aを形成する(図8(c))。
なお、カチオン重合性樹脂は、主鎖にエーテル結合やエステル結合といった、酸により分解可能な結合を有するものであれば何でも良く、前述の通り例えば式1−aから式1−iに示すものが挙げられる。また、光酸発生剤Aは、紫外線を含む活性エネルギー線の照射によりアンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生するものであれば何でも良く、前述の通り例えば式4−aから式4−jに示す化合物が挙げられる。
【0069】
被覆樹脂層7aの形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。即ち、前記被覆樹脂層7aの材料を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法にてインク流路パターン6aおよび、基板4上に塗布する方法である。なお、被覆樹脂層7aの材料を溶解させる溶媒には、インク流路パターン6aを溶解しない溶媒から適宜選択して使用することができる。
【0070】
被覆樹脂層7aの厚さは、樹脂層の強度を考慮してインク流路パターン6a上の厚み、(被覆樹脂層表面からインク流路パターン6aまでの距離)は3μm以上であることが好ましい。また、厚さの上限は、インク吐出口部の現像性が損なわれない範囲であれば特に制限されるものではないが、インク流路パターン6a上の厚みとして50μm以下が好ましい。
【0071】
(工程(a4):工程(II)に対応)
次に、被覆樹脂層7a上に、保持体と光酸発生剤Bとを含む光酸発生剤保持層8を積層する(図8(d))。
【0072】
光酸発生剤Bは、紫外線を含む活性エネルギー線の照射によりアンチモン酸よりも酸強度の強い酸を発生するものであれば何でも良く、前述の通り例えば式6−aから式6−jに示す化合物が挙げられる。
【0073】
また、前記光酸発生剤Bの保持体としては、光酸発生剤Bを被覆樹脂層7aの表層に保持させ得るもので、次の工程(a5)での現像処理で除去されるものであれば何でも良く、モノマーでもポリマーでも構わない。例えば、ノボラック樹脂や環化ゴムなどが挙げられる。
【0074】
光酸発生剤保持層8の形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。即ち、前記光酸発生剤保持層8を形成する材料を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法にて被覆樹脂層上に塗布する方法である。光酸発生剤保持層を形成する材料を溶解させる溶媒は、被覆樹脂層7aを溶解しない溶媒から適宜選択して使用することができる。
【0075】
光酸発生剤保持層8の厚さとしては、除去性が損なわれず、インク吐出口の形成が可能な範囲であれば特に制限されるものではないが、被覆樹脂層7a上の厚みとして3μm以下が望ましい。
【0076】
(工程(a5):工程(III)に対応)
次に、被覆樹脂層7aおよび光酸発生剤保持層8に紫外線を含む活性エネルギー線を露光し、現像することにより、光酸発生剤保持層8を除去し、前記被覆樹脂層7aを硬化させ、インク吐出口10を形成する(図8(e)、(f))。
【0077】
インク吐出口10の形成方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。まず、被覆樹脂層7aおよび光酸発生剤保持層8に対して、インク吐出口10の形状に応じたマスク9を介して活性エネルギー線としてi線を照射する。その後、加熱し、現像、リンス処理を行うことで、光酸発生剤保持層8を除去し、インク吐出口10を形成することができる。
なお、図8(f)では、硬化させた被覆樹脂層7bの表層には、光酸発生剤層8由来の光酸発生剤Bから発生した酸(不図示)が染み込んでいる。
インク吐出口10の幅は、吐出するインク液滴の大きさによって適宜設定することができる。
【0078】
(工程(a6))
次に、エッチングにより、インク供給口11を形成する。さらにインク流路パターン6aを除去することによりインク流路6bを形成する(図8(g))。
【0079】
インク流路パターン6aの除去方法としては、例えば、インク流路パターン6aを溶解可能な溶媒に基板を浸漬し、除去する方法などがある。また、必要に応じて、インク流路パターン6aを感光可能な活性エネルギー線を用いて露光して溶解性を高めてもよい。
【0080】
(工程(a7):工程(IV)に対応)
次に、熱処理により硬化させた被覆樹脂層7bの表層に親水層7cを形成する(図8(h))。
【0081】
熱処理の温度としては、硬化させた被覆樹脂層7bの表層に染み込んだ光酸発生剤保持層8由来の光酸発生剤Bから発生した酸が、硬化させた被覆樹脂層7bの表層のカチオン重合性樹脂を酸分解して極性基を生成させ、親水化させ得る温度であれば良い。その温度は前述の通り160℃以上が好ましい。
【0082】
また、前述の通り被覆樹脂層の物性を考慮すると、熱処理の温度は250℃以下が好ましい。
【0083】
なお、インク流路面の純水による静的接触角は50°以上であることが好ましい。
【0084】
ここで、インク流路面とは、インク流路部材7dのインク流路6b側の面であり、さらにこの部位の接触角は、例えばインク流路部材7dを基板4から剥がし、純水の静的接触角で測定ができる。
【0085】
その純水による接触角は、インクのリフィルが効率的に行われリフィル後のインクのメニスカス振動の安定性を考慮すると50°以上70°以下であることが好ましい。
【0086】
その後、エネルギー発生素子5を駆動させるための電気的接合を行う。さらに、インク供給のためのインク供給部材12等を接続して、インクジェット記録ヘッドが完成する(図7)。
【0087】
本発明に係るインクジェット記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。また、本発明のインクジェット記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【実施例】
【0088】
(インクジェット記録ヘッドの作製)
以下、本発明について実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0089】
(接触角評価)
接触角測定機(商品名:「FACE CA−XA150」、協和界面科学株式会社製)を用いて、実施例で作製したインクジェット記録ヘッドのインク吐出口を有する面(インク吐出口面:図8の符号13)の純水静的接触角を測定した。
【0090】
(基板密着性評価)
実施例で作製したインクジェット記録ヘッドを、下記組成のインク中に、60℃、1週間浸漬させた後のインク流路部材7dと基板4との密着性を評価した。
【0091】
(インク組成)
純水/ジエチレングリコール/イソプロピルアルコール/酢酸リチウム/黒色染料フードブラック2=79.4/15/3/0.1/2.5(質量比)。
【0092】
(実施例1)
まず、図8(a)に示すように、エネルギー発生素子としての電気熱変換素子5を形成したシリコン基板4上に、ポジ型感光性樹脂として、ポリメチルイソプロペニルケトン(商品名:「ODUR−1010」、東京応化工業株式会社製)をスピンコートにより塗布した。次いで、120℃にて6分間プリベークを行った。さらに、DeepUV露光機(商品名:「UX−3000」、ウシオ電機株式会社製)にて、インク流路パターン6aのパターン露光(露光量:14J/cm2)を行った。その後、メチルイソブチルケトンで現像し、IPA(イソプロピルアルコール)でリンス処理を行った。これにより、インク流路パターン6aを形成した(図8(b))。なお、インク流路パターン6aの膜厚は10μmであった。
【0093】
次いで、下記樹脂組成物1をメチルイソブチルケトンとジエチレングリコールモノメチルエーテルとの混合溶媒に50質量%の濃度となるように溶解した。この溶液をスピンコートにてインク流路パターン6a及びシリコン基板4上に塗布し、被覆樹脂層7aを形成した(図8c))。なお、インク流路パターン6a上における被覆樹脂層7aの膜厚(被覆樹脂層7a表面からインク流路パターン6aまでの距離)は10μmであった。
【0094】
(樹脂組成物1)
・カチオン重合性樹脂
「EHPE−3150」(商品名:ダイセル化学株式会社製、式1−aで表される化合物)
100質量部
【0095】
【化7】

【0096】
(式1−a中、l、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す)
・光酸発生剤A
式4−aで表される化合物 1.5質量部
【0097】
【化8】

【0098】
次いで、下記光酸発生剤B−1を保持体であるノボラック樹脂レジストに1質量%の濃度となるように溶解した。この溶液をスピンコートにて被覆樹脂層7a上に塗布し、光酸発生剤保持層8を形成した(図8(d))。なお、被覆樹脂層7a上における光酸発生剤保持層8の膜厚は1μmであった。
【0099】
(光酸発生剤B−1)
「GSID26−1」(商品名、チバ・ジャパン株式会社製、式6−aで表される化合物)
【0100】
【化9】

【0101】
次いで、i線ステッパー露光機(キヤノン株式会社製、i5)を用いて、インク吐出口10の形状に応じたマスク9を介して被覆樹脂層7aおよび光酸発生剤保持層8に対して露光(露光量:4000J/m2)を行った(図8(e))。
次いで、露光後ベーク(PEB)を90℃、4分間行い、さらに、メチルイソブチルケトンで現像および、IPAでリンス処理を行った。これにより、光酸発生剤保持層8を除去して、被覆樹脂層7aを硬化させ、インク吐出口10を形成した(図8(f))。硬化させた被覆樹脂層は符号7bで表す。なお、インク吐出口10はいずれもφ(直径)10μmであった。また、この時点で硬化させた被覆樹脂層7bの表層は、光酸発生剤B−1から発生した酸が染み込んだ状態であった。
【0102】
次に、この基板をTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)中にてエッチングを行い、インク供給口11を形成した。さらに、インク流路パターン6aの溶解性を高めるために、インク流路パターン6aの形成の際に用いた前記DeepUV露光装置(商品名:「UX−3000」、ウシオ電機株式会社製)にて再び露光(露光量:27J/cm2)した。その後、乳酸メチル中に超音波を付与しつつ浸漬し、残存しているインク流路パターン6aを溶出した(図8(g))。
【0103】
次いで、200℃、1時間加熱し、硬化させた被覆樹脂層7b上にカチオン重合性樹脂由来の極性基を生成させて親水化させた(図8(h))。
【0104】
最後に、インク供給口11が形成されているシリコン基板4の裏面に、インク供給部材12を接着して、インクジェット記録ヘッドを完成した(図7)。
このインクジェット記録ヘッドのインク吐出口面の接触角評価結果および、基板密着性評価結果を表3に示す。
【0105】
(実施例2)
樹脂組成物1の代わりに、下記樹脂組成物2を用いたこと以外は実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0106】
(樹脂組成物2)
・カチオン重合性樹脂
「XA8040」(商品名:ジャパンエポキシレジン株式会社製、式1−eで表される化合物) 100質量部
【0107】
【化10】

【0108】
・光酸発生剤A
式4−aで表される化合物 1.5質量部
(比較例1)
樹脂組成物1の代わりに、下記樹脂組成物3を用いたこと以外は実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0109】
(樹脂組成物3)
・カチオン重合性樹脂
「157S70」(商品名:ジャパンエポキシレジン株式会社製、式2−aで表される化合物)
100質量部
【0110】
【化11】

【0111】
(式2−a中、nは1以上の整数を表す)
・光酸発生剤A
式4−aで表される化合物 1.5質量部
(比較例2)
光酸発生剤保持層8に含まれる光酸発生剤B−1の代わりに下記光酸発生剤B−2を用いたこと以外は、実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0112】
(光酸発生剤B−2)
式4−aで表される化合物 1.5質量部
【0113】
【表3】

【0114】
表3に示した通り、実施例1と実施例2により、基板1との密着性を損なうことなくインク吐出口面が親水処理されたインク流路部材7dを有するインクジェット記録ヘッドが作製できた。
【符号の説明】
【0115】
1 基材
2a 被覆樹脂層
2b 硬化させた被覆樹脂層
2c 親水層
2d 親水被膜
3 光酸発生剤保持層
4 基板(シリコン基板)
5 エネルギー発生素子(電気熱変換素子)
6a インク流路パターン
6b インク流路
7a 被覆樹脂層
7b 硬化させた被覆樹脂層
7c 親水層
7d インク流路部材
8 光酸発生剤保持層
9 マスク
10 インク吐出口
11 インク供給口
12 インク供給部材
13 吐出口を有する面(吐出口面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が親水化された被膜である親水被膜の形成方法であって、
(1)主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生する光酸発生剤とを含む被覆樹脂層を基材上に形成する工程と、
(2)前記活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤と、この光酸発生剤を保持し、かつ工程(3)において除去可能な保持体とを含む光酸発生剤保持層を、前記被覆樹脂層に積層する工程と、
(3)前記光酸発生剤保持層および前記被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記光酸発生剤保持層を除去し、前記被覆樹脂層を硬化させる工程と、
(4)工程(3)で硬化させた被覆樹脂層を熱処理することでこの被覆樹脂層の表面を親水化して親水被膜を形成する工程と
を含むことを特徴とする親水被膜の形成方法。
【請求項2】
前記カチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合としてエーテル結合を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項3】
前記カチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合としてエステル結合を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項4】
前記アンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤が、メチド酸を発生することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項5】
前記カチオン重合性樹脂が式1−aで表される化合物であり、前記アンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生する光酸発生剤が式4−aで表される化合物である
【化1】

(式1−a中、l、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す)、
【化2】

ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項6】
前記アンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤が、式6−aで表される化合物である
【化3】

ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項7】
工程(4)において、工程(3)で硬化させた被覆樹脂層を熱処理する際の温度が160℃以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の親水被膜の形成方法により得られる親水被膜であって、
表面に前記カチオン重合性樹脂が分解して生成した極性基が存在し、表面の純水による静的接触角が20°以下であることを特徴とする親水被膜。
【請求項9】
インクを吐出するエネルギーを発生させるエネルギー発生素子が形成された基板と、
インクを吐出するための吐出口、および前記吐出口に連通しインクを保持するインク流路を形成し、かつ前記吐出口を有する面が親水化されたインク流路部材と
を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
(I)主鎖に酸により分解可能な結合を含むカチオン重合性樹脂と、紫外線を含む活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生する光酸発生剤とを含む被覆樹脂層をエネルギー発生素子が形成された基板上に形成する工程と、
(II)前記活性エネルギー線を照射することによりアンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤と、この光酸発生剤を保持し、かつ工程(III)において除去可能な保持体とを含む光酸発生剤保持層を、前記被覆樹脂層に積層する工程と、
(III)前記光酸発生剤保持層および前記被覆樹脂層に、前記活性エネルギー線を露光し現像することで、前記光酸発生剤保持層を除去し、前記被覆樹脂層を硬化させ、前記吐出口を形成する工程と、
(IV)工程(III)で硬化させた被覆樹脂層を熱処理することでこの被覆樹脂層の前記吐出口を有する面を親水化して前記インク流路部材を形成する工程と
を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記カチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合としてエーテル結合を含んでいることを特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記カチオン重合性樹脂が、主鎖に酸により分解可能な結合としてエステル結合を含んでいることを特徴とする請求項9または10に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記アンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤が、メチド酸を発生することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記カチオン重合性樹脂が式1−aで表される化合物であり、前記アンチモン酸もしくはアンチモン酸よりも酸強度が弱い酸を発生する光酸発生剤が式4−aで表される化合物である
【化4】

(式1−a中、l、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す)、
【化5】

ことを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記アンチモン酸よりも酸強度が強い酸を発生する光酸発生剤が、式6−aで表される化合物である
【化6】

ことを特徴とする請求項9〜13のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項15】
工程(IV)において、工程(III)で硬化させた被覆樹脂層を熱処理する際の温度が160℃以上であることを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法により得られるインクジェット記録ヘッドであって、
前記吐出口を有する面に前記カチオン重合性樹脂が分解して生成した極性基が存在し、前記吐出口を有する面の純水による静的接触角が20°以下であることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101162(P2012−101162A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250777(P2010−250777)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】