説明

車両の懸架装置

【課題】本発明は、簡単な構成でアライメントの調整を容易に行うことのできる弾性ブッシュを備える車両の懸架装置を提供する。
【解決手段】内筒(15)と外筒(13)と弾性部材(14)とからなるブッシュ本体(12)と、ブッシュ本体(12)の内筒(15)に挿通されるとともにサイドメンバ(20)に固定されてブッシュ本体(12)を支持する取付軸(11)と、ブッシュ本体(12)の内筒(15)の両側端に配置されてブッシュ本体(12)の軸方向での変位を規制するストッパー(16)とを備え、取付軸(11)の外周にネジ部(11f、11g)を形成するとともにネジ部(11f、11g)に螺合する一対のナット(17)を設け、取付軸(11)に挿通されたブッシュ本体(12)を内筒(15)の両側からストッパー(16)を介して一対のナット(17)で挟み込んで取付軸(11)に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の懸架装置に係り、詳しくは、車輪のアライメント調整構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の懸架装置では、車輪を車体に対して支持するアームの車体側結合部にアームと車体を防振的に結合する弾性ブッシュが用いられている。例えば、特許文献1に記載されているように両端部に車体への取付孔を有する芯部材の胴部の外周にゴム状弾性体からなる弾性部材が加硫成形により固着された弾性ブッシュをアームの取付筒部に圧入固定し、弾性ブッシュの芯部材の両端部をボルトにより直接車体に締結するように構成されたものが知られている。このような構成の弾性ブッシュは、弾性ブッシュの芯部材を直接車体に締結するようにしているので、例えば、弾性ブッシュが車体側にブラケットを介して連結されるものと比べ連結部の剛性を確保することができる。また、ブラケットを必要としないため部品点数を低減でき、コストや重量を低減することができる。更に、ブラケットを介さないので省スペース化することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−294084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の弾性ブッシュは、車輪のアライメントを調整する機構を有していないので、アライメントの調整に影響する箇所の支持部に適用することが困難であった。
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、簡単な構成でアライメントの調整を容易に行うことのできる弾性ブッシュを備える車両の懸架装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1の車両の懸架装置では、車輪を支持するアームが弾性ブッシュを介して車体に連結される車両の懸架装置において、前記弾性ブッシュは、円筒形状の内筒と該内筒の外側に設けられ前記アームと連結される円筒形状の外筒と前記内筒と前記外筒との間で固定され一体的に設けられる弾性部材とから構成されるブッシュ本体と、前記ブッシュ本体の前記内筒に軸方向に移動可能に挿通されるとともに外周にネジ部が形成される円柱状の支持部を有し、両端部に前記車体に固定される一対の取付部が形成され前記ブッシュ本体を前記車体に支持する取付軸と、前記取付軸の前記支持部が挿通される内径部を有する円板形状に形成され、前記ブッシュ本体の前記内筒の両側端に配設されて前記ブッシュ本体の軸方向の変位を規制する一対のストッパーと、前記取付軸の前記ネジ部に螺合され、前記一対のストッパーを介して前記ブッシュ本体の前記内筒を軸方向両側より挟み込んで前記ブッシュ本体を前記取付軸に固定する一対のナットとを備え、前記一対のナットの螺合位置を変えることで前記ブッシュ本体の前記取付軸に対する固定位置を軸方向で調整可能とすることを特徴とする。
【0006】
また、請求項2の車両の懸架装置では、請求項1において、前記弾性ブッシュは、中空の円筒形状を成し、内部に前記取付軸が挿通されるとともに、外部に前記ブッシュ本体の前記内筒が回転可能に挿通される円筒部と、該円筒部の一端部において前記円筒部の中心と偏心した円板形状に形成され、前記ストッパーの側面に当接する第1の調整円板部とを有する第1の調整部材と、前記第1の調整円板部と一対で設けられ、前記円筒部の中心と偏心した状態で前記円筒部の他端部に嵌合される嵌合部を有する円板形状を成し、前記円筒部に嵌合された状態で前記ストッパーの側面に当接するとともに前記第1の調整部材に同期して回転方向に動く第2の調整円板部を有する第2の調整部材とを備えており、前記ブッシュ本体の前記内筒は、前記ブッシュ本体に対して前記円筒部を径方向に移動可能とする長円の中空形状であり、前記一対のストッパーは、前記内径部が前記内筒の長円形状に合わせた長円であり、前記ブッシュ本体の前記内筒と当接する側でない他方の側面には、前記内径部の長手方向の両側に設けられ前記第1または第2の調整円板部の周縁に当接して位置を規制する規制部が形成されており、前記第1の調整円板部と前記第2の調整円板部とを前記取付軸を中心に回転させることにより、前記ブッシュ本体と前記取付軸との相対位置を前記内筒の長手方向に調整可能とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明では、アームと連結されるブッシュ本体の内筒に挿通されて車体へ固定される取付軸の外周にネジ部を形成し、ブッシュ本体の内筒の両側より一対のナットを螺合して挟み込むことでブッシュ本体を取付軸に固定する構成とし、一対のナットの螺合位置を変えることでブッシュ本体の取付軸に対する固定位置を軸方向で調整可能としている。
【0008】
これにより、ナットを緩めて締結位置を調整しブッシュ本体の取付軸に対する固定位置を可変とすることで、ブッシュ本体に連結されているアーム位置を車体の幅方向(取付軸の軸方向)に移動することができるのでアライメントを調整することができる。
従って、アライメント調整時に弾性ブッシュと車体との結合、即ちアームと車体との結合を緩めたり、外したりする必要がなく、ナットの締結位置を移動させるだけという簡単な作業で容易にアライメントを調整することができる。しかも、ナットは、ネジ部のネジピッチに応じて規則的に移動されるので微調整も簡単に行うことができる。
【0009】
このように、請求項1の発明によれば、弾性ブッシュの構造を大幅に変更せずとも、コストを抑えた簡単な構成で細かなアライメント調整が可能な弾性ブッシュを備える懸架装置を提供することができる。
また、請求項2の発明では、内部に取付軸が挿通され外部にブッシュ本体の内筒が回転可能に挿通される円筒部と同円筒部の中心と偏心され、ストッパーの側面に当接する第1の調整円板部とを有する第1の調整部材と、円筒部の中心と偏心した状態で円筒部の他端部に嵌合され、前記ストッパーの側面に当接するとともに第1の調整部材に同期して回転方向に動く第2の調整円板部を有する第2の調整部材を備え、更にブッシュ本体の内筒と一対のストッパーの内径部をブッシュ本体に対して円筒部を径方向に移動可能とする長円の中空とし、また、一対のストッパーの側面に、内径部の長手方向の両側で第1または第2の調整円板部の周縁に当接して位置を規制する規制部を形成し、第1の調整円板部と第2の調整円板部とを取付軸を中心に回転させることにより、ブッシュ本体と取付軸との相対位置を内筒の長手方向に調整可能としている。
【0010】
このように第1の調整円板部と第2の調整円板部とを取付軸を中心に回転させることにより、ブッシュ本体と取付軸との相対位置を内筒の長手方向に調整可能としているので、第1及び第2の調整部材を回転させることにより、一対のストッパーが第1の調整円板部と第2の調整円板部の周縁に押され、内径部の長手の径方向に移動され、同時に一対のストッパーと嵌合するブッシュ本体が長円の内筒の長手方向(内筒の長手の径方向)に移動される。即ち、車体に固定される取付軸に対してブッシュ本体を径方向に移動させることができる。
【0011】
従って、アームをブッシュ本体の軸方向(車体の左右方向)に加えブッシュ本体の径方向(例えば、車体前後或いは上下方向)にも移動させることができるので、より細かなアライメントの微調整を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の懸架装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る図1のA−A線に沿った断面図である。
【図3】本発明の第1実施例に係る弾性ブッシュの展開図である。
【図4】本発明の第1実施例に係る取付軸の概略図である。
【図5】本発明の第1実施例に係るブッシュ本体の概略図である。
【図6】本発明の第1実施例に係るストッパーの概略図である。
【図7】本発明の第1実施例に係る車体幅方向のアライメント調整時の概略説明図である。
【図8】本発明の第2実施例に係る図1のA−A線に沿った断面図である。
【図9】本発明の第2実施例に係る弾性ブッシュの展開図である。
【図10】本発明の第2実施例に係る取付軸の概略図である。
【図11】本発明の第2実施例に係る調整筒部材の概略図である。
【図12】本発明の第2実施例に係る調整板部材の概略図である。
【図13】本発明の第2実施例に係るブッシュ本体の概略図である。
【図14】本発明の第2実施例に係るストッパーの概略図である。
【図15】本発明の第2実施例に係る車体前後方向のアライメント調整時の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
まずは、本発明における車両の懸架装置の概略構成を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両の懸架装置の概略構成図を示している。なお、図中矢印「前」は車体前方向、矢印「横」は車体幅方向をそれぞれ示す。
図1に示すように、本実施形態の車両の懸架装置は、図示しない車両の車体を構成するサイドメンバ20に図示しない車輪を支持するアーム30を弾性支持する弾性ブッシュ10、10’を介して取り付けられている。
【0014】
詳しくは、アーム30に設けられた後述する支持穴31にブッシュ10、10’の後述する外筒13が圧入されて、アーム30にブッシュ10,10’が固定される。また、ブッシュ10、10’は、サイドメンバ20にボルト40で車体に固定される。このようにして、アーム30は、ブッシュ10,10’を介して車体に固定されている。
以下、本発明の第1実施例に係る車両の懸架装置のブッシュ10の詳細な構造について説明する。
[第1実施例]
図2は、本発明の第1実施例に係る図1のA−A線に沿った断面図を示している。また、図3は、弾性ブッシュの展開図を示している。また、図4は、取付軸の概略図を示している。また、図5は、ブッシュ本体の概略図を示しており、図中(a)は断面図を、(b)は側面図を示している。また、図6は、ストッパーの概略図を示している。
【0015】
図2及び図3に示すように、弾性ブッシュ10は、支持軸である取付軸11と、外筒13と弾性部材14と内筒15とから構成され取付軸11によって支持される円筒状のブッシュ本体12と、ブッシュ本体12を内筒15の両側より挟み込みブッシュ本体12(弾性部材14)の軸方向の変位を規制する一対のストッパー16と、ブッシュ本体12を一対のストッパー16を介して挟み込むようにして、取付軸11に固定する一対のナット17とで構成されている。
【0016】
取付軸11は、図4に示すように、両端部に平板状の取付部11aが形成されて中央部分が円柱状の支持部11bとされた金属の棒状部材である。また、両端の取付部11aには、サイドメンバ20への取付のボルト40を挿入する締結穴11cが形成されている。また、支持部11bには、ブッシュ本体12の内筒15に挿通される挿通部11dと内筒15の回転を防止する外側に凸形状の回転防止部11eが形成されている。更に支持部11bの両端にはナット17と螺合するネジ部11f,11gが形成されている。
【0017】
ブッシュ本体12は、図5に示すように、円筒状の内筒15と、内筒15の外側で円筒状に設けられる外筒13と、内筒15と外筒13との間に一体に設けられる弾性部材14とから構成されている。
外筒13は、金属の円筒形状で弾性部材14の外周面を覆うように形成され、アーム30に形成された支持穴31に圧入されてアーム30と連結されている。内筒15は、中空の内径部15aを有する金属の筒形状であり、両端の外周を径方向外側に凸形状で形成されている。内径部15aは、取付軸11の挿通部11dが取付軸11の軸方向に移動可能な内径で形成されている。また、内径部15aには、内筒15の回転を防止する取付軸11の回転防止部11eに対応する凹み形状の回転防止溝15bが形成されている。そして、弾性部材14は、外筒13の内周と内筒15の外周にゴム状弾性体を加硫成形により固着して形成されている。
【0018】
一対のストッパー16は、図6に示すように、金属の薄板の円板形状であり、円板中央には取付軸11の挿通部11dが取付軸11の軸方向に移動可能な内径の内径部16aが形成されている。また、内径部16aには、内筒15と同様にストッパー16の回転を防止する取付軸11の回転防止部11eに対応する凹み形状の回転防止溝16bが形成されている。
【0019】
そして、これらの弾性ブッシュ10を構成する部品は以下のように組み立てられている。
図2及び図3に示すように、ブッシュ本体12は、内筒15の回転防止溝15bが挿通部11dの回転防止部11eに嵌合するように取付軸11の挿通部11dに挿通される。また、取付軸11に挿通されたブッシュ本体12の内筒15の両側には一対のストッパー16が取付軸11の挿通部11dの回転防止部11eと回転防止溝16bとが対応して嵌合するように挿通される。更に取付軸11の両端より一対のナット17がそれぞれ挿入され、取付軸11のネジ部11f,11gに螺合される。そして、一対のストッパー16を介して、内筒15が一対のナット17により挟持されることでブッシュ本体12が取付軸11に固定されている。また、取付軸11の締結穴11cにボルト40が挿通され、ボルト40を予めサイドメンバ20に溶接された溶接ナット21に締結することで取付軸11がサイドメンバ20に固定され、アーム30が弾性ブッシュ10を介してサイドメンバに連結される。
【0020】
以下、このように構成された本発明の第1実施例に係る車両の懸架装置の作用及び効果について説明する。
図7は、車体幅方向のアライメント調整時の概略説明図を示しており、(a)がアライメント調整前、(b)がアライメント調整後を示している。なお、図中矢印「前」は車体前方向、矢印「横」は車体幅方向をそれぞれ示す。
【0021】
アーム30には、ブッシュ本体12の外筒13が圧入されることでブッシュ本体12と連結されている。そして、ブッシュ本体12は、内筒15にサイドメンバ20にボルト40にて固定される取付軸11が挿通され、一対のストッパー16を介して一対のナット17で挟持されて取付軸11に固定されている(図7(a))。アライメント調整時には一対のナット17の内の一方を緩め、一方のナット17を例えば図中のナット移動量だけ移動させる。そして、他方のナット17を一方のナット17と同様に移動させる。これによりブッシュ本体12とブッシュ本体12の両側に配置される一対のストッパー16とが他方のナット17とともに一方側に移動される。このとき、ブッシュ本体12と連結されているアーム30が一緒に移動される。さらに、他方のナット17を締め付けることで、ストッパー16を介してブッシュ本体12が再固定され、アーム30が固定される。即ち、ブッシュ本体12をナット移動量だけ移動させることで図中のアーム移動量だけアーム30を移動させることができる(図7(b))。
【0022】
このように、弾性ブッシュ10に備えられた一対のナット17を調整し、ブッシュ本体12の取付軸11に対する固定位置、即ち、アーム30の固定位置を車体幅方向(取付軸11の軸方向)移動させることにより車輪のアライメントを調整することができる。
以上、本実施例の構造であれば、アライメント調整時に弾性ブッシュ10とサイドメンバ20との結合、即ち、アーム30とサイドメンバ20との結合を外す必要がなく、ナット17の締結位置を移動させるだけという簡単な作業で容易に車輪のアライメントを調整することができる。しかも、ナット17は、取付軸11のネジ部11f,11gのネジピッチに応じて規則的に移動されるので、細かな調整も簡単に行うことができる。
【0023】
また、上記のように取付軸11にネジ部11f,11gを設け、ストッパー16及びナット17を用いることで、弾性ブッシュ10の構造を大幅に変更することなく、コストを抑えた簡単な構成でアライメントの調整が可能な弾性ブッシュを備える懸架装置を提供することができる。
[第2実施例]
以下、本発明の第2実施例に係る車両の懸架装置について説明する。
【0024】
第2実施例では、上記第1実施例に対して、アーム30を車両の前後方向にも移動可能としており、以下に上記第1実施例と異なる前後方向に移動可能とする構造に付いて説明する。
図8は、本発明の第2実施例に係る図1のA−A線に沿った断面図を示している。また、図9は、弾性ブッシュの展開図を示している。また、図10は、取付軸の概略図を示している。また、図11は、調整筒部材の概略図を示しており、図中(a)は断面図を、(b)は側面図を示している。また、図12は、調整板部材の概略図を示している。また、図13は、ブッシュ本体12の概略図を示しており、図中(a)は断面図を、(b)は側面図を示している。また、図15は、ストッパーの概略図を示しており、図中(a)は断面図を、(b)は側面図を示している。
【0025】
図8及び図9に示すように、弾性ブッシュ10’は、支持軸である取付軸11’と、外筒13’と弾性部材14’と内筒15’から構成される円筒状のブッシュ本体12と、ブッシュ本体12を内筒15’の両側より挟み込みブッシュ本体12(弾性部材14’)の軸方向の変位を規制する一対のストッパー16’と、内筒15’の一方側のストッパー16’に当接され、一方側のストッパー16’と共にブッシュ本体12(内筒15’)を取付軸11’に対して車体の前後方向に移動させる調整筒部材(第1の調整部材)18と、調整筒部材18の端部に嵌合されて内筒15’の他方側のストッパー16’に当接され調整筒部材18と連動して他方側のストッパー16’とブッシュ本体12(内筒15’)を取付軸11’に対して車体の前後方向に移動させる調整板部材(第2の調整部材)19と、ブッシュ本体12(内筒15’)を一対のストッパー16’、調整筒部材18及び調整板部材19とを介して挟み込むようにして、取付軸11’に固定する一対のナット17とで構成されている。
【0026】
取付軸11’は、図10に示すように、両端部に平板状の取付部11a’が形成されて中央部分が円柱状の支持部11b’とされた金属の棒状部材である。また、両端の取付部11a’には、サイドメンバ20への取付のボルト40を挿入する締結穴11c’が形成されている。また、支持部11b’には、調整筒部材18に挿通される挿通部11d’が形成されている。また、支持部11b’の両端にはナット17と螺合するネジ部11f’,11g’が形成されている。
【0027】
調整筒部材18は、図11に示すように、中空の筒形状に形成された円筒部18aと、円筒部18aの一端部で径方向に鍔状に突出された調整円板部(第1の調整円板部)18bとから構成されている。円筒部18aは、その内径が取付軸11’の支持部11b’が回転可能に挿通されるように設定され、外径がブッシュ本体12の内筒15’の内径部15a’に回転可能に挿通されるように設定されている。更に円筒部18aの外径部分には中心方向に凹形状で軸方向に延びる回転同期溝18cが形成されている。調整円板部18bは、所定外径の円板形状を成し円筒部18aの中心と偏心するように形成されている。調整円板部18bは、図8に示すように、組み付けられた状態で、ストッパー16’のブッシュ本体12の内筒15’と当接する側と反対側の側面に当接するように構成されている。調整円板部18bは、後述するストッパー16’の規制部16f’に作用し、ストッパー16’を介してブッシュ本体12の前後移動量を調整する部材である。
【0028】
調整板部材19は、図12に示すように、金属の薄板の部材であり、調整円板部18bと同じ所定外径の円板形状を成す調整円板部(第2の調整円板部)19aと、調整円板部19aに開口形成されて調整筒部材18の円筒部18aと嵌合される嵌合部19bとで構成されている。嵌合部19bは、調整円板部19aの中心とは偏心した円板形状を成しており、その偏心量は、調整筒部材18の円筒部18aに対する調整円板部18bの偏心量と同じに設定されている。即ち、調整板部材19が調整筒部材18の円筒部18aに嵌合された状態で円筒部18aに対して調整円板部19aが調整円板部18bと同じ偏心状態となるように設定されている。また、調整円板部19aは、図8に示すように、組み付けられた状態でストッパー16’の内筒15’と当接する側と反対側の側面に当接するように構成されている。また、内径部19bには、調整筒部材18の円筒部18aの外径部に形成される回転同期溝18cと回転方向の対応する位置に中心側に凸形状の回転同期爪19cが形成されている。調整板部材19の回転同期爪19cを調整筒部材18の回転同期溝18cに合わせて嵌合することで調整円板部19aと調整円板部18bとの偏心方向を合わせるとともに調整板部材19が調整筒部材18に同期して回転されるようにしている。調整円板部19aは、調整円板部18bと同様、後述するストッパー16’の規制部16f’に作用し、ストッパー16’を介してブッシュ本体12の前後移動量を調整する部材である。
【0029】
ブッシュ本体12は、図13に示すように、円筒状の内筒15’と、内筒15’の外側で円筒状に設けられる外筒13’と、内筒15’と外筒13’との間に一体に設けられる弾性部材14’とから構成されている。
外筒13’は、金属の円筒形状で弾性部材14’の外周面を覆うように形成されており、アーム30に形成された支持穴31に圧入されてアーム30と連結されている。
【0030】
内筒15’は、中空の金属の筒形状である。内筒15’の内径部15a’は、車体の前後方向に長い長円に形成されており、調整筒部材18の円筒部18aが内径部15a’の長手方向(車体前後方向)に沿って移動可能に挿通できる形状とされている。言い換えると、内筒15’が調整筒部材18の円筒部18aに対して内径部15a’の長手方向である車体前後方向に移動可能とされている。また、内筒15’の軸方向両端部の外周縁にはストッパー16’と嵌合する嵌合部15c’と嵌合部15c’の両端に中心方向に凹形状の位置決め溝15d’が形成されている。
【0031】
そして、弾性部材14’は、外筒13’の内周と内筒15’の外周にゴム状弾性体を加硫成形により固着され形成されている。
一対のストッパー16’は、図14に示すように、金属の円板形状の薄板である。また、ストッパー16’の中心には、ブッシュ本体12の内筒15’の内径部15a’の形状に合わせて車体の前後方向に長円の内径部16a’が形成されており、調整筒部材18の円筒部18aが挿入可能且つ前後方向に移動可能とされている。また、ストッパー16’の一端面には、内筒15’の嵌合部15c’と嵌合可能な内径の嵌合部16c’が形成されている。また、嵌合部16c’には、内筒15’の嵌合部15c’の両端に形成される位置決め溝15d’に対応する中心方向に凸形状の位置決め爪16d’が形成されている。また、ストッパー16’の他端面(内筒15’と当接されない面)には、調整筒部材18及び調整板部材19に形成される所定外径の調整円板部18b、19aの周縁と当接して位置を規制する一対の規制部16f’が形成されている。規制部16f’は、車体上下方向、即ち内径部16a’の長手方向(車体前後方向)と直交する方向に延設される段差部であって、内径部16aの前後(長手方向両側)に所定の間隔を持って一対で設けられている。即ち、ストッパー16’の他端面は、一対の規制部16f’によって上下方向に延びる所定間隔の溝が形成された状態となっている。
【0032】
なお、ストッパー16’と調整筒部材18及び調整板部材19の調整円板部18b,19aとは、それぞれ一対の規制部16f’の間に嵌め込まれた状態で当接される。
これら弾性ブッシュ10’を構成する部品は以下のように組み立てられている。図8及び図9に示すように、調整筒部材18の円筒部18aの内径部に取付軸11’の挿通部11d’が回転可能に挿通される。また、調整筒部材18に形成される調整円板部18bとは他方の他端より、一対のストッパー16’の内の一方のストッパー16’の規制部16f’と調整円板部18bが対応するようにストッパー16’が調整筒部材18の円筒部18aの外径部に調整円板部18bと当接する位置まで挿入される。調整筒部材18の調整円板部18bは、ストッパー16’の一対の規制部16f’の間に嵌り込んだ状態とされる。さらに調整筒部材18の他方の他端より、ブッシュ本体12の内筒15’が調整筒部材18の円筒部18aの外径部に挿入される。そして、ストッパー16’に形成される位置決め爪16d’と内筒15’の位置決め溝15d’が対応するようにストッパー16’の嵌合部16c’に内筒15’の嵌合部15c’が嵌合される。そして、ストッパー16’の一対の規制部は、調整筒部材18の他方の他端より、一対のストッパー16’の内の他方のストッパー16’が調整筒部材18の円筒部18aの外径部に挿入される。そして、ストッパー16’の嵌合部16c’は、ストッパー16’に形成される位置決め爪16d’と内筒15’の位置決め溝15d’が対応するように内筒15’の嵌合部15c’に嵌合される。また、調整筒部材18の他方の他端より、調整板部材19の内径部19bが、回転同期爪19cと調整筒部材18の円筒部18aに形成される回転同期溝18cの位置が対応するように調整筒部材18の円筒部18aの外径部に調整板部材19の内径部19bが嵌合される。そして、調整板部材19の調整円板部19aは、ストッパー16’に形成された一対の規制部16f’の間に嵌り込んだ状態で当接される。更に取付軸11’の両端より一対のナット17がそれぞれ挿入され、取付軸11’のネジ部11f’,11g’と螺合することにより、一対のストッパー16’、調整筒部材18及び調整板部材19を介して内筒15’が挟持され、ブッシュ本体12が取付軸11’に固定される。そして、取付軸11’の締結穴11c’にボルト40が挿通され、ボルト40と予めサイドメンバ20に溶接された溶接ナット21とを締結することで取付軸11’がサイドメンバ20に固定される。
【0033】
以下、このように構成された本発明の第2実施例に係る車両の懸架装置の作用及び効果について説明する。
図15は、車体前後方向のアライメント調整時の概略説明図を示しており、(a)がアライメント調整前、(b)がアライメント調整後を示している。なお、図中矢印「前」は車体前方向、矢印「上」は車体上方向をそれぞれ示す。
【0034】
アーム30は、外筒13’が圧入されることでブッシュ本体12と連結されている。そして、ブッシュ本体12は、サイドメンバ20にボルト40にて固定される取付軸11’に一対のストッパー16’、調整筒部材18及び調整板部材19を介して一対のナット17で固定されている(図15(a))。アーム30を車体前後方向で移動させてアライメントを調整する時には、一対のナット17を緩め、調整筒部材18の調整円板部18b或いは調整板部材19の調整円板部19aの一方或いは双方を円筒部18a(取付軸11’)を中心として同一方向に回転させる。例えば調整筒部材18を図中の回転量だけ移動させると、ブッシュ本体12とともにアーム30が図中のアーム移動量だけ移動される(図15(b))。この移動量を調整することで、アライメントが調整される。そして、ナット17を締め付けてブッシュ本体12を再固定してやれば、アライメント調整が完了する。
【0035】
詳しく説明すると、例えば、調整筒部材18及び調整板部材19を図中の回転量だけ回転させると、調整筒部材18及び調整板部材19の調整円板部18b、19aが調整筒部材18の円筒部18aを中心に回転するが、調整円板部18b、19aは円筒部18aに対して偏心して形成されているため、調整円板部18b,19aは偏った回転となり調整円板部18b、19aによりストッパー16’の車体後方向側の規制部16fが車体後方向に押されることとなる。ストッパー16’とブッシュ本体12の内筒15’は、嵌合部16c’と嵌合部15c’にて固定されており、更に内筒15’の内径部15a’とストッパー16’の内径部16a’は、車体前後方向に長円で形成されているので、ブッシュ本体12が内筒15’の内径部15a’の長手方向に沿って車体後方向に移動される。ブッシュ本体12の移動に伴って、ブッシュ本体12と連結されているアーム30が調整筒部材18或いは調整板部材19の回転量に対応したアーム移動量だけ車体後方向に移動される。もちろん、調整筒部材18或いは調整板部材19を図16の回転量とは逆に車体前方向へ回転させてやれば、ブッシュ本体12、即ちアーム30を車体前方向へ移動させることができる。
【0036】
このように、ブッシュ本体12の位置を前後に調整することでアーム30を車体前後方向に移動させてアライメントを調整することができる。
また、第1実施例と同様に、一対のナット17によるブッシュ本体12の取付軸11’への固定位置を軸方向に可変させ、アーム30の車体幅方向での固定位置を移動させることでアライメントを調整することも可能である。
【0037】
また、本実施例においても、アーム30を車体から取り外すことなく、一対のナット17を緩め、更に調整筒部材18或いは調整板部材19を回転させてアーム30の車体前後方向の固定位置を調整することにより、アーム30を車体より取り外すことなく車体前後方向のアライメントを調整することができる。
なお、本実施例では、ブッシュ本体12の内筒15’の内径部15a’及びストッパー16’の内径部16a’を車体前後方向に長い長円としたが、これに限られるものではなく、例えば、車体上下方向に長い長円であっても良い。この場合、ストッパー16’の規制部16f’は内径部16a’の上下に形成され、アーム30の位置が車体上下方向で移動可能となる。
【0038】
以上、本実施例の構造であれば、第1実施例の効果に加えて、更にアーム30の位置をブッシュ本体12の径方向にも調整することができるのでアライメントの調整をより細かく行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
10,10’ 弾性ブッシュ
11,11’ 取付軸
12,12’ ブッシュ本体
13,13’ 外筒
14,14’ 弾性部材
15,15’ 内筒
16,16’ ストッパー
17 ナット
18 調整筒部材(第1の調整部材)
19 調整板部材(第2の調整部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を支持するアームが弾性ブッシュを介して車体に連結される車両の懸架装置において、
前記弾性ブッシュは、
円筒形状の内筒と該内筒の外側に設けられ前記アームと連結される円筒形状の外筒と前記内筒と前記外筒との間で固定され一体的に設けられる弾性部材とから構成されるブッシュ本体と、
前記ブッシュ本体の前記内筒に軸方向に移動可能に挿通されるとともに外周にネジ部が形成される円柱状の支持部を有し、両端部に前記車体に固定される一対の取付部が形成され前記ブッシュ本体を前記車体に支持する取付軸と、
前記取付軸の前記支持部が挿通される内径部を有する円板形状に形成され、前記ブッシュ本体の前記内筒の両側端に配設されて前記ブッシュ本体の軸方向の変位を規制する一対のストッパーと、
前記取付軸の前記ネジ部に螺合され、前記一対のストッパーを介して前記ブッシュ本体の前記内筒を軸方向両側より挟み込んで前記ブッシュ本体を前記取付軸に固定する一対のナットとを備え、
前記一対のナットの螺合位置を変えることで前記ブッシュ本体の前記取付軸に対する固定位置を軸方向で調整可能とすることを特徴とする車両の懸架装置。
【請求項2】
前記弾性ブッシュは、
中空の円筒形状を成し、内部に前記取付軸が挿通されるとともに、外部に前記ブッシュ本体の前記内筒が回転可能に挿通される円筒部と、該円筒部の一端部において前記円筒部の中心と偏心した円板形状に形成され、前記ストッパーの側面に当接する第1の調整円板部とを有する第1の調整部材と、
前記第1の調整円板部と一対で設けられ、前記円筒部の中心と偏心した状態で前記円筒部の他端部に嵌合される嵌合部を有する円板形状を成し、前記円筒部に嵌合された状態で前記ストッパーの側面に当接するとともに前記第1の調整部材に同期して回転方向に動く第2の調整円板部を有する第2の調整部材とを備えており、
前記ブッシュ本体の前記内筒は、前記ブッシュ本体に対して前記円筒部を径方向に移動可能とする長円の中空形状であり、
前記一対のストッパーは、前記内径部が前記内筒の長円形状に合わせた長円であり、前記ブッシュ本体の前記内筒と当接する側でない他方の側面には、前記内径部の長手方向の両側に設けられ前記第1または第2の調整円板部の周縁に当接して位置を規制する規制部が形成されており、
前記第1の調整円板部と前記第2の調整円板部とを前記取付軸を中心に回転させることにより、前記ブッシュ本体と前記取付軸との相対位置を前記内筒の長手方向に調整可能とすることを特徴とする請求項1に記載の車両の懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−131325(P2012−131325A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284400(P2010−284400)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】