説明

車両のエンジンマウント

【課題】車両が衝突などにより急挙動をする場合でも、車体側に対するエンジンの支持が、より確実に維持されるようにする。
【解決手段】車両のエンジンマウントは、車体2側に支持され、上方に向かって開口する凹部18が形成された下部ブラケット15と、軸心21が上下方向に延びる円柱形状をなし、下部22aが凹部18に嵌入され、上部22bがエンジン8に突設されたブラケットアーム25の突出端側を支持するゴム製の緩衝体22と、ブラケットアーム25の突出端側と緩衝体22とをその上方から跨いで車体2側に支持され、凹部18に対し緩衝体22が上方に向かって相対移動しようとするとき、ブラケットアーム25を当接させて緩衝体22の相対移動を規制する上部ブラケット44とを備える。凹部18の底板18aに上方に向かって突出する係合突起38を形成すると共に、緩衝体22の下面に係合突起38を弾性的に圧入させる係合凹部39を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側に支持されたブラケットの凹部に嵌入されてエンジンを支持する緩衝体が、車両の衝突時などの急挙動時に、上記凹部から容易には抜け出ないようにして、車体側へのエンジンの支持が維持されるようにするための車両のエンジンマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両のエンジンマウントには、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両のエンジンマウントは、車体側に支持され、上方に向かって開口する凹部が形成された下部ブラケットと、軸心が上下方向に延びる円柱形状をなし、その下部が上記凹部内面に加硫接着され、上部がエンジンに突設されたブラケットアームの突出端側を支持するゴム製の緩衝体と、これらブラケットアームの突出端側と緩衝体とをその上方から跨いで車体側に支持され、上記凹部に対し上記緩衝体が上方に向かって相対移動しようとするとき、上記ブラケットアームを当接させて上記緩衝体の上記相対移動を規制する上部ブラケットとを備えている。
【0003】
そして、エンジンの駆動による車両の走行時に、上記エンジンの振動が車体側に伝達されようとするときには、この振動は、上記緩衝体が繰り返し弾性変形することにより緩和される。このようにして、車両への乗り心地の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−326523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したように従来の技術のエンジンマウントでは、その緩衝体は下部ブラケットの凹部内面に加硫接着されているが、このようなエンジンマウントの形成に際しては、上記凹部内面に緩衝体を加硫接着させるために上記凹部と関連する大形で複雑な金型が必要となる。この結果、上記エンジンマウントの形成作業が煩雑となりがちである。
【0006】
そこで、上記緩衝体を上記凹部とは別途に形成し、その後、エンジンマウントの組み立て時に、上記緩衝体を上記凹部に嵌入させるようにすることが考えられる。このようにすれば、上記したような大形で複雑な金型を不要として上記緩衝体の形成が容易にでき、つまり、上記エンジンマウントの形成作業が容易にできると考えられる。
【0007】
しかし、車両の衝突時などの急挙動時には、一般に、上記エンジンはその慣性力によって、車体側に対し大きく相対移動しようとするため、上記したように、緩衝体の下部を凹部に嵌入させただけの場合には、上記上部ブラケットの存在にかかわらず、車体側に対し大きく相対移動しようとするエンジンに連動して上記緩衝体の下部が上記下部ブラケットの凹部内で大きく弾性変形して、この凹部から不意に抜け出るおそれが生じる。そして、これが生じた場合には、車体側へのエンジンの支持が解除されることから、その復元が煩雑になるなど、その後の車両の処置が煩雑になるおそれが生じて好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両が衝突などにより急挙動をする場合でも、車体側に対するエンジンの支持が、より確実に維持されるようにすることである。
【0009】
請求項1の発明は、車体2側に支持され、上方に向かって開口する凹部18が形成された下部ブラケット15と、軸心21が上下方向に延びる円柱形状をなし、その下部22aが上記凹部18に嵌入され、上部22bがエンジン8に突設されたブラケットアーム25の突出端側を支持するゴム製の緩衝体22と、これらブラケットアーム25の突出端側と緩衝体22とをその上方から跨いで車体2側に支持され、上記凹部18に対し上記緩衝体22が上方に向かって相対移動しようとするとき、上記ブラケットアーム25を当接させて上記緩衝体22の上記相対移動を規制する上部ブラケット44とを備えた車両のエンジンマウントにおいて、
上記凹部18の底板18aに上方に向かって突出する係合突起38を形成すると共に、上記緩衝体22の下面に上記係合突起38を弾性的に圧入させる係合凹部39を形成したことを特徴とする車両のエンジンマウントである。
【0010】
請求項2の発明は、上記凹部18に嵌入された緩衝体22の下部22aが上記凹部18に対し上記軸心21回りに相対回動しないよう、上記凹部18と緩衝体22の下部22aとの互いの対向面50,50を車体2の平面視で非円形にしたことを特徴とする請求項1に記載の車両のエンジンマウントである。
【0011】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0012】
本発明による効果は、次の如くである。
【0013】
請求項1の発明は、車体側に支持され、上方に向かって開口する凹部が形成された下部ブラケットと、軸心が上下方向に延びる円柱形状をなし、その下部が上記凹部に嵌入され、上部がエンジンに突設されたブラケットアームの突出端側を支持するゴム製の緩衝体と、これらブラケットアームの突出端側と緩衝体とをその上方から跨いで車体側に支持され、上記凹部に対し上記緩衝体が上方に向かって相対移動しようとするとき、上記ブラケットアームを当接させて上記緩衝体の上記相対移動を規制する上部ブラケットとを備えた車両のエンジンマウントにおいて、
上記凹部の底板に上方に向かって突出する係合突起を形成すると共に、上記緩衝体の下面に上記係合突起を弾性的に圧入させる係合凹部を形成している。
【0014】
ここで、車両の衝突時などの急挙動時には、上記エンジンはその慣性力によって、車体側に対し大きく相対移動しようとする。すると、この際、上記緩衝体の上部に上記エンジンから与えられる外力により、上記凹部に嵌入されている上記緩衝体の下部がこじられて大きく弾性変形し、これにより、この緩衝体の下部が上記凹部から不意に抜け出るおそれが生じる。そして、この場合には、車体側へのエンジンの支持が解除されることとなって好ましくない。
【0015】
そこで、上記したように、凹部の底板に上方に向かって突出する係合突起を形成すると共に、上記緩衝体の下面に上記係合突起を弾性的に圧入させる係合凹部を形成したのであり、このため、上記係合凹部への係合突起の圧入により、上記凹部に対する緩衝体の下部の結合がより強固となる。よって、前記したように、車両の急挙動時に、エンジンの慣性力に基づき上記緩衝体の上部に与えられる外力により、この緩衝体の下部がこじられるとしても、上記した凹部に対する緩衝体の下部の強固な結合により、この緩衝体の下部が上記凹部から不意に抜け出ることは防止され、車体側に対するエンジンの支持が、より確実に維持される。
【0016】
また、上記した緩衝体の下部の上記凹部からの抜け防止の構成は、上記したように凹部の底板に係合突起を形成するとと共に、緩衝体に上記係合突起を圧入させる係合凹部を形成したことにより達成されるのであり、このため、別途に緩衝体の抜け防止材を設けることに比べて、部品点数の増加が回避される。よって、上記凹部からの緩衝体の下部の抜け防止は、簡単な構成で安価に達成される。
【0017】
更に、上記したように、緩衝体の下部の上記凹部からの抜け防止は、この緩衝体の下部の下端部がわに形成された係合凹部に係合突起を圧入させることにより達成される。ここで、上記緩衝体の下部の下端部がわは、エンジンを支持する緩衝体の上部がわから、より大きく下方に離れた部分である。よって、上記エンジンを支持する緩衝体の上部がわの弾性特性が上記係合凹部への係合突起の圧入によって低下させられることは抑制されて、上記緩衝体によるエンジンの弾性的な支持が良好に維持される。
【0018】
請求項2の発明は、上記凹部に嵌入された緩衝体の下部が上記凹部に対し上記軸心回りに相対回動しないよう、上記凹部と緩衝体の下部との互いの対向面を車体の平面視で非円形にしている。
【0019】
ここで、前記したように、車両の急挙動時におけるエンジンの慣性力によって、凹部に圧入されている緩衝体の下部がこじられて上記凹部から抜け出ようとするとき、仮に、上記緩衝体の下部が上記凹部に対し軸心回りに回動し、つまり、この軸心回りに捩るような動きをする場合には、上記緩衝体の下部は上記凹部から容易に抜け出るおそれがある。しかし、上記した互いの対向面の非円形により、上記下緩衝体の下部の捩るような動きは防止される。よって、上記緩衝体の下部が上記凹部から不意に抜け出ることは、より確実に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】車体の部分平面図である。
【図2】エンジンマウントの斜視図である。
【図3】エンジンマウントの斜視展開図である。
【図4】エンジンマウントの平面図である。
【図5】エンジンマウントの側面図である。
【図6】エンジンマウントの側面断面図である。
【図7】エンジンマウントの正面断面図である。
【図8】エンジンマウントの作用説明図で、図5,6に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の車両のエンジンマウントに関し、車両が衝突などにより急挙動をする場合でも、車体側に対するエンジンの支持が、より確実に維持されるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0022】
即ち、車両のエンジンマウントは、車体側に支持され、上方に向かって開口する凹部が形成された下部ブラケットと、軸心が上下方向に延びる円柱形状をなし、その下部が上記凹部に嵌入され、上部がエンジンに突設されたブラケットアームの突出端側を支持するゴム製の緩衝体と、これらブラケットアームの突出端側と緩衝体とをその上方から跨いで車体側に支持され、上記凹部に対し上記緩衝体が上方に向かって相対移動しようとするとき、上記ブラケットアームを当接させて上記緩衝体の上記相対移動を規制する上部ブラケットとを備える。上記凹部の底板に上方に向かって突出する係合突起が形成されると共に、上記緩衝体の下面に上記係合突起を弾性的に圧入させる係合凹部が形成される。
【実施例】
【0023】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0024】
図1において、符号1は、自動車で例示される車両で、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。
【0025】
上記車両1の車体2は、この車体2の前後方向に延びてこの車体2の骨格部材を構成する左右一対のサイドメンバ3,3と、これら左右サイドメンバ3,3を互いに強固に結合する不図示のクロスメンバと、上記左右サイドメンバ3,3に架設され、左右前車輪4,4を懸架するサスペンションメンバ5とを備えている。
【0026】
上記左右サイドメンバ3,3の間で、上記サスペンションメンバ5の前方の空間に車両1の走行駆動用のエンジン8が設けられる。このエンジン8は、上記左右サイドメンバ3,3のそれぞれ長手方向の中途部にエンジンマウント9,10により支持されると共に、上記サスペンションメンバ5にトルクロッド11により連結されて、車体2側に支持されている。
【0027】
上記エンジンマウント9,10のうち、右側のエンジンマウント10につき、詳しく説明する。
【0028】
上記サイドメンバ3の長手方向の中途部には、車体2の側面視(図6)で、上方に向かって開く倒立台形状の凹所14が形成されている。上記エンジンマウント10は、車体2の前後方向に延び、上記凹所14をその上方から跨ぐよう設けられる板金製の下部ブラケット15と、この下部ブラケット15の前、後端部を上記サイドメンバ3に締結して支持させる前、後締結具16,16とを備えている。上記下部ブラケット15は全体としてプレス加工により形成されるもので、この下部ブラケット15の前後方向の中途部には下方に向かって膨出する膨出部17が形成され、この膨出部17の内部が上方に向かって開口する凹部18とされている。
【0029】
軸心21が上下方向に延びる円柱形状のゴム製の緩衝体22が設けられる。この緩衝体22の下部22aは上記凹部18に嵌入され、上部22bは上記下部ブラケット15から上方に突出している。具体的には、上記緩衝体22の下部22aは上記凹部18に小さい圧力で弾性的に圧入されている。
【0030】
一方、前記エンジン8の側部には、その外側方かつ水平方向(車体2の幅方向)に向かってブラケットアーム25が突設されている。このブラケットアーム25における車体2の内側方の端部は、複数(3本)の締結具26により上記エンジン8の側部に締結されて固着されている。
【0031】
上記ブラケットアーム25は、上記各締結具26により上記エンジン8の側部上面に締結されるアーム基部28と、このアーム基部28から車体2の外側方かつ水平方向に向かって一体的に突出するアーム突出部29と、このアーム突出部29の下面から下方に向かって一体的に突出する倒立円錐形状の上部係合突起30と、上記アーム突出部29の突出端部から上方に向かって一体的に延出するアーム延出部31と、上記アーム突出部29およびアーム延出部31にその上方から一体的に外嵌してこれら29,31の外面を覆うゴム製の緩衝カバー体32とを備えている。
【0032】
上記アーム突出部29の上面はアーム基部28の上面よりも一段低くなるよう、これらアーム突出部29とアーム基部28との間に段差面33が形成されている。上記緩衝カバー体32は上記したようにアーム突出部29およびアーム延出部31に対しその上方から外嵌し、かつ、上記緩衝カバー体32における車体2の内側方の端部は上方に屈曲し、その屈曲片が上記段差面33に当接している。これにより、上記緩衝カバー体32は、上記アーム突出部29およびアーム延出部31に対し水平方向に相対移動することが防止されている。なお、上記緩衝カバー体32は上記アーム突出部29およびアーム延出部31に対し圧接させてもよく、加硫や接着剤により接着してもよい。
【0033】
前記緩衝体22の上面には、上記軸心21上で倒立円錐形状の上部係合凹部36が形成されている。そして、上記緩衝体22の上面に上記ブラケットアーム25のアーム突出部29が載置されると共に、上記緩衝体22の上部係合凹部36に上記ブラケットアーム25の上部係合突起30が嵌入(弾性的に圧入を含む)されている。これにより、上記緩衝体22は、その上部22bにより上記ブラケットアーム25の突出端側である上記アーム突出部29を弾性的に支持している。この場合、上記上部係合突起30と上部係合凹部36との各下端部は、上記緩衝体22の下部22aの上端部に位置している。
【0034】
前記凹部18の底板18aを形成する前記下部ブラケット15の部分のうち、上記軸心21上に位置する部分には、上方に向かって膨出する係合突起38が形成されている。この係合突起38の平面視(図4)断面は円形筒形状をなし、側面視(図6)断面は倒立U字形状をなしている。また、上記緩衝体22の下面には、上記係合突起38を弾性的に圧入させる下部係合凹部39が形成されている。
【0035】
上記下部係合突起38の上面と上記係合凹部39の上部内面との間には空洞部40が形成されている。前記上部係合突起30と上部係合凹部36との各下端部と上記空洞部40の上端部とは上下方向で互いに近傍に位置している。また、上記凹部18の底板18aと、上記下部係合突起38の上面板にはそれぞれ水抜孔41が貫設されている。
【0036】
車体2の前後方向に延び、上記ブラケットアーム25のアーム突出部29と、このアーム突出部29を支持する緩衝体22の上部22bとをその上方から一体的に跨ぐよう、板金製の上部ブラケット44が設けられている。この上部ブラケット44は全体としてプレス加工により形成されるもので、この上部ブラケット44の前、後端部は前記下部ブラケット15の前、後端部の上面に重ねられて、前記前、後締結具16,16により上記サイドメンバ3に共締めされて支持されている。なお、上記下部、上部ブラケット15,44は、これら15,44が上記サイドメンバ3に締結される以前にリベット45により互いに結合される。
【0037】
上記上部ブラケット44は、車体2の側面視(図5,6)で、ハット形状をなし、車体2の幅方向で互いに少し離れて対面する左右側板46,46と、これら左右側板46,46の各幅方向の端縁部同士を互いに一体的に結合する底板47とを備えている。これにより、上記上部ブラケット44の長手方向の各部断面は外方に向かって開くチャンネル形状をなして、全体的に十分の強度と剛性とを有している。
【0038】
上記上部ブラケット44の上部44aの底板47下面は、上下方向で、上記ブラケットアーム25の突出端側の上面(アーム突出部29上の緩衝カバー体32の部分の上面)と互いに接近(圧接含む)させられている(図2〜図8)。なお、上記エンジン8とブラケットアーム25とが締結されていて、このブラケットアーム25を介しエンジン8の自重(静荷重)が上記緩衝体22に与えられるときには、この緩衝体22は下方に向かって弾性的にわずか(4〜5mm程度)ながら圧縮変形させられる。この場合、上記上部ブラケット44の上部44aの底板47下面と、ブラケットアーム25の突出端側の上面との間にはわずか(4〜5mm程度)の隙間が生じることとされる。
【0039】
水平方向(車体2の幅方向)で、上記上部ブラケット44の上部44aの近傍に上記ブラケットアーム25のアーム延出部31が位置させられている。また、このアーム延出部31の上端は、上記エンジン8とブラケットアーム25とが締結されているか否かにかかわらず、上記上部ブラケット44の上部44aの上端縁よりも上方に位置させられている。
【0040】
車両1の走行時に、上記下部ブラケット15の凹部18に対し、この凹部18に嵌入されている緩衝体22が上方に向かって相対移動しようとするとき、上記緩衝体22と共に相対移動しようとする上記ブラケットアーム25の突出端側は上記上部ブラケット44の上部44aの下面に当接して、上記緩衝体22の上記相対移動が規制される。つまり、上記凹部18から緩衝体22の下部22aが抜け出ようとすることが防止される。
【0041】
また、図7中一点鎖線で示すように、車両1の走行時の衝突により、上記エンジンマウント10に対しエンジン8が下方移動して上記ブラケットアーム25が傾動したとする。この場合、このブラケットアーム25の上記アーム延出部31は上記緩衝カバー体32を介して上記上部ブラケット44の上部44aに係合し、この上部44aをその上方から押圧することとされる。これにより、上記車体2側からエンジン8が脱落することが防止される。
【0042】
上記下部ブラケット15の凹部18に対し、この凹部18に嵌入された緩衝体22の下部22aが上記軸心21回りに相対回動しないよう、上記凹部18と緩衝体22の下部22aとの互いの対向面50,50が車体2の平面視(図4)で、非円形とされている。具体的には、上記軸心21回りの対向面50,50は全体として円形状であるが、これら対向面50,50の一部の面である前、後面がそれぞれ平面部50a,50aとされ、これにより、上記対向面50,50は、車体2の平面視(図4)で、小判形状とされている。なお、上記対向面50,50は、矩形状や長円形状であってもよく、楕円形状であってもよい。
【0043】
上記緩衝体22の下部22aの上端部には、この下部22aの上端部の弾性係数を低下させる脆弱部51が形成されている。具体的には、この脆弱部51は、上記下部22aの上端部の前、後部を車体2の幅方向に貫通するよう延びる前後一対の貫通孔52,52を有している。これら各貫通孔52は、断面円形で、上記上部係合突起30と上部係合凹部36との各下端部を前後から挟むよう配置されている。なお、上記脆弱部51は、有底の孔や凹部により形成してもよく、その断面は矩形や長孔形状であってもよく、単数もしくは複数形成してもよい。
【0044】
特に、図3,8において、上記軸心21回りの上記緩衝体22の外周面の全周にわたりシールリブ54が一体的に形成されている。このシールリブ54は、上記各貫通孔52よりも上方で、これら各貫通孔52の近傍に形成されている。図8中二点鎖線は上記緩衝体22の自由状態の形状を示している。そして、この緩衝体22の下部22aを上記下部ブラケット15の凹部18に圧入させるよう嵌入したときには(図8中実線)、上記シールリブ54の下部54aが上記凹部18の開口縁部の内周面に弾性的に圧接して、緩衝体22の内部側に向かって弾性的に収縮することとされている。また、この際、上記シールリブ54の上部54bは、上記凹部18の開口縁部の内面と上記シールリブ54の下部54aとの互いの圧接部をその上方から覆うように位置している。
【0045】
上記シールリブ54から下方に少し離れた上記軸心21回りの上記緩衝体22の外周面に他のシールリブ55が一体的に形成され、この他のシールリブ55は、上記凹部18の内周面に弾性的に圧接させられている。上記他のシールリブ55は、上記各貫通孔52の端部開口の間に断続的に形成されている。なお、上記他のシールリブ55は、上記貫通孔52よりも下方近傍で、もしくは、上記各貫通孔52を形成しないで、上記緩衝体22の外周面に全周にわたり形成してもよい。
【0046】
ここで、車両1の衝突時などの急挙動時には、例えば、図8中一点鎖線で示すように、上記エンジン8はその慣性力によって、車体2側に対し前方に向かって大きく相対移動しようとする。すると、この際、上記緩衝体22の上部22bに上記エンジン8から与えられる外力により、上記凹部18に嵌入されている上記緩衝体22の下部22aがこじられて大きく弾性変形し、これにより、この緩衝体22の下部22aが上記凹部18から不意に抜け出るおそれが生じる。そして、この場合には、車体2側へのエンジン8の支持が解除されることとなって好ましくない。
【0047】
そこで、上記したように、凹部18の底板18aに上方に向かって突出する係合突起38を形成すると共に、上記緩衝体22の下面に上記係合突起38を弾性的に圧入させる係合凹部39を形成したのであり、このため、上記係合凹部39への係合突起38の圧入により、上記凹部18に対する緩衝体22の下部22aの結合がより強固となる。よって、前記したように、車両1の急挙動時に、エンジン8の慣性力に基づき上記緩衝体22の上部22bに与えられる外力により、この緩衝体22の下部22aがこじられるとしても、上記した凹部18に対する緩衝体22の下部22aの強固な結合により、この緩衝体22の下部22aが上記凹部18から不意に抜け出ることは防止され、車体2側に対するエンジン8の支持が、より確実に維持される。
【0048】
また、上記した緩衝体22の下部22aの上記凹部18からの抜け防止の構成は、上記したように凹部18の底板18aに係合突起38を形成するとと共に、緩衝体22に上記係合突起38を圧入させる係合凹部39を形成したことにより達成されるのであり、このため、別途に緩衝体22の抜け防止材を設けることに比べて、部品点数の増加が回避される。よって、上記凹部18からの緩衝体22の下部22aの抜け防止は、簡単な構成で安価に達成される。
【0049】
更に、上記したように、緩衝体22の下部22aの上記凹部18からの抜け防止は、この緩衝体22の下部22aの下端部がわに形成された係合凹部39に係合突起38を圧入させることにより達成される。ここで、上記緩衝体22の下部22aの下端部がわは、エンジン8を支持する緩衝体22の上部22bがわから、より大きく下方に離れた部分である。よって、上記エンジン8を支持する緩衝体22の上部22bがわの弾性特性が上記係合凹部39への係合突起38の圧入によって低下させられることは抑制されて、上記緩衝体22によるエンジン8の弾性的な支持が良好に維持される。
【0050】
また、前記したように、凹部18に嵌入された緩衝体22の下部22aが上記凹部18に対し上記軸心21回りに相対回動しないよう、上記凹部18と緩衝体22の下部22aとの互いの対向面50,50を車体2の平面視で非円形にしている。
【0051】
ここで、前記したように、車両1の急挙動時におけるエンジン8の慣性力によって、凹部18に嵌入されている緩衝体22の下部22aがこじられて上記凹部18から抜け出ようとするとき、仮に、上記緩衝体22の下部22aが上記凹部18に対し軸心21回りに回動し、つまり、この軸心21回りに捩るような動きをする場合には、上記緩衝体22の下部22aは上記凹部18から容易に抜け出るおそれがある。しかし、上記した互いの対向面50,50の非円形により、上記下緩衝体22の下部22aの捩るような動きは防止される。よって、上記緩衝体22の下部22aが上記凹部18から不意に抜け出ることは、より確実に防止される。
【0052】
また、前記したように、緩衝体22の下部22aの上記凹部18からの抜け防止のために、上記係合凹部39への係合突起38の圧入により、上記凹部18に対し緩衝体22の下部22aの結合を、より強固にしたが、この場合には、この緩衝体22の弾性係数が大きくなって、この緩衝体22による良好なエンジン8の弾性的な支持が阻害されるおそれが生じる。
【0053】
そこで、前記したように、緩衝体22の下部22aの上端部に脆弱部51を形成したのであり、このため、緩衝体22の弾性係数が無用に大きくなることは上記脆弱部51の形成によって防止される。よって、上記したように、緩衝体22の下部22aの上記凹部18からの抜け防止をした場合でも、上記緩衝体22によるエンジン8の弾性的な支持が良好に維持される。
【0054】
しかも、上記脆弱部51は、緩衝体22の下部22aの上端部の前、後部を車体2の幅方向に延びる前後一対の貫通孔52,52を有している。
【0055】
このため、上記緩衝体22の弾性係数のうち、この緩衝体22の上部22bに対し車体2の前後方向から与えられる外力に関連する弾性係数が特に小さくなる。よって、車両1の衝突時や加速、減速時などに、エンジン8の慣性力が車体2の前後方向から上記エンジン8を支持する緩衝体22の上部22bに対し与えられるとき、この緩衝体22の上部22bは、前後に向かって弾性的に円滑に屈曲して(図8中一点鎖線)、この緩衝体22は上記慣性力に基づく衝撃力を効果的に緩衝する。この結果、この緩衝体22によるエンジン8の弾性的な支持が更に良好に維持される。
【0056】
なお、以上は図示の例によるが、上記左右エンジンマウント9,10は互いに同構成であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 車両
2 車体
3 サイドメンバ
8 エンジン
10 エンジンマウント
15 下部ブラケット
16 締結具
17 膨出部
18 凹部
18a 底板
21 軸心
22 緩衝体
22a 下部
22b 上部
25 ブラケットアーム
28 アーム基部
29 アーム突出部
31 アーム延出部
32 緩衝カバー体
33 段差面
38 係合突起
39 係合凹部
40 空洞部
44 上部ブラケット
44a 上部
50 対向面
50a 平面部
51 脆弱部
52 貫通孔
54 シールリブ
54a 下部
54b 上部
55 他のシールリブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に支持され、上方に向かって開口する凹部が形成された下部ブラケットと、軸心が上下方向に延びる円柱形状をなし、その下部が上記凹部に嵌入され、上部がエンジンに突設されたブラケットアームの突出端側を支持するゴム製の緩衝体と、これらブラケットアームの突出端側と緩衝体とをその上方から跨いで車体側に支持され、上記凹部に対し上記緩衝体が上方に向かって相対移動しようとするとき、上記ブラケットアームを当接させて上記緩衝体の上記相対移動を規制する上部ブラケットとを備えた車両のエンジンマウントにおいて、
上記凹部の底板に上方に向かって突出する係合突起を形成すると共に、上記緩衝体の下面に上記係合突起を弾性的に圧入させる係合凹部を形成したことを特徴とする車両のエンジンマウント。
【請求項2】
上記凹部に嵌入された緩衝体の下部が上記凹部に対し上記軸心回りに相対回動しないよう、上記凹部と緩衝体の下部との互いの対向面を車体の平面視で非円形にしたことを特徴とする請求項1に記載の車両のエンジンマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−116242(P2012−116242A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265509(P2010−265509)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】