説明

車両の制御装置

【課題】複数の要求値の調停処理を繰り返して制御目標値を設定する車両において、要求値の追加あるいは削除を行なう際の調停処理ロジックの変更量を低減する。
【解決手段】この制御装置は、PDRM9010および複数の駆動力要求システム(9030〜9033)からの要求駆動力を調停する駆動力調停部9020と、ギヤ段変換部9110および複数のギヤ段要求システム(9130〜9132)からの要求ギヤ段を調停するギヤ段調停部9120と、トルク変換部9210および複数のトルク要求システム(9230、9231)からの要求トルクを調停するトルク調停部9220とを備える。さらに、この制御装置は、各要求システムで設定された要求値の各々に、各調停処理で共通して用いられる優先順位を付与するID付与部9300を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、複数の要求値を調停した結果に基づいて駆動力が制御される車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の操作とは独立に制御可能なエンジンと自動変速機とを備えた車両において、運転者のアクセルペダル操作量や車両の運転条件等に基づいて算出された目標駆動トルクを、エンジントルクと自動変速機の変速ギヤ比で実現する「駆動力ディマンド制御」という考え方がある。
【0003】
このような駆動力ディマンド制御においては、1つの制御目標値(たとえば車両の駆動力の目標値)を、さまざまな要因で発生する複数の要求値(駆動力の要求値)の調停処理を階層的に繰り返すことによって設定している。このような調停処理順序に関する技術が、たとえば特開2004−52769号公報(特許文献1)、特開2000−220509号公報(特許文献2)に開示されている。
【0004】
特開2004−52769号公報に開示された車両制御ユニットの制御方法は、複数のトルク要求を、各トルク要求に予め対応付けられたモジュールA、モジュールB、モジュールCのうちのいずれかで処理する場合において、複数のトルク要求の各々に対して異なる優先順位を付与し、優先順位が高いトルク要求の処理が優先順位が低いトルク要求の処理よりも後に行なわれるように、複数のモジュールの呼出し順序(トルク要求の処理順序)を決定するものである。この制御方法によると、新たなトルク要求の拡張および変更は、モジュールそれ自身の処理内容には影響を与えず、既に存在する個々のモジュールの呼出し順序および呼出し頻度にのみ影響を与える。したがって、新たなトルク要求の拡張および変更に対して適応性および柔軟性を有する。
【0005】
また、特開2000−220509号公報に開示された内燃機関の出力動力の設定方法では、複数の関与システムで設定された複数の要求トルクを予め定められた処理順序で処理する場合において、順序処理に応じて各関与システム(各要求トルク)の優先順位を決定している。すなわち、優先順位が高い要求トルクの処理が優先順位が低い要求トルクの処理よりも後に行なわれるように、予め定められた処理順序が決定されている。
【特許文献1】特開2004−52769号公報
【特許文献2】特開2000−220509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように調停処理を階層的に繰り返す場合、処理フロー上、下流で処理された要求値のほうが上流で処理された要求値よりも目標値に反映されやすい。言い換えれば、下流で処理される要求値の優先順位が高くなってしまう。上述の特開2004−52769号公報や特開2000−220509号公報においては、いずれも、この点を考慮して、優先順位が高い要求値の処理が優先順位が低い要求値の処理よりも後に行なわれるように、調停処理の順序を調整している。
【0007】
しかしながら、たとえば駆動力の調停結果に基づいてエンジントルクの調停を行なう場合、トルク調停処理が必ず駆動力調停処理の後に行なわれる。したがって、トルク調停と駆動力調停との間では、処理順序を変更することができない。
【0008】
このような問題を解消するために、従来においては、たとえば、トルク調停処理において、上流側で行なわれた駆動力調停処理の目的や車両走行状況などを考慮して他の調停対象との優先順位を決定するロジックを全ユースケースに対して予め設定しておく必要があった。
【0009】
そのため、新たな要求値を設定するシステムの追加あるいは削除を行なう場合、その都度、優先順位を決定するロジックの検証および変更が必要となる。また、考慮すべきユースケースが膨大となるため、ロジックの変更量が膨大となり制御品質の低下が懸念される。このような問題は、複数のサプライヤ製のシステムが混在する車両制御においては特に重要な課題となる。
【0010】
しかしながら、上述の特開2004−52769号公報や特開2000−220509号公報においては、この点について何ら考慮されていない。
【0011】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、複数の要求値の調停処理を繰り返した結果に基づいて制御される車両において、要求値の追加あるいは削除を行なう際の調停処理ロジックの変更量を低減することができる制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明に係る制御装置は、車両の制御装置である。この制御装置は、各々が要求値を設定する複数の設定部と、複数の設定部が設定した要求値の各々に、各々の要求値の要求要因に基づいて優先順位を付与する付与部と、設定部から入力される複数の要求値を調停する複数の調停処理を予め定められた順序で実行することによって車両を制御するための値を出力する調停部とを含む。複数の調停処理の各々は、付与部によって付与された優先順位に従って実行される。
【0013】
第2の発明に係る制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、付与部は、各々の要求値の要求要因に基づいて、各々の要求値を互いに異なる優先順位を有する複数の要因カテゴリに分類する。付与部が要求値に付与する優先順位は、分類された要因カテゴリが有する優先順位である。
【0014】
第3の発明に係る制御装置においては、第2の発明の構成に加えて、複数の要因カテゴリには、安全性確保、法規遵守、耐久性確保、快適性確保、および利便性確保が含まれる。複数の要因カテゴリが有する優先順位は、安全性確保、法規遵守、耐久性確保、快適性確保、利便性確保の順に高く設定される。
【0015】
第4の発明に係る制御装置においては、第1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、付与部は、各々の要求値の要求要因に加えて、各々の調停処理において1つの要求値を残りの要求値よりも優先しなかった場合に発生する現象、および現象が発生するまでの時間の少なくともいずれかに基づいて、各々の要求値の優先順位を付与する。
【0016】
第5の発明に係る制御装置においては、付与部は、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、複数の要求値のうち優先順位が最も低い要求値には優先順位を付与しない。複数の調停処理の各々は、優先順位が付与されていない要求値よりも優先順位が付与された要求値を優先して調停結果に反映させる。
【0017】
第6の発明に係る制御装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、調停部は、複数の調停処理を階層的に行なうとともに、各々の調停処理において、調停処理の対象となる要求値のうちの最も高い優先順位が付与された要求値を付与された優先順位とともに出力する。
【0018】
第7の発明に係る制御装置においては、第1〜6のいずれかの発明の構成に加えて、車両には、内燃機関と、駆動輪と、内燃機関の回転を変速して駆動輪に伝達する変速機とが備えられる。複数の設定部は、各々が車両の要求駆動力を設定する複数の要求駆動力設定部と、各々が変速機の要求変速比を設定する複数の要求変速比設定部と、各々が内燃機関の要求トルクを設定する複数の要求トルク設定部とを含む。調停部は、要求駆動力設定部によって設定された複数の要求駆動力を調停して最終的な要求駆動力を出力する駆動力調停部と、最終的な要求駆動力に応じた要求変速比と要求変速比設定部によって設定された複数の要求変速比とを調停して最終的な要求変速比を出力する変速比調停部と、最終的な要求駆動力と最終的な要求変速比とに応じた要求トルクと要求トルク設定部によって設定された複数の要求トルクとを調停して最終的な要求トルクを出力するトルク調停部とを含む。駆動力調停部、変速比調停部およびトルク調停部で行なわれる調停処理の各々は、付与部によって付与された優先順位に従って実行される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数の調停処理の各々は、付与部によって付与された優先順位に従って実行される。言い換えれば、各々の要求値には、すべての調停処理で共通して用いられる優先順位が付与される。そのため、各調停処理においては、調停処理の順序に関係なく、各調停処理の対象となる要求値に付与された優先順位のみに従って調停処理を行なうことができる。すなわち、上流で行なわれた処理内容の全ユースケースを考慮して調停処理を行なう必要はない。そのため、要求値の追加および削除する場合において、調停処理の制御構造(制御ロジック)の変更量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0021】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両について説明する。この車両は、FR(Front engine Rear drive)車両である。なお、FR以外の車両であってもよい。
【0022】
車両は、エンジン1000と、オートマチックトランスミッション2000と、トルクコンバータ2100と、オートマチックトランスミッション2000の一部を構成するプラネタリギヤユニット3000と、オートマチックトランスミッション2000の一部を構成する油圧回路4000と、プロペラシャフト5000と、デファレンシャルギヤ6000と、後輪7000と、ECU(Electronic Control Unit)8000とを含む。
【0023】
エンジン1000は、インジェクタ(図示せず)から噴射された燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させる内燃機関である。燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、クランクシャフトが回転させられる。エンジン1000により、オルタネータおよびエアコンディショナなどの補機1004が駆動される。エンジン1000の出力トルク(エンジントルクTE)は、電子スロットルバルブ8016の作動量、すなわちスロットル開度などに応じて変化する。なお、エンジン1000の代わりにもしくは加えて、動力源にモータを用いるようにしてもよい。また、ディーゼルエンジンを用いるようにしてもよい。ディーゼルエンジンにおいては、インジェクタの開弁時間(作動量)、すなわち燃料噴射量に応じて出力トルクが変化する。
【0024】
オートマチックトランスミッション2000は、トルクコンバータ2100を介してエンジン1000に連結される。オートマチックトランスミッション2000は、所望のギヤ段を形成することにより、クランクシャフトの回転数を所望の回転数に変速する。なお、ギヤ段を形成するオートマチックトランスミッションの代わりに、変速比を無段階に変更するCVT(Continuously Variable Transmission)を搭載するようにしてもよい。さらに、油圧アクチュエータもしくは電動モータにより変速される常時噛合式歯車からなる自動変速機を搭載するようにしてもよい。
【0025】
オートマチックトランスミッション2000から出力された駆動力は、プロペラシャフト5000およびデファレンシャルギヤ6000を介して、左右の後輪7000に伝達される。
【0026】
ECU8000には、シフトレバー8004のポジションスイッチ8006と、アクセルペダル8008のアクセル開度センサ8010と、エアフローメータ8012と、電子スロットルバルブ8016のスロットル開度センサ8018と、エンジン回転数センサ8020と、入力軸回転数センサ8022と、出力軸回転数センサ8024と、油温センサ8026と、水温センサ8028とがハーネスなどを介して接続されている。
【0027】
シフトレバー8004の位置(ポジション)は、ポジションスイッチ8006により検出され、検出結果を表す信号がECU8000に送信される。シフトレバー8004の位置に対応して、オートマチックトランスミッション2000のギヤ段が自動で形成される。また、運転者の操作に応じて、運転者が任意のギヤ段を選択できるマニュアルシフトモードを選択できるように構成してもよい。
【0028】
アクセル開度センサ8010は、アクセルペダル8008の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。エアフローメータ8012は、エンジン1000に吸入される空気量を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
【0029】
スロットル開度センサ8018は、アクチュエータにより開度が調整される電子スロットルバルブ8016の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。電子スロットルバルブ8016により、エンジン1000に吸入される空気量が調整される。
【0030】
なお、電子スロットルバルブ8016の代わりにもしくは加えて、吸気バルブ(図示せず)や排気バルブ(図示せず)のリフト量や開閉する位相を変更する可変バルブリフトシステムにより、エンジン1000に吸入される空気量を調整するようにしてもよい。
【0031】
エンジン回転数センサ8020は、エンジン1000の出力軸(クランクシャフト)の回転数(以下、エンジン回転数NEとも記載する)を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。入力軸回転数センサ8022は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸回転数NI(トルクコンバータ2100のタービン回転数NT)を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。出力軸回転数センサ8024は、オートマチックトランスミッション2000の出力軸回転数NOを検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
【0032】
油温センサ8026は、オートマチックトランスミッション2000の作動や潤滑に用いられるオイル(ATF:Automatic Transmission Fluid)の温度(油温)を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
【0033】
水温センサ8028は、エンジン1000の冷却水の温度(水温)を検出し、検出結果を表わす信号をECU8000に送信する。
【0034】
ECU8000は、ポジションスイッチ8006、アクセル開度センサ8010、エアフローメータ8012、スロットル開度センサ8018、エンジン回転数センサ8020、入力軸回転数センサ8022、出力軸回転数センサ8024、油温センサ8026、水温センサ8028などから送られてきた信号、ROM(Read Only Memory)8002に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両が所望の走行状態となるように、機器類を制御する。なおECU8000により実行されるプログラムをCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記録して市場に流通させてもよい。
【0035】
本実施の形態において、ECU8000は、シフトレバー8004がD(ドライブ)ポジションであることにより、オートマチックトランスミッション2000のシフトレンジにD(ドライブ)レンジが選択された場合、前進1速〜8速ギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されるように、オートマチックトランスミッション2000を制御する。前進1速〜8速ギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されることにより、オートマチックトランスミッション2000は後輪7000に駆動力を伝達し得る。なお、Dレンジにおいて、8速ギヤ段よりも高速のギヤ段を形成可能であるようにしてもよい。なお、ECUは複数のECUに分割するようにしてもよい。
【0036】
図2を参照して、プラネタリギヤユニット3000について説明する。プラネタリギヤユニット3000は、クランクシャフトに連結された入力軸2102を有するトルクコンバータ2100に接続されている。
【0037】
プラネタリギヤユニット3000は、フロントプラネタリ3100と、リアプラネタリ3200と、C1クラッチ3301と、C2クラッチ3302と、C3クラッチ3303と、C4クラッチ3304と、B1ブレーキ3311と、B2ブレーキ3312と、ワンウェイクラッチ(F)3320とを含む。
【0038】
フロントプラネタリ3100は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構である。フロントプラネタリ3100は、第1サンギヤ(S1)3102と、1対の第1ピニオンギヤ(P1)3104と、キャリア(CA)3106と、リングギヤ(R)3108とを含む。
【0039】
第1ピニオンギヤ(P1)3104は、第1サンギヤ(S1)3102および第1リングギヤ(R)3108と噛合っている。第1キャリア(CA)3106は、第1ピニオンギヤ(P1)3104が公転および自転可能であるように支持している。
【0040】
第1サンギヤ(S1)3102は、回転不能であるようにギヤケース3400に固定される。第1キャリア(CA)3106は、プラネタリギヤユニット3000の入力軸3002に連結される。
【0041】
リアプラネタリ3200は、ラビニヨ型の遊星歯車機構である。リアプラネタリ3200は、第2サンギヤ(S2)3202と、第2ピニオンギヤ(P2)3204と、リアキャリア(RCA)3206と、リアリングギヤ(RR)3208と、第3サンギヤ(S3)3210と、第3ピニオンギヤ(P3)3212とを含む。
【0042】
第2ピニオンギヤ(P2)3204は、第2サンギヤ(S2)3202、リアリングギヤ(RR)3208および第3ピニオンギヤ(P3)3212と噛合っている。第3ピニオンギヤ(P3)3212は、第2ピニオンギヤ(P2)3204に加えて、第3サンギヤ(S3)3210と噛合っている。
【0043】
リアキャリア(RCA)3206は、第2ピニオンギヤ(P2)3204および第3ピニオンギヤ(P3)3212が公転および自転可能であるように支持している。リアキャリア(RCA)3206は、ワンウェイクラッチ(F)3320に連結される。リアキャリア(RCA)3206は、1速ギヤ段の駆動時(エンジン1000から出力された駆動力を用いた走行時)に回転不能となる。リアリングギヤ(RR)3208は、プラネタリギヤユニット3000の出力軸3004に連結される。
【0044】
ワンウェイクラッチ(F)3320は、B2ブレーキ3312と並列に設けられる。すなわち、ワンウェイクラッチ(F)3320のアウターレースはギヤケース3400に固定され、インナーレースはリアキャリア(RCA)3206に連結される。
【0045】
図3に、各変速ギヤ段と、各クラッチおよび各ブレーキの作動状態との関係を表した作動表を示す。この作動表に示された組み合わせで各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより、前進1速〜8速のギヤ段と、後進1速および2速のギヤ段が形成される。
【0046】
図4を参照して、油圧回路4000の要部について説明する。なお、油圧回路4000は、以下に説明するものに限られない。
【0047】
油圧回路4000は、オイルポンプ4004と、プライマリレギュレータバルブ4006と、マニュアルバルブ4100と、ソレノイドモジュレータバルブ4200と、SL1リニアソレノイド(以下、SL(1)と記載する)4210と、SL2リニアソレノイド(以下、SL(2)と記載する)4220と、SL3リニアソレノイド(以下、SL(3)と記載する)4230と、SL4リニアソレノイド(以下、SL(4)と記載する)4240と、SL5リニアソレノイド(以下、SL(5)と記載する)4250と、SLTリニアソレノイド(以下、SLTと記載する)4300と、B2コントロールバルブ4500とを含む。
【0048】
オイルポンプ4004は、エンジン1000のクランクシャフトに連結されている。クランクシャフトが回転することにより、オイルポンプ4004が駆動し、油圧を発生する。オイルポンプ4004で発生した油圧は、プライマリレギュレータバルブ4006により調圧され、ライン圧が生成される。
【0049】
プライマリレギュレータバルブ4006は、SLT4300により調圧されたスロットル圧をパイロット圧として作動する。ライン圧は、ライン圧油路4010を介してマニュアルバルブ4100に供給される。
【0050】
マニュアルバルブ4100は、ドレンポート4105を含む。ドレンポート4105から、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104の油圧が排出される。マニュアルバルブ4100のスプールがDポジションにある場合、ライン圧油路4010とDレンジ圧油路4102とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102に油圧が供給される。このとき、Rレンジ圧油路4104とドレンポート4105とが連通させられ、Rレンジ圧油路4104のRレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
【0051】
マニュアルバルブ4100のスプールがRポジションにある場合、ライン圧油路4010とRレンジ圧油路4104とが連通させられ、Rレンジ圧油路4104に油圧が供給される。このとき、Dレンジ圧油路4102とドレンポート4105とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102のDレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
【0052】
マニュアルバルブ4100のスプールがNポジションにある場合、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104の両方と、ドレンポート4105とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102のDレンジ圧およびRレンジ圧油路4104のRレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
【0053】
Dレンジ圧油路4102に供給された油圧は、最終的には、C1クラッチ3301、C2クラッチ3302およびC3クラッチ3303に供給される。Rレンジ圧油路4104に供給された油圧は、最終的には、B2ブレーキ3312に供給される。
【0054】
ソレノイドモジュレータバルブ4200は、ライン圧を元圧とし、SLT4300に供給する油圧(ソレノイドモジュレータ圧)を一定の圧力に調圧する。
【0055】
SL(1)4210は、C1クラッチ3301に供給される油圧を調圧する。SL(2)4220は、C2クラッチ3302に供給される油圧を調圧する。SL(3)4230は、C3クラッチ3303に供給される油圧を調圧する。SL(4)4240は、C4クラッチ3304に供給される油圧を調圧する。SL(5)4250は、B1ブレーキ3311に供給される油圧を調圧する。
【0056】
SLT4300は、アクセル開度センサ8010により検出されたアクセル開度に基づいたECU8000からの制御信号に応じて、ソレノイドモジュレータ圧を調圧し、スロットル圧を生成する。スロットル圧は、SLT油路4302を介して、プライマリレギュレータバルブ4006に供給される。スロットル圧は、プライマリレギュレータバルブ4006のパイロット圧として利用される。
【0057】
SL(1)4210、SL(2)4220、SL(3)4230、SL(4)4240、SL(5)4250およびSLT4300は、ECU8000から送信される制御信号により制御される。
【0058】
B2コントロールバルブ4500は、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104のいずれか一方からの油圧を選択的に、B2ブレーキ3312に供給する。B2コントロールバルブ4500に、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104が接続されている。B2コントロールバルブ4500は、SLUソレノイドバルブ(図示せず)から供給された油圧とスプリングの付勢力とにより制御される。
【0059】
SLUソレノイドバルブがオンの場合、B2コントロールバルブ4500は、図4において左側の状態となる。この場合、B2ブレーキ3312には、SLUソレノイドバルブから供給された油圧をパイロット圧として、Dレンジ圧を調圧した油圧が供給される。
【0060】
SLUソレノイドバルブがオフの場合、B2コントロールバルブ4500は、図4において右側の状態となる。この場合、B2ブレーキ3312には、Rレンジ圧が供給される。
【0061】
図5を参照して、本実施の形態に係る制御装置のシステム構成について説明する。図5中の「F」は駆動力を、「SFT」はギヤ段(変速比)を、「TRQ」はエンジントルクを示す。以下に説明する制御装置は、ECU8000により実現するようにしてもよく、ECU8000とは異なる他の制御装置により実現するようにしてもよい。また、以下に説明するシステム構成の機能は、ハードウエアにより実現するようにしてもよく、ソフトウエアにより実現するようにしてもよい。
【0062】
図5に示すように、この制御装置は、駆動力設定部9000と、ギヤ段設定部9100と、トルク設定部9200と、ID付与部9300と、トランスミッション(T/M)制御システム9400と、エンジン(ENG)制御システム9500とを備える。
【0063】
駆動力設定部9000は、ドライバの意思に応じた車両の要求駆動力を設定するPDRM(Power train Driver Model)9010と、各々が要求駆動力を設定するPDRM(Power train Driver Model)9010、DSS(Drivers Support System)9030、最高車速制限システム9031、制振制御システム9032、およびVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)システム9033(以下、これらのDSS9030、最高車速制限システム9031、制振制御システム9032、およびVDIMシステム9033を区別することなく「駆動力要求システム」とも記載する)と、PDRM9010および上述の駆動力要求システムによって設定された複数の要求駆動力を調停して目標駆動力(最終的な要求駆動力)を出力する駆動力調停部9020とを備える。
【0064】
ギヤ段設定部9100は、目標駆動力に応じたオートマチックトランスミッション2000の要求ギヤ段(要求変速比)を設定するギヤ段変換部9110と、各々が要求ギヤ段を設定するVDIMシステム9130、エンジン要求システム9131、および空調要求システム9132(以下、VDIMシステム9130、エンジン要求システム9131、および空調要求システム9132を区別することなく「ギヤ段要求システム」とも記載する)と、ギヤ段変換部9110および上述のギヤ段要求システムによって設定された複数の要求ギヤ段を調停して目標ギヤ段(最終的な要求ギヤ段)を出力するギヤ段調停部9120とを備える。
【0065】
トルク設定部9200は、目標駆動力および目標ギヤ段に応じたエンジン1000の要求トルクを設定するトルク変換部9210と、各々が要求トルクを設定するドライバビリティ要求システム9230およびトランスミッション要求システム9231(以下、ドライバビリティ要求システム9230、トランスミッション要求システム9231を区別することなく「トルク要求システム」とも記載する)と、トルク変換部9210および要求トルク設定システムによって設定された複数の要求トルクを調停して目標トルク(最終的な要求トルク)を出力するトルク調停部9220とを備える。
【0066】
さらに、この制御装置は、上述した各要求システム(駆動力要求システム、ギヤ段要求システム、要求トルク設定システム)で設定された複数の要求値(複数の要求駆動力、複数の要求ギヤ段、複数の要求トルク)の各々に対して、駆動力調停部9020、ギヤ段調停部9120、およびトルク調停部9220の各調停処理で共通して用いられる優先順位を示すインデックス(以下「ID」とも記載する)を付与するID付与部9300を備える。なお、以下に説明するID付与部9300の機能は、各要求システムあるいは各調停処理部が備えるようにしてもよい。
【0067】
PDRM9010は、ドライバの操作に基づいて、ドライバの意思に応じた要求駆動力を設定するために用いられるモデル(関数)である。このPDRM9010では、アクセル開度センサ8010で検出されたアクセル開度などに基づいて、ドライバの意思に基づく要求駆動力が常時設定される。
【0068】
DSS9030は、クルーズコントロールシステム、パーキングアシストシステムおよびプリクラッシュセーフティシステムの少なくともいずれかのシステムが作動した場合に、各システムで要求される車両状態を実現させるための要求駆動力を自動的に設定する。
【0069】
最高車速制限システム9031は、現在の加速度および車速などに基づいて車速が予め定められた最高車速を超えると予測される場合に、車速を最高車速以下に低下させるための要求駆動力を自動的に設定する。
【0070】
制振制御システム9032は、車両のピッチングおよびバウンシングを抑制する必要がある場合に、車両のピッチングおよびバウンシングを抑制するための要求駆動力を設定する。車両のピッチングおよびバウンシングを抑制するための駆動力を設定する方法については、従来の技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。
【0071】
VDIMシステム9033は、VSC(Vehicle Stability Control)、TRC(TRaction Control)、ABS(Anti lock Brake System)、EPS(Electric Power Steering)など、車両の安全性を確保するための制御を統合するシステムである。
【0072】
VSCは、前後輪の横滑りを防止するための制御システムである。TRCは、滑りやすい路面での発進時および加速時に駆動輪の空転を防止するための制御システムである。ABSは、車輪のロックを防止する制御システムである。EPSは、電動モータの力によってステアリングホイールの操舵をアシストする制御システムである。
【0073】
VDIMシステム9033は、これらの制御システムの少なくともいずれかの制御システムが作動した場合に、各システムで要求される車両状態を実現させるための要求駆動力を自動的に設定する。
【0074】
これらの駆動力要求システム(DSS9030、最高車速制限システム9031、制振制御システム9032、およびVDIMシステム9033)で設定された要求駆動力には、ID付与部9300によってIDがそれぞれ付与される。
【0075】
ID付与部9300は、駆動力要求システムによって設定された要求駆動力を、各々の要求要因(どのような要因で要求駆動力を設定する必要性が生じたか)に基づいて、各要求駆動力に付与するIDを決定する。具体的には、ID付与部9300は、要求駆動力の要求要因を互いに異なるIDが予め対応付けられた複数の要因カテゴリに分類し、分類された要因カテゴリに対応するIDを要求駆動力に付与する。
【0076】
図6に、要因カテゴリと、要因カテゴリに対応付けられるIDとを示す。図6に示す要因カテゴリおよびIDは、あくまで例示であってこれに限定されるものではない。
【0077】
図6に示すように、本実施の形態における要因カテゴリは、「安全性確保」、「法規遵守」、「耐久性確保A」、「耐久性確保B」、「快適性確保」、「利便性確保」の合計6つ設定され、これらの要因カテゴリに対してそれぞれID=「1」、「2」、「3」、「4」、「5」、「6」が予め対応付けられている。IDが示す数字が小さいものほど、各調停処理での優先順位が高いことを示す。
【0078】
なお、図6においては、複雑なID付与(優先順位の割付)を可能とするため、各要求値を残りの要求値よりも優先しなかった場合に発生する現象およびその現象が発生するまでの時間を考慮して、要因カテゴリが設定されている。すなわち、図6においては、耐久性確保という1つの要求要因に対して、短期サイクルで故障に至る状況を回避するための要求である「耐久性確保A」と、長期サイクルで故障に至る状況を回避するための要求である「耐久性確保B」との2つの要因カテゴリが設定されている。
【0079】
ID付与部9300は、DSS9030、最高車速制限システム9031、制振制御システム9032、VDIMシステム9033が設定した各要求駆動力の要因カテゴリをそれぞれ「利便性確保」、「法規遵守」、「快適性確保」、「安全性確保」に分類する。すなわち、ID付与部9300は、DSS9030、最高車速制限システム9031、制振制御システム9032、VDIMシステム9033が設定した各要求駆動力に対して、それぞれ「6」、「2」、「5」、「1」のIDを付与する。
【0080】
ID付与部9300が各要求駆動力にIDを付与するタイミングは、各要求駆動力を対象とする調停処理が行なわれる以前であれば、いずれのタイミングであってもよい。後述する各要求ギヤ段および各要求トルクにIDを付与するタイミングについても同様である。
【0081】
なお、PDRM9010で設定される要求駆動力は、優先順位は最も低く、かつ常時設定される普遍的な要求駆動力である。そのため、本実施の形態において、ID付与部9300は、通信量を低減するために、PDRM9010で設定される要求駆動力にはIDを付与しない。なお、ID付与部9300がPDRM9010で設定される要求駆動力にIDを付与するようにしてもよい。
【0082】
図5に戻って、駆動力調停部9020は、上述した駆動力要求システムで設定された複数の要求駆動力を、第1駆動力調停部9021、第2駆動力調停部9022、第3駆動力調停部9023、第4駆動力調停部9024の順に階層的に調停して目標駆動力(最終的な要求駆動力)を設定する。
【0083】
以下の説明においては、各駆動力調停部9021,9022,9023,9024が、各々の調停処理において、調停処理の対象となる要求駆動力のうちの高い優先順位を示すIDが付与された要求駆動力を優先し、優先された要求駆動力をそのIDとともに出力する場合について説明する。なお、各調停処理の内容は、優先された要求駆動力を出力するものに限定されない。たとえば、各調停処理のいずれかにおいて、優先された要求駆動力が、優先されたかった要求駆動力よりも、より多く調停結果に反映されるようにしてもよい。後述する要求ギヤおよび要求トルクの調停処理も同様である。
【0084】
また、本実施の形態においては、上述したように、IDが付与されていない(すなわち優先順位が最も低い)PDRM9010で設定された要求駆動力と他の要求駆動力とを調停する際、他の要求駆動力が優先される。
【0085】
第1駆動力調停部9021は、DSS9030で要求駆動力が設定された場合、DSS9030で設定された要求駆動力とPDRM9010で設定された要求駆動力との調停処理を行なう。この調停処理において、第1駆動力調停部9021は、IDを有さないPDRM9010の要求駆動力ではなく、ID=6が付与されたDSS9030の要求駆動力を優先し、DSS9030の要求駆動力をそのID(=6)とともに第2駆動力調停部9022に出力する。一方、第1駆動力調停部9021は、DSS9030で要求駆動力が設定されていない場合、PDRM9010の要求駆動力を第2駆動力調停部9022に出力する。
【0086】
第2駆動力調停部9022は、最高車速制限システム9031で要求駆動力が設定された場合、最高車速制限システム9031で設定された要求駆動力と第1駆動力調停部9021から出力された要求駆動力とのうち、高い優先順位を示すIDが付与された要求駆動力をそのIDとともに第3駆動力調停部9023に出力する。一方、第2駆動力調停部9022は、DSS9030で要求駆動力が設定されていない場合、第1駆動力調停部9021から出力された要求駆動力をそのIDとともに第3駆動力調停部9023に出力する。
【0087】
第3駆動力調停部9023は、制振制御システム9032で要求駆動力が設定された場合、制振制御システム9032で設定された要求駆動力と第2駆動力調停部9022から出力された要求駆動力とのうち、高い優先順位を示すIDが付与された要求駆動力をそのIDとともに第4駆動力調停部9024に出力する。一方、第3駆動力調停部9023は、制振制御システム9032で要求駆動力が設定されていない場合、第2駆動力調停部9022から出力された要求駆動力をそのIDとともに第4駆動力調停部9024に出力する。
【0088】
第4駆動力調停部9024は、VDIMシステム9033で要求駆動力が設定された場合、VDIMシステム9033で設定された要求駆動力と第3駆動力調停部9023から出力された要求駆動力とのうち、高い優先順位を示すIDが付与された要求駆動力をそのIDとともにギヤ段変換部9110およびトルク変換部9210に出力する。一方、第4駆動力調停部9023は、VDIMシステム9033で要求駆動力が設定されていない場合、第3駆動力調停部9023から出力された要求駆動力をそのIDとともに、最終的な要求駆動力(目標駆動力)として、ギヤ段変換部9110およびトルク変換部9210に出力する。
【0089】
ギヤ段変換部9110は、第4駆動力調停部9024から出力された目標駆動力をその目標駆動力を実現させるための要求ギヤ段に変換し、目標駆動力に付与されていたIDとともにギヤ段調停部9120に出力する。
【0090】
VDIMシステム9130は、上述したVSC、TRC、ABS、EPSなどの各制御システムが作動した場合に、各制御で要求される車両状態を実現させるための要求ギヤ段を設定する。
【0091】
エンジン要求システム9131は、たとえば法定の排気ガス規制要件を満足するためにエンジン1000を早期に暖機させる必要がある場合などに、エンジン1000の暖機要求を満たす要求ギヤ段を設定する。
【0092】
空調要求システム9132は、エアコンディショナを作動させて車両の室温を適温に維持する必要がある場合に、エンジン1000に掛かる負荷を考慮した要求ギヤ段を設定する。
【0093】
これらのギヤ段要求システム(VDIMシステム9130、エンジン要求システム9131、空調要求システム9132)で設定された要求ギヤ段には、ID付与部9300によってIDがそれぞれ付与される。
【0094】
ID付与部9300は、ギヤ段要求システムによって設定された要求ギヤ段を、各々の要求要因に基づいて、上述の図6で示した要因カテゴリに分類し、分類された要因カテゴリに対応するIDを要求ギヤ段に付与する。すなわち、ID付与部9300は、各要求ギヤ段に対して、上述の要求駆動力に付与した場合と同じ規則でIDを付与する。
【0095】
本実施の形態においては、ID付与部9300は、VDIMシステム9130、エンジン要求システム9131、空調要求システム9132が設定した各要求ギヤの要因カテゴリをそれぞれ「安全性確保」、「法規遵守」、「快適性確保」に分類する。すなわち、ID付与部9300は、VDIMシステム9130、エンジン要求システム9131、空調要求システム9132が設定した各要求ギヤ段に対して、それぞれ「1」、「2」、「5」のIDを付与する。
【0096】
ギヤ段調停部9120は、ギヤ段要求システムのいずれかで要求ギヤ段が設定された場合、ギヤ段要求システムで設定された要求ギヤ段とギヤ段変換部9110から出力された要求ギヤ段とのうち、最も高い優先順位を示すIDが付与された要求ギヤ段をそのIDとともに、最終的な要求ギヤ段(目標ギヤ段)として、トルク変換部9210およびトランスミッション制御システム9400に出力する。一方、ギヤ段調停部9120は、ギヤ段要求システムのいずれにおいても要求ギヤ段が設定されていない場合、ギヤ段変換部9110から出力された要求ギヤ段をそのIDとともに、最終的な要求ギヤ段(目標ギヤ段)として、トルク変換部9210およびトランスミッション制御システム9400に出力する。
【0097】
トルク変換部9210は、ギヤ段調停部9120から出力された目標ギヤ段で第4駆動力調停部9024から出力された目標駆動力を実現させるための要求トルクを設定し、目標駆動力に付与されていたIDおよび目標ギヤ段に付与されていたIDのうちの優先順位が高いほうのIDとともに、トルク調停部9220に出力する。
【0098】
ドライバビリティ要求システム9230は、車両の発進時や運転者による急激なアクセルペダル操作時に、車両の急激な加減速を抑制してドライバビリティを向上させるための目標エンジントルクを自動的に設定する。
【0099】
トランスミッション要求システム9231は、オートマチックトランスミッション2000の変速時に、変速ショックを低減するためのトルクダウンもしくはトルクアップを実現させるための目標エンジントルクを設定する。
【0100】
これらの要求トルク設定システム(ドライバビリティ要求システム9230、トランスミッション要求システム9231)で設定された要求トルクには、ID付与部9300によってIDがそれぞれ付与される。
【0101】
ID付与部9300は、上述の要求トルク設定システムによって設定された要求トルクを、各々の要求要因に基づいて、上述の図6で示した複数の要因カテゴリに分類し、分類された要因カテゴリに対応するIDを要求トルクに付与する。すなわち、ID付与部9300は、各要求トルクに対して、上述の要求駆動力および要求ギヤ段に付与した場合と同じ規則でIDを付与する。
【0102】
本実施の形態においては、ID付与部9300は、ドライバビリティ要求システム9230、トランスミッション要求システム9231が設定した各要求トルクの要因カテゴリをそれぞれ「快適性確保」、「耐久性確保B」に分類する。すなわち、ID付与部9300は、ドライバビリティ要求システム9230、トランスミッション要求システム9231が設定した各要求トルクに対して、それぞれ「5」、「4」のIDを付与する。
【0103】
トルク調停部9220は、上述した複数の要求トルクを、第1トルク調停部9221、第2トルク調停部9222の順に階層的に調停し、車両の目標エンジントルクを設定する。
【0104】
第1トルク調停部9221は、ドライバビリティ要求システム9230で要求トルクが設定された場合、ドライバビリティ要求システム9230で設定された要求トルクとトルク変換部9210から出力された要求トルクとのうち、高い優先順位を示すIDが付与された要求トルクをそのIDとともに第2トルク調停部9222に出力する。一方、第1トルク調停部9221は、ドライバビリティ要求システム9230で要求トルクが設定されていない場合、トルク変換部9210から出力された要求トルクをそのIDとともに第2トルク調停部9222に出力する。
【0105】
第2トルク調停部9222は、トランスミッション要求システム9231で要求トルクが設定された場合、トランスミッション要求システム9231で設定された要求トルクと第1トルク調停部9221から出力された要求トルクとのうち、高い優先順位を示すIDが付与された要求トルクをそのIDとともに、最終的な要求トルク(目標トルク)として、エンジン制御システム9500に出力する。一方、第2トルク調停部9222は、トランスミッション要求システム9231で要求トルクが設定されていない場合、第1トルク調停部9221から出力された要求トルクそのIDとともに、最終的な要求トルク(目標トルク)として、エンジン制御システム9500に出力する。
【0106】
トランスミッション制御システム9400は、ギヤ段調停部9120から出力された目標ギヤ段がオートマチックトランスミッション2000で形成されるように、油圧回路4000を制御する。
【0107】
エンジン制御システム9500は、トルク調停部9220から出力された目標トルクをエンジン1000から出力させるように、電子スロットルバルブ8016、点火時期、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブなど、エンジン1000の出力トルクを制御するために設けられた機器を制御する。
【0108】
以上のようなシステム構成に基づく調停処理について、図7を参照しつつ説明する。図7は、上述した各要求システム(DSS9030、最高車速制限システム9031、制振制御システム9032、VDIMシステム9033、VDIMシステム9130、エンジン要求システム9131、空調要求システム9132、ドライバビリティ要求システム9230、トランスミッション要求システム9231)のすべてにおいて要求値(要求駆動力、要求ギヤ段、要求トルク)が設定された場合を示している。
【0109】
この場合において、ID付与部9300は、上述した各要求システムで設定される複数の要求値に対して、同じ規則でIDを付与する。すなわち、ID付与部9300は、ID付与対象となる要求値が駆動力、ギヤ段、エンジントルクのいずれであっても、各々の要求値の要求要因を図6に示した共通の要因カテゴリに分類し、分類された要因カテゴリに対応するIDを付与する。
【0110】
このようにIDが付与されるため、駆動力調停部9020、ギヤ段調停部9120、およびトルク調停部9220で行なわれる各調停処理の制御構造を、調停対象となる要求値のうちIDの数値が小さい(すなわち優先順位が高い)要求値を優先して出力するという簡易な構造にすることができる。すなわち、従来のように、各要求値の優先順位を考慮して各調停処理の処理順序を変更する必要はなく、また、各調停処理において上流で行なわれた調停処理内容の全ユースケースを考慮した調停を行なう必要もない。
【0111】
具体的には、図7に示すように、第1駆動力調停部9021は、DSS9030の要求駆動力をそのID=6とともに出力する。第2駆動力調停部9022は、第1駆動力調停部9021からの要求駆動力(ID=6)と最高車速制限システム9031からの要求駆動力(ID=2)とのうち、IDの数値が小さい(すなわち優先順位が高い)最高車速制限システム9031からの要求駆動力をそのID=2とともに出力する。第3駆動力調停部9023は、第2駆動力調停部9022からの要求駆動力(ID=2)と制振制御システム9032からの要求駆動力(ID=5)とのうち、IDの数値が小さい第2駆動力調停部9022からの要求駆動力をそのID=2とともに出力する。第4駆動力調停部9024は、第3駆動力調停部9023からの要求駆動力(ID=2)とVDIMシステム9033からの要求駆動力(ID=1)とのうち、IDの数値が小さいVDIMシステム9033からの要求駆動力をそのID=1とともにギヤ段変換部9110およびトルク変換部9210に出力する。
【0112】
同様に、ギヤ段調停部9120は、ギヤ段変換部9110からの要求ギヤ段(ID=1)と、VDIMシステム9130から要求ギヤ段(ID=1)と、エンジン要求システム9131から要求ギヤ段(ID=2)と、空調要求システム9132からの要求ギヤ段(ID=5)とのうち、IDの数値が最も小さいVDIMシステム9130からのID=1の要求ギヤ段(あるいはギヤ段変換部9110からの要求ギヤ段)をそのID=1とともにトルク変換部9210およびトランスミッション制御システム9400出力する。
【0113】
同様に、第1トルク調停部9221は、トルク変換部9210からの要求トルク(ID=1)と、ドライバビリティ要求システム9230からの要求トルク(ID=5)とのうち、IDの数値が小さいトルク変換部9210からの要求トルクをそのID=1とともに出力する。第2トルク調停部9222は、第1トルク調停部9221から要求トルク(ID=1)と、トランスミッション要求システム9231からの要求トルク(ID=4)とのうち、IDの数値が小さい第1トルク調停部9221からの要求トルクをそのID=1とともにエンジン制御システム9500に出力する。
【0114】
このように、各調停処理の制御構造は、調停対象となる要求値のうちIDの数値が小さい要求値を優先して出力するという簡易な構造でよい。
【0115】
そのため、たとえば新たな駆動力要求システムを追加する場合においては、その要求駆動力にIDを付与するとともに、駆動力調停部9020のいずれかに調停処理を追加するだけでよい。この追加する調停処理の制御構造は、既存のものと同様、IDの数値が小さい要求値を優先して出力するという簡易な構造でよい。
【0116】
さらに、この追加された調停処理よりも下流側で行なわれる調停処理の制御構造を変更する必要はない。なお、たとえば既存の駆動力要求システムを削除する場合においても同様である。
【0117】
したがって、新たな要求システムの追加および削除の際の調停処理ロジックの変更量を、従来に比べて大幅に低減することができ、新たな要求システムの追加および削除に対して柔軟に対応することができる。
【0118】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】車両のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】オートマチックトランスミッションのプラネタリギヤユニットを示すスケルトン図である。
【図3】オートマチックトランスミッションの作動表を示す図である。
【図4】オートマチックトランスミッションの油圧回路を示す図である。
【図5】本実施の形態に係る制御装置のシステム構成を示す図である。
【図6】要因カテゴリと、要因カテゴリに対応付けられるIDを示す図である。
【図7】本実施の形態に係る制御装置が行なう調停処理を示す図である。
【符号の説明】
【0120】
1000 エンジン、1004 補機、2000 オートマチックトランスミッション、2100 トルクコンバータ、5000 プロペラシャフト、6000 デファレンシャルギヤ、7000 後輪、8000 ECU、8002 ROM、8004 シフトレバー、8006 ポジションスイッチ、8008 アクセルペダル、8010 アクセル開度センサ、8012 エアフローメータ、8016 電子スロットルバルブ、8018 スロットル開度センサ、8020 エンジン回転数センサ、8022 入力軸回転数センサ、8024 出力軸回転数センサ、8026 油温センサ、8028 水温センサ、9000 駆動力設定部、9010 PDRM、9020 駆動力調停部、9021 第1駆動力調停部、9022 第2駆動力調停部、9023 第3駆動力調停部、9024 第4駆動力調停部、9031 最高車速制限システム、9032 制振制御システム、9033 VDIMシステム、9030 DSS、9100 ギヤ段設定部、9110 ギヤ段変換部、9120 ギヤ段調停部、9130 VDIMシステム、9131 エンジン要求システム、9132 空調要求システム、9200 トルク設定部、9210 トルク変換部、9220 トルク調停部、9221 第1トルク調停部、9222 第2トルク調停部、9230 ドライバビリティ要求システム、9231 トランスミッション要求システム、9300 ID付与部、9400 トランスミッション制御システム、9500 エンジン制御システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御装置であって、
各々が要求値を設定する複数の設定部と、
複数の前記設定部が設定した前記要求値の各々に、各々の前記要求値の要求要因に基づいて優先順位を付与する付与部と、
前記設定部から入力される複数の前記要求値を調停する複数の調停処理を予め定められた順序で実行することによって前記車両を制御するための値を出力する調停部とを含み、
複数の前記調停処理の各々は、前記付与部によって付与された優先順位に従って実行される、車両の制御装置。
【請求項2】
前記付与部は、各々の前記要求値の要求要因に基づいて、各々の前記要求値を互いに異なる優先順位を有する複数の要因カテゴリに分類し、
前記付与部が前記要求値に付与する優先順位は、分類された前記要因カテゴリが有する優先順位である、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記複数の要因カテゴリには、安全性確保、法規遵守、耐久性確保、快適性確保、および利便性確保が含まれ、
前記複数の要因カテゴリが有する優先順位は、前記安全性確保、前記法規遵守、前記耐久性確保、前記快適性確保、前記利便性確保の順に高く設定される、請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記付与部は、各々の前記要求値の要求要因に加えて、各々の前記調停処理において1つの要求値を残りの要求値よりも優先しなかった場合に発生する現象、および前記現象が発生するまでの時間の少なくともいずれかに基づいて、各々の前記要求値の優先順位を付与する、請求項1〜3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記付与部は、複数の前記要求値のうち優先順位が最も低い要求値には優先順位を付与せず、
複数の前記調停処理の各々は、優先順位が付与されていない前記要求値よりも優先順位が付与された前記要求値を優先して調停結果に反映させる、請求項1〜4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記調停部は、複数の前記調停処理を階層的に行なうとともに、各々の前記調停処理において、前記調停処理の対象となる要求値のうちの最も高い優先順位が付与された要求値を前記付与された優先順位とともに出力する、請求項1〜5のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記車両には、内燃機関と、駆動輪と、前記内燃機関の回転を変速して前記駆動輪に伝達する変速機とが備えられ、
前記複数の設定部は、
各々が前記車両の要求駆動力を設定する複数の要求駆動力設定部と、
各々が前記変速機の要求変速比を設定する複数の要求変速比設定部と、
各々が前記内燃機関の要求トルクを設定する複数の要求トルク設定部とを含み、
前記調停部は、
前記要求駆動力設定部によって設定された複数の前記要求駆動力を調停して最終的な要求駆動力を出力する駆動力調停部と、
前記最終的な要求駆動力に応じた要求変速比と前記要求変速比設定部によって設定された複数の前記要求変速比とを調停して最終的な要求変速比を出力する変速比調停部と、
前記最終的な要求駆動力と前記最終的な要求変速比とに応じた要求トルクと前記要求トルク設定部によって設定された複数の前記要求トルクとを調停して最終的な要求トルクを出力するトルク調停部とを含み、
前記駆動力調停部、前記変速比調停部および前記トルク調停部で行なわれる前記調停処理の各々は、前記付与部によって付与された優先順位に従って実行される、請求項1〜6のいずれかに記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−64645(P2010−64645A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233601(P2008−233601)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】