説明

車両の動力出力装置およびその制御方法

【課題】車輪の回転急変時に駆動系の過回転が防止される車両の動力出力装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】動力出力装置は、モータジェネレータMG1、エンジン22および車輪を駆動するドライブシャフトが結合された動力分割機構30を備える。HV−ECU70は、ドライブシャフトの回転数がしきい値を超えた減少方向の変化をする場合には、エンジン22の発生トルクを減少させるトルク減少制御を実行する。トルク減少制御は、発生トルクが減少するように点火時期を補正する処理と、内燃機関に対して燃料供給を停止する処理とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の動力出力装置およびその制御方法に関し、特に内燃機関と回転電機とを含む車両の動力出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンおよび回転電機を駆動源に有するハイブリッド車が知られている。このようなハイブリッド車においては、車両の走行状態に応じてエンジンおよび回転電機が使い分けられる。たとえば、高速走行時などにおいては主にエンジンを用いて走行し、中低速走行時などにおいては主に回転電機を用いて走行する。このようなハイブリッド車の一つに、回転電機に連結される回転要素とエンジンに連結される回転要素とを有する差動機構を搭載したものがある。
【0003】
特開2004−153946号公報(特許文献1)は、主動力源と第1モータ(回転電機)と第2モータと出力部材との4要素が、共線図上で第1モータ、主動力源、出力部材、第2モータの回転速度順になるように連結された歯車機構(差動機構)を有するハイブリッド駆動系を搭載したハイブリッド車のモータ過回転防止制御装置を開示する。このモータ過回転防止制御装置は、主動力源の動作点が最適エネルギ効率線上にくるように変速比を設定し、この変速比設定に基づいて算出された第1モータと第2モータの回転速度のうち、一方のモータの回転速度が過回転と判断された場合、主動力源回転数指令値を補正することでモータの回転速度を下げるモータ過回転防止制御部を含む。
【0004】
この公報に記載のモータ過回転防止制御装置によれば、モータの回転速度が過回転と判断された場合、主動力源回転数指令値を補正することでモータの回転速度が下げられる。これにより、モータ回転速度が過回転すると予測される場合、主動力源の回転数補正により、モータの過回転を未然に防止することができる。
【特許文献1】特開2004−153946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハイブリッド車には、このような差動機構としてプラネタリギヤが用いられる場合がある。
【0006】
図7は、差動機構としてプラネタリギヤを用いる一例の共線図である。
プラネタリギヤの3軸(サンギヤ軸,リングギヤ軸およびプラネタリキャリヤ)における回転数(回転速度)やトルクの関係は、図7に例示する共線図と呼ばれる図として表わすことができる。図7における縦軸は3軸の回転数軸でありNs,Nc,Nrは、サンギヤ軸,プラネタリキャリヤおよびリングギヤ軸の回転数を示す。図7の、横軸は3軸の座標軸の位置の比を表わす。すなわち、サンギヤ軸とリングギヤ軸の位置を両端にとったとき、プラネタリキャリヤの座標軸は、両端を1:ρに内分する位置に定められる。ここで、ρは、リングギヤの歯数に対するサンギヤの歯数の比であり、次式(1)で表わされる。
ρ=(サンギヤの歯数)/(リングギヤの歯数) … (1)
図7の例では、プラネタリギヤのサンギヤは、第1の回転電機の回転軸に接続され、キャリヤはエンジンの回転軸に接続され、リングギヤは、第2の回転電機の回転軸と連動する車輪を駆動するための駆動軸に接続される。したがって、Ns=Nm1,Nc=Ne,Nr∝Nm2の関係が成り立つ。
【0007】
エンジンのクランクシャフトが結合されているプラネタリキャリヤの座標軸にエンジンの回転数Neを、リングギヤ軸の座標軸に車輪駆動軸の回転数(Nm2に比例する値)をプロットすることができる。この両点を通る直線を描けば、この直線とサンギヤの座標軸との交点で表わされる回転数として第1の回転電機の回転数Nm1を求めることができる。以下、この直線を動作共線と呼ぶ。なお、回転数Ns,Nc,Nrには、以下の比例計算式(次式(2))の関係が成立する。このようにプラネタリギヤでは、サンギヤ軸,リングギヤ軸およびプラネタリキャリヤのうちいずれか2つの回転を決定すると、残余の1つの回転は、決定した2つの回転に基づいて決定される。
Ns=Nr−(Nr−Nc)・(1+ρ)/ρ ・・・(2)
このような関係は、図7の共線図を用いることによって、回転数の変化を視覚的に表現できる。
【0008】
以下に、走行中に制動開始から車輪完全停止までの期間において、車輪がロックするときを考える。
【0009】
図8は、車輪ロック時の回転数の変化を説明するための図である。
図8の矢印A1に示すように、制動開始時に車輪がロックすると急激にリングギヤ軸の回転数が低下する。
【0010】
このとき、運転中のエンジンが接続されているキャリヤは、エンジンがトルクを出しつづけているので慣性力が大きく、矢印A2に示すようにあまり急激な変化ができない。そのため動作共線のテコの支点として作用し、矢印A3に示すようにサンギヤ軸の回転数Nm1が急激に上昇する。これによって第1の回転電機の回転がシステム上限回転数Nm1maxを超えて過回転となる。また、プラネタリギヤのピニオンギヤ回転数は、キャリヤ軸とリング軸の回転数差に比例するので、こちらも急激に上昇して過回転となる。
【0011】
したがって、車輪にロックが生じたときには速やかにエンジン回転数を低減させてサンギヤ軸の過回転を防止することが望ましい。
【0012】
この発明の目的は、車輪の回転急変時に駆動系の過回転が防止される車両の動力出力装置およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、要約すると、車両の動力出力装置であって、内燃機関と、第1の回転電機と、車輪と、第1の回転電機の回転軸に連動する第1の回転要素、内燃機関の回転軸に連動する第2の回転要素および車輪を駆動するドライブシャフトに連動する第3の回転要素を有する動力分割機構と、内燃機関および第1の回転電機の制御を行なう制御部とを備える。制御部は、ドライブシャフトの回転数がしきい値を超えた減少方向の変化をする場合には、内燃機関の発生トルクを減少させるトルク減少制御を実行する。トルク減少制御は、内燃機関の発生トルクが減少するように点火時期を補正する処理と、内燃機関に対して燃料供給を停止する処理とを含む。
【0014】
好ましくは、内燃機関は、複数の気筒と、複数の気筒にそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁と、複数の気筒にそれぞれ対応する複数の点火装置とを含む。制御部は、トルク減少制御を実行する際に、燃料噴射後で点火前の気筒に対しては点火時期の遅角量を内燃機関の発生トルクが減少するように補正し、燃料噴射後でかつ点火後の気筒に対しては燃料噴射を停止させる。
【0015】
より好ましくは、制御部は、内燃機関の回転数と内燃機関の負荷率とに応じて点火時期の遅角量の補正量を決定する。
【0016】
好ましくは、車両の動力出力装置は、ドライブシャフトと連動する回転軸を有する第2の回転電機をさらに備える。制御部は、第1、第2の回転電機の力行および回生の制御を実行する。
【0017】
この発明は、他の局面に従うと、内燃機関と、第1の回転電機と、車輪と、第1の回転電機の回転軸に連動する第1の回転要素、内燃機関の回転軸に連動する第2の回転要素および車輪を駆動するドライブシャフトに連動する第3の回転要素を有する動力分割機構とを含む車両の動力出力装置の制御方法であって、ドライブシャフトの回転数がしきい値を超えた減少方向の変化をするか否かを判断するステップと、ドライブシャフトの回転数がしきい値を超えた減少方向の変化をした場合には、内燃機関の発生トルクを減少させるトルク減少制御を実行するステップとを備える。トルク減少制御を実行するステップは、内燃機関の発生トルクが減少するように点火時期を補正するステップと、内燃機関に対して燃料供給を停止するステップとを含む。
【0018】
好ましくは、内燃機関は、複数の気筒と、複数の気筒にそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁と、複数の気筒にそれぞれ対応する複数の点火装置とを含む。点火時期を補正するステップは、トルク減少制御を実行する際に、燃料噴射後で点火前の気筒に対して点火時期の遅角量を内燃機関の発生トルクが減少するように補正する。燃料供給を停止するステップは、燃料噴射後でかつ点火後の気筒に対して燃料噴射を停止させる。
【0019】
好ましくは、点火時期を補正するステップは、内燃機関の回転数と内燃機関の負荷率とに応じて点火時期の遅角量の補正量を決定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、エンジンの回転を低減させる速度が向上し、車輪ロック時の駆動系の過回転が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
図1は、本発明の実施形態としての内燃機関を搭載するハイブリッド車両20の構成の概略図である。
【0023】
図1を参照して、ハイブリッド車両20は、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分割機構30と、動力分割機構30に接続された発電可能なモータジェネレータMG1と、動力分割機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、減速ギヤ35に接続されたモータジェネレータMG2と、動力出力装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70(以下、HV−ECU70という)とを備える。
【0024】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット24(以下、エンジンECU24という)により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、HV−ECU70と通信しており、HV−ECU70からの制御信号に基づいてエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをHV−ECU70に出力する。
【0025】
動力分割機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリヤ34とを備える。そして、動力分割機構30は、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリヤ34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。
【0026】
サンギヤ31の回転数Ns、リングギヤ32の回転数Nr、キャリヤ34の回転数Ncとすると、これらのギヤ回転数の間には、図7、図8で説明した共線図の関係が成立し、既出の式(1),式(2)の関係も成立する。
【0027】
キャリヤ34にはエンジン22のクランクシャフト26が連結され、サンギヤ31にはモータジェネレータMG1が連結され、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35が連結されている。したがって、エンジン回転数Ne,モータジェネレータMG1の回転数Nm1、モータジェネレータMG2の回転数Nm2とすると、Ns=Nm1,Nc=Ne,Nr=k・Nm2の関係が成り立つ。ただし、kは減速ギヤ35の減速比である。
【0028】
モータジェネレータMG1が発電機として機能するときには、キャリヤ34から入力されるエンジン22からの動力がサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配される。モータジェネレータMG1が電動機として機能するときには、キャリヤ34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータジェネレータMG1からの動力とが統合されて、リングギヤ32側に出力される。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
【0029】
モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる同期発電電動機であり、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。
【0030】
インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線を含む。これにより、モータジェネレータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータジェネレータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。
【0031】
なお、モータジェネレータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。
【0032】
モータジェネレータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータジェネレータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータジェネレータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータジェネレータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されている。
【0033】
モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、HV−ECU70と通信しており、HV−ECU70からの制御信号によってモータジェネレータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータジェネレータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHV−ECU70に出力する。
【0034】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット52(以下、バッテリECU52という)によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHV−ECU70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0035】
HV−ECU70は、CPU72を中心として構成されている。HV−ECU70は、CPU72の他に、処理プログラムやマップを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。
【0036】
HV−ECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。
【0037】
HV−ECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0038】
ハイブリッド車両20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて、駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算する。この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータジェネレータMG1とモータジェネレータMG2とが運転制御される。
【0039】
エンジン22とモータジェネレータMG1とモータジェネレータMG2の運転制御としては、トルク変換運転モード、充放電運転モード、モータ運転モードなどがある。
【0040】
トルク変換運転モードでは、HV−ECU70は、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共に、エンジン22から出力される動力のすべてが動力分割機構30とモータジェネレータMG1とモータジェネレータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるように、モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2を駆動制御する。
【0041】
充放電運転モードでは、HV−ECU70は、要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共に、バッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分割機構30とモータジェネレータMG1とモータジェネレータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2を駆動制御する。
【0042】
モータ運転モードでは、HV−ECU70は、エンジン22の運転を停止してモータジェネレータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するようモータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2を駆動制御する。
【0043】
なお、図1では、動力出力のための制御部をHV−ECU70、モータECU40、バッテリECU52およびエンジンECU24によって実現しているが、これらのECUをまとめてより少ない数のECUにしても良いし、より細分化された機能の多数のECUで実現するようにしても良い。
【0044】
図2は、車両20のエンジン22の周辺について説明するための概略図である。
図2を参照して、エンジン22は、シリンダヘッドに吸気を導入するための吸気通路111と、シリンダヘッドから排気を行なうための排気通路113とを含む。
【0045】
吸気通路111の上流から順にエアクリーナ102、エアフローメータ104、吸気温センサ106、スロットル弁107が設けられる。スロットル弁107は、電子制御スロットル108によってその開度が制御される。吸気通路111の吸気弁の近くには燃料を噴射するインジェクタ110が設けられる。
【0046】
排気通路113には排気弁側から順に空燃比センサ145、触媒装置127、酸素センサ146、触媒装置128が配置される。エンジン22は、さらに、シリンダブロックに設けられたシリンダを上下するピストン114と、ピストン114の上下に応じて回転するクランクシャフトの回転を検知するクランクポジションセンサ143と、シリンダブロックの振動を検知してノッキングの発生を検出するノックセンサ144と、シリンダブロックの冷却水路に取り付けられている水温センサ148とを含む。
【0047】
エンジンECU24は、図1のHV−ECUを経由して得たアクセルペダルポジションセンサ84の出力に応じて電子制御スロットル108を制御して吸気量を変化させ、またクランクポジションセンサ143から得られるクランク角に応じてイグニッションコイル112に点火指示を出力して点火プラグから火花放電をさせ、インジェクタ110に燃料噴射時期を出力する。また吸気温センサ106、ノックセンサ144、空燃比センサ145、酸素センサ146の出力に応じて燃料噴射量、空気量、吸気弁開閉タイミングおよび点火タイミングを補正する。
【0048】
車両20は、さらに、図示しないが燃料タンクと、燃料ポンプとを含み、燃料ポンプによって燃料タンクから吸上げられた燃料は加圧され、所定のタイミングでインジェクタ110が開かれると燃料は吸気通路111内に噴射される。
【0049】
図2で説明したようなエンジン22と図1に示したモータジェネレータMG1,MG2を用いて車両を駆動する動力出力装置においては、図8に説明したような過回転の問題を解決するために、車輪ロック時にエンジンへの燃料供給を停止し、エンジンで発生するトルクを低減させてエンジンの回転数をすばやく下げることが考えられる。
【0050】
しかしながら、フューエルカット指令を行なっても、車輪ロック検出時に既に噴射済みであった燃料にその後点火を行なうとエンジンにトルクが発生するので、すぐにエンジンのトルクを下げることができない。また、噴射済みの燃料に点火しないことも考えられるが、未燃焼の燃料を大気中に放出することになり、エミッションの悪化という問題が発生する。したがって、噴射済みの燃料を燃焼させつつも、エンジンに発生するトルクを抑制すると良い。
【0051】
図3は、本実施の形態における内燃機関の制御を説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は、一定時間経過ごとにまたは所定の条件が成立するごとにメインルーチンから呼び出されて実行される。
【0052】
図3を参照して、まず処理が開始されると、ステップS1において、HV−ECU70は、モータECU40を経由して回転位置検出センサ43,44からそれぞれ回転数Nm1,Nm2を取得する。そして、前回取得した回転数Nm2と今回取得した回転数Nm2との差から変化量ΔNm2を求め、その値がしきい値Nt2以下であるか否かを判断する。さらに、今回取得した回転数Nm1がしきい値Nt1以上であるか否かを判断する。
【0053】
しきい値Nt2は、車輪がロックしたか否かを判断するしきい値であり、車輪がロックするとΔNm2は負の値となるから、しきい値Nt2は、負の数である。
【0054】
また、しきい値Nt1は、モータジェネレータMG1が過回転であるか否かを判断するためのしきい値である。モータジェネレータMG1の構造やその発電による過電圧の発生、プラネタリギヤの耐久性などで定められるシステム上限回転数を超えないように余裕をもってしきい値Nt1が定められる。
【0055】
ステップS1において、ΔNm2≦Nt2が成立しなければ、車輪がロックしておらず、図8に示したような過回転は生じないのでステップS5に処理が進んで制御はメインルーチンに移される。また、Nm1≧Nt1が成立しなければ、図8に示したように車輪のロックの反動でモータジェネレータMG1の回転数Nm1が上昇したとしても、まだ上限値には余裕があるので、やはりステップS5に処理が進んで制御はメインルーチンに移される。
【0056】
ステップS1において、ΔNm2≦Nt2かつNm1≧Nt1が成立した場合には、ステップS2に処理が進み、内燃機関の複数の気筒(たとえば4気筒)について、気筒ごとにその気筒が燃料噴射後でかつ点火前であるか否かが判断される。
【0057】
ステップS2において、燃料噴射後かつ点火前であると判断されなかった気筒については、ステップS4に処理が進み、フューエルカット指令により燃料噴射が停止される。このためエンジンで発生するトルクは低減される。
【0058】
ステップS2において、燃料噴射後かつ点火前であると判断された気筒については、ステップS3の処理が実行される、ステップS3では、点火時期をマップにより補正し、燃焼行程においてエンジンで発生するトルクを減少させる。
【0059】
図4は、図3のステップS3で用いられる点火時期の補正マップの一例である。
図4では、横軸にエンジン回転数(rpm)が設定され、縦軸にエンジン負荷率(%)が設定されている。ここで、負荷率は、吸気量/シリンダ内容積で求められる。吸気量は、図2のエアフローメータ104の出力に基づいて算出される。
【0060】
ステップS3では、最大トルクが出力されるように定められた基本点火時期マップ(通常は、上死点からのクランク角度で示される)に対して図4のマップで規定される補正量分遅角させる。基本点火時期はMBT(Minimum advance for Best Torque)とも呼ばれる。
【0061】
低回転数および低負荷の領域では、気筒内の流速が低く、点火時期を変えてもトルクの減少量が小さい。このため、図4に示されたマップでは、低回転数および低負荷の領域では点火時期の遅角量の補正量は大きくなっている。すなわち最大トルクが出力される点火時期よりも大きく時期をずらすことになる。
【0062】
図5は、図3のフローチャートの制御が実行された場合の各気筒の燃料噴射と点火の状態を示した模式図である。
【0063】
図5を参照して、上から順に気筒#1、#3、#4、#2の燃料噴射と点火時期が示されている。ハッチングの入った長方形は、燃料噴射が行なわれていることを示し、「FC」と表示されている部分はフューエルカットされ燃料噴射が行なわれないことを示す。
【0064】
気筒#1について代表的に説明すると、期間T1、T2,T3、T4がそれぞれ吸入行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程であり、この順序で期間T5以降も同じ行程が繰返される。排気行程から吸入行程にかけて燃料噴射が行なわれる。また、圧縮行程から燃焼行程に移る部分に点火が行なわれている。
【0065】
気筒#3は、気筒#1と比べて吸入行程が1期間ずれて期間T2に行なわれる。気筒#4は、気筒#1と比べて吸入行程が2期間ずれて期間T3に行なわれる。気筒#2は、気筒#1と比べて吸入行程が3期間ずれて期間T4に行なわれる。気筒#2、#3、#4においても、行程の順序と噴射時期、点火時期については、気筒#1と同じであるので説明は繰返さない。
【0066】
期間T1−T5は通常の運転が行なわれている。いま、図3のステップS1の条件が成立した結果、ステップS1からステップS2に処理が進んだとする。すると、図1のHV−ECU70からエンジンECU24に対してエンジントルクを減少させる旨のトルク減少指令が送られる。
【0067】
トルク減少指令が期間T6において与えられた時点で、気筒#4、#2では燃料噴射された燃料に対して点火がされた後である。したがって、気筒#4、#2については、ステップS4の処理が実行されてフューエルカットにより燃料噴射が停止される。
【0068】
一方、トルク減少指令が期間T6において与えられた時点で、燃料噴射後で点火前である気筒は気筒#1および#3である。したがって、気筒#1および#3については、ステップS3の処理が実行されて点火時期が遅角される。
【0069】
つまり、期間T6と期間T7の境界付近において気筒#1の点火時期が遅角され、期間T7と期間T8の境界付近において気筒#3の点火時期が遅角される。そしてその後は気筒#1、#3についてもステップS4の処理が実行されフューエルカットされる。
【0070】
図6は、本実施の形態の制御が実行された場合と、実行されない場合の過回転の発生状況の差異を説明するための動作波形図である。
【0071】
図6を参照して、時刻t0においてハイブリッド車両は、エンジン運転中で走行が行なわれている。したがって、エンジンは回転数Neで回転し、エンジンからは動力分割機構にトルクTeが出力されている。
【0072】
時刻t1において、たとえばブレーキを運転者が踏む等によって、車輪のロックが発生する。すると、モータジェネレータMG2の回転数が急激に減少したことが検出される。この検出は、図3のステップS1のΔNm2≦Nt2の判定条件で判断される。
【0073】
本実施の形態の制御が実行されずに、ここで単にフューエルカット指令を出力しただけであれば、その時点で噴射されてしまった後で未点火の燃料については、時刻t1〜t2の間でも燃焼が行なわれるので、破線で示すようにエンジントルクTeが出力され続けている。このため、図8の矢印A2の減少量を少なくすることができない。その結果時刻t1〜t2において、モータジェネレータMG1の回転数は破線で示した回転数Nm1Xに示すようにNDだけ増加して過回転となってしまう。
【0074】
これに対し、本実施の形態の制御を実行すれば、実線で示したように時刻t1において速やかにエンジントルクTeを減少させることができ遅延時間td分だけトルクを抜く時刻が早められ、エンジン回転数Neも時刻t1〜t2の間で減少させることができる。したがって、モータジェネレータMG1の回転数も実線で示した回転数Nm1で示されるように過回転が防止される。
【0075】
最後に本実施の形態について総括的に説明する。図1を参照して、本実施の形態の動力出力装置は、内燃機関(エンジン22)と、第1の回転電機(モータジェネレータMG1)と、車輪63a、63bと、第1の回転電機の回転軸に連動する第1の回転要素、内燃機関の回転軸に連動する第2の回転要素および車輪を駆動するドライブシャフトに連動する第3の回転要素を有する動力分割機構(30)と、内燃機関および第1の回転電機の制御を行なう制御部(70,40,52,24)とを備える。制御部は、ドライブシャフト(32a)の回転数がしきい値を超えた減少方向の変化をする場合には、内燃機関の発生トルクを減少させるトルク減少制御を実行する。トルク減少制御は、内燃機関の発生トルクが減少するように点火時期を補正する処理と、内燃機関に対して燃料供給を停止する処理とを含む。
【0076】
好ましくは、内燃機関は、複数の気筒(図5:#1〜#4)と、複数の気筒にそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁(図2:110)と、複数の気筒にそれぞれ対応する複数の点火装置(図2:112)とを含む。制御部は、トルク減少制御を実行する際に、燃料噴射後で点火前の気筒に対しては点火時期の遅角量を内燃機関の発生トルクが減少するように補正し(図3:ステップS3)、燃料噴射後でかつ点火後の気筒に対しては燃料噴射を停止させる(図4:ステップS4)。
【0077】
より好ましくは、図4に示すように、制御部は、内燃機関の回転数と内燃機関の負荷率とに応じて点火時期の遅角量の補正量を決定する。
【0078】
好ましくは、車両の動力出力装置は、ドライブシャフト(32a)と連動する回転軸を有する第2の回転電機(モータジェネレータMG2)をさらに備える。制御部は、第1、第2の回転電機の力行および回生の制御を実行する。
【0079】
本実施の形態の車両の動力出力装置によれば、過回転が発生するのを防止するためにエンジンのトルク発生を低下させるタイミングを早くできるので、駆動系の過回転の防止に有利である。
【0080】
また、エンジントルクの発生を中止させることと引き換えに未燃焼の燃料を排出することもないので、環境に悪影響を与えることなく、過回転によるモータジェネレータの損傷を防止できる。
【0081】
また、以上の実施の形態で開示された制御方法は、コンピュータを用いてソフトウエアで実行可能である。この制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムをコンピュータ読み取り可能に記録した記録媒体(ROM、CD−ROM、メモリカードなど)から車両の制御装置中のコンピュータに読み込ませたり、また通信回線を通じて提供したりしても良い。
【0082】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態としての内燃機関を搭載するハイブリッド車両20の構成の概略図である。
【図2】車両20のエンジン22の周辺について説明するための概略図である。
【図3】本実施の形態における内燃機関の制御を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3のステップS3で用いられる点火時期の補正マップの一例である。
【図5】図3のフローチャートの制御が実行された場合の各気筒の燃料噴射と点火の状態を示した模式図である。
【図6】本実施の形態の制御が実行された場合と、実行されない場合の過回転の発生状況の差異を説明するための動作波形図である。
【図7】差動機構としてプラネタリギヤを用いる一例の共線図である。
【図8】車輪ロック時の回転数の変化を説明するための図である。
【符号の説明】
【0084】
20 ハイブリッド車両、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分割機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリヤ、35 減速ギヤ、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a 車輪、63a,63b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、102 エアクリーナ、104 エアフローメータ、106 吸気温センサ、107 スロットル弁、108 電子制御スロットル、110 インジェクタ、111 吸気通路、112 イグニッションコイル、113 排気通路、114 ピストン、127,128 触媒装置、143 クランクポジションセンサ、144 ノックセンサ、145 空燃比センサ、146 酸素センサ、148 水温センサ、MG1,MG2 モータジェネレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
第1の回転電機と、
車輪と、
前記第1の回転電機の回転軸に連動する第1の回転要素、前記内燃機関の回転軸に連動する第2の回転要素および前記車輪を駆動するドライブシャフトに連動する第3の回転要素を有する動力分割機構と、
前記内燃機関および前記第1の回転電機の制御を行なう制御部とを備え、
前記制御部は、前記ドライブシャフトの回転数がしきい値を超えた減少方向の変化をする場合には、前記内燃機関の発生トルクを減少させるトルク減少制御を実行し、
前記トルク減少制御は、
内燃機関の発生トルクが減少するように点火時期を補正する処理と、
前記内燃機関に対して燃料供給を停止する処理とを含む、車両の動力出力装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、
複数の気筒と、
前記複数の気筒にそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁と、
前記複数の気筒にそれぞれ対応する複数の点火プラグとを含み、
前記制御部は、前記トルク減少制御を実行する際に、燃料噴射後で点火前の気筒に対しては点火時期の遅角量を内燃機関の発生トルクが減少するように補正し、燃料噴射後でかつ点火後の気筒に対しては燃料噴射を停止させる、請求項1に記載の車両の動力出力装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記内燃機関の回転数と前記内燃機関の負荷率とに応じて前記点火時期の遅角量の補正量を決定する、請求項2に記載の車両の動力出力装置。
【請求項4】
前記ドライブシャフトと連動する回転軸を有する第2の回転電機をさらに備え、
前記制御部は、前記第1、第2の回転電機の力行および回生の制御を実行する、請求項1に記載の車両の動力出力装置。
【請求項5】
内燃機関と、第1の回転電機と、車輪と、前記第1の回転電機の回転軸に連動する第1の回転要素、前記内燃機関の回転軸に連動する第2の回転要素および前記車輪を駆動するドライブシャフトに連動する第3の回転要素を有する動力分割機構とを含む車両の動力出力装置の制御方法であって、
前記ドライブシャフトの回転数がしきい値を超えた減少方向の変化をするか否かを判断するステップと、
前記ドライブシャフトの回転数がしきい値を超えた減少方向の変化をした場合には、前記内燃機関の発生トルクを減少させるトルク減少制御を実行するステップとを備え、
前記トルク減少制御を実行するステップは、
内燃機関の発生トルクが減少するように点火時期を補正するステップと、
前記内燃機関に対して燃料供給を停止するステップとを含む、車両の動力出力装置の制御方法。
【請求項6】
前記内燃機関は、
複数の気筒と、
前記複数の気筒にそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁と、
前記複数の気筒にそれぞれ対応する複数の点火プラグとを含み、
前記点火時期を補正するステップは、前記トルク減少制御を実行する際に、燃料噴射後で点火前の気筒に対して点火時期の遅角量を内燃機関の発生トルクが減少するように補正し、
前記燃料供給を停止するステップは、燃料噴射後でかつ点火後の気筒に対して燃料噴射を停止させる、請求項5に記載の車両の動力出力装置の制御方法。
【請求項7】
前記点火時期を補正するステップは、前記内燃機関の回転数と前記内燃機関の負荷率とに応じて前記点火時期の遅角量の補正量を決定する、請求項5に記載の車両の動力出力装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−126272(P2009−126272A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301606(P2007−301606)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】