説明

車両の制御装置および制御方法

【課題】アップシフト変速時にトルクダウン制御を実行するとともに係合側摩擦要素の油圧学習を行なう車両において、学習初期の変速ショックを抑制しつつ、変速時間を短縮する。
【解決手段】ECUは、アップシフト変速制御中(S500にてYES)にパワーオン状態(S502にてYES)で、トルクダウン開始条件が成立すると(S504にてYES)、エンジントルクダウンを開始する(S506)。さらに、ECUは、入力軸回転数NTとアップシフト後の同期回転数との差βを算出し(S508)、係合側摩擦係合要素の油圧制御に用いられる目標油圧の学習進度を判断し(S510、S516)、学習が進んでいる場合は進んでいない場合に比べて、差βに応じたトルク復帰開始タイミングを早めるとともに、トルク増加率を小さくする(S512、S514、S518、S520、S522、S524)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機を備えた車両の制御に関し、特に、動力源から車輪側へ動力伝達される状態(以下、パワーオン状態とも記載する)におけるアップシフト変速時に動力源の出力トルクを一時的に低下させるトルクダウン制御を実行する車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機におけるアップシフトを短時間で終了させるために、パワーオン状態におけるアップシフト変速時に、エンジントルクを一時的に低下させるトルクダウン制御が実行される場合がある。たとえば、特開平10−184410号公報(特許文献1)には、係合側クラッチに供給される油圧に基づいてトルクダウン制御を行なう技術が開示されている。
【0003】
この公報に開示された制御装置は、複数の摩擦係合要素を係合あるいは解放することにより伝動経路を切換えて出力側に出力する自動変速機構と、摩擦係合要素の油圧を切換える油圧回路と、を備えてなる自動変速機の変速を制御する。
【0004】
この制御装置は、入力側の回転数を検出する入力回転数検出部と、摩擦係合要素の油圧を調圧する調圧部と、エンジンの出力トルクを操作するエンジン操作部と、係合側摩擦係合要素の油圧が入力側の回転変化を生じる直前(イナーシャ相開始直前)の目標油圧に達する前に、調圧部に係合側摩擦係合要素の油圧サーボへの油圧上昇指令を発する油圧制御部と、係合側摩擦係合要素の油圧が目標油圧に達することに同期して、エンジン操作部にトルクダウン指令を発するエンジン制御部とを含む。
【0005】
エンジン制御部は、入力軸回転数が変速後の同期回転数にほぼ到達した時点(変速がほぼ終了した時点)で、低下していたエンジントルクを増加(復帰)させる。油圧制御部は、目標油圧に達した時点での入力側回転変化の目標とする目標回転変化率を算出し、入力回転数検出部の検出値に基づき、入力側回転数の回転変化開始時における回転変化率を算出し、目標回転変化率と回転変化率とに基づき、目標油圧を学習補正する。
【0006】
この公報に開示された制御装置によると、係合側摩擦係合要素の油圧がイナーシャ相開始直前の状態の目標油圧に達した時点でトルクダウンを開始することで、イナーシャトルクが発生する前にトルクダウンを開始させることができる。そのため、係合初期での出力軸トルクの変動を抑制することができ、ショックを低減することができる。
【0007】
さらに、実際の回転変化率を目標回転変化率と比較し、その比較値に基づき目標油圧を学習補正することで、常に回転変化が生じる直前に目標油圧を設定することがができる。そのため、最適なトルクダウン制御を行うことができる。
【特許文献1】特開平10−184410号公報
【特許文献2】特開2005−273468号公報
【特許文献3】特許第3536343号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された制御装置のように、入力軸回転数が変速後の同期回転数にほぼ到達した時点でエンジントルクを復帰する場合、目標油圧の学習初期において以下のような問題がある。
【0009】
すなわち、摩擦係合要素のトルク容量は、摩擦材の個体差などによって各摩擦係合要素ごとにばらつく。したがって、学習の初期段階においては、実際の回転変化率が目標回転変化率に収束しておらず、入力軸回転数が目標回転変化率よりも大きい変化率で急激に低下する場合がある。
【0010】
このような場合において、入力軸回転数が変速後の同期回転数にほぼ到達するタイミングまでトルクダウンを継続すると、トルク復帰指令に対する実トルクの復帰遅れ等の影響で、実トルクの復帰が変速終了(入力軸回転数が変速後の同期回転数に到達するタイミング)に間に合わなくなり、出力軸トルクの低下によるショック(引き込みショック)が生じる場合がある。
【0011】
特許文献1には、このような油圧学習の初期段階における変速ショックを抑制する技術については、なんら開示されていない。
【0012】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、パワーオンアップシフト変速時において、トルクダウン制御を実行するとともに係合側摩擦要素の油圧学習を行なう車両において、学習初期の変速ショックを抑制しつつ、変速時間を短縮することができる制御装置および制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明に係る制御装置は、動力源と、入力軸が動力源に接続された自動変速機とを備えた車両を制御する。自動変速機には、アップシフト変速時に係合される摩擦係合要素と、摩擦係合要素の作動油圧を調圧する調圧機構とが備えられる。制御装置は、アップシフト変速中において、アップシフト変速におけるイナーシャ相が開始されると推定される油圧値に基づいて作動油圧を調圧するように、調圧機構を制御するための油圧制御手段と、入力軸の回転数を検出するための検出手段と、検出手段によって検出された回転数の、イナーシャ相における減少率を算出するための算出手段と、算出手段によって算出された減少率が予め定められた目標減少率に収束するように、油圧値を補正して学習するための学習手段と、アップシフト変速時に予め定められた条件が成立すると、動力源の出力トルクを一時的に低下させるための低下手段と、減少率の目標減少率への収束度合いに基づいて、低下手段によって低下された出力トルクを復帰させるための復帰手段とを含む。第9の発明に係る制御方法は、第1の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0014】
第2の発明に係る制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、復帰手段は、収束度合いに基づいて、学習手段による油圧値の学習の達成度を判断するための達成度判断手段と、達成度判断手段によって判断された達成度に応じて、低下された出力トルクを復帰させるためのトルク復帰手段とを含む。第10の発明に係る制御方法は、第2の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0015】
第3の発明に係る制御装置においては、第2の発明の構成に加えて、トルク復帰手段は、達成度に応じて、低下された出力トルクを復帰させる際のトルク増加開始タイミングおよびトルク増加率の少なくともいずれかを変更する。第11の発明に係る制御方法は、第3の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0016】
第4の発明に係る制御装置においては、第3の発明の構成に加えて、トルク復帰手段は、達成度が未達成側である場合は達成側である場合に比べて、トルク増加開始タイミングを早くする。第12の発明に係る制御方法は、第4の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0017】
第5の発明に係る制御装置においては、第4の発明の構成に加えて、トルク復帰手段は、達成度が未達成側である場合は達成側である場合に比べて、トルク増加開始タイミングを早くすることに加えて、トルク増加率を小さくする。第13の発明に係る制御方法は、第5の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0018】
第6の発明に係る制御装置においては、第3の発明の構成に加えて、トルク復帰手段は、達成度が達成側である場合は未達成側である場合に比べて、トルク増加率を大きくする。第14の発明に係る制御方法は、第6の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0019】
第7の発明に係る制御装置は、第3〜6のいずれかの発明の構成に加えて、制御装置は、トルク復帰手段によってトルク増加開始タイミングおよびトルク増加率の少なくともいずれかが達成度に応じて変更されたことに対応させて、目標減少率を変更するための手段をさらに含む。第15の発明に係る制御方法は、第7の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【0020】
第8の発明に係る制御装置においては、第1〜7のいずれかの発明の構成に加えて、油圧制御手段は、作動油圧を調圧するための油圧指令値を調圧機構に出力するための手段と、油圧指令値が油圧値を超えるまでは、第1の増加率で油圧指令値を増加するための手段と、油圧指令値が油圧値を超えると、第1の増加率よりも小さい第2の増加率で油圧指令値を増加するための手段とを含む。第16の発明に係る制御方法は、第8の発明に係る制御装置と同様の要件を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、トルクダウン制御で低下された駆動源の出力トルクが、入力軸回転数の減少率の目標減少率への収束度合いに基づいて復帰される。すなわち、油圧値の学習の達成度に応じて、出力トルクの復帰開始タイミングやトルク増加率が変更される。そのため、たとえば、学習初期(学習の達成度が低い場合)ではトルク復帰を早めに開始することによってトルク復帰遅れによる引き込みショックを抑制し、学習の達成度の向上に応じてトルク復帰開始タイミングを徐々に遅らせることによって変速時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0023】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両について説明する。この車両は、FR(Front engine Rear drive)車両である。なお、FR以外の車両であってもよい。
【0024】
車両は、エンジン1000と、オートマチックトランスミッション2000と、トルクコンバータ2100と、オートマチックトランスミッション2000の一部を構成するプラネタリギヤユニット3000と、オートマチックトランスミッション2000の一部を構成する油圧回路4000と、プロペラシャフト5000と、デファレンシャルギヤ6000と、ドライブシャフト6100と、後輪7000と、ECU(Electronic Control Unit)8000とを含む。
【0025】
エンジン1000は、インジェクタ(図示せず)から噴射された燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させる内燃機関である。燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、クランクシャフトが回転させられる。エンジン1000の駆動力により、オルタネータおよびエアコンディショナーなどの補機1004が駆動される。なお、エンジン1000の代わりにもしくは加えて、動力源にモータを用いるようにしてもよい。
【0026】
オートマチックトランスミッション2000は、トルクコンバータ2100を経由してエンジン1000に連結される。オートマチックトランスミッション2000は、所望のギヤ段を形成することにより、クランクシャフトの回転数を所望の回転数に変速する。
【0027】
オートマチックトランスミッション2000から出力された駆動力は、プロペラシャフト5000、デファレンシャルギヤ6000およびドライブシャフト6100を経由して、左右の後輪7000に伝達される。
【0028】
ECU8000には、車速センサ8002と、シフトレバー8004のポジションスイッチ8006と、アクセルペダル8008のアクセル開度センサ8010と、ブレーキペダル8012の踏力センサ8014と、電子スロットルバルブ8016のスロットル開度センサ8018と、エンジン回転数センサ8020と、入力軸回転数センサ8022と、出力軸回転数センサ8024とがハーネスなどを経由して接続されている。
【0029】
車速センサ8002は、ドライブシャフト6100の回転数から車速Vを検出する。ポジションスイッチ8006は、シフトレバー8004の位置(シフトポジション)SPを検出する。アクセル開度センサ8010は、アクセルペダル8008の開度(アクセル開度)ACCを検出する。踏力センサ8014は、ブレーキペダル8012の踏力(運転者がブレーキペダル8012を踏む力)を検出する。スロットル開度センサ8018は、電子スロットルバルブ8016の開度(スロットル開度)THを検出する。エンジン回転数センサ8020は、エンジン1000のクランクシャフトの回転数(エンジン回転数)NEを検出する。入力軸回転数センサ8022は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸回転数(トルクコンバータ2100のタービン回転数)NTを検出する。出力軸回転数センサ8024は、オートマチックトランスミッション2000の出力軸の回転数(出力軸回転数)NOUTを検出する。これらの各センサは、検出結果を表わす信号をECU8000に送信する。
【0030】
ECU8000は、車速センサ8002、ポジションスイッチ8006、アクセル開度センサ8010、踏力センサ8014、スロットル開度センサ8018、エンジン回転数センサ8020、入力軸回転数センサ8022、出力軸回転数センサ8024などから送られてきた信号、ROMに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両が所望の走行状態となるように、機器類を制御する。
【0031】
本実施の形態において、ECU8000は、シフトレバー8004がD(ドライブ)ポジションであることにより、オートマチックトランスミッション2000のシフトレンジにD(ドライブ)レンジが選択された場合、前進1速〜8速ギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されるように、オートマチックトランスミッション2000を制御する。前進1速〜8速ギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されることにより、オートマチックトランスミッション2000は後輪7000に駆動力を伝達し得る。形成するギヤ段は、車速とアクセル開度とをパラメータとして実験等により予め作成された変速線図に基づいて決定される。
【0032】
なお、Dレンジにおいて形成可能なギヤ段は、前進1速〜8速ギヤに限定されず、たとえば、前進1速〜8速ギヤであってもよいし、8速ギヤ段よりも高速のギヤ段を形成可能であるようにしてもよい。
【0033】
また、本実施の形態においては、ECU8000が1つのユニットとして説明するが、ECU8000を2つ以上のユニットに分割するようにしてもよい。たとえば、ECU8000がエンジン1000を制御するエンジンECUと、オートマチックトランスミッション2000を制御するECT(Electronic Controlled Transmission)_ECUとを含むようにし、エンジンECUとECT_ECUとが互いに信号を送受信可能であるように構成するようにしてもよい。
【0034】
図2を参照して、プラネタリギヤユニット3000について説明する。プラネタリギヤユニット3000は、クランクシャフトに連結された入力軸2102を有するトルクコンバータ2100に接続されている。
【0035】
プラネタリギヤユニット3000は、フロントプラネタリ3100と、リアプラネタリ3200と、C1クラッチ3301と、C2クラッチ3302と、C3クラッチ3303と、C4クラッチ3304と、B1ブレーキ3311と、B2ブレーキ3312と、ワンウェイクラッチ(F)3320とを含む。
【0036】
フロントプラネタリ3100は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構である。フロントプラネタリ3100は、第1サンギヤ(S1)3102と、1対の第1ピニオンギヤ(P1)3104と、キャリア(CA)3106と、リングギヤ(R)3108とを含む。
【0037】
第1ピニオンギヤ(P1)3104は、第1サンギヤ(S1)3102および第1リングギヤ(R)3108と噛合っている。第1キャリア(CA)3106は、第1ピニオンギヤ(P1)3104が公転および自転可能であるように支持している。
【0038】
第1サンギヤ(S1)3102は、回転不能であるようにギヤケース3400に固定される。第1キャリア(CA)3106は、プラネタリギヤユニット3000の入力軸3002に連結される。
【0039】
リアプラネタリ3200は、ラビニヨ型の遊星歯車機構である。リアプラネタリ3200は、第2サンギヤ(S2)3202と、第2ピニオンギヤ(P2)3204と、リアキャリア(RCA)3206と、リアリングギヤ(RR)3208と、第3サンギヤ(S3)3210と、第3ピニオンギヤ(P3)3212とを含む。
【0040】
第2ピニオンギヤ(P2)3204は、第2サンギヤ(S2)3202、リアリングギヤ(RR)3208および第3ピニオンギヤ(P3)3212と噛合っている。第3ピニオンギヤ(P3)3212は、第2ピニオンギヤ(P2)3204に加えて、第3サンギヤ(S3)3210と噛合っている。
【0041】
リアキャリア(RCA)3206は、第2ピニオンギヤ(P2)3204および第3ピニオンギヤ(P3)3212が公転および自転可能であるように支持している。リアキャリア(RCA)3206は、ワンウェイクラッチ(F)3320に連結される。リアキャリア(RCA)3206は、1速ギヤ段の駆動時(エンジン1000から出力された駆動力を用いた走行時)に回転不能となる。リアリングギヤ(RR)3208は、プラネタリギヤユニット3000の出力軸3004に連結される。
【0042】
ワンウェイクラッチ(F)3320は、B2ブレーキ3312と並列に設けられる。すなわち、ワンウェイクラッチ(F)3320のアウターレースはギヤケース3400に固定され、インナーレースはリアキャリア(RCA)3206に連結される。
【0043】
図3に、各変速ギヤ段と、各クラッチおよび各ブレーキの作動状態との関係を表した作動表を示す。この作動表に示された組み合わせで各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより、前進1速〜8速のギヤ段と、後進1速および2速のギヤ段が形成される。
【0044】
たとえば、2速のギヤ段を形成する場合、ECU8000は、C1クラッチ3301およびB1ブレーキ3311を係合させ、他のクラッチおよびブレーキを解放させる。
【0045】
また、たとえば、2速から3速にアップシフトする場合、ECU8000は、C1クラッチ3301を係合状態に維持しつつ、B1ブレーキ3311の係合油圧を減少させてB1ブレーキ3311を解放させるとともに、C3クラッチ3303の係合油圧を増加させてC3クラッチ3303を係合させる。
【0046】
図4を参照して、油圧回路4000の要部について説明する。なお、油圧回路4000は、以下に説明するものに限られない。
【0047】
油圧回路4000は、オイルポンプ4004と、プライマリレギュレータバルブ4006と、マニュアルバルブ4100と、ソレノイドモジュレータバルブ4200と、SL1リニアソレノイド(以下、SL(1)と記載する)4210と、SL2リニアソレノイド(以下、SL(2)と記載する)4220と、SL3リニアソレノイド(以下、SL(3)と記載する)4230と、SL4リニアソレノイド(以下、SL(4)と記載する)4240と、SL5リニアソレノイド(以下、SL(5)と記載する)4250と、SLTリニアソレノイド(以下、SLTと記載する)4300と、B2コントロールバルブ4500とを含む。
【0048】
オイルポンプ4004は、エンジン1000のクランクシャフトに連結されている。クランクシャフトが回転することにより、オイルポンプ4004が駆動し、油圧を発生する。
【0049】
オイルポンプ4004で発生した油圧は、プライマリレギュレータバルブ4006により調圧され、ライン圧が生成される。プライマリレギュレータバルブ4006は、SLT4300により調圧されたスロットル圧をパイロット圧として作動する。ライン圧は、ライン圧油路4010を経由してマニュアルバルブ4100に供給される。
【0050】
マニュアルバルブ4100は、ドレンポート4105を含む。ドレンポート4105から、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104の油圧が排出される。
【0051】
マニュアルバルブ4100のスプールがDポジションにある場合、ライン圧油路4010とDレンジ圧油路4102とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102に油圧が供給される。このとき、Rレンジ圧油路4104とドレンポート4105とが連通させられ、Rレンジ圧油路4104のRレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
【0052】
マニュアルバルブ4100のスプールがRポジションにある場合、ライン圧油路4010とRレンジ圧油路4104とが連通させられ、Rレンジ圧油路4104に油圧が供給される。このとき、Dレンジ圧油路4102とドレンポート4105とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102のDレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
【0053】
マニュアルバルブ4100のスプールがNポジションにある場合、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104の両方と、ドレンポート4105とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102のDレンジ圧およびRレンジ圧油路4104のRレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
【0054】
Dレンジ圧油路4102に供給された油圧は、最終的には、C1クラッチ3301、C2クラッチ3302およびC3クラッチ3303に供給される。Rレンジ圧油路4104に供給された油圧は、最終的には、B2ブレーキ3312に供給される。
【0055】
ソレノイドモジュレータバルブ4200は、ライン圧を元圧とし、SLT4300に供給する油圧(ソレノイドモジュレータ圧)を一定の圧力に調圧する。
【0056】
SL(1)4210は、C1クラッチ3301に供給される油圧を調圧する。SL(2)4220は、C2クラッチ3302に供給される油圧を調圧する。SL(3)4230は、C3クラッチ3303に供給される油圧を調圧する。SL(4)4240は、C4クラッチ3304に供給される油圧を調圧する。SL(5)4250は、B1ブレーキ3311に供給される油圧を調圧する。
【0057】
SLT4300は、アクセル開度センサ8010により検出されたアクセル開度ACCに基づいたECU8000からの制御信号に応じて、ソレノイドモジュレータ圧を調圧し、スロットル圧を生成する。スロットル圧は、SLT油路4302を経由して、プライマリレギュレータバルブ4006に供給される。スロットル圧は、プライマリレギュレータバルブ4006のパイロット圧として利用される。
【0058】
B2コントロールバルブ4500は、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104のいずれか一方からの油圧を選択的に、B2ブレーキ3312に供給する。B2コントロールバルブ4500に、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104が接続されている。B2コントロールバルブ4500は、SLUソレノイドバルブ(図示せず)から供給された油圧とスプリングの付勢力とにより制御される。
【0059】
SLUソレノイドバルブがオンの場合、B2コントロールバルブ4500は、図4において左側の状態となる。この場合、B2ブレーキ3312には、SLUソレノイドバルブから供給された油圧をパイロット圧として、Dレンジ圧を調圧した油圧が供給される。
【0060】
SLUソレノイドバルブがオフの場合、B2コントロールバルブ4500は、図4において右側の状態となる。この場合、B2ブレーキ3312には、Rレンジ圧が供給される。
【0061】
図5に、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000の機能ブロック図を示す。ECU8000は、入力インターフェイス(以下、入力I/Fと記載する)8100と、演算処理部8200と、記憶部8300と、出力インターフェイス(以下、出力I/Fと記載する)8400とを含む。
【0062】
入力I/F8100は、アクセル開度センサ8010からのアクセル開度ACC、車速センサ8002からの車速V、入力軸回転数センサ8022からの入力軸回転数NT、出力軸回転数センサ8024からの出力軸回転数NOUT、エンジン回転数センサ8020からのエンジン回転数NE、スロットル開度センサ8018からのスロットル開度THを受信して、演算処理部8200に送信する。
【0063】
記憶部8300には、各種情報、プログラム、しきい値、マップ等が記憶され、必要に応じて演算処理部8200からデータが読み出されたり、格納されたりする。
【0064】
演算処理部8200は、油圧制御部8210と、油圧学習部8220と、トルクダウン制御部8230とを含む。
【0065】
油圧制御部8210は、アップシフト変速において、係合側摩擦係合要素(解放状態から係合状態にされるクラッチあるいはブレーキ)に供給される油圧を調整するリニアソレノイド(係合側リニアソレノイド)に対する係合側油圧指令値PAと、解放側摩擦係合要素(係合状態から解放状態にされるクラッチあるいはブレーキ)に供給される油圧を調整するリニアソレノイド(解放側リニアソレノイド)に対する解放側油圧指令値PBとを、変速の進行に応じて設定する。
【0066】
油圧制御部8210は、係合側油圧指令値PAを設定する際、入力軸回転数NTの回転変化が生じるイナーシャ相が開始されると推定される油圧値(目標油圧)PTAに基づいて、係合側油圧指令値PAの増加率を変更する。なお、目標油圧PTAは、入力トルク(=タービントルク)あるいは入力トルクと相関する値(たとえばスロットル開度THおよびエンジン回転数NE)をパラメータとして記憶部8300に予め記憶され、係合側油圧指令値PAの設定時に、入力トルクに応じた目標油圧PTAが記憶部8300から読み出される。
【0067】
油圧制御部8210は、係合側油圧指令値PAに応じた油圧制御信号S(PA)と、解放側油圧指令値PBに応じた油圧制御信号S(PB)とを生成し、係合側リニアソレノイドと解放側リニアソレノイドとに、出力I/F8400を経由してそれぞれ送信する。これにより、係合側摩擦係合要素には係合側油圧指令値PAに応じた油圧が供給され、解放側摩擦係合要素には解放側油圧指令値PBに応じた油圧が供給される。
【0068】
油圧学習部8220は、アップシフト変速において、油圧制御部8210において係合側油圧指令値PAの設定に利用される目標油圧PTAを学習する。具体的には、油圧学習部8220は、入力軸回転数センサ8022によって検出された入力軸回転数NTのイナーシャ相における実減少率(単位時間あたりの減少量)ΔNを算出し、算出された実減少率ΔNが予め定められた目標減少率ΔNTAに収束するように、目標油圧PTAを補正し、記憶部8300に記憶されていた補正前の目標油圧PTAを、補正後の目標油圧PTAで更新する。
【0069】
トルクダウン制御部8230は、パワーオン状態でアップシフト変速制御を行なう場合に、電子スロットルバルブ8016の開度(スロットル開度)THを制御して、エンジントルクを一時的に低下させるトルクダウン制御を実行する。これにより、入力軸回転数NTがアップシフト後の同期回転数まで早期に低下するため、アップシフト変速時間が短縮される。なお、スロットル開度THに代えてあるいは加えて、エンジン1000の燃料噴射量を制御して、トルクダウン制御を実行するようにしてもよい。
【0070】
トルクダウン制御部8230は、トルク低下部8232と、学習進度判断部8234と、トルク復帰部8236とを含む。
【0071】
トルク低下部8232は、パワーオン状態でのアップシフト変速制御中に予め定められた条件が成立すると、スロットル開度THを減少させるトルク制御信号を生成して出力I/F8400を経由して電子スロットルバルブ8016に送信する。これにより、エンジン1000のトルクダウンが開始される。
【0072】
学習進度判断部8234は、入力軸回転数NTの実減少率ΔNが目標減少率ΔNTAにどの程度収束したのか(実減少率ΔNの目標減少率ΔNTAへの収束度合い)に応じて、油圧学習部8220による目標油圧PTAの学習進度を判断する。ここでいう学習進度とは、あくまで目標油圧PTAの学習の達成度(入力軸回転数NTの実減少率ΔNが目標減少率ΔNTAにどの程度収束したのか)を意味するものであり、学習時間、学習回数、学習履歴などを意味するものではない。
【0073】
トルク復帰部8236は、スロットル開度THを増加させるトルク制御信号を生成して出力I/F8400を経由して電子スロットルバルブ8016に送信することにより、低下されていたエンジントルクを復帰させる。この際、トルク復帰部8236は、学習進度判断部8234により判断された学習進度に応じて、エンジントルクの増加開始タイミング(本実施の形態においてはスロットル開度THの増加開始タイミング)およびエンジントルクを復帰する際のトルク増加率(本実施の形態においてはスロットル開度THの増加率)の少なくともいずれかを変更する。
【0074】
なお、以下においては、油圧制御部8210と、油圧学習部8220と、トルクダウン制御部8230とは、いずれも演算処理部8200であるCPUが記憶部8300に記憶されたプログラムを実行することにより実現される、ソフトウェアとして機能するものとして説明するが、ハードウェアにより実現されるようにしてもよい。なお、このようなプログラムは記憶媒体に記録されて車両に搭載される。
【0075】
図6−8を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000が、アップシフト変速における油圧制御を行なう際に実行するプログラムの制御構造について説明する。図8は、2速から3速へのアップシフト変速が行なわれた場合における、係合側油圧指令値PAと解放側油圧指令値PBとのタイミングチャートである。なお、解放側摩擦係合要素がワンウェイクラッチ(F)3320である場合(具体的には1速から2変へのアップシフト変速である場合)には、ワンウェイクラッチ(F)3320の油圧制御は不要であるため、解放側摩擦係合要素の油圧制御(図7のフローチャートの処理)は行なわれない。
【0076】
まず、図6および図8を参照してECU8000が係合側摩擦係合要素の油圧を制御する際に実行するプログラムの制御構造について説明する。
【0077】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU8000は、アクセル開度ACCおよび車速Vと変速線図とに基いて、アップシフトするか否かを判断する。アップシフトすると判断されると(S100にてYES)、処理はS102に移される。そうでないと(S100にてNO)、この処理は終了する。
【0078】
S102にて、ECU8000は、経過時間Tの計時を開始する。なお、経過時間Tの初期値は0である。
【0079】
S104にて、ECU8000は、係合側油圧指令値PAを所定圧PA(1)に設定する。所定圧PA(1)は、係合側摩擦係合要素の油圧室を満たすために必要な油圧に設定される。
【0080】
S106にて、ECU8000は、経過時間Tが所定時間TA(1)を超えたか否かを判断する。所定時間TA(1)を超えると(S106にてYES)、処理はS108に移される。そうでないと(S106にてNO)、処理はS104に戻され、所定時間TA(1)が経過するまで、係合側油圧指令値PAが所定圧PA(1)に維持される。
【0081】
S108にて、ECU8000は、係合側油圧指令値PAを所定圧PA(2)に設定する。所定圧PA(2)は、PA(1)よりも低い値であって、どのような状況にあっても入力軸回転数NTの回転変化を生じさせない圧に設定される。
【0082】
S110にて、ECU8000は、経過時間Tが所定時間TA(2)を超えたか否かを判断する。所定時間TA(2)を超えると(S110にてYES)、処理はS112に移される。そうでないと(S110にてNO)、処理はS108に戻され、所定時間TA(2)が経過するまで、係合側油圧指令値PAが所定圧PA(2)に維持される。
【0083】
S112にて、ECU8000は、比較的急な勾配からなる第1増加率で係合側油圧指令値PAを増加する。これにより、係合トルクが増加し、図8に示すように、トルク相が開始される。
【0084】
S114にて、ECU8000は、係合側油圧指令値PAが目標油圧PTAを超えたか否かを判断する。目標油圧PTAは、上述したように、イナーシャ相が開始されると推定される油圧であり、入力トルクあるいは入力トルクと相関する値に応じて設定される。この目標油圧PTAが適正な値であると、図8に示すように、係合側油圧指令値PAが目標油圧PTAに達した時点でイナーシャ相が開始され、入力軸回転数NTが減少し始める。係合側油圧指令値PAが目標油圧PTAを超えると(S114にてYES)、処理はS116に移される。そうでないと(S114にてNO)、処理はS112に戻され、係合側油圧指令値PAの第1増加率での増加が継続される。
【0085】
S116にて、ECU8000は、第1増加率よりも勾配が緩やかな第2増加率で係合側油圧指令値PAを増加する。なお、本処理において、変速完了までの入力軸回転数NTの変化量や経過時間Tなどに基いて、係合側油圧指令値PAの時間増加率をより細かく設定するようにしてもよい。
【0086】
S118にて、ECU8000は、入力軸回転数NTがアップシフト後の同期回転数まで低下したか否かを判断する。入力軸回転数NTがアップシフト後の同期回転数まで低下すると(S118にてYES)、処理はS120に移される。そうでないと(S118にてNO)、処理はS116に戻され、係合側油圧指令値PAの第2増加率での増加が継続される。
【0087】
S120にて、ECU8000は、係合側油圧指令値PAを係合圧PA(3)に設定する。係合圧PA(3)は、PA(1)およびPA(2)よりも高い値であって、係合側摩擦係合要素を係合状態に維持する油圧に設定される。これにより係合側摩擦係合要素の油圧制御が完了する。
【0088】
次に、図7および図8を参照してECU8000が解放側摩擦係合要素の油圧を制御する際に実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、図7に示したフローチャートの中で、前述の図6に示したフローチャートと同じ処理については同じステップ番号を付してある。それらについての処理も同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0089】
S200にて、ECU8000は、経過時間Tが所定時間TA(2)を超えたか否か(すなわち係合側油圧指令値PAの第1増加率での増加が開始されてトルク相が開始されたか否か)を判断する。所定時間TA(2)を超えると(S200にてYES)、処理はS204に移される。そうでないと(S200にてNO)、処理はS202に移される。
【0090】
S202にて、ECU8000は、解放側油圧指令値PBを係合圧PB(1)に維持する。すなわち、図8に示すように、ECU8000は、トルク相が開始されるまでは、解放側油圧指令値PBを係合圧PB(1)に維持する。ここで、係合圧PB(1)は、解放側摩擦係合要素を係合状態に維持する油圧である。
【0091】
S204にて、ECU8000は、係合側油圧指令値PAの増加量に応じて解放側油圧指令値PBを減少させる。なお、解放側油圧指令値PBの減少方法はこれに限定されない。
【0092】
S206にて、ECU8000は、解放側油圧指令値PBが最小値(「0」)になったか否かを判断する。解放側油圧指令値PBが最小値になると(S206にてYES)、この処理は終了し、解放側摩擦係合要素の油圧制御が完了する。そうでないと(S206にてNO)、処理はS204に戻され、解放側油圧指令値PBの減少が継続される。
【0093】
上述したように(図6のS112、S114、S116参照)、係合側摩擦係合要素の油圧を制御する際、イナーシャ相の開始を目標油圧PTAに基づいて推定し、イナーシャ相の開始前と開始後とで係合側油圧指令値PAの増加率を変更している。
【0094】
すなわち、係合側油圧指令値PAが目標油圧PTAを超えるまでは(S114にてNO)、イナーシャ相開始前と推定し、比較的急な勾配(第1増加率)で係合側油圧指令値PAを増加させる(S112)。係合側油圧指令値PAが目標油圧PTAを超えると(S114にてYES)、イナーシャ相開始後と推定し、緩やかな勾配(第2増加率)で係合側油圧指令値PAを増加させる(S116)。
【0095】
図9を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000が、目標油圧PTAを学習する際に実行するプログラムの制御構造について説明する。
【0096】
S300にて、ECU8000は、アップシフト変速におけるイナーシャ相が開始されたか否かを判断する。ECU8000は、たとえば、入力軸回転数NTがアップシフト前の同期回転数と一致しなくなった場合に、イナーシャ相が開始されたと判断する。イナーシャ相が開始されると(S300にてYES)、処理はS302に移される。そうでないと(S300にてNO)、この処理は終了する。
【0097】
S302にて、ECU8000は、入力軸回転数NTの実減少率ΔNを算出する。S304にて、ECU8000は、実減少率ΔNと予め定められた目標減少率ΔNTAとの差αを算出する。
【0098】
S306にて、ECU8000は、実減少率ΔNと目標減少率ΔNTAとの差αがしきい値Aよりも小さいか否かを判断する。差αがしきい値Aよりも小さいと(S306にてYES)、実減少率ΔNが目標減少率ΔNTAにほぼ収束したものとして、目標油圧PTAの学習を行なうことなく、処理はS316に移される。そうでないと(S306にてNO)、処理はS308に移される。
【0099】
S308にて、ECU8000は、入力軸回転数NTの実減少率ΔNが目標減少率ΔNTAよりも大きいか否かを判断する。ΔNがΔNTAよりも大きいと(S308にてYES)、処理はS310に移される。そうでないと(S308にてNO)、処理はS312に移される。
【0100】
S310にて、ECU8000は、目標油圧PTAを予め定められた値だけ減少する補正を行なう。S312にて、ECU8000は、目標油圧PTAを予め定められた値だけ増加する補正を行なう。S314にて、ECU8000は、補正前の目標油圧PTAを補正後の目標油圧PTAに更新する。
【0101】
S316にて、ECU8000は、実減少率ΔNと目標減少率ΔNTAとの差αを記憶する。
【0102】
このような目標油圧PTAの学習が進むにつれて、係合側摩擦係合要素のトルク容量が各固体ごとにばらついていた場合であっても、入力軸回転数NTの実減少率ΔNが目標減少率ΔNTAに徐々に収束していく。そのため、ショックの抑制あるいは変速時間の短縮を行なうことができる。
【0103】
また、アップシフト変速制御中においてトルクダウン制御が実行される場合において、トルク復帰の開始タイミングや増加率を目標減少率ΔNTAに応じて設定することで、変速終了とトルク復帰とを略一致させて、スムーズな変速を行うことができる。
【0104】
しかしながら、上述したように係合側摩擦係合要素の摩擦材あるいは係合側リニアソレノイドの個体差によって、係合側摩擦係合要素のトルク容量にはばらつきがある。
【0105】
そのため、目標油圧PTAの学習初期においては、入力軸回転数NTの実減少率ΔNは目標減少率ΔNTAに収束しておらず、ΔNとΔNTAとの差がかなり大きい場合がある。すなわち、トルク容量のばらつきの影響によって、目標油圧PTAに達する前にイナーシャ相が開始されたり、目標油圧PTAに達した後もイナーシャ相がなかなか開始されない場合ある。
【0106】
目標油圧PTAに達する前にイナーシャ相が開始されると、係合側油圧指令値PAがイナーシャ相開始後も急な勾配(第1増加率)で増加するため、入力軸回転数NTが急激に低下してショックが発生する。
【0107】
そのため、目標油圧PTAの学習初期においてトルクダウン制御を実行する場合、従来のように変速終了直前までトルクダウンを継続すると、トルク復帰が変速終了に間に合わなくなり、出力軸トルクの低下が大きくなってショックを生じる場合がある。すなわち、学習初期の変速品質を確保できない。
【0108】
このような学習初期の変速品質を確保するために、トルク復帰タイミングを一律に早めると、トルクダウン時間が短縮されてトルクダウン実行量が減少するため、入力軸回転数NTが緩やかにしか低下しない。そのため、学習が進んだ後も変速時間を短縮することができない。
【0109】
そこで、本実施の形態においては、目標油圧PTAの学習進度を判断し、判断された学習進度に応じて、トルクダウン制御におけるトルク復帰時の開始タイミングおよびトルク増加率を変更する。
【0110】
図10を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000が、目標油圧PTAの学習進度を判断する際に実行するプログラムの制御構造について説明する。
【0111】
S400にて、ECU8000は、上述した図9のS316の処理にて記憶された、実減少率ΔNと目標減少率ΔNTAとの差αを読み出す。
【0112】
S402にて、ECU8000は、差αがしきい値α(1)よりも小さいか否かを判断する。しきい値α(1)は、目標油圧PTAの学習によってΔNがΔNTAにほぼ収束したときのΔNとΔNTAとの差である。差αがしきい値α(1)よりも小さいと(S402にてYES)、処理はS404に移される。そうでないと(S402にてNO)、処理はS406に移される。
【0113】
S404にて、ECU8000は、目標油圧PTAの学習進度を進度Aと判断する。進度Aは、目標油圧PTAの学習が最も進んでいることを表わす。
【0114】
S406にて、ECU8000は、差αがしきい値α(2)よりも小さいか否かを判断する。しきい値α(2)は、α(1)よりも大きい値であって、目標油圧PTAの学習がある程度進んで、ΔNがΔNTAにある程度収束したときのΔNとΔNTAとの差である。差αがしきい値α(2)よりも小さいと(S406にてYES)、処理はS408に移される。そうでないと(S406にてNO)、処理はS410に移される。
【0115】
S408にて、ECU8000は、目標油圧PTAの学習進度を進度Bと判断する。進度Bは、目標油圧PTAの学習が進度Aよりも遅れているが、後述する進度Cよりも進んでいることを表わす。
【0116】
S410にて、ECU8000は、目標油圧PTAの学習進度を進度Cと判断する。進度Cは、目標油圧PTAの学習が最も(進度Aおよび進度Bよりも)遅れていることを表わす。
【0117】
S412にて、ECU8000は、目標油圧PTAの学習進度(進度A、進度B、進度Cのいずれか)を記憶する。
【0118】
図11を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000が、トルクダウン制御を実行する際に実行するプログラムの制御構造について説明する。
【0119】
S500にて、ECU8000は、アップシフト変速制御中か否かを判断する。アップシフト変速制御中であると(S500にてYES)、処理はS502に移される。そうでないと(S500にてNO)、この処理は終了する。
【0120】
S502にて、ECU8000は、パワーオン状態か否かを判断する。たとえば、ECU8000は、運転者がアクセルペダル8008を踏んでアクセル開度ACCがしきい値より大きい場合に、パワーオン状態であると判断する。パワーオン状態であると(S502にてYES)、処理はS504に移される。そうでないと(S502にてNO)、処理は終了する。
【0121】
S504にて、ECU8000は、トルクダウン開始条件が成立したか否かを判断する。たとえば、ECU8000は、入力軸回転数NTがアップシフト前の同期回転数と一致しなくなった場合(すなわちイナーシャ相が開始された場合)に、トルクダウン開始条件が成立したと判断する。トルクダウン開始条件が成立すると(S504にてYES)、処理はS506に移される。そうでないと(S504にてNO)、処理はS504に戻され、トルクダウン開始条件が成立するまで待つ。
【0122】
S506にて、ECU8000は、エンジントルクダウンを開始する。ECU8000は、スロットル開度THを予め定められた値だけ低下させるトルク制御信号を、電子スロットルバルブ8016に送信する。
【0123】
S508にて、ECU8000は、入力軸回転数NTとアップシフト後の同期回転数との差βのモニタを開始する。なお、アップシフト後の同期回転数は、出力軸回転数NOUTとアップシフト後の変速比とに基づいて算出される。
【0124】
S510にて、ECU8000は、目標油圧PTAの学習進度(上述した図10のS412の処理で記憶された進度)が進度Aであるか否かを判断する。進度Aであると(S510にてYES)、処理はS512に移される。そうでないと(S510にてNO)、処理はS516に移される。
【0125】
S512にて、ECU8000は、差βがしきい値β(1)よりも小さいか否かを判断する。しきい値β(1)は、アップシフト変速がほぼ終了したタイミングにおける、入力軸回転数NTとアップシフト後の同期回転数との差である。差βがしきい値β(1)よりも小さいと(S512にてYES)、処理はS514に移される。そうでないと(S512にてNO)、処理はS512に戻され、差βがしきい値β(1)より小さくなるまで待つ。
【0126】
S514にて、ECU8000は、エンジントルク復帰を開始する。ECU8000は、S506の処理で低下されていたスロットル開度THを増加率γ(1)で増加させる。スロットル開度THの増加は、スロットル開度THが通常値(アクセル開度ACCに応じた値)になるまで継続される。
【0127】
S516にて、ECU8000は、目標油圧PTAの学習進度が進度Bであるか否かを判断する。進度Bであると(S516にてYES)、処理はS518に移される。そうでないと(S516にてNO)、処理はS522に移される。
【0128】
S518にて、ECU8000は、差βがしきい値β(2)よりも小さいか否かを判断する。しきい値β(2)は、β(1)よりも大きい値である。差βがしきい値β(2)よりも小さいと(S518にてYES)、処理はS520に移される。そうでないと(S518にてNO)、処理はS518に戻され、差βがしきい値β(2)より小さくなるまで待つ。
【0129】
S520にて、ECU8000は、エンジントルク復帰を開始する。ECU8000は、S506の処理で低下されていたスロットル開度THを増加率γ(2)でスロットル開度THの増加させる。増加率γ(2)は、γ(1)よりも小さい値である。スロットル開度THの増加は、スロットル開度THが通常値(アクセル開度ACCに応じた値)になるまで継続される。
【0130】
S522にて、ECU8000は、差βがしきい値β(3)よりも小さいか否かを判断する。しきい値β(3)は、β(1)およびβ(2)よりも大きい値である。差βがしきい値β(3)よりも小さいと(S522にてYES)、処理はS524に移される。そうでないと(S522にてNO)、処理はS522に戻され、差βがしきい値β(3)より小さくなるまで待つ。
【0131】
S524にて、ECU8000は、エンジントルク復帰を開始する。ECU8000は、S506の処理で低下されていたスロットル開度THを増加率γ(3)で増加させる。増加率γ(3)は、γ(2)よりも小さい値である。スロットル開度THの増加は、スロットル開度THが通常値(アクセル開度ACCに応じた値)になるまで継続される。
【0132】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000により制御されるエンジントルクについて、図12を参照しつつ説明する。
【0133】
図12に示すように、時刻T(1)にて、パワーオン状態でのアップシフト変速におけるイナーシャ相が開始されると(S500にてYES、S502にてYES、S504にてYES)、エンジントルクダウンが開始される(S506)。
【0134】
ここで、目標油圧PTAの学習が進度Cで最も遅れており、たとえば進度Aの場合(二点鎖線参照)と比べて、入力軸回転数NTが目標減少率ΔNTAよりもかなり大きい減少率で急激に低下する場合を想定する。なお、このような場合は、図12に示すように、係合側油圧指令値PAが目標油圧PTAに達する前にイナーシャ相が開始され、イナーシャ相開始後も急な勾配(第1増加率)で係合側油圧指令値PAが増加する場合である。
【0135】
このように場合において、図12の一点鎖線に示すように、仮に進度Aの場合と同様に入力軸回転数NTとアップシフト後の同期回転数との差βがβ(1)に低下する時刻T(3)までスロットル開度THの増加開始タイミングを遅らせると、入力軸回転数NTが急激に低下しているため、時刻T(3)から変速が終了する時刻T(4)までの時間が短くなる。そのため、実際のエンジントルクの復帰が時刻T(4)よりも遅れ、出力軸トルクの低下によるショック(引き込みショック)が生じてしまう場合がある。
【0136】
そこで、学習進度が進度Cである場合(S510にてNO、S516にてNO)、差βがβ(3)(>β(1))に低下した時刻T(2)で(S522にてYES)、スロットル開度THの増加を開始する(S524)。これにより、変速終了までの時間を確保できるため、実際のトルク復帰が変速終了よりも遅れることが抑制される。そのため、引き込みショックの発生を抑制することができる。
【0137】
さらに、エンジントルクの早期復帰による入力軸回転数NTの実減少率ΔNが極端に小さくなることがないように、進度A、進度Bの場合の増加率γ(1)、γ(2)よりも小さい(緩やかな)増加率γ(3)でスロットル開度THを増加させる。これにより、トルクダウン実行量が緩やかに減少するため、入力軸回転数NTの実減少率ΔNが極端に小さくなり過ぎることが抑制される。そのため、変速時間が極端に長くなることを抑制することができる。
【0138】
なお、その後の目標油圧PTAの学習が進み、学習進度が進度Aとなった場合(S510にてYES)、二点鎖線に示すように、係合側油圧指令値PAが目標油圧PTAになった時点でイナーシャ相が開始され、入力軸回転数NTが目標減少率ΔNTAで減少する。そのため、差βがβ(1)に低下する時刻T(5)(すなわち変速がほぼ終了した時刻)でスロットル開度THをγ(1)(>γ(3))で急激に増加させる(S512にてYES、S514)。これにより、アップシフト変速が終了する時刻T(6)とほぼ同じタイミングで、エンジントルクの復帰も完了する。
【0139】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置においては、トルクダウン制御で低下されたエンジントルクを、目標油圧PTAの学習の進度(達成度)が低い場合(未達成側である場合)は高い場合(達成側である場合)に比べて、早期にトルク復帰を開始する。これにより引き込みショックが抑制される。さらに、学習の達成度の向上に応じてトルク復帰開始タイミングを徐々に遅らせる。これにより、学習の達成度の向上に応じて変速時間を短縮することができる。
【0140】
なお、本実施の形態においては、目標油圧PTAの学習進度を3段階(進度A、進度B、進度C)に分けて判断したが、学習進度を3段階よりも細かく判断するようにしてもよい。逆に、学習進度を2段階(学習が完了したか否か)で判断するようにしてもよい。
【0141】
また、本実施の形態においては、図11のS514、S520、S524の処理におけるそれぞれのスロットル開度THの増加率γ(1)、γ(2)、γ(3)の関係を、γ(1)>γ(2)>γ(3)として説明したが、γ(1)、γ(2)、γ(3)の関係はこれに限定されない。たとえば、γ(1)=γ(2)=γ(3)としてもよい。すなわち、図11のS512、S518、S522の処理によって、目標油圧PTAの学習進度に応じてエンジントルク増加開始タイミングのみを変更するものであってもよい。
【0142】
また、本実施の形態においては、図11のS512、S518、S522の処理におけるそれぞれのしきい値β(1)、β(2)、β(3)の関係を、β(1)<β(2)<β(3)として説明したが、β(1)、β(2)、β(3)の関係はこれに限定されない。たとえば、β(1)=β(2)=β(3)としてもよい。すなわち、図11のS514、S520、S524の処理によって、目標油圧PTAの学習進度に応じてエンジントルク復帰時のトルク増加率のみを変更するものであってもよい。
【0143】
<変形例>
上述の実施の形態に係る制御装置において、図12に示すように、時刻T(2)にてエンジントルクを早期に復帰すると、時刻T(2)以降の入力軸回転数NTの実減少率ΔNは時刻T(2)以前に比べて小さくなる。
【0144】
トルク復帰後の実減少率ΔNが目標油圧PTAの学習(図9のS302の処理)に用いられてしまうと、実減少率ΔNが目標減少率ΔNTAよりも小さいと判断され(S308にてNO)、本来は目標油圧PTAを減少すべきであるが、目標油圧PTAが増加されてしまい(S312)、実減少率ΔNが目標減少率ΔNTAに収束せず、逆に実減少率ΔNと目標減少率ΔNTAとの差αがより拡大してしまう。
【0145】
また、学習の達成度が変化してトルク復帰開始タイミングおよびトルク増加率が変更されるたびに実減少率ΔNが変化する。そのため、学習の達成度が変化するたびに目標油圧PTAが変化し、本来収束すべき値になかなか収束しない。
【0146】
そこで、上述の実施の形態に係る制御装置において、エンジン復帰タイミングが目標油圧PTAの学習の進度に応じて変更されたことに対応させて、予め定められた目標減少率ΔNTAを変更するようにしてもよい。
【0147】
たとえば、目標減少率ΔNTAを各進度に応じて予め記憶部8300に記憶しておいて、図9のS304、S308の処理を実行する際に、各進度に応じた目標減少率ΔNTAを用いるようにする。
【0148】
このようにすると、トルク復帰後の実減少率ΔNが目標油圧PTAの学習に用いられる場合であっても、学習進度に応じて目標減少率ΔNTAを変更することによって、目標油圧PTAをより適切な値に補正することができる。そのため、学習の進度に関わらず、目標油圧PTAを適切に学習して、本来収束すべき値により早期に収束させることができる。
【0149】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】車両のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】オートマチックトランスミッションのプラネタリギヤユニットを示すスケルトン図である。
【図3】オートマチックトランスミッションの作動表を示す図である。
【図4】オートマチックトランスミッションの油圧回路を示す図である。
【図5】ECUの機能ブロック図である。
【図6】ECUが実行するプログラムの制御構造を示す図(その1)である。
【図7】ECUが実行するプログラムの制御構造を示す図(その2)である。
【図8】ECUによって制御される油圧指令値のタイミングチャートである。
【図9】ECUが実行するプログラムの制御構造を示す図(その3)である。
【図10】ECUが実行するプログラムの制御構造を示す図(その4)である。
【図11】ECUが実行するプログラムの制御構造を示す図(その5)である。
【図12】ECUによって制御されるエンジントルクのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0151】
1000 エンジン、1004 補機、2000 オートマチックトランスミッション、2100 トルクコンバータ、2102 入力軸、3000 プラネタリギヤユニット、3002 入力軸、3004 出力軸、3100 フロントプラネタリ、3200 リアプラネタリ、3301 C1クラッチ、3302 C2クラッチ、3303 C3クラッチ、3304 C4クラッチ、3311 B1ブレーキ、3312 B2ブレーキ、3400 ギヤケース、4000 油圧回路、5000 プロペラシャフト、6000 デファレンシャルギヤ、6100 ドライブシャフト、7000 後輪、8000 ECU、8002 車速センサ、8004 シフトレバー、8006 ポジションスイッチ、8008 アクセルペダル、8010 アクセル開度センサ、8012 ブレーキペダル、8014 踏力センサ、8016 電子スロットルバルブ、8018 スロットル開度センサ、8020 エンジン回転数センサ、8022 入力軸回転数センサ、8024 出力軸回転数センサ、8100 入力I/F、8200 演算処理部、8210 油圧制御部、8220 油圧学習部、8230 トルクダウン制御部、8232 トルク低下部、8234 学習進度判断部、8236 トルク復帰部、8300 記憶部、8400 出力I/F。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、入力軸が前記動力源に接続された自動変速機とを備えた車両の制御装置であって、前記自動変速機には、アップシフト変速時に係合される摩擦係合要素と、前記摩擦係合要素の作動油圧を調圧する調圧機構とが備えられ、
前記制御装置は、
アップシフト変速中において、前記アップシフト変速におけるイナーシャ相が開始されると推定される油圧値に基づいて前記作動油圧を調圧するように、前記調圧機構を制御するための油圧制御手段と、
前記入力軸の回転数を検出するための検出手段と、
前記検出手段によって検出された回転数の、前記イナーシャ相における減少率を算出するための算出手段と、
前記算出手段によって算出された減少率が予め定められた目標減少率に収束するように、前記油圧値を補正して学習するための学習手段と、
前記アップシフト変速時に予め定められた条件が成立すると、前記動力源の出力トルクを一時的に低下させるための低下手段と、
前記減少率の前記目標減少率への収束度合いに基づいて、前記低下手段によって低下された出力トルクを復帰させるための復帰手段とを含む、制御装置。
【請求項2】
前記復帰手段は、
前記収束度合いに基づいて、前記学習手段による前記油圧値の学習の達成度を判断するための達成度判断手段と、
前記達成度判断手段によって判断された達成度に応じて、前記低下された出力トルクを復帰させるためのトルク復帰手段とを含む、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記トルク復帰手段は、前記達成度に応じて、前記低下された出力トルクを復帰させる際のトルク増加開始タイミングおよびトルク増加率の少なくともいずれかを変更する、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記トルク復帰手段は、前記達成度が未達成側である場合は達成側である場合に比べて、前記トルク増加開始タイミングを早くする、請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記トルク復帰手段は、前記達成度が未達成側である場合は達成側である場合に比べて、前記トルク増加開始タイミングを早くすることに加えて、前記トルク増加率を小さくする、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記トルク復帰手段は、前記達成度が達成側である場合は未達成側である場合に比べて、前記トルク増加率を大きくする、請求項3に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記トルク復帰手段によって前記トルク増加開始タイミングおよび前記トルク増加率の少なくともいずれかが前記達成度に応じて変更されたことに対応させて、前記目標減少率を変更するための手段をさらに含む、請求項3〜6のいずれかに記載の制御装置。
【請求項8】
前記油圧制御手段は、
前記作動油圧を調圧するための油圧指令値を前記調圧機構に出力するための手段と、
前記油圧指令値が前記油圧値を超えるまでは、第1の増加率で前記油圧指令値を増加するための手段と、
前記油圧指令値が前記油圧値を超えると、前記第1の増加率よりも小さい第2の増加率で前記油圧指令値を増加するための手段とを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の制御装置。
【請求項9】
動力源と、入力軸が前記動力源に接続された自動変速機とを備えた車両を制御する制御ユニットが行なう制御方法であって、前記自動変速機には、アップシフト変速時に係合される摩擦係合要素と、前記摩擦係合要素の作動油圧を調圧する調圧機構とが備えられ、
前記制御方法は、
アップシフト変速中において、前記アップシフト変速におけるイナーシャ相が開始されると推定される油圧値に基づいて前記作動油圧を調圧するように、前記調圧機構を制御する油圧制御ステップと、
前記入力軸の回転数を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出された回転数の、前記イナーシャ相における減少率を算出する算出ステップと、
前記算出ステップで算出された減少率が予め定められた目標減少率に収束するように、前記油圧値を補正して学習する学習ステップと、
前記アップシフト変速時に予め定められた条件が成立すると、前記動力源の出力トルクを一時的に低下させる低下ステップと、
前記減少率の前記目標減少率への収束度合いに基づいて、前記低下ステップで低下された出力トルクを復帰させる復帰ステップとを含む、制御方法。
【請求項10】
前記復帰ステップは、
前記収束度合いに基づいて、前記学習ステップでの前記油圧値の学習の達成度を判断する達成度判断ステップと、
前記達成度判断ステップで判断された達成度に応じて、前記低下された出力トルクを復帰させるトルク復帰ステップとを含む、請求項9に記載の制御方法。
【請求項11】
前記トルク復帰ステップは、前記達成度に応じて、前記低下された出力トルクを復帰させる際のトルク増加開始タイミングおよびトルク増加率の少なくともいずれかを変更する、請求項10に記載の制御方法。
【請求項12】
前記トルク復帰ステップは、前記達成度が未達成側である場合は達成側である場合に比べて、前記トルク増加開始タイミングを早くする、請求項11に記載の制御方法。
【請求項13】
前記トルク復帰ステップは、前記達成度が未達成側である場合は達成側である場合に比べて、前記トルク増加開始タイミングを早くすることに加えて、前記トルク増加率を小さくする、請求項12に記載の制御方法。
【請求項14】
前記トルク復帰ステップは、前記達成度が達成側である場合は未達成側である場合に比べて、前記トルク増加率を大きくする、請求項11に記載の制御方法。
【請求項15】
前記制御方法は、前記トルク復帰ステップで前記トルク増加開始タイミングおよび前記トルク増加率の少なくともいずれかが前記達成度に応じて変更されたことに対応させて、前記目標減少率を変更するステップをさらに含む、請求項11〜14のいずれかに記載の制御方法。
【請求項16】
前記油圧制御ステップは、
前記作動油圧を調圧する油圧指令値を前記調圧機構に出力するステップと、
前記油圧指令値が前記油圧値を超えるまでは、第1の増加率で前記油圧指令値を増加するステップと、
前記油圧指令値が前記油圧値を超えると、前記第1の増加率よりも小さい第2の増加率で前記油圧指令値を増加するステップとを含む、請求項9〜15のいずれかに記載の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−191957(P2009−191957A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33527(P2008−33527)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】