車両の駆動力制御装置
【課題】車両の加速時に駆動輪が回転振動するとき又はその虞れがあるときにはトランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することにより、車両の加速時に於ける駆動輪の回転振動を効果的に抑制する。
【解決手段】車両の加速時に(ステップ110)、駆動輪の回転振動を検出したとき(ステップ130)、若しく走行路がまたぎ路であると判定したときには(ステップ160)、駆動輪の回転振動が終息し(ステップ210)若しくはまたぎ路走行が終了するまで(ステップ220)、トランスミッション16の変速段を演算するための目標駆動力Fp_t_futureを漸減し(ステップ190、200)、トランスミッションの変速段のアップシフトを促進する。
【解決手段】車両の加速時に(ステップ110)、駆動輪の回転振動を検出したとき(ステップ130)、若しく走行路がまたぎ路であると判定したときには(ステップ160)、駆動輪の回転振動が終息し(ステップ210)若しくはまたぎ路走行が終了するまで(ステップ220)、トランスミッション16の変速段を演算するための目標駆動力Fp_t_futureを漸減し(ステップ190、200)、トランスミッションの変速段のアップシフトを促進する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力制御装置に係り、更に詳細には乗員の運転操作状況及び車両の走行状況に基づいて車両の駆動力を制御する駆動力制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の駆動力制御装置の一つとして、例えば本願出願人の出願にかかる下記の特許文献1に記載されている如く、運転者の加速要求に応じて車両の目標駆動力を演算し、目標駆動力に基づいてエンジンの目標スロットル開度及びトランスミッションの目標変速段を決定し、目標スロットル開度に基づいてエンジンの出力を制御すると共に目標変速段に基づいてトランスミッションの変速段を制御するよう構成された駆動力制御装置が従来より知られている。
【特許文献1】特開2003−191774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
自動車等の車両が路面の摩擦係数が低い走行路にて加速するような場合や、左右の駆動輪に対応する路面の摩擦係数の差が大きい所謂またぎ路に於いて車両が加速するような場合には、駆動力が特定の駆動力になると駆動輪が回転振動し、駆動輪の回転振動に起因して車両の乗り心地が不快なものになったり、路面に対する駆動輪のグリップが低下し、車両の走行安定性に悪影響を及ぼしたりすることがある。
上記問題はトランスミッションの変速機が多段式の自動変速機である場合に限られるものではなく、トランスミッションの変速機が無段式の自動変速機である場合にも程度の差はあるが同様に発生する。
【0004】
上述の如き従来の駆動力制御装置に於いては、トランスミッションの目標変速段は車両の目標駆動力及び車速(又は車速に対応する値)に基づいて予め設定された変速線により一義的に決定され、車速はトランスミッションの出力回転数や車輪の回転速度に基づいて推定され、駆動輪の回転振動は考慮されないため、車両が路面の摩擦係数が低い走行路にて加速したり、またぎ路に於いて加速したりするような場合に発生する駆動輪の回転振動を防止することができない。
【0005】
本願発明者は車両が路面の摩擦係数が低い走行路にて加速したり、またぎ路に於いて加速したりするような場合に発生する上記駆動輪の回転振動の要因について鋭意研究を行った結果、上記駆動輪の回転振動は、駆動輪の駆動力が特定の駆動力になると、路面に対する駆動輪タイヤのスリップ状態とグリップ状態との間に変化する周波数が車両の駆動系の固有振動数に近づいて駆動輪が共振し易くなることに起因して発生するものであり、トランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進して共振し難くすることにより駆動輪の回転振動を効果的に抑制し得ることを究明した。
【0006】
本発明は、運転者の加速要求に応じて目標駆動力が演算され、トランスミッションの目標変速比が目標駆動力及び車速に基づいて予め設定された変速線により決定されるよう構成された従来の駆動力制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、本願発明者が行った研究の結果得られた知見に基づき、車両の加速時に駆動輪が回転振動するとき又はその虞れがあるときにはトランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することにより、車両の加速時に於ける駆動輪の回転振動を効果的に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の主要な課題は、本発明によれば、駆動源及びトランスミッションを含む駆動装置と、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいて前記駆動装置の目標駆動力を演算する手段と、前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御する駆動源制御手段と、前記トランスミッションの変速比を制御する変速比制御手段とを有する車両の駆動力制御装置に於いて、前記変速比制御手段は駆動輪の回転振動を検出する手段を有し、駆動輪が回転振動しているときには前記トランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することを特徴とする車両の駆動力制御装置(請求項1の構成)、又は駆動源及びトランスミッションを含む駆動装置と、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいて前記駆動装置の目標駆動力を演算する手段と、前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御する駆動源制御手段と、前記トランスミッションの変速比を制御する変速比制御手段とを有する車両の駆動力制御装置に於いて、前記変速比制御手段は走行路が左右の駆動輪に対応する路面の摩擦係数の差が大きいまたぎ路であるか否かを判定する手段を有し、走行路がまたぎ路であるときには前記トランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することを特徴とする車両の駆動力制御装置(請求項3の構成)によって達成される。
【0008】
上記請求項1の構成によれば、駆動輪が回転振動しているときにはトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されるので、駆動輪が回転振動しているときにもトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されない従来の駆動力制御装置の場合に比して、早期に駆動輪が共振し難くい状況にすることができ、これにより駆動輪の回転振動を早期に且つ確実に終息させることができる。
【0009】
また上記請求項3の構成によれば、走行路がまたぎ路であるときにはトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されるので、走行路がまたぎ路であるときにもトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されない従来の駆動力制御装置の場合に比して、早期に駆動輪が共振し難くい状況にすることができ、これにより駆動輪の回転振動を早期に且つ確実に抑制し、駆動輪が回転振動することを確実に且つ効果的に防止することができる。
【0010】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記変速比制御手段は駆動輪が回転振動していないときには、前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているときには、前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御するよう構成される(請求項2の構成)。
【0011】
上記請求項2の構成によれば、駆動輪が回転振動していないときには、目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御され、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているときには、目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御されるので、駆動輪が回転振動していないときには、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいてトランスミッションの変速比を制御することができ、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているときには、目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御される場合に比して、確実にトランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することができる。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、前記変速比制御手段は走行路がまたぎ路でないときには、前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御するよう構成される(請求項4の構成)。
【0013】
上記請求項4の構成によれば、変速比制御手段は走行路がまたぎ路でないときには、目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御され、車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御されるので、走行路がまたぎ路でないときには、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいてトランスミッションの変速比を制御することができ、車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御される場合に比して、確実にトランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することができる。
【0014】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至4の何れかの構成に於いて、前記変速比制御手段は乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいて基本変速比制御用目標駆動力を演算し、駆動輪が回転振動しておらず走行路がまたぎ路でないときには、前記変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、前記変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御するよう構成される(請求項5の構成)。
【0015】
上記請求項5の構成によれば、乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいて基本変速比制御用目標駆動力が演算され、駆動輪が回転振動しておらず走行路がまたぎ路でないときには、変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御され、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御されるので、駆動輪が回転振動しておらず走行路がまたぎ路でないときには、乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいてトランスミッションの変速比を制御することができ、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御される場合に比して、確実にトランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することができる。
【0016】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項5の構成に於いて、前記変速比制御手段は車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、前記変速比制御用目標駆動力を漸減補正することにより前記補正後の変速比制御用目標駆動力を演算するよう構成される(請求項6の構成)。
【0017】
また上記請求項6の構成によれば、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、変速比制御用目標駆動力が漸減補正されることにより補正後の変速比制御用目標駆動力が演算されるので、変速比制御用目標駆動力が急激に低下変化することを確実に防止しつつ、トランスミッションの変速比のアップシフト変更を確実に促進することができる。
【0018】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至6の何れかの構成に於いて、前記トランスミッションは多段式の自動変速機を含んでいるよう構成される(請求項7の構成)。
【0019】
また上記請求項7の構成によれば、トランスミッションは多段式の自動変速機を含んでいるので、トランスミッションの変速段のアップシフトを確実に促進することができ、これにより車両の加速時に於ける駆動輪の回転振動を効果的に抑制ことができる。
[課題解決手段の好ましい態様]
【0020】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れかの構成に於いて、駆動力制御装置は少なくとも駆動装置の駆動力を制御することにより駆動輪の駆動スリップを抑制するトラクション制御を行うトラクション制御手段を有し、トラクション制御が必要であるときには駆動輪の駆動スリップを抑制するためのトラクション制御の目標駆動力を演算すると共に、トラクション制御の目標駆動力よりも大きいトラクション制御時の変速比制御用目標駆動力を演算し、トラクション制御の目標駆動力に基づいて駆動装置を制御すると共に、トラクション制御時の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御し、トラクション制御が必要である状況にて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、トラクション制御時の変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御するよう構成される(好ましい態様1)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れかの構成に於いて、駆動力制御装置は少なくとも駆動装置の駆動力を制御することにより車両の挙動を安定化させる挙動制御を行う挙動制御手段を有し、挙動制御が必要であるときには駆動輪の駆動スリップを抑制するための挙動制御の目標駆動力を演算すると共に、挙動制御の目標駆動力よりも大きい挙動制御時の変速比制御用目標駆動力を演算し、挙動制御の目標駆動力に基づいて駆動装置を制御すると共に、挙動制御時の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御し、挙動制御が必要である状況にて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、挙動制御時の変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御するよう構成される(好ましい態様2)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7又は上記好ましい態様1又は2の構成に於いて、トランスミッションは無段式の自動変速機を含んでいるよう構成される(好ましい態様3)。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6又は上記好ましい態様1乃至3の何れかの構成に於いて、前記変速比制御手段は駆動輪が回転振動せず且つ走行路がまたぎ路ではない状況になったときには、前記変速比制御用目標駆動力を漸増補正することにより前記補正後の変速比制御用目標駆動力を駆動装置の目標駆動力に漸次近付けるよう構成される(好ましい態様4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
【0025】
図1は後輪駆動車に適用された本発明による車両の駆動力制御装置の一つの実施例を示す概略構成図、図2は実施例1の制御系を示すブロック図である。
【0026】
図1に於いて、10はエンジンを示しており、エンジン10の駆動力はトルクコンバータ12及び歯車式変速機構14を含むオートマチックトランスミッション16を介してプロペラシャフト18へ伝達される。エンジン10及びオートマチックトランスミッション16は互いに共働して車両の駆動装置10Aを構成している。
【0027】
プロペラシャフト18の駆動力はディファレンシャル20により左後輪車軸22L及び右後輪車軸22Rへ伝達され、これにより駆動輪である左右の後輪24RL及び24RRが回転駆動される。一方左右の前輪24FL及び24FRは従動輪であると共に操舵輪であり、図1には示されていないが、運転者によるステアリングホイールの転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置によりタイロッドを介して操舵される。
【0028】
左右の前輪24FL、24FR及び左右の後輪24RL、24RRの制動力は制動装置26の油圧回路28により対応するホイールシリンダ30FL、30FR、30RL、30RRの制動圧が制御されることによって制御される。図1には示されていないが、油圧回路28はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含んでいる。
【0029】
車両の制駆動力は統合制御電子制御装置32により制御される。統合制御電子制御装置32は通常時には運転者によるアクセルぺダル34の操作やエンジン負荷等に応じてエンジン10の出力及びトランスミッション16の変速段を制御すると共に、運転者によるブレーキペダル36の踏み込み操作に応じて油圧回路28を制御し、また必要に応じて車両の走行運動を制御すべくエンジン10の出力及びトランスミッション16の変速段を制御すると共に、油圧回路28を制御し、これにより車両の制駆動力を制御する。
【0030】
図2に示されている如く、統合制御電子制御装置32は駆動力制御電子制御装置40と車両運動制御電子制御装置42とを含み、駆動力制御電子制御装置40及び車両運動制御電子制御装置42は相互に必要な情報の授受を行い、互いに共働して運転者の駆動要求及び制動要求に応じて車両の制駆動力を制御すると共に、各車輪の制駆動力の制御によって車両の走行運動を安定化させる。尚図2には詳細に示されていないが、駆動力制御電子制御装置40及び車両運動制御電子制御装置42はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。
【0031】
図2に示されている如く、駆動力制御電子制御装置40は運転者要求目標駆動力演算部44、調停部46、分配部48、発生駆動力演算部50を有し、車両運動制御電子制御装置42は運動状態推定部54、制駆動力分配部56、修正目標駆動力演算部58を有している。
【0032】
運転者要求目標駆動力演算部44にはアクセルペダル34に設けられたアクセル開度センサの如き駆動操作量検出センサ62より運転者の駆動操作量Aを示す信号が入力される。運転者要求目標駆動力演算部44は運転者の駆動操作量Aに基づいて運転者要求目標駆動力Fp_dvmを演算し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmを示す信号を調停部46へ出力すると共に、車両運動制御電子制御装置42の運動状態推定部54及び修正目標駆動力演算部58へ出力する。
【0033】
調停部46には上記運転者要求目標駆動力Fp_dvmを示す信号に加えて、車両運動制御電子制御装置42の制駆動力分配部56より制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowを示す信号及び制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがあるか否か(ONのとき「あり」、OFFのとき「なし」)を示すフラグF_FP_NOW信号が入力され、また修正目標駆動力演算部58より修正目標駆動力Fp_t_futureを示す信号及び修正目標駆動力Fp_t_futureがあるか否か(ONのとき「あり」、OFFのとき「なし」)を示すフラグF_FP_FUTURE信号が入力される。
【0034】
調停部46は、フラグF_FP_NOW信号がOFFであるときには、調停後の目標駆動力Fp_nowを運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定し、フラグF_FP_FUTURE信号がOFFであるときには、調停後の修正目標駆動力Fp_futureを運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定する。これに対し調停部46は、フラグF_FP_NOW信号がONであるときには、調停後の目標駆動力Fp_nowを制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowに設定し、フラグF_FP_FUTURE信号がONであるときには、調停後の修正目標駆動力Fp_futureを修正目標駆動力Fp_t_futureに設定する。
【0035】
分配部48には調停部46より調停後の目標駆動力Fp_nowを示す信号及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureを示す信号が入力され、回転数センサ76よりトランスミッション16の出力回転数Ntoutを示す信号が入力される。分配部48は調停後の目標駆動力Fp_nowに基づいて目標エンジン出力トルクTetを演算すると共に目標エンジン出力トルクTetを示す信号をエンジン制御装置64へ出力し、また調停後の修正目標駆動力Fp_future及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づいて図4に示された変速線図に従ってトランスミッションの目標変速段Stを演算すると共に目標変速段Stを示す信号を自動変速機制御装置66へ出力し、これにより車両の駆動トルクFp、即ちエンジン10及びトランスミッション16よりなる駆動装置10Aの出力トルクが調停後の目標駆動力Fp_nowになるよう制御する。
【0036】
発生駆動力演算部50にはエンジン制御装置64より現在のエンジン出力トルクTeaを示す信号が入力され、また自動変速機制御装置66より現在の変速段Saを示す信号が入力される。発生駆動力演算部50は現在のエンジン出力トルクTea及び現在の変速段Saに基づいて車両の現在の駆動トルクFp_currentを演算し、車両の現在の駆動トルクFp_currentを示す信号を車両運動制御電子制御装置42の運動状態推定部54へ出力する。また発生駆動力演算部50は車両の現在の駆動トルクFp_current及び現在の変速段Saを示す信号を車両運動制御電子制御装置42の修正目標駆動力演算部58へ出力する。
【0037】
運動状態推定部54は車輪速度センサ68i(i=fl、fr、rl、rr)により検出される各車輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)に基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vbを演算すると共に、左右後輪の駆動スリップ量SArl、SArrを演算し、駆動スリップ量SArl、SArrがトラクション制御(TRC制御)開始の基準値SAs(正の定数)よりも大きくなり、トラクション制御の開始条件が成立すると、トラクション制御の終了条件が成立するまで、当該車輪の駆動スリップ量を所定の範囲内にするためのトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcを演算する。
【0038】
また運動状態推定部54には駆動力制御電子制御装置40の運転者要求目標駆動力演算部44よりの運転者要求目標駆動力Fp_dvmを示す信号及び発生駆動力演算部50よりの車両の現在の駆動トルクFp_currentを示す信号に加えて、図2には示されていないが、図1に示されている如く車輪速度センサ68i(i=fl、fr、rl、rr)より各車輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力され、また操舵角センサ、前後加速度センサ、横加速度センサ、ヨーレートセンサの如き車両状態量検出センサ70より操舵角θ、車両の前後加速度Gx、車両の横加速度Gy、車両のヨーレートγを示す信号等が入力される。
【0039】
運動状態推定部54は各車輪の車輪速度に基づく車体速度Vb及び操舵角θに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて車両の目標ヨーレートγtを演算し、車両の実際のヨーレートγと目標ヨーレートγtとの偏差Δγに基づいて車両の挙動を判定し、ヨーレート偏差Δγの大きさが大きく車両の挙動の制御が必要であるときには、ヨーレート偏差Δγの大きさを小さくするための目標駆動力として目標駆動力Fp_t_now_vscを演算する。
【0040】
尚運動状態推定部54は制動時には車両の前後加速度Gx等の車両状態量に基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車両のスピンの程度を示すスピン状態量SS及び車両のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算し、スピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車両の挙動を判定し、車両の挙動がスピン状態又はドリフトアウト状態であるときにはこれらを抑制するための挙動制御の各車輪の目標制動力Fbvti(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。
【0041】
尚車両挙動の判定及び車両の走行運動を安定化させるための挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscや目標制動力Fbvtiの演算自体は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよい。
【0042】
また運動状態推定部54は後述の如く当技術分野に於いて公知の要領にて路面の摩擦係数μ及び各車輪の横力Fwyi(i=fl、fr、rl、rr)を推定し、路面の摩擦係数μがその基準値μo(正の定数)よりも大きく且つ何れかの車輪の横力Fwyiが基準値Fwyo(正の定数)よりも大きいときには、車両が高横力旋回状態にあると判定する。
【0043】
また運動状態推定部54は車両の挙動が安定しておりトラクション制御も挙動制御も不要であり車両が高横力旋回状態にはないときには、車両の目標制駆動力F_tを運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定して車両の目標制駆動力F_tを示す信号を制駆動力分配部56へ出力する。これに対し運動状態推定部54は、トラクション制御が必要であると判定したときには、車両の目標制駆動力F_tをトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcに設定すると共に、トラクション制御の判定結果及び車両の目標制駆動力F_tを示す信号を制駆動力分配部56へ出力する。また運動状態推定部54は、挙動制御が必要であると判定したときには、車両の目標制駆動力F_tを挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscに設定すると共に、車両挙動の判定結果及び車両の目標制駆動力F_tを示す信号を制駆動力分配部56へ出力する。
【0044】
更に運動状態推定部54はトラクション制御及び挙動制御が必要であるときには、下記の式1に従ってトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの小さい方の値を車両の目標駆動力F_tとして演算し、トラクション制御及び車両挙動の判定結果及び車両の目標制駆動力F_tを示す信号を制駆動力分配部56へ出力する。
F_t=MIN(Fp_t_now_trc,Fp_t_now_vsc) ……(1)
【0045】
制駆動力分配部56は車両の目標制駆動力F_tが正の値であり駆動力であるときには、目標制駆動力F_tを制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowとし、制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowを示す信号を駆動力制御電子制御装置40の調停部46及び修正目標駆動力演算部58へ出力し、制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがあるか否かを示すフラグF_FP_NOW信号を調停部46へ出力する。
【0046】
また制駆動力分配部56は各車輪の車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vbを演算すると共に、各車輪の制動スリップ量SBi(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、制動スリップ量SBiがアンチスキッド制御(ABS制御)開始の基準値よりも大きくなり、アンチスキッド制御の開始条件が成立すると、アンチスキッド制御の終了条件が成立するまで、当該車輪の制動スリップ量を所定の範囲内にするためのアンチスキッド制御の目標制動力Fbvti(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。
【0047】
また制駆動力分配部56はトラクション制御若しくは挙動制御が必要であるときには、それらの各判定結果に基づいて各車輪の目標制動力Fbvtiを演算する。そして制駆動力分配部56は目標制動力Fbvtiがあるときには、目標制動力Fbvtiを示す信号を制動力制御装置72へ出力する。
【0048】
制動力制御装置72にはブレーキペダル36に設けられた制動操作量検出センサ74により検出された運転者の制動操作量Fbを示す信号が入力され、また圧力センサ76i(i=fl、fr、rl、rr)により検出されたホイールシリンダ30FL〜30RRの制動圧Pbi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力される。制動力制御装置72は運転者の制動操作量Fbに基づいて各車輪の目標制動力Fbti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、トラクション制御若しくは挙動制御若しくはアンチスキッド制御の目標制動力Fbvtiがあるときには、当該車輪の目標制動力Fbtiを目標制動力Fbvtiに置き換える。
【0049】
そして制動力制御装置72は目標制動力Fbtiに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の目標制動圧Pbti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各車輪の制動圧Pbiがそれぞれ対応する目標制動圧Pbtiになるよう油圧回路28を制御することにより、各車輪の制動力Fbi(i=fl、fr、rl、rr)がそれぞれ対応する目標制動力Fbtiになるよう制御する。
【0050】
修正目標駆動力演算部58には運転者要求目標駆動力演算部44より運転者要求目標駆動力Fp_dvmを示す信号が入力され、制駆動力分配部56より制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowを示す信号が入力される。また修正目標駆動力演算部58には回転数センサ76よりトランスミッション16の出力回転数Ntoutを示す信号が入力され、μセンサ78L及び78Rよりそれぞれ左右後輪に対応する路面の摩擦係数μl及びμrを示す信号が入力される。
【0051】
修正目標駆動力演算部58は制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcであるときには、下記の式2に従ってフィルタ処理後のトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcfを演算すると共に、下記の式3に従って一次遅れのフィルタ処理後のトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcf及びトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcのうちの大きい方の値をトラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1とする。
Fp_t_now_trcf=(1‐K1)/(1‐K1Z−1)Fp_t_now_trc ……(2)
Fp_t_future_trc1=MAX(Fp_t_now_trcf,Fp_t_now_trc) ……(3)
【0052】
例えば図6は運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1の変化の一例を示している。図6に示されている如く、トラクション制御によりトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcが運転者要求目標駆動力Fp_dvmよりも小さい値に演算されるが、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1は急激には低下せず、トラクション制御の開始後徐々に低下する。
【0053】
また修正目標駆動力演算部58は制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowが挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscであるときには、下記の式4に従って一次遅れのフィルタ処理後の挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscfを演算すると共に、下記の式5に従ってフィルタ処理後の挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscf及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの大きい方の値を挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscとする。
Fp_t_now_vscf=(1‐K2)/(1‐K2Z−1)Fp_t_now_vsc ……(4)
Fp_t_future_vsc=MAX(Fp_t_now_vscf,Fp_t_now_vsc) ……(5)
【0054】
例えば図7は運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いて挙動制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vsc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscの変化の一例を示している。図7に示されている如く、挙動制御により挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscが運転者要求目標駆動力Fp_dvmよりも小さい値に演算されるが、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscは急激には低下せず、挙動制御の開始後徐々に低下する。
【0055】
また修正目標駆動力演算部58は、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscが演算されており挙動制御が必要であるとき又は車両が高横力旋回状態にあると判定されているときには、当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の発生前後力Fwxi及び発生横力Fwyi(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。そして修正目標駆動力演算部58は、左右の後輪について発生前後力Fwxi及び発生横力Fwyiの二乗和平方根として左右後輪のタイヤ発生力F_current_tire_rl、F_current_tire_rrを演算し、それらの和を駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireとする。
【0056】
尚車両が前輪駆動車である場合には、駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireは左右前輪のタイヤ発生力の和に設定され、車両が四輪駆動車である場合には、駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireは左右前輪及び左右後輪のタイヤ発生力の和に設定される。
【0057】
また修正目標駆動力演算部58は、駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireに対し下記の式6に従ってフィルタ処理後の駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tirefを演算すると共に、下記の式7に従ってフィルタ処理後の駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tiref及び駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireのうちの大きい方の値を高横力旋回制御の目標駆動力Fp_t_future_tireとする。
Fp_current_tiref=(1‐K3)/(1‐K3Z−1)Fp_current_tire ……(6)
Fp_current_tire=MAX(Fp_current_tiref,Fp_current_tire) ……(7)
【0058】
尚上記式2、4、6に於けるフィルタ時定数K1、K2、K3は相互に異なる値であり、時にK2はK1、K3よりも大きい値に設定される。またフィルタ時定数K1、K2、K3は定数であってもよいが、図示の実施例に於いては駆動操作量検出センサ62により検出される運転者の駆動操作量Aが高いほど大きくなるよう、運転者の駆動操作量Aに応じて可変設定される。
【0059】
また修正目標駆動力演算部58は、図4に示された変速線図を記憶しており、図3に示されたフローチャートに従ってトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2を演算する。
【0060】
まずステップ10に於いては左右後輪の駆動スリップ量SArl及びSArrのうちの大きい方の値をSArとして、駆動スリップ量SArが基準値SAc(トラクション制御開始の基準値SAsよりも大きい正の定数)以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ60へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ20へ進む。
【0061】
ステップ20に於いては現在の変速段Sa及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づき図4に示された変速線図より現在の変速段Saにて可能な駆動装置10Aの駆動力の下限値Fp_t_lowが演算され、ステップ30に於いてはμセンサ78L及び78Rにより検出された路面の摩擦係数μl及びμrの平均値が路面の摩擦係数μとして演算されると共に、路面の摩擦係数μが低いほど制御ゲインKmが小さい値になるよう、路面の摩擦係数μに基づいて図5に示されたグラフに対応するマップより制御ゲインKmが演算される。
【0062】
ステップ40に於いては制御ゲインKmと運転者要求目標駆動力Fp_dvmとの積として路面の摩擦係数μ及び運転者要求目標駆動力Fp_dvmに基づく暫定の目標駆動力Fp_t_mが演算され、ステップ50に於いては下記の式8に従って駆動力の下限値Fp_t_low及び路面の摩擦係数μに基づく目標駆動力Fp_t_mのうちの大きい方の値がトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2に設定される。
Fp_t_future_trc2=MAX(Fp_t_low,Fp_t_m) ……(8)
【0063】
ステップ60及び70に於いては現在の変速段Sa及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づき図4に示された変速線図より現在の変速段Saにて可能な駆動装置10Aの駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highがそれぞれ演算され、ステップ80に於いては駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highの平均値としてトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が演算される。
【0064】
尚図示の実施例に於いては、ステップ80に於いて駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highの平均値としてトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が演算されるようになっているが、第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2は駆動力の下限値Fp_t_lowよりも大きく且つ上限値Fp_t_highよりも小さい値である限り、任意の要領にて演算されてよい。
【0065】
また図示の実施例に於いては、修正目標駆動力演算部58が図4に示された変速線図を記憶しており、該変速線図に基づいて駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highが演算されるようになっているが、修正目標駆動力演算部58が変速線図を記憶せず、駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highを示す情報が駆動力制御電子制御装置40の発生駆動力演算部50より通信により供給されるよう修正されてもよい。
【0066】
また修正目標駆動力演算部58は、下記の式9に従ってトラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1及び第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2のうちの大きい値をトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcとすると共に、下記の式10に従ってトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireのうちの最も大きい値をその後の車輪及び車両の運動状態の変化に備えてトランスミッション16の変速段を決定するための基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとする。
Fp_t_future_trc=MAX(Fp_t_future_trc1,Fp_t_future_trc2) ……(9)
Fp_t_future_b=MAX(Fp_t_future_trc,Fp_t_future_vsc,Fp_t_future_tire)
……(10)
【0067】
尚図示の実施例に於いては、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1及び第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2のうちの大きい方の値がトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcとされるようになっているが、第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1の演算が省略され、実施例の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が修正目標駆動力Fp_t_future_trcとして演算されるよう修正されてもよい。
【0068】
また図示の実施例に於いては、修正目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_t_future_tireはそれぞれ目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_current_tireに対しフィルタ処理を施すことにより演算されるようになっているが、修正目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_t_future_tireはそれぞれ目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_current_tireよりも低下勾配が小さい限り、それぞれ目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_current_tireに基づいて任意の要領にて演算されてよい。
【0069】
また修正目標駆動力演算部58は、図8に示されたフローチャートに従ってトランスミッション16の変速段を決定するための最終的な目標駆動力として修正目標駆動力Fp_t_futureを演算する。
【0070】
まずステップ110に於いては例えば車速Vに基づき車両が加速状態にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには図8に示されたフローチャートによる制御が一旦終了され、肯定判別が行われたときにはステップ120へ進む。
【0071】
ステップ120に於いてはフラグFaが1であるか否かの判別、即ち駆動輪が回転振動しているときの修正目標駆動力Fp_t_futureの演算制御が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ210へ進み、否定判別が行われたときにはステップ130へ進む。
【0072】
ステップ130に於いては駆動輪が回転振動しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ150へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ140に於いてフラグFaが1にセットされた後ステップ190へ進む。
【0073】
この場合駆動輪が回転振動しているか否かの判別は、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよく、例えば左右後輪の車輪速度Vwrl、Vwrrより当技術分野に於いて公知の要領にて振動成分が抽出され、振動成分の振幅Arl、Awrrが演算され、振幅Arl及びAwrの少なくとも一方が基準値Ao(正の定数)以上であるか否かの判別により行われてよい。
【0074】
ステップ150に於いてはフラグFbが1であるか否かの判別、即ち走行路がまたぎ路であるときの修正目標駆動力Fp_t_futureの演算制御が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ220へ進み、否定判別が行われたときにはステップ160へ進む。
【0075】
ステップ160に於いては走行路がまたぎ路であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ140に於いて補正係数Kcが1にリセットされた後ステップ200へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ180に於いてフラグFbが1にセットされた後ステップ190へ進む。
【0076】
この場合走行路がまたぎ路であるか否かの判別は、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよく、例えば左右の路面の摩擦係数μl及びμrの差Δμが演算され、差Δμの絶対値が基準値μo(正の定数)以上であるか否かの判別により行われてよい。
【0077】
ステップ190に於いてはΔKsを微小な正の定数として補正係数Kcが前サイクルのKcよりΔKsが減算された値に演算されることにより、補正係数Kcの漸減処理が行われ、ステップ200に於いては補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される。
【0078】
ステップ210に於いては例えば左右後輪の車輪速度Vwrl、Vwrrの振幅Arl及びAwrの何れも基準値Ao未満であるか否かの判別により、駆動輪の回転振動が終息したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ190へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ230へ進む。
【0079】
ステップ220に於いては例えば左右の路面の摩擦係数の差Δμの絶対値が基準値μo未満であるか否かの判別により、またぎ路での走行が終了したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ190へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ230へ進む。
【0080】
ステップ230に於いてはΔKeを微小な正の定数として補正係数Kcが前サイクルのKcよりΔKeが加算された値に演算されることにより、補正係数Kcの漸増処理が行われ、ステップ240に於いては補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される。
【0081】
ステップ250に於いては補正係数Kcの絶対値が1+ΔKe以下であるか否かの判別により、補正係数Kcの漸増処理が終了したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには図8に示されたフローチャートによる制御が一旦終了され、肯定判別が行われたときにはステップ260へ進む。
【0082】
ステップ260に於いてはフラグFa及びFbがそれぞれ0にリセットされ、ステップ270に於いては修正目標駆動力Fp_t_futureが基本修正目標駆動力Fp_t_future_bに設定される。
【0083】
更に修正目標駆動力演算部58は、トラクション制御中又は挙動制御中又は高横力旋回状態にあると判定されているときには、修正目標駆動力Fp_t_futureがあるか否かを示すフラグF_FP_FUTUREをONに設定すると共に、修正目標駆動力Fp_t_futureを示す信号及びフラグF_FP_FUTURE信号を駆動力制御電子制御装置40の調停部46へ出力し、トラクション制御及び挙動制御の何れも実行されておらず高横力旋回状態にあると判定されていないときには、修正目標駆動力Fp_t_futureがあるか否かを示すフラグF_FP_FUTUREをOFFに設定し、修正目標駆動力Fp_t_futureを0に設定すると共に、修正目標駆動力Fp_t_futureを示す信号及びフラグF_FP_FUTURE信号を駆動力制御電子制御装置40の調停部46へ出力する。
【0084】
尚トラクション制御及び挙動制御の何れも実行されておらず高横力旋回状態にあると判定されていないときには、基本修正目標駆動力Fp_t_future_bが運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定されてもよい。
【0085】
次に上述の如く構成された図示の実施例の作動を車両の様々な走行状況について説明する。
【0086】
(1)トラクション制御も挙動制御も不要である場合
この場合は車両の挙動が安定しておりトラクション制御も挙動制御も不要であり車両が高横力旋回状態にはない場合である。
【0087】
(1−1)駆動輪は回転振動しておらず、走行路がまたぎ路でない場合
フラグF_FP_NOW及びF_FP_FUTUREはOFFであり、調停後の目標駆動力Fp_now及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureが運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定されるので、目標エンジン出力トルクTet及びトランスミッション16の目標変速段Stは運転者要求目標駆動力Fp_dvmに基づいて演算され、これにより従来の駆動力制御装置の場合と同様、エンジン10の出力及びトランスミッション16の変速比は運転者の駆動要求に応じて制御される。
【0088】
(1−2)車両が加速中で駆動輪が回転振動している場合
駆動輪の回転振動が検出されると、まず図8に示されたフローチャートのステップ120に於いて否定判別が行われると共に、ステップ130に於いて肯定判別が行われ、また次回以降はステップ120に於いて肯定判別が行われると共に、ステップ210に於いて否定判別が行われ、これによりステップ190に於いて補正係数Kcの漸減処理が行われ、ステップ200に於いて補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される。
【0089】
従って図9に示されている如く、車両の加速時に駆動輪の回転振動が開始すると、修正目標駆動力Fp_t_futureが運転者要求目標駆動力Fp_dvmよりも漸次小さくなり、トランスミッション16の目標変速段Stが運転者要求目標駆動力Fp_dvmに基づいて演算される上記(1−1)の場合に比して、トランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振し難くい状況にすることによって駆動輪の回転振動を早期に終息させることができる。
【0090】
(1−3)車両が加速中で走行路がまたぎ路である場合
車両の加速時に走行路がまたぎ路であると判定されると、まず図8に示されたフローチャートのステップ150に於いて否定判別が行われると共に、ステップ160に於いて肯定判別が行われ、また次回以降はステップ150に於いて肯定判別が行われると共に、ステップ220に於いて否定判別が行われ、これにより上記(1−2)の場合と同様、車両がまたぎ路を走行していると判定されなくなるまで、ステップ190に於いて補正係数Kcの漸減処理が行われ、ステップ200に於いて補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算されるので、トランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振によって回転振動することを効果的に抑制することができる。
【0091】
(2)トラクション制御は必要であるが挙動制御は不要である場合
この場合は駆動輪の駆動スリップが過大でありトラクション制御は必要であるが、車両の走行運動は安定的であり挙動制御は不要である場合である。
【0092】
(2−1)駆動輪は回転振動しておらず、走行路がまたぎ路でない場合
制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcに基づいて設定され、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcに基づいてトラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1が演算されると共に、運転者の駆動要求及び路面の摩擦係数μに基づいてトランスミッション16の変速段の変更を防止するトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が演算される。
【0093】
そして第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1及び第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2のうちの大きい方の値がトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcに設定され、そしてフラグF_FP_NOW及びF_FP_FUTUREがONに設定され、調停後の目標駆動力Fp_now及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureがそれぞれトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcに設定される。
【0094】
従ってこの場合にはトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcに基づいて目標エンジン出力トルクTetを演算し、エンジン10の出力を確実に低下させて駆動輪の駆動スリップを効果的に低減することができると共に、目標駆動力Fp_t_now_trcよりも低下変化が小さく目標駆動力Fp_t_now_trcよりも大きいトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcに基づいてトランスミッション16の目標変速段Stを演算することができ、これにより車両が一時的にマンホールの如き低摩擦係数の路面を通過する際にもトラクション制御によりトランスミッション16の変速段がシフトアップされること及びこれに起因して車両が低摩擦係数の路面を通過した直後に於ける加速不足を効果的に防止することができ、またトラクション制御中にトランスミッション16の出力回転数Ntoutが増減することに起因してトランスミッション16が不必要にシフトアップされたりシフトダウンされることを効果的に防止することができる。
【0095】
特に図示の実施例によれば、左右後輪の駆動スリップ量SArl及びSArrのうちの大きい方の値である駆動スリップ量SArが基準値SAc以下であるときには、図3に示されたフローチャートのステップ10に於いて肯定判別が行われ、ステップ20に於いて現在の変速段Sa及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づき現在の変速段Saにて可能な駆動装置10Aの駆動力の下限値Fp_t_lowが演算され、ステップ30に於いて路面の摩擦係数μが低いほど制御ゲインKmが小さい値になるよう、路面の摩擦係数μに基づいて制御ゲインKmが演算され、ステップ40に於いて制御ゲインKmと運転者要求目標駆動力Fp_dvmとの積として暫定の目標駆動力Fp_t_mが演算され、ステップ50に於いて駆動力の下限値Fp_t_low及び路面の摩擦係数μに基づく目標駆動力Fp_t_mのうちの大きい方の値がトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2に設定される。
【0096】
従って駆動スリップ量SArが基準値SAc以下であるときには、運転者要求目標駆動力Fp_dvm及び路面の摩擦係数μに応じてトランスミッション16の変速段の変更を抑制する値に第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2を最適に設定することができると共に、トランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること、特に二段のシフトアップが行われることを確実に防止することができる。
【0097】
また図示の実施例によれば、駆動スリップ量SArが基準値SAcよりも大きいときには、図3に示されたフローチャートのステップ10に於いて否定判別が行われ、ステップ60及び70に於いて現在の変速段Sa及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づき現在の変速段Saにて可能な駆動装置10Aの駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highがそれぞれ演算され、ステップ80に於いて駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highの平均値としてトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が演算される。
【0098】
従ってトランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること及びシフトダウンされることを確実に防止する値として第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2を演算することができ、トランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること及びシフトダウンされることを確実に防止することができる。
【0099】
また図示の実施例によれば、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1及び第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2のうちの大きい値がトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcとされるので、トラクション制御が実行されている時間全体に亘りトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcを確実にトランスミッション16の変速段の変更が行われない値に設定することができ、これによりトラクション制御の実行中にトランスミッション16の変速段が変更されることを確実に防止することができる。
【0100】
例えば運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行され、運転者要求目標駆動力Fp_dvm、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1が図6に示されている如く変化し、第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が図11(A)に示されている如く変化するとすると、トラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcは図11(B)に示されている如く変化し、トラクション制御が実行される時間全体に亘りトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcを確実にトランスミッション16の変速段の変更が行われない値に設定することができる。
【0101】
(2−2)車両が加速中で駆動輪が回転振動している場合
車両の加速時に駆動輪が回転振動していると判定されると、図10に示されている如く、上記(1−2)の場合と同様、駆動輪が回転振動していると判定されなくなるまで、補正係数Kcの漸減処理が行われると共に、補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される
【0102】
従ってトラクション制御中にトランスミッション16の出力回転数Ntoutが増減することに起因してトランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、車両の加速時に駆動輪が回転振動しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪の共振に起因する回転振動を効果的に且つ早期に終息させることができる。
【0103】
(2−3)車両が加速中で走行路がまたぎ路である場合
車両の加速時に走行路がまたぎ路であると判定されると、上記(1−3)の場合と同様、車両がまたぎ路を走行していると判定されなくなるまで、補正係数Kcの漸減処理が行われると共に、補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される。
【0104】
従ってトラクション制御中にトランスミッション16の出力回転数Ntoutが増減することに起因してトランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、車両の加速時に車両がまたぎ路を走行しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振によって回転振動することを効果的に抑制することができる。
【0105】
尚上記(2−2)及び(2−3)の場合の基本修正目標駆動力Fp_t_future_bはトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcであり、修正目標駆動力Fp_t_futureはトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcよりも小さい値に演算される。
【0106】
(3)トラクション制御は不要であるが挙動制御は必要である場合
この場合は駆動輪の駆動力は過剰ではなくトラクション制御は不要であるが、車両の走行運動は不安定であり車両の駆動力の低減制御による挙動制御は必要である場合である。
【0107】
(3−1)駆動輪は回転振動しておらず、走行路がまたぎ路でない場合
制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowが挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscに基づいて設定され、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscに基づいて挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscが演算され、フラグF_FP_NOW及びF_FP_FUTUREがONに設定され、調停後の目標駆動力Fp_now及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureがそれぞれ挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vsc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscに設定される。
【0108】
従ってこの場合には挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscに基づいて目標エンジン出力トルクTetを演算し、エンジン10の出力を確実に低下させて車両の走行運動を効果的に安定化させることができると共に、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscよりも低下変化が小さい挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscに基づいてトランスミッション16の目標変速段Stを演算することができ、これにより車両の走行運動の不安定化が一時的である場合に挙動制御によりトランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること及びこれに起因して一時的な挙動制御が完了した直後に於ける加速不足を効果的に防止することができる。
【0109】
尚車両の走行運動の不安定な状況が長く継続するような場合には、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscが変速線まで低下した段階でトランスミッション16の変速段がシフトアップされるので、不安定な走行状態が長く継続するような場合にも駆動力が過大な状況が長時間に亘り継続することはない。
【0110】
(3−2)車両が加速中で駆動輪が回転振動している場合
車両の加速時に駆動輪が回転振動していると判定されると、上記(1−2)及び(2−2)の場合と同様の処理が行われるので、トランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、駆動輪が回転振動しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪の共振による回転振動を効果的に且つ早期に終息させることができる。
【0111】
(3−3)車両が加速中で走行路がまたぎ路である場合
車両の加速時に走行路がまたぎ路であると判定されると、上記(1−3)及び(2−3)の場合と同様の処理が行われるので、トランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、車両がまたぎ路を走行しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振によって回転振動することを効果的に抑制することができる。
【0112】
尚上記(3−2)及び(3−3)の場合の基本修正目標駆動力Fp_t_future_bは挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscであり、修正目標駆動力Fp_t_futureは挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscよりも小さい値に演算される。
【0113】
(4)トラクション制御及び挙動制御が必要である場合
この場合は駆動輪の駆動力は過剰であり車両の走行運動も不安定であることによりトラクション制御及び挙動制御の何れも必要である場合である。
【0114】
(4−1)駆動輪は回転振動しておらず、走行路がまたぎ路でない場合
制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの小さい方の値に設定され、修正目標駆動力Fp_t_futureがトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireのうちの最も大きい値に設定され、フラグF_FP_NOW及びF_FP_FUTUREがONに設定され、調停後の目標駆動力Fp_now及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureがそれぞれ目標駆動力Fp_t_now、修正目標駆動力Fp_t_futureに設定される。
【0115】
従ってこの場合には目標駆動力Fp_t_nowに基づいて目標エンジン出力トルクTetを演算し、エンジン10の出力を確実に低下させて駆動輪の駆動スリップを効果的に低減すると共に車両の走行運動を効果的に安定化させることができ、また目標駆動力Fp_t_nowよりも低下変化が小さい修正目標駆動力Fp_t_futureに基づいてトランスミッション16の目標変速段Stを演算することができ、これにより駆動輪の過大な駆動スリップや車両の走行運動の不安定化が一時的である場合にトラクション制御や挙動制御によりトランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること及びこれに起因して一時的なトラクション制御や挙動制御が完了した直後に於ける加速不足を効果的に防止することができる。
【0116】
(4−2)車両が加速中で駆動輪が回転振動している場合
車両の加速時に駆動輪が回転振動していると判定されると、上記(1−2)、(2−2)、(3−2)の場合と同様の処理が行われるので、トランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、駆動輪が回転振動しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪の共振による回転振動を効果的に且つ早期に終息させることができる。
【0117】
(4−3)車両が加速中で走行路がまたぎ路である場合
車両の加速時に走行路がまたぎ路であると判定されると、上記(1−3)、(2−3)、(3−3)の場合と同様の処理が行われるので、トランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、車両がまたぎ路を走行しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振によって回転振動することを効果的に抑制することができる。
【0118】
尚上記(4−2)及び(4−3)の場合の基本修正目標駆動力Fp_t_future_bはトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの小さい方の値であり、修正目標駆動力Fp_t_futureはトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの小さい方の値よりも小さい値に演算される。
【0119】
特に図示の実施例によれば、車両の加速時に駆動輪の回転振動が検出された場合及び車両がまたぎ路を走行していると判定された場合の何れの場合にも、それぞれ駆動輪の回転振動が終息するまで及び車両がまたぎ路を走行していると判定されなくなるまで、補正係数Kcが漸減されるので、修正目標駆動力Fp_t_futureを徐々に低下させてその急激な変化を確実に防止することができる。
【0120】
また図示の実施例によれば、上記(1−2)、(2−2)、(3−2)の場合に於いて駆動輪の回転振動が終息すると、ステップ210に於いて肯定判別が行われ、また上記(1−3)、(2−3)、(3−3)の場合に於いて車両がまたぎ路を走行していると判定されなくなると、ステップ220に於いて肯定判別が行われ、ステップ230に於いて補正係数Kcが漸増処理されるので、修正目標駆動力Fp_t_futureを徐々に基本修正目標駆動力Fp_t_future_bに近付けることができ、これにより図9及び図10に示されている如く修正目標駆動力Fp_t_futureを徐々に運転者要求目標駆動力Fp_dvmに復帰させて急激な変化を確実に防止することができる。
【0121】
また図示の実施例によれば、ステップ130に於いて駆動輪が回転振動しているか否かの判別が行われ、ステップ160に於いては走行路がまたぎ路であるか否かの判別が行われ、駆動輪の回転振動が検出された場合又は車両がまたぎ路を走行していると判定された場合に、補正係数Kcが漸減されることによって修正目標駆動力Fp_t_futureが徐々に低下されるので、駆動輪の回転振動が検出された場合又は車両がまたぎ路を走行していると判定された場合の何れかの場合にのみ修正目標駆動力Fp_t_futureが徐々に低下される構成の場合に比して、駆動輪の回転振動の終息や抑制を確実に達成することができる。
【0122】
また図示の実施例によれば、フィルタ時定数K1、K2、K3は駆動操作量検出センサ62により検出される運転者の駆動操作量Aが高いほど大きくなるよう、運転者の駆動操作量Aに応じて可変設定されるので、運転者の駆動要求が高いほど修正目標駆動力Fp_t_futureの低下勾配を小さくしてトランスミッション16の変速段のシフトアップが行われ難くし、これにより車両が低摩擦係数の路面を一時的に通過した直後に於ける加速不足を効果的に防止して運転者の駆動要求を充足することができ、また運転者の駆動要求が高くないときには修正目標駆動力Fp_t_futureの低下勾配を大きくしてトランスミッション16の変速段のシフトアップが行われ易くし、これにより車両の駆動力の低減を速やかに実行することができる。
【0123】
また図示の実施例によれば、運動状態推定部54により車両が高横力旋回状態にあるか否かが判定され、修正目標駆動力演算部58により駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireが演算されると共に、タイヤ発生力Fp_current_tireよりも低下勾配が小さい高横力旋回制御の目標駆動力Fp_t_future_tireが演算され、トランスミッション16の変速段を決定するための基本修正目標駆動力Fp_t_future_bは上記式10に従ってトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireのうちの最も大きい値に設定されるので、車両の高横力旋回状態が考慮されない場合に比して、車両が高横力旋回状態にある状況に於いてトランスミッション16がアップシフトされ難くすることができ、従って車両が高横力旋回状態にある状況に於いてトランスミッション16のアップシフトが行われることにより駆動輪の駆動力が急激に低下し、これに起因して駆動輪の横力が急激に変化し車両の挙動が急変する虞れを確実に低減することができる。
【0124】
また図示の実施例によれば、フィルタ時定数K2はフィルタ時定数K1、K3よりも大きい値に設定されており、同一の目標駆動力の変化について見て挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscの低下勾配はトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc及び高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireの低下勾配よりも大きいので、車両の走行運動が不安定である場合には駆動輪の駆動力が過剰である場合に比してトランスミッション16のアップシフトを早期に行わせることができ、これにより駆動輪の駆動力が過剰であることに起因する車両の不安定な走行状態を効果的に安定化させることができる。
【0125】
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0126】
例えば上述の実施例に於いては、ステップ130に於いて駆動輪が回転振動しているか否かの判別が行われ、ステップ160に於いて走行路がまたぎ路であるか否かの判別が行われるようになっているが、駆動輪が回転振動しているか否かの判別及び走行路がまたぎ路であるか否かの判別の一方が省略されてもよい。
【0127】
また上述の実施例に於いては、駆動輪の回転振動が終息し又は車両がまたぎ路を走行していないと判定されると、補正係数Kcが漸増処理されるようになっているが、駆動輪の回転振動が終息し又は車両がまたぎ路を走行していないと判定されると、補正係数Kcが所定の時間に亘り現在値に保持され、しかる後漸増処理されるよう修正されてもよい。
【0128】
また上述の実施例に於いては、補正係数Kcが漸減処理するための値ΔKs及び漸増処理するための値ΔKeは微小な正の定数であるが、ΔKs及びΔKeは例えば駆動輪の回転振動の度合が高いときには駆動輪の回転振動の度合が低いときに比して大きくなるよう、駆動輪の回転振動の度合に応じて可変設定されてもよく、また路面の左右の摩擦係数の差Δμの大きさが大きいときには摩擦係数の差Δμの大きさが小さいときに比して大きくなるよう、摩擦係数の差Δμの大きさに応じて可変設定されてもよい。また運転者の駆動要求量が高いときには運転者の駆動要求量が低いときに比してΔKsが小さくなるよう、ΔKsは運転者の駆動要求量に応じて可変設定されてもよい。
【0129】
また上述の実施例に於いては、補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算され、駆動輪の回転振動が検出され又は車両がまたぎ路を走行していると判定されると、補正係数Kcが漸減処理されることにより、修正目標駆動力Fp_t_futureが基本修正目標駆動力Fp_t_future_bよりも小さい値に演算されようになっているが、修正目標駆動力Fp_t_futureは基本修正目標駆動力Fp_t_future_bよりも漸次小さい値に演算される限り任意の要領にて演算されてよい。
【0130】
また上述の実施例に於いては、駆動輪の回転振動が検出され又は車両がまたぎ路を走行していると判定されると、トランスミッションの変速段を決定するための修正目標駆動力Fp_t_futureが漸減されることによりトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されるようになっているが、修正目標駆動力Fp_t_futureが増減補正されることなく、トランスミッションの変速段を決定するための車速が漸増補正されることによりトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されるよう修正されてもよい。
【0131】
また上述の実施例に於いては、ステップ210に於いて否定判別が行われるとステップ190へ進むようになっているが、ステップ210に於いて否定判別が行われたときにはトランスミッションの変速比のアップシフト変更が完了したか否かの判別が行われ、アップシフト変更が完了していないときにはステップ190へ進み、アップシフト変更が完了しているときにはステップ230へ進むよう修正されてもよい。
【0132】
また上述の実施例に於いては、修正目標駆動力演算部58により高横力旋回制御の目標駆動力Fp_t_future_tireが演算され、トラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireのうちの最も大きい値がトランスミッションの変速段を決定するための修正目標駆動力Fp_t_futureとされるようになっているが、本発明の駆動力制御装置はトラクション制御、高横力旋回制御の目標駆動力Fp_t_future_tireが省略され、修正目標駆動力Fp_t_futureはトラクション制御、挙動制御、高横力旋回制御の何れかが行われない車両に適用されてもよく、その場合にはそれぞれトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireの演算は省略される。
【0133】
また上述の実施例に於いては、車両は後輪駆動車であるが、本発明の駆動力制御装置は前輪駆動車や四輪駆動車に適用されてもよく、また駆動力発生源はエンジンであるが、本発明の駆動力制御装置は駆動力発生源がハイブリッドシステムである車両に適用されてもよい。
【0134】
また上述の実施例に於いては、トランスミッションの変速機は多段式の自動変速機であるが、変速機は無段式の自動変速機であってもよく、その場合には修正目標駆動力Fp_t_futureに基づいて無段変速機の目標変速比が演算される。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】後輪駆動車に適用された本発明による車両の駆動力制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。
【図2】実施例の制御系を示すブロック図である。
【図3】実施例に於けるトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2の演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】実施例に於ける変速線図を示すグラフである。
【図5】実施例に於ける路面の摩擦係数μと制御ゲインKmとの間の関係を示すグラフである。
【図6】運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1の変化の一例を示すグラフである。
【図7】運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いて挙動制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vsc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscの変化の一例を示すグラフである。
【図8】実施例に於ける修正目標駆動力Fp_t_futureの演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図9】運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いて駆動輪の回転振動が検出された場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、基本修正目標駆動力Fp_t_futur_b、修正目標駆動力Fp_t_futurの変化の一例を示すグラフである。
【図10】運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行され、駆動輪の回転振動が検出された場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、修正目標駆動力Fp_t_futurの変化の一例を示すグラフである。
【図11】運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2の変化の一例を示すグラフ(A)及びトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcの変化の一例を示すグラフ(B)である。
【符号の説明】
【0136】
10…エンジン、16…トランスミッション、26…制動装置、32…統合制御電子制御装置、34…アクセルぺダル、36…ブレーキぺダル、40…駆動力制御電子制御装置、42…制動力制御電子制御装置、64 エンジン制御装置、66…自動変速機制御装置、68i…車輪速度センサ、70…車両状態量検出センサ、72…制動力制御装置、74…制動操作量検出センサ、76…回転数センサ、78L、78R…μセンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力制御装置に係り、更に詳細には乗員の運転操作状況及び車両の走行状況に基づいて車両の駆動力を制御する駆動力制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の駆動力制御装置の一つとして、例えば本願出願人の出願にかかる下記の特許文献1に記載されている如く、運転者の加速要求に応じて車両の目標駆動力を演算し、目標駆動力に基づいてエンジンの目標スロットル開度及びトランスミッションの目標変速段を決定し、目標スロットル開度に基づいてエンジンの出力を制御すると共に目標変速段に基づいてトランスミッションの変速段を制御するよう構成された駆動力制御装置が従来より知られている。
【特許文献1】特開2003−191774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
自動車等の車両が路面の摩擦係数が低い走行路にて加速するような場合や、左右の駆動輪に対応する路面の摩擦係数の差が大きい所謂またぎ路に於いて車両が加速するような場合には、駆動力が特定の駆動力になると駆動輪が回転振動し、駆動輪の回転振動に起因して車両の乗り心地が不快なものになったり、路面に対する駆動輪のグリップが低下し、車両の走行安定性に悪影響を及ぼしたりすることがある。
上記問題はトランスミッションの変速機が多段式の自動変速機である場合に限られるものではなく、トランスミッションの変速機が無段式の自動変速機である場合にも程度の差はあるが同様に発生する。
【0004】
上述の如き従来の駆動力制御装置に於いては、トランスミッションの目標変速段は車両の目標駆動力及び車速(又は車速に対応する値)に基づいて予め設定された変速線により一義的に決定され、車速はトランスミッションの出力回転数や車輪の回転速度に基づいて推定され、駆動輪の回転振動は考慮されないため、車両が路面の摩擦係数が低い走行路にて加速したり、またぎ路に於いて加速したりするような場合に発生する駆動輪の回転振動を防止することができない。
【0005】
本願発明者は車両が路面の摩擦係数が低い走行路にて加速したり、またぎ路に於いて加速したりするような場合に発生する上記駆動輪の回転振動の要因について鋭意研究を行った結果、上記駆動輪の回転振動は、駆動輪の駆動力が特定の駆動力になると、路面に対する駆動輪タイヤのスリップ状態とグリップ状態との間に変化する周波数が車両の駆動系の固有振動数に近づいて駆動輪が共振し易くなることに起因して発生するものであり、トランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進して共振し難くすることにより駆動輪の回転振動を効果的に抑制し得ることを究明した。
【0006】
本発明は、運転者の加速要求に応じて目標駆動力が演算され、トランスミッションの目標変速比が目標駆動力及び車速に基づいて予め設定された変速線により決定されるよう構成された従来の駆動力制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、本願発明者が行った研究の結果得られた知見に基づき、車両の加速時に駆動輪が回転振動するとき又はその虞れがあるときにはトランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することにより、車両の加速時に於ける駆動輪の回転振動を効果的に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の主要な課題は、本発明によれば、駆動源及びトランスミッションを含む駆動装置と、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいて前記駆動装置の目標駆動力を演算する手段と、前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御する駆動源制御手段と、前記トランスミッションの変速比を制御する変速比制御手段とを有する車両の駆動力制御装置に於いて、前記変速比制御手段は駆動輪の回転振動を検出する手段を有し、駆動輪が回転振動しているときには前記トランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することを特徴とする車両の駆動力制御装置(請求項1の構成)、又は駆動源及びトランスミッションを含む駆動装置と、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいて前記駆動装置の目標駆動力を演算する手段と、前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御する駆動源制御手段と、前記トランスミッションの変速比を制御する変速比制御手段とを有する車両の駆動力制御装置に於いて、前記変速比制御手段は走行路が左右の駆動輪に対応する路面の摩擦係数の差が大きいまたぎ路であるか否かを判定する手段を有し、走行路がまたぎ路であるときには前記トランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することを特徴とする車両の駆動力制御装置(請求項3の構成)によって達成される。
【0008】
上記請求項1の構成によれば、駆動輪が回転振動しているときにはトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されるので、駆動輪が回転振動しているときにもトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されない従来の駆動力制御装置の場合に比して、早期に駆動輪が共振し難くい状況にすることができ、これにより駆動輪の回転振動を早期に且つ確実に終息させることができる。
【0009】
また上記請求項3の構成によれば、走行路がまたぎ路であるときにはトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されるので、走行路がまたぎ路であるときにもトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されない従来の駆動力制御装置の場合に比して、早期に駆動輪が共振し難くい状況にすることができ、これにより駆動輪の回転振動を早期に且つ確実に抑制し、駆動輪が回転振動することを確実に且つ効果的に防止することができる。
【0010】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記変速比制御手段は駆動輪が回転振動していないときには、前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているときには、前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御するよう構成される(請求項2の構成)。
【0011】
上記請求項2の構成によれば、駆動輪が回転振動していないときには、目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御され、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているときには、目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御されるので、駆動輪が回転振動していないときには、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいてトランスミッションの変速比を制御することができ、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているときには、目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御される場合に比して、確実にトランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することができる。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、前記変速比制御手段は走行路がまたぎ路でないときには、前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御するよう構成される(請求項4の構成)。
【0013】
上記請求項4の構成によれば、変速比制御手段は走行路がまたぎ路でないときには、目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御され、車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御されるので、走行路がまたぎ路でないときには、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいてトランスミッションの変速比を制御することができ、車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御される場合に比して、確実にトランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することができる。
【0014】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至4の何れかの構成に於いて、前記変速比制御手段は乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいて基本変速比制御用目標駆動力を演算し、駆動輪が回転振動しておらず走行路がまたぎ路でないときには、前記変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、前記変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御するよう構成される(請求項5の構成)。
【0015】
上記請求項5の構成によれば、乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいて基本変速比制御用目標駆動力が演算され、駆動輪が回転振動しておらず走行路がまたぎ路でないときには、変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御され、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御されるので、駆動輪が回転振動しておらず走行路がまたぎ路でないときには、乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいてトランスミッションの変速比を制御することができ、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比が制御される場合に比して、確実にトランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することができる。
【0016】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項5の構成に於いて、前記変速比制御手段は車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、前記変速比制御用目標駆動力を漸減補正することにより前記補正後の変速比制御用目標駆動力を演算するよう構成される(請求項6の構成)。
【0017】
また上記請求項6の構成によれば、車両が加速する状況に於いて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、変速比制御用目標駆動力が漸減補正されることにより補正後の変速比制御用目標駆動力が演算されるので、変速比制御用目標駆動力が急激に低下変化することを確実に防止しつつ、トランスミッションの変速比のアップシフト変更を確実に促進することができる。
【0018】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至6の何れかの構成に於いて、前記トランスミッションは多段式の自動変速機を含んでいるよう構成される(請求項7の構成)。
【0019】
また上記請求項7の構成によれば、トランスミッションは多段式の自動変速機を含んでいるので、トランスミッションの変速段のアップシフトを確実に促進することができ、これにより車両の加速時に於ける駆動輪の回転振動を効果的に抑制ことができる。
[課題解決手段の好ましい態様]
【0020】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れかの構成に於いて、駆動力制御装置は少なくとも駆動装置の駆動力を制御することにより駆動輪の駆動スリップを抑制するトラクション制御を行うトラクション制御手段を有し、トラクション制御が必要であるときには駆動輪の駆動スリップを抑制するためのトラクション制御の目標駆動力を演算すると共に、トラクション制御の目標駆動力よりも大きいトラクション制御時の変速比制御用目標駆動力を演算し、トラクション制御の目標駆動力に基づいて駆動装置を制御すると共に、トラクション制御時の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御し、トラクション制御が必要である状況にて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、トラクション制御時の変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御するよう構成される(好ましい態様1)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れかの構成に於いて、駆動力制御装置は少なくとも駆動装置の駆動力を制御することにより車両の挙動を安定化させる挙動制御を行う挙動制御手段を有し、挙動制御が必要であるときには駆動輪の駆動スリップを抑制するための挙動制御の目標駆動力を演算すると共に、挙動制御の目標駆動力よりも大きい挙動制御時の変速比制御用目標駆動力を演算し、挙動制御の目標駆動力に基づいて駆動装置を制御すると共に、挙動制御時の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御し、挙動制御が必要である状況にて駆動輪が回転振動しているとき若しくは走行路がまたぎ路であるときには、挙動制御時の変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御するよう構成される(好ましい態様2)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7又は上記好ましい態様1又は2の構成に於いて、トランスミッションは無段式の自動変速機を含んでいるよう構成される(好ましい態様3)。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6又は上記好ましい態様1乃至3の何れかの構成に於いて、前記変速比制御手段は駆動輪が回転振動せず且つ走行路がまたぎ路ではない状況になったときには、前記変速比制御用目標駆動力を漸増補正することにより前記補正後の変速比制御用目標駆動力を駆動装置の目標駆動力に漸次近付けるよう構成される(好ましい態様4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
【0025】
図1は後輪駆動車に適用された本発明による車両の駆動力制御装置の一つの実施例を示す概略構成図、図2は実施例1の制御系を示すブロック図である。
【0026】
図1に於いて、10はエンジンを示しており、エンジン10の駆動力はトルクコンバータ12及び歯車式変速機構14を含むオートマチックトランスミッション16を介してプロペラシャフト18へ伝達される。エンジン10及びオートマチックトランスミッション16は互いに共働して車両の駆動装置10Aを構成している。
【0027】
プロペラシャフト18の駆動力はディファレンシャル20により左後輪車軸22L及び右後輪車軸22Rへ伝達され、これにより駆動輪である左右の後輪24RL及び24RRが回転駆動される。一方左右の前輪24FL及び24FRは従動輪であると共に操舵輪であり、図1には示されていないが、運転者によるステアリングホイールの転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置によりタイロッドを介して操舵される。
【0028】
左右の前輪24FL、24FR及び左右の後輪24RL、24RRの制動力は制動装置26の油圧回路28により対応するホイールシリンダ30FL、30FR、30RL、30RRの制動圧が制御されることによって制御される。図1には示されていないが、油圧回路28はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含んでいる。
【0029】
車両の制駆動力は統合制御電子制御装置32により制御される。統合制御電子制御装置32は通常時には運転者によるアクセルぺダル34の操作やエンジン負荷等に応じてエンジン10の出力及びトランスミッション16の変速段を制御すると共に、運転者によるブレーキペダル36の踏み込み操作に応じて油圧回路28を制御し、また必要に応じて車両の走行運動を制御すべくエンジン10の出力及びトランスミッション16の変速段を制御すると共に、油圧回路28を制御し、これにより車両の制駆動力を制御する。
【0030】
図2に示されている如く、統合制御電子制御装置32は駆動力制御電子制御装置40と車両運動制御電子制御装置42とを含み、駆動力制御電子制御装置40及び車両運動制御電子制御装置42は相互に必要な情報の授受を行い、互いに共働して運転者の駆動要求及び制動要求に応じて車両の制駆動力を制御すると共に、各車輪の制駆動力の制御によって車両の走行運動を安定化させる。尚図2には詳細に示されていないが、駆動力制御電子制御装置40及び車両運動制御電子制御装置42はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。
【0031】
図2に示されている如く、駆動力制御電子制御装置40は運転者要求目標駆動力演算部44、調停部46、分配部48、発生駆動力演算部50を有し、車両運動制御電子制御装置42は運動状態推定部54、制駆動力分配部56、修正目標駆動力演算部58を有している。
【0032】
運転者要求目標駆動力演算部44にはアクセルペダル34に設けられたアクセル開度センサの如き駆動操作量検出センサ62より運転者の駆動操作量Aを示す信号が入力される。運転者要求目標駆動力演算部44は運転者の駆動操作量Aに基づいて運転者要求目標駆動力Fp_dvmを演算し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmを示す信号を調停部46へ出力すると共に、車両運動制御電子制御装置42の運動状態推定部54及び修正目標駆動力演算部58へ出力する。
【0033】
調停部46には上記運転者要求目標駆動力Fp_dvmを示す信号に加えて、車両運動制御電子制御装置42の制駆動力分配部56より制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowを示す信号及び制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがあるか否か(ONのとき「あり」、OFFのとき「なし」)を示すフラグF_FP_NOW信号が入力され、また修正目標駆動力演算部58より修正目標駆動力Fp_t_futureを示す信号及び修正目標駆動力Fp_t_futureがあるか否か(ONのとき「あり」、OFFのとき「なし」)を示すフラグF_FP_FUTURE信号が入力される。
【0034】
調停部46は、フラグF_FP_NOW信号がOFFであるときには、調停後の目標駆動力Fp_nowを運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定し、フラグF_FP_FUTURE信号がOFFであるときには、調停後の修正目標駆動力Fp_futureを運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定する。これに対し調停部46は、フラグF_FP_NOW信号がONであるときには、調停後の目標駆動力Fp_nowを制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowに設定し、フラグF_FP_FUTURE信号がONであるときには、調停後の修正目標駆動力Fp_futureを修正目標駆動力Fp_t_futureに設定する。
【0035】
分配部48には調停部46より調停後の目標駆動力Fp_nowを示す信号及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureを示す信号が入力され、回転数センサ76よりトランスミッション16の出力回転数Ntoutを示す信号が入力される。分配部48は調停後の目標駆動力Fp_nowに基づいて目標エンジン出力トルクTetを演算すると共に目標エンジン出力トルクTetを示す信号をエンジン制御装置64へ出力し、また調停後の修正目標駆動力Fp_future及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づいて図4に示された変速線図に従ってトランスミッションの目標変速段Stを演算すると共に目標変速段Stを示す信号を自動変速機制御装置66へ出力し、これにより車両の駆動トルクFp、即ちエンジン10及びトランスミッション16よりなる駆動装置10Aの出力トルクが調停後の目標駆動力Fp_nowになるよう制御する。
【0036】
発生駆動力演算部50にはエンジン制御装置64より現在のエンジン出力トルクTeaを示す信号が入力され、また自動変速機制御装置66より現在の変速段Saを示す信号が入力される。発生駆動力演算部50は現在のエンジン出力トルクTea及び現在の変速段Saに基づいて車両の現在の駆動トルクFp_currentを演算し、車両の現在の駆動トルクFp_currentを示す信号を車両運動制御電子制御装置42の運動状態推定部54へ出力する。また発生駆動力演算部50は車両の現在の駆動トルクFp_current及び現在の変速段Saを示す信号を車両運動制御電子制御装置42の修正目標駆動力演算部58へ出力する。
【0037】
運動状態推定部54は車輪速度センサ68i(i=fl、fr、rl、rr)により検出される各車輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)に基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vbを演算すると共に、左右後輪の駆動スリップ量SArl、SArrを演算し、駆動スリップ量SArl、SArrがトラクション制御(TRC制御)開始の基準値SAs(正の定数)よりも大きくなり、トラクション制御の開始条件が成立すると、トラクション制御の終了条件が成立するまで、当該車輪の駆動スリップ量を所定の範囲内にするためのトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcを演算する。
【0038】
また運動状態推定部54には駆動力制御電子制御装置40の運転者要求目標駆動力演算部44よりの運転者要求目標駆動力Fp_dvmを示す信号及び発生駆動力演算部50よりの車両の現在の駆動トルクFp_currentを示す信号に加えて、図2には示されていないが、図1に示されている如く車輪速度センサ68i(i=fl、fr、rl、rr)より各車輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力され、また操舵角センサ、前後加速度センサ、横加速度センサ、ヨーレートセンサの如き車両状態量検出センサ70より操舵角θ、車両の前後加速度Gx、車両の横加速度Gy、車両のヨーレートγを示す信号等が入力される。
【0039】
運動状態推定部54は各車輪の車輪速度に基づく車体速度Vb及び操舵角θに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて車両の目標ヨーレートγtを演算し、車両の実際のヨーレートγと目標ヨーレートγtとの偏差Δγに基づいて車両の挙動を判定し、ヨーレート偏差Δγの大きさが大きく車両の挙動の制御が必要であるときには、ヨーレート偏差Δγの大きさを小さくするための目標駆動力として目標駆動力Fp_t_now_vscを演算する。
【0040】
尚運動状態推定部54は制動時には車両の前後加速度Gx等の車両状態量に基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車両のスピンの程度を示すスピン状態量SS及び車両のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算し、スピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車両の挙動を判定し、車両の挙動がスピン状態又はドリフトアウト状態であるときにはこれらを抑制するための挙動制御の各車輪の目標制動力Fbvti(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。
【0041】
尚車両挙動の判定及び車両の走行運動を安定化させるための挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscや目標制動力Fbvtiの演算自体は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよい。
【0042】
また運動状態推定部54は後述の如く当技術分野に於いて公知の要領にて路面の摩擦係数μ及び各車輪の横力Fwyi(i=fl、fr、rl、rr)を推定し、路面の摩擦係数μがその基準値μo(正の定数)よりも大きく且つ何れかの車輪の横力Fwyiが基準値Fwyo(正の定数)よりも大きいときには、車両が高横力旋回状態にあると判定する。
【0043】
また運動状態推定部54は車両の挙動が安定しておりトラクション制御も挙動制御も不要であり車両が高横力旋回状態にはないときには、車両の目標制駆動力F_tを運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定して車両の目標制駆動力F_tを示す信号を制駆動力分配部56へ出力する。これに対し運動状態推定部54は、トラクション制御が必要であると判定したときには、車両の目標制駆動力F_tをトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcに設定すると共に、トラクション制御の判定結果及び車両の目標制駆動力F_tを示す信号を制駆動力分配部56へ出力する。また運動状態推定部54は、挙動制御が必要であると判定したときには、車両の目標制駆動力F_tを挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscに設定すると共に、車両挙動の判定結果及び車両の目標制駆動力F_tを示す信号を制駆動力分配部56へ出力する。
【0044】
更に運動状態推定部54はトラクション制御及び挙動制御が必要であるときには、下記の式1に従ってトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの小さい方の値を車両の目標駆動力F_tとして演算し、トラクション制御及び車両挙動の判定結果及び車両の目標制駆動力F_tを示す信号を制駆動力分配部56へ出力する。
F_t=MIN(Fp_t_now_trc,Fp_t_now_vsc) ……(1)
【0045】
制駆動力分配部56は車両の目標制駆動力F_tが正の値であり駆動力であるときには、目標制駆動力F_tを制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowとし、制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowを示す信号を駆動力制御電子制御装置40の調停部46及び修正目標駆動力演算部58へ出力し、制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがあるか否かを示すフラグF_FP_NOW信号を調停部46へ出力する。
【0046】
また制駆動力分配部56は各車輪の車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vbを演算すると共に、各車輪の制動スリップ量SBi(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、制動スリップ量SBiがアンチスキッド制御(ABS制御)開始の基準値よりも大きくなり、アンチスキッド制御の開始条件が成立すると、アンチスキッド制御の終了条件が成立するまで、当該車輪の制動スリップ量を所定の範囲内にするためのアンチスキッド制御の目標制動力Fbvti(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。
【0047】
また制駆動力分配部56はトラクション制御若しくは挙動制御が必要であるときには、それらの各判定結果に基づいて各車輪の目標制動力Fbvtiを演算する。そして制駆動力分配部56は目標制動力Fbvtiがあるときには、目標制動力Fbvtiを示す信号を制動力制御装置72へ出力する。
【0048】
制動力制御装置72にはブレーキペダル36に設けられた制動操作量検出センサ74により検出された運転者の制動操作量Fbを示す信号が入力され、また圧力センサ76i(i=fl、fr、rl、rr)により検出されたホイールシリンダ30FL〜30RRの制動圧Pbi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力される。制動力制御装置72は運転者の制動操作量Fbに基づいて各車輪の目標制動力Fbti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、トラクション制御若しくは挙動制御若しくはアンチスキッド制御の目標制動力Fbvtiがあるときには、当該車輪の目標制動力Fbtiを目標制動力Fbvtiに置き換える。
【0049】
そして制動力制御装置72は目標制動力Fbtiに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の目標制動圧Pbti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各車輪の制動圧Pbiがそれぞれ対応する目標制動圧Pbtiになるよう油圧回路28を制御することにより、各車輪の制動力Fbi(i=fl、fr、rl、rr)がそれぞれ対応する目標制動力Fbtiになるよう制御する。
【0050】
修正目標駆動力演算部58には運転者要求目標駆動力演算部44より運転者要求目標駆動力Fp_dvmを示す信号が入力され、制駆動力分配部56より制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowを示す信号が入力される。また修正目標駆動力演算部58には回転数センサ76よりトランスミッション16の出力回転数Ntoutを示す信号が入力され、μセンサ78L及び78Rよりそれぞれ左右後輪に対応する路面の摩擦係数μl及びμrを示す信号が入力される。
【0051】
修正目標駆動力演算部58は制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcであるときには、下記の式2に従ってフィルタ処理後のトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcfを演算すると共に、下記の式3に従って一次遅れのフィルタ処理後のトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcf及びトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcのうちの大きい方の値をトラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1とする。
Fp_t_now_trcf=(1‐K1)/(1‐K1Z−1)Fp_t_now_trc ……(2)
Fp_t_future_trc1=MAX(Fp_t_now_trcf,Fp_t_now_trc) ……(3)
【0052】
例えば図6は運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1の変化の一例を示している。図6に示されている如く、トラクション制御によりトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcが運転者要求目標駆動力Fp_dvmよりも小さい値に演算されるが、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1は急激には低下せず、トラクション制御の開始後徐々に低下する。
【0053】
また修正目標駆動力演算部58は制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowが挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscであるときには、下記の式4に従って一次遅れのフィルタ処理後の挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscfを演算すると共に、下記の式5に従ってフィルタ処理後の挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscf及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの大きい方の値を挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscとする。
Fp_t_now_vscf=(1‐K2)/(1‐K2Z−1)Fp_t_now_vsc ……(4)
Fp_t_future_vsc=MAX(Fp_t_now_vscf,Fp_t_now_vsc) ……(5)
【0054】
例えば図7は運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いて挙動制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vsc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscの変化の一例を示している。図7に示されている如く、挙動制御により挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscが運転者要求目標駆動力Fp_dvmよりも小さい値に演算されるが、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscは急激には低下せず、挙動制御の開始後徐々に低下する。
【0055】
また修正目標駆動力演算部58は、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscが演算されており挙動制御が必要であるとき又は車両が高横力旋回状態にあると判定されているときには、当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の発生前後力Fwxi及び発生横力Fwyi(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。そして修正目標駆動力演算部58は、左右の後輪について発生前後力Fwxi及び発生横力Fwyiの二乗和平方根として左右後輪のタイヤ発生力F_current_tire_rl、F_current_tire_rrを演算し、それらの和を駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireとする。
【0056】
尚車両が前輪駆動車である場合には、駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireは左右前輪のタイヤ発生力の和に設定され、車両が四輪駆動車である場合には、駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireは左右前輪及び左右後輪のタイヤ発生力の和に設定される。
【0057】
また修正目標駆動力演算部58は、駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireに対し下記の式6に従ってフィルタ処理後の駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tirefを演算すると共に、下記の式7に従ってフィルタ処理後の駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tiref及び駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireのうちの大きい方の値を高横力旋回制御の目標駆動力Fp_t_future_tireとする。
Fp_current_tiref=(1‐K3)/(1‐K3Z−1)Fp_current_tire ……(6)
Fp_current_tire=MAX(Fp_current_tiref,Fp_current_tire) ……(7)
【0058】
尚上記式2、4、6に於けるフィルタ時定数K1、K2、K3は相互に異なる値であり、時にK2はK1、K3よりも大きい値に設定される。またフィルタ時定数K1、K2、K3は定数であってもよいが、図示の実施例に於いては駆動操作量検出センサ62により検出される運転者の駆動操作量Aが高いほど大きくなるよう、運転者の駆動操作量Aに応じて可変設定される。
【0059】
また修正目標駆動力演算部58は、図4に示された変速線図を記憶しており、図3に示されたフローチャートに従ってトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2を演算する。
【0060】
まずステップ10に於いては左右後輪の駆動スリップ量SArl及びSArrのうちの大きい方の値をSArとして、駆動スリップ量SArが基準値SAc(トラクション制御開始の基準値SAsよりも大きい正の定数)以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ60へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ20へ進む。
【0061】
ステップ20に於いては現在の変速段Sa及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づき図4に示された変速線図より現在の変速段Saにて可能な駆動装置10Aの駆動力の下限値Fp_t_lowが演算され、ステップ30に於いてはμセンサ78L及び78Rにより検出された路面の摩擦係数μl及びμrの平均値が路面の摩擦係数μとして演算されると共に、路面の摩擦係数μが低いほど制御ゲインKmが小さい値になるよう、路面の摩擦係数μに基づいて図5に示されたグラフに対応するマップより制御ゲインKmが演算される。
【0062】
ステップ40に於いては制御ゲインKmと運転者要求目標駆動力Fp_dvmとの積として路面の摩擦係数μ及び運転者要求目標駆動力Fp_dvmに基づく暫定の目標駆動力Fp_t_mが演算され、ステップ50に於いては下記の式8に従って駆動力の下限値Fp_t_low及び路面の摩擦係数μに基づく目標駆動力Fp_t_mのうちの大きい方の値がトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2に設定される。
Fp_t_future_trc2=MAX(Fp_t_low,Fp_t_m) ……(8)
【0063】
ステップ60及び70に於いては現在の変速段Sa及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づき図4に示された変速線図より現在の変速段Saにて可能な駆動装置10Aの駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highがそれぞれ演算され、ステップ80に於いては駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highの平均値としてトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が演算される。
【0064】
尚図示の実施例に於いては、ステップ80に於いて駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highの平均値としてトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が演算されるようになっているが、第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2は駆動力の下限値Fp_t_lowよりも大きく且つ上限値Fp_t_highよりも小さい値である限り、任意の要領にて演算されてよい。
【0065】
また図示の実施例に於いては、修正目標駆動力演算部58が図4に示された変速線図を記憶しており、該変速線図に基づいて駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highが演算されるようになっているが、修正目標駆動力演算部58が変速線図を記憶せず、駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highを示す情報が駆動力制御電子制御装置40の発生駆動力演算部50より通信により供給されるよう修正されてもよい。
【0066】
また修正目標駆動力演算部58は、下記の式9に従ってトラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1及び第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2のうちの大きい値をトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcとすると共に、下記の式10に従ってトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireのうちの最も大きい値をその後の車輪及び車両の運動状態の変化に備えてトランスミッション16の変速段を決定するための基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとする。
Fp_t_future_trc=MAX(Fp_t_future_trc1,Fp_t_future_trc2) ……(9)
Fp_t_future_b=MAX(Fp_t_future_trc,Fp_t_future_vsc,Fp_t_future_tire)
……(10)
【0067】
尚図示の実施例に於いては、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1及び第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2のうちの大きい方の値がトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcとされるようになっているが、第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1の演算が省略され、実施例の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が修正目標駆動力Fp_t_future_trcとして演算されるよう修正されてもよい。
【0068】
また図示の実施例に於いては、修正目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_t_future_tireはそれぞれ目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_current_tireに対しフィルタ処理を施すことにより演算されるようになっているが、修正目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_t_future_tireはそれぞれ目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_current_tireよりも低下勾配が小さい限り、それぞれ目標駆動力Fp_t_future_trc、Fp_t_future_vsc、Fp_current_tireに基づいて任意の要領にて演算されてよい。
【0069】
また修正目標駆動力演算部58は、図8に示されたフローチャートに従ってトランスミッション16の変速段を決定するための最終的な目標駆動力として修正目標駆動力Fp_t_futureを演算する。
【0070】
まずステップ110に於いては例えば車速Vに基づき車両が加速状態にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには図8に示されたフローチャートによる制御が一旦終了され、肯定判別が行われたときにはステップ120へ進む。
【0071】
ステップ120に於いてはフラグFaが1であるか否かの判別、即ち駆動輪が回転振動しているときの修正目標駆動力Fp_t_futureの演算制御が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ210へ進み、否定判別が行われたときにはステップ130へ進む。
【0072】
ステップ130に於いては駆動輪が回転振動しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ150へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ140に於いてフラグFaが1にセットされた後ステップ190へ進む。
【0073】
この場合駆動輪が回転振動しているか否かの判別は、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよく、例えば左右後輪の車輪速度Vwrl、Vwrrより当技術分野に於いて公知の要領にて振動成分が抽出され、振動成分の振幅Arl、Awrrが演算され、振幅Arl及びAwrの少なくとも一方が基準値Ao(正の定数)以上であるか否かの判別により行われてよい。
【0074】
ステップ150に於いてはフラグFbが1であるか否かの判別、即ち走行路がまたぎ路であるときの修正目標駆動力Fp_t_futureの演算制御が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ220へ進み、否定判別が行われたときにはステップ160へ進む。
【0075】
ステップ160に於いては走行路がまたぎ路であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ140に於いて補正係数Kcが1にリセットされた後ステップ200へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ180に於いてフラグFbが1にセットされた後ステップ190へ進む。
【0076】
この場合走行路がまたぎ路であるか否かの判別は、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよく、例えば左右の路面の摩擦係数μl及びμrの差Δμが演算され、差Δμの絶対値が基準値μo(正の定数)以上であるか否かの判別により行われてよい。
【0077】
ステップ190に於いてはΔKsを微小な正の定数として補正係数Kcが前サイクルのKcよりΔKsが減算された値に演算されることにより、補正係数Kcの漸減処理が行われ、ステップ200に於いては補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される。
【0078】
ステップ210に於いては例えば左右後輪の車輪速度Vwrl、Vwrrの振幅Arl及びAwrの何れも基準値Ao未満であるか否かの判別により、駆動輪の回転振動が終息したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ190へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ230へ進む。
【0079】
ステップ220に於いては例えば左右の路面の摩擦係数の差Δμの絶対値が基準値μo未満であるか否かの判別により、またぎ路での走行が終了したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ190へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ230へ進む。
【0080】
ステップ230に於いてはΔKeを微小な正の定数として補正係数Kcが前サイクルのKcよりΔKeが加算された値に演算されることにより、補正係数Kcの漸増処理が行われ、ステップ240に於いては補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される。
【0081】
ステップ250に於いては補正係数Kcの絶対値が1+ΔKe以下であるか否かの判別により、補正係数Kcの漸増処理が終了したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには図8に示されたフローチャートによる制御が一旦終了され、肯定判別が行われたときにはステップ260へ進む。
【0082】
ステップ260に於いてはフラグFa及びFbがそれぞれ0にリセットされ、ステップ270に於いては修正目標駆動力Fp_t_futureが基本修正目標駆動力Fp_t_future_bに設定される。
【0083】
更に修正目標駆動力演算部58は、トラクション制御中又は挙動制御中又は高横力旋回状態にあると判定されているときには、修正目標駆動力Fp_t_futureがあるか否かを示すフラグF_FP_FUTUREをONに設定すると共に、修正目標駆動力Fp_t_futureを示す信号及びフラグF_FP_FUTURE信号を駆動力制御電子制御装置40の調停部46へ出力し、トラクション制御及び挙動制御の何れも実行されておらず高横力旋回状態にあると判定されていないときには、修正目標駆動力Fp_t_futureがあるか否かを示すフラグF_FP_FUTUREをOFFに設定し、修正目標駆動力Fp_t_futureを0に設定すると共に、修正目標駆動力Fp_t_futureを示す信号及びフラグF_FP_FUTURE信号を駆動力制御電子制御装置40の調停部46へ出力する。
【0084】
尚トラクション制御及び挙動制御の何れも実行されておらず高横力旋回状態にあると判定されていないときには、基本修正目標駆動力Fp_t_future_bが運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定されてもよい。
【0085】
次に上述の如く構成された図示の実施例の作動を車両の様々な走行状況について説明する。
【0086】
(1)トラクション制御も挙動制御も不要である場合
この場合は車両の挙動が安定しておりトラクション制御も挙動制御も不要であり車両が高横力旋回状態にはない場合である。
【0087】
(1−1)駆動輪は回転振動しておらず、走行路がまたぎ路でない場合
フラグF_FP_NOW及びF_FP_FUTUREはOFFであり、調停後の目標駆動力Fp_now及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureが運転者要求目標駆動力Fp_dvmに設定されるので、目標エンジン出力トルクTet及びトランスミッション16の目標変速段Stは運転者要求目標駆動力Fp_dvmに基づいて演算され、これにより従来の駆動力制御装置の場合と同様、エンジン10の出力及びトランスミッション16の変速比は運転者の駆動要求に応じて制御される。
【0088】
(1−2)車両が加速中で駆動輪が回転振動している場合
駆動輪の回転振動が検出されると、まず図8に示されたフローチャートのステップ120に於いて否定判別が行われると共に、ステップ130に於いて肯定判別が行われ、また次回以降はステップ120に於いて肯定判別が行われると共に、ステップ210に於いて否定判別が行われ、これによりステップ190に於いて補正係数Kcの漸減処理が行われ、ステップ200に於いて補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される。
【0089】
従って図9に示されている如く、車両の加速時に駆動輪の回転振動が開始すると、修正目標駆動力Fp_t_futureが運転者要求目標駆動力Fp_dvmよりも漸次小さくなり、トランスミッション16の目標変速段Stが運転者要求目標駆動力Fp_dvmに基づいて演算される上記(1−1)の場合に比して、トランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振し難くい状況にすることによって駆動輪の回転振動を早期に終息させることができる。
【0090】
(1−3)車両が加速中で走行路がまたぎ路である場合
車両の加速時に走行路がまたぎ路であると判定されると、まず図8に示されたフローチャートのステップ150に於いて否定判別が行われると共に、ステップ160に於いて肯定判別が行われ、また次回以降はステップ150に於いて肯定判別が行われると共に、ステップ220に於いて否定判別が行われ、これにより上記(1−2)の場合と同様、車両がまたぎ路を走行していると判定されなくなるまで、ステップ190に於いて補正係数Kcの漸減処理が行われ、ステップ200に於いて補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算されるので、トランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振によって回転振動することを効果的に抑制することができる。
【0091】
(2)トラクション制御は必要であるが挙動制御は不要である場合
この場合は駆動輪の駆動スリップが過大でありトラクション制御は必要であるが、車両の走行運動は安定的であり挙動制御は不要である場合である。
【0092】
(2−1)駆動輪は回転振動しておらず、走行路がまたぎ路でない場合
制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcに基づいて設定され、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcに基づいてトラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1が演算されると共に、運転者の駆動要求及び路面の摩擦係数μに基づいてトランスミッション16の変速段の変更を防止するトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が演算される。
【0093】
そして第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1及び第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2のうちの大きい方の値がトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcに設定され、そしてフラグF_FP_NOW及びF_FP_FUTUREがONに設定され、調停後の目標駆動力Fp_now及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureがそれぞれトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcに設定される。
【0094】
従ってこの場合にはトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trcに基づいて目標エンジン出力トルクTetを演算し、エンジン10の出力を確実に低下させて駆動輪の駆動スリップを効果的に低減することができると共に、目標駆動力Fp_t_now_trcよりも低下変化が小さく目標駆動力Fp_t_now_trcよりも大きいトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcに基づいてトランスミッション16の目標変速段Stを演算することができ、これにより車両が一時的にマンホールの如き低摩擦係数の路面を通過する際にもトラクション制御によりトランスミッション16の変速段がシフトアップされること及びこれに起因して車両が低摩擦係数の路面を通過した直後に於ける加速不足を効果的に防止することができ、またトラクション制御中にトランスミッション16の出力回転数Ntoutが増減することに起因してトランスミッション16が不必要にシフトアップされたりシフトダウンされることを効果的に防止することができる。
【0095】
特に図示の実施例によれば、左右後輪の駆動スリップ量SArl及びSArrのうちの大きい方の値である駆動スリップ量SArが基準値SAc以下であるときには、図3に示されたフローチャートのステップ10に於いて肯定判別が行われ、ステップ20に於いて現在の変速段Sa及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づき現在の変速段Saにて可能な駆動装置10Aの駆動力の下限値Fp_t_lowが演算され、ステップ30に於いて路面の摩擦係数μが低いほど制御ゲインKmが小さい値になるよう、路面の摩擦係数μに基づいて制御ゲインKmが演算され、ステップ40に於いて制御ゲインKmと運転者要求目標駆動力Fp_dvmとの積として暫定の目標駆動力Fp_t_mが演算され、ステップ50に於いて駆動力の下限値Fp_t_low及び路面の摩擦係数μに基づく目標駆動力Fp_t_mのうちの大きい方の値がトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2に設定される。
【0096】
従って駆動スリップ量SArが基準値SAc以下であるときには、運転者要求目標駆動力Fp_dvm及び路面の摩擦係数μに応じてトランスミッション16の変速段の変更を抑制する値に第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2を最適に設定することができると共に、トランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること、特に二段のシフトアップが行われることを確実に防止することができる。
【0097】
また図示の実施例によれば、駆動スリップ量SArが基準値SAcよりも大きいときには、図3に示されたフローチャートのステップ10に於いて否定判別が行われ、ステップ60及び70に於いて現在の変速段Sa及びトランスミッション16の出力回転数Ntoutに基づき現在の変速段Saにて可能な駆動装置10Aの駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highがそれぞれ演算され、ステップ80に於いて駆動力の下限値Fp_t_low及び上限値Fp_t_highの平均値としてトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が演算される。
【0098】
従ってトランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること及びシフトダウンされることを確実に防止する値として第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2を演算することができ、トランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること及びシフトダウンされることを確実に防止することができる。
【0099】
また図示の実施例によれば、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1及び第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2のうちの大きい値がトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcとされるので、トラクション制御が実行されている時間全体に亘りトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcを確実にトランスミッション16の変速段の変更が行われない値に設定することができ、これによりトラクション制御の実行中にトランスミッション16の変速段が変更されることを確実に防止することができる。
【0100】
例えば運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行され、運転者要求目標駆動力Fp_dvm、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1が図6に示されている如く変化し、第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2が図11(A)に示されている如く変化するとすると、トラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcは図11(B)に示されている如く変化し、トラクション制御が実行される時間全体に亘りトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcを確実にトランスミッション16の変速段の変更が行われない値に設定することができる。
【0101】
(2−2)車両が加速中で駆動輪が回転振動している場合
車両の加速時に駆動輪が回転振動していると判定されると、図10に示されている如く、上記(1−2)の場合と同様、駆動輪が回転振動していると判定されなくなるまで、補正係数Kcの漸減処理が行われると共に、補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される
【0102】
従ってトラクション制御中にトランスミッション16の出力回転数Ntoutが増減することに起因してトランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、車両の加速時に駆動輪が回転振動しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪の共振に起因する回転振動を効果的に且つ早期に終息させることができる。
【0103】
(2−3)車両が加速中で走行路がまたぎ路である場合
車両の加速時に走行路がまたぎ路であると判定されると、上記(1−3)の場合と同様、車両がまたぎ路を走行していると判定されなくなるまで、補正係数Kcの漸減処理が行われると共に、補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算される。
【0104】
従ってトラクション制御中にトランスミッション16の出力回転数Ntoutが増減することに起因してトランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、車両の加速時に車両がまたぎ路を走行しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振によって回転振動することを効果的に抑制することができる。
【0105】
尚上記(2−2)及び(2−3)の場合の基本修正目標駆動力Fp_t_future_bはトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcであり、修正目標駆動力Fp_t_futureはトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcよりも小さい値に演算される。
【0106】
(3)トラクション制御は不要であるが挙動制御は必要である場合
この場合は駆動輪の駆動力は過剰ではなくトラクション制御は不要であるが、車両の走行運動は不安定であり車両の駆動力の低減制御による挙動制御は必要である場合である。
【0107】
(3−1)駆動輪は回転振動しておらず、走行路がまたぎ路でない場合
制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowが挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscに基づいて設定され、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscに基づいて挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscが演算され、フラグF_FP_NOW及びF_FP_FUTUREがONに設定され、調停後の目標駆動力Fp_now及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureがそれぞれ挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vsc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscに設定される。
【0108】
従ってこの場合には挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscに基づいて目標エンジン出力トルクTetを演算し、エンジン10の出力を確実に低下させて車両の走行運動を効果的に安定化させることができると共に、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscよりも低下変化が小さい挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscに基づいてトランスミッション16の目標変速段Stを演算することができ、これにより車両の走行運動の不安定化が一時的である場合に挙動制御によりトランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること及びこれに起因して一時的な挙動制御が完了した直後に於ける加速不足を効果的に防止することができる。
【0109】
尚車両の走行運動の不安定な状況が長く継続するような場合には、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscが変速線まで低下した段階でトランスミッション16の変速段がシフトアップされるので、不安定な走行状態が長く継続するような場合にも駆動力が過大な状況が長時間に亘り継続することはない。
【0110】
(3−2)車両が加速中で駆動輪が回転振動している場合
車両の加速時に駆動輪が回転振動していると判定されると、上記(1−2)及び(2−2)の場合と同様の処理が行われるので、トランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、駆動輪が回転振動しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪の共振による回転振動を効果的に且つ早期に終息させることができる。
【0111】
(3−3)車両が加速中で走行路がまたぎ路である場合
車両の加速時に走行路がまたぎ路であると判定されると、上記(1−3)及び(2−3)の場合と同様の処理が行われるので、トランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、車両がまたぎ路を走行しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振によって回転振動することを効果的に抑制することができる。
【0112】
尚上記(3−2)及び(3−3)の場合の基本修正目標駆動力Fp_t_future_bは挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscであり、修正目標駆動力Fp_t_futureは挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscよりも小さい値に演算される。
【0113】
(4)トラクション制御及び挙動制御が必要である場合
この場合は駆動輪の駆動力は過剰であり車両の走行運動も不安定であることによりトラクション制御及び挙動制御の何れも必要である場合である。
【0114】
(4−1)駆動輪は回転振動しておらず、走行路がまたぎ路でない場合
制駆動力分配後の目標駆動力Fp_t_nowがトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの小さい方の値に設定され、修正目標駆動力Fp_t_futureがトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireのうちの最も大きい値に設定され、フラグF_FP_NOW及びF_FP_FUTUREがONに設定され、調停後の目標駆動力Fp_now及び調停後の修正目標駆動力Fp_futureがそれぞれ目標駆動力Fp_t_now、修正目標駆動力Fp_t_futureに設定される。
【0115】
従ってこの場合には目標駆動力Fp_t_nowに基づいて目標エンジン出力トルクTetを演算し、エンジン10の出力を確実に低下させて駆動輪の駆動スリップを効果的に低減すると共に車両の走行運動を効果的に安定化させることができ、また目標駆動力Fp_t_nowよりも低下変化が小さい修正目標駆動力Fp_t_futureに基づいてトランスミッション16の目標変速段Stを演算することができ、これにより駆動輪の過大な駆動スリップや車両の走行運動の不安定化が一時的である場合にトラクション制御や挙動制御によりトランスミッション16の変速段が不必要にシフトアップされること及びこれに起因して一時的なトラクション制御や挙動制御が完了した直後に於ける加速不足を効果的に防止することができる。
【0116】
(4−2)車両が加速中で駆動輪が回転振動している場合
車両の加速時に駆動輪が回転振動していると判定されると、上記(1−2)、(2−2)、(3−2)の場合と同様の処理が行われるので、トランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、駆動輪が回転振動しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪の共振による回転振動を効果的に且つ早期に終息させることができる。
【0117】
(4−3)車両が加速中で走行路がまたぎ路である場合
車両の加速時に走行路がまたぎ路であると判定されると、上記(1−3)、(2−3)、(3−3)の場合と同様の処理が行われるので、トランスミッション16が不必要にシフトアップされることを効果的に防止しつつ、車両がまたぎ路を走行しているときにはトランスミッション16のアップシフトを促進し、駆動輪が共振によって回転振動することを効果的に抑制することができる。
【0118】
尚上記(4−2)及び(4−3)の場合の基本修正目標駆動力Fp_t_future_bはトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの小さい方の値であり、修正目標駆動力Fp_t_futureはトラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc及び挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vscのうちの小さい方の値よりも小さい値に演算される。
【0119】
特に図示の実施例によれば、車両の加速時に駆動輪の回転振動が検出された場合及び車両がまたぎ路を走行していると判定された場合の何れの場合にも、それぞれ駆動輪の回転振動が終息するまで及び車両がまたぎ路を走行していると判定されなくなるまで、補正係数Kcが漸減されるので、修正目標駆動力Fp_t_futureを徐々に低下させてその急激な変化を確実に防止することができる。
【0120】
また図示の実施例によれば、上記(1−2)、(2−2)、(3−2)の場合に於いて駆動輪の回転振動が終息すると、ステップ210に於いて肯定判別が行われ、また上記(1−3)、(2−3)、(3−3)の場合に於いて車両がまたぎ路を走行していると判定されなくなると、ステップ220に於いて肯定判別が行われ、ステップ230に於いて補正係数Kcが漸増処理されるので、修正目標駆動力Fp_t_futureを徐々に基本修正目標駆動力Fp_t_future_bに近付けることができ、これにより図9及び図10に示されている如く修正目標駆動力Fp_t_futureを徐々に運転者要求目標駆動力Fp_dvmに復帰させて急激な変化を確実に防止することができる。
【0121】
また図示の実施例によれば、ステップ130に於いて駆動輪が回転振動しているか否かの判別が行われ、ステップ160に於いては走行路がまたぎ路であるか否かの判別が行われ、駆動輪の回転振動が検出された場合又は車両がまたぎ路を走行していると判定された場合に、補正係数Kcが漸減されることによって修正目標駆動力Fp_t_futureが徐々に低下されるので、駆動輪の回転振動が検出された場合又は車両がまたぎ路を走行していると判定された場合の何れかの場合にのみ修正目標駆動力Fp_t_futureが徐々に低下される構成の場合に比して、駆動輪の回転振動の終息や抑制を確実に達成することができる。
【0122】
また図示の実施例によれば、フィルタ時定数K1、K2、K3は駆動操作量検出センサ62により検出される運転者の駆動操作量Aが高いほど大きくなるよう、運転者の駆動操作量Aに応じて可変設定されるので、運転者の駆動要求が高いほど修正目標駆動力Fp_t_futureの低下勾配を小さくしてトランスミッション16の変速段のシフトアップが行われ難くし、これにより車両が低摩擦係数の路面を一時的に通過した直後に於ける加速不足を効果的に防止して運転者の駆動要求を充足することができ、また運転者の駆動要求が高くないときには修正目標駆動力Fp_t_futureの低下勾配を大きくしてトランスミッション16の変速段のシフトアップが行われ易くし、これにより車両の駆動力の低減を速やかに実行することができる。
【0123】
また図示の実施例によれば、運動状態推定部54により車両が高横力旋回状態にあるか否かが判定され、修正目標駆動力演算部58により駆動輪のタイヤ発生力Fp_current_tireが演算されると共に、タイヤ発生力Fp_current_tireよりも低下勾配が小さい高横力旋回制御の目標駆動力Fp_t_future_tireが演算され、トランスミッション16の変速段を決定するための基本修正目標駆動力Fp_t_future_bは上記式10に従ってトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireのうちの最も大きい値に設定されるので、車両の高横力旋回状態が考慮されない場合に比して、車両が高横力旋回状態にある状況に於いてトランスミッション16がアップシフトされ難くすることができ、従って車両が高横力旋回状態にある状況に於いてトランスミッション16のアップシフトが行われることにより駆動輪の駆動力が急激に低下し、これに起因して駆動輪の横力が急激に変化し車両の挙動が急変する虞れを確実に低減することができる。
【0124】
また図示の実施例によれば、フィルタ時定数K2はフィルタ時定数K1、K3よりも大きい値に設定されており、同一の目標駆動力の変化について見て挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscの低下勾配はトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc及び高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireの低下勾配よりも大きいので、車両の走行運動が不安定である場合には駆動輪の駆動力が過剰である場合に比してトランスミッション16のアップシフトを早期に行わせることができ、これにより駆動輪の駆動力が過剰であることに起因する車両の不安定な走行状態を効果的に安定化させることができる。
【0125】
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0126】
例えば上述の実施例に於いては、ステップ130に於いて駆動輪が回転振動しているか否かの判別が行われ、ステップ160に於いて走行路がまたぎ路であるか否かの判別が行われるようになっているが、駆動輪が回転振動しているか否かの判別及び走行路がまたぎ路であるか否かの判別の一方が省略されてもよい。
【0127】
また上述の実施例に於いては、駆動輪の回転振動が終息し又は車両がまたぎ路を走行していないと判定されると、補正係数Kcが漸増処理されるようになっているが、駆動輪の回転振動が終息し又は車両がまたぎ路を走行していないと判定されると、補正係数Kcが所定の時間に亘り現在値に保持され、しかる後漸増処理されるよう修正されてもよい。
【0128】
また上述の実施例に於いては、補正係数Kcが漸減処理するための値ΔKs及び漸増処理するための値ΔKeは微小な正の定数であるが、ΔKs及びΔKeは例えば駆動輪の回転振動の度合が高いときには駆動輪の回転振動の度合が低いときに比して大きくなるよう、駆動輪の回転振動の度合に応じて可変設定されてもよく、また路面の左右の摩擦係数の差Δμの大きさが大きいときには摩擦係数の差Δμの大きさが小さいときに比して大きくなるよう、摩擦係数の差Δμの大きさに応じて可変設定されてもよい。また運転者の駆動要求量が高いときには運転者の駆動要求量が低いときに比してΔKsが小さくなるよう、ΔKsは運転者の駆動要求量に応じて可変設定されてもよい。
【0129】
また上述の実施例に於いては、補正係数Kcと基本修正目標駆動力Fp_t_future_bとの積として修正目標駆動力Fp_t_futureが演算され、駆動輪の回転振動が検出され又は車両がまたぎ路を走行していると判定されると、補正係数Kcが漸減処理されることにより、修正目標駆動力Fp_t_futureが基本修正目標駆動力Fp_t_future_bよりも小さい値に演算されようになっているが、修正目標駆動力Fp_t_futureは基本修正目標駆動力Fp_t_future_bよりも漸次小さい値に演算される限り任意の要領にて演算されてよい。
【0130】
また上述の実施例に於いては、駆動輪の回転振動が検出され又は車両がまたぎ路を走行していると判定されると、トランスミッションの変速段を決定するための修正目標駆動力Fp_t_futureが漸減されることによりトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されるようになっているが、修正目標駆動力Fp_t_futureが増減補正されることなく、トランスミッションの変速段を決定するための車速が漸増補正されることによりトランスミッションの変速比のアップシフト変更が促進されるよう修正されてもよい。
【0131】
また上述の実施例に於いては、ステップ210に於いて否定判別が行われるとステップ190へ進むようになっているが、ステップ210に於いて否定判別が行われたときにはトランスミッションの変速比のアップシフト変更が完了したか否かの判別が行われ、アップシフト変更が完了していないときにはステップ190へ進み、アップシフト変更が完了しているときにはステップ230へ進むよう修正されてもよい。
【0132】
また上述の実施例に於いては、修正目標駆動力演算部58により高横力旋回制御の目標駆動力Fp_t_future_tireが演算され、トラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireのうちの最も大きい値がトランスミッションの変速段を決定するための修正目標駆動力Fp_t_futureとされるようになっているが、本発明の駆動力制御装置はトラクション制御、高横力旋回制御の目標駆動力Fp_t_future_tireが省略され、修正目標駆動力Fp_t_futureはトラクション制御、挙動制御、高横力旋回制御の何れかが行われない車両に適用されてもよく、その場合にはそれぞれトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vsc、高横力旋回制御の修正目標駆動力Fp_t_future_tireの演算は省略される。
【0133】
また上述の実施例に於いては、車両は後輪駆動車であるが、本発明の駆動力制御装置は前輪駆動車や四輪駆動車に適用されてもよく、また駆動力発生源はエンジンであるが、本発明の駆動力制御装置は駆動力発生源がハイブリッドシステムである車両に適用されてもよい。
【0134】
また上述の実施例に於いては、トランスミッションの変速機は多段式の自動変速機であるが、変速機は無段式の自動変速機であってもよく、その場合には修正目標駆動力Fp_t_futureに基づいて無段変速機の目標変速比が演算される。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】後輪駆動車に適用された本発明による車両の駆動力制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。
【図2】実施例の制御系を示すブロック図である。
【図3】実施例に於けるトラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2の演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】実施例に於ける変速線図を示すグラフである。
【図5】実施例に於ける路面の摩擦係数μと制御ゲインKmとの間の関係を示すグラフである。
【図6】運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の第一の修正目標駆動力Fp_t_future_trc1の変化の一例を示すグラフである。
【図7】運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いて挙動制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、挙動制御の目標駆動力Fp_t_now_vsc、挙動制御の修正目標駆動力Fp_t_future_vscの変化の一例を示すグラフである。
【図8】実施例に於ける修正目標駆動力Fp_t_futureの演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図9】運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いて駆動輪の回転振動が検出された場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、基本修正目標駆動力Fp_t_futur_b、修正目標駆動力Fp_t_futurの変化の一例を示すグラフである。
【図10】運転者の加速要求が増加し、運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行され、駆動輪の回転振動が検出された場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trc、修正目標駆動力Fp_t_futurの変化の一例を示すグラフである。
【図11】運転者要求目標駆動力Fp_dvmが増加する過程に於いてトラクション制御が実行される場合に於ける運転者要求目標駆動力Fp_dvm、トラクション制御の目標駆動力Fp_t_now_trc、トラクション制御の第二の修正目標駆動力Fp_t_future_trc2の変化の一例を示すグラフ(A)及びトラクション制御の修正目標駆動力Fp_t_future_trcの変化の一例を示すグラフ(B)である。
【符号の説明】
【0136】
10…エンジン、16…トランスミッション、26…制動装置、32…統合制御電子制御装置、34…アクセルぺダル、36…ブレーキぺダル、40…駆動力制御電子制御装置、42…制動力制御電子制御装置、64 エンジン制御装置、66…自動変速機制御装置、68i…車輪速度センサ、70…車両状態量検出センサ、72…制動力制御装置、74…制動操作量検出センサ、76…回転数センサ、78L、78R…μセンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源及びトランスミッションを含む駆動装置と、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいて前記駆動装置の目標駆動力を演算する手段と、前記駆動源の駆動力を制御する駆動源制御手段と、前記トランスミッションの変速比を制御する変速比制御手段とを有する車両の駆動力制御装置に於いて、前記変速比制御手段は走行路が左右の駆動輪に対応する路面の摩擦係数の差が大きいまたぎ路であるか否かを判定する手段を有し、走行路がまたぎ路であるときには前記トランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は走行路がまたぎ路でないときには、前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記駆動力制御装置は少なくとも駆動装置の駆動力を制御することにより駆動輪の駆動スリップを抑制するトラクション制御を行うトラクション制御手段を有し、前記トラクション制御手段はトラクション制御が必要であるときには駆動輪の駆動スリップを抑制するためのトラクション制御の目標駆動力を演算し、前記変速比制御手段は乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいて変速比制御用目標駆動力を演算し、
トラクション制御が必要ではなく走行路がまたぎ路でないときには、前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、
トラクション制御が必要ではなく車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、
トラクション制御が必要である状況にて走行路がまたぎ路でないときには、前記駆動源制御手段は前記トラクション制御の目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記トラクション制御の目標駆動力よりも大きく且つ前記目標駆動力よりも小さいトラクション制御時の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御し、
トラクション制御が必要である状況にて走行路がまたぎ路であるときには、前記駆動源制御手段は前記トラクション制御の目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記トラクション制御時の変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記駆動力制御装置は少なくとも駆動装置の駆動力を制御することにより車両の挙動を安定化させる挙動制御を行う挙動制御手段を有し、前記挙動制御手段は挙動制御が必要であるときには車両の挙動を安定化させるための挙動制御の目標駆動力を演算し、前記変速比制御手段は乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいて変速比制御用目標駆動力を演算し、
挙動制御が必要ではなく走行路がまたぎ路でないときには、前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、
挙動制御が必要ではなく車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、
挙動制御が必要である状況にて走行路がまたぎ路でないときには、前記駆動源制御手段は前記挙動制御の目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記挙動制御の目標駆動力よりも大きく且つ前記目標駆動力よりも小さい挙動制御時の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御し、
挙動制御が必要である状況にて走行路がまたぎ路であるときには、前記駆動源制御手段は前記挙動制御の目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記挙動制御時の変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記補正後の変速比制御用目標駆動力は前記トラクション制御時の変速比制御用目標駆動力を漸減補正することにより演算されることを特徴とする請求項3に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記補正後の変速比制御用目標駆動力は前記挙動制御時の変速比制御用目標駆動力を漸減補正することにより演算されることを特徴とする請求項4に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
前記トランスミッションは多段式の自動変速機を含んでいることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項1】
駆動源及びトランスミッションを含む駆動装置と、少なくとも乗員の駆動操作量に基づいて前記駆動装置の目標駆動力を演算する手段と、前記駆動源の駆動力を制御する駆動源制御手段と、前記トランスミッションの変速比を制御する変速比制御手段とを有する車両の駆動力制御装置に於いて、前記変速比制御手段は走行路が左右の駆動輪に対応する路面の摩擦係数の差が大きいまたぎ路であるか否かを判定する手段を有し、走行路がまたぎ路であるときには前記トランスミッションの変速比のアップシフト変更を促進することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は走行路がまたぎ路でないときには、前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記駆動力制御装置は少なくとも駆動装置の駆動力を制御することにより駆動輪の駆動スリップを抑制するトラクション制御を行うトラクション制御手段を有し、前記トラクション制御手段はトラクション制御が必要であるときには駆動輪の駆動スリップを抑制するためのトラクション制御の目標駆動力を演算し、前記変速比制御手段は乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいて変速比制御用目標駆動力を演算し、
トラクション制御が必要ではなく走行路がまたぎ路でないときには、前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、
トラクション制御が必要ではなく車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、
トラクション制御が必要である状況にて走行路がまたぎ路でないときには、前記駆動源制御手段は前記トラクション制御の目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記トラクション制御の目標駆動力よりも大きく且つ前記目標駆動力よりも小さいトラクション制御時の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御し、
トラクション制御が必要である状況にて走行路がまたぎ路であるときには、前記駆動源制御手段は前記トラクション制御の目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記トラクション制御時の変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記駆動力制御装置は少なくとも駆動装置の駆動力を制御することにより車両の挙動を安定化させる挙動制御を行う挙動制御手段を有し、前記挙動制御手段は挙動制御が必要であるときには車両の挙動を安定化させるための挙動制御の目標駆動力を演算し、前記変速比制御手段は乗員の駆動操作量及び車両の走行状態に基づいて変速比制御用目標駆動力を演算し、
挙動制御が必要ではなく走行路がまたぎ路でないときには、前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、
挙動制御が必要ではなく車両が加速する状況に於いて走行路がまたぎ路であるときには、前記駆動源制御手段は前記目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記目標駆動力よりも小さい変速比制御用目標駆動力に基づいて前記トランスミッションの変速比を制御し、
挙動制御が必要である状況にて走行路がまたぎ路でないときには、前記駆動源制御手段は前記挙動制御の目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記挙動制御の目標駆動力よりも大きく且つ前記目標駆動力よりも小さい挙動制御時の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御し、
挙動制御が必要である状況にて走行路がまたぎ路であるときには、前記駆動源制御手段は前記挙動制御の目標駆動力に基づいて前記駆動源の駆動力を制御し、前記変速比制御手段は前記挙動制御時の変速比制御用目標駆動力よりも小さい補正後の変速比制御用目標駆動力に基づいてトランスミッションの変速比を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記補正後の変速比制御用目標駆動力は前記トラクション制御時の変速比制御用目標駆動力を漸減補正することにより演算されることを特徴とする請求項3に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記補正後の変速比制御用目標駆動力は前記挙動制御時の変速比制御用目標駆動力を漸減補正することにより演算されることを特徴とする請求項4に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
前記トランスミッションは多段式の自動変速機を含んでいることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の車両の駆動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−17857(P2012−17857A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220341(P2011−220341)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【分割の表示】特願2006−271987(P2006−271987)の分割
【原出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【分割の表示】特願2006−271987(P2006−271987)の分割
【原出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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