説明

車両の制御装置

【課題】燃費率が悪化しない領域でオルタネータを作動させることで、オルタネータの作動領域を拡大できる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジントルクとエンジン回転数とに基づく燃費率マップと最適燃費線とを予め記憶し、エンジン駆動状態からオルタネータの非作動状態における燃費率マップ上の現状位置を推定し、推定現状位置が最適燃費線よりも低トルク領域側にある場合に、推定現状位置と最適燃費線との間のトルク差であるトルク差ΔTを求め、トルク差ΔTに応じてトルクアップ手段によりエンジントルクを増加させる。トルク差ΔTがオルタネータの最大負荷トルクTaより小さいとき、オルタネータの作動を禁止し、トルク差ΔTが前記オルタネータの最大負荷トルクTaより大きいとき、オルタネータの作動を許可する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとベルト式無段変速機とオルタネータとを備えた車両の制御装置、特に燃費向上とバッテリ劣化防止とを図る制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両では、バッテリが劣化すると、それを検知してオルタネータが自動的に発電する機能を有するが、劣化していないバッテリであれば、できるだけオルタネータ負荷を減らし、出力トルクを増加させたい。そのため、減速時(フューエルカット時)に集中してオルタネータによる発電を実施し、燃費向上を図る方法が実施されている。しかし、減速時のみに発電を集中すると、バッテリの充電不足が発生する可能性がある。
【0003】
特に、無段変速機の場合、低車速になると、Low戻りのためにセカンダリ圧が上昇し、その結果、オイルポンプの負荷が上昇し、減速度がさらに増加するという結果を招く。そのため、無段変速機を搭載した車両では、減速時のみに発電を集中しようとすると、限定された領域でしかオルタネータの発電を実施できず、電力収支が悪化し、バッテリ劣化を招きやすい。
【0004】
特許文献1には、バッテリ劣化や燃費悪化を抑制するための車両制御装置が開示されている。すなわち、バッテリ状態から発電必要電気量を算出し、走行状態からエンジン必要トルクを算出し、これら発電必要電気量とエンジン必要トルクとを調停して車両必要トルクを決定し、これにより目標エンジン回転数を決定することを特徴としている。
【0005】
この場合、発電必要電気量とエンジン必要トルクとから目標エンジン回転数を決定しているが、無段変速機を搭載した車両の場合、アクセル開度と車速とから目標入力回転数(ロックアップ時には目標エンジン回転数)を設定してフィードバック制御するため、上述のトルク制御と無段変速機の変速制御とが干渉する可能性がある。また、特許文献1には変速機に関する記述がなく、いかなる制御を行うのか不明である。オルタネータの作動によって負荷トルクが変わるので、上述のような制御では現状の運転状態よりも燃費が悪化する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−239526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、燃費率が悪化しない領域でオルタネータを作動させることで、オルタネータの作動領域を拡大できる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、エンジンと、ベルト式無段変速機と、エンジンにより駆動されるオルタネータとを備え、エンジン動力により無段変速機を介して車輪を駆動する車両であって、前記無段変速機はアクセル開度と車速とに対応して目標入力回転数を決定し、この目標入力回転数に向かって変速比をフィードバック制御するものであり、前記エンジンはエンジントルクを増加させるトルクアップ手段を備えた車両において、エンジントルクとエンジン回転数とに基づく燃費率マップと最適燃費線とを予め記憶した記憶手段と、エンジン駆動状態から、前記オルタネータの非作動状態における前記燃費率マップ上の現状位置を推定する手段と、前記推定現状位置が前記最適燃費線よりも低トルク領域側にある場合に、前記推定現状位置と前記最適燃費線との間のトルク差ΔTを求める手段と、前記トルク差ΔTに応じて前記トルクアップ手段によりエンジントルクを増加させる手段と、前記トルク差ΔTが前記オルタネータの最大負荷トルクTaより小さいとき、オルタネータの作動を禁止し、前記トルク差ΔTが前記オルタネータの最大負荷トルクTaより大きいとき、オルタネータの作動を許可する手段と、を備えたことを特徴とする車両の制御装置を提供する。
【0009】
本発明では、エンジン駆動状態から、オルタネータの非作動状態における燃費率マップ上の現状位置を推定し、この推定現状位置が最適燃費線よりも低トルク領域側にある場合、推定現状位置と最適燃費線との間のトルク差ΔTを求め、トルク差ΔTに応じてエンジントルクを増加させることで、現状位置を最適燃費線に近づける。エンジントルクの増加は、公知のトルクアップ手段(例えば電子スロットルや点火時期制御装置など)を用いて容易に実施できる。次に、トルク差ΔTをオルタネータの最大負荷トルクTaと比較し、ΔT<Taのときにはオルタネータの作動を禁止し、ΔT≧Taのときにはオルタネータの作動を許可する。つまり、オルタネータの負荷トルクが最大となった場合でも、トルク増加作用が得られる場合にのみオルタネータを作動を許可することで、オルタネータの作動によって燃費が悪化したり車両の駆動トルクが現状より低下するのを防止できる。さらに、従来の無段変速機を搭載した車両ではオルタネータの作動領域が減速中に限定されるのに対し、本発明では減速中以外の領域でもオルタネータを作動させることが可能になるので、電力収支を改善でき、バッテリの劣化を防止できる。
【0010】
オルタネータとしては、ON/OFF制御だけの簡易型と、負荷調整型とがある。前者の場合には、燃費が悪化しない領域でのみ使用可能であるが、制御が簡単である。負荷調整型の場合には、例えば要求発電量を変更することにより、負荷トルクを自在に可変できるので、オルタネータの作動領域をさらに広げることが可能である。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、減速中以外の領域でもオルタネータを作動させることが可能になるので、バッテリの劣化を抑制できると共に、燃費の悪化が小さい領域でのみオルタネータを作動させるため、オルタネータの作動による燃費の悪化を抑制できる。また、オルタネータの作動によって車両の駆動トルクが低下するのを抑制できるので、走行中の違和感がない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る車両のシステム図である。
【図2】無段変速機の変速特性図である。
【図3】エンジンの回転数とトルクとの関係を示す図である。
【図4】本発明に係るオルタネータの作動制御の一例のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
【0014】
図1は本発明にかかる車両のシステムの一例を示す。エンジン1は公知のトルクアップ装置(電子スロットル、点火時期制御装置など)12を備えたものである。エンジン出力軸11は、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ3を経て無段変速機2の入力軸(タービン軸)20に接続されている。入力軸20はベルト式無段変速機構21を介してドライブシャフト25と接続され、車輪が駆動される。なお、前後進切替機構など他の機構は図示を省略してある。無段変速機構21は、周知のようにプライマリプーリ22とセカンダリプーリ23との間にベルト24を巻き掛け、両プーリ22,23のベルト巻き掛け径を相互に変化させることにより、変速比を無段階に変化させるものである。
【0015】
無段変速機2にはプーリ22,23の作動用、及びトルクコンバータ3のロックアップクラッチ制御用の油圧制御装置26が設けられている。油圧制御装置26は複数のソレノイド弁を備えており、これらソレノイド弁をコントロールユニット40で制御することにより、無段変速機構21を変速制御すると共に、ロックアップクラッチを断接制御している。一般に、プライマリプーリ22の油室に供給される作動油を流量制御することにより変速制御が実施され、セカンダリプーリ23の油室に供給される作動油を圧力制御することによりベルト挟圧制御が実施される。
【0016】
エンジン1の近傍にはオルタネータ15が設けられ、このオルタネータ15は、エンジン1の出力軸11によりベルト16を介して駆動される。この実施例のオルタネータ15は電圧のON/OFF切替により、負荷トルクが自動的に決定されるものである。なお、コントロールユニット40により要求発電量を変更することにより、負荷トルクを電気的に可変できるオルタネータを用いてもよい。
【0017】
コントロールユニット40には、車速(セカンダリ回転数)、アクセル開度(スロットル開度)、エンジン回転数、プライマリプーリ回転数(入力回転数)、ブレーキ信号、P,R,N,D,Lなどのシフト位置、バッテリ電圧などを検出する各種センサ41〜47から信号が入力され、エンジン1及び無段変速機2を統合的に制御すると共に、オルタネータ15を制御する機能も備えている。コントロールユニット40のメモリには、エンジン制御用プログラム、無段変速機制御用プログラム、オルタネータ制御用プログラム、及び各種データが格納されている。エンジン制御や無段変速機制御はそれ自体公知であるため、詳しい説明を省略する。
【0018】
コントロールユニット40には、無段変速機2の変速特性マップが予め設定されている。変速特性マップは、一例として図2に示すように、縦軸に目標入力回転数(目標プライマリ回転数)、横軸に車速(セカンダリ回転数)をとり、アクセル開度(又はスロットル開度)をパラメータとして設定したものである。図2では、アクセル開度0%,25%,50%,100%の4つの特性が示されている。これら特性は、通常の場合、燃費評価用の走行パターンにおいて、各アクセル開度におけるエンジンの最適燃費線にほぼそった特性に設定されている。しかしながら、一般的な走行状態では、このエンジンの最適燃費線から乖離することも少なくない。
【0019】
コントロールユニット40は、走行時における車速及びアクセル開度から目標入力回転数(目標プライマリ回転数)を求め、実入力回転数がその目標入力回転数に近づくように変速比(プライマリプーリへの油量)を制御する。また、負荷トルクに応じてベルト挟圧を決定し、目標とするベルト挟圧へセカンダリプーリの油圧を制御している。
【0020】
図3は、コントロールユニット40に予め記憶されたエンジンの燃費率マップと最適燃費線の一例を示す。燃費率マップは、等燃費率におけるエンジン回転数とエンジントルクの位置をプロットした等高線で表され、中心部ほど燃費率は良好である。最適燃費線は、エンジンの最良の燃費状態を達成できる特性を描いた線であり、等燃費率線と等出力線との交点を結んだ線で表される。
【0021】
例えば、図3のA点が現時点での走行状態であると仮定する。トルクアップ装置12は、エンジン回転数を変化させずに、現時点Aの走行状態の燃費を最適燃費線の状態Bまで向上させるために、例えば電子スロットル開度の増加又は点火時期の制御を実施してエンジントルクを矢印で示すように上昇させる。その際、もしバッテリ電圧が基準値より低下していると、オルタネータを作動させるのが望ましいが、従来ではオルタネータの作動が減速時にのみに限定されていたため、オルタネータを作動できないことがあった。本発明ではこのようなエンジントルク増幅時にオルタネータを作動することで、オルタネータの作動領域を拡大し、バッテリの劣化を防止する。但し、オルタネータを駆動することで負荷トルクが発生し、その負荷トルクによっては現時点Aより燃費が悪化する可能性がある。そこで、本発明ではエンジントルク増加値とオルタネータの最大負荷トルクとを比較し、オルタネータを作動しても現時点Aでの燃費率線より悪化せず、車両の駆動トルクが低下しない領域でのみオルタネータの作動を許可する。
【0022】
図4は、本発明に係るオルタネータの作動制御の一例を示す。まず最初に、現エンジン回転数を検出し(ステップS1)、同回転数での燃費率マップから現時点のエンジントルクAを算出する(ステップS2)。次に、現エンジン回転数と同じ回転数での最適燃費線のエンジントルク(最適トルク)Bを読み出し(ステップS3)、最適トルクBと現時点のトルクAとのトルク差(ΔT)を算出する(ステップS4)。このトルク差が発電可能トルクになる。
【0023】
次に、バッテリ電圧等を検出し、充電が必要かどうかを判定する(ステップS5)。充電が必要であれば、オルタネータを駆動したときの最大負荷トルクTaと発電可能トルクΔTとを比較し(ステップS6)、ΔT≧Taの場合には、オルタネータの作動を許可する(ステップS7)。つまり、オルタネータの作動と共に最適燃費線に相当するエンジントルク値へトルクアップ制御を行う。もし、バッテリの充電が不要な場合や、ΔT<Taの場合には、オルタネータの作動を禁止し、トルクアップ制御だけを実施する(ステップS8)。この制御によって、減速時以外にもオルタネータ15を駆動することが可能になり、電力収支を改善でき、バッテリの劣化を防止できる。また、トルクアップ装置12は最適燃費線に近づくようにエンジントルクを増加させるので、オルタネータ15の作動のために現時点よりも燃費が悪化するという事態を防止でき、車両の駆動トルク(無段変速機の出力側トルク)が現状より低下しないので、走行中の違和感を防止できる。
【0024】
前記実施形態では、発電可能トルクΔTとオルタネータの最大負荷トルクTaとの比較によって、オルタネータの作動/非作動を決定したが、オルタネータの最大負荷トルクを調整可能な場合には、オルタネータの最大負荷トルクTaがトルク差ΔTを越えないように最大負荷トルクTaを設定した上でオルタネータを作動させてもよい。例えば、オルタネータのフィールドコイルの界磁電流を調整するレギュレータを備え、そのレギュレータに対しFデューティと呼ばれるデューティ信号を入力することで、オルタネータの発電量を調整できるものがある。この場合には、発電可能トルクΔTを計算した後(ステップS4)、発電可能トルクΔTからFデューティ比を算出し、Fデューティ比を指示してオルタネータの負荷を制御すればよい。この場合には、発電可能トルクΔTが最大負荷トルクTaより小さな領域でもオルタネータを作動させることができ、より広い領域でオルタネータを作動させることが可能になる。
【符号の説明】
【0025】
1 エンジン
2 無段変速機
3 トルクコンバータ
12 トルクアップ装置
15 オルタネータ
20 入力軸
22 プライマリプーリ
23 セカンダリプーリ
24 ベルト
25 出力軸(ドライブシャフト)
26 油圧制御装置
40 コントロールユニット
41 車速センサ
42 アクセル開度センサ
43 エンジン回転数センサ
44 タービン(プライマリ)回転数センサ
47 バッテリ電圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、ベルト式無段変速機と、エンジンにより駆動されるオルタネータとを備え、エンジン動力により無段変速機を介して車輪を駆動する車両であって、
前記無段変速機はアクセル開度と車速とに対応して目標入力回転数を決定し、この目標入力回転数に向かって変速比をフィードバック制御するものであり、
前記エンジンはエンジントルクを増加させるトルクアップ手段を備えた車両において、
エンジントルクとエンジン回転数とに基づく燃費率マップと最適燃費線とを予め記憶した記憶手段と、
エンジン駆動状態から、前記オルタネータの非作動状態における前記燃費率マップ上の現状位置を推定する手段と、
前記推定現状位置が前記最適燃費線よりも低トルク領域側にある場合に、前記推定現状位置と前記最適燃費線との間のトルク差であるトルク差ΔTを求める手段と、
前記トルク差ΔTに応じて前記トルクアップ手段によりエンジントルクを増加させる手段と、
前記トルク差ΔTが前記オルタネータの最大負荷トルクTaより小さいとき、オルタネータの作動を禁止し、前記トルク差ΔTが前記オルタネータの最大負荷トルクTaより大きいとき、オルタネータの作動を許可する手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117402(P2012−117402A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266005(P2010−266005)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】