説明

車両の制動制御装置

【課題】要求制動トルクをMGトルクおよびECBトルクの両方で分担するとともに、車両の停止直前にMGトルクをECBトルクに振り替える場合に、MGトルクによる制動をできるだけ低車速まで実施できるようにする。
【解決手段】要求制動トルクがモータジェネレータMGのMGトルクと油圧ブレーキ62によるECBトルクとの両方で分担されるが、車両の停止直前にMGトルクをECBトルクに振り替える際には、ECBトルクを漸増させるとともに、そのECBトルクの増加に対応してロックアップクラッチ30のL/Uクラッチトルクを漸減し、且つ、MGトルクをL/Uクラッチトルク以上に保持しながら漸減する。MGトルクの振り替えと並行してL/Uクラッチトルクが漸減されるため、MGトルクの振替制御の開始時間をそれだけ遅く(低車速)することが可能で、MGトルクの回生制御を低車速まで実施できるようになり、エネルギー回収効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制動制御装置に係り、特に、要求制動トルクを回転機による制動トルクおよび機械式ブレーキによる制動トルクの両方で分担する制動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 少なくとも発電機として機能して回生トルクにより制動トルクを発生させることができる回転機と、(b) その回転機を動力伝達経路に対して接続遮断するとともに、係合トルクを連続的に変化させることができる摩擦クラッチと、(c) 要求制動トルクを前記回転機による制動トルクおよび前記機械式ブレーキによる制動トルクの両方で分担する制動トルク分担制御手段と、を有する車両の制動制御装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、回転機としてモータジェネレータが用いられているとともに、上記摩擦クラッチとして第2クラッチCL2を備えており、ブレーキ踏込み制動時に、その要求制動トルクに対してモータジェネレータによる制動トルクだけでは不足する場合、その不足分を機械式ブレーキによる制動トルクで補うようになっている(段落19参照)。また、特許文献2には、回転機としてモータジェネレータが用いられているとともに、そのモータジェネレータが、摩擦クラッチとしてのロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを介して動力伝達経路に接続されており、所定の運転状態でロックアップクラッチを締結してモータジェネレータを回生制御(発電制御ともいう)する技術が記載されている(請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−306328号公報
【特許文献2】特開2006−151307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、要求制動トルクを回転機による制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとの両方で分担する場合、車両の停止直前には、回転機による制動トルクを漸減して機械式ブレーキによる制動トルクに振り替える必要がある。また、特許文献2では、エンジンまたは回転機によってオイルポンプを回転駆動するようになっているが、車両停止時でもそのオイルポンプで所定の油圧を発生させるためには、摩擦クラッチ(ロックアップクラッチ)を解放する必要がある。しかしながら、摩擦クラッチの解放制御に先立って制動トルクの振替制御を行おうとすると、それだけ早めに(高車速で)制動トルクの振替制御を開始する必要があり、回生制御によるエネルギー取得が低減されてエネルギー回収効率が損なわれる。
【0005】
図7は、図1に示すハイブリッド車両10において、ブレーキ踏込み操作による制動時にモータジェネレータMGの回生トルク(MGトルク)を最大回生トルクtmgmxとし、不足分を油圧ブレーキ62による制動トルク(ECBトルク)で補完する場合に、車速(出力軸回転速度NOUTに対応)の低下に伴って時間t1で制動トルクの振り替えを行うための回生復帰制御が開始された場合である。時間t2は、制動トルクの振り替えが完了して要求制動トルクが総てECBトルクで得られるようになった時間であり、この時間t2でロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)30の解放制御が開始され、時間t3でロックアップクラッチ30の解放制御が完了する。これ等の振替制御や解放制御は、何れも駆動力変動等のショックや歯車のバックラッシによる異音等が生じないように滑らかにトルクを変化させる必要があり、回生復帰制御の開始時間t1を早め(高車速側)に設定する必要がある。なお、トルクの欄のグラフは何れも出力軸22におけるトルクに換算したものである。また、時間t4は、停車後の発進に備えて自動変速機20を第1速ギヤ段までダウンシフトするための変速出力が為された時間で、時間t5は、所定のクリープトルクを発生させるためにモータジェネレータMGのクリープ制御が開始された時間である。このモータジェネレータMGのクリープ制御でオイルポンプ32が回転駆動されることにより、車両停止時においても自動変速機20の所定のギヤ段を成立させるのに必要な油圧が確保される。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、要求制動トルクを回転機による制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとの両方で分担するとともに、車両の停止直前に回転機による制動トルクを機械式ブレーキによる制動トルクに振り替える場合に、回転機の回生制御による制動をできるだけ低車速まで実施できるようにしてエネルギー回収効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 少なくとも発電機として機能して回生トルクにより制動トルクを発生させることができる回転機と、(b) その回転機を動力伝達経路に対して接続遮断するとともに、係合トルクを連続的に変化させることができる摩擦クラッチと、(c) 車輪に設けられた機械式ブレーキの制動トルクを電気的に制御するブレーキ制御装置と、(d) 要求制動トルクを前記回転機による制動トルクおよび前記機械式ブレーキによる制動トルクの両方で分担する制動トルク分担制御手段と、を有する車両の制動制御装置において、(e) 車両の停止直前に、前記制動トルク分担制御手段による制御に優先して、前記回転機による制動トルクを漸減して前記機械式ブレーキによる制動トルクに振り替えるとともに、並行して前記摩擦クラッチの係合トルクを漸減する振替制御手段を備えており、且つ、(f) その振替制御手段は、前記機械式ブレーキによる制動トルクの増加に対応して前記摩擦クラッチの係合トルクを漸減するとともに、前記回転機の回生トルクをその摩擦クラッチの係合トルク以上に保持しながら漸減し、その回転機による制動トルクをその摩擦クラッチの係合トルクによって制御しながら前記機械式ブレーキによる制動トルクに振り替えることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の車両の制動制御装置において、前記振替制御手段は、前記摩擦クラッチの前後の回転速度差が、前記回転機側の回転速度の方が低い予め定められた目標回転速度差となるように、その回転機の回生トルクをフィードバック制御することにより、その回転機の回生トルクをその摩擦クラッチの係合トルク以上に保持しながら漸減する回転制御手段を有することを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第2発明の車両の制動制御装置において、前記回転制御手段は、前記摩擦クラッチの係合トルク指令値に基づいて定められたフィードフォワード値に前記フィードバック制御による補正値を加算して前記回転機の回生トルクを制御することを特徴とする。
【0010】
第4発明は、(a) 少なくとも発電機として機能して回生トルクにより制動トルクを発生させることができる回転機と、(b) その回転機を動力伝達経路に対して接続遮断するとともに、係合トルクを連続的に変化させることができる摩擦クラッチと、(c) 車輪に設けられた機械式ブレーキの制動トルクを電気的に制御するブレーキ制御装置と、(d) 要求制動トルクを前記回転機による制動トルクおよび前記機械式ブレーキによる制動トルクの両方で分担する制動トルク分担制御手段と、を有する車両の制動制御装置において、(e) 車両の停止直前に、前記制動トルク分担制御手段による制御に優先して、前記回転機による制動トルクを漸減して前記機械式ブレーキによる制動トルクに振り替えるとともに、並行して前記摩擦クラッチの係合トルクを漸減する振替制御手段を備えており、且つ、(f) その振替制御手段は、前記機械式ブレーキによる制動トルクの増加に対応して前記回転機の回生トルクを漸減するとともに、前記摩擦クラッチの係合トルクをその回転機の回生トルク以上に保持しながら漸減することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明の車両の制動制御装置においては、要求制動トルクを回転機による制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとの両方で分担する場合に、車両の停止直前に回転機による制動トルクを機械式ブレーキによる制動トルクに振り替える際には、機械式ブレーキによる制動トルクの増加に対応して摩擦クラッチの係合トルクを漸減するとともに、回転機の回生トルク(回生制御によって生じる回転機自体の回転抵抗によるトルク)をその摩擦クラッチの係合トルク以上に保持しながら漸減し、その回転機による制動トルクを摩擦クラッチの係合トルクによって制御しながら機械式ブレーキによる制動トルクに振り替えるため、駆動力変動等のショックを生じることなく制動トルクを滑らかに振り替えることができる。その場合に、その制動トルクの振り替えと並行して摩擦クラッチの係合トルクが漸減されるため、制動トルクの振替制御の開始時間をそれだけ遅くすることが可能で、回転機による制動トルクの付与を低車速まで実施できるようになり、回転機の回生制御によるエネルギー取得が増大してエネルギー回収効率が向上する。また、摩擦クラッチの係合トルクについても、制動トルクの振り替えと同様に滑らかに漸減されるため、歯車のバックラッシ等に起因する異音の発生が抑制される。
【0012】
第2発明では、摩擦クラッチの前後の回転速度差が予め定められた目標回転速度差となるように回転機の回生トルクをフィードバック制御することにより、その回転機の回生トルクを摩擦クラッチの係合トルク以上に保持しながら漸減するため、回転機の回生制御に基づいて得られる制動トルクを適切に確保しつつ回転機の回転速度が極端に低下することが防止される。これにより、例えば回転機にオイルポンプが連結されている場合に、回転速度の低下による油圧不足が回避される。
【0013】
第3発明では、摩擦クラッチの係合トルク指令値に基づいて定められたフィードフォワード値にフィードバック制御による補正値を加算して回転機の回生トルクが制御されるため、摩擦クラッチの前後の回転速度差が目標回転速度差となるように回転機の回生トルクが速やかに制御される。これにより、回転機の回生トルクが摩擦クラッチの係合トルクよりも小さくなって制動トルクが不足したり、回転機の回転速度が極端に低下したりすることを適切に防止しつつ、摩擦クラッチの係合トルクの低下に追従して回転機の回生トルクが低下させられる。
【0014】
第4発明の車両の制動制御装置においては、要求制動トルクを回転機による制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとの両方で分担する場合に、車両の停止直前に回転機による制動トルクを機械式ブレーキによる制動トルクに振り替える際には、機械式ブレーキによる制動トルクの増加に対応して回転機の回生トルクを漸減するとともに、摩擦クラッチの係合トルクをその回転機の回生トルク以上に保持しながら漸減するため、駆動力変動等のショックを生じることなく制動トルクを滑らかに振り替えることができる。その場合に、その制動トルクの振り替えと並行して摩擦クラッチの係合トルクが漸減されるため、制動トルクの振替制御の開始時間をそれだけ遅くすることが可能で、回転機による制動トルクの付与を低車速まで実施できるようになり、回転機の回生制御によるエネルギー取得が増大してエネルギー回収効率が向上する。また、摩擦クラッチの係合トルクについても、制動トルクの振り替えと同様に滑らかに漸減されるため、歯車のバックラッシ等に起因する異音の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の骨子図に、制御系統の要部を併せて示した概略構成図である。
【図2】図1の電子制御装置が機能的に備えている振替制御手段の作動を具体的に説明するフローチャートである。
【図3】図2のステップS5のMG回転速度制御を説明する制御ブロック線図である。
【図4】図2のフローチャートに従って制動トルクの振替制御が行われた場合の各部のトルク変化や回転速度変化等を示すタイムチャートの一例である。
【図5】図1の電子制御装置が機能的に備えている振替制御手段の別の態様を説明する図で、図2に対応するフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートに従って制動トルクの振替制御が行われた場合の各部のトルク変化や回転速度変化等を示すタイムチャートの一例である。
【図7】制動トルクの振替制御が完了した後にロックアップクラッチの解放制御が行われる場合の各部のトルク変化や回転速度変化等を示すタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
少なくとも発電機として機能する回転機としては、電動モータとしても機能して力行トルクを発生させることができるモータジェネレータが好適に用いられるが、電動モータとしての機能が得られない発電機を採用することも可能で、発電機と電動モータとが別々に設けられても良い。本発明は、モータジェネレータを駆動力源として走行する電気自動車に好適に適用されるが、モータジェネレータの他に燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関等のエンジンを備えているハイブリッド車両であっても良い。エンジンは、例えば油圧式摩擦係合装置等の断接装置を介してモータジェネレータに接続される。油圧式摩擦係合装置は、油圧シリンダによって摩擦係合させられる単板式或いは多板式の摩擦クラッチや摩擦ブレーキである。エンジンは、モータジェネレータが配設された動力伝達経路に接続されて、共通の駆動輪を回転駆動するように構成され、例えば断接装置によってモータジェネレータに直結されるように配設されるが、モータジェネレータが配設された動力伝達経路(例えば後輪駆動側)とは異なる動力伝達経路(例えば前輪駆動側)に配設されても良い。
【0017】
回転機を動力伝達経路に対して接続遮断する摩擦クラッチは、上記油圧式摩擦係合装置と同様に油圧シリンダによって摩擦係合させられる単板式或いは多板式の油圧式摩擦クラッチが好適に用いられるが、電磁式等の摩擦クラッチを採用することもできる。この摩擦クラッチは、例えばロックアップクラッチ付きトルクコンバータのロックアップクラッチであっても良いが、トルクコンバータを備えていない電気自動車等にも本発明は適用され得る。車輪に設けられる機械式ブレーキとしては、例えば油圧シリンダによって摩擦力で制動トルクを発生する油圧ブレーキが広く用いられており、電磁式の油圧制御弁等を有するブレーキ制御装置によって制動トルクが制御されるが、電動式等の機械式ブレーキを採用することもできる。
【0018】
制動トルク分担制御手段は、例えばモータジェネレータの回生トルクによる制動トルクが最大値に達したら、不足分を機械式ブレーキによる制動トルクで補完するように構成されるが、モータジェネレータの回生トルクによる制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとを例えば50%ずつ等の所定の割合で分担させても良いなど、種々の態様が可能である。要求制動トルクは、例えば運転者のブレーキ操作によって要求される制動トルクであるが、自動的に車両を制動する場合の要求制動トルクであっても良いし、バッテリーを充電するための回生トルクを含んでいても良い。その要求制動トルクを所定の割合で前後輪に分配する場合に、モータジェネレータの回生トルクによる制動トルクが前後輪の何れか一方だけに作用する場合、その一方の車輪側に対する要求制動トルクのみを対象として分担量を制御すれば良い。なお、モータジェネレータの回生トルクとは、回生制御によって生じるモータ自身の回転抵抗によるトルクで、この回生トルクに基づいて自動変速機等の動力伝達経路を介して車輪に所定の制動トルクが加えられる。
【0019】
摩擦クラッチを介して回転機が接続される動力伝達経路に有段または無段の自動変速機が配設される場合、その自動変速機は、車両停止直前に摩擦クラッチが解放された後に、例えば変速比が最も大きい第1速ギヤ段或いは最大変速比等の発進時変速状態まで変速される。また、回転機としてモータジェネレータが用いられる場合に、そのモータジェネレータによってクリープトルクを発生させる場合、車両停止直前に制動トルクの振り替えにより回生トルクが0とされるとともに摩擦クラッチが解放された後に、そのモータジェネレータを力行制御して所定のクリープトルクを発生させるように制御することが望ましい。このクリープトルクそのものは摩擦クラッチを係合させたままでも発生させることができるが、例えばモータジェネレータに機械的に連結されたオイルポンプを回転駆動して所定の油圧を発生させるために、車両停止時でもモータジェネレータを所定の回転速度で回転させる場合には、摩擦クラッチをスリップ制御してクリープトルクを伝達するか、摩擦クラッチを解放するとともにトルクコンバータ等の流体式伝動装置を介してクリープトルクを伝達する必要があり、車両停止直前に摩擦クラッチを解放する本発明は、このような場合に好適に適用される。摩擦クラッチを解放した後に変速機を発進時変速状態まで変速したり、モータジェネレータでクリープトルクを発生させたりする場合には、それ等の時間を考慮して制動トルクの振替制御の開始時間を早めに設定することになる。
【0020】
機械式ブレーキによる制動トルクの増加に対応して摩擦クラッチの係合トルクを漸減するとともに、回転機の回生トルクをその摩擦クラッチの係合トルク以上に保持しながら漸減する場合、例えば第2発明のように摩擦クラッチの前後の回転速度差が所定の目標回転速度差となるように回転機の回生トルクをフィードバック制御することが望ましいが、第1発明の実施に際しては、回転機の回生トルク指令値を摩擦クラッチの係合トルク指令値よりも所定値だけ大きいトルク値として回転機の回生トルク制御を行うようにしても良い。第2発明の目標回転速度差は、回転機の回生トルクが摩擦クラッチの係合トルクよりも小さくなって制動トルク不足を生じることがなく、且つ回転機の回転速度が極端に低下することがないように定められ、例えば数十〜数百rpm程度の範囲内の一定値が設定される。第3発明のフィードフォワード値は、摩擦クラッチの係合トルク指令値と同じトルク値であっても良いが、回転機の回生トルクが摩擦クラッチの係合トルクよりも小さくなることを回避する上で、摩擦クラッチの係合トルク指令値に所定値を加算したトルク値としても良い。
【0021】
第4発明では、機械式ブレーキによる制動トルクの増加に対応して回転機の回生トルクを漸減するとともに、摩擦クラッチの係合トルクをその回転機の回生トルク以上に保持しながら漸減する場合で、例えば摩擦クラッチの係合トルク指令値を回転機の回生トルク指令値よりも所定値だけ大きいトルク値として摩擦クラッチの係合トルク制御を行えば良い。
【実施例1】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両10の駆動系統の骨子図を含む概略構成図である。このハイブリッド車両10は、燃料の燃焼で動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン12と、電動モータおよび発電機として機能するモータジェネレータMGとを駆動力源として備えている。そして、それ等のエンジン12およびモータジェネレータMGの出力は、流体式伝動装置であるトルクコンバータ14からタービン軸16、C1クラッチ18を経て自動変速機20に伝達され、更に出力軸22、差動歯車装置24を介して左右の駆動輪26に伝達される。トルクコンバータ14は、ポンプ翼車とタービン翼車とを直結するロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)30を備えているとともに、ポンプ翼車にはオイルポンプ32が一体的に接続されており、エンジン12やモータジェネレータMGによって機械的に回転駆動されるようになっている。上記モータジェネレータMGは回転機に相当する。また、ロックアップクラッチ30は、そのモータジェネレータMGを動力伝達経路に対して接続遮断する摩擦クラッチに相当し、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等によって係合解放されるとともに、その係合トルク(L/Uクラッチトルク)が連続的に変化させられる。
【0023】
上記エンジン12とモータジェネレータMGとの間には、ダンパ38を介してそれ等を直結するK0クラッチ34が設けられている。このK0クラッチ34は、油圧シリンダによって摩擦係合させられる単板式或いは多板式の摩擦クラッチで、コストや耐久性等の観点からトルクコンバータ14の油室40内に油浴状態で配設されている。K0クラッチ34は油圧式摩擦係合装置で、エンジン12を動力伝達経路に接続したり遮断したりする断接装置として機能する。モータジェネレータMGは、インバータ42を介してバッテリー44に接続されている。また、前記自動変速機20は、複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチやブレーキ)の係合解放状態によって変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる遊星歯車式等の有段の自動変速機で、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等によって変速制御が行われる。C1クラッチ18は自動変速機20の入力クラッチとして機能するもので、同じく油圧制御装置28によって係合解放制御される。
【0024】
前記駆動輪26および図示しない従動輪には、それぞれ油圧シリンダによって機械的に制動トルク(以下、ECB〔電子制御ブレーキ〕トルクともいう)を発生させる油圧ブレーキ62が設けられており、油圧ブレーキ制御装置60によってその制動トルクが制御されるようになっている。油圧ブレーキ制御装置60は電磁式の油圧制御弁や切換弁等を備えており、電子制御装置70から出力されるブレーキ制御信号に従って油圧ブレーキ62の制動トルクを電気的に制御する。油圧ブレーキ62は機械式ブレーキに相当する。
【0025】
電子制御装置70は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどを有する所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。この電子制御装置70には、アクセル操作量センサ46からアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)Accを表す信号が供給されるとともに、ブレーキ踏力センサ48からブレーキペダルの踏力(ブレーキ踏力)Brkを表す信号が供給される。また、エンジン回転速度センサ50、MG回転速度センサ52、タービン回転速度センサ54、車速センサ56から、それぞれエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NE、モータジェネレータMGの回転速度(MG回転速度)NMG、タービン軸16の回転速度(タービン回転速度)NT、出力軸22の回転速度(出力軸回転速度で車速Vに対応)NOUTが供給される。この他、各種の制御に必要な種々の情報が供給されるようになっている。
【0026】
上記電子制御装置70は、機能的にハイブリッド制御手段72、変速制御手段74、クリープ制御手段76、制動制御手段80を備えている。ハイブリッド制御手段72は、エンジン12およびモータジェネレータMGの作動を制御することにより、例えばエンジン12のみを駆動力源として走行するエンジン走行モードや、モータジェネレータMGのみを駆動力源として走行するモータ走行モード、それ等の両方を用いて走行するエンジン+モータ走行モード等の予め定められた複数の走行モードを、アクセル操作量(運転者の要求駆動力)Accや車速V等の運転状態に応じて切り換えて走行する。また、変速制御手段74は、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等を制御して複数の油圧式摩擦係合装置の係合解放状態を切り換えることにより、自動変速機20の複数のギヤ段を、アクセル操作量Accや車速V等の運転状態をパラメータとして予め定められた変速マップに従って切り換える。
【0027】
クリープ制御手段76は、車両停止状態を含む予め定められた低車速時に、前記ロックアップクラッチ30を解放した状態でモータジェネレータMGを所定のクリープ力行トルクtcreep(図4参照)で作動させるクリープ制御を実行することにより、トルクコンバータ14を介して所定のクリープトルクを発生させる。このクリープ力行トルクtcreepは、例えばMG回転速度NMGがエンジン12のアイドル回転速度と略同じ回転速度となるように定められ、これによりK0クラッチ34が遮断されてエンジン12が切り離されたモータ走行モードにおいても、エンジン走行モード時のエンジンアイドル時と同程度のクリープトルクを発生させることができる。また、このクリープ制御でオイルポンプ32が回転駆動されることにより、エンジン走行モード時のエンジンアイドル時と同様に、自動変速機20の所定のギヤ段(第1速ギヤ段等)を成立させるのに必要な所定の油圧が確保される。
【0028】
制動制御手段80は、ブレーキペダルの踏込み操作等による要求制動トルクに応じて、その要求制動トルクが得られるようにモータジェネレータMGおよび油圧ブレーキ制御装置60を制御する。すなわち、ブレーキ踏力Brk等に応じて求められる全体の要求制動トルクを駆動輪26側および図示しない従動輪側に分配し、その駆動輪26側に対する要求制動トルクをモータジェネレータMGの回生制御(発電制御ともいう)による制動トルクと油圧ブレーキ62による制動トルクとの両方で分担するようにそれ等の分担量を制御するのであり、機能的に制動トルク分担制御手段82および振替制御手段84を備えている。制動トルク分担制御手段82は、例えばモータジェネレータMGの回生トルクが最大回生トルクtmgmxに達するまではモータジェネレータMGによる制動トルクのみで制動し、モータジェネレータMGによる制動トルクだけでは要求制動トルクに達しない場合に、その不足分を油圧ブレーキ62による制動トルク(ECBトルク)で補完する。これにより、車両の減速時にモータジェネレータMGの回生制御で所定の制動トルクを発生させつつバッテリ44を効率良く充電することができる。図4のタイムチャートの初期状態(時間t1よりも前)は、このようにモータジェネレータMGが最大回生トルクtmgmxとされ、不足分がECBトルクで補完されている場合である。なお、モータジェネレータMGによる制動トルクが得られない従動輪側の制動トルクについては、油圧ブレーキ62によって所定の制動トルクが得られるように制御される。
【0029】
振替制御手段84は、車両の停止直前に、上記制動トルク分担制御手段82による分担制御に優先して、モータジェネレータMGによる制動トルクを漸減して油圧ブレーキ62による制動トルクに振り替えるとともに、並行してロックアップクラッチ30の係合トルクを漸減するもので、図2のフローチャートに従って信号処理を実行する。図2のフローチャートの中、ステップS3〜S6が振替制御手段84に相当し、その中のステップS5は回転制御手段に相当する。
【0030】
図2のステップS1では、回生制御実行フラグがONか否か、すなわち制動トルク分担制御手段82による分担制御でモータジェネレータMGの回生制御を実行中か否かを判断する。そして、回生制御を実行中でなければそのまま終了するが、回生制御を実行中の場合はステップS2以下を実行する。ステップS2では、回生復帰制御実行フラグがONか否かを判断し、回生復帰制御実行フラグがONであればステップS3以下を実行するが、回生復帰制御実行フラグがONでなければステップS9を実行し、制動トルク分担制御手段82による分担制御に従ってモータジェネレータMGの回生制御を実行する。回生復帰制御実行フラグは、例えば出力軸回転速度NOUTが次式(1) を満足する場合にONとされる。
NOUT<TimA×ΔNOUT+NOUTs ・・・(1)
【0031】
上記(1) 式のTimAは予め定められた回生復帰所要時間で、図4のt1〜t2である。ΔNOUTは出力軸回転速度NOUTの減速度である。NOUTsは予め定められた回生復帰回転速度で、図4の時間t2における出力軸回転速度NOUTである。図4は、図2のフローチャートに従って回生復帰制御すなわち制動トルクの振替制御が実行された場合の各部のトルクや回転速度変化等を示すタイムチャートの一例で、時間t1で上記(1) 式を満足するようになって回生復帰制御実行フラグがONとなり、回生復帰制御が開始される。このように車両の減速度ΔNOUTに基づいて回生復帰制御を開始するか否かを判断することが望ましいが、回生復帰制御の開始条件は、少なくとも車両が停止する前に制動トルクを振り替えるとともにロックアップクラッチ30を解放できるように適宜設定される。なお、図4のトルクの欄のグラフは何れも出力軸22におけるトルクに換算したもので、回生復帰制御開始時t1におけるモータジェネレータMGの回生トルク(MGトルク)と回生復帰制御完了時t2におけるECBトルクとが略同じであり、回生復帰制御開始時t1ではECBトルク分だけ制動トルクが大きいが、これはブレーキ操作による要求制動トルクとは別にバッテリー44を充電するための回生トルクが付加されているためである。この付加回生トルクは、回生復帰制御時(t1〜t2)に漸減されて時間t2では0になる。図6および図7のタイムチャートも同様である。但し、以下の説明ではこの付加回生トルクを0として説明する。
【0032】
図2のステップS3では、液圧ブレーキ制御装置60に対して要求するECBトルクを所定の変化率で漸増する。これにより、液圧ブレーキ制御装置60によって制御されるECBトルクが漸増させられる。ECBトルクの変化率は、回生復帰制御開始時t1におけるMGトルク(図4では最大回生トルクtmgmx)を前記回生復帰所要時間TimAで割り算することによって求められる。但し、回生復帰制御開始時t1におけるMGトルクの大きさに拘らず、最大回生トルクtmgmxを回生復帰所要時間TimAで割り算した一定の変化率が予め定められても良い。
【0033】
ステップS4では、ロックアップクラッチ30の係合トルク(L/Uクラッチトルク)の漸減処理を行う。具体的には、要求制動トルクから上記ステップS3で求めたECB要求トルクを引き算してL/Uクラッチトルク指令値iTLUを求め、このL/Uクラッチトルク指令値iTLUに従ってL/Uクラッチトルクを制御する。したがって、このL/Uクラッチトルクは、ECBトルクの漸増に対して略対称的に減少するように漸減される。また、次のステップS5では、モータジェネレータMGのMGトルクをそのL/Uクラッチトルク以上(回生方向に大)に保持しながら漸減させる。すなわち、モータジェネレータMGのMGトルクに基づいて得られる制動トルクを、そのMGトルクより小さいL/Uクラッチトルクによって制御しながら油圧ブレーキ62によるECBブレーキに振り替えるのである。
【0034】
図3は、上記ステップS5の信号処理を説明する制御ブロック線図で、制御対象であるプラント92はモータジェネレータMGであり、ロックアップクラッチ30の前後の回転速度差ΔN、具体的にはMG回転速度NMGとタービン回転速度NTとの回転速度差(NMG−NT)を制御量として検出する。また、調節部90は、MG回転速度NMGの方がタービン回転速度NTよりも低回転となる予め定められた目標回転速度差tΔNと実際の回転速度差ΔNとの偏差(tΔN−ΔN)に所定のゲインk1を掛け算してフィードバック値fbを算出するもので、そのフィードバック値fbに所定のフィードフォワード値ffを加算してMGトルク指令値iTMGを求め、そのMGトルク指令値iTMGに従ってモータジェネレータMGのトルク制御が行われる。これにより、回転速度差ΔNが予め定められた目標回転速度差tΔNとなるようにMGトルクが制御され、MG回転速度NMGがタービン回転速度NTよりも目標回転速度差tΔNだけ低い回転速度となるようにMGトルクがL/Uクラッチトルク以上に保持されるとともに、ロックアップクラッチ30がスリップ状態に保持され、MGトルクに基づいて得られる制動トルクがL/Uクラッチトルクによって規定される。次式(2) は、上記MGトルク指令値iTMGの演算式で、k1×{tΔN−(NMG−NT)}はフィードバック値fbに相当する。このフィードバック値fbは、回転速度差ΔNが予め定められた目標回転速度差tΔNとなるようにMGトルクを制御するフィードバック制御の補正値である。
iTMG=k1×{tΔN−(NMG−NT)}+ff ・・・(2)
【0035】
ここで、上記目標回転速度差tΔNは、MGトルクがL/Uクラッチトルクよりも小さくなって制動トルク不足を生じることがなく、且つMG回転速度NMGが極端に低下することがないように、例えば数十〜数百rpm程度の範囲内の一定値が予め定められる。また、フィードフォワード値ffとしては、回転速度差ΔNが目標回転速度差tΔNとなるようにMGトルクが速やかに制御され、MGトルクがL/Uクラッチトルク以上とされてロックアップクラッチ30がスリップ状態に保持されるようにする上で、前記L/Uクラッチトルク指令値iTLUに基づいて設定することが望ましい。具体的には、例えばそのL/Uクラッチトルク指令値iTLUがそのままフィードフォワード値ffとして設定されるが、MGトルクがL/Uクラッチトルクよりも小さくなって制動トルクが不足することを回避する上で、L/Uクラッチトルク指令値iTLUに所定値を加算したトルク値をフィードフォワード値ffとして用いることもできる。
【0036】
図2に戻って、次のステップS6では、L/Uクラッチトルクが0になったか否かを判断し、L/Uクラッチトルク=0になるまでステップS1〜S5が繰り返し実行されることにより、ECBトルクが漸増されるとともにL/Uクラッチトルクが漸減され、そのL/Uクラッチトルクの低下に応じてMGトルクが漸減される。そして、L/Uクラッチトルク=0になると、モータジェネレータMGによる制動トルクが総て油圧ブレーキ62によるECBトルクに振り替えられて一連の振替制御が終了し、ステップS6に続いてステップS7、S8を実行することにより、回生制御実行フラグおよび回生復帰制御実行フラグを何れもOFFにする。
【0037】
図4の時間t2は、振替制御手段84によってモータジェネレータMGによる制動トルクが総て油圧ブレーキ62によるECBトルクに振り替えられた時間である。その後、出力軸回転速度NOUTが更に低下すると、停車後の発進に備えて時間t3で自動変速機20を第1速ギヤ段等の発進時変速状態までダウンシフトするための変速指令(図では3→1変速)が出力され、それに伴って自動変速機20がダウンシフトされるとともに、時間t4で、前記クリープ制御手段76によるクリープ制御が開始され、MGトルクがクリープ力行トルクtcreepまで滑らかに増大させられる。
【0038】
このように、本実施例のハイブリッド車両10においては、制動トルク分担制御手段82によって要求制動トルクがモータジェネレータMGのMGトルクによる制動トルクと油圧ブレーキ62によるECBトルクとの両方で分担するが、車両の停止直前にMGトルクによる制動トルクをECBトルクに振り替える際には、ECBトルクを漸増させるとともに、そのECBトルクの増加に対応してロックアップクラッチ30の係合トルク(L/Uクラッチトルク)を漸減し、且つ、モータジェネレータMGのMGトルクをL/Uクラッチトルク以上に保持しながら漸減する。すなわち、MGトルクに基づいて得られる制動トルクをL/Uクラッチトルクによって制御しながらECBトルクに振り替えるのであり、駆動力変動等のショックを生じることなくモータジェネレータMGの回生制御による制動トルクを滑らかにECBトルクに振り替えることができる。
【0039】
その場合に、上記制動トルクの振り替えと並行してロックアップクラッチ30のL/Uクラッチトルクが漸減されるため、制動トルクの振替制御の開始時間をそれだけ遅く(低車速)することが可能で、モータジェネレータMGの回生制御による制動トルクの付与を低車速まで実施できるようになり、そのモータジェネレータMGの回生制御によるエネルギー取得が増大してエネルギー回収効率が向上する。また、ロックアップクラッチ30のL/Uクラッチトルクについても、制動トルクの振り替えと同様に滑らかに漸減されるため、歯車のバックラッシ等に起因する異音の発生が抑制される。
【0040】
また、本実施例では、ロックアップクラッチ30の前後の回転速度差ΔNが予め定められた目標回転速度差tΔNとなるようにモータジェネレータMGのMGトルクをフィードバック制御することにより、そのMGトルクをL/Uクラッチトルク以上に保持しながら漸減するため、MGトルクに基づいて得られる制動トルクを適切に確保しつつMG回転速度NMGが極端に低下することが防止される。これにより、そのモータジェネレータMGによって機械的に回転駆動されるオイルポンプ32の油圧出力が適切に維持され、回転速度の低下による油圧不足が回避される。
【0041】
また、本実施例では、ロックアップクラッチ30のL/Uクラッチトルク指令値iTLUに基づいて定められたフィードフォワード値ffにフィードバック値fbを加算してMGトルク指令値iTMGを算出し、そのMGトルク指令値iTMGに従ってMGトルクを制御するため、ロックアップクラッチ30の前後の回転速度差ΔNが目標回転速度差tΔNとなるようにMGトルクが速やかに制御される。これにより、MGトルクがL/Uクラッチトルクよりも小さくなって制動トルクが不足したり、MG回転速度NMGが極端に低下してオイルポンプ32の油圧出力が損なわれたりすることを適切に防止しつつ、L/Uクラッチトルクの低下に追従してMGトルクが低下させられる。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0043】
図5は、前記振替制御手段84の別の態様を説明する図で、前記図2の代わりに実施されるフローチャートである。この図5のフローチャートのステップR1〜R3、R6〜R9は、それぞれ図2のフローチャートのステップS1〜S3、S6〜S9と同じであり、ステップR4およびR5だけが相違する。また、図6は、この図5のフローチャートに従って回生復帰制御すなわち制動トルクの振替制御が実施された場合の各部のトルク変化や回転速度変化等を示すタイムチャートの一例で、前記図4に対応する図である。
【0044】
図5のステップR4は、ステップR3におけるECB要求トルクの漸増処理に対応してモータジェネレータMGのMGトルクの漸減処理を行うもので、具体的には要求制動トルクからステップR3で求めたECB要求トルクを引き算してMGトルク指令値iTMGを求め、このMGトルク指令値iTMGに従ってモータジェネレータMGのMGトルクを制御する。したがって、このMGトルクは、ECBトルクの漸増に対して略対称的に減少するように漸減される。また、次のステップR5では、ロックアップクラッチ30のL/Uクラッチトルクを、そのMGトルク以上に保持しながら漸減する。具体的には、上記MGトルク指令値iTMGに予め定められた所定値αを加算してL/Uクラッチトルク指令値iTLUを求め、そのL/Uクラッチトルク指令値iTLUに従ってロックアップクラッチ30のL/Uクラッチトルクを制御するのである。すなわち、この実施例では、ロックアップクラッチ30を完全係合させたまま、MGトルクおよびL/Uクラッチトルクをそれぞれ漸減させて制動トルクの振り替えを行うのであり、所定値αは、ロックアップクラッチ30を完全係合状態に維持できるように予め一定値が定められる。
【0045】
本実施例においても、車両の停止直前にMGトルクによる制動トルクをECBトルクに振り替える際に、ECBトルクを漸増させるとともに、そのECBトルクの増加に対応してモータジェネレータMGのMGトルクを漸減し、且つ、ロックアップクラッチ30のL/UクラッチトルクをMGトルク以上に保持しながら漸減するため、駆動力変動等のショックや歯車のバックラッシ等に起因する異音の発生を防止しつつモータジェネレータMGの回生制御による制動トルクを滑らかにECBトルクに振り替えることができる。その場合に、上記制動トルクの振り替えと並行してロックアップクラッチ30のL/Uクラッチトルクが漸減されるため、制動トルクの振替制御の開始時間をそれだけ遅く(低車速)することが可能で、モータジェネレータMGの回生制御による制動トルクの付与を低車速まで実施できるようになり、そのモータジェネレータMGの回生制御によるエネルギー取得が増大してエネルギー回収効率が向上する、という前記実施例と同様の効果が得られる。
【0046】
なお、この実施例では、MGトルクが0になってもL/Uクラッチトルクは所定値αのトルクを有するため、MGトルク=0になった後も、L/Uクラッチトルクをそれまでの変化率と略同じ変化率で漸減して0にすることにより、ロックアップクラッチ30を解放する。このため、回生復帰所要時間TimAは、L/Uクラッチトルクを所定値αから0にするのに必要なL/Uクラッチ解放時間TimBだけ前記実施例よりも長くなる。
【0047】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0048】
10:ハイブリッド車両(車両) 30:ロックアップクラッチ(摩擦クラッチ) 60:油圧ブレーキ制御装置(ブレーキ制御装置) 62:油圧ブレーキ(機械式ブレーキ) 70:電子制御装置 80:制動制御手段 82:制動トルク分担制御手段 84:振替制御手段 MG:モータジェネレータ(回転機) ff:フィードフォワード値 fb:フィードバック値(補正値) ΔN:回転速度差 tΔN:目標回転速度差
ステップS5:回転制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも発電機として機能して回生トルクにより制動トルクを発生させることができる回転機と、
該回転機を動力伝達経路に対して接続遮断するとともに、係合トルクを連続的に変化させることができる摩擦クラッチと、
車輪に設けられた機械式ブレーキの制動トルクを電気的に制御するブレーキ制御装置と、
要求制動トルクを前記回転機による制動トルクおよび前記機械式ブレーキによる制動トルクの両方で分担する制動トルク分担制御手段と、
を有する車両の制動制御装置において、
車両の停止直前に、前記制動トルク分担制御手段による制御に優先して、前記回転機による制動トルクを漸減して前記機械式ブレーキによる制動トルクに振り替えるとともに、並行して前記摩擦クラッチの係合トルクを漸減する振替制御手段を備えており、
且つ、該振替制御手段は、前記機械式ブレーキによる制動トルクの増加に対応して前記摩擦クラッチの係合トルクを漸減するとともに、前記回転機の回生トルクを該摩擦クラッチの係合トルク以上に保持しながら漸減し、該回転機による制動トルクを該摩擦クラッチの係合トルクによって制御しながら前記機械式ブレーキによる制動トルクに振り替える
ことを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記振替制御手段は、前記摩擦クラッチの前後の回転速度差が、前記回転機側の回転速度の方が低い予め定められた目標回転速度差となるように、該回転機の回生トルクをフィードバック制御することにより、該回転機の回生トルクを該摩擦クラッチの係合トルク以上に保持しながら漸減する回転制御手段を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制動制御装置。
【請求項3】
前記回転制御手段は、前記摩擦クラッチの係合トルク指令値に基づいて定められたフィードフォワード値に前記フィードバック制御による補正値を加算して前記回転機の回生トルクを制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両の制動制御装置。
【請求項4】
少なくとも発電機として機能して回生トルクにより制動トルクを発生させることができる回転機と、
該回転機を動力伝達経路に対して接続遮断するとともに、係合トルクを連続的に変化させることができる摩擦クラッチと、
車輪に設けられた機械式ブレーキの制動トルクを電気的に制御するブレーキ制御装置と、
要求制動トルクを前記回転機による制動トルクおよび前記機械式ブレーキによる制動トルクの両方で分担する制動トルク分担制御手段と、
を有する車両の制動制御装置において、
車両の停止直前に、前記制動トルク分担制御手段による制御に優先して、前記回転機による制動トルクを漸減して前記機械式ブレーキによる制動トルクに振り替えるとともに、並行して前記摩擦クラッチの係合トルクを漸減する振替制御手段を備えており、
且つ、該振替制御手段は、前記機械式ブレーキによる制動トルクの増加に対応して前記回転機の回生トルクを漸減するとともに、前記摩擦クラッチの係合トルクを該回転機の回生トルク以上に保持しながら漸減する
ことを特徴とする車両の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−188023(P2012−188023A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53637(P2011−53637)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】