説明

走行車両

【課題】本発明の課題は、車体を大型化させずに車体内のスペースを拡大することができると共に、車輪の操舵に要する力の増大を抑えることができる走行車両を提供することにある。
【解決手段】走行車両において、第1ハウジング部17は、車輪12内に配置される。第2ハウジング部18は、第1ハウジング部17の車幅方向における内方に配置され、第1ハウジング部17の外径よりも小さな外径を有する。モータ部14は、第1ハウジング部17内に配置される。ブレーキ装置15は、モータ部14の外径よりも小さな外径を有する。ブレーキ装置15は、第2ハウジング部18内においてモータ部14の車幅方向における内方に配置される。サスペンション装置6は、第2ハウジング部18の径方向における外方に配置される支持部61を有する。サスペンション装置6は、支持部61においてモータハウジング13を支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行車両に関する。
【背景技術】
【0002】
走行車両は、車体とエンジンと動力伝達機構と四輪以上の複数の車輪とを備えている。エンジンで発生した駆動力は、動力伝達機構を介して車輪に伝達される。これにより、車輪が回転駆動され、走行車両が走行する。動力伝達機構は、例えばトランスミッション、ドライブシャフト、デファレンシャルギアなどを有しており、車体内に配置される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−312393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような動力伝達機構は、車体において大きな設置スペースを占めるため、車体内のスペースを狭めてしまう。このため、動力伝達機構は、車両が大型化する要因となる。例えば、特許文献1に開示されている走行車両では、デファレンシャルギアが車両下部に配置されている。このため、車両下部の地上高を大きく確保するためには、車高を高くするか、或いは、車高を高くせずに車体内のスペースを狭める必要がある。
【0005】
そこで、本願発明者は、インホイールモータを備える走行車両を案出した。インホイールモータは、車輪内に配置され、上記のような動力伝達機構を介さずに直接的に車輪を駆動する。このため、走行車両において、上記のような動力伝達機構を車体内に配置する必要がない。これにより、車体を大型化させずに車体内のスペースを拡大することができる。
【0006】
一方、走行車両は、車輪を支持するサスペンション装置を有している。例えば、上述した特許文献1に開示されている走行車両は、いわゆるダブルウィシュボン型のサスペンション装置を備えている。このサスペンション装置は、ナックルとアッパアームとロアアームとを有している。ナックルは車輪を回転可能に支持する。アッパアームとロアアームとはそれぞれボールジョイントからなる支持部を介してナックルを支持している。このような走行車両にインホイールモータが搭載されると、インホイールモータが車輪内に配置されるため、サスペンション装置の支持部を車輪の近くに配置することが困難になる。しかし、支持部が車輪から遠ざかるほど、車輪の操舵に要する力が大きくなってしまう。
【0007】
本発明の課題は、車体を大型化させずに車体内のスペースを拡大することができると共に、車輪の操舵に要する力の増大を抑えることができる走行車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る走行車両は、車輪と、モータハウジングと、モータ部と、多板式のブレーキ装置と、サスペンション装置とを備える。モータハウジングは、第1ハウジング部と第2ハウジング部とを有する。第1ハウジング部は、車輪内に配置される。第2ハウジング部は、第1ハウジング部の車幅方向における内方に配置され、第1ハウジング部の外径よりも小さな外径を有する。モータ部は、ロータとステータとを有し、第1ハウジング部内に配置される。ステータは、ロータの径方向における内方または径方向における外方に配置される。ブレーキ装置は、モータ部の外径よりも小さな外径を有する。ブレーキ装置は、第2ハウジング部内においてモータ部の車幅方向における内方に配置される。サスペンション装置は、第2ハウジング部の径方向における外方に配置される支持部を有する。サスペンション装置は、支持部においてモータハウジングを支持する。
【0009】
本発明の第2の態様に係る走行車両は、第1の態様の走行車両であって、サスペンション装置は、アッパアームとロアアームとをさらに有する。支持部は、上連結部と下連結部とを有する。上連結部は、アッパアームとモータハウジングとを連結する。下連結部は、ロアアームとモータハウジングとを連結する。そして、上連結部と下連結部との少なくとも一方が、ブレーキ装置と上下方向に重なるように配置される。
【0010】
本発明の第3の態様に係る走行車両は、第1の態様の走行車両であって、サスペンション装置は、アッパアームとロアアームとをさらに有する。支持部は、上連結部と下連結部とを有する。上連結部は、アッパアームとモータハウジングとを連結する。下連結部は、ロアアームとモータハウジングとを連結する。そして、下連結部の少なくとも一部が、第1ハウジング部の底部よりも上方に位置する。
【0011】
本発明の第4の態様に係る走行車両は、第1から第3の態様のいずれかの走行車両であって、モータ部に接続される電気配線をさらに有する。電気配線は、第2ハウジング部と支持部との間を通るように配置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の態様に係る走行車両では、モータ部が、第1ハウジング内に配置され、第1ハウジングは、車輪内に配置される。従って、車体内に動力伝達機構を配置する必要がない。これにより、車体を大型化させずに車体内のスペースを拡大することができる。また、サスペンション装置の支持部は、第2ハウジング部の径方向における外方に配置される。また、第2ハウジング部の外径は第1ハウジング部の外径よりも小さい。従って、支持部が第1ハウジング部の径方向における外方に配置される場合と比べて、径方向において車輪の中心軸線に近い位置に支持部を配置することができる。このため、支持部が車輪に干渉し難くなり、支持部を車輪に近接して配置することができる。これにより、車輪の操舵に要する力の増大を抑えることができる。さらに、第2ハウジング部内にはブレーキ装置が配置されるため、第2ハウジング部の外径が小さくなっても、モータ部の外径を小さくする必要はない。このため、モータ部の駆動トルクの低下を抑えることができる。また、ブレーキ装置が多板式であることにより、ブレーキ装置の外径が小さくなっても十分な制動力を確保することができる。
【0013】
本発明の第2の態様に係る走行車両では、サスペンション装置の上連結部と下連結部との少なくとも一方が、ブレーキ装置と上下方向に重なるように配置される。すなわち、サスペンション装置の上連結部と下連結部との少なくとも一方が、車輪に近接した位置に配置される。これにより、車輪の操舵に要する力の増大を抑えることができる。
【0014】
本発明の第3の態様に係る走行車両では、サスペンション装置の下連結部の少なくとも一部が、第1ハウジング部の底部よりも上方に位置する。このため、下連結部の地上高を高くすることができる。従って、例えば走行車両が段差を乗り越える際に、サスペンション装置の下連結部が段差に接触することが抑えられる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る走行車両では、モータ部に接続される電気配線が、第2ハウジング部と支持部との間を通るように配置される。第2ハウジング部は、第1ハウジング部の外径よりも小さな外径を有するため、第2ハウジング部と支持部との間に電気配線を通すための空間を容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】走行車両の斜視図。
【図2】走行車両の平面図。
【図3】図2におけるIII−III断面図。
【図4】中間輪組立体の断面図。
【図5】仮想例に係る車輪組立体と本実施形態に係る車輪組立体との比較を示す概略図。
【図6】仮想例に係る車輪組立体の構成を示す概略図。
【図7】他の実施形態に係る走行車両の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る走行車両1を図1及び図2に示す。図1は走行車両1の斜視図である。図2は、走行車両1の平面図である。この走行車両1は、装甲車であり、車両本体2と複数の車輪組立体3−5とを備える。車両本体2は、鋼板の曲げ及び溶接によって構成されている。車両本体2は、乗員スペースや機器の収納スペースなどの車内スペースを内部に有する。機器の収納スペースには、後述するモータ部14を駆動するためのバッテリーや、モータ部14を制御するための制御装置などが配置される(図示せず)。複数の車輪組立体3−5は、左右一対の中間輪組立体3と、左右一対の前輪組立体4と、左右一対の後輪組立体5と、を有する。中間輪組立体3は、前後方向において前輪組立体4と後輪組立体5との間に配置されている。
【0018】
なお、本実施形態において左右とは、走行車両1内に着座する運転者から見た左右を意味するものとする。また、車幅方向における内方とは、車幅方向において車体中心へ向かう方向を意味する。車幅方向における外方とは、車幅方向において車体中心から離れる方向を意味する。また、車幅方向は、各車輪組立体の軸線方向と一致しているものとする。
【0019】
図3に、図2における走行車両1のIII−III断面図を示す。図3に示すように、走行車両1は、左右のサスペンション装置6を備えている。左右のサスペンション装置6は、それぞれ左右の中間輪組立体3を支持している。左側のサスペンション装置6は、支持部61とアッパアーム62とロアアーム63とを有している。支持部61は、後述する第2ハウジング部18の径方向における外方に配置されている。左側のサスペンション装置6は、支持部61においてモータハウジング13を支持する。支持部61は、上連結部64と下連結部65とを有する。上連結部64と下連結部65とは、それぞれボールジョイントによって構成されている。上連結部64は、アッパアーム62とモータハウジング13とを連結している。具体的には、上連結部64は、アッパアーム62の先端と第2ハウジング部18とを連結している。なお、アッパアーム62の基端部は、車両本体2に揺動可能に取り付けられている。下連結部65は、ロアアーム63とモータハウジング13とを連結している。具体的には、下連結部65は、ロアアーム63の先端と第2ハウジング部18とを連結している。ロアアーム63の基端部は、車両本体2に揺動可能に取り付けられている。
【0020】
より詳細には、上連結部64は、上継ぎ手部材66と上受け部67とを有する。上継ぎ手部材66の一端はアッパアーム62に連結されている。上継ぎ手部材66の他端には球状部66aが形成されている。上受け部67は、第2ハウジング部18の上部に固定されており、上継ぎ手部材66の球状部66a(以下、「上球状部66a」と呼ぶ)を支持している。また、下連結部65は、下継ぎ手部材68と下受け部69とを有する。下継ぎ手部材68の一端はロアアーム63に連結されている。下継ぎ手部材68の他端には球状部68aが形成されている。下受け部69は、第2ハウジング部18の下部に固定されており、下継ぎ手部材68の球状部68a(以下、「下球状部68a」と呼ぶ)を支持している。上連結部64と下連結部65とは、中間輪組立体3の車輪12を操舵可能なように中間輪組立体3を回転可能に支持する機能と、アッパアーム62とロアアーム63とを揺動可能に支持する機能との2つの機能を有している。右側のサスペンション装置6は、左側のサスペンション装置6と左右対称な構造である。このため、右側のサスペンション装置6については詳細な説明を省略する。
【0021】
図4に、左右の中間輪組立体3のうち左側の中間輪組立体3の断面図を示す。右側の中間輪組立体3は左側の中間輪組立体3と左右対称の構造であるので、以下、左側の中間輪組立体3について説明し、右側の中間輪組立体3については説明を省略する。図4に示すように、中間輪組立体3は、タイヤ11と、車輪12と、モータハウジング13と、モータ部14と、ブレーキ装置15と、減速機16とを有する。タイヤ11は例えばゴム製であり、車輪12の外周部に取り付けられている。タイヤ11の両側面は、それぞれ車幅方向に膨らんだ形状となっている。車輪12は、円筒状の本体部12aを有している。本体部12aは、モータハウジング13とモータ部14と減速機16とが配置される内部空間を有している。本体部12aの車幅方向における内方の側面は開口している。
【0022】
モータハウジング13は、第1ハウジング部17と第2ハウジング部18とを有する。第1ハウジング部17は概ね円筒状の形状を有している。第1ハウジング部17は、車輪12内に配置される。第2ハウジング部18は、第1ハウジング部17の車幅方向における内方に配置される。第2ハウジング部18は、概ね円筒状の形状を有しており、第1ハウジング部17の外径よりも小さな外径を有する。
【0023】
モータ部14は、車輪12を駆動する。モータ部14は、第1ハウジング部17内に配置されており、車輪12内に配置されている。モータ部14は、ステータ21と、ロータ22と、支持体23と、回転軸24とを有する。
【0024】
ステータ21は、第1ハウジング部17の内部空間に配置されている。ステータ21は概ね円筒状の形状を有する。ステータ21は、第1ハウジング部17の内周面に固定されている。ステータ21は、車幅方向に貫通する孔を有している。ステータ21の内周面にはコイルが設けられている。ステータ21は、ロータ22の径方向における外方に配置されている。また、ステータ21のコイルには、電気配線25が接続されている。電気配線25は、第2ハウジング部18と上連結部64(図3参照)の間を通るように配置される。
【0025】
ロータ22は、ステータ21に対して回転可能に設けられている。ロータ22は概ね円筒状の形状を有する。ロータ22の外周面には永久磁石が設けられている。ロータ22は、ステータ21の孔内に配置されている。すなわち、モータ部14は、いわゆるインナーロータ式のモータである。ロータ22は車幅方向に貫通する孔を有している。ロータ22は、減速機16を介して車輪12に接続されており、ロータ22の回転が減速機16を介して車輪12に伝達される。
【0026】
支持体23は、回転軸24及びロータ22を回転可能に支持する。支持体23は、車幅方向に貫通する孔を有している。支持体23の内周面は、軸受26a,26bを介して回転軸24を回転可能に支持している。支持体23の外周面は軸受27a,27bを介してロータ22を回転可能に支持している。また、支持体23は、第1ハウジング部17に固定されている。
【0027】
回転軸24は、支持体23の孔内に配置されている。回転軸24の車幅方向における外方の端部は、第1ハウジング部17の孔から車幅方向における外方に突出しており、車輪12の本体部12aに固定されている。また、回転軸24の車幅方向における内方の端部には、後述するブレーキ装置15の回転体31が固定されている。
【0028】
ブレーキ装置15は、いわゆる湿式多板式のブレーキである。ブレーキ装置15は、第2ハウジング部18内に配置されている。ブレーキ装置15は、ロータ22及びステータ21と車幅方向に並んで配置されている。ブレーキ装置15は、ロータ22及びステータ21に対して車幅方向における内方に配置されている。ブレーキ装置15は、ステータ21の外径よりも小さな外径を有する。すなわち、ブレーキ装置15は、モータ部14の外径よりも小さな外径を有する。ブレーキ装置15は、回転体31と、複数の第1ブレーキディスク32と、複数の第2ブレーキディスク33と、ピストン34とを有する。なお、図4においては、複数の第1ブレーキディスク32の1つのみに符号32を付しており、他の第1ブレーキディスク32の符号を省略している。また、複数の第2ブレーキディスク33の1つのみに符号33を付しており、他の第2ブレーキディスク33の符号を省略している。
【0029】
回転体31は、回転軸24の車幅方向における内方の端部と一体化されている。回転体31の外周面には、複数の第1ブレーキディスク32が固定されている。第1ブレーキディスク32は、回転体31の回転に伴って回転する。第1ブレーキディスク32はそれぞれ車幅方向に間隔をおいて配置されている。複数の第2ブレーキディスク33は、第1ブレーキディスク32の間に配置されている。第2ブレーキディスク33は、車幅方向に移動可能に設けられている。第1ブレーキディスク32及び第2ブレーキディスク33の外径は、ステータ21の外径よりも小さい。すなわち、第1ブレーキディスク32及び第2ブレーキディスク33の外径は、モータ部14の外径よりも小さい。ピストン34は、第1ブレーキディスク32及び第2ブレーキディスク33の車幅方向における内方に配置されている。ピストン34は、油室35に作動油が供給されることにより車幅方向における外方へ移動する。これにより、ピストン34は第2ブレーキディスク33を車幅方向に移動させ、第2ブレーキディスク33を第1ブレーキディスク32に押し付ける。その結果、ブレーキ装置15は車輪12を制動する。また、ピストン34は、油室35から作動油が排出されることにより車幅方向における内方へ移動する。これにより、第2ブレーキディスク33が第1ブレーキディスク32から離れる。その結果、ブレーキ装置15による車輪12の制動が解除される。なお、作動油は、第2ハウジング部18に接続される油配管36を介して油室35に供給される。
【0030】
減速機16は、回転軸24の車幅方向における外方の端部の外周側に配置されている。減速機16は、ロータ22と車輪12との間に配置されている。減速機16は、遊星歯車機構を構成しており、ロータ22の回転を減速して回転軸24と車輪12とに伝達する。
【0031】
図3に示すように、サスペンション装置6の支持部61は、第2ハウジング部18の径方向における外方に配置されている。下連結部65は、ブレーキ装置15と上下方向に重なるように配置されている。また、上連結部64の一部が、ブレーキ装置15と上下方向に重なるように配置されている。さらに、下連結部65の一部が、第1ハウジング部17の底部よりも上方に位置している。
【0032】
図4において、上述した上球状部66a及び下球状部68aを破線で示している。下球状部68aの一部は、第1ブレーキディスク32及び第2ブレーキディスク33と上下方向に重なるように配置されている。下球状部68aの一部は、第1ハウジング部17の底部よりも上方に位置している。また、上球状部66aと下球状部68aとを結ぶ軸線A1(以下「支持部61の軸線A1」と呼ぶ)は、下方且つ車幅方向における外方へ向けて傾斜している。
【0033】
前輪組立体4及び後輪組立体5は、中間輪組立体3と走行車両1における配置のみが異なり他の構成は同じである。従って、前輪組立体4及び後輪組立体5については詳細な説明を省略する。
【0034】
本実施形態に係る走行車両1は、次の特徴を有する。
【0035】
モータ部14が、第1ハウジング部17内に配置されており、第1ハウジング部17は、車輪12内に配置される。従って、車両本体2内に動力伝達機構を配置する必要がない。これにより、車両本体2を大型化させずに車両本体2内のスペースを拡大することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る走行車両1の特徴を具体的に説明するため、仮想例に係る車輪組立体と本実施形態に係る車輪組立体との比較を示す概略図を図5に示す。図5(a)は、第1の仮想例に係る車輪組立体100の構成を模式的に示している。第1の仮想例に係る車輪組立体100では、モータ部114が車輪112の内部に配置されている。また、ディスクブレーキ式のブレーキ装置115が、モータ部114の車幅方向における内方であって、モータハウジング113の径方向における外方に配置されている。この種のブレーキ装置115では、必要な大きさの制動力を確保するために、ブレーキ装置115のブレーキ有効径を大きくする必要がある。このため、ディスクブレーキ116の外径はモータ部114の外径と概ね同じである。図5(b)は、第2の仮想例に係る車輪組立体200の構成を模式的に示している。第2の仮想例に係る車輪組立体200では、モータ部214が車輪212の内部に配置されている。また、ドラムブレーキ式のブレーキ装置215が、モータ部214の車幅方向における内方であって、モータハウジング213の径方向における内方に配置されている。この種のブレーキ装置215においても必要な大きさの制動力を確保するために、ブレーキ装置215のドラム216のブレーキ有効径を大きくする必要がある。このため、ドラム216の外径はモータ部214の外径と概ね同じである。また、図5(c)は、本実施形態に係る車輪組立体3−5の構成を模式的に示している。なお、図5(a)−図5(c)では、上球状部66aと下球状部68aとによって支持部61の位置を示している。
【0037】
図5(a)に示す第1の仮想例に係る車輪組立体100では、支持部61は、ディスクブレーキ116の車幅方向における内方に配置される。従って、支持部61の軸線A1と、車幅方向におけるタイヤ111の中心部との間の距離D1が大きい。
【0038】
図5(b)に示す第2の仮想例に係る車輪組立体200では、支持部61は、ブレーキ装置215の径方向における外方に配置される。しかし、ブレーキ装置215の外径が大きいため、上球状部66aと下球状部68aとが径方向における外方に大きくはなれて配置されており、車幅方向においてタイヤ211及び車輪212に隣接している。このため、支持部61がタイヤ211及び車輪212に干渉し易い。従って、支持部61をタイヤ211及び車輪212に車幅方向において、近接して配置することが困難である。このため、支持部61の軸線A1と、車幅方向におけるタイヤ211の中心部との間の距離D2が大きい。
【0039】
図5(c)に示す本実施形態に係る車輪組立体3−5では、支持部61は、第2ハウジング部18の径方向における外方に配置される。第2ハウジング部18の外径は第1ハウジング部17の外径よりも小さい。従って、第1の仮想例に係る車輪組立体100及び第2の仮想例に係る車輪組立体200と比べて、径方向において車輪12の中心軸線に近い位置に支持部61を配置することができる。このため、支持部61が車輪12に干渉し難くなり、支持部61を車輪12に近接して配置することができる。このため、支持部61の軸線A1と、車幅方向におけるタイヤ11の中心部との間の距離D3が、上記の2つの仮想例の距離D1,D2に比して小さい。これにより、車輪12の操舵に要する力の増大を抑えることができる。さらに、第2ハウジング部18内にはブレーキ装置15が配置されるため、第2ハウジング部18の外径が小さくなっても、モータ部14の外径を小さくする必要はない。このため、モータ部14の駆動トルクの低下を抑えることができる。さらに、ブレーキ装置15が多板式であることにより、ブレーキ装置15の外径が小さくなっても十分な制動力を確保することができる。
【0040】
なお、支持部61の軸線A1と、車幅方向におけるタイヤ11の中心部との間の距離を小さくするためには、図6に示す第3の仮想例に係る車輪組立体300のように、モータ部314の車幅方向における外方にブレーキ装置315を配置することも考えられる。しかし、この場合、ブレーキ装置315に接続される油配管336を車輪312とモータハウジング313との間を通すように配置する必要がある。この場合、油配管336を通す空間を確保するためには、モータハウジング313及びモータ部314の外径を小さくする必要があるが、モータ部314の外径が小さくなるとモータ部314の出力トルクが小さくなってしまう。これに対して、本実施形態に係る車輪組立体3−5では、上述したようにモータ部14の外径を小さくする必要がないため、出力トルクの低下を抑えることができる。
【0041】
また、本実施形態に係る車輪組立体3−5では、サスペンション装置6の上連結部64の一部と下連結部65とが、ブレーキ装置15と上下方向に重なるように配置される。すなわち、サスペンション装置6の上連結部64の一部と下連結部65とが、車輪12に近接した位置に配置される。これにより、車輪12の操舵に要する力の増大をさらに抑えることができる。
【0042】
サスペンション装置6の下連結部65の一部が、第1ハウジング部17の底部よりも上方に位置する。このため、下連結部65の地上高を高くすることができる。従って、例えば走行車両1が段差を乗り越える際に、サスペンション装置6の下連結部65が段差に接触することが抑えられる。
【0043】
モータ部14に接続される電気配線25が、第2ハウジング部18と支持部61との間を通るように配置される。第2ハウジング部18は、第1ハウジング部17の外径よりも小さな外径を有するため、第2ハウジング部18と支持部61との間に電気配線25を通すための空間を容易に確保することができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0045】
本発明は、上述した装甲車に限らず他の種類の走行車両に適用されてもよい。例えば、本発明は、パワーショベルやホイールローダなどの建設機械に適用されてもよい。或いは、本発明は、林業機械や農業機械に適用されてもよい。
【0046】
走行車両1が備える車輪12の数は、上記の実施形態のように6輪に限らず、それ以上の車輪を備えてもよい。或いは、4輪の車輪を備える走行車両に本発明が適用されてもよい。また、上記の実施形態に係る車輪組立体3−5のような構造は、走行車両が備える全ての車輪組立体ではなく一部の車輪組立体に採用されてもよい。
【0047】
上記の実施形態では、モータ部14はいわゆるインナーロータ式のモータであるが、アウタロータ式のモータであってもよい。
【0048】
上記の実施形態では、上連結部64の一部と下連結部65とが、ブレーキ装置15と上下方向に重なるように配置されている。しかし、上連結部64と下連結部65との全体が、ブレーキ装置15と上下方向に重なるように配置されてもよい。或いは、下連結部65の一部のみ又は下連結部65の全体のみが、ブレーキ装置15と上下方向に重なるように配置されてもよい。
【0049】
上記の実施形態では、下連結部65の一部が、第1ハウジング部17の底部よりも上方に位置している。しかし、下連結部65の全体が、第1ハウジング部17の底部よりも上方に位置してもよい。
【0050】
上記の実施形態では、ブレーキ装置15は湿式のブレーキ装置であるが、乾式のブレーキ装置であってもよい。ただし、ブレーキ装置15は第2ハウジング部18内に配置されるため、冷却の容易さを考慮すれば、ブレーキ装置15は湿式のブレーキ装置であることが望ましい。
【0051】
上記の実施形態では、上連結部64と下連結部65とはそれぞれボールジョイントによって構成されているが、他の連結方式が用いられてもよい。
【0052】
上記の実施形態の走行車両1は、ダブルウィッシュボーン式のサスペンション装置6を備えているが、他の種類のサスペンション装置を備えてもよい。例えば、図7に示すように、走行車両は、ストラット式のサスペンション装置7を備えてもよい。サスペンション装置7は、支持部71においてモータハウジング13を支持する。支持部71は、上連結部74と下連結部75とを有する。下連結部75は、上記の実施形態の下連結部65と同様の構成であり、ボールジョイントによって構成されている。上連結部74は、ショックアブソーバー76を有している。ショックアブソーバー76の上端は、車両本体2に揺動可能に取り付けられている。なお、サスペンション装置7において、支持部71の軸線A2は、ショックアブソーバー76の車両本体2への取付部分と、下連結部75の下球状部78aとを結ぶ軸線であり、上述した支持部61の軸線A1に対応する。このようなストラット式のサスペンション装置7を備える走行車両においても、上記の実施形態の走行車両1と同様の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、車両本体を大型化させずに車両本体内のスペースを拡大することができると共に、車輪の操舵に要する力の増大を抑えることができる走行車両を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 走行車両
6,7 サスペンション装置
12 車輪
13 モータハウジング
14 モータ部
15 ブレーキ装置
17 第1ハウジング部
18 第2ハウジング部
21 ステータ
22 ロータ
25 電気配線
61 支持部
62 アッパアーム
63 ロアアーム
64 上連結部
65 下連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、
前記車輪内に配置される第1ハウジング部と、前記第1ハウジング部の車幅方向における内方に配置され前記第1ハウジング部の外径よりも小さな外径を有する第2ハウジング部とを有するモータハウジングと、
ロータと、前記ロータの径方向における内方または径方向における外方に配置されるステータとを有し、前記第1ハウジング部内に配置されるモータ部と、
前記モータ部の外径よりも小さな外径を有し、前記第2ハウジング部内において前記モータ部の車幅方向における内方に配置される多板式のブレーキ装置と、
前記第2ハウジング部の径方向における外方に配置される支持部を有し、前記支持部において前記モータハウジングを支持するサスペンション装置と、
を備える走行車両。
【請求項2】
前記サスペンション装置は、アッパアームとロアアームとをさらに有し、
前記支持部は、前記アッパアームと前記モータハウジングとを連結する上連結部と、前記ロアアームと前記モータハウジングとを連結する下連結部と、を有し、
前記上連結部と前記下連結部との少なくとも一方が、前記ブレーキ装置と上下方向に重なるように配置される、
請求項1に記載の走行車両。
【請求項3】
前記サスペンション装置は、アッパアームとロアアームとをさらに有し、
前記支持部は、前記アッパアームと前記モータハウジングとを連結する上連結部と、前記ロアアームと前記モータハウジングとを連結する下連結部と、を有し、
前記下連結部の少なくとも一部が、前記第1ハウジング部の底部よりも上方に位置する、
請求項1に記載の走行車両。
【請求項4】
前記モータ部に接続される電気配線をさらに有し、
前記電気配線は、前記第2ハウジング部と前記支持部との間を通るように配置される、
請求項1から3のいずれかに記載の走行車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−144228(P2012−144228A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6276(P2011−6276)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】