説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】アイドルストップ機能によって内燃機関の運転が停止している場合においてもクラッチのスタンバイ位置を取得できる動力伝達制御装置を提供すること。
【解決手段】車両が停止中、且つ、変速機がニュートラル状態にあり、且つ、クラッチが分断状態(クラッチストローク=0)にあり、且つ、内燃機関の運転がアイドルストップ機能によって停止している場合において、内燃機関に燃料を噴射することなくスタータモータを駆動することにより、内燃機関の出力軸が回転する状態が確保される。即ち、内燃機関の出力軸が回転する一方で、変速機の入力軸が回転していない状態が得られる。この状態においてクラッチストロークが調整されて、変速機の入力軸の回転速度の推移に基づいて、クラッチのスタンバイ位置が取得される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、減速比(出力軸の回転速度に対する入力軸の回転速度の割合)を調整可能な変速機と、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されてクラッチストローク(フライホイールに対するクラッチディスクの軸方向の位置)の調整によってクラッチトルク(内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との間においてクラッチディスクが伝達可能な最大トルク)を調整可能なクラッチと、を備えた車両の動力伝達制御装置が広く知られている。
【0003】
近年、上記変速機と、上記クラッチと、車両の走行状態に応じて上記クラッチストローク(及び、変速機の変速段)をアクチュエータを用いて制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている。係る動力伝達制御装置は、オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【0004】
係る動力伝達制御装置において、上述のように、クラッチトルクは、クラッチストロークを調整することにより調整される。より具体的には、クラッチストロークとクラッチトルクとの関係(ストローク−トルク特性)を規定するマップが作製される(後述する図2、図4等を参照)。このマップと達成すべき(目標)クラッチトルクとに基づいて、目標クラッチストロークが決定される。そして、実際のクラッチストロークが目標クラッチストロークと一致するようにアクチュエータが制御される。これにより、実際のクラッチトルクが目標クラッチトルクと一致するように調整される。
【0005】
ところで、実際の「ストローク−トルク特性」は、クラッチの摩擦部材の摩耗等により変化し得る。従って、実際の特性がマップに規定された特性からずれる場合が発生し得る。この場合、この「ずれ」に起因して、目標クラッチストロークが本来決定されるべき値に決定され得ず、この結果、実際のクラッチトルクが目標クラッチトルクと異なる値に調整される事態が発生し得る。
【0006】
係る事態に対処するためには、マップに規定される「ストローク−トルク特性」を実際の「ストローク−トルク特性」と一致するように補正する必要がある。以下、クラッチの「接合状態」と「分断状態」との境界に対応するクラッチストロークを「スタンバイ位置」(或いは、係合開始位置、タッチ位置)と呼ぶ(図2を参照)。「接合状態」とは、内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との間で動力が伝達される状態(クラッチトルク>0)を指し、「分断状態」とは、内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との間で動力が伝達されない状態(クラッチトルク=0)を指す。
【0007】
マップに規定された特性に対する実際の特性のずれの傾向は、スタンバイ位置のずれとして現れる。このため、通常、特許文献1に記載のように、内燃機関の始動後などの「車両停止中、且つ、変速機がニュートラル状態にあり、且つ、クラッチが分断状態にあり、且つ、内燃機関の運転中」において、クラッチストロークを実際に変化させることによりスタンバイ位置が取得される。
【0008】
具体的には、例えば、内燃機関の運転(アイドリング)によって内燃機関の出力軸が回転し、且つ、変速機の入力軸が回転していない状態において、クラッチストロークが分断状態に対応する位置(原位置)から接合方向に向けて徐々に変更される。そして、内燃機関の出力軸の回転に基づいて変速機の入力軸が回転を開始するときのクラッチストロークが検出される。このように検出されたクラッチストロークに基づいてスタンバイ位置が取得される。スタンバイ位置が取得されると、取得したスタンバイ位置に基づいて「ストローク−トルク特性」を規定するマップが補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−65364号公報
【発明の概要】
【0010】
ところで、近年、低燃費化等を達成するため、車両停止中では所定条件下にて内燃機関の運転を停止する機能(所謂アドルストップ機能)を備えた車両が開発されてきている。このアイドルストップ機能は、内燃機関のみを動力源とする車両のみならず、内燃機関と電気モータとを動力源とする車両(所謂ハイブリッド車両)においても備えられ得る。
【0011】
アイドルストップ機能を備えた車両では、車両停止中において内燃機関の運転が継続される状態(即ち、内燃機関の出力軸が回転している状態)が得られる機会が極めて少ない。ここで、上述のように、スタンバイ位置は、内燃機関の出力軸が回転している状態において取得される。以上より、アイドルストップ機能を備えた車両では、スタンバイ位置を取得する機会が極めて少ないという問題があった。
【0012】
以上のことを鑑み、本発明の目的は、アイドルストップ機能を備えた車両に適用される動力伝達制御装置であって、アイドルストップ機能によって内燃機関の運転が停止している場合においてもクラッチのスタンバイ位置を取得できるものを提供することにある。
【0013】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、車両が停止中であることを含む所定の運転停止条件の成立に基づいて車両の動力源である内燃機関の運転を停止する自動停止手段を備えた車両に適用される。
【0014】
この装置は、前記内燃機関(E/G)の出力軸(A1)から動力が入力される入力軸(A2)と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸(A3)とを備え、前記出力軸の回転速度(No)に対する前記入力軸の回転速度(Ni)の割合である減速比を調整可能な変速機と、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されたクラッチ(C/D)であって、クラッチの軸方向の位置であるクラッチストローク(CSt)の調整により、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間においてクラッチが伝達可能な最大トルクであるクラッチトルク(Tc)を調整可能なクラッチ(C/D)と、前記車両の走行状態に応じて前記クラッチのクラッチストロークをアクチュエータ(ACT1)を用いて制御する制御手段(ECU)とを備える。前記クラッチストロークは、アクチュエータによって、クラッチストロークセンサの検出結果が目標値と一致するようにフィードバック制御される。
【0015】
この装置の特徴は、前記制御手段が、前記クラッチのスタンバイ位置を取得する取得手段を備えたことにある。「スタンバイ位置」とは、前記クラッチの接合状態と前記クラッチの分断状態との境界に対応するクラッチストロークを指す。前記取得手段は、イグニッションがON状態にある場合において、「前記車両の停止中、且つ、前記変速機がニュートラル状態にあり、且つ、前記クラッチが分断状態にあり、且つ、前記内燃機関の運転が前記自動停止手段によって停止している場合」において、前記内燃機関に燃料を噴射することなく前記内燃機関の出力軸を回転駆動するために前記車両に設けられた電動機(SM/G、M/G)を用いて前記内燃機関の出力軸を回転させ、前記内燃機関の出力軸が回転している状態において前記クラッチストロークを調整し、前記変速機の入力軸の回転速度の推移に基づいてスタンバイ位置を取得する。
【0016】
前記電動機としては、前記内燃機関の始動に使用されるスタータモータ(SM/G)、或いは、前記車両の駆動に使用される前記車両の動力源である電気モータ(M/G)等が使用される。また、前記取得手段は、前記クラッチストロークを前記分断状態に対応する位置から接合方向に向けて徐々に変更していき、前記変速機の入力軸の回転速度(Ni)が増大しながら予め定められた微小値(B)に達したことに基づいて前記スタンバイ位置を取得するように構成され得る。スタンバイ位置としては、例えば、前記変速機の入力軸の回転速度が前記微小値に達した時点でのクラッチストロークそのもの、或いは、そのクラッチストロークから所定値を減じた値が使用され得る。或いは、スタンバイ位置として、前記変速機の入力軸の回転速度がゼロから増大を開始した時点でのクラッチストロークそのものが使用され得る。
【0017】
上記構成によれば、アイドルストップ機能によって内燃機関の運転が停止している場合において、内燃機関の出力軸を回転駆動するために車両に設けられた電動機の駆動力を活用することにより、内燃機関の出力軸が回転する状態が確保される。この内燃機関の出力軸の回転を利用して、スタンバイ位置が取得され得る。このように、上記構成によれば、アイドルストップ機能によって内燃機関の運転が停止している場合においても、クラッチのスタンバイ位置が取得され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置を示した模式図である。
【図2】図1に示したクラッチについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
【図3】図1に示したECUにより実行されるスタンバイ位置取得処理の流れを示したフローチャートである。
【図4】取得されたスタンバイ位置に基づいて行われる、「ストローク−トルク特性」を規定するマップの補正について説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態の変形例に係る動力伝達制御装置を示した模式図である。
【図6】図5に示したECUにより実行されるスタンバイ位置取得処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置(以下、「本装置」と呼ぶこともある。)について図面を参照しながら説明する。図1は、本装置を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関(エンジン)のみを備え、且つ、トルクコンバータを備えない多段変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッションを備えている。更に、この車両は、車両停止中において所定条件下にて内燃機関の運転を停止する機能(アイドルストップ機能)を備えている。
【0020】
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Dと、を備えている。エンジンE/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。エンジンE/Gの出力軸A1は、バッテリBATから電力の供給を受けるスタータモータ(以下、「スタータ」)SM/Gにより回転駆動されるようになっている。スタータSM/Gを使用することにより、運転停止中のエンジンE/Gが始動するようになっている。E/Gの出力軸A1は、フライホイールF/W、及び、クラッチC/Dを介して、変速機T/Mの入力軸A2と接続されている。
【0021】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の多段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、ディファレンシャルD/Fを介して車両の駆動輪と接続されている。T/Mの変速段の切り替えは、変速機アクチュエータACT2を制御することで実行される。変速段を切り替えることで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が調整される。
【0022】
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1により調整される。
【0023】
以下、クラッチC/Dの原位置(クラッチディスクがフライホイールから最も離れた位置)からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークCStと呼ぶ。クラッチC/Dが「原位置」にあるとき、クラッチストロークCStが「0」となる。図2に示すように、クラッチストロークCStを調整することにより、クラッチC/Dが伝達可能な最大トルク(クラッチトルクTc)が調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0024】
また、本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサS1と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサS2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサS3と、を備えている。
【0025】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S3、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1、ACT2を制御することで、C/DのクラッチトルクCSt、及び、T/Mの変速段を制御する。なお、クラッチストロークCStは、クラッチストロークセンサ(図示せず)の検出結果が目標値と一致するようにフィードバック制御(サーボ制御)される。以上、本装置は、オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を用いた動力伝達装置である。
【0026】
(通常の制御)
本装置では、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、ECU内のROM(図示せず)に記憶された変速マップと、上述のセンサからの情報とに基づいて選択すべき変速段(選択変速段)が決定される。シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、運転者によるシフトレバーSFの操作に基づいて選択変速段が決定される。変速機T/Mでは、選択変速段が確立される。選択変速段が確立されている間、クラッチトルクTcは、エンジンE/Gの駆動トルク(エンジントルク)よりも大きい範囲内(即ち、クラッチC/Dに滑りが発生しない範囲内)において任意の値に設定され得る。これにより、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの出力軸A3との間で、選択変速段の減速比を有する動力伝達系統が形成され、エンジントルクが駆動輪に伝達され得る。変速機T/Mの変速段が変更される場合(即ち、変速作動が行われる場合)、変速作動中の所定期間に亘って、クラッチC/Dが分断状態(Tc=0)とされる。また、車両の停止中等において、クラッチC/Dが分断状態(Tc=0)とされる。以上、本装置による通常の制御について説明した。
【0027】
(スタンバイ位置の取得)
上述したように、クラッチトルクTcは、クラッチストロークCStを調整することにより調整される。より具体的には、予め作製された図2に示す「ストローク−トルク特性」を規定するマップと、達成すべき(目標)クラッチトルクとに基づいて、目標クラッチストロークが決定される。実際のクラッチストロークCStがこの目標クラッチストロークと一致するようにクラッチアクチュエータACT1が制御される。これにより、実際のクラッチトルクTcが目標クラッチトルクと一致するように調整される。
【0028】
ところで、実際の「ストローク−トルク特性」は、クラッチC/Dのクラッチディスクの摩耗等によって変化し得る。従って、実際の特性がマップに規定された特性からずれる場合が発生し得る。このような「ずれ」が発生している場合、目標クラッチストロークが本来決定されるべき値に決定され得ない。この結果、実際のクラッチトルクが目標クラッチトルクと異なる値に調整される事態が発生し得る。
【0029】
係る事態に対処するためには、マップに規定される「ストローク−トルク特性」を実際の「ストローク−トルク特性」と一致するように補正する必要がある。ここで、クラッチの接合状態と分断状態との境界に対応するクラッチストロークを「スタンバイ位置」(或いは、タッチ点、スタンバイ点)と呼ぶ(図2を参照)。マップに規定された特性に対する実際の特性のずれの傾向は、スタンバイ位置のずれとして現れる。このため、本装置では、スタンバイ位置が実際に取得され、取得したスタンバイ位置に基づいて「ストローク−トルク特性」を規定するマップが補正される。
【0030】
以下、本装置により実行されるスタンバイ位置を取得する処理(スタンバイ位置取得処理)の一例について、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。図3に示す例では、スタンバイ位置取得処理は、イグニッションがON状態においてエンジンE/Gの起動スイッチがONされたときであって、且つ、「車両停止中、且つ、変速機T/Mがニュートラル状態にあり、且つ、クラッチC/Dが分断状態にあるとき」に実行される。
【0031】
先ず、ステップ205では、エンジンE/Gを始動する必要があるか否かが判定される。ここで、「E/G始動不要」と判定される場合が、上述したアイドルストップ機能によってエンジンE/Gの運転が停止される場合に対応する。通常は、「E/G始動不要」との判定がなされる。一方、車両に搭載されているエアーコンディショナー等の補機類の使用に起因する電力の負荷が所定値以上の場合等に限り、「E/G始動要」との判定がなされる。
【0032】
以下、先ず、「E/G始動要」との判定がなされる場合について説明する。この場合、ステップ205にて「Yes」と判定されて、ステップ210にて、スタータSM/Gを駆動することによりエンジンE/Gの出力軸A1が回転駆動される。続いて、ステップ215にて、E/Gに対して始動用の燃料が噴射される。且つ、E/Gがガソリンエンジンの場合は、点火プラグによる点火がなされる。これにより、E/Gが運転を開始する。そして、ステップ220にて、スタータSM/Gの駆動が停止される。
【0033】
この段階では、クラッチC/Dが分断状態にある(クラッチストロークCSt=0)。従って、E/Gの運転によりE/Gの出力軸A1が回転する一方で、変速機T/Mの入力軸A2が回転していない状態が得られる。
【0034】
次に、ステップ225では、クラッチアクチュエータACT1が制御されて、クラッチストロークCStが「0」から徐々に増大される(係合側(接合方向)に向けて徐々に移動される)。続いて、ステップ230では、変速機T/Mの入力軸A2の回転速度Niが所定値(微小値)A以上であるか否かが判定され、「No」と判定される場合、ステップ230の処理が繰り返される。即ち、回転速度Niが所定値Aに到達するまで、クラッチストロークCStの増大が継続される。
【0035】
クラッチストロークCStが所定値Aに到達すると(ステップ230にて「Yes」)、ステップ235にて、現在のクラッチストロークCStの値から所定値aを減じることにより、スタンバイ位置が取得される。そして、ステップ240にて、クラッチアクチュエータACT1が制御されて、クラッチストロークCStが「0」に戻される(即ち、クラッチC/Dが分断状態に戻される)。
【0036】
以上のように、起動スイッチがONされた後、「E/G始動要」との判定がなされる場合、「車両停止中、且つ、変速機T/Mがニュートラル状態にあり、且つ、クラッチC/Dが分断状態にあり、且つ、エンジンE/Gが運転中」において、クラッチストロークが調整されることでスタンバイ位置CStlearnが取得される。
【0037】
次に、「E/G始動不要」との判定がなされる場合、即ち、アイドルストップ機能によってエンジンE/Gの運転が停止される場合について説明する。この場合、ステップ205にて「No」と判定されて、ステップ245にて、エンジンE/Gに燃料を噴射することなく(且つ、ガソリンエンジンの場合には点火プラグによる点火を行うことなく)、スタータSM/Gを駆動することにより、エンジンE/Gの出力軸A1が回転駆動される。これは、エンジンE/Gの出力軸A1が回転する状態を確保するためである。
【0038】
これにより、E/Gの出力軸A1が回転する一方で、変速機T/Mの入力軸A2が回転していない状態、即ち、上述した「E/G始動要」との判定がなされる場合におけるステップ225の実行前と同じ状態が得られる。
【0039】
その後、ステップ250、255、260、265の処理が順に実行される。ステップ250、255、260、265の処理はそれぞれ、ステップ225、230、235、240の処理と同じであるので、これらの詳細な説明は省略する。そして、ステップ270にて、スタータSM/Gの駆動が停止される。ステップ255の所定値Bは、ステップ230の所定値Aと同じであっても異なっていてもよい。ステップ260の所定値bは、ステップ235の所定値aと同じであっても異なっていてもよい。
【0040】
以上のように、起動スイッチがONされた後、「E/G始動不要」との判定がなされる場合、「車両停止中、且つ、変速機T/Mがニュートラル状態にあり、且つ、クラッチC/Dが分断状態にあり、且つ、エンジンE/Gがアイドルストップ機能によって停止している場合」において、スタータSM/Gの駆動によりエンジンE/Gの出力軸A1の回転が確保された状態において、クラッチストロークが調整されることでスタンバイ位置が取得される。
【0041】
このように、ステップ235又はステップ260にて取得されたスタンバイ位置CStlearnは、クラッチC/Dの「ストローク−トルク特性」を規定するマップの補正に供される。例えば、図4に示すように、ECU内のROMに現在記憶されているクラッチC/Dの「ストローク−トルク特性」を規定するマップにおけるスタンバイ位置がCStmem(<CStlearn)である場合、このマップの特性が、実線で示す特性から破線で示す特性に補正される。この補正以降、クラッチC/Dの目標クラッチストロークが本来決定されるべき値に決定されるようになる。この結果、クラッチC/Dの実際のクラッチトルクが目標クラッチトルクと一致するようになる。
【0042】
(作用・効果)
以上、本装置によれば、(イグニッションがON状態にあり)エンジンE/Gがアイドルストップ機能によって停止している場合において、スタータSM/Gの駆動によりエンジンE/Gの出力軸A1が回転する状態が確保される。即ち、E/Gの出力軸A1が回転する一方で変速機T/Mの入力軸A2が回転していない状態が得られる。従って、この状態においてクラッチストロークを調整することにより、クラッチC/Dのスタンバイ位置が取得される。即ち、アイドルストップ機能によってエンジンE/Gの運転が停止している場合においても、クラッチC/Dのスタンバイ位置が取得され得る。
【0043】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、エンジンE/Gがアイドルストップ機能によって停止している場合において、スタータSM/Gの駆動によりエンジンE/Gの出力軸A1が回転する状態が確保される。これに対し、図5に示すように、エンジンE/Gと電気モータM/Gとを動力源とする車両(所謂ハイブリッド車両)であって、電気モータM/GがエンジンE/Gの出力軸A1を駆動できるように設けられている車両である場合、スタータSM/Gに代えて電気モータM/Gの駆動によりエンジンE/Gの出力軸A1が回転する状態が確保されてもよい。なお、電気モータM/Gは、バッテリBATからの電力を用いてインバータINVを介して制御される。
【0044】
図6は、スタータSM/Gに代えて電気モータM/Gの駆動によりエンジンE/Gの出力軸A1が回転する状態が確保される場合における上述した図3のフローチャートに対応するフローチャートである。図6に示すフローチャートは、図3に示すフローチャートにおけるステップ210,220,245,270をステップ405,410,415,420にそれぞれ置き換えた点(即ち、「SM/G」を「M/G」に置き換えた点)においてのみ図3に示すフローチャートと異なる。従って、図6に示すフローチャートの詳細な説明を省略する。なお、この場合、「E/G始動要」との判定がなされるのは、車両に搭載されているエアーコンディショナー等の補機類の使用に起因してバッテリBATの残量が不足する場合等である。
【0045】
また、上記実施形態及び上記変形例では、「車両停止中、且つ、変速機T/Mがニュートラル状態にあり、且つ、クラッチC/Dが分断状態にある場合」において、車両の起動スイッチがONされたとき(且つ、車両が走行を開始する前)にスタンバイ位置取得処理が実行されているが、車両が走行を開始した後に一時的に停止した場合であって、「車両停止中、且つ、変速機T/Mがニュートラル状態にあり、且つ、クラッチC/Dが分断状態にあり、且つ、その他の条件が成立した場合」において、スタンバイ位置取得処理が実行されてもよい。
【0046】
また、上記実施形態及び上記変形例では、「変速機T/Mの入力軸Aiの回転速度Niが増大しながら所定値に達したこと」に基づいてスタンバイ位置が取得されているが、「回転速度Niが「0」から増大を開始したこと」に基づいてスタンバイ位置が取得されてもよい。
【0047】
また、上記実施形態及び上記変形例では、「変速機T/Mの入力軸Aiの回転速度Niが増大しながら所定値に達した」時点におけるクラッチストロークCStの値から所定値を減じることにより、スタンバイ位置が取得されているが、その時点におけるクラッチストロークCStの値そのものをスタンバイ位置として取得してもよい。
【0048】
また、上記実施形態及び上記変形例では、1本の入力軸を備えた変速機と、その1本の入力軸に接続された1つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されているが、2本の入力軸を備えた変速機と、それら2本の入力軸のそれぞれと接続された2つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されてもよい。この装置は、ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)とも呼ばれる。
【0049】
加えて、上記実施形態及び上記変形例では、クラッチC/Dのクラッチストロークが徐々に増大していく過程において入力軸Aiの回転速度Niが増大しながら所定値に達したことに基づいてクラッチC/Dのスタンバイ位置が取得されているが、クラッチC/Dのクラッチストロークが徐々に減少していく過程において回転速度Niが減少しながら所定値未満となったことに基づいてクラッチC/Dのスタンバイ位置が取得されてもよい。
【0050】
クラッチC/Dの実際の「ストローク−トルク特性」では、ヒステリシスの影響により、クラッチストロークが増大していく過程での特性とクラッチストロークが減少していく過程での特性との間で差異が生じ得る。従って、クラッチストロークが増大していく過程でのスタンバイ位置(クラッチトルクがゼロからゼロ以外に変化するクラッチストローク)とクラッチストロークが減少していく過程でのスタンバイ位置(クラッチトルクがゼロ以外からゼロに変化するクラッチストローク)との間でもずれが生じ得る。従って、このヒステリシスが考慮される場合、これら2つのスタンバイ位置を区別して扱う必要がある。
【符号の説明】
【0051】
T/M…変速機、E/G…エンジン、C/D…クラッチ、SM/G…スタータ、A1…エンジンの出力軸、A2…変速機の入力軸、A3…変速機の出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速機アクチュエータ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が停止中であることを含む所定の運転停止条件の成立に基づいて車両の動力源である内燃機関の運転を停止する自動停止手段を備えた車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比を調整可能な変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されたクラッチであって、クラッチの軸方向の位置であるクラッチストロークの調整により、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間においてクラッチが伝達可能な最大トルクであるクラッチトルクを調整可能なクラッチと、
前記車両の走行状態に応じて前記クラッチのクラッチストロークをアクチュエータを用いて制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記車両の停止中、且つ、前記変速機が前記変速機の入力軸及び出力軸の間で動力が伝達されないニュートラル状態にあり、且つ、前記クラッチが前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力が伝達されない分断状態にあり、且つ、前記内燃機関の運転が前記自動停止手段によって停止している場合において、前記内燃機関に燃料を噴射することなく前記内燃機関の出力軸を回転駆動するために前記車両に設けられた電動機を用いて前記内燃機関の出力軸を回転させ、前記内燃機関の出力軸が回転している状態において前記クラッチストロークを調整し、前記変速機の入力軸の回転速度の推移に基づいて、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力が伝達される前記クラッチの接合状態と前記クラッチの分断状態との境界に対応するクラッチストロークをスタンバイ位置として取得する取得手段を備えた、車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記取得手段は、
前記クラッチストロークを前記分断状態に対応する位置から接合方向に向けて徐々に変更していき、前記変速機の入力軸の回転速度が増大しながら予め定められた微小値に達したことに基づいて前記スタンバイ位置を取得するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記電動機は、前記内燃機関の始動に使用されるスタータモータである、車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記電動機は、前記車両の駆動に使用される前記車両の動力源である電気モータである、車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−2299(P2012−2299A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138907(P2010−138907)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】