説明

誘電体膜キャパシタおよびその製造方法

【課題】誘電体膜キャパシタにおいて、下部電極とその下層との密着性が良く、酸化されにくく熱的に安定な電極構造を提供する。
【解決手段】誘電体膜キャパシタ20は、開口部22aを有し、白金を含む材料からなる下部電極22と、下部電極22の上方に設けられた、ABOx型ペロブスカイト構造を有する酸化物を含む誘電体膜24と、誘電体膜24の上方に設けられた上部電極26と、を含む。誘電体膜24の形成領域の面積に対する、下部電極22の平面面積の割合が50%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体膜キャパシタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば携帯電話などに代表される移動通信端末などの情報産業分野のデバイスには、今後ますます高速化、高容量化、小型化が要求され、それを実現するための高機能デバイスの研究開発が広範囲で精力的に進められている。その中でも、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛に代表されるABOx型(ペロブスカイト型)結晶構造を有する誘電体材料は、キャパシタやメモリ材料などの電子デバイス分野で広く利用されている。
【0003】
しかしながら、これらの電子デバイスのさらなる小型化、高性能化のためには、素子の薄膜化が不可欠であり、そのためには、高機能かつ高品質の誘電体膜キャパシタの製造技術の確立が鍵となっている。
【0004】
誘電体膜キャパシタは、一般に、基板、絶縁層、下部電極、誘電体膜、および上部電極が順に積層された構造を有する。誘電体膜キャパシタは、スパッタリング、CVD法(化学気相成長法)、MBE法(分子線エピタキシ法)、ゾルゲル法、MOD法(有機金属分解法)などによって成膜可能である。中でも、製造コストの低さ、組成制御および形状付与の容易さ、ならびに高価な装置を必要としない点で、液相法に期待が寄せられている。
【0005】
誘電体膜を気相法で成膜する場合、一般に、成膜した誘電体膜を酸化雰囲気中で熱処理することにより、誘電体膜の誘電特性を向上させる必要がある。また、誘電体膜を液相法で成膜する場合、一般に、誘電体膜の原料である有機化合物を有機溶媒中に溶解させたゾルゲル溶液、あるいは誘電体材料粒子を分散させた溶液を塗布して得られた塗膜を、酸化雰囲気中で熱処理する必要がある。このため、下部電極には酸化しにくい貴金属が用いられる。具体的には、下部電極の材料として、白金(Pt)をベースとする材料が多く用いられる。
【0006】
シリコンウエハ上に誘電体膜キャパシタを作成する場合、例えば、シリコンウエハ上に形成されたシリコン系絶縁層(例えば酸化シリコン層)上に、下部電極(例えばPt膜)を形成する。しかしながら、シリコン系絶縁層と下部電極(特にPt膜)とは密着性が悪いため、シリコン系絶縁層から下部電極が容易に剥離する。この下部電極の剥離によって、パターニング、ダイシングカットなどの手法を用いて誘電体膜キャパシタを製造することが非常に困難になる。これを解決するため、シリコン系絶縁層と下部電極との密着性を高める試みとして、シリコン系絶縁層と下部電極との間に密着層を作成する方法が報告されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、酸化シリコン層と貴金属電極膜との間に密着層としてチタン(Ti)膜を作成することにより、酸化シリコン層と貴金属電極膜との密着性の改善を試みている。しかしながら、このTi膜の酸化によって基板に反りが生じたり、Ti膜の酸化により生じた酸化物が貴金属電極膜と誘電体膜との界面に拡散したりする場合がある。
【0008】
例えば、特許文献2では、酸化シリコン層と白金電極膜との間に密着層として金(Au)膜を作成して、白金電極膜の応力を緩和することにより、酸化シリコン層と白金電極膜との密着性の改善を試みている。しかしながら、多層の貴金属薄膜の作成は、実デバイス製造の際にコストの点で不利である。また、Au膜と酸化シリコン層との密着性は良好とは言えず、密着性が改善されているとは言い難い。
【0009】
例えば、特許文献3,4では、酸化シリコン層と白金電極膜との間に密着層として誘電体膜と同一の材料を利用した密着層を形成し、膜の応力を緩和することにより、酸化シリコン層と白金電極膜との密着性の改善を試みている。この方法によれば、密着層と誘電体層とが同一材料なので、密着層が下部電極と誘電体膜との界面に拡散しても特性の劣化を招かない。しかしながら、密着層として機能し得る誘電体材料を選択する必要があるため、誘電体膜として使用可能な材料組成が限定されてしまい、誘電体膜キャパシタの特性上好ましくない。
【特許文献1】特開平8−78636号公報
【特許文献2】特開2004−349394号公報
【特許文献3】特開2005−85812号公報
【特許文献4】特開2005−101531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、下部電極と、この下部電極の下に設けられた層との密着性を改善でき、酸化されにくく熱的に安定な電極構造を提供でき、歩留まりが良好で、かつ特性の優れた誘電体膜キャパシタおよびその製造方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、上記本発明の誘電体膜キャパシタを含む電子回路部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1.本発明の誘電体膜キャパシタは、
開口部を有し、白金を含む材料からなる下部電極と、
前記下部電極の上方に設けられた、ABOx型結晶構造を有する酸化物を含む誘電体膜と、
前記誘電体膜の上方に設けられた上部電極と、
を含み、
前記誘電体膜の形成領域の面積に対する、前記下部電極の平面面積の割合が50%以上である。
【0013】
ここで、「平面」とは、前記下部電極、前記誘電体膜、および前記上部電極の積層方向と垂直な平面をいい、「平面面積」とは、前記垂直な平面における面積をいう。また、「誘電体膜の形成領域」とは、前記平面において前記誘電体膜が最大の面積を占める領域(例えば、前記誘電体膜の上面)をいう。
【0014】
ここで、上記本発明の誘電体膜キャパシタにおいて、前記ABOx型結晶構造を有する酸化物において、金属種AはLi,Na,Ca,Sr,Ba,およびLaから選ばれる1種以上の金属であり、かつ、金属種BはTi,Zr,Ta,およびNbから選ばれる1種以上の金属であることができる。
【0015】
ここで、上記本発明の誘電体膜キャパシタにおいて、前記下部電極は、シリコン系絶縁層の上に設けられていることができる。
【0016】
この場合、前記シリコン系絶縁層の膜厚は100〜2000nmであることができる。
【0017】
また、この場合、前記シリコン系絶縁層は、1010Ωcm以上の体積抵抗率を有することができる。
【0018】
さらに、この場合、前記シリコン系絶縁層と前記下部電極との間に金属とシリコンが混在する中間層が形成されていることができる。
【0019】
加えて、この場合、前記シリコン系絶縁層が酸化シリコンであることができる。
【0020】
2.本発明の誘電体膜キャパシタの製造方法は、
(a)開口部を有し、白金を含む材料からなる下部電極を形成する工程と、
(b)前記下部電極の上に、ABOx型結晶構造を有する酸化物を含む誘電体膜を直接形成する工程と、
(c)前記誘電体膜の上方に、上部電極を形成する工程と、
を含み、
前記工程(a)は、前記誘電体膜の形成領域の面積に対する、前記下部電極の平面面積の割合が50%以上になるように、前記下部電極をパターニングする工程を含む。
【0021】
ここで、上記本発明の誘電体膜キャパシタの製造方法において、前記工程(b)は、誘電体膜形成用組成物の塗布によって前記誘電体膜を形成する工程を含むことができる。
【0022】
この場合、前記誘電体膜形成用組成物は、(i)ABOx型結晶構造を有する粒子、(ii)金属種Aおよび金属種Bを含む金属アルコキシド、金属カルボキシレート、金属錯体、および金属水酸化物の群から選ばれる少なくとも1種、の成分のうち(i)および(ii)もしくはいずれか一方と(iii)有機溶媒とを含み、前記金属種Aは、Li,Na,Ca,Sr,Ba,およびLaから選ばれる1種以上の金属であり、前記金属種Bは、Ti,Zr,Ta,およびNbから選ばれる1種以上の金属であることができる。
【0023】
ここで、上記本発明の誘電体膜キャパシタの製造方法において、前記工程(a)は、リフトオフ法、あるいはイオンミリング法を用いたパターニングによって前記下部電極を形成する工程を含むことができる。
【0024】
3.本発明の電子回路部品は、上記本発明の誘電体膜キャパシタを含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明の誘電体膜キャパシタによれば、前記誘電体膜の形成領域の面積に対する、前記下部電極の平面面積の割合が50%以上であることにより、前記下部電極と、該下部電極の下に設けられた層との密着性が改善され、酸化されにくく熱的に安定な電極構造が提供でき、歩留まりが良好で、かつ特性が優れている。
【0026】
本発明の誘電体膜キャパシタの製造方法によれば、上記本発明の誘電体膜キャパシタを効率良く得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本実施の形態の誘電体膜キャパシタおよびその製造方法、ならびに電子回路部品について詳細に説明する。
【0028】
1.誘電体膜キャパシタ
図1(F)は、本発明の一実施の形態の誘電体膜キャパシタ20を模式的に示す断面図であり、図2は、図1(F)の誘電体膜キャパシタ20における下部電極22の平面パターンを模式的に示す平面図である。
【0029】
本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20は、下部電極22と、下部電極22の上方に設けられた誘電体膜24と、誘電体膜24の上方に設けられた上部電極26とを含む。下部電極22は図1(F)に示すように、開口部22aを有する。すなわち、下部電極22は、複数の分離された部分(図2における部分Y〜Y12)からなり、この分離された部分の隙間が開口部22aである。誘電体膜24は、ABOx型結晶構造を有する酸化物を含む。
【0030】
本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20は、例えば、インターポーザーに内蔵される薄膜コンデンサとして使用することができる。
【0031】
本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20は、例えば、強誘電体メモリ装置(図示せず)の強誘電体膜キャパシタとして使用することができる。この場合、誘電体膜キャパシタ20の誘電体膜24には、情報としての電荷がため込まれる。また、この場合、強誘電体メモリ装置は、誘電体膜キャパシタ20とともに、薄膜トランジスタ(TFT)、MOSFETなどのトランジスタ(図示せず)を含む。
【0032】
下部電極22は、白金を含む材料からなり、好ましくは、白金、または白金と白金以外の金属(例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、およびイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属)との合金からなる。また、下部電極22は、単層膜でもよいし、または積層した多層膜でもよい。
【0033】
誘電体膜24を構成するABOx型結晶構造を有する酸化物においては、金属種AはLi,Na,Ca,Sr,Ba,およびLaから選ばれる1種以上の金属であることができ、金属種BはTi,Zr,Ta,およびNbから選ばれる1種以上の金属であることができる。例えば、誘電体膜24は、(Pb(Zr,Ti)O)(PZT)、SrBiTa(SBT)、(Bi,La)Ti12(BLT)からなることができる。
【0034】
上部電極26は、下部電極22に使用可能な材料として例示した上記材料で形成されてもよく、あるいは、アルミニウム,銀,ニッケルなどから形成されていてもよい。また、上部電極26は、単層膜でもよいし、または積層した多層膜でもよい。
【0035】
本実施の形態においては、下部電極22は、絶縁層12の上に設けられている。この絶縁層12は例えば、シリコン系絶縁層であることができる。シリコン系絶縁層は、ケイ素を含む絶縁層であり、その膜厚は100〜2000nmであることが好ましく、100〜500nmであることがより好ましい。ここで、シリコン系絶縁層の膜厚が100nm未満であるとリーク電流が大きく、一方、シリコン系絶縁層の膜厚が2000nmを超えると、基板にかかる応力が強くなる。
【0036】
また、シリコン系絶縁層は、1010Ωcm以上の体積抵抗率を有することが好ましく、
1012Ωcm以上の体積抵抗率を有することがより好ましい。シリコン系絶縁層の体積抵抗率が1010Ωcm未満であると、リーク電流が大きくなる。
【0037】
シリコン系絶縁層としては、例えば、酸化シリコン層、窒化シリコン層、酸化窒化シリコン層、シリコン系Low−k膜が挙げられる。なお、図示しないが、下部電極22の下部にコンタクト層が設けられていてもよい。
【0038】
また、絶縁層12がシリコン系絶縁層の場合、シリコン系絶縁層と下部電極22との間に、金属とシリコンが混在する中間層(図示せず)が形成されていてもよい。この金属とシリコンが混在する中間層は、下部電極22を構成する金属と、シリコン系絶縁層を構成するケイ素原子との反応により形成される。シリコン系絶縁層と下部電極22との間に前記中間層が形成されていることにより、下部電極22とシリコン系絶縁層との間の密着性を高めることができる。
【0039】
例えば、下部電極22が白金を含む材料からなる場合、シリコン系絶縁層と下部電極22との間には、白金とシリコンが混在する中間層が形成される。特に、下部電極22が白金を含む材料からなる場合、下部電極22とシリコン系絶縁層との密着性が悪く、下部電極22がシリコン系絶縁層から剥離する場合がある。この場合において、本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20によれば、シリコン系絶縁層(絶縁層12)と、白金を含む材料からなる電極(下部電極22)とが、白金とシリコンが混在する中間層を介して配置されていることにより、シリコン系絶縁層(絶縁層12)と下部電極22との間の密着性を良好にすることができる。
【0040】
本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20においては、領域Xは、誘電体膜24の形成領域である。この領域Xは、誘電体膜24の上面24b(図1(F)参照)に相当する。ここで、領域Xはまた、上部電極26の平面パターンに相当する。
【0041】
図2では、領域Xはドットで示され、領域Xの外縁Aは太線で表され、部分Y〜Y12はそれぞれ斜線で示されている。
【0042】
なお、図2においては、下部電極22を構成する複数の分離された部分Y〜Y12が格子状に配列している場合を示したが、複数の分離された部分の配列パターンおよび大きさはこれに限定されない。
【0043】
図2に示すように、この誘電体膜キャパシタ20においては、誘電体膜24の形成領域Xの面積に対する、下部電極22の平面面積(複数の分離された部分Y〜Y12の平面面積の合計)の割合が50%以上であることが好ましい。上記割合が50%以上であることにより、下部電極22の電極としての機能を確保しつつ、下部電極22とその下部にある層との密着性を高めることができる。一方、上記割合が50%未満である場合、下部電極22の電極としての機能が低下することがある。
【0044】
本発明の誘電体膜キャパシタによれば、誘電体膜24の形成領域Xの面積に対する、下部電極22の平面面積の割合が50%以上であることにより、下部電極22と、下部電極22の下に設けられた層(図1(F)では絶縁層12)との密着性が改善され、酸化されにくく熱的に安定な電極構造が提供でき、歩留まりが良好で、かつ特性が優れている。これにより、例えば、下部電極22上に形成された誘電体膜24および上部電極26をパターニングする際に、下部電極22の剥離を防止することができる。
【0045】
特に、下部電極22がPtを含む材料からなり、下部電極22の下に設けられた層がシリコン系絶縁層である場合、下部電極22とシリコン系絶縁層との密着性を良好に改善することができ、下部電極22の剥離を防止することができる。
【0046】
2.誘電体膜キャパシタの製造方法
次に、図1(A)〜図1(F)を参照して、本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20の製造方法について説明する。図1(A)〜図1(F)は、本発明の一実施の形態の誘電体膜キャパシタ20の一製造工程を模式的に示す断面図である。
【0047】
本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20の製造方法は、(a)開口部22aを有し、白金を含む材料からなる下部電極22を形成する工程と、(b)下部電極22の上に、ABOx型結晶構造を有する酸化物を含む誘電体膜24を直接形成する工程と、(c)誘電体膜24の上方に、上部電極26を形成する工程と、を含む。ここで、工程(a)は、誘電体膜24の形成領域Xの面積に対する、下部電極22の平面面積の割合が50%以上であるように、下部電極22をパターニングする工程を含む(図2参照)。
【0048】
以下、本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20の各製造工程について説明する。
【0049】
2.1.下部電極22の形成
まず、図1(A)に示すように、基板10を準備する。基板10は例えば、シリコン基板、SOI基板、サファイア基板、化合物半導体基板などの半導体基板であることができる。
【0050】
次に、図1(B)に示すように、基板10の上に絶縁層12を形成する。絶縁層12の材料としては、「誘電体膜キャパシタ」の欄で例示したものを使用することができる。また、絶縁層12は、公知の方法(例えば、CVD法、熱酸化法、スピンコート法)を用いて形成することができる。
【0051】
次いで、図1(C)に示すように、絶縁層12の上に下部電極22を形成する。下部電極22の成膜方法は特に限定されないが、例えばスパッタ法を用いて形成することができる。また、下部電極22を形成するための導電層(図示せず)を成膜した後、この導電層をパターニングすることにより、下部電極22を形成する。
【0052】
下部電極22のパターニングは、例えばリフトオフ法、あるいはイオンミリング法を用いたパターニングによって行なうことができる。これにより、開口部22aを有し、複数の分離された部分Y〜Y12からなる下部電極22を形成することができる(図2参照)。
【0053】
2.2.誘電体膜24aの成膜
次いで、図1(D)に示すように、下部電極22上に誘電体膜24aを直接形成する。この誘電体膜24aは後述する工程にてパターニングされて、所定のパターンの誘電体膜24が形成される(図1(F)参照)。誘電体膜24aは、例えば、スパッタリング、CVD法(化学気相成長法)、MBE法(分子線エピタキシ法)、ゾルゲル法、MOD法(有機金属分解法)などによって成膜可能である。また、誘電体膜24aは、製造コストの観点や組成制御と形状付与の容易さから、高価な装置を必要としない液相法で成膜することが好ましい。液相法で誘電体膜24aを成膜する場合、誘電体膜24aは、誘電体膜形成用組成物の塗布により形成することができる。
【0054】
本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20においては、下部電極22が開口部22aを含む。このため、誘電体膜形成用組成物の塗布によって誘電体膜24aを形成することにより、下部電極22の開口部22aにこの組成物を流し込むことができるため、開口部22a内に誘電体膜24aを確実に埋め込むことができる。
【0055】
本実施の形態の誘電体膜形成用組成物は、(i)ABOx型結晶構造を有する粒子、(ii)金属種Aおよび金属種Bを含む金属アルコキシド、金属カルボキシレート、金属錯体、および金属水酸化物の群から選ばれる少なくとも1種、の成分のうち(i)および(ii)もしくはいずれか一方と(iii)有機溶媒とを、含む組成物であることができる。
【0056】
本実施の形態の誘電体膜形成用組成物に含まれる(i)ABOx型結晶構造の酸化物粒子の濃度は、20〜3wt%、好ましくは15〜5wt%である。
【0057】
ここで、金属種Aおよび金属種Bの具体例については、上述の「誘電体膜キャパシタ」の欄で説明したとおりである。
【0058】
また、本実施の形態の誘電体組形成用組成物に含まれる(iii)有機溶媒は、例えば、アルコール系溶媒、多価アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒等を挙げることができる。
【0059】
本実施の形態の誘電体膜形成用組成物を下部電極22上に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を必要に応じて乾燥すること、好ましくはさらに加熱焼成することにより、誘電体膜24aを得ることができる。
【0060】
本実施の形態の誘電体膜形成用組成物の塗布方法としては、例えば、オープンスピン塗布法、密閉スピン塗布法、ミスト化塗布のLSM−CVD法(溶液気化化学気相堆積法)、ディッピング法、スプレー法、ロールコート法、印刷法、インクジェット法、電気泳動電着法等の公知の塗布法を用いることができる。
【0061】
塗膜の乾燥は、通常50〜300℃、好ましくは100〜250℃の温度で行なう。また、誘電体膜形成用組成物の塗布、ならびに必要に応じて乾燥までの一連の操作を数回繰り返して行なうことにより、最終的に得られる誘電体膜24aを所望の膜厚に設定することができる。その後、この塗膜を、通常300〜900℃、好ましくは400〜750℃の温度で加熱して焼成することにより、誘電体膜24aを得ることができる。
【0062】
2.3.上部電極26の形成
次に、図1(E)に示すように、誘電体膜24aの上に導電層26aを形成する。この導電層26aは後述する工程にてパターニングされて、所定のパターンの上部電極26が形成される(図1(F)参照)。導電層26aの形成方法は、誘電体膜24aに無視できないダメージを与えない方法であれば特に限定されないが、例えば蒸着法、スパッタリング法を用いることができる。
【0063】
次いで、図1(E)に示すように、例えばフォトリソグラフィ法により、レジスト層Rを導電層26a上に形成する。本実施の形態においては、このレジストRは、所望の誘電体膜24の形成領域Xに対応する平面形状および大きさを有する。このレジストRをマスクとして、誘電体膜24aおよび導電層26aをパターニングする。これにより、誘電体膜24および上部電極26が形成される。
【0064】
ここで、誘電体膜24aおよび導電層26aのパターニングは、ウエットエッチングやドライエッチングなどの公知の方法を用いることができる。
【0065】
上記工程により、本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20を得ることができる。
【0066】
3.電子回路部品
本実施の形態の電子回路部品は、本実施の形態の誘電体膜キャパシタ20を含む。本実施の形態の電子回路部品の用途は特に限定されないが、移動通信端末(例えば、例えば携帯電話)、情報処理装置、アミューズメント機器などの電子機器に使用可能である。
【0067】
4.実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
4.1.誘電体膜形成用組成物の調製
まず、本実施例の誘電体膜キャパシタを形成するのに使用する誘電体膜形成用組成物を調製した。
【0069】
エチレングリコールモノメチルエーテル609.04gに、Ti(OCH(CHを113.71g加え、25℃で30分間攪拌した。その後、Ba(OH)・HOを77.33g加えて溶解し、80℃で2時間加熱した。その後、不溶分を孔径0.2μmのテフロン(登録商標)フィルターでろ過し、除去した。
【0070】
上記反応液620.00gを0℃に冷却して、Baの30倍モル相当の水167.40gを添加し、激しく攪拌し、加水分解・縮合物を得た。その後、生成した加水分解・縮合物を60℃で3時間静置して結晶化させた。
【0071】
結晶化後、デカンテーションによって結晶粒子と上澄溶液とを分離し、エチレングリコールモノメチルエーテルを600g添加し、再度60℃で静置して3時間放置した。この操作を4回繰り返した。
【0072】
結晶粒子と上澄溶液とを分離した後、BaTiO換算した場合の固形分濃度が10重量%になるようにエチレングリコールモノメチルエーテルを加え、さらに分散剤としてエチレンジアミンのポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン縮合物を粒子重量100に対して0.1重量添加し、超音波分散機で結晶粒子を分散させた。このようにして、(i)成分であるABOx型の結晶構造を含む本実施例にかかる誘電体膜形成用組成物(1)を得た。
【0073】
得られた誘電体膜形成用組成物(1)に含まれるABOx型の結晶構造を有する粒子の粒子径分布を、動的光散乱式粒径分布測定装置(型名「LB−500」,堀場製作所(株)製)を用いて動的散乱法にて測定した結果を図3に示す。図3によれば、この粒子分散液に含まれる粒子は、40nmを主体とする粒子分布(平均粒子径約40nm)であることがわかる。なお、この誘電体膜形成用組成物(1)は容易に孔径200nmのフィルターで濾過し、粗大粒子を除去することが可能であった。
【0074】
また、本実施例のABOx型の結晶構造を有する粒子((i)成分)の結晶構造を、X線解析により確認した。得られたABOx型の結晶構造を有する粒子分散液をガラス板へ滴下し、室温で乾燥させたものをX線回折装置(型名「MXP18A」,株式会社マックサイエンス製)で測定したX線回折チャートを図4に示す。図4によれば、ABOx型の結晶構造を有する誘電体膜形成用組成物(1)中の粒子が、BaTiO複合酸化物のABOx型の結晶構造になっていることが判断できる。
【0075】
4.2.誘電体膜キャパシタ20の形成
4.2.1.下部電極22の形成
まず、図1(A)に示すように、単結晶シリコンからなる基板10を準備する。次に、図1(B)に示すように、熱酸化法により、基板10の上に、膜厚0.1μmの絶縁層(酸化シリコン層)12を形成する。
【0076】
次いで、図1(C)に示すように、絶縁層12の上に、レジストパターンを形成し、その上に膜厚30nmのPt膜をスパッタ法で成膜したのち、レジストパターンを溶解、除去して、Ptからなる下部電極22を形成した。
【0077】
本実施例においては、誘電体膜24の形成領域Xの面積に対して、下部電極22の平面面積(部分Y〜Y12の平面面積の合計)の割合が50%であった(図2参照)。
【0078】
4.2.2.誘電体膜24の形成
次いで、図1(D)に示すように、下部電極22の上に誘電体膜24aを形成した。本実施例では、誘電体膜24aを液相法で成膜する例を示す。
【0079】
密着性が良好で、表面粗さが良好な膜厚50nmのPtからなる下部電極22上に、誘電体膜形成用組成物(1)を、スピンコータを用いて300rpmで5秒間、続いて3000rpmで15秒間回転塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を250℃で1分間乾燥させ、次いで、750℃で60分間この塗膜を加熱して焼成した。この操作を2回行ない、膜厚242nmの誘電体膜24aを作製した。
【0080】
4.2.3.上部電極26の形成
次いで、図1(E)に示すように、誘電体膜24a上に、スパッタ法により、膜厚50nmの導電層(Ni膜)26aを成膜した。次いで、フォトリソグラフィ法により、導電層26a上にレジスト層Rを形成した。このレジスト層Rは、形成する誘電体膜24に対応する平面形状および平面面積を有する。その後、レジストRをマスクとして、誘電体膜24aおよび導電層26aをともにウエットエッチングすることにより、誘電体膜24を形成するとともに、平面面積が100mmであり、膜厚200nmの上部電極26を形成した(図1(F)参照)。以上の工程により、本実施例の誘電体膜キャパシタ20を得た。
【0081】
4.3.誘電体膜キャパシタ20の電気特性評価
本実施例で得られた誘電体膜キャパシタ20の比誘電率、誘電損失およびリーク電流を測定した。比誘電率および誘電損失は、プレシジョンLCRメータHP4284A(横河ヒューレットパッカード株式会社製)を用いて測定し、リーク電流は,エレクトロメータ6517A(ケースレーインスツルメンツ株式会社製)で測定した。その結果、測定周波数100kHzにおいて、比誘電率183、誘電損失0.04であり、リーク電流は0.2MV/cmにおいて1.10×10−7(A/cm)であった。
【0082】
上記測定結果から明らかであるように、Ptからなる下部電極22上に、誘電体膜形成用組成物を塗布することにより誘電体膜24aを形成し、次いで、この誘電体膜24a上に導電層26aを形成した後、ウエットエッチングにより誘電体膜24aおよび導電層26aをパターニングして、誘電体膜24および上部電極26を形成することにより、良好な電気特性を示す誘電体膜キャパシタ20を作成することができた。
【0083】
4.4.比較例
本実施例の誘電体膜キャパシタの製造工程において、Ptからなる下部電極をパターニングせずに形成した。すなわち、本比較例の下部電極は開口部を有しておらず、誘電体膜24および上部電極26と同じ平面形状および大きさを有する。次いで、この下部電極上に、上記実施例と同様に誘電体膜24aを成膜した。次いで、導電層26aを形成した後、ウエットエッチングにより誘電体膜24および導電層26aをパターニングしたところ、下部電極が剥離してしまい、誘電体膜キャパシタを作成することができなかった。
【0084】
本比較例によれば、下部電極が開口部を有していない(この場合、誘電体膜24aの形成領域の面積に対する、下部電極22の平面面積の割合がほぼ100%である)ので、下部電極とその下の層との密着性が悪いため、下部電極が剥離したと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1(A)〜図1(F)は、本発明の一実施の形態の誘電体膜キャパシタ20の一製造工程を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態の誘電体膜キャパシタ20における下部電極22の平面形状を模式的に示す平面図である。
【図3】図3は、実施例1にて得られた、ABOx型の結晶構造を有する酸化物粒子の分散液中の粒子((i)成分)の粒子径分布を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1で得られた誘電体膜形成用組成物(1)の乾燥物のX線回折の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
10…基板
12…絶縁層
20…誘電体膜キャパシタ
22…下部電極
22a…開口部
24,24a…誘電体膜
24b…誘電体膜の上面
26…上部電極
26a…導電層
A…領域Xの外縁
R…レジスト層
X…誘電体膜の形成領域(誘電体膜24の上面24b)
〜Y12…分離された部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有し、白金を含む材料からなる下部電極と、
前記下部電極の上方に設けられた、ABOx型結晶構造を有する酸化物を含む誘電体膜と、
前記誘電体膜の上方に設けられた上部電極と、
を含み、
前記誘電体膜の形成領域の面積に対して、前記下部電極の平面面積の割合が50%以上である、誘電体膜キャパシタ。
【請求項2】
請求項1において、
前記ABOx型結晶構造を有する酸化物において、金属種AはLi,Na,Ca,Sr,Ba,およびLaから選ばれる1種以上の金属であり、かつ、金属種BはTi,Zr,Ta,およびNbから選ばれる1種以上の金属である、誘電体膜キャパシタ。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記下部電極は、シリコン系絶縁層の上に設けられた、誘電体膜キャパシタ。
【請求項4】
請求項3において、
前記シリコン系絶縁層の膜厚は、100〜2000nmである、誘電体膜キャパシタ。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記シリコン系絶縁層は、1010Ωcm以上の体積抵抗率を有する、誘電体膜キャパシタ。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれかにおいて、
前記シリコン系絶縁層と前記下部電極との間に金属とシリコンが混在する中間層が形成されている、誘電体膜キャパシタ。
【請求項7】
請求項3ないし6のいずれかにおいて、
前記シリコン系絶縁層が酸化シリコン層である、誘電体膜キャパシタ。
【請求項8】
(a)開口部を有し、白金を含む材料からなる下部電極を形成する工程と、
(b)前記下部電極の上に、ABOx型結晶構造を有する酸化物を含む誘電体膜を直接形成する工程と、
(c)前記誘電体膜の上方に、上部電極を形成する工程と、
を含み、
前記工程(a)は、前記誘電体膜の形成領域の面積に対する、前記下部電極の平面面積の割合が50%以上になるように、前記下部電極をパターニングする工程を含む、誘電体膜キャパシタの製造方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記工程(b)は、誘電体膜形成用組成物の塗布によって前記誘電体膜を形成する工程を含む、誘電体膜キャパシタの製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記誘電体膜形成用組成物は、(i)ABOx型結晶構造を有する粒子、(ii)金属種Aおよび金属種Bを含む金属アルコキシド、金属カルボキシレート、金属錯体、および金属水酸化物の群から選ばれる少なくとも1種、の成分のうち(i)および(ii)もしくはいずれか一方と(iii)有機溶媒とを含み、
前記金属種Aは、Li,Na,Ca,Sr,Ba,およびLaから選ばれる1種以上の金属であり、
前記金属種Bは、Ti,Zr,Ta,およびNbから選ばれる1種以上の金属である、誘電体膜キャパシタの製造方法。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、リフトオフ法、あるいはイオンミリング法を用いたパターニングによって前記下部電極を形成する工程を含む、誘電体膜キャパシタの製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし7のいずれかに記載の誘電体膜キャパシタを含む、電子回路部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−59582(P2007−59582A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242472(P2005−242472)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(502128800)株式会社オクテック (83)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】